(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】疑似肉、疑似肉含有食品、疑似肉用こんにゃく粉、および疑似肉用こんにゃく粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20221222BHJP
A23J 3/00 20060101ALI20221222BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20221222BHJP
A23L 13/00 20160101ALN20221222BHJP
【FI】
A23L19/00 102Z
A23J3/00 502
A23L35/00
A23L13/00 A
A23L13/00 Z
(21)【出願番号】P 2022013539
(22)【出願日】2022-01-31
【審査請求日】2022-05-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 芙季
(72)【発明者】
【氏名】倉内 達弘
(72)【発明者】
【氏名】根橋 怜美
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-072304(JP,A)
【文献】特開2016-116509(JP,A)
【文献】特開2018-130102(JP,A)
【文献】特開昭50-117960(JP,A)
【文献】特開2020-162488(JP,A)
【文献】特開2010-041994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00
A23J 3/00
A23L 35/00
A23L 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
こんにゃく粉がゲル化したこんにゃくゲルからなる疑似肉の原料として用いられる疑似肉用こんにゃく粉であって、
前記こんにゃく粉は、該こんにゃく粉を水に分散させた分散液を加熱するとゲル化するように改質された改質こんにゃく粉であり、
前記改質こんにゃく粉を2質量パーセント濃度で水に分散させた分散液を85℃で1時間加熱してゲル化させて、10℃で24時間冷却して製造した試料ゲルが、以下の特性(1)を有すること
を特徴とする疑似肉用こんにゃく粉。
(1) 直径70mm、高さ80mmの円柱状の前記試料ゲルに対して、テクスチャーアナライザを用いて、直径2cmの円柱状プランジャを20mm/分の速さで軸方向に進入させて前記試料ゲルが破断したときの応力が30g/cm
2~1000g/cm
2の範囲である。
【請求項2】
請求項1記載の疑似肉用こんにゃく粉がゲル化したこんにゃくゲルからなる疑似肉。
【請求項3】
前記こんにゃくゲルは、植物性タンパク質を含有すること
を特徴とする請求項
2記載の疑似肉。
【請求項4】
請求項
2または請求項
3記載の疑似肉を含有する食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疑似肉、疑似肉含有食品、疑似肉用こんにゃく粉、および疑似肉用こんにゃく粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食肉以外の食品素材を原料として食肉を模した疑似肉、および当該疑似肉を含有する疑似肉含有食品が知られている。
【0003】
従来の疑似肉の一例として、動物性タンパク質の代わりに植物性タンパク質を主原料として添加物と共に組織化する疑似肉が知られている。具体的に、例えば、特許文献1(特開平6-165644号公報)には、大豆タンパク質、カルシウム、および水を、エクストルーダーにより加熱、加圧下に反応させてダイより押し出すことで製造される疑似肉が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の疑似肉に共通する課題として、原料を組織化するために、エクストルーダー等の所定の設備、あるいは凍結変性工程等の所定の工程が必要になる等、製造方法が煩雑になり易く、その結果、製造コストも大きくなり易いという課題がある。
【0006】
また、疑似肉に求められる品質には、それが用いられる目的に応じて様々なものがある。このうち、特に、肉様の食感については、何れの目的で用いられる疑似肉においても共通して求められる重要な品質である。こうしたことから、本願では、製造方法の簡易性および食肉の食感を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これに対して、本発明者は、こんにゃく粉が改質されて所定の特性を有する改質こんにゃく粉が疑似肉の原料として好適に適用し得ることを見出して、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、簡易に製造可能で、肉様の好ましい食感を有する疑似肉および疑似肉含有食品、ならびに、疑似肉用のこんにゃく粉および疑似肉用こんにゃく粉の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0010】
本発明に係る疑似肉用こんにゃく粉は、こんにゃく粉がゲル化したこんにゃくゲルからなる疑似肉の原料として用いられる疑似肉用こんにゃく粉であって、前記こんにゃく粉は、該こんにゃく粉を水に分散させた分散液を加熱するとゲル化するように改質された改質こんにゃく粉であり、前記改質こんにゃく粉を2質量パーセント濃度で水に分散させた分散液を85℃で1時間加熱してゲル化させて、10℃で24時間冷却して製造した試料ゲルが、以下の特性(1)を有することを特徴とする。
【0011】
すなわち、特性(1)は、直径70mm、高さ80mmの円柱状の前記試料ゲルに対して、テクスチャーアナライザを用いて、直径2cmの円柱状プランジャを20mm/分の速さで軸方向に進入させて前記試料ゲルが破断したときの応力が30g/cm2~1000g/cm2の範囲となる特性である。
【0012】
また、本発明に係る疑似肉用こんにゃく粉の製造方法は、こんにゃく粉を該こんにゃく粉の良溶媒と貧溶媒との混合溶媒に分散させた分散液をアルカリ性に調整すること、または、こんにゃく粉にアルカリ溶液を噴霧すること、によって前記こんにゃく粉をアルカリに曝露させることを特徴とする。このとき、前記こんにゃく粉をpH10.0以上のアルカリに曝露させることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る疑似肉は、本発明に係る疑似肉用こんにゃく粉がゲル化したこんにゃくゲルからなることを特徴とする。前記こんにゃくゲルは、植物性タンパク質を含有していてもよい。
【0014】
本発明に係る疑似肉用こんにゃく粉は、改質されて予めグルコマンナン分子中のアセチル基が一部脱離されている。そのため、グルコマンナン分子は部分的に水素結合が生じて密に絡み合った構造を取っている。その結果、改質こんにゃく粉を水に分散させてもグルコマンナン分子は均一に膨潤粒子を形成せず、分散液はグルコマンナン分子が密な部分と疎な部分が生じる。これが挽肉等に近い質感を有することで、加熱して得られるこんにゃくゲルは、本発明に係る疑似肉として肉様の好ましい食感を持つことができる。また、改質こんにゃく粉を水に分散させた分散液は保形性および成形性を有している。したがって、改質こんにゃく粉と共に、例えば植物性タンパク質のように単独で殆ど結着性を有しない疑似肉原料を含有していても、分散液を加熱することで改質こんにゃく粉がゲル化して、こんにゃくゲルと共に当該疑似肉原料を組織化することができる。
【0015】
さらに、本発明に係る疑似肉を含有する食品を製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易に製造することができ、肉様の好ましい食感を有する疑似肉および当該疑似肉を含有する食品が実現できると共に、これらを実現可能にする疑似肉用こんにゃく粉を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本実施形態に係る疑似肉は、本実施形態に係る疑似肉用こんにゃく粉がゲル化したこんにゃくゲルからなる。本実施形態に係る疑似肉の原料として用いられる本実施形態に係る疑似肉用こんにゃく粉は、これを水に分散させた分散液を加熱するとゲル化するように改質された改質こんにゃく粉である。なお、ここでいう「こんにゃく粉が水に分散した分散液」とは、詳しくは、こんにゃく粉の主成分であるグルコマンナンが水に分散したヒドロゾル(これを、「こんにゃくゾル」と表記する場合がある)をいい、粉末自体は水に溶解していて目視できなかったり、もしくはダマ(溶け残り)が確認できたりする状態である。
【0018】
上記のように、本実施形態に係る改質こんにゃく粉は、水分を含ませて加熱するだけでゲル化する性質を有する。したがって、本実施形態に係る疑似肉は、当該改質こんにゃく粉を単に水と混合し加熱するだけで極めて簡易に製造できる。製造に際して、任意の調味料、栄養成分その他の添加物を適量添加することができ、当該調味料は、例えば、液体調味料、油等の液体でもよい。また、大豆タンパク質等の植物性タンパク質を適量添加してもよい。当該植物性タンパク質は、改質こんにゃく粉とは別の疑似肉原料と解することができ、あるいは栄養成分としての添加物と解することもできる。何れにしても本実施形態に係る改質こんにゃく粉によれば、植物性タンパク質を含有していても加熱によってゲル化し、組織化することから、簡易な工程および設備で製造コストを小さくして疑似肉を製造できる。
【0019】
ここで、本実施形態に係る改質こんにゃく粉は、こんにゃく芋由来のグルコマンナンを主成分とする粉体としてのこんにゃく粉が後述の方法によりアルカリに曝露されることで改質されて製造される。
【0020】
本実施形態に係る改質こんにゃく粉は、こんにゃく粉が改質されて主成分であるグルコマンナン分子中のアセチル基が一部脱離していることを特徴とする。通常、こんにゃく粉を水に分散させると、グルコマンナン分子は吸水して膨潤する。これにアルカリを添加して加熱すると、グルコマンナン分子中のアセチル基が脱離し、露出した水酸基が水素結合することによってゲル化する。改質されていない通常のこんにゃく粉では、グルコマンナン分子は均一に吸水し、膨潤してアセチル基が脱離することから、均質なゲルが生成される。これに対して、改質こんにゃく粉は、予めグルコマンナン分子中のアセチル基が一部脱離されている。そのため、グルコマンナン分子は既に部分的に水素結合が生じて密に絡み合った構造を取っている。その結果、改質こんにゃく粉では、グルコマンナン分子は均一に膨潤粒子を形成せずに、こんにゃくゾルはグルコマンナン分子が密な部分と疎な部分が生じる。これが挽肉等に近い質感を有することで、加熱して得られるこんにゃくゲルは肉様の好ましい食感となる。
【0021】
また、改質こんにゃく粉を水に分散させたとき、グルコマンナン分子が緩やかな水素結合により相互作用することから、こんにゃくゾルは保形性を有する。また、この水素結合は比較的緩やかな結合であることから、比較的容易に切断、再結合ができ、こんにゃくゾルは成形性を有する。したがって、改質こんにゃく粉と共に、例えば植物性タンパク質のように単独で殆ど結着性を有しない疑似肉原料を含有していても、分散液を加熱することで改質こんにゃく粉がゲル化して、必ずしも型、エクストルーダー等を用いずとも、こんにゃくゲルと共に当該疑似肉原料を組織化することができる。ただし、これらの成形に際して型、エクストルーダー等が使用されても勿論よい。
【0022】
このように、本実施形態に係る改質こんにゃく粉は、水分を含ませて加熱することで不均質なゲルを形成し、肉様の好ましい食感を有する。当該こんにゃくゲルが本実施形態に係る疑似肉であり、その食感には当該こんにゃくゲルのゲル強度が関与している。実施例によれば、改質こんにゃく粉(試料ゲル)のゲル強度(ゲル破断強度)と疑似肉の食感との間の相関性が確認された。これにより、本実施形態に係る疑似肉用こんにゃく粉は、以下の特性(1)で規定される。
【0023】
すなわち、特性(1)は、直径70mm、高さ80mmの円柱状の試料ゲルに対して、テクスチャーアナライザを用いて、直径2cmの円柱状プランジャを20mm/分の速さで軸方向に進入させて当該試料ゲルが破断したときの応力である「ゲル強度(ゲル破断強度)」が、30g/cm2~1000g/cm2の範囲となる特性である。
【0024】
ここでいう「試料ゲル」は、改質こんにゃく粉を2質量パーセント濃度で水に分散させた分散液を85℃で1時間加熱してゲル化させて、10℃で24時間冷却したものをいう。
【0025】
また、特性(1)に対して、同条件で測定されるゲル強度(ゲル破断強度)が、50g/cm2~800g/cm2の範囲であるとより好適であり、100g/cm2~700g/cm2の範囲であるとより好適であり、250g/cm2~600g/cm2の範囲であるとさらに好適である。
【0026】
なお、本実施形態に係る疑似肉は、疑似肉そのものに限定されず、疑似肉からなる食品を含む。したがって、本実施形態に係る疑似肉は、例えば、サラミ、ハム、ソーセージ、ジャーキー、パティ、ハンバーグ、ミートボール、つくね、そぼろ等を含む。また、実施形態に係る疑似肉を使用して、当該疑似肉を含有する疑似肉含有食品を製造することができる。この疑似肉含有食品中の疑似肉も肉様の好ましい食感を有する。本実施形態に係る疑似肉含有食品としては、例えば、カツ、餃子、ロールキャベツ等が挙げられる。
【0027】
続いて、本実施形態に係る改質こんにゃく粉の製造方法について詳しく説明する。先ず、改質こんにゃく粉の原料としてのこんにゃく粉は、こんにゃく芋由来のグルコマンナンを主成分とする粉体である。したがって、この原料としてのこんにゃく粉には、こんにゃく芋が粉状に加工された粉体のうち、アルコール洗浄や精製により所定の不純物が除去されたり、グルコマンナンの純度が高められたりしたものが含まれる。すなわち、市販の製品でいえば、「こんにゃく粉」(荒粉、製粉等)として流通する製品に限らず、こんにゃく粉を原料とする「グルコマンナン」として流通する製品も含まれる。
【0028】
次に、本実施形態に係る改質こんにゃく粉は、上記の原料としてのこんにゃく粉がアルカリに曝露されることで改質されて製造される。ここでいう「アルカリに曝露される」とは、pH>7.0の条件下に曝されることをいう。
【0029】
具体的には、第1の方法として、原料のこんにゃく粉を、こんにゃく粉の良溶媒と貧溶媒との混合溶媒に分散させた後、アルカリ(アルカリ性物質)またはアルカリ溶液を添加して、分散液をアルカリ性(pH>7.0)に調整する方法を用いることができる。この方法によれば、分散媒を良溶媒と貧溶媒との混合溶媒とすることで、こんにゃく粉すなわちグルコマンナンは膨潤が抑制された状態で反応する。その結果、グルコマンナンのアセチル基を一部脱離させることができる。
【0030】
良溶媒としては水を用いるとよく、貧溶媒としてはアルコールを用いるとよい。すなわち、これらの混合溶媒としては、アルコール水溶液を用いるとよい。また、アルカリ(アルカリ性物質)としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を用いるとよい。
【0031】
本方法の一例として、所定濃度のエタノール水溶液に原料のこんにゃく粉を分散させた後、水酸化ナトリウムを添加して、分散液をアルカリ性に調整することで、当該こんにゃく粉をアルカリに曝露させることができる。
【0032】
また、第2の方法として、原料のこんにゃく粉にアルカリ溶液を噴霧する方法を用いることもできる。この方法によれば、こんにゃく粉にアルカリ溶液を噴霧することで、こんにゃく粉に対するアルカリ溶液の曝露を必要限度に抑えることができる。したがって、例えば、こんにゃく粉の良溶媒に溶解させたアルカリ溶液を噴霧した場合でも、こんにゃく粉すなわちグルコマンナンは殆ど膨潤することなく反応する。その結果、グルコマンナンのアセチル基を一部脱離させることができる。
【0033】
本方法の一例として、原料のこんにゃく粉に所定濃度のアルカリ水溶液を噴霧することで、当該こんにゃく粉をアルカリに曝露させることができる。ただし、当該アルカリ水溶液に代えて、こんにゃく粉の良溶媒と貧溶媒との混合溶媒(例えば、所定濃度のエタノール水溶液)に溶解させたアルカリ溶液等を用いることもできる。
【0034】
以上の方法により原料のこんにゃく粉をアルカリに曝露させて、これを水に分散させた分散液を加熱すると熱可逆性のゲルを形成するように改質させることができる。このとき、グルコマンナンの脱アセチル反応を進行させるために、アルカリに曝露された状態のこんにゃく粉(第1の方法では、アルカリ性に調整したこんにゃく粉の分散液。第2の方法では、アルカリ溶液が噴霧されて付着しているこんにゃく粉)を加熱しもしくは攪拌し、または加熱しながら攪拌するとよい。
【0035】
この加熱温度や攪拌時間は、曝露するアルカリのpHによって適宜調整すればよいが、相対的に強いアルカリに曝露させると、相対的に加熱、攪拌の条件を緩和できてより手間をかけず短時間で改質でき、且つより安定的に改質できる。このような観点では、こんにゃく粉をpH10.0以上のアルカリに曝露させると好ましく、pH11.0以上がより好ましい。一例として、実施例によれば、第1の方法において、pH10.0以上のアルカリに曝露させる条件では、40℃以上で6分以上攪拌すると十分に脱アセチル反応が進行し、本発明の目的を達し得る所定のゲル強度を有するこんにゃく粉に改質される。
【0036】
曝露するアルカリのpHを調整したり、アルカリに曝露された状態のこんにゃく粉の加熱、攪拌の条件を調整したりすることで、本発明の目的を達し得る範囲において改質の度合いを調整することができ、改質こんにゃく粉の特性(ゲル強度)を調整することができる。
【0037】
こんにゃく粉を改質した後は、適宜クエン酸等の酸(酸性物質)もしくは酸性溶液で所望のpHに中和した後、第1の方法では分散液をろ過して乾燥させて、第2の方法ではこんにゃく粉を乾燥させて、改質こんにゃく粉を回収することができる。
【実施例】
【0038】
1.こんにゃく粉の改質
(試験1)
こんにゃく粉(伊那食品工業(株)製、「イナゲル マンナン100A」(イナゲルは、登録商標))を、アルカリに曝露させて改質し、テクスチャーアナライザ(Stable Micro Systems製)を用いて、ゲル強度(ゲル破断強度)を測定した。
【0039】
改質こんにゃく粉1
45vol%エタノール水溶液1L中にこんにゃく粉250gを添加した後、水酸化ナトリウムを添加してpH10.0に調整した。これを非加熱で6分間撹拌した後、クエン酸4.5gを添加した。その後、液体をろ過して、取得した改質こんにゃく粉を乾燥させて、改質こんにゃく粉1を得た。
【0040】
改質こんにゃく粉2
45vol%エタノール水溶液1L中にこんにゃく粉250gを添加した後、水酸化ナトリウムを添加してpH12.0に調整した。これを非加熱で6分間撹拌した後、クエン酸を5.0g添加した。その後、液体をろ過して、取得した改質こんにゃく粉を乾燥させて、改質こんにゃく粉2を得た。
【0041】
改質こんにゃく粉3
45vol%エタノール水溶液1L中にこんにゃく粉250gを添加した後、水酸化ナトリウムを添加してpH13.5に調整した。これを非加熱で6分間撹拌した後、クエン酸を7.0g添加した。その後、液体をろ過して、取得した改質こんにゃく粉を乾燥させて、改質こんにゃく粉3を得た。
【0042】
改質こんにゃく粉4
精製水1L中に水酸化ナトリウムを添加してpH12.0に調整した。この水酸化ナトリウム水溶液をこんにゃく粉3kgに噴霧した。これを60℃で30分間加熱した後、20質量パーセント濃度のクエン酸水溶液を噴霧して中和した。その後、50℃で3時間乾燥させて、改質こんにゃく粉4を得た。
【0043】
改質こんにゃく粉5
45vol%エタノール水溶液1L中にこんにゃく粉250gを添加した後、水酸化ナトリウムを添加してpH11.0に調整した。これを40℃で10分間撹拌した後、クエン酸を5.0g添加した。その後、液体をろ過して、取得した改質こんにゃく粉を乾燥させて、改質こんにゃく粉5を得た。
【0044】
改質こんにゃく粉6
45vol%エタノール水溶液1L中にこんにゃく粉250gを添加した後、水酸化ナトリウムを添加してpH11.0に調整した。これを50℃で15分間撹拌した後、クエン酸を5.0g添加した。その後、液体をろ過して、取得した改質こんにゃく粉を乾燥させて、改質こんにゃく粉6を得た。
【0045】
改質こんにゃく粉7
45vol%エタノール水溶液1L中にこんにゃく粉250gを添加した後、水酸化ナトリウムを添加してpH12.0に調整した。これを40℃で6分間撹拌した後、クエン酸を6.0g添加した。その後、液体をろ過して、取得した改質こんにゃく粉を乾燥させて、改質こんにゃく粉7を得た。
【0046】
改質こんにゃく粉8
45vol%エタノール水溶液1L中にこんにゃく粉250gを添加した後、水酸化ナトリウムを添加してpH13.0に調整した。これを40℃で6分間撹拌した後、クエン酸を6.5g添加した。その後、液体をろ過して、取得した改質こんにゃく粉を乾燥させて、改質こんにゃく粉8を得た。
【0047】
改質こんにゃく粉9
45vol%エタノール水溶液1L中にこんにゃく粉250gを添加した後、水酸化ナトリウムを添加してpH13.5に調整した。これを40℃で10分間撹拌した後、クエン酸を7.0g添加した。その後、液体をろ過して、取得した改質こんにゃく粉を乾燥させて、改質こんにゃく粉9を得た。
【0048】
測定したゲル強度(ゲル破断強度)は、前述の通り、直径70mm、高さ80mmの円柱状の試料ゲルに対して、直径2cmの円柱状プランジャを20mm/分の速さで軸方向に進入させて当該試料ゲルが破断したときの応力である。試料ゲルの製造に当たっては、先ず、改質こんにゃく粉12gを精製水588gにダマにならないように注意しながら分散した。その後、20℃で30分間放置して十分に水と馴染ませた後、ミキサーを用いてビーターで1分間攪拌して分散液を製造した。次に、当該分散液を内径70mmの円柱状の容器に高さ80mmまで収容し、収容物がこぼれ出ることのない蓋をして、容器ごと85℃の温浴で1時間加熱してゲルを製造した。その後、容器ごと10℃の水浴で24時間冷却して試料ゲルとした。改質こんにゃく粉のゲル強度を表1に示す。
【0049】
【0050】
2.改質こんにゃく粉の保形性
(試験2)
次に、水に改質こんにゃく粉5または未改質のこんにゃく粉を添加し、ミキサーを用いて1分間攪拌して粉末を溶解させた。
【0051】
保形性として、こんにゃく粉の溶液(こんにゃくゾル)を内径50mm、高さ35mmのセルクルに摺り切りまで充填し、当該セルクルを外してから20℃で30分間放置した後の高さを測定した。配合および結果を表2に示す。なお、保形性が極めて低いと予測される比較例1に対して、測定可能な程度に保形性を補うためにグラニュー糖を配合し、これに合わせて実施例1も同割合で配合した。
【0052】
表中の配合の単位は、[質量%]を表す(以下の全表で同じ)。また、未改質のこんにゃく粉(表中では、単に「こんにゃく粉」と表記する。以下の全表で同じ)は、伊那食品工業(株)製「イナゲル マンナン100A」(イナゲルは、登録商標)を用いた(以下の全試験で同じ)。
【0053】
【0054】
表2に示すように、改質こんにゃく粉5(実施例1)は、未改質のこんにゃく粉(比較例1)と比較して顕著に保形性が高く、明らかに物性が異なることが示された。
【0055】
3.疑似肉の食感
(試験3)
次に、表3に示す配合で、改質こんにゃく粉および未改質のこんにゃく粉をそれぞれ原料とする疑似肉としてサラミを製造した。全例において、各こんにゃく粉を水に分散させて30分間膨潤した。次に、水酸化マグネシウムを除く残りの原料を混合して、ミキサーで1分間混錬した。比較例2では、次に、アルカリとして水酸化マグネシウムを添加して、さらに1分間混錬した。その後、全例において、得られた混錬物を、口径1cmのケーシングに詰めて、90℃の湯浴で30分間加熱した。その後、50℃の雰囲気温度で72時間乾燥させて、サラミを製造した。
【0056】
本試験3を含めて、以下の全試験に共通する疑似肉の食感評価として、製造した疑似肉を食して、以下の基準で評価した。評価は10名のパネラーが独立して行って最も多かった評価を評価結果とした。
5:肉様の非常に好ましい食感である。
4:5には劣るが、肉様の好ましい食感である。
3:4には劣るが、肉様の好ましい食感である。
2:3には劣るが、肉様のやや好ましい食感である。
1:肉様の食感ではない。
【0057】
サラミの配合および食感の評価結果を表3に示す。
【0058】
【0059】
表3に示すように、未改質のこんにゃく粉を原料とする疑似肉(比較例2)では肉様の食感が得られなかったが、改質こんにゃく粉を原料とする疑似肉(実施例2-10)は、何れも肉様の好ましい食感を有していた。
【0060】
(試験4)
次に、表4に示す配合で、改質こんにゃく粉および未改質のこんにゃく粉をそれぞれ原料とする疑似肉として乾燥そぼろを製造した。全例において、全ての原料を混合し、エクストルーダー(設定温度:150℃。吐出ノズル:内径2cmの円形型ノズル)にかけてペレットを製造した。その後、得られたペレットを、40℃の雰囲気温度で3時間乾燥させて、乾燥そぼろを得た。
【0061】
製造した乾燥そぼろを、90℃のお湯に浸して3分間戻したものを食して、前述の食感評価を実施した。乾燥そぼろの配合および食感の評価結果を表4に示す。
【0062】
【0063】
表4に示すように、未改質のこんにゃく粉を原料とする疑似肉(比較例3)では肉様の食感が得られなかったが、改質こんにゃく粉を原料とする疑似肉(実施例11-19)は、何れも肉様の好ましい食感を有していた。
【0064】
(試験5)
次に、表5に示す配合で、改質こんにゃく粉および未改質のこんにゃく粉をそれぞれ原料とする疑似肉として大豆ハンバーグを製造した。全例において、全ての原料を混合してよく捏ねた。その後、得られた生地を丸く成形し、これをフライパンで5分間焼成して、大豆ハンバーグを製造した。
【0065】
製造した大豆ハンバーグを食して、前述の食感評価を実施した。大豆ハンバーグの配合および食感の評価結果を表5に示す。
【0066】
【0067】
表5に示すように、未改質のこんにゃく粉を原料とする疑似肉(比較例4)では肉様の食感が得られなかったが、改質こんにゃく粉を原料とする疑似肉(実施例20-28)は、何れも肉様の好ましい食感を有していた。
【0068】
以上の試験1(表1)および試験3、4、5(表3、4、5)の結果から、少なくとも30g/cm2~1000g/cm2の範囲のゲル強度を有する改質こんにゃく粉を原料とすれば、肉様の好ましい食感の疑似肉が得られることが示された。また、より好適には50g/cm2~800g/cm2の範囲、より好適には100g/cm2~700g/cm2の範囲、さらに好適には250g/cm2~600g/cm2の範囲のゲル強度を有する改質こんにゃく粉を原料とすると、より好ましいといえる。
【0069】
なお、未改質のこんにゃく粉(比較例4)においては、生地がうまく成形できず、まとまったハンバーグの形状にならなかった。これに対して、改質こんにゃく粉(実施例20-28)においては、何れも生地を成形してまとまったハンバーグの形状にすることができた。このうち、改質こんにゃく粉4、5、6(実施例23、24、25)においては、特に生地をきれいに成形してしっかりとしたハンバーグの形状にすることができた。
【要約】
【課題】簡易に製造可能で、肉様の好ましい食感を有する疑似肉および疑似肉含有食品、ならびに、疑似肉用のこんにゃく粉および疑似肉用こんにゃく粉の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る疑似肉用こんにゃく粉は、こんにゃく粉がゲル化したこんにゃくゲルからなる疑似肉の原料として用いられる疑似肉用こんにゃく粉であって、前記こんにゃく粉は、該こんにゃく粉を水に分散させた分散液を加熱するとゲル化するように改質された改質こんにゃく粉であり、前記改質こんにゃく粉を2質量パーセント濃度で水に分散させた分散液を85℃で1時間加熱してゲル化させて、10℃で24時間冷却して製造した試料ゲルが、以下の特性(1)を有することを特徴とする。
(1) 直径70mm、高さ80mmの円柱状の前記試料ゲルに対して、テクスチャーアナライザを用いて、直径2cmの円柱状プランジャを20mm/分の速さで軸方向に進入させて前記試料ゲルが破断したときの応力が30g/cm2~1000g/cm2の範囲である。
【選択図】なし