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特許7198547予防又は治療剤、抗菌剤、及び口腔用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】予防又は治療剤、抗菌剤、及び口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/644 20150101AFI20221222BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20221222BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20221222BHJP
   A61Q 11/02 20060101ALI20221222BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20221222BHJP
【FI】
A61K35/644
A61P1/02
A61K8/98
A61Q11/00
A61Q11/02
A23L33/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022144746
(22)【出願日】2022-09-12
【審査請求日】2022-09-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】300065822
【氏名又は名称】株式会社漢方医科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100158366
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】大城日出男
(72)【発明者】
【氏名】中島宏
(72)【発明者】
【氏名】向井克之
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0072024(US,A1)
【文献】Scientific Reports,2018年,8,9061, pp.1-9
【文献】Lebensm-Wiss u-Technol.,1997年,30,pp.748-753
【文献】International Journal of Veterinary Sciences and Animal Husbandry,2016年,1(2),pp.7-10
【文献】Jpn J Oral Biol.,1994年,36,pp.263-273
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルフィロモナス・ジンジバリスが原因で発症する疾病の予防又は治療剤であって、前記疾患が、歯周病及びから選択される1又は複数であり、甘露ハチミツを有効成分とする疾病の予防又は治療剤。
【請求項2】
前記甘露ハチミツが、松の木由来である請求項に記載の予防又は治療剤。
【請求項3】
甘露ハチミツを有効成分とする、ポルフィロモナス・ジンジバリスに対する抗菌剤。
【請求項4】
前記甘露ハチミツが、松の木由来である請求項に記載の抗菌剤。
【請求項5】
甘露ハチミツを有効成分として含み、ポルフィロモナス・ジンジバリスの増殖を抑制するための口腔用組成物であり、前記口腔用組成物が、歯磨き剤、洗口剤、塗布剤、マウススプレー、貼付剤、シート剤、口腔内徐放剤、咀嚼剤、口腔内溶解剤、口腔内崩壊剤、義歯ケア剤、舌ケア剤、口中清涼剤、トローチ剤、含嗽剤、食品組成物、サプリメント、及びドリンク剤から選ばれる口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔細菌を原因とする疾患の予防又は治療剤、及び抗菌剤、並びに、予防若しくは治療剤又は抗菌剤を含有する口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、歯肉炎又は歯槽膿漏等、歯周組織に炎症を引き起こす症状をともなう疾患である。歯周病の原因菌である口腔細菌としては、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、タンネレラ・フォーサイセンシス(Tannerella forsythensis)、トレポネマ・デンティコラ(Treponema denticola)等が知られているが、慢性歯周病のレッド・コンプレックス(最重要歯周病原細菌)はプロフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis. 以下、「ジンジバリス菌」と記す。)である。歯周病の予防にはプラークコントロールが有用である。歯周病の中には、プラークを原因としないものがあり、重症化した場合には、抗生物質による化学的療法等を受けなくてはならない。患者に投与される薬剤には、副作用として種々の消化器系疾患を誘発する懸念があり、安全な原因菌の除去剤が望まれていた。また、最近では、ジンジバリス菌は、歯周病以外の疾患との関連も多く報告されている。例えば、ジンジバリス菌成分が、アルツハイマー病患者の脳内で検出されたことから、アルツハイマー病を引き起こす一連の事象に関与している可能性が指摘されている(非特許文献1)。また、ジンジバリス菌等の歯周病原因菌が心血管疾患発症の要因である可能性があること(非特許文献2)、及び、ジンジバリス菌が脳梗塞や狭心症、心筋梗塞などを引き起こすアテローム性動脈硬化症という炎症反応を悪化させる可能性があること(非特許文献3)も指摘されている。さらには、歯周病菌の存在と糖尿病発症との強い相関があること(非特許文献4)も報告されている。
【0003】
ジンジバリス菌と様々な疾患との関連が指摘される中で、ジンジバリス菌に作用して、上記のような疾患を予防又は治療することのできる予防又は治療剤への需要が高まっている。これに対し、例えば、特許文献1には、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)菌を含有した口腔用組成物が歯周病関連細菌のジンジバリス菌類に対して選択的な作用を示し、口腔内フローラを良い環境に導くことが提示されている。
【0004】
ジンジバリス菌に作用して効果を発揮する成分をハチミツ類に限定すると、ヤハシハチミツ及び/又はローヤルゼリーがジンジバリス菌の除菌作用を示し、歯周疾患の予防又は改善剤となることが報告されている(特許文献2)。また、マヌカハニーはジンジバリス菌に対する抗菌作用が、一般的な花ハチミツよりも高いことも報告されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6351985号公報
【文献】特許第6047105号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】石田直之ら,歯周病はアルツハイマー病を悪化させる,日歯周誌 2018; 60: 147-152
【文献】Gaetti-Jardim, E. Jr, et al., Quantitativedetection of periodontopathic bacteria in atherosclerotic plaques from coronaryarteries., Journal of Medical Microbiology, 2009; 58: 1568-1575.
【文献】Dorn, B. R., et al., Porphyromonas gingivalis Traffics toAutophagosomes in Human Coronary Artery Endothelial Cells., Infection and Immunity, 2001; 69: 5698-5708.
【文献】Demmer RT, Jacobs DR,Desvarieux M., Periodontal disease and incident type 2 diabetes., Diabete Care, 2008; 31: 1373-1379
【文献】Sigrun Eick et al., Honey - a potential agent against Porphyromonas gingivalis: an in vitro study, BMC Oral Health, 2014; 14: 24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、口腔細菌を原因とする疾患に対する新規の予防又は治療剤、及び口腔細菌に対する新規の抗菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、甘露ハチミツを有効成分として用いることで、一般的な花ハチミツよりもジンジバリス菌に代表される口腔細菌の増殖を低濃度で抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、口腔細菌が原因で発症する疾病の予防又は治療剤であって、前記疾患が、歯周病、虫歯、口臭、認知症、糖尿病、動脈硬化症から選択される1種以上である、甘露ハチミツを有効成分とする疾病の予防又は治療剤である。さらに別の発明は、甘露ハチミツを有効成分とする、口腔細菌に対する抗菌剤である。口腔細菌は、ポルフィロモナス・ジンジバリスであり得る。
【0010】
また、本発明は、甘露ハチミツが、松の木由来である疾病の予防又は治療剤及び抗菌剤であり、疾病の予防又は治療剤及び抗菌剤を含む歯磨き剤、洗口剤、塗布剤、マウススプレー、貼付剤、シート剤、口腔内徐放剤、咀嚼剤、口腔内溶解剤、口腔内崩壊剤、義歯ケア剤、舌ケア剤、口中清涼剤、トローチ剤、含嗽剤、食品組成物、サプリメント、及びドリンク剤から選ばれる口腔用組成物である。
【発明の効果】
【0011】
甘露ハチミツは、すでに食品として全世界で食経験のある天然物質であり、ジンジバリス菌等の口腔細菌に対して低濃度で優れた抗菌作用を有している。したがって、本発明を用いた場合では、耐性菌出現のリスクが低く、ジンジバリス菌等の口腔細菌の増殖の抑制や、ジンジバリス菌等の口腔細菌に関連する疾患の予防または治療に非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明において、抗菌剤とは、歯周病の最重要歯周病原細菌であると言われているポルフィロモナス・ジンジバリス等の口腔細菌の増殖を抑制することができる組成物を意味する。本発明の抗菌剤は、ジンジバリス菌等の口腔細菌に関連する疾患の予防又は治療のために用いることができる。
【0014】
本発明において有効成分として用いられる甘露ハチミツは、別名として「甘露蜜」、「ハニーデューハニー」と呼ばれ、ヨーロッパでは「森の蜜」とも呼ばれる樹木由来のハチミツである。甘露ハチミツは、樹液を食べるアブラムシやカイガラムシが分泌する糖分の高い甘露をミツバチが集めて作られたものである。利用される主な樹木は、松の木、オーク、菩提樹、アカシア、レザーウッド、トチ、樫の木、もみの木などであり、主にヨーロッパやアジアの一部で生産されている。国内では、小笠原諸島で生産されている「島ハチミツ」の多くが甘露ハチミツである。一般的には、ミネラルやポリフェノールが豊富な希少なハチミツとして知られている。
【0015】
本発明の疾患の予防又は治療剤及び抗菌剤は、甘露ハチミツを有効成分とする。ハチミツには、花の蜜をミツバチが集めて作る花ハチミツと、樹木由来の樹液を食べる昆虫が分泌する甘露をミツバチが集めて作る甘露ハチミツの、大きく分けて2種類が存在する。本発明では、甘露ハチミツであれば特に限定はされないが、松の木由来のパインハニーが好ましく、ギリシャ産もしくはトルコ産のパインハニーがさらに好ましい。
【0016】
本発明の疾患の予防又は治療剤及び抗菌剤は、ハチミツを有効成分としているため、一般的な使用方法として任意の食品素材、例えば、牛乳、コーヒー、紅茶や果汁等の飲料、ヨーグルト等の乳製品、パンやサンドウィッチ等の食品、カレーなど各種料理に調味料として添加して用いることができる。
【0017】
また、本発明の疾患の予防又は治療剤及び抗菌剤は、歯磨き剤、洗口剤、塗布剤、マウススプレー、貼付剤、シート剤、口腔内徐放剤、咀嚼剤、口腔内溶解剤、口腔内崩壊剤、義歯ケア剤、舌ケア剤、口中清涼剤、トローチ剤、含嗽剤、食品組成物、サプリメント、及びドリンク剤から選ばれる口腔用組成物として用いることができる。
【0018】
本発明の疾病の予防又は治療剤及び抗菌剤は、固体、液体、ペースト等のいずれの形態であっても良く、タブレット、カプセル剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤等の形態であっても良い。これらの製剤は、薬理学的又は生理学的に許容される添加物(例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、懸濁化剤、乳化剤、溶解補助剤等)を混合して製造することもできる。
【0019】
本発明の疾病の予防又は治療剤及び抗菌剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、飼料又はそれらの成分などとして使用することができる。
【0020】
さらに、本発明の疾患の予防又は治療剤及び抗菌剤においては、甘露ハチミツが、成人1日当たりの摂取量が0.01~100gとなるように用いられることが好ましい。疾患の予防剤又は治療剤及び抗菌剤が、錠剤、トローチ剤、顆粒、ガム、グミ等の固形の形態の場合は、甘露ハチミツが、総質量に対して1~80重量%の範囲で配合されることが好ましい。また、ペースト、液状の場合に、甘露ハチミツの濃度が、総重量に対して0.01~80重量%の範囲で配合されることが好ましい。さらに、本発明の疾患の予防剤又は治療剤及び抗菌剤を経口摂取した直後の人又は動物の唾液中に、甘露ハチミツが2~100mg/mlの範囲で存在するように配合することが、さらに好ましい。
【0021】
本発明の疾患の予防又は治療剤及び抗菌剤には種々の添加物、例えば食品の場合には、各種栄養素、種々のビタミン、ミネラル、フラボノイド類、ポリフェノール類、アミノ酸、食物繊維、多価不飽和脂肪酸、分散剤、及び乳化剤等の安定剤、着色料、香料、甘味料、呈味成分、フレーバー、その他のハチミツ成分、ローヤルゼリー、プロポリス等を配合することができる。
【0022】
本発明の疾患の予防剤又は治療剤及び抗菌剤は、安全性が高く、低濃度でジンジバリス菌等の口腔細菌を除去することができることから、ジンジバリス菌等の口腔細菌を原因とする各種疾患を予防又は治療するために用いることができる。ジンジバリス菌等の口腔細菌を原因とする疾患としては、歯周病、虫歯、口臭、認知症、糖尿病、動脈硬化症などが挙げられる。また、これら疾患による合併症についても含まれる。
【0023】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の範囲がこれら実施例に限定されるものではない。
【0024】
Porphyromonas gingivalis (JCM 12257)、及び、Porphyromonas gingivalis (ATCC 49417)をNV加ABHK寒天培地(日水製薬製)に接種し、37℃、嫌気条件下で7日間培養後、生理食塩水を用いて、菌数が108/mLになるように調製したものを試験菌液とした。変法GAM液体培地(日水製薬製)に試験菌液を接種し、37℃、嫌気条件で4日間培養した。4日間の培養後、菌の発育有無を肉眼で観察して、MIC(最少発育阻止濃度)を判定した。
【実施例1】
【0025】
甘露ハチミツであるトルコ産松の木由来パインハニーを20重量%となるように液体培地に混合した。これを試験試料として、液体培地を用いて2倍希釈系列を合計10段階調製した。その結果を表1、表2、表3に示す。JCM 12257に対するMICは、0.26重量%であり、ATCC 49417に対するMICは0.31重量%であった。
【実施例2】
【0026】
甘露ハチミツであるギリシャ産オーク由来オークハニーを20重量%となるように液体培地に混合した。これを試験試料として、液体培地を用いて2倍希釈系列を合計10段階調製した。その結果を表1に示す。JCM 12257に対するMICは、0.62重量%であり、ATCC 49417に対するMICは0.62重量%であった。
【実施例3】
【0027】
オーストリア産もみの木由来の甘露ハチミツを20重量%となるように液体培地に混合した。これを試験試料として、液体培地を用いて2倍希釈系列を合計10段階調製した。その結果を表1に示す。JCM 12257に対するMICは、0.31重量%であり、ATCC 49417に対するMICは0.62重量%であった。
【比較例1】
【0028】
花ハチミツである国内産アカシアハチミツを20重量%となるように液体培地に混合した。これを試験試料として、液体培地を用いて2倍希釈系列を合計10段階調製した。その結果を表1に示す。JCM 12257に対するMICは、5重量%であり、ATCC 49417に対するMICは5重量%であった。
【比較例2】
【0029】
花ハチミツであるニュージーランド産マヌカハニー573+/UMF16+を20重量%となるように液体培地に混合した。これを試験試料として、液体培地を用いて2倍希釈系列を合計10段階調製した。その結果を表1に示す。JCM 12257に対するMICは、2.5重量%であり、ATCC 49417に対するMICは2.5重量%であった。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【要約】
【課題】安全性が高く、低濃度で各種疾患の原因となるジンジバリス菌等の口腔細菌の増殖を抑制する抗菌剤を提供する。
【解決手段】甘露ハチミツを有効成分とするとすることで、ジンジバリス菌等の口腔細菌の増殖を効率的に抑制し、口腔細菌を原因とする歯周病、虫歯、口臭、認知症、糖尿病、動脈硬化症などの疾患を予防又は治療する組成物を見出した。
【選択図】なし