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特許7198604焼成物、セメント添加材、およびセメント組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】焼成物、セメント添加材、およびセメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/345 20060101AFI20221222BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20221222BHJP
   C04B 7/24 20060101ALI20221222BHJP
   B09B 101/90 20220101ALN20221222BHJP
【FI】
C04B7/345 ZAB
B09B3/40
C04B7/24
B09B101:90
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018143399
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020019668
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大亮
(72)【発明者】
【氏名】本間 健一
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊一郎
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-222475(JP,A)
【文献】特開2008-290926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2CaO・SiO、2CaO・Al・SiO、および4CaO・Al・Feを必須成分とし、下記(A))の条件を満たす焼成物。
(A)2CaO・SiO100質量部に対し、2CaO・Al・SiOおよび4CaO・Al・Feを合計で44.3~52質量部含む。
(B)前記焼成物中の[Al×(MgO+TiO+P)]/MnOの質量比が206~671である。
(C)前記焼成物中のTiO の含有率が0.3質量%以上である。
【請求項2】
焼成物中のSOの含有率が0.3質量%以上である、請求項1に記載の焼成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の焼成物の粉砕物からなるセメント添加材。
【請求項4】
請求項1または2に記載の焼成物の粉砕物100質量部に対して、石膏をSO換算で3.5質量部以下含む、請求項3に記載のセメント添加材。
【請求項5】
セメントとセメント添加材の合計を100質量%として、請求項またはに記載のセメント添加材を25~40質量%含むセメント組成物。
【請求項6】
石膏を、SO換算で1.0~5.0質量%含む、請求項に記載のセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の化学組成を有する焼成物、該焼成物を粉砕してなるセメント添加材、および該セメント添加材を含むセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント産業は、古くからセメント原料の一部に産業廃棄物、一般廃棄物、および建設発生土等を用いてきたが、近年、資源循環型社会の構築の機運の高まりから、産業廃棄物等の使用量をさらに増やすことが望まれている。一般に、セメント原料として入手できるこれらの廃棄物はAlを多く含むため、おもに粘土代替原料として使用されてきた。したがって、これらの廃棄物をセメント原料として多用すると、セメントクリンカー中の3CaO・Al(以下「CA」という。)が増加する。
しかし、CAは水和活性が他のセメント鉱物に比べて高いため、CAが増加したセメントは水和熱が高く、また流動性が低下して経時変化(フローロスやスランプロス)が大きくなるという問題がある。
【0003】
また、TiOはアルミナを製造する過程で生じる赤泥中に含まれるなど、産業廃棄物や産業副産物、および建設発生土中に多く含まれている場合がある。TiOが多く含まれている産業廃棄物等を、セメントクリンカー用原料として多用すると、セメントの色調が変化(黄色味の増加)し初期強度発現性が低下する場合があるため、同様に、これらの使用量は限られていた。
【0004】
そこで、AlやTiOを多く含む産業廃棄物等を大量に再利用できる技術として、本願出願人は、先に、2CaO・SiOと2CaO・Al・SiOを必須成分とし、TiOを特定量含む焼成物であって、2CaO・SiO100質量部に対して、2CaO・Al・SiOおよび4CaO・Al・Feを特定量含む焼成物と、該焼成物を粉砕してなるセメント添加材と、該セメント添加材を含み、水和熱が低く、流動性や強度発現性が高いセメント組成物を提案した(特許文献1)。
そして、10年たった現在でも、さらに多くの産業廃棄物等を再利用でき、資源循環型社会の進展に資する技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-290926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、より多くの産業廃棄物等を再利用でき、水和熱が低く、流動性に優れ、気中養生でも長期の強度発現性が高いセメント組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的にかなうポルトランドセメントを検討したところ、2CaO・SiO、2CaO・Al・SiO、および4CaO・Al・Feを特定量含み、[Al×(MgO+TiO+P)]/MnOの質量比が特定の範囲にある焼成物の粉砕物(セメント添加材)と、該セメント添加材を含むセメント組成物は、前記目的にかなうことを見い出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の構成を有する焼成物等である。
【0008】
[1]2CaO・SiO、2CaO・Al・SiO、および4CaO・Al・Feを必須成分とし、下記(A))の条件を満たす焼成物。
(A)2CaO・SiO100質量部に対し、2CaO・Al・SiOおよび4CaO・Al・Feを合計で44.3~52質量部含む。
(B)前記焼成物中の[Al×(MgO+TiO+P)]/MnOの質量比が206~671である。
(C)前記焼成物中のTiO の含有率が0.3質量%以上である。
[2]焼成物中のSOの含有率が0.3質量%以上である、前記[1]に記載の焼成物。
[3]前記[1]または[2]に記載の焼成物の粉砕物からなるセメント添加材。
[4]前記[1]または[2]に記載の焼成物の粉砕物100質量部に対して、石膏をSO換算で3.5質量部以下含む、前記[3]に記載のセメント添加材。
[5]セメントとセメント添加材の合計を100質量%として、前記[]または[]に記載のセメント添加材を25~40質量%含むセメント組成物。
[6]石膏を、SO換算で1.0~5.0質量%含む、、前記[]に記載のセメント組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の、焼成物を粉砕したセメント添加材を含むせセメント組成物は、水和熱が低く、流動性に優れ、気中養生でも長期の強度発現性が高い。また、本発明の焼成物は、多くの産業廃棄物、産業副産物、および建設発生土等を原料として再利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を、焼成物、焼成物の製造方法、セメント添加材、およびセメント組成物に分けて詳細に説明する。
1.焼成物
本発明の焼成物は、2CaO・SiO(以下「CS」と略す。)、2CaO・Al・SiO(以下「CAS」と略す。)、および4CaO・Al・Fe(以下「CAF」と略す。)を必須成分とし、(A)CS100質量部に対し、CASおよびCAFを合計で10~100質量部含み、かつ、(B)前記焼成物中の[Al×(MgO+TiO+P)]/MnOの質量比は130~1000である。
前記焼成物中のCASおよびCAFの合計の含有率が10質量部未満では、焼成温度を高くしてもフリーライム(未反応のCaO)が減らず焼成が困難になり、しかも、生成するCSは水和活性がないγ型CSが多くなって、強度発現性が低下する場合がある。また、CASおよびCAFの合計の含有率が100質量部を超えると、高温における融液が多くなり焼成可能温度が狭まり、また、CSの生成が少ないため、セメント組成物の初期と長期の強度発現性がともに低下する場合がある。なお、CASおよびCAFの合計の含有率は、CS100質量部に対し、好ましくは20~90質量部である。なお、焼成物の製造のし易さ等から、C2ASおよびC4AFの合計100質量%として、C2ASの含有率は、好ましくは10~99質量%、より好ましくは20~90質量%である。
また、前記焼成物中の[Al×(MgO+TiO+P)]/MnOの質量比が前記範囲を外れると、気中養生すると長期の強度発現性が低下する。なお、前記[Al×(MgO+TiO+P)]/MnOの質量比は、好ましくは140~900であり、より好ましくは150~800である。
【0011】
また、前記焼成物中のMgOの含有率は、好ましくは0.9~1.7質量%であり、前記焼成物中のPの含有率は、好ましくは0.3~1.5質量%である。
また、前記焼成物中のTiOの含有率は、水和熱が低下するため、好ましくは0.3質量%以上である。なお、前記TiOの含有率は、より好ましくは0.31~0.8質量%であり、さらに好ましくは0.32~0.7質量%である。また、前記焼成物中のMnOの含有率は、好ましくは0.03~0.155質量%であり、より好ましくは0.04~0.15質量%である。
【0012】
また、本発明の焼成物中のSOの含有率は、強度発現性が向上するため、好ましくは0.3質量%以上である。なお、前記SOの含有率は、より好ましくは0.35~1.5質量%であり、さらに好ましくは0.4~1.2質量%である。
【0013】
2.焼成物の製造方法
本発明の焼成物の原料は、産業廃棄物、一般廃棄物、および建設発生土から選ばれる1種以上であり、これらを焼成して製造する。これらのうち、産業廃棄物は、生コンスラッジ、下水汚泥、浄水汚泥、建設汚泥、製鉄汚泥、および赤泥等の各種汚泥や、石炭灰、ボーリング廃土、各種焼却灰、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉2次灰、建設廃材、およびコンクリート廃材などが挙げられ、一般廃棄物は、下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、および貝殻等が挙げられ、建設発生土は、建設現場や工事現場等から発生する土壌、残土、および廃土壌等が挙げられる。
また、一般のポルトランドセメントクリンカー原料である、石灰石、生石灰、および消石灰等のCaO原料、珪石、および粘土等のSiO原料、粘土等のAl原料、鉄滓、および鉄ケーキ等のFe原料も、本発明において焼成物の原料として使用できる。
【0014】
本発明の焼成物中のセメント鉱物の組成は、原料または焼成物中のCaO、SiO、Al、およびFeの各含有率(単位は質量%)から、次式により求めることができる。
AF=3.04×Fe
A=1.61×CaO-3.00×SiO-2.26×Fe
AS=-1.63×CaO+3.04×SiO+2.69×Al+0.57×Fe
S=1.02×CaO+0.95×SiO-1.69k×Al-0.36×Fe
例えば、廃棄物原料中にカルシウムが不足する場合、その不足分を調整するために、石灰石等を混合する。混合割合は、廃棄物原料の化学組成に応じて、得られる焼成物の鉱物組成が、本発明において規定する前記範囲内になるよう、適宜決定する。
【0015】
成分を調整した原料を焼成する際の焼成温度は、焼成工程の熔融相の状態が良好であるため、好ましくは1000~1350℃、より好ましくは1200~1330℃である。
用いる焼成装置は、特に限定されず、例えばロータリーキルン等を用いることができる。また、ロータリーキルンで焼成する場合、例えば、廃油、廃タイヤ、および廃プラスチック等の燃料代替廃棄物を使用できる。このような焼成により、CAS等の鉱物が生成して、本発明において規定する鉱物組成を有する焼成物が得られる。
【0016】
3.セメント添加材
本発明のセメント添加材は、前記焼成物の粉砕物、または前記焼成物の粉砕物と石膏の混合物である。焼成物の粉砕方法は、特に限定されず、例えばボールミル等を用い、通常の方法で粉砕する。
焼成物の粉砕物のブレーン比表面積は、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性および強度発現性の向上のため、好ましくは2500~5000cm/gである。また、石膏のブレーン比表面積は、同じくモルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性および強度発現性の向上のため、好ましくは2500~10000cm/gである。用いる石膏の種類は、特に限定されず、例えば、二水石膏、α型半水石膏、β型半水石膏、および無水石膏から選ばれる1種以上が挙げられる。
本発明のセメント添加材中の石膏の含有率は、セメント組成物の強度発現性および流動性の向上や水和熱の低減のため、焼成物の粉砕物100質量部に対し、SO換算で好ましくは3.5質量部以下である。
【0017】
4.セメント組成物
本発明のセメント組成物は、前記セメント添加材とセメントの混合物である。用いるセメントは、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、および低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント、高炉セメントおよびフライアッシュセメント等の混合セメント、並びに、石灰石粉末等を混合した石灰石フィラーセメント等から選ばれる1種以上である。
前記セメント組成物中のセメント添加材の含有率は、好ましくは25~40質量%である。セメント添加材の含有率が前記範囲を外れると、気中養生した場合にセメント組成物の強度発現性が低下するおそれがある。なお、前記セメント添加材の含有率は、モルタルおよびコンクリートのブリーディングの低減や、流動性および強度発現性の向上のためには、より好ましくは26~37質量%、さらに好ましくは27~35質量%である。
【0018】
また、本発明のセメント組成物中の石膏の含有率は、通常の凝結性状が得られるため、セメント中に元々含まれている石膏も含めた全SO換算で、好ましくは1.0~3.0質量%、より好ましくは1.5~3.0質量%、さらに好ましくは1.5~2.5質量%である。
【0019】
本発明のセメント組成物は、セメント添加材とセメントを混合して製造できるが、その方法は特に限定されず、例えば、セメントクリンカー、焼成物、および石膏を混合した後に粉砕するか、または前記各成分を粉砕した後に混合してもよい。また、焼成物、または焼成物と石膏を粉砕して得られたセメント添加材を、セメントクリンカー粉砕物、ポルトランドセメント、または混合セメントに混合して製造することもできる。セメント組成物のブレーン比表面積は、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性および強度発現性の向上のため、好ましくは2500~4500cm/gである。
【実施例
【0020】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用した材料
焼成物の製造以外で使用した材料を以下に示す。
(1)普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
Sを60質量%、CSを18質量%、CAを9質量%、およびCAFを9質量%含む。また、[Al×(MgO+TiO+P)]/MnOは113である。
(2)細骨材
JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に規定する標準砂
(3)減水剤
ポリカルボン酸系高性能AE減水剤で、商品名はレオビルドSP8N(登録商標、BASFジャパン社製)である。
(4)水道水
【0021】
2.焼成物の製造
石灰石、生コンクリートスラッジ、下水汚泥、および建設発生土を原料に用いて、表1に示す焼成物を製造した。焼成は箱型電気炉を用いて、1350℃で30分間行なった。
【0022】
【表1】
【0023】
3.セメント添加材の製造
前記焼成物A、B、およびRを、ブレーン比表面積が3200±50cm/gに粉砕した後、該焼成物の粉砕物100質量部に対し、ブレーン比表面積が6000cm/gの二水石膏をSO換算で2質量部混合して、焼成物Aを含むセメント添加材A、焼成物Bを含むセメント添加材B、および焼成物Rを含むセメント添加材Rを製造した。
【0024】
4.前記セメント添加材を含むセメント組成物の発熱特性(水和熱)の評価
前記普通ポルトランドセメント70質量部と、前記セメント添加材AおよびBを、ぞれぞれ30質量部混合して、セメント添加材Aを含むセメント組成物A、およびセメント添加材Bを含むセメント組成物Bを製造した。次に、セメント組成物AおよびBと、比較のため普通ポルトランドセメントの水和熱を、JIS R 5203「セメントの水和熱測定方法(溶解熱方法)」に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
表2に示すように、セメント組成物AおよびBの水和熱は、普通ポルトランドセメントの水和熱と比べ、7日および20日のいずれの場合も約8割と低い。
【0025】
【表2】
【0026】
5.モルタルの流動性の評価
前記普通ポルトランドセメントと前記セメント添加材を、表3の含有率になるように混合して、セメント組成物を製造した。次に、水/セメント組成物の質量比が0.35、細骨材/セメント組成物の質量比が2.0、および減水剤/セメント組成物の質量比が0.006のモルタルを混練して、モルタルのフロー値を以下の手順で測定した。その結果を表3に示す。
[フロー値の測定]
混練直後と、混練後30分経過した時点で、前記モルタルをフローコーン(上面の内径は5cm、下面の内径は10cm、高さは15cm)に投入し、フローコーンを上方に取り去った後、拡大が止まったときのモルタルの広がり(フロー値)を測定した。
【0027】
6.圧縮強度の測定
前記セメント組成物を用いて、水/セメント組成物の質量比が0.5、および細骨材/セメント組成物の質量比が3.0のモルタルを混練して型枠に打設した後、1日間、湿空養生して脱型して、直径10cm、長さ20cmの供試体を作製した。
該供試体は、20℃、相対湿度60%で、1年、5年、および10年間、気中養生して、それぞれの養生期間の供試体の圧縮強度を、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」の準拠して測定した。その結果を表3に示す。
表3に示すように、実施例1および2は、フロー値が大きく流動性に優れ、特に材齢10年の圧縮強度は、比較例1および2や参考例と比べ、約2割高い。
【0028】
【表3】