(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】非晶質の被覆層を有する遷移金属担持体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/36 20060101AFI20221222BHJP
【FI】
C01B39/36
(21)【出願番号】P 2018222636
(22)【出願日】2018-11-28
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】稲木 千津
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 俊二
(72)【発明者】
【氏名】中島 昭
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/119234(WO,A1)
【文献】特開昭64-085141(JP,A)
【文献】特開2016-032789(JP,A)
【文献】特開2013-063420(JP,A)
【文献】特開2007-069120(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1935358(CN,A)
【文献】特開2017-045625(JP,A)
【文献】特開2005-276688(JP,A)
【文献】特開2018-075510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
B01J 21/00-38/74
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属が担体に担持された遷移金属担持体であって、
前記遷移金属のサイズが0.3nm以上、20nm以下であり、
前記担体のサイズが10nm以上、100μm以下であり、
前記遷移金属担持体の表面に非晶質の被覆層を有し、
前記担体および前記遷移金属の表面の全てが前記被覆層で覆われており、
前記被覆層がSi、Al、Ti、Pから選ばれる少なくとも1種類の元素を含む化合物(但し、炭化物およびイオン性液体を除く)からなり、
COパルス吸着法により算出した遷移金属の表面積S
c
と、透過型電子顕微鏡観察により求めた遷移金属の平均粒子径から理論的に算出した表面積S
TEM
とから、露出率=S
c
/S
TEM
×100の式によって算出される前記遷移金属の露出率が80%以上、100%以下である、
非晶質の被覆層を有する遷移金属担持体。
【請求項2】
非晶質の被覆層を有する遷移金属担持体の製造方法であって、
担体の表面をアミノ基を有するシランカップリング剤で表面処理して表面処理担体を調製する工程、
前記表面処理担体と遷移金属とを混合して遷移金属担持体を調製する工程、
前記遷移金属担持体の表面に
Si、Al、Ti、Pから選ばれる少なくとも1種類の元素を含む化合物(但し、炭化物およびイオン性液体を除く。)からなる非晶質の被覆層を
沈殿法を用いて形成する工程、とを含む、非晶質の被覆層を有する遷移金属担持体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質の被覆層を有する遷移金属担持体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属、その中でも特に貴金属は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム及びオスミウムの総称であって、装身具、電子材料、触媒といった様々な分野で使用されている。
【0003】
貴金属を触媒に用いる場合、貴金属は微粒子の状態で使用されることが多い。これは、貴金属を微粒子にして貴金属の表面を増やすことで、触媒活性を高めるためである。また、このような貴金属の微粒子は、その広い表面を最大限生かすため、表面積の大きい担体に分散担持されるのが一般的である。このような貴金属の微粒子が担体に担持された触媒は、種々の触媒反応に高い触媒活性を示すものの、例えば、高温で使用すると貴金属の微粒子が熱によって移動・接触して成長してしまい(シンタリング)、貴金属の表面が少なくなるという問題がある。このような問題を解決する方法は種々検討されており、例えば特許文献1には、金属成分担持ゼオライトの表面をシート状のシリカである層状ケイ酸塩で被覆した排気ガス浄化用触媒が開示されている。また、特許文献2には、Ptを担持した担体の表面がFe2O3で被覆された触媒が開示されている。更に、特許文献3には、貴金属粒子を包接材で包接した後に、担体の外表面に担持する方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-76826号公報
【文献】国際公開WO2004/068071号公報
【文献】国際公開WO2006/064684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3のような被覆層を有する触媒は、遷移金属同士の移動をなくし、シンタリングを抑制することができるという課題を解決することができる。しかし、これを触媒反応に用いる場合は、触媒反応の活性種となる遷移金属が被覆層で覆われているため、反応原料が遷移金属まで到達しにくくなり、触媒活性が低下しやすいという課題を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
遷移金属担持体の表面を非晶質の被覆層(以下、「非晶質層」ともいう。)で覆い、かつ遷移金属の露出率(表面に露出した遷移金属の割合)が80%以上、100%以下とすることで、遷移金属担持体を触媒として用いた場合の触媒活性の低下を防ぎつつ遷移金属のシンタリングを抑制することができる。具体的には、遷移金属が担体に担持された遷移金属担持体であって、前記遷移金属のサイズが0.3nm以上、20nm以下であり、前記担体のサイズが10nm以上、100μm以下であり、前記遷移金属担持体の表面に非晶質の被覆層を有し、前記遷移金属の露出率が80%以上、100%以下である、非晶質の被覆層を有する遷移金属担持体を用いること。
【発明の効果】
【0007】
遷移金属のシンタリングを抑制することができるという従来の効果に加え、これを触媒反応に用いた場合に触媒活性が低下しにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施例1において得られた遷移金属担持体の透過型電子顕微鏡画像である。
【
図3】実施例2において得られた遷移金属担持体の透過型電子顕微鏡画像である。
【
図4】実施例3において得られた遷移金属担持体の透過型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の非晶質の被覆層を有する遷移金属担持体(以下、「本発明の担持体」ともいう。)の概要および先行技術との相違について説明する。
【0010】
[本発明のゼオライトの概要]
本発明の担持体は、遷移金属が担体に担持された遷移金属担持体であって、前記遷移金属のサイズが0.3nm以上、20nm以下であり、前記担体のサイズが10nm以上、100μm以下であり、前記遷移金属担持体の表面に非晶質の被覆層を有し、前記遷移金属の露出率が80%以上、100%以下である。そのイメージを
図1に示した。
【0011】
[先行技術との相違]
本発明の担持体は、前述の特許文献1~3の被覆層を有する担持体と比較して、「前記遷移金属担持体の表面に非晶質の被覆層を有し、前記遷移金属の露出率が80%以上、100%以下である」という点で少なくとも相違する。特許文献1、2には、担持体に含まれる金属粒子の露出率は記載されていないが、少なくとも本発明のような「非晶質の被覆層を有しつつ、遷移金属の露出率を高める」という技術思想は開示されていない。また、特許文献3には、金属を包接材によって包接した後、耐熱性の担体の外表面に担持する触媒が開示されている。この触媒は、まず金属粒子を包接材で被覆した後で担体の外表面に担持するものであって、本発明の担持体のように遷移金属が担体に担持された担持体を被覆しているものではないが、特許文献3には金属の露出率に関する開示がある。特許文献3では、この露出率が高いほど排ガス浄化性能が高くなることが開示されている。そして、実施例では、包接材を有さず露出率が98%である比較例1と、包接材を有し露出率が78%である実施例1が開示されており、この記載に基づけば比較例1のほうが触媒活性が高くなるものと理解できる。そして、比較例1と実施例1の熱処理(700℃×3hr焼成)を行った後の触媒活性を比較すると、露出率の高い比較例1のほうが触媒活性が低くなっていることが読み取れる。このように、露出率と触媒活性は利益相反の関係にあり、露出率が高いと触媒活性は高いが熱に弱く、露出率が低いと熱には強いが触媒活性は低くなる。しかし、本発明の担持体は、非晶質の被覆層を有しつつ、遷移金属の露出率を高める、具体的には80%以上、100%以下とすることで、これらの先行技術にない、熱に強く触媒活性が高いという従来の担持体とは異なる発明の効果が得られる。
【0012】
以下、本発明の担持体の実施形態について、詳述する。
【0013】
[本発明の担持体]
本発明の担持体は、遷移金属が担体に担持された遷移金属担持体である。本発明の担持体における遷移金属は、周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素の1種類以上を含む粒子を指すものである。遷移金属の中でも、特に、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osから選ばれる少なくとも1種の元素を含む貴金属であることが好ましい。この貴金属金属の中でも、Pt、Pd、Rh、Ruから選ばれる少なくとも1種の元素を含む粒子であることが特に好ましい。これらの元素は、例えば、炭化水素の水素化反応に用いる触媒の活性成分として好適である。なお、前記遷移金属は、金属単体であってもよく、化合物であってもよい。化合物としては、例えば、酸化物でもよく、また配位子を含む錯体であってもよい。また、前記遷移金属のサイズは、0.3nm以上、20nm以下であり、0.5nm以上、10nm以下であることが好ましく、1nm以上、5nm以下であることがより好ましい。このサイズが小さいほど、遷移金属の表面積が増加するので、これを触媒の活性成分として用いると高い活性が期待できる。
【0014】
本発明の担持体に含まれる担体は、Si、Al、Ti、Pから選ばれる少なくとも1種類の元素を含む化合物であることが好ましい。前述の化合物の中でも比表面積が特に大きい化合物が好ましく、化合物の具体例としては、シリカ、アルミナ、チタニアまたはこれらの複合酸化物であってもよく、ゼオライトであってもよい。本発明の担持体に含まれる担体としては、比表面積の大きいゼオライトが好ましく、ゼオライトの中でもFAU、MFI、またはCHA構造を有するゼオライトがより好ましい。担体のサイズは、10nm以上、100μm以下であればよく、100nm以上、10μm以下であることが好ましく、500nm以上、5μm以下であることがより好ましい。担体のサイズが前述の範囲にあることで、遷移金属を担体の表面に分散した状態で担持することができる。
【0015】
本発明の担持体における遷移金属の含有量は、本発明の担持体の質量に対して0.01質量%以上、10質量%以下の範囲にあることが好ましく、0.01質量%以上、5質量%以下の範囲にあることが好ましく0.01質量%以上、1質量%以下の範囲にあることが特に好ましい。遷移金属の含有量が少ないほうが、本発明の担持体に含まれる担体の表面に遷移金属をより均一に分散させやすくなる。
【0016】
本発明の担持体は、その表面に非晶質の被覆層を有する。本発明の担持体に含まれる非晶質の被覆層とは、Si、Al、Ti、Pから選ばれる少なくとも1種類の元素を含み、透過型電子顕微鏡(TEM)で格子縞が観察されない層である。本発明の担持体の表面には、前述の元素を含む非常に小さな粒子が集合した層が形成されており、この層はTEMで観察することができるが、非晶質であることから格子縞は観察されない。本発明の担持体の被覆層は、担持体の表面が全て覆われていることが好ましく、1つの担持体の表面が全て覆われていることがより好ましい。担持体の表面がすべて覆われていなくても、担持体が凝集した状態で覆われていても本発明の効果は得られるが、一つの担持体の表面をすべて覆っているほうがより本発明の効果を得ることができる。
【0017】
本発明の担持体は、遷移金属の露出率が80%以上、100%以下であり、90%以上、100%以下であることが好ましい。本発明における遷移金属の露出率は、特許文献3と同様に、ガス吸着試験により測定した遷移金属の比表面積と、TEM観察により得られた遷移金属の粒子径から算出される表面積の割合から求めた値であって、表面積(ガス吸着)/表面積(TEM観察粒子径から算出)×100で表される。具体的には、後述の実施例の方法で算出することができる。なお、この値がTEM観察粒子径のばらつき等によって100%を超える場合があるが、このような場合は100%とみなすものとする。本発明の担持体に含まれる遷移金属は、その表面が被覆層で覆われているにもかかわらず、露出率が高い。この理由は、必ずしも明確ではないが、本発明の担持体が、
図1の拡大図のような、非晶質の被覆層を構成する粒子の隙間が多い構造を有しているためと考えられる。そして、このような構造は、後述する製造方法によって発現するものと考えられる。
【0018】
[本発明の担持体の製造方法の概要]
本発明の担持体の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)は、あらかじめ担体を調製または準備しておき、その表面に遷移金属を担持し、その表面に非晶質層を形成する製造方法である。具体的には、非晶質の被覆層を有する遷移金属担持体の製造方法であって、担体の表面をアミノ基を有するシランカップリング剤で表面処理して表面処理担体を調製する工程(以下、「表面処理工程」ともいう。)、前記表面処理担体と遷移金属とを混合して遷移金属担持体を調製する工程(以下、「遷移金属担持工程」ともいう。)、前記遷移金属担持体の表面に非晶質の被覆層を形成する工程(以下、「非晶質層形成工程」ともいう。)、とを含む、製造方法である。
【0019】
[先行技術との相違]
本発明の製造方法は、前述の特許文献1~3の製造方法と比較して、「担体の表面をアミノ基を有するシランカップリング剤で表面処理して表面処理担体を調製する工程、前記表面処理担体と遷移金属とを混合して遷移金属担持体を調製する工程」を含むという点で少なくとも相違する。本発明の製造方法は、このように前述の特許文献1~3の製造方法にない工程を有しており、これにより、遷移金属の表面が被覆層で覆われているにもかかわらず、その露出率が高い本発明の担持体を得ることができる。そして、このような担持体は、前述のとおり遷移金属のシンタリングを抑制することができると共に、これを触媒反応に用いた場合に触媒活性が低下しにくくなる。
【0020】
以下、本発明の製造方法の実施形態について、詳述する。
【0021】
[表面処理工程]
本発明の製造方法は、前述の表面処理工程を含む。この工程では、担体の表面をアミノ基を有するシランカップリング剤で表面処理して、表面処理担体を調製する。例えば、担体の分散液中にアミノ基を有するシランカップリング剤を適量添加して、そのまま撹拌混合することで、担体を表面処理することができる。
【0022】
この工程で用いる担体は、Si、Al、Ti、Pから選ばれる少なくとも1種類の元素を含む化合物であることが好ましい。前述の化合物の中でも比表面積が特に大きい化合物が好ましく、化合物の具体例としては、シリカ、アルミナ、チタニアまたはこれらの複合酸化物であってもよく、ゼオライトであってもよい。この工程で用いる担体としては、比表面積の大きいゼオライトが好ましく、ゼオライトの中でもFAU、MFI、またはCHA構造を有するゼオライトがより好ましい。担体のサイズは、10nm以上、100μm以下であればよく、100nm以上、10μm以下であることが好ましく、500nm以上、5μm以下であることがより好ましい。担体のサイズが前述の範囲にあることで、後述の遷移金属担持工程において、遷移金属を担体の表面に分散した状態で担持しやすくなる。
【0023】
この工程で用いるアミノ基を有するシランカップリング剤は、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピルシラン]等を使用することができる。このように担体の表面をアミノ基を有するシランカップリング剤で表面処理しておくことで、後述する遷移金属担持工程において、遷移金属が担体の表面に分散して固定化される。なお、担体が、水酸化物である場合、表面OH基を多く有する場合、またはゼオライトである場合、このアミノ基を有するシランカップリング剤の効果はより顕著に発揮される。特に、ゼオライトがNH4型ゼオライトである場合、その効果が最大限発揮されるので好ましい。
【0024】
[遷移金属担持工程]
本発明の製造方法は、前述の遷移金属担持工程を含む。この工程では、前述の表面処理担体に遷移金属を担持して、遷移金属担持体を調製する。例えば、表面処理担体の分散液と、遷移金属の分散液を混合する方法で、遷移金属担持体を得ることができる。
【0025】
この工程で用いる遷移金属は、周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素の1種類以上を含む粒子を指すものである。遷移金属の中でも、特に、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osから選ばれる少なくとも1種の元素を含む貴金属であることが好ましい。この貴金属金属の中でも、Pt、Pd、Rh、Ruから選ばれる少なくとも1種の元素を含む粒子であることが特に好ましい。これらの元素は、例えば、炭化水素の水素化反応に用いる触媒の活性成分として好適である。なお、前述の遷移金属は、金属単体であってもよく、化合物であってもよい。化合物としては、例えば、酸化物でもよく、また配位子を含む錯体であってもよい。また、前記遷移金属のサイズ(平均粒子径)は、0.3nm以上、20nmであり、0.5nm以上、10nm以下であることが好ましく、1nm以上、5nm以下であることがより好ましい。このサイズが小さいほど、遷移金属の表面積が増加するので、これを触媒の活性成分として用いると高い活性が期待できる。なお、この工程で用いる遷移金属は、ゾルの状態で溶媒中に分散していることが好ましい。遷移金属が分散したゾルは、市販品を購入してもよく、従来公知の方法で溶媒中に遷移金属を析出させる方法で調製してもよい。
【0026】
この工程において表面処理担体の分散液と、遷移金属の分散液を混合する方法を用いる場合は、表面処理担体が分散したスラリーと、遷移金属が分散したゾルとを混合することが好ましい。このとき、混合後の溶媒中に含まれる表面処理担体と遷移金属の質量は、最終的に得られる本発明の担持体の遷移金属の含有量が前述の範囲になるように、後述する工程を考慮しつつ適宜調整される。また、表面処理担体が分散したスラリーに含まれる表面処理担体の濃度は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。更に、遷移金属が分散したゾルに含まれる遷移金属の濃度は、金属換算で、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。前述の濃度の範囲内であれば、両方の液を混合した際に凝集が起こりにくく、遷移金属が凝集せず分散して表面処理担体に担持されるので好ましい。
【0027】
[非晶質層形成工程]
本発明の製造方法は、前述の非晶質層形成工程を含む。この工程では、前述の遷移金属担持体の表面に非晶質の被覆層を形成して、本発明の担持体を得る工程である。例えば、沈殿法を用いて非晶質の被覆層を遷移金属担持体の表面に形成することができる。
【0028】
この工程で形成する非晶質の被覆層は、Si、Al、Ti、Pから選ばれる1種類以上の元素を含む非晶質の被覆層であることが好ましく、Si、Alの元素を含む非晶質の被覆層であることがより好ましい。このような非晶質の被覆層を沈殿法で形成する方法の一例として、ケイ酸イオンを含む酸溶液とアルミニウムイオンを含むアルカリ溶液を準備し、これらを同時に遷移金属担持体が分散した液に添加する方法がある。また、非晶質の被覆層をゾルゲル法で形成する方法の一例として、遷移金属担持ゼオライトが分散した液にSiアルコキシドとAlアルコキシドとを添加し、これらのアルコキシドを加水分解する方法もある。以下、沈殿法を用いて遷移金属担持体の表面に非晶質の被覆層を形成する方法を例に、この工程について詳述する。
【0029】
この工程で沈殿法を用いる場合、酸溶液およびアルカリ溶液を準備し、これらのどちらか一方または両方にSi、Al、Ti、Pから選ばれる1種類以上の元素を含ませ、遷移金属担持体の分散液中でこれらを混合することが好ましい。このとき、酸溶液とアルカリ溶液の中和反応によって、遷移金属担持体の表面に前述の元素を含む非晶質の被覆層が形成される。この工程で沈殿法を用いる場合、酸溶液、アルカリ溶液のどちらか一方またはその両方に含まれる前述の元素の含有量は、それぞれ酸化物換算(SiはSiO2換算、AlはAl2O3換算、TiはTiO2換算、PはP2O5換算)で5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。また、酸溶液とアルカリ溶液の添加量は、遷移金属担持体の表面に形成する非晶質の被覆層の厚さによって、前述の濃度とともに適宜調整される。
【0030】
この工程で形成される非晶質の被覆層の厚さは、遷移金属担持体に含まれる遷移金属のサイズに対して、5倍以上、200倍以下であることが好ましく、10倍以上、100倍以下であることがより好ましい。非晶質の被覆層が薄すぎると遷移金属がシンタリングしやすくなるので好ましくない。また、非晶質の被覆層が厚くなりすぎると、遷移金属の露出率が低下しやすくなるので好ましくない。
【0031】
この工程では、必要によって、非晶質の被覆層を有する遷移金属担持体を溶媒から分離してもよい。また、この非晶質の被覆層を有する遷移金属担持体を500℃以上、600℃以下の温度で焼成することで、遷移金属の露出率をより高めることができる。この工程によって露出率が高まる理由は定かではないが、非晶質の被覆層に含まれる溶媒が除去されることによって非晶質の被覆層に細孔が形成されるため、表面処理担体に含まれる官能基が酸化される過程で発生するガスにより遷移金属と非晶質の被覆層の間に隙間ができるため、ではないかと考えられる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施範囲に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
<表面処理工程>
イオン交換水100gに3-アミノプロピルトリメトキシシラン1.27gを加え、室温で撹拌し、その後MFI構造を有するNH4型ゼオライト(サイズ:4.2μm、SiO2/Al2O3モル比=30)20gを加えた。これを室温で2時間撹拌して、表面処理担体の分散液を得た。
【0034】
<遷移金属担持工程>
純水7240gに塩化白金酸6水和物2.39g(Ptとして0.9g)を溶解した水溶液に、錯化安定剤として濃度1.0質量%のクエン酸三ナトリウム水溶液746gと還元剤として濃度0.1質量%の水素化ホウ素ナトリウム水溶液62.8gとを加え、窒素雰囲気下において20℃で1時間攪拌して、白金の分散液を得た。この分散液を限外濾過膜法洗浄により精製した後濃縮し、金属換算で濃度0.04質量%の白金の分散液を得た。後述の透過型電子顕微鏡を用いた平均粒子径測定によって算出した分散液に含まれる白金のサイズは3.1nmであった。この白金の分散液20.4gを前述の表面処理担体の分散液に添加して、30分間撹拌し、遷移金属担持体の分散液を得た。
【0035】
<非晶質層形成工程>
Si濃度が24.0質量%(SiO2濃度換算)のケイ酸ナトリウム水溶液(SiO2/Na2Oモル比3.1)を準備し、これをイオン交換水で希釈したあと水素型陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通過させて、Si濃度が4.6質量%(SiO2換算)、pHが2.65の酸性ケイ酸液を得た。これをさらにイオン交換水で希釈し、Si濃度0.46質量%(SiO2濃度換算)の酸性ケイ酸液を調製した。その後、この酸性ケイ酸液225gと、Al濃度が0.060質量%(Al2O3濃度換算)でありNa濃度が0.046質量%(Na2O濃度換算)であるアルミン酸ナトリウム水溶液100gとを一定速度で22.5時間かけて前述の遷移金属担持体の分散液に添加した後、室温で1.5時間攪拌した。この分散液に含まれる固形分を濾過して分離し、更にイオン交換水で洗浄後110℃で乾燥した。これを、2℃/minの昇温速度で550℃まで昇温し、空気中で4時間焼成し、非晶質の被覆層を有する遷移金属担持体を得た。
【0036】
[実施例2]
表面処理工程で3-アミノプロピルトリメトキシシランを2.00gとしたこと、遷移金属担持工程で白金の分散液を120.0gとしたこと以外は実施例1と同様にして非晶質の被覆層を有する遷移金属担持体を得た。
【0037】
[実施例3]
表面処理工程で3-アミノプロピルトリメトキシシランを2.00gとしたこと、遷移金属担持工程で白金の分散液を240.0gとしたこと以外は実施例1と同様にして非晶質の被覆層を有する遷移金属担持体を得た
【0038】
[比較例1]
実施例1で用いたNH4型ゼオライト400gに0.25Mの塩化ナトリウム水溶液4Lを加えて80℃で20分間イオン交換をし、その後濾過した。これを4回繰り返してイオン交換水で十分に洗浄した後110℃で乾燥し、Na型ゼオライトを調製した。このNa型ゼオライト5.0gに、実施例1と同様の方法で得られた白金の分散液5.1gをポアフィリング法で含浸させ、110℃で乾燥した。これを1℃/minで550℃まで昇温し、空気中で2時間焼成することで、非晶質の被覆層を有さない遷移金属担持体を得た。
【0039】
上記実施例1-3及び比較例1で用いた白金の分散液、及び、上記実施例1-3及び比較例1の方法で得られたサンプル中の遷移金属のサイズを以下の方法で測定した。その結果を、表1に示した。
【0040】
[透過型電子顕微鏡測定:遷移金属の平均粒子径、表面積]
透過型電子顕微鏡(HF-2200、日立ハイテクノロジーズ製)を用いて実施例1-3及び比較例1で用いた遷移金属の分散液中の遷移金属、及び、実施例1-3及び比較例1の方法で得られた担体上の遷移金属を観察した。複数の画像から、100個の遷移金属について、その粒子径dをそれぞれ測り、これを平均したものを遷移金属の平均粒子径Dとした。なお、粒子径dは,次の式(1)によって算出した。
d=(Ll/ + Ls)/2 ・・・・・・(1)
d:遷移金属の粒子径(nm)
Ll:遷移金属の長径(nm)
Ls:遷移金属の短径(nm)
ここで、遷移金属の長径とは、遷移金属の外縁と外縁を結ぶ最も長い直線の長さとし、遷移金属の短径とは、前述の直線の中点を通り遷移金属の外縁と外縁を結ぶ最も短い直線の長さとした。
実施例1-3及び比較例1の方法で得られた担体上の遷移金属に関して、平均粒子径Dを用いて以下の式(2)、(3)で遷移金属の表面積STEMを算出した。
STEM = 4 × π × (D/2)2 × n × 10-18 ・・・・・・(2)
n = 4/3 × π × (D/2)3 ÷ (ρ×10-21) ・・・・・・(3)
D:透過型電子顕微鏡観察から求めた遷移金属の平均粒子径(nm)
STEM:平均粒子径Dから理論的に求めた遷移金属1gあたりの表面積(m2/g)
n:遷移金属1gあたりに含まれる平均粒子径D(nm)の粒子の数(個)
ρ:遷移金属の密度(g/cm3)
【0041】
[ガス吸着測定:遷移金属の表面積算出]
実施例1~3の方法で得られた担持体について、COパルス吸着法により、遷移金属の表面積を算出した。
装置名:BELCAT(日本ベル株式会社)
前処理温度:450℃
前処理時間:Heを15分流通し、その後H2を1時間流通し、更にその後Heを15分流通
前処理ガス流量:30cc/min
サンプル量:0.5~1.0g
パルス吸着:50℃、100%CO
実施例1-3の方法で得られた担体上の遷移金属の表面積SCを以下の式(4)で算出した。なお、実施例1-3では、遷移金属として白金を使用したので、白金の表面積をガス吸着で測定する際に一般的なCOを吸着ガスとして使用した。
SC= MC × A ×σ ÷ R ・・・・・・(4)
SC:COパルス吸着法から求めた遷移金属1gあたりの表面積(m2/g)
MC:遷移金属1gあたりのCO吸着量(mol)
A:アボガドロ定数(mol-1)
σ:遷移金属の原子断面積(m2)
R:遷移金属1原子に吸着するCOの分子数
【0042】
[露出率]
露出率は、前述のCOパルス吸着法により算出した遷移金属の表面積SCと、透過型電子顕微鏡観察により求めた遷移金属の平均粒子径から理論的に算出した表面積STEMの比から式(5)によって算出したものであり、担体上に存在する遷移金属のうち、表面に露出している遷移金属の割合をいう。
露出率(%) = SC/STEM × 100 ・・・・・・(5)
透過型電子顕微鏡では、表面に露出していない遷移金属も観察することが可能である。このため、担体上の遷移金属がすべて露出している場合には、透過型電子顕微鏡観察により求めた遷移金属の粒子径から理論的に算出した表面積STEMとCO吸着により算出した遷移金属の表面積SCは等しくなり、露出率は100%となる。担体上の遷移金属が完全に被覆されている場合には、CO等のガスが遷移金属の表面に吸着できなくなり、露出率は低下する。
【0043】
[担体のサイズ測定]
走査型電子顕微鏡(S-5500、日立ハイテクノロジーズ製)を用いて実施例1-3及び比較例1に用いた担体を観察した。複数の画像から、100個の担体について、その粒子径をそれぞれ測り、これを平均したものを担体のサイズとした。
【0044】
実施例1-3の担持体に含まれる遷移金属の平均粒子径が、550℃焼成後であっても、担持前と同程度(担持前3.1nm、焼成後3.0~3.3nm)であるのに対し、比較例1の担持体に含まれる遷移金属の平均粒子径は、550℃焼成によって、19nmまで大きくなっている。この結果から、遷移金属を非晶質の被覆層で覆うことによって、高温に晒されても遷移金属の凝集が抑制されることを確認した。
更に、実施例1-3の遷移金属の露出率は93~100%の間にある。実施例1-3の担持体は、
図1のような極小の非晶質粒子で構成される被覆層で遷移金属が被覆されているので、高温に晒されても遷移金属の凝集が抑制されると共に、被覆層には多数の隙間があるので遷移金属の露出率が高く、これを触媒に使用しても高い活性が期待できる。
【0045】