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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】微小血管血流低減剤およびその利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20221222BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20221222BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221222BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
A61K39/395 U
A61P9/00
A61P29/00
A61P35/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018536042
(86)(22)【出願日】2017-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2017007093
(87)【国際公開番号】W WO2018037595
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2019-03-08
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2016165995
(32)【優先日】2016-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年2月27日開催、第13回日本免疫治療学研究会学術集会 演題番号:P-21 〔刊行物等〕 平成28年3月18日掲載、クリニカE.T.のウェブサイト内「血管からがんを治す」(アドレス:http://www.clinica-et.com/docs/_2016_160313.pdf)
(73)【特許権者】
【識別番号】516257936
【氏名又は名称】奥野 哲治
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】奥野 哲治
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
【審判官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/72286(WO,A1)
【文献】特開2015-74633(JP,A)
【文献】Cancer Immunol Immunotherapy, 2001, Vol.50, p. 125-133
【文献】統合医療でがんに克つ, 2014.09, Vol. 75, p. 17-20
【文献】臨床消化器内科, 2006, Vol.21 No.7, p.255-261
【文献】Nagoya J Med Sci., 2006, Vol.68, p.101-108
【文献】癌と化学療法, 1995, Vol.22 No.1, p.77-82
【文献】臨床放射線、2006,Vol.51 No.11, p.1359-1363
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K39/00,A61P
JSTPLUS、JMEDPLUS、JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫チェックポイント阻害剤である抗体を含む、微小血管血流低減剤であって、
微小血管が、腫瘍血管または炎症血管であり
疫チェックポイント阻害剤である抗体が、抗PD-1抗体であり
栄養動脈へ注入して微小血管に流れる血流を選択的かつ有意に低減させるための、前記微小血管血流低減剤。
【請求項2】
マイクロカテーテルにより目標血管に投与される、請求項1に記載の微小血管血流低減剤。
【請求項3】
免疫チェックポイント阻害剤である抗体の投与量が、1回あたり1~50mgとなる用量で投与される、請求項1または2に記載の微小血管血流低減剤。
【請求項4】
さらにナノ化抗がん剤および/または抗炎症剤と組み合わせて用いられる、請求項1~のいずれか一項に記載の微小血管血流低減剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫チェックポイント阻害剤を含む微小血管血流低減剤、免疫チェックポイント阻害剤を用いた微小血管の血流を選択的に低減させる方法、および前記方法を用いた腫瘍または炎症の処置方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞およびがん組織の間質細胞は、血管内皮増殖因子(VEGF)などの血管新生因子を分泌し、組織内に既存の血管系から分岐した新たな血管網を形成する。この新たな血管網が、がん組織の成長に必要な栄養を供給したり、転移の際の経路となると考えられている。そこで、これらの腫瘍血管からがん組織に栄養を供給させないために、腫瘍血管新生を阻害したり、血管を塞栓するといった治療法が注目され、小さな血管を塞栓するための薬剤の開発が行われている。
しかし、腫瘍血管は前述のとおり、細かな血管網を形成しているため、腫瘍血管のみを選択的に塞栓することは困難であり、多くの場合腫瘍血管が分岐している元の血管を塞栓することで栄養の伝達を阻止する方法が採られる。しかしこの方法は正常な血管を塞栓させる必要があるため、正常組織への影響が懸念される。
【0003】
近年、組織の特定の部分に薬剤を送達する方法が注目されている。血管造影などによって腫瘍部位を特定し、該腫瘍部位に栄養供給する動脈へマイクロカテーテルを注入し、そこから抗がん剤などの薬剤を投与するこの方法は、超選択的動注法と呼ばれ、特定部位へ選択的に高濃度で薬剤を送達することが可能であり、全身化学療法に比べて副作用が少なく、効果が高いと考えられている。
【0004】
このように、血管に挿入した医療器具を用いて治療する血管内治療は、低侵襲的で高い効果が得られるとして注目されているが、腫瘍血管を初めとする様々な微小血管に対する治療法は、臨床的に実用化が十分でないのが現状である。
【0005】
がんの処置方法としては、手術による外科的な除去、抗がん剤の投与による化学療法、および放射線照射による放射線療法が三大治療法といわれている。近年これに加え、がんを免疫系の働きにより処置しようという、がん免疫療法が第4の処置方法として注目されている。代表的な方法としては、がん細胞が特異的に発現しているタンパク質を標的とする抗体や、がん細胞を特異的に認識する細胞傷害性T細胞などを用いる方法が挙げられる。
【0006】
従来のがん免疫療法は、専らがんに対する免疫作用の強化を目的としたものであったが、最近になってがんが免疫系の作用を回避するメカニズムが明らかとなってきた。このがん細胞による免疫系の回避には、免疫チェックポイントと呼ばれるメカニズムが関与している。免疫チェックポイントは、元来過剰な免疫反応を抑制し、自己免疫疾患などの発生を抑えるためのシステムである。免疫チェックポイントタンパク質と呼ばれるタンパク質がT細胞の表面に存在し、これと自己細胞表面に存在する免疫チェックポイントタンパク質のリガンドが結合することにより、T細胞の活性化が抑制される。がん細胞表面にも同様に免疫チェックポイントタンパク質のリガンドが存在し、これにより細胞傷害性T細胞(CTL)などの攻撃を回避している。
【0007】
最近この免疫チェックポイントタンパク質やそのリガンドの働きを阻害することにより、がん細胞の免疫回避能力を低下させ、自己免疫作用によりがんを処置する方法が注目されてきている。免疫チェックポイント阻害薬としては、例えばニボルマブ(抗PD-1抗体)やイピリムマブ(抗CTLA-4抗体)などが市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2008-513381号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Hodi et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2003 Apr 15;100(8):4712-7
【文献】Momtaz et al., Pharmgenomics Pers Med. 2014 Nov 15;7:357-65
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、微小血管の血流低減効果を有する新たな薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、ナノ化した抗がん剤を栄養動脈へ注入すると腫瘍血管密度が低下するという知見に基づき、がんの血管内療法について鋭意研究を続ける中で、ナノ化した抗がん剤と併用して用いていた免疫チェックポイント阻害剤である抗CTLA-4抗体イピリムマブが、それ単独でも強い腫瘍血管密度減少効果があることを新たに見出した。かかる新たな知見に基づいてさらに研究を続けた結果、他の免疫チェックポイント阻害剤にも同様の効果があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明に下記に掲げるものに関する:
(1)免疫チェックポイント阻害剤を含む、微小血管血流低減剤 。
(2)微小血管が、腫瘍血管および炎症血管である、(1)の微小血管血流低減剤。
(3)免疫チェックポイント阻害剤が、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体および抗PDL-1抗体からなる群から選択される阻害剤である、(1)または(2)の微小血管血流低減剤。
(4)マイクロカテーテルにより目標血管に投与される、(1)~(3)に記載の微小血管血流低減剤。
(5)免疫チェックポイント阻害剤の投与量が、1回あたり1~50mgとなる用量で投与される、(1)~(4)に記載の微小血管血流低減剤。
(6)さらにナノ化抗がん剤および/または抗炎症剤と組み合わせて用いられる、(1)~(5)に記載の微小血管血流低減剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、微小血管、とくに腫瘍血管や炎症血管に流れる血流を低減させることが可能な新規な剤が提供される。微小血管を有する疾患、とくに腫瘍部位においては、過度に発達した微小血管により血管網が複雑化し、その結果多くの血液が流れることにより血流が渋滞し、疾患部位は低酸素状態となる。しかしながら本発明の剤により微小血管に流れる血流を選択的に低減させることにより、血流の渋滞が解消され、微小血管周辺の低酸素状態を改善することが可能となる。低酸素状態が改善されるとがん幹細胞のニッチが破綻し、それによりがん細胞の増殖が抑制され、結果としてがんが処置できることになる。かかるメカニズムはがんが生じた臓器にかかわらず効果を奏するため、あらゆるがんに対して等しく有効な処置方法が確立できる。
【0014】
本発明により、免疫チェックポイント阻害剤として知られる剤の新規な用途が提供される。本発明の用途において使用する場合、従来の免疫チェックポイント阻害剤の有効投与量よりもはるかに少量で効果を発揮するため、副作用のリスクを大幅に低減できる。また、免疫チェックポイント阻害剤は比較的高価な薬剤であるため、患者の経済的負担も大幅に軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、乳癌患者Aに対する免疫チェックポイント阻害剤を用いた血管内治療の前後の患部における腫瘍血管の様子を示す写真図である。左の写真は投与前、右の写真は投与後の写真であり、右の写真では腫瘍血管が消失しているのがわかる。
図2図2は、右大腿部悪性線維性組織球腫患者Bに対する免疫チェックポイント阻害剤を用いた血管内治療の前後の患部における腫瘍血管の様子を示す写真図である。(a)は上から血管内治療前、1回目の血管内治療後、2回目の血管内治療後、3回目の血管内治療後の写真であり、(b)は別の部位における、血管内治療前(上)および3回目の血管内治療後(下)の写真である。
図3図3は、肝臓癌患者Cに対する免疫チェックポイント阻害剤を用いた血管内治療の前後の患部における腫瘍血管の様子を示す写真図である。左が血管内治療前、右が血管内治療後の写真である。
【0016】
図4図4は、膀胱癌(慢性骨髄性白血病)患者Dの膀胱癌に対して免疫チェックポイント阻害剤を用いた血管内治療を施した際の、その前後に亘る時点1~6での慢性骨髄性白血病マーカーであるbcr-ABLのIS%の遷移を表すグラフである。膀胱がんに対する血管内治療が施された時点2と3の間で、bcr-ABLも劇的に減少していることがわかる。
図5図5は、脊椎圧迫骨折に対して骨セメント注入した後の背部痛を訴える対象(Case7)に対する免疫チェックポイント阻害剤を用いた血管内治療の前後の患部における微小血管の様子を示す写真図である。写真は左列が左の、右列が右の第12胸椎肋間動脈の造影写真であり、上段が血管内治療前、下段が血管内治療による薬剤投与2分後の画像である。
図6図6は、右膝関節リウマチの対象(Case8)に対する免疫チェックポイント阻害剤を用いた血管内治療の前後の患部における微小血管の様子を示す写真図である。上段は外下膝状動脈、下段は下正中膝状動脈の造影写真であり、それぞれ左が治療前、右が薬剤投与2分後の写真である。どちらの写真でも血管密度の低減と、早期の動静脈短絡による静脈の描出が消失していることがわかる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明について詳細に説明する。
<1>本発明の微小血管血流低減剤
本発明において、「微小血管」とは、特定の疾患部位において新生される微小血管網を構成する血管を意味する。微小血管の特徴として、通常の血管と比較して無秩序、過密であり、動静脈の短絡を多く持ち、血管壁の浸透性が高いことが挙げられる。微小血管の例としては、これに限定するものではないが、例えば腫瘍血管、炎症血管、虚血の周りの血管、長く続く痛みの部位の血管などが挙げられる。本発明の一態様において、微小血管は、好ましくは腫瘍血管および炎症血管であり、より好ましくは腫瘍血管である。
【0018】
本発明において「腫瘍血管」とは、典型的には既存の血管から分岐して新生した、腫瘍組織内にみられる無秩序、過密、そして動静脈短絡を多く持つ血管網を構成する血管を意味する。腫瘍血管は、主に、腫瘍細胞や腫瘍組織内の間質細胞が分泌する、血管内皮増殖因子(VEGF)などの血管新生因子により形成されるが、構造は不安定であり、高い透過性を有する。この血管は、腫瘍細胞に酸素や栄養を供給するのみならず、血行性転移にも関与している。
本発明において「炎症血管」とは、炎症部位で産生される炎症性サイトカインにより誘導された新生血管を意味し、典型的には、例えばリウマチにおいて滑膜で新生した血管網を構成する血管などが挙げられる。
【0019】
本発明において、「長く続く痛みの部位の血管」とは、3か月以上継続する慢性の痛みを主訴とした変形性骨関節症、腱症、筋膜症などと診断される病態において、痛みが見られる部位の筋膜、腱、脂肪組織などで新生される血管を意味する。これらの血管は腫瘍血管や炎症血管ほど明らかな血管密度の異常を示さないが、よく観察すると早期の静脈描出をともなう血管密度の増加が認められるものである。
【0020】
本発明において「微小血管血流低減剤」とは、微小血管に導入された場合、当該微小血管の血流量を低減させる効果を有する剤を意味する。本発明の一態様において、血流量の低減は、微小血管の塞栓により生じ得る。別の一態様において、血流量の低減は、微小血管の破壊により生じ得る。したがって、微小血管血流低減剤は、これに限定するものではないが、例えば血管の塞栓物質、血管新生を阻害する物質、血管から漏出し血流を低減する物質などを含む。微小血管血流低減剤は、他の剤と併用してもよく、これに限定するものではないが、例えば抗がん剤、抗炎症剤などと併用してもよい。
【0021】
本発明は、通常がんの免疫治療に用いられる免疫チェックポイント阻害剤を微小血管に導入すると、導入された微小血管の血流を低減させる効果を有するという効果を新たに見出したことに基づくものである。したがって、本発明は一側面において、有効成分として免疫チェックポイント阻害剤を含む微小血管血流低減剤に関する。免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞の活性を抑制することにより過剰な免疫反応を抑制し、自己免疫疾患等の発生を抑えるための免疫チェックポイントシステムの働きを阻害する剤であり、最近ではがん細胞の免疫回避を抑制する剤としてがんの処置に用いられている。本発明の微小血管血流低減剤は、微小血管に投与された場合に当該微小血管の血流を低減させるのに有効な量の免疫チェックポイント阻害剤を含む。
【0022】
本発明の微小血管血流低減剤に用いられる免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント阻害剤として当該技術分野において知られた任意のものであってよく、これに限定するものではないが、例えば抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗TIM-3抗体、抗LAG-3抗体、抗B7-H3抗体、抗B7-H4抗体、抗BTLA抗体、抗VISTA抗体および抗TIGIT抗体などが挙げられる。本発明の一態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、好ましくは抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体であり、より好ましくは抗CTLA-4抗体および抗PD-1抗体である。抗CTLA-4抗体としては、典型的にはイビリムマブが挙げられ、抗PD-1抗体としては、典型的にはニボルマブおよびペンブロリズマブが挙げられ、抗PD-L1抗体としては、典型的にはアテゾリズマブおよびMSB0010718C(アベルマブ)が挙げられる。
【0023】
免疫チェックポイント阻害剤が微小血管血流低減効果を示す機序については、詳細には明らかとなっていないが、本発明者により、免疫チェックポイント阻害剤を微小血管に投与するために調製すると、免疫チェックポイント阻害剤の薬剤中の粒径が約10~15nmほどになることが見出されている。例えば腫瘍血管の場合、上述のとおり血管壁の構造が不安定で透過性が高いことが知られており、例えば40nm以下など粒径の小さい薬剤は簡単に透過して腫瘍組織内に到達することができる。したがって、理論に拘束されるものではないが、免疫チェックポイント阻害剤も容易に腫瘍組織内に到達することができ、血流低減効果を発揮できるものと考えられる。
【0024】
本発明の微小血管血流低減剤は、疾患部位の微小血管網の血流を低減させることにより、疾患部位への栄養供給を阻害し、異常新生された血管を減少させて疾患の処置することができる。したがって、本発明の微小血管血流低減剤により処置可能な、異常新生された血管網を有する疾患としては、典型的にはがんやリウマチが挙げられる。
本発明において、「腫瘍(tumor)」は、良性腫瘍および悪性腫瘍(がん、悪性新生物)を含む。がん(cancer)は、造血器の腫瘍、上皮性の悪性腫瘍(癌、carcinoma)と非上皮性の悪性腫瘍(肉腫、sarcoma)とを含む。本発明の剤が特に治療効果を発揮するのは、腫瘍血管を有するがん、典型的には固形がんである。
【0025】
上述のとおり、免疫チェックポイント阻害剤は、近年がんの処置に用いられているものであるが、通常の使用においては、処置可能ながんは、対応する免疫チェックポイントタンパク質が免疫回避において関与しているがんに限られる。しかしながら本発明の微小血管血流低減剤として免疫チェックポイント阻害剤を用いる場合には、処置可能ながんは特に限定されない。したがって、例えば本発明の微小血管血流低減剤として抗CTLA-4抗体を用いる場合であっても、処置対象のがんが必ずしもCTLA-4を発現していなくてもよい。
【0026】
本発明の微小血管血流低減剤は、微小血管に導入されて効果を発揮するものであるため、典型的には液剤、注射剤などの注入可能な形態である。したがって本発明の微小血管血流低減剤は、免疫チェックポイント阻害剤および薬学的に許容可能な担体を含んでよい。薬学的に許容可能な担体としては、これに限定するものではないが、例えば注射剤の溶媒または希釈剤として当該技術分野において通常用いられるものなどが挙げられ、典型的には水、生理食塩水などが挙げられる。
【0027】
本発明の一態様において、微小血管血流低減剤に用いられる免疫チェックポイント阻害剤は、微小血管の血管壁を透過しやすい形態で血流低減剤中に含まれる。微小血管の血管壁は通常の血管の血管壁よりも透過性が亢進しているが、剤の粒径を小さくすることにより、さらに剤の血管壁透過性を高めることができる。上述のとおり、免疫チェックポイント阻害剤を微小血管血流低減剤として調製すると、その粒度分布が約10~15nmなることが本発明者により見出された。したがって剤の粒度分布は、好ましくは1~15nmである。好ましい一態様において粒度分布は10~15nmである。別の好ましい一態様において、粒度分布は1~10nmである。
小さな粒度分布を達成する方法としては、例えば振とう、希釈、撹拌など、当該技術分野において通常用いられる方法を用いることができる。
【0028】
<2>本発明の微小血管血流低減方法
本発明は上述のとおり、免疫チェックポイント阻害剤を微小血管に導入すると、血流を低減させる効果を発揮することを新たに見出したことに端を発するものである。したがって本発明は一側面において、免疫チェックポイント阻害剤または免疫チェックポイント阻害剤を含む微小血管血流低減剤を用いて微小血管の血流を低減する方法に関する。
【0029】
転移再発のある進行がんの治療では、標準治療の化学療法が無効となると日常の生活ができている状況で緩和治療となることがしばしばで、治療を求める患者さんの希望を果たせないことが多いと考えられる。本発明者は、標準治療が無効の進行がんについて、血管内治療による腫瘍血管の減量を目的とした治療を継続してきた。これは、手術、放射線治療、化学療法が無効であれば、がん実質そのものよりむしろその微小環境(がんニッチ)への介入がQOLを長く良好に維持する上で重要と考えられるからである。しかしながら処置にあたり、血管内治療の介入が増すことにより、増殖の反転も早くなり制御が困難となることがわかってきた。一方、本発明の免疫チェックポイント阻害剤を用いた微小血管血流低減方法によれば、従来の血管内治療と比較して治療間隔を顕著に延長することができるため、患者のQOLを大きく改善できることが期待される。
【0030】
本発明の微小血管血流低減方法は、免疫チェックポイント阻害剤を、血流を低減させたい微小血管網に導入することを含む。免疫チェックポイント阻害剤が微小血管網に導入されればよいため、全身投与であっても局所投与であってもよい。
本発明の好ましい一態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、対象の微小血管に局所投与される。局所投与の方法としては、典型的には動注法が挙げられ、中でもカテーテルを目的血管の近傍まで導入し、直接薬剤を投与する方法が好ましい。本発明の方法においては、目的血管が微小血管であるため、目的血管のより近傍までカテーテルを導入するために、カテーテルはマイクロカテーテルを用いるのが好ましい。マイクロカテーテルを用いた微小血管への局所投与方法は当該技術分野において公知であり、これに限定するものではないが、例えば超選択的動注法などが挙げられる。
【0031】
本発明の方法において投与される免疫チェックポイント阻害剤は、とくに局所投与された場合、がん細胞の免疫回避を抑制するという本来の用途に用いる場合と比較してずっと少ない量で効果を奏することが本発明者により見出された。本発明の微小血管血流低減のために用いる場合、免疫チェックポイント阻害剤の投与用量は、投与する免疫チェックポイント阻害剤の種類により異なるが、当業者であれば適切な量を計算することができる。例えば、イピリムマブの場合、支持血管あたり約0.3~0.5mg程度、ニボルマブの場合、支持血管あたり約0.5~1mg程度、ペンブロリズマブの場合、支持血管あたり約0.3~0.4mg程度の局所投与により、微小血管の血流低下および腫瘍血管密度の変化が生じることが見出された。
【0032】
投与用量の下限値としては、例えば0.1mg以上、0.2mg以上、0.3mg以上、0.4mg以上、0.5mg以上、1mg以上、2mg以上、3mg以上、4mg以上または5mg以上であり、上限値としては、例えば50mg以下、45mg以下、40mg以下、35mg以下、30mg以下、25mg以下、20mg以下、15mg以下または10mg以下である。投与用量の範囲は、これら上限値および下限値の任意の組み合わせとして決定することができる。したがって投与用量は例えば2~10mg、3~30mg、5~20mg、5~45mgなどとなる。また、上記投与用量は、1回で投与してもよいし、複数回に分けて投与してもよい。
【0033】
本発明の微小血管血流低減方法は、種々の疾患における微小血管の血流を低減させることができ、その結果として微小血管の密度を低減することができる。したがって本発明の微小血管血流低減方法を用いることにより、微小血管の過形成が認められる疾患や症状を処置することが可能である。したがって本発明は、そのような微小血管の過形成が認められる疾患や症状の処置方法が包含される。本発明の微小血管血流低減方法により処置可能な疾患や症状としては、固形腫瘍、リウマチ、3か月以上継続する慢性の痛みを主訴とした変形性骨関節症、腱症、筋膜症、脊椎管狭窄症や慢性疼痛症候群とされる各種の痛みなどが挙げられる。本発明において「血管内治療」という語は、別段の記載のない限り、微小血管に対して血流を低減させるような剤を投与することにより、疾患を処置する治療法をいう。したがって血管内治療の一態様として、本発明の微小血管血流低減方法を好適に用いることができる。
【0034】
<3>本発明の固形腫瘍処置方法
本発明の微小血管血流低減剤は、特に腫瘍血管に投与した場合、当該腫瘍血管の血流を低減させ、それにより低酸素状態を改善し、腫瘍血管密度を低下させることができることが本発明者により見出された。したがって本発明の微小血管血流低減剤は、固形腫瘍周辺の微小環境(ニッチ)を改善することにより、固形腫瘍を処置する方法に用いることができる。すなわち本発明は、一側面において、腫瘍血管の血流を低減させることによる固形腫瘍の処置方法に関する。
【0035】
本発明の固形腫瘍の処置方法は、一般的に「血管内治療」と称される手法を用いて実施することができ、上記<2>における微小血管の血流を低減させる方法に準じて行うことができる。したがって本発明の固形腫瘍処置方法は、免疫チェックポイント阻害剤を、当該固形腫瘍の責任血管および/またはそれから分岐する腫瘍血管に導入することを含む。免疫チェックポイント阻害剤が微小血管網に導入されればよいため、全身投与であっても局所投与であってもよい。
【0036】
上述のとおり、本発明の固形腫瘍処置方法は、固形腫瘍に栄養を送達する腫瘍血管の血流を低減させ、腫瘍血管密度を低下させることにより固形腫瘍を処置するものである、したがって腫瘍血管を有する固形腫瘍であれば、いかなる腫瘍も処置することが可能である。したがって、処置可能な腫瘍としては、これに限定するものではないが、例えば頭頚部がん、食道がん、肺がん、乳がん、胃がん、肝臓がん、胆管がん、膵臓がん、大腸がん、腎臓がん、膀胱がん、前立腺がん、精巣がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、悪性リンパ腫、肉腫などが挙げられる。
【0037】
また上述のとおり、本発明の固形腫瘍の処置方法は、腫瘍血管の血流を低減させ、それにより腫瘍血管密度を低下させることにより治療効果を発揮するものである。ここで腫瘍血管は腫瘍への栄養送達だけでなく、血中循環腫瘍細胞(CTC)の出入口としての役割も果たすことが知られている。本発明の方法は、腫瘍血管密度を低下させ、腫瘍血管を消失させることにより、この出入口をふさぐことが可能となり、その結果CTCの量が低下することになる。これにより、腫瘍の転移そのものを防ぐことが可能である。したがって、固形腫瘍は、原発性のものであっても転移したものであってもよい。本発明の方法によれば、原発部位の腫瘍を処置することにより、転移先の腫瘍を処置することが可能となる。逆に転移先の腫瘍を処置することにより、原発部位の腫瘍を処置することも可能となる。
【実施例
【0038】
本発明を以下の例を参照してより詳細に説明するが、これらは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
例1.局所免疫チェックポイント阻害剤による治療成績評価
免疫チェックポイント阻害剤の局所投与による連続的な処置を、94例(男性48例、女性46例、平均年齢62.1歳)に対して行い、初回の治療の病期別短期(1か月)縮小効果を調査した。さらに初回治療4か月後の画像評価が可能な35例について、病期別長期(4か月)縮小効果についても解析した。
【0040】
(1)局所免疫チェックポイント阻害剤の調製
免疫チェックポイント阻害剤(CTL4抗体イピリムマブ(エルボイ、Bristol-Myers-Squibb)2~4mg/body(平均2.2mg/body)、PD1抗体ニボルマブ(オプジーボ,Bristol-Myers-Squibb)4~45mg/body(平均15.6mg/body)、PD1抗体ペンブロリズマブ(キートルーダ、Merck Sharp & Dohme Limited)2~20mg/body(平均9.23mg/body)、PDL-1抗体アテゾリズマブ(テーセントリック、Roche)30~90mg/body(平均60mg/body)のいずれかと、抗炎症剤(マキサカルシトール10~20μg/bodyおよび/またはボルテゾミブ0.35~0.7mg/bodyおよび/またはエタネルセプト25mg/bodyおよび/またはトロンボモデュリン3200~6400U/body)とを生理食塩水100~150mlに溶解しスターラーを用いて攪拌し、責任血管に導入した。
【0041】
(2)結果
投与後1か月における短期の腫瘍縮小効果について、MRIまたはCT画像により評価した。結果を下表に示す。表中、CRは画像上消失、PRは腫瘍径縮小>50%、MRは腫瘍径縮小>30%、NCは腫瘍径縮小<30%、PDは腫瘍径が増大したものを示す。
【表1】
【0042】
評価はMR以上を有効と分類して行った。病期がI、IIおよびIII期の対象においては、短期的縮小効果が観察された(8/15、53.3%)。しかしながらIV期の対象においては17.7%(14/79)と短期的な効果はあまり見込めず、病期により有意に差があることがわかった。
【0043】
次に投与後4か月における長期の腫瘍縮小効果について、MRIまたはCT画像により評価した。結果を下表に示す。
【表2】
【0044】
免疫チェックポイント阻害剤による処置では、4か月後においてもさらなる改善が確認された(病期I、II、III期において75%(6/8)、病期IV期においても26%(7/27))。このことから、免疫チェックポイント阻害剤による処置は、短期的な腫瘍縮小効果は抗がん剤の局所投与による腫瘍縮小効果には劣るものの、長期的には高い効果を奏することがわかった。
【0045】
(3)疾患群別の縮小効果判定
CRを4点、PRを3点、MRを2点、NCを1点、PDを0点として、各疾患群で平均点数を求め、腫瘍縮小効果を評価した。結果を下表に示す。
【表3】
【0046】
ほとんどの疾患群において、短期効果よりも長期効果の方が高い結果となった。とくに頭頸部癌、肺癌、泌尿器生殖器癌(とくに膀胱癌、卵巣癌、子宮体癌)、肉腫の対象において短期効果のみならず長期効果においても高い効果が認められた。また、乳癌の例においては、8~11か月後に縮小が始まる例もあった。
【0047】
例2.従来の血管内治療との比較
(1)処置対象群
同じ症例に施行した2回のがんの血管内治療の治療間隔日数を、2462例の対象に対して比較した。主にナノ化した抗がん剤と抗炎症剤をもちいたA群2137例と、CTL4抗体、PD1抗体またはPDL1抗体いずれかと抗炎症剤を用いたB群325例を比較した。A、B2群の、年齢、性別、治療時の病期(ステージ0~IV)、治療対象とした原疾患のICD分類について、下表に記す。
【表4】
【0048】
(2)処置方法
治療前に病変部位をMRIまたはCTで撮像し、その画像から目標血管を検討し、できる限り全ての病変を対象として腫瘍血管を同定した後、血管内治療を行った。
A群では主にナノ化した抗がん剤(ゲムシタビン200mg/body、グリシルリチン酸80mg/body、オキサリプラチン50mg/body、マイトマイシン4mg/body、アブラキサン25mg/body)を混和し60~120nm径の粒度分布としたものと、抗炎症剤(マキサカルシトール10~20μg/body、ボルテゾミブ0.35~0.7mg/body、エタネルセプト25mg/body、トロンボモデュリン3200~6400U/body)とを責任血管に注入し、腫瘍血管密度の低下を目標に治療した。より凝集の少ないナノ化薬剤を作成する目的で、任意に閃ウラン鉱石をもちいて150μSv/hの放射線を30分間薬剤に照射し、粒度分布を3~5nm径まで低下させた後、注入直前までスターラーをもちい攪拌して投与した。
【0049】
B群では、目的とした腫瘍血管に、免疫チェックポイント阻害剤(CTL4抗体イピリムマブ(エルボイ、Bristol-Myers-Squibb)2~10mg/body、PD1抗体ニボルマブ(オプジーボ,Bristol-Myers-Squibb)5~45mg/body、PD1抗体ペンブロリズマブ(キートルーダ、Merck Sharp & Dohme Limited)5~20mg/bodyのいずれか)PDL-1抗体アテゾリズマブ(テーセントリック、Roche)30~90mg/bodyと、抗炎症剤(マキサカルシトール10~20μg/body、ボルテゾミブ0.35~0.7mg/body、エタネルセプト25mg/body、トロンボモデュリン3200~6400U/body)とを生理食塩水100~150mlに溶解し責任血管に、直前までスターラーを用いて攪拌して注入し、腫瘍血管密度の低下を目標に治療した。これらの薬剤の調製は血管内治療室内のクリーンベンチにておこなった。
【0050】
(3)結果
結果を下表に示す。下表からわかるとおり、B群において、A群と比較して明らかに治療間隔が延長されていた。このことは、免疫チェックポイント阻害剤が血管内治療用の血流低減剤として効果を奏すること、および血管内治療において、従来用いられていた血流低減剤よりも効果の持続が長いことを意味している。
【表5】
【0051】
例3.症例
(1)乳癌患者A
乳癌に罹患した患者Aに対し、ニボルマブ10mg、ペルツズマブ60mg、ボルテゾミブ0.7mg、トロンボモデュリン3200Uおよびマキサカルシトール10μgを用いた血管内治療を行った。この患者はかかる処置によりCRとなった。病変部における腫瘍血管の様子を図1に示す。
【0052】
(2)右大腿部悪性線維性組織球腫患者B(肺への転移あり)
右大腿部に悪性線維性組織球腫を罹患した患者Bに対し、ニボルマブ20mgを用いた血管内治療を行った。この患者は、ニボルマブ20mgの各回投与により、3回の処置でCRとなった。病変部における腫瘍血管の様子を図2に示す。
【0053】
(3)肝臓癌(C型肝炎)患者C T2N0M0(病期II)
C型肝炎を罹患した患者Cにおいて生じた肝臓癌に対し、ニボルマブ10mg、ボルテゾミブ0.7mg、エタネルセプト25mg、マキサカルシトール10μg、イミペネム/シラスタチンナトリウム500mg/bodyの各回投与による血管内治療を行った。この患者は、2回の処置でCRとなった。病変部における腫瘍血管の様子を図3に示す。
【0054】
(4)膀胱癌(慢性骨髄性白血病)患者D T2N0M0(病期II)
慢性骨髄性白血病を罹患していた患者Dにおいて、筋層浸潤を伴う膀胱癌が見出され、転移癌と考えられた。この患者には、ニボルマブ10mg、ボルテゾミブ0.7mg、エタネルセプト25mg、マキサカルシトール10μg、トロンボモデュリン3200Uを用いた血管内治療を行い、かかる処置によりCRとなった。また、血管内治療後、慢性骨髄性白血病のマーカーであるBCR-ABL mRNAのIS%も低下し、慢性骨髄性白血病も寛解と判断された。図4は、同患者における膀胱がんの血管内治療前後のBCR-ABL mRNAのIS%の推移を表すグラフである。
【0055】
考察
免疫チェックポイント阻害剤は、いずれも単剤投与により、腫瘍血管からの注入後2~3分後には明らかな腫瘍血行動態の変化を生じることがわかった。また、投与により即時的にがん性疼痛の軽減も確認される。これにさらに本来の効果である免疫チェックポイント阻害による効果も期待できるため、単剤の投与により比較的長く奏功することが期待される。その結果、示されたような治療間隔の延長効果が発揮されたものと考えられる。
【0056】
例4.長く続く痛みの部位の血管に対する血管内治療
長く続く痛みの部位の血管を有する対象として、下表に示す14例の対象に対し、ペンブロリズマブを用いた血管内治療を以下のとおり施した。
全例において処置前に脂肪抑制T2強調MRI画像を撮像し、対象血管を選定した。セルジンガー法にて大腿動脈から3Fr動脈留置シース(メディキット社製)を挿入し、同じくメディキット社製3Fr血管造影カテーテル、テルモ社製ラジフォーカス0.032”外径ガイドワイヤー、朝日インテック社製マイクロカテーテルASAHI Tellus C3、ASAHI Meister0.016”マイクロガイドワイヤーを適宜もちいて目標血管に到達し、造影にて異常血管網を同定した。
その後、表に示すごとくペンブロリズマブ1~4mg/body(平均1.86mg/body、中央値2mg/body)を生理食塩水100mlに併用薬剤と混和し、スターラーにて攪拌しつつ、該当血管へ注入、十分な異常血管密度の低下が確認される量を注入した。
【0057】
治療前の症状の改善度を治療後3週間以上経て評価した。症状の悪化がみられたものを0、変化のないもの1、症状の改善が見られ日常生活が楽になったものを2、ほぼ満足できるものを3と段階的評価をしたところ、14例中11例で2以上の評価、すなわち症状の改善がみられた(下表参照)。また、局所免疫チェックポイント阻害治療によると考えられる副作用は、一過性の発熱などの軽微なものも含め全例で認められなかった。
【0058】
【表6】
表中、「imp/cs」はイミペネム/シラスタチンナトリウム、「bort」はボルテゾミブ、「bv」はアバスチン(ベバシズマブ)、「maxa」はマキサカルシトール、「eta」はエタネルセプト、「reco」はトロンボモジュリンをそれぞれ表す。
【0059】
Case 7および8の症例について、病変部の微小血管の様子をそれぞれ図5および6に示す。Case 7では、両側(左右)第12胸椎肋間動脈および左右第1腰動脈の計4本に対し、合計量として上表に記載の量の薬剤を投与した。Case 8では、外下膝状動脈、上正中膝動脈、下行膝動脈(内上側)上内・外膝状動脈、前脛骨反回動脈および8本の膝関節栄養動脈に対し、合計量として上表に記載の量の薬剤を投与した。いずれの図も治療後の写真は薬剤投与後2分の時点でのものであるが、わずか2分後に、いずれの症例においても、微小血管の異常血管密度に顕著な低下が確認された。
【0060】
考察
1~2mg/bodyという極少量の免疫チェックポイント阻害剤(ペンブロリズマブ)の生理食塩水希釈1~2%溶液による痛みの部位への選択的動注により、慢性の痛みの解除が可能であり、かかる処置は、副作用なく安全にかつ経済的な治療となることが示された。
長引く痛みの部位における血管新生の継続が、免疫チェックポイント阻害剤治療により明らかに改善されることから、長引く痛みにともなう血管新生状態そのものも、免疫寛容となって難治となった状況であることが示唆され、局所でのCD8Tリンパ球の関与が示唆される。痛みの根本的治療としての局所免疫チェックポイント阻害治療(RCBT)が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により、免疫チェックポイント阻害剤が、腫瘍血管への投与により明らかな腫瘍血行動態の変化をもたらし、それにより従来の投与方法により期待されるよりも顕著に高い治療効果をもたらすことが示された。また免疫チェックポイント阻害剤を、腫瘍血管を含む微小血管の血流低減剤として用いることにより、従来の血管内治療と比較すると長い治療間隔で処置することができることも分かったことにより、進行したがん患者に対するQOLの改善に大きく貢献できる。さらに本発明の投与においては局所投与を主とするため、従来の投与方法と比較して少量で奏功するため、高価な免疫チェックポイント阻害剤を用いた場合の経済的負担も軽減できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6