(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】セメントの品質評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20221222BHJP
C04B 7/02 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
G01N33/38
C04B7/02
(21)【出願番号】P 2019049924
(22)【出願日】2019-03-18
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前堀 伸平
(72)【発明者】
【氏名】早川 隆之
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋二
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-002530(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074580(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0174825(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
C04B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験セメントと水を混練して水セメント比が80%以上であるセメントミルクを調製し、
次いでセメントミルク5L以上を、5~40rpmで5~20分間撹拌し、撹拌を停止した後のセメントミルク液面の未燃カーボンの浮き状態を観察する、セメントの品質評価方法。
【請求項2】
セメントがポルトランドセメントである、請求項
1記載のセメントの品質評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントの品質評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フライアッシュは、モルタルやコンクリートの混和材として用いられており、例えば、セメントにフライアッシュを混合すると、ポゾラン反応が長期間継続するため、コンクリートの耐久性を高めることができる等の利点を有する。しかしながら、フライアッシュをセメントの混和材として使用すると、フライアッシュ中の未燃カーボンがAE減水剤等の有機系混和剤を多量に吸着し、コンクリート等に必要な品質を確保するために有機系混和剤の使用量が増え、コンクリート等の製造コストが増加する。更に、未燃カーボンがコンクリート表面に浮き出て、黒い帯状及び/又は斑状の色ムラや黒ずみを生じ、硬化体の美観が損なわれるという問題がある。
【0003】
従来、フライアッシュ中の未燃カーボンの含有率の低減や硬化体表面の黒ずみを抑制する技術が検討されてきた。例えば、フライアッシュを所定条件下にて脱炭処理することで、未燃カーボンを目標値まで低減できることが報告されている(特許文献1)。また、フライアッシュを配合したセメントに、ポリオキシアルキレン誘導体を添加することで、硬化体表面への未燃カーボンの浮き出しを抑制し、黒ずみを防止できるとの報告もある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5562057号明細書
【文献】特開2017-178706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、未燃カーボンはフライアッシュのみならず、セメント中の石膏や石灰石等にも含まれており、使用するセメントの種類によっては未燃カーボンが表面へ浮き出て黒い色むらや黒ずみを生じ、建設現場の要求に合致しない等の問題を生ずることがある。
本発明の課題は、セメントの品質を簡便に評価する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、コンクリートを実際に製造しなくとも、セメントミルクを調製し、そのセメントミルク液面の未燃カーボンの浮き状態を観察するだけで、セメントの品質を精度よく評価できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔3〕を提供するものである。
〔1〕被験セメントと水を混練して水セメント比が80%以上であるセメントミルクを調製し、セメントミルク液面の未燃カーボンの浮き状態を観察する、セメントの品質評価方法。
〔2〕セメントミルク5L以上を、5~40rpmで5~20分間撹拌し、撹拌を停止した後のセメントミルク液面の未燃カーボンの浮き状態を観察する、前記〔1〕記載のセメントの品質評価方法。
〔3〕セメントがポルトランドセメントである、前記〔1〕又は〔2〕記載のセメントの品質評価方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、比較的手間のかからないセメントミルクを製造するだけで、セメントの品質を精度よく評価することができる。したがって、容易に建設現場の要求に合致したセメントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例3の試験3-2のセメントミルクを観察したときの液面状態を示す写真である。
【
図2】実施例3の試験3-4のセメントミルクを観察したときの液面状態を示す写真である。
【
図3】実施例3の試験3-5のセメントミルクを観察したときの液面状態を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のセメントの品質評価方法は、被験セメントと水を混練して水セメント比が80%以上であるセメントミルクを調製し、セメントミルク液面の未燃カーボンの浮き状態を観察することを特徴とする。
【0011】
(被験セメント)
被験セメントとしては特に限定されないが、例えば、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低アルカリ形ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の混合セメント、エコセメント、アルミナセメント、超速度セメント等の特殊セメントが挙げられ、1種又は2種以上使用することができる。中でも、本発明の効果を享受しやすい点で、ポルトランドセメントが好ましく、普通ポルトランドセメントが更に好ましい。
【0012】
本発明において、未燃カーボンは被験セメントに由来するものでも、被験セメントの配合成分に由来するものでもよい。
配合成分としては、例えば、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、石膏粉末、石灰石粉末等を挙げることができる。
フライアッシュとしては、例えば、「JIS A 6201(コンクリート用フライアッシュ)」に規定されるI種、II種、III種及びIV種を挙げることができる。
高炉スラグとしては、例えば、「JIS A 6206(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」で規定されるものが挙げられ、具体的には、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグを用いることができる。
石膏としては、例えば、二水石膏、半水石膏、無水石膏又はこれらの混合物が挙げられ、排煙脱硫やフッ酸製造工程等で副産される石膏や、天然に産出される石膏を用いることもできる。
石灰石としては、例えば、天然に産出される石灰石が挙げられる。
これら配合成分は、セメント100質量部に対して、通常20質量部以下であり、好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0013】
(セメントミルク)
セメントミルクは、被験セメントと水を混練して調製される。
水としては特に限定されないが、例えば、JIS A 5303付属書Cに規定される上水道水、該上水道水以外の水(例えば、河川水、湖沼水、井戸水、地下水、工業用水)等が挙げられる。
水セメント比は、80%以上であるが、精度よく品質を評価する観点から、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上が更に好ましい。水セメント比の上限値は特に限定されないが、200%以下が好ましく、150%以下がより好ましく、120%以下が更に好ましい。
混練方法としては被験セメントと水とを均一に混合できれば特に限定されないが、通常ミキサを使用して撹拌する。ミキサとしては、例えば、グラウトミキサ、パン型ミキサ、二軸練りミキサ、ハンドミキサ等を使用することができる。なお、撹拌速度及び撹拌時間は、被験セメントと水を均一に混合できれば、ミキサの種類に応じて適宜選択することができる。
【0014】
(評価)
セメントの品質評価は、セメントミルク液面を目視で観察し、未燃カーボンの浮き状態に基づいて判定する。セメントミルクが高速撹拌された状態であると、液面の未燃カーボンの浮きを目視で判別することが難しい。そのため、本発明においては、未燃カーボンの浮きを目視で判別しやすい条件を採用する。例えば、セメントミルクをゆるやかに一定時間撹拌することが挙げられる。
【0015】
撹拌速度は、未燃カーボンの浮きの判別の容易さから、好ましくは5rpm以上、より好ましくは7rpm以上、更に好ましくは9rpm以上であって、好ましくは40prm以下、より好ましくは30prm以下、更に好ましくは20rpmである。撹拌速度の範囲としては、好ましくは5~40rpm、より好ましくは7~30rpm、更に好ましくは9~20rpmである.
撹拌時間は、未燃カーボンの浮きの判別の容易さから、好ましくは5分以上、より好ましくは7分以上、更に好ましくは9分以上であって、好ましくは20分以下、より好ましくは18分以下、更に好ましくは15分以下である。撹拌時間の範囲としては、好ましくは5~20分、より好ましくは7~18分、更に好ましくは9~15分である。
【0016】
セメントミルクの使用量は、未燃カーボンの浮きの判別の容易さから、5L以上が好ましく、10L以上が好ましく、20L以上が更に好ましい。また、作業効率の観点から、100L以下が好ましく、70L以下が更に好ましい。
【0017】
セメントミルクの撹拌には、ミキサを使用することができるが、具体例としては前述と同様のものを挙げることができる。
撹拌翼の形状は適宜選択することができるが、均一撹拌の観点から、ブレード状の撹拌翼が好ましく使用される。また、容器内径に対する撹拌翼径は、均一撹拌の観点から、好ましくは60~95%、より好ましくは70~90%、更に好ましくは80~90%である。撹拌翼の枚数は適宜選択可能であるが、未燃カーボンの浮きの判別の容易さから、1枚羽根が好ましく、複数羽根から羽根を取り外し1枚羽根としても構わない。
【0018】
セメントミルクを所定条件にて撹拌した後、撹拌を停止する。そして、セメントミルクの液面の未燃カーボンの浮き状態を目視で観察する。先ず、セメントミルクの液面の未燃カーボンの有無を目視で評価する。次に、未燃カーボンがある場合には、それが少量の斑状の浮きなのか、あるいは帯状又は斑状の浮きなのかを評価する。なお、セメントの品質評価は、精度を高めるために、3回以上行うことが好ましい。
【0019】
セメントミルク液面の未燃カーボンの浮き状態から、被験セメントを次のように評価することができる。
使用しようとするフライアッシュなどの混和材や、セメント製造時に添加する石膏あるいは石灰石などの混合材を事前に予定された割合で添加し、被験セメントを準備する。そして本評価法において、セメントミルク液面に未燃カーボンの浮きがない場合には、被験セメントを使用しても表面に黒い色ムラや黒ずみを生ずることがないと判断することができ、これを材料として選択する。
また、セメントミルク液面に斑状の未燃カーボンの浮きが若干存在する場合には、被験セメントを使用すると使用条件によっては表面に黒い色ムラを生ずる可能性があると判断することができる。
更に、セメントミルク液面に帯状又は斑状の未燃カーボンの浮きが存在する場合には、被験セメントを使用すると表面に黒ずみを生ずる可能性が高いと判断することができ、表面の黒ずみを避けたい場合は材料として使用することを見合わせることとなる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0021】
本実施例で使用したセメント材料を表1に示す。また、セメント材料1の物性、及びセメント材料2~5中のフライアッシュA~Dの物性を表2に示す。
【0022】
【0023】
実施例1
表1に示すセメント材料4を円筒形の容器に投入し、これに水を加え、1000rpmのハンドミキサを用いて2分間練り混ぜ、水セメント比が60%、80%又は100%であるセメントミルクを30L調製した。次いで、セメントミルク30Lを、一枚羽根を装着したパン形ミキサを用いて、12rpmで10分間撹拌した後、撹拌を停止した。そして、セメントミルクの液面を目視で観察し、未燃カーボンの浮きを判別できるか否かを下記の基準により評価した。その結果を表3に示す。
【0024】
評価基準1
〇:セメントミルク液面の未燃カーボンの浮きを目視で容易に判別できる
△:セメントミルク液面の未燃カーボンの浮きを目視で判別できる
×:セメントミルク液面の未燃カーボンの浮きを目視でやや判別しにくい
【0025】
【0026】
実施例2
表1に示すセメント材料4を円筒形の容器に投入し、これに水を加え、1000rpmのハンドミキサを用いて2分間練り混ぜ、水セメント比が100%であるセメントミルクを30L調製した。次いで、セメントミルク30Lを、一枚羽根を装着したパン形ミキサを用いて、12rpm、18rpm、30rpm、38rpm又は46rpmで10分間撹拌した後、撹拌を停止した。そして、セメントミルクの液面を目視で観察し、未燃カーボンの浮きを判別できるか否かを上記の評価基準1にしたがって評価した。その結果を表4に示す。
【0027】
【0028】
表3、4から、水セメント比が80%以上であるセメントミルクを調製し、それをゆっくりと撹拌した後、撹拌を停止することで、セメントミルク液面の未燃カーボンの浮き状態を目視で容易に観察できることがわかる。
【0029】
実施例3
表1に示すセメント材料1~5をそれぞれ円筒形の容器に投入し、これに水を加え、1000rpmのハンドミキサを用いて2分間練り混ぜ、水セメント比が100%であるセメントミルク30Lを同時に2箇所で調製した。次いで、調製したセメントミルク60Lを、一枚羽根を装着したパン形ミキサを用いて、12rpmで10分間撹拌した後、撹拌を停止した。そして、セメントミルクの液面を目視で観察し、未燃カーボンの浮き状態を下記の基準により評価した。その結果を表5に示す。なお、試験3-2のセメントミルクを観察したときの液面状態を
図1に示し、試験3-4のセメントミルクを観察したときの液面状態を
図2に示し、試験3-5のセメントミルクを観察したときの液面状態を
図3に示す。
【0030】
評価基準2
〇:セメントミルク液面に未燃カーボンの浮きがない
△:セメントミルク液面に斑状の未燃カーボンの浮きが若干見られる
×:セメントミルク液面に帯状及び/又は斑状の未燃カーボンの浮きが見られる
【0031】
【0032】
試験3-2のセメントミルクは、
図1に示すように、液面に未燃カーボンの浮きが見られないが、試験3-4のセメントミルクは、
図2に示すように、液面に斑状の未燃カーボンの浮きが見られ、試験3-5のセメントミルクは、
図3に示すように、液面に帯状の未燃カーボンの浮きが見られた。
図1~3及び表5から、水セメント比が80%以上であるセメントミルクを調製し、セメントミルク液面の未燃カーボンの浮き状態を観察することで、セメントの品質を簡便にかつ精度よく評価できることがわかる。