(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】硬質装飾部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/16 20060101AFI20221222BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20221222BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20221222BHJP
A44C 27/00 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
C23C14/16 C
C23C14/06 N
C23C14/06 H
C23C14/14 D
A44C27/00
(21)【出願番号】P 2019103686
(22)【出願日】2019-06-03
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2018111104
(32)【優先日】2018-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 陸人
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/108181(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170324(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/038151(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/16
C23C 14/06
C23C 14/14
A44C 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又は母材表面にチタンを形成した基材上に乾式メッキ法によって成膜された金合金層を有する硬質装飾部材であって、
前記基材上に形成された
炭窒化チタンで構成される下地層と、
前記下地層上に形成された
炭窒化チタンと金、銅及びパラジウムとを含む密着層と、
前記密着層上に形成された金、銅及びパラジウムを含む金合金層と、を備え、
前記金合金層は、金が70.3~75.2重量%、銅が20.7~25.6重量%、パラジウムが3.7~4.3重量%の量を含有して
おり、
前記下地層は、ビッカース硬度が2100以上2400以下である
ことを特徴とする硬質装飾部材。
【請求項2】
チタン又は母材表面にチタンを形成した基材上に乾式メッキ法によって成膜された金合金層を有する硬質装飾部材であって、
前記基材上に形成された炭窒化チタンで構成される下地層と、
前記下地層上に形成された炭窒化チタンと金、銅及びパラジウムとを含む密着層と、
前記密着層上に形成された金、銅及びパラジウムを含む金合金層と、を備え、
前記金合金層は、金が70.3~75.2重量%、銅が20.7~25.6重量%、パラジウムが3.7~4.3重量%の量を含有しており、
前記下地層は、チタンが65.3~69.5重量%、炭素が4.9~5.9重量%、窒素が25.6~29.9重量%の量を含有している
こと特徴とする硬質装飾部材。
【請求項3】
チタン又は母材表面にチタンを形成した基材上に乾式メッキ法によって成膜された金合金層を有する硬質装飾部材であって、
前記基材上に形成された炭窒化チタンで構成される下地層と、
前記下地層上に形成された炭窒化チタンと金、銅及びパラジウムとを含む密着層と、
前記密着層上に形成された金、銅及びパラジウムを含む金合金層と、を備え、
前記金合金層は、金が70.3~75.2重量%、銅が20.7~25.6重量%、パラジウムが3.7~4.3重量%の量を含有しており、
前記下地層は、L*a*b*表色系による色評価が70.6≦L*≦73.0、5.0≦a*≦7.1、11.7≦b*≦15.2の範囲である
ことを特徴とする硬質装飾部材。
【請求項4】
前記金合金層は、前記下地層、前記密着層及び前記金合金層で構成された層構造におけるビッカース硬度が700以上、800以下である
ことを特徴とする請求項1
~3のいずれか1つに記載の硬質装飾部材。
【請求項5】
前記金合金層は、L*a*b*表色系による色評価が84.6≦L*≦85.4、5.9≦a*≦6.1、10.3≦b*≦10.6の範囲である
ことを特徴とする請求項1
~4のいずれか1つに記載の硬質装飾部材。
【請求項6】
チタン又は母材表面にチタンを形成した基材上に
炭窒化チタンの下地層を形成する下地層形成工程と、
前記下地層上に
炭窒化チタンと金、銅及びパラジウムとを含む密着層を形成する密着層形成工程と、
前記密着層上に金、銅及びパラジウムを含み、金が70.3~75.2重量%、銅が20.7~25.6重量%、パラジウムが3.7~4.3重量%の量を含有している金合金層を形成する金合金層形成工程と、を有
し、
前記下地層形成工程は、チタンが65.3~69.5重量%、炭素が4.9~5.9重量%、窒素が25.6~29.9重量%の量を含有している前記下地層を形成する
ことを特徴とする硬質装飾部材の製造方法。
【請求項7】
前記下地層形成工程は、アルゴンガス、窒素ガス及びメタンガスを真空装置のチャンバ内へ導入し、前記基材にカソード電圧を印加した状態で、チタンを蒸発させる
ことを特徴とする請求項
6に記載の硬質装飾部材の製造方法。
【請求項8】
前記密着層形成工程は、アルゴンガス、窒素ガス及びメタンガスを真空装置のチャンバ内へ導入し、前記基材にカソード電圧を印加した状態で、チタンと金、銅及びパラジウムを含む金合金とを蒸発させる
ことを特徴とする請求項
6又は7に記載の硬質装飾部材の製造方法。
【請求項9】
前記金合金層形成工程は、アルゴンガスを真空装置のチャンバ内へ導入し、前記基材にカソード電圧を印加した状態で、金、銅及びパラジウムを含む金合金を蒸発させる
ことを特徴とする請求項
6~8のいずれか1つに記載の硬質装飾部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に乾式メッキ法によって成膜された金合金層を有する硬質装飾部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時計ケース、時計バンド等の時計外装部品やメガネフレーム、指輪、ネックレス等の装飾品には様々な色調の金色を呈し、金属感のある高い装飾性が要求される。チタン、ステンレスなどの基材上に種々の装飾被膜を形成して装飾部材を製造し、上記要求に応える試みがされている。その中でもピンク色系の金色の需要は高く、耐摩耗性やコスト等の観点から乾式メッキ法によって金合金層を形成したものが用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された金合金被膜皮膜積層体及び金合金被膜部材は、乾式メッキ法により、基材上に下地メッキ層を形成し、下地メッキ層上に金合金被膜を形成しており、ピンク色の外観であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2008/108181号パンフレット(第2頁、
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ピンク色の中でも、薄く淡いピンク色、特にさくらの花のようなピンク色を有する装飾部材が求められるようになったが、このようなピンク色は、特許文献1に記載された装飾部材では表現できない。また、金合金被膜と下地メッキ層との色の違いにより、金合金被膜が傷等により局部的に欠損した際に、美的外観を保てない。
【0006】
本発明の目的は、淡いピンク色系の金色の外観を有し、長期間使用しても美的外観を維持できる硬質装飾部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の硬質装飾部材は、チタン又は母材表面にチタンを形成した基材上に乾式メッキ法によって成膜された金合金層を有する硬質装飾部材であって、基材上に形成された炭窒化チタンで構成される下地層と、下地層上に形成された炭窒化チタンと金、銅及びパラジウムとを含む密着層と、密着層上に形成された金、銅及びパラジウムを含む金合金層と、を備え、金合金層は、金が70.3~75.2重量%、銅が20.7~25.6重量%、パラジウムが3.7~4.3重量%の量を含有しており、金合金層は、下地層、密着層及び金合金層で構成された層構造におけるビッカース硬度が700以上、800以下であることを特徴とする。
【0009】
金合金層は、L*a*b*表色系(「L*a*b*表色系」は、CIE表色系に基づくものである。以下同じ。)による色評価が84.6≦L*≦85.4、5.9≦a*≦6.1、10.3≦b*≦10.6の範囲であることを特徴とする。
【0010】
下地層は、ビッカース硬度が2100以上2400以下であることを特徴とする。
【0011】
下地層は、チタンを65.3~69.5重量%、炭素を4.9~5.9重量%、窒素を25.6~29.9重量%の量を含有していることを特徴とする。
【0012】
下地層は、L*a*b*表色系による色評価が70.6≦L*≦73.0、5.0≦a*≦7.1、11.7≦b*≦15.2の範囲であることを特徴とする。
【0013】
本発明の硬質装飾部材の製造方法は、チタン又は母材表面にチタンを形成した基材上に炭窒化チタンの下地層を形成する下地層形成工程と、下地層上に炭窒化チタンと金、銅及びパラジウムとを含む密着層を形成する密着層形成工程と、密着層上に金、銅及びパラジウムを含み、金が70.3~75.2重量%、銅が20.7~25.6重量%、パラジウムが3.7~4.3重量%の量を含有している金合金層を形成する金合金層形成工程と、を有し、下地層形成工程は、チタンが65.3~69.5重量%、炭素が4.9~5.9重量%、窒素が25.6~29.9重量%の量を含有している下地層を形成することを特徴とする。
【0015】
下地層形成工程は、アルゴンガス、窒素ガス及びメタンガスを真空装置のチャンバ内へ導入し、基材にカソード電圧を印加した状態で、チタンを蒸発させることを特徴とする。
【0016】
密着層形成工程は、アルゴンガス、窒素ガス及びメタンガスを真空装置のチャンバ内へ導入し、基材にカソード電圧を印加した状態で、チタンと金、銅及びパラジウムを含む金合金とを蒸発させることを特徴とする。
【0017】
金合金層形成工程は、アルゴンガスを真空装置のチャンバ内へ導入し、基材にカソード電圧を印加した状態で、金、銅及びパラジウムを含む金合金を蒸発させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明における硬質装飾部材は、チタン又は母材表面にチタンを形成した基材上に乾式メッキ法によって成膜された金合金層を有する硬質装飾部材であって、基材上に形成された炭窒化チタンで構成される下地層と、下地層上に形成された炭窒化チタン及び金、銅、パラジウムを含む密着層と、密着層上に形成された金、銅、パラジウムを含む金合金層とを備えた構造とすることにより、淡いピンク色の外観を得られるとともに、優れた耐傷性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態における硬質装飾部材を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態における硬質装飾部材を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施形態における製造方法を示す工程図である。
【
図4】本発明の実施形態における製造方法を示す工程図である。
【
図5】本発明の実施形態における硬質装飾部材の特性を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の思想を具体化するための硬質装飾部材を例示するものであって、本発明を以下の構成に限定しない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。以下の説明において、同一部品、同一構成要素には同一の名称、符号を付し詳細説明を適宜省略することがある。
【0021】
図1及び
図5を用いて本発明の実施形態における硬質装飾部材の構成について説明する。
図1は、本発明の硬質装飾部材の構造を示す断面図であり、
図5は、本発明を適用した実施例1~6と、比較例1~2の評価結果を示す表である。
【0022】
本発明における硬質装飾部材10は、
図1に示すようにチタン又は母材表面にチタンを形成した基材上に乾式メッキ法によって成膜された金合金層を有する硬質装飾部材であって、基材1上に形成された
炭窒化チタンで構成される下地層2と、下地層2上に形成された
炭窒化チタン及び金、銅、パラジウムを含む密着層3と、密着層3上に形成された金、銅、パラジウムを含む金合金層4とを有する構造となっている。
【0023】
さらに、下地層2は、L*a*b*表色系による色評価が70.6≦L*≦73.0、5.0≦a*≦7.1、11.7≦b*≦15.2の範囲であり、かつ淡いピンク色の外観を有し、金合金層4は、L*a*b*表色系による色評価が84.6≦L*≦85.4、5.9≦a*≦6.1、10.3≦b*≦10.6の範囲であり、かつ淡いピンク色の外観を有することを特徴としている。
【0024】
下地層2及び金合金層4の色調は、KONICA MINOLTA製のCM-2600
dを使用し、測定ソフトウェアとしてSpectra Magic NX、光源としてCIE標準光源D65を用いてL*a*b*色度図によるL*a*b*を測定して評価した結果である。
【0025】
[基材]
基材1は、金属、セラミックスから形成される。金属として、具体的にはステンレス鋼、チタン、チタン合金、銅、銅合金、タングステンまたは硬質化処理したステンレス鋼、チタン、チタン合金などが挙げられる。これらの金属は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。また、上記基材1の形状については限定されない。
【0026】
また、チタン以外の材料を基材1として用いる場合は、
図2に示すように、母材5の表面に基材密着層6を形成したものを基材1として用いることができ、様々な材質の母材5を用いることができる。基材密着層6としては、チタンを母材5の表面に形成する。
例えば安価なステンレス鋼を母材5として用い、その表面にチタンを基材密着層6として形成する。
【0027】
基材密着層6は、イオンプレーティング法によりチタンを0.05μm程度の厚みで母材5の表面に形成する。
【0028】
[下地層]
下地層2は、チタンの炭窒化物層であり、チタンが65.3~69.5重量%、炭素が4.9~5.9重量%、窒素が25.6~29.9重量%の量を含有している場合には、金合金層4の色調に近い、薄く淡いピンク色の下地層2を形成することができる。また、実施例1~6に示すように、チタンが67.3~69.0重量%、炭素が4.9~5.3重量%、窒素が25.9~27.6重量%の量を含有している場合には、より金合金層4の色調に近い、薄く淡いピンク色の下地層2を形成することができる。本発明の硬質装飾部材では、下地層2上の密着層3や金合金層4がたとえ剥がれたとしても、下地層2が金
合金層4に近い淡いピンク色であるため違和感がほとんどない外観となる。
【0029】
上記組成の下地層2は、ビッカース硬度が2100以上、2400以下であり、淡いピンク色の外観を有しながら耐傷性及び耐摩耗性などの耐久性に優れたものとなっている。基材1よりも十分に硬い下地層2があると耐傷性が向上し、密着層3や金合金層4が剥が
れにくくなる。
【0030】
下地層2のビッカース硬度は、微小押込み硬さ試験機としてFISCHER製HM2000XYpを用いて行った。測定子にはビッカース圧子を使用し、5mN荷重で10秒間保持した後に除荷を行い、挿入されたビッカース圧子の深さから硬度を算出した。
【0031】
下地層2は、約0.3μm程度の厚みで形成することが好ましい。約0.2μm以下の膜厚であると基材1または基材密着層6の影響を受けてしまい、色調が変わってしまうが、約0.3μm以上であれば基材1または基材密着層6が何色でも下地層2の色が変化することはない。
【0032】
図5に本発明を適用して作成した実施例1~6のサンプルと、製造方法の条件を変えて下地層2の色調を変化させて作成した比較例1~2のサンプルの下地層2と金合金層4の色評価及び、組成、硬度、金合金層4が一部欠損した場合の外観観察の結果を示す。合否判定は、金合金層4に欠損部分があった場合の、欠損部分の下地層2又は密着層3の色と金合金層4の色との差が目視で認識できず外観上問題ないものを「〇」で示し、欠損部分の下地層2又は密着層3の色と金合金層4の色との差が目視で認識できるものを「×」で示している。
【0033】
下地層2の色調は、下地層2上の密着層3や金合金層4が、傷等により一部欠損や剥がれが発生した場合でも、外観の変化を少なくするため、金合金層4の色調に近くする方が好ましい。
図5に示すように、実施例1~6及び比較例1~2で作成したサンプルの金合金層4の一部を欠損させて外観を観察した結果、比較例1~2では、下地層2と金合金層4との色差が大きく、欠損部分の色が変わって見えることで欠損部分が目立ってしまうが、実施例1~6では、下地層2と金合金層4の色差が小さく、違和感が少なくなり欠損部分の判別が付かなくなるため、下地層2の色調は、L*a*b*表色系による色評価が70.6≦L*≦73.0、5.0≦a*≦7.1、11.7≦b*≦15.2の範囲とすることが好ましい。
【0034】
[密着層]
密着層3は、下地層2(炭窒化チタン)と金合金層4(金、銅及びパラジウム)の混合物であり、下地層2と金合金層4の間に設けることで、異種材料である下地層2(炭窒化チタン)と金合金層4(金、銅及びパラジウムを含む合金)との密着性を向上させることができる。これにより金合金層4の剥離を防ぐことができ、耐傷性、耐摩耗性などの機能品質を向上させることができる。
【0035】
密着層3は、約0.05μmの厚みで形成することが好ましい。約0.05μm程度の膜厚であれば密着性向上の効果が確保でき、膜厚が過度に厚いと貴金属の使用量が増加し、コストが上がってしまうため、望ましくない。
【0036】
[金合金層]
金合金層4は、金合金(金、銅及びパラジウム)で構成され、その色調は、淡いピンク色系の金色を呈することが好ましく、
図5の実施例1~6及び比較例1~2の金合金層4を観察した結果、全てのサンプルでさくらの花のようなピンク色の美しい外観を得られたため、L*a*b*表色系による色評価が84.6≦L*≦85.4、5.9≦a*≦6.1、10.3≦b*≦10.6の範囲であることがさらに好ましい。
【0037】
また、金合金層4の組成は、上記の淡いピンク色系の金色を得るために、金を70.3~75.8重量%、銅を20.0~25.6重量%、パラジウムを3.7~4.4重量%の量を含有されており、好ましくは、金を70.3~75.2重量%、銅を20.7~2
5.6重量%、パラジウムを3.7~4.3重量%の量を含有されている。この範囲の組成とした
図5の実施例1~6では、下地層2、密着層3及び金合金層4で構成された層構造におけるビッカース硬度で700以上、800以下の範囲の硬度とすることができ、耐傷性、耐摩耗性に優れた硬質な装飾部材でありながら、淡いピンク色系の金色の外観を得ることができる。
【0038】
下地層2、密着層3及び金合金層4で構成された層構造におけるビッカース硬度は、微小押込み硬さ試験機としてFISCHER製HM2000XYpを用いて行った。測定子にはビッカース圧子を使用し、5mN荷重で10秒間保持した後に除荷を行い、挿入されたビッカース圧子の深さから硬度を算出した。
【0039】
金合金層4の厚みは、厚すぎると貴金属の使用量が増加し、コストが上がってしまうため、約0.1μm程度の厚みで形成することが好ましい。約0.1μmの膜厚であれば、基材1の全面に一様の色調で金合金層4を得ることができる。
【0040】
以上の説明の通り、本発明の硬質装飾部材は、基材1上に形成された炭窒化チタンで構成される下地層2と、下地層2上に形成された炭窒化チタンと金、銅及びパラジウムとを含む密着層3と、密着層3上に形成された金、銅及びパラジウムを含む金合金層4と、を備え、下地層2は、L*a*b*表色系による色評価が70.6≦L*≦73.0、5.0≦a*≦7.1、11.7≦b*≦15.2の範囲であり、かつ淡いピンク色系の外観を有し、金合金層4は、L*a*b*表色系による色評価が84.6≦L*≦85.4、5.9≦a*≦6.1、10.3≦b*≦10.6の範囲であり、かつ淡いピンク色の外観を有しており、さくらの花のようなピンク色の外観が得られるとともに、金合金層4が局所的に欠損し、下地層2が露出した場合でも金合金層4と下地層2との色差が少なく、外観上の違和感を低減することができる。
【0041】
さらに、本発明の硬質装飾部材は、下地層2のビッカース硬度が2100以上、2400以下の硬度であり、下地層2、密着層3及び金合金層4で構成された層構造におけるビッカース硬度が700以上、800以下の硬度となるため装飾部材として十分な硬度を有しており、耐傷性及び耐摩耗性などの耐久性に優れた硬質装飾部材を得ることができる。
【0042】
[硬質装飾部材の製造方法]
次に、本発明の実施形態における硬質装飾部材の製造方法について、
図3の工程図を用いて説明する。本発明の硬質装飾部材の製造方法は、真空装置のチャンバ内に蒸発材料及び基材1を取り付ける準備工程S1と、下地層2として
炭窒化チタンを形成する下地層形成工程S2と、
炭窒化チタン及び金、銅、パラジウムを含む密着層3を形成する密着層形成工程S3と、金、銅、パラジウムを含む金合金層4を形成する金合金層形成工程S4
とを有している。
【0043】
[準備工程S1]
準備工程S1は、真空装置のチャンバ内へ蒸発材料として、チタンと金合金(金、銅及びパラジウムの合金)をそれぞれ別のルツボ内にセットし、材質がチタン又は母材表面にチタンを形成した基材1をホルダに取り付け、真空装置のチャンバ内を約4.0×10-3Paまで排気する工程である。
【0044】
準備工程S1で3.0×10-3Pa~5.0×10-3Pa程度まで排気することによって、チャンバ内の残留ガスが減少し、下地層形成工程S2及び金合金層形成工程S4での残留ガスによる色調への影響を少なくしている。更に真空度を良くすると残留ガスは更に減少するが、それ以上減圧しても色調への影響はあまり変化が無く、排気時間が伸びてしまう。
【0045】
[下地層形成工程S2]
下地層形成工程S2は、アルゴンガスを約190cc/min、窒素ガスを約100cc/min、メタンガスを約50cc/minの流量で真空装置のチャンバ内へ導入し、基材1にカソード電圧を10V印加した後、ルツボ内にセットされた蒸発材料(チタン)に電子ビームを照射して蒸発させて、真空度を約0.2Paに維持しながら、30分程度イオンプレーティングを行い、基材1上に炭窒化チタンの下地層2を形成する工程である。
【0046】
[密着層形成工程S3]
密着層形成工程S3は、下地層形成工程S2後にアルゴンガスを約190cc/min、窒素ガスを約100cc/min、メタンガスを約50cc/minの流量で真空装置のチャンバ内へ導入及びルツボ内にセットされた蒸発材料(チタン)への電子ビームの照射を維持したまま、蒸発材料(金、銅及びパラジウムを含む金合金)に電子ビームを照射させて約1分間イオンプレーティングを行い、下地層2上に炭窒化チタンと金、銅及びパラジウムを含む金合金とを含んだ密着層3を形成する工程である。
【0047】
[金合金層形成工程S4]
金合金層形成工程S4は、密着層形成工程S3後にルツボ内にセットされた蒸発材料であるチタンへの電子ビームの照射を停止し、窒素ガスとメタンガスの導入を停止し、アルゴンガスを約280cc/minの流量で真空チャンバ内へ導入し、5分間イオンプレーティングを行い、密着層3上に金合金層4を形成する工程である。
【0048】
成膜時の真空度はプラズマの維持を十分に行える0.1~0.5Pa程度の範囲の中で、プラズマ密度と、蒸発材料の蒸発量を安定させるために、下地層形成工程S1、密着層形成工程S2及び、金合金層形成工程S3で真空度を一定にして成膜を行うことが好ましい。
【0049】
下地層形成工程S2及び密着層形成工程S3で、窒素ガスを約100cc/minの流量、メタンガスを約50cc/minの流量で真空チャンバ内に導入することで下地層2の色調を得ることができ、このガス量に対して窒素ガスを増やしていく又はメタンガスを減らしていくと、炭窒化チタンの色調が窒化チタンの黄色系の金色に近づき、逆に窒素ガスを減らしていく又はメタンガスを増やしていくと、炭窒化チタンの色調が炭化チタンの灰色系の金色に近づいてしまう。また、アルゴンガスはプラズマの維持に加えて真空度を一定にするために下地層形成工程S2、密着層形成工程S3及び、金合金層形成工程S4の各工程にそれぞれの流量で真空チャンバ内へ流入している。
【0050】
成膜時のカソード電圧は、10Vより低くなると、イオンプレーティング法から真空蒸着法に近づいてしまい、十分な密着性、耐摩耗性、色調を得られなくなってしまい、30Vより高くすると更に密着性を高めることはできるが、成膜には悪影響な放電が起きる頻度が高くなってしまうため、十分な密着性を確保できる10V~30Vの範囲で設定しておくことが好ましい。
【0051】
[基材密着層形成工程S1’]
また、基材1の材質がチタン以外の場合は、
図4に示す工程図のように、準備工程S1と下地層形成工程S2との間に母材5の表面に基材密着層6を形成する基材密着層形成工程S1’を行うことで、様々な材質の材料を基材1として使用することができる。
【0052】
基材密着層形成工程S1’は、準備工程S1後にアルゴンガスを約280cc/minの流量で真空チャンバ内へ導入し、母材5にカソード電圧として10V印加した状態を維
持しながら、ルツボ内にセットされた蒸発材料(チタン)に電子ビームを照射して蒸発させて、3分間イオンプレーティングを行い、純チタンから構成される基材密着層6を形成する工程である。
【0053】
以上の説明の通り、本発明の硬質装飾部材及びその製造方法は、淡いピンク色系の金色の金合金層を有する時計用外装部品を得ることができる。
【0054】
また、淡いピンク色系の金色を有する金合金層4に合わせて下地層2の組成及び色調を合わせることで、金合金層4に局部的な傷が付いても違和感が少なく目立つことがない。
【0055】
また、下地層2の炭窒化チタンの硬度が高いことによって局部的に傷が付いても基材が露出することがなく、耐傷性、耐磨耗性に優れた硬質装飾部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 基材
2 下地層
3 密着層
4 金合金層
5 基材
6 基材密着層
10 硬質装飾部材