(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびこれから製造された成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 51/04 20060101AFI20221222BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221222BHJP
C08L 25/02 20060101ALI20221222BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20221222BHJP
C08L 77/12 20060101ALI20221222BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
C08L51/04
C08K3/22
C08L25/02
C08L71/02
C08L77/12
C08L77/00
(21)【出願番号】P 2019532007
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(86)【国際出願番号】 KR2017015364
(87)【国際公開番号】W WO2018124657
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-09-01
(31)【優先権主張番号】10-2016-0181359
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0177878
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520087103
【氏名又は名称】ロッテ ケミカル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,チョン ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン キョン
(72)【発明者】
【氏名】ペ,ソン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,チュ ソン
【審査官】蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-035787(JP,A)
【文献】特開平11-080469(JP,A)
【文献】特開昭62-207351(JP,A)
【文献】特開平08-217936(JP,A)
【文献】特開平09-255843(JP,A)
【文献】特開平11-240995(JP,A)
【文献】特開2009-161758(JP,A)
【文献】特開2009-173758(JP,A)
【文献】特開2012-241153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 51/00-51/10
C08L 55/00-55/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム変性ビニル系グラフト共重合体および芳香族ビニル系共重合体樹脂
のみからなる熱可塑性樹脂100重量部;
帯電防止剤10重量部~30重量部;ならびに
酸化亜鉛0.01重量部~2重量部を含み、
前記帯電防止剤はポリエーテルエステルアミドブロック共重合体を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物であって、
前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体および前記芳香族ビニル系共重合体樹脂の合計100重量%のうち、20重量%~50重量%で含まれ、前記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体および前記芳香族ビニル系共重合体樹脂の合計100重量%のうち、50重量%~80重量%で含まれ、
前記酸化亜鉛は、X線回折(X-ray diffraction,XRD)の分析時、ピーク位置(peak position)2θ値が35°~37°の範囲であり、下記数式1による微結晶サイズ(crystallite size)の値が1,000Å~2,000Åであることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物:
【数1】
前記数式1において、Kは形状係数(shape factor)であり、λはX線波長(X-ray wavelength)であり、βはX線回折ピーク(peak)のFWHM値(degree)であり、θはピーク位置の値(peak position degree)である。
【請求項2】
前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物がグラフト重合されたことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体および前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体の重合体であることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸化亜鉛は、平均粒子径が0.2μm~3μmであり、BET比表面積が1m
2/g~10m
2/gであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記酸化亜鉛は、フォトルミネッセンス(Photo Luminescence)の測定時、370nm~390nm領域のピークAと450nm~600nm領域のピークBとの強度比(B/A)が0~1であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法によって、5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌および大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後、測定した抗菌活性値がそれぞれ2~7および2~6.5であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D257に基づいて測定した表面抵抗値が1×10
6Ω・cm~1×10
10Ω・cmであることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D256に基づいて測定した1/4”厚の試験片のノッチアイゾット衝撃強度が15kgf・cm/cm~25kgf・cm/cmであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物から形成されることを特徴とする、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物およびこれから製造された成形品に関するものである。より具体的には、本発明は、抗菌性、帯電防止性、耐衝撃性等に優れた熱可塑性樹脂組成物およびこれから製造された成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂として、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)等のゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂は、機械的物性、加工性、外観特性等に優れるため、電気/電子製品の内/外装材、自動車の内/外装材、建築用外装材等に広く使用されている。
【0003】
これらの樹脂は、医療機器、おもちゃ、食品容器等の物理的な接触が生じる用途に使用される場合、素材自体に、菌を除去したり抑制したりすることができる抗菌性が要求され、静電気の発生を防止する帯電防止性、耐衝撃性等の機械的物性等が要求される。抗菌性熱可塑性樹脂組成物を得るためには、無機または有機抗菌剤が使用され得るが、無機抗菌剤の場合は、熱可塑性樹脂の変色、透明性の低下等の問題があり、有機抗菌剤の場合は、高温加工時に分解、溶出等のおそれがあるため適用が容易ではない。
【0004】
よって、抗菌性だけでなく、帯電防止性、耐衝撃性等に優れた熱可塑性樹脂組成物の開発が必要な実情にある。
【0005】
本発明の背景技術は、特開2005-239904号公報等に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、抗菌性、帯電防止性、衝撃性等に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、前記熱可塑性樹脂組成物から形成された成形品を提供することにある。
【0008】
本発明の上記およびその他の目的は、下記で説明する本発明によって全て達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの観点は、熱可塑性樹脂組成物に関するものである。上記熱可塑性樹脂組成物は、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体および芳香族ビニル系共重合体樹脂を含む熱可塑性樹脂約100重量部;帯電防止剤約10重量部~約30重量部;ならびに酸化亜鉛約0.01重量部~約2重量部を含み、上記帯電防止剤はポリエーテルエステルアミドブロック共重合体、ポリアルキレングリコール、およびポリアミドのうち1種以上を含む。
【0010】
具体例において、上記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物がグラフト重合されたものであり得る。
【0011】
具体例において、上記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体および上記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体の重合体であってもよい。
【0012】
具体例において、上記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、上記熱可塑性樹脂100重量%のうち、約20重量%~約50重量%で含まれ、上記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、上記熱可塑性樹脂100重量%のうち約50重量%~約80重量%で含まれ得る。
【0013】
具体例において、上記酸化亜鉛は、平均粒子径が約0.2μm~約3μmであり、BET比表面積が約1m2/g~約10m2/gであり得る。
【0014】
具体例において、上記酸化亜鉛は、フォトルミネッセンス(Photo Luminescence)の測定時、370nm~390nm領域のピークAと450nm~600nm領域のピークBとの強度比(B/A)が約0~約1であり得る。
【0015】
具体例において、上記酸化亜鉛は、X線回折(X-ray diffraction、XRD)の分析時、ピーク位置(peak position)2θ値が35°~37°の範囲であり、下記数式1による微結晶サイズ(crystallite size)の値が約1,000Å~約2,000Åであり得る:
【0016】
【0017】
上記数式1において、Kは形状係数(shape factor)であり、λはX線波長(X-ray wavelength)であり、βはX線回折ピーク(peak)のFWHM値(degree)であり、θはピーク位置の値(peak position degree)である。
【0018】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法によって、5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌および大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後、測定した抗菌活性値がそれぞれ約2~約7および約2~約6.5であり得る。
【0019】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D257に基づいて測定した表面抵抗値が約1×106Ω・cm~約1×1010Ω・cmであり得る。
【0020】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D256に基づいて測定した1/4”厚の試験片のノッチアイゾット衝撃強度が約15kgf・cm/cm~約25kgf・cm/cmであり得る。
【0021】
本発明の他の観点は、成形品に関するものである。上記成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物から形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、抗菌性、帯電防止性、耐衝撃性等に優れた熱可塑性樹脂組成物およびこれから形成された成形品を提供する発明の効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0024】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、(A1)ゴム変性ビニル系グラフト共重合体および(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂を含む(A)熱可塑性樹脂;(B)帯電防止剤;ならびに(C)酸化亜鉛を含む。
【0025】
(A)熱可塑性樹脂
本発明の熱可塑性樹脂は、(A1)ゴム変性ビニル系グラフト共重合体および(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂を含むゴム変性ビニル系共重合体樹脂であってもよい。
【0026】
(A1)ゴム変性芳香族ビニル系グラフト共重合体
本発明の一具体例にかかるゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物がグラフト重合されたものであってもよい。例えば、上記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物をグラフト重合して得ることができ、必要に応じて、上記単量体混合物に加工性および耐熱性を付与する単量体をさらに含有させてグラフト重合することができる。上記重合は、乳化重合、懸濁重合等の公知の重合方法によって行うことができる。また、上記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、コア(ゴム質重合体)-シェル(単量体混合物の共重合体)構造を形成することができるが、これらに制限されない。
【0027】
具体例において、上記ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ポリ(スチレン-ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン)等のジエン系ゴム、および上記ジエン系ゴムに水素添加した飽和ゴム、イソプレンゴム、炭素数2~10のアルキル(メタ)アクリレートゴム、炭素数2~10のアルキル(メタ)アクリレートおよびスチレンの共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン単量体三元共重合体(EPDM)等を例示することができる。これらは、単独または2種以上混合して適用することができる。例えば、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレートゴム等を使用することができ、具体的には、ブタジエン系ゴム、ブチルアクリレートゴム等を使用することができる。上記ゴム質重合体(ゴム粒子)の平均粒子径(Z-平均)は、約0.05μm~約6μm、例えば約0.15μm~約4μm、具体的には約0.25μm~約3.5μmであり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、外観特性等に優れる。
【0028】
具体例において、上記ゴム質重合体の含有量は、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体全体100重量%のうち、約20重量%~約70重量%、例えば約25重量%~約60重量%であり得、上記単量体混合物(芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む)の含有量は、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体全体100重量%のうち、約30重量%~約80重量%、例えば約40重量%~約75重量%であり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、外観特性等に優れる。
【0029】
具体例において、上記芳香族ビニル系単量体は、上記ゴム質重合体にグラフト共重合できるものであり、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレン等を例示することができる。これらは単独で使用したり、2種以上を混合したりして使用することができる。上記芳香族ビニル系単量体の含有量は、上記単量体混合物100重量%中、約10重量%~約90重量%、例えば約40重量%~約90重量%であり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の加工性、耐衝撃性等に優れる。
【0030】
具体例において、上記シアン化ビニル系単量体は、上記芳香族ビニル系と共重合可能なものであり、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、フマロニトリル等を例示することができる。これらは単独で使用したり、2種以上を混合したりして使用することができる。例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を使用できる。上記シアン化ビニル系単量体の含有量は、上記単量体混合物100重量%中、約10重量%~約90重量%、例えば約10重量%~約60重量%であり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐薬品性、機械的特性等に優れる。
【0031】
具体例において、上記加工性および耐熱性を付与するための単量体としては、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、N-置換マレイミド等が例示できるが、これらに限定されない。上記の加工性および耐熱性を付与するための単量体を使用する際、その含有量は上記単量体混合物100重量%中、約15重量%以下、例えば約0.1重量%~約10重量%であってもよい。上記範囲で、他の物性を損なうことなく、熱可塑性樹脂組成物に加工性および耐熱性を付与することができる。
【0032】
具体例において、上記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体としては、ブタジエン系ゴム質重合体に芳香族ビニル系化合物であるスチレン単量体と、シアン化ビニル系化合物であるアクリロニトリル単量体とがグラフトされた共重合体(g-ABS)、ブチルアクリレート系ゴム質重合体に芳香族ビニル系化合物であるスチレン単量体と、シアン化ビニル系化合物であるアクリロニトリル単量体とがグラフトされた共重合体であるアクリレート-スチレン-アクリロニトリル グラフト共重合体(g-ASA)等を例示することができる。
【0033】
具体例において、上記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、全体の熱可塑性樹脂(ゴム変性ビニル系グラフト共重合体および芳香族ビニル系共重合体樹脂)100重量%のうち、約20重量%~約50重量%、例えば約25重量%~約45重量%で含まれ得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性(成形加工性)、外観特性、これらの物性バランス等に優れる。
【0034】
(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂
本発明の一具体例にかかる芳香族ビニル系共重合体樹脂は、通常のゴム変性ビニル系共重合体樹脂に使用される芳香族ビニル系共重合体樹脂であってもよい。例えば、上記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体および前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体を含む単量体混合物の重合体でもよい。
【0035】
具体例において、上記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体および芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体等を混合した後、これを重合して得ることができ、前記重合は、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の公知の重合方法によって行うことができる。
【0036】
具体例において、前記芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレン等を使用できる。これらは、単独または2種以上を混合して適用することができる。上記芳香族ビニル系単量体の含有量は、芳香族ビニル系共重合体樹脂全体100重量%中、約20重量%~約90重量%、例えば約30重量%~約80重量%であり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性等に優れる。
【0037】
具体例において、上記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体は、シアン化ビニル系単量体およびアルキル(メタ)アクリル系単量体のうち1種以上を含むことができる。例えば、シアン化ビニル系単量体またはシアン化ビニル系単量体およびアルキル(メタ)アクリル系単量体、具体的にはシアン化ビニル系単量体およびアルキル(メタ)アクリル系単量体であってもよい。
【0038】
具体例において、上記シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、フマロニトリル等が例示できるが、これらに制限されない。これらは単独で使用したり、2種以上を混合して使用したりすることができる。例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用することができる。
【0039】
具体例において、前記アルキル(メタ)アクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸および/または炭素数1~10のアルキル(メタ)アクリレート等を例示することができる。これらは単独で使用したり、2種以上を混合して使用したりすることができる。例えば、メチルメタクリレート、メチルアクリレート等が使用できる。
【0040】
具体例において、上記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体が、シアン化ビニル系単量体およびアルキル(メタ)アクリル系単量体の混合物である場合、上記シアン化ビニル系単量体の含有量は、上記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体100重量%のうち、約1重量%~約40重量%、例えば約2重量%~約35重量%であり得、上記アルキル(メタ)アクリル系単量体の含有量は、上記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体100重量%のうち、約60重量%~約99重量%、例えば約65重量%~約98重量%であり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の透明性、耐熱性、加工性等に優れる。
【0041】
具体例において、上記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体の含有量は、芳香族ビニル系共重合体樹脂全体100重量%中、約10重量%~約80重量%、例えば約20重量%~約70重量%であり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性等に優れる。
【0042】
具体例において、上記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、GPC(gel permeation chromatography)で測定した重量平均分子量(Mw)が、約10,000g/mol~約300,000g/mol、例えば約15,000g/mol~約150,000g/molであり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の機械的強度、成形性等に優れる。
【0043】
具体例において、上記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、全体の熱可塑性樹脂100重量%中、約50重量%~約80重量%、例えば約55重量%~約75重量%で含まれ得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性(成形加工性)等に優れる。
【0044】
(B)帯電防止剤
本発明の一具体例にかかる帯電防止剤は、少ない含有量の酸化亜鉛と共に、熱可塑性樹脂組成物(試料)の抗菌性、帯電防止性等を向上させることができるものであり、ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体、ポリアルキレングリコールおよびポリアミド、これらの組合せ等を含むことができる。好ましくは、ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体を含むことができ、商用化されたポリエーテルエステルアミド系共重合体からなる帯電防止剤を使用してもよい。
【0045】
具体例において、上記ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体は、炭素数6以上のアミノカルボン酸、ラクタム、またはジアミン-ジカルボン酸塩;ポリアルキレングリコール;および炭素数4~20のジカルボン酸;を含む反応混合物のブロック共重合体であってもよい。
【0046】
上記炭素数6以上のアミノカルボン酸、ラクタム、またはジアミン-ジカルボン酸の塩としては、ω-アミノカプロン酸、ω-アミノエナント酸、ω-アミノカプリル酸、ω-アミノペルコン酸、ω-アミノカプリン酸、1,1-アミノウンデカン酸、1,2-アミノドデカン酸等のようなアミノカルボン酸類;カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ラウリルラクタム等のようなラクタム類;およびヘキサメチレンジアミン-アジピン酸の塩、ヘキサメチレンジアミン-イソフタル酸の塩等のようなジアミンとジカルボン酸の塩等を例示することができる。例えば、1,2-アミノドデカン酸、カプロラクタム、ヘキサメチレンジアミン-アジピン酸の塩等を使用することができる。
【0047】
上記ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-および1,3-プロピレングリコール)、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとのブロックまたはランダム共重合体、エチレングリコールとテトラヒドロフランとの共重合体等を例示できる。例えば、ポリエチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体等を使用することができる。
【0048】
上記炭素数4~20のジカルボン酸としては、テレフタル酸、1,4-シクロヘキサカルボン酸、セバシン酸、アジピン酸、ドデカノカルボン酸等を例示することができる。
【0049】
具体例において、上記炭素数6以上のアミノカルボン酸、ラクタム、またはジアミン-ジカルボン酸塩;と、上記ポリアルキレングリコール;の結合はエステル結合であってもよく、上記炭素数6以上のアミノカルボン酸、ラクタム、またはジアミン-ジカルボン酸塩;と、上記炭素数4~20のジカルボン酸;の結合はアミド結合であってもよく、上記ポリアルキレングリコール;と、上記炭素数4~20のジカルボン酸;の結合はエステル結合であってもよい。
【0050】
具体例において、上記ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体は、公知の合成方法によって製造することができ、例えば、特公昭56-45419号公報および特公昭55-133424号公報に開示されている合成方法によって製造することができる。
【0051】
具体例において、上記ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体は、ポリエーテル-エステルブロックを約10重量%~約95重量%含んでもよい。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の機械的物性、帯電防止性等に優れる。
【0052】
具体例において、上記帯電防止剤は、上記熱可塑性樹脂約100重量部に対して、約10重量部~約30重量部、例えば約12重量部~約25重量部、具体的には約14重量部~約20重量部で含んでもよい。上記帯電防止剤を、約10重量部未満で使用すると熱可塑性樹脂組成物の抗菌性および帯電防止性が低下するおそれがあり、約30重量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、外観特性等が低下するおそれがある。
【0053】
(C)酸化亜鉛
本発明の酸化亜鉛は、熱安定剤と共に熱可塑性樹脂組成物の抗菌性等を向上させることができるものであり、通常の抗菌組成物に使用される酸化亜鉛を使用することができる。
【0054】
具体例において、上記酸化亜鉛は粒度分析装置で測定した平均粒子径が約0.2μm~約3μm、例えば約0.3μm~約2μmであってもよく、BET比表面積が約1m2/g~約10m2/g、例えば約1m2/g~約7m2/gであってもよく、純度が約99%以上であってもよい。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の抗菌性、耐候性等に優れる。
【0055】
具体例において、前記酸化亜鉛は、フォトルミネッセンス(Photo Luminescence)の測定時、370nm~390nm領域のピークAと450nm~600nm領域のピークBとの強度比(B/A)が約0~約1、例えば約0.01~約0.09、または約0.1~約1であってもよい。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の抗菌性、低臭性または耐候性等に優れる。
【0056】
具体例において、上記酸化亜鉛は、X線回折(X-ray diffraction、XRD)の分析時、ピーク位置(peak position)2θ値が35°~37°の範囲であり、測定されたFWHM値(回折ピーク(peak)のFull width at Half Maximum)を基準にScherrer’s equation(下記数式1)に適用して演算された微結晶サイズ(crystallite size)の値が約1,000Å~約2,000Å、例えば約1,200Å~約1,800Åであり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の初期色相、耐候性、抗菌性等に優れる。
【0057】
【0058】
上記数式1において、Kは形状係数(shape factor)であり、λはX線波長(X-ray wavelength)であり、βはFWHM値(degree)であり、θはピーク位置の値(peak position degree)である。
【0059】
具体例において、上記酸化亜鉛は、金属形態の亜鉛を溶かした後、約850℃~約1,000℃、例えば約900℃~約950℃に加熱して気化させた後、酸素ガスを注入して約20℃~約30℃に冷却し、必要に応じて、反応器に窒素/水素ガスを注入しながら、約700℃~約800℃で約30分~約150分間熱処理を行った後、常温(20℃~30℃)に冷却して製造することができる。
【0060】
具体例において、上記酸化亜鉛は、上記熱可塑性樹脂約100重量部に対して、約0.01重量部~約2重量部、例えば約0.02重量部~約0.5重量部、具体的には約0.03重量部~約0.2重量部で含んでいてもよい。上記酸化亜鉛を約0.01重量部未満で使用すると、熱可塑性樹脂組成物の抗菌性が低下するおそれがあり、約0.2重量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の外観特性(透明性)等が低下するおそれがある。
【0061】
本発明の一具体例にかかる熱可塑性樹脂組成物は、通常の熱可塑性樹脂組成物に含まれる添加剤をさらに含んでもよい。上記添加剤としては、難燃剤、充填剤、酸化防止剤、滴下防止剤、滑剤、離型剤、核剤、帯電防止剤、安定剤、顔料、染料、これらの混合物等を例示できるが、これらに制限されない。上記添加剤を使用する際、その含有量は、熱可塑性樹脂約100重量部に対して、約0.001重量部~約40重量部、例えば約0.1重量部~約10重量部であり得る。
【0062】
本発明の一具体例にかかる熱可塑性樹脂組成物は、上記構成成分を混合し、通常の二軸押出機を用いて、約200℃~約280℃、例えば約220℃~約250℃で溶融押出したペレット形態になり得る。
【0063】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法に基づいて、5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌および大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後、測定した抗菌活性値がそれぞれ約2~約7および約2~約6.5であり得る。
【0064】
具体例において、上記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D257に基づいて測定した表面抵抗値が、約1×106Ω・cm~約1×1010Ω・cm、例えば約1×108Ω・cm~約1×1010Ω・cmであり得る。
【0065】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D256に基づいて測定した1/4”厚の試験片のノッチアイゾット衝撃強度が約15kgf・cm/cm~約25kgf・cm/cm、例えば約18kgf・cm/cm~約23kgf・cm/cmであり得る。
【0066】
本発明にかかる成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物から形成される。上記熱可塑性樹脂組成物はペレットの形態で製造することができ、製造されたペレットは、射出成形、押出成形、真空成形、キャスティング成形等の多様な成形方法を通じて多様な成形品(製品)に製造することができる。このような成形方法は、本発明が属する分野の通常の知識を有する者によってよく知られている。上記成形品は、抗菌性、帯電防止性、耐衝撃性、透明性、流動性(成形加工性)、これらの物性バランス等に優れるため、物理的な接触が多い医療用品の素材、電気/電子製品の内/外装材等に有用である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明するが、このような実施例は、単に説明の目的のためのものであり、本発明を制限するものであると解釈してはならない。
【0068】
実施例
実施例および比較例で用いられた各成分の仕様は次の通りである。
【0069】
(A)熱可塑性樹脂
(A1)ゴム変性芳香族ビニル系グラフト共重合体
45重量%のZ-平均が310nmのブタジエンゴムに、55重量%のスチレンおよびアクリロニトリル(重量比:75/25)がグラフト共重合されたg-ABSを使用した。
【0070】
(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂
(A2-1)スチレン71重量%およびアクリロニトリル29重量%が重合されたSAN樹脂(重量平均分子量:130,000g/mol)を使用した。
【0071】
(A2-2)メチルメタクリレート74重量%、スチレン22重量%、およびアクリロニトリル4重量%が重合されたメチルメタクリレート-スチレン-アクリロニトリル共重合体(MSAN、重量平均分子量:90,000g/mol)を使用した。
【0072】
(B)帯電防止剤
(B1)ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体を含む帯電防止剤(製造社:Sanyo、製品名:PELECTRON AS)を使用した。
【0073】
(B2)BASF社のUltramide 8270HSを使用した。
【0074】
(C)酸化亜鉛
平均粒子径1.2μm、BET表面積5.5m2/g、純度99.9%、フォトルミネッセンス(Photo Luminescence)の測定時、370nm~390nm領域のピークAと450nm~600nm領域のピークBとの強度比(B/A)0.28、および微結晶サイズ(crystallite size)の値1,750Åを有する酸化亜鉛を使用した。
【0075】
(D)酸化チタン(メーカー:Kemira Specialty Corp、製品名:WH-01)を使用した。
【0076】
物性の測定方法
(1)平均粒子径(単位:μm):粒度分析装置(Beckman Coulter社のLaser Diffraction Particle Size Analyzer LS I3 320の機器)を使用して、平均粒子径を測定した。
【0077】
(2)BET表面積(単位:m2/g):窒素ガス吸着法を用いて、BET分析装置(Micromeritics社のSurface Area and Porosity Analyzer ASAP 2020装置)でBET表面積を測定した。
【0078】
(3)純度(単位:%):TGA熱分析法を用いて、800℃の温度で残留する重さをもって純度を測定した。
【0079】
(4)PL強度比(B/A):フォトルミネッセンス(Photo Luminescence)の測定法に従い、室温で325nm波長のHe-Cd laser(KIMMON社、30mW)を試験片に入射して発光するスペクトルをCCD detectorを用いて検出し、このとき、CCD detectorの温度は-70℃を保った。370nm~390nm領域のピークAと450nm~600nm領域のピークBとの強度比(B/A)を測定した。ここで、射出試験片は別途の処理をせずレーザー(laser)を試験片に入射させてPL分析を行い、酸化亜鉛粉末は、6mm径のペレタイザー(pelletizer)に入れ、圧着して平らに試験片を作製した後、測定した。
【0080】
(5)微結晶サイズ(crystallite size、単位:Å):高分解能X線回折分析装置(High Resolution X-Ray Diffractometer、メーカー:X’pert社、装置名:PRO-MRD)を使用し、ピーク位置(peak position)2θ値が35°~37°の範囲であり、測定されたFWHM値(回折ピーク(peak)のFull width at Half Maximum)を基準にScherrer’s equation(下記数式1)に適用して演算した。ここで、粉末形態および射出試験片共に測定が可能であり、より正確な分析のために、射出試験片の場合は、600℃、エアー(air)状態で2時間熱処理して高分子樹脂を除去した後、XRD分析を行った。
【0081】
【0082】
前記数式1において、Kは形状係数(shape factor)であり、λはX線波長(X-ray wavelength)であり、βはFWHM値(degree)であり、θはピーク位置の値(peak position degree)である。
【0083】
実施例1~5および比較例1~6
上記各構成成分を下記表1および2に記載の含有量で添加した後、230℃で押出してペレットを製造した。押出はL/D=36、直径45mmの二軸押出機を使用し、製造されたペレットは80℃で2時間以上乾燥した後、6Ozの射出機(成形温度230℃、金型温度:60℃)で射出して試験片を製造した。製造された試験片に対して下記の方法で物性を評価し、その結果を下記表1および2に示した。
【0084】
物性の測定方法
(1)抗菌活性値:JIS Z 2801抗菌評価法に基づいて、5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌および大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後、測定した。
【0085】
(2)表面抵抗値(単位:Ω・cm):ASTM D257に基づいて、表面抵抗測定装置(メーカー:三菱ケミカル、装置名:Hiresta-UP(MCP-HT450))で測定した。
【0086】
(3)ノッチアイゾット衝撃強度(単位:kgf・cm/cm):ASTM D256に基づいて、1/4”厚の試験片に対してノッチアイゾット衝撃強度を測定した。
【0087】
(4)透明度(haze)(単位:%):ASTM D1003に基づいて、日本電色社のHaze meter NDH 2000装置を用いて、2.5mm厚の試験片に対して透明度(haze)を測定した。
【0088】
【0089】
【0090】
上記の結果から、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、抗菌性、帯電防止性、耐衝撃性等が全て優れることが分かった。
【0091】
一方、帯電防止剤を少量使用した比較例1の場合は、帯電防止性が低下し、測定抵抗値が測定範囲を超えるレベルとなり、抗菌性(ブドウ球菌)も大きく低下することが分かり、帯電防止剤を過剰量使用した比較例2の場合は、耐衝撃性が低下することが分かり、酸化亜鉛を少量使用した比較例3の場合は、抗菌性が大きく低下したことが分かり、酸化亜鉛を過剰量使用した比較例4の場合は、透明性においてほぼ不透明な状態であることが確認できた。また、帯電防止剤(B2)を適用した比較例5の場合は、帯電防止性、抗菌性等が低下したことが分かり、抗菌剤として、酸化チタンを適用した比較例6の場合は、抗菌性が大きく低下したことが分かった。
【0092】
本発明の単純な変形または変更は、本分野の通常の知識を有する者が容易に実施することができ、このような変形や変更は共に本発明の領域に含まれるものと見なすことができる。