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特許7198762固体高分子の電解質を含むアルカリ電池のカソード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】固体高分子の電解質を含むアルカリ電池のカソード
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/02 20060101AFI20221222BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221222BHJP
   H01M 4/06 20060101ALI20221222BHJP
   H01M 4/50 20100101ALI20221222BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20221222BHJP
   H01M 4/08 20060101ALI20221222BHJP
   H01M 10/24 20060101ALI20221222BHJP
   H01M 4/24 20060101ALN20221222BHJP
   H01M 12/06 20060101ALN20221222BHJP
   H01M 4/26 20060101ALN20221222BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/62 C
H01M4/06 E
H01M4/50
H01M4/04 Z
H01M4/08 F
H01M10/24
H01M4/24 Z
H01M12/06 F
H01M4/26 E
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019540534
(86)(22)【出願日】2018-01-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 US2018015146
(87)【国際公開番号】W WO2018140552
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2021-01-12
(31)【優先権主張番号】62/450,715
(32)【優先日】2017-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516164276
【氏名又は名称】イオニツク・マテリアルズ・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジマーマン,マイケル・エイ
(72)【発明者】
【氏名】ガブリーロフ,アレクセイ・ビー
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/196477(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/182884(WO,A1)
【文献】特表2016-540353(JP,A)
【文献】国際公開第2016/196873(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/00-10/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料と固体イオン伝導性高分子材料とを含む電極を含んでなる電池であって、
前記固体イオン伝導性高分子材料は、室温において1×10-6S/cmを超えるイオン伝導率を有し、
前記固体イオン伝導性高分子材料は、基材高分子とイオン化合物の混合物の気体の存在下で加熱された合成反応の反応生成物であり、
前記気体は、酸素、空気およびオゾンからなる群から選択されるドーパントであり、電子受容体または酸化剤として機能し、
前記基材高分子は、ポリフェニレンスルフィドであり、
前記イオン化合物は、無機酸化物、無機塩化物および無機水酸化物からなる群から選択される、
電池。
【請求項2】
前記導電性材料は、前記電極の3ないし30重量パーセントを含む、請求項1の電池。
【請求項3】
前記固体イオン伝導性高分子材料は、前記電極の1ないし30重量パーセントを含む、請求項1の電池。
【請求項4】
前記電極はさらに、前記電極の20ないし80重量パーセントを含む電気化学的活性材料を含む、請求項1の電池。
【請求項5】
前記電極はさらに、酸素還元(oxygen reduction)触媒を含む、請求項1の電池。
【請求項6】
前記電極はさらに、二酸化マンガンを含み、そして前記二酸化マンガンは、β-MnO2(軟マンガン鉱(pyrolusite))、ラムスデライト(ramsdellit
e)、γ-MnO2、ε-MnO2、λ-MnO2、EMD、CMD、およびそれらの組み
合わせ物からなる群から選択される、請求項1の電池。
【請求項7】
前記電池は、AA(LR6)のサイズを有する、請求項1の電池。
【請求項8】
前記電池は、0.8Vの電圧終止(cutoff)を伴う150ないし300mAの間の電流における連続定電流放電において試験される場合に3Ahを超える容量を有する、請求項7の電池。
【請求項9】
前記電池の正極(positive electrode)は400mAhr/g超を提供する、請求項7の電池。
【請求項10】
前記電極はさらに、電気化学的活材料を含み、そして前記固体イオン伝導性高分子材料は前記電気化学的活材料の少なくとも1粒子を内包している(encapsulate)、請求項1の電池。
【請求項11】
前記導電性材料は炭素を含む、請求項1の電池。
【請求項12】
前記イオン化合物は水酸化リチウムである、請求項1の電池。
【請求項13】
前記固体イオン伝導性高分子材料は、室温において1×10-5S/cmを超えるイオン伝導率を有する、請求項1の電池。
【請求項14】
前記固体イオン伝導性高分子材料は、室温において1×10-4S/cmを超えるイオン伝導率を有する、請求項1の電池。
【請求項15】
基材高分子をイオン化合物と混合して、第1の混合物を形成するステップと、
前記第1の混合物を気体中で加熱して、前記第1の混合物を固体イオン伝導性高分子材料に形成するステップと、
前記固体イオン伝導性高分子材料を導電性材料と混合して、水酸化物イオンをイオン伝導し得る電極を製造するステップと:
を含み、
前記固体イオン伝導性高分子材料は、室温において1×10-6S/cmを超えるイオン伝導率を有し、
前記気体は、酸素、空気およびオゾンからなる群から選択されるドーパントであり、電 子受容体または酸化剤として機能し、
前記基材高分子は、ポリフェニレンスルフィドであり、
前記イオン化合物は、無機酸化物、無機塩化物および無機水酸化物からなる群から選択される、
電池のための電極を製造する方法。
【請求項16】
前記加熱するステップにおいて、前記酸素含有気体は陽圧(positive pressure)で供給される、請求項15の方法。
【請求項17】
前記電極を製造するステップにおいて、前記電極はさらに、固体粒状物の電気化学的活材料を含み、そして前記固体イオン伝導性高分子材料と前記導電性材料とは両方とも、前記電気化学的活材料上にコートされる、請求項15の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概括的に、固体イオン伝導性高分子材料を有する電気化学的電池に関し、具体的には、アルカリ電池とその構成要素(component)カソードに関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な一次、亜鉛/二酸化マンガン(「Zn/MnO2」)電池またはアルカリ電池は、安価な材料費および製造コストを使用する、間欠的実地試験を含む種々の試験において、優秀な性能を提供する場合がある。しかし、電池容量、従って有効寿命がセル中に充填される可能性がある、MnO2および亜鉛のような電気化学的活成分の量によって限定される。
【0003】
従って、消費者の用途において改善された実行時間(run time)を伴う、製造するのに安価で容易なアルカリ電池に対する需要がまだ成就されておらず、また、様々な用途を実行する可能性があるアルカリ電池に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0004】
一つの態様によると、固体イオン伝導性高分子材料をはじめとするカソードを含む、空気電極の構成要素(air electrode component)を伴うかまたは伴わない電気化学的アルカリ電池。
【0005】
一つの態様における、高分子化合物とイオン化合物との混合物を空中で加熱するステップによって製造された固体イオン伝導性高分子材料を含む、アルカリ電池。
【0006】
前記アルカリ電池のさらなる態様は以下の通りに記載される:
導電性材料と固体イオン伝導性高分子材料とを含む電極:を含む電池であって、前記高分子材料は、酸素、空気およびオゾンからなる群から選択された気体およびそれらの組み合わせ物中で、高分子化合物とイオン化合物との混合物を加熱するステップにより形成されるか、または前記気体は独立して、酸素、空気またはオゾンである、電池。
【0007】
前記固体イオン伝導性高分子材料のイオン伝導率は、室温において1×10-6S/cm超、好ましくは室温において1×10-5S/cm超、そしてもっとも好ましくは室温において1×10-4S/cm超である、電池。
【0008】
前記導電性材料は前記電極の3ないし30重量パーセントを含む、電池。
【0009】
前記固体イオン伝導性高分子材料は前記電極の1ないし30重量パーセントを含む、電池。
【0010】
前記電極はさらに、前記電極の20ないし80重量パーセントを含む電気化学的活性材料(以下、「電気化学的活材料」ということもある)を含む、電池。
【0011】
前記電極はさらに、酸素還元触媒を含む、電池。
【0012】
前記電極はさらに、二酸化マンガンを含み、そして前記二酸化マンガンは、β-MnO2(軟マンガン鉱(pyrolusite))、ラムスデライト(ramsdellite)、γ-MnO2、ε-MnO2、λ-MnO2、EMD、CMD、およびそれらの組み合わせ物からなる群から選択される、電池。
【0013】
前記電池は、AA(LR6)のサイズを有する、電池。
【0014】
前記電極はさらに、電気化学的活材料を含み、そして前記固体イオン伝導性高分子材料は前記電気化学的活材料の少なくとも1粒子を封入している、電池。
【0015】
前記電池は、0.8Vの電圧終止を伴う150ないし300mAの間の電流における連続定電流放電において試験されると、3Ahを超える容量を有する、電池。
【0016】
前記電池の陽極は400mAhr/g超を提供する、電池。
【0017】
前記反応体高分子化合物はポリフェニレンスルフィドである、電池。
【0018】
前記反応体イオン化合物は無機水酸化物である、電池。
【0019】
前記導電性材料は炭素を含む、電池。
【0020】
前記イオン化合物は水酸化リチウムである、電池。
【0021】
高分子化合物をイオン化合物と混合して、第一の混合物を形成するステップと、第一の混合物を酸素含有気体中で加熱して、第一の混合物を固体イオン伝導性高分子材料に形成するステップと、前記固体イオン伝導性高分子材料と導電性材料とを混合して、水酸化物イオンをイオン伝導し得る電極を製造するステップと:を含む、電極を製造する方法。
【0022】
前記加熱ステップにおいて、酸素含有の前記気体は陽圧で提供される、方法。
【0023】
電極を製造するステップにおいて、前記電極はさらに、固体粒状電気化学的活材料を含み、そして前記固体イオン伝導性高分子材料と前記導電性材料との両方が前記電気化学的活材料上にコートされる、方法。
【0024】
好ましい実施態様の詳細な説明
本特許出願は2017年1月26日出願の米国特許仮出願第62/450,715号からの優先権を請求し、そして、2017年5月25日出願の米国特許出願第15/605,425号と、2017年8月9日出願の同第15/672,878号と、2016年5月6日出願の同第15/148,085号と、2016年9月30日出願の同第15/282,002号との一部継続出願であるそれらの開示は、引用することによりそれら全体が本明細書中に組み込まれる。
【0025】
一つの態様は、少なくとも3種の別個の成分:高分子化合物、ドーパントおよびイオン化合物、から固体イオン伝導性高分子材料を合成する方法を含む。前記成分および合成法は前記材料の具体的な用途に対して選択される。前記高分子化合物、ドーパントおよびイオン化合物の選択はまた、前記材料の所望される性能に基づいて変動する場合がある。例えば、前記所望成分および合成法は、所望された物理的特徴(例えば、イオン伝導率)の最適化により決定される場合がある。
【0026】
合成:
前記合成法はまた、前記の具体的な成分および前記最終材料の所望形態(例えばフィルム、粒状物、等)に応じて変動する場合がある。しかし、前記方法は、最初に、前記成分の少なくとも2種を混合するステップと、任意的第2の混合ステップにおける第3の成分
を添加するステップと、加熱ステップにおいて前記成分/反応体を加熱して、前記固体イオン伝導性高分子材料を合成するステップと、の基本的ステップを含む。本発明の一つの態様において、前記の生成された混合物は場合により、所望サイズのフィルムに形成される場合がある。前記ドーパントが第1のステップにおいて生成された混合物中に含まれなかった場合は、それはその後、熱と、場合によっては圧力(陽圧または減圧)とが適用される間に、前記混合物に添加される場合がある。すべての三成分が含まれ、混合され、そして加熱されて、前記固体イオン伝導性高分子材料の合成を単一ステップで終結する場合がある。しかし、この加熱ステップは、あらゆる混合ステップとは別のステップにおいて実施されるか、または混合ステップが実施されている間に終結される場合がある。前記加熱ステップは前記混合物の形態(例えばフィルム、粒状物、等)に関わらず実施される場合がある。前記合成法の一つの態様において、すべての三成分が混合され、次にフィルムに押出される。前記フィルムは加熱されて前記合成を終結する。
【0027】
前記固体イオン伝導性高分子材料が合成されるとき、前記反応体の色は比較的淡色であり、そして前記固体イオン伝導性高分子材料は比較的暗色または黒色であるために、視覚的に認識可能な色彩変化が起こる。この色彩変化は、電荷移動錯体が形成されているときに起こり、そして前記合成法に応じて緩徐に、または急速に起こる場合があると考えられる。
【0028】
前記合成法の一つの態様は、前記基材高分子化合物(base polymer)と、イオン化合物とドーパントとを一緒に混合するステップおよび、第2のステップにおける前記混合物を加熱するステップである。前記ドーパントは気相中にある場合があるので、前記加熱ステップは前記ドーパントの存在下で実施される場合がある。前記混合ステップは押出し機、ブレンダー、ミルまたはプラスチック加工に典型的な別の装置中で実施される場合がある。前記加熱ステップは数時間(例えば24時間)継続する場合があり、前記色彩変化は、合成が終結したかまたは一部終結したという信頼できる指標である。
【0029】
前記合成法の一つの態様において、前記基材高分子化合物とイオン化合物とは最初に混合される場合がある。次に前記ドーパントは前記高分子化合物・イオン化合物の混合物と混合されて、加熱される。前記加熱ステップは、第2の混合ステップ期間中または前記混合ステップの後に、前記混合物に適用される場合がある。
【0030】
前記合成法の別の態様において、前記基材高分子化合物と前記ドーパントとは最初に混合され、次に加熱される。この加熱ステップは、前記混合ステップの後またはその期間中に適用される場合があり、そして前記電荷移動錯体の形成、および前記ドーパントと前記基材高分子化合物との間の反応、を示す色彩変化をもたらす。次に前記イオン化合物は前記反応済み高分子化合物ドーパント物質に混合されて、前記固体イオン伝導性高分子材料の形成を終結する。
【0031】
前記ドーパントを添加する典型的な方法は当業者に知られており、前記基材高分子化合物とイオン化合物とを含むフィルムの蒸気(または気相)ドーピングおよび当業者に知られた別のドーピング法を含む場合がある。ドーピングすると、前記固体高分子材料はイオン伝導性になり、そして、前記ドーピングは、それらが拡散性イオンであるように、前記固体高分子材料のイオン成分を活性化するように作用すると考えられる。
【0032】
別の非反応性成分は、前記初期混合ステップ、二次混合ステップまたは加熱後の混合ステップ期間中に前記混合物に添加される場合がある。このような別の成分は、それらに限定はされないが、脱分極剤または、アノードまたはカソード活材料のような電気化学的活材料、炭素のような導電性材料、結合剤または押出し補助剤(例えばエチレンプロピレンジエンモノマー「DPDM」)のような流動力学的薬剤、触媒および、前記混合物の所望
の物理学的特性を達成するために有用な別の成分、を含む。
【0033】
前記固体イオン伝導性高分子材料の合成において反応体として有用な高分子化合物は、電子供与体または、電子受容体により酸化される場合がある高分子化合物、である。30%を超える、そして50%を超える結晶化度(crystallinity index)をもつ半結晶性高分子化合物は適切な反応体高分子化合物である。液晶高分子化合物(LCPs)のような結晶性高分子材料はすべてさらに、反応体高分子化合物として有用である。LCPはすべて結晶性であり、従ってこれによって、それらの結晶化度は100%と規定される。未ドープ共役高分子化合物および、ポリフェニレンスルフィド(PPS)のような高分子化合物もまた、適切な反応体高分子化合物である。
【0034】
高分子化合物は典型的に導電性ではない。例えば、純粋な(virgin)PPSは10-20Scm-1の導電率を有する。非導電性高分子化合物は適切な反応体高分子化合物である。
【0035】
一つの態様において、反応体として有用な高分子化合物は、各反復モノマー基の主鎖中の芳香族または複素環式成分と、前記複素環式環中に取り入れられた、または前記芳香族環に対する隣接位置の主鎖に沿って配置されたヘテロ原子と、を有する場合がある。前記ヘテロ原子は、前記主鎖上に直接配置されるか、または前記主鎖上に直接配置された炭素原子に結合されている場合がある。前記ヘテロ原子が前記主鎖上に配置されているか、または前記主鎖上に配置された炭素原子に結合された両方の場合に、前記主鎖原子は芳香族環に隣接した主鎖上に配置されている。本発明の本態様に使用された高分子化合物の非限定的例は、PPS、ポリ(p-フェニレンオキシド)(PPO)、LCP、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフタルアミド(PPA),ポリピロール、ポリアニリンおよびポリスルホンを含む群から選択される場合がある。前記高分子化合物およびこれらの高分子化合物混合物の、単量体を含む共重合体もまた使用される場合がある。例えば、p-ヒドロキシ安息香酸の共重合体は適切な液晶高分子化合物の基材高分子化合物である場合がある。
【0036】
表2は、単量体の反復構造と、高分子化合物はそれらの物理的特性に影響を与える場合がある複数の形態を採る場合があるために、これも非限定的であると考えなければならない幾つかの物理的特性の情報と一緒に、前記固体イオン伝導性高分子材料の合成に有用な反応体高分子化合物の非限定的例を詳述する。
【0037】
【表1-1】
【0038】
【表1-2】
【0039】
前記固体イオン伝導性高分子材料の合成において反応体として有用なドーパントは、電子受容体または酸化剤(oxidants)である。前記ドーパントはイオンの運搬および移動性のためにイオンを放出するように働くと考えられ、そして電荷移動錯体に類似の部位か、またはイオン伝導率を可能にするための前記高分子材料内の部位かを形成すると考えられる。有用なドーパントの非限定的例は、「DDQ」としても知られた2,3-ジシアノ-5,6-ジクロロジシアノキノン(C8Cl222)、およびクロラニルとしても知られたテトラクロロ-1,4-ベンゾキノン(C6Cl44)のようなキノン、TCNEとしても知られたテトラシアノエチレン(C64)、三酸化硫黄(SO3)、オゾン(三酸素またはO3)、酸素(O2、空気を含む)、二酸化マンガン(MnO2)を含む遷移金属酸化物、またはあらゆる適切な電子受容体、等、およびそれらの組み合わせ物である。
【0040】
一つの態様において、前記ドーパントは合成期間中、そして陽圧下において前記蒸気状態にある場合がある。前記陽圧は前記合成済み材料中に増加したイオン伝導率をもたらす場合があり、また酸素を含む前記ドーパント群(すなわち、酸素、空気およびオゾン)に
対して、前記イオン伝導率は約1×10-4S/cmまたはそれ以上に増加される場合がある。
【0041】
気相ドーパントの酸素、空気および、程度は少ないがオゾンのサブクラスは、有用性(availability)の利点を共有する。一つの態様において、このドーパントのサブクラスは、製造工程のステップと関連経費とを節減するために使用される場合がある。
【0042】
前記合成の加熱ステップの温度において、温度安定性のドーパントは有用であり、キノンと、温度安定で、かつ強力な酸化剤キノンの両方である、別のドーパントと、は非常に有用である。表3はそれらの化学図と一緒にドーパントの非限定的リストを記載する。
【0043】
【表2】
【0044】
前記固体イオン伝導性高分子材料の合成における反応体として有用なイオン化合物は、前記固体イオン伝導性高分子材料の合成期間中、所望のイオンを放出する化合物である。前記イオン化合物は、イオン化合物とドーパントとの両方が必要である点で、前記ドーパントと異なる。非限定的例は、Li2O、LiOH、NaOH、KOH、LiNO3、Na2O、MgO、CaCl2、MgCl2、AlCl3、LiTFSI(リチウムビス-トリフルオロメタンスルホンイミド)、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiB(C242「LiBOB」)および別のリチウム塩およびそれらの組み合わせ物を含む。これらの化合物の水和形態(例えば一水和物)は、前記化合物の取り扱いを単純化するために使用される場合がある。無機酸化物、塩化物および水酸化物は、それらが合成期間中に解離して、少なくとも1つのアニオンおよびカチオン拡散イオンを形成する点で、適切なイオン化合物である。解離して少なくとも1つのアニオンおよびカチオン拡散イオンを形成するあらゆるこのようなイオン化合物も同様に適切であると考えられる。複数のアニオンおよびカチオン拡散イオンをもたらす複数のイオン化合物もまた、有用である場合があり、好ましい。前記合成に含まれる具体的なイオン化合物は、前記材料に対して所望される効用(utility)に左右される。例えば、水酸化物アニオンを有することが望ましいと考えられる用途においては、水酸化リチウムまたは別の無機水酸化物、または水酸化物イオンに転化可能な酸化物、が適当であると考えられる。合成期間中に拡散水酸化物アニオンを放出する化合物を含むあらゆる水酸化物も同様であろう。このような水酸化物イオン化合物の非限定的群は金属を含む。前記水酸化物イオン化合物はアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属を含む場合があり、そして前記の所望されたカチオンおよびアニオン拡散材料の両方を生成する場合がある形態の遷移後金属(post transition metals)は合成反応体イオン化合物として適当である。
【0045】
前記材料の純度は、あらゆる意図されなかった副反応を防止し、そして前記合成反応の効力を最大にして、高度伝導性材料を生成するために重要な可能性がある。一般に高純度の前記ドーパント、基材高分子化合物および前記イオン化合物を含む、実質的に純粋な反応体は有用であり、98%を超える純度はさらに有用であり、もっとさらに高い純度、例えばLiOH:99.6%、DDQ:>98%、およびクロラニル:99%も有用である。
【0046】
前記固体イオン伝導性高分子材料の効用および、前記固体イオン伝導性高分子材料の合成の前述の方法の汎用性(versatility)をさらに説明するために、複数の電気化学的用途に有用で、またそれらの用途によって名高い、前記固体イオン伝導性高分子材料の幾つかのクラスが説明される。
【実施例1】
【0047】
PPS高分子化合物を、それぞれ、一つの態様においては67重量%ないし33重量%の割合、そして別の態様においては10ないし50重量%の割合で、前記イオン化合物LiOH一水和物と混合し、そしてジェットミル混合を使用して混合した。次に、生成された混合物を30分にわたり、250ないし350℃間の温度で、空気の存在下で熱処理した。合成には陽圧が有用であることが見いだされていたが、本実施例においては大気圧下で熱を適用した。
【0048】
前記合成済み固体イオン伝導性高分子材料(PPS/LiOH/O2)のサンプルを、試験装置(test fixture)内のステンレス鋼の電極の間に配置した。ACインピーダンス(EIS)を、Bio-Logic VSP試験システムを使用して800KHzから100Hzの範囲で記録して、電解質伝導率を決定した。1×10-5S/cmを超えるイオン伝導率を認めた。
【0049】
次に前記合成済み固体イオン伝導性高分子材料(PPS/LiOH/O2)をふるって、凝集物粒子を取り除き、次に電気化学的活EMD、導電性炭素、および少量の水酸化カリウムと混合し、次に混合してカソード混合物を形成した。一つの態様において、前記活材料、本例ではEMDの各粒子を前記高分子化合物/炭素混合物でコートした。
【0050】
前記カソード混合物は、所望された用途に合うように改変される場合があり、表4に詳述された前記組成物範囲は、一次および二次亜鉛-MnO2電池、エアーアシスト亜鉛-MnO2電池および亜鉛-空気電池のようなアルカリ電池のカソード用途のためのミックスを記載している。
【0051】
【表3】
【0052】
セルは、その明細が、参照により本明細書に引用されたこととされる、米国特許出願第14/559,430号および同第15/169,160号明細書に記載された電池構造物に従って実施例1に記載されたカソードの混合物を使用して製造される場合がある。
【0053】
さらに、そして具体的には、前記カソード混合物を取り入れるAAエアーアシストセルは、以下:0.8Vの電圧終止を伴う150ないし300mA間の電流における連続定電流放電、1時間の終止を伴う150ないし300mA間の電流における間欠的放電とその後の1時間の休止期間(0.8Vの電圧終止)、1.0Vの電圧終止までの50mAにおける連続定電流放電、1時間の終止を伴う50mAにおける間欠的放電とその後の1時間の休止期間(1.0Vの電圧終止)、0.8Vの電圧終止まで3.9オームにおける連続定抵抗放電、3.9オームの抵抗が1時間適用される場合の間欠的定抵抗放電とその後の1時間の休止期間(0.8Vの電圧終止)、1.0Vの電圧終止まで42オームにおける連続定抵抗放電、および15秒間42オームの抵抗が適用される場合の間欠的定抵抗放電とその後の45秒間の休止期間(1.0Vの電圧終止):の期間中、3Ahを超える容量を示した。前記AAエアーアシストセルはまた、400mAh/g、450mAh/gおよび500mAh/gを超えるカソード容量を示した。
【0054】
空気カソードは、どんな伝統的触媒をも伴わず、またEMDを伴わずに、前記カソード混合物を使用して調製された。このように調製された空気カソードは、負荷下で、伝統的亜鉛アノードと接続されると、使用可能な電圧および電流を発生することにより、酸素および電気化学的活性を低下させることにより触媒活性を示した。
【0055】
本発明は、その特定の好ましい実施態様に従って本明細書に詳細に説明されてきたが、その中の多くの改変物および変更物は、本発明の精神から逸脱せずに当業者により影響を与えられる場合がある。従って、本発明は従属請求項の範囲によってのみ限定され、そして本明細書に示された実施態様を説明する詳細および手段(instrumentalities)によっては限定されないことが意図される。記載された態様の考え方から逸脱せずに、前記構造物に対するバリエーションおよび修正が実施される場合があることは理解され、そしてさらにこのような考え方は、これらがそれらの言語により、そうでないことを明白に主張されない限り、以下の請求項により網羅されることが意図されることは理解されなければならない。