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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20221222BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20221222BHJP
   C08G 65/336 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
C08L63/00 A
C08L71/02
C08G65/336
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019560884
(86)(22)【出願日】2018-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2018042628
(87)【国際公開番号】W WO2019123934
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2017246036
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮武 信雄
(72)【発明者】
【氏名】吉原 秀輔
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/179653(WO,A1)
【文献】特開昭61-247723(JP,A)
【文献】特開2000-034391(JP,A)
【文献】特開昭61-268720(JP,A)
【文献】特開2013-241479(JP,A)
【文献】特開2010-126645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にアルコキシシリル基を少なくとも2個有し、ガラス転移温度が0℃以下であり、かつ数平均分子量600~5000であるアルコキシシリル変性ポリマー(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ硬化剤(C)およびコアシェルポリマー(D)を含むエポキシ樹脂組成物であって、アルコキシシリル変性ポリマー(A)の含有量が0.01~10重量%((A)+(B)+(C)+(D)=100重量%)であり、コアシェルポリマー(D)がジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴム、オルガノシロキサン系ゴム、スチレン系ポリマーおよび(メタ)アクリレート系ポリマーよりなる群から選択される1種以上のコア層を有し、コアシェルポリマー(D)中のコア層の割合が70~95重量%であり、
アルコキシシリル変性ポリマー(A)が、分子内でポリマー末端にアルコキシシリル基を少なくとも2個有するポリマーであり、
アルコキシシリル変性ポリマー(A)の主鎖がポリアルキレンオキシドであるエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
アルコキシシリル変性ポリマー(A)の主鎖がポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシドおよびオキシ-3-メチルテトラメチレン/オキシブチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種である請求項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ硬化剤(C)が酸無水物である請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
コアシェルポリマー(D)の数平均粒子径が0.01~0.6μmである請求項1~のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その硬化物が耐熱性、機械特性や耐薬品性などに優れることから、古くから幅広い用途で使用されている。しかしながら、エポキシ樹脂の硬化物は脆いという欠点があり、多くの場合、強靭化が必要になる。
【0003】
強靭化の手法として、エポキシ樹脂にゴム成分を改質剤として添加するさまざまな方法が検討され適用されてきた。
【0004】
なかでも、コアシェルラバーを添加する方法は、耐熱性を損なわずに高い効率でエポキシ樹脂を強靭化できることから、構造接着剤や複合材などのさまざまな分野で広く使われるようになってきた(たとえば、特許文献1)。
【0005】
しかし、接着剤に適用する場合、接着剤層が強靭化されることで接着強度が向上する一方、接着剤層と基材との界面が弱点となり界面破壊が起こるようになる場合がある。界面破壊は、接着強度の変動を大きくする原因の一つとなり、信頼性の点で好ましくない。そのため、強靭化された接着剤層と基材との界面接着を改良する方法が望まれていた。
【0006】
界面接着を改善する方法としては、エポキシ基とシラン基を有するシランカップリング剤や末端カルボン酸を有するブタジエン・アクリロニトリル液状ゴム(CTBN)をエポキシ樹脂組成物に添加する方法などがある。しかし、それらによる界面接着の改善効果は十分でない場合が多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許4778851号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い接着強度を持ち、かつ界面接着性が改善されたエポキシ樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、分子内にアルコキシシリル基を少なくとも2個有し、ガラス転移温度が0℃以下であり、かつ数平均分子量600~5000であるアルコキシシリル変性ポリマー(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ硬化剤(C)およびコアシェルポリマー(D)を含むエポキシ樹脂組成物であって、アルコキシシリル変性ポリマー(A)の含有量が0.01~10重量%((A)+(B)+(C)+(D)=100重量%)であり、コアシェルポリマー(D)がジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴム、オルガノシロキサン系ゴム、スチレン系ポリマーおよび(メタ)アクリレート系ポリマーよりなる群から選択される1種以上のコア層を有し、コアシェルポリマー(D)中のコア層の割合が70~95重量%であるエポキシ樹脂組成物に関する。
(2)アルコキシシリル変性ポリマー(A)が、ポリマー末端にアルコキシシリル基を有するポリマーであることが好ましい。
(3)アルコキシシリル変性ポリマー(A)の主鎖がポリアルキレンオキシドであることが好ましい。
(4)アルコキシシリル変性ポリマー(A)の主鎖がポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシドおよびオキシ-3-メチルテトラメチレン/オキシブチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
(5)エポキシ硬化剤(C)が酸無水物であることが好ましい。
(6)コアシェルポリマー(D)の数平均粒子径が0.01~0.6μmであることが好ましい。
(7)さらに、本発明は、上記エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、高い接着強度と、優れた界面接着性を両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、分子内にアルコキシシリル基を少なくとも2個有し、ガラス転移温度が0℃以下であり、かつ数平均分子量600~5000であるアルコキシシリル変性ポリマー(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ硬化剤(C)およびコアシェルポリマー(D)を含有する。
【0012】
アルコキシシリ変性ポリマーとエポキシ樹脂とを併用することは古くから行われている。しかしながら、多くの場合は、アルコキシシリル変性ポリマーの強度を改良するためにエポキシ樹脂を加えており、比較的多くのアルコキシシリル変性ポリマーが使用されている(例えば特開昭62-283120号公報を参照)。エポキシ樹脂と比較的少量のアルコキシシリル変性ポリマーが使用される例として、電子部品封止用のエポキシ樹脂組成物(特開2003-034747号公報を参照)が報告されているが、ゴム(例えばコアシェルラバー)を添加すると液状エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなるため十分な効果が得られないという記載がある。また、この組成物では、アルコキシシリル変性ポリマーの含有量は約30~50重量%(ただしエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤とアルコキシシリル変性ポリマーを合計100重量%とする)であり、少量であるとも言い切れない。さらに、この組成物は必須成分として相当量のシラノール縮合触媒を含有する。シラノール縮合触媒により硬化反応が加速されると、多量の低分子アルコールが同時生成して硬化物が発泡する傾向があり、界面接着性や硬化物の機械強度の低下が懸念される。コアシェルラバーにより強靭化された接着剤では、発泡などによる界面接着性の低下は問題となる。シラノール縮合触媒は高活性であるがゆえ、他にも好ましくない影響を与える傾向がある。
【0013】
以下、本発明のエポキシ樹脂組成物について詳述する。
【0014】
<アルコキシシリル変性ポリマー(A)>
アルコキシシリル変性ポリマー(A)は、ポリマー分子中に加水分解性であるアルコキシシリル基を有する。アルコキシシリル基としては、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基などのアルキルジアルコキシシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基などのトリアルコキシシリル基を挙げることができる。
【0015】
アルコキシシリル基は、ポリマー分子中に少なくとも2個存在し、ポリマー鎖の末端および/または側鎖に結合することができる。特に、硬化物に柔軟性を付与しやすいため、アルコキシシリル変性ポリマー(A)のポリマー鎖末端にアルコキシシリル基を有することが好ましい。
【0016】
アルコキシシリル変性ポリマー(A)のガラス転移温度(Tg)は、通常、0℃以下であり、好ましくは-20℃以下であり、より好ましくは-40℃以下である。アルコキシシリル変性ポリマー(A)の添加によりエポキシ樹脂組成物の粘度が高くなることは好ましくないので、アルコキシシリル変性ポリマー(A)は、できるだけ柔軟なものが好ましい。本発明のアルコキシシリル変性ポリマー(A)の数平均分子量は、アルコキシシリル基変性前の主鎖について水酸基価換算で算出される分子量で定義し、好ましくは600~5000であるが、700~4000であることがより好ましい。分子量が低過ぎても、高過ぎても、良好な界面接着が得られなくなる傾向がある。特に、分子量が高過ぎる場合は、エポキシ樹脂(B)への溶解が困難になり、添加効果が低くなる。
【0017】
アルコキシシリル変性ポリマー(A)の主鎖は、特に制限はなく、各種の主鎖骨格を持つものを使用することができるが、得られる組成物の接着性が優れることから、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選択される1つ以上からなる主鎖骨格が好ましい。具体的な主鎖として、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド、エチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体、プロピレンオキシド-ブチレンオキシド共重合体などのポリアルキレンオキシド、エチレン-プロピレン系共重合体、ポリイソブチレン、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、イソプレンあるいはブタジエンとアクリロニトリルおよび/またはスチレン等との共重合体、ポリブタジエン、イソプレンあるいはブタジエンとアクリロニトリルおよびスチレン等との共重合体、これらのオレフィン系重合体に水素添加して得られる水添オレフィン系重合体等の炭化水素系重合体;アジピン酸等の2塩基酸とグリコールとの縮合、または、ラクトン類の開環重合で得られるポリエステル;エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のモノマーを主成分としてラジカル重合して得られる(メタ)アクリレート系重合体;前記有機重合体中でビニルモノマーを重合して得られるグラフト重合体;ポリサルファイド等を挙げることができる。
【0018】
特に、ポリイソブチレン、水添ポリイソプレン、水添ポリブタジエン等の飽和炭化水素系重合体や、ポリアルキレンオキシド、(メタ)アクリレート系重合体は比較的ガラス転移温度が低いことから主鎖としてより好ましい。更に、アルコキシシリル変性ポリマー(A)の主鎖は、ポリアルキレンオキシドであることが特に好ましく、なかでも、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド、又は、オキシ-3-メチルテトラメチレン/オキシブチレン共重合体であることが最も好ましい。
【0019】
これらのアルコキシシリル変性ポリマー(A)は単独で使用しても良く、2種以上併用しても良い。
【0020】
アルコキシシリル変性ポリマー(A)の含有量は、成分(A)+(B)+(C)+(D)=100重量%としたとき、0.01~10重量%であり、より好ましくは0.1~5重量%であることが、良好な接着性が得られる傾向があることから好ましい。少なすぎても多すぎても良好な界面接着性と高い接着強度が両立しなくなる傾向がある。特に多すぎる場合は、耐熱性も低くなる傾向にある。
【0021】
<エポキシ樹脂(B)>
本発明のエポキシ樹脂(B)としては、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であれば、任意のものを使用することができる。
【0022】
例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;3,4-エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル等の環状脂肪族型エポキシ樹脂;1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等の直鎖脂肪族型エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、キシレンジアミンのグリシジル化合物、トリグリシジルアミノフェノール、グリシジルアニリンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリジメチルシロキサンの末端あるいは側鎖にエポキシ基を有するポリシロキサン型エポキシ樹脂あるいは、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルグリシジルエーテルメタン、テトラフェニルグリシジルエーテルメタン;ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は、単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0023】
エポキシ樹脂(B)の含有量は、良好な接着性が得られる傾向があることから、成分(A)+(B)+(C)+(D)=100重量%としたとき、10~90重量%であることが好ましく、20~80重量%であることがより好ましい。
【0024】
また、エポキシ樹脂(B)に、分子内に1つのエポキシ基を有する反応性希釈剤を添加してもよい。反応性希釈剤は、エポキシ樹脂組成物の粘度を下げる効果をもつ。反応性希釈剤は、エポキシ樹脂(B)100重量部に対して0重量部以上45重量部まで使用するのが好ましい。反応性希釈剤をあまりにも多く使用すると、硬化物の耐熱性が低くなる。
【0025】
前記分子内に1つのエポキシ基を有する反応性希釈剤としては、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、炭素数8~14のアルキルグリシジルエーテルなどのアルキルモノグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテルなどのフェノールモノグリシジルエーテルなどを挙げることができる。これらは2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0026】
<エポキシ硬化剤(C)>
本発明のエポキシ硬化剤(C)としては、従来公知のものを広く使用することができる。例えば、ジエチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、メチルペンタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、グアニジン、オレイルアミン等の脂肪族アミン類;メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ピペリジン、N,N’-ジメチルピペラジン、N-アミノエチルピペラジン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ポリシクロヘキシルポリアミン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU)等の脂環族アミン類;3,9-ビス(3-アミノプロピル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(ATU)、モルホリン、N-メチルモルホリン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン、ポリオキシエチレンジアミン等のエーテル結合を有するアミン類;ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の水酸基含有アミン類;テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ドデシル無水コハク酸等の酸無水物類;ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂;メチロール基含有尿素樹脂等の尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂等のメラミン樹脂;ダイマー酸にジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミン等のポリアミンを反応させて得られるポリアミド、ダイマー酸以外のポリカルボン酸を使ったポリアミド等のポリアミドアミン類;2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類;ジシアンジアミド;上記アミン類にエポキシ化合物を反応させて得られるエポキシ変性アミン、上記アミン類にホルマリン、フェノール類を反応させて得られるマンニッヒ変性アミン、マイケル付加変性アミン、ケチミンといった変性アミン類等が挙げられる。これらの硬化剤は、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0027】
上記のエポキシ硬化剤のうち、酸無水物類は、従来、接着強度が低い硬化剤と認識されていたが、本発明においてエポキシ硬化剤(C)として酸無水物類を使用すると、従来の認識に反して接着強度を顕著に高めることができ、しかも、エポキシ樹脂組成物の粘度を低減できるという利点が得られる。
【0028】
また、上記のエポキシ硬化剤のうち、フェノール樹脂についても、従来、接着強度が低い硬化剤と認識されていたが、本発明においてエポキシ硬化剤(C)としてフェノール樹脂を使用すると、従来の認識に反して接着強度を顕著に高めることができ、しかも、硬化物の耐熱性を高めることができる利点が得られる。フェノール樹脂とは、一分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を指し、具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂;トリフェノールメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物等が挙げられる。
【0029】
また、エポキシ硬化剤(C)の硬化を促進させるために、硬化促進剤をエポキシ硬化剤(C)と一緒に用いてもよい。硬化促進剤の例としては、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、亜リン酸トリフェニル等の有機リン系化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、テトタフェニルホスフィンブロマイド、テトラ-n-ブチルホスホニウムブロマイド、テトラn-ブチルホスホニウムo,o-ジエチルホスホロジチオネート等の4級ホスホニウム塩、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセンー7やその有機酸塩類等のジアザビシクロアルケン類、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫やアルミニウムアセチルアセトン錯体等の有機金属化合物類、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩類、三フッ化ホウ素、トリフェニルボレート等のホウ素化合物、塩化亜鉛、塩化第二錫等の金属ハロゲン化合物が挙げられる。更には、高融点イミダゾール化合物、ジシアンジアミド、リン系、ホスフィン系促進剤の表面をポリマーで被覆したマイクロカプセル型潜在性促進剤、アミン塩型潜在性硬化促進剤、ルイス酸塩、ブレンステッド酸塩等の高温解離型熱カチオン重合型の潜在性硬化促進剤等に代表される潜在性硬化促進剤も使用することができる。これらの硬化促進剤は単独又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0030】
エポキシ硬化剤(C)の使用量は、硬化剤の化学的性質、エポキシ樹脂組成物および硬化物の所望の特性に依存する。エポキシ硬化剤(C)がアミン基を有する場合、エポキシ樹脂(B)が有するエポキシ基に対する前記アミン基の当量数が1.7~2.3になるようにエポキシ硬化剤(C)は使用されることが好ましく、エポキシ硬化剤(C)が酸無水物基、又はフェノール性ヒドロキシ基を有する場合、エポキシ樹脂(B)が有するエポキシ基に対する前記酸無水物基、又は前記フェノール性ヒドロキシ基の当量数が0.7~1.3になるようにエポキシ硬化剤(C)は使用されることが好ましい。硬化促進剤は、エポキシ樹脂(B)100重量部に対して0.01~10重量部程度を使用することが好ましい。
【0031】
<コアシェルポリマー(D)>
コアシェルポリマー(D)は、少なくとも2層の構造からなる粒子状ポリマーである。コアシェルポリマー(D)におけるコア層の比率としては、機械特性の観点から、70~95重量%であり、80~93重量%がより好ましい。コア層の比率が小さいと、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなる傾向にある。コア層の比率があまりにも大きい場合、コアシェルポリマーの調製が難しくなる(合成自体は、可能であるが、反応液から実用的な形態で取り出すことが難しくなる)。なお、コアシェルポリマー中のコア層の比率は、赤外分光分析のスペクトルの吸光度比などから測定できる。
【0032】
前記コアシェルポリマー(D)は、数平均粒子径が0.01~0.6μmであることが好ましく、より好ましくは0.03~0.5μm、さらに好ましくは0.05~0.4μmである。このような平均粒子径を有するコアシェルポリマー(D)を得るには、乳化重合法が好適であるが、あまりにも小さい場合、あまりにも大きい場合は、経済的かつ工業的な製造が難しくなる。なお、数平均粒子径は、マイクロトラックUPA150(日機装株式会社製)などを用いて測定することができる。
【0033】
前記コアシェルポリマー(D)は、メチルエチルケトン(MEK)に対して不溶分を有することが好ましく、その不溶分量(MEK不溶分量)は、95重量%以上であることが好ましく、さらには97重量%以上がより好ましく、特には98重量%以上がより好ましい。95重量%未満の場合には、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなる傾向があり取り扱いにくくなる。なお、本明細書において、コアシェルポリマー(D)のMEK不溶分量を得る方法は下記の通りである。コアシェルポリマーのパウダーあるいはフィルム約2gを秤量してMEK100gに23℃で24時間浸漬する。その後、得られたMEK不溶分を分離し、乾燥して重量を計り、測定に使用したコアシェルポリマーの重量に対する重量分率(%)をMEK不溶分量として算出する。
【0034】
前記コアシェルポリマー(D)の含有量は、成分(A)+(B)+(C)+(D)=100重量%としたとき、0.5~30重量%が好ましく、1~20重量%がより好ましい。含有量が低すぎる場合、界面破壊が起こったり、または接着強度が低下する傾向にあり、多すぎる場合は、配合粘度が高くなり過ぎ、低粘度が必要な用途では不適当になる傾向がある。
【0035】
前記コアシェルポリマー(D)は、架橋ポリマーからなるコア層と、これにグラフト重合されたポリマー成分からなるシェル層より構成されるポリマーであることが好ましい。すなわち、シェル層とコア層間に化学結合が存在していることが好ましい。シェル層は、グラフト成分を構成するモノマーをコア成分にグラフト重合して形成されることから、コア部の表面の一部もしくは全体を覆う。
【0036】
前記コア層は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴム、オルガノシロキサン系ゴム、スチレン系ポリマーおよび(メタ)アクリレート系ポリマーよりなる群から選択される1種以上である。なお、本発明において(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0037】
前記コア層は、エポキシ樹脂(B)の強靭化の点から、ゴム状の架橋ポリマーであることが好ましい。コア層が、ゴム状の性質を有するためには、コア層のガラス転移温度(以下、単に「Tg」と称する場合がある)は、0℃以下であることが好ましく、-20℃以下がより好ましく、-40℃以下であることが特に好ましい。
【0038】
前記Tgは、たとえば、動的粘弾性測定法や示差走査熱量分析法により測定できる。
【0039】
ゴムとしての性質を有する前記コア層を形成し得るポリマーとしては、天然ゴムや、ジエン系モノマー(共役ジエン系モノマー)および(メタ)アクリレート系モノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマー(第1モノマー)を50~100重量%、および他の共重合可能なビニル系モノマー(第2モノマー)を0~50重量%含んで構成されるゴムポリマーや、オルガノシロキサン系ゴム、あるいはこれらを併用したものが挙げられる。より高い強靭化効果を得る場合、ジエン系モノマーを用いたジエン系ゴムが好ましい。強靭性、耐候性、経済性などのバランスが要求される場合、(メタ)アクリレート系ゴム(アクリルゴムともいう)が好ましい。また、低温での高い強靭性を得ようとする場合には、コア層はオルガノシロキサン系ゴムであることが好ましい。
【0040】
前記コア層の形成に用いるジエン系ゴムを構成するモノマー(共役ジエン系モノマー)としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエンなどが挙げられる。これらのジエン系モノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
強靭化効果が高い点から、1,3-ブタジエンを用いるブタジエンゴム、1,3-ブタジエンとスチレンの共重合体であるブタジエン-スチレンゴム、1,3-ブタジエンとブチルアクリレートあるいは2-エチルヘキシルアクリレートの共重合体であるブタジエン-アクリレートゴムが好ましく、ブタジエンゴムがより好ましい。また、ブタジエン-スチレンゴムは、屈折率の調整により得られるエポキシ樹脂組成物の透明性を高めることができ、良好な外観および強靭性のバランスに優れたものを得る場合には、より好ましい。また、ブタジエン-アクリレートゴムは、アクリレートの導入により、ゴム中でのブタジエンの二重結合濃度が低くなるため、耐候性が良好になり、そのような特性が必要な場合は、好ましい。
【0042】
また、前記コア層の形成に用いる(メタ)アクリレート系ゴム(アクリルゴムともいう)を構成するモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環含有(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレートなどのグリシジル(メタ)アクリレート類;アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレートなどのアリルアルキル(メタ)アクリレート類;モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらの(メタ)アクリレート系モノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくはエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0043】
上記第1モノマーと共重合可能なビニル系モノマー(第2モノマー)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどのビニルアレーン類;アクリル酸、メタクリル酸などのビニルカルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのアルケン類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性モノマーなどが挙げられる。これらのビニル系モノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に好ましくはスチレンである。
【0044】
また、前記コア層を構成し得るオルガノシロキサン系ゴムとしては、例えば、ジメチルシロキサン、ジエチルシロキサン、メチルフェニルシロキサン、ジフェニルシロキサン、ジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサンなどの、アルキル或いはアリール2置換シリルオキシ単位から構成されるオルガノシロキサン系ポリマーや、側鎖のアルキルの一部が水素原子に置換されたオルガノハイドロジェンシロキサンなどの、アルキル或いはアリール1置換シロキサン単位から構成されるオルガノシロキサン系ポリマーが挙げられる。これらのオルガノシロキサン系ポリマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、(メタ)アクリレート系ゴムと組み合わせた、(メタ)アクリレート系ゴム/オルガノシロキサン系ゴムからなる複合ゴムを用いてもよい。中でも、ジメチルシロキサンゴム、メチルフェニルシロキサンゴム、ジメチルシロキサン/ブチルアクリレート複合ゴムが耐候性、機械特性で好ましく、ジメチルシロキサンゴムおよびジメチルシロキサン/ブチルアクリレート複合ゴムが容易に入手できて経済的でもあることから最も好ましい。
【0045】
前記コア層がオルガシロキサン系ゴムから形成される態様において、オルガノシロキサン系ポリマー部位は、低温での機械特性を損なわないために、コア層全体を100重量%としてすくなくとも10重量%以上含有していることが好ましい。
【0046】
前記コアシェルポリマー(D)のエポキシ樹脂(B)中での分散安定性を保持する観点から、コア層は、上記モノマーを重合してなるポリマー成分やオルガノシロキサン系ポリマー成分に架橋構造が導入されていることが好ましい。架橋構造の導入方法としては、一般的に用いられる手法を採用することができる。例えば、上記モノマーを重合してなるポリマー成分に架橋構造を導入する方法としては、ポリマー成分を構成するモノマーに多官能性モノマーやメルカプト基含有化合物等の架橋性モノマーを添加し、次いで重合する方法などが挙げられる。また、オルガノシロキサン系ポリマーに架橋構造を導入する方法としては、重合時に多官能性のアルコキシシラン化合物を一部併用する方法や、ビニル反応性基、メルカプト基、メタクリロイル基などの反応性基をオルガノシロキサン系ポリマーに導入し、その後ビニル重合性のモノマーあるいは有機過酸化物などを添加してラジカル反応させる方法、あるいは、オルガノシロキサン系ポリマーに多官能性モノマーやメルカプト基含有化合物などの架橋性モノマーを添加し、次いで重合する方法などが挙げられる。
【0047】
前記多官能性モノマーとしては、ブタジエンは含まれず、アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレート等のアリルアルキル(メタ)アクリレート類;アリルオキシアルキル(メタ)アクリレート類;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレート類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。特に好ましくはアリルメタアクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、及びジビニルベンゼンである。
【0048】
一方、エポキシ樹脂(B)の強度と弾性率のバランスの良さが求められる場合には、コア層のTgは、0℃よりも大きくすることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることが更に好ましく、80℃以上であることが特に好ましく、120℃以上であることが最も好ましい。
【0049】
Tgが0℃よりも大きく、エポキシ樹脂(B)の弾性率を低下させないあるいは向上させる、コア層を形成し得るポリマーとしては、単独重合体のTgが0℃よりも大きい少なくとも1種のモノマーを50~100重量%(より好ましくは、65~99重量%)、および単独重合体のTgが0℃未満の少なくとも1種のモノマーを0~50重量%(より好ましくは、1~35重量%)含んで構成されるポリマーが挙げられる。
【0050】
コア層のTgが0℃よりも大きい場合においても、コア層は架橋構造が導入されていることが好ましい。架橋構造が導入されることで、Tgが引き上げられる。架橋構造の導入方法としては、前記の方法が挙げられる。
【0051】
前記単独重合体のTgが0℃よりも大きいモノマーは、以下のモノマーの一つ以上を含有するものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、スチレン、2-ビニルナフタレン等の無置換ビニル芳香族化合物類;α-メチルスチレン等のビニル置換芳香族化合物類;3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン等の環アルキル化ビニル芳香族化合物類;4-メトキシスチレン、4-エトキシスチレン等の環アルコキシル化ビニル芳香族化合物類;2-クロロスチレン、3-クロロスチレン等の環ハロゲン化ビニル芳香族化合物類;4-アセトキシスチレン等の環エステル置換ビニル芳香族化合物類;4-ヒトロキシスチレン等の環ヒドロキシル化ビニル芳香族化合物類;ビニルベンゾエート、ビニルシクロヘキサノエート等のビニルエステル類;塩化ビニル等のビニルハロゲン化物類;アセナフタレン、インデン等の芳香族モノマー類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート等のアルキルメタクリレート類;フェニルメタクリレート等の芳香族メタクリレート;イソボルニルメタクリレート、トリメチルシリルメタクリレート等のメタクリレート類;メタクリロニトリル等のメタクリル酸誘導体を含むメタクリルモノマー;イソボルニルアクリレート、tert-ブチルアクリレート等のある種のアクリル酸エステル;アクリロニトリル等のアクリル酸誘導体を含むアクリルモノマーを挙げることができる。更に、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、2-メチル-2-アダマンチルメタクリレート、1-アダマンチルアクリレート及び1-アダマンチルメタクリレート、等のモノマーが挙げられる。
【0052】
本発明において、コア層は単層構造であることが多いが、多層構造であってもよい。コア層が多層構造の場合は、各層のポリマー組成が各々相違していてもよい。
【0053】
すなわち、第1のコア層の外側にポリマー組成の異なる第2のコア層を有する2層からなるコアや、2層からなるコアにさらに、ポリマー組成の異なる第3のコア層を形成させて、3層からなるコア層であってもよい。2層コアの2層目や3層コアの3層目が、前記記載のトリアリルイソシアヌレートなどの多官能性モノマーを主要成分として重合させて得られるポリマーからなる場合、後述するシェルポリマーがグラフトしやすくなるメリットがある。しかし、多層構造コアの形成は、製造工程が複雑になるという欠点がある。
【0054】
前記コアシェルポリマー(D)の最も外側に存在するシェル層、すなわちシェルポリマーは、アルコキシシリル変性ポリマー(A)やエポキシ樹脂(B)などとの相溶性を制御し、コアシェルポリマー(D)を効果的に分散させる役割をする。
【0055】
このようなシェルポリマーは、好ましくは前記コア層にグラフトしている。より正確には、シェルポリマーの形成に用いるモノマー成分が、コア層を形成するコアポリマーにグラフト重合して、実質的にシェルポリマーとコアポリマーとが化学結合していることが好ましい。即ち、好ましくは、シェルポリマーは、コアポリマーの存在下に前記シェル形成用モノマーをグラフト重合させることで形成され、このようにすることで、このコアポリマーにグラフト重合されており、コアポリマーの一部又は全体を覆っている。この重合操作は、水性のポリマーラテックス状態で調製され存在するコアポリマーのラテックスに対して、シェルポリマーの構成成分であるモノマーを加えて重合させることで実施できる。
【0056】
エポキシ樹脂(B)中でコアシェルポリマー(D)を均一分散させるために、シェル層形成用モノマーとして、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル、環状アミド、ベンズオキサジン基、及びシアン酸エステル基からなる群から選ばれる1種以上を含有する反応性基含有モノマーを含有させてもよい。
【0057】
特にエポキシ基あるいは水酸基含有ビニルモノマーをシェル層形成用モノマーの一部として用いることが好ましい。これらは、エポキシ樹脂(B)中のコアシェルポリマー(D)の分散を長期に安定させる効果が大きい。
【0058】
前記水酸基含有あるいはエポキシ基含有ビニルモノマーは、シェル層形成用モノマー中に、1~40重量%含まれていることが好ましく、さらに2~35重量%がより好ましい。水酸基あるいはエポキシ基含有ビニルモノマーがシェル形成用モノマー中に、あまりにも多い場合、エポキシ樹脂(B)中のコアシェルポリマー(D)の分散が不安定になる傾向がある。
【0059】
また、シェル層形成用モノマーとして、二重結合を2個以上有する多官能性モノマーを使用すると、シェル層に架橋構造が導入される。これにより、コアシェルポリマー(D)とエポキシ樹脂(B)との相互作用が低下し、その結果、エポキシ樹脂組成物の粘度を下げることができる。このため、二重結合を2個以上有する多官能性モノマーの使用が好ましい場合がある。一方、エポキシ樹脂組成物の硬化物の伸びが低下する傾向にあるので、伸びを最大限に改善したい場合は、シェル層形成用モノマーとして、二重結合を2個以上有する多官能性モノマーを使用しないことが好ましい。
【0060】
多官能性モノマーは、使用する場合、シェル層形成用モノマー中に、0.5~10重量%含まれていることが好ましく、より好ましくは1~5重量%である。
【0061】
前記(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等があげられる。
【0062】
前記芳香族ビニルモノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0063】
前記水酸基含有ビニルモノマーの具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0064】
前記エポキシ基を有するモノマーの具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。特に、グリシジルメメタクリレートが安定性およびその反応性から好ましい。
【0065】
前記二重結合を2個以上有する多官能性モノマーの具体例としては、上述の多官能性モノマーと同じモノマーが例示されるが、好ましくはアリルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレートである。
【0066】
シェル層は、上記モノマー成分の他に、他のモノマー成分を含んで形成されてもよい。
【0067】
前記コアシェルポリマー(D)におけるシェル層の割合は、コアシェルポリマー全体を100重量%として、5~30重量%であり、7~20重量%がより好ましい。シェル層の割合が多すぎる場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりすぎる傾向がある。また、少なすぎる場合、コアシェルポリマー(D)のエポキシ樹脂(B)への分散が難しくなる。
【0068】
≪コアシェルポリマー(D)の製造方法≫
(コア層の製造方法)
本発明で用いるコアシェルポリマー(D)を構成するコア層を形成するポリマーが、ジエン系モノマー(共役ジエン系モノマー)および(メタ)アクリレート系モノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマー(第1モノマー)を含んで構成される場合には、コア層の形成は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などによって製造することができ、例えば国際公開第2005/028546号に記載の方法を用いることができる。
【0069】
また、コア層を形成するポリマーがオルガノシロキサン系ポリマーを含んで構成される場合には、コア層の形成は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などによって製造することができ、例えばEP1338625号公報に記載の方法を用いることができる。
【0070】
(シェル層の形成方法)
シェル層は、シェル層形成用モノマーを、公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。コア層をコアシェルポリマー(D)前駆体のエマルジョンとして得た場合には、シェル層形成用モノマーの重合は乳化重合法により行うことが好ましく、例えば、国際公開第2005/028546号に記載の方法に従って製造することができる。
【0071】
乳化重合において用いることができる乳化剤(分散剤)としては、ジオクチルスルホコハク酸やドデシルベンゼンスルホン酸などに代表されるアルキルまたはアリールスルホン酸、アルキルまたはアリールエーテルスルホン酸、ドデシル硫酸に代表されるアルキルまたはアリール硫酸、アルキルまたはアリールエーテル硫酸、アルキルまたはアリール置換燐酸、アルキルまたはアリールエーテル置換燐酸、ドデシルザルコシン酸に代表されるN-アルキルまたはアリールザルコシン酸、オレイン酸やステアリン酸などに代表されるアルキルまたはアリールカルボン酸、アルキルまたはアリールエーテルカルボン酸などの各種の酸類、これら酸類のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩などのアニオン性乳化剤(分散剤);アルキルまたはアリール置換ポリエチレングリコールなどの非イオン性乳化剤(分散剤);ポリビニルアルコール、アルキル置換セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸誘導体などの分散剤が挙げられる。これらの乳化剤(分散剤)は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
コアシェルポリマー(D)の水性ラテックスの分散安定性に支障を来さない限り、乳化剤(分散剤)の使用量は少なくすることが好ましい。また、乳化剤(分散剤)は、その水溶性が高いほど好ましい。水溶性が高いと、乳化剤(分散剤)の水洗除去が容易になり、最終的に得られるエポキシ樹脂組成物への悪影響を容易に防止できる。
【0073】
乳化重合法の開始剤として、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、有機化酸化物、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの熱分解型開始剤が良く知られているが、本発明においては、有機過酸化物が特に好ましい。
【0074】
好ましい有機過酸化物として、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイドなどを挙げることができる。なかでも、10時間半減期の熱分解温度(以下、T10ともいう)が120℃以上である、ジ-t-ブチルパーオキサイド(T10:124℃)、パラメンタンハイドロパーオキサイド(T10:128℃)、クメンハイドロパーオキサイド(T10:158℃)、t-ブチルハイドロパーオキサイド(T10:167℃)などの有機過酸化物を使用することが、コアシェルポリマー(D)のMEK不溶分量を高くできる点で好ましい。
【0075】
また有機過酸化物と、必要に応じてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコースなどの還元剤、および必要に応じて硫酸鉄(II)などの遷移金属塩、さらに必要に応じてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどのキレート剤、さらに必要に応じてピロリン酸ナトリウムなどのリン含有化合物などを併用したレドックス型開始剤を使用することが好ましい。
【0076】
レドックス型開始剤を用いた場合には、前記過酸化物が実質的に熱分解しない低い温度でも重合を行うことができ、重合温度を広い範囲で設定できるようになり好ましい。
【0077】
前記開始剤の使用量、レドックス型開始剤を用いる場合には前記還元剤、遷移金属塩、キレート剤などの使用量は公知の範囲で用いることができる。
【0078】
また、要すれば連鎖移動剤も使用できる。該連鎖移動剤は通常の乳化重合で用いられているものであればよく、とくに限定はされない。
【0079】
前記連鎖移動剤の具体例としては、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタンなどがあげられる。
【0080】
重合に際しての重合温度、圧力、脱酸素などの条件は、公知の範囲のものが適用できる。
【0081】
<その他の配合成分>
本発明では、必要に応じて、その他の配合成分を使用することができる。たとえば、アルコキシシリル変性ポリマー(A)の縮合反応を生じさせるために、シラノール縮合触媒を使用することができる。シラノール縮合触媒としては、ステアリン酸錫、オクチル酸錫、ジ-n-ブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等の有機錫化合物、アルミニウムアルコレート、アルミニウムキレート化合物、チタンキレート化合物等が挙げられる。
【0082】
シラノール縮合触媒の配合量は、アルコキシシリル変性ポリマー(A)100重量部に対して、通常、0~0.09重量部であり、好ましくは0~0.07重量部、より好ましくは0~0.05重量部、更に好ましくは0~0.03重量部、更により好ましくは0~0.01重量部である。また配合成分の数を減らすという観点、また、硬化物の物性を長期にわたり安定させる観点からは、シラノール縮合触媒を使用しないことが最も好ましい。シラノール縮合触媒を過剰に使用すると、エポキシ樹脂組成物が硬化するときに発泡が起こる傾向があり、硬化物の物性低下を招く原因となる。
【0083】
また、シラノール縮合触媒以外に、その他の配合成分としては、通常のエポキシ樹脂組成物に使用されるものであれば、特に限定されることなく使用できる。たとえば、シリカや炭酸カルシウムなどの充填剤、酸化カルシウムなどの脱水剤、水酸化アルミニウムなどの耐トラッキング低減剤・難燃剤、酸化アルミニウムのような放熱剤、シランカップリング剤、消泡剤、沈降防止剤、チキソ性付与剤、顔料や染料等の着色剤、体質顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定化剤(ゲル化防止剤)、可塑剤、レベリング剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、減粘剤、低収縮剤、有機質充填剤、熱可塑性樹脂、乾燥剤、分散剤等が挙げられる。また、繊維強化樹脂に使用される、ガラス繊維や炭素繊維なども使用できる。なかでも、シリカ、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムなどの無機物質は、界面接着性を改良する傾向であることから、特に好ましい。該無機物質の使用量は、エポキシ樹脂(B)100重量部に対して1~600重量部が好ましい。特にシランカップリング剤は、充填剤、接着基材、ガラス繊維や炭素繊維などと樹脂との接着性を改良することから、特に好ましい。具体例としては、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。シランカップリング剤の使用量は、エポキシ樹脂(B)100重量部に対して0.1~10重量部が好ましい。また、エポキシ樹脂組成物は、気泡を極力減らす必要があるので、消泡剤を配合中に添加することが好ましい。消泡剤としては、例えば、シリコーン系、フッ素系、アクリル系、ポリオキシエチレン系、ポリオキシプロピレン系等の消泡剤より適宜選択すればよい。具体的な例としては、ビックケミー社のBYK-A500やBYK-1790などを挙げることができる。消泡剤の使用量は、エポキシ樹脂(B)100重量部に対して、0.01~10重量部を使用することが好ましい。また、エポキシ樹脂組成物に充填剤などを用いた場合、その貯蔵安定性を高めることから、沈降防止剤を配合することが好ましい。沈降防止剤としては、エポキシ樹脂組成物のチキソ性を高める添加剤、例えばヒュームドシリカや微粉末有機ベントナイトなどが好ましい。沈降防止剤の使用量は、エポキシ樹脂(B)100重量部に対して0.1~10重量部使用することが好ましい。これらの沈降防止剤は、接着剤配合では、チキソ性付与剤として使用できる。使用量も同程度が好ましい。難燃剤としては、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの無機難燃剤、テトラブロモビスフェノールAやその変性体、テトラブロモフタレードなどのハロゲン系難燃剤、トリフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェートおよび反応型ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェートなどのリン系難燃剤、シリコーン系難燃剤などを挙げることができる。難燃剤は、エポキシ樹脂(B)100重量部に対して1~200重量使用することが好ましい。
【0084】
<エポキシ樹脂組成物の製法>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、分子内にアルコキシシリル基を少なくとも2個有し、ガラス転移温度が0℃以下であり、かつ数平均分子量600~5000であるアルコキシシリル変性ポリマー(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ硬化剤(C)およびコアシェルポリマー(D)を含む硬化性樹脂組成物である。
【0085】
前記配合において、コアシェルポリマー(D)を1次粒子の状態で前記エポキシ樹脂(B)に、一旦分散させた分散物を用いることが、前記エポキシ樹脂組成物の粘度を制御しやすい点で好ましい。
【0086】
コアシェルポリマー(D)を前記エポキシ樹脂(B)に1次粒子の状態で分散させた前記分散物を得る方法は、種々の方法が利用できるが、例えば水性ラテックス状態で得られたコアシェルポリマー(D)をエポキシ樹脂(B)と接触させた後、水等の不要な成分を除去する方法、コアシェルポリマー(D)を一旦有機溶剤に抽出後にエポキシ樹脂(B)と混合してから有機溶剤を除去する方法等が挙げられるが、国際公開第2005/028546号に記載の方法を利用することが好ましい。その具体的な製造方法は、順に、コアシェルポリマー(D)を含有する水性ラテックス(詳細には、乳化重合によってコアシェルポリマーを製造した後の反応混合物)を、20℃における水に対する溶解度が5%以上40%以下の有機溶媒と混合した後、さらに過剰の水と混合して、コアシェルポリマーを凝集させる第1工程と、凝集したコアシェルポリマー(D)を液相から分離・回収した後、再度有機溶媒と混合して、コアシェルポリマー(D)の有機溶媒溶液を得る第2工程と、有機溶媒溶液をさらにエポキシ樹脂(B)と混合した後、前記有機溶媒を留去する第3工程とを含んで調製されることが好ましい。
【0087】
エポキシ樹脂(B)は、23℃で液状であると、前記第3工程が容易となる為、好ましい。「23℃で液状」とは、軟化点が23℃以下であることを意味し、23℃で流動性を示すものである。
【0088】
上記の工程を経て得た、エポキシ樹脂(B)にコアシェルポリマー(D)が1次粒子の状態で分散した組成物(以下、1次粒子分散組成物ともいう)に、必要があれば、エポキシ樹脂(B)を更に加えて、1次粒子分散組成物を適宜希釈し、更に、アルコキシシリル変性ポリマー(A)やエポキシ硬化剤(C)を追加混合し、また必要があれば前記その他配合成分を混合する事により、コアシェルポリマー(D)が分散した本発明のエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0089】
一方、塩析等の方法により凝固させた後に乾燥させて得た、粉体状のコアシェルポリマー(D)は、3本ペイントロールやロールミル、ニーダー等の高い機械的せん断力を有する分散機を用いて、エポキシ樹脂(B)中に再分散することが可能である。この際、エポキシ樹脂(B)とコアシェルポリマー(D)の混合物に、高温で機械的せん断力を与えることで、コアシェルポリマー(D)がエポキシ樹脂(B)中に効率良く分散することを可能にする。分散させる際の温度は、50~200℃が好ましく、70~170℃がより好ましく、80~150℃が更に好ましく、90~120℃が特に好ましい。温度が50℃よりも小さいと、十分にコアシェルポリマー(D)が分散しない場合があり、200℃よりも大きいと、エポキシ樹脂(B)およびコアシェルポリマー(D)が熱劣化する場合がある。
【0090】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、アルコキシシリル変性ポリマー(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ硬化剤(C)およびコアシェルポリマー(D)を主成分と硬化成分の2液として混合して調製してもよい。例えば、アルコキシシリル変性ポリマー(A)、エポキシ樹脂(B)およびコアシェルポリマー(D)の混合成分を主成分とし、エポキシ硬化剤(C)を硬化成分としてから混合して本発明のエポキシ樹脂組成物を調製してもよいし、アルコキシシリル変性ポリマー(A)および/またはコアシェルポリマー(D)とエポキシ硬化剤(C)の混合成分を硬化剤成分としてから、エポキシ樹脂(B)からなる主成分と混合して本発明のエポキシ樹脂組成物を調製してもよい。
【0091】
<硬化物>
本発明には、上記エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物が含まれる。特定のアルコキシシリル変性ポリマー(A)とコアシェルポリマー(D)を併用することで、得られた硬化物は優れた接着性を有する。特に、硬化温度は60℃以上が好ましく、硬化物は良好な接着性が得られる。
【0092】
<用途>
本発明の組成物は、良好な接着性を有することから、接着剤、塗料、複合材などのさまざま用途に好適である。
【実施例
【0093】
以下、実施例および比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお下記実施例および比較例において「部」および「%」とあるのは、重量部または重量%を意味する。
【0094】
なお、以下の合成例、実施例および比較例における測定および試験はつぎのように行った。
【0095】
[1]ポリマー粒子の平均粒子径の測定
水性ラテックスに分散しているポリマー粒子の算術数平均粒子径(Mn)は、マイクロトラックUPA150(日機装株式会社製)を用いて測定した。脱イオン水で希釈したものを測定試料として用いた。
【0096】
[2]コアシェルポリマーのMEK不溶分量の測定
ラテックスから乾燥させて得られたコアシェルポリマーの2gを23℃にて、MEK100gに24時間浸漬した後にMEK不溶分を遠心分離した。得られた不溶分を乾燥させて重量を計り、コアシェルポリマーの重量に対するMEK不溶分の重量分率(%)を算出した。
【0097】
[3]せん断接着強度
JIS K 6850に従って、寸法:25×100×1.6mmの2枚の冷間圧延鋼板の間に、配合物を塗布し、貼り合せて、接着剤厚みを250μmとした。これを実施例に示した条件で硬化させた。その後、試験片を23℃で、試験速度1mm/分の条件で引張せん断接着試験を行なった。
【0098】
実施例および比較例において用いたアルコキシシリル変性ポリマー(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ硬化剤(C)およびコアシェルポリマー(D)を示す。なお、コアシェルポリマー(D)がエポキシ樹脂(B)に分散したものを分散物(E)とした。
【0099】
<ポリマー(A)>後述の合成例を参照
A-1:SPT3000、下記合成例1で述べられた、数平均分子量3000のポリオキシプロピレントリオールの末端をトリメトキシシリル基に変換したトリメトキシシリル末端ポリプロピレンオキシド。Tg:-55℃
A-2:SPD400、下記合成例2で述べられた、数平均分子量400のポリオキシプロピレンジオールの末端をトリメトキシシリル基に変換したトリメトキシシリル末端ポリプロピレンオキシド。Tg:-8℃。
A-3:SPD700、下記合成例3で述べられた、数平均分子量700のポリオキシプロピレンジオールの末端をトリメトキシシリル基に変換したトリメトキシシリル末端ポリプロピレンオキシド。Tg:-32℃。
A-4:SPD1000、下記合成例4で述べられた、数平均分子量1000のポリオキシプロピレンジオールの末端をトリメトキシシリル基に変換したトリメトキシシリル末端ポリプロピレンオキシド。Tg:-52℃。
A-5:SPD4000:下記合成例5で述べられた、数平均分子量4000のポリオキシプロピレンジオールの末端をトリメトキシシリル基に変換したトリメトキシシリル末端ポリプロピレンオキシド。Tg:-55℃。
A-6:PPT3000:下記合成例1で使用された、数平均分子量3000のポリオキシプロピレントリオール。末端は水酸基。Tg:-55℃。
A-7:SPD5500:下記合成例6で述べられた、数平均分子量5500のポリオキシプロピレンジオールの末端をトリメトキシシリル基に変換したトリメトキシシリル末端ポリプロピレンオキシド。Tg:-55℃。
【0100】
<エポキシ樹脂(B)>
B-1:BPADGE、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱化学(株)製jER828EL)
<エポキシ硬化剤(C)>
C-1:MTHPA-1%2E4MZ,メチルテトラヒドロフタル酸無水物(日立化成(株)製HN2200)に1%の2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業(株)製キュアゾール2E4MZ)硬化促進剤を混合したもの
C-2:DICY、ジシアンジアミド(エボニック製AMICURE CG-1200)
C-3:UR,1-フェニル-3,3-ジメチルウレア(エボニック製AMICURE UR)
<コアシェルポリマー(D)> 後述の合成例を参照
D-1:コアの主成分がブタジエンゴムコアであるコアシェルポリマー
<コアシェルポリマー(D)がエポキシ樹脂(B)に分散した分散物(E)>
後述の分散物(E-1)の調製例を参照。
【0101】
<充填剤(F)>
F-1:CMC-12S、結晶性シリカ、((株)龍森製、クリスタライトCMC-12S、メジアン径D50:6μm)
<接着促進剤(G)>
G-1:CTBN-Adduct、ブタジエンアクリルニトリルラバー(CTBN)がビスフェノールAジグリシジルエーテルに付加した物。CTBN含量40重量%(CVC社製 HyPox RA1340)
G-2:シランカップリング剤、Z-6040,3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(東レダウコーニング社製、Z-6040)
<消泡剤(H)>
H-1:BYK-1790、消泡剤(BYK社製)
<チキソ性付与剤(I)>
I-1:TS-720、ヒュームドシリカ(Cabot社製、CAB-O-SIL TS-720)
【0102】
(合成例1 トリメトキシシリル末端ポリプロピレンオキシド、SPT3000)
耐圧反応機中に、数平均分子量3000のポリオキシプロピレントリオール(三井化学(株)製アクトコール T-3000)100部を仕込み、窒素雰囲気下にした。つづいて、ポリオキシプロピレントリオールの水酸基の3.3倍当量のナトリウムメトキシド(NaOMe)をメタノール溶液で添加した。撹拌しながら減圧脱揮して、メタノールを留去した。窒素雰囲気下にもどしたのち、塩化アリル10.2部を滴下して4時間撹拌をしてアリル化を終了した。
【0103】
得られた未精製の末端にアリル基を有するポリプロピレンオキシド100部に対して、n-ヘキサン300部、水300部を混合撹拌した後、遠心分離により水を除去した。さらに、得られたヘキサン溶液に水300部を混合撹拌し、再度遠心分離により水を除去した後、ヘキサンを減圧脱揮により除去した。以上により、ポリマー末端の約90%がアリル基である数平均分子量が約3000の分岐ポリプロピレンオキシドを得た。
【0104】
得られたアリル末端ポリプロピレンオキシド100部に対して、トリメトキシシラン12部、白金ビニルシロキサン錯体の白金含量3重量%のイソプロパノール溶液100ppmを加えて、90℃で2時間反応させた。その後、脱揮することによりトリメトキシシリル末端ポリプロピレンオキシドを得た。
【0105】
(合成例2 トリメトキシシリル末端ポリプロピレンオキシド、SPD400)
撹拌機付きフラスコに数平均分子量400のポリオキシプロピレンジオール100部(三井化学(株)製アクトコール D-400)とメルカプト錫系触媒ネオスタンU-360(日東化成(株))30ppmを仕込み、窒素雰囲気下でγーイソシアネートプロピルトリメトキシラン103部を加えて、90℃で反応させた。IRスペクトルを測定して2280cm-1付近のイソシアネート基のピークが消失することを確認して反応を終了してトリメトキシシリル基末端ポリプロピレンオキシド(SPD400)を得た。
【0106】
(合成例3 トリメトキシシリル末端ポリプロピレンオキシド、SPD700)
撹拌機付きフラスコに数平均分子量700のポリオキシプロピレンジオール100部(三井化学(株)製アクトコール D-700)とメルカプト錫系触媒ネオスタンU-360(日東化成(株))30ppmを仕込み、窒素雰囲気下でγーイソシアネートプロピルトリメトキシラン59部を加えて、90℃で反応させた。IRスペクトルを測定して2280cm-1付近のイソシアネート基のピークが消失することを確認して反応を終了してトリメトキシシリル基末端ポリプロピレンオキシド(SPD700)を得た。
【0107】
(合成例4 トリメトキシシリル末端ポリプロピレンオキシド、SPD1000)
撹拌機付きフラスコに数平均分子量1000のポリオキシプロピレンジオール100部(三井化学(株)製アクトコール D-1000)とメルカプト錫系触媒ネオスタンU-360(日東化成(株))30ppmを仕込み、窒素雰囲気下でγーイソシアネートプロピルトリメトキシラン41部を加えて、90℃で反応させた。IRスペクトルを測定して2280cm-1付近のイソシアネート基のピークが消失することを確認して反応を終了してトリメトキシシリル基末端ポリプロピレンオキシド(SPD1000)を得た。
【0108】
(合成例5 トリメトキシシリル末端ポリプロピレンオキシド、SPD4000)
撹拌機付きフラスコに数平均分子量4000のポリオキシプロピレンジオール100部(三井化学(株)製アクトコール D-4000)とメルカプト錫系触媒ネオスタンU-360(日東化成(株))30ppmを仕込み、窒素雰囲気下でγーイソシアネートプロピルトリメトキシラン11部を加えて、90℃で反応させた。IRスペクトルを測定して2280cm-1付近のイソシアネート基のピークが消失することを確認して反応を終了してトリメトキシシリル基末端ポリプロピレンオキシド(SPD4000)を得た。
【0109】
(合成例6 トリメトキシシリル末端ポリプロピレンオキシド、SPD5500)
ポリオキシプロピレンジオールとして、数平均分子量5500のポリオキシプロピレンジオール(AGC(株)製プレミノールS4006)を使用した以外は合成例5と同様にしてトリメトキシシリル基末端ポリプロピレンオキシド(SPD5500)を得た。
【0110】
(合成例7 コアシェルポリマー)
7-1.コア層の形成
合成例7-1-1;ポリブタジエンゴムラテックス(R-1)の調製
耐圧重合機中に、脱イオン水200部、リン酸三カリウム0.03部、リン酸二水素カリウム0.25部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.002部、硫酸第一鉄・7水和塩(Fe)0.001部およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDS)0.2部を投入し、撹拌しつつ十分に窒素置換を行なって酸素を除いた後、ブタジエン(BD)100部を系中に投入し、45℃に昇温した。パラメンタンハイドロパーオキサイド(PHP)0.015部、続いてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.04部を投入し重合を開始した。重合開始から4時間目に、SDS0.3部、PHP0.01部、EDTA0.0015部およびFe0.001部を投入した。さらに重合から7時間目に、SDS0.4部を投入した。重合10時間目に減圧下残存モノマーを脱揮除去して重合を終了し、ポリブタジエンゴム粒子を含むラテックス(R-1)を得た。重合反応率は99%以上であった。得られたラテックスに含まれるポリブタジエンゴム粒子の数平均粒子径は0.14μmであった。
【0111】
7-2.コアシェルポリマー(D)の調製(シェル層の形成)
合成例7-2-1;コアシェルポリマー(D-1)を含有するラテックス(D-1LX)の調製
還流冷却器、窒素吹込口、モノマーと乳化剤の追加口、温度計を備えた5口ガラス容器に、合成例7-1-1で得たラテックス(R-1)1575部(ポリブタジエンゴム粒子518部相当)および脱イオン水315部を仕込み、窒素置換を行いながら60℃で撹拌した。EDTA0.024部、Fe0.006部、SFS1.2部を加えた後、グラフトモノマー(ブチルアクリレート(BA)57部、メチルメタクリレート(MMA)32部、グリシジルメタクリレート(GMA)3部)およびCHP0.4部の混合物を2時間かけて連続的に添加しグラフト重合した。添加終了後、更に2時間撹拌して反応を終了させ、コアシェルポリマー(D-1)のラテックス(D-1LX)を得た。重合反応率は99%以上であった。コアシェルポリマー(D-1)中のゴム層の割合は、仕込み量と反応率から85%であった。得られたラテックスに含まれるコアシェルポリマー(D-1)の数平均粒子径は0.15μmであり、MEK不溶分量は98%であった。
【0112】
7-3.コアシェルポリマー(D)がエポキシ樹脂(B-1)に分散した分散物(E-1)の調製
合成例7-3-1:エポキシ樹脂(B-1)ベースの分散物(E-1)の調製
25℃の1L混合槽にメチルエチルケトン(MEK)100部を導入し、撹拌しながら、前記合成例7-2-1で得られたコアシェルポリマーの水性ラテックス(D-1LX):コアシェルポリマー30部相当分を投入した。均一に混合後、水150部を60部/分の供給速度で投入した。供給終了後、速やかに撹拌を停止したところ、浮上性の凝集体および有機溶媒を一部含む水相からなるスラリー液を得た。次に、水相を槽下部の払い出し口より排出させた。得られた凝集体にMEK70部を追加して均一に混合し、コアシェルポリマー(D-1)が均一に分散した分散体を得た。この分散体に、エポキシ樹脂(B-1)70部を混合した。この混合物から、回転式の蒸発装置で、MEKを除去した。このようにして、エポキシ樹脂(B-1)にコアシェルポリマー(D-1)が30重量%分散した分散物(E-1)を得た。
【0113】
(実施例1~4、比較例1~6)
表1に示す処方にしたがって、各成分をそれぞれ計量し、撹拌装置(自転公転ミキサー、あわとり練太郎、株式会社シンキー製)を用いて均一に混合した。混合物の脱泡を減圧下で行い、エポキシ樹脂組成物を得た。得られた組成物を用いてせん断接着強度の評価を行った。なお、試験片作成時の硬化条件は、100℃で1時間、150℃で3時間であった。試験結果を表1に示す。
【0114】
【表1】



【0115】
表1から、実施例1~4のエポキシ樹脂組成物は、高い接着強度を示すことに加えて、凝集破壊が進行したため界面接着性に優れていることがわかる。一方、比較例1~6は、接着強度が低く、また、界面破壊が進行したため界面接着性に劣ることがわかる。
【0116】
また、実施例1と比較例5のエポキシ樹脂組成物の粘度を、BROOKFIELD社製デジタル粘度計DV-II+Pro型を用いて、スピンドルCPE-41にて、測定温度25℃、Shear Rate10「1/s」の条件で測定した。結果、実施例1の粘度は2570mPa・s、比較例5の粘度は4100mPa・sであった。
【0117】
(実施例5、比較例7~8)
表2に示す処方にしたがって、各成分をそれぞれ計量し、撹拌装置(自転公転ミキサー、あわとり練太郎、株式会社シンキー製)を用いて均一に混合した。混合物の脱泡を減圧下で行い、エポキシ樹脂組成物を得た。得られた組成物を用いてせん断接着強度の評価を行った。なお、試験片作成時の硬化条件は、170℃で30分時間であった。試験結果を表2に示す。
【0118】
【表2】



【0119】
表2から、実施例5のエポキシ樹脂組成物は、高い接着強度を示すことに加えて、凝集破壊が進行したため界面接着性に優れていることがわかる。一方、比較例7~8は、界面破壊が進行したため界面接着性に劣ることがわかる。
【0120】
(実施例6、比較例9~11)
表3に示す処方にしたがって、各成分をそれぞれ計量し、撹拌装置(自転公転ミキサー、あわとり練太郎、株式会社シンキー製)を用いて均一に混合した。混合物の脱泡を減圧下で行い、エポキシ樹脂組成物を得た。得られた組成物を用いてせん断接着強度の評価を行った。なお、試験片作成時の硬化条件は、100℃で1時間、150℃で3時間であった。試験結果を表3に示す。
【0121】
【表3】



【0122】
表3から、実施例6のエポキシ樹脂組成物は、高い接着強度を示すことに加えて、凝集破壊が進行したため界面接着性に優れていることがわかる。一方、比較例9及び11は、接着強度が低く、また、界面破壊が進行したため界面接着性に劣ることがわかる。また、比較例10は、凝集破壊が進行したものの、接着強度が十分ではなかった。