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特許7198786オファツムマブを用いた多発性硬化症の治療レジメンおよび治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】オファツムマブを用いた多発性硬化症の治療レジメンおよび治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20221222BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20221222BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZMD
A61P25/00
A61P25/28
A61K39/395 U
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020019337
(22)【出願日】2020-02-07
(62)【分割の表示】P 2018550539の分割
【原出願日】2017-08-11
(65)【公開番号】P2020100630
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2020-08-11
(31)【優先権主張番号】62/374,986
(32)【優先日】2016-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100131990
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 玲恵
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルストロム,エリック
(72)【発明者】
【氏名】サヴェリーヴァ プラッツ,マリーナ
(72)【発明者】
【氏名】カカリーカ ワイスコップ,アルギルダス ジョナス
(72)【発明者】
【氏名】カーン,ジョセフ マイケル
【審査官】淺野 美奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-506258(JP,A)
【文献】国際公開第2016/123329(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61P 25/00
A61P 25/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多発性硬化症(MS)の治療に用いるための、オファツムマブを含む医薬製剤であって、前記治療が、
a)負荷用量レジメン中、オファツムマブを、投与レジメンの0週目、1週目、および2週目において、3回の個別の20mgの用量で投与すること、および
b)維持用量レジメン中、オファツムマブを、投与レジメンの4週目から開始して1ヶ月毎に20mgの用量で投与すること
を含み、
前記負荷用量レジメンは、8細胞/μL以下のB細胞枯渇レベルを達成し、
前記維持用量レジメンは、8細胞/μL未満のB細胞枯渇レベルを維持する、
医薬製剤。
【請求項2】
8細胞/μL以下のB細胞枯渇レベルが、95%を上回る患者において達成される、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
a)負荷用量レジメン中、投与レジメンの1日目、7日目、および14日目において、オファツムマブが、3回の個別の20mgの用量で投与され、
b)その後、維持用量レジメン中、投与レジメンの28日目から開始して1ヶ月毎に、オファツムマブ20mgが投与される、請求項1または2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
皮下(s.c.)注射で投与され、好ましくは充填済みシリンジを用いて投与される、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
自己投与に適しており、任意に自己注射器を用いて投与される、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項6】
酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、アルギニン、EDTA、およびポリソルベート80を含み、好ましくはpH5.0~7.0に調整される、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項7】
オファツムマブが50mg/mLの濃度で投与される、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項8】
前記多発性硬化症が、再発型多発性硬化症(RMS)である、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項9】
前記再発型多発性硬化症が、再発寛解型多発性硬化症(RRMS)または二次性進行型多発性硬化症(SPMS)である、請求項に記載の医薬製剤。
【請求項10】
多発性硬化症の治療が、多発性硬化症の症状の進行を軽減または遅延させることを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項11】
多発性硬化症の治療が、多発性硬化症の進行を減速させることを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬製剤の製造におけるオファツムマブの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多発性硬化症(MS)を治療するための、抗CD20モノクローナル抗体で
あるオファツムマブの投与レジメンを対象とする。該投与レジメンでは、これまでに他の
抗CD20モノクローナル抗体を用いたものよりも低用量を用い、これによってオファツ
ムマブの皮下投与が可能となる。該投与レジメンは、負荷用量レジメンと、続く維持用量
レジメンも用いる。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(MS)は、炎症、脱髄、および軸索/ニューロン破壊を特徴とし、最終
的に重度の障害を招く中枢神経系の慢性の免疫介在性疾患である。
【0003】
標準的治療の第一選択療法には、僅かな有効性、良好な安全性プロファイル、および公
知の忍容性の問題を有する注射用化合物(インターフェロン-βおよびグラチラマー酢酸
塩)が含まれる。MSを治療するためのより有効な薬物は、ナタリズマブおよびフィンゴ
リモドである。ナタリズマブは、リンパ球上のα-4インテグリンに対するモノクローナ
ル抗体(mAb)であり、RMS患者における有効性が認められている(Polman et al.
(2006); Rudick et al. (2006))。しかし、ナタリズマブは、致命的な日和見感染(すな
わち、進行性多巣性白質脳症またはPML)のリスクがあるため、主に第二選択療法とし
ての使用に限定されている。フィンゴリモドは、経口用S1P受容体モジュレーターであ
り、再発性MSにも有効性が認められており、第一選択療法(例えば、US)または第二
選択療法(例えば、EU)のいずれかとして承認されている。フィンゴリモドは、プラセ
ボおよび現行の第一選択療法の1つである、インターフェロンβ-1aのIMのいずれと
比較しても、有効性が認められている(Kappos et al. (2010); Cohen et al. (2010))
。フィンゴリモドは、S1Pが関連する公知の安全性リスク(例えば、治療開始時に初回
投与モニタリングを必要とする徐脈性不整脈)、黄斑浮腫、高血圧、および肝臓のトラン
スアミナーゼ増加と関連する。
【0004】
第一選択療法が僅かな有効性のみを有するものの、MSを治療するための高度に有効な
薬物は、関連リスクを有することから考えて、第一選択療法と同程度またはそれを上回る
安全性プロファイルを伴う、高い有効性をもたらす医薬品および付随する投与レジメンを
同定する必要性が依然として残る。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、抗CD20抗体であるオファツムマブまたはその抗原結合断片によって、そ
の罹患患者における多発性硬化症(MS)を治療、抑制、または予防する方法であって、
オファツムマブまたはその抗体断片の少なくとも1回の皮下用量を該患者に投与すること
を含む方法を提供する。
【0006】
本明細書中に開示されているMSを治療する方法は、a)負荷用量レジメンであって、
最初の維持用量を投与する前に、少なくとも1回の負荷用量のオファツムマブを患者に投
与することを含む負荷用量レジメン中、オファツムマブまたはその抗原結合断片を、それ
を必要とする患者に投与すること;およびb)その後、維持レジメンであって、4週目お
よびその後4週間毎に、約3mg~約60mgのオファツムマブまたはその抗原結合断片
を患者に投与することを含む維持レジメン中、オファツムマブまたはその抗原結合断片を
、前記患者に投与することを含む。
【0007】
本明細書中に開示されているMSを治療する方法は、a)負荷用量レジメンであって、
最初の維持用量を投与する前に、少なくとも1回の負荷用量のオファツムマブを患者に投
与することを含む負荷用量レジメン中、オファツムマブまたはその抗原結合断片を、それ
を必要とする患者に投与すること;およびb)その後、維持レジメンであって、4週目お
よびその後4週間毎に、約3mg、10mg、20mg、30mg、または60mgのオ
ファツムマブまたはその抗原結合断片を患者に投与することを含む維持レジメン中、オフ
ァツムマブまたはその抗原結合断片を、前記患者に投与することを含む。
【0008】
本明細書中に開示されているMSを治療する方法は、a)負荷用量レジメンであって、
最初の維持用量を投与する前に、少なくとも3回の負荷用量のオファツムマブを患者に投
与することを含む負荷用量レジメン中、オファツムマブまたはその抗原結合断片を、それ
を必要とする患者に投与すること;およびb)その後、維持レジメンであって、4週目お
よびその後4週間毎に、約3mg、10mg、20mg、30mg、または60mgのオ
ファツムマブまたはその抗原結合断片を患者に投与することを含む維持レジメン中、オフ
ァツムマブまたはその抗原結合断片を、前記患者に投与することを含む。
【0009】
本明細書中に開示されているMSを治療する方法は、
a)負荷用量レジメンであって、最初の維持用量を投与する前の0日目、7日目、およ
び14日目に、3~60mg、または約3mg、もしくは約10mg、もしくは約20m
g、もしくは約30mg、もしくは約60mgのオファツムマブを患者に投与することを
含む負荷用量レジメン中、オファツムマブまたはその抗原結合断片を、それを必要とする
患者に投与すること(好ましくは、該負荷用量は20mgのオファツムマブである);お
よび
b)その後、維持レジメンであって、4週目およびその後4週間毎に、約3mg、もし
くは約10mg、もしくは約20mg、もしくは約30mg、もしくは約60mgのオフ
ァツムマブまたはその抗原結合断片を患者に投与することを含む維持レジメン中、オファ
ツムマブまたはその抗原結合断片を、前記患者に投与すること(好ましくは、該維持用量
は20mgのオファツムマブである)を含む。
【0010】
本明細書中に開示されているMSを治療する方法は、a)負荷用量レジメンであって、
最初の維持用量を投与する前の0日目、7日目、および14日目に、20mgのオファツ
ムマブを患者に投与することを含む負荷用量レジメン中、オファツムマブまたはその抗原
結合断片を、それを必要とする患者に投与すること;およびb)その後、維持レジメンで
あって、4週目およびその後4週間毎に、約20mgのオファツムマブまたはその抗原結
合断片を患者に投与することを含む維持レジメン中、オファツムマブまたはその抗原結合
断片を、前記患者に投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ベースラインにおけるGdE病変の数別に、24週目における新規GdE病変の平均累積体積および4~20週間にわたる分類された平均CD19 B細胞数を示す図である。
図2図2は、ベースラインに対する百分率として表記されたCD19 B細胞の平均数を示す図である(半対数スケール)(ITT集団)。
図3図3は、負荷用量レジメンに対するCD19細胞の枯渇を予測するモデリング試験の結果を示す図である。
図4図4は、維持用量に対するCD19細胞の枯渇を予測するモデリング試験の結果を示す図である。
図5図5は、治療群別に、新規GdE病変の数の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
多発性硬化症(MS)は、炎症、脱髄、および軸索/ニューロン破壊を特徴とし、最終
的に重度の障害を招く中枢神経系(CNS)の慢性の免疫介在性疾患である。
【0013】
MSにおける免疫介在性の損傷は、単にT細胞のみに関わるものではないという証拠が
蓄積されつつある。具体的には、MSにおいて、免疫介在性の組織病理に対する寄与にお
けるB細胞の初期の役割が明らかとなっている(Archelos et al. 2000; Frohman et al.
2006; McFarland 2008)。B細胞は、免疫応答の調節における不可欠な機能を有し、C
D4+T細胞活性化のための細胞アジュバントとして働く自己抗原提示によって(Bouazi
z et al. 2007)、またT細胞の機能および自己抗体の産生に加えて、サイトカイン産生
を介した炎症を調節することによって(Lund 2008)、疾患の病因に寄与すると考えられ
る。B細胞は、MS患者の慢性脱髄巣(chronic plaques)、脱髄領域、および脳脊髄液
中に存在する(Klaus et al. 2013)。
【0014】
リツキシマブ(Hauser et al. 2008)およびオクレリズマブ(Kappos et al. 2011)の
第2相試験から得られた臨床的証拠から、これらの薬剤がB細胞を枯渇させることによっ
て、再発性MS患者に対するMRIで測定された炎症活動が著しく縮小することが示され
た。近年、オクレリズマブの有効性が、RMS患者を対象とした2つの第3相試験で確認
された(Hauser et al. 2015; Hauser et al., 2017)。これらの試験から、2年間にわ
たり、オクレリズマブが、インターフェロンβ1aに対して、有意に再発率を低下させ、
MRI上の疾患活動を縮小させ、また障害が悪化するまでの期間を延長させたことが示さ
れた。
【0015】
MSを治療するためにリツキシマブおよびオクレリズマブのような抗CD20モノクロ
ーナル抗体を用いることに関連した問題があると思われる。第1に、リツキシマブはキメ
ラ抗体であり、キメラ抗体は、そのヒト化対応物(オクレリズマブ)および完全ヒト対応
物(オファツムマブ)よりも免疫原性が高い。さらに、リツキシマブおよびオクレリズマ
ブを用いるような、高用量レジメンは、多くの区画におけるB細胞の完全な枯渇を招く。
同様に、このことによって、より正確で可逆的なB細胞の枯渇をもたらす抗CD20モノ
クローナル抗体の用量を用いたレジメンで生じるよりも、感染症の発生率が上昇し、また
B細胞の作用を効果的に管理する能力が同時に失われる可能性がある。さらに、高用量の
リツキシマブおよびオクレリズマブは、点滴静注として投与されるため、診療所で医療従
事者によって投与される必要があり、これは、輸注反応の高い発生率を招く可能性がある
(Hauser et al. 2008; Hauser et al., 2015)。MSを治療するために「癌のような」
高用量B細胞枯渇レジメンを用いることの不都合な面を踏まえると、同等またはより高い
有効性を有する抗CD20モノクローナル抗体によってMSを治療するための、より便利
でより安全なレジメンを発見することは、有益であると予想される。
【0016】
したがって、同様の作用機序を有し、高い有効性、許容し得る安全性プロファイル、お
よび自己投与の利便性を有する、B細胞の病的状態(pathology)を標的とする進歩した
治療の必要性は、いまだ満たされていない。
【0017】
オファツムマブは、慢性リンパ性白血病患者の治療に対して承認されたヒト抗CD20
モノクローナル抗体(mAb)である(Arzerra(登録商標))。B細胞に対する
オファツムマブの作用は、リツキシマブおよびオクレリズマブと同様である。オファツム
マブは、抗CD20モノクローナル抗体(mAb)であるリツキシマブが認識する抗原決
定基のN近位、CD20+分子の2つの細胞外ドメイン上の細胞膜近くに位置する特有の
抗原決定基を認識する。オファツムマブがCD20に結合することによって、(リツキシ
マブとは異なり)アポトーシスによるものではなく、主に、補体依存性細胞傷害(CDC
)および抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)を介して、B細胞の溶解が誘導され
る。臨床試験で観察されたオファツムマブに対する抗薬物抗体(ADA)の発生率が極め
て低いことによって確認されるとおり(複数の腫瘍試験において患者の1%未満、Arz
erra(登録商標)US処方情報、2016年)、完全ヒト抗体(Ab)として、オフ
ァツムマブは、免疫原性である可能性が低いと予測される。
【0018】
オファツムマブは、キメラ抗CD20 MAbであるリツキシマブ(RTX)とは異な
る、CD20分子上の新規の抗原決定基を標的とする。RTX試験では、静脈内(IV)
高用量(用量1000mgを14日間隔で2回)が用いられ、これは極めて急速なB細胞
の溶解を招き、IV副腎皮質ステロイド剤(CS)の前投与の使用にもかかわらず、輸注
反応を生じる結果となった。オファツムマブに関する最初の試験は、関節リウマチ(RA
)に対するオファツムマブの低用量皮下(SC)製剤の使用を検討するための第1/第2
相試験であって、CSを投与することなく、該RTX試験でみられたよりも制御されたB
細胞の枯渇をもたらす可能性のある試験であった。主要目的は、メトトレキサート(MT
X)が基礎投与されている関節リウマチ(RA)患者における、オファツムマブの単回S
C用量の安全性および忍容性を検討することであった。副次目的は、標的の末梢B細胞の
枯渇を達成するための最低用量、薬力学的用量反応曲線、およびB細胞充足のプロファイ
ルを検討することを含む。安定した用量のMTX投与中のRA患者を対象とした本試験で
は、30、60、または100mgのオファツムマブSC用量によって、末梢B細胞が完
全に枯渇し、その状態が持続する結果となった。60mgまでの単回用量は、忍容性があ
り、CS前投与を追加することなく、B細胞の枯渇を達成する方法を提供すると思われる
。本試験によって、末梢B細胞の枯渇の持続期間は、抗CD20抗体であるオファツムマ
ブ(オファツムマブ)の用量に伴って延長することが立証された。
【0019】
オファツムマブは、MS患者を対象とした試験も行われている。オファツムマブは、R
RMS患者を対象とした2つの第2相試験で評価されている(OMS115102および
OMS112831/MIRROR試験)。OMS115102試験は、48週間(24
週間クロスオーバー)、二重盲検、プラセボ対照試験であり、RRMS患者38名にiv
投与したオファツムマブの作用を評価するものであった(Soerensen et al. 2014)。該
試験は、各コホートにおいて、2:1の割合でオファツムマブまたはプラセボに無作為に
割り付けられた患者12名からなる3つの用量コホート(100mg、300mg、70
0mg)からなった。24週間後、オファツムマブ投与中の患者をプラセボに切り替え、
プラセボ投与中の患者を、該患者のコホートにおける用量のオファツムマブに切り替え、
24週間試験を継続した(24~48週目)。該試験は、両治療期間で評価された各用量
レベルでオファツムマブをiv投与することによって、循環B細胞数が激減し、MRI上
の病変活動が抑制される(病変活動がプラセボに対して96%まで縮小)結果となったこ
とを示した(Teeling et al. (2004), Blood 104(6):1793-800)。
【0020】
OMS112831/MIRRORは、第2b相、48週間試験(24週間二重盲検治
療フェーズ、その後24週間追跡フェーズ)であり、再燃寛解型多発性硬化症(RRMS
)に対する広範囲の反復用量における皮下用オファツムマブの有効性および安全性を検討
するものであった(Bar-Or, 2016)。MIRROR(MRI study In RRM
S:オファツムマブレジメンの評価)と呼ばれる本試験において、患者に、オファツムマ
ブ3mg、30mg、もしくは60mgを12週間毎(q12w)、またはオファツムマ
ブ60mgを4週間毎(q4w)に投与した。高用量のオファツムマブ(30mgおよび
60mg)に対する忍容性が、初回用量、低用量、調整用量のオファツムマブ投与によっ
て改善され得るかどうかを評価するため(理論的にはB細胞の溶解が緩徐となり、またサ
イトカイン放出反応を低下させる可能性がある)、30mgをq12w、60mgをq1
2w、および60mgをq4wの用量群の患者を無作為に割り付け(1:1)、0週目に
プラセボまたは調整用量のオファツムマブ3mgのいずれかを投与した。
【0021】
主要評価項目は、0~12週目の期間における、脳磁気共鳴画像(MRI)上の新規ガ
ドリニウム増強病変の累積数であった。他の評価項目には、
(i)他の時点における新規Gd増強病変の累積数;
(ii)12週目および24週目のa)新規Gd増強病変、b)新規/新たに拡大した
T2病変、およびc)T1低強度病変の総体積;
(iii)再発のない患者の割合;
(iv)総合障害度スケール(EDSS)のスコア;
(v)多発性硬化症機能評価(MSFC)およびその構成要素のスコア;
(vi)改変疲労影響スケール(MFIS);ならびに
(vii)オファツムマブの初回調整用量の使用についての評価
が含まれた。
【0022】
オファツムマブの累積用量が30mg以上での事後分析において、オファツムマブは、
新規ガドリニウム増強病変の平均累積数を、0~12週目の期間ではプラセボに対して6
5%(p<0.001)、4~12週目の期間ではプラセボに対して90%以上(p<0
.001)減少させた。オファツムマブは、0~12週目の期間における新規/新たに拡
大したT2病変の累積を、プラセボに対して減少させ(60~72%、p≦0.002)
、またCD19 B細胞を用量依存的に枯渇させた。0~12週目の期間に、プラセボを
投与されている患者の9/67(13%)に対して、オファツムマブを投与されている患
者の17/164(10%)が再発した。明らかに、3mgの調整用量を投与することに
利点はなかった。包括的に、これらの結果から、オファツムマブSCは、MS患者を対象
とした過去の試験よりも著しく低い用量で、脳MRI上の新規病変の出現を抑制し得るこ
とが示される。該結果は、速やかで、用量および投与頻度に依存的なB細胞数の減少も実
証したが、この作用は3mg q12レジメンではあまり顕著ではなかった。月1度の投
与では、投与間の期間にB細胞充足の兆候はみられなかった。30mgおよび60mgを
12週間毎のいずれにおいても、再投与前の血液区画におけるB細胞抑制が、およそ95
%であった。投与が中止されると、すべての治療群において、高用量i.v.抗CD20
抗体と比較して、60週間にわたる追跡期間に比較的速やかなB細胞の再増殖が示された
。治療群別のCD19+B細胞の阻害を図1に示す。月1度の投与では、投与間の期間に
B細胞充足の兆候はみられなかったものの、30および60mgを12週間毎のいずれに
おいても、再投与前のB細胞抑制が、およそ75%であった。半対数スケールにおいて、
投与が中止されると、パラレルの増殖曲線(図1)で証明されるとおり、すべての治療群
において、B細胞の再増殖率は同程度であった。オファツムマブによる新規Gd増強およ
びT2病変の持続的な抑制は、末梢B細胞の最大枯渇をもたらす用量の他の抗CD20
mAbによって実証された作用と一致する(von Budingen et al. 2012; Bleeker et al.
2008)。
【0023】
包括的に、オファツムマブは、RRMS患者に対して安全であり、良好な忍容性を示し
た。オファツムマブの安全性プロファイルは過去のデータと一致した;新規のシグナルは
報告されなかった。
【0024】
s.c.オファツムマブを用いたOMS112831/MIRROR試験において、オ
ファツムマブ用量群全体で最も一般的に報告されたAEは、注射関連反応であった(オフ
ァツムマブ群52%、プラセボ群15%)。注射関連反応は、主に初回用量後に生じ、次
の投与時には軽減し、その大半は重症度が軽度/中等度(事象の97%)であった。尿路
および気道の感染を含む、感染に関連するAEの全体的な発生率に治療群間の著しい差異
はなかった。重篤な有害事象(SAE)の報告はほとんどなかった。これらは、主に全身
的な注射関連反応であり(患者3名)、すべて1日目に60mgのオファツムマブ用量群
で発生した。該試験期間に、日和見感染の症例報告はなかった。
【0025】
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」に加えて「からなる」も包
含し、例えば、X「を含む」組成物は、Xのみからなるか、または何か別の物を含むこと
もあり、例えば、X+Yである。
【0026】
数値xに関して「約」という用語は、文脈に別段の指示がない限り、+/-10%を意
味する。
【0027】
本明細書で用いる場合、「免疫グロブリン」という用語は、2対のポリペプチド鎖、す
なわち1対の低分子量の軽(L)鎖および1対の重(H)鎖からなり、4つの鎖すべての
間の連結がジスルフィド結合である、構造上関連する糖タンパク質のクラスを指す。免疫
グロブリンの構造は十分に特徴付けられている。例として、Fundamental Immunology Ch.
7 (Paul, W., ed., 2nd ed. Raven Press, N.Y. (1989))を参照されたい。簡潔に述べる
と、各重鎖は、通常、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)および重鎖定常領域を含
む。重鎖定常領域、すなわちCHは、通常、3つのドメイン、CH1、CH2、およびC
H3を含む。各軽鎖は、通常、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)および軽鎖定常
領域を含む。軽鎖定常領域、すなわちCLは、通常、1つのドメインを含む。VHおよび
VL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在し、相補
性決定領域(CDR)とも呼ばれる、超可変性の領域(または配列が超可変および/もし
くは構造的に定義されたループの形態であることのある超可変領域)にさらに細分され得
る。VHおよびVLそれぞれは、通常、3つのCDRおよび4つのFRから構成され、ア
ミノ末端からカルボキシ末端まで、次の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、F
R3、CDR3、FR4で配列されている(さらにChothia and Lesk J. Mol. Biol. 196
, 901-917 (1987)を参照)。通常、この領域のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.
, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service
, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)に記載されている方法によっ
て行われる(本明細書において、KabatにおけるまたはKabatによる可変ドメイ
ン残基の番号付けのような語句は、重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインに対するこ
の番号付け方式を指す)。この番号付け方式を用いて、1つのペプチドの実際の線状アミ
ノ酸配列は、可変ドメインのFRまたはCDRの短縮またはそれへの挿入に対応して、よ
り少ないまたは追加のアミノ酸を含有してもよい。例えば、重鎖可変ドメインは、VH
CDR2の残基52の後に単一のアミノ酸挿入物(例として、Kabatによる残基52
a)および重鎖FR残基82の後に挿入された複数の残基(例として、Kabatによる
残基82a、82b、および82cなど)を含んでもよい。残基のKabat番号付けは
、所定の抗体について、該抗体の配列の相同領域で、「標準」のKabatにより番号付
けされた配列とアラインメントすることによって決定され得る。
【0028】
本明細書で用いる場合、「抗体」という用語は、典型的な生理的条件下で、少なくとも
約30分間、少なくとも約45分間、少なくとも約1時間、少なくとも約2時間、少なく
とも約4時間、少なくとも約8時間、少なくとも約12時間、約24時間以上、約48時
間以上、約3、4、5、6、7日間もしくはそれ以上など、または他のいずれか妥当な機
能的に定義された期間のような(抗原に結合する抗体に関連する生理的反応を誘導、促進
、増強、および/もしくはモジュレートするために十分な時間、ならびに/または抗体が
Fc介在性エフェクター活性を回復させるために十分な時間のような)有意な期間、抗原
に特異的に結合する能力を持つ免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子の断片、または
そのいずれかの誘導体を指す。本明細書で用いる場合、抗体の「抗原結合部分」という用
語は、特異的に抗原(例えば、CD20)に結合する能力を保持する抗体の断片を指す。
抗体の抗原結合機能は、完全長抗体の断片によって発揮され得ることが示されている。抗
体の「抗原結合部分」という用語の範囲内に包含される結合断片の例には、V、V
CL、およびCH1ドメインからなる一価の断片であるFabフラグメント;ヒンジ領域
でジスルフィド架橋によって連結した2つのFab断片を含む二価の断片であるF(ab
)2断片;VおよびCH1ドメインからなるFd断片;抗体の単一アームのVおよび
ドメインからなるFv断片;VドメインからなるdAb断片(Ward et al., 1989
Nature 341:544-546);ならびに単離されたCDRが含まれる。
【0029】
免疫グロブリン分子の重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメイン
を含有する。抗体の定常領域は、免疫系の種々の細胞(エフェクター細胞など)および補
体活性化の古典的経路における第一成分であるC1qのような補体系の成分を含む、宿主
組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0030】
上記のように、本明細書で用いる場合、「抗体」という用語は、特に明記しない、また
は文脈によって明確に否定されない限り、特異的に抗原に結合する能力を保持した、酵素
的切断、ペプチド合成、および組換え技術のような、任意の公知の技術によって得られる
抗体の断片を含む。抗体の抗原結合機能は、完全長(完全な)抗体の断片によって発揮さ
れ得ることが示されている。「抗体」という用語の範囲内に包含される抗原結合断片の例
には、以下に限定されないが、(i)VL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる
一価の断片であるFabフラグメント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって
連結した2つのFab断片を含む二価の断片であるF(ab)2およびF(ab’)2断
片;(iii)VHおよびCH1ドメインから実質的になるFd断片;(iv)抗体の単
一アームのVLおよびVHドメインから実質的になるFv断片;(v)VHドメインから
実質的になり、ドメイン抗体(Holt et al. (November 2003) Trends Biotechnol. 21(11
):484-90)とも呼ばれるdAb断片(Ward et al., Nature 341, 544-546 (1989));(
vi)ラクダ科動物抗体またはナノボディ(Revets et al. (January 2005) Expert Opin
Biol Ther. 5(1):111-24)、(vii)VH CDR3のような単離された相補性決定
領域(CDR)、(viii)国際公開第2007/059782号で開示されている一
価の抗体であるUniBody(商標)、(ix)単鎖抗体または単鎖Fv(scFv)
(例として、Bird et al., Science 242, 423-426 (1988)およびHuston et al., PNAS US
A 85, 5879-5883 (1988)を参照)、(x)単一特異性または二重特異性であり得るダイア
ボディ(scFv二量体)(ダイアボディの詳細のため、例として、PNAS USA 90(14), 6
444-6448 (1993)、欧州特許出願公開第404097号、または国際公開第93/111
61号を参照)、トリアボディ、またはテトラボディが含まれる。このような断片は、一
般に抗体の定義の範囲内に含まれるが、それらは、まとめてかつそれぞれ独立して、異な
る生物学的性質および有用性を示す、本発明の独自の特徴である。本発明の文脈における
これらのおよび他の有用な抗体断片は、本明細書でさらに検討される。
【0031】
抗体という用語が、一般にモノクローナル抗体に加えてポリクローナル抗体を含むこと
は理解されるべきである。該抗体は、ヒト、ヒト化、キメラ、マウスなどの抗体であり得
る。生成すると、抗体は任意のアイソタイプを有することできる。
【0032】
本明細書で用いる場合、「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列
に由来する可変および定常領域を有する抗体を含むことが意図されている。本発明のヒト
抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基を含
んでもよい(例として、in vitroランダムもしくは部位特異的突然変異誘発また
はin vivo体細胞突然変異によって導入された変異)。しかし、本明細書で用いる
場合、「ヒト抗体」という用語は、マウスのような別の哺乳動物種の生殖系列に由来する
CDR配列が、ヒトフレームワーク配列に移植された抗体を含むことは意図されていない
【0033】
本明細書で用いる場合、ヒト抗体は、該抗体が、ヒト免疫グロブリン配列を用いた方式
から、例として、ヒト免疫グロブリン遺伝子を有する遺伝子導入マウスを免疫することに
よって、またはヒト免疫グロブリン遺伝子ライブラリーをスクリーニングすることによっ
て得られる場合、特定の生殖系列配列「に由来する」。またこの選択されるヒト抗体は、
該生殖系列免疫グロブリン遺伝子によってコードされたアミノ酸配列と、少なくとも90
%、少なくとも95%など、例として、少なくとも96%、少なくとも97%など、例と
して、少なくとも98%、または少なくとも99%などのアミノ酸配列が同一である。通
常、特定のヒト生殖系列配列に由来するヒト抗体は、該生殖系列免疫グロブリン遺伝子に
よってコードされたアミノ酸配列との、アミノ酸の違いが10個以下、5個以下など、例
として、アミノ酸の違いが4、3,2、または1個以下であることを示すと予想される。
VH抗体配列に関して、該VH CDR3ドメインは、このような比較に含まれない。
【0034】
「キメラ抗体」という用語は、1つの抗体からの1つまたは複数の領域および1つまた
は複数の他の抗体からの1つまたは複数の領域を含有する抗体を指す。「キメラ抗体」と
いう用語は、一価、二価、または多価の抗体を含む。一価キメラ抗体は、ジスルフィド架
橋を介してキメラL鎖と結合したキメラH鎖によって形成される二量体(HL)である。
二価キメラ抗体は、少なくとも1つのジスルフィド架橋を介して結合した2つのHL二量
体によって形成される四量体(H2L2)である。多価キメラ抗体は、例えば、2+結合
部位(例として、IgM H鎖またはμ鎖から)を有する1つの分子に組み立てるCH領
域を使用することによって製造してもよい。通常、キメラ抗体は、その重鎖および/また
は軽鎖の一部が、特定の種に由来する、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属
する抗体の対応する配列と同一または相同であるが、該鎖の残りの部分が、別の種に由来
する、または別の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または
相同である抗体、さらに、望ましい生物学的活性を示す限りにおいて、このような抗体の
断片も指す(例として、米国特許第4,816,567号を参照;さらにMorrison et al
., PNAS USA 81, 6851-6855 (1984)を参照)。キメラ抗体は、当該分野で公知の組換え工
程によって製造される(例として、Cabilly et al., PNAS USA 81, 3273-3277 (1984)、M
orrison et al., PNAS USA 81, 6851-6855 (1984)、Boulianne et al., Nature 312, 643
-646 (1984)、欧州特許出願公開第125023号、Neuberger et al., Nature 314, 268
-270 (1985)、欧州特許出願公開第171496号、欧州特許出願公開第173494号
、国際公開第86/01533号、欧州特許出願公開第184187号、Sahagan et al.
, J. Immunol. 137, 1066-1074 (1986)、国際公開第87/02671号、Liu et al., P
NAS USA 84, 3439-3443 (1987)、Sun et al., PNAS USA 84, 214-218 (1987)、Better et
al., Science 240, 1041-1043 (1988)、およびHarlow et al., Antibodies: A Laborato
ry Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., (1988)
を参照)。
【0035】
「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト抗体に由来する最小限の配列を含有するヒト抗体
を指す。通常、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、該レシ
ピエントの超可変領域からの残基は、望ましい特異性、親和性、および能力を有する、マ
ウス、ラット、ウサギ、またはヒト以外の霊長類のような非ヒト種の超可変領域からの残
基(ドナー抗体)によって置き換えられているヒト免疫グロブリンである。
【0036】
さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体にはない残基を含んでいて
もよい。これらの改変は、抗体の性能をさらに改良するために行われる。一般的に、ヒト
化抗体は、少なくとも1つ、通常は2つの可変ドメインの実質的にすべてを含むと考えら
れ、該可変ドメインの超可変ループのすべてまたは実質的にすべては、非ヒト免疫グロブ
リンの超可変ループに対応し、該可変ドメインのFR領域のすべてまたは実質的にすべて
は、ヒト免疫グロブリン配列のFR領域である。ヒト化抗体は、任意選択で、少なくとも
ヒト免疫グロブリン定常領域の一部を含む場合もある。さらなる詳細については、Jones
et al., Nature 321, 522-525 (1986)、Riechmann et al., Nature 332, 323-329 (1988)
、およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2, 593-596 (1992)を参照されたい。
【0037】
「CD19」という用語は、ヒトでは、CD19遺伝子によってコードされ、白血球の
1種であるB細胞の表面上にみられるタンパク質である、Bリンパ球抗原CD19(CD
19=分化抗原群19)を指す。「B細胞」という用語は、白血球の1種を指す。B細胞
はBリンパ球としても公知である。これは、抗体を分泌することによって適応免疫系の体
液性免疫成分中で機能する。さらに、B細胞は抗原を提示し(これは、プロフェッショナ
ル抗原提示細胞(APC)としても分類される)、サイトカインを分泌する。本明細書で
用いる場合、「CD19細胞」および「B細胞」は、同種の細胞を指す。
【0038】
「患者」という用語は、ヒト患者を指す。
【0039】
本明細書で用いる場合、「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」
という用語は、単一の分子組成物の抗体分子の製剤を指す。モノクローナル抗体組成物は
、特定の抗原決定基に対する単一の結合特異性および親和性を示す。したがって、「ヒト
モノクローナル抗体」という用語は、単一の結合特異性を示し、ヒト生殖系列免疫グロブ
リン配列に由来する可変および定常領域を有する抗体を指す。ヒトモノクローナル抗体は
、ハイブリドーマによって生成されてもよく、これには、遺伝子導入マウスのような遺伝
子導入または染色体導入非ヒト動物から得られ、ヒト重鎖導入遺伝子および軽鎖導入遺伝
子を含むゲノムを有し、不死化細胞に融合されたB細胞が含まれる。
【0040】
本明細書で用いる場合、「組換えヒト抗体」という用語は、(a)ヒト免疫グロブリン
遺伝子を遺伝子導入もしくは染色体導入された動物(マウスなど)またはその動物から調
製されたハイブリドーマから単離される抗体(本明細書の別の場所にさらに記載されてい
る)、(b)該抗体を発現するように形質転換された宿主細胞、トランスフェクトーマな
どから単離される抗体、(c)組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離さ
れる抗体、および(d)ヒト免疫グロブリン遺伝子配列を他のDNA配列にスプライシン
グすることを含む任意の他の手段によって、調製、発現、創造、または単離される抗体の
ような、組換え手段によって、調製、発現、創造、または単離されるすべてのヒト抗体を
含む。このような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変お
よび定常領域を有する。しかし、特定の実施形態では、このような組換えヒト抗体をin
vitro突然変異誘発(または、ヒトIg配列を遺伝子導入された動物を用いる場合
、in vivo体細胞突然変異誘発)に用いてもよく、したがって、該組換え抗体のV
HおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VHおよびVL配列に由来する、かつ
関連するものの、in vivoでヒト抗体生殖系列レパートリー内に本来存在しないと
予想される配列である。
【0041】
CD20分子(ヒトBリンパ球制限分化抗原またはBp35とも呼ばれる)は、分子量
がおよそ35kDであり、プレBおよび成熟Bリンパ球上に位置する疎水性膜貫通タンパ
ク質である(Valentine et al. (1989) J. Biol. Chem. 264(19):11282-11287;およびEi
nfield et al. (1988) EMBO J. 7(3):711-717)。CD20は、末梢血またはリンパ器官
からの90%を超えるB細胞の表面上に認められ、また初期のプレB細胞発達の間に発現
され、形質細胞分化まで残存する。CD20は、正常B細胞と悪性B細胞のいずれにも存
在する。具体的には、CD20は、90%を超えるB細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)
上に発現されるが(Anderson et al. (1984) Blood 63(6):1424-1433)、造血幹細胞、プ
ロB細胞、正常形質細胞、または他の正常組織では認められない(Tedder et al. (1985)
J. Immunol. 135(2):973-979)。
【0042】
CD20タンパク質のカルボキシル末端領域の85個のアミノ酸は、細胞質内に位置す
る。この領域の長さは、それぞれ、3、3、28、15、および16個のアミノ酸である
比較的短い細胞質内領域を有するIgM、IgD、およびIgGの重鎖、または組織適合
抗原クラスIIαもしくはβ鎖のような、他のB細胞特異的表面構造の長さとは対照的で
ある(Komaromy et al. (1983) NAR 11:6775-6785)。カルボキシル末端の最後の61個
のアミノ酸のうち、2個のみが塩基性残基であるのに対し、21個は酸性残基であり、こ
れは、この領域が強力な正味の負電荷を有することを示唆する。GenBank登録番号
はNP_690605である。
【0043】
本発明の抗CD20抗体であるオファツムマブは、経口、経鼻、吸入、気管支内、肺胞
内、局所(頬側、経皮、および舌下を含む)、直腸、膣内、および/または非経口経路の
ような、任意の適当な経路を介して投与されてもよい。一実施形態では、本発明の医薬組
成物は、通常、注射によって皮下(s.c.)投与される。一実施形態では、自己注射器
を用いて、オファツムマブを含む医薬組成物をSC投与することが可能である。本発明に
従った使用に適当な自己注射器の非限定的な例はSensoready(登録商標)ペン
である。
【0044】
本明細書で用いる場合、「非経口投与」および「非経口的に投与される」という語句は
、腸内および局所投与以外の、通常、注射による投与様式を意味し、表皮、静脈内、筋肉
内、動脈内、髄腔内、関節包内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、腱内、経気管、皮下、
表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、頭蓋内、胸腔内、硬膜外、および胸骨内の
注射および注入を含む。
【0045】
本発明の一実施形態では、オファツムマブ組成物は、ヒトへの静脈内投与に適合した医
薬組成物として、所定の手順に従って製剤化される。通常、静脈内投与のための組成物は
、滅菌等張水性緩衝液中の溶液である。適当ならば、該組成物は、可溶化剤および該注射
部位の疼痛を緩和するためのリグノカインのような局所麻酔薬を含んでもよい。一般に、
該処方成分は、例えば、凍結乾燥粉末または水を含まない濃縮物として、活性薬剤の含量
を表示したアンプルまたは小袋のような密閉容器内の単位投与剤形で、個別に、または共
に混合して供給されてもよい。
【0046】
該組成物が、注入によって投与されるものである場合、これを滅菌した医薬品グレード
の水または生理食塩水を含有する注入瓶で投薬することができる。
【0047】
該組成物が、注射によって投与される場合、該処方成分を投与前に混合するため、注射
用滅菌水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0048】
一実施形態では、オファツムマブの製剤は、国際公開第2009/009407号で開
示された製剤に従って、製剤化することができる。
【0049】
一実施形態では、オファツムマブは、抗体製剤であって、その中に、オファツムマブが
約20~300mg/mL、50~300mg/mL、100~300mg/mL、15
0~300mg/mL、200~300mg/mL、または250~300mg/mLの
量で、好ましくは50mg/mLで存在する抗体製剤に製剤化される。
【0050】
一実施形態では、オファツムマブは、抗体製剤であって、10~100mM酢酸ナトリ
ウム、25~100mM塩化ナトリウム、0.5~5%アルギニン遊離塩基、0.02~
0.2mMEDTA、0.01~0.2%ポリソルベート80を含み、pH5.0~7.
0に調整した該製剤に製剤化される。好ましくは、オファツムマブ製剤は、50mM酢酸
ナトリウム、51mM塩化ナトリウム、1%アルギニン遊離塩基、0.05mMEDTA
、0.02%ポリソルベート80を含み、pH5.5に調整される。
【0051】
一実施形態では、オファツムマブ製剤は充填済みシリンジで提供される。
【0052】
一実施形態では、多発性硬化症(MS)を治療する方法であって、a)負荷用量レジメ
ン中、それを必要とする患者にオファツムマブを投与すること;およびb)その後、維持
レジメン中、該患者にオファツムマブを投与することを含む方法が提供される。
【0053】
一実施形態では、多発性硬化症の症状の進行を軽減または遅延させる方法であって、a
)負荷用量レジメン中、それを必要とする患者にオファツムマブを投与すること;および
b)その後、維持レジメン中、該患者にオファツムマブを投与することを含む方法が提供
される。
【0054】
一実施形態では、多発性硬化症の進行を減速させる方法であって、a)負荷用量レジメ
ン中、それを必要とする患者にオファツムマブを投与すること;およびb)その後、維持
レジメン中、該患者にオファツムマブを投与することを含む方法が提供される。
【0055】
一実施形態では、負荷用量は、オファツムマブ約15mg~約25mgの間、好ましく
は、オファツムマブ約18mg~約22mgの間、最も好ましくは、オファツムマブ約2
0mgである。一実施形態では、維持用量は、オファツムマブ約15mg~約25mgの
間、好ましくは、オファツムマブ約18mg~約22mgの間、また好ましくは、オファ
ツムマブ約20mgである。一実施形態では、負荷用量および維持用量のいずれにも、オ
ファツムマブ約15mg~約25mgの間、好ましくは、オファツムマブ約18mg~約
22mgの間、最も好ましくは、オファツムマブ約20mgである。
【0056】
一実施形態では、多発性硬化症(MS)を治療する方法であって、以下のレジメンを含
む方法が提供される:a)投与レジメンの0日目、7日目、および14日目にオファツム
マブ20mgをs.c.注射することを含む負荷用量レジメン中、それを必要とする患者
に、オファツムマブを投与する;およびb)投与レジメンの4週目から開始して、その後
治療プロトコールの期間中に継続して4週間毎にオファツムマブ20mgをs.c.注射
することを含む維持用量レジメン中、それを必要とする患者に、オファツムマブを投与す
る。
【0057】
一実施形態では、多発性硬化症(MS)の症状の進行を軽減または遅延させる方法であ
って、以下のレジメンを含む方法が提供される:a)投与レジメンの0日目、7日目、お
よび14日目にオファツムマブ20mgをs.c.注射することを含む負荷用量レジメン
中、それを必要とする患者に、オファツムマブを投与する;およびb)投与レジメンの4
週目から開始して、その後治療プロトコールの期間中に継続して4週間毎にオファツムマ
ブ20mgをs.c.注射することを含む維持用量レジメン中、それを必要とする患者に
、オファツムマブを投与する。
【0058】
一実施形態では、多発性硬化症(MS)の進行を減速させる方法であって、以下のレジ
メンを含む方法が提供される:a)投与レジメンの0日目、7日目、および14日目にオ
ファツムマブ20mgをs.c.注射することを含む負荷用量レジメン中、それを必要と
する患者に、オファツムマブを投与する;およびb)投与レジメンの4週目から開始して
、その後治療プロトコールの期間中に継続して4週間毎にオファツムマブ20mgをs.
c.注射することを含む維持用量レジメン中、それを必要とする患者に、オファツムマブ
を投与する。
【0059】
一実施形態では、多発性硬化症(MS)を治療する方法であって、a)負荷用量レジメ
ン中、それを必要とする患者にオファツムマブを投与すること;およびb)その後、維持
レジメン中、該患者にオファツムマブを投与することを含む方法における使用のためのオ
ファツムマブが提供される。
【0060】
一実施形態は、多発性硬化症(MS)を治療する方法であって、a)投与レジメンの0
日目、7日目、および14日目にオファツムマブ20mgをs.c.注射することを含む
負荷用量レジメン中、それを必要とする患者に、オファツムマブを投与する;およびb)
投与レジメンの4週目から開始して、その後治療プロトコールの期間中に継続して4週間
毎にオファツムマブ20mgをs.c.注射することを含む維持用量レジメン中、それを
必要とする患者に、オファツムマブを投与することを含む方法における使用のためのオフ
ァツムマブが提供される。
【0061】
一実施形態では、多発性硬化症(MS)を治療する方法であって、a)負荷用量レジメ
ン中、それを必要とする患者にオファツムマブを投与すること;およびb)その後、維持
レジメン中、該患者にオファツムマブを投与することを含む方法における使用のための医
薬の製造におけるオファツムマブが提供される。
【0062】
本開示の1つまたは複数の実施形態の詳細は、添付した上記説明に明記されている。本
明細書に記載されるものと同程度または同等の任意の方法および材料は、本開示の実施ま
たは試験に用いることが可能であるが、好ましい方法および材料をここに記載する。本開
示の他の特徴、目的、および利点は、該説明および請求項から明白であると予想される。
別段定義されない限り、本明細書で用いる専門用語および科学用語のすべては、本開示が
属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を持つ。本明細書に言及さ
れている患者および出版物のすべては、参照によって組み込まれる。以下の実施例は、本
開示の好ましい実施形態をより十分に例証するため、提示されている。この実施例は、添
付した請求項によって定義される開示した患者事項の範囲を限定すると解釈されるべきで
は決してない。
【実施例
【0063】
再発性多発性硬化症患者におけるオファツムマブとテリフルノミドの有効性および安全
性を比較する、無作為化、二重盲検、ダブルダミー、並行群間試験
該試験は、再発性MS患者における、経口テリフルノミド(Aubagio(登録商標
))と比較したs.c.オファツムマブの有効性、安全性、および忍容性データを得るた
め、並行して実施される同一デザインの第2試験と共に設計される。
【0064】
本試験の主要目的は、再発性MSの患者における年間再発率(ARR)によって評価さ
れ、確定される再発の頻度を減少させることにおいて、オファツムマブ20mgの4週間
毎(q4)に1回での皮下(s.c.)投与は、テリフルノミド14mgの1日1回での
経口投与よりも優れていることを実証することである。
【0065】
副次目的には、(i)総合障害度スケール(EDSS)における3カ月目に確認される
悪化(3mCDW)を尺度とした障害悪化までの期間;(ii)EDSSにおける6カ月
目に確認される悪化(6mCDW)を尺度とした障害悪化までの期間;(iii)EDS
Sにおける6カ月目に確認される改善(6mCDI)を尺度とした障害改善までの期間;
(iv)MRIスキャン毎のT1 Gd増強病変の数;(v)1年毎のMRIにおける新
規または拡大しているT2病変の数(年間T2病変の割合);および(vi)ベースライ
ンからのパーセント脳体積変化の評価に基づいた脳体積減少(BVL)の割合が含まれる
【0066】
テリフルノミド14mgの1日1回でのp.o.投与と比較したオファツムマブ20m
gのq4wでの皮下投与の安全性および忍容性も評価される。
【0067】
試験デザイン
これは、再発性MS患者に対する、可変の治療期間における、無作為化、二重盲検、ダブルダミー、実薬対照、並行群間、多施設試験である。適格患者を、オファツムマブ20mgのq4wでのs.c.注射投与(最初の14日間において、週に1度20mgの用量を3回投与することによる最初の負荷レジメン後)またはテリフルノミド14mgの1日1回での経口投与のいずれかに無作為に割り付ける。異なる製剤に対して盲検とするため、ダブルダミーデザインが用いられてもよい:活性なオファツムマブ治療群の患者は、さらにプラセボカプセルを1日1回で経口投与される;活性なテリフルノミド治療群の患者は、さらにプラセボ含有s.c.注射を4週間毎で投与される(最初の14日間において、週に1度の注射を3回投与することによる最初のレジメン後)。
【0068】
EDSSスコアが0~5.5である再発性MSの患者(Lublin et al. 2014によって定
義される疾患活動を伴うRRMSまたはSPMS)を登録する。特定の疾患活動の判定基
準によって、登録前の1年または2年間の最近の再発に基づいた活性な炎症性疾患、また
は無作為化前年のMRI上の1つまたは複数のGd増強病変を有する集団が定義される。
定義された試験集団は、再発性MSの典型である。
【0069】
負荷用量レジメンおよび維持用量レジメン
本試験のためのオファツムマブの用量レジメンは、1日目、7日目、および14日目に
20mgの負荷用量レジメン、続く、4週目に開始される4週間毎に投与される20mg
の月1回の維持用量レジメンである。該用量選択は、リンパ組織におけるB細胞の枯渇が
、有効性(MRIおよび再発によって測定される)にとって重要であり、また脳実質およ
び髄膜のB細胞の枯渇が、作用機序の追加要因であると考えられる(血中B細胞数は、組
織状態の不完全な随伴現象の評価基準である)といった臨床仮説のもと行われる。該仮説
によって、望ましい有効性を得るためには、2つの条件を満たすべきであることが示唆さ
れる:
- リンパ球枯渇に対する十分に高い初期のPKを示す負荷用量レジメン
- B細胞枯渇レベルを望ましい閾値未満に保つ継続的な維持用量
【0070】
再発性MS患者を対象としたオファツムマブs.c.の第II相試験(OMS1128
31/MIRROR試験)によって、末梢B細胞の枯渇と、MRI上のGd増強脳病変に
よって測定される有効性との間の関係に関する重要な情報が得られた。該試験において、
新規Gd増強病変体積、ベースライン病変数、および治療群を関連付ける擬似ポアソン回
帰モデルを用いることで、明確な用量反応関係が認められた。該用量反応は、CD19+
細胞数の減少の程度によって十分に説明される。該モデルによって、CD19+細胞レベ
ルが低いほど、病変体積をより良好に制御することができ、続いて、望ましい有効性を確
保するため、治療過程全体を通してCD19+細胞の最レベルでの枯渇(例えば、8細胞
/μL以下)が維持されるべきであることが示唆される。
【0071】
モデリング試験
滞りなく、MRI上の最大の有効性および8細胞/μL未満のB細胞の枯渇を得ること
は望ましい(図1)。OMS112831/MIRROR試験の第II相のデータに基づ
いた探索的モデリングによって、オファツムマブ20mgのs.c.単回投与は、B細胞
レベルを8細胞/μL以下に低下させるために不十分であることが示唆された(図2を参
照)。図3および4でもみられるとおり、モデリング試験によって、複数回の負荷用量に
よるオファツムマブ20mgの投与を介して、目標の枯渇が高度に達成され得ること、ま
た続く維持用量(同じく20mg)が、初期の枯渇を維持または増強することが予測され
る。より具体的には、本発明者らは、モデリングに基づき、3回の個別の20mg用量(
0、1、および2週目)による負荷用量レジメンは、95%を上回る患者において目標の
枯渇(8細胞/μL以下)を達成するために必要とされ、また単回60mgの負荷用量よ
りも有効であることが推定されると断定した。したがって、この負荷用量レジメンが選択
された。
【0072】
OMS112831/MIRROR試験では、12週間毎に3mg、12週間毎に30
mg、12週間毎に60mg、および4週間毎に60mgのオファツムマブ投与が検討さ
れた。3mgはMRI上の明確な作用を有し、また12週間毎に30mgはMRI上の最
大の有効性に極めて近いと思われたが、MRI上の最大の作用が、再発および障害に対す
る最大の臨床効果に本当に繋がることを確認するため、12週間毎に60mgも検討した
。最大用量レベルである4週間毎に60mgは、12週間毎に60mgと比較して、いか
なる追加の有効性も示さなかった(図5)。しかし、B細胞充足がみられた際、本発明者
らは、次の12週目の用量が投与される前に、B細胞充足に向かう傾向があったことに注
目した。60mgを4週間毎に投与された患者は、投与間の期間にB細胞充足の兆候を示
さなかったため、本発明者らは、投与間の期間が4週間(4週間毎(q4)に1回)の維
持投与に決定した。モデリング試験によって、B細胞充足と用量および投与回数の比率が
推定された。MS患者のB細胞充足率は、MIRROR試験のデータから推定された。該
モデリング試験は、MSの平均的症例に対し、3mgの維持用量が、B細胞の枯渇を4週
間にわたり維持するのに適当であるとみなされたことを示した(図4の上のパネルを参照
)。しかし、同じモデリングによって、極めて高い充足率(MIRROR試験から推定さ
れる95パーセンタイルに相当する)を示す患者において、すなわち、「最悪の場合」、
3mgおよび10mgの維持用量はいずれも、B細胞の枯渇を4週間にわたり維持するの
に適当ではなかったが、20mgまたはより高用量は、適当な枯渇を維持すると推定され
た(図4の下のパネルを参照)。したがって、探索的モデリングに基づき、高い充足率を
示す患者においてさえ、あらかじめB細胞を枯渇させた95%を超える患者において、B
細胞を維持またはさらに枯渇させるために、オファツムマブ20mgは十分であると思わ
れる。したがって、維持用量における有効性の持続を確保するため、発明者は、検討され
たMIRRORの用量レジメン(12週間毎に60mg)を分けて、4週間毎に20mg
にすることを決定した。
【0073】
OMS112831/MIRROR試験における安全性および忍容性に関して、q12
wおよびq4wに60mgの用量レジメンは、q12wに3または30mgの低用量レジ
メンより、多くの有害事象(AE)と関連付けられた。具体的には、1日目のSAEとし
て報告された注射後全身反応は、60mgの用量レジメンでのみ認められた。B細胞の存
在下での最初の投与で、またB細胞の充足が開始された際、全身反応は、予測されるAE
であり、その重症度は、用量およびB細胞数に関連する可能性が高い。
【0074】
再発性MSは、長期治療が予想される慢性疾患であることから、用量選択は、有効性お
よび安全性の面においてバランスを取ることを目標とするべきである。ほぼすべての患者
において、B細胞を枯渇し、その後8細胞/μL未満のレベルで維持すると思われること
、また最大の臨床的利益およびより高用量の場合よりも良好な忍容性を有すことが予測さ
れるため、オファツムマブの皮下による、1日目、7日目、および14日目に20mgの
負荷用量レジメン、続く4週間毎に20mgを投与する月1回の維持用量レジメン(4週
目に開始)が選択された。まとめると、MRI上の病変と再発の間の強い関連性(Sorman
i et al. 2009;Sormani et al. 2013)、およびB細胞を閾値未満に維持することと組み
合わせて検討された累積用量において、観察された病変の抑制は、提案された用量レジメ
ンの選択を支持するものである。

本発明は以下の態様を含む。
<1>
多発性硬化症(MS)を治療する方法であって、
a)負荷用量レジメン中、それを必要とする患者にオファツムマブを投与すること、お
よび
b)その後、維持用量レジメン中、前記患者にオファツムマブを投与すること
を含む方法。
<2>
オファツムマブが、負荷用量レジメンおよび維持用量レジメン中、皮下(s.c.)注
射で投与される、<1>に記載の方法。
<3>
負荷用量レジメン中に投与されるオファツムマブの用量が、オファツムマブ約15mg
~約25mgの間である、<1>に記載の方法。
<4>
その後、維持レジメン中に投与されるオファツムマブの用量が、オファツムマブ約15
mg~約25mgの間である、<1>に記載の方法。
<5>
負荷用量レジメン中に投与されるオファツムマブの用量が、オファツムマブ約18mg
~約22mgの間である、<1>に記載の方法。
<6>
その後、維持レジメン中に投与されるオファツムマブの用量が、オファツムマブ約18
mg~約22mgの間である、<1>に記載の方法。
<7>
負荷用量レジメン中に投与されるオファツムマブの用量が、オファツムマブ約20mg
である、<1>に記載の方法。
<8>
その後、維持レジメン中に投与されるオファツムマブの用量が、オファツムマブ約20
mgである、<1>に記載の方法。
<9>
a)負荷用量レジメン中に投与されるオファツムマブの用量が、オファツムマブ約15
mg~約25mgの間であり、
b)その後、維持レジメン中に投与されるオファツムマブの用量が、オファツムマブ約
15mg~約25mgの間である、<1>に記載の方法。
<10>
a)負荷用量レジメン中に投与されるオファツムマブの用量が、オファツムマブ約18
mg~約22mgの間であり、
b)その後、維持レジメン中に投与されるオファツムマブの用量が、オファツムマブ約
18mg~約22mgの間である、<1>に記載の方法。
<11>
a)負荷用量レジメン中に投与されるオファツムマブの用量が、オファツムマブ約20
mgであり、
b)その後、維持レジメン中に投与されるオファツムマブの用量が、オファツムマブ約
20mgである、<1>に記載の方法。
<12>
a)投与レジメンの0日目、7日目、および14日目にオファツムマブ20mgを投与
することを含む負荷用量レジメン中、それを必要とする患者に、オファツムマブを投与し

b)投与レジメンの4週目から開始して、その後治療プロトコールの期間中に継続して
4週間毎にオファツムマブ20mgを投与することを含む維持用量レジメン中、それを必
要とする患者に、オファツムマブを投与する、<1>に記載の方法。
<13>
a)投与レジメンの0日目、7日目、および14日目にオファツムマブ20mgをs.
c.注射することを含む負荷用量レジメン中、それを必要とする患者に、オファツムマブ
を投与し、
b)投与レジメンの4週目から開始して、その後治療プロトコールの期間中に継続して
4週間毎にオファツムマブ20mgをs.c.注射することを含む維持用量レジメン中、
それを必要とする患者に、オファツムマブを投与する、<1>に記載の方法。
<14>
投与レジメンおよび維持レジメン中、50mg/mLの濃度でオファツムマブを含有す
る製剤を充填した自己注射器を用いて、オファツムマブ20mgを投与する、<13>に記載の方法。
<15>
投与レジメンおよび維持レジメン中、50mg/mLの濃度でオファツムマブを含有す
る製剤を満たした充填済みシリンジを用いて、オファツムマブ20mgを投与する、<13>に記載の方法。
<16>
多発性硬化症が、再発寛解型多発性硬化症(RRMS)である、<1>に記載の方法。
<17>
多発性硬化症が、一次性進行型多発性硬化症(PPMS)である、<1>に記載の方法。
<18>
多発性硬化症が、二次性進行型多発性硬化症(SPMS)である、<1>に記載の方法。
【0075】
【表1-1】
【0076】
【表1-2】

図1
図2
図3
図4
図5