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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】注射器の注射針挿入機構
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/142 20060101AFI20221222BHJP
   A61M 5/145 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
A61M5/142 522
A61M5/145 500
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020516883
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 IB2018001164
(87)【国際公開番号】W WO2019058177
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】62/561,386
(32)【優先日】2017-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/631,079
(32)【優先日】2018-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518123372
【氏名又は名称】ウェスト ファーマ サービシーズ イスラエル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】ファリス・ジェイソン・ダブリュー
(72)【発明者】
【氏名】ドーフィネ・サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】ヘズキアフ・ラン
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/127215(WO,A1)
【文献】特表2017-510419(JP,A)
【文献】国際公開第2017/062931(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/142
A61M 5/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚接触面を成す基礎部分を含むハウジングと、
前記ハウジングの基礎部分に取り付けられているシャーシと、
前記シャーシによって支えられており、前記シャーシと共に前記ハウジングの基礎部分に対して退避位置から注入位置まで移動可能である注射針と、
カムを含み、エネルギーを蓄えた状態で安定化しており、エネルギーを解放した状態へ移行可能な少なくとも1つの回転式付勢機構と、
前記少なくとも1つの回転式付勢機構に対応付けられ、前記カムと結合すると共に前記カムによって運動可能であり、前記少なくとも1つの回転式付勢機構を前記注射針に連結させており、前記少なくとも1つの回転式付勢機構がエネルギーを解放した状態で行う回転運動を、前記シャーシと前記注射針とが前記ハウジングの基礎部分に対して行う前記退避位置から前記注入位置への並進運動に変換する少なくとも1つのカム従動子と、
前記シャーシに連結しており、休止位置から起動位置へ回転可能な起動スイッチと、
前記ハウジングに移動可能に実装されており、休止位置から起動位置へ並進可能である起動ボタンと
を備え、
前記注射針は少なくとも先端が、前記退避位置では前記ハウジングの基礎部分の中に収められ、前記注入位置では前記ハウジングの基礎部分から突出しており、
前記起動スイッチは
休止位置では、前記カム従動子に対する前記カムの運動を妨げることによって前記少なくとも1つの回転式付勢機構を、エネルギーを蓄えた状態に安定化させ、
起動位置では、前記カム従動子に対する前記カムの運動を妨げないことによって前記少なくとも1つの回転式付勢機構を、エネルギーを解放した状態へ移行させ、
前記起動ボタンは休止位置から起動位置へ並進することにより、前記起動スイッチを休止位置から起動位置へ回転させる
ことを特徴とする注射器。
【請求項2】
前記少なくとも1つの回転式付勢機構は、駆動輪と、それに連結したねじりばねとを含む、請求項1に記載の注射器。
【請求項3】
前記駆動輪は、内周側に歯が付いたラチェット面と、前記ラチェット面に噛み合った爪とを含み、
前記爪と前記ラチェット面とは前記駆動輪を一方向へ回転させ、
前記ねじりばねは前記爪に連結している、
請求項2に記載の注射器。
【請求項4】
前記ねじりばねは、前記少なくとも1つの回転式付勢機構がエネルギーを蓄えた状態では巻かれており、エネルギーを解放した状態では巻きが解かれている、請求項2または請求項3に記載の注射器。
【請求項5】
前記少なくとも1つのカム従動子は、前記シャーシに設けられたスロットを含み、
前記少なくとも1つの回転式付勢機構のカムは、前記駆動輪から突出して前記スロットに嵌まっているピンを含む、
請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の注射器。
【請求項6】
前記ピンが前記スロットに嵌まっていることにより、前記駆動輪の回転運動が、前記ピンが前記スロットに沿って行う水平摺動と、前記シャーシおよび前記注射針が前記ハウジングの基礎部分に対して行う前記退避位置から前記注入位置への並進運動とに変換され、
前記スロットに沿った前記ピンの水平摺動が妨げられることにより、前記駆動輪の回転運動が妨げられ、前記シャーシと前記注射針との前記退避位置から前記注入位置への並進運動が妨げられる、
請求項5に記載の注射器。
【請求項7】
前記起動スイッチが実質的にU字形であり、自由端を持つ第1腕、それに対向する自由端を持つ第2腕、および前記第1腕と前記第2腕との間に伸びている中央部分を含み、
前記第1腕は前記シャーシの片側に沿って伸びており、前記第2腕は前記シャーシの反対側に沿って伸びており、前記中央部分は前記シャーシの前端のまわりに伸びており、
前記第1腕と前記第2腕との少なくとも一方は前記シャーシに回転可能に連結されている、
請求項6に記載の注射器。
【請求項8】
前記第1腕と前記第2腕との少なくとも一方の自由端は、前記起動スイッチが休止位置にあるときには前記ピンに隣接して、前記駆動輪の回転を妨げ、
前記起動スイッチが起動位置にあるときには前記ピンから外れることにより、前記駆動輪を回転させる
請求項7に記載の注射器。
【請求項9】
前記起動スイッチは実質的にU字形であり、自由端を持つ第1腕、それに対向する自由端を持つ第2腕、および前記第1腕と前記第2腕との間に伸びている中央部分を含み、
前記第1腕は前記シャーシの片側に沿って伸びており、前記第2腕は前記シャーシの反対側に沿って伸びており、前記中央部分は前記シャーシの前端のまわりに伸びており、
前記第1腕と前記第2腕との少なくとも一方は前記シャーシに回転可能に連結されている、
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の注射器。
【請求項10】
前記第1腕は、第1部分と、当該第1部分に直列に隣接する第2部分とを含み、当該第1部分は前記中央部分から伸びており、当該第2部分は前記第1腕の自由端を終点としており、
前記第2腕は、第1部分と、当該第1部分に直列に隣接する第2部分とを含み、当該第1部分は前記中央部分から伸びており、当該第2部分は前記第2腕の自由端を終点としており、
前記第1腕と前記第2腕とのそれぞれの第2部分は、それぞれの第1部分に対して傾斜している、
請求項9に記載の注射器。
【請求項11】
前記第1腕と前記第2腕とはそれぞれの回転軸で、前記シャーシに回転可能に接続されており、
前記それぞれの回転軸では、前記第1腕と前記第2腕とのそれぞれの第2部分がそれぞれの第1部分に対して傾斜している、
請求項10に記載の注射器。
【請求項12】
前記少なくとも1つの回転式付勢機構は回転式付勢機構を2つ含み、前記少なくとも1つのカム従動子はカム従動子を2つ含む、請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の注射器。
【請求項13】
前記シャーシは前記ハウジングの基礎部分に、前記シャーシと前記基礎部分との後端付近で回転可能に取り付けられており、前記起動スイッチは前記シャーシに、前記シャーシの前端付近で連結されている、請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載の注射器。
【請求項14】
皮膚接触面を成す基礎部分を含むハウジングと、
前記ハウジングによって支えられており、前記ハウジングの基礎部分に対して退避位置から注入位置まで移動可能である注射針と、
カムを含み、エネルギーを蓄えた状態で安定化しており、エネルギーを解放した状態へ移行可能な少なくとも1つの回転式付勢機構と、
前記少なくとも1つの回転式付勢機構に対応付けられ、前記カムと結合すると共に前記カムによって運動可能であり、前記少なくとも1つの回転式付勢機構を前記注射針に連結させており、前記少なくとも1つの回転式付勢機構がエネルギーを解放した状態で行う回転運動を、前記注射針が前記ハウジングの基礎部分に対して行う前記退避位置から前記注入位置への並進運動に変換する少なくとも1つのカム従動子と、
休止位置から起動位置へ回転可能な起動スイッチと、
前記ハウジングに移動可能に実装されており、休止位置から起動位置へ並進可能である起動ボタンと
を備え、
前記注射針は少なくとも先端が、前記退避位置では前記ハウジングの基礎部分の中に収められ、前記注入位置では前記ハウジングの基礎部分から突出しており、
前記起動スイッチは
休止位置では、前記カム従動子に対する前記カムの運動を妨げることによって前記少なくとも1つの回転式付勢機構を、エネルギーを蓄えた状態に安定化させ、
起動位置では、前記カム従動子に対する前記カムの運動を妨げないことによって前記少なくとも1つの回転式付勢機構を、エネルギーを解放した状態へ移行させ、
前記起動ボタンは休止位置から起動位置へ並進することにより、前記起動スイッチを休止位置から起動位置へ回転させる
ことを特徴とする注射器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2017年9月21日を出願日とする米国特許仮出願第62/561,386号と、2018年2月15日を出願日とする米国特許仮出願第62/631,079号とに対する優先権主張を伴うものであり、それぞれの内容の全体が参照されることにより、この明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、注射器の注射針挿入機構の全般に関する。
【背景技術】
【0003】
従来の装着型注射器は使用前に、注射針を退避状態にロックすることができる。退避状態では針の先端が注射器の中に収められている。このような注射器はまた使用中、注射針を注入位置へ移動させることができる。注入位置では針の先端が、注入を受ける者(使用者または患者)の皮膚表面に突き刺さる。注射針の駆動は大抵、針を突き刺すためのばねを含む駆動装置によって行われる。
【0004】
このような従来の装置が持つ欠点の1つは、注射針を退避位置にロックする注射器の構成要素が大抵、針を突き刺すためのばねの力をすべて受ける形をしていることにある。この形で、ばねが注射針を注入位置へ移動させることを防がなければならない。このような設計には、注射器を損傷させる危険が伴う。注射器が保管されている間に、ロック機構を構成する樹脂にクリープが生じる等の原因による。さらに、ロック機構の構成要素には、それらを互いに繋げる際の危険も伴う。それらには比較的強い力が加わり、それらの間には比較的強い摩擦力が働くからである。
【0005】
それ故、次のような設計の注射器を製造することが好ましいであろう。注射器が保管されている間、ロック機構の構成要素が駆動機構の力をすべては受けない。これにより、ロック機構の構成要素がクリープを起こす危険、およびそれらを互いに繋げる際の危険が最小限に抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/062931号
【発明の概要】
【0007】
簡単に述べれば、本発明の1つの観点は次の注射器を対象とする。この注射器はハウジングとシャーシとを含む。ハウジングには、皮膚接触面を成す基礎部分がある。シャーシはハウジングの基礎部分に取り付けられている。シャーシによって注射針が支えられており、ハウジングの基礎部分に対して退避位置から注入位置へと移動可能である。注射針は少なくとも先端が、退避位置ではハウジングの基礎部分の中に収められており、注入位置ではその基礎部分から突出している。少なくとも1つの回転式付勢機構がエネルギーを蓄えた状態に安定化しており、エネルギーを解放した状態へ移行可能である。少なくとも1つの回転式付勢機構はカムを含む。少なくとも1つの回転式付勢機構には少なくとも1つのカム従動子が対応付けられており、少なくとも1つの回転式付勢機構を注射針に連結している。少なくとも1つのカム従動子は、少なくとも1つの回転式付勢機構がエネルギーを解放した状態で行う回転運動を、シャーシと注射針とがハウジングの基礎部分に対して行う退避位置から注入位置への並進運動に変換する。シャーシには起動スイッチが連結しており、休止位置から起動位置へ回転可能である。起動スイッチは少なくとも1つの回転式付勢機構を、休止位置ではエネルギーを蓄えた状態に安定化させ、起動位置ではエネルギーを解放した状態へ移行させる。ハウジングには起動ボタンが移動可能に実装されており、休止位置から起動位置へ並進可能である。起動ボタンは休止位置から起動位置へ並進することにより、起動スイッチを休止位置から起動位置へ回転させる。
【0008】
本発明のもう1つの観点は次の注射器を対象とする。この注射器はハウジングを含む。ハウジングには、皮膚接触面を成す基礎部分がある。ハウジングによって注射針が支えられており、ハウジングの基礎部分に対して退避位置から注入位置へと移動可能である。注射針は少なくとも先端が、退避位置ではハウジングの基礎部分の中に収められており、注入位置ではその基礎部分から突出している。少なくとも1つの回転式付勢機構がエネルギーを蓄えた状態に安定化しており、エネルギーを解放した状態へ移行可能である。少なくとも1つの回転式付勢機構はカムを含む。少なくとも1つの回転式付勢機構には少なくとも1つのカム従動子が対応付けられており、少なくとも1つの回転式付勢機構を注射針に連結している。少なくとも1つのカム従動子は、少なくとも1つの回転式付勢機構がエネルギーを解放した状態で行う回転運動を、注射針がハウジングの基礎部分に対して行う退避位置から注入位置への並進運動に変換する。起動スイッチは休止位置から起動位置へ回転可能である。起動スイッチは少なくとも1つの回転式付勢機構を、休止位置ではエネルギーを蓄えた状態に安定化させ、起動位置ではエネルギーを解放した状態へ移行させる。起動ボタンはハウジングに移動可能に実装されており、休止位置から起動位置へ並進可能である。起動ボタンは休止位置から起動位置へ並進することにより、起動スイッチを休止位置から起動位置へ回転させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
以下に述べる、発明の観点についての詳細な説明は、添付の図面に関連付けて読まれるとよく理解されるであろう。しかし、示されている正確な配置および手段に発明が限定されないことは理解されるべきである。
【0010】
図1】本発明の実施形態による注射器の側面図である。注射器の注射針は退避位置にある。
図2図1の注射器の背面、上面、および側面を示す斜視図である。注射器内部の構成要素を示す目的で、ハウジングのカバー部分が除去されている。
図3図1の注射器のシャーシ、起動スイッチ、起動ボタン、および回転式付勢機構の正面図である。
図4図2の線分4-4に沿った、図1の注射器の断面図である。
図5図1の注射器のシャーシ、起動スイッチ、起動ボタン、および回転式付勢機構の正面、上面、および側面を示す斜視図である。
図6図1の注射器の側面図である。注射針が注入位置にある。
図7図6の線分7-7に沿った、図6の注射器の断面図である。
図8図2の線分4-4に沿った、図1の注射器の拡大部分断面図である。
図9図2の線分4-4に沿った、図1の別の実施形態の拡大部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の説明ではある用語が、便宜を図ることのみを目的として使用されるが、発明を限定することを目的としてはいない。「下方」、「下部」、「上方」、「上部」という語は参照される図面において方向を示す。「内側へ」、「外側へ」、「上方へ」、「下方へ」という語はそれぞれ、注射器およびその特定の部品群の幾何学的中心へ向かう方向と、その中心から離れる方向とを意味する。特に断らない限り、「ある」、「1つの」、「その」という語は1つの要素には限定されず、「少なくとも1つの」ということを意味すると読まれるべきである。用語には、以上で述べた語、それらの派生語、および類義語が含まれる。
【0012】
以下、発明の構成要素の寸法または特性を参照するときに使われる「ほぼ」、「約」、「一般に」、「実質的に」等の語句は、説明される寸法/特性が厳密な境界値またはパラメータではないことを示しており、機能的には同等である小さなばらつきを排除するものではない。数値パラメータを含む引用には、少なくとも、技術分野で許容されている数学的および工学的原理(たとえば、丸め誤差、測定誤差、その他の系統誤差、製造上の許容範囲)を用いて、最下位の桁を変えない程度のばらつきが含まれるであろう。
【0013】
図面では、それらの全体を通して、同様な数字は同様な要素を表す。図面を詳細に参照すると、図1図9には、本発明の実施形態による注射器(一般には10で指定されている。)が示されている。図示されている実施形態では、注射器10が、たとえば(限定はしないが)装着型薬用注射器のような装着型注射器(パッチ型注射器)の形をしている。ただし、発明はそれには限定されない。注射器10は一般にハウジング12を含む。ハウジング12には基礎部分14とカバー部分16(図1参照。)とがある。カバー部分16は基礎部分14の上に、それに対して移動可能に、たとえば回転可能に取り付けられている。ハウジングの基礎部分14は、使用者、たとえば患者の皮膚表面(図示せず。)に接触する面18を含む。この面18には穴18a(図4参照。)がある。図示されている実施形態では、皮膚接触面18がハウジング12の底面を構成している。ただし、発明はそれには限定されない。ある実施形態では、注射器10が安全ラッチ20(図1参照。)を含んでいてもよい。安全ラッチ20はハウジングの基礎部分14に回転可能に取り付けられており、第1位置と第2位置との間で移動可能である。第1位置(図6図7参照。)では、安全ラッチ20が実質上、注射器10の皮膚接触面18とぴったり重なっている。ただし、発明はそれには限定されない。第2位置(図1図2参照。)では、安全ラッチ20が皮膚接触面18から離れる方向へ、すなわち下方へ回転している。
【0014】
シャーシ22は、たとえば、高分子材料、金属材料、またはそれらの組み合わせから成り、注射器のハウジング12の中に、すなわちハウジングのカバー部分16と基礎部分14との間に実装されている。シャーシ22は基礎部分14に移動可能に取り付けられている。図示されている実施形態では、シャーシ22と基礎部分14との後端付近でシャーシ22が基礎部分14に回転可能に取り付けられている。ただし、発明はそれには限定されない。注射針24はシャーシ22により、ハウジング12の中に支持されている。図示されている実施形態では、シャーシ22にカートリッジ用の穴22aが設けられている。この穴22aは、注射器10で使用可能なカートリッジ26が収容されるように構成され、すなわち、形と寸法とが設計されている。必須ではないが、その穴22aの上にカートリッジ26が載せられている。
【0015】
カートリッジ26の非限定的な例の1つが特許文献1に記載されている。図5に最もよく示されているように、注射針24はカートリッジ26の前端から伸びており、カートリッジ26の長軸に対して約90度曲がっている。ただし、発明はそれには限定されない。その他に、注射針24はシャーシ22に間接的に、または直に固定されていてもよく、カートリッジ26がスロット22aに挿入されると、カートリッジ26と連通可能である。注射針24はシャーシ22と共に、退避位置(図4に最もよく示されている。)から注入位置(図6図7参照。)へ、ハウジングの基礎部分14に対して移動可能である。注射針24は少なくともその先端が、退避位置では基礎部分14の中に収められており、注入位置では基礎部分14から面18の穴18aを通して突出し、使用者の皮膚に突き刺さっている(図示せず)。
【0016】
ハウジングの基礎部分14に対してシャーシ22を動かす目的で、注射器10は少なくとも1つの回転式付勢機構28を含む。この機構28はエネルギー蓄積状態で安定化しており、エネルギー解放状態へ移行可能である。当業者には理解されるはずであるように、回転式付勢機構28のエネルギー蓄積状態とは、付勢機構28が少なくとも位置エネルギーを蓄えている状態である。回転式付勢機構28のエネルギー解放状態とは、付勢機構28が、エネルギー蓄積状態において蓄えていた位置エネルギーの少なくとも一部を解放した状態である。図示されている実施形態では、注射器10が回転式付勢機構28を2つ(シャーシ22の両側に1つずつ)含む。ただし、発明はそれには限定されない。簡単のため、以下の説明は片方の回転式付勢機構28を対象とする。しかし、その説明は、注射器10の回転式付勢機構28のそれぞれに、ほぼ等しく適用可能である。
【0017】
回転式付勢機構28は駆動輪30を含む。駆動輪30は、内周側に歯が付いたラチェット面30a(図4参照。)、それに噛み合った爪30b、およびそこから伸びているシャフト30cを含む。シャフト30cのまわりにはねじりばね32が巻かれている。これにより、ねじりばね32は爪30bと、更には駆動輪30と回転可能に連結している。当業者には理解されるはずであるように、爪30bとラチェット面30aとは、駆動輪30を一方向(たとえば、図4図8に示されているような時計方向)へ回転させ、反対方向へは回転させない。また、当業者には理解されるはずであるように、駆動輪30の回転力(図8のトルクT1参照。)は、少なくともその一部が、ねじりばね32の弾性力(ねじり係数)からもたらされる。回転式付勢機構28がエネルギー蓄積状態にあるとき、ねじりばね32は(少なくとも一部が)巻かれており、その状態よりも巻きが解かれることが妨げられている(詳細については後述する)。回転式付勢機構28がエネルギー解放状態にあるとき、ねじりばね32は(エネルギー蓄積状態と比べて)巻きが解かれている。当業者には理解されるはずであるように、回転式付勢機構28はその他に、エネルギーを蓄積して解放することの可能な他の部材の形をしていても、そのような部材を含んでいてもよい。非限定的な例には、他のばね(たとえば、コイルばね、板ばね)、弾性帯等、ねじりばね32の機能を果たし、および/または、以下に記述される回転式付勢機構28の全体の機能を果たすように構成されたものが含まれる。
【0018】
回転式付勢機構28は更にカム34を含む(図3図4参照)。カム34のそれぞれには少なくとも1つのカム従動子36が対応付けられており、少なくとも1つの回転式付勢機構28を注射針24に連結させている(詳細については後述する)。したがって、図示されている実施形態では注射器10がカム従動子36を2つ含む。ただし、発明はそれには限定されない。回転式付勢機構28と同様に、以下の説明では、簡単のため、片方のカム従動子36を対象とする。しかし、以下の説明は注射器10のカム従動子36のそれぞれに、ほぼ等しく適用可能である。
【0019】
カム34がカム従動子36と繋がることにより、回転式付勢機構28の回転運動は、ハウジングの基礎部分14に対してシャーシ22と注射針24とが行う退避位置から注入位置への並進運動に変換される。図示されている実施形態ではカム34が、駆動輪30から突出したピンの形をしている(詳細については後述する)。ただし、発明はそれには限定されない。理解されるはずであるように、カム34は、以下で説明するピン34の機能を果たすリンク機構に含まれる他の構成要素の形をしていてもよい。図示されている実施形態ではカム従動子36が、駆動輪30に面したシャーシ22の側面に形成された、実質的に水平で真っ直ぐなスロットの形をしている。ただし、発明はそれには限定されない。非限定的な例として、スロット36はその他に、水平方向以外の方向に伸びていてもよく、および/または、曲がっていたり、互いに対して傾斜した複数の部分を含んでいたり等、真っ直ぐでなくてもよい。ピン34は駆動輪30から突出してスロット36に嵌まっている。
【0020】
回転式付勢機構28はエネルギー解放状態へ移行すると、ピン34を含め、駆動輪30を回転させる。ピン34の直径とスロット36の高さとが対応するように構成されているので、ピン34がスロット36の中を、それに沿って実質的に水平方向へだけ摺動することができる。ピン34がスロット36と繋がり、結合しているので、駆動輪30の回転運動は2つの異なる、しかし連係している運動に分解される。すなわち、ピン34がスロット36と繋がり、結合していることにより、駆動輪30の回転運動は、ピン34をスロット36に沿って(図8では右方へ)摺動させる水平力成分H(図8参照。)と、シャーシ22および注射針24をハウジングの基礎部分14に対して退避位置から注入位置へ(図8の向きでは下方へ)並進させる垂直力成分V、すなわち針を突き刺す力に分解する。別々の力/運動であるにもかかわらず、ピン34の摺動とシャーシ22の並進運動とは連係し続ける。すなわち、ピン34がスロット36に沿って行う水平方向への摺動が妨げられると駆動輪30の回転も妨げられ、更にシャーシ22および注射針24が行う退避位置から注入位置への並進運動も妨げられる。
【0021】
注射器10は更に起動スイッチ38を含む。起動スイッチ38は、たとえば、高分子材料、金属材料、またはそれらの組み合わせから成る。起動スイッチ38はシャーシ22に回転可能に連結しており、休止位置(図4に最もよく示されている。)から起動位置(図7に最もよく示されている。)へ回転可能である。休止位置では、起動スイッチ38が回転式付勢機構28をエネルギー蓄積状態に安定化させる。起動位置では、起動スイッチ38が回転式付勢機構28をエネルギー解放状態へ移行させる。図示されている実施形態では、起動スイッチ38がシャーシ22の前端付近でシャーシ22に回転可能に連結されている。ただし、発明はそれには限定されない。図示されている実施形態では、起動スイッチ38がほぼU字部材の形をしている。この部材には、第1腕40、それに対向する第2腕42、および、第1腕40と第2腕42との間に伸びている中央部分44がある。第1腕40には自由端40aがあり、第2腕42には自由端(図示せず。)がある。
【0022】
第1腕40はシャーシ22の片側に沿って伸びており、休止位置ではスロット36の1つに向かって伸びている。第2腕42はシャーシ22の反対側に沿って伸びており、休止位置ではもう1つのスロット36に向かって伸びている。中央部分44は第1腕40と第2腕42との間に伸びており、シャーシ22の前端の辺りで曲がっている。しかし、理解されるはずであるように、中央部分44は曲がった部分に限られるわけではない。第1腕40と第2腕42との少なくとも一方(図示されている実施形態では両方)が、たとえばピン接続41(図8参照。)により、シャーシ22に回転可能に連結されている。このピン接続41が起動スイッチ38の回転軸を定めている。簡単のため、以下の説明は第1腕40とその自由端40aとを対象にする。しかし、その説明は起動スイッチ38の第2腕42とその自由端とにも、ほぼ等しく適用可能である。
【0023】
起動スイッチ38が休止位置にあるとき、第1腕40と第2腕42との少なくとも一方の自由端がピン34に隣接し、ピン34がスロット36に沿って駆動輪30の回転方向へ摺動するのを妨げている。これにより、駆動輪30の回転が妨げられている。図4に示されているように、第1腕40の自由端40aがシャーシ22の片側でピン34に隣接している。自由端40aがピン34と結合することにより、回転式付勢機構28がエネルギー蓄積状態に維持される。起動スイッチ38が休止位置から起動位置へ回転すると、自由端40aがピン34から外れる(図7参照。)ので、ピン34がスロット36に沿って摺動し、回転式付勢機構28がエネルギー解放状態へ移行する。すなわち、ねじりばね32の巻きが(エネルギー蓄積状態と比べて)解けて駆動輪30を回転させる。シャーシはリップ36aを含んでいてもよい。リップ36aは、少なくとも一方のスロット36の下端から横方向へ伸びており(図3図5に最もよく示されている。)、第1腕40と第2腕42との少なくとも一方の下に位置して、起動スイッチ38が休止位置から、起動位置とは反対方向へ意図せずに回転するのを妨げている。
【0024】
ピン34がスロット36と繋がり、結合していることにより、回転式付勢機構28の回転運動が水平力成分と垂直力成分とに分解される。この利点の1つは、回転式付勢機構28をエネルギー蓄積状態に維持する目的では起動スイッチ38が水平力成分Hのみを受ければよく、垂直力成分V(針を突き刺す力)を受けないことにある。すなわち、起動スイッチ38の自由端40aが、ピン34によって加えられる水平力成分Hを吸収して、それを支えさえすればよい。水平力成分Hは(駆動輪30を通して伝わる)ねじりばね32の回転力T1から分解されて、ピン34をスロット36に沿って摺動させる。垂直力成分/針を突き刺す力Vは(ピン34によってスロット36に加えられる力を通して)シャーシ22によって吸収されて支えられる。それ故、たとえば注射器10が使用されるまで保管されている間、シャーシ22および注射針24は退避位置にロックされていなければならないが、起動スイッチ38(シャーシ22および注射針24を退避位置に維持している。)が受けるべき力は、回転式付勢機構28の回転力T1のすべてが及ぼす力よりも弱い。
【0025】
更に好ましくは、(製造の間)、回転式付勢機構28の回転力T1の垂直力成分Vの大きさに対して水平力成分Hの大きさが最小化されるように、ピン34が駆動輪30のまわりで位置決めされる。たとえば、ピン34は駆動輪30のまわりで次のように位置決めされてもよい。駆動輪30の回転中心からの垂直距離Y1が、駆動輪30の回転中心からの水平距離X1よりも大きい(図8が示す距離X1、距離Y1参照)。その結果、水平力成分Hは垂直力成分Vよりも小さい。したがって、起動スイッチ38に結果としてかかる力Hは、針を突き刺す力Vよりも小さい。これにより、起動スイッチ38を構成する高分子材料がクリープを起こし、または起動スイッチ38の自由端40aにピン34が付着する等、起動スイッチ38が破損する危険が最小限に抑えられる。ある実施形態では、起動スイッチ38が、ピン34を形成する物質よりも剛性の高い物質で構成されていてもよい。これにより、起動スイッチ38がクリープを起こす危険が更に抑えられる。こうして、起動スイッチ38は、保管されている間、過剰な力を受けることないので、容易に起動することができる。
【0026】
起動ボタン46は注射器のハウジング12に移動可能に実装されており、(使用者によって)休止位置(図1図4図8参照。)から起動位置(図7参照。)へ並進可能である。図7に示されているように、起動ボタン46は、休止位置から起動位置へ並進すると起動スイッチ38と結合し、起動スイッチ38を(回転軸41のまわりで)休止位置から起動位置へ回転させ、注射針を皮膚へ突き刺す。図示されている実施形態では、図4図7図8に最もよく示されているように、起動ボタン46が前側リップ46aを含む。前側リップ46aは起動スイッチ38の中央部分44(すなわち最前端部)と垂直方向で並んでいるので、起動ボタン46が休止位置から起動位置へ並進すると、リップ46aが起動スイッチ38の前端と結合し、起動スイッチ38を回転軸41のまわりに回転させる。図に示されているように、起動ボタン46は垂直方向に並進可能である。ただし、起動ボタン46の並進方向は、起動スイッチ38と結合してそれを回転させるのに十分であればどの方向でもよい。このことは当業者には歓迎されるだろう。
【0027】
再び起動スイッチ38の説明に戻る。図8に最もよく示されているように、第1腕40は第1部分40bと、それに直列に隣接する第2部分40cとを含む(同じことは、第2腕42にも当てはまる)。第1部分40bは中央部分44からピン接続41まで伸びており、第2部分40cはピン接続41から伸びて自由端40aを終端とする。図4図7図8に最もよく示されているように、第2部分40cはピン接続41の所で、第1部分40bに対して傾斜していてもよい。
【0028】
好ましくは、起動スイッチ38の形、起動ボタン46の形、起動ボタン46と起動スイッチ38との間のインタフェース、起動スイッチ38と回転式付勢機構28との間のインタフェース、および/または、起動スイッチ38と回転式付勢機構28の構成要素との材料は、起動ボタン46が押されて注射針が突き刺さるときに、使用者に所望の起動感を与えるように構成される。すなわち、上記の特徴の構成により、起動ボタン46を押す力(並進力T)が調整されてもよい。この力が、起動スイッチ38を休止位置から起動位置へ回転させて注射針を突き刺し始めるのに必要である。
【0029】
以前にも説明したとおり(図8参照。)、ねじりばね32がピン34に加えるトルクT1は、たとえば、第1腕40の自由端40aに加わる水平力成分Hと、シャーシ22に加わる垂直力成分Vとに分解可能である。水平力成分Hの大きさは、トルクT1を垂直距離Y1で割った値に等しく、垂直力成分Vの大きさは、トルクT1を水平距離X1で割った値に等しい。水平力成分Hは起動スイッチ38に、回転軸41まわりの閾値トルクT2を加える。これにより、起動スイッチ38が休止位置に維持される。起動スイッチ38を起動位置へ回転させるには、閾値トルクT2が反対方向のトルクT3に打ち勝たねばならない。閾値トルクT2は、水平力成分Hの大きさに垂直距離Y2を乗じた値と等しい。反対方向のトルクT3は、起動ボタン46が起動スイッチ38に加える並進力Tの大きさに水平距離X2を乗じた値と等しい。
【0030】
それ故、当業者には理解されるはずであるように、起動スイッチ38の形は、使用者が起動ボタン46に加えてそれを休止位置から起動位置へ移動させ、注射針を皮膚へ突き刺すのに必要な力V2に影響する。この力V2は、起動スイッチ38を休止位置から起動位置へ回転させて回転式付勢機構28をエネルギー解放状態へ移行させ、シャーシ22と注射針24とを退避位置から注入位置へと移動させる力である。たとえば、第1腕40の第1部分40bに対する第2部分40cの角度は、ピン34と回転軸41との間の垂直距離Y2に影響するので、水平力成分Hが生み出す閾値トルクT2に影響する。閾値トルクT2が抑えられると反対方向のトルクT3が抑えられるので、注射針を突き刺す目的で使用者が起動ボタン46に加えなければならない並進力Tが抑えられる。同様に、回転軸41と、起動ボタン46が起動スイッチ38に接触する点との間の距離(長さX2)は、反対方向のトルクT3の必要な値に影響する。リップ46aが起動スイッチ38の中央部分44、すなわち、起動スイッチ38の最前端部に結合すると長さX2が最大となるので、注射針を突き刺すのに必要な反対方向のトルクT3を与える目的で使用者が加えなければならない並進力Tが抑えられる。当業者には理解されるはずであるように、図示されている実施形態では、起動スイッチ38に影響を与える回転式付勢機構28が2つあるので、それらの回転力T1の評価では上記の計算が倍となる。
【0031】
起動スイッチ38の第1腕40の自由端40aがピン34に対して摺動するのを妨げる静摩擦力Fもまた、起動ボタン46を休止位置から起動位置へ移動させて注射針を皮膚へ突き刺すのに必要な並進力Tに影響を与える要因である。当業者には理解されるはずであるように(図8参照。)、摩擦力Fはピン34と自由端40aとの間の接触点に作用しており、ピン34の接線に沿って起動スイッチ38のピン45に対する動きとは反対方向を向いている力である。また、理解されるはずであるように、摩擦力Fの大きさは、静摩擦係数と自由端40aに対する垂直抗力Nとの積に等しい。この抗力Nは、自由端40aに加わるピン34からの水平力成分Hを、水平力成分Hと垂直抗力Nとの間の角度θのコサインで割った値(すなわち、水平力成分Hとsecθとの積)に等しい。
【0032】
摩擦力Fは起動スイッチ38の回転軸41にトルクT4を及ぼす。このトルクT4は、摩擦力Fとそれに垂直な梃子の腕の長さLとの積に等しい。起動ボタン46を休止位置から起動位置へ移動させて注射針を皮膚へ突き刺すには、使用者は、トルクT2に加えてトルクT4にも打ち勝たねばならない。梃子の腕の長さLはほぼ第1腕40の第2部分40cの長さである。摩擦力Fの大きさは、静摩擦係数と、水平力成分Hに対して自由端40aの面が成す角度、すなわち角θとの両方に影響される。したがって、使用者が加えるべき並進力Tを増減させるために、たとえばピン34と起動スイッチ38とを形成する材料またはそれらの間の表面の仕上げを選択して摩擦力Fを増減させてもよい。同様に、使用者が加えるべき並進力Tを増減させるために、自由端40aの面の角度も選択して摩擦力Fを増減させてもよい。第2部分40cの長さも、使用者が加えるべき並進力Tを増減させるために選択されてもよい。当業者には理解されるはずであるように、図示されている実施形態では摩擦力Fが起動スイッチ38の第1腕40と第2腕42との両方に加わるので、上記の計算が倍になる。
【0033】
それ故、好ましくは、注射針を皮膚へ突き刺すのに必要な並進力Tは、回転式付勢機構28の回転力T1と摩擦力Fとで制御される。さらに、起動スイッチ38の形も並進力Tには影響する。たとえば、回転軸41の位置に加えて、第2部分40cの長さに対する第1部分40bの長さの比も、並進力Tには影響する。更に好ましくは、回転式付勢機構28の回転力T1と摩擦力Fとの間の比を調節することでも、起動ボタン46が休止位置から起動位置へ移動する間に並進力Tがどのように変化するかを制御することができる。
【0034】
非限定的な例の1つとして、起動ボタン46が押されるにつれて、並進力Tが徐々に弱まるように調節されてもよい。別の非限定的な例として、起動ボタン46が押されるにつれて、並進力Tが急激に弱まるように調節されてもよい。緩やかな力の変化は使用者に、起動ボタン46が正しく進んでいる感覚を与える。一方、初めは強いが、起動ボタン46の動きに伴って急激に弱まる力Tには、使用者が起動ボタン46を途中まで押したところで止めてしまうことを避けるという利点がある。すなわち、起動ボタン46が一旦動き始めると、中間点では止まらない。ねじりばね32の力と、駆動輪30の中央の回転軸に対してピン34の回転位置が変化することとにより、回転力T1は徐々に変化する。一方、摩擦力F、すなわち静摩擦力と動摩擦力との間の差は急激に変化する。したがって、摩擦力Fに対する回転力T1の比により、起動ボタン46が押される間に並進力Tがどのように変化するかが調節可能である。
【0035】
自由端40aの面の角度を制御することも、並進力Tには影響を与えうる。たとえば、図8に示されているように、自由端40aの面はハウジングの基礎部分14に向かって、すなわち、起動スイッチ38が休止位置から起動位置へ回転する方向へ傾斜していてもよい。したがって、摩擦力Fが弱まるので、起動スイッチ38がピン34から容易に解放される。また、図8に示されているように、自由端40aの面の下側の角が、湾曲等で緩やかに傾斜している。それ故、起動スイッチ38がピン34から解放される間に、並進力Tが徐々に弱まる。別の非限定的な例として、図9に示されているように、自由端40aの面がシャーシ22に向かって、すなわち起動スイッチ38が休止位置から起動位置へ回転する方向とは逆方向に傾斜していてもよい。したがって、自由端40aの面は、起動スイッチ38が起動位置へ向かう最初の回転に耐える。起動スイッチ38を回転させ始めるには、たとえば、自由端40aの面がピン34を押し戻さねばならない。すなわち、水平力成分Hとは反対方向へピン34を押さねばならない。さらに、摩擦力Fが増大する。たとえば、自由端40aの傾斜面がピン34を、スロット36に対して上方へ押すので、摩擦力が増える。また、図9に示されているように、自由端40aの面の下側の角が鋭角である。したがって、起動スイッチ38がピン34から解放されると、並進力Tが急激に弱まる。こうして、起動ボタン46が、最初は強い並進力Tを必要とするが、その後突然より弱い並進力Tで、起動位置へ到達するまで動く。
【0036】
発明の広い概念から外れることなく、上記の実施形態に変更を加えることが可能であることは、当業者には歓迎されるであろう。それ故、本発明が、開示されている特定の実施形態には限定されず、添付の請求の範囲で与えられているような本発明の精神と範囲との中での修正にも及ぶことを意図していることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9