(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】両面兼用印刷機における天地見当合わせシステム及び両面兼用印刷機における天地見当合わせプログラム並びに両面兼用印刷機における天地見当合わせ方法
(51)【国際特許分類】
B41F 33/00 20060101AFI20221222BHJP
【FI】
B41F33/00 290
(21)【出願番号】P 2021141005
(22)【出願日】2021-08-31
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】714000460
【氏名又は名称】リョービMHIグラフィックテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴彦
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/078206(WO,A1)
【文献】特開2005-014232(JP,A)
【文献】特開平11-105264(JP,A)
【文献】特開平04-007152(JP,A)
【文献】特開昭60-176764(JP,A)
【文献】米国特許第05127324(US,A)
【文献】米国特許第04706566(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
版胴、ゴム胴、圧胴を有する前刷りユニットと、該前刷りユニットにより印刷された枚葉紙に印刷を行う
べく、版胴、ゴム胴、圧胴を有する後刷りユニットと、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットとの間に配置され、片面印刷と両面印刷との切り替えを行うための反転ユニットと、前記前刷りユニットの予め決められた
前記圧胴の位相に対応する前記後刷りユニットの
前記圧胴の位相を検出する位相検出手段と、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットと前記反転ユニットの駆動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、印刷を行う前に、前記前刷りユニットの予め決められた
前記圧胴の位相に対応する前記後刷りユニットの理論上の
前記圧胴の位相と前記位相検出手段で検出された前記後刷りユニットの
前記圧胴の位相とを比較し、その差分に基づいて前記前刷りユニット
の前記版胴及び前記後刷りユニット
の前記版胴のうちの少なくとも一方の版胴の位相を調整する調整手段を備えていることを特徴とする両面兼用印刷機における天地見当合わせシステム。
【請求項2】
版胴、ゴム胴、圧胴を有する前刷りユニットと、該前刷りユニットにより印刷された枚葉紙に印刷を行う
べく、版胴、ゴム胴、圧胴を有する後刷りユニットと、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットとの間に配置され、片面印刷と両面印刷との切り替えを行うための反転ユニットと、前記前刷りユニットの予め決められた
前記圧胴の位相に対応する前記後刷りユニットの
前記圧胴の位相を検出する位相検出手段と、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットと前記反転ユニットの駆動を制御する制御部と、を備えている両面兼用印刷機における天地見当合わせシステムにおいて、
前記制御部により天地見当合わせを行う処理を、コンピュータを用いて自動で行うための両面兼用印刷機における天地見当合わせプログラムであって、
印刷を行う前に、前記前刷りユニットの予め決められた
前記圧胴の位相に対応する前記後刷りユニットの理論上の
前記圧胴の位相と前記位相検出手段で検出された前記後刷りユニットの
前記圧胴の位相とを比較し、その差分に基づいて前記前刷りユニット
の前記版胴及び前記後刷りユニットの
前記版胴のうちの少なくとも一方の版胴の位相を調整するよう制御する制御部として機能させるための両面兼用印刷機における天地見当合わせプログラム。
【請求項3】
版胴、ゴム胴、圧胴を有する前刷りユニットと、該前刷りユニットにより印刷された枚葉紙に印刷を行う
べく、版胴、ゴム胴、圧胴を有する後刷りユニットと、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットとの間に配置され、片面印刷と両面印刷との切り替えを行うための反転ユニットと、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットと前記反転ユニットの駆動を制御する制御部と、を備える両面兼用印刷機を用いて天地見当合わせを行う天地見当合わせ方法において、
印刷を行う前に、前記前刷りユニットの予め決められた
前記圧胴の位相に対応する前記後刷りユニットの
前記圧胴の位相を検出する位相検出ステップと、前記前刷りユニットの予め決められた
前記圧胴の位相に対応する前記後刷りユニットの理論上の
前記圧胴の位相と前記位相検出ステップで検出された前記後刷りユニットの
前記圧胴の位相とを比較して差分を演算する演算ステップと、該演算ステップにより演算した差分に基づいて前記前刷りユニット
の前記版胴及び前記後刷りユニット
の前記版胴のうちの少なくとも一方の版胴の位相を調整する調整ステップと、を備えていることを特徴とする両面兼用印刷機における天地見当合わせ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面兼用印刷機における天地見当合わせシステム及び両面兼用印刷機における天地見当合わせプログラム並びに両面兼用印刷機における天地見当合わせ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示す両面兼用印刷機は、搬送方向上流側の第1圧胴を有する前刷りユニットと、該前刷りユニットにより印刷された枚葉紙に印刷を行う搬送方向下流側の第2圧胴を有する後刷りユニットと、片面印刷と両面印刷とが行えるように前刷りユニットと後刷りユニットとの間に反転胴を有する反転ユニットと、を備え、各ユニットが備える渡し胴を含めた搬送胴が同期駆動されて枚葉紙を搬送する。そして、片面印刷から両面印刷へ切り替える時は、前記前刷りユニットに対する後刷りユニットの位相が、片面印刷時の基準の位相から枚葉紙の天地サイズに応じた位相角度だけずれた位相になるように反転ユニットに備える位相調整部により調整した上で各搬送胴を同期駆動する(両面印刷において用紙サイズを変更する時も同様である)。
【0003】
また、両面印刷から片面印刷へ切り替える時は、前刷りユニットに対する後刷りユニットの位相が前記基準の位相となるように反転ユニットの位相調整部によって調整した上で各搬送胴を同期駆動する。
【0004】
上記のように、後刷りユニットの位相が所定の位相となるように反転ユニットの位相調整部によって調整する。ところが、この調整において位相調整部の制御精度及び機械精度に起因する前刷りユニットに対する後刷りユニットの位相誤差がある程度は発生してしまう。この位相誤差は印刷物における天地方向の見当ズレの原因となる。この見当ズレが起こった場合は、印刷実施時において、印刷物の確認結果に基づいて見当を合わせるべく見当調整装置を駆動することが考えられるが、損紙が増えてしまうため、経済的でなく、実施し難いものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その課題は、見当合わせによって発生する損紙を抑制することができる両面兼用印刷機における天地見当合わせシステム及び両面兼用印刷機における天地見当合わせプログラム並びに両面兼用印刷機における天地見当合わせ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る両面兼用印刷機における天地見当合わせシステムは、前刷りユニットと、該前刷りユニットにより印刷された枚葉紙に印刷を行う後刷りユニットと、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットとの間に配置され、片面印刷と両面印刷との切り替えを行うための反転ユニットと、前記前刷りユニットの予め決められた位相に対応する前記後刷りユニットの位相を検出する位相検出手段と、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットと前記反転ユニットの駆動を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、印刷を行う前に、前記前刷りユニットの予め決められた位相に対応する前記後刷りユニットの理論上の位相と前記位相検出手段で検出された前記後刷りユニットの位相とを比較し、その差分に基づいて前記前刷りユニットに備える版胴及び前記後刷りユニットに備える版胴のうちの少なくとも一方の版胴の位相を調整する調整手段を備えていることを特徴としている。
【0008】
上記構成によれば、印刷を行う前に、前刷りユニットの予め決められた位相に対応する後刷りユニットの理論上の位相と位相検出手段で検出された後刷りユニットの位相とを比較し、その差分に基づいて前刷りユニットの版胴及び後刷りユニットの版胴のうちの少なくとも一方の版胴の位相を調整することによって、印刷を実施しないで天地方向の見当合わせが可能であるから、損紙の発生を可及的に抑制することができる。
【0009】
また、本発明に係る両面兼用印刷機における天地見当合わせプログラムは、前刷りユニットと、該前刷りユニットにより印刷された枚葉紙に印刷を行う後刷りユニットと、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットとの間に配置され、片面印刷と両面印刷との切り替えを行うための反転ユニットと、前記前刷りユニットの予め決められた位相に対応する前記後刷りユニットの位相を検出する位相検出手段と、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットと前記反転ユニットの駆動を制御する制御部と、を備えている両面兼用印刷機における天地見当合わせシステムにおいて、前記制御部により天地見当合わせを行う処理を、コンピュータを用いて自動で行うための両面兼用印刷機における天地見当合わせプログラムであって、印刷を行う前に、前記前刷りユニットの予め決められた位相に対応する前記後刷りユニットの理論上の位相と前記位相検出手段で検出された前記後刷りユニットの位相とを比較し、その差分に基づいて前記前刷りユニットに備える版胴及び前記後刷りユニットに備える版胴のうちの少なくとも一方の版胴の位相を調整するよう制御する制御部として機能させるための両面兼用印刷機における天地見当合わせプログラムであってもよい。
【0010】
上記構成によれば、コンピュータはプログラムに基づいて、印刷を行う前に、前刷りユニットの予め決められた位相に対応する後刷りユニットの理論上の位相と位相検出手段で検出された後刷りユニットの位相とを比較し、その差分に基づいて前刷りユニットの版胴及び後刷りユニットの版胴のうちの少なくとも一方の版胴の位相を調整することによって、印刷を実施しないで天地方向の見当合わせが可能であるから、損紙の発生を可及的に抑制することができる。
【0011】
また、本発明に係る両面兼用印刷機における天地見当合わせ方法は、前刷りユニットと、該前刷りユニットにより印刷された枚葉紙に印刷を行う後刷りユニットと、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットとの間に配置され、片面印刷と両面印刷との切り替えを行うための反転ユニットと、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットと前記反転ユニットの駆動を制御する制御部と、を備える両面兼用印刷機を用いて天地見当合わせを行う天地見当合わせ方法において、印刷を行う前に、前記前刷りユニットの予め決められた位相に対応する前記後刷りユニットの位相を検出する位相検出ステップと、前記前刷りユニットの予め決められた位相に対応する前記後刷りユニットの理論上の位相と前記位相検出ステップで検出された前記後刷りユニットの位相とを比較して差分を演算する演算ステップと、該演算ステップにより演算した差分に基づいて前記前刷りユニットに備える版胴及び前記後刷りユニットに備える版胴のうちの少なくとも一方の版胴の位相を調整する調整ステップと、を備えていることを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、印刷を行う前に、演算ステップで前刷りユニットの予め決められた位相に対応する後刷りユニットの理論上の位相と位相検出ステップで検出された後刷りユニットの位相とを比較して差分を演算し、演算ステップで演算した差分に基づいて前刷りユニットの版胴及び後刷りユニットの版胴のうちの少なくとも一方の版胴の位相を調整ステップで調整する。これにより、印刷を実施しないで天地方向の見当合わせが可能であるから、損紙の発生を可及的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、見当合わせによって発生する損紙を抑制することができる両面兼用印刷機における天地見当合わせシステム及び両面兼用印刷機における天地見当合わせプログラム並びに両面兼用印刷機における天地見当合わせ方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】印刷機の反転ユニット付近の部分を示し、両面印刷時の搬送経路を矢印で示している側面図である。
【
図2】印刷機の反転ユニット付近の部分を示し、片面印刷時の搬送経路を矢印で示している側面図である。
【
図4】天地方向の表裏見当合わせ制御を示すフローチャートである。
【
図5】反転胴の咥え爪が枚葉紙を咥えた状態を示す側面図であり、(a)は反転胴の位相が枚葉紙のサイズに合致している場合を示し、(b)は反転胴の位相が枚葉紙のサイズからずれた場合を示している。
【
図6】圧胴の咥え爪が枚葉紙を咥えた状態を示す側面図であり、(a)は圧胴の位相が枚葉紙のサイズに合致している場合を示し、(b)は圧胴の位相が枚葉紙のサイズからずれた場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態にかかる両面兼用印刷機について、図面を参照しながら説明する。この両面兼用印刷機は、片面印刷と両面印刷の両方が行える印刷機である。また、この両面兼用印刷機には、色間見当合わせあるいは表裏天地見当合わせを行う機能を備えている。
【0016】
図1では、印刷機における反転ユニットの周辺のみを示した側面図である。印刷機は、紙積み台(図示せず)と、紙積み台からフィーダ装置(図示せず)により一枚ずつ枚葉紙を送り出すための給紙部(図示せず)と、この給紙部から送り出された枚葉紙に印刷を行うための前刷りユニット(裏面印刷ユニット)1と、前刷りユニット1で印刷された枚葉紙を反転可能な反転ユニット2と、反転ユニット2で表裏が反転された枚葉紙又は表裏が反転されなかった枚葉紙に更に印刷を行うための後刷りユニット3と、印刷後の枚葉紙を搬送して排紙するための排紙部(図示せず)と、を備えている。この実施形態では、一台の前刷りユニット1と一台の後刷りユニット3を示しているが、少なくとも一方に2台以上のユニットを設けて実施してもよい。
【0017】
前刷りユニット1は、版が巻き付けられる版胴4と、版胴4からのインキが転写されるゴム胴5(ブランケット胴ともいう)と、ゴム胴5とで給紙部からの枚葉紙を圧接してゴム胴上のインキを枚葉紙に転写する圧胴6と、を備えている。圧胴6は、枚葉紙を保持するために、枚葉紙の前端部を挟持する咥え爪を備えている。尚、後述する枚葉紙を搬送する胴にも、咥え爪を備えている。
【0018】
反転ユニット2は、圧胴6で印刷された枚葉紙を受け取って搬送する第1渡し胴7と、第1渡し胴7からの枚葉紙を下流側へ搬送する第2渡し胴8と、第2渡し胴8からの枚葉紙の天地方向が反対となるように受け渡しを行うことで枚葉紙の表裏が反転されて後刷りユニット3へ渡すことができる反転胴9と、を備えている。
【0019】
図1では、両面印刷時の枚葉紙の搬送経路を矢印で示すとともに、両面印刷時に枚葉紙を受け渡す時の各咥え爪の位置(受け渡し位置)を示している。つまり、前刷りユニット1の圧胴6から第1渡し胴7への受け渡し位置10、第1渡し胴7から第2渡し胴8への受け渡し位置11、第2渡し胴8から反転胴9への受け渡し位置12,14、反転胴9から後述する後刷りユニット3の圧胴17への受け渡し位置13をそれぞれ示している。そして、反転胴9の咥え爪が第2渡し胴8によって搬送されている枚葉紙Pの後端部(紙尻部)を咥えて自転し、圧胴17の咥え爪へ受け渡すことで枚葉紙Pが反転される。また、第2渡し胴8の咥え爪は、受け渡し位置14にて咥えていた枚葉紙Pの前端部を開放する。尚、反転胴9の咥え爪が第2渡し胴8によって搬送されている枚葉紙Pの後端部(紙尻部)を咥えるために、枚葉紙Pの天地方向の長さに応じて第2渡し胴8に対する反転胴9の位相(機械位相とも言う)が位相調整部によって調整される。この調整が正しくなされていない場合は、
図5(b)に示すように、反転胴9の咥え爪9Aが枚葉紙Pの後端部(紙尻部)を正しく咥えることができず、その結果、反転胴9から枚葉紙Pが受け渡される圧胴17の咥え爪においても正しく咥えることができない。そのため、圧胴17上の枚葉紙は、正しい位置に対して天地方向でずれた位置に配置される。これにより、後刷りユニット3で印刷される画像は、前刷りユニット1で印刷された画像に対して天地方向に見当がずれてしまう。
【0020】
後刷りユニット3は、版が巻き付けられる版胴15と、版胴15からのインキが転写されるゴム胴16(ブランケット胴ともいう)と、ゴム胴16とで反転胴9からの枚葉紙を圧接してゴム胴上のインキを枚葉紙に転写する圧胴17と、を備えている。圧胴17は、枚葉紙を保持するために、
図2に示す片面印刷時には枚葉紙の前端部(
図1に示す両面印刷時には反転後の枚葉紙の前端部)を挟持する咥え爪を備えており、枚葉紙を搬送する搬送胴を兼用している。
【0021】
前刷りユニット1の圧胴6には、
図3に示すように、位相(機械位相とも言う)を検出する第1位相検出手段25Aを備えている。また、後刷りユニット3の圧胴17には、第1位相検出手段25Aで検出した位相が予め決められた位相の時の圧胴17の位相(機械位相とも言う)を検出する第2位相検出手段25Bを設けている。これら2つの位相検出手段25A,25Bは、ロータリエンコーダから構成されている。この実施形態では、前刷りユニット1の圧胴6に取り付けられているロータリエンコーダのZ相(原点位置)を通過する時のタイミング(前記予め設定されている位相)で後刷りユニットの圧胴17に取り付けられているロータリエンコーダから発するパルスを取得することで圧胴17の位相を検出する。ロータリエンコーダは、圧胴17の一回転で2万パルス以上を出力する高精度な光学式又は磁気式のロータリエンコーダから構成することが好ましいが、レゾルバ等の角度検出器であってもよい。また、この実施形態では、専用のロータリエンコーダ(位相検出手段)を設けているが、例えば印刷される枚葉紙を撮像する撮像装置用に設置しているものを流用してもよい。
【0022】
図2では、片面印刷時の枚葉紙の搬送経路を矢印で示すとともに、片面印刷時に枚葉紙を受け渡す時の各咥え爪の位置(受け渡し位置)を示している。つまり、前刷りユニット1の圧胴6から第1渡し胴7への受け渡し位置18、第1渡し胴7から第2渡し胴8への受け渡し位置19、第2渡し胴8から反転胴9への受け渡し位置20、反転胴9から後刷りユニット3の圧胴17への受け渡し位置21をそれぞれ示している。
【0023】
図3に示すように、前刷りユニット1は、前刷りユニット用見当調整装置22を備え、後刷りユニット3は、後刷りユニット用見当調整装置23を備えている。尚、前刷りユニット用見当調整装置22及び後刷りユニット用見当調整装置23は、従来公知の構成である。後述する制御部Sからの信号に基づいて前刷りユニット用見当調整装置22又は後刷りユニット用見当調整装置23を駆動することにより見当を正しく合わせることができる。実際には、前刷りユニット用見当調整装置22は、前刷りユニット1の版胴4の位置調整を行い、後刷りユニット用見当調整装置23は、後刷りユニット3の版胴15の位置調整を行うことで見当を合わせることになる。版胴4,15の位置調整は、軸方向(枚葉紙の左右幅方向)の位置調整と周方向(枚葉紙の天地方向)の位置調整(位相調整)が可能であるが、この実施形態では、周方向(枚葉紙の天地方向)の位置調整(位相調整)についてのみ説明する。
【0024】
図3に示すように、印刷機は、前刷りユニット1と後刷りユニット3と反転ユニット2の駆動を制御する制御部Sを備えている。また、前記制御部Sは、印刷を行う前に、前刷りユニット1の予め決められた位相に対応する後刷りユニット3の理論上の位相と前記第2位相検出手段25Bで検出された後刷りユニット3の位相とを比較し、その差分に基づいて前刷りユニット1と後刷りユニット3の天地方向の位相を調整する調整手段24を備えている。後刷りユニット3の理論上の位相とは、前刷りユニット1の圧胴6上の枚葉紙の圧胴6に対する位置と後刷りユニット3の圧胴17上の枚葉紙の圧胴17に対する位置とが理論上同一となる後刷りユニット3の位相である。
【0025】
調整手段24は、前刷りユニット1に備える版胴4及び後刷りユニット3に備える版胴15のうちの少なくとも一方の版胴の位相を調整する手段である。
【0026】
位相誤差検出による天地方向の表裏見当合わせの制御について、
図4のフローチャートに基づいて説明する。まず、反転ユニット2が備える位相調整部によって前刷りユニット1に対する後刷りユニット3の位相を印刷する枚葉紙の天地方向のサイズに応じて調整する(ステップS1)。次に、後刷りユニット3の位相、つまり圧胴17の位相を位相検出手段25Bにより検出する(ステップS2)。この検出は、印刷前の低速空回転時に、前述したように、前刷りユニット1の圧胴6に取り付けられているロータリエンコーダのZ相(原点位置)を通過する時のタイミングで後刷りユニットの圧胴17に取り付けられているロータリエンコーダから発するパルスを取得することで圧胴17の位相を検出する。印刷前の前記低速空回転中のパルス取得は、版交換中、版胴やゴム胴へインキを塗布するプリインキング中、刷版の表面に水を転移するプリウェット中等の印刷準備中に実施する。これにより、パルス取得のための専用時間を設けることが不要になり、余分な時間を無くすことができる。
【0027】
次に、理論上の圧胴17の位相と第2位相検出手段25Bにより検出した圧胴17の位相とを比較する(ステップS3)。比較によって得られた位相の差が、予め設定されている見当ズレ許容値(正確には、見当ズレ許容値に相当する位相差)よりも大きいかどうかを判断する(ステップS4)。前記差が見当ズレ許容値よりも大きい(
図4のステップS4のYesの)場合には、見当調整が必要であると判断し、ステップS5へ移行する。前記差が見当ズレ許容値よりも大きくない(
図4のステップS4のNoの)場合には、印刷物に発生する天地方向の見当ズレが小さいことが想定されるため、見当調整は行わず、制御を終了する。ステップS5では、差が見当調整上限値(正確には、見当調整上限値に相当する位相差)よりも小さいかどうかを判断する。差が見当調整幅よりも大きいと判断した(
図4のステップS5のNoの)場合には、オペレータに警告表示(警告音、音声メッセージ、モニターへの文字表示、警告灯の点灯等を)してから(ステップS6)、制御を終了する。ステップS5で差が見当調整幅よりも小さいと判断した(
図4のステップS5のYesの)場合には、差に対応する量だけ見当調整装置による版胴15の天地駆動を行う(ステップS7)。すなわち、版胴15の位相を調整する。前記見当調整装置による版胴15の天地駆動は、前記プリインキング中、前記プリウェット中等の印刷準備中に実施する。これにより、版胴15の天地駆動のための専用時間を設けることが不要になり、余分な時間を無くすことができる。そして、前記版胴15の駆動が完了したかどうかを判断し(ステップS8)、完了したと判断した場合には、試し刷りを開始し(ステップS9)、制御を終了する。試し刷り(片面印刷又は両面印刷)では、通常の見当合わせ(色間見当合わせ又は色間見当合わせと表裏見当合わせ)を行うとともに、色調を合わせる。尚、前記反転ユニット2の位置調整部の構成は、従来の反転ユニットと同様であるので、説明は省略する。ステップS5の見当調整上限値は、上記通常の見当合わせのための調整量を考慮して見当調整装置の最大調整量よりも小さい値にしている。また、ステップS6の警告表示後は、オペレータがその後の処理を制御部Sに指示する。
【0028】
両面印刷において、位相調整部によって枚葉紙の天地方向のサイズに合わせて第2渡し胴8に対する反転胴9の位相が調整された場合に、反転胴9の位相が枚葉紙Pの天地方向のサイズに合っている場合(正しく調整されている場合)の反転胴9の状態を、
図5(a)に示している。これに対して、
図5(b)では、反転胴9の位相が枚葉紙Pの天地方向のサイズに合っていない場合(正しく調整されていない場合)、例えば反転胴9の咥え爪9Aの咥え量が小さく(浅く)なっている場合の反転胴9の状態を示している(図示していないが、反転胴9の咥え爪9Aの咥え量が大きく(深く)なっている場合もある)。また、
図6(a)は、
図5(a)で示す状態の反転胴9から枚葉紙Pが受け渡された圧胴17の状態を示している。
図6(a)では、圧胴17は、咥え爪17Aと爪台17Bとで枚葉紙Pを適正位置で咥えている。すなわち、枚葉紙Pは圧胴17上の正しい位置にある。これに対して、
図6(b)は、
図5(b)で示す状態の反転胴9から枚葉紙Pが受け渡された圧胴17の状態を示しており、この場合、圧胴17の咥え爪17Aの咥え量が小さく(浅く)なっている(図示していないが、圧胴17の咥え爪17Aの咥え量が大きく(深く)なっている場合もある)。すなわち、
図6(b)の状態においては、枚葉紙Pは圧胴17上の正しい位置にないことになる。したがって、
図6(a)では、前刷りユニット1で枚葉紙Pに印刷された前刷り画像26と後刷りユニット3で枚葉紙Pに印刷された後刷り画像27とが天地方向で同一位置に印刷されている。これに対して、
図6(b)では、前刷りユニット1で枚葉紙Pに印刷された前刷り画像26と後刷りユニット3で枚葉紙Pに印刷された後刷り画像27とが天地方向で距離Aだけずれた位置に印刷されている。つまり、圧胴17での枚葉紙Pの咥え位置が距離Aだけ浅くなっているため、印刷開始位置が同一であることから、前刷り画像26が後刷り画像27よりも後側に位置してしまう。尚、
図6(a),(b)では、説明を分かり易くするために、咥え爪17Aを開いた位置に描いているが、実際は閉じた位置で枚葉紙Pを搬送する。
【0029】
前記のような位置ずれを解消するために、制御部Sは、印刷前に、距離Aだけ咥え側の端K1(
図6(b)参照)から後端側(尻側)に離間した位置から印刷するように後刷りユニット3の版胴15の位相を調整する。すなわち、版胴15を見当調整装置によって天地方向地側へ距離Aだけ移動させる。これにより、
図6(a)に示すように、表裏に印刷した前刷り画像26と後刷り画像27の位置を一致させることができる。すなわち、表裏の見当を合わせることができる。前記のように後刷りユニット3の版胴15を天地方向地側へ距離Aだけ移動させる他、前刷りユニット1の版胴4を天地方向地側へ距離Aだけ移動させる、あるいは前刷りユニット1の版胴4及び後刷りユニット3の版胴15の両方それぞれを、印刷前に、距離Aの半分(A/2)ずつ天地方向地側へ移動させることによって、表裏の見当を合わせることもできる。このように、前刷りユニット1の版胴4と後刷りユニット3の版胴15を距離Aの半分(A/2)ずつ天地方向地側へ移動させることによって、一方の版胴15を距離Aだけ天地方向地側へ移動させる構成に比べて、版胴の移動にかかる時間を半分にすることができる。又、前刷りユニット1の版胴4と後刷りユニット3の版胴15の両方それぞれにおいて見当調整上限値までの天地方向地側への移動が可能となるので、いずれか一方のユニットの版胴のみを移動する場合に比べて調整可能な距離Aの大きさが2倍になる。尚、前刷りユニット1の版胴4と後刷りユニット3の版胴15を距離Aの半分(A/2)ずつに分けて(均等に分けて)移動させる場合が移動にかかる時間が最小となり、又、調整可能な距離Aの大きさが最大となり、好ましいが、例えば2A/3とA/3に分けてもよく、必ずしも半分ずつに分けなくてもよい。この実施形態では、両面印刷時の表裏見当合わせについて説明したが、片面印刷時の色間見当合わせについても同様である。
【0030】
本発明では、印刷を行う前に、前刷りユニット1の位相に対応する後刷りユニット3の理論上の位相と位相検出手段25Bで検出された後刷りユニット3の位相とを比較し、その差分に基づいて前刷りユニット1の版胴4と後刷りユニット3の版胴15の少なくとも一方の版胴の位相を調整することによって、印刷を実施しないで天地方向の見当合わせが可能であるから、損紙の発生を可及的に抑制することができる。また、例えば試し刷りで行う見当合わせを効率的に行うことができる。
【0031】
また、本発明は、前刷りユニットと、該前刷りユニットにより印刷された枚葉紙に印刷を行う後刷りユニットと、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットとの間に配置され、片面印刷と両面印刷との切り替えを行うための反転ユニットと、前記前刷りユニットの予め決められた位相に対応する前記後刷りユニットの位相を検出する位相検出手段と、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットと前記反転ユニットの駆動を制御する制御部と、を備えている両面兼用印刷機における天地見当合わせシステムにおいて、前記制御部により天地見当合わせを行う処理を、コンピュータを用いて自動で行うための両面兼用印刷機における天地見当合わせプログラムであって、印刷を行う前に、前記前刷りユニットの位相に対応する前記後刷りユニットの理論上の位相と前記位相検出手段で検出された前記後刷りユニットの位相とを比較し、その差分に基づいて前記前刷りユニットに備える版胴及び前記後刷りユニットに備える版胴のうちの少なくとも一方の版胴の位相を調整するよう制御する制御部として機能させるための両面兼用印刷機における天地見当合わせプログラムであってもよい。
【0032】
また、本発明は、前刷りユニットと、該前刷りユニットにより印刷された枚葉紙に印刷を行う後刷りユニットと、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットとの間に配置され、片面印刷と両面印刷との切り替えを行うための反転ユニットと、前記前刷りユニットと前記後刷りユニットと前記反転ユニットの駆動を制御する制御部と、を備える両面兼用印刷機を用いて天地見当合わせを行う天地見当合わせ方法において、印刷を行う前に、前記前刷りユニットの予め決められた位相に対応する前記後刷りユニットの位相を検出する位相検出ステップと、前記前刷りユニットの予め決められた位相に対応する前記後刷りユニットの理論上の位相と前記位相検出ステップで検出された前記後刷りユニットの位相とを比較して差分を演算する演算ステップと、該演算ステップにより演算した差分に基づいて前記前刷りユニットに備える版胴及び前記後刷りユニットに備える版胴のうちの少なくとも一方の版胴の位相を調整する調整ステップと、を備えていることを特徴とする両面兼用印刷機における天地見当合わせ方法であってもよい。
【0033】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0034】
また、前記実施形態では、調整手段は版胴のみについて位相を調整する手段であったが、版胴と該版胴に隣接するゴム胴の両胴について、これら両胴の位相関係が維持した状態で、圧胴に対する位相を調整する手段であってもよい。
【0035】
また、前記実施形態では、ロータリエンコーダは圧胴に設ける構成であったが、圧胴以外の搬送胴に設ける構成であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…前刷りユニット、2…反転ユニット、3…後刷りユニット、4…版胴、5…ゴム胴、6…圧胴、7…第1渡し胴、8…第2渡し胴、9…反転胴、9A…咥え爪、10,11,12,13,14…受け渡し位置、15…版胴、16…ゴム胴、17…圧胴、17A…咥え爪、17B…爪台、18,19,20,21…受け渡し位置、22…前刷りユニット用見当調整装置、23…後刷り用見当調整装置、24…調整手段、25A,25B…位相検出手段、26…前刷り画像、27…後刷り画像、A…距離、P…枚葉紙、S…制御部
【要約】
【課題】見当合わせによって発生する損紙を抑制することができる両面兼用印刷機における天地見当合わせシステムを提供する。
【解決手段】前刷りユニット1と、後刷りユニット3と、反転ユニット2と、前刷りユニット1の予め決められた位相に対応する後刷りユニット3の位相を検出する位相検出手段25Bと、前刷りユニット1と後刷りユニット3と反転ユニット2の駆動を制御する制御部Sと、を備え、制御部Sは、印刷を行う前に、前刷りユニット1の位相に対応する後刷りユニットの理論上の位相と前記位相検出手段で検出された前記後刷りユニットの位相とを比較し、その差分に基づいて前記前刷りユニットに備える版胴及び前記後刷りユニットに備える版胴のうちの少なくとも一方の版胴の位相を調整する調整手段24を備えている。
【選択図】
図3