(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】多孔質複合体
(51)【国際特許分類】
B01D 46/00 20220101AFI20221222BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20221222BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20221222BHJP
C04B 41/85 20060101ALI20221222BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
B01D46/00 302
B01D39/20 D
C04B38/00 303Z
C04B41/85 D
F01N3/022 C
(21)【出願番号】P 2021508613
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013670
(87)【国際公開番号】W WO2020194681
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】中島 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】武野 省吾
(72)【発明者】
【氏名】泉 有仁枝
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-529132(JP,A)
【文献】特開平8-931(JP,A)
【文献】特開平7-163823(JP,A)
【文献】国際公開第2008/047558(WO,A1)
【文献】特開2013-39513(JP,A)
【文献】国際公開第2004/076027(WO,A1)
【文献】特表2013-527025(JP,A)
【文献】国際公開第03/080539(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/093727(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 46/00
B01D 39/20
C04B 38/00
C04B 41/85
F01N 3/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質複合体であって、
多孔質の基材と、
前記基材上に形成された多孔質の捕集層と、
を備え、
前記基材は、内部が隔壁により長手方向に延びる複数のセルに仕切られたハニカム構造を有し、
前記複数のセルでは、長手方向の一端が封止された複数の第1セルと、長手方向の他端が封止された複数の第2セルとが交互に配列されており、
前記捕集層は、前記複数の第1セルの内側面を被覆し、
前記複数の第1セルにおける前記捕集層の表面の面粗さを示す算術平均高さSaである全体Saは、0.1μm以上かつ12μm以下であり、
前記複数の第1セルにおける前記捕集層の平均膜厚である全体平均膜厚は、10μm以上かつ40μm以下である。
【請求項2】
請求項1記載の多孔質複合体であって、
前記複数の第1セルの長手方向の前記一端側の端部における前記捕集層の表面の算術平均高さSaである出口側Saは、0.1μm以上かつ15μm以下である。
【請求項3】
請求項2に記載の多孔質複合体であって、
前記複数の第1セルの前記端部における前記捕集層の平均膜厚である出口側平均膜厚は、35μm以上かつ50μm以下である。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の多孔質複合体であって、
前記複数の第1セルにおける前記捕集層の平均細孔径は、0.1μm以上かつ20μm以下である。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の多孔質複合体であって、
前記複数の第1セルにおける前記捕集層の気孔率は、50%以上かつ90%以下である。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の多孔質複合体であって、
前記複数の第1セルにおける前記捕集層の骨材の平均粒径は、0.1μm以上かつ5μm以下である。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の多孔質複合体であって、
前記複数の第1セルにおける前記捕集層は、炭化ケイ素、コージェライト、ムライト、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化セリウムのうち少なくとも1つを含む。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の多孔質複合体であって、
前記捕集層は、前記複数の第2セル内には存在しない。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1つに記載の多孔質複合体であって、
前記隔壁の主材料はコージェライトであり、
前記隔壁の平均細孔径は、5μm以上かつ30μm以下であり、
前記隔壁の気孔率は、30%以上かつ70%以下である。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1つに記載の多孔質複合体であって、
ガソリンエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するガソリン・パティキュレート・フィルタである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関や各種燃焼装置等から排出されるガスには、スス等の粒子状物質が含まれている。そこで、ディーゼルエンジンを搭載している車両等では、排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタが設けられている。当該フィルタの1つとして、多孔質のハニカム基材の複数のセルにおいて、一部のセルの流出側の開口部、および、残余のセルの流入側の開口部に目封止部を設けたハニカム構造体が用いられている。
【0003】
近年、ガソリンエンジンからの排ガスに含まれる粒子状物質についても、上述のようなハニカム構造体をフィルタとして利用して捕集することが提案されている。例えば、特開2011-139975号公報(文献1)では、直噴ガソリンエンジンの排ガスに含まれる粒子状物質を、圧力損失の増大を抑制しつつ高い捕集効率で捕集するハニカム構造体が提案されている。また、特開2011-147931号公報(文献2)では、ハニカム構造体の隔壁表面に表面捕集層を形成することにより、捕集効率を向上する技術が提案されている。
【0004】
現在、上記フィルタとして利用されるハニカム構造体では、圧力損失の更なる増大抑制と、粒子状物質の高い捕集効率との両立が求められている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、多孔質複合体に向けられており、圧力損失(以下、「圧損」という。)を低減するとともに粒子状物質の捕集効率を向上することを目的としている。
【0006】
本発明の好ましい一の形態に係る多孔質複合体は、多孔質の基材と、前記基材上に形成された多孔質の捕集層と、を備える。前記基材は、内部が隔壁により長手方向に延びる複数のセルに仕切られたハニカム構造を有する。前記複数のセルでは、長手方向の一端が封止された複数の第1セルと、長手方向の他端が封止された複数の第2セルとが交互に配列されている。前記捕集層は、前記複数の第1セルの内側面を被覆する。前記複数の第1セルにおける前記捕集層の表面の面粗さを示す算術平均高さSaである全体Saは、0.1μm以上かつ12μm以下である。前記複数の第1セルにおける前記捕集層の平均膜厚である全体平均膜厚は、10μm以上かつ40μm以下である。当該多孔質複合体によれば、圧損を低減することができるとともに捕集効率を向上することもできる。
【0007】
好ましくは、前記複数の第1セルの長手方向の前記一端側の端部における前記捕集層の表面の算術平均高さSaである出口側Saは、0.1μm以上かつ15μm以下である。
【0008】
好ましくは、前記複数の第1セルの前記端部における前記捕集層の平均膜厚である出口側平均膜厚は、35μm以上かつ50μm以下である。
【0009】
好ましくは、前記複数の第1セルにおける前記捕集層の平均細孔径は、0.1μm以上かつ20μm以下である。
【0010】
好ましくは、前記複数の第1セルにおける前記捕集層の気孔率は、50%以上かつ90%以下である。
【0011】
好ましくは、前記複数の第1セルにおける前記捕集層の骨材の平均粒径は、0.1μm以上かつ5μm以下である。
【0012】
好ましくは、前記複数の第1セルにおける前記捕集層は、炭化ケイ素、コージェライト、ムライト、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化セリウムのうち少なくとも1つを含む。
【0013】
好ましくは、前記捕集層は、前記複数の第2セル内には存在しない。
【0014】
好ましくは、前記隔壁の主材料はコージェライトである。前記隔壁の平均細孔径は、5μm以上かつ30μm以下である。前記隔壁の気孔率は、30%以上かつ70%以下である。
【0015】
好ましくは、前記多孔質複合体は、ガソリンエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するガソリン・パティキュレート・フィルタである。
【0016】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一の実施の形態に係る多孔質複合体の平面図である。
【
図3】捕集層および基材の断面のSEM画像に相当する模式図である。
【
図4】捕集層および基材の断面のSEM画像に相当する模式図である。
【
図5】捕集層および基材の断面のSEM画像に相当する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る多孔質複合体1を簡略化して示す平面図である。多孔質複合体1は、一方向に長い筒状部材であり、
図1では、多孔質複合体1の長手方向における一方側の端面を示している。
図2は、多孔質複合体1を示す断面図である。
図2では、当該長手方向に沿う断面の一部を示している。多孔質複合体1は、例えば、自動車等のガソリンエンジンから排出される排ガス中のスス等の粒子状物質を捕集するガソリン・パティキュレート・フィルタ(GPF:Gasoline Particulate Filter)として用いられる。
【0019】
多孔質複合体1は、多孔質の基材2と、多孔質の捕集層3とを備える。
図1および
図2に示す例では、基材2は、ハニカム構造を有する部材である。基材2は、筒状外壁21と、隔壁22とを備える。筒状外壁21は、長手方向(すなわち、
図2中の左右方向)に延びる筒状の部位である。長手方向に垂直な筒状外壁21の断面形状は、例えば略円形である。当該断面形状は、多角形等の他の形状であってもよい。
【0020】
隔壁22は、筒状外壁21の内部に設けられ、当該内部を複数のセル23に仕切る格子状の部位である。複数のセル23はそれぞれ、長手方向に延びる空間である。長手方向に垂直な各セル23の断面形状は、例えば略正方形である。当該断面形状は、多角形または円形等の他の形状であってもよい。複数のセル23は、原則として同じ断面形状を有する。複数のセル23には、異なる断面形状のセル23が含まれてもよい。基材2は、内部が隔壁22により複数のセル23に仕切られたセル構造体である。
【0021】
筒状外壁21および隔壁22はそれぞれ、多孔質の部位である。筒状外壁21および隔壁22は、例えばセラミックにより形成される。筒状外壁21および隔壁22の主材料は、好ましくはコージェライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)である。筒状外壁21および隔壁22の材料は、コージェライト以外のセラミックであってもよく、セラミック以外の材料であってもよい。
【0022】
筒状外壁21の長手方向の長さは、例えば、50mm~300mmである。筒状外壁21の外径は、例えば、50mm~300mmである。筒状外壁21の厚さは、例えば30μm(マイクロメートル)以上であり、好ましくは50μm以上である。筒状外壁21の厚さは、例えば1000μm以下であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは350μm以下である。
【0023】
隔壁22の長手方向の長さは、筒状外壁21と略同じである。隔壁22の厚さは、例えば30μm以上であり、好ましくは50μm以上である。隔壁22の厚さは、例えば1000μm以下であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは350μm以下である。隔壁22の気孔率は、例えば20%以上であり、好ましくは30%以上である。隔壁22の気孔率は、例えば80%以下であり、好ましくは70%以下である。当該気孔率は、例えば、純水を媒体としてアルキメデス法により測定可能である。隔壁22の平均細孔径は、例えば5μm以上であり、好ましくは8μm以上である。隔壁22の平均細孔径は、例えば30μm以下であり、好ましくは25μm以下である。当該平均細孔径は、例えば水銀圧入法(JIS R1655準拠)により測定される。
【0024】
基材2のセル密度(すなわち、長手方向に垂直な断面における単位面積当たりのセル23の数)は、例えば10セル/cm
2(平方センチメートル)以上であり、好ましくは20セル/cm
2以上であり、より好ましくは30セル/cm
2以上である。セル密度は、例えば200セル/cm
2以下であり、好ましくは150セル/cm
2以下である。
図1では、セル23の大きさを実際よりも大きく、セル23の数を実際よりも少なく描いている。セル23の大きさおよび数等は、様々に変更されてよい。
【0025】
多孔質複合体1がGPFとして用いられる場合、長手方向における多孔質複合体1の一端側(すなわち、
図2中の左側)を入口とし、他端側を出口として、多孔質複合体1の内部を排ガス等のガスが流れる。また、多孔質複合体1の複数のセル23のうち、一部の複数のセル23において、入口側の端部に目封止部24が設けられ、残りの複数のセル23において、出口側の端部に目封止部24が設けられる。
【0026】
図1は、多孔質複合体1の入口側を描いている。また、
図1では、図の理解を容易にするために、入口側の目封止部24に平行斜線を付している。
図1に示す例では、入口側に目封止部24が設けられたセル23と、入口側に目封止部24が設けられていないセル23(すなわち、出口側に目封止部24が設けられたセル23)とが、
図1中の縦方向および横方向において交互に配列される。
【0027】
以下の説明では、出口側に目封止部24が設けられたセル23を「第1セル231」と呼び、入口側に目封止部24が設けられたセル23を「第2セル232」と呼ぶ。また、第1セル231および第2セル232を区別する必要が無い場合は、既述のように、まとめて「セル23」と呼ぶ。多孔質複合体1の複数のセル23では、長手方向の一端が封止された複数の第1セル231と、長手方向の他端が封止された複数の第2セル232とが交互に配列されている。
【0028】
捕集層3は、基材2の表面上に膜状に形成される。
図2に示す例では、捕集層3は、出口側に目封止部24が設けられた複数の第1セル231内に設けられ、当該複数の第1セル231の内側面(すなわち、隔壁22の表面)を被覆する。
図2では、捕集層3を太線にて示す。捕集層3は、当該複数の第1セル231内において、出口側の目封止部24の内面も被覆する。一方、入口側に目封止部24が設けられた複数の第2セル232内には、捕集層3は存在しない。換言すれば、複数の第2セル232の内側面は、捕集層3により被覆されておらず、露出している。
【0029】
複数の第1セル231における捕集層3は、例えばセラミックにより形成される。好ましくは、捕集層3は、炭化ケイ素、コージェライト、ムライト、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化セリウムのうち少なくとも1つを主材料として含む。なお、捕集層3は、他のセラミックにより形成されてもよく、セラミック以外の材料により形成されてもよい。
【0030】
捕集層3の平均細孔径は、好ましくは0.1μm以上かつ20μm以下である。当該平均細孔径は、より好ましくは4.1μm以上かつ20μm以下であり、さらに好ましくは4.1μm以上かつ6μm以下である。捕集層3の気孔率は、好ましくは、50%以上かつ90%以下である。当該気孔率は、より好ましくは、70%以上かつ78%以下である。捕集層3を構成する骨材の平均粒径は、好ましくは、0.1μm以上かつ5μm以下である。当該平均粒径は、より好ましくは、0.4μm以上かつ5μm以下である。
【0031】
捕集層3の平均細孔径、気孔率および骨材の平均粒径は、以下の方法で求められる。まず、多孔質複合体1をクロスセクションポリッシャ(CP)で加工して、捕集層3および基材2を含む研磨断面を露出させ、当該研磨断面をSEM(走査型電子顕微鏡)により所定の倍率(例えば、1000倍)で撮影することにより、SEM画像を取得する。
図3は、当該SEM画像に相当する模式図である。続いて、当該SEM画像を、株式会社日本ローパー製の画像解析ソフト「Image-Pro ver. 9.3.2」を用いて画像解析することにより、捕集層3の平均細孔径、気孔率および骨材の平均粒径が求められる。
【0032】
具体的には、
図4の模式図に示すように、当該SEM画像の捕集層3が存在する領域において、基材2の表面に平行に延びる複数の直線91を、当該複数の直線91に垂直な方向に配列する。当該SEM画像の1画素は、0.1μm×0.1μmに対応する。また、各直線91の幅は、当該SEM画像の1画素分に相当し、
図4に示す例では0.1μmである。次に、直線91上において明部分(すなわち、捕集層3の骨材)がつながっている各領域(以下、「明領域」と呼ぶ。)の面積を算出する。また、直線91上において暗部分(すなわち、捕集層3の気孔)がつながっている各領域(以下、「暗領域」と呼ぶ。)の面積を算出する。当該明領域および暗領域の面積算出では、直線91により幅0.2μmの領域(すなわち、2画素分の幅を有する領域)が抽出される。具体的には、幅0.1μmの直線91が、幅方向にて隣接する2列の画素列(すなわち、幅方向に垂直な方向に配列される複数の画素の列)の境界線上に配置され、当該直線91と重なりを有する全画素が、上記面積算出の対象となる。明領域および暗領域の面積は、0.01μm
2単位で算出し、0.05μm
2未満の領域(すなわち、5画素未満の領域)はノイズとして無視する。そして、暗領域の面積の算術平均を、直線91により抽出された気孔面積として求める。当該気孔面積は、気孔径と直線91により規定される気孔幅(すなわち、2画素に相当する0.2μm)とを積算したものである。したがって、上述の暗領域の面積の算術平均を0.2μm(すなわち、気孔幅)で除算することにより、捕集層3の平均細孔径を算出する。また、暗領域の合計面積を、明領域の合計面積と暗領域の合計面積との和で除算することにより、捕集層3の気孔率を算出する。
【0033】
また、
図5の模式図に示すように、当該SEM画像において、捕集層3の一部を長方形領域92で切り取り、当該長方形領域92内において、各明部分(すなわち、各骨材粒子)のフェレー径(JIS Z 8827-1)を測定する。具体的には、長方形領域92内において、所定の方向(例えば、左右方向)を向く2本の平行な直線で骨材粒子を挟み、当該2本の直線を骨材粒子に外接させた際の当該2本の直線の間隔(すなわち、当該2本の直線に垂直な方向における当該2本の直線の間の距離)をフェレー径とする。そして、全骨材粒子のフェレー径の算術平均を、骨材粒子の平均粒径として取得する。
【0034】
捕集層3の表面全体について、当該表面の面粗さを示す算術平均高さSa(以下、「全体Sa」とも呼ぶ。)は、好ましくは、0.1μm以上かつ12μm以下である。当該全体Saは、より好ましくは、0.1μm以上かつ10μm以下である。また、捕集層3の表面において、ガスが流出する出口側の端部における算術平均高さSa(以下、「出口側Sa」とも呼ぶ。)は、0.1μm以上かつ15μm以下である。当該出口側Saは、より好ましくは、0.1μm以上かつ10μm以下である。
【0035】
捕集層3の全体の平均膜厚(以下、「全体平均膜厚」とも呼ぶ。)は、好ましくは、10μm以上かつ40μm以下である。当該全体平均膜厚は、より好ましくは、30μm以上かつ40μm以下である。また、上述の出口側の端部における捕集層3の平均膜厚(以下、「出口側平均膜厚」とも呼ぶ。)は、20μm以上かつ50μm以下である。当該出口側平均膜厚は、より好ましくは、35μm以上かつ50μm以下である。好ましくは、出口側平均膜厚は全体平均膜厚よりも大きい。
【0036】
捕集層3の表面の算術平均高さSa、および、捕集層3の平均膜厚は、3D形状測定機により測定される。具体的には、まず、多孔質複合体1を長手方向に平行な2つの断面にて切断することにより、当該2つの断面にて挟まれた略平板状の部位を試料として取得する。当該2つの断面は、多孔質複合体1の長手方向に延びる中心軸を挟んで対向し、少なくとも一方の断面は、複数のセル23を含む。当該試料の長手方向の長さは、多孔質複合体1の長手方向の長さと同じであり、試料の幅方向の幅は、多孔質複合体1の直径(すなわち、筒状外壁21の外径)と同じである。
【0037】
図6は、取得された試料80の一方の主面(すなわち、多孔質複合体1の縦断面)を示す図である。
図6に示すように、略矩形の試料80において、図中の上下方向に延びる複数のセル23が、図中の左右方向に配列されている。図中の上下方向および左右方向はそれぞれ、多孔質複合体1の長手方向、および、上記中心軸を中心とする径方向(すなわち、幅方向)に対応する。図中の下側は、上述の入口側に対応し、図中の上側は、上述の出口側に対応する。なお、
図6および後述する
図7では、平行斜線を付すセル23は、捕集層3が設けられているセル23である。
【0038】
続いて、
図7に示すように、
図6の多孔質複合体1の縦断面において、9つの測定領域811~813、821~823、831~833が試料80上に設定される。各測定領域811~813、821~823、831~833は、試料80の長手方向および幅方向にそれぞれ平行な一対の辺を有する略矩形状の領域である。測定領域821~823は、測定画像の幅方向中央において、下側(すなわち、入口側)から順に上下方向に並ぶ。測定領域811~813は、測定領域821~823の右側において下側から順に上下方向に並ぶ。測定領域831~833は、測定領域821~823の左側において下側から順に上下方向に並ぶ。測定領域811~813、821~823、831~833のそれぞれの幅方向の幅は、試料80の幅の略1/3である。測定領域811~813、821~823、831~833のそれぞれの長手方向の長さは、試料80の長手方向の全長(以下、単に「全長」と呼ぶ。)の20%に略等しい。
【0039】
測定領域811、821、831は、長手方向の略同じ位置に位置する。測定領域811、821、831の長手方向中央は、試料80の下端から上側に、試料80の全長の20%に略等しい距離離れた位置に位置する。測定領域812、822、832は、長手方向の略同じ位置に位置する。測定領域812、822、832の長手方向中央は、試料80の長手方向の略中央に位置する。測定領域813、823、833は、長手方向の略同じ位置に位置する。測定領域813、823、833の長手方向中央は、試料80の上端から下側に、試料80の全長の20%に略等しい距離離れた位置に位置する。
【0040】
次に、測定領域821の任意の点において、試料80の主面を3D形状測定機(株式会社キーエンス製:ワンショット3D形状測定機VR-3200)により、所定の倍率(例えば、25倍)にて撮像する。
図8は、3D形状測定機により得られた画像を模式的に示す図である。当該画像では、3つの第1セル231と、2つの第2セル232とが、幅方向に交互に配列されている。
図8では、図の理解を容易にするために、各第1セル231の捕集層3に平行斜線を付す。また、
図8では、隔壁22上の捕集層3の断面を太線にて示す。
【0041】
3D形状測定機では、
図8に示す画像に基づいて、当該画像中の1つの第1セル231における捕集層3の表面の算術平均高さSaが算出される。具体的には、当該第1セル231の幅方向の中央部において長手方向に延びる帯状の領域の算術平均高さSaが算出される。算出された算術平均高さSaは、測定領域821における捕集層3のSaとして取得される。なお、
図8に示す画像中の各第1セル231について算出された捕集層3のSaは略同じであった。また、測定領域821において3D形状測定機による撮像点を様々に変更して測定した捕集層3のSaも略同じであった。他の測定領域811~813、822~823、831~833においても同様であった。
【0042】
測定領域821における捕集層3のSaが測定されると、測定領域822~823における捕集層3のSaが、同様の方法にて測定される。また、測定領域811~813における捕集層3のSaも、同様の方法にて測定される。そして、当該6つの測定領域(すなわち、測定領域811~813、821~823)における捕集層3のSaの算術平均が求められ、当該算術平均が、上述の全体Saとして取得される。また、出口側の2つの測定領域(すなわち、測定領域813、823)における捕集層3のSaの算術平均が、上述の出口側Saとして取得される。なお、全体Saおよび出口側Saの算出では、測定領域811~813における捕集層3のSaに代えて、測定領域831~833における捕集層3のSaが用いられてもよい。
【0043】
また、3D形状測定機では、
図8に示す画像に基づいて、当該画像中の幅方向中央の第1セル231における捕集層3表面の厚さ方向(すなわち、図中における紙面に垂直な方向)における平均位置、および、当該第1セル231の両側に隣接する2つの第2セル232における隔壁22表面の厚さ方向における平均位置が算出される。具体的には、第1セル231の幅方向の中央部において長手方向に延びる帯状の領域における捕集層3表面の平均位置、および、各第2セル232の幅方向の中央部において長手方向に延びる帯状の領域における隔壁22表面の平均位置が算出される。そして、第1セル231における上記平均位置から、2つの第2セル232における上記平均位置の算術平均を減算することにより、第1セル231における捕集層3の平均膜厚が算出される。算出された平均膜厚は、測定領域821における捕集層3の平均膜厚として取得される。なお、
図8に示す画像中の各第1セル231について算出された捕集層3の平均膜厚は略同じであった。また、測定領域821において3D形状測定機による撮像点を様々に変更して測定した捕集層3の平均膜厚も略同じであった。他の測定領域811~813、822~823、831~833においても同様であった。
【0044】
測定領域821における捕集層3の平均膜厚が測定されると、測定領域822~823における捕集層3の平均膜厚が、同様の方法にて測定される。また、測定領域811~813における捕集層3の平均膜厚も、同様の方法にて測定される。そして、当該6つの測定領域(すなわち、測定領域811~813、821~823)における捕集層3の平均膜厚の算術平均が求められ、当該算術平均が、上述の全体平均膜厚として取得される。また、出口側の2つの測定領域(すなわち、測定領域813、823)における捕集層3の平均膜厚の算術平均が、上述の出口側平均膜厚として取得される。なお、全体平均膜厚および出口側平均膜厚の算出では、測定領域811~813における捕集層3の平均膜厚に代えて、測定領域831~833における捕集層3の平均膜厚が用いられてもよい。
【0045】
図1および
図2に示す多孔質複合体1では、
図2中の矢印A1にて示すように、多孔質複合体1内に流入するガスは、入口側が封止されていない第1セル231の入口から当該第1セル231内に流入し、当該第1セル231から捕集層3および隔壁22を通過して、出口側が封止されていない第2セル232へと移動する。このとき、捕集層3においてガス中の粒子状物質が効率良く捕集される。
【0046】
次に、多孔質複合体1の製造方法の一例について、
図9を参照しつつ説明する。多孔質複合体1が製造される際には、まず、基材2の筒状外壁21の外側面が、不透液性のシート部材により覆われる。例えば、不透液性のフィルムが、筒状外壁21の外側面の略全面に亘って巻き付けられる。
【0047】
続いて、捕集層3を形成するための原料スラリーが準備される(ステップS11)。原料スラリーは、捕集層3の原料である粒子(以下、「捕集層粒子」と呼ぶ。)、造孔剤の粒子、および、凝集剤等を水に加えて混合することにより調製される。捕集層粒子は、例えば、炭化ケイ素(SiC)または酸化セリウム(CeO2)の粒子である。原料スラリーは、捕集層粒子および造孔剤粒子等が凝集した粒子(以下、「凝集粒子」と呼ぶ。)を含む。原料スラリーが調製される際には、凝集粒子の粒径が基材2の平均細孔径よりも大きくなるように、凝集剤の種類や添加量等が決定される。これにより、後述するステップS12において、凝集粒子が基材2の細孔に浸入することが防止または抑制される。原料スラリーの粘度は、例えば、2mPa・s~30mPa・sである。
【0048】
次に、基材2の複数のセル23のうち、捕集層3が形成される予定の複数の第1セル231に対して、当該複数の第1セル231の入口(すなわち、目封止部24が設けられていない方の端部)から原料スラリーが供給される(ステップS12)。原料スラリー中の水は、基材2の隔壁22を透過して隣接する第2セル232へと移動し、第2セル232の目封止部24が設けられていない方の端部から、基材2の外部へと流出する。原料スラリー中の凝集粒子は、隔壁22を通過することなく、原料スラリーが供給された第1セル231の内面に付着する。これにより、基材2の第1セル231の内面に凝集粒子が略均等に付着した中間体が形成される。
【0049】
所定量の原料スラリーの供給が終了すると、水分が流出した中間体が乾燥される(ステップS13)。例えば、中間体は、室温で12時間乾燥された後、80℃で12時間加熱されることにより、さらに乾燥される。その後、中間体が焼成されることにより、基材2上に付着した多数の凝集粒子中の捕集層粒子が結合して基材2表面上に広がり、多孔質の捕集層3が形成される(ステップS14)。当該焼成工程では、捕集層3に含まれている造孔剤粒子が、燃焼除去されることにより、捕集層3に細孔が形成される。ステップS14における焼成温度および焼成時間はそれぞれ、例えば、1200℃および2時間である。
【0050】
ステップS14にて形成された捕集層3の表面の算術平均高さSaは、例えば、ステップS12における原料スラリーの供給開始から中間体の形成終了(すなわち、基材2からの水分流出の終了)までの所要時間を変更することにより、調節することができる。中間体の形成終了は、例えば、原料スラリーが供給された基材2の重量を継続的に測定し、測定された重量が所定重量まで減少した時点とする。上記多孔質複合体1の製造方法では、例えば、ステップS12における原料スラリーの供給開始から中間体の形成終了までの所要時間を短くすることにより、上述の算術平均高さSaが小さくなる。当該所要時間の短縮は、例えば、ステップS12において吸気装置等により基材2に対する吸引を行うことにより、原料スラリー中の水が基材2の外部へと流出することを促進することにより実現される。
【0051】
次に、表1~表2を参照しつつ、捕集層3の算術平均高さSa(すなわち、全体Saおよび出口側Sa)および平均膜厚(すなわち、全体平均膜厚および出口側平均膜厚)と、多孔質複合体1の圧損および捕集効率との関係について説明する。
【0052】
【0053】
【0054】
実施例1~7では、基材2の主材料はコージェライトであり、平均細孔径および気孔率はそれぞれ、12μmおよび48%である。実施例1~5では、捕集層3の主材料はSiCであり、実施例6~7では、捕集層3の主材料はCeO2である。
【0055】
実施例1~7では、捕集層3の全体Saは4μm~11μmであり、出口側Saは5μm~14μmである。捕集層3の全体平均膜厚は27μm~39μmであり、出口側平均膜厚は33μm~47μmである。捕集層3の平均細孔径は3.2μm~6.1μmであり、気孔率は67%~79%である。捕集層3を構成する骨材の平均粒径は、2μm~3μmである。
【0056】
比較例1~6では、実施例1~7と同様に、基材2の主材料はコージェライトであり、平均細孔径および気孔率はそれぞれ、12μmおよび48%である。比較例1~5では、捕集層3の主材料はSiCであり、比較例6では、捕集層3は設けられない。すなわち、比較例6の多孔質複合体1は、コージェライト製の基材2のみにより構成される。
【0057】
比較例1~5では、捕集層3の全体Saは5μm~41μmであり、出口側Saは6μm~84μmである。捕集層3の全体平均膜厚は32μm~70μmであり、出口側平均膜厚は45μm~98μmである。捕集層3の平均細孔径は3.7μm~5.8μmであり、気孔率は70%~78%である。捕集層3を構成する骨材の平均粒径は、3μmである。
【0058】
比較例1~2では、捕集層3の全体Saは12μmよりも大きく、出口側Saも15μmよりも大きい。比較例2~5では、捕集層3の全体平均膜厚は40μmよりも大きく、出口側平均膜厚も50μmよりも大きい。
【0059】
実施例1~7および比較例1~6では、多孔質複合体1による粒子状物質の捕集効率の良否、および、初期圧損の抑制の良否(すなわち、初期圧損の上昇率の大小)について判定した。当該捕集効率は、以下のようにして求めた。まず、各実施例および各比較例の多孔質複合体1をそれぞれ、排気量2リットルの直噴式ガソリンエンジンを持つ乗用車両の排気系にGPFとして搭載し、シャシダイナモによる車両試験を行った。当該車両試験では、欧州規制運転モード(RTS95)にて運転した際における排ガス中の粒子状物質の排出個数を、PMP(欧州規制のパティキュレート計測プロトコル)に沿った計測方法で計測した。また、上記排気系にGPFを搭載することなく同様の車両試験を行い、排ガス中の粒子状物質の排出個数を同様の計測方法で計測した。GPF無しの場合の粒子状物質の排出個数を「基準排出個数」として、各実施例および各比較例について、計測された粒子状物質の排出個数と基準排出個数との差を、基準排出個数により除算した値(%)を、「捕集効率(%)」とした。
【0060】
また、初期圧損の上昇率は、以下のようにして求めた。まず、各実施例および各比較例の多孔質複合体1に、室温の空気を10Nm3/minの流量で供給し、多孔質複合体1の前後の圧力差(すなわち、空気の流入側と流出側とにおける差圧)をそれぞれ計測した。そして、比較例6(基材2のみ)の圧力差に対する、各実施例および各比較例の圧力差の上昇率を、多孔質複合体1の「初期圧損の上昇率」として求めた。具体的には、初期圧損の上昇率(%)は、各実施例および各比較例のそれぞれの圧力差をAとし、比較例6の圧力差をBとすると、(A-B)/B×100で求めた。
【0061】
表1~表2では、捕集効率の良否を記号にて示す。具体的には、捕集効率が92.5%以上である場合を「◎」で示し、捕集効率が90%以上かつ92.5%未満である場合を「○」で示す。また、捕集効率が87.5%以上かつ90%未満である場合を「△」で示し、捕集効率が87.5%未満である場合を「×」で示す。
【0062】
表1~表2では、初期圧損抑制の良否も記号にて示す。具体的には、初期圧損の上昇率が10%未満である場合を「○」で示し、初期圧損の上昇率が10%以上かつ13%未満である場合を「△」で示し、初期圧損の上昇率が13%以上である場合を「×」で示す。
【0063】
実施例1では、捕集効率は92.5%以上、初期圧損の上昇率は10%未満と、共に良好であった。実施例2では、捕集効率は92.5%以上と良好であり、初期圧損の上昇率は10%以上かつ13%未満と許容範囲内であった。実施例2において初期圧損の上昇率が少し大きくなったのは、捕集層3の全体Saおよび出口側Saが10μmよりも大きいことが原因と考えられる。実施例3では、捕集効率は90%以上かつ92.5%未満、初期圧損は10%未満と、共に良好であった。実施例3において捕集効率が少し小さくなったのは、捕集層3の出口側平均膜厚が35μm未満であることが原因と考えられる。
【0064】
実施例4では、捕集効率は92.5%以上と良好であり、初期圧損の上昇率は10%以上かつ13%未満と許容範囲内であった。実施例4において初期圧損の上昇率が少し大きくなったのは、捕集層3の平均細孔径が4.1μm未満であることが原因と考えられる。実施例5では、捕集効率は87.5%以上かつ90%未満と許容範囲内であり、初期圧損の上昇率は10%未満と良好であった。実施例5において捕集効率が少し小さくなったのは、捕集層3の平均細孔径が6μmよりも大きく、気孔率が78%よりも大きいことが原因と考えられる。実施例6では、捕集効率は92.5%以上、初期圧損の上昇率は10%未満と、共に良好であった。実施例7では、捕集効率は92.5%以上と良好であり、初期圧損の上昇率は10%以上かつ13%未満と許容範囲内であった。実施例7において初期圧損の上昇率が少し大きくなったのは、捕集層3の平均細孔径が4.1μm未満であることが原因と考えられる。
【0065】
一方、比較例1~5では、初期圧損の上昇率は13%以上と大きかった。比較例1において初期圧損の上昇率が過大であるのは、全体Saが12μmよりも大きく、出口側Saが15μmよりも大きいことが原因と考えられる。比較例2において初期圧損の上昇率が過大であるのは、全体Saが12μmよりも大きく、出口側Saが15μmよりも大きく、さらに、全体平均膜厚が40μmよりも大きく、出口側平均膜厚が50μmよりも大きいことが原因と考えられる。比較例3~5において初期圧損の上昇率が過大であるのは、全体平均膜厚が40μmよりも大きく、出口側平均膜厚が50μmよりも大きいことが原因と考えられる。比較例6では、捕集層3が設けられていないため、捕集効率が87.5%未満と非常に小さかった。
【0066】
以上に説明したように、多孔質複合体1は、多孔質の基材2と、基材2上に形成された多孔質の捕集層3と、を備える。基材2は、内部が隔壁22により長手方向に延びる複数のセル23に仕切られたハニカム構造を有する。複数のセル23では、長手方向の一端が封止された複数の第1セル231と、長手方向の他端が封止された複数の第2セル232とが交互に配列される。捕集層3は、複数の第1セル231の内側面を被覆する。複数の第1セル231における捕集層3の表面の面粗さを示す算術平均高さSaである全体Saは、0.1μm以上かつ12μm以下である。
【0067】
これにより、第1セル231内を流れるガスと捕集層3との摩擦抵抗を低減することができる。その結果、多孔質複合体1における圧損を低減することができる。また、第1セル231の長手方向の各位置において、周方向における捕集層3の表面の凹凸が低減される。これにより、当該各位置において、周方向における粒子状物質の捕集の均一性を向上することができるため、多孔質複合体1における粒子状物質の捕集効率を向上することができる。さらに、捕集層3の表面が滑らかになることにより、捕集層3の表層部が欠けたり割れたりすることを抑制することができる。その結果、多孔質複合体1の耐久性を向上することができる。
【0068】
また、多孔質複合体1では、複数の第1セル231における捕集層3の平均膜厚である全体平均膜厚は、10μm以上かつ40μm以下である。これにより、捕集層3が厚くなることによる圧損増大を抑制することができるとともに、捕集層3が薄くなることによる捕集効率の低下を抑制することもできる。換言すれば、多孔質複合体1における圧損をさらに低減することができるとともに、捕集効率をさらに向上することもできる。
【0069】
上述のように、複数の第1セル231の長手方向の一端側(すなわち、出口側)の端部における捕集層3の表面の算術平均高さSaである出口側Saは、0.1μm以上かつ15μm以下であることが好ましい。このように、粒子状物質の捕集初期において圧力が高い出口側の面粗さを低減することにより、多孔質複合体1における圧損をさらに低減することができるとともに、捕集効率をさらに向上することもできる。
【0070】
上述のように、複数の第1セル231の上記端部(すなわち、出口側の端部)における捕集層3の平均膜厚である出口側平均膜厚は、35μm以上かつ50μm以下であることが好ましい。これにより、多孔質複合体1における圧損をより一層低減することができるとともに、捕集効率をより一層向上することもできる。
【0071】
上述のように、複数の第1セル231における捕集層3の平均細孔径は、0.1μm以上かつ20μm以下であることが好ましい。これにより、平均細孔径が小さくなることによる圧損増大を抑制することができるとともに、平均細孔径が大きくなることによる捕集効率の低下を抑制することもできる。換言すれば、多孔質複合体1における圧損をさらに低減することができるとともに、捕集効率をさらに向上することもできる。
【0072】
上述のように、複数の第1セル231における捕集層3の気孔率は、50%以上かつ90%以下であることが好ましい。これにより、多孔質複合体1における圧損増大の抑制を効率良く実現することができる。
【0073】
上述のように、複数の第1セル231における捕集層3の骨材の平均粒径は、0.1μm以上かつ5μm以下であることが好ましい。これにより、多孔質複合体1における圧損をさらに低減することができるとともに、捕集効率をさらに向上することもできる。
【0074】
上述のように、複数の第1セル231における捕集層3は、炭化ケイ素、コージェライト、ムライト、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化セリウムのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。このように、比較的耐熱性が高いセラミック材料を用いて捕集層3を形成することにより、焼成工程を含む多孔質複合体1の製造を好適に行うことができる。
【0075】
上述のように、捕集層3は、複数の第2セル232内には存在しないことが好ましい。これにより、多孔質複合体1における圧損の不要な増大を防止することができる。
【0076】
上述のように、基材2の主材料はコージェライトであることが好ましい。また、好ましくは、隔壁22の平均細孔径は5μm以上かつ30μm以下であり、隔壁22の気孔率は30%以上かつ70%以下である。これにより、多孔質複合体1における圧損低減および捕集効率向上を好適に実現することができる。
【0077】
上述のように、多孔質複合体1によれば、圧損を低減することができるとともに、捕集効率向上することもできる。したがって、多孔質複合体1は、ガソリンエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するGPFに特に適している。
【0078】
上述の多孔質複合体1では、様々な変更が可能である。
【0079】
多孔質複合体1の構造は、様々に変更されてよい。例えば、全てのセル23の内側面に、捕集層3が設けられてもよい。
【0080】
多孔質複合体1の用途は、上述のGPFには限定されず、ディーゼル・パティキュレート・フィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)等の他のフィルタとして多孔質複合体1が用いられてもよい。あるいは、多孔質複合体1は、フィルタ以外の用途に用いられてもよい。
【0081】
多孔質複合体1の製造方法は、
図9に例示するものには限定されず、様々に変更されてよい。例えば、ステップS12において、基材2への原料スラリーの供給方法は、様々に変更されてよい。また、捕集層3の原料の基材2への供給は、原料スラリーを用いる濾過方式には限定されず、ディップ方式、スプレー方式または乾式等、様々な方法により行われてよい。さらに、ステップS13における中間体の乾燥方法および乾燥時間、並びに、ステップS14における中間体の焼成温度および焼成時間等も、様々に変更されてよい。
【0082】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0083】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、粒子状物質を捕集するフィルタ、例えば、ガソリンエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するガソリン・パティキュレート・フィルタに利用可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 多孔質複合体
2 基材
3 捕集層
22 隔壁
23 セル
231 第1セル
232 第2セル
S11~S14 ステップ