(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】印刷システムおよび印刷方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/34 20060101AFI20221223BHJP
B41F 35/00 20060101ALI20221223BHJP
B41M 1/12 20060101ALI20221223BHJP
B41F 15/08 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
H05K3/34 512B
H05K3/34 505D
B41F35/00 C
B41M1/12
B41F15/08 303E
(21)【出願番号】P 2018224310
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】河内 満
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】萬谷 正幸
【審査官】柴垣 宙央
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-184497(JP,A)
【文献】特開2011-151078(JP,A)
【文献】特開2010-230463(JP,A)
【文献】特開2018-025481(JP,A)
【文献】特開2018-134804(JP,A)
【文献】特開2013-028112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/34
B41F 35/00
B41M 1/12
B41F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に半田を印刷する印刷システムであって、
所定の開口を有するマスクを介して、前記基板上に形成された複数の電極パターンに半田を印刷する印刷装置と、
前記印刷された半田を検査する検査装置と、
前記基板の形状に関するデータに基づいて、印刷難易度が高い少なくとも一つの電極パターンを特定する特定部と、
前記特定された少なくとも1つの電極パターンに印刷された半田の検査結果に基づいて印刷不良の予兆を判定する予兆判定部を有する、印刷システム。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷システムであって、
前記印刷装置および前記検査装置と通信ネットワークを介して接続されるとともに、前記検査装置から検査結果を受信する管理装置を有し、
前記管理装置は、前記特定部と、前記予兆判定部を有する、印刷システム。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷システムであって、
前記検査装置は、全ての前記電極パターンに印刷された半田の検査を行い、
前記予兆判定部は、前記検査装置による検査結果から、前記特定部により特定された前記電極パターンに印刷された半田の検査結果を抽出して印刷不良の予兆を判定する、印刷システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の印刷システムであって、
前記特定部は、前記電極パターンから前記マスクの底面までの距離を求め、前記距離が所定値よりも高い電極パターンを印刷難易度が高いと評価する、印刷システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の印刷システムであって、
前記特定された電極パターンに印刷された半田の検査結果は、少なくとも一つの印刷パラメータを含み、
前記予兆判定部は、前記印刷パラメータを所定値と比較して印刷不良の予兆を判定する、印刷システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の印刷システムであって、
前記予兆判定部は、印刷不良の予兆があると判定した場合、前記印刷装置に対して、前記マスクのクリーニングおよび印刷条件の変更のうち少なくとも1つを指示する、印刷システム。
【請求項7】
基板に半田を印刷する印刷方法であって、
所定の開口を有するマスクを介して、前記基板上に形成された複数の電極パターンに半田を印刷する印刷工程と、
前記印刷された半田を検査する検査工程と、
前記基板の形状に関するデータに基づいて、印刷難易度が高い少なくとも一つの電極パターンを特定する特定工程と、
前記特定された少なくとも1つの電極パターンに印刷された半田の検査結果に基づいて印刷不良の予兆を判定する予兆判定工程とを含む、印刷方法。
【請求項8】
請求項7に記載の印刷方法であって、
前記検査工程において、全ての前記電極パターンに印刷された半田の検査を行い、
前記予兆判定工程において、前記検査工程における検査結果から、前記特定工程により特定された前記電極パターンに印刷された半田の検査結果を抽出して印刷不良の予兆を判定する、印刷方法。
【請求項9】
請求項8に記載の印刷方法であって、
前記特定工程において、前記電極パターンから前記マスクの底面までの距離を求め、前記距離が所定値よりも高い電極パターンを印刷難易度が高いと評価する、印刷方法。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか一項に記載の印刷方法であって、
前記特定された電極パターンに印刷された半田の検査結果は、少なくとも一つの印刷パラメータを含み、
前記予兆判定工程において、前記印刷パラメータを所定値と比較して印刷不良の予兆を判定する、印刷方法。
【請求項11】
請求項7から10のいずれか一項に記載の印刷方法であって、
前記印刷工程では印刷装置によって複数の前記電極パターンに半田を印刷し、
前記予兆判定工程において、印刷不良の予兆があると判定した場合、前記印刷装置に対して、前記マスクのクリーニングおよび印刷条件の変更のうち少なくとも1つを指示する、印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に部品接合用の半田を印刷する印刷システムおよび印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板に電子部品を実装して実装基板を製造する部品実装ラインでは、基板のランドに部品接合用の半田がスクリーン印刷により供給される。スクリーン印刷はマスクに形成された開口を介して基板のランドにペースト状の半田を転写する方式であり、開口への半田を充填するスキージングや開口内の半田をランドに転写する版離れを適正に行って良好な印刷結果を得るためには、印刷対象に応じて適正な印刷条件を設定することが求められる。
【0003】
このような印刷条件の設定を適正に行う方法として、従来より実際に印刷作業が行われた基板を検査した結果に基づいて印刷条件の設定を行う方法が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献例に示す先行技術では、実装基板の生産の過程で印刷済みの基板を印刷状態を検査し、印刷した半田の座標、半田面積、半田高さ等について統計処理を行い、統計量が基準値と差異がある箇所、すなわち印刷不良が起こり易い場所を特定して、印刷不良の予兆検出を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上述の特許文献例に示す先行技術を含め、印刷済みの基板の検査結果に基づいて印刷不良を検出する方法においては、以下に述べるような課題があった。すなわち従来技術において、不良が起こり易い場所を高精度で特定するためには、基板への半田印刷を十分なデータ数を取得可能な回数以上行った上で印刷結果の統計処理を行う必要がある。このため、統計処理の最中に不良が発生した場合は破損基板や作業ロスが発生することとなり、生産効率の低下を招くことが避けられない。このように、従来技術には印刷不良の予兆を効率的に検出することが困難であるという課題があった。
【0006】
そこで本発明は、印刷不良の予兆を高精度で効率的に検出して安定した印刷状態を管理することができる印刷システムおよび印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の印刷システムは、基板に半田を印刷する印刷システムであって、所定の開口を有するマスクを介して、前記基板上に形成された複数の電極パターンに半田を印刷する印刷装置と、前記印刷された半田を検査する検査装置と、前記基板の形状に関するデータに基づいて、印刷難易度が高い少なくとも一つの電極パターンを特定する特定部と、前記特定された少なくとも1つの電極パターンに印刷された半田の検査結果に基づいて印刷不良の予兆を判定する予兆判定部を有する。
【0008】
本発明の印刷方法は、基板に半田を印刷する印刷方法であって、所定の開口を有するマスクを介して、前記基板上に形成された複数の電極パターンに半田を印刷する印刷工程と、前記印刷された半田を検査する検査工程と、前記基板の形状に関するデータに基づいて、印刷難易度が高い少なくとも一つの電極パターンを特定する特定工程と、前記特定された少なくとも1つの電極パターンに印刷された半田の検査結果に基づいて印刷不良の予兆を判定する予兆判定工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、印刷不良の予兆を高精度で効率的に検出して安定した印刷状態を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施の形態の印刷システムの構成を示すブロック図
【
図2】本発明の一実施の形態の印刷システムを構成する印刷装置の断面図
【
図3】本発明の一実施の形態の印刷システムにおける印刷難易度の説明図
【
図4】本発明の一実施の形態の印刷システムにおける印刷状態の予兆管理の処理フローを示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。まず
図1を参照して、印刷システム1の構成を説明する。印刷システム1は、部品が実装された実装基板を製造する部品実装システムに組み込まれ、基板に部品を接合するための半田を部品搭載前の基板に印刷する機能を有する。
【0012】
図1において、印刷システム1は、印刷装置2、検査装置3および印刷装置2、検査装置3と通信ネットワーク4を介して接続された管理装置5を有している。印刷装置2、検査装置3は、部品実装システムが有する部品実装ラインの一部を構成する。印刷装置2は部品実装ラインの上流側設備から供給された基板を対象としてスクリーン印刷を実行する。
【0013】
スクリーン印刷においては、複数の開口が形成されたマスク(
図2に示すマスク22参照)を介して基板上に形成された複数の電極パターンに半田を印刷する。検査装置3は、印刷装置2によって基板に印刷された半田を検査する。この検査により印刷状態が良好と判定された基板は下流側の部品実装装置(図示省略)に受け渡され、後続の部品実装作業が実行される。
【0014】
ここで
図2を参照して、印刷装置2の構造を説明する。
図2において、印刷装置2は、基板位置決め部11の上方にスクリーン印刷部21を配設して構成されている。基板位置決め部11は、Y軸テーブル12、X軸テーブル13およびθ軸テーブル14を段積みし、更にその上に第1のZ軸テーブル15、第2のZ軸テーブル16を組み合わせて構成されている。
【0015】
第1のZ軸テーブル15の構成を説明する。θ軸テーブル14の上面に設けられた水平なベースプレート14aの上面側には、同様に水平なベースプレート15aが昇降ガイド機構(図示省略)によって昇降自在に保持されている。ベースプレート15aは、複数の送りねじ15cをモータ15bによって回転駆動する構成のZ軸昇降機構によって昇降する。
【0016】
ベースプレート15aには垂直フレーム15dが立設されており、垂直フレーム15dの上端部には基板搬送機構18が保持されている。基板搬送機構18は基板搬送方向(X方向--
図1において紙面垂直方向)に平行に配設された2条の搬送レールを備えており、これらの搬送レールによって印刷対象の基板20の両端部を支持して搬送する。第1のZ軸テーブル15を駆動することにより、基板搬送機構18によって保持された状態の基板20を、基板搬送機構18とともに後述するスクリーン印刷部21に対して昇降させることができる。
【0017】
基板搬送機構18は上流側および下流側に延出し、上流側から搬入された基板20は基板搬送機構18によって搬送され、さらに基板位置決め部11によって位置決めされる。そしてスクリーン印刷部21によって印刷が行われた後の基板20は、基板搬送機構18によって下流側に搬出され、検査装置3に搬入されて印刷検査の対象となる。
【0018】
第2のZ軸テーブル16の構成を説明する。基板搬送機構18とベースプレート15aの中間には、水平なベースプレート16aが昇降ガイド機構(図示省略)に沿って昇降自在に配設されている。ベースプレート16aは、複数の送りねじ16cをモータ16bによって回転駆動する構成のZ軸昇降機構によって昇降する。ベースプレート16aの上面には、上面に基板20を保持する下受け面が設けられた基板下受部17が配設されている。
【0019】
第2のZ軸テーブル16を駆動することにより、基板下受部17は基板搬送機構18に保持された状態の基板20に対して昇降する。そして基板下受部17の下受け面が基板20の下面に当接することにより、基板下受部17は基板20を下面側から支持する。基板搬送機構18の上面にはクランプ機構19が配設されている。クランプ機構19は、左右対向して配置された2つのクランプ部材19aを備えており、一方側のクランプ部材19aを駆動機構19bによって進退させることにより、基板20を両側からクランプして固定する。
【0020】
次に基板位置決め部11の上方に配設されたスクリーン印刷部21について説明する。
図2において、マスク枠22aにはマスク22が展張されており、マスク22には、基板20において印刷対象となる電極パターン20a(
図3(b)参照)の形状・位置に対応して、開口22bが設けられている。
【0021】
マスク22上には印刷ヘッド23が配設されている。印刷ヘッド23は、水平なプレート24にスキージ26を昇降させてマスク22に押圧する印圧付与機構25を配設した構成となっている。印圧付与機構25はスキージ26をマスク22に押圧する印圧値を調整することが可能となっている。この印圧値は、印刷状態の良否と関連した印刷条件の一つであり、検査装置3による検査結果に応じて印圧値を調整することにより、印刷状態を改善することができる。
【0022】
プレート24の下面にはスキージ移動機構27を構成するナット部材27cが結合されている。ナット部材27cには、スキージ移動モータ27aによって回転駆動される送りねじ27bが螺合している。スキージ26を下降させてマスク22に押圧した状態でスキージ移動モータ27aを駆動することによりスキージ26は印刷ヘッド23とともにY方向に移動する。これにより、スキージ26はマスク22の上面でY方向(スキージング方向)に移動する。このスキージ26のスキージ移動速度は、前述の印圧値と同様に印刷状態の良否と関連した印刷条件の一つであり、検査装置3による検査結果に応じてスキージ移動速度を調整することにより、印刷状態を改善することができる。
【0023】
次に、マスク22の下面をクリーニングするマスククリーニング機構28について説明する。
図2に示すように、本実施の形態においては、マスククリーニング機構28はカメラヘッド移動機構(図示省略)によりカメラヘッドユニット29と一体的にY方向に移動する構成となっている。カメラヘッドユニット29は、基板20を上方から撮像するための基板認識カメラ29aと、マスク22を下面側から撮像するためのマスク認識カメラ29bとを備えており、カメラヘッドユニット29を移動させることにより、基板20の認識とマスク22の認識とを同時に行うことができる。
【0024】
マスククリーニング機構28は卷回状態で供給されるクリーニングペーパ(図示省略)が装着されたクリーニングヘッド28aを備えている。クリーニングヘッド28aをマスク22の下面に押しつけた状態で、マスククリーニング機構28をY方向に移動させることにより、マスク22の下面に付着した半田ペーストなどの付着異物がクリーニングされる。このクリーニングは、付着異物をクリーニングペーパによって拭き取り、さらにクリーニングヘッド28aが備えた吸引機能によって吸引除去することにより行われる。これにより、マスク22の下面がクリーニングされ、マスク22の下面の汚損に起因する印刷不良を改善することができる。
【0025】
カメラヘッドユニット29による基板20やマスク22の認識を行わず、またマスククリーニング機構28によるマスククリーニングを行わないときには、カメラヘッドユニット29、マスククリーニング機構28はともに基板位置決め部11の上方から側方に退避する。そしてマスククリーニングを実行する際には、マスククリーニング機構28をカメラヘッドユニット29とともにマスク22の下方に進出させる。
【0026】
次に印刷装置2による印刷動作について説明する。まず基板搬送機構18によって基板20が印刷位置に搬入されると、第2のZ軸テーブル16を駆動して基板下受部17を上昇させ、基板20の下面を下受けする。そしてこの状態で基板位置決め部11を駆動して基板20をマスク22に対して位置合わせする。この後、第1のZ軸テーブル15を駆動して基板20を基板搬送機構18とともに上昇させてマスク22の下面に当接させ、次いで基板20をクランプ機構19によってクランプする。これにより、印刷ヘッド23によるスキージングにおいて、基板20の水平位置が固定される。そしてこの状態で、ペースト状の半田が供給されたマスク22上でスキージ26を摺動させることにより、開口22bを介して基板20に形成された電極パターン20aには半田が印刷される。
【0027】
上述のスクリーン印刷において良好な印刷状態を確保するためには、印刷装置2の各部の動作態様を規定する印刷条件を、印刷に用いられるマスク22や使用される印刷材料に適合させる必要がある。このような印刷条件としては、前述の印圧値やスキージ移動速度がある。さらに、マスククリーニング機構28によるマスククリーニングを適切に行って、マスク22の下面を清浄な状態に保つ必要がある。
【0028】
ところが実際の生産現場では、上述の印刷条件が常に適正な状態に設定されているとは限らず、これら不適切な印刷条件に起因して印刷状態の不良を招く場合がある。このような印刷状態の不良は、印刷対象の基板20とマスク22の組み合わせにおいて、最も印刷難易度が高い印刷部位、すなわちマスク22に形成された複数の開口22bのうち、半田の充填や版離れが難しい開口22bに端的に現れる。
【0029】
本実施の形態においては、このような最も印刷難易度が高い印刷部位を予め特定する。そして検査装置3によって取得された検査結果のうち、特定された印刷部位を監視して不良発生の予兆を検出し、予兆が検出されたならば印刷装置2に対して適正な印刷条件に変更するように復元指示を行うようにしている。
【0030】
以下、このような印刷状態の予兆管理を適切に行うために、印刷システム1において各装置が備えた構成について説明する。
図1において、印刷装置2は通信部31を介して通信ネットワーク4と接続されている。さらに通信部31は、印刷制御部32、記憶部33と接続されている。印刷制御部32は、
図2に示す基板位置決め部11、印刷ヘッド23、スキージ移動機構27、印圧付与機構25、マスククリーニング機構28を制御する。記憶部33は、前述の印刷値やスキージ移動速度などの印刷条件データ33aを記憶する。印刷制御部32が印刷条件データ33aに基づいて
図2に示す各部を制御することにより、作業対象の基板20へのスクリーン印刷が実行される。
【0031】
検査装置3は、通信部41を介して通信ネットワーク4と接続されている。さらに通信部41は、検査制御部42、検査実行部43、記憶部44と接続されている。検査実行部43は印刷装置2によって印刷が行われた後の基板20をカメラによって撮像し、撮像によって取得した画像を認識処理することにより、印刷状態の良否を検査する。記憶部44は、検査実行部43における撮像時の照明条件や、良否の判定に適用される判定閾値などの検査用データ44aを記憶する。
【0032】
検査制御部42が検査用データ44aに基づいて検査実行部43を制御することにより、作業対象の基板20についての印刷検査が実行される。この印刷検査においては、全ての開口22bを介して全ての電極パターン20aに印刷された半田の検査を行うようになっている。この印刷検査により取得された検査結果は、通信部41および通信ネットワーク4を介して管理装置5に送信される。
【0033】
管理装置5は、通信部51を介して通信ネットワーク4と接続されており、印刷装置2および検査装置3と接続されてこれら各装置との間でデータの授受が可能となっている。これにより、管理装置5は検査装置3から印刷検査の検査結果を受信する。通信部51は、管理制御部52、特定部53、予兆判定部54、表示部55、記憶部56と接続されている。表示部55は液晶パネルなどのモニタであり、管理装置5への操作入力の入力画面などの各種の画面を表示する。記憶部56には、ガーバーデータ56a、基板データ56bおよび実装データ56cが記憶されている。
【0034】
ガーバーデータ56aは、マスク22における開口22bの形状や配置を規定するデータである。基板データ56bは、基板20の形状に関するデータ、すなわち電極形成面における電極パターン20a、レジスト20b、シルク20cの形状や配置を規定するデータである。また実装データ56cは、基板20における部品実装点の位置座標など実装動作に関連するデータであり、このデータにより電極パターン20aや開口22bの位置情報が提供される。以下に説明する特定部53、予兆判定部54による処理においては、ガーバーデータ56a、基板データ56b、実装データ56cが参照される。
【0035】
管理制御部52は管理装置5の全体の処理を制御する。特定部53は、基板20を印刷対象としてマスク22を用いて実行される印刷動作において、印刷難易度が高い少なくとも1つの印刷部位を特定する処理を行う。ここで、印刷難易度が高い印刷部位の定義について説明する。本実施の形態では、印刷難易度として、マスク22に形成された開口22bのアスペクト比に基づく第1の印刷難易度と、基板20の電極形成面において電極パターンやレジストなどの凹凸部分の存在によって生じる凹部形状の度合いに基づく第2の印刷難易度とを選択的に、もしくは併用的に用いるようにしている。
【0036】
アスペクト比は、開口22bの開口サイズと開口深さの比を示しており、開口サイズに対する開口深さの割合が大きいほど、すなわちアスペクト比が大きいほど、開口22b内への半田の充填の難度が高くなるとともに、充填された半田を開口22b内から離脱させる版離れの難度も高くなる。
【0037】
図3(a)は、上述のアスペクト比の具体例として、マスク22に形成される開口形状が矩形の開口22bの3次元形状を模式的に示している。開口22bは、幅寸法Wに長さ寸法Lを乗じた底面積Abと、幅寸法W及び長さ寸法Lで求められる開口外周長さにマスク厚みtMを乗じた内側面積Asによって形状が特定される。そして印刷難易度の指標値としてのアスペクト比Raは、内側面積Asを底面積Abで除する(Ra=As/Ab)ことによって求められる。なお、アスペクト比の定義は任意であり、開口22bの幅寸法と開口深さとの比率をアスペクト比と定義するようにしてもよい。
【0038】
図3(b)は、スクリーン印刷において基板20の電極形成面をマスク22の下面に当接させてスキージングを実行する状態を示している。基板20において半田が印刷される電極パターン20aの周囲はレジスト20bによって囲まれており、さらにレジスト20bの上面には、シルク20cが形成されている。電極パターン20a、レジスト20b、シルク20cはそれぞれランド厚みtL、レジスト厚みtR、シルク厚みtSを有している。
【0039】
このため、シルク20cをマスク22の下面に当接させた状態では、電極パターン20aの上面とマスク22の底面との間には、距離D(D=tS+tR-tL)を有する空隙が存在している。この空隙はマスク22の開口22bと連通していることから、スクリーン印刷動作においては開口22bの深さ(マスク22のマスク厚みtM)が距離Dだけ延長されたような影響を与える。これにより、前述のアスペクト比による影響と同様に、距離Dが大きいほど開口22b内への半田の充填の難度が高くなるとともに、充填された半田を開口22b内から離脱させる版離れの難度も高くなる。すなわち電極パターン20aの上面とマスク22の底面との間に空隙が存在する印刷部位では、距離Dが大きいほど印刷難易度を高める作用を有する。
【0040】
本実施の形態においては、このような印刷難易度が高いと想定される印刷部位を予め特定しておき、検査装置3によって取得された検査結果のうち、特定された印刷部位を監視して不良発生の予兆を検出するようにしている。以下に説明する実施例においては、基板20をマスク22にセットした状態における電極パターン20aからマスク22底面までの距離Dを印刷難易度の指標値とする第2の印刷難易度を用いる例について説明する。
【0041】
すなわち、特定部53は、電極形成面における電極パターン20a、レジスト20b、シルク20cの形状および配置など、基板20の形状に関するデータに基づいて、印刷難易度が高い少なくとも一つの電極パターン20aを特定する処理を行う。この処理においては、記憶部56に記憶された基板データ56bが参照される。すなわち、特定部53は基板データ56bに含まれる上述のデータを参照して、電極パターン20aからマスク22の底面までの距離Dを求める。次いで特定部53は、求められた距離Dが所定値、すなわち予め設定された固定閾値もしくは適宜設定された可変閾値よりも高い電極パターン20aを印刷難易度が高いと評価する。
【0042】
そして予兆判定部54は、特定された少なくとも一つの電極パターン20aに印刷された半田の検査結果に基づいて、印刷不良の予兆を判定する処理を行う。ここでは、検査装置3によって全ての電極パターン20aに印刷された半田の検査を行い、これらの検査結果が予兆判定部54に送られて予兆判定部54による監視の対象となる。そして予兆判定部54は、検査装置3による検査結果から特定部53により特定された電極パターン20aに印刷された半田の検査結果を抽出して、印刷不良の予兆を判定する。
【0043】
ここで検査装置3によって取得された検査結果、すなわち特定された電極パターン20aに印刷された半田の検査結果は、少なくとも一つの印刷パラメータ、すなわち印刷された半田の良否判定に供される計測データを含んでいる。ここで良否判定に供される計測データとしては、電極パターン20aに印刷された半田の2次元的な領域を示す印刷面積、半田の3次元的な大きさを示す半田体積あるいは立体的高さを示す半田高さなど、印刷対象の特性に応じて適宜選定されたデータ形態が印刷パラメータとして用いられる。そして予兆判定部54は、このようにして求められた印刷パラメータを所定値、すなわち予め予兆判定用に設定された閾値と比較して印刷不良の予兆を判定する。
【0044】
このようにして予兆判定部54が印刷不良の予兆があると判定した場合には、予兆判定部54は印刷装置2の印刷制御部32に対して印刷状態の改善のための処理の実行を指示する。この指示を受けた印刷制御部32は、以下の印刷状態改善のための処理のうちの少なくとも一つあるいは複数の処理を実行する。すなわち印刷制御部32は、スキージ移動機構27を制御してスキージ26の移動速度を予め設定された印刷状態改善指針に従って変更する。また印刷制御部32は、印圧付与機構25を制御して、スキージ26をマスク22に押圧する印圧を同様に印刷状態改善指針に従って変更する。
【0045】
さらに、印刷不良の予兆がマスク22の汚損に起因するものであると判断した場合には、印刷制御部32はマスククリーニング機構28を制御して、マスク22の下面のクリーニングを実行する指示を行う。すなわちここでは、予兆判定部54は、印刷不良の予兆があると判定した場合には、予兆判定部54は印刷装置2に対してマスク22のクリーニングおよび印刷条件の変更のうち少なくとも一つを指示するようになっている。
【0046】
なお本実施の形態においては、管理装置5が特定部53、予兆判定部54を有する構成となっているが、この構成は必須ではなく、管理装置5以外の設備に特定部53、予兆判定部54を設けるようにしてもよい。すなわち、管理装置5を有しない設備構成の場合には、印刷装置2または検査装置3のいずれか、またはそれ以外の装置に特定部53、予兆判定部54の機能を持たせるように構成してもよい。
【0047】
次に印刷システム1において実行される印刷状態の予兆管理における処理について、
図4のフローに則して説明する。
図4において、(ST1)~(ST5)は、印刷システム1において印刷装置2による印刷動作、検査装置3による検査動作が開始される前の準備作業を示している。そして(ST6)以降の処理は、印刷装置2による印刷動作、検査装置3による検査動作が開始された後に実行される処理を示している。
【0048】
まず処理が開始されると印刷難易度判定用のデータを入力する(ST1)。ここでは、印刷難易度の指標値として前述のように電極パターン20aからマスク22の底面までの距離Dが用いられることから、作業対象となる基板20に対応した基板データが管理装置5に入力され、記憶部56に基板データ56bとして記憶される。なお、印刷難易度の指標値を求めるために必要なランド厚みtL、レジスト厚みtR、シルク厚みtS(
図3(b)参照)が提供されていない場合には、検査装置3が有する3次元計測機能を利用して各部の厚み計測を行うようにする。
【0049】
次いで特定部53により印刷難易度の判定を行う(ST2)。ここでは、まず記憶部56に記憶された基板データ56bが読み込まれ、基板データ56bに基づき対象となる基板20に形成された全ての電極パターン20aについて、
図3(b)に示す距離Dが算出される。次いで予兆判断の対象となる電極パターン20aを特定する(ST3)。すなわち算出された電極パターン20aからマスク22の底面までの距離Dが予め設定された閾値よりも大きい電極パターン20aを印刷難易度が高い電極パターン20aと判定し、予兆判断の対象として特定する。
【0050】
次に予兆判定部54により予兆判断の限度となる印刷パラメータの閾値を設定する(ST4)。ここでは、検査装置3による半田検査の検査結果として出力される印刷パラメータ、すなわち半田面積、半田体積などの計測値について、予兆判断の対象とする限界を画定するための閾値を設定する。これにより、検査装置3の検査結果に基づいて予兆判断とすべき対象部位を設定可能な状態となる。
【0051】
次いで、(ST3)にて特定された電極パターン20aの回路名称を予兆判断の対象部位として出力する(ST5)。次いで、検査装置3の検査結果出力から予兆判断の対象部位についての印刷パラメータを抽出する(ST6)。すなわち、印刷装置2によって半田が印刷された基板20を検査装置3によって検査した検査結果を示す検査データから、予兆判断の対象部位として特定された電極パターン20aに該当する検査データに含まれる印刷パラメータを抽出する。
【0052】
そして抽出された印刷パラメータを、(ST4)にて設定された閾値と比較して印刷不良の予兆の有無を判定する(ST7)。すなわち、抽出された印刷パラメータが印刷不良の予兆ありとして設定された閾値を超えているか否かにより、印刷不良の予兆の有無を判断する(ST8)。ここで印刷不良の予兆ありと判断された場合には、印刷装置2に対して復元指示を行う(ST9)。すなわち、予兆判定部54は印刷装置2に対してマスク22のクリーニングおよび印刷条件の変更のうち少なくとも一つを指示する。また(ST8)にて印刷不良の予兆なしと判断された場合には、予兆判定部54は印刷装置2に対して現状通りの印刷継続を指示する(ST10)。
【0053】
次に、印刷システム1において上述の印刷状態の予兆管理を実行しながら基板20に半田を印刷する印刷方法について説明する。この印刷方法は以下に説明する作業処理工程を含んで構成される。まずこの印刷方法では、主作業工程として印刷装置2によって所定の開口22bを有するマスク22を介して、基板20上に形成された複数の電極パターン20aに半田を印刷し(印刷工程)、次いで検査装置3によって電極パターン20aに印刷された半田を検査する(検査工程)。
【0054】
ここで、上述の主作業工程の実行に先立って、基板20の形状に関するデータに基づいて、印刷難易度が高い少なくとも一つの電極パターン20aを特定する(特定工程)。そして主作業工程が開始された後には、特定工程にて特定された電極パターン20aに印刷された半田の検査結果に基づいて、印刷不良の予兆を判定する(予兆判定工程)。
【0055】
なお前述の検査工程においては、基板20の全ての電極パターン20aに印刷された半田の検査を行うようになっている。そして予兆判定工程において、検査装置3による検査結果から、特定部53により特定された電極パターン20aに印刷された半田の検査結果を抽出して、印刷不良の予兆を判定する。
【0056】
また本実施の形態では、印刷難易度の指標値として電極パターン20aからマスク22の底面までの距離Dを用いる第2の印刷難易度を適用しており、前述の特定工程では電極パターン20aのそれぞれについて上述の距離Dを求め、この距離Dが所定値よりも高い電極パターン20aを印刷難易度が高いと評価するようにしている。
【0057】
特定された電極パターン20aに印刷された半田を検査装置3によって検査した検査結果は、半田面積や半田体積などの、少なくとも一つの印刷パラメータを含んでいる。そして上述の予兆判定工程においては、この印刷パラメータと予兆判定用の閾値として予め設定された所定値を比較して、印刷不良の予兆を判定するようになっている。この予兆判定工程において、印刷不良の予兆があると判定した場合、印刷装置2に対してマスク22のクリーニングおよび印刷条件の変更のうち少なくとも1つを指示する。これにより、印刷不良の予兆を高精度で効率的に検出して安定した印刷状態を管理することができる。
【0058】
このような予兆管理を行うことにより、印刷不良の予兆検出精度を格段に向上させることができる。これにより、無駄な復元作業を実行することによる損失や、予兆を見逃すことによる機会損失を大幅に減少させることが可能となる。したがって従来技術における課題、すなわち印刷不良や警告が実際に発生した後に不良の改善処置を実行する場合に不可避的に生じる不良基板による損失を有効に防止することができ、印刷不良の予兆を高精度で効率的に検出して安定した印刷状態を管理することができる。
【0059】
なお上述の印刷システム1および印刷方法においては、検査装置3は対象となるマスク22の全ての開口22bの印刷状態を検査し、その検査結果を管理装置5に伝達するようにしている。そして管理装置5では、印刷難易度が高いとして特定された開口22bについて予兆判定を行うようにしている。これに対し、検査装置3において全ての開口22bを印刷状態の検査の対象としない方法も可能である。
【0060】
すなわち、管理装置5によって印刷難易度が高いとして特定された開口22bを検査装置3に対して指定し、検査装置3では指定された開口22bのみを対象として印刷状態の検査を行う。但しこの場合には、検査装置3に予兆検出のためのデータ処理の負荷を課すことになるため、印刷システム1における予兆検出を効率的に達成する上では、本実施の形態に示すように管理装置5の処理機能によって予兆検出を行う構成が望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の印刷システムおよび印刷方法は、印刷不良の予兆を高精度で効率的に検出して安定した印刷状態を管理することができるという効果を有し、基板に部品接合用の半田を印刷するスクリーン印刷分野において有用である。
【符号の説明】
【0062】
1 印刷システム
20 基板
20a 電極パターン
20b レジスト
20c シルク
22 マスク
22b 開口
D 距離
Ra アスペクト比