(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】高周波加熱装置および高周波加熱方法
(51)【国際特許分類】
F24C 7/02 20060101AFI20221223BHJP
H05B 6/68 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
F24C7/02 320M
H05B6/68 320S
(21)【出願番号】P 2019046615
(22)【出願日】2019-03-14
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】高山 富美子
(72)【発明者】
【氏名】杉村 直紀
【審査官】竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138861(JP,A)
【文献】特開2018-139514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24C 7/02
H05B 6/48 - 6/50, 6/66 - 6/68,11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方が開放した容器内に収容された食品が配置される加熱室と、
前記食品の調理内容を示す調理条件を入力するための操作部と、
高周波を発生させる高周波発生部と、
前記高周波発生部の高周波を前記加熱室に供給する高周波供給部と、
前記容器内に収容された食品に対する温度検出対象領域を複数に分割して、分割された領域毎に温度を検出し、領域毎の検出温度を温度検出情報として出力する温度検出部と、
前記高周波発生部の出力を制御する加熱制御部と、を備え、
前記食品は「とろみ」を強くする食材
を含む調理メニューが前記操作部で選択されると、
前記加熱制御部は、
前記「とろみ」判定温度として値が異なる少なくとも2温度以上を決定し、
前記「とろみ」判定温度の少なくとも2温度は、前記食品の収容された容器の底面に「とろみ」が滞り始める温度と、前記「とろみ」が滞り始める温度より高く前記食材に含まれるタンパク質が硬化する温度より低い温度に設定され、
前記食品の分割された領域における最高温度が前記「とろみ」判定温度に到達したとき、前記高周波発生部の出力を低減するように構成された高周波加熱装置。
【請求項2】
前記加熱制御部は、前記食品の分割された領域の平均温度が所定の分量検知温度に到達したときの分量検知時間と前記調理条件とに基づいて前記食品の分量を検知し、検知された分量に応じて前記食品に対する調理終了時間を算出するように構成された、請求項
1に記載の高周波加熱装置。
【請求項3】
前記温度検出部は、前記容器における上方の開放端部分および容器の底面部分を含む全てを温度検出対象領域に含むよう構成された、請求項1
または2に記載の高周波加熱装置。
【請求項4】
上方が開放した容器内に収容された食品が配置される加熱室と、
前記食品の調理内容を示す調理条件を入力するために操作部と、
高周波を発生させる高周波発生部と、
前記高周波発生部の高周波を前記加熱室に供給する高周波供給部と、
前記容器内に収容された食品に対する温度検出対象領域を複数に分割して、分割された領域毎に温度を検出し、領域毎の検出温度を温度検出情報として出力する温度検出部と、
前記高周波発生部の出力を制御する加熱制御部と、を備えた高周波加熱装置における高周波加熱方法であって、
前記食品に「とろみ」を強くする食材を加えること、
前記「とろみ」判定温度として値が異なる少なくとも2温度を決定すること、
前記温度検出部からの温度検出情報において、前記食品の分割された領域における最高温度が前記「とろみ」判定温度に到達したとき、前記高周波発生部の出力を低減すること、
を含み、
前記「とろみ」判定温度の少なくとも2温度は、前記食品が収容された容器の底面に「とろみ」が滞り始める温度と、「とろみ」が滞り始める温度より高く前記食材に含まれるタンパク質が硬化する温度より低い温度に設定される、高周波加熱方法。
【請求項5】
前記食品の分割された領域の平均温度が所定の分量検知温度に到達したときの分量検知時間と前記調理条件とに基づいて前記食品の分量を検知すること、
検知された分量に応じて前記食品に対する調理終了時間を算出すること、を含む請求項
4に記載の高周波加熱方法。
【請求項6】
前記容器における上方の開放端部分および容器の底面部分を含む全てを温度検出対象領域に含まれる、請求項
4または5に記載の高周波加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波加熱装置および高周波加熱方法に関し、高周波電界による誘電加熱現象を利用して調理する調理器具としての高周波加熱装置および高周波加熱装置を用いた高周波加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波加熱装置における調理器具としての電子レンジにおいては、被加熱物の表面と内部がほぼ同時に加熱されるため、調理済みの食品の再加熱、冷凍食品の解凍、そして食品をゆでる等のあらゆる食品加熱に用いられている。特に、電子レンジを用いることにより調理時間の大幅な短縮を図ることができるため、各種料理における食品加熱に広く用いられている。
【0003】
家庭においては、短時間で簡単に料理を作ることができるとともに、調理時間を大幅に短縮化することができる料理方法として、「ワンボウル調理」という料理方法が広がっている。この「ワンボウル調理」とは、基本的に1つのボウルの中に各種の具材を投入して加熱し、混ぜるだけで所望の料理を簡単に短時間で作り上げることができる料理方法である。このような「ワンボウル調理」においては、加熱調理器具として電子レンジを利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
元来、調理法としては「焼く」「煮る」「蒸す」「揚げる」と言われている。一方、家庭でのメイン料理の調理法別食卓登場順位を調べてみると、1位「焼く」、2位「炒める」、3位「揚げる」、4位「煮る」となっていて、「炒め物」の登場頻度が非常に高いことがわかった。これは、肉・魚などの主菜と野菜などの副菜を、一品でどちらも摂ることができるという利点がある。
【0006】
この「炒め物」の代表メニューとして、野菜炒めや麻婆豆腐、麻婆なすなどの中華料理があげられる。中華料理といえば、肉や魚介類のタンパク質を含む主菜と、野菜などの副菜を炒め合わせ、仕上げに水溶き片栗粉で「とろみ」をつけて仕上げるごくポピュラーな家庭料理である。ここで「とろみ」とは、片栗粉のような澱粉を含む粉類が水溶液に懸濁して糊化したものであり、「とろみ」が強くなるとは、この糊化したものが、粘りの度合いを増すことである。
【0007】
しかしながら、この中華料理を従来の鍋やフライパンで調理しようとすると、火通りのよくないものから炒めること(炒める順番を考える)や、具材に均等に加熱できるように付きっきりでかき混ぜること(途中操作)や、調味液を入れてからは焦げ付かないよう火力を弱めること(火力調整)や、全体に「とろみ」がつくように水溶き片栗粉を入れること(ダマにならないよう、かき混ぜて仕上げる)などのように、調理し始めると、調理について必要なノウハウを駆使し、調理の間中ずっと付きっきりで操作しないと、おいしい料理が出来上がらない。
【0008】
本発明に係る高周波加熱装置において実行される「ワンボウル中華」は、例えば麻婆豆
腐、麻婆なす、八宝菜などの「とろみ」を含む中華料理を「ワンボウル調理」で作るものであり、その料理の材料を上方が開放した容器(ボウル)内に入れ、当該容器を高周波加熱装置の加熱室内において、少なくとも誘電加熱を用いて作り上げるものである。
【0009】
高周波加熱装置における調理器具としての電子レンジにおいては、被加熱物の表面と内部がほぼ同時に加熱されるため、少し火力が強かったり、加熱時間が長かったりすると、過加熱により、肉や魚などが硬くなったり、身縮みするなどの、タンパク質の硬化現象が起こりがちである。
【0010】
また、途中操作せずに加熱し続けると、容器の底に「とろみ」が滞溜し、こびりついたり、炭化したりすることが起こりうる。
特に「ワンボウル調理」においては、作り上げる人数分に応じて一度に多くの食材が容器(ボウル)内に投入されて加熱調理されるため、加熱調理器(電子レンジ)の加熱室の内部は、大きな容器で満たされた状態になる。「ワンボウル調理」においては、1つの容器内に料理の種類により異なる食材が人数分に合わせて多量に入っている。
【0011】
このような容器を加熱調理器(電子レンジ)の加熱室で誘電加熱するとき、前述のような過加熱によるタンパク質の硬化や「とろみ」の炭化などが起こることは大きな問題である。このような各種の食材を含む食品が入った容器に対して、単純に容器内の食品の表面温度を検出して、その検出温度により加熱出力を調整するだけでは、容器へのこびりつき(焦げ付き)や食材に含まれるたんぱく質の硬化を防止しつつ、それぞれの料理に対する最適な加熱調理を行い、それぞれの料理をおいしく作り上げることはできなかった。
【0012】
本発明は、各種料理の食材を収容する容器(ボウル)への食材のこびりつきや、各種料理の食材に含まれるたんぱく質の硬化を防止しつつ、選択された料理に対して最適な加熱調理を行うことができる高周波加熱装置および高周波加熱方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る一態様の高周波加熱装置は、前述の従来における課題を解決するものであり、上方が開放した容器内に収容された食品が配置される加熱室と、前記食品の調理内容を示す調理条件を入力するための操作部と、高周波を発生させる高周波発生部と、前記高周波発生部の高周波を前記加熱室に供給する高周波供給部と、前記容器内に収容された食品に対する温度検出領域を複数に分割して、分割された領域毎に温度を検出し、領域毎の検出温度を温度検出情報として出力する温度検出部と、前記高周波発生部の出力を制御する加熱制御部と、を備え
前記食品は「とろみ」を強くする食材を含む調理メニューが前記操作部で選択されると、前記加熱制御部は、前記「とろみ」判定温度として値が異なる少なくとも2温度以上を決定し、前記「とろみ」判定温度の少なくとも2温度は、前記食品の収容された容器の底面に「とろみ」が滞り始める温度と、前記「とろみ」が滞り始める温度より高く前記食材に含まれるタンパク質が硬化する温度より低い温度に設定され、前記食品の分割された領域における最高温度が前記「とろみ」判定温度に到達したとき、前記高周波発生部の出力を低減するように構成されている。
【0014】
本発明に係る一態様の高周波加熱方法は、前述の従来における課題を解決するものであ
り、上方が開放した容器内に収容された食品が配置される加熱室と、前記食品の調理内容を示す調理条件を入力するための操作部と、高周波を発生させる高周波発生部と、前記高周波発生部の高周波を前記加熱室に供給する高周波供給部と、前記容器内に収容された食品に対する温度検出領域を複数に分割して、分割された領域毎に温度を検出し、領域毎の検出温度を温度検出情報として出力する温度検出部と、前記高周波発生部の出力を制御する加熱制御部と、を備えた高周波加熱装置における高周波加熱方法であって、
当該高周波加熱方法は、
前記食品に「とろみ」を強くする食材を加えること、
前記「とろみ」判定温度として値が異なる少なくとも2温度を決定すること、
前記温度検出部からの温度検出情報において、前記食品の分割された領域における最高温度が前記「とろみ」判定温度に到達したとき、前記高周波発生部の出力を低減すること、を含み、前記「とろみ」判定温度の少なくとも2温度は、前記食品が収容された容器の底面に「とろみ」が滞り始める温度と、「とろみ」が滞り始める温度より高く前記食材に含まれるタンパク質が硬化する温度より低い温度に設定される。
【0015】
本発明に係る一態様の高周波加熱方法は、前述の従来における課題を解決するものであり、
上方が開放した容器内に収容された食品が配置される加熱室と、
前記食品の調理内容を示す調理条件を入力するための操作部と、
高周波を発生させる高周波発生部と、
前記高周波発生部の高周波を前記加熱室に供給する高周波供給部と、
前記容器内に収容された食品に対する温度検出領域を複数に分割して、分解された領域毎に温度を検出し、領域毎の検出温度を温度検出情報として出力する温度検出部と、
前記高周波発生部の出力を制御する加熱制御部と、を備えた高周波加熱装置における高周波加熱方法であって、当該高周波加熱方法は、
前記食品に含まれる食材の種類(例えば肉や魚などタンパク質を含む食材)によっては、加熱することによりタンパク質の硬化が起こることを防ぐため、予め加熱前にこれら食材の表面に片栗粉や小麦粉などの粉類をまぶすことで食材の表面をガードし、加熱による硬化を防ぐこと、を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、各種料理の食材を収容する容器内の被加熱物のこびりつきや、各種料理の食材に含まれるタンパク質の硬化、を防止しつつ、料理に応じた最適な加熱調理を行うことができる高周波加熱装置および高周波加熱方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る実施の形態1の高周波加熱装置の外観を示す斜視図
【
図2】
図1に示した加熱調理器における扉を開成した状態を示す斜視図
【
図3】(a)実施の形態1の高周波加熱装置における誘電加熱制御において赤外線センサの温度検出動作における第1位置の温度検出対象領域の視野角度を示した模式図(b)同第2位置の温度検出対象領域の視野角度を示した模式図
【
図4】実施の形態1の加熱調理器において、例えば「ワンボウル中華」の「エビチリ」を選択した場合における加熱室の庫内温度の推移を示すグラフ
【
図5】実施の形態1の加熱調理器において、例えば「ワンボウル中華」の「エビチリ」に対する高周波加熱シーケンスの前半を示すフローチャート
【
図6】実施の形態1の加熱調理器において、
図5の高周波加熱シーケンスの後半を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る第1の態様の高周波加熱装置は、
上方が開放した容器内に収容された食品が配置される加熱室と、
前記食品の調理内容を示す調理条件を入力するための操作部と、
高周波を発生させる高周波発生部と、
前記高周波発生部の高周波を前記加熱室に供給する高周波供給部と、
前記容器内に収容された食品に対する温度検出領域を複数に分割して、分解された領域毎に温度を検出し、領域毎の検出温度を温度検出情報として出力する温度検出部と、
前記高周波発生部の出力を制御する加熱制御部と、を備え
前記食品は「とろみ」を強くする食材を有し、
前記加熱制御部は、前記食品の調理内容に応じて「とろみ」判定温度を決定し、前記温度検出部からの温度検出情報において、前記食品の分割された領域における最高温度が前記「とろみ」判定温度に到達したとき、前記高周波発生部の出力を低減するように構成されている。
【0019】
このように構成された本発明に係る第1の態様の高周波加熱装置においては、各種料理の材料を収容する容器内の被加熱物である煮汁や食材などの食品のこびりつきを防止しつつ、料理に応じた最適な加熱調理を行うことができる。
【0020】
本発明に係る第2の態様の高周波加熱装置は、前記の第1の態様の前記加熱制御部が、前記「とろみ」判定温度として値が異なる少なくとも2温度を決定し、前記食品の分割された領域における最高温度が前記「とろみ」判定温度に到達するたびに、前記高周波発生部の出力を徐々に低減するように構成してもよい。
【0021】
本発明に係る第3の態様の高周波加熱装置は、前記の第2の態様における前記「とろみ」判定温度として異なる少なくとも2温度が、前記食品のこびりつき始めの温度と、前記こびりつき始めの温度より高く前記食品に含まれるタンパク質の硬化温度より低い温度に設定されてもよい。
【0022】
このように構成された本発明に係る第3の態様の高周波加熱装置においては、各種料理の食材に含まれるタンパク質の硬化を防止しつつ、料理に応じた最適な加熱調理を行うことができる。
【0023】
本発明に係る第4の態様の高周波加熱装置は、前記の第1の態様から第3の態様のいずれかの態様における前記加熱制御部が、前記食品の分割された領域の平均温度が所定の分量検知温度に到達したときの分量検知時間と前記調理条件とに基づいて前記食品の分量を検知し、検知された分量に応じて前記食品に対する調理終了時間を算出するように構成してもよい。
【0024】
本発明に係る第5の態様の高周波加熱装置は、前記の第1の態様から第4の態様のいずれかの態様における前記温度検出部が、前記容器における上方の開放端部分を温度検出対象領域に含むよう構成してもよい。
【0025】
本発明に係る第6の態様の高周波加熱方法は、
上方が開放した容器内に収容された食品が配置される加熱室と、
前記食品の調理内容を示す調理条件を入力するための操作部と、
高周波を発生させる高周波発生部と、
前記高周波発生部の高周波を前記加熱室に供給する高周波供給部と、
前記容器内に収容された食品に対する温度検出領域を複数に分割して、分割された
領域毎に温度を検出し、領域毎の検出温度を温度検出情報として出力する温度検出部と、
前記高周波発生部の出力を制御する加熱制御部と、を備えた高周波加熱装置における高周波加熱方法であって、
当該高周波加熱方法は、
前記食品に「とろみ」を強くする食材を加えること、
前記食品の調理内容に応じて「とろみ」判定温度を決定すること、
前記温度検出部からの温度検出情報において、前記食品の分割された領域における
最高温度が前記「とろみ」判定温度に到達したとき、前記高周波発生部の出力を低減すること、を含む。
【0026】
このように構成された本発明に係る第6の態様の高周波加熱方法によれば、各種料理の材料を収容する容器内の被加熱物である煮汁や食材などの食品のこびりつきを防止しつつ、料理に応じた最適な加熱調理を行うことができる。
【0027】
本発明に係る第7の態様の高周波加熱方法は、前記の第6の態様において、前記「とろみ」判定温度として値が異なる少なくとも2温度を決定し、前記食品の分割された領域における最高温度が前記「とろみ」判定温度に到達するたびに、前記高周波発生部の出力を徐々に低減することを、含むものでもよい。
【0028】
本発明に係る第8の態様の高周波加熱方法は、前記の第7の態様において、前記「とろみ」判定温度として値が異なる少なくとも2温度が、前記食品のこびりつき始めの温度と、前記こびりつき始めの温度より高く前記食品に含まれるタンパク質の硬化温度より低い温度に設定してもよい。
【0029】
このように構成された本発明に係る第8の態様の高周波加熱方法によれば、各種料理の食材に含まれるタンパク質の硬化を防止しつつ、料理に応じた最適な加熱調理を行うことができる。
【0030】
本発明に係る第9の態様の高周波加熱方法は、前記の第6の態様から第8の態様のいずれかの態様において、前記食品の分割された領域の平均温度が所定の分量検知温度に到達したときの分量検知時間と前記調理条件とに基づいて前記食品の分量を検知すること、検知された分量に応じて前記食品に対する調理終了時間を算出すること、を含むものでもよい。
【0031】
本発明に係る第10の態様の高周波加熱方法は、前記の第6の態様から第9の態様のいずれかの態様において、前記容器における上方の開放端部分を温度検出対象領域に含むものでもよい。
【0032】
以下、本発明の高周波加熱装置に係る実施の形態として誘電加熱の機能を有する加熱調理器について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、本発明の高周波加熱装置は、以下の実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、以下の実施の形態において説明する技術的思想と同等の技術的思想に基づいて構成される加熱装置、例えば、誘電加熱のみの機能を有する構成のほかに、熱伝導、熱風循環、熱放射、スチーム等の各種の加熱機能における少なくとも1つの機能を有する加熱装置を含むものである。以下の実施の形態において示される数値、形状、構成、ステップ、およびステップの順序などは、一例を示すものであり、本発明を限定するものではない。以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0033】
(実施の形態1)
以下、本発明に係る実施の形態1の高周波加熱装置について添付の図面を参照して説明する。
図1は、実施の形態1の高周波加熱装置の外観を示す斜視図である。
図2は、
図1の高周波加熱装置における扉を開成した状態を示す斜視図である。
【0034】
図1および
図2に示すように、実施の形態1の高周波加熱装置は、調理器本体1の内部に設けられた加熱室2の正面開口が扉3により開閉可能に構成されている。扉3の上方端部には把手3aが設けられており、把手3aを使用者が握持して扉3を回動し、加熱室2の正面開口を上開きに開閉する。加熱室2の内部は扉3の閉成により実質的に密閉状態となり、加熱室2の内部に配置された被加熱物である食品が実質的な密閉状態で加熱調理される。
【0035】
図1に示すように、高周波加熱装置の正面には、上開きの扉3に加熱調理の調理温度設定、調理時間設定、および被加熱物の種類などの各種調理条件を設定するための操作部4が設けられている。また、加熱調理器の正面に設けられた操作部4は、各種調理条件およ
び加熱調理中の加熱状態などを表示する表示部などを有している。
【0036】
実施の形態1の高周波加熱装置における加熱手段(加熱部)としては、加熱室2の内部に高周波を放射して加熱室内部に配置された被加熱物(食品)を誘電加熱する高周波加熱ユニットの他に、加熱室2の天井壁を含む部分に設けられて加熱室内部を輻射加熱する平面ヒータ加熱ユニット、加熱室内部に水蒸気を噴射させて被加熱物をスチーム加熱するスチーム加熱ユニット、および加熱室内部に熱風を対流させて被加熱物を熱風加熱する熱風循環加熱ユニットが設けられた構成を例として説明する。但し、本発明の高周波加熱装置における加熱手段としては、少なくとも誘電加熱を行うための高周波加熱ユニットを設けた構成であればよい。
【0037】
上記のように、実施の形態1の高周波加熱装置においては複数の加熱部が設けられており、使用者が所望の加熱部を選択することにより、または使用者が調理内容または調理条件を選択することにより、適切な加熱部が選択される構成である。使用者が高周波加熱装置の加熱室2の内部に被加熱物である食品を配置して、扉3を閉じ、操作部4において加熱部、調理条件、調理内容などを選択/設定してスタートボタンを押圧することにより調理動作が開始される。なお、操作部4は、各種の情報を選択/設定し表示するためにタッチ画面で構成されている。
【0038】
図3は、実施の形態1の高周波加熱装置における誘電加熱制御において主要な構成を示すブロック図である。
図3に示すように、実施の形態1の高周波加熱装置には、操作部4において設定された調理条件、調理内容など、例えば、加熱部の特定、被加熱物の特定、料理の種類などの選択/設定された各種情報が入力される加熱制御部5と、加熱制御部5により駆動制御されて高周波を発生させるマグネトロンまたは固体発振素子を備えた高周波発生部6と、高周波発生部6の高周波を加熱室2に導き供給する例えば導波管を備えた高周波供給部7と、加熱室2の温度を検出する温度検出部8と、を少なくとも備えている。実施の形態1における温度検出部8としては、庫内温度を検出する庫内温度センサ(例えば、サーミスタ)の他に、後述するように、被加熱物を戴置することが可能な領域である被加熱物配置可能領域における全面の温度を検知する赤外線センサ9(IRセンサ)が含まれる。また、実施の形態1の高周波加熱装置においては、赤外線センサ9が設けられている場所の環境温度を検出する環境温度センサ(例えば、サーミスタ)が温度検出部8に含まれる。この環境温度センサが検出した環境温度情報は、赤外線センサ9が検出した温度を、環境温度に応じて較正するためである。上記のように、加熱制御部5においては、加熱室2の内部の被加熱物配置可能領域に関する赤外線センサ9からの温度検出情報の他に、庫内温度情報および環境温度情報が、温度検出部8から入力される。
【0039】
実施の形態1の高周波加熱装置においては、操作部4において設定された調理条件、調理内容などの各種情報が加熱制御部5に入力されて、誘電加熱により加熱調理する場合には、高周波を発生する高周波発生部6が制御され、加熱室2内の被加熱物(食品)が設定された調理条件などに従って加熱調理される。なお、実施の形態1の高周波加熱装置には、誘電加熱を行う高周波加熱ユニットの他に、輻射加熱する平面ヒータユニット、スチーム加熱するスチーム加熱ユニット、および熱風加熱する熱風循環加熱ユニットが設けられており、これらの加熱ユニットは設定された調理条件、調理内容などの各種情報に応じて適宜駆動される。以下の実施の形態1の高周波加熱装置における加熱調理の説明においては、誘電加熱を行う高周波加熱ユニットを加熱源として用いる例について説明する。
【0040】
高周波発生部6において発生した高周波は、高周波供給部7の導波管を介して回転アンテナ等の高周波放射手段により、加熱室2の内部に放射される構成を有している。加熱室2の内部に高周波を放射する高周波放射手段である回転アンテナは、加熱室2の底面の略中央の直下に配設されている。実施の形態1における回転アンテナは、高周波の放射方向
が指向性を有するとともに、回転アンテナの直上に円偏波を放射できる構成を有している。従って、実施の形態1における回転アンテナにおいては、加熱室2の内部において高周波を均一に放射することができるように、回転機構を設けて回転アンテナの放射口が回転する構成であるとともに、回転アンテナの直上に配置される被加熱物に対しても円偏波を放射して誘電加熱する構成である。
【0041】
調理器本体1の内部において被加熱物である食品を収納する加熱室2は、左右側面、天面、底面、奥面の5面と、前面側の開口に設けられた扉3とで区画されて構成されている。なお、実施の形態1の高周波加熱装置において、加熱室2の開口側を前面側(ユーザ側)、奥面側を背面側、天面側を上側、底面側を下側とし、加熱室2を前面側から見て、右側の側面を右側面、左側の側面を左側面という。
【0042】
なお、実施の形態1の高周波加熱装置においては、誘電加熱の他に、熱放射などにより被加熱物である食品を直接輻射加熱するグリル調理に使用するグリル皿と、熱風加熱などにより加熱室2の内部の庫内温度を上昇させて食品を加熱調理するオーブン調理に使用するオーブン皿と、が用いられる構成を有している。従って、グリル皿やオーブン皿等の各皿を支持するために、加熱室5の側面である右側面と左側面には、前後方向に水平に延びた支持突起が上下方向に複数段(実施の形態1においては3段)設けられており、加熱室内部の各皿は設定された調理条件などに応じた調理加熱に最適な位置に設置可能な構成となっている。
【0043】
前述のように、実施の形態1の高周波加熱装置において、加熱制御部5には、加熱室2内部の被加熱物配置可能領域に配置された被加熱物(食品)の温度を検出する温度検出部8の赤外線センサ9(IRセンサ)からの温度検出情報が入力される構成である。赤外線センサ9は、加熱室2を構成する右側面の中央上部に形成された開口を通して、加熱室2の内部の被加熱物(食品)の温度を検出できる構成である。赤外線センサ9は、1列に8個の赤外線検出素子を並べ、(1×8眼)、それらの赤外線検出素子を8列に並べて(8×8眼:64領域)、二次元状のマトリクス状に配列されている。この赤外線センサ9は温度検出領域の温度を検出するエリアセンサであり、温度検出領域を64領域に分割して、分割された領域毎に温度を検出し、領域毎の検出温度を温度検出情報として出力する構成である。このように構成された赤外線センサ9は、加熱室2の内部における被加熱物配置可能領域にある被加熱物(食品)の温度を検出できる。
【0044】
実施の形態1の高周波加熱装置において、赤外線センサ9が、加熱室2の右側面の中央上部に形成された開口を通して、加熱室2の被加熱物配置可能領域の温度を検出する構成であり、エリアセンサである赤外線センサ9による1回の温度検出動作により、加熱室2の底面(被加熱物配置可能領域)が64分割されて、温度検出される構成である。また、実施の形態1の高周波加熱装置における赤外線センサ9は、上下方向に首振り動作可能に構成されており、首振り動作を行って、少なくとも第1位置、第2位置の2ヵ所の視野角度の位置で、温度検出を行うことが可能である。従って、被加熱物配置可能領域に配置された被加熱物(食品)の温度を検出する際、その被加熱物の温度の特性をより詳しく検出するために、この赤外線センサ9が首振り動作を行い、必要な位置に移動することは効果的である。
【0045】
なお、実施の形態1の加熱調理器においては、赤外線センサ9による第1位置における温度検出と、第2位置における温度検出とを、加熱制御部5における切替制御により、行うことが可能である。赤外線センサ9の第1位置の視野角度は、加熱室2内の載置された大きな容器(ボウル)10の全体を温度検出対象として、容器(ボウル)10内の被加熱物(食品)の全体の温度を検出できる視野角度の位置である。赤外線センサ9の第2位置の視野角度は、でんぷんを含む粉類が水溶液に懸濁して糊化し、粘りの度合いを増す調理
の特徴的な温度変化を検出できる視野角度の位置である。
図3においては、赤外線センサ9による温度検出動作による2つの温度検出対象領域の視野角度を示す矢印にて模式的に示している。なお、
図3においては、高周波加熱装置の加熱室2の内部に、被加熱物として「ワンボウル中華」の食材を収容した容器10が配置された例を示している。
【0046】
[「ワンボウル中華」における高周波加熱シーケンス]
上記のように構成された実施の形態1の高周波加熱装置における被加熱物の一例として、「ワンボウル中華」による具体的な料理における加熱調理について説明する。
【0047】
実施の形態1において説明する「ワンボウル中華」は、加熱調理器具として誘電加熱を行う高周波加熱装置(電子レンジ)を用いて行う調理方法であり、基本的に1つの容器(ボウル)の中に各種の食材(液体食材および固体食材が含まれる)を入れて所定時間加熱し、加熱後混ぜるだけで所望の料理を作り上げる料理方法である。以下、「ワンボウル中華」における高周波加熱シーケンスの加熱調理について具体的な料理を用いて説明する。
【0048】
実施の形態1の高周波加熱装置においては、例えば、加熱室2の内部に収納可能な大きな容器(ボウル)10に「エビチリ」の食材全てを入れて、その容器(ボウル)10の上方の開放部分を塞ぐように食品包装用の透明なフィルムでラップしたものを「ワンボウル調理」する食品として説明する。ここでは、「エビチリ」の食材として4人前の材料が容器(ボウル)10内に収納されており、当該容器(ボウル)10を薄いフィルムでラップして加熱調理する場合について説明する。
【0049】
図4は、実施の形態1の高周波加熱装置において、「ワンボウル中華」の「エビチリ」を調理内容として選択した場合における、加熱室2の庫内温度の推移を示すグラフの一例である。
【0050】
図4のグラフが示すように、「ワンボウル中華」の「エビチリ」の初期段階においては、最大出力となる第1高周波出力(例えば、600W)で加熱調理される(第1加熱調理ステージP1)。この第1加熱調理ステージP1においては、所定時間毎に、例えば1.0秒毎に赤外線センサ9により検出された温度検出情報に基づいて、温度検出領域である64領域の平均温度が算出される。この平均温度は、実質的に加熱室2内の食品の温度に対応している。算出された平均温度が、所定温度(分量検知温度)、例えば65℃に到達したとき、そのときの到達時間(分量検知時間)が食品の分量に応じて比例関係を有することを発明者らは知見した。分量検知においては、分量検知時間が長ければ分量が多く、分量検知時間が短ければ分量が少ないとみなす。
【0051】
分量検知の結果に基づいて、当該食品の調理内容(エビチリ)の加熱調理の終了時間(T)が算出される。その終了時間の算出式は、(T=A*K+B)で表される。この式において、「A」は分量検知を行ったときの分量検知時間であり、「K」および「B」は、食品の調理内容によって予め設定されている定数である。
【0052】
算出された終了時間は、当該食品の調理内容に対する高周波加熱シーケンスの終了時間、即ち加熱時間の終了時間として当該高周波加熱装置の加熱制御部5に設定される。また、分量検知の直後において、次の第2加熱調理ステージP2に移行する。第2加熱調理ステージP2においては、前段の第1加熱調理ステージP1における第1高周波出力と同等の出力(第2高周波出力:例えば600W)で加熱調理される。この第2加熱調理ステージP2においては、第1加熱調理ステージP1のときより短い間隔の所定時間毎に、例えば0.1秒毎に赤外線センサ9による温度検出動作が行われる。この動作は高周波加熱シーケンスが実行されている期間、継続して行う構成でもよい。
【0053】
第2加熱調理ステージP2以降の加熱調理においては、食材に含まれるタンパク質の硬化を防ぐために加熱前に予め肉や魚にまぶされた粉類が「とろみ」となり、容器(ボウル)10の底面に滞り、こびりつくおそれがあるため、「とろみ」判定を行ってその結果に基づいて加熱出力を調整している。
図4において、符号F1の温度レベルが、当該食品における「とろみ」の容器(ボウル)10の底面に滞り始める温度であり、符号F1の温度レベルから符号F2の温度レベルまでが当該食品の「とろみ」がこびりついたり、食品に含まれるタンパク質が硬化したりするのを防ぐ温度範囲である。
【0054】
図3(a)に示すように、赤外線センサ9においては、温度検出対象領域を、第1加熱調理ステージP1では容器(ボウル)10の上部全体を見渡せる視野角度(第1位置)として設定され、正確な分量検知に有効であった。しかし、当該第2加熱調理ステージP2以降では、
図3(b)に示すように、容器(ボウル)10の底面の温度が重要となるため、赤外線センサ9による首振り動作により、より容器(ボウル)10の底面の温度が検出されやすい下向きの視野角度(第2位置)に移動して温度検出を行う。
【0055】
このときの温度検出については、「とろみ」のこびりつきや、容器(ボウル)10の底面付近に配置されている肉や魚といった食材に含まれるタンパク質の硬化を防止するといった経時変化を見守ることが必要であるため、第1加熱調理ステージP1のときより短い間隔の所定時間毎に、例えば0.1秒毎に赤外線センサ9による温度検出動作を継続して行う構成でもよい。
【0056】
前述の赤外線センサ9による温度検出動作においては、容器(ボウル)10の底面付近に配置されている肉や魚といった食材に含まれるタンパク質の硬化を防止したり、容器(ボウル)10の底面に滞りがちな「とろみ」のこびりつきを防止するために、いずれもがその温度変化の最大値を経時的に見守る必要がある。第1加熱調理ステージP1のときより短い間隔の所定時間毎に、例えば0.1秒毎に検出された温度検出情報をより精密に検出するため、例えば0.1秒毎に検出される64領域の各素子それぞれに対して、それ以前の0.1秒毎の9個の温度検出情報を平均化した温度検出情報でもって、次に示すような「とろみ」判定を行ってもよい。この方法であると各素子それぞれに対して、例えば0.1秒毎にそれ以前の10個の温度検出情報の平均値を温度検出情報として比較していくことになるため、より精度よく温度検出ができる、より正確な判断ができるという利点がある。
【0057】
実施の形態1の高周波加熱装置においては、例えば「ワンボウル中華」の「エビチリ」のように料理が特定(選択)されたとき、当該料理に対して第1「とろみ」判定を行うときの温度閾値(第1「とろみ」判定温度)と、第2「とろみ」判定を行うときの温度閾値(第2「とろみ」判定温度)と、第3「とろみ」判定を行うときの温度閾値(第3「とろみ」判定温度)と、第4「とろみ」判定を行うときの温度閾値(第4「とろみ」判定温度)が設定される。第1「とろみ」判定温度および第2「とろみ」判定温度および第3「とろみ」判定温度および第4「とろみ」判定温度は、当該料理の加熱調理において、容器(ボウル)10内の食材に含まれるタンパク質が加熱により硬化したり、容器(ボウル)10の底面に滞りがちな「とろみ」がこびりつき炭化したりすることを未然に防止するために、赤外線センサ9により検出された食品に関する温度検出情報に基づいて第1「とろみ」判定~第4「とろみ」判定の計4回の「とろみ」判定を行うときの温度閾値である。
【0058】
第1「とろみ」判定においては、容器(ボウル)10の底面付近に滞り始める「とろみ」の温度を監視するためのものであり、このときに、第1段階の火力調節を行ってもよい(第3加熱調理ステージP3)。
【0059】
第2「とろみ」判定においては、主に肉や魚類の温度が上がりすぎないよう監視するた
めのものであり、第2「とろみ」判定以降の第4加熱調理ステージP4においてはOFF時間を増やし、パワーコントロールをする。
【0060】
肉などに含まれるタンパク質は約65℃で収縮を始め硬くなるが、75~85℃で軟化をし始める性質であることがわかっている(タンパク質の一種であるコラーゲンがゼラチン化するしくみ)。この温度帯以上に温度を上げると肉や魚類はどんどん硬くなり、風味を損なう可能性がある。肉や魚類がこの軟化する温度帯を維持できるように、パワーコントロールする必要がある。
【0061】
次に、第3「とろみ」判定以降の第5加熱調理ステージP5においては、食材を適温を保ちながら、全体の加熱を進める。OFF時間をさらに増やし、加熱を維持できるようなパワーコントロールを行うのである。さらに第4「とろみ」判定以降の第6加熱調理ステージP6においては、全体の加熱ムラを抑えつつ、仕上げ加熱をする。このときはOFF時間をさらに増やし、容器(ボウル)10内の食材に含まれるタンパク質が加熱により硬化したり、容器(ボウル)10の底面付近に「とろみ」がこびりつき炭化したりすることを未然に防止し、かつ最適加熱をするためである。
【0062】
この異なる4種類の温度の設定については、食材に含まれるタンパク質の硬化や「とろみ」がこびりつき炭化したりすることを未然に防止する効果とともに、硬化や炭化することなく、加熱状態を維持することができるように設定するものである。もしこのような不具合を防止するために、「「とろみ」」が確実に炭化しない、あるいは食材に含まれるタンパク質が確実に硬化しない、弱い火力に調節した場合には、適度な加熱状態が維持できず、食品を十分に加熱できなかったり、調理に無駄に時間がかかりすぎたりするという不具合が生じる。この異なる4温度の設定により、食材に含まれるタンパク質が加熱により硬化したり、「とろみ」が炭化したりすることなく、食品に対して最適なタイミングで、最適な火力調節を行うことができ、理想的な出来栄えを実現することができることとなる。
【0063】
図4のグラフに示すように、第1「とろみ」判定温度は、容器(ボウル)10の底面付近に滞り始める「「とろみ」」の温度(F1)に設定されており、第2「とろみ」判定温度は第1「とろみ」判定温度より高く、第3「とろみ」判定温度は第2「とろみ」判定温度より高く、第4「とろみ」判定温度は第3「とろみ」判定温度より高く、食材に含まれるタンパク質の硬化する温度(F2)より低い温度に設定される。高周波加熱シーケンスの第1「とろみ」判定および第2「とろみ」判定および第3「とろみ」判定および第4「とろみ」判定が行われた後においては、後述するように、特定(選択)された調理内容に応じて加熱出力が段階的に低減されていく。
【0064】
第1「とろみ」判定は、赤外線センサ9により検出された食品に関する検出温度情報において、食品における最高温度が、第1「とろみ」判定温度に到達したかどうか判定するときに行われる。このように食品における最高温度が第1「とろみ」判定温度に到達したことが赤外線センサ9により検出されたとき、第2加熱調理ステージP2から第3加熱調理ステージP3に移行する。第3加熱調理ステージP3においては、加熱出力(例えば、最高出力600W)のオン/オフのデューティ比を変更して、加熱出力を低下させている。
【0065】
次に、第3加熱調理ステージP3において、食品の最高温度が第2「とろみ」判定温度に到達したことが赤外線センサ9により検出されたとき、第4加熱調理ステージP4に移行する。第4加熱調理ステージP4においては、加熱出力(例えば、最高出力600W)のオン/オフのデューティ比を変更して、加熱出力を更に低下させている。
【0066】
次に、この第4加熱調理ステージP4において、食品の最高温度が第3「とろみ」判定温度に到達したことが赤外線センサ9により検出されたとき、第5加熱ステージP5に移行する。第5加熱調理ステージP5においては、加熱出力(例えば、最高出力600W)のオン/オフのデューティ比を変更して、加熱出力を更に低下させている。
【0067】
次に、この第5加熱調理ステージP5において、食品の最高温度が第4「とろみ」判定温度に到達したことが赤外線センサ9により検出されたとき、第6加熱ステージP6に移行する。第6加熱調理ステージP6においては、加熱出力(例えば最高出力600W)のオン/オフのデューティ比を変更して、加熱出力を更に低下させている。この第6加熱ステージP6は、当該食品に対して算出された調理終了時間まで継続させて、当該加熱調理を終了させる。
【0068】
上記のように、第1「とろみ」判定温度および第2「とろみ」判定温度および第3「とろみ」判定温度および第4「とろみ」判定温度は、特定(選択)された調理内容(料理・食品)における「とろみ」のこびりつき温度(あるいは、食材に含まれるタンパク質の硬化温度)を考慮して予め設定されている。第1「とろみ」判定温度は第2「とろみ」判定温度より低い温度であり、第2「とろみ」判定温度および第3「とろみ」判定温度はそれぞれ第3「とろみ」判定温度、第4「とろみ」判定温度、より低い温度であり、最終の第4「とろみ」判定温度は当該料理(食品)に含まれるタンパク質の硬化温度に近い温度に設定されている。例えば料理(食品)が「エビチリ」の場合は第1「とろみ」判定温度が78℃であり、第2「とろみ」判定温度が83℃であり、第3「とろみ」判定温度が88℃であり、第4「とろみ」判定温度が93℃である。また具体的な例示としては、料理(食品)が「八宝菜」の場合には、第1「とろみ」判定温度が80℃であり、第2「とろみ」判定温度が85℃であり、第3「とろみ」判定温度が90℃であり、第4「とろみ」判定温度が95℃である。これらの設定については、使われている食材のタンパク質が硬化しやすい食材か、火通りが気になる(十分に加熱しないといけない)食材か、などを考慮に入れ設定している。このように、第1「とろみ」判定温度、第2「とろみ」判定温度、第3「とろみ」判定温度、第4「とろみ」判定温度のように順に判定温度が高くなり、当該料理(食品)における「とろみ」のこびりつき温度、あるいは食材に含まれるタンパク質の硬化温度を考慮して、それらに近い温度に設定されている。
【0069】
上記のように、実施の形態1の高周波加熱装置において、高周波加熱シーケンスの加熱調理を当該食品に対して行うことにより、食材に含まれるタンパク質を硬化させることなく、しかも容器に「とろみ」をこびりつかせることなく、選択された料理に応じた最適な加熱調理を行うことができる。
【0070】
図5および
図6は、実施の形態1の高周波加熱装置における具体的な高周波加熱シーケンスを示すフローチャートであり、「ワンボウル中華」の「エビチリ」に対する高周波加熱シーケンスを示している。
図5は高周波加熱シーケンスの前半部分(第1加熱調理ステージP1から第2加熱調理ステージP2)を示しており、
図6は高周波加熱シーケンスの後半部分(第2加熱調理ステージP2から第6加熱調理ステージP6)を示している。
【0071】
実施の形態1の高周波加熱装置において、使用者が「ワンボウル中華」の「エビチリ」を調理メニューから選択し(ステップS101)、操作部4のスタートボタンを押圧することにより、調理動作が開始される(ステップS102)。調理動作の初期において加熱出力は、最大出力となる第1高周波出力(例えば、600W)に設定される(ステップS103)。
【0072】
ステップS104においては、「ワンボウル中華」において設定された「エビチリ」の料理メニュー名が入力されるステップである。設定された料理メニューが「エビチリ」以
外の料理メニュー、例えば、「八宝菜」、「麻婆豆腐」などであれば、ステップS104において「否(NO)」として、次のステップS200に移行し、「エビチリ」以外の別の料理メニューが入力されて、入力された別の料理メニューの加熱調理ステージが実行される。ここでは、設定された料理メニューとして「エビチリ」について説明するが、別の料理メニューにおける違いは、分量検知に基づき調理終了時間を算出する際の定数、「とろみ」判定温度(ここでは4温度閾値)、設定出力などであり、高周波加熱シーケンスにおける基本的な加熱調理の流れは同じである。
【0073】
図5に示すフローチャートにおいて、設定されている料理メニューが「エビチリ」の場合には、ステップS104からステップS105に移行して、当該料理メニューにおいて予め決められている、第1「とろみ」判定温度、第2「とろみ」判定温度、第3「とろみ」判定温度および第4「とろみ」判定温度の4温度閾値が設定される。
【0074】
ステップS106においては、赤外線センサ9により検出された温度検出情報に基づいて、当該食品の平均温度が算出される。このとき算出される食品の平均温度としては、赤外線センサ9が検出した温度検出情報(64領域それぞれの検出温度)の平均温度を原則として用いるが、当該調理動作を開始する初期環境において、連続調理などにより庫内温度が標準的な環境温度より高い場合には、赤外線センサ9が検出した温度検出情報から、初期環境温度からの温度上昇値の比率に基づいて食品の領域を特定して、その特定した領域の平均温度を用いてもよい。
【0075】
ステップS107においては、算出された食品の平均温度が予め設定した分量検知温度、例えば65℃に到達したとき、そのときの所要時間(分量検知時間)に基づいて当該食品の分量検知を行う。ステップS108においては、前述のように、当該食品(エビチリ)に対する加熱調理開始から終了までの調理時間を算出する(T=A*K+B)。
【0076】
なお、「T」は加熱調理終了までの調理時間、「A」は分量検知に必要とした時間(分量検知時間)、「K」および「B」は、食品の調理内容によって予め設定されている定数である。
【0077】
ステップS109の分量検知直後においては、加熱出力は第1高周波出力(600W)から第2高周波出力に制御される。第2加熱ステージP2において、加熱出力が低減されて加熱調理されてもよい。ここでは、第2高周波出力は600Wのままで加熱調理されることとする。第2加熱調理ステージP2以降のフローチャートを、
図6に示す。
【0078】
図6において、高周波加熱シーケンスにおける第2加熱調理ステージP2では、食品に関する温度検出情報により第1「とろみ」判定が行われ、当該食品における最高温度が第1「とろみ」判定温度に到達したかどうか判定が行われる(
図6のステップS110)。前述のように当該食品における最高温度は、赤外線センサ9が検出した温度検出情報(64領域の各素子の温度検出情報)を例えば0.1秒毎に検出した上で、過去10個分の温度検出情報をその素子毎に平均(移動平均)した温度検出情報であっても構わない。第1「とろみ」判定は、容器(ボウル)10内の食品において検出された最高温度が、所定温度(第1「とろみ」判定温度:容器の底面に「とろみ」が滞り始める温度(F1))に到達したときが、食品(エビチリ)のこびりつきが生じるおそれがある温度に近いとして、加熱出力を低下させている。
【0079】
例えば、容器(ボウル)10内の「とろみ」付けを行う片栗粉を含む「エビチリ」の食材を、容器(ボウル)10にラップをして誘電加熱により加熱調理した場合、片栗粉が水分と結合して糊化し容器底面に滞り始めて、こびりつく場合がある。このような場合には、容器(ボウル)10の底面部およびその近傍部分の食品が、他の領域の食品により、急
激に高い温度となる。その結果、容器(ボウル)10の底面部およびその近傍部分の温度が、食品における他の領域より高くなりすぎると、容器(ボウル)10の底面に片栗粉のでんぷんが糊化したものがこびりつく可能性が高いことを、確認した。
【0080】
従って、実施の形態1における「ワンボウル中華」においては、
図3に示すように、加熱室2内に収容された容器(ボウル)10の底面部分(近傍付近の庫内プレート部分)を含む全てを確実に温度検出できるように、赤外線センサ9が首振り動作により、より容器(ボウル)10の底面の温度が検出されやすい視野角度(下向き)に移動して温度検出する構成としている。また、実施の形態1における「ワンボウル中華」においては、当該食品で糊化したでんぷんがこびりつく可能性がある温度、あるいは食材に含まれるタンパク質が硬化する可能性がある温度を考慮して、4回の「とろみ」判定を行う温度閾値として4つの「とろみ」判定温度を予め設定し、赤外線センサ9からの食品全体(容器10の温度を含む)の温度検出情報に基づいて、当該食品における最高温度(容器10の底面部分および近傍付近の庫内プレート部分を含む)が「とろみ」判定温度に到達したことが検出されたとき、「とろみ」判定を行い、加熱出力を低減するように構成されている。
【0081】
上記のように、第1「とろみ」判定温度が検出されると、例えば、最高出力600Wにおけるオン/オフのデューティ比を変更して、加熱出力を低下させ、第3加熱調理ステージP3に移行させている(ステップS111)。例えば、加熱出力のオン/オフのデューティ比を、12(オン):4(オフ)に設定して、加熱出力を約450W相当に低下させている。
【0082】
更に、第3加熱調理ステージP3において、第2「とろみ」判定が行われる(
図6のステップS112)。第2「とろみ」判定は、主に食材に含まれるタンパク質が硬化する可能性のある温度を考慮して、前述の第1「とろみ」判定温度よりも高い温度の第2「とろみ」判定温度を予め設定し、赤外線センサ9からの温度検出情報に基づいて、当該食品における最高温度(容器10の底面部分およびその近傍付近の庫内プレート部分を含む)が第2「とろみ」判定温度に到達したとき、「とろみ」高周波出力設定の変更を行うように構成されている。第2「とろみ」判定温度に到達したことが検出されると、例えば、最高出力600Wにおけるオン/オフのデューティ比を変更して、加熱出力を低下させ、第4加熱調理ステージP4に移行させる(ステップS113)。例えば、加熱出力のオン/オフのデューティ比を10(0N):6(OFF)に設定して、加熱出力を約380W相当に低下させている。
【0083】
更に、第4加熱調理ステージP4において、第3「とろみ」判定が行われる(
図6のステップS114)。第3「とろみ」判定は、前述の当該食品の糊化したでんぷんがこびりつく可能性、あるいは食材に含まれるタンパク質が硬化する可能性を防ぎながら、食品を適温に保って食品全体の加熱を進めるよう、前述の第2「とろみ」判定よりもさらに高い温度を第3「とろみ」判定温度として予め設定し、赤外線センサ9からの温度検出情報に基づいて、当該食品における最高温度(容器10の底面部分およびその近傍付近の庫内プレート部分を含む)が第3「とろみ」判定温度に到達したとき、高周波出力設定の変更を行うように構成されている。第3「とろみ」判定温度に到達したことが検出されると、例えば、最高出力600Wにおけるオン/オフのデューティ比を変更して、加熱出力を低下させ、第5加熱調理ステージP5に移行させる(ステップS115)。例えば、加熱出力のオン/オフのデューティ比を6(0N):10(OFF)に設定して、加熱出力を約200W相当に低下させている。
【0084】
更に、第5加熱調理ステージP5において、第4「とろみ」判定が行われる(
図6のステップS116)。第4「とろみ」判定は、前述の当該食品の糊化したでんぷんがこびりつく可能性、あるいは食材に含まれるタンパク質が硬化する可能性を防ぎながら、食品全
体の加熱ムラを抑えつつ仕上げ加熱を進めるよう、前述の第3「とろみ」判定温度よりもさらに高い温度を第4「とろみ」判定温度として予め設定し、赤外線センサ9からの温度検出情報に基づいて、当該食品における最高温度(容器10の底面部分およびその近傍付近の庫内プレート部分を含む)が第4「とろみ」判定温度に到達したとき、「とろみ」高周波出力設定の変更を行うように構成されている。第4「とろみ」判定温度に到達したことが検出されると、例えば、最高出力600Wにおけるオン/オフのデューティ比を変更して、加熱出力を低下させ、第6加熱調理ステージP6に移行させる(ステップS117)。例えば、加熱出力のオン/オフのデューティ比を4(0N):12(OFF)に設定して、加熱出力を約150W相当に低下させている。
【0085】
上記のように、「とろみ」判定温度に到達する毎に加熱出力を低減するように構成されている(ステップS111、ステップS113、ステップS115、ステップS117)が、出力の低減の方法は例えば、上記のように加熱出力のオン/オフのデューティ比を設定して該当の出力に低下させる方法でもよいし、一定の低出力に低減させて加熱する方法でもよい。
【0086】
食品の糊化したでんぷんのこびりつきを防ぐという観点から、上記の2通りの方法を比較したところ、一定の低出力に低減させて加熱するよりも、加熱出力のオン/オフのデューティ比を設定して該当の出力に低下させる加熱の方が、食品の糊化したでんぷんのこびりつきを防ぐことに対して効果的であることを、知見した。従って、本シーケンスにおいては、加熱出力のオン/オフのデューティ比を設定して徐々に加熱出力を低減する構成を有することとした。
【0087】
ステップS119においては、ステップS108において算出された、当該食品(エビチリ)に対する加熱調理の終了時間(T)を検出して(ステップS118)、当該「ワンボウル中華」における高周波加熱シーケンスを終了させる(高周波出力停止:ステップS119)。
【0088】
以上のように、実施の形態1の高周波加熱装置においては、加熱室2内の被加熱物配置可能領域の温度を常時測定する構成を有して、所定温度に到達する時間に基づいて被加熱物である容器(ボウル)10内の食品の分量を検知して、当該食品に対する加熱調理の終了時間を決定している。また、実施の形態1の高周波加熱装置においては、容器(ボウル)10内の食品の糊化したでんぷんがこびりつく温度や、あるいは食材に含まれるタンパク質が硬化する温度を考慮した少なくとも2つ以上の「とろみ」判定温度を設定して、容器内の食品の最高温度が「とろみ」判定温度に到達したとき毎に、加熱出力を徐々に低減し、容器内の食品の糊化したでんぷんがこびりつくことや、食材に含まれるタンパク質が硬化することを未然に防止する構成を有している。
【0089】
以上、本実施の形態では、具体的な料理例として、「ワンボウル中華」の「エビチリ」において、水溶き片栗粉を用いて「とろみ」付けして調理を行う場合を挙げて本開示の発明を説明したが、本開示の発明はこれに限定されるものではなく、食品に含まれる食材の種類(例えば、肉や魚などタンパク質を含む食材)によっては、加熱することによりタンパク質の硬化が起こることを防ぐため、予め加熱前にこれら食材の表面に片栗粉や小麦粉などの粉類をまぶすことで食材の表面をガードし、加熱によるタンパク質の硬化を防ぐ場合を含んでもよい。
【0090】
また、実施の形態1の高周波加熱装置においては、二次元状の8×8眼のマトリクス状に配置された64個の赤外線検出素子を備えた赤外線センサ9を用いて首振り動作が可能な構成で説明したが、本発明においては加熱室2内の戴置された大きな容器(ボウル)10の全体を温度検出対象として、容器(ボウル)10内の食品の全体の温度を検出できる
構成であればよく、実施の形態1の構成に限定されるものではない。
【0091】
本発明をある程度の詳細さをもって実施の形態において説明したが、実施の形態の開示内容は構成の細部において変化してしかるべきものであり、実施の形態における各要素の組み合わせや順序等の変化は請求された本発明の範囲及び思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、容器内に収容された食品において、容器底面の食品の糊化したでんぷんをこびりつかせたり、食材に含まれるタンパク質を硬化させたりすることなく、所望の料理を簡単に、おいしく作ることができる高周波加熱装置および高周波加熱方法を提供することができ、汎用性が高く、有用である。
【符号の説明】
【0093】
1 調理器本体
2 加熱室
3 扉
4 操作部
5 加熱制御部
6 高周波発生部
7 高周波供給部
8 温度検出部
9 赤外線センサ