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  • 特許-フロントガラス用保護フィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】フロントガラス用保護フィルム
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/00 20060101AFI20221223BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221223BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20221223BHJP
   C03C 17/32 20060101ALN20221223BHJP
【FI】
B60J1/00 G
B32B27/00 M
C09J7/20
C03C17/32 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017154801
(22)【出願日】2017-08-09
(65)【公開番号】P2019031255
(43)【公開日】2019-02-28
【審査請求日】2020-05-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 知之
(72)【発明者】
【氏名】田丸 博
【合議体】
【審判長】藤井 昇
【審判官】一ノ瀬 覚
【審判官】八木 誠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第7992917(US,B2)
【文献】特表2004-503406(JP,A)
【文献】特開2015-134456(JP,A)
【文献】特開2017-105003(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047600(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/00
B32B 27/00
C03C 17/32
C09J 7/24
C09J 7/25
C09J 7/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のフロントガラスの外面に貼り付けられるフロントガラス用保護フィルムであり、粘着性を有する第一面と、前記第一面とは反対側にある第二面とを備え、
前記第一面側の最外層にある粘着性を有する粘着層と、
前記第二面側の最外層にある保護層と、
前記粘着層と前記保護層との間に介在する基材層とを更に備え、
前記保護層は、フッ素原子を含有し、
前記保護層内の前記フッ素原子の濃度は、前記第二面から深さ1nmまでの第一部分で平均15質量%以上50質量%以下、深さ1nmから2nmまでの第二部分で平均2質量%以上20質量%以下、深さ2nmから5nmまでの第三部分で平均5質量%以下であり、前記第一部分、前記第二部分、前記第三部分の順に低くなっており、
80%以上の光透過率を有し、
前記フロントガラス用保護フィルムは、曲率半径25cmの面に対する追随性を有し、かつ、100MPa以上の引っ張り強度を有し、
前記第二面の水接触角は100°以上であり、
前記第二面の、JIS K5600-5-4に基づく鉛筆法による引っかき硬度は、H以上である、
フロントガラス用保護フィルム。
【請求項2】
前記保護層の厚みは、1μm以上15μm以下である、
請求項1に記載のフロントガラス用保護フィルム。
【請求項3】
前記保護層は、フッ素原子を有さない反応硬化性樹脂(a)とフッ素化合物(b)とを含有する組成物の硬化物である、
請求項1又は2に記載のフロントガラス用保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントガラス用保護フィルムに関し、詳しくは自動車のフロントガラスの外面に貼り付けて使用されるフロントガラス用保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントガラスには、傷付き防止などの目的で、しばしば保護フィルムが貼り付けられる。保護フィルムには、フロントガラスを保護できるだけの強度を有するだけでなく、透明性が高いこと、及びフロントガラスの曲面に追随できることが、求められる(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、雨天等にフロントガラスに水滴が付着した場合にワイパーで容易に拭き取れるようにするため、フロントガラスに撥水性を付与することも求められる。そのためには、フロントガラスに定期的に撥水コーティングを施す必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許明細書第7992917号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、フロントガラスに撥水コーティングを定期的に施すのは煩雑である。しかも、保護フィルムを貼り替える場合にもそれに伴って撥水コーティングを施さなければならない。
【0006】
本発明の目的は、透明性を有し、フロントガラスの曲面に追随でき、フロントガラスの破損を抑制でき、しかも良好な撥水性を有するフロントガラス用保護フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るフロントガラス用保護フィルムは、自動車のフロントガラスの外面に貼り付けられるフロントガラス用保護フィルムであり、粘着性を有する第一面と、前記第一面とは反対側にある第二面とを備える。フロントガラス用保護フィルムは、80%以上の光透過率を有し、曲率半径25cmの面に対する追随性を有し、100MPa以上の引っ張り強度を有する。前記第二面の水接触角は100°以上である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様には、透明性を有し、フロントガラスの曲面に追随でき、フロントガラスの破損を抑制でき、しかも良好な撥水性を有するフロントガラス用保護フィルムを提供できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るフロントガラス用保護フィルムを示す、概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0011】
本実施形態に係るフロントガラス用保護フィルム1(以下、保護フィルム1ともいう。)は、自動車のフロントガラスの外面に貼り付けられる。保護フィルム1は、図1に示すように、粘着性を有する第一面11と、第一面11とは反対側にある第二面12とを備える。保護フィルム1は、80%以上の光透過率を有し、曲率半径25cmの面に対する追随性を有し、100MPa以上の引っ張り強度を有する。さらに、保護フィルム1の第二面12の水接触角は100°以上である。
【0012】
保護フィルム1は、必要により加熱されてから、自動車のフロントガラス上に、保護フィルム1の第一面11とフロントガラスの外面とが接触するように配置されることで、フロントガラスに貼り付けられる。これにより、保護フィルム1でフロントガラスを保護できる。
【0013】
本実施形態に係る保護フィルム1は、上記構成を有することから、透明性を有し、フロントガラスの曲面に追随でき、フロントガラスの破損を抑制でき、しかも良好な撥水性を有することができる。
【0014】
なお、光透過率は、JIS K7361-1で規定される全光線透過率である。測定に使用される光源はCIE標準光源D65であり、測定装置として例えばヘーズメーター(日本電色株式会社製NDH-4000)を使用できる。
【0015】
曲率半径25cmの面に対する追随性を有するとは、曲率半径25cmの面を有するガラス板を、この面が上方を向くように配置し、この面の上に30cm×30cmの寸法の保護フィルム1をその第一面11が下方を向くように荷重をかけずに配置した場合、保護フィルム1がガラス板の面に追随して変形し、この面からの保護フィルム1の浮き上がりが認められないことをいう。保護フィルム1は25℃でこの追随性を有していてもよいが、加熱されることで追随性を有してもよい。例えば保護フィルム1は、25℃又は100℃で、追随性を有することが好ましい。
【0016】
保護フィルム1の引っ張り強度は、JIS C-2151に準じ、引張試験機を用いて、試験片に引っ張り速度200mm/minの条件で引っ張り試験を行った場合の、試験片が破断したときの強度(すなわち引張荷重値を試験片の断面積で除した値)である。
【0017】
以下に、保護フィルム1の具体的な構成の例について説明する。
【0018】
保護フィルム1は、図1に示すように、例えば第一面11側の最外層にある粘着層4と、第二面12側の最外層にある保護層2と、粘着層4と保護層2との間に介在する基材層3とを備える。この場合、粘着層4の外面が第一面11であり、保護層2の外面が第二面12である。
【0019】
基材層3は、透明な樹脂材料から作製されることが好ましい。この場合、基材層3は、保護フィルム1に良好な光透過性、追随性及び強度を付与できる。樹脂材料は、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル共重合体、トリアセチルセルロース、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、非晶質ポリオレフィン、シクロオレフィンポリマー、及びシクロオレフィンコポリマーからなる群から選択される。
【0020】
基材層3は、ポリエステルから作製されることが好ましい。ポリエステルは、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタリンジカルボン酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸といった芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,6-ヘキサンジオールといったグリコール成分とが反応することで生成する芳香族ポリエステルであることが好ましい。ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレン-2,6-ナフタリンジカルボキシレートであればより好ましい。基材層3がポリエチレンテレフタレート(PET)から作製されていれば特に好ましい。
【0021】
基材層3は有機又は無機の粒子を含有してもよい。この場合、基材層3の巻き取り性、搬送性等が向上する。基材層3が含有できる粒子として、炭酸カルシウム粒子、酸化カルシウム粒子、酸化アルミニウム粒子、カオリン、酸化珪素粒子、酸化亜鉛粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、尿素樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、及び架橋シリコーン樹脂粒子が挙げられる。
【0022】
基材層3は、着色剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、潤滑剤、触媒、他の樹脂等を、透明性を損なわない範囲で含有してもよい。
【0023】
基材層3のヘイズは3%以下であることが好ましい。この場合、保護フィルム1を通した視認性が向上し、保護フィルム1として特に適するようになる。ヘイズが1.5%以下であれば更に好ましい。
【0024】
基材層3の厚みは25μm以上125μm以下であることが好ましい。基材層3の厚みが25μm以上であると、保護フィルム1は特に高い強度を有することができる。また、基材層3の厚みが125μm以下であると、保護フィルム1は特に良好な透明性及び追随性を有することができる。
【0025】
基材層3の屈折率は、例えば1.40以上1.70以下が好ましく、1.50以上1.65以下であれば更に好ましい。
【0026】
基材層3と保護層2との間には、易接着層5が介在していてもよい。易接着層5は、基材層3と保護層2との間の接着性を向上できる。なお、易接着層5は、基材層3の単独膜がロール状に巻き回されるなどして重ねられる場合のブロッキングの発生を抑制したりし滑りやすさを向上したりすることもできる。易接着層5は、例えばポリエステル系樹脂又はアクリル系樹脂から作製される。
【0027】
基材層3と易接着層5との界面での光の反射を抑制して保護フィルム1の高い光透過率を達成するためには、易接着層5の屈折率は、基材層3の屈折率及び保護層2の屈折率に近いことが望ましい。特に易接着層5の屈折率は1.58以上1.75以下であることが好ましい。易接着層5の光学膜厚が120nm以上160nm以下であることも好ましい。この場合、基材層3と保護層2との間の高い密着性を確保しつつ、易接着層5が存在することによる光反射及び干渉縞を抑制できる。
【0028】
粘着層4は、例えば透明な感圧粘着剤から作製される。感圧粘着剤は、例えばアクリル系感圧粘着剤、ゴム系感圧粘着剤及びシリコーン系感圧粘着剤からなる群から選択される。
【0029】
基材層3と粘着層4との界面での光の反射を抑制して保護フィルム1の良好な光透過率を達成するためには、粘着層4の屈折率は、基材層3の屈折率に近いことが望ましい。特に粘着層4の屈折率は1.40以上1.70以下であることが好ましく、1.50μm以上1.65以下であれば更に好ましい。粘着層4の厚みが10μm以上75μm以下であることも好ましい。これらの場合、粘着層4の粘着性を十分に発現させつつ、粘着層4が存在することによる光反射及び干渉縞を抑制できる。
【0030】
保護層2は、例えば内部に組成の不連続な変化を有さない単一の層である。保護層2は、フッ素原子を含有することが好ましい。保護層2内のフッ素原子の濃度は、第二面12から深さ1nmまでの第一部分21で平均10質量%以上50質量%以下、深さ1nmから2nmまでの第二部分22で平均2質量%以上20質量%以下、深さ2nmから5nmまでの第三部分23で平均1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。さらに、保護層2内のフッ素原子の濃度は、第一部分21、第二部分22、第三部分23の順に低くなっていることが好ましい。
【0031】
保護層2がフッ素原子を含有すると、保護層2は高い撥水性及び防汚性を有することができる。また、保護層2がフッ素原子を含有することで、第二面12は高い滑り性を有することもでき、そのため、ワイパーが第二面12に接しながら滑らかに移動できる。
【0032】
また、フッ素原子が保護層2内に存在すると、保護層2の上にフッ素化合物を含むコーティングを別途設ける場合のような界面は生じず、そのためコーティングの剥離による撥水性の低下は生じない。そのため、保護フィルム1の撥水性を長期にわたって維持できる。
【0033】
さらに、保護層2内でフッ素原子が上記のように第二面12の近傍に偏在すると、第二面12が上記のような撥水性などの機能を発揮するにもかかわらず、保護層2全体としてはフッ素原子の量を低く抑制することが可能である。そのため、保護層2には、フッ素原子を含有することに起因する硬度の低下が生じにくい。このため、保護フィルム1には、撥水性が付与され、かつこの撥水性が低下しにくく、しかも撥水性が付与されたことに起因する硬度の低下が生じにくい。
【0034】
保護層2は、例えばフッ素原子を有さない反応硬化性樹脂(a)とフッ素化合物(b)とを含有する組成物(以下、保護層組成物という)の硬化物である。この場合、保護層2は、フッ素化合物(b)に由来するフッ素原子を含有する。
【0035】
反応硬化性樹脂(a)は、例えば熱硬化性樹脂及び放射線硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0036】
熱硬化性樹脂は、例えばケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びアミノアルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0037】
保護層組成物が熱硬化性樹脂を含有する場合、保護層組成物は必要に応じて更に架橋剤、重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤、及び溶剤からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有してもよい。
【0038】
放射線硬化性樹脂は、エチレン性不飽和基を有することが好ましく、特にアクリレート系の官能基を有することが好ましく、例えばアクリロイル基とメタクリロイル基のうち少なくとも一方を有することが好ましい。放射線硬化性樹脂が含有する成分は、オリゴマー、プレポリマーのいずれでもよい。放射線硬化性樹脂は、例えば多官能化合物の(メタ)アクリレートを含有する。(メタ)アクリレートは比較的低分子量であることが好ましい。多官能化合物は、例えばポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、及び多価アルコールからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。放射線硬化性樹脂は、特に多官能アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、及びポリエステルアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。この場合、保護フィルム1は、特に高い硬度及び耐擦傷性を有することができる。
【0039】
保護層組成物が放射線硬化性樹脂を含有する場合、保護層組成物は更に放射線硬化性樹脂との反応性を有する反応性希釈剤を含有してもよい。反応性希釈剤は、例えば単官能モノマーと多官能モノマーのうち少なくとも一方を含有する。単官能モノマーは、例えばエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、及びN-ビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。多官能モノマーは、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、及びネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0040】
保護層組成物が放射線硬化性樹脂を含有する場合、保護層組成物は更に光重合開始剤を含有してもよい。この場合、保護層組成物は、紫外線硬化性などの光硬化性を有することができる。光重合開始剤は、例えばアセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、α-アミロキシムエステル、及びチオキサントン系化合物からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
【0041】
保護層組成物が光重合開始剤を含有する場合、保護層組成物は更に光増感剤を含有してもよい。光増感剤は、例えばn-ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルホスフィン、及びチオキサントンからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0042】
フッ素化合物(b)は、重合性官能基を有することが好ましく、特にエチレン性不飽和基を有することが好ましい。より具体的には、フッ素化合物(b)は、例えばアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基、及びスチリル基からなる群から選択される少なくとも一種の基を有することが好ましい。フッ素化合物(b)は、パーフルオロアルキル基を主鎖として有するとともに、主鎖の末端に重合性官能基を有し、又は重合性官能基を含む側鎖を有することが、好ましい。フッ素化合物(b)は、更に親水基、親油基等を有してもよい。
【0043】
フッ素化合物(b)は、反応硬化性樹脂(a)よりも低い表面張力を有することが好ましい。フッ素化合物(b)の表面張力は、フッ素化合物(b)の有する官能基によって制御されうる。例えばフッ素化合物(b)が適宜の親水基、親油基等を有することで、適切な表面張力を有することができる。
【0044】
フッ素化合物(b)は、例えばレベリング剤として市販されている化合物(フッ素系レベリング剤)を含有できる。フッ素系レベリング剤の具体例は、DIC株式会社製の品番、RS-75、RS-90といったメガファック(登録商標)シリーズ、株式会社ネオス製の商品名フタージェント(登録商標)710FL、及び住友スリーエム株式会社製のフロリナートシリーズを含む。フッ素化合物(b)は、一種の成分のみを含有してもよく、二種以上の成分を含有してもよい。
【0045】
保護層組成物中のフッ素化合物(b)の量は、例えば保護層組成物中の固形分全量に対して0.05質量%以上10質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。
【0046】
保護層組成物は、無機フィラーを含有してもよい。無機フィラーは、例えば酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、酸化ジルコニウム、及び酸化インジウム錫からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。無機フィラーの平均粒径は5nm以上200nm以下であることが好ましく、この場合、保護フィルム1の透明性が損なわれにくい。
【0047】
保護層2を作製する場合、例えばまず基材層3上(易接着層5が存在する場合は易接着層5上)に保護層組成物を塗布して塗膜を作製する。塗布方法は、例えばロールコート法、スピンコート法、又はディップコート法である。この塗膜を、その性状に応じた方法で硬化させる。例えば保護層組成物が熱硬化性樹脂を含有する場合は、塗膜を加熱することで硬化させ、保護層2が放射線硬化性樹脂を含有する場合は、塗膜に紫外線等を照射することで硬化させる。これにより、保護層2が作製される。
【0048】
このように保護層2を作製する過程では、塗膜を形成すると、塗膜中でフッ素化合物(b)が塗膜の上面寄りに偏在しやすい。フッ素化合物(b)の偏在の程度は、フッ素化合物(b)の表面張力を調整することで制御されうる。この塗膜を硬化させて保護層2を作製すると、保護層2は、フッ素化合物(b)に由来するフッ素原子を含有し、このフッ素原子は保護層2内で第二面12寄りに偏在する。これにより、保護層2内のフッ素原子の濃度が、第二面12から深さ1nmまでの第一部分21で平均10質量%以上50質量%以下、深さ1nmから2nmまでの第二部分22で平均2質量%以上20質量%以下、深さ2nmから5nmまでの第三部分23で平均5質量%以下であることを、達成できる。保護層2内でのフッ素原子の分布は、塗膜内でのフッ素化合物(b)の偏在の程度の制御の場合と同様に、フッ素化合物(b)の表面張力を調整することで制御されうる。
【0049】
第三部分23のフッ素原子の濃度は、平均1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。第三部分23のフッ素原子の濃度は、0質量%であってもよい。また、保護層2におけるフッ素原子の濃度は、第二面12から保護層2の厚み方向の基材層3側に向かって小さくなっていくことが好ましい。すなわち、保護層2の深さ5nmよりも深い部分(すなわち保護層2の第一部分21、第二部分22及び第三部分23を除く部分)のフッ素原子の平均濃度は、保護層2の第三部分23のフッ素原子の平均濃度以下であることが好ましい。
【0050】
保護層2の厚みは1μm以上15μm以下であることが好ましい。この厚みが1μm以上であると、保護フィルム1は十分に高い硬度を有することができる。また、この厚みが15μm以下であると、保護フィルム1にカール及びクラックが生じにくい。保護層2の厚みが2μm以上であればより好ましい。保護層2の厚みが10μm以下であることもより好ましい。
【0051】
なお、保護フィルム1は、上記以外の構成を備えてもよい。例えば基材層3と粘着層4との間に上記易接着層5と同様の別の易接着層が介在していてもよい。
【0052】
保護フィルム1の第二面12の平均動摩擦係数は、0.20以下であることが好ましい。この場合、保護フィルム1の耐擦傷性が特に向上する。また、ワイパーが第二面12に接しながら特に滑らかに移動できる。このような平均動摩擦係数は、例えば保護層2内のフッ素原子の分布を制御することで達成できる。
【0053】
保護フィルム1の第二面12を、スチールウール#0000で、98.1kPaの圧力をかけながら1万回往復摩擦した場合の、第二面12の平均動摩擦係数の変化量は、±0.10以内であることが好ましい。この場合、保護フィルム1は特に傷つきにくい。しかも、かつ保護フィルム1の低い平均動摩擦係数が長期にわたって維持されやすく、このため、ワイパーの移動を長期にわたって滑らかに維持できる。この特性も、例えば保護層2内のフッ素原子の分布を制御することで達成できる。
【0054】
保護フィルム1の第二面12を、スチールウール#0000で、98.1kPaの圧力をかけながら1万回往復摩擦した場合の、第二面12の水との接触角の変化量は、15°以内であることが好ましい。この場合、保護フィルム1は特に傷つきにくく、このため保護フィルム1の良好な撥水性及び防汚性、並びに低い平均動摩擦係数が長期にわたって維持されやすい。この特性は、例えば反応硬化性樹脂(a)に含まれる成分の選択、及び保護層2内のフッ素原子の分布の制御によって、達成できる。
【0055】
保護フィルム1の第二面12の、JIS K5600-5-4に基づく鉛筆法による引っかき硬度(鉛筆硬度)は、H以上であることが好ましい。この場合、保護フィルム1は、特に高い耐擦傷性を有することができる。このようなひっかき硬度も、例えば反応硬化性樹脂(a)に含まれる成分の選択、及び保護層2内のフッ素原子の分布の制御によって、達成できる。
【0056】
上記のように、保護フィルム1の第二面12の水との接触角は100°以上である。この水との接触角も、例えば保護層2内のフッ素原子の分布を制御することで達成できる。本実施形態では、100°以上120°以下の水との接触角を達成することも可能である。この水との接触角は、105°以上であればより好ましく、108°以上であれば更に好ましい。
【0057】
上記のように、保護フィルム1は、80%以上の光透過率を有する。このような保護フィルム1の光透過率は、上記の保護フィルム1の具体的な構造によって、達成できる。上記の保護フィルム1の具体的な構造においては、80%以上96%以下の光透過率を達成することも可能である。保護フィルム1の光透過率は、85%以上であることが好ましく、88%以上であればより好ましく、90%以上であれば更に好ましい。
【0058】
上記のように、保護フィルム1は、曲率半径25cmの面に対する追随性を有する。この追随性も、上記の保護フィルム1の具体的な構造によって、達成できる。特に基材層3の材質及び厚みを適宜選択することで、この追随性を達成することができる。
【0059】
上記のように、保護フィルム1は、100MPa以上の引っ張り強度を有する。この引っ張り強度も、上記の保護フィルム1の具体的な構造によって、達成できる。特に基材層3の材質及び厚みを適宜選択することで、この引っ張り強度を達成することができる。本実施形態では、100MPa以上200MPa以下の引っ張り強度を達成することも可能である。この引っ張り強度は、120MPa以上であればより好ましく、140MPa以上であれば更に好ましい。
【実施例
【0060】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0061】
(1)保護フィルムの作製
実施例1
基材層と易接着層とを備えるフィルム(東洋紡株式会社製の品名コスモシャイン(登録商標)A4300)を準備した。基材層はポリエチレンテレフタレート(PET)製であり、易接着層はポリエステル製である。基材層及び易接着層の厚み及び屈折率は、表に示すとおりである。
【0062】
アクリル系紫外線硬化型樹脂(大日精化工業株式会社製、品名セイカビームPET-HC301、有効成分(固形分)60質量%)、フッ素系化合物(DIC株式会社製、品番RS-75、有効成分(固形分)40質量%)、及びメチルエチルケトンを混合することで、保護層組成物を調製した。この保護層組成物中の固形分全量の濃度は40質量%であり、アクリル系紫外線硬化型樹脂とフッ素系化合物との固形分の質量比は、97:3である。
【0063】
易接着層の上に保護層組成物を、ワイヤーバーコーター#7を用いて塗布してから、80℃で5分間乾燥させることで、塗膜を形成した。この塗膜に紫外線を、露光量500mJ/cm2の条件で照射することで、塗膜を硬化させた。これにより、易接着層の上に保護層を作製した。
【0064】
保護層の、第二面から深さ1nmまでの第一部分、深さ1nmから2nmまでの第二部分、及び深さ2nmから5nmまでの第三部分における、フッ素原子の平均濃度を、X線光電子分光分析法(XPS)で測定した。測定装置としてはアルバック・ファイ社製のPHI5000 Versaprobeを用いた。その結果を下記表に示す。また、保護層の厚み及び屈折率は下記表に示すとおりである。
【0065】
基材層の保護層側とは反対側の面に、アクリル系感圧粘着剤を配置することで、粘着層を作製した。粘着層の厚み及び屈折率は表に示すとおりである。
【0066】
これにより、保護層、易接着層、基材層及び粘着層をこの順に積層して備える保護フィルムを製造した。
【0067】
実施例2
保護層作製時にワイヤーバーコーター#7をワイヤーバーコーター#12に変更しことで、下記表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は、実施例1と同じ方法で、保護フィルムを製造した。
【0068】
実施例3
保護層作製時にワイヤーバーコーター#7をワイヤーバーコーター#16に変更することで、下記表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は、実施例1と同じ方法で、保護フィルムを製造した。
【0069】
実施例4
保護層作製時にワイヤーバーコーター#7をワイヤーバーコーター#24に変更したことで、下記表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は、実施例1と同じ方法で、保護フィルムを作製した。
【0070】
実施例5
保護層作製時にアクリル系紫外線硬化型樹脂を、新中村化学工業株式会社製、品名A-DPHに変更したことで、下記表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は、実施例1と同じ方法で、保護フィルムを作製した。
【0071】
実施例6
保護層作製時にアクリル系紫外線硬化型樹脂を、新中村化学工業株式会社製、品名A-TMMTに変更したことで、下記表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は、実施例1と同じ方法で、保護フィルムを作製した。
【0072】
実施例7
保護層作製時にフッ素系化合物を、ダイキン工業株式会社製、品名オプツールDACに変更することで、表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は、実施例1と同じ方法で、保護フィルムを作製した。
【0073】
実施例8
保護層作製時にフッ素系化合物を、信越化学工業株式会社製、品名KY1203に変更したことで、表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は、実施例1と同じ方法で、保護フィルムを作製した。
【0074】
実施例9
保護層作製時にアクリル系紫外線硬化型樹脂とフッ素系化合物を中国塗料株式会社製、品名421C-LP234(アクリル系紫外線硬化型樹脂とフッ素系化合物の混合品)に変更したことで、表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は、実施例1と同じ方法で、保護フィルムを作製した。
【0075】
実施例10
保護層2作製時にアクリル系紫外線硬化型樹脂とフッ素系化合物との固形分の質量比を、99:1に変更したことで、表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は、実施例1と同じ方法で、保護フィルムを作製した。
【0076】
実施例11
保護層作製時にアクリル系紫外線硬化型樹脂とフッ素系化合物との固形分の質量比を、94:6に変更したことで表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は、実施例1と同じ方法で、保護フィルムを作製した。
【0077】
実施例12
保護層作製時にワイヤーバーコーター#7をワイヤーバーコーター#3に変更したことで、下記表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は、実施例1と同じ方法で、保護フィルムを作製した。
【0078】
実施例13
保護層作製時にワイヤーバーコーター#7をワイヤーバーコーター#32に変更したことで、下記表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は、実施例1と同じ方法で、保護フィルムを作製した。
【0079】
実施例14~19
保護層作製時に基材層の厚みと粘着層の厚みのうち一方又は両方を表に示すように変更したことで、下記表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は、実施例9と同じ方法で、保護フィルムを作製した。
【0080】
比較例1
保護層作製時にアクリル系紫外線硬化型樹脂とフッ素系化合物との固形分の質量比を、100:0に変更することで、下記表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は、実施例1と同じ方法で、保護フィルムを作製した。
【0081】
比較例2
保護層作製時にアクリル系紫外線硬化型樹脂とフッ素系化合物との固形分の質量比を、99.9:0.1に変更したことで、下記表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は実施例1と同じ方法で、保護フィルムを作製した。
【0082】
比較例3~5
保護層作製時に基材層の材質と厚みのうち一方又は両方を表に示すように変更することで下記表に示すフッ素原子の平均濃度、厚み及び屈折率の保護層を作製した。それ以外は実施例9と同じ方法で、保護フィルムを作製した。
【0083】
(2)評価試験
実施例及び比較例の保護フィルムに対し、次の評価試験を実施した。その結果は下記表に示す。
【0084】
(2-1)光透過率測定
保護フィルムの、JIS K7361-1で規定される全光線透過率を、光源としてCIE標準光源D65を用い、測定装置としてヘーズメーター(日本電色株式会社製NDH-4000)を用いて測定した。
【0085】
(2-2)追随性
30cm、25cm、20cm、10cm、7.5cm及び5cmの曲率半径の凸曲面をそれぞれ有するガラス板を用意した。各ガラス板を、その凸曲面が上方を向くように配置し、この凸曲面の上に、保護フィルムから切り出された30cm×30cmの寸法の試験片をその粘着層側の面が下方を向くように、100℃の温度下で荷重をかけずに配置した。その結果から、ガラス板からの試験片の浮き上がりが認められない場合の最小の曲率半径を確認した。
【0086】
(2-3)引っ張り強度
保護フィルムから、幅10mm、長さ150mmの試験片を切り出した。この試験片に、JIS C-2151に準じ、引張試験機(株式会社島津製作所製 EZ Test CE)を用いて、引っ張り速度200mm/minの条件で、引っ張り試験を行った。この引っ張り試験によって試験片が破断した時の引張荷重値を測定し、その結果から、引っ張り強度(すなわち引張荷重値を試験片の断面積で除した値)を求めた。
【0087】
(2-4)鉛筆硬度測定
保護フィルムの第二面の鉛筆硬度(引っかき硬度)を、JIS K5600-5-4に基づく鉛筆法で測定した。
【0088】
(2-5)耐擦傷性評価試験
保護フィルムの第二面の耐擦傷性を、スチールウール磨耗試験により評価した。試験装置として表面性測定機(Type14DR 新東科学株式会社製)を用い、スチールウールを、98.1kPa(1kg/cm2)の圧力をかけながら、速度6000mm/minの条件で1万回往復した後、第二面のキズの有無について目視確認し、下記の基準で5点満点評価をした。スチールウールは#0000(日本スチールウール株式会社製)を使用した。
5:傷は認められない。
4.5:傷は認められないが、保護層の厚み減少は認められる。
4:浅い傷が認められる。
3.5:5本以下の傷が認められる。
3:5本より多く10本以下の傷が認められる。
2:10本より多く50本以下の傷が認められる。
1:多数の傷が認められ、若しくは保護層の剥離が認められる。
【0089】
(2-6)平均動摩擦係数測定
保護フィルムにおける保護層の、第二面の平均動摩擦係数を、カトーテック株式会社製の摩擦感テスターKES-SE-SRを用いて測定した。その結果を、表の「動摩擦係数(初期)」の欄に示す。
【0090】
続いて、第二面を、スチールウール#0000で、98.1kPaの圧力をかけながら速度6000mm/minの条件で1万回往復摩擦してから、再び第二面の平均動摩擦係数を測定した。その結果を、表の「動摩擦係数(擦過後)」の欄に示す。
【0091】
(2-7)水接触角測定
保護フィルム1の第二面の水との接触角を測定した。その結果を、表の「(初期)水接触角」の欄に示す。
【0092】
続いて、第二面を、スチールウール#0000で、98.1kPaの圧力をかけながら1万回往復摩擦してから、再び第二面の水との接触角を測定した。その結果を、表の「水接触角(擦過後)」の欄に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
【表5】
【符号の説明】
【0098】
1 フロントガラス用保護フィルム
11 第一面
12 第二面
2 保護層
21 第一部分
22 第二部分
23 第三部分
3 基材層
4 粘着層
5 易接着層
図1