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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】光硬化性組成物および液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/38 20060101AFI20221223BHJP
   C08G 18/58 20060101ALI20221223BHJP
   C08G 59/66 20060101ALI20221223BHJP
   C08G 59/68 20060101ALI20221223BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
C08G18/38 076
C08G18/58 010
C08G59/66
C08G59/68
G02F1/1333
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018209020
(22)【出願日】2018-11-06
(65)【公開番号】P2020075973
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】川島 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】松野 行壮
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/089100(WO,A1)
【文献】特開2018-161832(JP,A)
【文献】David Perrot, et al.,UV-Curable Thio-Ether-Urethane Network with Tunable Properties,JOURNAL OF POLYMER SCIENCE, PART A: POLYMER CHEMISTRY,2016年,Volume 54, Issue 19,p.3119-3126,https://doi.org/10.1002/pola.28196
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00- 18/87
C08G 59/00- 59/72
G02F 1/00- 1/39
CAPlus/Registry(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性組成物であって、
(A)成分:エポキシ化合物と、(B)成分:アクリルエステル化合物と、(C)成分:イソシアネート化合物と、(D)成分:光塩基発生剤と、(E)成分:チオール基を有する化合物と、を含み、
前記(A)成分は、1分子中にエポキシ基を2個以上有し、
前記(B)成分は、1分子中にアクリロイル基を2個以上有し、
前記(C)成分は、1分子中にイソシアネート基を2個以上有し、
前記(E)成分は、1分子中にチオール基を2個以上有し、
前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分および前記(D)成分の合計の質量と前記(E)成分の質量との比は、
((A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分):(E)成分=74:26~20:80であり、
前記(C)成分は、主鎖に脂肪族構造および芳香族構造のうちの1以上を有するイソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含み、
該光硬化性組成物は、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分と前記(D)成分と前記(E)成分との合計を100質量部としたとき、前記(C)成分を3質量部以上20質量部以下の範囲で含む
光硬化性組成物。
【請求項2】
前記(B)成分は、エステルの側鎖に脂肪族構造および芳香族構造のうちの1以上を有するアクリルエステル化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含み、
該光硬化性組成物は、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分と前記(D)成分と前記(E)成分との合計を100質量部としたとき、前記(B)成分を3質量部以上20質量部以下の範囲で含む、
請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
前記(D)成分は、キサントン骨格およびケトプロフェン骨格のいずれかを有するカルボン酸塩、ボレートアニオンを含む塩、第4級アンモニウム塩、および、カルバメート化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の光硬化性組成物の硬化物を備える、液晶表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物およびその硬化物を備える液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置の構成部材を貼り合わせ、液晶表示装置に映し出される画像の視認性を向上させる目的で、光学的に透明な接着剤が使用されている。この透明な接着剤は、主に、光の照射により液状から固体へと硬化する光硬化性組成物である。光硬化性組成物の中でも、光による分解で発生するラジカル種を反応開始剤とする光ラジカル重合系組成物が、広く利用されている。
【0003】
しかしながら、光ラジカル重合系組成物は、硬化物の収縮が大きい。さらに、光ラジカル重合系組成物は、空気中の酸素により硬化反応を開始させる活性種であるラジカルが捕捉されて、重合反応が阻害され得る。重合反応が阻害されると、硬化不良を引き起こすおそれがあるため、硬化反応の際に酸素を遮断する措置が必要となる。
【0004】
一方、酸素により重合反応が阻害されない光硬化材料系として、光カチオン重合系組成物の開発も、広く行われている。しかしながら、光カチオン重合系組成物の重合反応開始剤は、光の照射により強酸が発生するため、その強酸による硬化物およびその周辺部材の腐食および黄変が問題となる。さらに、光カチオン重合系組成物は、酸素による重合反応の阻害はないが、水分による阻害があるため、水分を遮断する措置が必要となる。
【0005】
このような背景から、酸素や水分による重合反応の阻害がなく、硬化物の収縮が小さく、かつ反応開始剤が光の照射で生ずる物質が腐食または黄変等の問題を引き起こさない塩基である、光塩基発生剤を反応開始剤として使用する光アニオン重合系組成物が注目を集めている。
【0006】
例えば、光塩基発生剤を含み、光等の活性エネルギー線の照射により、室温または低い加熱温度で速やかに硬化可能とし、かつ貯蔵安定性に優れる、エポキシ樹脂を主成分とする光硬化性組成物が開示されている(特許文献1参照)。さらに、光塩基発生剤を含み、光照射後に加熱硬化をする二段階硬化型の組成物であって、低温硬化性、保存安定性および接着強さを向上させたエポキシ樹脂を主成分として含む光硬化性組成物が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2013/089100号
【文献】特開2017-88825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の光硬化性組成物は、光照射後に室温または低い加熱温度、具体的には90℃で硬化させる。しかしながら、この光硬化性組成物を室温で硬化させる場合には、多くの量の光塩基発生剤の添加を必要としている。具体的には組成物中のエポキシ樹脂100質量部に対して約4質量部程度の光塩基発生剤を添加する必要があるとされており、コスト面で問題がある。一方、該光硬化性組成物を90℃で硬化させる場合は、熱に弱い部材には使用できず、光硬化性組成物の利用可能な用途が限られるという問題がある。また、特許文献1の光硬化性組成物の保管安定性については、室温で30日以上ゲル化しない事を基準として判定されている。従って、その具体的な粘度変化率について不明であるため、実際に光硬化性組成物が適用される場合を考慮した実用上の保管安定性は低い可能性が高いという問題もある。
【0009】
特許文献2の光硬化性組成物についても、前述と同様に、硬化させるためには多くの量の光塩基発生剤の添加を必要としており、かつ光照射後の硬化に100℃の加熱を要するという問題がある。さらに、光硬化性組成物の保管安定性については、-20℃雰囲気下で3ヶ月以上において粘度が初期粘度の120%を上回っていない事を評価の基準としている。しかしながら、このような評価の基準は、そもそも120%の粘度増加は大きく、光硬化性組成物が好適に適用できなくなっている場合もあり得るため、実用上の保管安定性は不確実である。
【0010】
このように、従来の光塩基発生剤を含む光硬化性組成物は、実際に適用される場合を考慮し、実用上好適と考えられる硬化反応性および保管安定性を有するものではない。
【0011】
本発明は、優れた硬化反応性および高い保管安定性を有する光硬化性組成物、ならびにその硬化物を備える優れた光学特性を有する液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(A)成分:エポキシ化合物と(B)成分:アクリルエステル化合物と(C)成分:イソシアネート化合物と(D)成分:光塩基発生剤と(E)成分:チオール基を有する化合物とを含む光硬化性組成物において、(A)成分~(D)成分の質量の合計と(E)成分の質量との比が特定の範囲内になるように調整し、(E)成分に対する(A)成分の反応性を補うために、(A)成分とは反応性の異なる(B)成分および(C)成分の添加量を任意に適宜選択することで、(D)成分の添加量を減ずることができることが分かった。そして、かかる光硬化性組成物によると、保管安定性が向上すると共に、優れた硬化反応性を発揮することが分かった。
【0013】
本発明の第1の要旨によれば、硬化性組成物であって、
(A)成分:エポキシ化合物と、(B)成分:アクリルエステル化合物と、(C)成分:イソシアネート化合物と、(D)成分:光塩基発生剤と、(E)成分:チオール基を有する化合物と、を含み、
前記(A)成分は、1分子中にエポキシ基を2個以上有し、
前記(B)成分は、1分子中にアクリロイル基を2個以上有し、
前記(C)成分は、1分子中にイソシアネート基を2個以上有し、
前記(E)成分は、1分子中にチオール基を2個以上有し、
前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分および前記(D)成分の合計の質量と前記(E)成分の質量との比は、
((A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分):(E)成分=74:26~20:80である、
光硬化性組成物が提供される。
【0014】
本発明の第1の要旨の1つの態様によれば、前記(B)成分は、エステルの側鎖に脂肪族構造および芳香族構造のうちの1以上を有するアクリルエステル化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含み、
該光硬化性組成物は、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分と前記(D)成分と前記(E)成分との合計を100質量部としたとき、前記(B)成分を3質量部以上20質量部以下の範囲で含み得る。
【0015】
本発明の第1の要旨の上記態様の1つによれば、前記(C)成分は、主鎖に脂肪族構造および芳香族構造のうちの1以上を有するイソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含み、
該光硬化性組成物は、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分と前記(D)成分と前記(E)成分との合計を100質量部としたとき、前記(C)成分を3質量部以上20質量部以下の範囲で含み得る。
【0016】
本発明の第1の要旨の上記態様の1つによれば、前記(D)成分は、キサントン骨格およびケトプロフェン骨格のいずれかを有するカルボン酸塩、ボレートアニオンを含む塩、第4級アンモニウム塩、ならびに、カルバメート化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。
【0017】
本発明の第2の要旨によれば、本発明の第1の要旨の光硬化性組成物の硬化物を備える、液晶表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、優れた硬化反応性および高い保管安定性を有する光硬化性組成物、およびその硬化物を備える優れた光学特性を有する液晶表示装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の1つの実施形態における液晶表示装置の概略断面図である。
図2】本発明の実施例で用いたテストピースの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る光硬化性組成物について詳細に説明する。
【0022】
<光硬化性組成物>
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、(A)成分:エポキシ化合物と、(B)成分:アクリルエステル化合物と、(C)成分:イソシアネート化合物と、(D)成分:光塩基発生剤と、(E)成分:チオール基を有する化合物と、を含む。以下、各成分について詳細に説明する。
【0023】
[(A)成分:エポキシ化合物]
(A)成分のエポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物であれば、特に限定されない。(A)成分のエポキシ化合物は、例えば、1分子中にエポキシ基を2個以上5個以下、特に2個以上4個以下、より特に2個以上3個以下有する。
【0024】
さらに、(A)成分のエポキシ化合物は、主鎖に脂肪族構造および芳香族構造のうちの1以上を有するエポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。(A)成分の化合物は、特に主鎖に脂肪族構造を有し、より特に主鎖に脂環式構造を有する。
【0025】
本開示において、「脂肪族構造」とは、炭素間結合を有し、直鎖構造、分枝構造または脂環式構造を形成しているものをいい、芳香族構造を取らないものをいう。本開示において、「芳香族構造」とは、炭素間結合を有し、かつsp2混成軌道を有し、環状の不飽和有機化合物を形成している構造をいい、多環芳香族構造および複素芳香族構造も含む。本開示において、「主鎖」とは、最も多く連続している炭素鎖を意味し、エポキシ化合物、アクリルエステル化合物およびイソシアネート化合物の場合、該主鎖は、エポキシ構造、エステル構造およびイソシアネート構造をそれぞれ有するものを意味する。本開示において、「側鎖」とは、主鎖から枝分かれしている炭素鎖の部分をいう。さらに、本開示において、「炭素間結合」および「炭素鎖」との文言は、場合によっては、酸素原子または窒素原子等のヘテロ原子が間に含まれていてもよい。
【0026】
(A)成分のエポキシ化合物としては、限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂および水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール系エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、アントラセン環骨格含有エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、芳香族構造および/または脂環式構造を有するブロム含有エポキシ樹脂、骨格に脂環式構造を有する脂肪族エポキシ樹脂、脂環式構造を有する脂肪族ポリエーテル系エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート等を用いることができる。あるいは、これらの樹脂の2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
特に、(A)成分のエポキシ化合物として、例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエンジグリシジルエーテル等の脂環式構造を有するエポキシ樹脂を用いることができる。
【0028】
(A)成分のエポキシ化合物のエポキシ当量は、例えば、90(g/eq)以上240(g/eq)以下、特に110(g/eq)以上220(g/eq)以下、より特に130(g/eq)以上190(g/eq)以下、さらに特に130(g/eq)以上170(g/eq)以下である。本開示において、エポキシ当量の測定は、JIS K-7236に記載の方法に従い、測定するものとする。
【0029】
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、全体((A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分+(E)成分)を100質量部としたとき、(A)成分を、特に10質量部以上70質量部以下、より特に12質量部以上65.7質量部以下、さらに特に15質量部以上65.7質量部以下の範囲で含む。(A)成分を10質量部程度以上で含むことによって、光硬化性組成物の適切な硬化が可能となる。(A)成分を70質量部程度以下で含むことによって、後述する(B)成分等の他の成分を適切な量で含むことが可能となり、光硬化性組成物が優れた硬化反応性および高い保管安定性を発揮し得る。
【0030】
[(B)成分:アクリルエステル化合物]
(B)成分のアクリルエステル化合物は、1分子中にアクリロイル基を2個以上有する化合物であれば、特に限定されない。(B)成分のアクリルエステル化合物は、例えば、1分子中にアクリロイル基を2個以上6個以下、2個以上4個以下、2個以上3個以下有する。
【0031】
さらに、(B)成分のアクリルエステル化合物は、エステルの側鎖に脂肪族構造および芳香族構造のうちの1以上を有するアクリルエステル化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。(B)成分の化合物は、特に、エステルの側鎖に脂肪族構造を有し得る。
【0032】
(B)成分のアクリルエステル化合物としては、限定されないが、例えば、脂肪族エステル構造であるエチレングリコールジアクリレート、プロパンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、脂環式構造をエステルの側鎖とするトリシクロデカンジメタノールジアクリレート、芳香族構造をエステル側鎖とするエトキシ化ビスフェノールAジアクリレート等を用いることができる。あるいは、これらのアクリルエステル化合物の2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、全体((A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分+(E)成分)を100質量部としたとき、(B)成分を、特に3質量部以上25質量部未満、より特に3質量部以上20質量部以下、さらに特に3質量部以上15質量部以下、よりさらに特に3質量部以上10質量部以下、またさらに特に5質量部以上10質量部以下の範囲で含む。(B)成分を3質量部以上で含むことによって、光硬化性組成物の光照射時において十分に反応することができ、確実な硬化特性を示す。一方、反応性が高い(B)成分を過剰に含んでしまうと、光硬化性組成物の粘度増加を引き起こす可能性がある。そのため、(B)成分を25質量部未満、特に20質量部以下で含むことによって、粘度増加に伴う光硬化性組成物の保管安定性の低下を、確実に防ぐことができる。
【0034】
[(C)成分:イソシアネート化合物]
(C)成分のイソシアネート化合物は、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物であれば、特に限定されない。(C)成分のイソシアネート化合物は、例えば、1分子中にイソシアネート基を2個以上6個以下、2個以上4個以下、2個以上3個以下有する。
【0035】
さらに、(C)成分のイソシアネート化合物は、主鎖に脂肪族構造および芳香族構造のうちの1以上を有するイソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。(C)成分の化合物は、特に、主鎖に脂肪族構造を有し得る。
【0036】
(C)成分のイソシアネート化合物としては、限定されないが、例えば、主鎖に脂肪族構造を有するヘキサメチレンジイソシアネート、主鎖に脂環式構造を有するイソホロンジイソシアネート、芳香族構造を有するトリレンジイソシアネート等を用いることができる。あるいは、これらのイソシアネート化合物の2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、全体((A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分+(E)成分)を100質量部としたとき、(C)成分を、特に3質量部以上25質量部未満、より特に3質量部以上20質量部以下、さらに特に3質量部以上15質量部以下、よりさらに特に3質量部以上10質量部以下、またさらに特に5質量部以上10質量部以下の範囲で含む。(C)成分を3質量部以上で含むことによって、光硬化性組成物の光照射時において十分に反応することができ、確実な硬化特性を示す。一方、反応性が高い(C)成分を過剰に含んでしまうと、光硬化性組成物の粘度増加を引き起こす可能性がある。そのため、(C)成分を25質量部未満、特に20質量部以下で含むことによって、粘度増加に伴う光硬化性組成物の保管安定性の低下を、確実に防ぐことができる。
【0038】
[(D)成分:光塩基発生剤]
(D)成分の光塩基発生剤は、光照射、例えば紫外線照射により分解し、塩基性化合物を発生させる化合物であれば、特に限定されない。
【0039】
(D)成分の光塩基発生剤は、キサントン骨格およびケトプロフェン骨格のいずれかを有するカルボン酸塩、ボレートアニオンを含む塩、第4級アンモニウム塩、および、カルバメート化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。例えば、(D)成分の光塩基発生剤として、キサントン骨格およびケトプロフェン骨格のいずれかを有するカルボン酸塩ならびにボレートアニオンを含む塩のうちの1以上を用いる場合、カウンターカチオンとして含まれるアミジン、グアニジン、ホスファゼン塩基等の強塩基を発生させることができる。強塩基の発生により、後述する(E)成分のチオール化合物から水素が引き抜かれ、(A)成分のエポキシ化合物等との反応が速やかに進行し、その結果、光硬化性組成物が優れた反応効率を備えることになり、より硬化特性に優れる。
【0040】
(D)成分の光塩基発生剤の中で、特に強塩基を発生させ反応性に優れる、(2―(9-オキソサンテン-2-イル)プロピオン酸1,5,7-トリアザビシクロ[4,4,0]デカ-5-エン))、2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、1,2-ジシクロヘキシルー4,4,5,5-テトラメチルジグアジウムn-ブチルトリフェニルボレート、1,2-ジソプロピル-3-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]グアニジウム2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピネートを用いることができる。
【0041】
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、全体((A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分+(E)成分)を100質量部としたとき、(D)成分を、特に0.1質量部以上2質量部未満、より特に0.2質量部以上1質量部以下、さらに特に0.2質量部以上0.5質量部以下、もしくは、よりさらに特に0.2質量部以上0.3質量部以下の範囲、または、さらに特に約0.3質量部程度で含む。(D)成分を0.1質量部より少ない量で含む場合、光照射により発生する塩基の量が少なくなってしまい、光硬化性組成物を硬化させるのに不十分となってしまう可能性がある。一方、(D)成分を2質量部より多い量で含む場合、光硬化性組成物の中に残存する遊離塩基量が多くなり、光硬化性組成物の保管安定性が損なわれてしまう可能性がある。このように、本発明の実施形態に係る光硬化性組成物では、光塩基発生剤の添加が比較的少量でよく、コスト面に関しても利点を有する。
【0042】
[(E)成分:チオール基を有する化合物]
(E)成分のチオール基を有する化合物は、1分子中にチオール基を2個以上有する化合物であれば、特に限定されない。(E)成分のチオール基を有する化合物は、例えば、1分子中にチオール基を2個以上6個以下、3個以上6個以下、3個以上4個以下有する。
【0043】
さらに、(E)成分のチオール基を有する化合物は、特に、分子内に酸成分であるチオグリコール酸構造を含まない化合物である。より特に、(E)成分の化合物は、チオール基が2級チオールの構造を有する。
【0044】
(E)成分のチオール基を有する化合物としては、限定されないが、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5-トリス(2-(3-スルファニルブタノイルオキシ)エチル)-1,3,5-トリアジナンー2,4,6―トリオン等を用いることができる。これらのうち、特に、反応性に優れたペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタンを用いることができる。あるいは、これらのチオール基を有する化合物の2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、全体((A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分+(E)成分)を100質量部としたとき、(E)成分を、26質量部以上80質量部未満、特に28質量部以上79質量部以下、より特に28質量部以上78質量部以下、さらに特に28質量部以上75質量部以下、よりさらに特に28質量部以上71質量部以下、またより特に45.7質量部以上54.7質量部以下の範囲で含む。すなわち、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の合計の質量と(E)成分の質量との比は、((A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分):(E)成分=74:26~20:80、特に72:28~21:79、より特に72:28~22:78、さらに特に72:28~25:75、よりさらに特に72:28~29:71、またより特に54.3:45.7~45.3:54.7である。光硬化性組成物において、かかる質量比が、74:26~20:80の範囲を満たすことによって、優れた硬化反応性および高い保管安定性を両立することができる。該質量比が、74:26~20:80の範囲から外れる場合、該4つの成分および(E)成分のいずれかが過剰となり、その結果、光照射による硬化反応時に未反応のいずれかの成分が残留してしまうため、光硬化性組成物の硬化不良を引き起こし得る。
【0046】
特に、本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、((A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分):(E)成分=54.3:45.7~45.3:54.7であり、かつ全体((A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分+(E)成分)を100質量部としたとき、(B)成分を5質量部以上10質量部以下の範囲で含み、(C)成分を5質量部以上10質量部以下の範囲で含み、(D)成分を0.2質量部以上0.5質量部以下の範囲で含む場合、極めて優れた硬化反応性と高い保管安定性を両立することができる。
【0047】
[その他の成分]
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および(E)成分以外にも、遅延硬化性と保管安定性を損なわない範囲において、各種の他の樹脂、添加剤等の当業者に公知の任意の成分が配合されていてもよい。
【0048】
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および(E)成分を前述した質量比の範囲内になるように秤量し、さらに必要に応じてその他の成分も添加して、各成分を十分に混合することによって調製することができる。混合方法は、特に限定されない。例えば、当業者に公知の混合装置等を用いて混合すればよい。
【0049】
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、遅延硬化性を有しており、光照射直後にすぐに硬化することはない。そのため、例えば紫外線照射後にも、十分な作業時間を確保できる。従って、例えば、遅延硬化型接着剤として使用可能である。
【0050】
<液晶表示装置>
本発明の実施形態に係る液晶表示装置は、前述の実施形態における光硬化性組成物の硬化物を備える。
【0051】
図1は、本発明の1つの実施形態における液晶表示装置の概略断面図である。図1に示すように、液晶表示装置10は、前述の実施形態における光硬化性組成物の硬化物1と、カバーパネル2と、筐体3と、ディスプレイパネル4と、回路基板5とからなる。該光硬化性組成物は、前述したとおり十分な作業時間を確保可能な遅延硬化型接着剤として使用することができる。そのため、例えば、液晶表示装置10は、筐体3の内部に取り付けられたディスプレイパネル4の回路基板5が取り付けられている面とは逆側の面上に光硬化性組成物を充填し、カバーパネル2を貼り付け、その後適切に光照射(例えば紫外線照射)を行うことによって、製造することができる。光硬化性組成物の硬化物1は透明性が高いため、このように製造した液晶表示装置10は、視認性が高い。
【0052】
加えて、前述の実施形態に係る光硬化性組成物は、光硬化反応の際に空気中の酸素による反応阻害がなく、光(例えば紫外線)照射された箇所から離れた箇所まで硬化反応が進行する。そのため、例えば図1に示す液晶表示装置10に対して、光が照射されない箇所まで硬化させることができる。
【実施例
【0053】
以下、本発明について実施例を用いてより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。また、特に明記しない限り、実施例における部および%は質量基準である。
【0054】
<光硬化性組成物の調製およびテストピースの作製>
(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および(E)成分の配合量を変化させた実施例1~実施例5および比較例1~比較例3の光硬化性組成物について、各々の光硬化性組成物の硬化反応性(硬化性)、保管安定性および光学特性を評価し、判定を行った。各実施例および各比較例における各々の成分の配合量は、判定結果と共に、後の表1および表2にまとめて示す。
【0055】
各実施例および各比較例において、(A)成分として脂環式エポキシ樹脂であるジシクロペンタジエンジグリシジルエーテル(ADEKA社製、EP-4088S、エポキシ当量170(g/eq))を、(B)成分としてトリメチロールプロパントリアクリレート(東亞合成社製、アロニックスM-309)を、(C)成分としてヘキサメチレンジイソシアネート(旭化成社製、デュラネートD201)を、(D)成分として1,2-ジソプロピル-3-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]グアニジウム2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピネート(富士フイルム和光純薬社製、WPBG-266)を、(E)成分としてペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(昭和電工社製、PE-1)を用いた。
【0056】
まず、各実施例および各比較例において、後の表1および表2に示す配合量(g)で、(A)成分と(B)成分と(C)成分とを混合し、その中に粉末状の(D)成分を加えた。かかる混合物を、自転・公転脱泡撹拌機で十分に混合して、溶解させた。次いで、混合物に(E)成分を加えて、再度同攪拌機で十分に混合して、各光硬化性組成物を調製した。なお、後の表2に示すとおり、比較例1および比較例2では、(B)成分と(C)成分は、含ませなかった。
【0057】
調製した各光硬化性組成物について、後述する硬化性および光学特性を評価するために、テストピースを作製した。図2は、本発明の実施例で用いたテストピースの模式断面図である。図2に示すように、テストピース20は、光硬化性組成物の硬化物1とガラス6およびガラス6’とからなる。テストピース20は、次のように作製した。まず、上述のように調製した各実施例および各比較例の光硬化性組成物を、ガラス6の上に塗布し、ガラス6’を貼り合わせた。その後、貼り合わせた構造物に対して、光照射を行った。光照射は、254nmの紫外線LED照射機を用いて、積算光量3000mJ/cmの紫外線を照射した。このようにして、テストピース20を作製した。
【0058】
<評価>
(硬化性)
各実施例および各比較例の光硬化性組成物の硬化性に関する評価を行うため、上述したテストピース20の作製時での光照射後、該照射後からさらに30分間常温放置後、該照射後からさらに1時間常温放置後、および、必要に応じてさらに80℃で20分間加熱後において、光硬化性組成物が硬化しているか否かを判定した。後の表1および表2に、各時間放置後(または加熱後)の判定結果を、「硬化」または「未硬化」で示す。「硬化」は、貼り合わせたガラス6とガラス6’とが指で押しても動かない状態を指す。「未硬化」は、貼り合わせたガラス6とガラス6’とが指で押して動く状態を指す。判定は、作製時での光照射後常温で放置した後に硬化したものは「〇」とし、未硬化のものは「×」とした。ただし、作製時での光照射直後にすでに硬化しているものは、硬化反応が速すぎるため、実用上使用が困難であるため「×」とした。各判定結果は、後の表1および表2にまとめて示す。
【0059】
(保管安定性)
各実施例および各比較例の光硬化性組成物の保管安定性に関する評価を行うため、上述したように調製した各光硬化性組成物を、遮光性の容器に移し、冷蔵温度下(5℃)で3日間保管した後の粘度変化率(%)を測定した。光硬化性組成物の粘度の測定には、粘度計(東機産業社製、R-215)を使用した。保管安定性の判定は、粘度変化率が10%未満のものは「〇」とし、10%のものは「△」とし、11%以上のもの、または流動性がなくなり測定不能なもの(例えばゲル化したもの)は「×」とした。各判定結果は、後の表1および表2にまとめて示す。
【0060】
(光学特性)
各実施例および各比較例の光硬化性組成物の光学特性に関する評価を行うため、上述したテストピース20に対して、自記分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製、U-4000)を用いて、全光線透過率(%)を測定した。判定は、全光線透過率が95%以上のものを「〇」とし、90%以上95%未満のものを「△」とし、90%未満のものを「×」とした。各判定結果は、後の表1および表2にまとめて示す。
【0061】
(総合判定)
各実施例および各比較例の光硬化性組成物の総合判定として、硬化性、保管安定性および光学特性の各項目において、全て「〇」の判定を示す場合は総合判定を「◎」とし、各項目のいずれかに「×」の判定がある場合は総合判定を「×」とし、それ以外の場合は総合判定を「〇」とした。
【0062】
【表1】
【表2】
【0063】
上記表1および表2に示すように、硬化性の評価について、実施例1~実施例5ではいずれも「〇」の判定であるのに対して、(B)成分と(C)成分を含まない比較例1および比較例2ではいずれも「×」の判定であった。これは、比較例1では実施例1~実施例5と同じ量の(D)成分を含んでいるが、(A)成分と(E)成分のみでは反応性が低いため、光硬化性組成物を硬化させるには十分ではないことを示している。比較例2では、(A)成分と(E)成分のみを硬化させるには実施例1~実施例5の10倍量の(D)成分が必要となると考えられるが、作製時での光照射直後に硬化してしまい、遅延硬化性が得られないことを示している。さらに、比較例2では、(D)成分の配合量が多いため、保管安定性が悪化していることが明らかとなった。比較例3では、(D)成分の配合量は実施例1~実施例5と同じであるが、反応性が高い(B)成分および(C)成分が過剰量含まれているため、作製時での光照射直後に硬化するだけでなく、保管安定性も著しく悪化していることが明らかとなった。
【0064】
上記各実施例および各比較例の結果を考慮すると、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の合計の質量と、(E)成分の質量との比が、72((A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分):28((E)成分)~29((A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分):71((E)成分)の範囲内である場合に、確実に硬化性、保管反応性および光学特性に優れた光硬化性組成物を得ることができることが分かる。特に、全体((A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分+(E)成分)を100質量部としたとき、(B)成分が3質量部以上10質量部以下であり、(C)成分が3質量部以上10質量部以下であり、(D)成分の質量部が約0.3質量部程度である場合、より確実に硬化性、保管反応性および光学特性に優れた光硬化性組成物を得ることができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の光硬化性組成物は、優れた硬化反応性および高い保管安定性を有する。さらに、該光硬化性組成物は、液晶表示装置を製造する際のカバーパネルとディスプレイパネルとを貼り合わせるための接着剤として利用することができる。そのような光硬化性組成物の硬化物を備えた液晶表示装置は、光学特性、具体的には視認性を向上させることができる。あるいは、本発明の光硬化性組成物は、遅延硬化性を有しており、かつ紫外線等光の照射により常温で硬化するため、耐熱性が低く、複雑な形状により組み立て後の光照射が困難なモジュール等の組み立て用接着剤としても使用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 光硬化性組成物の硬化物
2 カバーパネル
3 筐体
4 ディスプレイパネル
5 回路基板
6、6’ ガラス
10 液晶表示装置
20 テストピース
図1
図2