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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】管理装置、蓄電システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/02 20160101AFI20221223BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20221223BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
H02J7/02 H
H01M10/48 P
H01M10/44 P
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020505679
(86)(22)【出願日】2019-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2019004525
(87)【国際公開番号】W WO2019176395
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2018045899
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【弁理士】
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 綾佑
(72)【発明者】
【氏名】西川 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】飯田 崇
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-102592(JP,A)
【文献】特開2015-177615(JP,A)
【文献】特開2006-246646(JP,A)
【文献】特開2009-005507(JP,A)
【文献】特表2013-529455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/02
H01M 10/48
H01M 10/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された複数のセルのそれぞれの電圧を検出する電圧検出部と、
前記複数のセルに、それぞれ並列に接続される複数の放電回路と、
前記電圧検出部により検出された前記複数のセルの電圧をもとに、前記複数の放電回路の放電時間を制御することにより、前記複数のセルの電圧/容量を目標値に揃えるように制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記複数のセルの電圧の所定期間における変化量が大きいほど、前記目標値を高く設定することを特徴とする管理装置。
【請求項2】
前記変化量がゼロのとき、前記制御部は、前記複数のセルの電圧の内、最も電圧が低いセルの電圧を前記目標値に設定することを特徴とする請求項1に記載の管理装置。
【請求項3】
前記変化量がゼロのとき、前記制御部は、前記複数のセルの充電可能容量の内、最も充電可能容量が大きいセルの充電可能容量を前記目標値に設定することを特徴とする請求項1に記載の管理装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記複数のセルの休止期間中に、前記電圧検出部に定期的に前記複数のセルの電圧を検出させ、前回検出した前記複数のセルの電圧と今回検出した前記複数のセルの電圧との変化量を算出し、当該変化量に応じた目標値にもとづき前記複数のセル間の均等化処理を実行することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の管理装置。
【請求項5】
直列接続された複数のセルと、
前記複数のセルを管理する請求項1から4のいずれか1項に記載の管理装置と、
を備えることを特徴とする蓄電システム。
【請求項6】
前記蓄電システムは、車両に搭載され、
前記車両の駐車時において前記管理装置は定期的に起動し、前記電圧検出部に前記複数のセルの電圧を検出させることを特徴とする請求項5に記載の蓄電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直列接続された複数のセルの状態を管理する管理装置、蓄電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)が普及してきている。これらの車両にはキーデバイスとして二次電池が搭載される。車載用の二次電池としては主に、ニッケル水素電池およびリチウムイオン電池が普及している。今後、エネルギー密度が高いリチウムイオン電池の普及が加速すると予想される。
【0003】
一般的にリチウムイオン電池では、電力効率の維持および安全性担保の観点から、直列接続された複数のセル間において電圧を均等化する均等化処理が実行される。直列接続された複数のセル間において、各セルの自己放電量がばらつくと実際に使用可能な容量が減少する。即ち放電により、あるセルの容量が下限に到達すると他のセルの容量が下限に到達していなくても放電終了となる。また充電により、あるセルの容量が上限に到達すると他のセルの容量が上限に到達していなくても充電が終了となる。いずれの場合も、使用可能な容量を十分に活用できないセルが発生する。セルの自己放電量のばらつきは、製造ばらつきや環境条件により発生する。例えば、熱源に近い位置のセルほど劣化が進行しやすくなる。
【0004】
セル間の均等化処理はパッシブバランス方式が主流である。パッシブバランス方式では、直列接続された複数のセルの内、最も電圧が低いセルの電圧を目標値として、他のセルを放電させる。
【0005】
充放電終了後のセルの計測電圧には、分極による過電圧成分が含まれ、時間経過とともに過電圧成分を含まないOCV(Open Circuit Voltage)に収束していく。過電圧成分は負極材料、SOH(State Of Health)、温度などに依存し、セルごとにばらつきがある。従って、過電圧成分を含む状態の計測電圧をもとにセルバランシングを実行して複数のセル間の計測電圧を揃えても、複数のセル間のOCV(Open Circuit Voltage)が揃っていない可能性がある。そこで、充放電終了時から所定時間経過後に、セルバランシングを開始することが一般的である。
【0006】
なお、分極が解消していない状態においてセルの計測電圧からセルのOCVを推定する方法も存在する(例えば、特許文献1参照)。しかしながら推定したOCVと実際のOCVに大きな誤差が発生する場合があり、その場合、セルバランシングの精度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-181991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、車載電池の大容量化が進み、普通充電器から充電する際の充電時間が長くなる傾向にある。充電時間が長くなると電池の休止期間がその分、短くなる。また分極の解消時間が長い負極材料の採用も検討されている。上述のようにセルバランシングは、分極が解消した状態で休止している期間に実行することが好ましいが、その期間が少なくなる傾向にある。
【0009】
本発明はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、十分な休止時間が取れない複数のセル間においても着実に均等化処理を実行することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の管理装置は、直列接続された複数のセルのそれぞれの電圧を検出する電圧検出部と、前記複数のセルに、それぞれ並列に接続される複数の放電回路と、前記電圧検出部により検出された前記複数のセルの電圧をもとに、前記複数の放電回路の放電時間を制御することにより、前記複数のセルの電圧/容量(電圧または容量)を目標値に揃えるように制御する制御部と、を備える。前記制御部は、前記複数のセルの電圧の所定期間における変化量が大きいほど、前記目標値を高く設定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、十分な休止時間が取れない複数のセル間においても着実に均等化処理を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係る蓄電システムを説明するための図である。
図2】均等化処理によりセル間のばらつきが拡大する例を示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係る均等化処理を説明するためのフローチャートである。
図4】充電期間中および休止期間中の、計測電圧と過電圧成分を含まないOCVの推移例を示す図である。
図5】本発明の実施の形態に係る均等化処理により、セル間のばらつきが減少していく例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る蓄電システム1を説明するための図である。図1に示す例は、本実施の形態に係る蓄電システム1が、車両の駆動用電池として車両に搭載される例である。当該車両として、商用電力系統(以下、単に系統5という)から充電可能なEV/PHEVを想定する。
【0014】
蓄電システム1は、第1リレーRY1及びインバータ2を介してモータ3に接続される。インバータ2は力行時、蓄電システム1から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ3に供給する。回生時、モータ3から供給される交流電力を直流電力に変換して蓄電システム1に供給する。モータ3は三相交流モータであり、力行時、インバータ2から供給される交流電力に応じて回転する。回生時、減速による回転エネルギーを交流電力に変換してインバータ2に供給する。
【0015】
第1リレーRY1は蓄電システム1の蓄電モジュール20とインバータ2を繋ぐ配線間に挿入される。蓄電システム1の管理装置10は走行時、第1リレーRY1をオン状態(閉状態)に制御し、蓄電モジュール20と車両の動力系を電気的に接続する。管理装置10は非走行時、原則として第1リレーRY1をオフ状態(開状態)に制御し、蓄電モジュール20と車両の動力系を電気的に遮断する。なおリレーの代わりに、半導体スイッチなどの他の種類のスイッチを用いてもよい。
【0016】
蓄電システム1は蓄電モジュール20及び管理装置10を備える。蓄電モジュール20は複数のセルE1-Emが直列接続されて形成される。セルには、リチウムイオン電池セル、ニッケル水素電池セル、鉛電池セル等の二次電池を用いることができる。以下、本明細書ではリチウムイオン電池セル(公称電圧:3.6-3.7V)を使用する例を想定する。セルE1-Emの直列数は、モータ3の駆動電圧に応じて決定される。
【0017】
複数のセルE1-Emと直列にシャント抵抗Rsが接続される。シャント抵抗Rsは電流検出素子として機能する。なおシャント抵抗Rsの代わりにホール素子を用いてもよい。また複数のセルE1-Emの温度を検出するための温度センサT1が設置される。温度センサT1には例えば、サーミスタを使用することができる。
【0018】
管理装置10は放電回路11、電圧計測部12、温度計測部13、電流計測部14及び制御部15を備える。直列接続された複数のセルE1-Emの各ノードと、電圧計測部12との間は複数の電圧線で接続される。電圧計測部12は、隣接する2本の電圧線間の電圧をそれぞれ計測することにより、各セルE1-Emの電圧を計測する。電圧計測部12は、計測した各セルE1-Emの電圧を制御部15に送信する。
【0019】
放電回路11は、複数の放電抵抗R1-Rmと複数の放電スイッチS1-Smを含む。複数の放電抵抗R1-Rmと複数の放電スイッチS1-Smはそれぞれ直列に接続されて、複数のセルE1-Emにそれぞれ並列に接続される。即ち、各放電抵抗R1-Rmと各放電スイッチS1-Smにより構成される各直列回路は、隣接する2本の電圧線間にそれぞれ接続される。放電スイッチS1-Smは例えば、半導体スイッチで構成される。
【0020】
電圧計測部12は制御部15に対して高圧であるため、電圧計測部12と制御部15間は絶縁された状態で、通信線で接続される。電圧計測部12は、汎用のアナログフロントエンドICまたはASIC(Application Specific Integrated Circuit)で構成することができる。電圧計測部12はマルチプレクサ及びA/D変換器を含む。マルチプレクサは、隣接する2本の電圧線間の電圧を上から順番にA/D変換器に出力する。A/D変換器は、マルチプレクサから入力されるアナログ電圧をデジタル値に変換する。
【0021】
温度計測部13は分圧抵抗およびA/D変換器を含む。A/D変換器は、温度センサT1と分圧抵抗により分圧された電圧をデジタル値に変換して制御部15に出力する。制御部15は当該デジタル値をもとに複数のセルE1-Emの温度を推定する。
【0022】
電流計測部14は差動アンプ及びA/D変換器を含む。差動アンプはシャント抵抗Rsの両端電圧を増幅してA/D変換器に出力する。A/D変換器は、差動アンプから入力される電圧をデジタル値に変換して制御部15に出力する。制御部15は当該デジタル値をもとに複数のセルE1-Emに流れる電流を推定する。
【0023】
なお制御部15内にA/D変換器が搭載されており、制御部15にアナログ入力ポートが設置されている場合、温度計測部13及び電流計測部14はアナログ電圧を制御部15に出力し、制御部15内のA/D変換器でデジタル値に変換してもよい。
【0024】
制御部15は、電圧計測部12、温度計測部13及び電流計測部14により計測された複数のセルE1-Emの電圧、温度、及び電流をもとに蓄電モジュール20を管理する。制御部15はマイクロコンピュータ及び不揮発メモリ(例えば、EEPROM、フラッシュメモリ)により構成することができる。
【0025】
制御部15は、複数のセルE1-EmのそれぞれのSOC(State Of Charge)及びSOH(State Of Health)を推定する。SOCは、OCV法または電流積算法により推定できる。OCV法は、電圧計測部12により計測される各セルE1-EmのOCVと、不揮発メモリに保持されるSOC-OCVカーブの特性データをもとにSOCを推定する方法である。電流積算法は、電圧計測部12により計測される各セルE1-Emの充放電開始時のOCVと、電流計測部14により計測される電流の積算値をもとにSOCを推定する方法である。
【0026】
SOHは、初期の満充電容量に対する現在の満充電容量の比率で規定され、数値が低いほど(0%に近いほど)劣化が進行していることを示す。SOHは、完全充放電による容量計測により求めてもよいし、保存劣化とサイクル劣化を合算することにより求めてもよい。保存劣化はSOC、温度、及び保存劣化速度をもとに推定することができる。サイクル劣化は、使用するSOC範囲、温度、電流レート、及びサイクル劣化速度をもとに推定することができる。保存劣化速度およびサイクル劣化速度は、予め実験やシミュレーションにより導出することができる。SOC、温度、SOC範囲、及び電流レートは計測により求めることができる。
【0027】
またSOHは、セルの内部抵抗との相関関係をもとに推定することもできる。内部抵抗は、セルに所定の電流を所定時間流した際に発生する電圧降下を、当該電流値で割ることにより推定することができる。内部抵抗は温度が上がるほど低下する関係にあり、SOHが低下するほど増加する関係にある。セルの劣化は充放電回数が増加するにつれ進行する。またセルの劣化は個体差や使用環境にも依存する。従って使用期間が長くになるにつれ基本的に、複数のセルE1-Emの容量のばらつきが大きくなっていく。
【0028】
制御部15は蓄電モジュール20の管理として、複数のセルE1-Emの少なくとも1つに異常が発生すると、第1リレーRY1及び/又は第2リレーRY2をターンオフさせて複数のセルE1-Emを保護する。
【0029】
また制御部15は蓄電モジュール20の管理として、複数のセルE1-Emの均等化処理を実行する。パッシブバランシングによる均等化処理では、複数のセルE1-Emの内、最も電圧/容量(電圧または容量)が少ないセルに他のセルの電圧/容量を揃える制御が基本となる。制御部15は、最も電圧/容量が小さいセルに、他の複数のセルの電圧/容量を揃えるために、他の複数のセルの各放電時間を決定する。制御部15は、他の複数のセルの現在の電圧/容量と、均等化の目標電圧/目標容量との差分に基づく放電容量と、放電抵抗の抵抗値をもとに各放電回路の放電時間を決定する。なお複数の放電抵抗R1-Rmの抵抗値は、同じ値に設定されている。
【0030】
制御部15は、決定した各放電時間をもとに、他の複数のセルの各放電スイッチのオン/オフを制御する。具体的には制御部15は、放電スイッチS1-Smのオン/オフタイミングを規定する制御信号を電圧計測部12に送信し、電圧計測部12は、受信した制御信号をもとに放電スイッチS1-Smのオン/オフを制御する。放電スイッチがオン状態の放電回路では、並列接続されているセルから放電抵抗に電流が流れ、当該セルの電圧/容量が低下する。
【0031】
均等化処理は、蓄電モジュール20の休止期間中に実行するのが原則である。蓄電モジュール20の充放電中に計測される複数のセルE1-Emの計測電圧(CCV:Closed Circuit Voltage)には、内部抵抗による電圧降下分IRが含まれるため、複数のセルE1-EmのOCVを計測することができない。また充放電終了直後も、分極が解消するまでは、複数のセルE1-Emの計測電圧に分極による過電圧成分が残存する。過電圧成分が残存する状態で均等化処理を実行すると、セル間のばらつきを増大させてしまう場合もある。
【0032】
図2は、均等化処理によりセル間のばらつきが拡大する例を示す図である。図2では単純化のため2つのセルE1、E2の均等化処理の例を示している。図2では、セルE1の計測電圧の方がセルE2の計測電圧より低く、セルE1の過電圧成分IRを除いたOCVがセルE2の過電圧成分IRを除いたOCVより高い状態である。この状態において計測電圧をもとに均等化処理を実行すると、セルE2を放電させることになり、セルE2のOCVを低下させ、両者のOCV差を拡大させることになる。
【0033】
充放電終了後、計測電圧が過電圧成分を含まないOCVに収束するまでの収束時間は、負極材料、SOH、温度などに依存する。例えば黒鉛負極が使用される場合において、セルのBOL (Beginning Of Life)では上記収束時間が約1時間になり、セルのEOL (End Of Life)では上記収束時間が約3時間になる。
【0034】
上述のように車載電池の大容量化に伴い充電時間が長くなってきている。充電中および上記収束時間中に均等化処理を実行しない場合、1回の駐車期間において均等化処理を実行できない可能性がある。そこで本実施の形態では、充放電終了後において計測電圧が大きく他のセルとずれているセルは、過電圧成分を含まないOCVも他のセルとずれているとみなし、計測電圧が過電圧成分を含まないOCVに収束する前から均等化処理を開始する。均等化処理はセルの計測電圧が目標電圧になるように行われ、目標電圧は、計測電圧のうち最も低いセルの計測電圧(計測最小電圧)、あるいは過電圧成分を含まないOCVに収束した際のセルの実質の電圧として推定される推定電圧のうち最も低いセルの推定電圧(推定最小電圧)から得られるセルの最小電圧を均等化基準電圧としてこの均等化基準電圧にマージンを加えて設定される。前記マージンは、所定期間の過電圧成分の変化量の大きさに対応して変化させ、所定期間の過電圧成分の変化量が小さくになるにつれて小さく設定される。そのため、充放電終了時からの時間経過に伴い、計測電圧が過電圧成分を含まないOCVに収束していくにつれて目標電圧は低くなり、均等化処理を実行するセル放電量を増加させると共に、均等化処理を実行する対象セル数を増加させていく。
【0035】
上述のOCVと同様にSOCに基づいて均等化処理を実行することができる。この場合、充放電終了後において検出される検出SOCが大きく他のセルとずれているセルは、SOC誤差成分が大きいとみなし、検出SOCのSOC誤差成分が所定以下に収束する前から均等化処理を開始する。均等化処理はセルの検出SOCが目標SOCになるように行われ、目標SOCは、検出SOCのうち最も低いセルの検出SOC(検出最小SOC)、あるいはSOC誤差成分が所定以下のSOCに収束した際のセルの実質のSOCとして推定される推定SOCのうち最も低いセルの推定SOC(推定最小SOC)から得られるセルの最小SOCを均等化基準SOCとしてこの均等化基準SOCにマージンを加えて設定される。前記マージンは、所定期間のSOC誤差成分の変化量の大きさに対応して変化させ、所定期間のSOC誤差成分の変化量が小さくになるにつれて小さく設定される。そのため、充放電終了時からの時間経過に伴い、検出SOCが所定以下のSOC誤差成分の実質SOCに収束していくにつれて目標SOCは低くなり、均等化処理を実行するセルの放電量を増加させると共に、均等化処理を実行する対象セル数を増加させていく。
【0036】
また、均等化処理はOCVの場合の目標電圧、あるいはSOCの場合の目標SOCの代わりにFCC(Full Charge Capacity、満充電容量)に達するまでの充電可能容量を目標に設定して実行することができる。なお、充電可能容量はFCCから現状の残存容量を引いた容量となる。この場合、SOCやOCVからFCCを推定し、充電可能容量を算出する。均等化処理は、対象の全セルのうち最も充電可能容量の大きいセルの最大充電可能容量C0を均等化基準充電可能容量としてこの均等化基準充電可能容量からマージンを引いて設定される目標充電可能容量を目標に実行される。前記マージンは、所定期間のSOC誤差成分、あるいは過電圧成分の変化量の大きさに対応して変化させ、所定期間のSOC誤差成分、あるいは過電圧成分の変化量が小さくになるにつれて小さく設定される。そのため、充放電終了時からの時間経過に伴い、検出SOCが所定以下のSOC誤差成分の実質SOCに収束していくにつれて、あるいは計測電圧が過電圧成分を含まないOCVに収束していくにつれて目標充電可能容量は大きくなる。換言すると、所定期間のSOC誤差成分、あるいは過電圧成分の変化量が大きいほど目標SOC、あるいは目標電圧の値が高くなるように目標充電可能容量が設定されて均等化処理が実行される。
【0037】
図3は、本発明の実施の形態に係る均等化処理を説明するためのフローチャートであり、均等化処理の目標電圧をセルの最小電圧を基準にした例を示している。走行終了後に運転者により車両の電源がオフ(エンジン車のイグニッションオフに相当する)されると(S10のY)、管理装置10もシャットダウン/スタンバイ状態に移行する。本実施の形態では、管理装置10が定期起動機能を搭載しているものとする。所定時間(例えば、15分)が経過すると(S11のY)、管理装置10は、シャットダウン/スタンバイ状態から起動する(S12)。
【0038】
電圧計測部12は複数のセルE1-Emの各電圧を計測する(S13)。制御部15は、複数のセルE1-Emの内、最大電圧のセルと最小電圧のセルとの差分を算出する(S14)。当該差分は電圧差であってもよいし、SOC差であってもよい。制御部15は、算出した差分と設定値を比較する(S15)。当該設定値は、実験データやシミュレーションデータに基づき設計者により設定される。当該差分が設定値以下の場合(S15のN)、均等化処理の必要がないため、管理装置10はシャットダウン/スタンバイ状態に移行する(S21)。
【0039】
当該差分が設定値を超える場合(S15のY)、制御部15は、前回計測した複数のセルE1-Emの電圧と、今回計測した複数のセルE1-Emの電圧との差分電圧ΔVを算出する。例えば、差分電圧ΔVはセルごとの差分電圧を合算した電圧であってもよい。制御部15は、差分電圧ΔVに応じた信頼度aを導出する(S16)。
【0040】
信頼度aは、差分電圧ΔVと負の相関を持つ係数であり、計測電圧が過電圧成分を含まないOCVの代用としてどれだけ信頼できるかを示す指標である。信頼度aは0~1の範囲に正規化された値で定義され、差分電圧ΔVが0のとき信頼度aは1になる。差分電圧ΔVが、想定される最大値以上のとき信頼度aは0になる。
【0041】
制御部15は均等化の目標電圧値Vgを下記(式1)を用いて算出する(S17)。定数bは、均等化処理の強度を設定するための定数である。定数bが大きいほど、より軽度な均等化処理になる。即ち、均等化の目標電圧値Vgを算出する際の、複数のセルE1-Emの最小電圧値Vminに上乗せされるマージンが大きくなる。定数bは、実験データやシミュレーションデータに基づき設計者により設定される。
【0042】
均等化の目標電圧値Vg=セルの最小電圧値Vmin+(1-信頼度a)×定数b ・・・(式1)
【0043】
制御部15は算出した目標電圧値Vgをもとに、各セルの放電時間を決定する(S18)。制御部15は各セルの放電時間に基づき均等化処理を実行する(S19)。全てのセルE1-Emの電圧が目標電圧値Vgに到達すると(S20のY)、均等化処理を終了し、管理装置10は所定時間の計測をリセットし、シャットダウン/スタンバイ状態に移行する(S22)。全てのセルE1-Emの電圧が目標電圧値Vgに到達しない場合において(S20のN)、所定時間(S11と同一時間)が経過すると(S21のY)、均等化処理を終了し、管理装置10は所定時間の計測をリセットし、シャットダウン/スタンバイ状態に移行する(S22)。以上、ステップS11~ステップS22までの処理が、車両の電源がオン(エンジン車のイグニッションオンに相当する)されない間(S23のN)、繰り返し継続される。
【0044】
なお差分電圧ΔVが0になると信頼度aが1になるため、上記(式1)は均等化の目標電圧値Vg=セルの最小電圧値Vminの関係になる。即ち、一般的な均等化処理と同じ処理になる。
【0045】
図3に示した均等化処理は、充電器4から充電する充電期間中は停止させてもよいし、継続してもよい。充電期間中は差分電圧ΔVが大きくなるため、充電期間中も均等化処理を継続する場合は、軽度な均等化処理が繰り返し実行されることになる。
【0046】
図4は、充電期間中および休止期間中の、計測電圧と過電圧成分を含まないOCVの推移例を示す図である。図4において計測電圧は太実線で、過電圧成分を含まないOCVは太点線で描いている。充電が終了すると、計測電圧は徐々に過電圧成分を含まないOCVに近づいていく。即ち、過電圧成分の影響が徐々に低下していく。その過程で差分電圧ΔVも徐々に小さくなっていく。
【0047】
図5は、本発明の実施の形態に係る均等化処理により、セル間のばらつきが減少していく例を示す図である。図5では単純化のため3つのセルE1-E3の均等化処理の例を示している。1回目(充放電終了直後)の均等化処理では均等化の目標電圧値Vgが、最小電圧のセルE2の電圧に対して、大きなマージンを持った値に設定される。図5に示す例ではセルE1は放電により電圧が低下するが、セルE3は放電の対象にならない。均等化処理の回数を経るにつれて、最小セル電圧に対するマージンが小さくなっていき、放電量および放電の対象となるセルの数が増加していく。N回目の均等化処理では均等化の目標電圧値Vgが、過電圧成分を含まないOCVの値とほぼ同じ値まで近づいている。
【0048】
以上説明したように本実施の形態によれば、複数のセルE1-Emの電圧の所定期間における変化量が大きいほど、均等化の目標値Vgを高く設定する。これにより、計測電圧が過電圧成分を含まないOCVに収束していない状態でも、セルばらつきを縮小させる方向に着実に均等化処理を実行することができる。
【0049】
均等化の目標値Vgはセルの最小電圧値Vminに、信頼度aに基づいて調整されるマージンを加えた値に設定される。信頼度aが低いときはマージンが大きく設定され、図2に示したようなセルばらつきを拡大させる方向への均等化処理を抑制することができる。
【0050】
また信頼度aが低い場合でも軽度な均等化処理は実行される。従って過電圧成分を含まないOCVの状態で休止している期間が短い/無い場合でも、セルばらつきを縮小させることができる。例えば、充電が完了した直後に車両を始動させる場合でも、セルばらつきを縮小させることができる。
【0051】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0052】
上述の実施の形態では上述の均等化処理を主に、充放電をしていない休止期間中に実行する例を説明した。この点、上述したように充電器4から充電期間中にも上述の均等化処理を実行してもよい。その場合、定数bの値を充放電をしていない休止期間中よりも大きく設定してもよい。また車両の走行中にも上述の均等化処理を実行してもよい。その場合、定数bの値をさらに大きく設定してもよい。走行中は力行による放電と回生による充電が不規則に発生するため、セルE1-Emの計測電圧の信頼度がさらに低下する。定数bの値を大きく設定することにより、マージンをさらに大きくすることができる。
【0053】
上述の実施の形態では車載用途の蓄電システム1において上述の均等化処理を使用する例を説明したが、定置型蓄電用途の蓄電システム1においても、上述の均等化処理を使用することができる。またノート型PCやスマートフォンなどの電子機器用途の蓄電システム1においても、上述の均等化処理を使用することができる。
【0054】
なお、実施の形態は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0055】
[項目1]
直列接続された複数のセル(E1-Em)のそれぞれの電圧を検出する電圧検出部(12)と、
前記複数のセル(E1-Em)に、それぞれ並列に接続される複数の放電回路(11)と、
前記電圧検出部(12)により検出された前記複数のセル(E1-Em)の電圧をもとに、前記複数の放電回路(11)の放電時間を制御することにより、前記複数のセル(E1-Em)の電圧/容量を目標値に揃えるように制御する制御部(15)と、を備え、
前記制御部(15)は、前記複数のセル(E1-Em)の電圧の所定期間における変化量が大きいほど、前記目標値を高く設定することを特徴とする管理装置(10)。
これによれば、十分な休止時間が取れない複数のセル(E1-Em)間においても着実に均等化処理を実行することができる。
[項目2]
前記変化量がゼロのとき、前記制御部(15)は、前記複数のセル(E1-Em)の電圧の内、最も電圧が低いセルの電圧を前記目標値に設定することを特徴とする項目1に記載の管理装置(10)。
これによれば、前記変化量がゼロになると、通常の均等化処理に戻すことができる。
[項目3]
前記変化量がゼロのとき、前記制御部(15)は、前記複数のセル(E1-Em)の充電可能容量の内、最も充電可能容量が大きいセルの充電可能容量を前記目標値に設定することを特徴とする項目1に記載の管理装置(10)。
これによれば、前記変化量がゼロになると、通常の均等化処理に戻すことができる。
[項目4]
前記制御部(15)は、前記複数のセル(E1-Em)の休止期間中に、前記電圧検出部(12)に定期的に前記複数のセル(E1-Em)の電圧を検出させ、前回検出した前記複数のセル(E1-Em)の電圧と今回検出した前記複数のセル(E1-Em)の電圧との変化量を算出し、当該変化量に応じた目標値にもとづき前記複数のセル(E1-Em)間の均等化処理を実行することを特徴とする項目1から3のいずれか1項に記載の管理装置(10)。
これによれば、複数のセル(E1-Em)の休止期間中において、検出電圧が過電圧成分を含まないOCVに収束する前の状態から、着実に均等化処理を実行することができる。
[項目5]
直列接続された複数のセル(E1-Em)と、
前記複数のセル(E1-Em)を管理する項目1から4のいずれか1項に記載の管理装置(10)と、
を備えることを特徴とする蓄電システム(1)。
これによれば、十分な休止時間が取れない複数のセル(E1-Em)間においても着実に均等化処理を実行することができる蓄電システム(1)を構築することができる。
[項目6]
前記蓄電システム(1)は、車両に搭載され、
前記車両の駐車時において前記管理装置(10)は定期的に起動し、前記電圧検出部(12)に前記複数のセル(E1-Em)の電圧を検出させることを特徴とする項目5に記載の蓄電システム(1)。
これによれば、車両の駐車時において管理装置(10)をシャットダウン/スタンバイさせることができ、管理装置(10)の消費電力を低減することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 蓄電システム、 2 インバータ、 3 モータ、 4 充電器、 5 系統、 RY1 第1リレー、 RY2 第2リレー、 10 管理装置、 11 放電回路、 12 電圧計測部、 13 温度計測部、 14 電流計測部、 15 制御部、 20 蓄電モジュール、 E1-Em セル、 Rs シャント抵抗、 T1 温度センサ、 R1-Rm 放電抵抗、 S1-Sm 放電スイッチ。
図1
図2
図3
図4
図5