(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】表面部材及び浴室部材
(51)【国際特許分類】
E04F 15/00 20060101AFI20221223BHJP
E03C 1/20 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
E04F15/00 F
E03C1/20 A
E03C1/20 E
(21)【出願番号】P 2019007117
(22)【出願日】2019-01-18
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】青木 基晋
(72)【発明者】
【氏名】入谷 響子
【審査官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-293215(JP,A)
【文献】特開2017-110468(JP,A)
【文献】特開2010-053669(JP,A)
【文献】特開2018-035555(JP,A)
【文献】特開2003-166269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/00
E03C 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水方向に低くなるように傾斜している表面部材であって、
格子状に設けられた目地溝と、
前記目地溝によって格子状に区切られた複数の面状部と、
前記目地溝及び前記面状部の表面にストライプ状に設けられ、前記目地溝
の幅より幅及び深さの少なくとも一方が小さく、親水性を有する微細溝とを備え、
前記表面部材を上面視したときに、前記表面部材の前記排水方向と前記微細溝の延伸方向とのなす角度が0°より大きく90°より小さい
表面部材。
【請求項2】
前記微細溝において、前記幅が、10μm以上300μm以下であり、かつ、前記深さが、5μm以上150μm以下である
請求項1に記載の表面部材。
【請求項3】
前記表面部材を上面視したときに、前記排水方向に対して垂直な第1方向と平行な第2方向とに前記格子状の目地溝が形成され、
前記格子状の目地溝が交わる点を複数の交差点とし、前記交差点に対して前記第1方向に隣り合う交差点までの長さを1垂直単位とし、
前記交差点に対して前記第2方向に隣り合う交差点までの長さを1平行単位としたとき、
前記微細溝の延伸方向は、
任意の交差点と、前記任意の交差点から前記第1方向に1垂直単位かつ前記第2方向にn+0.5平行単位(nは0以上の整数)移動した点とを結ぶ直線と平行である
請求項1又は2に記載の表面部材。
【請求項4】
さらに、床部材と、
前記床部材の上方に位置するフィルム部材とを備え、
前記目地溝及び前記面状部は、前記床部材の表面に設けられ、
前記微細溝は、前記フィルム部材の表面に設けられる
請求項1から3のいずれか1項に記載の表面部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の表面部材を備える浴室部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面部材及び浴室部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高い排水性を有する表面部材及び浴室部材が盛んに用いられている。例えば、このような表面部材及び浴室部材は、浴室用の床構成部材として利用されている。特許文献1に開示されている浴室用床構成部材は、親水化処理された傾斜面と、この傾斜面の周りに配された勾配を有する溝とを備え、さらに、溝の内側の表面は、親水化処理が施されている。このような浴室用床構成部材は、高い排水性を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の浴室用床構成部材では、排水後、浴室用床構成部材上に残った水の乾燥性能に改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明は、優れた乾燥性能を有する表面部材及び浴室部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る表面部材は、排水方向に低くなるように傾斜している表面部材であって、格子状に設けられた目地溝と、前記目地溝によって格子状に区切られた複数の面状部と、前記目地溝及び前記面状部の表面にストライプ状に設けられ、前記目地溝より幅及び深さの少なくとも一方が小さく、親水性を有する微細溝とを備え、前記表面部材を上面視したときに、前記表面部材の前記排水方向と前記微細溝の延伸方向とのなす角度が0°より大きく90°より小さい。
【0007】
また、本発明の一態様に係る浴室部材は、前記表面部材を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた乾燥性能を有する表面部材及び浴室部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る表面部材が設けられた浴室を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、実施の形態に係る表面部材の一部を拡大して示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2AのIII-III線における表面部材の断面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る表面部材の表面に設けられた微細溝の一部を拡大して示す断面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係る微細溝の凹部の延伸方向を説明する上面図である。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る表面部材の排水時の挙動を説明する上面図である。
【
図8】
図8は、参考例の表面部材の乾燥時の挙動を説明する上面図である。
【
図9】
図9は、実施の形態に係る表面部材の乾燥時の挙動を説明する上面図である。
【
図10】
図10は、実施の形態の変形例1に係る表面部材を説明する上面図である。
【
図11】
図11は、実施の形態の変形例2に係る表面部材を説明する上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本発明の実施の形態に係る表面部材について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0011】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0012】
また、本明細書において、平行又は直交などの要素間の関係性を示す用語及び正方形又は長方形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0013】
また、本明細書及び図面において、x軸、y軸及びz軸は、三次元直交座標系の三軸を示している。各実施の形態では、表面部材の表面に平行な二軸をx軸及びy軸とし、当該表面に直交する方向をz軸方向としている。y軸の正方向は、表面部材の主な排水方向である。表面部材の表面は、排水性能を高めるため、水平面に対して傾斜している。このため、z軸方向は、鉛直方向に対して傾斜している。
【0014】
(実施の形態)
[概要]
まず、実施の形態に係る表面部材1の概要について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施の形態に係る表面部材1が設けられた浴室70を示す図である。
【0015】
表面部材1は、
図1に示されるように、浴室70の床71に利用される浴室用床部材である。表面部材1は、床71に設けられた排水口72に向かって水を速やかに流すことができる。
【0016】
なお、表面部材1は、
図1に示す浴室70に配置された浴槽73の底74に設けられていてもよい。なお、表面部材1は、水廻り部材として利用することができる。つまり、表面部材1は、浴室70に限らず、排水が必要とされる部材として利用できる。表面部材1は、例えば、洗面台若しくはキッチンなどの流し台(シンク)の底、排水口又は水気のある部屋若しくは通路の床又は洗濯機の内部などに用いられてもよい。
【0017】
次に、表面部材1の具体的な構成について、
図2A~
図6を用いて詳細に説明する。
【0018】
[構成]
図2Aは、本実施の形態に係る表面部材1の一部を拡大して示す斜視図である。表面部材1は、排水方向に低くなるように傾斜している。表面部材1は、目地溝11と、面状部12とを備える。表面部材1は、さらに、床部材10を備える。表面部材1は、目地溝11と、複数の面状部12とを上面に有する。また、
図2Aに示されるように、表面部材1は、排水方向Dに向かって下方に傾斜しており、さらに具体的には、水平面に対して傾斜角φで傾斜している。ここで、排水方向Dとは、表面部材1に水が散布されたときに、表面部材1の傾斜角φに基づき重力に従って水が流れる方向であり、例えば、排水口72へ向かう方向である。
【0019】
床部材10は、表面部材1の基材に相当する。
図2Aに示されるように、床部材10の表面には目地溝11が設けられている。
図2Aに示されるように、床部材10は、目地溝11と、複数の面状部12とを有する。
【0020】
目地溝11は、床部材10の表面に格子状に設けられた溝である。
図2Aに示されるように、目地溝11は、例えば、通し目地(「いも目地」とも言う)状の溝であり、複数の横溝11aと複数の縦溝11bとを有する。
【0021】
複数の横溝11aは、互いに平行で、かつ、等間隔に並んでいる。複数の縦溝11bは、互いに平行で、かつ、等間隔に並んでいる。複数の横溝11aと複数の縦溝11bとは、各々が互いに直交している。
【0022】
交差点13は、目地溝11の横溝11aと縦溝11bとが交わる点である。より詳細には、交差点13は、複数存在しており、複数の横溝11aと複数の縦溝11bとが交わる全ての点である。
【0023】
面状部12は、目地溝11によって格子状に区切られている。さらに詳細には、面状部12は、複数存在しており、隣り合う2本の横溝11aと、隣り合う2本の縦溝11bとで囲まれた部分は、全て面状部12である。面状部12は、床部材10の表面の平坦な面である。面状部12は、xy平面に平行である。なお、面状部12は、完全に平坦な面でなくてもよく、緩やかな曲面状の面であってもよく、xy平面に対して緩やかに傾斜(例えば傾斜角が1°未満)した面であってもよい。
【0024】
横溝11aの並び間隔と縦溝11bの並び間隔とは、例えば同じである。この場合、面状部12の上面視形状は、正方形である。横溝11aの並び間隔と縦溝11bの並び間隔とは、異なっていてもよい。この場合、面状部12の上面視形状は、長方形である。また、横溝11aと縦溝11bとは、斜めに交差していてもよい。この場合、例えば、面状部12の上面視形状は、平行四辺形又は菱形である。
【0025】
図2Aに示されるように、表面部材1を上面視したときに、排水方向Dに対して垂直な第1方向(x軸方向)と平行な第2方向(y軸方向)とに格子状の目地溝11が形成されるため、複数の面状部12は、x軸方向及びy軸方向の各々に行列状に並んでいる。複数の面状部12の形状及び大きさは、互いに同じであるが、異なっていてもよい。つまり、複数の横溝11a及び複数の縦溝11bの配置間隔は、均一であってもよく、異なっていてもよい。
【0026】
面状部12における最大の1辺の長さは、例えば、10mm以上100mm以下であるが、これに限らない。本実施の形態では、面状部12の上面視形状が矩形であり、面状部12における最大の1辺の長さは、面状部12の幅である。
【0027】
横溝11a及び縦溝11bの各々の幅は、ミリメートルオーダーである。例えば、横溝11a及び縦溝11bの各々の幅は、1mm以上4mm以下であるが、これに限らない。横溝11a及び縦溝11bの各々の幅は、1mmより短くてもよく、4mmより長くてもよい。なお、横溝11aの幅は、横溝11aの短手方向(すなわち、x軸方向)における長さである。縦溝11bの幅は、縦溝11bの短手方向(すなわち、y軸方向)における長さである。
【0028】
本実施の形態では、床部材10の全体が排水方向Dに向かって下方に傾斜している。具体的には、
図2Aに示されるように、横溝11aは、y軸正方向で表される排水方向Dに平行に延びている。横溝11aは、水平面に対して傾斜角φで傾斜している。縦溝11bは、x軸方向で表される水平方向に平行に延びている。面状部12は、水平面に対して傾斜角φで傾斜している。
【0029】
床部材10は、人が上に立つことが前提とされる。このため、人が立ったときの床が斜めになっていることによる違和感を減らすため、傾斜角φは、例えば1.2°以下であり、一例として1.1°である。
【0030】
床部材10は、例えば、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などから形成される。具体的には、床部材10は、繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)又はガラス繊維を含有するSMC(Sheet Molding Compound)材料から形成される。あるいは、床部材10は、アクリル又はポリエステルなどを主成分として含む人工大理石から形成されてもよい。床部材10は、例えば、SMC材料を用いたプレス成型により形成される。
【0031】
表面部材1は、さらに、微細溝30を備える。また、微細溝30は、溝状の凹部31を備える。微細溝30及び凹部31が設けられる位置について、
図2Bを用いて説明する。なお、微細溝30及び凹部31の構造についての詳細な説明は、
図4及び
図5を用いて後述する。
【0032】
図2Bは、
図2Aの領域IIにおける表面部材1を拡大した上面図である。
図2Bは、表面部材1の表面に設けられた微細溝30の一部を模式的に示している。なお、実線で図示された斜線は、微細溝30が備える溝状の凹部31を表している。すなわち、本実施の形態に係る表面部材1においては、微細溝30が備える溝状の凹部31は、目地溝11及び面状部12の表面に設けられる。具体的には、微細溝30の凹部31は、複数の面状部12と、複数の面状部12の間の目地溝11に亘って、表面部材1の全体に設けられている。
【0033】
図3は、
図2AのIII-III線における表面部材1の断面図である。具体的には、
図3は、表面部材1の目地溝11に含まれる横溝11aに直交する断面(xz断面)を示している。
【0034】
図3に示されるように、表面部材1は、さらに、フィルム部材20を備える。フィルム部材20は、床部材10の上方に設けられている。すなわち、フィルム部材20は、目地溝11及び面状部12を覆うように形成されている。
【0035】
また、横溝11aの断面形状は、逆台形であるが、これに限らない。横溝11aの断面形状は、V字形状でもよく、U字形状でもよい。なお、横溝11aの断面形状は、テーパーを有しない長方形又は正方形でもよい。縦溝11bの断面形状は、例えば、横溝11aの断面形状と同じであるが、異なっていてもよい。
【0036】
図4は、本実施の形態に係る表面部材1の表面に設けられた微細溝30の一部を拡大して示す断面図である。具体的には、
図4は、
図2Bに図示された微細溝30のIV-IV線における微細溝30の断面図であり、微細溝30の凹部31が延びる方向に直交する断面を示している。
【0037】
フィルム部材20は、基材21と、樹脂層22とを備える。基材21は、樹脂層22を支持する部材である。基材21は、床部材10上に設けられている。具体的には、基材21は、床部材10の目地溝11及び面状部12に沿って設けられている。
【0038】
基材21は、例えば、樹脂フィルム、金属箔又は不織布などである。樹脂フィルムの材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)などを用いることができる。基材21の大きさ及び形状は、特に限定されない。基材21は、使用目的及び使用環境などに応じて適切な大きさ及び形状を有する。
【0039】
樹脂層22は、基材21上に設けられている。樹脂層22は、例えば、紫外線硬化樹脂などの光硬化性樹脂材料を用いて形成される。紫外線硬化樹脂としては、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂などを用いることができる。樹脂層22の厚さは、例えば、1μm以上50μm以下であるが、これに限定されない。
【0040】
樹脂層22は、
図4に示されるように、微細溝30を有する。微細溝30は、樹脂層22の上面に設けられており、表面部材1の最上面に設けられている。つまり、表面部材1を床部材などに利用した場合に、微細溝30が最表面に露出する。
【0041】
本実施の形態では、微細溝30を構成する材料、すなわち、樹脂層22の材料の水接触角θは、90°未満である。すなわち、樹脂層22は、親水性材料を用いて形成されている。
【0042】
図3に示されるように、フィルム部材20は、床部材10の目地溝11及び面状部12に沿って設けられている。そのため、フィルム部材20の上面、すなわち、樹脂層22の上面に設けられる微細溝30は、
図2Bを用いて説明したとおり、目地溝11及び面状部12の表面に設けられる。より具体的には、微細溝30は、目地溝11及び面状部12の表面に連続して設けられている。
【0043】
また、微細溝30は、親水性を有する。微細溝30を構成する材料である樹脂層22は、親水性材料を用いて形成されているため、微細溝30は、親水性を有する。
【0044】
さらに、
図4に示されるように、微細溝30は、ストライプ状に設けられる。つまりは、微細溝30は、溝状の凹部31を有し、凹部31は、ストライプ状に設けられている。凹部31は、凹部31の延伸方向に対して、直交する方向に沿って並んで複数設けられている。また、隣り合う凹部31間に凸部が設けられている。すなわち、微細溝30は、上面視形状がストライプ状である凹凸構造である。ストライプ状は、互いに略平行に延伸する複数の凹部31が溝状に延伸しながら所定の間隔で並んだ形状である。
【0045】
なお、ストライプ状とは、ラインとスペースとが交互に並んで設けられ、かつ、同一方向に沿って延びた形状であり、ラインアンドスペース形状ともいう。凹部31がスペースに相当し、隣り合う凹部31間に存在する凸部がラインに相当する。複数の凹部31は、互いに交差していない。
【0046】
複数の凹部31の形状は互いに同じであるが、互いに異なっていてもよい。また、凹部31の並び間隔は等間隔であるが、異なっていてもよい。
【0047】
なお、以上のような構成により、本実施の形態においては、微細溝30の延伸方向と、凹部31の延伸方向とは、同方向となる。
【0048】
以下では、微細溝30の形状、特に、凹部31の形状について、
図5を用いて詳細に説明する。
【0049】
図5は、
図4の領域Vを拡大して示す断面図である。
図5は、本実施の形態に係る表面部材1の微細溝30の凹部31の断面を示している。
図5では、さらに、一点鎖線の矩形枠で囲まれた範囲内に、凹部31の開口に存在する第1端部34aを拡大した図が示されている。
【0050】
本実施の形態に係る凹部31が延伸する方向に直交する断面において、凹部31の形状は、逆台形であるが、これに限らない。例えば、凹部31の断面形状は、V字状、U字状、正方形、長方形又は半円形などでもよい。なお、表面部材1が備える微細溝30は、断面形状が異なる複数の凹部31を有してもよい。
【0051】
凹部31は、第1側面32aと、第2側面32bと、底面33と、第1端部34aと、第2端部34bとを有する。本実施の形態では、第1側面32a、第2側面32b及び底面33はそれぞれ、平面である。第1側面32a及び第2側面32bは、底面33に対して斜めに傾斜している。底面33に対する第1側面32aの傾斜角は、底面33に対する第2側面32bの傾斜角に等しいが、異なっていてもよい。本実施の形態では、凹部31は、断面視において、線対称な形状を有する。すなわち、凹部31の断面形状は、逆さまの等脚台形である。
【0052】
なお、断面形状が矩形の場合、第1側面32a及び第2側面32bはそれぞれ、底面33に対して垂直である。また、断面形状がU字状である場合、底面33は湾曲面である。また、断面形状がV字状又は半円形である場合、凹部31は、底面33を有しない。また、断面形状が半円形である場合、第1側面32a及び第2側面32bはそれぞれ、湾曲面であり、具体的には、凹部31の延伸方向を軸とする円柱側面の一部である。
【0053】
第1端部34a及び第2端部34bは、
図5に示される断面において、凹部31の開口端部であり、互いに向かい合う部分である。第1端部34a及び第2端部34bはそれぞれ、滑らかである。
【0054】
具体的には、第1端部34a及び第2端部34bはそれぞれ、所定の曲率の湾曲面を有する。例えば、
図5に示される断面において、第1端部34aは、半径Rの円の一部を描く。第1端部34aは、凹部31が延伸する方向を軸とする円柱側面の一部である。第2端部34bも同様である。第1端部34a及び第2端部34bの各々において、角が含まれておらず、すなわち、平面(断面視における直線)が含まれていない。また、第1端部34aは、例えば、第1側面32aに滑らかに接続されている。第2端部34bは、例えば、第2側面32bに滑らかに接続されている。
【0055】
第1端部34a及び第2端部34bの各々の半径Rは、例えば100nm以上である。これにより、金型を用いたインプリント法により凹部31を成型した場合に、金型に樹脂材料が残留することを抑制できる。また、半径Rは、例えば2mm以下である。これにより、例えば水接触角が10°程度の高い親水性を示す材料を用い、凹部31に汚れが溜まることを抑制するために凹部31の深さHが100μm以下の場合であっても、凹部31は、凹部31内に存在する水をスムーズに濡れ広がらせることができる。
【0056】
図5に示される断面において、第1端部34a上の第1点P1と第2端部34b上の第2点P2との間の凹部31の壁面に沿った長さをA、第1点P1と第2点P2との直線距離をBとする。具体的には、長さAは、長さA1と、長さA2と、長さA3との和で表される。直線距離Bは、凹部31の開口幅に相当する。
【0057】
長さA1は、第1端部34aにおける第1点P1から第1側面32aに至るまでの湾曲部分の長さと、第1側面32aの直線部分の長さとの和である。長さA2は、第2端部34bにおける第2点P2から第2側面32bに至るまでの湾曲部分の長さと、第2側面32bの直線部分の長さとの和である。長さA3は、底面33の幅である。
【0058】
本実施の形態では、凹部31の深さH及び直線距離Bは、マイクロメートルオーダーである。すなわち、深さH及び直線距離Bはそれぞれ、1μm以上であり、1mmより短い長さである。また、凹部31の深さHは、微細溝30における溝の深さを意味している。例えば、深さHは、5μm以上150μm以下であってもよい。また、直線距離Bは、10μm以上300μm以下であってもよい。なお、凹部31の深さHは、第1点P1及び第2点P2を結ぶ直線から底面33までの距離である。
【0059】
なお、凹部31の幅は、直線距離Bとみなすことができる。あるいは、凹部31の幅は、底面33の幅、すなわち、長さA3とみなしてもよい。あるいは、凹部31の幅は、直線距離Bと長さA3との平均値とみなしてもよい。また、凹部31の幅Hは、微細溝30における溝の幅を意味している。以上のように微細溝30は、目地溝11より幅及び深さの少なくとも一方が小さい構成である。
【0060】
図5に示される断面において、第1点P1を通る、第1端部34aにおける接線L2と、水平面L1とがなす角度θは、凹部31を有する部材、すなわち、フィルム部材20の水接触角θに等しい。言い換えると、第1端部34a上における任意の点のうち、第1端部34aに対する接線L2と水平面L1とがなす角度θが、フィルム部材20の水接触角θに等しくなる点が、第1点P1である。
【0061】
第2点P2についても同様である。すなわち、第2点P2を通る、第2端部34bにおける接線と、水平面L1とがなす角度も同様に、水接触角θに等しい。このように、第1点P1及び第2点P2はそれぞれ、水接触角θに基づいて定められる。したがって、第1点P1及び第2点P2に基づいて定められる長さA及び直線距離Bも、水接触角θに基づいて定まる。
【0062】
なお、ここでは、第1端部34a及び第2端部34bが湾曲面を有する例について示したが、これに限らない。第1端部34a及び第2端部34bは、断面視において一点で表されてもよい。つまり、第1端部34a及び第2端部34bはそれぞれ、凹部31の上面の縁であってもよい。凹部31の上面の縁に直接、第1側面32aと第2側面32bとがそれぞれ接続されていてもよい。この場合、第1点P1及び第2点P2はそれぞれ、凹部31の上面の縁、すなわち、断面視において一点で表される第1端部34a及び第2端部34bそのものに相当する。
【0063】
本実施の形態では、長さA[単位:m]及び直線距離B[単位:m]、並びに、水接触角θは、式(1)を満たす。
【0064】
【0065】
これは、凹部31の延伸方向に沿って、凹部31が毛細管現象を起こす条件に相当する。
【0066】
凹部31では、直線距離Bに相当する上面が開放されているので、上面は、完全に撥水性を有する面とみなすことができる。言い換えると、上面の水接触角は、180°であるとみなすことができる。
【0067】
これにより、毛細管現象によって発生する毛細管力(キャピラリ力)Pc[単位:N]は、以下の式(2)で表される。
【0068】
【0069】
なお、σは、水の表面張力[単位:N/m]であり、Sは、凹部31の断面積[単位:m
2]である。凹部31の断面積は、
図5に示される断面において、第1点P1と第2点P2とを結ぶ直線と、凹部31の壁面とで囲まれた範囲の面積に相当する。
【0070】
毛細管力Pcが0より大きい場合、凹部31において、凹部31の延伸方向に毛細管現象が発生する。このように、毛細管現象が発生するためには、式(2)においてPc>0が成り立つので、上述した式(1)の関係が導かれる。
【0071】
凹部31に毛細管現象が発生することで、凹部31内に入った水は、凹部31の延伸方向に沿って凹部31内を延びるように進む。つまり、水は、毛細管現象によって、表面部材1の表面で広範囲に広がりやすくなる。水が広範囲に広がることにより、空気に触れる水の表面積が大きくなって、乾燥に要する時間が短くなる。
【0072】
図6は、本実施の形態に係る微細溝30の凹部31の延伸方向を説明する上面図である。具体的には、
図6は、表面部材1における目地溝11、面状部12及び排水方向Dに対応する凹部31の延伸方向が示されている。図が複雑になることを避けるため、
図6における微細溝30の凹部31は、実線にて模式的に図示され、一部分にのみ表記する。
【0073】
本実施の形態に係る表面部材1においては、表面部材1を上面視したときに、表面部材1の排水方向Dと微細溝30の延伸方向とのなす角度は、0°より大きく90°より小さい。また、表面部材1を上面視したときに、表面部材1の排水方向Dと微細溝30の延伸方向とのなす角度は、1°以上89°以下であってもよい。ここで、例えば、表面部材1の排水方向Dと微細溝30の延伸方向とのなす角度とは、表面部材1の排水方向Dと微細溝30の凹部31の延伸方向とのなす角度である。具体的には、
図6に示す表面部材1においては、排水方向Dと微細溝30の延伸方向とのなす角度とは、角度αである。
【0074】
さらに、本実施の形態においては、
図6に示すように、表面部材1を上面視したときに、排水方向Dに対して垂直な第1方向と平行な第2方向とに、格子状の目地溝11が形成されている。排水方向Dに対して垂直な第1方向とは、
図6におけるx軸方向であり、排水方向Dに対して平行な第2方向とは、y軸方向である。つまり、横溝11aは、y軸方向と平行に形成されており、縦溝11bは、x軸方向と平行に形成されている。
【0075】
また、
図2Aで示したように、交差点13は、目地溝11の横溝11aと縦溝11bとが交わる点である。ここで、交差点13に対して第1方向(x軸方向)に隣り合う交差点13までの長さを1垂直単位とし、交差点13に対して第2方向(y軸方向)に隣り合う交差点13までの長さを1平行単位と定義する。本実施の形態に係る微細溝30の凹部31の延伸方向は、任意の交差点13と、任意の交差点13から第1方向(x軸方向)に1垂直単位かつ第2方向にn+0.5平行単位(nは0以上の整数)移動した点14とを結ぶ直線と平行である。
【0076】
具体的には、
図6の(a)においては、n=0の場合を表す。微細溝30の凹部31の
延伸方向は、例えば、交差点13aと、交差点13aから第1方向(x軸方向)に1垂直単位かつ第2方向(y軸方向)に0.5平行単位移動した点14aとを結ぶ直線と平行である。
図6の(b)においては、n=1の場合を表す。微細溝30の凹部31の延伸方向は、例えば、交差点13bと、交差点13bから第1方向(x軸方向)に1垂直単位かつ第2方向(y軸方向)に1.5平行単位移動した点14bとを結ぶ直線と平行である。
【0077】
さらに、微細溝30の凹部31の延伸方向は、nが2以上の整数である場合も、同様の条件で決定される。また、本実施の形態においては、面状部12は、正方形であるため1垂直単位及び1平行単位は同じ長さである。一方で、面状部12が長方形などの場合は、1垂直単位及び1平行単位は異なる長さとなるが、微細溝30の凹部31の延伸方向は、同様の条件で決定される。
【0078】
また、
図6の(a)における移動した点14aは、交差点13aを起点として、x軸方向に負、かつ、y軸方向に正の方向へ移動した点であるが、これに限らない。例えば、移動した点14aは、交差点13aを起点として、x軸方向に正、かつ、y軸方向に正の方向へ移動した点であってもよい。さらに、nが1以上の場合においても同様に、移動した点14は、起点となる交差点13からx軸方向に負、かつ、y軸方向に正の方向へ移動した点又はx軸方向に正、かつ、y軸方向に正の方向へ移動した点のどちらでもよい。
【0079】
なお、上記の通り、図が複雑になることを避けるため、
図6における微細溝30の凹部31は、一部分にのみ表記するが、さらに、以下の箇所に設けられている。本実施の形態では、微細溝30の凹部31は、表面部材1の面状部12と目地溝11とに連続して設けられており、より具体的には、微細溝30の凹部31は、複数の面状部12と、複数の面状部12の間の目地溝11に亘って、表面部材1の全体に設けられている。
【0080】
本実施の形態に係る表面部材1は、以上のような構成をもつ。
【0081】
ここで、本実施の形態に係る表面部材1における水60の挙動について
図7~
図9を用いて説明する。水60の挙動とは、具体的には、表面部材1に散布された水60の排水及び乾燥の挙動である。
【0082】
[排水時の挙動]
まずは、排水時の挙動を説明する。
図7は、本実施の形態に係る表面部材1の排水時の挙動を説明する上面図である。より詳しくは、
図7の(a)は、本実施の形態に係る表面部材1に水60が散布された直後の状態である。また、
図7の(b)は、本実施の形態に係る表面部材1において排水が完了した時の状態である。さらに、
図7の(c)は、
図7の(b)における、VII-VIIの断面図(yz面)である。
図7の(a)、
図7の(b)及び
図7の(c)において、残存した水60の範囲に模式的にドットを付して示している。
【0083】
表面部材1に水60が撒かれると、水60の大部分は、表面部材1の傾斜(
図2Aに示される傾斜角φ)に基づいて、横溝11aをy軸の正方向に向かって流れ落ちる。
図7の(a)が示すように、流れ落ちなかった水60の一部は、重力に従って、目地溝11内に落ち、目地溝11内に残存する。この段階では、目地溝11は、水60に満たされた状態である。
【0084】
さらに時間が進むと、目地溝11に残った水60は、表面部材1の傾斜に基づいて、横溝11aをy軸の正方向に向かって流れ落ちる。目地溝11に残った水60が一定量以下になると、目地溝11内の水60が途切れるため、目地溝11による排水が停止する。その結果、
図7の(b)及び
図7の(c)が示すように、横溝11aに残存した水60は、表面部材1の傾斜に基づいて、横溝11aの低い側(y軸の正方向側)へ偏って留まる。この
図7の(b)及び
図7の(c)の状態は、排水が完了した状態である。
【0085】
[乾燥時の挙動]
次に本実施の形態に係る表面部材1における排水が完了した後の乾燥時の水60の挙動について、
図8及び
図9を用いて説明する。
【0086】
はじめに、
図8を用いて、参考例の表面部材1aについて示す。詳細は後述するが、参考例の表面部材1aは、本実施の形態の表面部材1に比べ、乾燥性能が低い例のひとつである。
【0087】
図8は、参考例の表面部材1aの乾燥時の挙動を説明する上面図である。参考例の表面部材1aは、排水方向Dと微細溝30の延伸方向とのなす角度αが90°、つまりは、微細溝30の凹部31の延伸方向がx軸と平行であること以外は、本実施の形態に係る表面部材1と同様の構成要素を備えている。
【0088】
図8では、残存した水60の範囲に模式的にドットを付して示しており、水60の濡れ広がり方向を白抜きの矢印61で示している。また、図が複雑になることを避けるため、
図8における微細溝30の凹部31は、実線にて模式的に図示され、一部分にのみ表記する。しかしながら、実際は、参考例の表面部材1aにおいては、微細溝30の凹部31は、複数の面状部12と、複数の面状部12の間の目地溝11に亘って、表面部材1aの全体に設けられている。
【0089】
図8の(a)は、参考例の表面部材1aにおいて、水60が濡れ広がり始めた初期の様子を示す図である。すなわち、
図8の(a)は、
図7で示した排水が完了した状態の直後であり、乾燥が始まった状態を表す。参考例の表面部材1aにおいては、排水方向Dと微細溝30の凹部31の延伸方向とのなす角度が90°である。目地溝11に残存した水60の内、凹部31内に入った水60は、凹部31の延伸方向に沿って凹部31内を延びるように進むため、毛細管現象によって水60が濡れ広がる方向は、排水方向Dに対し、90°の方向、つまりは、x軸方向である。
【0090】
図8の(b)は、参考例の表面部材1aにおいて、水60がさらに濡れ広がった様子を示す図である。このとき、凹部31は、毛細管現象によって、水60を重力に逆らって目地溝11から汲み上げることができるため、汲み上げられた水60は、目地溝11から面状部12に亘って濡れ広がる。このように、水60が面状部12に濡れ広がり、空気に触れる水60の表面積が大きくなることで、水60の蒸発が促進される。すなわち、表面部材1aの乾燥に要する時間は、短くなる。ここで、排水方向Dに対し、90°の方向、つまりはx軸方向に隣接する横溝11aA及び横溝11aBから濡れ広がった水60に着目する。上述の通り、凹部31内に入った水60が濡れ広がる方向は、排水方向Dに対し、90°の方向、つまりは、x軸方向である。そのため、横溝11aAからx軸負方向へ濡れ広がった水60と、横溝11aBからx軸正方向へ濡れ広がった水60とは、面状部12の領域100にて接触する可能性がある。横溝11aAからx軸負方向へ濡れ広がった水60と、横溝11aBからx軸正方向へ濡れ広がった水60とが、面状部12の領域100にて接触すると、水60の濡れ広がりは、停止する。ここで領域100は、横溝11aA及び横溝11aBにおける中間の領域のうち、面状部12におけるy軸正方向側の領域である。つまり、領域100は、横溝11aAにおける水60の残存箇所からx軸負方向へ、面状部12のx軸方向に沿う一辺の半分の長さを進み、横溝11aBにおける水60の残存箇所からx軸正方向へ、面状部12のx軸方向に沿う一辺の半分の長さを進んだ領域である。
【0091】
一方で、領域100を有する面状部12は、水60が濡れ広がりにくい領域101も有している。横溝11aAと、横溝11aBとにおける高い側(y軸の負方向側)に水60が残存しないこと(
図7の(c)参照)及び微細溝30の凹部31がx軸方向へ延伸することによって、面状部12上に、水60が濡れ広がりにくい領域101が形成される。上述の通り、水60をより広範囲に広げることで、乾燥に要する時間は、より短くなる。つまり、水60が濡れ広がりにくい領域101は、乾燥のために有効に利用されないため、参考例の表面部材1aは、乾燥性能に改善の余地がある。
【0092】
続いて、参考例の表面部材1aに比べて、より乾燥性能が高い本実施の形態に係る表面部材1について、
図9を用いて説明する。
【0093】
図9は、本実施の形態に係る表面部材1の乾燥時の挙動を説明する上面図である。
図9における微細溝30の凹部31の延伸方向は、
図6の(a)と同じである。また、
図8と同様に、
図9では、残存した水60の範囲に模式的にドットを付して示しており、水60の濡れ広がり方向を白抜きの矢印61で示している。また、図が複雑になることを避けるため、
図9における微細溝30の凹部31は、実線にて模式的に図示され、一部分にのみ表記する。しかしながら、実際は、本実施の形態に係る表面部材1においては、微細溝30の凹部31は、複数の面状部12と、複数の面状部12の間の目地溝11に亘って、表面部材1の全体に設けられている。
【0094】
図9の(a)は、本実施の形態に係る表面部材1において、水60が濡れ広がり始めた初期の様子を示す図である。すなわち、
図9の(a)は、
図7で示した排水が完了した状態の直後であり、乾燥が始まった状態を表す。表面部材1においては、微細溝30の凹部31の延伸方向は、任意の交差点13と任意の交差点13から垂直な第1方向(x軸方向)に1垂直単位かつ平行な第2方向(y軸方向)に0.5平行単位移動した点14とを結ぶ直線と平行である。すなわち、表面部材1における微細溝30の凹部31の延伸方向は、
図6の(a)で示した延伸方向と同じである。目地溝11に残存した水60の内、凹部31内に入った水60は、凹部31の延伸方向に沿って凹部31内を延びるように進む。そのため、毛細管現象によって水60が濡れ広がる方向は、任意の交差点13と、任意の交差点13から垂直な第1方向(x軸方向)に1垂直単位かつ平行な第2方向(y軸方向)に0.5平行単位移動した点14とを結ぶ直線と平行である。
【0095】
図9の(b)は、本実施の形態に係る表面部材1において、水60がさらに濡れ広がった様子を示す図である。このとき、凹部31は、毛細管現象によって、水60を重力に逆らって目地溝11から汲み上げることができる。そのため、汲み上げられた水60は、目地溝11から面状部12に亘って濡れ広がる。このように水60が面状部12に濡れ広がり、空気に触れる水60の表面積が大きくなることで、水60の蒸発が促進される。すなわち、表面部材1の乾燥に要する時間は、短くなる。ここで、排水方向Dに対し、90°の方向、つまりはx軸方向に隣接する横溝11aA及び横溝11aBから濡れ広がった水60に着目する。上述の通り、凹部31内に入った水60が濡れ広がる方向は、任意の交差点13と、任意の交差点13から垂直な第1方向(x軸方向)に1垂直単位かつ平行な第2方向(y軸方向)に0.5平行単位移動した点14とを結ぶ直線と平行である。そのため、横溝11aAからx軸負方向かつy軸正方向へ濡れ広がった水60と、横溝11aBからx軸正方向かつy軸負方向へ濡れ広がった水60とは、面状部12においては接触し難く、十分に濡れ広がることができる。その結果、表面部材1は、面状部12表面の広い範囲に水60を濡れ広げることができるため、乾燥性能が高まる。
【0096】
なお、本実施の形態に係る微細溝30の凹部31の長さA及び直線距離Bを以下の構成とすることで、さらに乾燥性能が高まる。
【0097】
図8の(b)及び
図9の(b)において、凹部31内を水60が広がった距離を濡れ長さW[単位:m]とする。濡れ長さWは、水60の濡れ広がりの定常状態に基づいて決定される。
【0098】
定常状態では、毛細管力(キャピラリ力)Pcと、凹部31内を水60が速度v[単位:m/s]で移動するときの圧力損失Pd[単位:N]とが釣り合っている。圧力損失Pdは、以下の式(3)で表される。
【0099】
【0100】
式(3)において、ηは、水の粘性[単位:Pa・s]である。
【0101】
さらに、定常状態では、凹部31内に流入する水量と、凹部31内の水60の水面からの乾燥量とが釣り合っている。流入する水量は、凹部31の断面積Sin(=S)と速度vとの積で表される。水面からの乾燥量は、水60の凹部31内の表面積Soutと水の蒸発速度定数e[単位:m/s]との積で表される。したがって、定常状態では、以下の式(4)が成立する。
【0102】
【0103】
凹部31内の表面積Soutは、実質的に、凹部31の幅の長さbと濡れ長さWとの積で表される。したがって、式(4)に、Sout=bWを代入して整理することで、速度vは、以下の式(5)で表される。
【0104】
【0105】
式(2)、(3)及び(5)と、Pc=Pdが成り立つことから、濡れ長さWは、以下の式(6)で表される。
【0106】
【0107】
さらに、本実施の形態では、濡れ長さWが、面状部12における最大の1辺の長さX[単位:m]の半分以上の長さになるように、長さA及び直線距離Bが定められている。
【0108】
つまり、長さA及び直線距離Bは、以下の式(7)を満たす。
【0109】
【0110】
本実施の形態では、面状部12の上面視形状が正方形であり、Xは、面状部12の幅である。例えば、Xは、
図9の(b)に示されるように、面状部12のx軸方向に沿った長さである。
【0111】
図9の(b)に示されるように、濡れ長さWが、面状部12における最大の1辺の長さXの半分以上であることで、本実施の形態に係る表面部材1は、高い乾燥性能をもつ。本実施の形態においては、濡れ長さWが、正方形である面状部12のx軸方向に沿う一辺の長さ以上であることで、例えば、参考例の表面部材1aと比較して、本実施の形態に係る表面部材1は、乾燥に要する時間を短縮することができる。
【0112】
具体的には、
図8の(b)で示すように、参考例の表面部材1aにおいては、横溝11aA及び横溝11aBから濡れ広がった水60は、横溝11aA及び横溝11aBの中間領域である領域100にて接触する可能性がある。横溝11aA及び横溝11aBから濡れ広がった水60が領域100で接触すると、水60の濡れ広がりが停止する。つまり、表面部材1aにおいては、濡れ長さWが、面状部12における最大の1辺の長さXの半分以上であっても、水60は、x軸方向に濡れ広がるため、領域100にて接触しやすくなり、濡れ広がりが制限される。すなわち、水60の濡れ長さWが、Xの半分で制限されてしまう。
【0113】
一方で、
図9の(a)で示すように、本実施の形態に係る表面部材1においては、横溝11aA及び横溝11aBから濡れ広がった水60は、面状部12においては接触し難く、十分に濡れ広がることができる。つまり、表面部材1においては、濡れ長さWが、面状部12における最大の1辺の長さXの半分以上に濡れ広がることができる。すなわち、面状部12のより広い表面において、水60の蒸発が行われるので、乾燥性能を充分に高めることができる。例えば、参考例の表面部材1aと比較して、同量の水を散布したときに乾燥に要する時間は、約2分の1に短縮される。このように、本実施の形態に係る表面部材1によれば、極めて優れた乾燥性能を実現することができる。
【0114】
また、微細溝30を有するフィルム部材20は、例えば、ナノインプリント装置又はロールツーロール方式のグラビア印刷装置などを用いた転写技術を利用して製造される。
【0115】
具体的には、樹脂層22を構成する紫外線硬化樹脂材料を基材21の表面に塗布することで、基材21上に樹脂膜を成膜する。微細溝30を転写するための凹凸構造(すなわち、微細溝30を反転させた構造)を有する金型を樹脂膜に押し当て、押し当てた状態で基材21側から紫外線を照射することによって、樹脂膜を硬化させる。これにより、微細溝30を有する樹脂層22が形成される。最後に、金型を外すことで、微細溝30を有するフィルム部材20が形成される。なお、形成されたフィルム部材20を床部材10の表面に貼り付けることで、表面部材1が製造される。
【0116】
[効果など]
以上のように、本実施の形態に係る表面部材1は、排水方向Dに低くなるように傾斜している表面部材1であって、格子状に設けられた目地溝11と、目地溝11によって格子状に区切られた複数の面状部12とを備える。本実施の形態に係る表面部材1は、さらに、目地溝11及び面状部12の表面にストライプ状に設けられ、目地溝11より幅及び深さの少なくとも一方が小さく、親水性を有する微細溝30とを備える。また、本実施の形態に係る表面部材1において、表面部材1を上面視したときに、表面部材1の排水方向Dと微細溝30の延伸方向とのなす角度αが0°より大きく90°より小さい。
【0117】
これにより、表面部材1に水60が付着すると、微細溝30の凹部31で毛細管現象が発生するので、水60は、凹部31の延伸方向に沿って毛細管力によって凹部31内を広がる。水60が広がることで、空気に触れる水60の表面積が大きくなるので、乾燥に要する時間が短くなる。さらに、表面部材1の排水方向Dと微細溝30の延伸方向とのなす角度αが0°より大きく90°より小さいため、排水方向Dに対し90°の方向に隣接する2つの溝から濡れ広がった水60は、面状部12においては接触し難くなり、十分に濡れ広がることができる。その結果、面状部12の表面の広い範囲に水60を濡れ広げることができるため、乾燥性能が高まる。
【0118】
このように、本実施の形態によれば、乾燥性能に優れた表面部材1を提供することができる。
【0119】
また、本実施の形態に係る表面部材1は、微細溝30において、幅が、10μm以上300μm以下であり、かつ、深さが、5μm以上150μm以下である。
【0120】
これにより、効果的に毛細管現象を発生させることができる。例えば、凹部31の幅が10μm以上又は深さが5μm以上であることで、凹部31の断面積を確保することができ、凹部31内を水が進行しやすくすることができる。また、例えば、凹部31の幅が300μm以下又は深さが150μm以下であることで、優れた乾燥性能を実現することができる。
【0121】
また、本実施の形態に係る表面部材1は、表面部材1を上面視したときに、排水方向Dに対して垂直な第1方向と平行な第2方向とに格子状の目地溝11が形成される。格子状の目地溝11が交わる点を複数の交差点13とし、交差点13に対して第1方向に隣り合う交差点13までの長さを1垂直単位とし、交差点13に対して第2方向に隣り合う交差点13までの長さを1平行単位とする。このとき、微細溝30の延伸方向は、任意の交差点13と、任意の交差点13から第1方向に1垂直単位かつ第2方向にn+0.5平行単位(nは0以上の整数)移動した点14とを結ぶ直線と平行である。
【0122】
これにより排水方向Dに対し90°の方向に隣接する2つの溝から濡れ広がった水60は、面状部12においてはより接触し難くなり、さらに十分に濡れ広がることができる。その結果、面状部12の表面の広い範囲に水60を濡れ広げることができるため、乾燥性能がより高まる。
【0123】
また、本実施の形態に係る表面部材1は、さらに、床部材10と、床部材10の上方に位置するフィルム部材20とを備え、目地溝11及び面状部12は、床部材10の表面に設けられ、微細溝30は、フィルム部材20の表面に設けられる。
【0124】
これにより、床部材10と、フィルム部材20とを別体で製造し、床部材10の上方にフィルム部材20を設けることで表面部材1を得られるため、製造が容易になる。
【0125】
また、本実施の形態に係る浴室部材は、上記記載の表面部材1を備える。
【0126】
これにより、表面部材1に水60が付着すると、微細溝30の凹部31で毛細管現象が発生するので、表面部材1の表面に付着した水60は、凹部31の延伸方向に沿って毛細管力によって凹部31内を広がる。水60が広がることで、空気に触れる水60の表面積が大きくなるので、乾燥に要する時間が短くなる。
【0127】
このように、本実施の形態によれば、乾燥性能に優れた表面部材1を提供することができる。
【0128】
(変形例)
また、例えば、面状部12の上面視形状は、正方形、長方形、平行四辺形又は菱形などの他の四角形でもよい。また、表面部材1を上面視したときに、排水方向Dに対して垂直な第1方向と平行な第2方向とに格子状の目地溝11が形成されなくてもよい。例えば、表面部材1を上面視したときに、排水方向Dに対して45°傾斜した第3方向と、第3方向に垂直な第4方向とに格子状の目地溝11が形成されてもよい。例として、以下の二つを示す。
【0129】
図10は、本実施の形態の変形例1に係る表面部材1Bを説明する上面図である。
【0130】
図10は、表面部材1Bについて、目地溝11B、面状部12B、微細溝30Bの凹部31B及び排水方向DBの関係を示す。ここでは、本実施の形態の変形例1の表面部材1Bについて、本実施の形態に係る表面部材1との相違点を中心に説明する。表面部材1Bは、面状部12Bの上面視形状が長方形であることを除き、
図6の(a)で示した表面部材1と同様の構成である。具体的には、以下の通りである。
【0131】
目地溝11Bは、横溝11Baと縦溝11Bbとを有し、横溝11Baの並び間隔と縦溝11Bbの並び間隔とは、異なっており、そのため、面状部12Bは長方形となる。一例として、ここでは、横溝11Baの並び間隔は、縦溝11Bbの並び間隔より小さい形状を示す。また、表面部材1と同じく、排水方向DBに対して垂直な方向を第1方向とし、平行な方向を第2方向とする。
【0132】
微細溝30Bは、溝状の凹部31Bを有し、凹部31Bの延伸方向は、例えば、交差点13Baと、交差点13Baから垂直な第1方向(x軸方向)に1垂直単位かつ平行な第2方向(y軸方向)に0.5平行単位移動した点14Baとを結ぶ直線と平行である。このような構成とすることで、面状部12Bの上面視形状が異なっても、上記実施の形態に係る表面部材1と同様の効果を得ることができる。
【0133】
図11は、本実施の形態の変形例2に係る表面部材1Cを説明する上面図である。
図11は、表面部材1Cについて、目地溝11C、面状部12C、微細溝30Cの凹部31C及び排水方向DCの関係を示す。ここでは、本実施の形態の変形例2の表面部材1Cについて、本実施の形態に係る表面部材1との相違点を中心に説明する。表面部材1Cは、上面視したときに、排水方向DCに対して45°傾斜した第3方向と、第3方向に垂直な第4方向とに格子状の目地溝11Cが形成されていること及び排水方向DCと微細溝30Cの延伸方向とのなす角度αCが71.6°であることを除き、
図6の(a)で示した表面部材1と同様の構成である。具体的には、以下の通りである。
【0134】
目地溝11Cは、排水方向DCに対して45°傾斜した第3方向と、第3方向に垂直な第4方向とに、格子状に形成されている。排水方向DCは、y軸正方向と同じであるため、第3方向は、xy平面においてy軸から45°傾斜した方向であり、第4方向は、xy平面において第3方向に垂直な方向である。また、目地溝11Cは、横溝11Caと縦溝11Cbとを有し、横溝11Caは、第3方向と平行であり、縦溝11Cbは、第4方向と平行である。横溝11Caの並び間隔と縦溝11Cbの並び間隔とは、同じであり、面状部12Cの上面視形状は正方形である。
【0135】
微細溝30Cは、溝状の凹部31Cを有し、例えば、排水方向DCと微細溝30Cの延伸方向とのなす角度αCが71.6°である。このような構成とすることで、排水方向DCに対して格子状の目地溝11Cが45°傾斜して形成されていても、上記実施の形態に係る表面部材1と同様の効果を得ることができる。
【0136】
以上のような構成とすることで、目地溝11及び面状部12の外観を自由に設計することができ、かつ、水60が十分に濡れ広がることができるため、意匠性の高く、かつ乾燥性能の高い表面部材1を提供することができる。
【0137】
(その他)
以上、本発明に係る表面部材1、1B又は1Cについて、上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0138】
例えば、上記の実施の形態では、目地溝11の横溝11aが排水方向D(すなわち、傾斜方向)に平行である例を説明したが、これに限らない。目地溝11は、排水方向Dに対して斜めに延びる方向に設けられていてもよい。
【0139】
なお、表面部材1を上面視したときに、排水方向Dに対して垂直な第1方向と平行な第2方向とに格子状の目地溝11が形成されない場合、格子状に設けられた目地溝11と、微細溝30とは、交差するように設けられてもよい。さらに具体的に言うと、目地溝11に含まれる横溝11a及び縦溝11bは、いずれも、微細溝30に含まれる凹部31と交差してもよい。ここで交差とは、目地溝11に含まれる横溝11aの延伸方向及び縦溝11bの延伸方向と、微細溝30に含まれる凹部31の延伸方向が、平行でないことを指す。
【0140】
さらに、例えば、面状部12の上面視形状は、正方形、長方形、平行四辺形又は菱形などの四角形でなくてもよい。面状部12の上面視形状は、三角形又は六角形などの多角形でもよく、少なくとも一部に曲線を含む非対称な図形であってもよい。例えば、複数の面状部12の各々の上面視形状は、互いに異なる非対称な形状であってもよい。複数の面状部12の各々の、面状部12における最大の1辺の長さXとした場合に、上述した式(7)が満たされてもよい。また、複数の面状部12の少なくとも1つの、面状部12における最大の1辺の長さをXとした場合に、上述した式(7)が満たされてもよい。つまり、表面部材1が複数の面状部12を備える場合に、全ての面状部12が式(7)を満たしてもよく、式(7)を満たさない面状部12を備えてもよい。
【0141】
なお、本実施の形態においては、床部材10の全体が排水方向Dに向かって下方に傾斜しているとしたが、これに限らない。例えば、床部材10は、平板状構造であり、傾斜を有していなくてよい。さらに、床部材10は、目地溝11と、面状部12と、微細溝30とを備え、当該床部材10を、排水方向Dに向かって下方に傾斜している構造体上へ設置することで、本実施の形態に係る表面部材1としてもよい。上記の構造体は、金属、樹脂又は木材などで構成されてもよく、さらに、平板の構造の床部材10を設置するためのフレーム構造などであってもよい。
【0142】
なお、フィルム部材20は、接着層を備えていてもよい。例えば、接着層は、基材21において樹脂層22がある面と反対側の面に形成されてもよい。接着層は、フィルム部材
と、床部材10を接着する材料で構成されている。これにより、フィルム部材20を床部材10の表面に貼り付けることができる。
【0143】
また、例えば、目地溝11を有する床部材10の上面に直接、樹脂層22により構成される微細溝30が設けられてもよい。つまり、表面部材1は、フィルム部材20を備えていなくてもよい。さらに、また、目地溝11を有する床部材10の上面に直接、床部材10により構成される微細溝30が設けられてもよい。つまり、表面部材1は、フィルム部材20及び樹脂層22を備えていなくてもよい。
【0144】
また、例えば、上記の実施の形態では、表面部材1の表面の傾斜角φは、1.2°以下である例について示したが、傾斜角φは1.2°より大きくてもよい。例えば、人が立つことがあまり想定されない構造物、例えば、浴槽73の底などに表面部材1を用いる場合、傾斜角φが1.2°より大きくても人に使用時の違和感を与えなくて済む。したがって、傾斜角φを1.2°より大きくすることで、排水性を高めることができる。
【0145】
また、例えば、本発明は、式(7)を満たすように、目地溝11、面状部12、微細溝30及び凹部31の寸法及び形状を設計する設計方法として実現されてもよい。また、本発明は、例えば当該設計方法をコンピュータで実行するためのプログラムとして実現されてもよく、当該プログラムを記録するための非一時的記録媒体として実現されてもよい。
【0146】
その他、実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0147】
10 床部材
11 目地溝
12 面状部
13 交差点
14 移動した点
20 フィルム部材
30 微細溝
D 排水方向
α 排水方向と微細溝の延伸方向とのなす角度