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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】濃縮デバイス
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20221223BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20221223BHJP
   B01D 63/08 20060101ALI20221223BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20221223BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20221223BHJP
   C07K 1/34 20060101ALI20221223BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
C02F1/44 A
B01D61/00
B01D63/08
C12M1/26
C07K1/14
C07K1/34
G01N1/10 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019564354
(86)(22)【出願日】2018-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2018046140
(87)【国際公開番号】W WO2019138783
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2018004570
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】紫藤 千晶
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 浩司
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-042012(JP,A)
【文献】特開平04-358527(JP,A)
【文献】特表2001-500966(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121766(WO,A1)
【文献】特表2013-543110(JP,A)
【文献】特表2007-504215(JP,A)
【文献】特開2017-225448(JP,A)
【文献】特開2011-092125(JP,A)
【文献】国際公開第2019/138784(WO,A1)
【文献】国際公開第1998/06496(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/00-71/82
C12M 1/26
B01J 20/24
C02F 1/28
C07K 1/14
C07K 1/34
G01N 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体物質を含む溶液を濃縮する濃縮デバイスであって、
前記濃縮デバイスは、
前記溶液が注入される第1のチャンバーと、
ドロー剤が充填される第2のチャンバーと、
前記第1のチャンバーの空間及び前記第2のチャンバーの空間を区切るフィルムと、
を有し、
前記フィルムは、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域は、前記溶液の溶媒に対して透過性を示すとともに、前記生体物質及び前記ドロー剤に対して透過性を示さない半透性を有し、
前記第2の領域は、前記溶液と前記生体物質と前記ドロー剤とが透過しない非透過性を有し、
前記第1のチャンバーに前記溶液を注入した場合において、
前記フィルムは、前記溶液の液面に対して傾斜するように配置されており、
前記第2の領域は、前記液面に対して前記第1の領域より下側に配置されている、
濃縮デバイス。
【請求項2】
前記フィルムは、上面視において、外形を定義する複数の辺を有し、
前記複数の辺の中で前記第1の領域の一辺を兼ねる辺を第1辺とし、
前記複数の辺の中で前記第2の領域の一辺を兼ねる辺を第2辺とし、
前記第2辺は前記第1辺よりも短い、
請求項1に記載の濃縮デバイス。
【請求項3】
前記フィルムの外形は、台形である、
請求項2に記載の濃縮デバイス。
【請求項4】
前記フィルムは、上面視において、前記第1の領域及び前記第2の領域の並び方向に対して直交する対称軸を有し、
前記第1の領域及び前記第2の領域のそれぞれが前記対称軸に対して対称に配置されている、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の濃縮デバイス。
【請求項5】
さらに、前記第1のチャンバーにおいて、前記第2の領域上に、前記生体物質を担持する担体を備える、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の濃縮デバイス。
【請求項6】
前記担体は、多孔質である、
請求項5に記載の濃縮デバイス。
【請求項7】
前記多孔質の材料は、セルロースである、
請求項6に記載の濃縮デバイス。
【請求項8】
前記ドロー剤は、液体である、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の濃縮デバイス。
【請求項9】
前記ドロー剤は、粉体である、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の濃縮デバイス。
【請求項10】
さらに、前記溶液を前記フィルムの傾斜方向に振盪させる加振部を備える、
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の濃縮デバイス。
【請求項11】
さらに、前記担体を用いて前記生体物質を分離させる分離部を備える、
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の濃縮デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体物質を含む溶液の濃縮デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料には、複数種の生体物質が含まれている。これらの生体物質を検出することにより、生体機能の状態を把握することができる。また、生体物質は、生体試料にごく微量しか含まれないため、これらの検出感度を高めるために、生体物質を含む溶液を濃縮する必要がある。例えば、特許文献1は、筒状の芯剤とセロファンとの間にポリエチレングリコール粉末が封入された濃縮器であって、ポリエチレングリコールと水との浸透圧の差を利用して検体水を効率的に濃縮する濃縮器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-249598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の従来技術では、検体水中に筒状の濃縮器を浸漬することにより、検体水を効率よく濃縮することができるが、検体水量が減少するにつれて、濃縮器のセロファンと検体水との接触面積が小さくなり、濃縮効率が低下する。
【0005】
そこで、本開示は、生体物質を含む溶液を効率よく濃縮できる濃縮デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る濃縮デバイスは、生体物質を含む溶液を濃縮する濃縮デバイスであって、前記濃縮デバイスは、前記溶液が注入される第1のチャンバーと、ドロー剤が充填される第2のチャンバーと、前記第1のチャンバーの空間及び前記第2のチャンバーの空間を区切るフィルムと、を有し、前記フィルムは、第1の領域及び第2の領域を有し、前記第1の領域は、前記溶液の溶媒に対して透過性を示すとともに、前記生体物質及び前記ドロー剤に対して透過性を示さない半透性を有し、前記第2の領域は、前記溶液と前記生体物質と前記ドロー剤とが透過しない非透過性を有し、前記第1のチャンバーに前記溶液を注入した場合において、前記フィルムは、前記溶液の液面に対して傾斜するように配置されており、前記第2の領域は、前記液面に対して前記第1の領域より下側に配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、生体物質を含む溶液を効率よく濃縮できる濃縮デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態1に係る濃縮デバイスの上面図である。
図2図2は、図1のII-II線における概略断面図である。
図3図3は、濃縮方法のフローを説明する図である。
図4図4は、実施の形態1の変形例1に係る濃縮デバイスの上面図である。
図5図5は、実施の形態1の変形例2に係る濃縮デバイスの上面図である。
図6図6は、図5のVI-VI線における概略断面図である。
図7図7は、実施の形態2に係る濃縮デバイスの上面図である。
図8図8は、図7のVIII-VIII線における概略断面図である。
図9図9は、実施の形態2の変形例1に係る濃縮デバイスの上面図である。
図10図10は、実施の形態3に係る濃縮デバイスの上面図である。
図11図11は、図10のXI-XI線における概略断面図である。
図12図12は、実施の形態3の変形例1に係る濃縮デバイスの概略断面図である。
図13図13は、実施の形態3の変形例2に係る濃縮デバイスの上面図である。
図14図14は、実施の形態4に係る濃縮デバイスの上面図である。
図15図15は、図14のXV-XV線における概略断面図である。
図16図16は、濃縮方法のフローを説明する図である。
図17図17は、実施例1及び実施例2にて使用した濃縮デバイスの構成を説明する図である。
図18図18は、実施例1、実施例2及び比較例1で得られた試料の濃縮時間と濃縮倍率との関係を示すグラフである。
図19図19は、実施例1、実施例2及び比較例1で得られた試料のSDS-PAGEの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一態様の概要は、以下のとおりである。
【0010】
本開示の一態様に係る濃縮デバイスは、生体物質を含む溶液を濃縮する濃縮デバイスであって、前記濃縮デバイスは、前記溶液が注入される第1のチャンバーと、ドロー剤が充填される第2のチャンバーと、前記第1のチャンバーの空間及び前記第2のチャンバーの空間を区切るフィルムと、を有し、前記フィルムは、第1の領域及び第2の領域を有し、前記第1の領域は、前記溶液の溶媒に対して透過性を示すとともに、前記生体物質及び前記ドロー剤に対して透過性を示さない半透性を有し、前記第2の領域は、前記溶液と前記生体物質と前記ドロー剤とが透過しない非透過性を有し、前記第1のチャンバーに前記溶液を注入した場合において、前記フィルムは、前記溶液の液面に対して傾斜するように配置されており、前記第2の領域は、前記液面に対して前記第1の領域より下側に配置されている。
【0011】
このように、第1のチャンバーに生体物質を含む溶液を注入した場合において、フィルムが溶液の液面に対して傾斜するように配置されることにより、溶液の量に関わらず、溶液がフィルムと接触する面積を大きく保つことができる。これにより、生体物質を含む溶液を効率よく濃縮することができる。また、フィルムが第2の領域を有し、かつ、第2の領域が液面に対して第1の領域より下側に配置されることにより、溶液が枯渇することを抑制することができる。
【0012】
例えば、本開示の一態様に係る濃縮デバイスでは、前記フィルムは、上面視において、外形を定義する複数の辺を有し、前記複数の辺の中で前記第1の領域の一辺を兼ねる辺を第1辺とし、前記複数の辺の中で前記第2の領域の一辺を兼ねる辺を第2辺とし、前記第2辺は前記第1辺よりも短くてもよい。
【0013】
これにより、第1の領域の面積が第2の領域の面積よりも大きくなる。そのため、生体物質を含む溶液が第1の領域と接触する面積を大きくすることができ、溶液を効率よく濃縮することができる。
【0014】
例えば、本開示の一態様に係る濃縮デバイスでは、前記フィルムの外形は、台形であってもよい。
【0015】
これにより、生体物質を含む溶液がフィルムに接触する面積を大きくすることができるため、生体物質を含む溶液を効率よく濃縮することができる。
【0016】
例えば、本開示の一態様に係る濃縮デバイスでは、前記フィルムは、上面視において、前記第1の領域及び前記第2の領域の並び方向に対して直交する対称軸を有し、前記第1の領域及び前記第2の領域のそれぞれが前記対称軸に対して対称に配置されていてもよい。
【0017】
これにより、生体物質を含む溶液がフィルムに接触する面積をさらに大きくすることができるため、溶液をより効率よく濃縮することができる。
【0018】
例えば、本開示の一態様に係る濃縮デバイスでは、さらに、前記第1のチャンバーにおいて、前記第2の領域上に、前記生体物質を担持する担体を備えてもよい。
【0019】
これにより、生体物質を含む溶液を濃縮しながら、生体物質を担体に吸着させることができる。そのため、溶液を濃縮した後に、容易に生体物質を含む濃縮液を回収することができる。
【0020】
例えば、本開示の一態様に係る濃縮デバイスでは、前記担体は、多孔質であってもよい。
【0021】
このように、担体が多孔質であることにより、担体の表面積が大きくなる。そのため、生体物質をより多く担持することができる。
【0022】
例えば、本開示の一態様に係る濃縮デバイスでは、前記多孔質の材料は、セルロースであってもよい。
【0023】
セルロースは、比表面積が著しく大きく、化学的安定性が高いため、生体物質をより多く、かつ、安定的に吸着することができる。
【0024】
例えば、本開示の一態様に係る濃縮デバイスでは、前記ドロー剤は、液体であってもよい。
【0025】
これにより、ドロー剤を第2のチャンバーに隙間なく注入することができる。
【0026】
例えば、本開示の一態様に係る濃縮デバイスでは、前記ドロー剤は、粉体であってもよい。
【0027】
これにより、ドロー剤が液体である場合よりも、ドロー剤を充填した状態での保管性及び搬送性が優れる。
【0028】
例えば、本開示の一態様に係る濃縮デバイスでは、さらに、前記溶液を前記フィルムの傾斜方向に振盪させる加振部を備えてもよい。
【0029】
これにより、溶液を第1の領域とより大きな面積で接触させる期間を周期的に発生させることができる。そのため、溶液の濃縮速度が速められ、溶液の濃縮効率をさらに向上させることができる。
【0030】
例えば、本開示の一態様に係る濃縮デバイスでは、さらに、前記担体を用いて前記生体物質を分離させる分離部を備えてもよい。
【0031】
これにより、濃縮された生体物質を含む溶液を簡便に分離することができる。
【0032】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0033】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。
【0034】
(実施の形態1)
[濃縮デバイスの概要]
まず、本実施の形態に係る濃縮デバイスの概要について説明する。
【0035】
本実施の形態に係る濃縮デバイスは、生体物質を含む溶液(以下、単に「溶液」と称する場合がある。)を濃縮する濃縮デバイスである。
【0036】
生体物質は、生体を構成する物質であり、例えば、タンパク質、核酸、多糖類などの高分子、及び、ペプチド、ヌクレオチド、ヌクレオシド、脂質、アミノ酸などが挙げられる。
【0037】
各生体物質は、生体内で発揮される機能を有する。タンパク質を例に挙げると、ケラチン及びコラーゲンは、生体の構造を作り強度を保つ機能、酵素は、生体反応の触媒になる機能、抗体は、生体を防御する機能を有する。そして、血液、粘膜、皮膚などの生体試料から生体物質を分離し、検出することにより、このような機能の生体内での発揮状態又はその結果としての生体の状態(これらの状態を以下では生体状態ともいう。)を把握することができる。
【0038】
本実施の形態に係る濃縮デバイスは、例えばこのような目的での生体物質の検出を容易にするために生体物質を含む溶液を濃縮する濃縮デバイスである。
【0039】
[濃縮デバイスの構成]
続いて、本実施の形態に係る濃縮デバイスの構成について図1及び図2を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係る濃縮デバイス100Aの上面図である。図2は、図1のII-II線における概略断面図である。
【0040】
図1及び図2に示すように、濃縮デバイス100Aは、Y軸方向のマイナス側(以下、下側とする)に底部を有するチャンバー5内の空間を上下に区切るように、フィルム3が配置されている。より具体的には、図2に示すように、濃縮デバイス100Aは、溶液が注入される第1のチャンバー5aと、ドロー剤6が充填される第2のチャンバー5bと、第1のチャンバー5aの空間1及び第2のチャンバー5bの空間2を区切るフィルム3と、を有する。第1のチャンバー5aには、生体物質を含む溶液が注入される。第2のチャンバー5bには、濃縮に供される溶液(ここでは、生体物質を含む溶液)よりも浸透圧の高いドロー剤6が充填される。ドロー剤6の詳細については後述する。
【0041】
フィルム3は、第1の領域3a及び第2の領域3bを有する。第1の領域3aは、溶液の溶媒に対して透過性を示すとともに、生体物質及びドロー剤6に対して透過性を示さない半透性を有する。第2の領域3bは、溶液と生体物質とドロー剤6とが透過しない非透過性を有する。
【0042】
フィルム3の第1の領域3aは、いわゆる、半透膜である。半透膜は、一般に、特定の大きさを超える分子又はイオンなどの溶質を透過させず、水分子などの溶媒のみを透過させる膜であり、所望の設計に応じて、水分子などの溶媒以外にも透過させる分子の大きさ又はイオンなどの種類を選択できる。本実施の形態では、第1の領域3aは、例えば、目的の生体物質及びドロー剤6を透過させず、生体物質及びドロー剤6よりも分子量が小さい分子及びイオンを透過させる。フィルム3の第1の領域3aの素材として、例えば、セルロース、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンを用いることができる。
【0043】
ドロー剤6は、濃縮に供する溶液(ここでは、生体物質を含む溶液)よりも浸透圧の高い物質である。ドロー剤6と生体物質を含む溶液とを、半透膜である第1の領域3aを隔てて接触させると、両者の間に浸透圧差が生じ、溶質濃度が低い側、すなわち、浸透圧の低い側の溶液の溶媒が、溶質濃度が高い側、すなわち、浸透圧の高い側へ浸透する。この浸透現象は、理論的には、浸透圧差がゼロになる段階まで続く。しかしながら、本実施の形態では、フィルム3が非透過性を示す第2の領域3bを有することにより、溶液が枯渇することを抑制することができる。
【0044】
ドロー剤6は、溶液の溶媒を吸収する、つまり、溶媒に対して親和性を有する物質であり、本実施の形態では、例えば、親水性物質であるとよい。さらに、分子量が大きい物質であるとよく、例えば、水溶性高分子が挙げられる。水溶性高分子としては、デキストラン、グリコーゲン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどを用いることができる。これらの水溶性高分子の分子量としては、500以上10,000,000以下であってもよく、さらに、2,000以上5,000,000以下であってもよい。
【0045】
なお、ドロー剤6は、液体であってもよく、粉体であってもよい。ドロー剤6が溶液の場合は、第2のチャンバー5bにドロー剤6を隙間なく注入することができる。これにより、フィルム3とドロー剤6との接触面積を大きくすることができる。したがって、溶液の溶媒を透過させる面積を大きく保つことができる。また、ドロー剤6が粉体である場合は、ドロー剤6を第2のチャンバー5bに充填した状態で保管しても、液体のように蒸発することがないため、保管性に優れる。また、ドロー剤6が液体である場合に比べて、搬送中にドロー剤6が第2のチャンバー5bの外に漏出しにくく、搬送性に優れる。その他、濃縮に関わる利点としては、ドロー剤6が粉体である場合は、ドロー剤6が液体である場合よりも、溶液の水分をより多く吸収することができるため、より多量の溶液を濃縮することができる。また、ドロー剤6が液体である場合よりも、ドロー剤6の溶質濃度が高くなるため、ドロー剤6と生体物質を含む溶液との浸透圧差がさらに大きくなり、溶液の濃縮速度が速くなる。これにより、ドロー剤6が液体である場合よりも、生体物質を含む溶液をより迅速に濃縮することができる。
【0046】
また、ドロー剤6は、濃縮デバイス100Aの第2のチャンバー5bに予め充填されていてもよく、濃縮デバイス100Aを使用する際に第2のチャンバー5bに充填されてもよい。
【0047】
なお、図1及び図2では、チャンバー5の上側の開口部に配置される蓋材を省略しているが、濃縮デバイスは、蓋材を有してもよく、有さなくてもよい。濃縮デバイスが蓋材を有さない場合は、チャンバーの開口部を覆うことができる部材を用いてもよい。チャンバーの開口部を覆うことができる部材の形状は特に限定されず、例えば、板状、シート状、フィルム状、箔状など挙げられる。また、蓋材には、チャンバーに溶液を注入する注入口を有してもよい。注入口の大きさは、濃縮デバイスに応じて適宜設定されてもよい。
【0048】
フィルム3は、第1のチャンバー5aに溶液を注入した場合において、溶液の液面に対して傾斜するように配置されている。このとき、フィルム3の傾斜角をθ度とする。このように、フィルム3が溶液の液面に対して傾斜するように配置されるため、溶液とフィルム3との接触面積が大きくなる。そのため、溶液がフィルム3の第1の領域3aと接触する面積も大きくなり、溶液の濃縮効率が向上される。
【0049】
また、第2の領域3bは、液面に対して第1の領域3aより下側に配置されている。このように、非透過性を示す第2の領域3bが第1の領域3aよりも下側に配置されることにより、溶液の濃縮が進んで、溶液の液面が第2の領域3bに到達すると、溶液の濃縮が停止するため、溶液が枯渇することを抑制することができる。
【0050】
以上の構成を有することにより、本実施の形態における濃縮デバイス100Aは、生体物質を含む溶液を効率よく濃縮することができる。
【0051】
[溶液の濃縮方法]
次に、本実施の形態に係る濃縮デバイス100Aを用いて、溶液を濃縮する方法について説明する。
【0052】
図3は、濃縮方法のフローを説明する図である。図3の(a)に示すように、濃縮デバイス100Aの第2のチャンバー5bにドロー剤6を充填する。続いて、図3の(b)に示すように、生体物質8を含む溶液7を第1のチャンバー5aに注入する。このとき、濃縮デバイス100Aが蓋材を有する場合、蓋材の注入口から溶液7を注入してもよく、濃縮デバイス100Aが蓋材を有しない場合は、溶液7を第1のチャンバー5aに注入した後、第1のチャンバー5aの開口部に被覆部材を配置してもよい。被覆部材は、例えば、フィルム状、箔状、シート状、板状などの部材が挙げられる。続いて、図3の(c)に示すように、溶液7の溶媒は、フィルム3の第1の領域3aを介して第2のチャンバー5bに充填されたドロー剤6に吸収される。続いて、図3の(d)に示すように、上面視において、溶液7の液面が第2の領域3bに接する程度の量まで濃縮されると、溶液7は、第1の領域3aと接触しにくくなるため、濃縮されにくくなる。これにより、所望の濃縮率に濃縮された溶液7を得ることができる。
【0053】
なお、上記濃縮方法のフローにおいて、濃縮デバイス100Aは、X軸方向に振盪されてもよい。このとき、濃縮デバイス100Aは、さらに、溶液7をフィルム3の傾斜方向に振盪させる加振部(不図示)を有してもよい。これにより、溶液7がフィルム3の傾斜方向に振盪されるため、溶液7を第1の領域3aとより大きな面積で接触させる期間を周期的に発生させることができる。そのため、溶液7の濃縮速度が速められ、溶液7の濃縮効率をさらに向上させることができる。
【0054】
(実施の形態1の変形例1)
次に、実施の形態1の変形例1に係る濃縮デバイスについて説明する。図4は、本変形例に係る濃縮デバイス100Bの上面図である。
【0055】
本変形例に係る濃縮デバイス100Bでは、フィルム13は、上面視において、外形を定義する複数の辺を有し、複数の辺の中で第1の領域13aの一辺を兼ねる辺を第1辺とし、複数の辺の中で第2の領域13bの一辺を兼ねる辺を第2辺とする。このとき、第2辺は第1辺よりも短い。
【0056】
これにより、フィルム13において、実施の形態1の場合と比べて、第2の領域13bの面積に対する第1の領域13aの面積の比がより大きい。そのため、実施の形態1の場合と比べると、同量の溶液7が第1の領域13aと接触する面積を大きくすることができ、溶液7をより効率よく濃縮することができる。
【0057】
このようなフィルム13の具体的な例として、図4に示すように、フィルム13の外形は、台形である。濃縮デバイス100Bでは、第1辺は、第1の領域13aと第2の領域13bとの境界線である一辺を除いた残りの3辺である。また、第2辺は、第1の領域13aと第2の領域13bとの境界線である一辺を除いた残りの3辺である。濃縮デバイス100Bでは、第2辺は、いずれも第1辺のそれぞれよりも短い。
【0058】
上記構成を有することにより、濃縮デバイス100Bでは、第1の領域13aの面積が第2の領域13bの面積よりも大きくなる。そのため、生体物質を含む溶液が第1の領域13aと接触する面積を大きくすることができ、溶液を効率よく濃縮することができる。
【0059】
(実施の形態1の変形例2)
以下、実施の形態1の変形例2に係る濃縮デバイスについて説明する。図5は、本変形例に係る濃縮デバイス100Cの上面図である。図6は、図5のVI-VI線における概略断面図である。
【0060】
図5に示すように、本変形例に係る濃縮デバイス100Cは、下側に底部を有するチャンバー25内の空間を上下に区切るように、フィルム23が配置されている。
【0061】
より具体的には、図6に示すように、濃縮デバイス100Cは、溶液が注入される第1のチャンバー25aと、ドロー剤6が充填される第2のチャンバー25bと、第1のチャンバー25aの空間21及び第2のチャンバー25bの空間22を区切るフィルム23と、を有する。フィルム23は、第1の領域23a及び第2の領域23bを有する。フィルム23は、傾斜角θとなるように配置される。
【0062】
本変形例に係る濃縮デバイス100Cは、さらに、第1のチャンバー25aにおいて、第2の領域23b上に、生体物質を担持する担体4を有する。この点において、濃縮デバイス100Cは、上述の濃縮デバイス100A及び100Bと異なる。
【0063】
濃縮デバイス100Cは、第2の領域23b上に、生体物質を担持する担体4を備えることにより、溶液7を濃縮しながら生体物質を担体に担持させることができる。これにより、担体4を備えない場合に比べ、濃縮された溶液、つまり、濃縮液を回収する手間及び濃縮液を回収することにより生じる生体物質の収率の低下を低減することができる。
【0064】
担体4は、その表面又は内部に生体物質を吸着し保持する。ここで、吸着とは、固相と液相との界面において、液相に含まれる物質又は分子と固相表面との間に生じる現象をいう。吸着は、例えば、ファンデルワールス力による物理的な吸着をいい、温度、pH、圧力などの制御により可逆的に吸脱着が可能な比較的弱い吸着をいう。
【0065】
なお、担体4は、多孔質であってもよい。担体4が多孔質であることにより、担体4の表面積が大きくなる。これにより、担体4は、より多くの生体物質を吸着することができる。ここで、多孔質とは、物質中で孔が一部のみに偏在せず、少なくとも一方向において、ある程度均等に分布している物質を示す。例えば、担体4が多孔質であるとは、担体4における厚さ方向に対して垂直な方向に、孔が均等に分布していることを示す。
【0066】
多孔質の材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリカルボネート等のポリビニル化合物に代表される有機ポリマー、ポリスチレンラテックス、ナイロン、ポリテレフタレート等の共重合体、ガラス、シリカ、ジルコニア等の無機材料、セルロース、デキストラン、アガロース、セルロース、セファロース等の生体ポリマーが挙げられる。中でも、多孔質の材料は、セルロースであってもよい。
【0067】
本変形例に係る濃縮デバイス100Cは、さらに、生体物質が吸着された担体4を用いて生体物質を分離させる分離部を備えてもよい。このように、濃縮デバイス100Cが分離部を備えることにより、溶液の濃縮が終了した後、例えば、担体4を分離部に配置することにより、簡便に生体物質を分離することができる。ここで、分離とは、複数種類の物質をその特性により分画するだけであってもよいし、個々の物質又は類似物質のグループとして物質を同定することを含んでもよい。
【0068】
なお、生体物質が吸着された担体4を用いるとは、上述のように、例えば、濃縮が終了した後、担体4を分離部に配置して分離すること、及び、担体4に吸着された生体物質を担体4から抽出し、抽出した生体物質を分離部で分離することなどである。分離部では、例えば、薄層クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、ゲルろ過、アフィニティクロマトグラフィ、逆相HPLC(高速液体クロマトグラフィ)、質量分析法、蛍光発光法、電気泳動法、イムノアッセイ法などの分離方法が実施され得る。分離方法は、分離する生体物質の種類に応じて適宜選択してもよい。
【0069】
以上により、本実施の形態に係る濃縮デバイスによれば、生体物質を含む溶液を効率よく濃縮することができる。
【0070】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る濃縮デバイスについて説明する。図7は、本実施の形態に係る濃縮デバイス100Dの上面図である。図8は、図7のVIII-VIII線における概略断面図である。
【0071】
以下、実施の形態1及びその変形例と異なる点について説明する。
【0072】
本実施の形態に係る濃縮デバイス100Dでは、フィルム33は、溶液の溶媒に対して透過性を示すとともに、生体物質及びドロー剤に対して透過性を示さない半透性を有する。
【0073】
本実施の形態では、フィルム33自体が半透性を示す第1の領域と非透過性を示す第2の領域を有するのではなく、フィルム33と防止部材30とが接する領域を第2の領域33bとし、フィルム33と防止部材30とが接しない領域を第1の領域33aとする。
【0074】
防止部材30は、浸透圧の高いドロー剤6と生体物質を含む溶液とが半透膜であるフィルム33を介して接触することを防止する。高浸透圧のドロー剤6と生体物質を含む溶液とがフィルム33を介して接触しない場合、溶媒はフィルム33を透過しにくくなる。そのため、防止部材30は、ドロー剤6が第2の領域33bに対応するフィルム33の領域に接することを防止する。なお、防止部材30は、内部が空洞であってもよい。また、防止部材30は、フィルム33の下面と接する部分を被覆する部材であってもよく、第1の領域33a及び第2の領域33bの境界に沿って第2のチャンバー35bの空間32を区切る壁状の部材であってもよい。
【0075】
(実施の形態2の変形例1)
実施の形態2の変形例1に係る濃縮デバイスについて説明する。図9は、本変形例に係る濃縮デバイス100Eの上面図である。
【0076】
以下、実施の形態2に係る濃縮デバイス100Dと異なる点について説明する。図9に示すように、本変形例に係る濃縮デバイス100Eでは、フィルム43の外形は、実施の形態1の変形例1として説明したような台形である。本変形例においても、フィルム43の外形がこのような台形であることにより、濃縮デバイス100Dの場合と比べて、生体物質を含む同量の溶液が第1の領域43aと接触する面積を大きくすることができる。そのため、生体物質を含む溶液は、濃縮デバイス100Dよりもより効率よく濃縮される。
【0077】
(実施の形態3)
実施の形態3に係る濃縮デバイスについて説明する。図10は、本実施の形態に係る濃縮デバイス100Fの上面図である。図11は、図10のXI-XI線における概略断面図である。
【0078】
以下、実施の形態1及び実施の形態2と異なる点について説明する。
【0079】
図10に示すように、本実施の形態に係る濃縮デバイス100Fでは、フィルム53は、上面視において、第1の領域3a及び第2の領域3bの並び方向に対して直交する対称軸を有し、第1の領域3a及び第2の領域3bのそれぞれが対称軸に対して対称に配置されている。
【0080】
これにより、濃縮デバイス100Fでは、生体物質を含む溶液がフィルム53に接触する面積をさらに大きくすることができるため、溶液をより効率よく濃縮することができる。さらに、濃縮デバイス100Fが加振部(不図示)を有する場合、例えば、第1の領域3a及び第2の領域3bの並び方向と平行な方向に溶液を振盪させるため、溶液を第1の領域3aとより大きな面積で接触させる期間をより短い周期で発生させることができる。
【0081】
また、図11に示すように、濃縮デバイス100Fは、チャンバー55内の上下の空間51a及び52aを区切るようにフィルム53が配置されている。図10及び図11に示すように、フィルム53は、2枚のフィルム3から構成されている。2枚のフィルム3は、第2の領域3bの第1の領域3a側の端部と反対側の端部とが接するように配置されている。これにより、2枚のフィルム3から構成されるフィルム53は、上面視において、対称軸を有し、第1の領域3a及び第2の領域3bのそれぞれが対称軸に対して対称に配置される。また、2枚のフィルム3は、それぞれ、第1のチャンバー55aに溶液を注入した場合、溶液の液面に対して傾斜するように配置される。このときの傾斜角をθ度とする。本実施の形態では、第2のチャンバー55bの空間52aは、フィルム53の対称軸を含むYZ平面に対して対称に形成される。
【0082】
(実施の形態3の変形例1)
実施の形態3の変形例1に係る濃縮デバイス100Gについて説明する。図12は、本変形例に係る濃縮デバイス100GをXY平面に平行な面で切断した概略断面図である。
【0083】
図12に示すように、本変形例では、フィルム53の対称軸に沿って、支持部57を備える点で、実施の形態3に係る濃縮デバイス100Fと異なる。支持部57は、2枚のフィルム3を対称軸に沿って支持する。これにより、濃縮デバイス100Fと比べて、第2のチャンバー55bの空間52bの体積を大きくすることができるため、第2のチャンバー55bに充填されるドロー剤6の量を増加させることができる。そのため、濃縮に供する溶液の量を増やすことができる。
【0084】
また、濃縮デバイス100Fと比べて、第1のチャンバー55aの空間51bに対する第2のチャンバー55bの空間52bの体積比を大きくすることができる。これにより、濃縮デバイス100Gは、濃縮デバイス100Fと比べて、同じドロー剤6と溶液の組み合わせの場合でも、溶液をより高い濃度まで濃縮することができる。
【0085】
(実施の形態3の変形例2)
実施の形態3の変形例2に係る濃縮デバイスについて説明する。図13は、本変形例に係る濃縮デバイス100Hの上面図である。
【0086】
図13に示すように、本変形例では、フィルム63を構成する2枚のフィルム13の外形が台形である点で、濃縮デバイス100F及び100Gと異なる。
【0087】
本変形例では、2枚のフィルム13各々の外形が実施の形態1の変形例1として説明したような台形であることにより、上述の濃縮デバイス100F及び100Gと比べて、生体物質を含む同量の溶液が第1の領域13aと接触する面積を大きくすることができる。これにより、溶液をより効率的に濃縮することができる。
【0088】
(実施の形態4)
実施の形態4に係る濃縮デバイスについて説明する。図14は、本実施の形態に係る濃縮デバイス100Iの上面図である。図15は、図14のXV-XV線における概略断面図である。図16は、濃縮方法のフローを説明する図である。
【0089】
本実施の形態に係る濃縮デバイス100Iは、フィルム3がチャンバー75の底部に対して平行に配置される点で、上述した実施の形態およびその変形例と異なる。
【0090】
[濃縮デバイスの構成]
図14及び図15に示すように、濃縮デバイス100Iは、下側に底部を有するチャンバー75内の空間を上下に区切るように、フィルム3が配置されている。フィルム3は、チャンバー75の底部に対して平行に配置されている。
【0091】
実施の形態1と同様に、フィルム3は、第1の領域3a及び第2の領域3bを有する。第1の領域3aは、溶液の溶媒に対して透過性を示すとともに、生体物質及びドロー剤6に対して透過性を示さない半透性を有する。第2の領域3bは、溶液と生体物質とドロー剤6とが透過しない非透過性を有する。
【0092】
図16に示すように、濃縮デバイス100Iでは、フィルム3は、第1のチャンバー75aに溶液を注入した場合において、溶液の液面に対して傾斜するように配置されている。このとき、溶液の液面に対するフィルム3の傾斜角をθ度とする。このように、フィルム3が溶液の液面に対して傾斜するように配置されるため、溶液とフィルム3との接触面積が大きくなる。そのため、溶液がフィルム3の第1の領域3aと接触する面積も大きくなり、溶液の濃縮効率が向上される。
【0093】
また、第2の領域3bは、液面に対して第1の領域3aより下側に配置されている。このように、非透過性を示す第2の領域3bが第1の領域3aよりも下側に配置されることにより、溶液の濃縮が進んで、溶液の液面が第2の領域3bに到達すると、溶液の濃縮が停止するため、溶液が枯渇することを抑制することができる。
【0094】
以上の構成を有することにより、本実施の形態における濃縮デバイス100Iは、生体物質を含む溶液を効率よく濃縮することができる。
【0095】
なお、上述した全ての実施の形態及びその変形例についても、フィルムがチャンバーの底部に平行に配置され、かつ、溶液を第1のチャンバーに注入した場合において、溶液の液面に対してフィルムが傾斜するように配置される構成を適用してもよい。
【0096】
[溶液の濃縮方法]
次に、本実施の形態に係る濃縮デバイス100Iを用いて、溶液を濃縮する方法について図16を用いて説明する。
【0097】
図16の(a)に示すように、濃縮デバイス100Iの第2のチャンバー75bにドロー剤6を充填した後、濃縮デバイス100Iを、フィルム3が溶液7(図16の(b)参照)の液面に対してθ度傾斜するように配置する。続いて、図16の(b)に示すように、生体物質8を含む溶液7を第1のチャンバー75aに注入する。このとき、濃縮デバイス100Iが蓋材を有する場合、蓋材の注入口から溶液7を注入してもよく、濃縮デバイス100Iが蓋材を有しない場合は、溶液7を第1のチャンバー75aに注入した後、第1のチャンバー75aの開口部に被覆部材を配置してもよい。被覆部材は、例えば、フィルム状、箔状、シート状、板状などの部材が挙げられる。続いて、図16の(c)に示すように、溶液7の溶媒は、フィルム3の第1の領域3aを介して第2のチャンバー75bに充填されたドロー剤6に吸収される。続いて、図16の(d)に示すように、上面視において、溶液7の液面が第2の領域3bに接する程度の量まで濃縮されると、溶液7は、第1の領域3aと接触しにくくなるため、濃縮されにくくなる。これにより、所望の濃縮率に濃縮された溶液7を得ることができる。
【0098】
なお、上記濃縮方法のフローでは、濃縮デバイス100Iを、フィルム3の傾斜角がθ度となるように配置した後、第1のチャンバー75aに溶液7を注入する例を説明したが、第1のチャンバー75aに溶液7を注入した後に、濃縮デバイス100Iを傾斜させてもよい。
【0099】
また、上記濃縮方法のフローにおいて、濃縮デバイス100Iは、X軸方向に振盪されてもよい。このとき、濃縮デバイス100Iは、さらに、溶液7をフィルム3の傾斜方向に振盪させる加振部(不図示)を有してもよい。これにより、溶液7がフィルム3の傾斜方向に振盪されるため、溶液7を第1の領域3aとより大きな面積で接触させる期間を周期的に発生させることができる。そのため、溶液7の濃縮速度が速められ、溶液7の濃縮効率をさらに向上させることができる。
【実施例
【0100】
以下、実施例にて本開示の濃縮デバイスを具体的に説明するが、本開示は以下の実施例のみに何ら限定されるものではない。
【0101】
なお、実施例1~2及び比較例1では、以下の濃縮デバイスを使用して生体物質の濃縮を行った。
【0102】
[濃縮デバイス]
図17は、実施例にて使用した濃縮デバイス100Jの概要を説明する図である。図17の(a)は、濃縮デバイス100Jの上面図を示し、図17の(b)は、図17の(a)のB-B線における概略断面図を示す。
【0103】
図17の(a)に示すように、濃縮デバイス100Jでは、上面視において、チャンバー85の形状は、正方形である。チャンバー85の外形の大きさは、縦が8cm及び横が8cmであり、内形の大きさは、縦が6cm及び横が6cmである。
【0104】
フィルム33は、MWCO(Molecular Weight Cutoff)値が3.5Kのセルロース膜を使用し、傾斜角θ=6°となるように配置した。
【0105】
図17の(b)に示すように、濃縮デバイス100Jでは、第2の領域33bは、防止部材30がフィルム33と接する領域であり、第1の領域33aは、防止部材30がフィルム33と接しない領域である。
【0106】
防止部材30は、アクリル樹脂を第2のチャンバー85bの空間82に挿入することで形成した。
【0107】
ドロー剤6は、分子量20KのPEG(ポリエチレングリコール)粉末を用い、第2のチャンバー85bに充填した。
【0108】
[生体物質]
生体物質として、分子量66kDaのBSA(牛血清アルブミン)を用いた。生体物質を含む溶液(以下、試料)として、50μg/mlのBSA緩衝液を用いた。
【0109】
[生体物質の定量方法]
実施例1~2及び比較例1で得られた試料に含まれる生体物質(BSA)量は、比色定量法(BCA(ビシンコニン酸)法)により定量された。試料にBCAを加え、インキュベータ内を37℃に保ち30分反応させた。その後、UVスペクトル測定により562nmの吸光度を測定し、試料に含まれる生体物質(BSA)量を定量した。結果を図18に示す。
【0110】
[生体物質の検出方法]
実施例1~2及び比較例1で得られた試料に含まれる生体物質(BSA)は、SDS-PAGE(Sodium Dodecyl Sulfate-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)を行い、Oriole Fluorescent Gel Stain (Bio-Rad)で染色した。結果を図19に示す。
【0111】
(実施例1)
濃縮デバイス100Jの第1のチャンバー85aに、50μg/mlのBSA緩衝液を注入し、5分間静置した。その後、第1のチャンバー85aからBSA緩衝液を回収し、上記の方法により、BSAの定量及び検出を行った。
【0112】
(実施例2)
7分間静置したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0113】
(比較例1)
未濃縮のBSA緩衝液を用いて、BSAの定量及び検出を行った。
【0114】
[結果]
1)BSAの定量
図18は、実施例1、実施例2及び比較例1で得られた試料の濃縮時間と濃縮倍率との関係を示すグラフである。図18の(a)、(b)、(c)で示すプロットは、それぞれ比較例1、実施例1、実施例2の結果を示す。
【0115】
図18に示すように、実施例1及び実施例2で得られた試料中のBSA量は、比較例1の未濃縮のBSA量に比べて、大きく増加した。実施例1では、比較例1の7倍に濃縮され、実施例2では、比較例1の20倍にまで濃縮された。なお、濃縮時間に伴い、試料の体積も減少した。
【0116】
2)BSAの検出
図19は、実施例1、実施例2及び比較例1で得られた試料のSDS-PAGEの結果を示す図である。
【0117】
図19の(a)、(b)、(c)は、それぞれ比較例1、実施例1、実施例2の試料をSDS-PAGEにより分離し、蛍光染色した蛍光像である。
【0118】
図19に示すように、濃縮時間の増加に伴い、より明瞭な蛍光のバンドを示した。これにより、本開示に係る濃縮デバイスを用いると、生体試料に含まれる微量の生体物質を短時間で効率よく濃縮することができることが分かった。
【0119】
以上、本開示に係る濃縮デバイスについて、実施の形態及び変形例に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態及び変形例に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態及び変形例に施したものや、実施の形態及び変形例における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本開示の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本開示に係る濃縮デバイスは、生体物質を含む溶液を効率よく濃縮することができる。また、特別な操作を必要とせず、簡便に実施することができるため、生体状態の検査キットとして利用可能である。
【符号の説明】
【0121】
1、21、31、51a、51b、71、81 第1のチャンバーの空間
2、22、32、52a、52b、72、82 第2のチャンバーの空間
3、13、23、33、43、53、63 フィルム
3a、13a、23a、33a、43a 第1の領域
3b、13b、23b、33b、43b 第2の領域
4 担体
5、15、25、35、45、55,65、75、85 チャンバー
5a、25a、35a、55a、75a、85a 第1のチャンバー
5b、25b、35b、55b、75b、85b 第2のチャンバー
6 ドロー剤
7 溶液
8 生体物質
30、40 防止部材
57 支持部
100A、100B、100C、100D、100E、100F、100G、100H、100I、100J 濃縮デバイス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19