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特許7199029非磁性微細ステンレス鋼加工品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】非磁性微細ステンレス鋼加工品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/10 20060101AFI20221223BHJP
   A61M 5/32 20060101ALI20221223BHJP
   B21G 1/08 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
C21D8/10 D
A61M5/32 520
B21G1/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022112120
(22)【出願日】2022-07-13
【審査請求日】2022-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2022103203
(32)【優先日】2022-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506317451
【氏名又は名称】株式会社寺方工作所
(73)【特許権者】
【識別番号】307016180
【氏名又は名称】地方独立行政法人鳥取県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100167645
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】寺方 泰夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸治
(72)【発明者】
【氏名】岩田 成弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 良一
(72)【発明者】
【氏名】松田 知子
(72)【発明者】
【氏名】寺田 直文
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/029312(WO,A1)
【文献】特開平02-036883(JP,A)
【文献】特開2008-152306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/10
B21G 1/08
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面積5mm 以下の多角形状若しくは円筒形状ステンレス鋼または多角形状若しくは円筒形状中空ステンレス鋼のいずれかである微細な形状のステンレス鋼からなる本体部の端部にテーパ状尖端部を有する非磁性微細ステンレス鋼加工品であって、前記テーパ状尖端部が結晶粒径1μm以下のステンレス結晶組織で形成されていることを特徴とする非磁性微細ステンレス鋼加工品。
【請求項2】
断面積5mm 以下の多角形状若しくは円筒形状ステンレス鋼または多角形状若しくは円筒形状中空ステンレス鋼のいずれかである微細な形状のステンレス鋼からなる本体部と、前記本体部に周接し前記本体部の軸線に対して所定の傾斜角θで形成されたテーパ状傾斜部と、前記テーパ状傾斜部に周接し前記本体部の軸線に対して所定の傾斜角Φで形成されたテーパ状尖端部とで構成される非磁性微細ステンレス鋼加工品であって、前記テーパ状傾斜部の傾斜角θが前記テーパ状尖端部の傾斜角Φより大きく、かつ前記テーパ状尖端部が結晶粒径1μm以下のステンレス結晶組織で形成されていることを特徴とする非磁性微細ステンレス鋼加工品。
【請求項3】
断面積5mm 以下の多角形状若しくは円筒形状ステンレス鋼または多角形状若しくは円筒形状中空ステンレス鋼のいずれかである微細な形状のステンレス鋼を斜めに切除してテーパ状傾斜部を形成するテーパ状傾斜部形成工程と、テーパ状傾斜部の先端部を温間つぶし加工して結晶粒径1μm以下のステンレス結晶組織からなるテーパ状尖端部を形成するテーパ状尖端部つぶし形成工程と、温間つぶし加工したテーパ状尖端部を研削するテーパ状尖端部研削工程と、を備える非磁性微細ステンレス鋼加工品の製造方法。
【請求項4】
前記結晶粒径1μm以下のステンレス結晶組織からなるテーパ状尖端部を形成するテーパ状尖端部つぶし形成工程が前記テーパ状傾斜部を塑性変形温度200℃以上300℃以下であって、かつ温度変動を30℃以下に維持して行う温間つぶし加工であることを特徴とする請求項に記載する非磁性微細ステンレス鋼加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、非磁性微細ステンレス鋼加工品及びその製造方法に関する。特に、温間つぶし加工により尖端部のステンレス鋼結晶粒径を微細化した研削加工性に優れる非磁性微細ステンレス鋼加工品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料または合金材料の結晶粒を微細化することにより、打ち抜きや切削加工時の二次加工精度や成形加工に伴うバリの発生が起こりにくい部品を提供できることが知られ、微細粒組織を有するステンレス鋼が開示されている(特許文献1)。
しかしながら、微細組織を有するステンレス鋼は、ステンレス鋼板を冷間圧延加工と熱処理により製造されるものであり、微細ステンレス鋼の尖端部を微細化結晶組織で形成した微細ステンレス鋼加工品については開示されていない。
【0003】
オーステナイト系ステンレス鋼材(SUS304)は、耐食性、機械的性質に優れ、安価であることから小物精密部品に広く利用されている。特許文献2には、温度制御された金型及び保温機構により組成変形温度を170℃以上400℃以下で、かつ温度変動を30℃以下にするオーステナイト系ステンレス鋼材(SUS304)の温間鍛造加工方法が開示されている。しかしながら、微細ステンレス鋼の尖端部に温間つぶし加工により微細化結晶組織を形成して研削加工性に優れる非磁性微細ステンレス鋼加工品及びその製造方法についての示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-084288号公報
【文献】WO2018/143113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、尖端部が成形加工によるバリの発生が起こりにくい非磁性微細ステンレス鋼加工品及びその製造方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の課題は、以下の態様(1)乃至(9)により解決できる。具体的には、
【0007】
(態様1) 断面積5mm 以下の多角形状若しくは円筒形状ステンレス鋼または多角形状若しくは円筒形状中空ステンレス鋼のいずれかである微細な形状のステンレス鋼からなる本体部の端部にテーパ状尖端部を有する非磁性微細ステンレス鋼加工品であって、前記テーパ状尖端部が結晶粒径1μm以下のステンレス結晶組織で形成されていることを特徴とする非磁性微細ステンレス鋼加工品である。
テーパ状尖端部を結晶粒径1μm以下のステンレス結晶組織で形成することで、トリミング処理及び研削処理による表面の肌荒れが起こりにくい非磁性微細ステンレス鋼加工品を提供できるからである。
【0008】
(態様2) 断面積5mm 以下の多角形状若しくは円筒形状ステンレス鋼または多角形状若しくは円筒形状中空ステンレス鋼のいずれかである微細な形状のステンレス鋼からなる本体部と、前記本体部に周接し前記本体部の軸線に対して所定の傾斜角θで形成されたテーパ状傾斜部と、前記テーパ状傾斜部に周接し前記本体部の軸線に対して所定の傾斜角Φで形成されたテーパ状尖端部とで構成される非磁性微細ステンレス鋼加工品であって、前記テーパ状傾斜部の傾斜角θが前記テーパ状尖端部の傾斜角Φより大きく、かつ前記テーパ状尖端部が結晶粒径1μm以下のステンレス結晶組織で形成されていることを特徴とする非磁性微細ステンレス鋼加工品である。
温間つぶし加工によりテーパ状傾斜部をつぶし加工してテーパ状尖端部を形成することで、テーパ状傾斜部の傾斜角がテーパ状尖端部の傾斜角より大きくなる。また、テーパ状傾斜部をつぶし加工することで、テーパ状尖端部に結晶粒径1μm以下のステンレス結晶組織が形成され、トリミング処理及び研削処理による表面の肌荒れが起こりにくい非磁性微細ステンレス鋼加工品を提供できるからである。
【0011】
(態様断面積5mm 以下の多角形状若しくは円筒形状ステンレス鋼または多角形状若しくは円筒形状中空ステンレス鋼のいずれかである微細な形状のステンレス鋼を斜めに切除してテーパ状傾斜部を形成するテーパ状傾斜部形成工程と、テーパ状傾斜部の先端部を温間つぶし加工して結晶粒径1μm以下のステンレス結晶組織からなるテーパ状尖端部を形成するテーパ状尖端部つぶし形成工程と、温間つぶし加工したテーパ状尖端部を研削するテーパ状尖端部研削工程と、を備える非磁性微細ステンレス鋼加工品の製造方法である。
テーパ状傾斜部の先端部を温間つぶし加工してテーパ状尖端部を形成するテーパ状尖端部つぶし形成工程を採用することで、テーパ状尖端部の結晶組織の結晶粒径1μm以下とすることができ、トリミング処理及び研削処理による表面の肌荒れが起こりにくい非磁性微細ステンレス鋼加工品を提供できるからでる。
断面積5mm 以下の微細ステンレス鋼は、温間つぶし加工によりテーパ状傾斜部をつぶし加工したテーパ状尖端部が結晶粒径1μm以下のステンレス結晶組織で形成されやすいからである。
【0014】
(態様) 前記結晶粒径1μm以下のステンレス結晶組織からなるテーパ状尖端部を形成するテーパ状尖端部つぶし形成工程が前記テーパ状傾斜部を塑性変形温度200℃以上300℃以下であって、かつ温度変動を30℃以下に維持して行う温間つぶし加工であることを特徴とする態様3に記載する非磁性微細ステンレス鋼加工品の製造方法である。
テーパ状傾斜部を塑性変形温度が200℃以上300℃以下であって、かつ温度変動が30℃以下に維持して温間つぶし加工することにより、オーステナイト系ステンレス鋼材(SUS304)の加工誘起マルテンサイト変態を防ぎ、耐食性、機械的性質に優れた非磁性のテーパ状尖端部を有する非磁性微細ステンレス鋼加工品を提供できるからである。
【発明の効果】
【0016】
本願発明によれば、テーパ状尖端部のステンレス結晶組織が結晶粒径1μm以下で形成されたトリミング処理及び研削処理によるバリの発生が起こりにくい非磁性微細ステンレス鋼加工品を提供できる。また、温度制御された温間つぶし加工を採用することで、テーパ状尖端部の加工誘起マルテンサイト変態を防ぎ、耐食性、機械的性質に優れた非磁性で尖端加工性に優れる非磁性微細ステンレス鋼加工品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本願発明の非磁性微細ステンレス鋼加工品の1つの実施形態を説明する模式図である。
図2】本願発明の非磁性微細ステンレス鋼加工品のテーパ尖端部の結晶組織EBSD解析像である。
図3】本願発明の非磁性微細ステンレス鋼加工品の製造フローを説明するフロー図である。
図4】本願発明のワイヤー放電加工により形成するテーパ状傾斜部の形態を例示した模式図である。
図5】本願発明のワイヤー放電加工により形成したテーパ状傾斜部を示す写真である。
図6】本願発明のプレス金型により温間つぶし加工した非磁性微細ステンレス鋼加工品を示す写真である。
図7】本願発明の非磁性微細ステンレス鋼加工品のテーパ状尖端部のトリミング前後を示す写真である。
図8】本願発明の非磁性微細ステンレス鋼加工品のトリミングしたテーパ状尖端部を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本願発明の非磁性微細ステンレス鋼加工品及びその製造方法の実施形態を説明する。
【0019】
(1)非磁性微細ステンレス鋼加工品
(1-1)微細ステンレス鋼
本願発明の非磁性微細ステンレス鋼加工品は、微細ステンレス鋼を温間つぶし加工したものである。
本願発明の微細ステンレス鋼は、断面積5mm以下の多角形状若しくは円筒形状ステンレス鋼または多角形状若しくは円筒形状中空ステンレス鋼であれば特に限定されない。断面積5mm以下の微細ステンレス鋼は、温間つぶし加工により結晶粒径1μm以下の結晶組織を形成しやすく、白内障、緑内障等の目の治療用注射針など医療用器具に適用できるからである。注射針用途としては、円筒状中空ステンレス鋼を好適に用いることができる。
また、本願発明の微細ステンレス鋼としては、オーステナイト系ステンレス鋼が好適である。汎用性が高く、非磁性であることから医療用途に広く採用されているからである。
【0020】
(1-2)微細ステンレス鋼加工品
図1は、本願発明の微細ステンレス鋼加工品の1つの実施形態を説明する模式図であり、それぞれ(a)平面図、(b)側面図、(c)正面図である。本願発明の微細ステンレス鋼加工品10は、円筒状中空ステンレス鋼からなる本体部3を斜めに切除して形成したテーパ状傾斜部2とテーパ状傾斜部2を温間つぶし加工したテーパ状尖端部1で構成されている。
テーパ状傾斜部2は本体部3に周接し本体部3の軸線Xに対して傾斜角θの傾斜面2aを成す。テーパ状尖端部1はテーパ状傾斜部2に周接し本体部3の軸線Xに対して傾斜角Φの傾斜面1aを成す。テーパ状尖端部1はテーパ状傾斜部2を温間つぶし加工により形成するため、傾斜角θは傾斜角Φよりも大きい。テーパ状傾斜部2とテーパ状先端部1の傾斜面(1a,2a)長さ及び傾斜角(θ,Φ)は、本体部3を切除する角度、温間つぶし加工の圧下率により適宜設定することができる。テーパ状傾斜部2の傾斜角θは、9°以上30°以下が好ましく、テーパ状先端部1の傾斜角Φは、2°以上~9°未満が好ましい。
【0021】
図2は、本願発明の微細ステンレス鋼加工品10のテーパ尖端部1の結晶組織EBSD解析像である。テーパ状尖端部1は結晶粒径1μm以下の結晶組織で構成されている。結晶粒径を微細化することで、トリミング処理及び研削処理によるバリの発生が起こりにくい。
テーパ状尖端部1(圧下率65%)の比透磁率(μ)は、1.005とオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)固有の比透磁率(μ)1.003~1.007の範囲であり、非磁性であった。
【0022】
(2)製造方法
図3は、本願発明の微細ステンレス鋼加工品10の製造フローを説明するフロー図である。本願発明の微細ステンレス鋼加工品10の製造は、テーパ状傾斜部形成工程(S001)、テーパ状尖端部つぶし成形工程(S002)、テーパ状尖端部トリミング工程(S003)を順に行う。
【0023】
(2-1)テーパ状傾斜部形成工程
テーパ状傾斜部形成工程(S001)は、固定治具(図示せず)に保持した微細ステンレス鋼をワイヤー放電加工によりテーパを付けて切断する工程である。ワイヤー放電加工は、真鍮などのワイヤー線(極細電極線)に電流を流して加工物を溶融させながら切断する加工方法である。具体的には、固定治具に保持した微細ステンレス鋼をワイヤー放電加工装置の加工液を満たした加工槽に設置し、ワイヤー線に電流を流して加工する。ワイヤー放電加工を採用することで、テーパ状傾斜部2のテーパ形状を高精度で加工できるとともに、多様なテーパ形状とすることができる。
図4は、本願発明のワイヤー放電加工により形成するテーパ状傾斜部2の形態を例示した模式図であり、形態1~形態3は、それぞれ、先端部分の厚みを変えた形態を示すものである。先端部分の厚みが異なるテーパ状傾斜部2を形成することで、テーパ状傾斜部2のテーパ形状が同一で、テーパ状尖端部1のテーパ形状が異なる微細ステンレス鋼加工品10を作製することができる。
図5は、ワイヤー放電加工により形成したテーパ状傾斜部2(形態3)を示す写真であり、それぞれ(a)側面写真、(b)平面写真、である。
【0024】
(2-2)テーパ状尖端部つぶし成形工程
テーパ状尖端部つぶし成形工程(S002)は、テーパ状傾斜部2の先端部分を温間つぶし加工してテーパ状尖端部1を形成する工程である。温間つぶし加工とは、テーパ状傾斜部2の先端部分を温度制御されたプレス金型(図示せず)によりつぶし加工する温間鍛造加工法をいう。
つぶし加工による圧下率は、50~70%が好適である。圧下率が50%未満であると、結晶粒径1μm以下の結晶組織を形成できない。圧下率70%を超えると、プレス金型の寿命が短くなる。
温間つぶし加工により生じたテーパ状傾斜部2の先端部分の余肉を打ち抜き金型によりトリミングしてテーパ状尖端部1を形成する。
【0025】
温度制御されたプレス金型は、内蔵ヒータによりテーパ状傾斜部の先端部分を塑性変形温度範囲内(200℃~300℃)に保温維持する。プレス金型は、温度計測を行うことで塑性変形温度範囲200℃~300℃、かつ温度変動を30℃以下に保温維持される。温度計測は、高速で測定でき、かつ非接触で測定可能な放射温度計を用いて行う。温度測定値をリアルタイムに取り込み、温度制御プログラムで処理され、金型温度制御処置により温度制御される。
また、つぶし加工温度を200℃~300℃の範囲に留めることで、加工誘起マルテンサイトの発生温度(100℃)を超える温度に維持でき、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)の非磁性を維持できる。これにより、テーパ状尖端部1を本体部3及びテーパ状傾斜部2と同様に非磁性とすることができ、非磁性微細ステンレス鋼加工品10を実現できる。
温間つぶし加工の圧下率は、
図6は、本願発明のプレス金型により温間つぶし加工した非磁性微細ステンレス鋼加工品を示す写真であり、それぞれ、(a1)形態1の先端を温間つぶし加工した側面写真、(a2)形態1の先端を温間つぶし加工した平面写真、(b)形態3の先端を温間つぶし加工した平面写真である。
【0026】
(2-3)テーパ状尖端部トリミング工程
テーパ状尖端部トリミング工程(S003)は、温間つぶし加工により生じたテーパ状尖端部1の余肉を打ち抜き金型によりトリミングして、テーパ状尖端部1を整形する。
【実施例
【0027】
本願発明の効果を奏する実施態様を実施例として示す。
<実施例1>
(1)テーパ状傾斜部形成
円筒状中空ステンレス鋼(オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304);φ0.4mm,t0.05mm)の端部にワイヤー放電加工によりテーパ状傾斜部を形成した。テーパ状傾斜部の傾斜角θは、9.40°であった。
【0028】
(2)テーパ状尖端部つぶし成形
テーパ状傾斜部の先端部分を温度制御(200℃~300℃)されたプレス金型により圧下率は65%で温間つぶし加工した。テーパ状尖端部の傾斜角Φは、7.85°であった。
さらに、温間つぶし加工により生じたテーパ状傾斜部の先端部分の余肉を打ち抜き金型によりトリミングしてテーパ状尖端部を形成した。
【0029】
(3)テーパ状尖端部トリミング
温間つぶし加工により生じたテーパ状尖端部1の余肉を打ち抜き金型によりトリミングして、テーパ状尖端部1を整形した。
図7は、実施例1で製作した微細ステンレス鋼加工品を示す平面写真であり、それぞれ、(a)温間つぶし加工後、(b)トリミング後、である。
図8は、トリミングしたテーパ状尖端部を示す写真であり、それぞれ、(a)背面斜視、(b)側面、である。バリの発生を認めない。
【0030】
(4)比透磁率評価
テーパ状尖端部をトリミングした微細ステンレス鋼加工品のテーパ状尖端部ついて、比透磁率(μ)の評価を行った。
ここで、透磁率とは、磁場の強さ(H) と磁束密度(B)との間の関係をB=μHで表した時の比例定数(μ)である。また、真空の透磁率(μ)との比(μ/μ)を比透磁率(μ)といい、均質で等方的な媒質の比透磁率(μ)は、光学波長域では1である。オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)では1.003~1.007であり、非磁性ステンレス鋼である。
比透磁率(μ)は、磁気特性評価装置(電子磁気工業製 透磁率計LP-141A)により測定した。テーパ状尖端部の比透磁率(μ)は、1.004であり、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)本来の特性を維持している。
【0031】
(5)結晶組織評価
テーパ状尖端部をトリミングした微細ステンレス鋼加工品のテーパ状尖端部をEBDSによる結晶方位解析を行い、EBSD解析像を取得した。図2は、微細ステンレス鋼加工品のテーパ尖端部の結晶組織EBSD解析像であり、結晶組織の結晶粒径は、1μm以下であった。
【0032】
(6)まとめ
本願発明の温度制御された温間つぶし加工に形成したテーパ状尖端部を有する微細ステンレス鋼加工品は、テーパ状尖端部の比透磁率(μ)は、1.004であり、本体部、テーパ状傾斜部、テーパ状尖端部いずれもオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)の特性である非磁性を維持している。また、テーパ尖端部結晶組織の結晶粒径は、1μm以下であり、トリミングによるバリの発生はなく、研削加工性は良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本願発明により、研削加工性に優れた先端部を有する非磁性微細ステンレス加工品を提供できる。
【符号の説明】
【0034】
1 テーパ状尖端部
1a テーパ状尖端部傾斜面
2 テーパ状傾斜部
2a テーパ状傾斜部傾斜面
3 本体部
10 微細ステンレス鋼加工品
【要約】
【課題】 尖端部が成形加工によるバリの発生が起こりにくい非磁性微細ステンレス鋼加工品及びその製造方法を提案することである。
【解決手段】 微細ステンレス鋼からなる本体部の先端部に結晶粒径1μm以下のステンレス結晶組織で形成されたテーパ状尖端部を有する非磁性微細ステンレス鋼加工品である。微細ステンレス鋼を斜めに切除してテーパ状傾斜部を形成するテーパ状傾斜部形成工程と、テーパ状傾斜部の先端部を温間つぶし加工してテーパ状尖端部を形成するテーパ状尖端部つぶし成形工程と、温間つぶし加工したテーパ状尖端部をトリミング加工するテーパ状尖端部トリミング工程とを備える製造方法である。テーパ状尖端部つぶし成形工程は、テーパ状傾斜部を塑性変形温度200℃以上300℃以下であって、かつ温度変動を30℃以下に維持して行う温間つぶし加工である。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8