(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】レーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/062 20060101AFI20221223BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20221223BHJP
H01S 5/02253 20210101ALI20221223BHJP
H01S 5/042 20060101ALI20221223BHJP
H01S 5/40 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
H01S5/062
B23K26/00 N
H01S5/02253
H01S5/042 630
H01S5/40
(21)【出願番号】P 2018200722
(22)【出願日】2018-10-25
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堂本 真也
(72)【発明者】
【氏名】森岡 元希
(72)【発明者】
【氏名】石川 諒
【審査官】大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-530332(JP,A)
【文献】特開2004-214225(JP,A)
【文献】特開2006-165298(JP,A)
【文献】特開2011-040701(JP,A)
【文献】特開2000-269576(JP,A)
【文献】特開2002-026434(JP,A)
【文献】特開2005-057036(JP,A)
【文献】特開2016-163106(JP,A)
【文献】特開2008-181933(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115301(WO,A1)
【文献】特開2015-018981(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208048(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/141684(WO,A1)
【文献】特開2014-146423(JP,A)
【文献】特開2013-225557(JP,A)
【文献】特表2013-534033(JP,A)
【文献】特開2013-008950(JP,A)
【文献】特開2011-187825(JP,A)
【文献】国際公開第2008/041648(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/061891(WO,A1)
【文献】特開2005-317841(JP,A)
【文献】特開2005-191223(JP,A)
【文献】特開2005-129691(JP,A)
【文献】特開2004-259965(JP,A)
【文献】特開2003-338660(JP,A)
【文献】特開2002-232073(JP,A)
【文献】特開平10-284789(JP,A)
【文献】特開平06-338647(JP,A)
【文献】特開平05-267757(JP,A)
【文献】特開平04-003029(JP,A)
【文献】特開平02-244685(JP,A)
【文献】特開昭59-103565(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0049454(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102005008100(DE,A1)
【文献】米国特許第06153980(US,A)
【文献】米国特許第05920583(US,A)
【文献】特開2019-009342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 5/50
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のエミッタを有する複数のレーザダイオードバーと、
前記複数のレーザダイオードバーにより出射されたレーザ光を結合させて出射するレーザ光学系とを備えたレーザ装置であって、
前記複数のレーザダイオードバーに電流を供給する電源と、
前記各レーザダイオードバーに流れる電流を調整する電流調整部と、
前記各レーザダイオードバー
近傍の温度を検知する破損検知部と、
前記破損検知部によって検知された前記複数のレーザダイオードバー近傍の前記温度の平均値に基づいて、基準値を算出する基準値算出処理、前記破損検知部により検知された
温度が
前記基準値よりも大きいレーザダイオードバーを不良レーザダイオードバーとして特定する特定処理、前記特定処理により特定された不良レーザダイオードバーに流れる電流を前記電流調整部の制御により低減させる低減処理、及び前記レーザ光学系により出射されるレーザ光のレーザ出力が所定の目標値となるように前記電源を制御する電源制御を実行する制御部とを備えていることを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ装置において、
前記電流調整部は、前記各レーザダイオードバーに並列に接続された可変抵抗であることを特徴とするレーザ装置。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のレーザ装置において、
前記基準値は、前
記平均値よりも所定値分高い値であることを特徴とするレーザ装置。
【請求項4】
請求項1
~3のいずれか1項に記載のレーザ装置において、
前記低減処理は、前記特定処理により特定された不良レーザダイオードバー
近傍の
温度が、前
記平均値を下回るまで、前記不良レーザダイオードバーに流れる電流を低減させるものであることを特徴とするレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のエミッタを有する複数のレーザダイオードバーと、前記複数のレーザダイオードバーにより出射されたレーザ光を結合させて出射するレーザ光学系とを備えたレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のエミッタを有する複数のレーザダイオードバーと、前記複数のレーザダイオードバーにより出射されたレーザ光を結合させて出射するレーザ光学系とを備えたレーザ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のようなレーザ装置では、レーザダイオードバーに発振不能な破損しているエミッタである破損エミッタが1つ発生すると、その破損エミッタに供給される電力の殆どが熱に変換されるので、破損エミッタ周辺の温度が上昇する。そして、破損エミッタ周辺のエミッタが急速に劣化し、劣化したエミッタがその周辺の温度上昇を更に招くという悪循環が生じ、このような悪循環により、レーザダイオードバーの寿命が短くなる。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、レーザダイオードバーの寿命を長くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、複数のエミッタを有する複数のレーザダイオードバーと、前記複数のレーザダイオードバーにより出射されたレーザ光を結合させて出射するレーザ光学系とを備えたレーザ装置であって、前記複数のレーザダイオードバーに電流を供給する電源と、前記各レーザダイオードバーに流れる電流を調整する電流調整部と、前記各レーザダイオードバーの破損度合いを検知する破損検知部と、前記破損検知部により検知された破損度合いが基準値よりも大きいレーザダイオードバーを不良レーザダイオードバーとして特定する特定処理、前記特定処理により特定された不良レーザダイオードバーに流れる電流を前記電流調整部の制御により低減させる低減処理、及び前記レーザ光学系により出射されるレーザ光のレーザ出力が所定の目標値となるように前記電源を制御する電源制御を実行する制御部とを備えていることを特徴とすることを特徴とする。
【0007】
これにより、特定処理後、不良レーザダイオードバーに流れる電流を低減させるので、不良レーザダイオードバーに含まれるエミッタの温度上昇を抑制できる。したがって、不良レーザダイオードバーに含まれるエミッタの温度上昇による劣化を抑制し、不良レーザダイオードバーの寿命を長くできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レーザダイオードバーの寿命を長くできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態1に係るレーザ装置を備えたレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係るレーザ装置の構成を示す模式図である。
【
図3】複数のレーザモジュールの構成を示す模式図である。
【
図6】レーザダイオードバー、可変抵抗、及び電源の接続関係を示す回路図である。
【
図7】レーザダイオードバーに含まれる破損エミッタ数とレーザダイオードバーの内部温度及びレーザ熱電対に検知される温度との関係を示すグラフである。
【
図9】エミッタの温度とエミッタに流す電流との関係を示すグラフである。
【
図10】レーザダイオードバーの温度とレーザダイオードバーに流す電流との関係を示すグラフである。
【
図11】実施形態2の
図8相当図としての制御部の動作を示すフローチャートである。
【
図12】実施例2~4、及び比較例1におけるレーザダイオードバーに流す電流と経過時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0011】
(実施形態1)
本実施形態1に係るレーザ加工装置100は、
図1に示すように、レーザ発振器10とレーザ光出射ヘッド40と伝送ファイバ50と制御部60と電源70とコントローラ80とを備えている。レーザ発振器10と伝送ファイバ50でのレーザ光の光路において、レーザ発振器10よりレーザ光が出射される端部(以下、単に出射端という。)とレーザ発振器10より伝送ファイバ50にレーザ光が入射される端部(以下、単に入射端という。)とは筐体11に収容されている。
【0012】
レーザ発振器10は、複数のレーザ装置20とビーム結合器12と集光ユニット13とを有している。
【0013】
レーザ装置20は、
図2に示すように、互いに異なる波長のレーザ光LB1を発する例えば10個のレーザモジュール30と、10個のレーザモジュール30からそれぞれ出射されたレーザ光LB1を結合させて出射するレーザ光学系としての回折格子22と、回折格子22により出射されたレーザ光の一部をレーザ光LB2として透過させる一方、残りを反射光LB3として反射させる部分透過ミラー23と、部分透過ミラー23からの反射光LB3を受光し、反射光LB3の光量に応じた出力信号を出力するフォトダイオード24とを有している。
【0014】
各レーザモジュール30は、
図3~5に示すように、レーザダイオードバー(LDバー)31を有しており、レーザダイオードバー31は、並列に配置された複数のエミッタ31bを有する半導体レーザアレイである。言い換えるとレーザダイオードバー31は、エミッタ31bを有する並列に配置された複数のレーザダイオードからなる半導体レーザアレイである。レーザダイオードバー31は、平面視矩形状の平板形状をなし、その一方の面には板状の正電極32が配置され、正電極32の一方の面が取り付けられている。また、レーザダイオードバー31の他方の面には、正電極32よりも広い板状の負電極33が配置され、負電極33の一方の面の一部が取り付けられている。レーザダイオードバー31の一側面が、レーザ光LB1を出射するレーザ光出射面31aを構成している。各電極(正電極32,負電極33)には、配線35が接続され、当該配線35を介して後述する電源70から電流(電力)が供給される。なお、一つのレーザダイオードバー31に含まれるエミッタ31bの個数は、例えば50個に設定される。各レーザダイオードバー31には、
図6にも示すように、電流調整部としての可変抵抗21がそれぞれ並列に接続されている。10個のレーザモジュール30のレーザダイオードバー31は、互いに直列に接続されている。
【0015】
負電極33のレーザダイオードバー31の取付面におけるレーザダイオードバー31の取り付けられていない領域には、レーザダイオードバー31の破損度合いとしてレーザダイオードバー31の近傍の温度を検知する破損検知部としての熱電対36が取り付けられている。熱電対36によって検知されるレーザモジュール30のレーザダイオードバー(LDバー)31の温度は、
図7に示すように、レーザダイオードバー31に含まれる破損したエミッタである破損エミッタの数に応じた値となる。また、同図に示すように、破損エミッタの数に対する熱電対36によって検知される温度の変化率は、破損エミッタの数に対するレーザダイオードバー(LDバー)31の内部温度の変化率に対して低いが、破損エミッタの数が10個以上あれば、破損エミッタの数が0個の場合に比べ、熱電対36によって検知される温度が約5℃以上高くなるので、誤差が生じる場合でも、破損エミッタの数が増加したことを認識できる。具体的には、破損エミッタの数が10個のとき、破損エミッタの数が0個の場合に比べ、熱電対36によって検知される温度が、
図7中符号Dで示す温度分高くなる。なお、熱電対36の取付位置は、レーザダイオードバー31の内部温度を間接的に検知できる位置(レーザダイオードバー31の近傍の位置)であればよく、負電極33のレーザダイオードバー31の取付面に限定されない。レーザダイオードバー31の近傍の温度を検知する手段として、熱電対36に代えて、RTD(Resistance Temperature Detector,測温抵抗体)、サーミスタ、IC(Integrated Circuit)センサ等の他の手段を用いてもよい。また、サーミスタ、ICセンサ等の半導体デバイスをレーザダイオードバーと一体的に形成しても良く、これにより、レーザダイオードバー31の内部温度を間接的または直接的に検知することができ、検知される温度を、レーザダイオードバー31の内部温度により近付けることができる。
【0016】
ビーム結合器12は、複数のレーザ装置20からそれぞれ出射されたレーザ光LB2(
図2参照)を一つのレーザ光LB4に結合して集光ユニット13に出射する。
【0017】
集光ユニット13は、内部に配設された集光レンズ(図示せず)によって、入射されたレーザ光LB4を集光し、集光されたレーザ光LB4は、所定の倍率でビーム径が縮小されて伝送ファイバ50に入射される。また、集光ユニット13は図示しないコネクタを有し、コネクタには伝送ファイバ50の入射端が接続されている。
【0018】
レーザ発振器10をこのような構成とすることで、レーザ光出力が数kWを超える高出力のレーザ加工装置100を得ることができる。また、レーザ発振器10は、後述する電源70から電流が供給されてレーザ発振を行い、伝送ファイバ50の入射端に入射されたレーザ光LB4が伝送ファイバ50の出射端から出射される。なお、本実施形態では、複数のレーザ装置20として、4つのレーザ装置20でレーザ発振器10を構成しているが、特にこれに限定されない。例えば、1つのレーザ装置20でレーザ発振器10を構成し、レーザ装置20から出力されたレーザ光LB2をそのまま伝送ファイバ50に入射させるようにしてもよい。レーザ装置20の搭載個数は、レーザ加工装置100に要求される出力仕様や、個々のレーザ装置20の出力仕様によって適宜変更されうる。
【0019】
伝送ファイバ50は、集光ユニット13の集光レンズに光学的に結合され、集光レンズを介してレーザ発振器10から受け取ったレーザ光LB4をレーザ光出射ヘッド40に導光する。
【0020】
レーザ光出射ヘッド40は、伝送ファイバ50で導光されたレーザ光LB4を外部に向けて照射する。例えば、
図1に示すレーザ加工装置100では、所定の位置に配置された加工対象物であるワークWに向けて、レーザ光出射ヘッド40によりレーザ光LB4を出射する。このようにすることで、ワークWがレーザ加工される。
【0021】
制御部60は、レーザ発振器10のレーザ発振を制御する。具体的には、レーザ発振器10に接続された電源70に対して出力電流、出力電圧、レーザ出力やオン時間等の制御信号を供給することにより、各々のレーザ装置20のレーザ発振制御を行う。また、制御部60は、複数の熱電対36の検知結果に基づいて、電源70に指令電流値を出力するとともに、可変抵抗21の抵抗値を制御する。制御部60による制御の詳細については、後述する。
【0022】
電源70は、制御部60により出力された指令電流値に基づいて、レーザ発振を行うための電流(出力電流)を複数のレーザ装置20のそれぞれに対して供給する。
【0023】
操作装置としてのコントローラ80は、レーザ出力の目標値を示す入力をユーザから受け付け、当該所望のレーザ出力を示す指令信号を制御部60に出力する。
【0024】
以下、制御部60が、1つのレーザ装置20に供給する電流と、当該レーザ装置20に含まれる10個の可変抵抗21の可変抵抗値とを制御する動作について、
図8を参照して説明する。
【0025】
まず、S101において、コントローラ80が、レーザ出力の目標値を示す入力をユーザから受け付け、当該目標値を示す指令信号を制御部60に出力する。制御部60は、レーザ装置20の各レーザダイオードバー(各LDバー)31に流れる電流が、前記レーザ出力の目標値に応じた初期値となるように、電源70の供給電流を制御する。言い換えると、電流の初期値は、すべてのレーザダイオードバー31が正常に動作する状態で、レーザ光LB2のレーザ出力が目標値となるときの電流値である。これにより、レーザ発振が開始される。
【0026】
次に、S102において、制御部60は、フォトダイオード24の出力信号に基づいて、制御対象のレーザ装置20により出射されるレーザ光LB2のレーザ出力が所定の目標値となるように、電源70に出力する指令電流値を生成するフィードバック制御を行い、電源70が出力する電流値の制御を行う。
【0027】
次に、S103において、制御部60は、レーザ発振を終了する条件が満たされたか否かを判定し、満たされた場合には処理を終了し、満たされていない場合には、S104に進む。レーザ発振を終了する条件とは、例えば、コントローラ80が終了指示をユーザから受け付けること、制御部60が所定のレーザ加工が終了したと判定すること等である。
【0028】
S104では、制御部60は、制御対象のレーザ装置20に含まれる10個のレーザモジュール30の熱電対36の検知結果を受信し、10個の熱電対36より検知された温度の平均値を算出する。これにより複数のレーザモジュール30の各熱電対36に検出された温度の平均値を、レーザダイオードバー31がそれぞれ含まれる複数のレーザモジュール30の温度の平均値として算出する。言い換えると、各熱電対36に検出された温度の平均値を複数のレーザダイオードバー31の温度の平均値として算出する。
【0029】
次に、S105において、制御部60は、S104において算出された平均値よりも高い所定値として、例えば5℃分高い値を基準値とし、熱電対36により検知される温度が当該基準値よりも高いレーザモジュール30に含まれるレーザダイオードバー31を、不良レーザダイオードバー(不良LDバー)として特定する。言い替えると、エミッタ等が破損することにより、当該基準値よりも温度が高くなった不良状態のレーザダイオードバー31を、不良レーザダイオードバーとして特定する特定処理を実行する。不良レーザダイオードバーが存在する場合にはS106に進み、不良レーザダイオードバーが存在しない場合には、S102に戻る。
【0030】
S106では、制御部60は、不良レーザダイオードバーを含むレーザモジュール30の熱電対36に検知される温度が、S104で算出した平均値を下回るまで、S105で特定された不良レーザダイオードバーに並列に接続された可変抵抗21(
図6参照)の抵抗値を下げることにより、並列に接続された可変抵抗21の側に流れる電流を相対的に増加させ、不良レーザダイオードバーに流れる電流を低減する低減処理を実行する。そして、S107に進む。
【0031】
S107では、制御部60は、フォトダイオード24の出力信号に基づいて、制御対象のレーザ装置20により出射されるレーザ光LB2のレーザ出力が所定の目標値となるように電源70に出力する指令電流値を生成するフィードバック制御(電源制御)を実行し、電源70が出力する電流値の制御を行う。そして、S108に進む。
【0032】
S108では、制御部60は、不良レーザダイオードバーを含むレーザモジュール30の熱電対36に検知される温度が、S104で算出した温度の平均値を下回っているか否かを判定し、平均値を下回っている場合にはS102に戻る一方、下回っていない場合にはS106に戻る。
【0033】
このように、S106~S108において、不良レーザダイオードバーを含むレーザモジュール30の熱電対36に検知される温度を、S104で算出した平均値よりも低くするので、不良レーザダイオードバーの寿命を、不良レーザダイオードバーではない、言い換えると不良状態ではなく正常状態であるレーザダイオードバー31の寿命に近付けることができる。
【0034】
図9に示すように、レーザダイオードバー31のエミッタ31bに流れる電流が大きくなる程、エミッタ31bの温度は高くなる。したがって、
図10に示すように、レーザダイオードバー(LDバー)31に流れる電流が大きくなる程、熱電対36により検知される温度は高くなる。また、
図10に示すように、レーザダイオードバー31に含まれる破損エミッタの数が多いほど、熱電対36により検知されるレーザダイオードバー(LDバー)31の温度は高くなり、レーザダイオードバー31の寿命は短くなる。
【0035】
本実施形態1によれば、不良レーザダイオードバーを特定する特定処理後、不良レーザダイオードバーに流れる電流を低減させるので、不良レーザダイオードバーに含まれるエミッタ31bの温度上昇を相対的に抑制できる。したがって、不良レーザダイオードバーに含まれるエミッタ31bの温度上昇による劣化を抑制し、不良レーザダイオードバーの寿命を長くできる。
【0036】
また、各レーザダイオードバー31に並列接続された可変抵抗21を制御することにより、各レーザダイオードバー31に流れる電流を調整でき、レーザダイオードバー31毎に個別に電源を設ける必要がないので、レーザ装置20を小型化できる。
【0037】
また、レーザダイオードバー31近傍の温度をレーザダイオードバー31の破損度合いとして検知するので、レーザダイオードバー31により出射されるレーザ光LB1の一部を反射させてその反射光の光量に基づいて破損度合いを検知するようにした場合に比べ、レーザ光LB1の光路上にレーザ光LB1を反射させる手段を設けることによるレーザ光LB1への悪影響がない分、レーザ光LB1の品質を高めることができる。
【0038】
また、10個のレーザモジュール30の各熱電対36より検知された温度の平均値に基づいて算出した基準値を使用して不良レーザダイオードバーを特定するので、外気温の上昇や通常の経年劣化に起因して熱電対36によって検知される温度が全体的に高くなった場合でも、不良レーザダイオードバーを適切に特定できる。また、予め基準値を設定しなくてよいので、ユーザの手間を削減できる。
【0039】
(実施形態2)
図11は、本発明の実施形態2に係る制御部60の動作を示す。本実施形態2では、実施形態1における複数のレーザモジュール30の温度の平均値を算出するS104の処理(
図8参照)に代えて、S201の処理を実行する。
【0040】
S201では、制御部60は、熱電対36により検知される温度が予め設定された基準値よりも高いレーザモジュール30のレーザダイオードバー(LDバー)31を、不良レーザダイオードバーとして特定する特定処理を実行する。温度の基準値は、正常なレーザダイオードバー31に、その時の指令電流値の電流を流したときに熱電対36により検知される温度に予め設定される。不良レーザダイオードバーが存在する場合には、S202に進み、不良レーザダイオードバーが存在しない場合には、S102に戻る。
【0041】
S202では、制御部60は、レーザダイオードバー31の温度として、不良レーザダイオードバーを含むレーザモジュール30の熱電対36に検知される温度と、その時の指令電流値に対応する温度である前記基準値との差に基づいて、不良レーザダイオードバーに含まれる破損エミッタの数を推定する。破損エミッタの数は、熱電対36に検知される温度と、指令電流値に対応する温度である前記基準値との差と、破損エミッタの数との組合せを示すリストを制御部60が予め記憶しておき、そのとき熱電対36に検知された温度と、指令電流値に対応する温度である前記基準値との差に基づいて、当該リストを参照することにより推定できる。
【0042】
そして、推定した破損エミッタの数とその時の指令電流値とに基づいて、不良レーザダイオードバーに並列に接続された可変抵抗21の変更後の抵抗値を決定し、決定した抵抗値に可変抵抗21の抵抗値を変更する(可変抵抗21の制御)。これにより、不良レーザダイオードバーに並列に接続された可変抵抗21(
図6参照)の抵抗値を下げることにより、可変抵抗21の側に流れる電流を相対的に増加させ、不良レーザダイオードバーに流れる電流を低減させて、不良レーザダイオードバーに含まれるエミッタ31bの温度上昇による劣化を抑制し、不良レーザダイオードバーの寿命を長くすることが出来る。
【0043】
ここで、変更する不良レーザダイオードバーの可変抵抗21の抵抗値は、破損エミッタの数及び指令電流値と抵抗値との組合せを示すリストを制御部60が予め記憶しておき、推定した破損エミッタの数とその時の指令電流値とに基づいて、当該リストを参照することにより決定できる。その後、S102に戻る。
【0044】
その他のレーザ加工装置100の構成及び動作は、実施形態1と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0045】
したがって、本実施形態2によれば、不良レーザダイオードバーを特定する際、複数の熱電対36より検知された温度の平均値を算出する処理が実行されないので、不良レーザダイオードバーの特定処理の高速化が可能になる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。
【0047】
実施例及び比較例では、レーザ光LB2のレーザ出力の目標値を1000W(=WG)に設定し、10個の各レーザダイオードバー31にそれぞれ流れる電流の初期値を150A(=Ib)とした。また、ここで10個のレーザダイオードバー31を有するレーザ装置20が出射するレーザ光LB2のレーザ出力が1000Wであり、かつ1個当たり100Wの出力を行う各レーザダイオードバー31に流れる電流が150Aであるときの1つのエミッタ31bの温度を60℃(=T
1)とした(
図9参照)。また、各レーザダイオードバー31は、それぞれ50個のエミッタ31bを有するものとする。なお、例えばレーザダイオードバー31内のすべてのエミッタ31bが同じ温度の場合、エミッタ温度はレーザダイオードバー(LDバー)31の内部温度に相当する。また、寿命は、レーザダイオードバー31を定格発振させる電流値が初期値(150A)から経時変化等により20%増加して180Aとなるまでの時間と定義し、例えば不良レーザダイオードバーが発生しない場合の寿命時間Lは100000時間とする(
図12参照)。
【0048】
レーザダイオードバー31によってレーザ光が発振されることにより出射されるのは、20A(=Ia)以上の電流が流れるときで、レーザダイオードバー31に20A(=Ia)の電流を流す際に必要な電圧は、12.2V(=Va)、レーザダイオードバー31に150A(=Ib)の電流を流す際に必要な電圧は、16.67V(=Vb)とする。また、レーザダイオードバー31の非発振時における温度を20℃(=T0)、エミッタ31bの熱抵抗値αを20℃/Wとする。そして、寿命は、熱電対36に検知される温度が10℃上昇すると半減するという、いわゆる10℃半減則に従うと仮定して算出する。(言い換えると、検出される温度が10℃下がると寿命が2倍に伸びるという、いわゆる10℃2倍則として算出しても良い。)また、例えばレーザダイオードバー31に100Wのレーザ光を出射させるために必要な電流値の所定値が例えば初期値としての150Aから1A上昇して151Aとなるまでの時間をL1=7584時間とする。言い換えると、1つのレーザダイオードバー31は、150Aの電流値で、100Wのレーザ光を出射させることができるが、7584時間経過すると、経時変化等による劣化により、100Wのレーザ光を出射させるために必要な電流値が1A上昇して151Aになる。
【0049】
各レーザダイオードバー31に100Wのレーザ出力のレーザ光を出射させるために必要な電流値が所定値Iとする場合の寿命の時間LI(式5参照)は以下のように算出できる。
【0050】
まず、電流値がIのときの注入電力WIを(式1)により算出する。
【0051】
WI=I×{(I-Ia)×(Vb-Va)/(Ib-Ia)+Va} ・・・(式1)
ここで、各レーザダイオードバー31において、Iは、所定(100W)のレーザ出力のレーザ光を出射させるために必要な電流値の所定値であり、Iaは、レーザ光の発振が開始される電流値(20A)であり、Ibは、所定(100W)のレーザ出力で定格発振させる電流値の初期値(150A)であり、Vaは、Ia(20A)の電流を流す際に必要な電圧値(12.2V)であり、Vbは、Ib(150A)の電流を流す際に必要な電圧値(16.67V)である。
【0052】
次に、電流値がIのときのレーザ光LB2のレーザ出力WLを(式2)により算出する。
【0053】
WL=(I-Ia)×WG/(Ib-Ia)・・・(式2)
ここで、WGは、レーザ光LB2のレーザ出力の目標値(1000W)である。
【0054】
したがって、1つのエミッタ31bに注入される電力(注入電力WI)から当該エミッタ31bによって出力されるレーザ光のレーザ出力(電流値がIのときのレーザ光LB2のレーザ出力WL)を引いた熱量Q(レーザダイオードバー31の1つのエミッタ31b自体にて実際に熱に変換される熱量(W))は、(式3)により算出できる。
【0055】
Q=(WI-WL×η/WPE)/(50×10)・・・(式3)
ここで、WIは、電流値がIのときの注入電力(W)であり、WLは、レーザ光LB2のレーザ出力(W)であり、ηは、レーザダイオードバー(半導体レーザ)31の変換効率(%)であり、純粋にレーザダイオードバー31に加えた電力とレーザダイオードバー31から取り出せる光出力の比である。WPEは、ウォールプラグ効率(%)である。なお、ここでのウォールプラグ効率WPEは、入力する注入電力に対するレーザ加工装置100又はレーザ発振器10のレーザ出力(光出力)の割合(比)であり、光学経路でのロス(経路ロス、結合(接続)ロス等)の影響を受けるものであり、言い換えると、光エネルギーに変換できる注入電力の割合である。なおここで、レーザダイオードバー31の個数は例えば10個としており、それぞれのレーザダイオードバー31には50個のエミッタを有している。
【0056】
そして、エミッタ31bの温度Tを(式4)により算出する。
【0057】
T=T0+Q×α・・・(式4)
ここで、T0は、レーザダイオードバー31の非発振時における温度で20℃とし、αは、エミッタ31bの熱抵抗値で20℃/Wである。
【0058】
これにより、寿命の時間LIは(式5)により算出できる。
【0059】
LI=LI-1×2{(T1-T)/10℃}・・・(式5)
ここで、LIは、各レーザダイオードバー31に所定(100W)のレーザ出力のレーザ光を出射させるために必要な電流値が所定値Iとする場合の寿命の時間であり、Tは、エミッタ31bの温度であり、T1は、1個当たり100Wの出力を行うレーザダイオードバー31に流れる電流が150Aであるときの1つのエミッタ31bの温度で60℃である。
【0060】
また 、LI-1は、各レーザダイオードバー31に所定(100W)のレーザ出力のレーザ光を出射させるために必要な電流値が所定値I-1(1つ前の電流値であり、例えばIが153AならI-1は152Aとなる)となる場合の寿命の時間である。例えば、初期値(150A)から1A毎に寿命の時間を算出して、寿命上限の上限として設定されている180Aまで順に算出して累積し、不良レーザダイオードバーの寿命変化を求めても良い。
【0061】
したがって、上述のような計算を、レーザダイオードバー31より所定(100W)のレーザ出力で出射するために必要な電流値の所定値Iを152Aから180Aのそれぞれに順に設定して同様に行うことで、前記寿命、すなわちL180を算出できる。
【0062】
<実施例1>
10個のレーザダイオードバー31に、1個の不良レーザダイオードバーが存在し、当該不良レーザダイオードバーに5個の破損エミッタが含まれる場合に、不良レーザダイオードバーに流す電流を137Aに抑制することで、不良レーザダイオードバーに対応する熱電対36に検知される温度を、レーザダイオードバー31が正常に動作する状態で当該レーザダイオードバー31に初期値(150A)の電流を流したときの温度にした(
図10参照)。これにより、不良レーザダイオードバーの劣化の促進を抑制し、不良レーザダイオードバーの寿命を長くできる。このとき、不良レーザダイオードバーにより出射されるレーザ光のレーザ出力は、81Wとなる。したがって、不良レーザダイオードバーが存在しない場合に比べ、残りの9個のレーザダイオードバー31に出射させるレーザ光のレーザ出力は増大する。レーザモジュール30全体の寿命は、87870時間となる。
【0063】
<実施例2>
10個のレーザダイオードバー31に、1個の不良レーザダイオードバーが存在し、当該不良レーザダイオードバーに10個の破損エミッタが含まれる場合に、不良レーザダイオードバーに流す電流を124Aに抑制することで、不良レーザダイオードバーに対応する熱電対36に検知される温度を、レーザダイオードバー31が正常に動作する状態で当該レーザダイオードバー31に初期値(150A)の電流を流したときの温度にした(
図10参照)。また、不良レーザダイオードバーにより出射されるレーザ光のレーザ出力が64Wとなるようにした。このとき、レーザモジュール30全体の寿命は、80139時間となる。
【0064】
<実施例3>
10個のレーザダイオードバー31に、1個の不良レーザダイオードバーが存在し、当該不良レーザダイオードバーに20個の破損エミッタが含まれる場合に、不良レーザダイオードバーに流す電流を105Aに抑制することで、不良レーザダイオードバーに対応する熱電対36に検知される温度を、レーザダイオードバー31が正常に動作する状態で当該レーザダイオードバー31に初期値(150A)の電流を流したときの温度にした(
図10参照)。また、不良レーザダイオードバーにより出射されるレーザ光のレーザ出力が39Wとなるようにした。このとき、レーザモジュール30全体の寿命は、69036時間となる。
【0065】
<実施例4>
10個のレーザダイオードバー31に、1個の不良レーザダイオードバーが存在し、当該不良レーザダイオードバーに30個の破損エミッタが含まれる場合に、不良レーザダイオードバーに流す電流を91Aに抑制することで、不良レーザダイオードバーに対応する熱電対36に検知される温度を、レーザダイオードバー31が正常に動作する状態で当該レーザダイオードバー31に初期値(150A)の電流を流したときの温度にした。また、不良レーザダイオードバーにより出射されるレーザ光のレーザ出力が22Wとなるようにした。このとき、レーザモジュール30全体の寿命は、61937時間となる。
【0066】
<比較例1>
10個のレーザダイオードバー31のうちの1つを、完全に発光させないようにし、残りの9個の各レーザダイオードバー31により出射されるレーザ光のレーザ出力が111Wとなるように、残りの9個の各レーザダイオードバー31に流す電流を164Aにした。このとき、レーザモジュール30全体の寿命は、49000時間となる。
【0067】
<比較例2>
10個のレーザダイオードバー31に、1個の不良レーザダイオードバーが存在し、当該不良レーザダイオードバーに20個の破損エミッタが含まれる場合に、不良レーザダイオードバーに流す電流を残りの9個の各レーザダイオードバー31に流す電流と等しくした。不良レーザダイオードバーの寿命が13000時間になると仮定すると、13000時間の経過後は、残りの9個の各レーザダイオードバー31だけが発振を続けるので、レーザモジュール30全体の寿命は、57000時間(13000時間+44000時間)よりも短くなる。
【0068】
実施例1~4では、比較例1,2に比べ、レーザモジュール30全体の寿命が長くなった。
【0069】
なお、上記実施形態1,2では、1つのレーザ装置20に含まれるレーザモジュール30及びレーザダイオードバー31の数を10個に設定したが、レーザ装置20に要求される最大出力やレーザ装置20の価格等に応じて他の個数に設定してもよい。
【0070】
また、上記実施形態1,2では、1つのレーザダイオードバー31に含まれるエミッタ31bの個数を50個に設定したが、レーザモジュール30に要求される最大出力やレーザダイオードバー31の価格等に応じて他の個数に設定してもよい。
【0071】
また、上記実施形態1,2では、可変抵抗21を電流調整部とし、可変抵抗21の抵抗値を制御部60により制御したが、レーザダイオードバー31毎に電源を設け、これら電源を電流調整部とし、これら電源の供給電流が制御部60により制御されるようにしてもよい。
【0072】
また、上記実施形態1,2では、レーザモジュール30のレーザダイオードバー31の近傍の温度を検知する熱電対36を破損検知部としたが、レーザダイオードバー31により出射されるレーザ光LB1の一部を反射させる反射板と、その反射光の光量を検知するフォトダイオードとを設け、フォトダイオードを破損検知部とし、反射光の光量の小ささを破損度合いとしてもよい。
【0073】
また、上記実施形態1のS108では、不良レーザダイオードバーを含むレーザモジュール30の熱電対36に検知される温度が、S104で算出した平均値を下回っているか否かを判定したが、予め設定された設定温度を下回っているか否かを判定するようにしてもよい。そして、不良レーザダイオードバーを含むレーザモジュール30の熱電対36に検知される温度が、設定温度を下回っている場合にはS102に戻る一方、下回っていない場合にはS106に進むようにしてもよい。設定温度は、例えば、レーザダイオードバー31の内部温度(LDバーの内部温度)が60℃になるときに熱電対36により検知される温度(レーザダイオードバー31の温度としてのレーザダイオードバー31の近傍の温度、例えば、35℃)以下に設定される(
図7参照)。
【0074】
また、上記実施形態1(
図8参照)のS108では、不良レーザダイオードバーを含むレーザモジュール30の熱電対36に検知される温度が、S104で算出した平均値を下回っているか否かを判定したが、S104で算出した平均値を所定値以上下回っているか否かを判定するようにしてもよい。
【0075】
また、上記実施形態1において、S105の特定処理に代えて、実施形態2(
図11参照)のS201の特定処理を実行してもよい。かかる場合でも、S108において、不良レーザダイオードバーを含むレーザモジュール30の熱電対36に検知される温度が、予め設定された設定温度を下回っているか否かを判定するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、複数のエミッタを有する複数のレーザダイオードバーと、前記複数のレーザダイオードバーにより出射されたレーザ光を結合させて出射するレーザ光学系とを備えたレーザ装置として有用である。
【符号の説明】
【0077】
20 レーザ装置
22 回折格子(レーザ光学系)
21 可変抵抗(電流調整部)
31 レーザダイオードバー
31b エミッタ
36 熱電対(破損検知部)
60 制御部
70 電源