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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】創傷治癒促進溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 41/00 20200101AFI20221223BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20221223BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
A61K41/00
A61K31/19
A61P17/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018203291
(22)【出願日】2018-10-29
(65)【公開番号】P2020070243
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】吉川 史隆
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
(72)【発明者】
【氏名】水野 正明
(72)【発明者】
【氏名】豊國 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】亀井 讓
(72)【発明者】
【氏名】蛯沢 克己
(72)【発明者】
【氏名】梶山 広明
(72)【発明者】
【氏名】芳川 修久
(72)【発明者】
【氏名】中村 香江
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】石川 健治
(72)【発明者】
【氏名】神藤 高広
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 陽大
(72)【発明者】
【氏名】東田 明洋
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-026574(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103695(WO,A1)
【文献】Sato, Y. et al.,Effect of Plasma-Activated Lactated Ringer's Solution on Pancreatic Cancer Cells In Vitro and In Vivo,Annals of Surgical Oncology,2018年01月,Vol.25, No.1,p.299-307,doi:10.1245/s10434-017-6239-y
【文献】Shi, X. M. et al.,Low-temperature Plasma Promotes Fibroblast Proliferation in Wound Healing by ROS-activated NF-κB Signaling Pathway,Current Medical Science,2018年02月,Vol.38, No.1,p.107-114,doi:10.1007/s11596-018-1853-x
【文献】Tanaka, H. et al.,Non-thermal atmospheric pressure plasma activates lactate in Ringer's solution for anti-tumor effects,Scientific Reports,2016年,Vol.6,36282
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 41/00
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
医中誌WEB
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希ガスによりパージした雰囲気内において、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液に希ガスのプラズマを照射する工程を有する
ことを特徴とする創傷治癒促進溶液の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の創傷治癒促進溶液の製造方法において、
前記水溶液は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有すること
を特徴とする創傷治癒促進溶液の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の創傷治癒促進溶液の製造方法において、
前記希ガスはArガスであることを特徴とする創傷治癒促進溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、創傷治癒促進溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ技術は、電気、化学、材料の各分野に応用されている。そして、近年においては、医療への応用が活発に研究されるようになってきた。プラズマの内部では、電子やイオン等の荷電粒子の他に、紫外線やラジカルが発生する。これらには、生体組織の殺菌をはじめとして、生体組織に対する種々の効果があることが分かってきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、プラズマの照射により、血液凝固(特許文献1の実施例4、段落[0063]-[0068]参照)と、組織滅菌(特許文献1の実施例5、段落[0069]-[0074]参照)と、リーシュマニア症(特許文献1の実施例6、段落[0075]-[0077]参照)といった、効果があることが記載されている。そして、メラノーマ細胞(悪性黒色腫細胞)を死滅させる効果があると記載されている(特許文献1の実施例7、段落[0078]参照)。
【0004】
また、特許文献2には、癌細胞を選択的に死滅させる抗腫瘍水溶液が開示されている(特許文献2の段落[0085]-[0087]および図16等参照)。この抗腫瘍水溶液は、培養液に大気圧プラズマを照射することにより、製造された水溶液である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2008-539007号公報
【文献】国際公開第2013/128905号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の研究開発において、褥瘡や創傷部の治癒を促進する効果を有する薬品の技術分野において、プラズマを用いたものはこれまでほとんど取り扱われてこなかった。
【0007】
本明細書の技術は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは、褥瘡や創傷部の治癒を促進する効果を有する創傷治癒促進溶液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様における創傷治癒促進溶液の製造方法は、希ガスによりパージした雰囲気内において、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液に希ガスのプラズマを照射する工程を有する。
【0009】
この製造方法により製造された創傷治癒促進溶液は、褥瘡や創傷部の治癒を促進する。つまり、創傷部の治癒を早める。そして、この創傷治癒促進溶液における創傷部の上皮化率は従来に比べて高い。
【発明の効果】
【0010】
本明細書では、褥瘡や創傷部の治癒を促進する効果を有する創傷治癒促進溶液の製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】プラズマ処理装置の概略構成を示す斜視図である。
図2】プラズマ処理装置のプラズマ照射部の斜視展開図である。
図3】プラズマ処理装置の中間ブロックの斜視図である。
図4】プラズマ処理装置のプラズマガスの供給系を説明するための斜視断面図である。
図5】実験におけるマウスの創傷部を説明するための図(その1)である。
図6】実験におけるマウスの創傷部を説明するための図(その2)である。
図7】実験におけるマウスの観察手順を示す図である。
図8】実験におけるマウスの創傷部の経過を示す写真である。
図9】創傷からある程度の日数が経過した創傷部を示す写真である。
図10】日数経過に応じた創傷部の面積率を示すグラフである。
図11】日数経過に応じた創傷部の上皮化率を示すグラフである。
図12】上皮化率が30%を超えるまでの日数を示すグラフである。
図13】日数経過に応じた創傷部の収縮率を示すグラフである。
図14】創傷部が完治するまでの日数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、具体的な実施形態について、創傷治癒促進溶液の製造方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
1.創傷治癒促進溶液の製造装置
本実施形態の創傷治癒促進溶液は、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射したものである。したがって、まず、創傷治癒促進溶液の製造装置であるプラズマ処理装置について説明する。
【0014】
1-1.プラズマ処理装置の構成
図1は、プラズマ処理装置100の概略構成を示す斜視図である。図1に示すように、プラズマ処理装置100は、プラズマ発生部110と、チャンバー120と、を有する。プラズマ発生部110は、プラズマを発生させる。チャンバー120は、水溶液を入れた容器を収容するとともに水溶液にプラズマを照射する雰囲気を制御するための反応室である。
【0015】
チャンバー120は、水溶液にプラズマを照射するための照射室である。チャンバー120は、観察窓121と、ガス供給口122と、ガス排出口123と、を有する。観察窓121は、チャンバー120の内部の様子を観察するための窓である。観察窓121を用いることにより、プラズマの発生を目視により確認することが可能である。
【0016】
ガス供給口122は、チャンバー120の内部の雰囲気ガスを供給するためのものである。例えば、ガス供給口122からArガスを供給する。これにより、チャンバー120の内部はArガスが充満している状態となる。このように、チャンバー120の内部の雰囲気ガスを制御することができる。
【0017】
ガス排出口123は、チャンバー120の内部のガスを排出するためのものである。
【0018】
図2は、プラズマ処理装置100のプラズマ照射部110の斜視展開図である。図2に示すように、プラズマ照射部110は、第1の電極111aと、第2の電極111bと、カバーケース112と、中間ブロック113と、ノズル部116と、を有する。
【0019】
第1の電極111aおよび第2の電極111bは、電極対である。第1の電極111aと第2の電極111bとの間に放電が生じることにより、プラズマが発生する。カバーケース112は、絶縁性のケースである。カバーケース112は、プラズマ照射部110を全体的に覆っている。中間ブロック113は、第1の電極111aおよび第2の電極111bの周囲を囲うとともにプラズマ発生領域となる空間を画定するためのものである。中間ブロック113は、貫通孔114を有している。ノズル部116は、プラズマを照射するスリット117を有する。
【0020】
図3は、プラズマ処理装置100の中間ブロック113の斜視図である。図3に示すように、中間ブロック113は、凹部115aと凹部115bと凹部115cとを有する。凹部115aは、第1の電極111aを非接触で覆うためのものである。凹部115bは、第2の電極111bを非接触で覆うためのものである。凹部115cは、凹部115aと凹部115bとを連通するための連通部である。
【0021】
図4は、プラズマ処理装置100のプラズマガスの供給系を説明するための斜視断面図である。図4に示すように、プラズマ発生部110は、第1の供給管118aと、第2の供給管118bと、第3の供給管119と、を有する。
【0022】
第1の供給管118aは、第1の電極111aを冷却するためのものである。第2の供給管118bは、第2の電極111bを冷却するためのものである。そのため、第1の供給管118aおよび第2の供給管118bは、例えば、Arガス等の希ガスを供給すればよい。
【0023】
第3の供給管119は、第1の供給管118aおよび第2の供給管118bの間に配置されている。第3の供給管119は、プラズマガスを供給するためのものである。第3の供給管119は、第1の電極111aと第2の電極111bとの間の空間にプラズマガスを供給する。第3の供給管119がガスを供給する位置は、例えば、中間ブロック113の凹部115cである。
【0024】
1-2.プラズマ処理装置の動作
まず、ガス供給口122にチャンバー120をパージするためのガスを供給しつつ、ガス排出口123からチャンバー120の内部のガスを排出する。これにより、チャンバー120の内部では、ガス供給口122から供給したガスが充満する。
【0025】
次に、第1の供給管118aおよび第2の供給管118bに例えばArガスを流しながら第1の電極111aおよび第2の電極111bを冷却する。この状態で、第3の供給管119から中間ブロック113の凹部115cにプラズマガスを供給する。プラズマガスは例えばArガスである。そして、第1の電極111aと第2の電極11bとの間に高周波の電圧を印加する。これにより、第1の電極111aと第2の電極111bとの間に放電が生じる。このようにして、第1の電極111aと第2の電極111bとの間のプラズマ発生領域PG1にプラズマが発生する。
【0026】
2.創傷治癒促進溶液の製造方法
本実施形態の創傷治癒促進溶液は、皮膚上の傷の治癒を促進する溶液である。この創傷治癒促進溶液は、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射したものである。創傷治癒促進溶液の製造方法について、以下に説明する。
【0027】
2-1.水溶液準備工程
まず、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液を準備する。この水溶液として、例えば、ラクテック(登録商標)が挙げられる。ラクテック(登録商標)は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、L-乳酸ナトリウムと、を含有する。塩化ナトリウムの濃度は、6.0g/Lである。塩化カリウムの濃度は、0.3g/Lである。塩化カルシウム水和物の濃度は、0.2g/Lである。L-乳酸ナトリウムの濃度は、3.1g/Lである。
【0028】
2-2.プラズマ照射工程
次に、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射する。その際に、プラズマガスおよび雰囲気ガスをArガスのみとする。チャンバー120の内部をArガスでパージする。そのため、チャンバー120の内部には、窒素ガスや酸素ガス等の大気由来のガスがほとんど存在しない。そして、第1の供給管118aおよび第2の供給管118bに例えばArガスを流しながら、第3の供給管119から中間ブロック113の凹部115cにプラズマガスを供給する。この状態で、第1の電極111aと第2の電極111bとの間に交流電圧を印加する。これにより、第1の電極111aと第2の電極111bとの間に放電が生じ、第1の電極111aと第2の電極111bとの間にプラズマが発生する。このように、希ガスによりパージした雰囲気内で水溶液にプラズマを照射する。
【0029】
印加電圧は、例えば、1kV以上10kV以下である。交流電圧の周波数は、例えば、10kHz以上10MHz以下である。水溶液の液面とノズル部116のスリット117との間の照射距離は、例えば、1mm以上10mm以下である。
【0030】
3.創傷治癒促進溶液の効果
得られた溶液は、プラズマ活性化水溶液(PAL:Plasma Activated Lactec(Lactecは登録商標))である。PALは、生物が傷を自己治癒することを促進する効果を有する。
【0031】
なお、有効成分については必ずしも明らかではない。水溶液が含有する溶質と、水と、に由来する成分が、L-乳酸ナトリウムと反応することにより、何らかの有効成分が発生したと考えられる。しかし、水溶液から有効成分のみを単離することは容易ではない。そして、有効成分そのものを特定することも決して容易ではない。なお、チャンバー120の内部をArガスでパージしているため、窒素原子に由来する粒子が水溶液に混入することはほとんどない。
【0032】
4.変形例
4-1.プラズマガス
本実施形態では、プラズマガスおよびパージ用ガスはArガスである。しかし、He等、その他の希ガスを用いてもよい。
【0033】
(実験)
1.水溶液の作製
2種類の水溶液を準備した。2種類の水溶液はPAL(プラズマ照射有り)およびラクテック(プラズマ照射無し)である。ラクテック(登録商標)は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、L-乳酸ナトリウムと、を含有する。塩化ナトリウムの濃度は、6.0g/Lである。塩化カリウムの濃度は、0.3g/Lである。塩化カルシウム水和物の濃度は、0.2g/Lである。L-乳酸ナトリウムの濃度は、3.1g/Lである。
【0034】
プラズマを照射するにあたって、10mLのラクテック(登録商標)にプラズマを照射した。照射距離は4mmであった。照射時間は10分であった。
【0035】
2.マウス
糖尿病マウス(db/dbマウス)を用いた。糖尿病マウスは生まれてから10週後のオスであった。
【0036】
3.傷の形成
図5に示すように、直径8mmの生検トレパンでマウスの皮膚に円形の傷を形成した。図6に示すように、傷の表面をスプリント材で覆い、接着剤と縫合によりスプリント材をマウスに固定した。また、その固定箇所をフィルムドレッシングで被覆した。傷の形成箇所は、図6に示すように、マウスの首から背中にかけての領域のうち左右2箇所であった。6匹のマウスを用いたため、N数は12であった。
【0037】
4.実験手順
図7は、実験の観察手順を示す図である。0日目にマウスに傷を形成し、1日目に2種類の水溶液のいずれかを傷に投与した。水溶液を供給する際には、PALについては100倍に希釈し、ラクテック(登録商標)については希釈することなくそのまま用いた。そして、図7に示す日に評価を行った。
【0038】
5.実験結果
図8は、マウスの創傷部の経過を示す写真である。図8において、PALの表記は、プラズマを照射した水溶液を投与した傷を示し、Ctrlの表記は、プラズマを照射していないラクテック(登録商標)を投与した傷を示している。図8に示すように、PALを供給した傷の治癒速度は、ラクテック(登録商標)を供給した傷の治癒速度よりも早い傾向を有する。
【0039】
図9に示すように、創傷後ある程度の日数が経過したときには、周辺部における傷が治癒した領域と、中央部における傷が未だ残っている領域とが存在する。傷が治癒した領域のうち外側には、皮膚が収縮した領域がある。傷が治癒した領域のうち内側には、上皮化した領域がある。なお、ヒトにおいては、皮膚の収縮はほとんど起きない。
【0040】
図10は、日数経過に応じた創傷部の面積率を示すグラフである。創傷部の面積率とは、直径8mmの円の面積に対する傷の面積の比である。図10に示すように、傷を形成してから日数が経過するにしたがって、創傷部の面積率が減少している。PALを用いた創傷部の面積率の減少速度は、ラクテック(登録商標)を用いた創傷部の面積率の減少速度よりも速い。
【0041】
図11は、日数経過に応じた創傷部の上皮化率を示すグラフである。創傷部の上皮化率とは、直径8mmの円の面積に対する上皮化した領域の面積の比である。図11に示すように、日数の経過とともに上皮化率は上昇し、ある程度の値で飽和する。PALを用いた場合には、50%を超えたあたりで上皮化率は飽和する。ラクテック(登録商標)を用いた場合には、45%程度で上皮化率は飽和する。
【0042】
図11に示すように、PALを用いた場合の上皮化率の増加速度は、PALを用いなかった場合の上皮化率の増加速度よりもやや速い。また、PALを用いた場合の上皮化率の上限値は、PALを用いなかった場合の上皮化率の上限値よりも高い。なお、上皮化率がやや低い値で飽和することは、図9に示すように、収縮した領域が創傷部に発生するためであると考えられる。
【0043】
図12は、上皮化率が30%を超えるまでの日数を示すグラフである。図12に示すように、PALを用いた場合に上皮化率が30%を超える日数は7日程度である。PALを用いなかった場合に上皮化率が30%を超える日数は9日程度である。このように、PALを用いることにより、創傷が早期に回復することが明らかとなった。
【0044】
図13は、日数経過に応じた創傷部の収縮率を示すグラフである。創傷部の収縮率とは、直径8mmの円の面積に対する収縮領域の面積の比である。図13に示すように、PALを用いた場合の創傷部の収縮率の増加速度は、PALを用いなかった場合の創傷部の収縮率の増加速度よりもやや速い。
【0045】
図14は、創傷部が完治するまでの日数を示すグラフである。図14に示すように、PALを用いた場合に創傷部が完治するまでの日数は16日である。PALを用いなかった場合に創傷部が完治するまでの日数は20日である。
【0046】
6.実験のまとめ
PALを用いた場合にはPALを用いなかった場合に比べて、創傷部が早く治る。また、図11に示すように、PALを用いた場合にはPALを用いなかった場合に比べて、上皮化率が大きい。
【0047】
(付記)
第1の態様における創傷治癒促進溶液の製造方法は、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射する工程を有する。
【0048】
第2の態様における創傷治癒促進溶液の製造方法においては、プラズマを照射する工程では、希ガスによりパージした雰囲気内で水溶液にプラズマを照射する。
【0049】
第3の態様における創傷治癒促進溶液の製造方法においては、水溶液は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する。
【符号の説明】
【0050】
100…プラズマ処理装置
110…プラズマ発生部
111a…第1の電極
111b…第2の電極
112…カバーケース
113…中間ブロック
116…ノズル部
120…チャンバー
121…観察窓
122…ガス供給口
123…ガス排出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14