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特許7199054サンプル中の元素の質量分析方法、該質量分析方法に用いる分析用デバイス、および、サンプル捕捉用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】サンプル中の元素の質量分析方法、該質量分析方法に用いる分析用デバイス、および、サンプル捕捉用キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20221223BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N1/00 101H
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018210123
(22)【出願日】2018-11-07
(65)【公開番号】P2020076645
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】安井 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】馬場 嘉信
(72)【発明者】
【氏名】青木 元秀
(72)【発明者】
【氏名】梅村 知也
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-268221(JP,A)
【文献】国際公開第2004/003531(WO,A1)
【文献】特表2007-529001(JP,A)
【文献】特表2018-508752(JP,A)
【文献】特表2008-542712(JP,A)
【文献】再公表特許第2007/055293(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 1/00 - G01N 1/44
H01J 49/00 - H01J 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の元素の質量分析方法であって、該質量分析方法は、
サンプルを分析用デバイスに捕捉するサンプル捕捉工程と、
分析用デバイスに予め設けられており、所定量の元素が含まれる検量用元素を測定する検量用元素測定工程と、
前記サンプル捕捉工程で捕捉したサンプル中に含まれる元素を測定するサンプル中元素測定工程と、
前記検量用元素測定工程の測定結果、および、前記サンプル中元素測定工程の測定結果から、前記サンプル中に含まれる元素の量を分析するサンプル中元素分析工程と、
を含み、
前記検量用元素は、
分析用デバイスの第1基板の第1面であって且つサンプルを捕捉するサンプル捕捉領域とは異なる領域に設けられ、
同一種類の元素であって且つ元素量が異なるドットを含む、
質量分析方法。
【請求項2】
前記サンプル捕捉工程の後に、捕捉したサンプルを洗浄するサンプル洗浄工程を含む、
請求項1に記載の質量分析方法。
【請求項3】
前記サンプル洗浄工程の後に、捕捉したサンプルを乾燥するサンプル乾燥工程を含む、
請求項2に記載の質量分析方法。
【請求項4】
前記分析用デバイスは、
第1基板、
または、
前記第1基板及び該第1基板とは分離可能な第2基板、
を含み、
前記所定量の元素が含まれる検量用元素は、前記第1基板の第1面に形成され、
前記第1基板または前記第2基板の第1面には、分析対象サンプルを捕捉するサンプル捕捉領域が形成されている、
請求項1~3の何れか一項に記載の質量分析方法。
【請求項5】
前記サンプル捕捉領域には、サンプルを捕捉するサンプル捕捉孔が形成されている、
請求項4に記載の質量分析方法。
【請求項6】
サンプル中の元素の分析に用いる分析用デバイスであって、該分析用デバイスは、
第1基板と、
該第1基板の第1面であって且つサンプルを捕捉するサンプル捕捉領域とは異なる領域に設けられ、サンプル中に含まれる元素の分析に用いるための所定量の元素が含まれる検量用元素ドットと、
を含み、
前記検量用元素ドットは、同一種類の元素であって且つ元素量が異なるドットを含む、分析用デバイス。
【請求項7】
前記第1基板の第1面には、分析対象サンプルを捕捉するサンプル捕捉領域が形成されている、
請求項6に記載の分析用デバイス。
【請求項8】
前記第1基板とは分離可能な第2基板を更に含み、
前記第2基板の第1面には、分析対象サンプルを捕捉するサンプル捕捉領域が形成されている、
請求項6に記載の分析用デバイス。
【請求項9】
前記サンプル捕捉領域には、サンプルを捕捉するためのサンプル捕捉孔が形成されている、
請求項7または8に記載の分析用デバイス。
【請求項10】
前記検量用元素ドットが、前記第1基板の第1面に設けられた検量用元素ドット孔に設けられている、
請求項6~9の何れか一項に記載の分析用デバイス。
【請求項11】
請求項7~10の何れか一項に記載の分析用デバイス、および、
サンプルが含まれるサンプル液を、前記分析用デバイスのサンプル捕捉領域に流すためのカバー部材を更に含み、
前記カバー部材は、
サンプル液を投入するためのサンプル投入流路と、
投入したサンプル液を回収するためのサンプル回収流路と、
投入したサンプル液が前記検量用元素ドットに流れ込むことを防止するための検量用元素ドット保護領域と、
前記サンプル投入流路と前記サンプル回収流路とに接続し、前記サンプル捕捉領域にサンプル液を供給・接触させるためのサンプル接触流路と、
を含む、
分析用デバイスのサンプル捕捉領域にサンプルを捕捉するためのサンプル捕捉用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、サンプル中の元素の質量分析方法(以下、単に「分析方法」と記載することがある。)、該分析方法に用いる分析用デバイス、および、サンプル捕捉用キットに関する。より具体的には、個々のサンプル中に含まれる元素を、作業効率よく分析するための分析方法、および、該分析方法に用いる分析用デバイス、分析用デバイスのサンプル捕捉領域にサンプルを捕捉するためのサンプル捕捉用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単一細胞に対する微量元素分析の関心が高まっている。2004年には、単一生体細胞中に存在する微量元素の生命活動・機能発現に対する関与を調査するメタロミクスという学問領域が提唱された。単一細胞中の全元素分析が実現すると、被検体から採取した細胞に含まれる元素を、正常細胞に含まれる元素と比較することで、病気の発症等を細胞単位で診断することが可能となることから、高精度の元素分析手法が求められている。
【0003】
細胞に含まれる元素の分析方法としては、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma,ICP)をイオン化源として用いる誘導結合プラズマ質量分析法(ICP Mass Spectrometry,以下「ICP-MS」と記載することがある。)が多元素の高感度分析が可能であることから、一般的に利用されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Shin-ichi Miyashita et al., “Highly efficient single-cell analysis of microbial cells by time-resolved inductively coupled plasma mass spectrometry”, J. Anal. At. Spectrom., 2014, 29, 1598-1606, DOI:10.1039/c4ja00040d
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ICP-MSでサンプルを測定し、サンプル中に含まれる元素量を分析するためには、既知の濃度の元素をICP-MSで分析して検量線や計算式(以下、「検量線等」と記載することがある。)を作成し、サンプルの測定結果から検量線等を用いて、サンプル中の測定対象元素の含有量を分析する必要がある。ところで、ICP-MSを用いてサンプルの分析精度を向上するためには、サンプルの分析途中であっても、定期的に既知の濃度の元素を分析し、検量線等を修正または有効性の検証をする必要がある。
【0006】
非特許文献1に記載されている分析方法は、細胞を分散した溶液をICP-MSに導入する方法である。そのため、検量線等を作成、修正、及び、検証する際にも、既知の濃度の元素を溶解した溶液をICP-MSに導入する必要がある。この検量線等を作成するためには、濃度が異なる検量用の元素を溶解した溶液(以下、「検量用元素溶液」と記載する。)を複数種類用意する必要がある。しかしながら、検量用元素溶液を複数種類準備し、サンプルの分析前、さらには分析の途中においてもサンプル溶液から検量用元素溶液に切り替え、ICP-MSに導入して精度管理を行うことは、作業効率を著しく低下させるという問題がある。また、検量用元素溶液が蒸発等により濃度が変わると作成した検量線等が不正確となることから、結果としてサンプルの分析精度が低下する。そのため、検量用元素溶液は厳格な保管及びスペースが必要であり、作業効率が悪くなるという問題もある。したがって、サンプルの分析作業効率がよい分析方法および当該分析方法に用いるデバイス等の開発が期待される。
【0007】
本出願における開示は、上記問題点を解決するためになされたものであり、鋭意研究を行ったところ、(1)所定量の元素が含まれる検量用元素ドットが形成された分析用デバイスを形成し、(2)分析用デバイスまたはサンプル捕捉用デバイスにサンプルを捕捉し、捕捉したサンプルと予め分析用デバイスに形成した検量用元素ドットを測定することで、(3)従来のように、別途検量用の元素溶液を準備する必要が無く、捕捉したサンプルおよび検量用元素の両方を直接測定できることから、作業効率が向上すること、を新たに見出した。
【0008】
すなわち、本出願における開示の目的は、サンプルの分析途中で検量用元素溶液に切り替える必要がない分析方法、該分析方法に用いるための分析用デバイス、分析用デバイスのサンプル捕捉領域にサンプルを捕捉するためのサンプル捕捉用キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願における開示は、以下に示す、サンプル中の元素の分析方法、該分析方法に用いる分析用デバイス、および、サンプル捕捉用キットに関する。
【0010】
(1)サンプル中の元素の質量分析方法であって、該質量分析方法は、
サンプルを分析用デバイスに捕捉するサンプル捕捉工程と、
分析用デバイスに予め設けられており、所定量の元素が含まれる検量用元素を測定する検量用元素測定工程と、
前記サンプル捕捉工程で捕捉したサンプル中に含まれる元素を測定するサンプル中元素測定工程と、
前記検量用元素測定工程の測定結果、および、前記サンプル中元素測定工程の測定結果から、前記サンプル中に含まれる元素の量を分析するサンプル中元素分析工程と、
を含む、質量分析方法。
(2)前記サンプル捕捉工程の後に、捕捉したサンプルを洗浄するサンプル洗浄工程を含む、
上記(1)に記載の質量分析方法。
(3)前記サンプル洗浄工程の後に、捕捉したサンプルを乾燥するサンプル乾燥工程を含む、
上記(2)に記載の質量分析方法。
(4)前記分析用デバイスは、
第1基板、
または、
前記第1基板及び該第1基板とは分離可能な第2基板、
を含み、
前記所定量の元素が含まれる検量用元素は、前記第1基板の第1面に形成され、
前記第1基板または前記第2基板の第1面には、分析対象サンプルを捕捉するサンプル捕捉領域が形成されている、
上記(1)~(3)の何れか一つに記載の質量分析方法。
(5)前記サンプル捕捉領域には、サンプルを捕捉するサンプル捕捉孔が形成されている、
上記(4)に記載の質量分析方法。
(6)サンプル中の元素の分析に用いる分析用デバイスであって、該分析用デバイスは、
第1基板と、
該第1基板の第1面に設けられ、サンプル中に含まれる元素の分析に用いるための所定量の元素が含まれる検量用元素ドットと、
を含む、分析用デバイス。
(7)前記第1基板の第1面には、分析対象サンプルを捕捉するサンプル捕捉領域が形成されている、
上記(6)に記載の分析用デバイス。
(8)前記第1基板とは分離可能な第2基板を更に含み、
前記第2基板の第1面には、分析対象サンプルを捕捉するサンプル捕捉領域が形成されている、
上記(6)に記載の分析用デバイス。
(9)前記サンプル捕捉領域には、サンプルを捕捉するためのサンプル捕捉孔が形成されている、
上記(7)または(8)に記載の分析用デバイス。
(10)前記検量用元素ドットが、前記第1基板の第1面に設けられた検量用元素ドット孔に設けられている、
上記(6)~(9)の何れか一つに記載の分析用デバイス。
(11)上記(7)~(10)の何れか一つに記載の分析用デバイス、および、
サンプルが含まれるサンプル液を、前記分析用デバイスのサンプル捕捉領域に流すためのカバー部材を更に含み、
前記カバー部材は、
サンプル液を投入するためのサンプル投入流路と、
投入したサンプル液を回収するためのサンプル回収流路と、
投入したサンプル液が前記検量用元素ドットに流れ込むことを防止するための検量用元素ドット保護領域と、
前記サンプル投入流路と前記サンプル回収流路とに接続し、前記サンプル捕捉領域にサンプル液を供給・接触させるためのサンプル接触流路と、
を含む、
分析用デバイスのサンプル捕捉領域にサンプルを捕捉するためのサンプル捕捉用キット。
【発明の効果】
【0011】
本出願で開示する分析用デバイスを用いたサンプル中の元素の分析方法は、サンプルの分析途中で検量用元素溶液に切り替える必要がない。したがって、サンプル中の元素の分析効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1Aおよび図1Bは、第1の実施形態に係るデバイス1aの概略を説明するための図である。
図2図2Aおよび図2Bは、第2の実施形態に係るデバイス1bの概略を説明するための図である。
図3図3A乃至図3Dは、第3の実施形態に係るデバイス1cおよび変形例の概略を説明するための図である。
図4図4A乃至図4Dは、第4の実施形態に係るデバイス1dおよび変形例の概略を説明するための図である。
図5図5A乃至図5Cは、サンプル捕捉用キット10の概略を説明するための図である。
図6図6は、LA-ICP-MSを用いた分析方法の概略を示す図である。
図7図7は、分析方法の実施形態のフローチャートである。
図8図8Aは、実施例1で作製したデバイスの第1基板の第1面の設計イメージを表す図である。図8Bは図面代用写真で、実施例1で作製したデバイスのサンプル捕捉領域を拡大した写真である。
図9図9は図面代用写真で、実施例2で培養した細胞の写真である。
図10図10Aおよび図10Bは、実施例2の検量用元素測定工程で測定した結果から作成したFeとCuの検量線である。
図11図11は、実施例2のサンプル中元素測定工程で測定したFeの測定結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、サンプル中の元素の分析に用いる分析用デバイス(以下、単に「デバイス」と記載することがある。)、および、サンプル中の元素の分析方法(以下、単に「分析方法」と記載することがある。)について、詳しく説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一または類似の符号が付されている。そして、同一または類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0014】
(デバイスの第1の実施形態)
図1A及び図1Bを参照して、第1の実施形態に係るデバイス1aについて説明する。図1Aはデバイス1aの上面図、図1B図1AのX-X’断面図である。図1A及び図1Bに示す例では、デバイス1aは、第1基板2a、検量用元素ドット3を少なくとも含んでいる。なお、本明細書において「検量用元素ドット」とは、検量用として測定される元素の集合体を意味する。検量用元素ドット3は、第1基板2aの第1面21に形成され、後述する分析方法の際に、サンプル中に含まれる元素量の分析に用いられる。そのため、検量用元素ドット3には、予め設定した量(所定量)の元素が含まれている。図1Bに示す例では、例えば、同一種類の元素を3a~3dの順に元素量が異なるように第1基板2aに設けている。
【0015】
第1面21に形成する検量用元素ドット3は、ICP-MS、LA-ICP-MS、MALDI-MS等の分析方法で分析可能な元素に対応していれば特に制限はなく、1種類の元素であってもよいし、複数種類であってもよい。上記の分析方法で分析可能な元素としては、例えば、金属元素、半金属元素、非金属元素等が挙げられる。金属元素としては、例えば、鉄、銅、亜鉛、コバル卜、モリブデン、カルシウム、マグネシウム、マンガン、セレン、クロム、鉛、水銀、カドミウム等が挙げられる。半金属元素としては、例えば、セレン、ヒ素等が挙げられる。非金属元素としては、リン等が挙げられる。
【0016】
第1基板2aを作製する材料は、分析方法に応じて決めればよい。例えば、分析方法がICP-MSの場合は、後述する方法で第1基板2aに形成した検量用元素ドット3に溶媒を滴下し、溶液化した元素をICP-MSに投入すればよいことから、材料はICP-MSで一般的に用いられている酸や酸化剤(硝酸、過酸化水素水等)に溶解しない材料であればよい。例えば、ガラス、Si、SiO等が挙げられる。また、分析方法が、LA-ICP-MSの場合は、検量用元素ドット3にレーザー光を照射し、そのエネルギーで検量用元素ドット3を蒸発・微粒子化するが、その際に、レーザー光により第1基板2aの表面も蒸発する可能性がある。そのため、第1基板2aを作製する材料は、サンプル中の分析対象元素と重複しない原料で形成されることが好ましい。例えば、サンプルとして細胞を用いた場合、細胞中にはほとんど含まれないSi、SiO、石英ガラス等を用いればよい。また、レーザーアブレーションを用いた分析方法として、MALDI-MSを用いることもできる。その場合は、LA-ICP-MSと同様のSi、SiO、石英ガラスに加え、アルミニウムを用いることができる。
【0017】
検量用元素ドット3は、取扱の利便性のため、乾燥した状態が好ましい。検量用元素ドット3は、例えば、第1基板2aの第1面21の検量用元素ドット3を載置する部分を親水化処理し、元素溶液を親水化処理した部分に滴下し、乾燥することで作製することができる。親水化処理は、第1面21にマスクを被せ、プラズマ処理やSiOの堆積等の公知の親水化処理方法で実施すればよい。検量用元素ドット3を載置する部分が、当該部分を囲む部分より親水化度が高いことから、元素溶液を滴下すると液滴状となり、隣接する元素溶液と混合しない。そのため、予め設定した量の元素を、検量用元素ドット3として作製できる。
【0018】
(デバイスの第2の実施形態)
図2A及び図2Bを参照して、第2の実施形態に係るデバイス1bについて説明する。図2Aはデバイス1bの上面図、図2B図2AのY-Y’断面図である。図2A及び図2Bに示す例では、デバイス1bの第1面21に設けられた検量用元素ドット孔22に、検量用元素ドット3が設けられている点で、第1の実施形態と異なる。第2の実施形態に係るデバイス1bは、検量用元素ドット孔22に検量用元素ドット3が設けられていることから、(1)隣接する含有量が異なる検量用元素ドット3同士が接触する可能性が、第1の実施形態に係るデバイス1aと比較してより少なくなる、(2)検量用元素ドット3は検量用元素ドット孔22の中に配置されることから、取扱中に検量用元素ドット3が第1基板2aから脱落する可能性が、第1の実施形態に係るデバイス1aより小さくなる、という効果を奏する。
【0019】
第2の実施形態に係るデバイス1bの検量用元素ドット孔22は、公知の方法で作製することができる。例えば、凸部を有する鋳型を作製し、第1基板21を作製する材料に転写すればよい。また、フォトリソグラフィを用い、エッチングにより第1面21に検量用元素ドット孔22を形成してもよい。フォトリソグラフィを用いて検量用元素ドット孔22を形成する場合は、公知のネガ型またはポジ型のレジストを第1基板2aの第1面21に塗布し、検量用元素ドット孔22を形成する箇所のレジストを除去できるようにフォトマスク・露光・現像を行い、ドライエッチング等により検量用元素ドット孔22を形成すればよい。
【0020】
検量用元素ドット3は、第1の実施形態と同様に作製すればよい。また、第2の実施形態に係るデバイス1bには検量用元素ドット孔22が形成されていることから、例えば、元素が吸着した担体を検量用元素ドット孔22内に配置してもよい。例えば、所定量の元素イオンを表面に吸着させたイオン交換樹脂を、検量用元素ドット孔22内に配置する実施形態が挙げられる。
【0021】
第1および第2の実施形態に係るデバイス1は、後述するサンプル捕捉領域を有していない。したがって、サンプルを分析する際には、別途準備したサンプル捕捉用デバイスに捕捉したサンプルと、第1および第2の実施形態に係るデバイス1とを接続し、一つの分析用デバイスに組み上げて分析すればよい。サンプル捕捉用デバイスは、後述するサンプル捕捉領域を有する基板を用いればよい。
【0022】
(デバイスの第3の実施形態および変形例)
図3A及び図3Bを参照して、第3の実施形態に係るデバイス1cについて説明する。図3Aはデバイス1cの上面図、図3B図3AのX-X’断面図である。図3A及び図3Bに示す例では、第1基板2aの第1面21に、分析対象サンプルを捕捉するサンプル捕捉領域23が形成されている点で、第1の実施形態に係るデバイス1aと異なり、その他の点はデバイス1aと同じである。デバイス1cは、検量用元素を準備する手順が不要であり、直ちにデバイス1cを用いて捕捉したサンプルを分析できるという効果を奏する。
【0023】
サンプル捕捉領域23は、分析対象サンプルを捕捉できれば特に制限はない。例えば、第1の実施形態と同様、サンプル捕捉領域23に親水性領域および疎水性領域を形成し、親水性領域にサンプルを含んだサンプル液を滴下すればよい。また、サンプルが生体分子の場合、当該生体分子と特異的に結合する抗体、或いは、脂質2重膜等をサンプル捕捉領域23に設けておき、サンプル溶液中のサンプルを捕捉できるようにしてもよい。また、第1面21を特に表面処理をすることなく、インクジェット技術を用いて、単一細胞等を第1面21に配列してもよい。なお、基板として石英やガラスを用いた場合は、必要に応じて、第1面21に生体分子を捕捉し易くするための官能基等を導入してもよい。
【0024】
分析対象サンプルとしては、動物細胞、植物細胞、細菌、酵母、生体分子片の生物サンプル、或いは、PM2.5等の非生物サンプル等が挙げられる。
【0025】
次に、図3C及び図3Dを参照して、第3の実施形態に係るデバイス1cの変形例について説明する。図3Cはデバイス1cの変形例の上面図、図3D図3CのX-X’断面図である。第3の実施形態に係るデバイス1cの変形例は、第1基板2aとは分離可能な第2基板2bを更に含み、サンプル捕捉領域23が、第2基板2bに形成されている点で、第3の実施形態に係るデバイス1cと異なり、その他の点はデバイス1cと同じである。第3の実施形態に係るデバイス1cの変形例は、分析対象サンプルをデバイス捕捉領域23に捕捉する際に、検量用元素ドット3が形成された第1基板2aと分離できる。したがって、後述するサンプル捕捉工程の際に、サンプル液が検量用元素ドット3を形成した領域に侵入する恐れがないという効果を奏する。
【0026】
第2基板2bは、第1基板2aと分離できれば特に制限はない。例えば、第2基板2bと第1基板2aの一方に凸部、他方に凹部を形成することで、両者を係合可能とすればよい。また、第2基板2bと第1基板2aの係合面を粘着性の材料で形成することで、係合可能としてもよい。
【0027】
(デバイスの第4の実施形態および変形例)
図4A及び図4Bを参照して、第4の実施形態に係るデバイス1dについて説明する。図4Aはデバイス1dの上面図、図4B図4AのY-Y’断面図である。図4A及び図4Bに示す例では、第1基板2aの第1面21に、分析対象サンプルを捕捉するサンプル捕捉領域23が形成され、更に、サンプル捕捉領域23にサンプルを捕捉するためのサンプル捕捉孔24が形成されている点で、第2の実施形態に係るデバイス1bと異なり、その他の点はデバイス1bと同じである。
【0028】
サンプル捕捉領域23に形成されるサンプル捕捉孔24は、第2の実施形態に係るデバイス1bの検量用元素ドット孔22と同様の手順で作製すればよい。サンプル捕捉孔24の形状および大きさは、分析対象サンプルを捕捉できれば特に制限はなく、サンプルに応じて適宜調整すればよい。なお、従来技術に記載のとおり、近年は単一細胞に対する微量元素分析の関心が高まっている。したがって、単一細胞中に含まれる微量元素を分析する場合には、サンプル捕捉孔24の大きさを、分析対象細胞と同じ又はやや大きくし、分析対象細胞を一個のみ捕捉できるようにしてもよい。第4の実施形態に係るデバイス1dを用いることで、複数の細胞中に含まれる元素の平均値ではなく、単一細胞中に含まれる元素を分析できる。また、第4の実施形態に係るデバイス1dは、第1基板2aまたは第2基板2b上のサンプル捕捉領域23に捕捉した単一細胞を整列させることができる。そのため、後述する分析方法による分析の前に、CCDカメラ等の撮像装置で単一細胞を撮影し、画像解析により細胞の大きさを測定することで、単一細胞に含まれる元素を分析する際に、細胞の大きさに基づき測定結果を補正することもできる。
【0029】
分析対象サンプルのサイズが小さい場合、サンプル捕捉孔24も小さくなるが、サンプル捕捉孔24が小さすぎると、サンプル溶液がサンプル捕捉孔24に入りにくくなる。したがって、サンプル捕捉領域23にサンプル捕捉孔24を形成する場合は、サンプル捕捉領域23を親水化処理してもよい。親水化処理は、プラズマ照射、原子層堆積法(ALD)によるSiOの堆積等、公知の方法で行えばよい。
【0030】
次に、図4C及び図4Dを参照して、第4の実施形態に係るデバイス1dの変形例について説明する。図4Cはデバイス1dの変形例の上面図、図4D図4CのY-Y’断面図である。第4の実施形態に係るデバイス1dの変形例は、第3の実施形態と同様、第1基板2aとは分離可能な第2基板2bを更に含み、サンプル捕捉領域23およびサンプル捕捉孔24が、第2基板2bに形成されている点で、第4の実施形態に係るデバイス1dと異なり、その他の点はデバイス1dと同じである。
【0031】
第4の実施形態に係るデバイス1dおよび変形例は、第3の実施形態に係るデバイス1cおよび変形例の効果に加え、次の効果も奏する。サンプルが細胞の場合、一般的に細胞は培養液で培養されるが、培養液中には微量の元素が含まれる。したがって、単一細胞中の元素をより正確に分析するには、培養液につてもICP-MS等で分析し誤差補正をする必要があり、分析作業が煩雑となる。一方、細胞を洗浄後、純水に懸濁して分析することも考えられるが、細胞の種類により時間は異なるものの、浸透圧の関係で細胞がバーストしてしまい、単一細胞中の元素の測定が困難になる場合がある。一方、第4の実施形態に係るデバイス1dおよびその変形例では、サンプル捕捉孔24に細胞を捕捉できる。そのため、細胞をサンプル捕捉孔24に捕捉後、培養液を純水で数回洗浄した後放置することで細胞がバーストしても、バーストした細胞の内容物は、サンプル捕捉孔24内に残留する。したがって、培養液に含まれる元素の誤差補正をすることなく、単一細胞中に含まれる元素をより正確に分析できるという効果も奏する。
【0032】
なお、第3の実施形態および第4の実施形態に係るデバイス1は、それぞれの特徴を組合わせてもよい。例えば、第3の実施形態に係るデバイス1cおよび変形例のサンプル捕捉領域23に、第4の実施形態と同様のサンプル捕捉孔24を形成してもよい。また、第4の実施形態に係るデバイス1dおよび変形例のサンプル捕捉領域23を、第3の実施形態と同様に、サンプル捕捉孔24を形成しなくしてもよい。
【0033】
(サンプル捕捉用キットの実施形態)
図5A乃至図5Cを参照して、サンプル捕捉用キットについて説明する。図5Aはサンプル捕捉用キットの概略を示す図、図5Bは第2カバー部材を取り除いた状態のデバイス1dの上面図、図5Cはサンプル捕捉用キットの作用を説明するための図である。第5の実施形態に係るサンプル捕捉用キットは、サンプル捕捉領域23が形成されている第3の実施形態に係るデバイス1cおよび第4の実施形態に係るデバイス1dにおいて、サンプルが含まれるサンプル液を、サンプル捕捉領域23に流すためのカバー部材4、を更に含むことが特徴である。なお、図5A乃至図5Cでは、デバイス1dを用いた例で説明する。
【0034】
カバー部材4は、サンプル液を投入するためのサンプル投入流路41、投入したサンプル液を回収するためのサンプル回収流路42、検量用元素ドット3にサンプル液が流れ込むことを防止するための検量用元素ドット保護領域43、サンプル投入流路41とサンプル回収流路42とに接続しサンプル捕捉領域23にサンプル液を供給・接触させるためのサンプル接触流路44、を含んでいる。カバー部材4は、図5A及び図5Bに示すように、第1カバー部材4aと第2カバー部材4bに分割して形成してもよいし、図5Cに示すように単一の部材で形成してもよい。
【0035】
図5A及び図5Bに示す例では、第1カバー部材4aに、サンプル投入流路41、サンプル回収流路42、検量用元素ドット3にサンプル液が流れ込むことを防止するための保護領域43、サンプル捕捉領域23にサンプル液を供給・接触させるためのサンプル接触流路44、が形成されている。サンプル接触流路44は、サンプル投入流路41およびサンプル回収流路42と接続している。また、第2カバー部材4bには、サンプル投入流路41にサンプル液を投入するためのサンプル投入孔411、サンプル回収流路42からサンプル液を回収するためのサンプル回収孔421が、第2カバー部材4bを構成する基板を貫通するように形成されている。また、図5Cに示す例では、カバー部材4が単一の部材で形成されている。図5Cに示す例では、カバー部材4を形成する基板の上方に形成したサンプル投入孔411とサンプル接触流路44との間の流路が、サンプル投入流路41に相当する。同様に、サンプル接触流路44とサンプル回収孔421を繋ぐ流路が、サンプル回収流路42に相当する。
【0036】
サンプル投入流路41、サンプル回収流路42、および、サンプル接触流路44は、少なくとも1セットあればよいが、分析用デバイス1のサンプル捕捉領域23において、異なる種類のサンプルSを捕捉したい場合は、サンプル投入流路41、サンプル回収流路42、および、サンプル接触流路44は、複数セット形成してもよい。例えば、図5A及び図5Bに示す例では、サンプル投入流路41、サンプル回収流路42、および、サンプル接触流路44は、4セット形成されているが、2セット、3セット、5セット以上等、所期のセット数を形成すればよい。
【0037】
検量用元素ドット保護領域43は、カバー部材4を第1基板2aに被せた際に、第1面21と密着すればよい。図5Cに示す例では、カバー部材4の厚さを、検量用元素ドット保護領域43を覆う部分を厚くし、サンプル捕捉領域23を覆う部分を薄くしている。カバー部材4の厚さを変えることで、カバー部材4の検量用元素ドット保護領域43は検量用元素ドット3を設けている領域に密着し、カバー部材4のサンプル捕捉領域23を覆う部分は、第1面21との間にサンプル接触流路44を形成できる。したがって、図5Cに示すように、サンプル液をサンプル投入孔411に投入し、サンプル捕捉領域23でサンプルを捕捉し、サンプル液をサンプル回収孔421から回収する際に(図5Cの矢印方向)、サンプル液が、検量用元素ドット3に流れ込むことを防止できる。なお、図5Cに示す例は、単なる例示に過ぎず、例えば、検量用元素ドット3が形成されている領域とサンプル捕捉領域23の境界のみに、検量用元素ドット保護領域43を設ける等、検量用元素ドット3が形成されている領域にサンプル液が流れ込まなければ、適宜設計変更してもよい。
【0038】
カバー部材4を作製するための材料としては、切削または鋳型を転写できるものであれば特に制限はない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂、AS(アクリロニトリルスチレン)樹脂、アクリル樹脂(PMMA)等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、シリコーンゴム等の熱硬化性樹脂が挙げられる。なお、図5A乃至図5Cは、サンプル捕捉領域23にサンプル捕捉孔24を形成した例を示しているが、第3の実施形態に係るデバイス1cのように、サンプル捕捉領域23にサンプル捕捉孔24が形成されていなくてもよい。
【0039】
なお、第3および第4の実施形態に係るデバイス1において、カバー部材4を用いない場合は、スポイト等を用いて、サンプル液をサンプル捕捉領域23に滴下すればよい。
【0040】
(分析方法の実施形態)
次に、図6および図7を参照して、分析方法の実施形態の概略について説明する。図6は、LA-ICP-MSを用いた分析方法の概略を示す図で、図7は分析方法の実施形態のフローチャートである。
【0041】
図6に示すLA-ICP-MS5は、レーザーアブレーションユニット(LA)5aとICP-MSユニット5bを含む。LA5aは、後述するサンプル捕捉工程により捕捉したサンプルと検量用元素ドット3に、アブレーション用レーザーを照射する光源51、デバイス1を撮像するためのカメラ52、アブレーション用レーザーを照射することで蒸発・微粒子化したサンプル及び検量用元素ドットをICP-MSユニット5bに送るアルゴン等のガスボンベ53を含んでいる。LA-ICP-MS5は、公知の装置を用いればよい。また、図示は省略するが、LAを用いない場合は、デバイス1に溶媒を滴下し、サンプル捕捉領域23に捕捉したサンプル溶液および検量用元素溶液をICP-MSに導入すればよい。
【0042】
図7に示すように、分析方法の実施形態は、サンプル捕捉工程(ST1)と、検量用元素測定工程(ST2)と、サンプル中元素測定工程(ST3)と、サンプル中元素分析工程(ST4)と、を少なくとも含んでいる。
【0043】
サンプル捕捉工程(ST1)では、サンプルをサンプル捕捉領域に捕捉する。第3乃至第5の実施形態に係るデバイス1を用いた場合は、デバイス1のサンプル捕捉領域23にサンプルを捕捉すればよい。また、第1および第2の実施形態に係るデバイス1を用いる場合は、サンプル捕捉工程(ST1)では別途準備したサンプル捕捉用デバイスのサンプル捕捉領域にサンプルを捕捉し、後続の工程では、第1および第2の実施形態に係るデバイス1と組み合わせて分析すればよい。
【0044】
検量用元素測定工程(ST2)では、デバイスに予め設けられている所定量の元素が含まれる検量用元素を測定する。測定結果に基づき、LA-ICP-MS5が示す分析結果の数値と実際の元素量との検量線等を作製する。
【0045】
サンプル中元素測定工程(ST3)では、サンプル捕捉工程(ST1)で捕捉したサンプル中に含まれる元素を測定する。なお、ST3とST2の順番は逆であってもよい。
【0046】
そして、サンプル中元素分析工程(ST4)では、検量用元素測定工程(ST2)の測定結果、および、サンプル中元素測定工程(ST3)の測定結果から、サンプル中に含まれる元素の量を分析する。なお、サンプル中元素分析工程(ST4)では、所定時間毎に検量用元素測定工程(ST2)を実施し、必要に応じて更新したLA-ICP-MS5が示す分析結果の数値と実際の元素量との検量線等を用いて、サンプル中に含まれる元素の量を分析してもよい。分析方法の実施形態では、捕捉したサンプルおよび検量用元素を同一の分析用デバイス上に配置して、分析を行うことができる。そのため、(1)検量線等の修正または有効性の検証のため分析用デバイスを入れ替える手間が省け、(2)同一雰囲気での連続測定が可能となるため測定精度が向上する、という効果が得られる。
【0047】
また、分析方法の実施形態では、必要に応じて、サンプル捕捉工程(ST1)を実施後、捕捉したサンプルを洗浄するサンプル洗浄工程、サンプル洗浄工程の後に捕捉したサンプルを乾燥するサンプル乾燥工程、を含んでもよい。サンプル洗浄工程を実施すると、例えば、培養液等に含まれる元素の影響を少なくできる。また、ICP-MSユニットにおいて、火炎中でサンプルをイオン化する際に、サンプルに液体が含まれていると余分な熱エネルギーが必要であり、且つ、測定精度が落ちる。サンプル乾燥工程を設けると、エネルギー効率と分析精度が向上する。更に、検量用元素ドットも乾燥しておくと、分析用デバイスの取り扱いの利便性に加え、サンプル乾燥工程を経たサンプルと乾燥した検量用元素ドットの分析条件が近くなることから、分析精度が向上するという複合的な効果が得られる。
【0048】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例
【0049】
〔デバイスの作製〕
【0050】
<実施例1>
以下の手順により、実施例1のデバイス1を作製した。
(1)第1基板への検量用元素ドット孔およびサンプル捕捉孔の作製
第1基板として3インチn型シリコン(100)ウエハ(Advantech Co.,Ltd.)を用い、第1基板の表面に、ポジ型フォトレジスト(OFPR8600;東京応化工業(株)製)を、500rpmで5sec、3000rpmで120secの条件でスピンコータによって回転塗布した。その後、ホットプレート上にて90℃、12min加熱することで溶媒を蒸発させ、レジストを第1基板上に固定させた。
【0051】
次に、サンプル捕捉孔を形成する部分が露光するように設計したフォトマスクを、加熱後の第1基板上に重ねた。露光機で600mJ/cm2のi線を照射後、第1基板を現像液に浸漬することで露光した部分のポジ型フォトレジストを剥離した。現像液から基板2を取り出し流水洗浄を行った後、ホットプレートにて90℃、5min加熱することで、ポジ型フォトレジストのパターニングを完了した。
【0052】
次に、反応性イオンドライエッチングにより、第1基板の第1面に、検量用元素ドット孔およびサンプル捕捉孔を作製した。
【0053】
次に、原子層堆積装置によりSiOを堆積することで、第1基板の第1面の親水化処理を行った。図8Aは第1基板の第1面の設計イメージを表す図で、第1面を4つのブロックに分割し、1つのブロックに検量用元素ドット孔22を形成し、他の3つのブロックをサンプル捕捉領域とし、サンプル捕捉孔24を作製した。図8Bは、サンプル捕捉領域を拡大した写真である。検量用元素ドット孔およびサンプル捕捉孔の内径は約40μm、深さは約20μm、隣り合うサンプル捕捉孔の間隔は約50μmであった。
【0054】
(2)検量用元素(Fe、Cu)ドットの作製
イオン交換樹脂として東ソー株式会社製、TSKgel SP-3PWを用いた。鉄元素(Fe)として、鉄標準液(Fe 1000)(関東化学社製、ICP分析用元素標準液)を用い、銅元素として銅標準液(Cu 1000)(関東化学社製、ICP分析用元素標準液)を用いた。Feの元素数が5×109、20×109となるようにイオン交換樹脂に吸着させた。また、Cuも同様に、元素数が5×109、20×109となるようにイオン交換樹脂に吸着させた。Fe、Cuが吸着したイオン交換樹脂を、(1)で作製した検量用元素ドット孔22内に配置した。
【0055】
(3)カバー部材の作製
カバー部材は、図5Aおよび図5Bに示すように、第1カバー部材および第2カバー部材を組合わせることで作製した。第1カバー部材にはシリコンシート(信越ポリマー社製、シリコーンゴムシート)を用い、図8Aのサンプル捕捉孔24が形成されている3つのブロックにサンプル液を投入できるように、サンプル投入流路、サンプル接触流路、および、サンプル回収流路を形成した。また、検量用元素ドット孔22を形成したブロックには、第1カバー部材が密着するように検量用元素ドット保護領域を形成した。サンプル投入流路、サンプル接触流路、サンプル回収流路、および、検量用元素ドット保護領域は、シリコンシートを通常ナイフによる切り出し加工により作製した。また、第2カバー部材にはアクリル板(アクリサンデー社製)を用いた。サンプル投入孔およびサンプル回収孔は、ドリルを用いて、アクリル板を貫通するように形成した。
(4)上記(1)で作製した第1基板に上記(3)で作製したカバー部材を密着させることで、実施例1のデバイスを作製した。
【0056】
〔単一細胞中の元素の分析〕
【0057】
<実施例2>
実施例1で作製したデバイスを用い、以下の手順で単一細胞中の元素の分析を行った。
(1)細胞培養
細胞には緑藻(ヘマトコッカス、Haematococcus lacustris NIES-144)を用いた。細胞は、国立研究開発法人国立環境研究所から入手した。培地には、オートクレーブ滅菌したC培地(Ichimura,T., 1971,“Sexual cell division and conjugation-papilla formation in sexual reproduction of Closterium stigosum”, In Proceedings of the Seventh International Seaweed Symposium, University of Tokyo Press, Tokyo,p.208-214.)を用いた。培養は、インキュベーター(FLI-300N、東京理科器械株式会社製)を用いて、温度(25℃)、光強度20-50μmol photons/m2・s、振とう速度100rpmの条件下で1ヶ月培養した。図9に培養した細胞の写真を示す。図9から明らかなように、サイズにはややばらつきがあり、平均粒子径は約25μmであった。
【0058】
(2)サンプル捕捉工程
実施例1で作製したデバイスのサンプル投入孔から、上記「(1)細胞培養」で培養した細胞培養液を投入することで、デバイスのサンプル捕捉孔24に細胞を捕捉した。サンプル捕捉孔24に細胞を捕捉した後は、超純水でリンスした。捕捉後のデバイスの第1面の画像を解析した結果、作製したサンプル捕捉孔24の約98%に細胞が捕捉されたことを確認した。
【0059】
(3)検量用元素測定工程
測定には、LA-ICP-MSシステムを用いた。LAは、ESI社製のYAGレーザーを搭載したNEW WAVE Research 213 LA装置を用いた。また、ICP-MSは、アジレントテクノロジー社製の三連四重極型ICP-MS(8900)を用いた。LAとICP-MSをオンラインで接続することで、LA-ICP-MSシステムを構築した。測定は、以下の条件で行った。
<LA照射条件>
(1)レーザーパワー:15%
(2)周波数:4Hz
(3)照射径:50μm
(4)照射時間:1 sec
<LA-IPC-MS測定条件>
(5)ICPトーチへのガス流量
・LA装置キャリアガス流量:He 0.8L/min
・IPC-MSのネブライザーガス流量:Ar 0.6L/min
(6)コリジョンセルガス流量:He 5mL/min
【0060】
図10AはFeの測定結果に基づいて作成した検量線、図10BはCuの測定結果に基づいて作成した検量線を表す。グラフの横軸は元素の数、縦軸はLA-IPC-MS装置の測定値である。
【0061】
(4)サンプル中元素測定工程
上記(3)と同様の<LA照射条件>および<LA-IPC-MS測定条件>により、デバイスに捕捉した細胞中に含まれるFeの分析を行った。図11は、Feの測定結果を表す。図11中の黒色三角は、捕捉した単一の細胞のシグナル、白抜き三角は細胞が捕捉されていないサンプル捕捉孔24をLAした時の結果である。図11に示すように、単一細胞をLA照射した際に、Feがカウントされた。
【0062】
(5)サンプル中元素分析工程
上記(3)で作製した検量線、上記(4)の測定結果を対比することで、ヘマトコッカスの単一細胞中に、Feが100億から150億個存在していることを確認した。
【0063】
なお、図11のグラフに示すとおり、同種の単一細胞であっても、Feの含有量は異なっていた。これは、図9に示すように、個々の細胞の大きさが異なっていたためと考えられ、逆に、図11に示す測定結果は、単一細胞中に含まれるFeの量を正確に測定したと考えられる。したがって、図9に示す細胞の画像を解析することで計算した細胞の大きさと、画像上の測定対象細胞と測定結果を関連付けて記憶装置等に記憶しておくことで、細胞のサイズに応じて測定結果を補正することもできる。
【0064】
以上のとおり、分析方法の実施形態では、デバイスに検量用元素ドットを設けることで、従来のように、サンプルの分析途中で検量用元素溶液に切り替える必要がない。そのため、サンプル中の元素の分析効率が向上することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本出願で開示するデバイスは、サンプル中に含まれる元素の分析の作業効率が向上する。したがって、医療機関、大学、企業、研究機関等における細胞の分析に有用である。
【符号の説明】
【0066】
1、1a~1d…分析用デバイス、2a…第1基板、2b…第2基板、3、3a~3d…検量用元素ドット、4…カバー部材、4a…第1カバー部材、4b…第2カバー部材、5…LA-ICP-MS、5a…レーザーアブレーションユニット、5b…ICP-MSユニット、10…サンプル捕捉用キット、21…第1面、22…検量用元素ドット孔、23…サンプル捕捉領域、24…サンプル捕捉孔、41…サンプル投入流路、42…サンプル回収流路、43…検量用元素ドット保護領域、44…サンプル接触流路、51…光源、52…カメラ、53…ガスボンベ、411…サンプル投入孔、421…サンプル回収孔、S…サンプル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11