(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】鋳物、鋳型、および鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 9/08 20060101AFI20221223BHJP
B22C 9/02 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
B22C9/08 C
B22C9/02 103A
(21)【出願番号】P 2019019577
(22)【出願日】2019-02-06
【審査請求日】2022-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】519043970
【氏名又は名称】丹羽鋳造株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519043981
【氏名又は名称】武山鋳造株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【氏名又は名称】倉澤 直人
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【氏名又は名称】八木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】坂井 雄治
(72)【発明者】
【氏名】平野 春好
(72)【発明者】
【氏名】坂▲崎▼ 功英
(72)【発明者】
【氏名】前田 安郭
(72)【発明者】
【氏名】五家 政人
(72)【発明者】
【氏名】森田 茂隆
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-223630(JP,A)
【文献】特開2018-058103(JP,A)
【文献】特開昭60-227946(JP,A)
【文献】特開2016-198824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/00- 9/30
B22D 1/00-47/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湯口と、
湯道と、
押湯と、
製品部と、
前記製品部に接続したネック部とを備え、
前記押湯が、前記湯口、前記湯道、前記製品部、および前記ネック部のうちの少なくとも一つとの位置関係により球形の基本形状をとることができない状態において、
球体を半分にした間に円柱体を高さ方向から挟み込み球形度が0.91以上1.00未満の基本形状をとったものであることを特徴とする鋳物。
【請求項2】
湯口と、
押湯と、
製品部とを備え、
前記押湯は、頂部が前記製品部の上端よりも高い位置にあり、
球体を半分にした間に円柱体を高さ方向から挟み込み球形度が0.91以上1.00未満の基本形状をとったものであることを特徴とする鋳物。
【請求項3】
前記押湯は、高さ方向に直交する方向に沿った断面形状が楕円若しくは角丸長方形の形状のものであることを特徴とする請求項1又は2記載の鋳物。
【請求項4】
前記湯口は、一つであり、
前記製品部が、一つの前記湯口に対して複数設けられていることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載の鋳物。
【請求項5】
湯口形成空間と、
湯道形成空間と、
押湯形成空間と、
製品部形成空間と、
前記製品部形成空間に接続したネック部形成空間とを備え、
前記押湯形成空間が、前記湯口形成空間、前記湯道形成空間、前記製品部形成空間、および前記ネック部形成空間のうちの少なくとも一つとの位置関係により球形の基本空間形状をとることができない状態において、球形度が0.91以上1.00未満の基本空間形状をと
り、球体を半分にした間に円柱体を高さ方向から挟み込んだ基本形状の押湯を鋳造する空間であって、上側に半球状の第1半球空間、下側に半球状の第2半球空間、該第1半球空間と該第2半球空間の間に円柱状の円柱空間が設けられた空間であり、
前記円柱空間と前記第2半球空間との境目に見切り面が設けられていることを特徴とする鋳型。
【請求項6】
湯口形成空間と、
押湯形成空間と、
製品部形成空間とを備え、
前記押湯形成空間は、頂部が前記製品部形成空間の上端よりも高い位置にあり、球形度が0.91以上1.00未満の基本空間形状をと
り、球体を半分にした間に円柱体を高さ方向から挟み込んだ基本形状の押湯を鋳造する空間であって、上側に半球状の第1半球空間、下側に半球状の第2半球空間、該第1半球空間と該第2半球空間の間に円柱状の円柱空間が設けられた空間であり、
前記円柱空間と前記第2半球空間との境目に見切り面が設けられていることを特徴とする鋳型。
【請求項7】
前記湯口形成空間は、一つであり、
前記製品部形成空間が、一つの前記湯口形成空間に対して複数設けられていることを特徴とする請求項5又は6記載の鋳型。
【請求項8】
請求項5から7のうちいずれか1項記載の鋳型に溶湯を注湯する第1工程と、
溶湯が注湯された前記鋳型から鋳物を取り出す第2工程とを有することを特徴とする鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湯口と、湯道と、押湯と、製品部と、その製品部に接続したネック部とを備えた鋳物、その鋳物を鋳造する鋳型、およびその鋳型を用いた鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造においては、製品部につながる適宜の個所にネック部を介して押湯を設けておき、製品部の溶湯の凝固収縮に合わせて押湯から溶湯が補給される押湯効果を発揮させることが行われている。ネック部は、堰と称されることもあり、押湯は、湯口あるいは湯道とこのネック部との間に設けられる場合もあれば、湯口あるいは湯道から離れて製品部の上部にネック部を介して設けられる場合もある。しかし、いずれの場合も、押湯の鋳込重量に占める割合は、通常20~40%であり、その結果、製品部重量/鋳込重量で示される鋳造歩留りが低いという問題点がある。したがって、押湯の適正な形状、大きさの決定は鋳造コストを左右する鋳造歩留りを向上させるための重要な課題である。
【0003】
そこで、押湯の基本形状を球形状にすることが提案されている(特許文献1等参照)。確かに、押湯の効率を表す簡便な指標であるモジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)は、これまで一般的であった円柱形状の押湯よりも球形状の押湯の方が大きく、同じモジュラスであった場合には、球形状の押湯は、円柱形状の押湯よりも体積を減らすことができて好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、湯口、湯道、製品部、およびネック部のうちの少なくとも一つとの位置関係により、押湯効果を得るために必要な体積をもった球形状の押湯を配置するスペースがなく、押湯の基本形状として球形の基本形状を採用したくても採用することができない場合がある。特に、一つの湯口に対して複数の製品部を設けた複数個込めの場合、製品部の数が多くなればなるほど、位置関係の制約が大きくなりやすい。
【0006】
図1は、一つの湯口に対して8つの製品部を設けた8個込めの鋳物を示す図である。
図1(a)は平面図であり、同図(b)は、製品部を省略した側面図である。
【0007】
図1(a)に示す鋳物C’には、8つの製品部C4’の他、1本の湯道C2’、4つの押湯C3’、および押湯C3’と製品部C4’をつなぐネック部C5’が設けられている。また、図の左右方向に延びた1本の湯道C2’の延在方向中央部分には、ここでは不図示の湯口における湯口底との接続部C21’が示されている。
図1(a)に示す4つの押湯C3’はいずれも、真球の形状であり、一つの押湯C3’に対して2つの製品部C4’が設けられている。また、
図1(b)には、押湯C3’の高さ方向中央を通るように1点鎖線が示されている。この一点鎖線は見切り面に相当する。
図1(a)に示す鋳物C’は、いわゆる横込め鋳造によって鋳造されたものである。
【0008】
さらに、
図1には、押湯C3’よりも大きな2点鎖線が示されている。この2点鎖線は、押湯C3’が、真球の形状を維持したまま、押湯効果を得るために必要な押湯の大きさ(体積)を表すものであり、2点鎖線が製品部C4’に干渉してしまうことがわかる。特に、横込め鋳造の場合は、製品部C4’と押湯C3’の配置の自由度が低く、押湯の基本形状として球形の基本形状を採用したくても採用することができない場合が多い。このように、押湯の基本形状を球形状に維持したまま、押湯効果を得るために必要なモジュラスを確保することが困難になる場合がある。
【0009】
その一方で、押湯の基本形状を、これまで一般的であった円柱形状にしてしまうと、押湯を配置するスペースを確保することはできても、押湯効果を得るために必要な押湯の体積が増加し、鋳造歩留りの低下が顕著になってしまう。
【0010】
また、製品形状によっては、押湯を高くして押湯効果を得たい場合もある。スペースを確保することができる状態であれば、球形の基本形状を維持したまま押湯を高くするために、押湯の径を大きくすることが考えられる。しかしながら、押湯を高くしたいばかりに押湯の径を大きくしすぎてしまうと、押湯の体積が不必要に増加し、この場合にも、鋳造歩留りの低下が顕著になってしまう。
【0011】
本発明は上記事情に鑑み、鋳造歩留りの低下を抑えつつ押湯効果を発揮することができる押湯を配置した鋳物、その鋳物を鋳造する鋳型、およびその鋳型を用いた鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を解決する第1の鋳物は、
湯口と、
湯道と、
押湯と、
製品部と、
前記製品部に接続したネック部とを備え、
前記押湯が、前記湯口、前記湯道、前記製品部、および前記ネック部のうちの少なくとも一つとの位置関係により球形の基本形状をとることができない状態において、球体を半分にした間に円柱体を高さ方向から挟み込み球形度が0.91以上1.00未満の基本形状をとったものであることを特徴とする。
【0013】
ここにいう、位置関係により球形の基本形状をとることができない状態とは、例えば、製品部の形状や、幅や、高さ等によって、球形の基本形状をとることができない状態のことをいう。
【0014】
上記目的を解決する第2の鋳物は、
湯口と、
押湯と、
製品部とを備え、
前記押湯は、頂部が前記製品部の上端よりも高い位置にあり、球体を半分にした間に円柱体を高さ方向から挟み込み球形度が0.91以上1.00未満の基本形状をとったものであることを特徴とする。
【0015】
球形状の押湯と、これまで一般的であった円柱形状の押湯とを比較してみると、両者が同じ体積であった場合に、球形状の押湯の方が表面積が小さく、すなわち放熱面が小さく、保温性が高い。しかしながら、押湯の形状として球形の基本形状を採用したくても、上記位置関係により採用することができない場合がある。あるいは、製品形状によっては、押湯を高くして押湯効果を得たい場合もある。これらの場合に、“押湯と同じ体積を有する真球の表面積/押湯の表面積”で表される「球形度」といった指標を用いて押湯の形状を決定することを本発明者は考え出した。一般的な円柱状の押湯として、直径の1.75倍の高さを有する押湯が知られている。この一般的な円柱状の押湯と同じ体積以下に抑えながら、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)の値を高め、押湯としての保温性、言い換えれば押湯効果を向上させるには、押湯の基本形状を、球形ではないものの球形を利用した基本形状にすることが必要になり、詳しくは後述するように、球形度を0.91以上にすればよいことを突き止めた。
【0016】
前記押湯は、前記基本形状に対して、鋳型や鋳造模型として使いやすいように適宜の形状の修整変形が施されて用いられている。例えば、造型の型抜き性のために適宜の抜け勾配、角R、隅Rなどを付したり、押湯頂部の引け誘発のために押湯頂部に円錐穴やV溝などを設けたり、ウィリアムスコアを設けたり、あるいは製品部との関係から押湯形状の一部を削ったり、余肉を付けたり等する。また、場合によっては、押湯の基本形状の上に溶湯ヘッド(溶湯圧)を付与するために押湯の直径や幅よりも小さい直径や幅の棒状の部分を追加して設けることもある。しかし、押湯の基本形状はその形から明らかである。したがって、上記鋳物における押湯の基本形状も、このような適宜の修整変形を施して用いられるものである。
【0017】
前記押湯は、前記湯口あるいは前記湯道と前記ネック部との間に設けられたものであってもよい。また、前記押湯は、いわゆる揚がり押湯であってもよい。
【0018】
前記ネック部は、堰と称される場合もある。すなわち、前記ネック部は、前記押湯と前記製品部をつなぐ堰であってもよいし、前記湯道と前記製品部をつなぐ堰であってもよい。
【0019】
また、上記鋳物において、
前記押湯が、球体を半分にした間に円柱体を高さ方向から挟み込んだ基本形状のものであってもよい。
【0020】
ここにいう球体は、真球に限られず、例えば、楕円体であってもよい。また、円柱体も、高さ方向に直交する方向に沿った断面形状が真円の形状のものに限られない。また、前記円柱体は、抜け勾配が設けられた形状であってもよい。
【0021】
さらに、前記押湯が、前記湯口における受け口側の第1半球部、該第1半球部とは反対側の第2半球部、および第1半球部と第2半球部の間に設けられた円柱部を有するものであってもよい。
【0022】
また、前記製品部が、前記押湯の頂部よりも下方に設けられたものであり、前記湯口における受け口が前記押湯の頂部よりも上方に設けられたものであってもよい。
【0023】
また、上記鋳物において、
前記押湯は、高さ方向に直交する方向に沿った断面形状が楕円若しくは角丸長方形の形状のものである態様であってもよい。
【0024】
ここにいう角丸長方形とは、二つの等しい長さの平行線と二つの半円形からなる形状であって、陸上競技場(トラック)に多い形である。
【0025】
この態様によれば、前記円柱体は、高さ方向に直交する方向に沿った断面形状が楕円若しくは角丸長方形の形状のものになる。
【0026】
また、前記第1半球部にしても前記第2半球部にしても、高さ方向に直交する方向に沿った断面形状が楕円若しくは角丸長方形の形状のものになる。
【0027】
楕円若しくは角丸長方形の長手方向は、空いた空間を利用して延ばされた方向になる。
【0028】
また、前記押湯は、球体を分割した球体部分が分散配置された基本形状のものであってもよい。
【0029】
上記目的を解決する第1の鋳型は、
湯口形成空間と、
湯道形成空間と、
押湯形成空間と、
製品部形成空間と、
前記製品部形成空間に接続したネック部形成空間とを備え、
前記押湯形成空間が、前記湯口形成空間、前記湯道形成空間、前記製品部形成空間、および前記ネック部形成空間のうちの少なくとも一つとの位置関係により球形の基本空間形状をとることができない状態において、球形度が0.91以上1.00未満の基本空間形状をとり、球体を半分にした間に円柱体を高さ方向から挟み込んだ基本形状の押湯を鋳造する空間であって、上側に半球状の第1半球空間、下側に半球状の第2半球空間、該第1半球空間と該第2半球空間の間に円柱状の円柱空間が設けられた空間であり、
前記円柱空間と前記第2半球空間との境目に見切り面が設けられていることを特徴とする。
【0030】
上記目的を解決する第2の鋳型は、
湯口形成空間と、
押湯形成空間と、
製品部形成空間とを備え、
前記押湯形成空間は、頂部が前記製品部形成空間の上端よりも高い位置にあり、球形度が0.91以上1.00未満の基本空間形状をとり、球体を半分にした間に円柱体を高さ方向から挟み込んだ基本形状の押湯を鋳造する空間であって、上側に半球状の第1半球空間、下側に半球状の第2半球空間、該第1半球空間と該第2半球空間の間に円柱状の円柱空間が設けられた空間であり、
前記円柱空間と前記第2半球空間との境目に見切り面が設けられていることを特徴とする。
【0031】
第1の鋳型であっても第2の鋳型であっても、砂型であってもよし金型であってもよい。また、鋳鉄用の鋳型であってもよいし、アルミニウム合金等の非鉄金属用の鋳型であってもよい。
【0032】
第1の鋳型であっても第2の鋳型であっても、注湯方向と見切り面の方向との関係が直角な関係にある横込め鋳造に用いることもできるし、その関係が平行な関係にある縦込め鋳造に用いることもできる。
【0033】
また、第1の鋳型または第2の鋳型において、
前記押湯形成空間が、球体を半分にした間に円柱体を高さ方向から挟み込んだ基本形状の押湯を鋳造する空間であって、上側に半球状の第1半球空間、下側に半球状の第2半球空間、該第1半球空間と該第2半球空間の間に円柱状の円柱空間が設けられた空間であり、
前記円柱空間と前記第2半球空間との境目に見切り面が設けられていてもよい。
【0034】
前記製品部形成空間が、前記押湯形成空間の頂部よりも下方に設けられたものであり、前記湯口形成空間における上端が前記押湯形成空間の頂部よりも上方に設けられたものであることが好ましい。
【0035】
また、前記押湯形成空間は、球体を分割した球体部分の空間が分散配置された基本形状のものであってもよい。
【0036】
上記目的を解決する鋳造方法は、
上記鋳型に溶湯を注湯する第1工程と、
溶湯が注湯された前記鋳型から鋳物を取り出す第2工程とを有することを特徴とする。
【0037】
前記第2工程で取り出された鋳物は、上記目的を解決する鋳物に相当する。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、鋳造歩留りの低下を抑えつつ押湯効果を発揮することができる押湯を配置した鋳物、その鋳物を鋳造する鋳型、およびその鋳型を用いた鋳造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】一つの湯口に対して8つの製品部を設けた8個込めの鋳物を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に相当する鋳物を示す図である。
【
図3】
図2に示す一つの押湯と一つの製品部とその押湯と製品部をつなぐネック部を示す図である。
【
図4】
図2に示す鋳物を鋳造するための鋳型の断面図である。
【
図5】実施例2における鋳物の押湯まわりを示す図である。
【
図6】実施例3における鋳物の押湯まわりを示す図である。
【
図7】実施例4における鋳物の押湯まわりを示す図である。
【
図8】実施例5における鋳物の押湯まわりを示す図である。
【
図9】実施例6における鋳物の押湯まわりを示す図である。
【
図10】比較例における鋳物の押湯まわりを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0041】
図2は、本発明の一実施形態に相当する鋳物を示す図である。
【0042】
この
図2には、
図1と同じく、一つの湯口に対して8つの製品部を設けた8個込めの鋳物が示されており、
図2(a)は平面図である。この平面図は、ここでは不図示の湯口の受け口(
図4参照)側からみた図になる。
【0043】
図2(a)に示す鋳物Cには、8つの製品部C4の他、1本の湯道C2、4つの押湯C3、および押湯C3と製品部C4をつなぐネック部C5が設けられている。ネック部C5は、堰と称される場合もある。また、図の左右方向に延びた1本の湯道C2の延在方向中央部分には、ここでは不図示の湯口における湯口底(
図4参照)との接続部C21が示されている。
【0044】
図2(a)に示すように、押湯C3を挟んで製品部C4が設けられている。すなわち、一つの押湯C3に対して2つの製品部C4がぞれぞれネック部C5を介して180°対向した位置から接続している。
図2(a)に示す矢印は、一つの押湯C3に対して設けられた2つの製品部C4を結ぶ方向を表す矢印である。
【0045】
図2(b)は、側面図である。この側面図では、本来であれば、押湯C3の左側と右側それぞれに製品部C4が示されているはずであるが、
図2(b)では、製品部C4が省略されている。また、
図2(b)には、押湯C3の高さ方向中央を通るように1点鎖線が示されている。この一点鎖線は見切り面を表す線である(以下の図面においても同じ)。
図2(a)に示す鋳物Cは、いわゆる横込め鋳造によって鋳造されたものであるが、縦込め鋳造によって鋳造されたものであってもよい。
【0046】
図3は、
図2に示す一つの押湯と一つの製品部とその押湯と製品部をつなぐネック部を示す図である。すなわち、この
図3には、押湯周りが示されており、同図(b)に正面図が示され、同図(a)に平面図が示されている。この平面図は、ここでも不図示の湯口の受け口(
図4参照)側からみた図になる。また、
図3(c)に右側面図が示されている。
【0047】
製品部C4は、上面C41に貫通孔C42が設けられたハット状のものであり、フランジ部C43を有し、上方に向かうにつれて細くなっている。なお、フランジ部C43にネック部C5の一端は接続している。
【0048】
押湯C3は、直径80mmの球体を半分にした間に、高さ40mmの円柱体を高さ方向から挟み込んだ基本形状のものである。すなわち、
図3(b)に示すように、第1半球部C31、第2半球部C32、および第1半球部C31と第2半球部C32の間に円柱部C33を有する。第1半球部C31は、不図示の湯口における受け口側の半球部になり、第2半球部C32は反対側の半球部になる。第1半球部C31および第2半球部C32の最大直径は80mmであり、円柱部C33の直径も80mmである。また、その円柱部C33の高さは、直径の1/2の高さになる。鋳物Cには、抜け勾配が設けられている。円柱部C33は、1点鎖線で表される見切り面から上に位置しており、抜け勾配を考慮すれば、円柱部C33の下端の直径が最も大きくなる。この押湯C3は、直径80mmの真球に比べて、40mm高いことになる。
【0049】
なお、上記球体は、真球に限られず、例えば、楕円体であってもよい。また、円柱部C33も、高さ方向に直交する方向に沿った断面形状が真円の形状のものに限られない。例えば、断面形状が楕円若しくは角丸長方形の形状のものであってもよい。ここにいう角丸長方形とは、二つの等しい長さの平行線と二つの半円形からなる形状であって、陸上競技場(トラック)に多い形である(以下においても同じ。)。
【0050】
また、押湯C3は、ネック部C5と不図示の湯口との間に設けられたものであってもよいし、いわゆる揚がり押湯であってもよい。また、堰であるネック部C5は、湯道C2と製品部C4をつなぐものであってもよい。
【0051】
さらに、
図3に示す製品部C4は、押湯C3の頂部C3tよりも上方に突出しているが、製品部C4の上端(ここでは上面C41)が、押湯C3の頂部C3tよりも下方に設けられたものであってもよい。
【0052】
図4は、
図2に示す鋳物を鋳造するための鋳型の断面図である。この断面図は、
図2(b)と同じ側面方向から見たときの断面図になる。
【0053】
図4に示す鋳型Mは、砂型であり、湯口形成空間M1と、湯道形成空間M2と、押湯形成空間M3と、製品部形成空間M4と、ネック部形成空間M5が設けられている。湯口形成空間M1における上端が、受け口M11になる。この受け口M11は、
図3に示す押湯C3の頂部よりも上方に設けられたものである。すなわち、湯口形成空間M1における上端が押湯形成空間M3の頂部よりも上方に設けられている。また、湯口形成空間M1の下端が、湯口底M12になる。
【0054】
押湯形成空間M3は、球体を半分にした間に円柱体を高さ方向から挟み込んだ基本形状の押湯を鋳造する空間であって、上側に半球状の第1半球空間M31、下側に半球状の第2半球空間M32、第1半球空間M31と第2半球空間M32の間に円柱状の円柱空間M33が設けられた空間である。
図4に示す鋳型Mでは、円柱空間M33と第2半球空間M32との境目(
図4中の2点鎖線参照)に見切り面が設けられてるが、見切り面は、その境目より上方である場合があってもよいし、その境目より下方である場合があってもよい。
【0055】
なお、
図4に示す製品部形成空間M4は、押湯形成空間M2の頂部よりも上方に突出しているが、製品部形成空間M4の上端が、押湯形成空間M2の頂部よりも下方に設けられたものであってもよい。
【0056】
図2に示す鋳物Cを鋳造するには、
図4に示す鋳型Mに鋳鉄の溶湯を注湯する第1工程と、溶湯が注湯された鋳型Mから鋳物Cを取り出す第2工程とを実施する。
【0057】
なお、鋳型Mは、見切り面で上型と下型とに分けた金型であってもよく、アルミニウム合金等の非鉄金属の溶湯を注湯してもよい。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1として、
図2に示す鋳物Cを用いる。この鋳物Cにおける押湯C3は、円柱部C33の高さ(40mm)が、80mmの直径(D)の0.5倍に相当する。以下、
図3に示す押湯C3、すなわち実施例1における押湯C3を縦長球状(1)の押湯と称する。縦長球状(1)の押湯C3の全体の高さ(H)は120mmになる。
【0059】
この縦長球状(1)の押湯C3の体積、表面積、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)を表1に示す。
【0060】
【表1】
図2に示すように押湯C3の半径方向には、製品部C4であったり、隣の押湯C3が配置されており、特に
図2(a)に示す矢印方向にはスペース的に余裕がない。縦長球状(1)の押湯C3は、真球状の押湯を高さ方向(上下方向)にのみ延ばしたものである。直径が同じ80mmの真球状の押湯の体積は、268083mm
3である。縦長球状(1)の押湯C3は、直径が同じ真球状の押湯に比べて、体積が1.75倍になっている。
【0061】
なお、実際には、押湯は、基本形状に対して、鋳型や鋳造模型として使いやすいように適宜の形状の修整変形が施されて用いられている。例えば、造型の型抜き性のために適宜の抜け勾配、角R、隅Rなどを付したり、押湯頂部の引け誘発のために押湯頂部に円錐穴やV溝などを設けたり、ウィリアムスコアを設けたり、あるいは製品部との関係から押湯形状の一部を削ったり、余肉を付けたり等する。また、場合によっては、押湯の基本形状の上に溶湯ヘッド(溶湯圧)を付与するために押湯の直径や幅よりも小さい直径や幅の棒状の部分を追加して設けることもある。
図3に示す押湯C3では、これらの修整変形は図示省略されており、体積や表面積の計算においても、これらの修整変形は加味されていない。このことは、実施例2以降および比較例においても同様である。
【0062】
また、縦長球状(1)の押湯C3と同じ体積を有する真球の直径(等体積球直径)と、その直径を用いて求めた真球の表面積(等体積球表面積)を求め、さらにその等体積球表面積を用いて、“等体積球表面積/縦長球状(1)の押湯C3の表面積”によって表される球形度を求めた。こられの値も表1に示す。縦長球状(1)の押湯C3の球形度は0.968であった。
【0063】
さらに、単位体積当たりのモジュラスを押湯効率としてみてみると、0.332×10
-4mm
2であった。
(実施例2)
図5は、実施例2における鋳物の押湯まわりを示す図である。この
図5でも、
図3と同じく、同図(b)に正面図が示され、同図(a)に平面図が示されている。また、
図5(c)に右側面図が示されている。
【0064】
以下、これまで説明した構成要素の名称と同じ名称の構成要素には、これまで付した符号と同じ符号を付して説明する。また、これまで説明した事項と重複する事項については説明を省略する場合がある。
【0065】
図5に示す押湯C3は、
図2を用いて説明した8個込めの横込め鋳造によって鋳造される鋳物に設けられた押湯であり、
図2や
図3に示す製品部と同じ製品部C4に、
図2や
図3に示すネック部と同じネック部C5を通して溶湯を補給するものである。
【0066】
この
図5に示す押湯C3は、直径80mmの球体を半分にした間に、高さ60mmの円柱体を高さ方向から挟み込んだ基本形状のものである。すなわち、
図5(b)に示すように、実施例2における押湯C3は、第1半球部C31、第2半球部C32、および第1半球部C31と第2半球部C32に挟まれた円柱部C33を有し、実施例1における縦長球状(1)の押湯よりも円柱部C33の高さが20mm高いものである。以下、
図5に示す押湯C3、すなわち実施例2における押湯C3を縦長球状(2)の押湯と称する。縦長球状(2)の押湯C3は、円柱部C33の高さ(60mm)が、80mmの直径(D)の0.75倍に相当する。また、縦長球状(2)の押湯C3の全体の高さ(H)は140mmになる。
【0067】
縦長球状(2)の押湯C3の体積、表面積、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)を上記表1に示す。
【0068】
この縦長球状(2)の押湯C3も、縦長球状(1)の押湯と同じく、真球状の押湯を高さ方向(上下方向)にのみ延ばし、縦長球状(2)の押湯C3は、直径が同じ80mmの真球状の押湯に比べて、体積が2.13倍になっている。
【0069】
また、縦長球状(2)の押湯C3と同じ体積を有する真球の直径(等体積球直径)と、その直径を用いて求めた真球の表面積(等体積球表面積)を求め、さらにその等体積球表面積を用いて、“等体積球表面積/縦長球状(2)の押湯C3の表面積”によって表される球形度を求めた。こられの値も表1に示す。縦長球状(2)の押湯C3の球形度は0.944であった。
【0070】
さらに、単位体積当たりのモジュラスを押湯効率としてみてみると、0.284×10
-4mm
2であった。
(実施例3)
図6は、実施例3における鋳物の押湯まわりを示す図である。この
図6でも、
図3と同じく、同図(b)に正面図が示され、同図(a)に平面図が示されている。また、
図6(c)に右側面図が示されている。
【0071】
図6に示す押湯C3も、
図5に示す縦長球状(2)の押湯と同じく、
図2を用いて説明した8個込めの横込め鋳造によって鋳造される鋳物に設けられた押湯であり、
図2や
図3に示す製品部と同じ製品部C4に、
図2や
図3に示すネック部と同じネック部C5を通して溶湯を補給するものである。
【0072】
この
図6に示す押湯C3は、直径80mmの球体を半分にした間に、高さ86.6mmの円柱体を高さ方向から挟み込んだ基本形状のものである。すなわち、
図6(b)に示すように、実施例3における押湯C3も、第1半球部C31、第2半球部C32、および円柱部C33を有し、実施例1における縦長球状(1)の押湯よりも円柱部C33の高さが46.6mmも高いものである。以下、
図6に示す押湯C3、すなわち実施例3における押湯C3を縦長球状(3)の押湯と称する。縦長球状(3)の押湯C3は、円柱部C33の高さ(86.6mm)が、80mmの直径(D)の1.08倍に相当する。また、縦長球状(3)の押湯C3の全体の高さ(H)は166.6mmになる。
【0073】
なお、上記球体は、真球に限られず、例えば、楕円体であってもよい。また、円柱部C33も、高さ方向に直交する方向に沿った断面形状が真円の形状のものに限られない。例えば、断面形状が楕円若しくは角丸長方形の形状のものであってもよい。
【0074】
また、
図6に示す押湯C3も、ネック部C5と不図示の湯口との間に設けられたものであってもよいし、いわゆる揚がり押湯であってもよい。
【0075】
縦長球状(3)の押湯C3の体積、表面積、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)を上記表1に示す。
【0076】
この縦長球状(3)の押湯C3も、縦長球状(1)の押湯と同じく、真球状の押湯を高さ方向(上下方向)にのみ延ばし、
図6に示す押湯C3の頂部C3tは、製品部C4の上端(ここでは上面C41)よりも上方に突出している。製品形状によっては、押湯の頂部が、製品部の上端の高さ以下であると、製品部上端の溶湯圧力が低くなるため、押湯の頂部より先に製品部上端が引けてしまい(凝固収縮が生じてしまい)、製品部に引け巣欠陥が発生してしまうことがある。この場合には、押湯の径方向にスペース的に余裕があっても、押湯の径方向に押湯の体積を増加させず、上方向にのみ押湯の体積を増加させる。すなわち、湯口、湯道、製品部、およびネック部のうちの少なくとも一つとの位置関係により押湯の基本形状として球形の基本形状をとることができる状態であっても、押湯の径を長くして押湯全体で体積を増加させるのではなく、上方向にのみ押湯の体積を増加させる。こうして、押湯C3の頂部C3tが、製品部C4の上端よりも高い位置にあるようにする。なお、鋳型においても同じであり、押湯形成空間の頂部が製品部形成空間の上端よりも高い位置にあるようにする。こうすることで、押湯C3の頂部C3tから引けるようになる。縦長球状(3)の押湯C3は、直径が同じ80mmの真球状の押湯に比べて、体積が2.62倍にもなっているが、縦長球状(3)の押湯C3の高さである166.6mmを直径にする真球状の押湯に比べて、体積は0.3倍以下に削減されている。
【0077】
また、縦長球状(3)の押湯C3と同じ体積を有する真球の直径(等体積球直径)と、その直径を用いて求めた真球の表面積(等体積球表面積)を求め、さらにその等体積球表面積を用いて、“等体積球表面積/縦長球状(3)の押湯C3の表面積”によって表される球形度を求めた。こられの値も表1に示す。縦長球状(3)の押湯の球形度は0.913であり、0.91以上である。
【0078】
さらに、単位体積当たりのモジュラスを押湯効率としてみてみると、0.239×10
-4mm
2であった。
(実施例4)
図7は、実施例4における鋳物の押湯まわりを示す図である。この
図7でも、
図3と同じく、同図(b)に正面図が示され、同図(a)に平面図が示されている。また、
図7(c)に右側面図が示されている。
【0079】
図7に示す押湯C3も、
図5に示す縦長球状(2)の押湯と同じく、
図2を用いて説明した8個込めの横込め鋳造によって鋳造される鋳物に設けられた押湯であり、
図2や
図3に示す製品部と同じ製品部C4に、
図2や
図3に示すネック部と同じネック部C5を通して溶湯を補給するものである。
【0080】
この
図7に示す押湯C3は、直径88mmの球体を半分にした間に、高さ12.3mmの円柱体を高さ方向から挟み込んだ基本形状のものである。すなわち、
図7(b)に示すように、実施例4における押湯C3も、第1半球部C31、第2半球部C32、および円柱部C33を有し、実施例1における縦長球状(1)の押湯よりも、径方向に8mm大きく、円柱部C33の高さは27.7mmも低いものである。以下、
図7に示す押湯C3、すなわち実施例4における押湯C3を縦長球状(4)の押湯と称する。縦長球状(4)の押湯C3は、円柱部C33の高さ(12.3mm)が、88mmの直径(D)の0.14倍に相当する。また、縦長球状(4)の押湯C3の全体の高さ(H)は100.3mmになる。
【0081】
縦長球状(4)の押湯C3の体積、表面積、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)を上記表1に示す。
【0082】
この縦長球状(4)の押湯C3は、縦長球状(1)の押湯とは異なり、直径が80mmの真球状の押湯に対して、径方向と、高さ方向(上下方向)の両方向に延ばしたものであり、直径が80mmの真球状の押湯に比べて、体積が1.61倍になっている。
【0083】
また、縦長球状(4)の押湯C3と同じ体積を有する真球の直径(等体積球直径)と、その直径を用いて求めた真球の表面積(等体積球表面積)を求め、さらにその等体積球表面積を用いて、“等体積球表面積/縦長球状(4)の押湯C3の表面積”によって表される球形度を求めた。こられの値も表1に示す。縦長球状(4)の押湯C3の球形度は0.996であり、縦長球状(1)の押湯よりも球形度が高く、真球に近いことになる。なお、真球の場合には、球形度は1になる。
【0084】
さらに、単位体積当たりのモジュラスを押湯効率としてみてみると、0.361×10
-4mm
2であった。
(実施例5)
図8は、実施例5における鋳物の押湯まわりを示す図である。この
図8でも、
図3と同じく、同図(b)に正面図が示され、同図(a)に平面図が示されている。また、
図8(c)に右側面図が示されている。
【0085】
図8に示す押湯C3も、これまでの実施例における押湯と同じく、
図2を用いて説明した8個込めの横込め鋳造によって鋳造される鋳物に設けられた押湯であり、
図2や
図3に示す製品部と同じ製品部C4に、
図2や
図3に示すネック部と同じネック部C5を通して溶湯を補給するものである。
【0086】
この
図8に示す押湯C3は、これまでの実施例における押湯と形状が異なっている。すなわち、直径80mmの球体を半分にした間に、高さ60mmの中間体を高さ方向から挟み込んだ基本形状のものであるが、ここにいう直径80mmの球体は、断面形状が真円ではなく、角丸長方形の形状であり、二つの等しい長さの平行線と二つの半径40mmの半円弧からなる形状である。すなわち、直径(D)80mmの真球の球体が、
図2(a)に示す矢印方向に潰された形状である。また、高さ60mmの中間体は、角丸長方形の上面と下面を有するものである。この中間体の、1点鎖線で示す見切り面に沿った断面形状も、角丸長方形の形状である。また、
図8に示す押湯C3は、同図(c)に示すように、側面(
図2に示す矢印方向)から見ても、角丸長方形(小判状)に見える。以下、
図8に示す押湯C3、すなわち実施例5における押湯C3を縦横長球状(1)の押湯と称する。縦横長球状(1)の押湯C3は、高さ(H)が140mmであり、
図2に示す矢印と直交する幅方向(
図8(c)における左右方向に相当)の長さは100mmであり、
図6に示す縦長球状(3)の押湯C3よりも、1.25倍の幅広である。
【0087】
縦横長球状(1)の押湯C3は、真球状の押湯を、小判状となるように、
図2(a)に示す矢印方向に潰した形状であり、
図2(a)に示す矢印方向と直交する幅方向に拡がり、押湯の体積を増加させている。
【0088】
なお、
図6に示す押湯のように、
図8に示す押湯C3も、頂部C3tが、製品部C4の上端(ここでは上面C41)よりも上方に突出するまで延ばしてもよい。また、鋳型においても同じであり、押湯形成空間の頂部が製品部形成空間の上端よりも高い位置にあるようにしてもよい。
【0089】
縦横長球状(1)の押湯C3の体積、表面積、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)を上記表1に示す。
【0090】
また、縦横長球状(1)の押湯C3と同じ体積を有する真球の直径(等体積球直径)と、その直径を用いて求めた真球の表面積(等体積球表面積)を求め、さらにその等体積球表面積を用いて、“等体積球表面積/縦横長球状(1)の押湯C3の表面積”によって表される球形度を求めた。こられの値も表1に示す。縦横長球状(1)の押湯C3の球形度は0.960であった。
【0091】
さらに、単位体積当たりのモジュラスを押湯効率としてみてみると、0.283×10
-4mm
2であった。
(実施例6)
図9は、実施例6における鋳物の押湯まわりを示す図である。この
図9でも、
図3と同じく、同図(b)に正面図が示され、同図(a)に平面図が示されている。また、
図9(c)に右側面図が示されている。
【0092】
図9に示す押湯C3も、これまでの実施例における押湯と同じく、
図2を用いて説明した8個込めの横込め鋳造によって鋳造される鋳物に設けられた押湯であり、
図2や
図3に示す製品部と同じ製品部C4に、
図2や
図3に示すネック部と同じネック部C5を通して溶湯を補給するものである。
【0093】
この
図9に示す押湯C3も、
図8に示す縦横長球状(1)の押湯と同じく、直径80mmの球体を半分にした間に、高さ60mmの中間体を高さ方向から挟み込んだ基本形状のものである。この実施例6においても、直径80mmの球体は、断面形状が真円ではなく、角丸長方形の形状であり、二つの等しい長さの平行線と二つの半径40mmの半円弧からなる形状である。すなわち、直径(D)80mmの真球の球体が、
図2(a)に示す矢印方向に潰された形状である。また、高さ60mmの中間体は、角丸長方形の上面と下面を有するものである。この中間体の、1点鎖線で示す見切り面に沿った断面形状も、角丸長方形の形状である。また、
図9に示す押湯C3は、同図(c)に示すように、側面(
図2に示す矢印方向)から見ても、角丸長方形に見える。以下、
図9に示す押湯C3、すなわち実施例6における押湯C3を縦横長球状(2)の押湯と称する。縦横長球状(2)の押湯C3は、高さ(H)が140mmであり、
図2に示す矢印と直交する幅方向(
図9(c)における左右方向に相当)の長さは120mmであり、
図6に示す縦長球状(3)の押湯C3よりも、1.5倍の幅広である。
【0094】
縦横長球状(2)の押湯C3は、真球状の押湯を、
図2(a)に示す矢印方向に、縦横長球状(1)の押湯C3よりも潰した形状であり、
図2(a)に示す矢印方向と直交する幅方向により拡がり、押湯の体積をさらに増加させている。
【0095】
この縦横長球状(2)の押湯C3の体積、表面積、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)を上記表1に示す。
【0096】
また、縦横長球状(2)の押湯C3と同じ体積を有する真球の直径(等体積球直径)と、その直径を用いて求めた真球の表面積(等体積球表面積)を求め、さらにその等体積球表面積を用いて、“等体積球表面積/縦横長球状(2)の押湯C3の表面積”によって表される球形度を求めた。こられの値も表1に示す。縦横長球状(2)の押湯C3の球形度は0.955であった。
【0097】
さらに、単位体積当たりのモジュラスを押湯効率としてみてみると、0.250×10
-4mm
2であった。
(比較例)
図10は、比較例における鋳物の押湯まわりを示す図である。この
図10でも、
図3と同じく、同図(b)に正面図が示され、同図(a)に平面図が示されている。また、
図10(c)に右側面図が示されている。
【0098】
以下、
図1で説明した構成要素の名称と同じ名称の構成要素には、
図1で使用した符号と同じ符号を付して説明する。また、これまで説明した事項と重複する事項については説明を省略する場合がある。
【0099】
図10に示す押湯C3’は、
図1を用いて説明した8個込めの横込め鋳造によって鋳造される鋳物に設けられた押湯であり、
図2や
図3に示す製品部と同じ製品部C4’に、
図2や
図3に示すネック部と同じネック部C5’を通して溶湯を補給するものである。
【0100】
この
図10に示す押湯C3’は、直径(D)80mm、高さ(H)140mmの円柱を基本形状とするものである。この押湯C3’の高さ(140mm)は、80mmの直径の1.75倍に相当する。以下、
図10に示す押湯C3’、すなわち比較例における押湯C3’を円柱状の押湯と称する。
【0101】
この円柱状の押湯C3’の体積、表面積、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)も上記表1に示す。
【0102】
また、円柱状の押湯C3’と同じ体積を有する真球の直径(等体積球直径)と、その直径を用いて求めた真球の表面積(等体積球表面積)を求め、さらにその等体積球表面積を用いて、“等体積球表面積/円柱状の押湯C3’の表面積”によって表される球形度を求めた。こられの値も表1に示す。円柱状の押湯C3’の球形度は、0.91を下まわる0.846であった。
【0103】
さらに、単位体積当たりのモジュラスを押湯効率としてみてみると、0.221×10-4mm2であった。
【0104】
引け巣欠陥のない健全な鋳物製品を製造するためには、製品部の凝固収縮を補う必要があり、そのためには製品部が凝固終了するまで押湯から溶湯を補給し続ける必要がある。そのためには、押湯の凝固時間を製品部の凝固時間より長くする必要がある。凝固時間tは、下記式(1)のクボリノフの法則からモジュラスMの2乗に比例し、そのモジュラスMは下記式(2)のように表せるため、押湯の能力を評価する指標としてモジュラスMは非常に重要である。
t=C・M2 式(1)
M=V/S 式(2)
ただし、Cは係数、Vは体積、Sは表面積を表す。
【0105】
しかし、押湯の体積が大きいほどモジュラスMも大きくなり、押湯の能力は高くなるものの、鋳込み重量も大きくなってしまう。このため、鋳造歩留り(製品部重量/鋳込み重量)の面からは好ましくない。そこで、上述のごとく、単位体積当たりの押湯のモジュラスを押湯効率Eとして求めた。すなわち、押湯効率Eは下記式(3)で表される。
E=M/V=S
-1 式(3)
従来の押湯には、高さが直径の1.5~2倍の円柱状のものが一般的に用いられている。したがって、
図10に示す、高さが直径の1.75倍の円柱状の押湯は、一般的な押湯の代表例に相当する。以下、高さHcが直径Dのα倍の円柱状の押湯について、上記式(1)~上記式(3)を用いて計算すると以下のようになる。
Hc=αD
Vc=(π/4)×D
2×Hc=(π/4)×αD
3 式(4)
Sc=(π/4)×D
2×2+πD×Hc=π/2×(1+2α)D
2
Mc=Vc/Sc={π/4×αD
3}/{π/2×(2α+1)D
2}=αD/{2(2α+1)} 式(5)
Ec=Sc
-1=2D
-2/{π(2α+1)} 式(6)
ただし、Vcは円柱状の押湯の体積、Scは円柱状の押湯の表面積、Mcは円柱状の押湯のモジュラス、Ecは円柱状の押湯の押湯効率を表す。
【0106】
次に、円柱状の押湯の直径と同じ直径Dの球を半分にした間に円柱体を高さ方向から挟み込んだ縦長球状の押湯(例えば、実施例1~4の押湯)について検討する。まず、この縦長球状の押湯全体の高さHsは直径Dのβ倍とすると、
Hs=βD
で表される。そして、挟み込まれた円柱体の高さはHs-Dになる。そうすると、縦長球状の押湯の体積Vsと表面積Ssは以下の式で表される。
Vs=(π/6)×D3+(π/4)×D2×(Hs-D)=(π/12)×D3(3β-1) 式(7)
Ss=πD2+πD(Hs-D)=πβD2
上記式(2)より縦長球状の押湯のモジュラスMsは、以下の式で表される。
Ms=Vs/Ss={(π/12)×D3(3β-1)}/{πβD2}=(D/12β)×(3β-1) 式(8)
また、上記式(3)より縦長球状の押湯の押湯効率Esは、以下の式で表される。
Es=Ss-1=(πβ)-1×D-2 式(9)
続いて、上記円柱状の押湯のモジュラスMcと同等のモジュラスMsを持つ縦長球状の押湯について検討する。
Mc=Msであることから、上記式(5)および上記式(8)を用いて、
αD/{2(2α+1)}=(D/12β)×(3β-1)
が成り立ち、
β=(2α+1)/3 式(10)
が求められる。この式(10)は、直径Dのα倍の高さHcを有する円柱状の押湯と、その円柱状の押湯のモジュラスMcと同等のモジュラスMsを持つ、直径Dのβ倍の高さHsを有する縦長球状の押湯との間で成立する式になる。
縦長球状の押湯の体積Vsは、上記式(7)より、
Vs=(π/12)×D3(3β-1)
であり、これに上記式(10)を代入すると、
Vs=(π/6)×αD3
になる。
また、円柱状の押湯の体積Vcは、上記式(4)より、
Vc=(π/4)×αD3
になる。
これらの結果、
Vs/Vc={(π/6)×αD3}/{(π/4)×αD3}=2/3≒0.6667
になり、円柱状の押湯と同じ直径およびモジュラスを持つ縦長球状の体積は、直径や高さにかかわらず、円柱状の押湯より体積が常に約33%小さくなることがわかる。
【0107】
また、押湯効率で比較すると以下のようになる。
円柱状の押湯の押湯効率Ecは、上記式(6)より、
Ec=2D-2/{π(2α+1)}
で表され、縦長球状の押湯の押湯効率Esは、上記式(9)より、
Es=(πβ)-1×D-2
で表され、これに上記式(10)を代入すると、
Es=3D-2/{π(2α+1)}
になる。
これらの結果、円柱状の押湯に対する縦長球状の押湯の押湯効率比率は、
Es/Ec=[3D-2/{π(2α+1)}]/[2D-2/{π(2α+1)}]=3/2=1.5
になり、このことから、縦長球状の押湯は円柱状の押湯の1.5倍の押湯効率を有することがわかる。
【0108】
また、比較例である、高さHcが直径Dの1.75倍になる円柱状の押湯では、
α=1.75
であり、その円柱状の押湯の球形度を計算すると、表1に示したように0.846になる。一方、上記式(10)に、α=1.75を代入すると、
β=(2×1.75+1)/3=1.5
になる。すなわち、直径Dの1.75倍の高さHcを有する円柱状の押湯のモジュラスMcと同等のモジュラスMsを持つ縦長球状の押湯の高さは、直径Dの1.5倍になる。この、直径Dの1.5倍の高さHsを有する縦長球状の押湯は、実施例1の縦長球状(1)の押湯C3になり、球形度を計算すると、表1に示したように0.968になる。
【0109】
したがって、同等のモジュラスを持つ、円柱状の押湯と縦長球状の押湯とでは、縦長球状の押湯の方が、円柱状の押湯より球形度が高いことがわかる。
【0110】
次に、直径に対して高さが1.75倍であった、比較例の円柱状の押湯C3’は、上述のごとく一般的な押湯の代表例に相当する押湯であり、以下、この円柱状の押湯C3’と各実施例を比較してみる。
【0111】
実施例1における押湯(縦長球状(1)の押湯C3)と、円柱状の押湯C3’とを比較すると、モジュラスは同じである。一方、球形度は、実施例1における押湯C3の方が、円柱状の押湯C3’よりも高いことがわかる。また、押湯効率をみてみると、実施例1における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の1.5倍であることがわかる。さらに、押湯体積をみてみると、実施例1における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の0.667倍であることがわかる。
【0112】
実施例1の押湯C3を用いることで、円柱状の押湯C3’に比べ球形度が高くなり、モジュラスは同じ、すなわち押湯としての保温性、言い換えれば押湯効果は同等でありながら、押湯効率は1.5倍になる一方、体積は、円柱状の押湯C3’に対して33%削減することができる。
【0113】
実施例2における押湯(縦長球状(2)の押湯C3)は、円柱状の押湯C3’に対して、モジュラスは、1.04倍になる。また、球形度は、実施例2における押湯C3の方が、円柱状の押湯C3’よりも高い。また、押湯効率をみてみると、実施例2における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の1.29倍であることがわかる。さらに、押湯体積をみてみると、実施例2における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の0.810倍であることがわかる。
【0114】
実施例2の押湯C3を用いることで、円柱状の押湯C3’に比べ球形度が高くなり、モジュラスも高くなることで押湯としての保温性が向上し、実施例2の押湯は、上記式(1)より凝固時間が、円柱状の押湯C3’に対して1.08倍延び、さらに、押湯効率は1.29倍になる一方、体積は、円柱状の押湯C3’に対して19%削減することができる。
【0115】
実施例3における押湯(縦長球状(3)の押湯C3)は、円柱状の押湯C3’に対して、モジュラスは、1.08倍になる。また、押湯効率をみてみると、実施例3における押湯C3は、実施例2における押湯C3よりは劣るものの、円柱状の押湯C3’の1.08倍であることがわかる。また、押湯体積をみてみると、実施例3における押湯C3は、円柱状の押湯C3’とほぼ同じ体積である。この実施例3の押湯C3における球形度は0.913であり、実施例2における押湯C3よりも低いものの、円柱状の押湯C3’よりは十分に高い。
【0116】
実施例3の押湯C3を用いることで、円柱状の押湯C3’に比べ球形度が高くなり、体積は、円柱状の押湯C3’と同程度でありながらも、モジュラスが高くなることで押湯としての保温性が向上し、実施例3の押湯は、凝固時間が円柱状の押湯C3’に対して1.17倍延び、さらに、押湯効率も向上している。
【0117】
実施例4における押湯(縦長球状(4)の押湯C3)は、円柱状の押湯C3’に対して、モジュラスは同程度である。また、球形度は、実施例4における押湯C3の方が、円柱状の押湯C3’よりも遙かに高い。また、押湯効率をみてみると、実施例4における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の1.63倍と非常に高いことがわかる。さらに、押湯体積をみてみると、実施例4における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の0.614倍であり体積が抑えられていることがわかる。
【0118】
実施例4の押湯C3を用いることで、円柱状の押湯C3’に比べ球形度が遙かに高くなり、モジュラスは同程度であっても、押湯効率が1.63倍にもなり、体積も、円柱状の押湯C3’に対して39%も削減することができる。
【0119】
実施例5における押湯(縦横長球状(1)の押湯C3)は、円柱状の押湯C3’に対して、モジュラスは、1.07倍になる。また、球形度は、実施例5における押湯C3の方が、円柱状の押湯C3’よりも高い。また、押湯効率をみてみると、実施例5における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の1.28倍であることがわかる。さらに、押湯体積をみてみると、実施例5における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の0.833倍であることがわかる。
【0120】
実施例5の押湯C3を用いることで、円柱状の押湯C3’に比べ球形度が高くなり、モジュラスも高くなることで押湯としての保温性が向上し、実施例5の押湯は、凝固時間が円柱状の押湯C3’に対して1.14倍延び、さらに、押湯効率は1.28倍になる一方、体積は、円柱状の押湯C3’に対して17%削減することができる。
【0121】
実施例6における押湯(縦横長球状(2)の押湯C3)は、円柱状の押湯C3’に対して、モジュラスは、1.13倍であり高い。また、球形度も、実施例6における押湯C3の方が、円柱状の押湯C3’よりも高い。さらに、押湯効率をみてみると、実施例6における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の1.13倍であることがわかる。また、押湯体積をみてみると、実施例6における押湯C3は、円柱状の押湯C3’と同じ体積である。
【0122】
実施例6の押湯C3を用いることで、円柱状の押湯C3’に比べ球形度が高くなり、体積は、円柱状の押湯C3’と同じでありながらも、モジュラスが高くなることで押湯としての保温性が向上し、実施例6の押湯は、凝固時間が円柱状の押湯C3’に対して1.28倍延び、さらに、押湯効率も向上している。
【0123】
ここで、或る押湯の体積をV、表面積をSとした場合、モジュラスはV/S=Mで表される。
【0124】
上記或る押湯の体積(V)と同じ体積を有する真球(等体積球)の体積(Va)は、直径をDaとした場合、Va=V=(π/6)Da3になり、その表面積(Sa)は、Sa=πDa2になる。この結果、等体積球のモジュラス(Ma)は、Ma=Da/6になる。この結果、等体積球の体積(Va)とモジュラス(Ma)の関係は、Va=V=(π/6)Da3=(π/6)(6Ma)3=36πMa3になり、Ma=(V/36π)1/3と書き改めることができる。
【0125】
上記或る押湯のモジュラス(M)と同じモジュラス(Mb)を有する真球(等モジュラス球)の体積(Vb)は、直径をDbとした場合、Vb=(π/6)Db3になり、その表面積(Sb)は、Sb=πDb2になる。この結果、等モジュラス球のモジュラス(Mb)は、Mb=M=Db/6になる。この結果、等モジュラス球の体積(Vb)とモジュラス(Mb)の関係は、Vb=(π/6)Db3=(π/6)(6M)3=36πM3になり、M=(Vb/36π)1/3と書き改めることができる。
【0126】
そして、上記或る押湯の球形度(ψ)は、“等体積球の表面積(Sa)/上記或る押湯の表面積(S)”となり、ψ=Sa/(V/M)=(Sa・M)/V=(Sa・M)/(Sa・Ma)=M/Ma=[(Vb/36π)1/3]/[(V/36π)1/3]=(Vb/V)1/3と書き改めることができる。この結果、上記或る押湯の体積(V)と等モジュラス球の体積(Vb)の比率(Vb/V)は、球形度(ψ)を用いて表せば、Vb/V=ψ3になる。
【0127】
上記或る押湯が、球形度(ψ)が0.91の押湯であった場合、その或る押湯の体積(v)は、V=Vb/ψ3=1.33Vbで表される。この結果、球形度(ψ)が0.91を下まわる押湯であった場合には、理想的な球形である等モジュラス球の体積(Vb)に対して33%を超えて体積が増加してしまう。1/3を超える体積増加は見過ごすことができず、鋳造歩留りの低下が顕著になってしまう。
【0128】
また、円柱状の押湯C3’と同程度の体積であった実施例3の押湯C3と実施例6の押湯C3うち、実施例3の押湯C3は高さ方向のみに延ばしたものであるのに対して、実施例6の押湯C3は高さ方向の他に幅方向にも延ばしたものである。実施例6の押湯C3では、二方向への延ばしでありながら、延ばした程度が相対的に小さく、一方、実施例3の押湯C3では、一方向への延ばしでありながら、延ばした程度が相対的に大きかったことから球形度に差が生じた。このことから、円柱状の押湯C3’と体積を同程度にすることを前提条件にすれば、押湯を一方向に延ばす場合の限界は、球形度で管理することができ、その限界値は0.91であることがわかる。
【0129】
なお、押湯の基本形状は、縦長球状や縦横長球状といった、球体を分割した球体部分が分散配置された基本形状に限られることはなく、球形度が0.91以上1.00未満になる基本形状であればよい。このことは、押湯形成空間の基本形状についても同様である。
【0130】
各実施例における押湯C3によれば、球形度が0.91以上と高く、押湯の保温性は比較例の円柱状の押湯C3’と同等以上であることがわかる。これによって、製品部C4に対応する好適なモジュラスを有し、かつ球形度が0.91以上と高いことで、小さな体積の押湯で十分な押湯効果を得ることができる。したがって、押湯の基本形状として球形の基本形状を採用することができない状態であっても、鋳造歩留りを低下させることなく押湯効果を発揮することができる。この結果、押湯に必要な溶湯を大幅に削減することができ、溶解のための消費電力および溶湯処理費等を大幅に削減できるようになる。また、CO2削減にも大きく貢献できる。
【符号の説明】
【0131】
C 鋳物
C2 湯道
C3 押湯
C4 製品部
C5 ネック部
C31 第1半球部
C32 第2半球部
C33 円柱部
M 鋳型
M1 湯口形成空間
M3 押湯形成空間
M4 製品部形成空間
M5 ネック部形成空間