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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】歯科用X線撮影装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/14 20060101AFI20221223BHJP
   A61B 6/08 20060101ALI20221223BHJP
   A61C 19/00 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
A61B6/14 301
A61B6/14 311
A61B6/08 330
A61C19/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018101686
(22)【出願日】2018-05-28
(65)【公開番号】P2019205543
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000108672
【氏名又は名称】タカラベルモント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】長野 竜也
(72)【発明者】
【氏名】村田 乾
(72)【発明者】
【氏名】水谷 元
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-072508(JP,A)
【文献】特開2010-148656(JP,A)
【文献】特表2001-518341(JP,A)
【文献】特表2012-531287(JP,A)
【文献】特開2015-177964(JP,A)
【文献】特開2015-177963(JP,A)
【文献】特開2002-360565(JP,A)
【文献】特開2004-229787(JP,A)
【文献】特開2017-176852(JP,A)
【文献】特表2011-529359(JP,A)
【文献】特表2018-509204(JP,A)
【文献】実開平07-018701(JP,U)
【文献】特開2015-188611(JP,A)
【文献】特開平07-184887(JP,A)
【文献】特開平04-035650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置が可能なX線発生部とX線検出部とを備える旋回アームと、
前記旋回アームを旋回可能に支持するアーム支持部と、
前記アーム支持部を昇降可能に支持する支柱部と、
前記支柱部に昇降可能に支持され、被験者の顎部を支持する顎位置決め部と、
前記X線発生部及び前記X線検出部の何れか一方に設けられ、前記顎位置決め部に支持された被験者の顎部の撮影が可能なカメラと、を備え、
前記顎位置決め部は、対向配置された前記X線発生部及び前記X線検出部の間の所定位置に配置されるとともに、前記所定位置から退避可能に構成され、
前記X線発生部及び前記X線検出部のうち前記カメラを有しない一方が、前記カメラを有する他方に対して対向配置された位置から退避可能に構成されている歯科用X線撮影装置。
【請求項2】
前記顎位置決め部は、前記支柱部周りに回動することにより退避する請求項に記載の歯科用X線撮影装置。
【請求項3】
前記X線発生部及び前記X線検出部のうち前記カメラを有しない一方が、前記カメラを有する他方に対して対向配置された位置から独立して前記旋回アームの回転軸周りに移動することにより退避する請求項又はに記載の歯科用X線撮影装置。
【請求項4】
前記支柱部が立設されるベース部を備え、
平面視において、前記支柱部が前記ベース部の端部に配置され、前記ベース部が前記支柱部を挟んで前記端部に向かう2つの側縁を有し、前記支柱部の中心を通り2つの前記側縁が線対称となる中心線に対して45度の傾きを有し且つ前記端部の側から2つの前記側縁に向けてそれぞれ接線を引いたときに、前記ベース部は2本の前記接線と2つの前記側縁との接点から2本の前記接線が交差する側に向けて凸部のみを有する請求項1からの何れか一項に記載の歯科用X線撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用X線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科医院において、パノラマ撮影用やCT撮影用の歯科用X線撮影装置(以下、単に「X線撮影装置」とも称する)が用いられる。特許文献1には、パノラマ撮影用やCT撮影用として、対向配置が可能なX線発生部とX線検出部とを備える旋回アームと、被験者の顎部を支持する顎位置決め部(チンレスト)と、を備えるX線撮影装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、口腔内のX線写真を撮影する口腔内レントゲン装置が開示されている。この装置では、被験者の口腔付近を移動させるアーム部の先端にレントゲン装置を配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-34973号公報
【文献】特開2004-105612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯科医院では、1つのX線撮影室に、用途の異なる2つの装置(例えば、特許文献1に記載のX線撮影装置と、特許文献2に記載の口腔内レントゲン装置)を併設することがある。この場合、X線撮影室において2つの装置が互いに干渉し合わないように配置する必要がある。そのためには、X線撮影室の床面積を大きくすることも考えられるが、歯科医院では床面積が限られており、使用頻度の高い診察室に十分な床面積を確保する必要があり、使用頻度の低いX線撮影室については床面積を最小限に留める必要がある。
【0006】
上記実情に鑑み、X線撮影室において省スペースでの設置が可能な歯科用X線撮影装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の歯科用X線撮影装置の特徴構成は、対向配置が可能なX線発生部とX線検出部とを備える旋回アームと、前記旋回アームを旋回可能に支持するアーム支持部と、前記アーム支持部を昇降可能に支持する支柱部と、前記支柱部に昇降可能に支持され、被験者の顎部を支持する顎位置決め部と、を備え、前記顎位置決め部は、対向配置された前記X線発生部及び前記X線検出部の間の所定位置に配置されるとともに、前記所定位置から退避可能に構成されている点にある。
【0008】
本構成のように、対向配置が可能なX線発生部とX線検出部とを備える旋回アームと、顎位置決め部とを備えるX線撮影装置は、パノラマ撮影やCT撮影に用いられ、通常は直立姿勢の被験者の顎を顎位置決め部によって位置決めしてX線撮影が行われる。歯科医院等では、このようなX線撮影装置とは別に、口腔内のX線写真を撮影するための口腔内レントゲン装置(特許文献2参照)が用いられ、1つのX線撮影室にX線撮影装置と口腔内レントゲン装置とが併設されることがある。口腔内レントゲン装置は、特許文献2に示されるように、先端にレントゲン装置を備えたアーム部が水平方向において回動自在に支柱部に支持され、着座姿勢の被験者に対してアーム部の位置を調整することで被験者の口腔内のX線写真の撮影が行われる。
【0009】
ここで、X線撮影装置において顎位置決め部は、直立姿勢の被験者の顎の下方に位置し、口腔内レントゲン装置のアーム部は、着座姿勢の被験者の頭部と同程度の高さに位置する。そのため、X線撮影室にX線撮影装置と口腔内レントゲン装置とが併設された場合には、X線撮影装置の顎位置決め部と、口腔内レントゲン装置のアーム部とは、X線撮影室の高さ方向において近接した位置に配置される。その場合にX線撮影室が狭いときには、口腔内レントゲン装置の使用時において、口腔内レントゲン装置において水平方向に展開されたアーム部がX線撮影装置の顎位置決め部に干渉する場合がある。そこで、本構成では、X線撮影装置において、対向配置されたX線発生部及びX線検出部の間の所定位置に配置される顎位置決め部が、所定位置から退避可能に構成されている。これにより、X線撮影装置において、顎位置決め部を所定位置から退避させることで、所定位置にスペースを確保することができる。その結果、狭いX線撮影室にX線撮影装置と口腔用レントゲン装置とを併設した場合であっても、当該スペースを利用して口腔用レントゲン装置のアーム部を展開してのX線撮影が可能になるため、両装置の干渉を容易に回避することができる。
【0010】
他の特徴構成は、前記顎位置決め部は、前記支柱部周りに回動可能に支持される点にある。
【0011】
本構成の如く、顎位置決め部が支柱部周りに回動移動することにより所定位置から退避することで、顎位置決め部を容易に退避させることができる。また、顎位置決め部を支柱部周りに回動移動させることで、顎位置決め部は退避位置から所定位置に容易に復帰させることができる。ただし、顎位置決め部は、対向配置されたX線発生部及びX線検出部の間の所定位置に配置されるため、顎位置決め部を回動移動させる際に、顎位置決め部が回動移動する側に存在するX線発生部(またはX線検出部)と干渉する場合がある。そのような場合には、顎位置決め部がX線発生部(又はX線検出部)に干渉しないよう、顎位置決め部をX線発生部(又はX線検出部)の下端よりも低い位置に設けることや、顎位置決め部を回動移動する前に、顎位置決め部が回動移動する側の位置するX線発生部(またはX線検出部)を退避させることが必要である。
【0012】
他の特徴構成は、前記X線発生部及び前記X線検出部の何れか一方に設けられ、前記顎位置決め部に支持された被験者の顎部の撮影が可能なカメラを更に備え、前記X線発生部及び前記X線検出部のうち前記カメラを有しない一方が、前記カメラを有する他方に対して対向配置された位置から退避可能に構成されている点にある。
【0013】
本構成によれば、旋回アームに備えられるX線発生部及びX線検出部のうち、カメラを有しない一方がカメラを有する他方に対して対向配置された位置から退避可能に構成されている。本構成により、例えばX線発生部がカメラを有するときにカメラを有しないX線検出部をX線発生部に対して対向配置された位置から退避させることで、カメラの撮影領域からX線検出部が外れるようにすることができる。また、これにより、X線撮影装置が用いられる場合には、被験者を挟んでカメラに対向する位置に術者用のスペースを確保することができ、術者が被験者の側方から装置の調整等を行うことができる。その結果、術者が被験者の頭部位置づけを容易に行うことができる。
【0014】
他の特徴構成は、前記X線発生部及び前記X線検出部のうち前記カメラを有しない一方が、前記カメラを有する他方に対して対向配置された位置から独立して前記旋回アームの回転軸周りに移動することにより退避する点にある。
【0015】
本構成により、例えばX線発生部がカメラを有するときにカメラを有しないX線検出部がX線発生部に対して対向配置された位置から独立して旋回アームの回転軸周りに移動することにより退避させることで、カメラの撮影領域からX線検出部が外れるようにすることができる。また、X線発生部及びX線検出部のうち、カメラを有しない一方が旋回アームの回転軸周りに移動することで、カメラを有しない一方は旋回アームの旋回領域内に収めることができるため、歯科用X線撮影装置をよりコンパクトに構成することができる。
本発明の歯科用X線撮影装置の特徴構成は、対向配置が可能なX線発生部とX線検出部とを備える旋回アームと、前記旋回アームを旋回可能に支持するアーム支持部と、前記アーム支持部を昇降可能に支持する支柱部と、前記X線発生部及び前記X線検出部の何れか一方に設けられ、被験者の顎部の撮影が可能なカメラと、を備え、前記X線発生部及び前記X線検出部のうち少なくとも一方が、対向配置された位置から退避可能に構成されている点にある。
他の特徴構成は、前記X線発生部及び前記X線検出部のうち少なくとも一方が、対向配置された位置から独立して前記旋回アームの回転軸周りに移動する点にある。
他の特徴構成は、前記X線発生部及び前記X線検出部のうち前記カメラを有しない一方が、前記カメラを有する他方に対して対向配置された位置から退避可能に構成されている点にある。
【0016】
他の特徴構成は、前記支柱部が立設されるベース部を備え、平面視において、前記支柱部が前記ベース部の端部に配置され、前記ベース部が前記支柱部を挟んで前記端部に向かう2つの側縁を有し、前記支柱部の中心を通り2つの前記側縁が線対称となる中心線に対して夫々45度の傾きを有し且つ前記端部の側から2つの前記側縁に向けて夫々接線を引いたときに、前記ベース部は2本の前記接線と2つの前記側縁との接点から2本の前記接線が交差する側に向けて凸部のみを有する点にある。
【0017】
本構成によれば、支柱部がベース部の端部に配置され、ベース部が支柱部を挟んで端部に向かう2つの側縁を有し、支柱部の中心を通り2つの側縁が線対称となる中心線に基づいて2つの側縁に接線を引き、当該接線と2つの側縁との接点から2本の接線の交差する側に向けて凸部のみを有する。こうすることで、例えば平面視において直角に交差する2つの壁部を有するX線撮影室にX線撮影装置を設置する場合に、2つの壁部によって形成される隅部にベース部の凸部を近接させ易くなる。これにより、ベース部の端部に配置される支柱部は、X線撮影室の隅部近くに配置することが可能になる。その結果、X線撮影装置をX線撮影室に設置する際に、X線撮影室の隅部を有効に活用することができ、X線撮影室におけるX線撮影装置の占有面積を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】歯科用X線撮影装置の斜視図である。
図2】歯科用X線撮影装置の部分側面図である。
図3】歯科用X線撮影装置の部分正面図である。
図4】歯科用X線撮影装置のブロック構成図である。
図5】第1カメラ及び第2カメラによる撮影状態を示す平断面図である。
図6】顎位置決め部が所定位置にある状態を示す斜視図である。
図7】顎位置決め部が退避した状態を示す斜視図である。
図8図6における旋回アームと顎位置決め部との位置関係を示す平面図である。
図9図7における旋回アームと顎位置決め部との位置関係を示す平面図である。
図10】X線撮影室の隅部に配置したベース部の形状を示す平面図である。
図11】別形態のX線撮影装置を示す部分側面図である。
図12】別形態の顎位置決め部を示す図である。
図13】別形態の顎位置決め部を示す図である。
図14】顎位置決め部が退避した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1図10に示される歯科用のX線撮影装置Aは、パノラマ断層撮影モード及びCT断層撮影モードを有している。X線撮影装置Aは、X線発生部2とX線検出部3とを有する旋回アーム10と、旋回アーム10を旋回可能に支持するアーム支持部20と、アーム支持部20を昇降可能に支持する支柱部30と、を備える。旋回アーム10においてX線発生部2とX線検出部3とは対向配置可能に構成される。支柱部30は、床面に設置されるベース部40に立設される支柱本体31と、支柱本体31に昇降可能に取付けられる昇降体32とを有する。アーム支持部20は、昇降体32の上部に取り付けられて昇降体32とともに上下する。昇降体32は、モータ等の昇降機構(不図示)を介して支柱本体31に対して上下昇降可能に構成されている。
【0021】
旋回アーム10は、X線発生部2及びX線検出部3を備える。旋回アーム10は、アーム支持部20に対して回転軸Pを中心に旋回可能に取り付けられている。旋回アーム10において、X線発生部2及びX線検出部3は回転軸Pを挟んで対向配置可能に備えられている。X線検出部3は、X線発生部2に対して対向配置された位置から退避可能に構成されている。本実施形態では、X線検出部3は、X線発生部2に対して対向配置された位置から独立して旋回アーム10の回転軸P周りに移動可能に構成されている。
【0022】
X線発生部2は、X線管等のX線発生器と、X線ビームの広がりを規制するスリット等によって構成され、X線検出部3は、2次元的に広がったCCDセンサ等のX線検出器によって構成されている。
【0023】
X線撮影装置Aは、昇降体32が昇降する上下方向をZ軸とし、該Z軸に直交しアーム支持部20の延設方向をX軸、Z軸とX軸とに直交する方向(アーム支持部20の横幅方向)をY軸としたときに(図1参照)、旋回アーム10(回転軸P)がアーム支持部20に対してX軸方向、Y軸方向に移動可能に構成されている。
【0024】
旋回アーム10の下方に、被験者Bの顎部を支持する顎位置決め部50が設けられている。図2図3に示すように、顎位置決め部50は、支持フレーム51と、本体部52とを備える。支持フレーム51の一端が昇降体32に取付けられ、支持フレーム51の他端に本体部52が配置されている。これにより、顎位置決め部50は支柱部30に昇降可能に支持され、昇降体32の上下動に伴い、旋回アーム10と顎位置決め部50とが一体的に上下動する。顎位置決め部50は、対向配置されたX線発生部2及びX線検出部3の間の所定位置Dに配置されている。本実施形態においては、支持フレーム51が支柱部30周りに回動可能に支持されており、これにより顎位置決め部50は所定位置Dから退避可能に構成されている。
【0025】
顎位置決め部50の本体部52には被験者Bの頭部を固定するための頭部固定部53が備えられ、支持フレーム51には被験者Bが握るためのハンドル54が備えられている。
頭部固定部53は、撮影に際して被験者Bの頭部を安定的に固定するために、被験者Bの顎を支持するためのチンレスト55と、一対の側頭部押さえ56とを有している。側頭部押さえ56は側頭部を固定するために左右に配置される。一対の側頭部押さえ56の間隔は、チンレスト55の側部に設けられたダイヤル57によって調整することができる。チンレスト55の上部には被験者Bの開口用のバイトブロック58が設けられている。
【0026】
顎位置決め部50の支持フレーム51の近傍には第1カメラ33が取付けられ、旋回アーム10のX線発生部2には第2カメラ34が設けられている。第1カメラ33及び第2カメラ34は、顎位置決め部50に支持された被験者Bの顎部を含む顔部を撮影するために設けられている。本実施形態では、第1カメラ33は昇降体32に取付けられたカメラ支持体35に設けられている。支持フレーム51は、カメラ支持体35から延出している。第1カメラ33及び第2カメラ34は、写真用カメラとしてのみならず、連続的に撮影可能なビデオカメラとして機能するように構成されている。第1カメラ33は、顎位置決め部50に支持された被験者Bの顎部の正面方向からの撮影が可能であり、顎位置決め部50とともに上下動して被験者Bの顎部正面の画像を取得する。一方、第2カメラ34は、旋回アーム10においてX線発生部2を被験者Bの側方位置に移動させることで被験者Bの顎部側面の画像を取得する。
【0027】
顎位置決め部50の支持フレーム51には、ブラケット51aを介してモニタ部としての操作パネル60が取り付けられている。操作パネル60は支持フレーム51に対して姿勢変更可能に取り付けられている。操作パネル60は、第1カメラ33及び第2カメラ34によって撮影された撮影画像を表示可能に構成される。操作パネル60は、例えばタッチパネルで構成され、X線撮影装置Aの各種動作を指示するためのアイコンが表示され、該当するアイコンをタッチすることでその動作が選択される。
【0028】
一般に、パノラマX線撮影では、被験者の頭部はフランクフルト平面が水平面(例えば床面)に平行になるように位置づけされる。フランクフルト平面とは、前方基準点である左右の眼窩最下点と、後方基準点である両外耳孔の上端を結んだ仮想平面である。フランクフルト平面を水平面に平行にすると咬合平面が適正な角度に前方傾斜するため、被験者の顎部の解剖学的構造がパノラマ断層撮影において明瞭にX線撮影されることが知られている。そこで、図1に示すように、X線撮影装置Aは、第1カメラ33の上方に、被験者Bの視線を誘導するための視線誘導体70を有する。視線誘導体70は、顎位置決め部50に顎部が載置された被験者Bの眼の位置よりも低い位置に配置され、術者の指示等により被験者Bが視線誘導体70を直視することで、被験者Bの頭部は前傾姿勢になる。
【0029】
これにより、被験者B自身の動作を利用して、X線撮影において被験者Bの頭部を最適な姿勢にすべく、被験者Bの頭部を位置づけすることができる。その結果、被験者Bの頭部位置づけをさらに容易に行うことができる。本実施形態では、視線誘導体70として円形状のシール体が昇降体32に貼着されている。視線誘導体70は、昇降体32にではなく、第1カメラ33のカメラ支持体35に設けられていてもよい。また、視線誘導体70の形状は、円形状に特定されず三角形、四角形等の他の形状であってもよい。また、視線誘導体70は、シール体ではなく、LED等による発光体で構成されていてもよい。また、視線誘導体70は、昇降体32が昇降する方向であるZ軸と、該Z軸に直交するアーム支持部20の横幅方向であるY軸によって形成されるYZ平面(視線誘導体70が貼着されている昇降体32上の面)ではなく、頭部が前傾した被験者Bの視線に対して略垂直となる平面(例えばカメラ支持体35の第1カメラ33が取り付けられた面を上方向に延長した面)に貼着されていてもよい。
【0030】
図4は、X線撮影装置Aのブロック図である。X線撮影装置Aは制御部80を含んで構成される。制御部80は、X線発生部2、X線検出部3、旋回アーム10、昇降体32、第1カメラ33及び第2カメラ34、頭部固定部53等を制御する。制御部80は操作パネル60による表示を制御し、操作パネル60からの指示に基づいて各種制御を実行することができる。操作パネル60は支持フレーム51から取り外し可能であって、取り外された状態であっても制御部80と通信可能に構成されている。
【0031】
次に、X線撮影装置Aの使用方法について説明する。X線撮影装置Aに被験者Bを案内する前に、図5に示すように、X線発生部2及びX線検出部3が対向する状態から、第2カメラ34を有するX線発生部2に対して第2カメラ34を有しないX線検出部3を独立して旋回アーム10の回転軸P周りに移動させる。すなわち、図5の二点鎖線で示されるように、X線検出部3をX線発生部2と同じく被験者Bの右側であって、第1カメラ33の撮影領域33Sと第2カメラ34の撮影領域34Sのいずれにも重複しない位置に移動させる。X線発生部2に対してX線検出部3を独立して旋回アーム10の回転軸P周りに移動させるのは、X線撮影装置Aに被験者Bを案内した後であってもよい。
【0032】
このように、旋回アーム10において、第2カメラ34を有しないX線検出部3が第2カメラ34を有するX線発生部2に対して対向配置された位置から独立して旋回アーム10の回転軸P周りに移動することにより退避する。X線検出部3は回転軸P周りに移動するので、退避後も旋回アーム10の旋回領域内に収めることができる。これにより、第2カメラ34の撮影領域34SからX線検出部3が外れるようにすることができる。また、被験者Bを挟んで第2カメラ34に対向する位置に術者用のスペースを確保することができ、術者が被験者Bの側方からX線撮影装置Aの調整や操作パネル60での撮影画像の確認等を行うことができる。その結果、術者が被験者Bの頭部位置づけを容易に行うことができる。
【0033】
次に、X線撮影装置Aの顎位置決め部50に被験者Bを案内し、被験者Bの頭部位置づけを行う。術者は、X線検出部3が存在しない被験者Bの左側に位置し、被験者Bの顔部側面を直視しつつX線撮影装置Aの調整を行う。術者は、チンレスト55の高さを調整して被験者Bの顎がチンレスト55に載置される状態にして被験者Bにバイトブロック58を噛ませる。被験者Bの頭部は、ダイヤル57で間隔が調節された一対の側頭部押さえ56によって位置保持される。
【0034】
術者は、操作パネル60に表示される被験者Bの正面画像と、被験者Bの側面画像を参照しつつチンレスト55の高さを微調整する。そして、被験者Bの視線が視線誘導体70を直視するように被験者Bの頭部を前傾させる。これにより被験者Bの頭部位置づけが完了する。被験者Bの頭部位置づけが完了すると、第1カメラ33及び第2カメラ34を用いてX線撮影のためのカメラスカウト指定を行う。
【0035】
パノラマ断層撮影の場合は、正面画像において正中位置を指定し、側面画像において犬歯位置を指定する。CT断層撮影の場合は、正面画像において顔部の左右方向における撮影領域を指定し、側面画像において顔部の前後方向における撮影領域を指定する。操作パネル60から制御部80が撮影領域の指定を受けると、制御部80はX線発生部2及びX線検出部3や旋回アーム10に対して制御信号を送信する。これにより、指定された撮影領域を撮影可能にする位置に、X線発生部2及びX線検出部3が移動するとともに、X線発生部2においてX線照射領域が調整され、X線検出部3においてX線検出領域が調整される。その後パノラマ断層撮影またはCT断層撮影が行われる。
【0036】
本実施形態においては、X線撮影装置Aの不使用時にあっては、図6及び図8に示されるように、X線発生部2及びX線検出部3を旋回アーム10の回転軸P周りに移動させて支柱部30の側に位置させることができる。X線発生部2及びX線検出部3の両方が退避することにより、顎位置決め部50の本体部52は所定位置Dにおいて露出状態になる。図6及び図8の状態から、顎位置決め部50を支柱部30周りに回動させる。具体的には、支持フレーム51及び本体部52が一体となって支柱部30周りに回動する。これにより、顎位置決め部50の本体部52は、図7及び図9に示すように、所定位置Dから退避することとなる。図6図9では、顎位置決め部50を所定位置Dから退避させるために、X線発生部2及びX線検出部3の両方を支柱部30の側に移動させる例を示したが、X線発生部2及びX線検出部3のうち一方のみを両者の対向位置から退避させるようにしてもよい。
【0037】
X線撮影装置Aでは、直立姿勢の被験者Bの顎を顎位置決め部50によって位置決めしてX線撮影が行われる。歯科医院等では、X線撮影装置Aとは別に、口腔内のX線写真を撮影するための口腔内レントゲン装置が用いられ、1つのX線撮影室にX線撮影装置Aと口腔内レントゲン装置とが併設されることがある。口腔内レントゲン装置は、先端にレントゲン装置を備えたアーム部が水平方向において回動自在に支柱部に支持され、着座姿勢の被験者に対してアーム部の位置を調整することで被験者の口腔内のX線写真の撮影が行われる。
【0038】
X線撮影装置Aの顎位置決め部50は、直立姿勢の被験者Bの顎の下方に位置する。一方、口腔内レントゲン装置のアーム部は、通常は着座姿勢の被験者の頭部と同程度の高さに位置する。そのため、X線撮影室にX線撮影装置Aと口腔内レントゲン装置とが併設された場合には、X線撮影装置Aの顎位置決め部50と、口腔内レントゲン装置のアーム部とは、X線撮影室の高さ方向において近接した位置に配置される。その場合にX線撮影室が狭いときには、口腔内レントゲン装置の使用時において、水平方向に展開されたアーム部がX線撮影装置Aの顎位置決め部50に干渉する場合がある。
【0039】
こうした場合であっても、本実施形態のX線撮影装置Aは、顎位置決め部50が所定位置Dから退避可能に構成されているため、顎位置決め部50を所定位置Dから退避させることで、所定位置Dにスペースを確保することができる。その結果、狭いX線撮影室にX線撮影装置Aと口腔用レントゲン装置とを併設した場合であっても、当該スペースを利用して口腔用レントゲン装置のアーム部を展開してのX線撮影が可能になるため、両装置の干渉を容易に回避することができる。
【0040】
図10に示すように、ベース部40は、支柱部30の支柱本体31を載置する載置部41と、載置部41から水平方向に二又状に延設される2つの脚部42,43とを備える。平面視において、支柱本体31(支柱部30)はベース部40の載置部41の端部41aに配置される。ベース部40は脚部42,43、から支柱本体31を挟んで端部41aに向かう2つの側縁44、45を有する。ここで、平面視において、支柱本体31の中心31aを通り2つの側縁44,45が線対称となる中心線Eに対する角度θ1,θ2が何れも45度の傾きを有し、且つ端部41aの側から2つの側縁44,45に接する接線T1,T2をそれぞれ引いたときに、ベース部40は2本の接線T1,T2と2つの側縁44,45との接点S1,S2から2本の接線T1,T2が交差する側(交差位置Q)に向けて凸部46のみを有する。
【0041】
本構成により、例えば平面視において直角に交差する2つの壁部W1,W2を有するX線撮影室RにX線撮影装置Aを設置する場合に、2つの壁部W1,W2によって形成される隅部Cにベース部40の凸部46を近接させ易くなる(図10参照)。これにより、X線撮影装置AをX線撮影室Rの隅部C近くに配置することが可能になる。その結果、X線撮影装置AをX線撮影室Rに設置する際に、X線撮影室Rの隅部Cを有効に活用することができ、X線撮影室RにおけるX線撮影装置Aの占有面積を小さくすることができる。なお、図10では、ベース部40が壁部W1,W2から離間しているが、旋回アーム10とX線発生部2とX線検出部3の何れもが壁部W1,W2に当接しない位置にあれば、X線撮影装置Aのベース部40の2つの側縁44,45を壁部W1,W2に密着させてX線撮影装置Aを設置することができる。これにより、X線撮影室RにおけるX線撮影装置Aの占有面積を最小にすることができる。
【0042】
〔別実施形態〕
(1)上記の実施形態では、第1カメラ33を支柱部30の昇降体32に取付けられたカメラ支持体35に設ける構成を示したが、図11に示すように、第1カメラ33は顎位置決め部50の本体部52から延びるステー52aに取付けてもよい。また、図示しないが、第1カメラ33は顎位置決め部50の支持フレーム51にブラケット51a等を介して取付けてもよい。
【0043】
(2)上記の実施形態では、顎位置決め部50がチンレスト55とチンレスト55に設けられたバイトブロック58とを有する構成を示したが、図11に示すように、顎位置決め部50はチンレスト55を有さずに本体部52等からバイトブロック58が延設される構成でもよい。
【0044】
(3)顎位置決め部50が、対向配置されたX線発生部2及びX線検出部3の間の所定位置Dから退避可能となる構成は上記の実施形態に限定されない。例えば、顎位置決め部50は例えば支柱部30から着脱可能に構成してもよく、支持フレーム51に対して本体部52が着脱可能に構成してもよい。尚、X線撮影の際には、顎位置決め部50または顎位置決め部50の本体部52を再度取付けることになる。
【0045】
(4)顎位置決め部50は、図12に示すように、支持フレーム51を支柱部30の昇降体32に向けて伸縮可能に構成してもよい。また、顎位置決め部50は、図13に示すように、支持フレーム51の途中から本体部52の側の部分が、支柱部30の昇降体32に近付く方向に折畳み可能に構成されてもよい。このように顎位置決め部50を構成することで、旋回アーム10のX線発生部2及びX線検出部3を退避させることなく、顎位置決め部50を所定位置Dから退避させることができる。なお、図12図13では、第1カメラ33及び操作パネル60は省略している。
【0046】
(5)図14に示すように、X線撮影装置AはX線撮影室Rにおいて1つの壁部W3に支柱部30を対向配置してもよい。この場合には、第1実施形態における顎位置決め部50は、支持フレーム51を支柱部30周りに回動させることで、壁部W3に沿う位置まで退避させることができる。
【0047】
(6)上記の実施形態では、第2カメラ34が旋回アーム10のX線発生部2に備えられた例を示したが、第2カメラ34はX線検出部3に備えられてもよい。
【0048】
(7)X線発生部2及びX線検出部3のうち、第2カメラ34を有しない一方が第2カメラ34を有する他方に対して対向配置された位置から退避可能となる構成は上記の実施形態に限定されない。例えば、第2カメラ34を有しない一方(X線発生部2又はX線検出部3)を旋回アーム10に対して着脱可能に構成してもよい。旋回アーム10から第2カメラ34を有しない一方(X線発生部2又はX線検出部3)を取り外すことで第2カメラ34を有しない一方は当該対向配置された位置から退避可能になる。尚、X線撮影の際には、旋回アーム10に対して第2カメラ34を有しない一方(X線発生部2又はX線検出部3)を再度取付けることになる。その他、第2カメラ34を有しない一方(X線発生部2又はX線検出部3)を旋回アーム10の上方に向けて移動可能に構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、頭部用のX線撮影装置に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
2 :X線発生部
3 :X線検出部
10 :旋回アーム
20 :アーム支持部
30 :支柱部
31 :支柱本体
31a :支柱本体の中心
32 :昇降体
33 :第1カメラ
34 :第2カメラ
35 :カメラ支持
体40 :ベース部
41 :載置部
41a :端部44,45 :側縁
46 :凸部
50 :顎位置決め部
51 :支持フレーム
52 :本体部
A :X線撮影装置
B :被験者
C :隅部
P :回転軸
Q :交差位置
R :X線撮影室
S1,S2 :接点
T1,T2 :接線
W1,W2,W3 :壁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14