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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】ブレーキ解放装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/18 20060101AFI20221223BHJP
   F16D 55/06 20060101ALI20221223BHJP
   F16D 121/22 20120101ALN20221223BHJP
   F16D 121/14 20120101ALN20221223BHJP
   F16D 125/64 20120101ALN20221223BHJP
   F16D 127/04 20120101ALN20221223BHJP
   F16D 125/28 20120101ALN20221223BHJP
【FI】
F16D65/18
F16D55/06 A
F16D121:22
F16D121:14
F16D125:64
F16D127:04
F16D125:28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021212086
(22)【出願日】2021-12-27
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】591147889
【氏名又は名称】株式会社工業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】水野 逸人
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-54664(JP,A)
【文献】特開2008-208626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/18
F16D 55/06
F16D 121/22
F16D 121/14
F16D 125/64
F16D 127/04
F16D 125/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の回転機械の回転軸と一体的に回転するロータの面に、軸方向に沿って作用する付勢力でもって押圧されることで、前記ロータを、その回転が拘束された拘束状態とすることが可能であり、通電された電磁石の磁力でもって、前記付勢力に抗して、前記付勢力の作用方向と反対方向に吸引されることで、前記ロータを、前記拘束状態が解除された非拘束状態とすることが可能であるアーマチュアと、
前記電磁石に設けられた支点軸部を支点とした、手動での傾倒動作でもって、前記アーマチュアを前記電磁石に押圧することで、前記ロータを前記非拘束状態とすることが可能である手動解放レバーと、
前記アーマチュア及び前記手動解放レバーを内包するブレーキカバーと、
を備える無励磁電磁ブレーキに設けられる、ブレーキ解放装置であって、
前記手動解放レバーの一端部に隣接する押圧カムと、前記押圧カムから延びる軸部と、前記軸部を回転可能に支持する支持部と、前記ブレーキカバーの外部に突設され、前記軸部を、その軸方向周りに回転させるハンドル部と、クリック機構と、を備え、
前記押圧カムは、前記ハンドル部を介した前記軸部の回転でもって、前記手動解放レバーの一端を押圧することで、前記手動解放レバーを傾倒させ、前記ロータを前記拘束状態から前記非拘束状態に遷移可能に構成され、
前記クリック機構は、嵌合溝を含む溝構成体と、前記嵌合溝に嵌合可能な嵌合突起を含む突起構成体と、を有し、
前記嵌合突起は、前記軸部の回転でもって、前記ロータが前記拘束状態から前記非拘束状態に遷移することで、前記嵌合溝に嵌合する、ブレーキ解放装置。
【請求項2】
前記突起構成体は、前記嵌合突起を、前記溝構成体に向かって付勢し押圧する付勢手段を含み、
前記嵌合突起は、前記付勢手段により、前記非拘束状態において、前記嵌合溝の内周面を押圧する、請求項1に記載のブレーキ解放装置。
【請求項3】
前記溝構成体は、前記嵌合溝から離間して設けられた収容溝を含み、
前記嵌合突起は、前記拘束状態において、前記収容溝に収容可能に構成されている、請求項2に記載のブレーキ解放装置。
【請求項4】
前記収容溝は、前記軸部の回転方向に沿って延びる長溝であり、
前記嵌合突起の先端部と前記収容溝の底部とは、離間して設けられている、請求項3に記載のブレーキ解放装置。
【請求項5】
前記溝構成体は、前記軸部の外周に設けられ、前記軸部と共に回転可能に構成され、
前記突起構成体は、前記支持部に設けられ、前記軸部と共に回転しないように構成されている、請求項1~4の何れかに記載のブレーキ解放装置。
【請求項6】
前記押圧カムは、平面視で略円形状に構成された押圧カム本体と、前記押圧カム本体の外周面に設けられ、前記手動解放レバーに当接する軸受と、を有し、
前記押圧カム本体は、その中心軸が、前記軸部の中心軸から所定の距離変位していることで偏心カムとして構成されている、請求項1~5の何れかに記載のブレーキ解放装置。
【請求項7】
前記支持部は、前記軸部を、前記ロータが前記非拘束状態から前記拘束状態に遷移する回転方向に向かって付勢する、回転付勢手段を有する、請求項1~6の何れかに記載のブレーキ解放装置。
【請求項8】
前記軸部の回転角を所定の範囲内に拘束する、回転角拘束機構を備える、請求項1~7の何れかに記載のブレーキ解放装置。
【請求項9】
前記拘束状態から前記非拘束状態に遷移するまでの前記軸部の回転角は、50度~90度の範囲に設定されている、請求項1~8の何れかに記載のブレーキ解放装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴンドラ等に設けられる無励磁電磁ブレーキを手動で解放可能な、ブレーキ解放装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ビルメンテナンス等の作業に用いられるゴンドラには、機械的な作用でロープの巻上げ・巻下げ動作を停止するメカニカルブレーキと、電磁的な作用でロープの巻上げ・巻下げ動作を停止する無励磁電磁ブレーキと、が設けられている。
【0003】
このようなゴンドラを用いた高所での作業中に、突発的な停電や、強風による動力線の切断といった非常事態が発生した場合、作業者は、早急にゴンドラからの脱出を行う必要が生じる。
【0004】
この際、作業者は、通常、ゴンドラの電源スイッチを切った後、無励磁電磁ブレーキを解放し、常備品である手動ハンドルを減速機に差込み回転させることで、最も近いフロアまでゴンドラを人力で移動させ、ゴンドラから脱出を行う。
【0005】
ここで、無励磁電磁ブレーキを解放するための機構として、手動解放レバーを用いる機構が一般的に用いられている。
この機構では、作業者が、ブレーキカバーの内部に設けられた手動解放レバーを傾倒させることで、手動解放レバーが、無励磁電磁ブレーキのアーマチュアを押圧し、アーマチュアによるロータの拘束状態を解除することができる。
【0006】
しかし、無励磁電磁ブレーキは、通常ブレーキカバーの内部に収容されているため、手動解放レバーを傾倒させるには、作業者は、一度ブレーキカバーを取外す必要がある。
また、一度手動解放レバーを傾倒させ、ブレーキを解放しても、手を離すと、再度ブレーキが効いてしまうため、作業者は、脱出が完了するまで、人力で手動解放レバーの傾倒状態を維持する必要がある。
即ち、このような実情から、ゴンドラからの脱出作業は、非常時であるにも関わらず、特にブレーキ解放作業に時間が掛かり過ぎ、作業者にとって大きな労力となるという問題点があった。
【0007】
このような問題点を解決するために、特許文献1には、解放レバーを用いたブレーキ解放作業を容易とするための、無励磁電磁ブレーキが記載されている。
【0008】
この無励磁電磁ブレーキは、ブレーキカバーの外部に突出する緩め棒を備えており、この緩め棒の先端には、手動解放レバーに隣接する円盤カムが設けられている。
これにより、作業者は、外部から緩め棒を回動させることで、円盤カムが手動解放レバーを押圧し、手動解放レバーを傾倒させる、即ち、無励磁電磁ブレーキを解放させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-54664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の無励磁電磁ブレーキであっても、以下のような問題点が存在している。
即ち、手動解放レバーによりブレーキが完全に解放されたか否かの判断は、円盤カムを介して作業者の手に伝わる、緩め棒のトルクの大きさによるものとなるため、経験の浅い作業者の場合、この判断を正確に行うことができない恐れがある、という問題である。
そして、仮に、ブレーキが完全に解放されていない状態で、作業者がゴンドラの移動作業を行った場合、ブレーキ系統に不要な負荷が掛かり、ブレーキ系統の故障やこれに伴う大きな事故に繋がる恐れがあり、非常に危険である。
【0011】
本発明は上記のような実状に鑑みてなされたものであり、誰でも容易に、且つ確実に、無励磁電磁ブレーキを完全な解放状態とすることができ、過大な解放力を発生させず、安全性・利便性を大きく向上させた、ブレーキ解放装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、所定の回転機械の回転軸と一体的に回転するロータの面に、軸方向に沿って作用する付勢力でもって押圧されることで、前記ロータを、その回転が拘束された拘束状態とすることが可能であり、通電された電磁石の磁力でもって、前記付勢力に抗して、前記付勢力の作用方向と反対方向に吸引されることで、前記ロータを、前記拘束状態が解除された非拘束状態とすることが可能であるアーマチュアと、
前記電磁石に設けられた支点軸部を支点とした、手動での傾倒動作でもって、前記アーマチュアを前記電磁石に押圧することで、前記ロータを前記非拘束状態とすることが可能である手動解放レバーと、
前記アーマチュア及び前記手動解放レバーを内包するブレーキカバーと、
を備える無励磁電磁ブレーキに設けられる、ブレーキ解放装置であって、
前記手動解放レバーの一端部に隣接する押圧カムと、前記押圧カムから延びる軸部と、前記軸部を回転可能に支持する支持部と、前記ブレーキカバーの外部に突設され、前記軸部を、その軸方向周りに回転させるハンドル部と、クリック機構と、を備え、
前記押圧カムは、前記ハンドル部を介した前記軸部の回転でもって、前記手動解放レバーの一端を押圧することで、前記手動解放レバーを傾倒させ、前記ロータを前記拘束状態から前記非拘束状態に遷移可能に構成され、
前記クリック機構は、嵌合溝を含む溝構成体と、前記嵌合溝に嵌合可能な嵌合突起を含む突起構成体と、を有し、
前記嵌合突起は、前記軸部の回転でもって、前記ロータが前記拘束状態から前記非拘束状態に遷移することで、前記嵌合溝に嵌合する。
【0013】
本発明によれば、作業者は、ハンドル部を把持し回転させ、押圧カムによりロータを拘束状態から非拘束状態に遷移させた際、嵌合突起が嵌合溝に嵌合することで、この嵌合動作が、クリック感として自身の手に伝わることとなる。
このように、作業者は、自身の手に伝わったクリック感でもって、ロータが非拘束状態、即ちブレーキが完全に解放された状態に遷移したことを、容易に、且つ確実に認知することができるため、半端な解放状態で脱出作業等に移ってしまうことがない。
これにより、非常時における作業者の労力が軽減されると共に、高い安全性を確保することが可能となる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記突起構成体は、前記嵌合突起を、前記溝構成体に向かって付勢し押圧する付勢手段を含み、前記嵌合突起は、前記付勢手段により、前記非拘束状態において、前記嵌合溝の内周面を押圧する。
【0015】
このような構成とすることで、嵌合突起と嵌合溝との嵌合状態の安定性を高めると共に、より強いクリック感を、作業者の手に伝えることが可能となる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記溝構成体は、前記嵌合溝から離間して設けられた収容溝を含み、前記嵌合突起は、前記拘束状態において、前記収容溝に収容可能に構成されている。
【0017】
このような構成とすることで、嵌合突起は、ロータが拘束状態から非拘束状態に遷移する過程で、付勢手段の付勢力に抗して、収容溝を脱する(乗越える)こととなり、軸部の回転に大きなトルクが必要となる。
また、嵌合突起は、ロータが非拘束状態から拘束状態に遷移する過程で、付勢手段の付勢力により、収容溝に収容されることとなり、収容される瞬間に、作業者の手にクリック感が伝わる。
これにより、作業者は、拘束状態と非拘束状態との切替えの過程を、自身の手に伝わるトルクの変化やクリック感によって、より確実に認知することが可能となる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記収容溝は、前記軸部の回転方向に沿って延びる長溝であり、前記嵌合突起の先端部と前記収容溝の底部とは、離間して設けられている
【0019】
このような構成とすることで、嵌合突起が収容溝に収容されている状態において、付勢手段の付勢力や嵌合突起の接触抵抗に基づく、ハンドル部の回転トルクの増大を抑えることができる。
これにより、作業者は、ロータを拘束状態から非拘束状態に遷移させる際の、嵌合突起が収容溝を脱するまでの間、即ち、収容溝の長さ分の回転作業を、より小さいトルクで行うことが可能となる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記溝構成体は、前記軸部の外周に設けられ、前記軸部と共に回転可能に構成され、前記突起構成体は、前記支持部に設けられ、前記軸部と共に回転しないように構成されている。
【0021】
このような構成とすることで、本ブレーキ解放装置の構成を簡素化でき、装置全体のコンパクト化や、製造性の向上を実現することが可能となる。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記押圧カムは、平面視で略円形状に構成された押圧カム本体と、前記押圧カム本体の外周面に設けられ、前記手動解放レバーに当接する軸受と、を有し、前記押圧カム本体は、その中心軸が、前記軸部の中心軸から所定の距離変位していることで偏心カムとして構成されている。
【0023】
このような構成とすることで、押圧カムの、手動解放レバーへの押圧動作時に生じる摩擦力を大きく低減することができるため、拘束状態と非拘束状態との切替えにおけるトルクの低減や、押圧カムの経年劣化の防止を実現することが可能となる。
【0024】
本発明の好ましい形態では、前記支持部は、前記軸部を、前記ロータが前記非拘束状態から前記拘束状態に遷移する回転方向に向かって付勢する、回転付勢手段を有する。
【0025】
このような構成とすることで、作業者は、ロータを非拘束状態から拘束状態に遷移させる際、回転付勢手段の付勢力を補助として、ハンドル部を回転させることができるため、この過程における回転作業を、より小さいトルクで行うことが可能となる。
【0026】
本発明の好ましい形態では、前記軸部の回転角を所定の範囲内に拘束する、回転角拘束機構を備える。
【0027】
このような構成とすることで、作業者が、必要以上にハンドル部を回転させることによる装置の損傷や、これに伴う事故の発生を防止することが可能となる。
【0028】
本発明の好ましい形態では、前記拘束状態から前記非拘束状態に遷移するまでの前記軸部の回転角は、50度~90度の範囲に設定されている。
【0029】
このような構成とすることで、本ブレーキ解放装置を用いたブレーキ解放作業を、より簡便且つ迅速に行うことが可能となる。
即ち、50度~90度の範囲は、人体の手首を楽に回旋可能な角度であり、作業者は、回転角が上記範囲内であれば、一度の手首の回旋動作でもって、ロータを拘束状態から非拘束状態に遷移させることができ、ブレーキ解放作業の作業性が大きく向上する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、誰でも容易に、且つ確実に、無励磁電磁ブレーキを完全な解放状態とすることができ、過大な解放力を発生させず、安全性・利便性を大きく向上させた、ブレーキ解放装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態に係るブレーキ解放装置が設けられた無励磁電磁ブレーキの正面図である。
図2】本発明の実施形態に係るブレーキ解放装置が設けられた無励磁電磁ブレーキのPP´線断面図である。
図3】本発明の実施形態に係るブレーキ解放装置が設けられた無励磁電磁ブレーキにおけるロータの拘束状態及び非拘束状態を示すPP´線拡大断面図である。
図4】本発明の実施形態に係るブレーキ解放装置のPP´線断面図である。
図5】本発明の実施形態に係るブレーキ解放装置を示す図であって、(a)底面図、(b)平面図、(c)背面図である。
図6】本発明の実施形態に係るブレーキ解放装置の動作説明図である。
図7】本発明の実施形態に係るブレーキ解放装置の動作説明図である。
図8】本発明の実施形態に係るブレーキ解放装置の動作説明図である。
図9】本発明の実施形態に係るブレーキ解放装置の動作説明図である。
図10】本発明の実施形態に係る無励磁電磁ブレーキ及びブレーキ解放装置の動作説明図である。
図11】本発明の実施形態に係るブレーキ解放装置の設計例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態に係るブレーキ解放装置について説明する。
なお、以下に示す実施形態は本発明の一例であり、本発明を以下の実施形態に限定するものではない。
また、これらの図において、符号Xは、無励磁電磁ブレーキを示し、符号1は、本実施形態に係るブレーキ解放装置を示す。
【0033】
ここで、無励磁電磁ブレーキX及びブレーキ解放装置1は、例えば、ゴンドラのブレーキ系統に用いられるものであり、この他にもエレベータ等、特にロープの巻上げ・巻出しを必要とする、種々の装置に適用され得る。
【0034】
<<構成要素>>
以下、図1図5を用いて、無励磁電磁ブレーキX及びブレーキ解放装置1の構成について詳述する。
【0035】
<無励磁電磁ブレーキ>
以下、図1図3を用いて、従来技術としての無励磁電磁ブレーキXの構成について説明する。
なお、図3は、ブレーキカバーX3のみを示した、PP´線拡大断面図である。
【0036】
無励磁電磁ブレーキXは、アーマチュアX1と、手動解放レバーX2と、アーマチュアX1及び手動解放レバーX2を内包するブレーキカバーX3と、を備えている。
なお、以下、説明の便宜上、図2に示す矢印aの方向を前方、これと対向する方向を後方と称することとする。
【0037】
ここで、ブレーキカバーX3には、特に図2に示すように、電動機Mが、その内部においてブレーキカバーX3の内部と連通するように連結されている。
また、電動機Mの回転軸Sは、電動機Mの内部から、ブレーキカバーX3を介して、メカニカルブレーキ(図示せず)を内蔵した減速機に接続されている。
なお、図1及び図2において、説明の便宜上、回転軸Sは細い破線で示している。
【0038】
無励磁電磁ブレーキXは、上記した構成の他、回転軸Sと一体的に回転するロータX4と、アーマチュアX1と共にロータX4を挟持可能な停止円盤X5と、磁力によりアーマチュアX1を前方に吸引する電磁石X6と、電磁石X6に設けられ、軸方向に沿って付勢力を作用させることで、アーマチュアX1を後方に押圧する複数の圧縮バネX7と、電磁石X6に設けられ、手動解放レバーX2の傾倒動作の支点となる一対の支点軸部X8と、アーマチュアX1から突設された一対の押しピンX9と、を備えている。
【0039】
アーマチュアX1は、磁性を有し、略中央に回転軸Sが挿通される孔が設けられた略円環状体である。
【0040】
手動解放レバーX2は、特に図1に示すように、下端部に、後述する押圧カムAが隣接している下方部X21と、下方部X21に連接され、正面視で上方に開口する略コ字状を呈する上方部X22と、により構成されている。
また、手動解放レバーX2は、作業者が、下方部X21を把持し、後方に向かって引くことで、各支点軸部X8を支点に傾倒することができ、これにより、各押しピンX8を介して、アーマチュアX1を押圧することができる。
【0041】
ブレーキカバーX3は、略円筒状のブレーキカバー本体X31と、ブレーキカバー本体X31の外縁から突設されたフランジ部X32と、により構成されている。
ブレーキカバー本体X31には、略中央に回転軸Sが挿通される孔が設けられている。
また、ブレーキカバー本体X31の外側面下部には、ブレーキ解放装置1の、後述する押圧カムAや、軸部Bの一部、支持部Cの一部が挿通される装着孔(図示せず)が設けられている。
このように、ブレーキカバー本体X31の下部にブレーキ解放装置1が取付けられることで、ブレーキ解放装置1に、作業者の衣服や工具等が引掛ってしまう事態を防止することができる。
フランジ部X32には、無励磁電磁ブレーキXが適用される装置に取付けるための取付孔が、周方向に沿って4つ設けられている。
【0042】
ロータX4は、アーマチュアX1と停止円盤X5との間に介在するように、回転軸Sの外周から突設された略円環状体である。
また、ロータX4の各側面の外縁には、それぞれ、アーマチュアX1及び停止円盤X5に当接するブレーキライニングL(図3参照)が設けられている。
【0043】
停止円盤X5は、複数の固定ボルトb1を介して電磁石X6に連結されている。
また、停止円盤X5と電磁石X6との間には、これらに挟持される態様で、スペーサsが設けられており、固定ボルトb1は、スペーサsを貫通して、停止円盤X5と電磁石X6とを連結している。
【0044】
電磁石X6は、ステータX61と、ステータX61に埋設されたコイルX62と、により構成されている。
ステータX61は、略中央に回転軸Sが挿通される孔が設けられた略円環状体であり、複数の固定ボルトb2を介して、ブレーキカバー本体X31の底面に連結されている。
【0045】
各圧縮バネX7は、それぞれが、ステータX61において、コイルX62の内周側に形成された複数のバネ収容孔に、軸方向に沿った伸縮動作のみが可能となるように、収容されている。
【0046】
各支点軸部X8は、軸方向に沿って延びる長尺のボルトX81と、ボルトX81の後方側の端部に螺合されるナットX82と、により構成されている。
ボルトX81は、その前方側の端部がステータX61に埋設され、その後方側の端部が手動解放レバーX2を貫通している。また、ボルトX81は、停止円盤X5を貫通している。
なお、手動解放レバーX2に設けられた、各ボルトX81が貫通する貫通孔(図示せず)は、手動解放レバーX2が傾倒可能となるように、その径が、各ボルトX81の径よりもやや大きく構成されている。
【0047】
各押しピンX9は、後端に向かうに伴って先細り形状となるように構成され、それぞれの後端が、手動解放レバーX2の上端部(各支点軸部X8の上方)に当接している。
また、各押しピンX9は、停止円盤X5に設けられた貫通孔(図示せず)を貫通して、手動解放レバーX2に当接している。
【0048】
なお、図1において、手動解放レバーX2に隠れている固定ボルトb1及び各押しピンX9、停止円盤X5に隠れている固定ボルトb2は、点線で示している。
また、図2において、電動機M、固定ボルトb1、b2及びスペーサsについては、断面図で示していない。
【0049】
上記した構成の無励磁電磁ブレーキXによれば、作業者は、手動解放レバーX2を用いて、ロータX4を拘束状態から非拘束状態に遷移させることができる。
【0050】
即ち、通常時において、ロータX4は、図3(a)(或いは図2)に示すように、各圧縮バネX7により後方に付勢されたアーマチュアX1により、停止円盤X5に向かって押圧されることで、アーマチュアX1と停止円盤X5とにより挟持された態様となされる。
これにより、アーマチュアX1及び停止円盤X5それぞれと、ブレーキライニングLと、の間に生じる摩擦力でもって、ロータX4(回転軸S)の回転動作が拘束された状態となる。
以下、この状態を拘束状態と称する。
【0051】
そして、非常時において、作業者は、手動解放レバーX2の下方部X21を把持し、後方に向かって引くことにより、手動解放レバーX2を、各支点軸部X8を支点として傾倒させる。
これにより、上方部X22が、各押しピンX9を、圧縮バネX7の付勢力に抗して押圧し、アーマチュアX1が、電磁石X6に当接する。
すると、アーマチュアX1及び停止円盤X5それぞれと、ブレーキライニングLと、の間に間隙が生じ、ロータX4(回転軸S)の回転動作が可能な状態となる。
以下、この状態を非拘束状態と称する。
【0052】
このように、無励磁電磁ブレーキXは、作業者による、手動解放レバーX2の傾倒動作でもって、ロータX4を拘束状態から非拘束状態に遷移させることができる。
なお、作業者が手動解放レバーX2から手を放すと、各圧縮バネX7の付勢力により、ロータX4は、再度拘束状態となる。
【0053】
<ブレーキ解放装置>
以下、図4及び図5を用いて、本願発明であるブレーキ解放装置1の構成について説明する。
なお、図4(及び後述する図10)において、後述するハンドル部本体D1は、断面図で示していない。
また、図5(a)では、ハンドル部Dを省略している。
また、図5(b)(及び後述する図9)において、軸部Bの中心軸Z1を黒丸、押圧カムAの中心軸Z2を白丸で示している。
【0054】
ブレーキ解放装置1は、手動解放レバーX2の一端部に隣接する押圧カムAと、押圧カムAから延びる軸部Bと、軸部Bを回転可能に支持する支持部Cと、ブレーキカバーX3の外部に突設され、軸部Bを、その軸方向周りに回転させるハンドル部Dと、クリック機構Eと、軸部Bの回転角を所定の範囲内に拘束する、回転角拘束機構Fと、備えている。
【0055】
押圧カムAは、特に図5(b)に示すように、平面視で略円形状に構成された押圧カム本体A1と、押圧カム本体A1の外周面に設けられ、手動解放レバーX2に当接する軸受A2と、を有している。
【0056】
押圧カム本体A1は、特に図4に示すように、段付き形状となされている。
軸受A2は、潤滑油の漏れを防ぐシール付きの、所謂ラジアル玉軸受であり、押圧カム本体A1に嵌め込まれると共に、その一側面が、段状部分に当接して、押圧カム本体A1に固定されている。
【0057】
押圧カム本体A1について、さらに詳述すれば、押圧カム本体A1は、特に図3に示すように、その中心軸Z1が、軸部Bの中心軸Z2から所定の距離変位していることで偏心カムとして構成されている。
【0058】
軸部Bは、特に図4に示すように、押圧カム本体A1に連結された第一軸部B1と、第一軸部B1に連接され、第一軸部B1よりも小径に構成された第二軸部B2と、第二軸部B2に連接され、第二軸部B2よりも小径に構成された第三軸部B3と、を有している。
なお、第一軸部B1~第三軸部B3は、全て同軸上に配置されている。
【0059】
第一軸部B1は、その下方部のみが支持部Cの内部に配置されている。
第二軸部B2は、全体が支持部Cの内部に配置され、その外周面に、後述する軸用スナップリングC4が嵌合されるリング溝が設けられている。
第三軸部B3は、その上端部以外が支持部Cの外部に配置され、全体が、後述するボス部D2に嵌合固定されている。
【0060】
支持部Cは、内部に第一軸部B1や第二軸部B2が挿通可能な挿通孔hが形成された支持部本体C1と、支持部本体C1の内部に配置された支持部軸受C2と、回転付勢手段C3と、軸用スナップリングC4と、孔用スナップリングC5と、を有している。
【0061】
支持部本体C1は、3段の段付き形状に形成され、上段部及び中段部が、平面視で略円形状を呈し、下段部が、平面視で略小判形状を呈している。
また、支持部本体C1の内部(挿通孔h)は、3段の段付き形状に形成され、中段部には、孔用スナップリングC5が嵌合されるリング溝が設けられている。
【0062】
支持部本体C1について、さらに詳述すれば、下段部には、4つの貫通孔W1と、各貫通孔W1に挿通される装着ボルトW2と、が設けられている。
これにより、上記した装着孔を介して、部分的にブレーキカバーX3の内部に挿通されたブレーキ解放装置1は、各貫通孔W1に挿通された各装着ボルトW2が、ブレーキカバーX3に設けられた装着ネジ穴(図示せず)に螺合されることで、図1図2に示すように、無励磁電磁ブレーキXに装着される。
【0063】
ここで、各貫通孔W1の内、前方側の2つの貫通孔W1(以下、貫通孔W11と称する)は、座繰り加工が施されており、後方側の2つの貫通孔W1(以下、貫通孔W12と称する)は、座繰り加工が施されていない。
これにより、貫通孔W11に挿通された装着ボルトW2は、その頭部が下方に突出しておらず、貫通孔W12に挿通された装着ボルトW2は、その頭部F2(後述する回転角拘束機構Fの構成要素)が下方に突出している。
【0064】
支持部軸受C2は、潤滑油の漏れを防ぐシール付きの、所謂ラジアル玉軸受であり、第二軸部B2を支持するように、支持部本体C1の内部に、上下方向に隣接して2つ設けられている。
また、支持部軸受C2の外径は、挿通孔hの中段部の内径と略同一に構成されている。
【0065】
支持部軸受C2について、さらに詳述すれば、上方の支持部軸受C2は、その上面が、上方の段状部分及び第一軸部B1の下面に当接し、下方の支持部軸受C2は、その下面が、軸用スナップリングC4及び孔用スナップリングC5に当接している。
これにより、各支持部軸受C2は、重力等による挿通孔hからの脱離やガタツキが防止され、第二軸部B2を支持した状態で、挿通孔hに安定的に配置される。
【0066】
回転付勢手段C3は、所謂コイルスプリングであり、支持部本体C1の上段部及び第一軸部B1を囲うようにして設けられ、ロータX4が非拘束状態から拘束状態に遷移する回転方向に向かって付勢する。
また、回転付勢手段C3の上端は、押圧カム本体A1の下面から上方に向かって穿設された第一取付孔j1に挿通され、下端は、支持部本体C1の中段部上面から下方に向かって穿設された第二取付孔j2に挿通されている。
【0067】
回転付勢手段C3について、さらに詳述すれば、回転付勢手段C3は、第二取付孔j2に挿通されている側の端部の外周面が部分的に切除されることで、切除部(図示せず)が形成されている。
そして、図5(c)に示すように、支持部本体C1の中段部に形成された切欠き部の一側面から貫入されたセットビスnが、この切除部を通ることで、第二取付孔j2に挿通されている側の端部の抜けが防止されている。
【0068】
軸用スナップリングC4及び孔用スナップリングC5は、所定の金属により形成され、可撓性を有する一般的な機械要素である。
【0069】
ハンドル部Dは、略円柱状体のハンドル部本体D1と、ハンドル部本体D1から上方に延びる、略円筒状体のボス部D2と、により構成されている。
【0070】
ハンドル部本体D1の外周面には、その周方向に所定の間隔を置いて、滑り止め用の複数のグリップ溝gが設けられている。
なお、ハンドル部本体D1及びボス部D2は、軸部Bと同軸上に配置されている。
【0071】
クリック機構Eは、嵌合溝pを含む溝構成体E1と、嵌合溝pに嵌合可能な嵌合突起qを含む突起構成体E2と、突起構成体E2を支持部Cに固定するブラケットE3と、を有している。
【0072】
溝構成体E1は、第三軸部B3の外周に設けられた略円筒状体である溝構成体本体E11と、溝構成体本体E11に設けられた嵌合溝pと、嵌合溝pから、溝構成体本体E11の周方向に沿って離間して設けられた収容溝rと、を含む。
【0073】
溝構成体本体E11は、ボス部D2に嵌合される略円筒状体である。
また、溝構成体本体E11の上面には、特に図4に示すように、Oリングoが設けられており、Oリングoにより、溝構成体本体E11の上面と支持部本体C1の底面とがシールされている。
これにより、溝構成体本体E11と支持部本体Cとの間から、内部に雨水等が侵入することを防止している。
なお、Oリングoには、回転摩擦が生じないよう、グリスが塗布されている。
【0074】
さらに、溝構成体本体E11には、径方向に貫通する2つの貫通ネジ穴(図示せず)が設けられており、これらの貫通ネジ穴に、ボス部D2の外側面を押圧するように、固定ボルトb3が貫入されている。
これにより、溝構成体本体E11は、ハンドル部D(及び軸部B、押圧カムA)と一体的に回転することが可能となる。
また、固定ボルトb3を取外すことで、ハンドル部D及び溝構成体本体E11は、それぞれ独立して回転することが可能となるため、嵌合突起qに対する嵌合溝pや収容溝rの位置関係と、押圧カムAの変位位置と、の関係を調整することができる。
【0075】
嵌合溝pは、溝構成体本体E11の外側面に形成された、略円錐形状の溝である。
【0076】
収容溝rは、溝構成体本体E11の外側面に形成された、軸部Bの回転方向に沿って延びる長溝である。
【0077】
突起構成体E2は、所謂ボールプランジャであり、嵌合突起qと、嵌合突起qを溝構成体E1に向かって付勢し押圧する付勢手段E21(図6等参照)と、を含む。即ち、嵌合突起qは、ボールプランジャにおけるボールであり、付勢手段E21は、ボールプランジャにおける圧縮バネである。
また、突起構成体E2は、通常のボールプランジャと同様に、嵌合突起q及び付勢手段E21を内包するネジ部E22と、を含む。
【0078】
ブラケットE3は、支持部Cに当接されたブラケット本体E31と、ブラケット本体E31を支持部Cに連結する連結ボルトE32と、突起構成体E2をブラケット本体E31に固定する固定ナットE33と、を含む。
【0079】
ブラケット本体E31は、略角柱状体であり、その一底面が、支持部本体C1の下段部の平面部分に当接されている。
また、ブラケット本体E31には、ネジ部E22が螺合する第一ネジ穴(図示せず)と、連結ボルトE32が螺合する第二ネジ穴(図示せず)と、が設けられている。
なお、第一ネジ穴及び第二ネジ穴は、ブラケット本体E31を貫通しており、第二ネジ穴は、支持部本体C1の下段部に設けられた第三ネジ穴(図示せず)と連通している。
【0080】
連結ボルトE32は、左右方向に間隔を置いて一対設けられ、各第一ネジ穴及び各第三ネジ穴に螺合されることで、ブラケット本体E31を支持部本体C1に固定している。
【0081】
固定ナットE33は、第一ネジ穴から外方に突出した、ネジ部E22の端部に螺合された状態で、ブラケット本体E31に当接することで、突起構成体E2をブラケット本体E31に固定している。
【0082】
回転角拘束機構Fは、溝構成体本体E11の外側面から突設された拘束棒F1と、各貫通孔W12に挿通された各装着ボルトW2の頭部F2と、を有する。
【0083】
拘束棒F1は、軸部Bの回転により、各頭部F2に当接可能な位置及び長さに構成されている。
【0084】
<<動作態様>>
以下、図6図10を用いて、ブレーキ解放装置1の動作態様について詳述する。
【0085】
<クリック機構>
以下、図6図8を用いて、クリック機構Eに係る動作態様について説明する。
【0086】
まず、クリック機構Eは、拘束状態において、図6に示す状態となされている。
即ち、嵌合突起qは、収容溝rにおける嵌合溝pから遠い側の端部(以下、遠位端)に、部分的に収容されている。
また、図6(c)に示すように、嵌合突起qの先端部と収容溝rの底部とは、所定の間隔dだけ離間して設けられている。
【0087】
なお、図6(a)は、図5(a)と同様にハンドル部Dを省略した底面図、図6(b)は、ブラケットE3を省略した拡大背面図、図6(c)は、QQ´線拡大断面図である。
また、図6(b)では、突起構成体E2の内、嵌合突起qのみを、ハッチングを施して示している。
【0088】
そして、作業者が、図6に示す状態から、ハンドル部Dを把持し、底面視で時計回りに回転させることで、嵌合突起qは、嵌合溝pに接近していく。
【0089】
詳述すれば、まず、嵌合突起qは、図7(a)に示すように、その先端部が、収容溝rの底部と所定の間隔dを保持しながら、収容溝rにおける嵌合溝pから近い側の端部(以下、近位端)に接近していく。
次に、嵌合突起qは、図7(b)に示すように、近位端に当接する。
次に、嵌合突起qは、近位端に、付勢手段E21の付勢力に抗して押圧されることで、収容溝rを脱し、図7(c)に示すように、ブラケット本体E31の外側面に、付勢手段E21の付勢力でもって押圧された状態となる。
なお、近位端(及び遠位端)は、嵌合突起qにフィットするような、滑らかな湾曲形状となされているため、嵌合突起qは、スムーズに収容溝rを脱することができる。
【0090】
そして、作業者が、図7(c)に示す状態から、さらにハンドル部Dを回転させることで、図8に示すように、嵌合突起qを嵌合溝pに嵌合させることができる。
【0091】
なお、図8(a)は、図5(a)と同様にハンドル部Dを省略した底面図、図8(b)は、ブラケットE3を省略した拡大背面図、図8(c)は、QQ´線拡大断面図である。
また、図8(b)では、突起構成体E2の内、嵌合突起qのみを、ハッチングを施して示している。
【0092】
ここで、収容溝rの遠位端に位置する嵌合突起qが嵌合溝pに嵌合するまでの、軸部B(ハンドル部D)の回転角は、略60度に設定されている。
これは、60度という角度が、ドアノブの回転角として多く採用されており、人体の手首の回旋運動における、無理のない角度と考えられるためである。
なお、軸部Bの回転角は、上記の実情から略60度とすることが好ましいが、50度~90度の範囲で、任意に変更可能である。
【0093】
また、作業者が、図8に示す状態から、ハンドル部Dを把持し、底面視で反時計回りに回転させることで、嵌合突起qは嵌合溝pを脱し、再度図6に示す状態、即ち、収容溝rの遠位端に配置された状態となる。
このとき、ハンドル部Dの回転は、回転付勢手段C3の付勢力と、各圧縮バネX7の付勢力により、手動解放レバーX2が押圧カムAを押圧する力を受けることで、自動的に、嵌合突起qが遠位端に戻る。
このように、本実施形態では、上記した2つの力で、ハンドル部Dに回転力を付与している。
【0094】
なお、仮に、嵌合突起qが遠位端に配置された状態で、ブレーキライニングLの摩耗により、手動解放レバーX2が初期設定位置よりも前方へ移動した場合であっても、手動解放レバーX2と押圧カムAとが接触しないだけの距離が保持されている。
これは、もし、手動解放レバーX2が、上記の状態で押圧カムAと接触するようなことが起これば、ブレーキの制動トルクを減じることになり、危険なためである。
【0095】
また、仮に、作業者が、ハンドル部Dを時計回りに回し過ぎ、嵌合突起qが、嵌合溝pを脱した場合、拘束棒F1が、右方の装着ボルトW2の頭部F2に当接し、過度な回転動作を抑制する。
また、仮に、作業者が、ハンドル部Dを反時計回りに回し過ぎ、嵌合突起qが、収容溝rの遠位端を脱した場合、拘束棒F1が、左方の装着ボルトW2の頭部F2に当接し、過度な回転動作を抑制する。
【0096】
<押圧カム>
以下、図9を用いて、図6図8に示す動作が行われた際の、押圧カムAの動作態様について説明する。
【0097】
まず、押圧カムAは、拘束状態(即ち、クリック機構Eが図6に示す状態)において、図9(a)に示す状態となされている。
【0098】
そして、作業者が、ハンドル部Dを回転させ、図8に示したように、嵌合突起qを嵌合溝pに嵌合させると、押圧カムAは、図9(b)に示す状態となる。
【0099】
即ち、押圧カム本体A1が偏心カムとして構成されていることで、押圧カムAは、ハンドル部Dの回転により、全体として、距離δだけ後方に変位することとなる。
また、押圧カムAの偏心運動により、回転付勢手段C3には捩れが生じることとなる。
なお、図9(b)において、拘束状態における押圧カムAの中心軸Z2を、細線の白丸で示し、嵌合突起qが嵌合溝pに嵌合した状態における押圧カムAの中心軸Z2を、太線の白丸で示している。
【0100】
<無励磁電磁ブレーキ>
以下、図10を用いて、ブレーキ解放装置1を適用した無励磁電磁ブレーキXの動作態様について説明する。
なお、図10は、図3と同様に、ブレーキカバーX3のみを示した、PP´線拡大断面図であり、特に図10(a)は、図3と同様に、拘束状態を示す図である。
【0101】
まず、図10(a)に示す状態から、作業者がハンドル部Dを把持し、底面視で時計回りに回転させることで、上記したように、嵌合突起qが、収容溝rの内部や溝構成体本体E11の外側面上を移動しながら、押圧カムAが徐々に後方に変位していく。
これにより、軸受A2が下方部X21に当接し、無励磁電磁ブレーキXは、図10(b)に示す状態となる。
【0102】
次に、図10(b)に示す状態から、作業者が、さらにハンドル部Dを回転させることで、上記したように、嵌合突起qが嵌合溝pに嵌合し、押圧カムAが図10(a)に示す状態から、距離δだけ後方に変位する。
これにより、押圧カムAが下方部X21を押圧し、手動解放レバーX2が傾倒する。
【0103】
そして、上記したように、上方部X22が、各押しピンX9を押圧することで、アーマチュアX1が、電磁石X6に当接し、ロータX4は、図10(c)に示すように、非拘束状態となる。
また、このとき、嵌合突起qが嵌合溝pに嵌合しているため、作業者がハンドル部Dから手を放しても、非拘束状態が安定的に維持される。
【0104】
なお、作業者は、図10(c)に示す状態から、ハンドル部Dを、底面視で反時計回りに回転させることで、嵌合溝pから脱した嵌合突起qは、回転付勢手段C3の付勢力と、手動解放レバーX2の押圧力でもって、収容溝rの遠位端に配置される。
これにより、作業者は、ロータX4を、容易に非拘束状態から拘束状態に遷移させることができる。
【0105】
<<設計例>>
以下、図11を用いて、ブレーキ解放装置1の設計例について説明する。
なお、図11(a)~(d)それぞれに示す最も大きい円は、押圧カムAの外形線であり、その中の黒丸及び白丸は、図5等と同様に、軸部Bの中心軸Z1、押圧カムAの中心軸Z2を示している。
また、本設計例では、ハンドル部の直径を50mmとする。
【0106】
図11(a)では、嵌合突起qが収容溝rの遠位端に配置されている状態であり、中心軸Z2は、y軸方向に対して偏心している状態である。
詳述すれば、図11(a)において、中心軸Z1から中心軸Z2までのy軸方向に沿った距離は、3.5mmとなるように設計されている。
また、図11(a)において、中心軸Z2から押圧カムAの外周までの、x軸方向に沿った距離は、18.5mmとなるように設計されている。
【0107】
作業者が図11(a)に示す状態から、ハンドル部Dを底面視で反時計回りに回転させることで、押圧カムAは、図11(b)及び(c)に示す状態を経て、図11(d)に示す状態となる。
なお、図11(b)は、図11(a)に示す状態から、作業者がハンドル部Dを30度回転させた状態を示し、図11(c)は、図11(a)に示す状態から、作業者がハンドル部Dを45度回転させた状態を示し、図11(d)は、図11(a)に示す状態から、作業者がハンドル部Dを60度回転させた状態を示している。
【0108】
図11(d)では、嵌合突起qが嵌合溝pに嵌合されている状態である。
詳述すれば、図11(d)において、中心軸Z1から中心軸Z2までのy軸方向に沿った距離は、1.75mmとなるように設計されている。
また、図11(d)において、中心軸Z2から押圧カムAの外周までの、x軸方向に沿った距離は、21.53mmとなるように設計されている。
【0109】
ここで、図11(a)~(d)及び、図11(d)からさらに30度回転させ、ハンドル部Dの回転角を計90度=死点に到達させた状態、それぞれにおける、中心軸Z1から中心軸Z2までのy軸方向に沿った距離から求めたテコ比を、表1として下記に示す。
【0110】
表1に示すように、テコ比は、ハンドル部Dの半径Rを、中心軸Z1から中心軸Z2までのy軸方向に沿った距離sで除すことによって求められる。
そして、表1に示すように、ハンドル部Dを回転させていき、嵌合突起qが嵌合溝pに嵌合することでクリック感が得られる位置、即ち図11(d)に示す、ハンドル部Dの回転角が略60度となった際のテコ比は、回転角0度の状態から、約2倍となっている。
【0111】
このように、上記設計例によれば、クリック感を得られる位置が死点近傍のため、テコ比が増大し、その分、必要となるハンドル部Dのトルクが低減する。
このことと、嵌合突起qをボールプランジャのボールとしたこと、嵌合突起qの先端と収容溝rの底部に所定の間隔dを設けたことから、ハンドル部Dを0度から60度まで回転させる際のトルクを、0.5Nm~1.5Nmの範囲に収めることができる。
【0112】
例えば、ドアノブを回転させるトルクは約0.5Nmであり、手応え感、クリック感を得られる箇所を除けば、上記設計例によるハンドル部Dのトルクは、これとほぼ同等である。
【0113】
この他、クリック感を得られる位置までハンドル部Dを回転させるためのトルクである、1.5Nmを出すために必要な把持力は、約6.2kgである。
ここで、労働基準法には、重量物運搬についての規定があり、16歳~18歳の女性が重量物を運搬する際に必要な握力は15kg以下とされている。仮に、片手での運搬である場合は、その1/2、即ち7.5kgとなり、この握力は、上記した1.5Nmのトルクを出すために必要な把持力に対して安全側である。
また、65歳の高齢者の握力は平均約24kgであり、標準偏差σ=3.84から、3σのときは、24-(3×3.84)=12.5kgを最低値とすれば、この握力も、上記した把持力に対して安全側である。
即ち、上記設計例によれば、老若男女問わず、容易にハンドル部Dを回すことが可能である。
【0114】
【表1】
【0115】
<<効果>>
本実施形態によれば、作業者は、嵌合突起qと嵌合溝pとの嵌合動作により自身の手に伝わるクリック感でもって、ロータX4が拘束状態から非拘束状態に遷移したことを、容易に、且つ確実に認知することができ、半端な解放状態で脱出作業等に移ってしまうことがない。
これにより、非常時における作業者の労力が軽減されると共に、高い安全性を確保することが可能となる。
【0116】
また、付勢手段E21により、嵌合突起qと嵌合溝pとの嵌合状態の安定性を高めると共に、より強いクリック感を、作業者の手に伝えることが可能となる。
【0117】
また、嵌合突起qが、拘束状態において、収容溝rに収容可能に構成されていることで、作業者は、拘束状態と非拘束状態との切替えの過程を、自身の手に伝わるトルクの変化やクリック感によって、より確実に認知することが可能となる。
【0118】
また、嵌合突起qの先端部と収容溝rの底部とが離間して設けられていることで、嵌合突起qが収容溝rに収容されている状態において、付勢手段E21の付勢力や嵌合突起qの接触抵抗に基づく、ハンドル部Dの回転トルクの増大を抑えることができる。
【0119】
また、溝構成体E1が、軸部Bの外周に設けられ、軸部Bと共に回転可能に構成され、突起構成体E2が、支持部Cに設けられ、軸部Bと共に回転しないように構成されていることで、ブレーキ解放装置1の構成を簡素化でき、装置全体のコンパクト化や、製造性の向上を実現することが可能となる。
【0120】
また、押圧カムAが、押圧カム本体A1と、軸受A2と、を有する偏心カムとして構成されていることで、押圧カムAの、手動解放レバーX2への押圧動作時に生じる摩擦力を大きく低減することが可能となる。
【0121】
また、回転付勢手段C3により、作業者は、ロータX4を非拘束状態から拘束状態に遷移させる際、回転付勢手段C3の付勢力を補助として、ハンドル部Dを回転させることができるため、この過程における回転作業を、より小さいトルクで行うことが可能となる。
【0122】
また、回転角拘束機構Fを備えることで、作業者が、必要以上にハンドル部Dを回転させることによる装置の損傷や、これに伴う事故の発生を防止することが可能となる。
【0123】
また、拘束状態から非拘束状態に遷移するまでの軸部Bの回転角が略60度であることで、作業者は、一度の手首の回旋動作でもって、ロータX4を拘束状態から非拘束状態に遷移させることができ、ブレーキ解放作業の作業性が大きく向上する。
【0124】
なお、上述の実施形態において示した各構成部材の諸形状や寸法等は一例であって、設計要求等に基づき種々変更可能である。
また、本実施形態のように、ブレーキ解放装置1が、既存のブレーキケースX3に装着孔を形成することで、後付けで装着可能に構成されても良いし、予めブレーキ解放装置1が装着されたブレーキケースX3(無励磁電磁ブレーキX)が製造されても良い。
【符号の説明】
【0125】
1 ブレーキ解放装置
A 押圧カム
B 軸部
C 支持部
D ハンドル部
E クリック機構
E1 溝構成体
p 嵌合溝
E2 突起構成体
q 嵌合突起
F 回転角拘束機構
X 無励磁電磁ブレーキ
X1 アーマチュア
X2 手動解放レバー
X3 ブレーキカバー
X4 ロータ
X5 停止円盤
X6 電磁石
X7 圧縮バネ
X8 支点軸部
X9 押しピン
M 電動機
S 回転軸
【要約】      (修正有)
【課題】容易に、且つ確実に、無励磁電磁ブレーキを完全な解放状態とすることができる、ブレーキ解放装置を提供する。
【解決手段】所定の回転機械の回転軸Sと一体的に回転するロータX4の面に、軸方向に沿って作用する付勢力でもって押圧されることで、ロータを、その回転が拘束された拘束状態とすることが可能であり、通電された電磁石X6の磁力でもって、付勢力に抗して、付勢力の作用方向と反対方向に吸引されることで、ロータを、拘束状態が解除された非拘束状態とすることが可能であるアーマチュアX1と、電磁石に設けられた支点軸部X8を支点とした、手動での傾倒動作でもって、アーマチュアを電磁石に押圧することで、ロータを非拘束状態とすることが可能である手動解放レバーX2と、アーマチュア及び手動解放レバーX2を内包するブレーキカバーX3と、を備える無励磁電磁ブレーキXに設けられる、ブレーキ解放装置1。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11