(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】音信号生成装置、音信号生成方法及び音信号生成用プログラム
(51)【国際特許分類】
B60Q 5/00 20060101AFI20221223BHJP
G10K 15/04 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
B60Q5/00 660E
G10K15/04 302J
B60Q5/00 660B
B60Q5/00 650A
B60Q5/00 620A
(21)【出願番号】P 2022522114
(86)(22)【出願日】2020-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2020018868
(87)【国際公開番号】W WO2021229656
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】520014291
【氏名又は名称】サウンドデザインラボ合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120189
【氏名又は名称】奥 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100173510
【氏名又は名称】美川 公司
(72)【発明者】
【氏名】前田 修
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-84109(JP,A)
【文献】特開2018-36494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 5/00
G10K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両駆動用の電動機が搭載された電動車におけるアクセル操作量を示す操作量データを取得する操作量データ取得手段と、
前記電動車の走行速度を示す走行速度データを取得する走行速度データ取得手段と、
内燃式のエンジンを搭載した車両の仮想走行速度を算出する仮想走行速度算出手段と、
前記取得された走行速度データに基づいて、前記算出された仮想走行速度を補正する補正手段と、
前記補正された仮想走行速度に基づいて、前記エンジンの仮想回転数を算出する仮想回転数算出手段と、
前記取得された操作量データにより示される前記アクセル操作量と、前記算出された仮想回転数と、に基づいて、前記電動車の走行状態に対応した擬似的な前記エンジンの音を示す疑似エンジン音信号を生成する生成手段と、
を備えることを特徴とする音信号生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音信号生成装置において、
前記操作量データ取得手段は、予め設定された操作量データ取得周期ごとに前記操作量データを取得し、
前記走行速度データ取得手段は、予め設定された走行速度データ取得周期ごとに前記走行速度データを取得し、
前記補正手段は、予め設定された補正周期ごとに前記仮想走行速度の補正を行うことを特徴とする音信号生成装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の音信号生成装置において、
前記仮想回転数算出手段は、前記補正された仮想走行速度と、前記エンジンに対応して予め設定された自動変速線図に基づくギヤ比と、を少なくとも用いて前記仮想回転数を算出することを特徴とする音信号生成装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の音信号生成装置において、
前記仮想走行速度算出手段は、前記電動車が移動する道路の勾配の影響、及び当該電動車の制動抵抗の影響を除外して前記仮想走行速度を算出することを特徴とする音信号生成装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の音信号生成装置において、
前記仮想走行速度算出手段は、前記エンジンの回転数と当該エンジンとしての出力トルクとの関係に基づいて前記仮想走行速度を算出し、
前記出力トルクは、前記取得された操作量データにより示される前記アクセル
操作量と、当該アクセル
操作量に対応した出力トルク係数と、に基づいて算出されることを特徴とする音信号生成装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の音信号生成装置において、
前記補正手段は、前記取得された走行速度データを用いて、前記走行速度データの取得タイミングより遅いタイミングで前記仮想走行速度を補正することを特徴とする音信号生成装置。
【請求項7】
操作量データ取得手段と、走行速度データ取得手段と、仮想走行速度算出手段と、補正手段と、仮想回転数算出手段と、生成手段と、を備える音信号生成装置において実行される音信号生成方法であって、
車両駆動用の電動機が搭載された電動車におけるアクセル操作量を示す操作量データを前記操作量データ取得手段により取得するステップと、
前記電動車の走行速度を示す走行速度データを前記走行速度データ取得手段により取得するステップと、
内燃式のエンジンを搭載した車両の仮想走行速度を前記仮想走行速度算出手段により算出するステップと、
前記取得された走行速度データに基づいて、前記算出された仮想走行速度を前記補正手段により補正するステップと、
前記補正された仮想走行速度に基づいて、前記エンジンの仮想回転数を前記仮想回転数算出手段により算出するステップと、
前記取得された操作量データにより示される前記アクセル操作量と、前記算出された仮想回転数と、に基づいて、前記電動車の走行状態に対応した擬似的な前記エンジンの音を示す疑似エンジン音信号を前記生成手段により生成するステップと、
を含むことを特徴とする音圧信号出力方法。
【請求項8】
コンピュータに、
車両駆動用の電動機が搭載された電動車におけるアクセル操作量を示す操作量データを取得するステップと、
前記電動車の走行速度を示す走行速度データを取得するステップと、
内燃式のエンジンを搭載した車両の仮想走行速度を算出するステップと、
前記取得された走行速度データに基づいて、前記算出された仮想走行速度を補正するステップと、
前記補正された仮想走行速度に基づいて、前記エンジンの仮想回転数を算出するステップと、
前記取得された操作量データにより示される前記アクセル操作量と、前記算出された仮想回転数と、に基づいて、前記電動車の走行状態に対応した擬似的な前記エンジンの音を示す疑似エンジン音信号を生成するステップと、
を実行させることを特徴とする音信号生成用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音信号生成装置、音信号生成方法及び音信号生成用プログラムの技術分野に属する。より詳細には、内燃式エンジンの音を示す音信号を擬似的に生成する音信号生成装置及び音信号生成方法並びに当該音信号生成装置用のプログラムの技術分野に属する。なお以下において、上記内燃式エンジンを単に「エンジン」と称し、その駆動源として内燃式エンジンを搭載した車両を単に「エンジン車」と称する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータをその駆動源の一部又は全部とするいわゆる電動車(電気自動車)に関する研究開発が活発に行われている。このような電動車では、その駆動源として主として用いられているのはモータ(電気モータ)であり、従来のエンジンは、全く搭載されていないか、又は主駆動源たるモータの補助用に搭載されているに止まる場合が多い。ここで上記電動車には、例えばEV(Electric Vehicle)、HV(Hybrid Vehicle)、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)又はFCV(Fuel Cell Vehicle)等(四輪車及び二輪車等を含む)が含まれる。
【0003】
一方、上記のような電動車については、従来のエンジンが搭載された車両との間では、その走行により発生する音が大きく異なることが問題視されている。即ち、例えばEVやFCVでは、車内の搭乗者に聞こえるようなエンジンの音が全く発生しないため、その走行時においては、搭乗者には、いわゆるロードノイズやウィンドノイズしか聞こえない。このとき、当該ロードノイズ等はその車両走行速度に連動して音量が大きくなるが、その音量は、電動車におけるアクセル操作(アクセル開度)には直接反応しない。また、HVやPHVでは、それに搭載されたエンジンから音が発生する状態もあるが、それは常時ではなく、更に、その音は車両走行速度やアクセル開度とは連動しないことが多い。これらにより、電動車では、その搭乗者によるアクセル操作に応じた状態のエンジンの音が発生しなくなり、結果として、エンジン音を好む搭乗者にとっては、運転の楽しさの減少に繋がる。またこの他、エンジン音によるいわゆる速度感覚が鈍ることや、アクセル又はブレーキのペダルの誤操作の危険が増えるという安全面の心配も生じていた。
【0004】
そこで、近年では、電動車の走行に連動してデジタル回路で合成した擬似的なエンジン音を車内に出すことが考えられている。このような先行技術を開示した文献としては、例えば下記特許文献1が挙げられる。特許文献1に開示された走行連動音発生装置は、車両の車速を推定する車速推定ユニットと、推定された車速に基づいてアクセル指令値を推定するアクセル指令値推定ユニットと、走行連動音を生成する走行連動音生成ユニットとを含み、走行連動音生成ユニットにおいて、車速推定ユニットによって推定された車速と、アクセル指令値推定ユニットによって推定されたアクセル指令値とに基づいて、走行連動音を生成する構成とされている。このとき、特許文献1に開示されているような先行技術では、エンジンの音をデジタル回路で合成する技術自体は既に確立されているが、その合成の際には、エンジン回転数及びアクセル開度をそれぞれ示すデータが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、EVやFCVではそもそもエンジンが無いため、その回転数を示すデータが得られないし、HVやPHVでは、エンジンがあっても走行と連動して作動しないため、その回転数を示すデータをそのまま利用することができないという問題があった。
【0007】
更に、エンジンを搭載した従来のエンジン車では、自動的に変速が行われることでエンジンの回転数が変化するため、当該自動変速によるエンジンの回転数の変化も模擬しなければ、リアルで臨場感のあるエンジンの音を車内に発生させることができないという問題点もあった。
【0008】
そこで本発明は、上記の各問題点に鑑みて為されたもので、その課題の一例は、例えばエンジンを全く搭載しない電動車であっても、その走行に連動した臨場感のあるエンジンの音を示す音信号を擬似的に生成することが可能な音信号生成装置及び音信号生成方法並びに当該音信号生成装置用のプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、車両駆動用の電動機が搭載された電動車におけるアクセル操作量を示す操作量データを取得する操作量データ取得手段と、前記電動車の走行速度を示す走行速度データを取得する走行速度データ取得手段と、内燃式のエンジンを搭載した車両の仮想走行速度を算出する仮想走行速度算出手段と、前記取得された走行速度データに基づいて、前記算出された仮想走行速度を補正する補正手段と、前記補正された仮想走行速度に基づいて、前記エンジンの仮想回転数を算出する仮想回転数算出手段と、前記取得された操作量データにより示される前記アクセル操作量と、前記算出された仮想回転数と、に基づいて、前記電動車の走行状態に対応した擬似的な前記エンジンの音を示す疑似エンジン音信号を生成する生成手段と、を備える。
【0010】
上記の課題を解決するために、請求7に記載の発明は、操作量データ取得手段と、走行速度データ取得手段と、仮想走行速度算出手段と、補正手段と、仮想回転数算出手段と、生成手段と、を備える音信号生成装置において実行される音信号生成方法であって、車両駆動用の電動機が搭載された電動車におけるアクセル操作量を示す操作量データを前記操作量データ取得手段により取得するステップと、前記電動車の走行速度を示す走行速度データを前記走行速度データ取得手段により取得するステップと、内燃式のエンジンを搭載した車両の仮想走行速度を前記仮想走行速度算出手段により算出するステップと、前記取得された走行速度データに基づいて、前記算出された仮想走行速度を前記補正手段により補正するステップと、前記補正された仮想走行速度に基づいて、前記エンジンの仮想回転数を前記仮想回転数算出手段により算出するステップと、前記取得された操作量データにより示される前記アクセル操作量と、前記算出された仮想回転数と、に基づいて、前記電動車の走行状態に対応した擬似的な前記エンジンの音を示す疑似エンジン音信号を前記生成手段により生成するステップと、を含む。
【0011】
上記の課題を解決するために、請求項8に記載の発明は、コンピュータに、車両駆動用の電動機が搭載された電動車におけるアクセル操作量を示す操作量データを取得するステップと、前記電動車の走行速度を示す走行速度データを取得するステップと、内燃式のエンジンを搭載した車両の仮想走行速度を算出するステップと、前記取得された走行速度データに基づいて、前記算出された仮想走行速度を補正するステップと、前記補正された仮想走行速度に基づいて、前記エンジンの仮想回転数を算出するステップと、前記取得された操作量データにより示される前記アクセル操作量と、前記算出された仮想回転数と、に基づいて、前記電動車の走行状態に対応した擬似的な前記エンジンの音を示す疑似エンジン音信号を生成するステップと、を実行させる。
【0012】
請求項1、請求項7又は請求項8のいずれか一項に記載の発明によれば、内燃式のエンジンを搭載した車両の仮想走行速度を、電動車の走行速度を示す走行速度データに基づいて補正し、その補正された仮想走行速度に基づいてエンジンの仮想回転数を算出し、その仮想回転数及び対応するアクセル操作量に基づいて、電動車の走行状態に対応した擬似エンジン音を生成する。よって、例えば内燃式のエンジンを搭載しない電動車であっても、当該電動車の走行に連動した臨場感のあるエンジン音を擬似的に生成することができる。
【0013】
上記の課題を解決するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の音信号生成装置において、前記操作量データ取得手段は、予め設定された操作量データ取得周期ごとに前記操作量データを取得し、前記走行速度データ取得手段は、予め設定された走行速度データ取得周期ごとに前記走行速度データを取得し、前記補正手段は、予め設定された補正周期ごとに前記仮想走行速度の補正を行うように構成される。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用に加えて、操作量データの取得、走行速度データの取得、及び仮想走行速度の補正が既定の周期ごとにそれぞれ行われるので、精度のよいエンジン音を擬似的に生成することができる。
上記の課題を解決するために、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の音信号生成装置において、前記仮想回転数算出手段は、前記補正された仮想走行速度と、前記エンジンに対応して予め設定された自動変速線図に基づくギヤ比と、を少なくとも用いて前記仮想回転数を算出するように構成される。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明の作用に加えて、補正された仮想走行速度と、既定の自動変速線図に基づくギヤ比と、を少なくとも用いて仮想回転数を算出するので、臨場感のあるエンジン音を、処理負荷を軽減しつつ擬似的に生成することができる。
【0016】
上記の課題を解決するために、請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の音信号生成装置において、前記仮想走行速度算出手段は、前記電動車が移動する道路の勾配の影響、及び当該電動車の制動抵抗の影響を除外して前記仮想走行速度を算出するように構成される。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明の作用に加えて、疑似エンジン音の生成に際して無視し得る道路の勾配の影響及び制動抵抗の影響を除外して仮想走行速度を算出するので、無視可能な要素の影響を除外することで、処理負担をより軽減しつつエンジン音を擬似的に生成することができる。
【0018】
上記の課題を解決するために、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の音信号生成装置において、前記仮想走行速度算出手段は、前記エンジンの回転数と当該エンジンとしての出力トルクとの関係に基づいて前記仮想走行速度を算出し、前記出力トルクは、前記取得された操作量データにより示される前記アクセル操作量と、当該アクセル操作量に対応した出力トルク係数と、に基づいて算出されるように構成される。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明の作用に加えて、仮想走行速度がエンジンの回転数と出力トルクとの関係に基づいて算出され、更に当該出力トルクがアクセル操作量と出力トルク係数とに基づいて算出されるので、より臨場感のあるエンジン音を擬似的に生成することができる。
【0020】
上記の課題を解決するために、請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の音信号生成装置において、前記補正手段は、前記取得された走行速度データを用いて、前記走行速度データの取得タイミングより遅いタイミングで前記仮想走行速度を補正するように構成される。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の発明の作用に加えて、走行速度データの取得タイミングより遅いタイミングで、当該走行速度データを用いて仮想走行速度を補正するので、補正後の仮想走行速度が当該補正により急激に(即ち不自然に)変化することを防止しつつ、仮想走行速度を補正することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、例えば内燃式のエンジンを搭載しない電動車であっても、当該電動車の走行に連動した臨場感のあるエンジン音を擬似的に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態の音信号生成装置の概要構成を示すブロック図である。
【
図2】本実施形態の変数データの内容を例示する図である。
【
図3】本実施形態の車両データの内容を例示する図である。
【
図4】本実施形態の音信号生成処理を示すフローチャートである。
【
図5】本実施形態のトルクの変化を例示する図であり、(a)は本実施形態のエンジン回転数とエンジン内部ロストルクとの関係を例示する図であり、(b)は本実施形態のエンジン回転数と各種トルクとの関係を例示する図であり、(c)は本実施形態のアクセル開度と出力トルク係数との関係を例示する図である。
【
図6】本実施形態の速度比とトルク比との関係等を例示する図である。
【
図7】本実施形態の仮想エンジン車速度の補正を例示する図である。
【
図8】変動緩和処理を含む本実施形態の仮想エンジン車速度の補正を例示する図である。
【
図9】本実施形態の自動変速制御を例示する図である。
【
図10】本実施形態の電動車の車両走行速度と、電動車に対応する仮想エンジン車のエンジン回転数との関係を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明を実施するための形態について、
図1乃至
図10を用いて説明する。なお、以下に説明する実施形態は、電動車の運転者の操作や当該電動車の車両走行速度等に対応した内燃式エンジンの音を当該電動車内に擬似的に出すための音信号の生成処理に本発明を適用した場合の実施形態である。
【0025】
また、
図1は本実施形態の音信号生成装置の概要構成を示すブロック図であり、
図2は本実施形態の変数データの内容を例示する図であり、
図3は本実施形態の車両データの内容を例示する図である。更に、
図4は本実施形態の音信号生成処理を示すフローチャートであり、
図5は本実施形態のトルクの変化等を例示する図であり、
図6は本実施形態の速度比とトルク比との関係等を例示する図である。更にまた、
図7は本実施形態の仮想エンジン車速度の補正を例示する図であり、
図8は変動緩和処理を含む本実施形態の仮想エンジン車速度の補正を例示する図であり、
図9は本実施形態の自動変速制御を例示する図であり、
図10は本実施形態の電動車の車両走行速度と、電動車に対応する仮想エンジン車のエンジン回転数との関係を例示する図である。
【0026】
以下に説明する本実施形態の音信号生成装置は、それ自体が上記電動車に搭載されており、当該電動車の運転者の操作や当該電動車の車両走行速度等に対応した仮想的なエンジン(即ち、実際には当該電動車に搭載されていない仮想的な内燃式エンジン)の音を当該電動車内に擬似的に出すための音信号を生成する。なお、以下の説明では、上記仮想的な内燃式エンジンを単に「仮想エンジン」と称し、当該仮想エンジンが搭載されている仮想的な車両(即ち、電動車ではない、仮想エンジンが搭載された仮想的な車両)を単に「仮想エンジン車」と称する。また、本実施形態の音信号生成装置が搭載されている上記電動車を、単に「搭載電動車」と称する。そして、本実施形態の音信号生成装置では、上記仮想エンジンを含む仮想エンジン車を擬似的(模擬的)に再現した車両物理モデルを設定した上で、上記仮想エンジンの音を搭載電動車内に擬似的に出す。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の音信号生成装置Sは、上記搭載電動車の車内に備えられているスピーカ14に接続されている。そして音信号生成装置Sは、HDD(Hard Disc Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の不揮発性記録媒体に記録されているデータベースDBと、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read-0nly Memory)及びRAM(Random-Access Memory)等からなる処理部10と、インターフェース11と、スピーカ14に接続されたD/A(Digital/Analog)コンバータ13と、により構成されている。また、処理部10は、仮想エンジン回転数生成部100と、疑似エンジン音生成部101と、を備えている。更に、上記仮想エンジン回転数生成部100及び上記疑似エンジン音生成部101、上記インターフェース11並びに上記D/Aコンバータ13は、バス12を介してデータ又は情報及び音信号の授受が可能に接続されている。ここで、上記仮想エンジン回転数生成部100及び上記疑似エンジン音生成部101は、処理部10を構成するCPU等のハードウェアロジック回路により実現されるものでもよいし、後述する本実施形態の音信号生成処理を示すフローチャートに相当するプログラムを処理部10が読み出して実行することにより、ソフトウェア的に実現されるものでもよい。更に、上記インターフェース11が本発明の「操作量データ取得手段」の一例及び「走行速度データ取得手段」の一例にそれぞれ相当し、上記仮想エンジン回転数生成部100が本発明の「仮想走行速度算出手段」の一例、「補正手段」の一例及び「仮想回転数算出手段」の一例にそれぞれ相当し、上記疑似エンジン音生成部101が本発明の「生成手段」の一例に相当する。
【0028】
以上の構成において、データベースDBには、本実施形態の変数データ1と、本実施形態の車両データ2と、が不揮発性に記録されている。
【0029】
ここで、本実施形態の変数データ1としては、
図2に例示するように、本実施形態の音信号生成装置Sによる音信号生成処理に用いられる複数の変数と、当該各変数の初期値と、が、それぞれ関連付けられてデータベースDBに不揮発性に記録されている。なお
図2では、上記音信号生成処理に用いられる後述する各式等で上記各変数を表す際にそれぞれ用いられる符号及びその単位も、併せて示されている。このとき、
図2において、「エンジンスタートスイッチ」を除く「仮想エンジン車関係」欄に含まれている各変数は、仮想エンジン又は仮想エンジン車の駆動状態を示す仮想的な変数であり、それらの初期値は、変速線図選択値(変速ギヤの値)が「1」である場合を除き、「0」又は「0.0」である。これらに対し、「電動車関係」欄の車両走行速度は、搭載電動車の実際の車両走行速度を示す変数である。また、上記エンジンスタートスイッチは、搭載電動車に備えられた図示しないエンジンスタートスイッチの状態(即ち、搭載電動車に備えられた駆動源としてのモータを起動する操作がされたか、又は停止させる操作がされたかの状態)を示す変数となる。より具体的に、搭載電動車に備えられた上記エンジンスタートスイッチがオンとされているとき、エンジンスタートスイッチSswの値は例えば「1」となり、当該エンジンスタートスイッチがオフとされたとき、エンジンスタートスイッチSswの値は例えば「0」となる。更にロックアップステータスLuは、後述するトルコンのロックアップ状態を示す変数である。
【0030】
一方、本実施形態の車両データ2としては、
図3に例示するように、本実施形態の音信号生成装置Sによりそのエンジン音を示す音信号が生成される仮想エンジン又は仮想エンジン車の諸元等をそれぞれ示し且つ予め設定された複数のデータが、データベースDBに不揮発性に記録されている。なお
図3では、上記音信号生成処理に用いられる後述する各式等で上記各データを表す際にそれぞれ用いられる符号及びその単位も、併せて示されている。このとき、
図3において、「エンジン関係」欄、「変速機関係」欄、「テーブルデータ」欄及び「自動変速関係テーブルデータ」欄にそれぞれ含まれている各データは、仮想エンジン又は仮想エンジン車の駆動状態を示すように予め設定されて記録されたデータである。これに対し、「車体関係」欄に含まれている各データは、仮想エンジン車の諸元をそれぞれ示すものではあるが、これらが、搭載電動車の実際の各諸元にそれぞれ相当していてもよい。また、自動変速関係テーブルデータにおけるシフトアップ境界及びシフトダウン境界につき、例えば「シフトアップ境界1-2」とはトランスミッションが1速から2速にシフトアップする際の境界を示し、「シフトダウン境界2-1」とは2速から1速にシフトダウンする際の境界を示す。更に変速機段数Gmaxは、仮想エンジン車としての変速機の段数(の最大値)を示すデータである。
【0031】
以上の構成において、インターフェース11には、変数データ1及び車両データ2と、搭載電動車に備えられたアクセルが搭載電動車の運転者により操作された際の開度を示すアクセル開度データACと、搭載電動車の実際の車両走行速度を示す走行速度データSPと、が入力される。このとき、変数データ1及び車両データ2は、本実施形態の音信号処理が開始される際に、データベースDBから入力され、バス12を介して処理部10に出力される。これに対し、アクセル開度データAC及び走行速度データSPは、搭載電動車の走行と並行してリアルタイムに入力される。
【0032】
ここで、アクセル開度データACは、従来と同様の方法により検出された上記アクセル(搭載電動車に備えられたアクセル)の開度を示すデータである。また、走行速度データSPは、例えば、搭載電動車のタイヤの回転数に応じて発生するパルス信号を計数することにより算出される上記車両走行速度(搭載電動車の実際の車両走行速度)を示すデータである。そして、アクセル開度データACは、バス12を介して処理部10に入力され、当該アクセル開度データACにより示されるアクセル開度が、変数としてのアクセル開度Ap(
図2参照)に反映される。また、走行速度データSPも、バス12を介して処理部10に入力され、当該走行速度データSPにより示される車両走行速度が、変数としての電動車の車両走行速度Vm(
図2参照)に反映される。これらにより、処理部10の仮想エンジン回転数生成部100は、上記アクセル開度Ap及び上記車両走行速度Vm、並びにその他の変数データ1及び車両データ2に基づいて、上記運転者の操作や搭載電動車の車両走行速度等に対応した仮想エンジンとしての回転数である回転数N’を示す回転数データをリアルタイムに生成し、バス12を介して処理部10の疑似エンジン音生成部101に出力する。このとき、上記回転数データの生成周期(計算周期)は、「計算サイクル時間Δt」として後述するように、人(搭乗者)がその間隔を知覚できない程度の充分短い時間(例えば、後述するように10ミリ秒乃至20ミリ秒程度)に設定される。これにより、上記アクセル操作に瞬時に反応することができ、且つ仮想エンジンの回転数の微小な変化も計算結果に反映させることが可能であり、従って、仮想エンジンの回転数の変化を滑らかに表現した回転数データを生成することが可能となっている。
【0033】
次に、疑似エンジン音生成部101は、仮想エンジン回転数生成部100から出力された上記回転数データと、アクセル開度データACにより示されるアクセル開度Apと、に基づいて、仮想エンジンの音に相当する音信号を例えば従来と同様の手法により擬似的に生成し、バス12を介してD/Aコンバータ13に出力する。その後、D/Aコンバータ13は、当該音信号をアナログ化し、アナログ信号としての当該音信号をスピーカ14に出力する。これにより、アナログ信号としての当該音信号は、仮想エンジンの音としてスピーカ14を介して電動車の車内にリアルタイムに出力される。
【0034】
以上のような仮想エンジン回転数生成部100及び疑似エンジン音生成部101の機能により、停車時にはいわゆるアイドリングの状態で仮想エンジンが回り、発進時には車両走行速度の上昇に先立って回転数が上昇するという、いわゆるトルコンAT(Automatic Transmission)車の走行状態を搭載電動車で模擬することが可能とになる。このとき、いわゆる変速制御についても、後述(
図9参照)するように、実際のエンジン車の変速制御(アクセル開度と車両走行速度から変速ギヤを選択する変速制御)を模擬するので、実際のエンジン車と同様に変速が行われ、それに伴って仮想エンジンの回転数が変化することになる。
【0035】
ここで、搭載電動車が走行している際における仮想エンジンの回転数は、仮想エンジン車としての車両走行速度、駆動系減速比及びタイヤ外径等から算出される。ここで、例えばトルク特性の違いや道路勾配の影響等により、仮想エンジン車として算出した車両走行速度と搭載電動車としての実際の車両走行速度との間に誤差が生じた場合、搭載電動車の車両走行速度を示すデータを周期的に取得することで、この誤差を補正する。このとき、搭載電動車としての車両走行速度を、そのまま仮想エンジン車として算出した車両走行速度と置き換えた場合であって、相互にずれが生じた場合には、車両走行速度が不連続になることでエンジン音に違和感が生じることとなるので、後述するように、車両走行速度の急激な変化を緩和するための本実施形態の変動緩和処理を行う。
【0036】
次に、本実施形態の音信号生成処理について具体的に説明する。本実施形態の音信号生成処理は、搭載電動車にその搭乗者が搭乗し、例えば当該搭載電動車のいわゆるACC(アクセサリ)スイッチがオンされることで開始される。本実施形態の音信号生成処理は、上記仮想エンジン車の車両物理モデルを用いた音信号生成処理である。そして、対応するフローチャートを
図4に示すように、本実施形態の音信号生成処理が開始されると、処理部10は初めに、搭載電動車に備えられた上記エンジンスタートスイッチがオンとされた否かを、当該エンジンスタートスイッチの状態を反映させた変数(
図2参照)であるエンジンスタートスイッチSswの値に基づいて監視する(ステップS1、ステップS1:NO)。ステップS1の監視において、上記エンジンスタートスイッチがオンとされたら(ステップS1:YES)、次に処理部10の仮想エンジン回転数生成部100は、変数データ1に含まれている各変数の初期値をデータベースDBからバス12を介して取得すると共に(ステップS2)、車両データ2に含まれている各データをデータベースDBからバス12を介して取得する(ステップS3)。上記ステップS2及びステップS3でそれぞれ取得された変数データ1及び車両データ2は、処理部10を構成する図示しないRAM等に一時的に記録される。
【0037】
次に仮想エンジン回転数生成部100は、上記アクセル開度データACを搭載電動車の例えばCAN(Controller Area Network。車両用のLAN(Local Area Network)。)を介して取得し、変数データ1内のアクセル開度Apに反映させる(ステップS4)。
【0038】
ここで、本実施形態の音信号処理におけるステップS4乃至ステップS12は、後述するように例えば10ミリ秒乃至20ミリ秒の計算サイクル時間Δtの周期で繰り返されるが、上記ステップS4におけるアクセル開度データACの取得周期は、例えば100ミリ秒乃至200ミリ秒ごととするのが好ましい。即ち、アクセル開度データACの取得周期自体は、本来的には可能な限り短い方が望ましいが、搭載電動車の種類によってその電装品としてのハードウェアやソフトウェアが異なるため、当該取得周期を予め厳密に設定しておくことは、汎用性の観点等からも望ましくない。これに対し、搭載電動車のアクセル自体は搭乗者たる運転者により直接操作されるものであるので、非常に短い時間(例えば数ミリ秒乃至数十ミリ秒)でその開度が大きく変わるものではない。従って、上述した通り例えば100ミリ秒乃至200ミリ秒ごとにアクセル開度データACを取得することとしても、本実施形態の音信号処理として仮想エンジン又は仮想エンジン車をほぼ正確に模擬することが可能となる。また、例えば100ミリ秒乃至200ミリ秒ごとの周期であれば、殆ど全ての搭載電動車のCANからアクセル開度データACを取得することが可能となる。
【0039】
ステップS4でアクセル開度データACが取得できたら、次に仮想エンジン回転数生成部100は、当該取得されたアクセル開度データACに相当するアクセル開度Apに対応して、仮想エンジンの出力トルク等を仮想的に算出する(ステップS5及びステップS6)と共に、仮想エンジン車の走行状態を仮想的に求め(ステップS7乃至ステップS9)、更に仮想エンジンの回転数を仮想的に算出する(ステップS10)。
【0040】
即ち、ステップS4でアクセル開度データACが取得できたら、次に仮想エンジン回転数生成部100は、当該取得したアクセル開度データACに相当するアクセル開度Apに基づいて、仮想エンジンの出力トルクを算出する(ステップS5)。
【0041】
より具体的に、仮想エンジン回転数生成部100は、初めに、仮想エンジンの任意のエンジン回転数(仮想的なエンジン回転数)における仮想エンジンとしてのエンジン内部ロストルクを算出する。このエンジン内部ロストルクは、アクセルが全閉されている時の仮想エンジンのエンジントルク(全閉トルク)であり、仮想エンジンについてのいわゆるエンジンブレーキの基になる力であって、負の値になる。仮想エンジン回転数生成部100は、当該エンジン内部ロス
トルクを以下の式(1)により算出する。なお以下の式(1)において、「TL(負値)」は変数データ1としての上記エンジン内部ロストルク(
図2参照)であり、「N」は変数データ1としてのエンジン回転数(
図2参照)であり、「Di」は車両データ2として予め設定されて記録されているエンジン排気量であり、「Cf」は車両データ2として予め設定されて記録されているエンジン内部ロストルク係数であり、「a1」乃至「a 3」はそれぞれ車両データ2として予め設定されて記録されているエンジン内部ロストルク計算定数である。
TL=-{(a
1×N
2+a
2×N+a
3)×(Di/1000)}/4/π×Cf…(1)
このとき、エンジン内部ロストルクTLは、上記エンジン回転数Nに対応して例えば
図5(a)に例示するように変化する。ここで、エンジン内部ロストルクTLは、基本的にはエンジン回転数Nとエンジン排気量Diで決定されるが、仮想エンジンの種類(即ち、
図3に例示する車両データ2により示される仮想エンジンの種類)によって異なってくる。このため、上記式(1)で示されるエンジン内部ロストルクTLの算出では、その相違分を、例えば空吹かしでのエンジン回転数Nの下降時間等に対応する上記エンジン内部ロストルク計算定数a
1乃至エンジン内部ロストルク計算定数a
3により調整することとしている。
【0042】
次に仮想エンジン回転数生成部100は、算出されたエンジン内部ロストルクTLを用いて仮想エンジンの出力トルクを算出する。ここで一般に、あるエンジン回転数Nにおけるエンジン出力トルクは、アクセル全開時のトルクカーブ及び最大トルクから得られる全開トルク値と、エンジン内部ロストルクTL(即ちアクセル全閉時のトルク)の値との間の値をとり、アクセル開度Apによって決定される。そして、
図5(b)に例示するように、上記全開トルク値は車両データ2として予め設定されて記録されているアクセル全開トルクカーブTcv及びエンジン最大トルクTmaxとして与えられており(
図3参照)、更にエンジン内部ロストルクTLは上記式(1)により算出される。
【0043】
ここで、アクセルが部分的に開かれている状態での出力トルク係数(即ち、アクセル全開時のトルクを100とした時の出力トルクの割合)は、エンジン回転数Nによって変わる。このとき、アクセル開度と出力トルクとは直線的な関係にはならず、横軸をアクセル開度、縦軸を出力トルク係数にすると、
図5(c)に例示するような上が凸の曲線グラフとなる。更に、その曲線における曲率は、
図5(b)及び
図5(c)に符号「1」、「2」及び「3」として例示するように、エンジン回転数Nによって変化する。そこで、本実施形態の出力トルクの算出では、低回転時と高回転時それぞれの出力トルク係数(変数データ1としての低回転時出力トルク係数C0及び高回転時出力トルク係数Ch(それぞれ
図2参照))の曲線を予め設定し、それぞれの間のエンジン回転数Nに対応する出力トルクは、低回転時出力トルク係数C0に対応した出力トルクと高回転時出力トルク係数Chに対応した出力トルクと中間値とする。このように、上記二つの出力トルク係数の曲線を予め設定しておけば、任意のエンジン回転数Nにおける任意のアクセル開度での出力トルク係数の推定値(変数データ1としての推定出力トルク係数Cot(
図2参照))を算出でき(後述する式(3)参照)、更に当該推定出力トルク係数Cotを用いて任意のアクセル開度Apにおける仮想エンジンの出力トルクTeを算出できる。
【0044】
より具体的に、仮想エンジン回転数生成部100は、変数データ1としてのエンジン回転数Nを
正規化した
正規化エンジン回転数Nn(
図2参照)を以下の式(2)により算出する。なお以下の式(2)において、「Nmax」は車両データ2として予め設定されて記録されているエンジン回転数上限(
図3参照)である。
Nn=(N/Nmax)×100 …(2)
そして、仮想エンジン回転数生成部100は、算出された
正規化エンジン回転数Nnを車両データ2として予め設定されて記録されているアクセル全開トルクカーブTcv(
図3参照)に当て嵌め、
正規化エンジン回転数Nnにおける変数データ1としてのエンジン全開トルク係数Tw(
図2参照)を求める。その後、仮想エンジン回転数生成部100は、ステップS4で取得されたアクセル開度データACに相当するアクセル開度Apを、車両データ2として予めそれぞれ設定されて記録されている低回転時出力トルク係数C0のテーブルデータ及び高回転時出力トルク係数Chのテーブルデータ(
図3参照)にそれぞれ当て嵌め、対応する変数データ1としての低回転時出力トルク係数C0及び高回転時出力トルク係数Ch(それぞれ
図2参照)を求める。これらにより、仮想エンジン回転数生成部100は、以下の式(3)を用いて変数データ1としての上記推定出力トルク係数Cot(
図2参照)を算出する。
Cot=[{-TL/(Tw×Tmax/100)}+1]×[{(Nn/100)×Ch+(1-Nn/100)×C0}/100-1]+1 …(3)
その後、仮想エンジン回転数生成部100は、以下の式(4)を用いて、変数データ1としての任意のアクセル開度Apにおける仮想エンジンの出力トルクTeを算出する(ステップS5)。
Te=Tw/100×Tmax×Cot …(4)
【0045】
次に仮想エンジン回転数生成部100は、ステップS5で算出された仮想エンジンの出力トルクTeを、仮想エンジン車に対応した仮想のトルクコンバータ(即ち、搭載電動車には搭載されていない仮想のトルクコンバータ)に適用し、当該仮想のトルクコンバータの出力トルクを算出する(ステップS6)。なお以下の説明において、一般のトルクコンバータを単に「トルコン」と称し、仮想エンジン車に対応した上記仮想のトルクコンバータを、単に「仮想トルコン」と称する。
【0046】
ここで
、トルコン
はエンジンの出力をトランスミッション(変速機)に伝達するため
の部品であ
り、トルコンによって伝達されるトルクは、通常は、トルコンにおける入力側の軸と出力側の軸との回転速度比によって決まる。具体的には、
図6に例示する伝達トルク比Ceと回転速度比との関係を示す線(車両データ2として予め設定されて記録されている)によって伝達トルク比Ce(
図3参照)が決まり、トルコン出力トルクToは、入力されるエンジン出力トルク(即ち、トルコン入力トルクTin)に伝達トルク比Ceを乗算することによって算出される。このとき、伝達トルクCeの最大値は、
図6に例示するように、一般には2程度であり、エンジン車の発進時(即ち、回転速度比が0の時)には、トルコン出力トルクToはトルコン入力トルクTin(それぞれ
図2参照)の約二倍となる。
【0047】
より具体的に、一般のトルコンにおいては、その入力軸から入力されたエンジンのトルク(即ちトルコン入力トルクTin)が、その出力側の軸からトルコン出力トルクToとして出力されるのであるが、この場合のトルコン出力トルクToは、以下式(5)により算出される。
To=Tin×Ce …(5)
【0048】
ここで、エンジンからのトルクが全てトルコンに入力されるとは限らない。即ち、トルコンでは、一般的には油をかき回して動力を伝達しているため、エンジンの回転数が低いときは入力できるトルクが小さく、そしてその回転数が上昇するにつれ、エンジンの回転数の二乗に比例してトルコンへ入力されるトルクが大きくなる。また、トルコンの大きさによって、エンジンからトルコンに入力できるトルクの上限値(変数データ1としてのトルコントルク容量Tc(
図2参照))が決まるが、トルコントルク容量Tcは回転速度比によっても変化する。このとき、トルコントルク容量Tcは、車両データ2として予め設定されており(
図3参照)、且つ以下の式(6)に示されるように、回転速度比に応じて
図6に例示されるように変化する(車両データ2として予め設定されて記録されている)トルコントルク容量係数Cc(
図3参照)にエンジン回転数Nの二乗を乗じた値を有する。トルコントルク容量係数Ccは、トルコン自体の大きさによって異なる。
Tc=Cc×(N/1000)
2 …(6)
【0049】
そして、
一般的なトルコンでは、ロックアップクラッチによってトルコンの入力軸と出力軸とが機械的に結合される状態(ロックアップ状態)とロックアップされていない状態があり、ロックアップされていない状態の場合(図6において「コンバータ範囲」と示す)、エンジンからトルコンに入力されるトルコン入力トルクTinは、ステップS5で算出された仮想エンジンの出力トルクTe及びトルコントルク容量Tcそれぞれの値を条件として、以下の式(7)のように算出される。
・Te≧0の場合(加速時):Tin=Te(Te<Tcの場合)又はTin=Tc(Te≧Tcの場合)
・Te<0の場合(減速時):Tin=Te/4 …(7)
【0050】
一方、回転速度比が1に近くなるとロックアップ状態(
図6において「継手範囲」と示す)となるが、このロックアップ状態では、トルコンからの出力トルクはエンジンからの出力トルクと等しくなり、エンジン回転数Nはトルコンの出力軸(駆動系軸)の回転数(トルコン出力軸回転数No(
図2参照))と等しくなる。
【0051】
より具体的に、燃費向上等のため、近年のトルコンでは、回転速度比が大きくなるとロックアップクラッチが作動して、トルコンの入力軸と出力軸とが機械的に結合される。
図6に例示する特性を有するエンジンでは、回転速度比が0.85となった付近(
図6において「クラッチ点」と示す)でロックアップ状態となっている。そして、当該ロックアップ状態においては、トルコン入力軸回転数Ne(
図2参照)とトルコン出力軸回転数Noとは等しくなり、伝達トルク比Ceは1になるので、トルコン入力トルクTinとトルコン出力トルクToも等しくなる。また、トルコンがロックアップ状態となると、油をかき回すのではなく入力軸と出力軸とが機械的に結合されるので、仮想エンジンの出力トルクTeは全てトルコンに入力される(即ち、トルコン入力トルクTin=出力トルクTeとなる)。なお、エンジン車のアクセルが閉じられ減速される場合は、トルクの伝達方向が逆となり、エンジン車の車両駆動系からエンジン側ヘトルクが伝わることとなる。そして、この場合の伝達トルク比Ceの変化は加速時とは異なることとなるが、基本的な計算方法は加速時と同様となる。
【0052】
以上のステップS6により、仮想エンジン車のトルコン出力トルクToが算出されたので、次に仮想エンジン回転数生成部100は、タイヤによる仮想エンジン車の駆動力(換言すれば、仮想エンジン車の前後方向の加速度)を算出する(ステップS7)。この駆動力は、トルコン出力トルクToを基にして、トランスミッションでの減速、最終減速機での減速及びタイヤのサイズを考慮することで算出可能である。更に、当該駆動力から走行抵抗を差し引いて残った力を仮想エンジン車の車体質量で除すると、仮想エンジン車の前後方向の加速度が算出される。
【0053】
より具体的に、変数データ1としての仮想エンジン車の前後方向の加速度a(
図2参照)は、下記式(8)に示すように、そのトルコン出力トルクToに基づく車両駆動力から仮想エンジン車に加わる(変数データ1としての)車両走行抵抗D(
図2参照)や制動力を差し引いた値を、車両データ2として予め設定されて記録されている仮想エンジン車の車体の全備重量W(
図3参照)から算出される車体質量及び仮想エンジンの慣性モーメントIe(
図3参照)から算出されるエンジン等価質量並びにタイヤの慣性モーメントIt(
図3参照)から算出されるタイヤ等価質量の和で除した値となる。このとき、車両走行抵抗Dは、車両データ2として予め設定されて記録されている車両空気抵抗CdA及び車両転がり抵抗Dr(
図3参照)を用いて算出される。なお、以下の式(8)において、「Tm」は車両データ2として予め設定されて記録されている仮想エンジン車の変速機ロストルク(
図3参照)であり、「R」は変数データ1としての仮想トルコンの総減速比であり(
図2参照)、「r」は車両データ2として予め設定されて記録されているタイヤ半径(
図3参照)であり、「D」は変数データ1としての仮想エンジン車の車両走行抵抗(
図2参照)であり、「W」は車両データ2として予め設定されて記録されている仮想エンジン車の車体全備重量(
図3参照)である。また、下記式(8)においては、仮想エンジン車の制動力(ブレーキ)及び道路勾配抵抗の影響は考慮しないものとしている。
a={(To-Tm)×R/r-D}/{W/9.8+Ie×(R/r)
2+It×(1/r)
2}…(8)
【0054】
次に仮想エンジン回転数生成部100は、上記ステップS7で算出された仮想エンジン車の前後方向の加速度aを積分(デジタル処理としては和分)することにより、仮想エンジン車の車両走行速度を算出する(ステップS8)。即ち、仮想エンジン回転数生成部100は、本実施形態の計算サイクル時間Δtに上記加速度aを乗算することで仮想エンジン車の車両走行速度の変化分を算出し、これに現在の車両走行速度Vを加えて次の計算サイクル(即ち、次のステップS4乃至ステップS12の計算サイクル)での車両走行速度V’を算出する。
【0055】
より具体的に、仮想エンジン回転数生成部100は、次の計算サイクル(Δtミリ秒後)における変数データ1としての仮想エンジン車の車両走行速度V’(
図2参照)を、ステップS7で算出された加速度a(アクセル開度Apに基づき上記仮想エンジン車の物理モデルを用いて算出された加速度である)を用いて以下の式(9)により算出する。なお、以下の式(9)において、「V」は変数データ1としての仮想エンジン車の車両走行速度(
図2参照)である。
V’=V+a×0.001×Δt×3.6 …(9)
【0056】
ここで、上記車両走行抵抗Dには、道路勾配による勾配抵抗も本来的には含まれるが、搭載電動車が実際に走行する道路の勾配は予め特定できるものではないため、本実施形態の音信号生成処理では、平坦な道路を想定することとして、上記勾配抵抗は無視することとしている。よって、上記式(8)により算出された加速度aは、実際に搭載電動車の前後方向に加わっている加速度とは異なることがあり得る。またこれに加えて、同じアクセル開度でも、搭載電動車のモータの出力トルクと仮想エンジンの出力トルクとが同じとは限らないので、その点でも、仮想エンジン車の車両物理モデルで計算された加速度a(上記式(8)参照)は、実際の搭載電動車の加速度とは異なる可能性(即ち誤差が生じる可能性)がある。そこで、本実施形態の音信号生成処理では、搭載電動車から上記走行速度データSP(換言すれば、変数データ1としての車両走行速度Vm(
図2参照))を取得し、当該車両走行速度Vmを用いて仮想エンジン車の車両走行速度V’を補正する(ステップS8)。このとき、搭載電動車の車両走行速度Vmの取得周期は、仮想エンジン車についての本実施形態の音信号生成装置における上記の計算サイクル時間Δtよりも長くなる。また、当該補正の際には、搭載電動車の車両走行速度Vmが急激に変化しないように、後述する本実施形態の変動緩和処理を行うのが好適である。
【0057】
より具体的に、上記式(9)を用いて算出した仮想エンジン車の車両走行速度V’と、搭載電動車の実際の車両走行速度Vmとの間の誤差を解消すべく、仮想エンジン回転数生成部100は、
図7に例示するように、搭載電動車から新たに取得した車両走行速度Vm(
図7及び
図8において※で示す)と、当該新たな車両走行速度Vmの取得までの車両走行速度V’の変化と、を用いて、当該取得のタイミング以降の車両走行速度V’を補正する。このとき、車両走行速度Vmの取得の周期は、上述した通り本実施形態の計算サイクル時間Δtよりも長くなり、更に、
図7に例示するように車両走行速度V’と搭載電動車の車両走行速度Vmとの間にずれErがある場合、それを搭載電動車の車両走行速度Vmを用いて
図7に例示するように単純に補正すると、車両走行速度V’として大きな不連続性が生じ、このことは、最終的に搭載電動車の車内に出されるエンジン音に不自然さ(不連続状態)を生じる原因になり得る。この不自然さを解消するために、仮想エンジン回転数生成部100は、
図8に例示するように、本実施形態の変動緩和処理として、搭載電動車から新たに取得した車両走行速度Vm(
図8※参照)を予め設定された時間Δttだけ後にずらし、当該新たな車両走行速度Vmの実際の取得の直前の車両走行速度V’(
図8において★で示す)との間がなだらかに繋がるように複数の車両走行速度(
図8において□で示す)を設定し、それらを間に挟むようにして車両走行速度V’を補正するのが好ましい(ステップS8。
図8一点鎖線矢印参照。)。このとき、当該実施形態の変動緩和処理は、
図8に例示するように、新たな車両走行速度Vmが取得される度に実行されるのが好ましい。
【0058】
次に仮想エンジン回転数生成部100は、仮想エンジン車の変速ギヤの選択を模擬する(ステップS9)。即ち、搭載電動車が走行を開始する時には、仮想エンジン車の変速ギヤは「1速」に設定されるが、当該1速のままで走行するとエンジン回転数Nの上昇が速く、早々にその上限Nmaxに達してしまうことになる。このため、変速ギヤを切り換える必要があるが、搭載電動車の運転者にその操作を求めることは難しい。ここで、実際のエンジン車ではいわゆるATが装備されていて変速ギヤが自動的に選択される場合が多いので、本実施形態の音信号生成処理では、このAT車における変速ギヤの自動選択を模擬する。
【0059】
より具体的に、―般のエンジン車のATでは、そのアクセル開度と車両走行速度とに応じて適切な変速ギヤを選択する構成とされているが、その変速制御特性は、
図9に例示するようないわゆる「自動変速線図」で表される。この自動変速線図については、
図3に例示するように、車両データ2における「自動変速関係テーブルデータ」として予め設定されてデータベースDBに記録されている。このとき、その加速時と減速時とでは、異なる変速ギヤの選択が行われる。ここで、
図9に例示する仮想エンジン車の自動変速制御特性において、横軸は車両走行速度V、縦軸はアクセル開度Apである。そして、仮想エンジン車の運転状態(その時点での車両走行速度及びアクセル開度を示す運転状態)を
図9に「●」で表すとすると、加速時は車両走行速度が増加するので、●が
図9中を左から右に移動し、実線を左から越えたタイミングで変速ギヤが次段にシフトアップされる。これに対し、減速時(仮想エンジン車の加速度aが負値の時)は車両走行速度が減少するので、●が
図9中を右から左に移動し、破線を右側から越えたタイミングで変速ギヤが次段にシフトダウンされる。これにより、仮想エンジン回転数生成部100は、仮想エンジン車の車両走行速度V’、加速度aの値及びアクセル開度Apに基づいた
図9に例示する自動変速線図(即ち、実際のATに対応した自動変速線図)を用いて、仮想エンジンとしての変速ギヤの選択を模擬する。
【0060】
次に、仮想エンジン回転数生成部100は、上記ステップS2乃至ステップS9で算出された仮想エンジン車の車両走行速度V’とその時点で選択されている変速ギア(上記ステップS9参照)の減速比に基づいて、仮想エンジン車の上記回転数N’を一義的に算出し、バス12を介して疑似エンジン音生成部101に出力する(ステップS10)。即ち、仮想エンジン回転数生成部100は、仮想エンジン車の車両走行速度V’からそのタイヤの回転数を求め、更に仮想エンジン車の駆動系全体の総減速比Rから、仮想エンジンのエンジン回転数N’を逆算する。このとき、上記総減速比Rは、車両データ2として予め設定されて記録されている最終減速比Rf(
図3参照)と、その時点でn速に選択されている変速ギヤの(車両データ2として予め設定されて記録されている)減速比Rtn(
図3参照)との積である。
【0061】
ここで、エンジン回転数N’を逆算により算出する上述した方法は、仮想トルコンのロックアップクラッチが締結されている場合にのみ成立する。これは、上記ロックアップクラッチが締結されていない状態では、仮想トルコンとしてのいわゆる「滑り」があるため、エンジン回転数N’と駆動系の回転数とは等しくならないからである。そこで仮想エンジン回転数生成部100は、エンジンの回転角加速度αを最初に取得し、それを積分することにより、上記ロックアップクラッチが締結されていない場合のエンジン回転数N’を算出する。このとき、仮想エンジンの回転角加速度αは、仮想エンジンを回すトルクを、車両データ2としての仮想エンジンの慣性モーメントIe(
図3参照)で除した値となる。なお、仮想エンジンを回すトルクは、加速時はエンジン出力トルクToからトルコン入力トルクTinを差し引いた残留トルクであるが、減速時は駆動系から伝わるトルクとエンジンロストルクの差である。
【0062】
より具体的に、仮想エンジン回転数生成部100は、上記ロックアップクラッチが締結されている場合は、以下の式(10)を用いてエンジン回転数N’を算出する。
N’=V’×R×60/(r×2π×3.6) …(10)
【0063】
これに対し、上記ロックアップクラッチが締結されておらず滑りがある場合、仮想エンジン回転数生成部100は、以下の式(11)を用いてエンジン回転数N’を算出する。なお、式(11)において、「Tr」は変数データ1としてのエンジン残留トルク(
図2参照)であり、「Te」はステップS5で算出された仮想エンジンの出力トルクである。
Tr=Te-Tin
α=Tr/Ie
N’=N+0.001×Δt×α×60/2π …(11)
【0064】
最後に、処理部10の疑似エンジン音生成部101は、上記ステップS10で算出された仮想エンジン車のエンジン回転数N’に相当する回転数データと、アクセル開度データACにより示されるアクセル開度Apと、に基づいて、仮想エンジンの音に相当する音信号を例えば従来と同様の手法により擬似的に生成し、バス12を介してスピーカ14に出力する(ステップS11)。このとき、上記エンジンの回転数N’は、上記ロックアップクラッチが締結されている場合におけるエンジン回転数N’(式(10)参照)、又は上記ロックアップクラッチが締結されておらず滑りがある場合におけるエンジン回転数N’(式(11)参照)のいずれかとなる。これにより、当該音信号は、仮想エンジンの音として、スピーカ14を介して搭載電動車の車内にリアルタイムに出力される。
【0065】
その後処理部10は、例えば目的地に到達した等の理由により搭載電動車に備えられた上記エンジンスタートスイッチがオフとされた否かを判定する(ステップS12)。ステップS12の判定において、上記エンジンスタートスイッチがオフとされた場合(ステップS12:YES)、処理部10は本実施形態の音信号生成処理を終了する。一方、ステップS12の判定において、上記エンジンスタートスイッチがオフとされていない場合(ステップS12:NO)、処理部10は、上記ステップS4に戻って上述したステップS4乃至ステップS12を繰り返す。
【0066】
ここで、上記ステップS4乃至上記ステップS12を繰り返す周期は、上記計算サイクル時間Δt(例えば10ミリ秒乃至20ミリ秒程度)ごとの繰返し周期となるが、この繰返し周期は処理部10を構成するCPU等のハードウェアの性能等に依存する。この場合、当該繰返し周期をあまり長く設定すると、仮想エンジンのエンジン回転数N’の変化が滑らかに感じられなくなるという問題が生じる。これに対し、当該繰返し周期を極端に短くすると上記ハードウェア等の処理負荷が高くなり、処理が追いつかないことで正しい処理が行われなくなることになる。
【0067】
以上説明したように、本実施形態の音信号生成処理によれば、仮想エンジン車の車両走行速度V’を、搭載電動車の車両走行速度Vmに基づいて補正し(
図4ステップS8並びに
図7及び
図8参照)、その補正された車両走行速度V’に基づいて仮想エンジンのエンジン回転数N’を算出し、当該エンジン回転数N’及びアクセル開度Ap(即ちアクセル操作量)に基づいて搭載電動車の走行状態に対応したエンジン音を擬似的に生成する。従って、搭載電動車の駆動源たるモータとエンジンとの間のトルク特性の相違による出力トルクの相違や加速度の相違、並びに道路勾配の影響による車両走行速度のずれが生じ得る場合でも、トルコンATのエンジン車を走行させた場合とほぼ同じエンジン回転数を得ることができるため、例えば内燃式のエンジンを搭載しない電動車であっても、当該電動車の走行に連動した臨場感のあるエンジン音を疑似的に生成することができる。
【0068】
より具体的に、一般に車の車両走行速度は車軸の回転パルス信号から算出されるが、車軸はエンジンと比べて回転数が低くなっており、タイヤ一回転当たりのパルス数も少ないため、特に低速走行時には車両走行速度の更新周期が長くなり、搭乗者が滑らかに感じるエンジン回転数N’の変化を得ることが難しい。そのため、搭載電動車から取得する走行速度データSPのみに基づいて仮想エンジンのエンジン回転数N’を計算すると、臨場感のあるエンジン回転数の変化が得られない。そこで、本実施形態の音信号生成処理では、アクセル開度データACに基づいて仮想エンジン車の走行シミユレーションを行うに当たり、処理部10における処理能力とのバランスを取りつつ、仮想エンジン車を擬似的(模擬的)に再現した車両物理モデルを設定して臨場感のあるエンジン音を擬似的に生成することとしている。
【0069】
なお、本実施形態の音信号生成処理では、仮想エンジン車におけるブレーキに関する情報は使われていない。この点については、アクセル自体はブレーキによる制動時において閉じており、よってエンジン音としてはアクセルが開かれている場合よりも小さくて目立たないので、仮想エンジン車としての車両走行速度V’やエンジン回転数N’の追随性は、アクセルが開けられた加速時よりも厳密に考える必要はない。
【0070】
また、アクセル開度データACの取得、走行速度データSPの取得、及び車両走行速度V’の補正が既定の周期ごとにそれぞれ行われるので(
図4参照)、当該周期を処理部10における処理負荷との関係で短く設定することで、精度のよいエンジン音を擬似的に生成することができる。
【0071】
更に、補正された車両走行速度V’と、既定の自動変速線図(
図9参照)に基づく変速ギヤ比Rtnと、を少なくとも用いてエンジン回転数N’を算出するので、臨場感のある疑似的なエンジン音を、処理部10の処理負荷を軽減しつつ生成することができる。より具体的に、
図10に例示するように、仮想エンジンのエンジン回転数N’を搭載電動車の車両走行速度Vmに単純比例させた場合には、例えば仮想エンジン車の発進時のエンジン回転数N’の変化を模擬することができないし、また変速ギヤの自動変速を模擬することもできないため、臨場感のあるエンジン音を出すことが難しい。これに対し、本実施形態の音信号生成処理によれば、
図10に二通りのアクセル開度Apについて例示するように、仮想エンジン車の発進時や変速ギヤの自動変速によるエンジン回転数N’の変化を模擬することができ、より臨場感のあるエンジン音を擬似的に生成することができる。
【0072】
更にまた、疑似エンジン音の生成に際して無視し得る道路の勾配の影響及び制動抵抗の影響を除外して仮想エンジン車の車両走行速度V’を算出するので、無視可能な要素の影響を除外することで、処理部10の処理負担をより軽減しつつ、エンジン音を擬似的に生成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上それぞれ説明したように、本発明は音信号生成装置の分野に利用することが可能であり、特に内燃式のエンジンのエンジン音を電動車内に出す音信号生成装置の分野に適用すれば特に顕著な効果が得られる。
【符号の説明】
【0074】
1 変数データ
2 車両データ
10 処理部
11 インターフェース
12 バス
13 D/Aコンバータ
14 スピーカ
100 仮想エンジン回転数生成部
101 疑似エンジン音生成部
S 音信号生成装置
AC アクセル開度データ
DB データベース
SP 走行速度データ