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特許7199147偏心揺動型減速装置および潤滑剤の給脂方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速装置および潤滑剤の給脂方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20221223BHJP
   F16C 35/067 20060101ALI20221223BHJP
   F16C 35/12 20060101ALI20221223BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20221223BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16C35/067
F16C35/12
F16H57/04 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018019968
(22)【出願日】2018-02-07
(65)【公開番号】P2019138328
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-07-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117499
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 誠
(72)【発明者】
【氏名】井上 絢介
(72)【発明者】
【氏名】石川 哲三
【合議体】
【審判長】平田 信勝
【審判官】保田 亨介
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-067276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16C 35/067
F16C 35/12
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングに設けられた内歯歯車と、
前記内歯歯車に噛合う外歯歯車と、
前記外歯歯車に設けられた穴に貫通するピン部材と、
前記外歯歯車の軸方向一側に設けられた第1キャリヤと、
前記外歯歯車の軸方向他側に設けられた第2キャリヤと、
前記ケーシングと前記第1キャリヤとの間に設けられた第1主軸受と、
前記ケーシングと前記第2キャリヤとの間に設けられた第2主軸受と、
を備え、グリスが封入される偏心揺動型減速装置であって、
前記外歯歯車の軸方向一方側への軸方向移動は、前記第1主軸受の内輪または外輪の一方である第1部材により規制され、
前記外歯歯車の軸方向他方側への軸方向移動は、前記第2主軸受の内輪または外輪の一方である第2部材により規制され、
前記第1部材と前記第2部材との間の複数の前記外歯歯車は、前記内歯歯車の径方向において、前記ピン部材よりも外側の位置で、隣接する前記外歯歯車同士が互いに接触可能であり、
前記第1部材と前記第2部材との間に存在する軸方向隙間の合計値は0.09mm以上であることを特徴とする偏心揺動型減速装置。
【請求項2】
前記軸方向隙間の合計値は0.13mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項3】
前記ケーシングの前記外歯歯車と対向する面に開口する給脂口を有することを特徴とする請求項1または2に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項4】
ケーシングに設けられた内歯歯車と、
前記内歯歯車に噛合う外歯歯車と、
前記外歯歯車の軸方向一側に設けられた第1キャリヤと、
前記外歯歯車の軸方向他側に設けられた第2キャリヤと、
前記ケーシングと前記第1キャリヤとの間に設けられた第1主軸受と、
前記ケーシングと前記第2キャリヤとの間に設けられた第2主軸受と、
を備え、グリスが封入される偏心揺動型減速装置であって、
前記外歯歯車の軸方向一方側への軸方向移動は、前記第1主軸受の内輪または外輪の一方である第1部材により規制され、
前記外歯歯車の軸方向他方側への軸方向移動は、前記第2主軸受の内輪または外輪の一方である第2部材により規制され、
前記第1部材と前記第2部材との間に存在する軸方向隙間の合計値は0.09mm以上であり、
前記ケーシングの前記外歯歯車と対向する面に開口する給脂口を有し、
前記グリスは、2.0MPaの吐出圧で吐出したときに、前記給脂口から10g/分以上の給脂が可能であることを特徴とする偏心揺動型減速装置。
【請求項5】
請求項4に記載の偏心揺動型減速装置へ潤滑剤を給脂する方法であって、前記潤滑剤を吐出する吐出装置から2.5MPa以下の吐出圧で前記グリスを前記給脂口に吐出することを含むことを特徴とする潤滑剤の給脂方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型減速装置およびこの装置への潤滑剤の給脂方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、特許文献1において、偏心体によって揺動される外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合する内歯歯車とを備えた偏心揺動型減速機を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-124730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
減速装置には、必要に応じて外歯歯車と内歯歯車の噛合部などに外部からグリスなどの潤滑剤が補充される。このため、減速装置は、潤滑剤を内部に供給し易いことが望ましい。特許文献1に記載の減速機は、キャリヤ体を支持する主軸受と外歯歯車との間に軸方向隙間を確保するとともに、キャリヤ体の所定の位置に外歯歯車に当接する軸方向の凸部を形成することにより、この課題に対応している。このような減速装置については、キャリヤ体を含む装置の構成部材の製造を容易にすることが求められている。
【0005】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたもので、構成部材の製造を容易にすることが可能な偏心揺動型減速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の偏心揺動型減速装置は、ケーシングに設けられた内歯歯車と、内歯歯車に噛合う外歯歯車と、外歯歯車の軸方向一側に設けられた第1キャリヤと、外歯歯車の軸方向他側に設けられた第2キャリヤと、ケーシングと第1キャリヤとの間に設けられた第1主軸受と、ケーシングと第2キャリヤとの間に設けられた第2主軸受と、を備える。外歯歯車の軸方向一方側への軸方向移動は、第1主軸受の内輪または外輪の一方である第1部材により規制され、外歯歯車の軸方向他方側への軸方向移動は、第2主軸受の内輪または外輪の一方である第2部材により規制され、第1部材と第2部材との間に存在する軸方向隙間の合計値は0.09mm以上である。
【0007】
本発明の別の態様は、潤滑剤の給脂方法である。この方法は、上述の偏心揺動型減速装置へ潤滑剤を給脂する方法であって、潤滑剤を吐出する装置から2.5MPa以下の吐出圧で潤滑剤を当該偏心揺動型減速装置の給脂口に吐出することを含む。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、構成部材の製造を容易にすることが可能な偏心揺動型減速装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の偏心揺動型減速装置を示す側面断面図である。
図2図1の偏心揺動型減速装置の第1主軸受および第2主軸受の周辺を示す拡大図である。
図3図1の偏心揺動型減速装置への潤滑剤の給脂方法を説明する説明図である。
図4】主軸受間の軸方向隙間の合計値と給脂量の関係を示すグラフである。
図5】第2実施形態の偏心揺動型減速装置を示す側面断面図である。
図6】第3実施形態の偏心揺動型減速装置を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態、比較例および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0012】
[第1実施形態]
以下、図面を参照して、第1実施形態に係る偏心揺動型減速装置10の構成について説明する。図1は、第1実施形態の偏心揺動型減速装置10を示す側面断面図である。本実施形態の偏心揺動型減速装置10は、内歯歯車と噛み合う外歯歯車を揺動させることで、内歯歯車及び外歯歯車の一方の自転を生じさせ、その生じた運動成分を出力部材から被駆動装置に出力する偏心揺動型歯車装置である。
【0013】
偏心揺動型減速装置10は、主に、入力軸12と、外歯歯車14と、内歯歯車16と、キャリヤ18、20と、ケーシング22と、主軸受24、26と、給脂口80と、を備える。以下、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。
【0014】
入力軸12は、駆動装置(不図示)から入力される回転動力によって回転中心線周りに回転させられる。本実施形態の偏心揺動型減速装置10は、入力軸12の回転中心線が内歯歯車16の中心軸線Laと同軸線上に設けられるセンタークランクタイプである。駆動装置は、たとえば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。
【0015】
本実施形態の入力軸12は、外歯歯車14を揺動させるための複数の偏心部12aを有するクランク軸である。偏心部12aの軸芯は、入力軸12の回転中心線に対して偏心している。本実施形態では2個の偏心部12aが設けられ、隣り合う偏心部12aの偏心位相は180°ずれている。
【0016】
外歯歯車14は、複数の偏心部12aのそれぞれに対応して個別に設けられる。外歯歯車14は、偏心軸受30を介して対応する偏心部12aに回転自在に支持される。外歯歯車14には、ピン部材32が貫通するピン孔14aが形成される。ピン部材32とピン孔14aの間には外歯歯車14の揺動成分を吸収するための遊びとなる隙間が設けられる。ピン部材32とピン孔14aの内壁面とは一部で接触する。
【0017】
内歯歯車16は、外歯歯車14と噛み合う。本実施形態の内歯歯車16は、ケーシング22の内周部に回転自在に支持されるとともに内歯歯車16の内歯を構成する複数の外ピン16aを有する。内歯歯車16の内歯数(外ピン16aの数)は、本実施形態において、外歯歯車14の外歯数より一つ多い。
【0018】
ケーシング22は、全体として筒状をなし、その内周部には内歯歯車16が設けられる。ケーシング22の外周部には円環状のフランジ部22aが設けられる。フランジ部22aは、内歯歯車16と外歯歯車14の噛み合い箇所に対して径方向外側に設けられる。フランジ部22aには、ねじ部材をねじ込み可能な雌ねじ孔22bが周方向に間を置いて形成される。
【0019】
キャリヤ18、20は、外歯歯車14の軸方向側部に配置される。キャリヤ18、20には、外歯歯車14の入力側の側部に配置される第1キャリヤ18と、外歯歯車14の反入力側の側部に配置される第2キャリヤ20とが含まれる。キャリヤ18、20は円盤状をなしており、入力軸軸受34を介して入力軸12を回転自在に支持する。
【0020】
第1キャリヤ18と第2キャリヤ20はピン部材32を介して連結される。ピン部材32は、外歯歯車14の軸芯から径方向にオフセットした位置において、複数の外歯歯車14を軸方向に貫通する。本実施形態のピン部材32は、第2キャリヤ20と同じ部材の一部として一体的に設けられるが、キャリヤ18、20と別体に設けられていてもよい。ピン部材32は、内歯歯車16の中心軸線La周りに間を置いて複数設けられる。
【0021】
本実施形態のピン部材32には、軸方向の端面に開口する雌ねじ穴32aが形成される。第1キャリヤ18には、第1キャリヤ18を挟んでピン部材32とは反対側からねじ部材36が挿通される段付きの挿通穴38が形成される。ピン部材32は、ねじ部材36を雌ねじ穴32aにねじ込むことで第1キャリヤ18に固定される。なお、本実施形態の第1キャリヤ18には、ピン部材32の先端部が差し込まれるピン穴40が形成される。
【0022】
被駆動装置に回転動力を出力する部材を出力部材とし、偏心揺動型減速装置10を支持するための外部部材に固定される部材を被固定部材とする。本実施形態の出力部材はケーシング22であり、被固定部材は第2キャリヤ20である。出力部材は、被固定部材に主軸受24、26を介して回転自在に支持される。
【0023】
図2は、主軸受24、26を周辺構造の一部とともに示す拡大図である。主軸受24、26には、第1キャリヤ18とケーシング22の間に配置される第1主軸受24と、第2キャリヤ20とケーシング22の間に配置される第2主軸受26とが含まれる。本実施形態において、一対の主軸受24、26は、いわゆる背面組み合わせの状態で配置される。
【0024】
本実施形態の主軸受24、26は、複数の転動体42と、リテーナ(不図示)を備える。複数の転動体42は、周方向に間を置いて設けられる。本実施形態の転動体42は球体である。リテーナは、複数の転動体42の相対位置を保持するとともに複数の転動体42を回転自在に支持する。
【0025】
本実施形態の主軸受24、26は、転動体42が転動する外側転動面が設けられる外輪48を備えるが、転動体42が転動する内側転動面が設けられる内輪を備えない。この代わりに、内側転動面はキャリヤ18、20の外周面に設けられる。外側転動面は転動体42の径方向外側に設けられ、内側転動面は転動体42の径方向内側に設けられる。外輪48は、締まり嵌め、中間嵌め等の嵌め合いにより、ケーシング22と一体化される。
【0026】
主軸受24、26には、予圧が付与されてもよい。予圧は、主には、主軸受24、26のモーメント剛性等の軸受特性の確保のために付与される。本実施形態では、主軸受24、26として、アンギュラ玉軸受を例示する。主軸受24、26は、この他にも、後述するテーパーローラ軸受、アンギュラコロ軸受等の転がり軸受であってもよい。
【0027】
(給脂口)
次に給脂口80について説明する。偏心揺動型減速装置10には、必要に応じて、外歯歯車14と内歯歯車16の噛合部やその内側にグリスなどの潤滑剤を補充することが望ましい。このため、偏心揺動型減速装置10には外部から潤滑剤を供給する給脂口80を備える。給脂口80は、偏心揺動型減速装置10の内部に潤滑剤を供給可能であれば、どこに配置されてもよい。本実施形態の給脂口80は、図2に示すように、フランジ部22aに設けられており、フランジ部22aの外周面からケーシング22の内周面まで径方向に貫通する通路として形成される。なお、図示はされていないが、偏心揺動型減速装置10には、排脂口も設けられている。
【0028】
潤滑剤の供給経路は短いことが望ましい。このため、本実施形態の給脂口80は、ケーシング22の外歯歯車14と対向する対向面22hに開口する。給脂口80が外歯歯車14と対向する位置に開口するから、潤滑剤の供給経路を短くできる。具体的には、給脂口80は、外ピン16aと外ピン16aの間に開口する。
【0029】
図3は、偏心揺動型減速装置10への潤滑剤の給脂方法を説明する説明図である。偏心揺動型減速装置10への給脂には潤滑剤を加圧して吐出口88bから吐出する吐出装置88を用いる。給脂口80には、図3に示すように、吐出装置88から所定の吐出圧で潤滑剤が吐出される。吐出口88bを給脂口80に連結する際、給脂口80の傷付きを減らすため、吐出口88bは、給脂口80より軟らかい材料(例えば樹脂など)で形成されることが望ましい。
【0030】
(軸方向隙間)
図2を参照する。本実施形態の外歯歯車14は、第1主軸受24と第2主軸受26との間において軸方向に移動可能に構成されている。外歯歯車14が過度に移動すると、外歯歯車14と偏心軸受30の接触幅が減少し、接触部での面圧が高くなり、早期損傷のおそれがある。このため、本実施形態では、第1主軸受24の外輪48によって外歯歯車14の入力側への軸方向移動が規制され、第2主軸受26の外輪48によって外歯歯車14の反入力側への軸方向移動が規制される。つまり、2枚の外歯歯車14は、第1主軸受24の外輪48と第2主軸受26の外輪48との間において軸方向に移動可能であり、これらの部材間に幾つかの軸方向隙間が形成される。
【0031】
本実施形態では、以下に定義する3つの隙間G1、G2、G3が形成される。第1主軸受24の外輪48と入力側の外歯歯車14のとの間の軸方向の隙間を隙間G1という。入力側の外歯歯車14と、反入力側の外歯歯車14との間の軸方向の隙間を隙間G2という。反入力側の外歯歯車14と、第2主軸受26の外輪48との間の軸方向の隙間を隙間G3という。つまり、第1主軸受24の外輪48と第2主軸受26の外輪48との間には、隙間G1、G2、G3の合計値Gtとして例示される軸方向隙間が存在する。なお、これらの隙間にワッシャなどの別部材を介在させる構成では、隙間の合計値Gtはこの別部材の軸方向の厚さ分だけ減少する。
【0032】
潤滑剤を供給する際、給脂口80から供給された潤滑剤は、第1主軸受24の外輪48と第2主軸受26の外輪48との間に存在する軸方向隙間を通って内部に浸透する。これらの軸方向隙間が小さ過ぎると、給脂口80から供給された潤滑剤の外歯歯車14の外側から径方向内側への移動が著しく阻害されることがある。この場合、給脂に時間がかかることがあり、作業性が著しく低下する。
【0033】
発明者らは、潤滑剤の供給を容易にする観点から、鋭意研究を重ねた結果、軸方向隙間の合計値Gtと単位時間当たりの給脂量Sgとの間に以下に説明する関係を見出した。図4は、吐出圧2.0MPaでグリスを給脂した場合の主軸受24、26間の軸方向隙間の合計値Gtと単位時間当たりの給脂量Sgとの関係を示すグラフである。図4において、横軸は軸方向隙間の合計値Gtを示し、縦軸は単位時間(1分)当たりの給脂量Sgを示す。図4における、各点は合計値Gtに対応する給脂量Sgをプロットしたものである。
【0034】
図4に示すように、軸方向隙間の合計値Gtが0.09mm未満の場合には、単位時間当たりの給脂量Sgは小さく、潤滑剤は殆ど内部に浸透しない。しかし、軸方向隙間の合計値Gtが0.09mm以上になると、単位時間当たりの給脂量Sgは大きくなり、潤滑剤は円滑に内部に浸透する。つまり、第1主軸受24の外輪48と第2主軸受26の外輪48との間に存在する軸方向隙間の合計値Gtを0.09mm以上とすることにより、潤滑剤の供給が容易になる。
【0035】
なお、図4では、軸方向隙間の合計値Gtが0.15mmを超える場合を示していないが、0.15mmを超えて合計値Gtを大きくしても単位時間当たりの給脂量Sgはあまり増加しない。また、軸方向隙間の合計値Gtを大きくしすぎると、外歯歯車14の軸方向の遊びが大きくなり回転精度が低下するおそれがある。発明者らは、検討を重ね、総隙間Gtが式(1)を満たす範囲では、隙間過大による問題は実用上で支障がないことを確認した。
式(1):Gt≦0.13mm+0.7×N mm
但し、Nは、第1主軸受24の外輪と第2主軸受26の外輪との間に存在する軸方向隙間の数である。本実施形態では、隙間の数はG1、G2、G3の3つであり、N=3である。なお、これらの軸方向隙間にワッシャなど別部材を介在させる場合では、軸方向隙間の数Nはその別部材の数だけ増える。
【0036】
特に、外歯歯車14と偏心軸受30の接触幅減少による早期損傷を抑制する観点から、軸方向隙間の合計値Gtを0.13mm以下にすることが好ましい。
【0037】
潤滑剤供給の作業時間を短縮するために、吐出装置88の吐出圧を高めることが考えられる。この場合、吐出装置88が大型化して消費電力が増えることが考えられる。また、吐出圧を過度に高めると、吐出口88bが膨張し、吐出口88bと給脂口80との間に隙間ができ、その隙間から潤滑剤が漏れるおそれがある。これらの観点から、発明者らは、潤滑剤を給脂する際における、潤滑剤を吐出する吐出装置からの吐出圧について検討を重ねた。その結果、2.5MPa以下の吐出圧で給脂口80に潤滑剤を吐出すれば、実用上問題ないことが確認された。
【0038】
以上のように構成された偏心揺動型減速装置10の動作を説明する。駆動装置から入力軸12に回転動力が伝達されると、入力軸12の偏心部12aが入力軸12を通る回転中心線周りに回転し、その偏心部12aにより外歯歯車14が揺動する。このとき、外歯歯車14は、自らの軸芯が入力軸12の回転中心線周りを回転するように揺動する。外歯歯車14が揺動すると、外歯歯車14と内歯歯車16の噛合位置が順次ずれる。この結果、入力軸12が一回転する毎に、外歯歯車14と内歯歯車16との歯数差に相当する分、外歯歯車14及び内歯歯車16の一方の自転が発生する。本実施形態においては、内歯歯車16が自転し、ケーシング22から減速回転が出力される。
【0039】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る偏心揺動型減速装置10の構成について説明する。第2実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。図5は、第2実施形態の偏心揺動型減速装置10を示す側面断面図であり、図1に対応する。第1実施形態が2個の外歯歯車14と2個の偏心部12aを備えるのに対して、第2実施形態の偏心揺動型減速装置10は、3個の外歯歯車14と3個の偏心部12aを備える点で相違し、他の構成は同じである。第2実施形態では3個の偏心部12aが設けられ、それぞれの偏心部12aの偏心位相は120°ずれている。
【0040】
図5に示すように、本実施形態では、軸方向において、第1主軸受24の外輪48と第2主軸受26の外輪48との間に、3枚の外歯歯車14が存在しており、これらの部材間に4つの隙間G1、G2、G3、G4が形成されうる。第1主軸受24の外輪48と第2主軸受26の外輪48との間には隙間G1、G2、G3、G4が存在し、これらの軸方向隙間の合計値Gtは0.09mm以上であって0.13mm以下に設定されている。また、本実施形態は、ケーシング22の外歯歯車14と対向する面に開口する給脂口80を有している。
【0041】
以上のように構成された第2実施形態に係る偏心揺動型減速装置10は、偏心揺動型減速装置10と同様に動作する。
【0042】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る偏心揺動型減速装置10の構成について説明する。第3実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。図6は、第3実施形態の偏心揺動型減速装置10を示す側面断面図であり、図1に対応する。
【0043】
第1実施形態はセンタークランクタイプの偏心揺動型歯車装置を例に説明した。本実施形態の偏心揺動型減速装置は、いわゆる振り分けタイプの偏心揺動型歯車装置である。本実施形態の偏心揺動型減速装置10は、第1実施形態と比べ、主には、複数の入力歯車70を備える点や、入力軸12、主軸受24、26の点で異なる。
【0044】
複数の入力歯車70は、内歯歯車16の中心軸線La周りに配置される。本図では一つの入力歯車70のみを示す。入力歯車70は、その中央部に挿通される入力軸12により支持され、入力軸12と一体的に回転可能に設けられる。入力歯車70は、内歯歯車16の中心軸線La上に設けられる回転軸(不図示)の外歯部と噛み合う。回転軸には、不図示の駆動装置から回転動力が伝達され、その回転軸の回転により入力歯車70が入力軸12と一体的に回転する。
【0045】
本実施形態の入力軸12は、内歯歯車16の中心軸線Laからオフセットした位置に周方向に間を置いて複数(例えば、3本)配置される。本図では一つの入力軸12のみを示す。
【0046】
本実施形態の主軸受24、26は、テーパーローラー軸受、つまり、ころ軸受である。本実施形態の転動体42は円錐状のころである。本実施形態のように主軸受24、26がころ軸受の場合、主軸受24、26は、通常、外側転動面が設けられる外輪48の他に、内側転動面が設けられる内輪72を備える。
【0047】
図6に示すように、本実施形態では、軸方向において、第1主軸受24の外輪48と第2主軸受26の外輪48との間に、2枚の外歯歯車14が存在しており、これらの部材間に3つの隙間G1、G2、G3が形成されうる。第1主軸受24の外輪48と第2主軸受26の外輪48との間には隙間G1、G2、G3が存在し、これらの軸方向隙間の合計値Gtは0.09mm以上であって0.13mm以下に設定されている。また、本実施形態は、ケーシング22の外歯歯車14と対向する面に開口する給脂口80を有している。
【0048】
以上の本実施形態の偏心揺動型減速装置10の動作を説明する。駆動装置から回転軸に回転動力が伝達されると、回転軸から複数の入力歯車70に回転動力が振り分けられ、各入力歯車70が同じ位相で回転する。各入力歯車70が回転すると、入力軸12の偏心部12aが入力軸12を通る回転中心線周りに回転し、その偏心部12aにより外歯歯車14が揺動する。外歯歯車14が揺動すると、第1実施形態と同様、外歯歯車14と内歯歯車16の噛合位置が順次ずれ、外歯歯車14及び内歯歯車16の一方の自転が発生する。入力軸12の回転は、外歯歯車14と内歯歯車16の歯数差に応じた減速比で減速されて、出力部材から被駆動装置に出力される。
【0049】
本発明の一態様の概要は、次の通りである。本発明のある態様の偏心揺動型減速装置10は、ケーシング22に設けられた内歯歯車16と、内歯歯車16に噛合う外歯歯車14と、外歯歯車14の軸方向一側に設けられた第1キャリヤ18と、外歯歯車14の軸方向他側に設けられた第2キャリヤ20と、ケーシング22と第1キャリヤ18との間に設けられた第1主軸受24と、ケーシング22と第2キャリヤ20との間に設けられた第2主軸受26と、を備える。外歯歯車14の軸方向一方側への軸方向移動は、第1主軸受24の内輪または外輪の一方である第1部材により規制され、外歯歯車14の軸方向他方側への軸方向移動は、第2主軸受26の内輪または外輪の一方である第2部材により規制され、第1部材と第2部材との間に存在する軸方向隙間の合計値Gtは0.09mm以上である。
【0050】
この態様によると、第1、第2主軸受により外歯歯車14の軸方向移動を規制しながら、軸方向隙間の合計値Gtが小さすぎる場合に比べて潤滑剤がスムーズに内部に浸透し、潤滑剤の供給が容易になる。したがって、キャリヤに外歯歯車の規制部を設ける必要がなく、キャリヤの形状を簡素化することができ、キャリヤの製造が容易になる。
【0051】
第1部材と第2部材との間に存在する軸方向隙間の数をNとするとき、軸方向隙間の合計値Gtは、式(1):Gt≦0.13mm+0.7×N mm、を満たしてもよい。この場合、軸方向隙間の合計値Gtが大きすぎる場合と比べて、外歯歯車14の軸方向の遊びを減らして回転精度の低下を抑制できる。
【0052】
軸方向隙間の合計値Gtは0.13mm以下であってもよい。この場合、外歯歯車14の軸方向の遊びをより低減して回転精度の低下を一層抑制できる。
【0053】
ケーシング22の外歯歯車14と対向する面に開口する給脂口80を有してもよい。この場合、給脂口80から外歯歯車14までの経路を短くでき、より円滑に潤滑剤を供給できる。
【0054】
本発明の別の態様は、潤滑剤の給脂方法である。この方法は、偏心揺動型減速装置10へ潤滑剤を給脂する方法であって、潤滑剤を吐出する吐出装置88から2.5MPa以下の吐出圧で潤滑剤を給脂口80に吐出することを含んでいる。この態様によると、吐出圧が大きい場合に比べて、吐出装置88の小型化および消費電力の抑制を図ることはできる。また、吐出装置88から給脂口80までの給脂経路における潤滑剤のシール構造を簡素化できる。
【0055】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0056】
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0057】
第1実施形態では、第1主軸受24および第2主軸受26が内輪を有しない例を説明したが、本発明はこれに限られない。第1主軸受24と第2主軸受26との少なくとも一方は、内輪を有する軸受であってもよい。
【0058】
第1実施形態では、第1主軸受24および第2主軸受26それぞれの外輪48によって外歯歯車14の軸方向移動が規制される例を説明したが、本発明はこれに限られない。主軸受の内輪によって外歯歯車14の軸方向移動が規制されてもよい。この場合、第1主軸受24の内輪と第2主軸受26の内輪との間に存在する軸方向隙間の合計値Gtが0.09mm以上に設定される。
【0059】
実施形態の出力部材はケーシング22であり、外部部材にはキャリヤ18、20が固定される例を説明した。この他にも、出力部材はキャリヤ18、20であり、外部部材にはケーシング22が固定されてもよい。
【0060】
ケーシング22のフランジ部22aの外周面に給脂口80の開口を設ける例を説明したが、給脂口80はケーシング22のフランジ部22aを避けた位置に設けられてもよい。また、給脂口80は、ケーシング以外の部分、例えばキャリヤに設けられてもよい。
【0061】
上述の各変形例は第1実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0062】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0063】
10・・偏心揺動型減速装置、 12・・入力軸、 14・・外歯歯車、 16・・内歯歯車、 18・・第1キャリヤ、 20・・第2キャリヤ、 22・・ケーシング、 24・・第1主軸受、 26・・第2主軸受、 30・・偏心軸受、 32・・ピン部材、 34・・入力軸軸受、 36・・ねじ部材、 38・・挿通穴、 40・・ピン穴、 42・・転動体、 48・・外輪、 70・・入力歯車、 72・・内輪、 80・・給脂口、 88・・吐出装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6