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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】舶用SCRシステム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20221223BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
F01N3/08 B ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 400
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018191221
(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公開番号】P2020060126
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】303047034
【氏名又は名称】株式会社ジャパンエンジンコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和久
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-180157(JP,A)
【文献】特開2004-330191(JP,A)
【文献】特開昭57-070909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
舶用ディーゼルエンジンから排出された排ガスに、前記排ガス中の窒素酸化物を低減するための還元剤を噴射する第1の噴射ノズルと、
前記排ガスに、前記第1の噴射ノズルよりも多量の前記還元剤を噴射する第2の噴射ノズルと、
前記排ガスに噴射される前記還元剤の流量を調整し、流量調整後の前記還元剤を前記第1の噴射ノズルまたは前記第2の噴射ノズルに供給する還元剤供給系統と、
前記還元剤が噴射された前記排ガスと接触して前記窒素酸化物の還元反応を行わせる触媒層を有する反応器と、
第1の排ガス規制の規制値以下に前記窒素酸化物の排出量を低減する第1の運転モードと、前記第1の排ガス規制よりも低い第2の排ガス規制の規制値以下に前記窒素酸化物の排出量を低減する第2の運転モードとを切換可能に指示する操作部と、
前記第1の運転モードが指示された場合、前記還元剤を、前記第1の排ガス規制を満たすために必要な第1の流量に調整して前記第1の噴射ノズルに供給するように、前記還元剤供給系統を制御し、前記第2の運転モードが指示された場合、前記還元剤を、前記第2の排ガス規制を満たすために必要であって前記第1の流量よりも多い第2の流量に調整して前記第2の噴射ノズルに供給するように、前記還元剤供給系統を制御する制御部と、
を備え
前記還元剤供給系統は、
前記第1の噴射ノズルから前記排ガスに噴射される前記還元剤の流量を調整する第1の制御弁と、
前記第1の制御弁よりも広い流量調整範囲を有し、前記第2の噴射ノズルから前記排ガスに噴射される前記還元剤の流量を調整する第2の制御弁と、
を備え、
前記第2の制御弁の流量調整単位は、前記第1の制御弁よりも大きい、
ことを特徴とする舶用SCRシステム。
【請求項2】
前記第1の噴射ノズルまたは前記第2の噴射ノズルに圧縮空気を供給する圧縮空気供給系統を備え、
前記制御部は、前記第1の運転モードが指示された場合、所定の流量または圧力の前記圧縮空気を前記第1の噴射ノズルに供給するように前記圧縮空気供給系統を制御し、前記第2の運転モードが指示された場合、前記所定の流量または圧力よりも多い流量または高圧の前記圧縮空気を前記第2の噴射ノズルに供給するように前記圧縮空気供給系統を制御する、
ことを特徴とする請求項に記載の舶用SCRシステム。
【請求項3】
前記反応器は、前記反応器における前記排ガスの入側から出側に向かって、複数段の前記触媒層を有する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の舶用SCRシステム。
【請求項4】
前記反応器内に設けられた複数段の前記触媒層のうち、前記反応器における前記排ガスの入側から1段目の前記触媒層に、前記第2の噴射ノズルから噴射された前記還元剤を含む状態の前記排ガスまたは前記還元剤を含まない状態の前記排ガスを導入する導入管と、
1段目の前記触媒層の後段に位置する2段目以降の前記触媒層に、前記第1の噴射ノズルから噴射された前記還元剤を含む状態の前記排ガスを散布する散布管と、
前記導入管と前記散布管とに連通し、前記反応器に向けて前記排ガスを流通させる排ガス流通系統と、
を備え、
前記制御部は、前記第1の運転モードが指示された場合、前記還元剤を含まない状態の前記排ガスを前記導入管内に流通させるとともに、前記第1の噴射ノズルから噴射された前記還元剤を含む状態の前記排ガスを前記散布管内に流通させるように、前記排ガス流通系統を制御し、前記第2の運転モードが指示された場合、前記第2の噴射ノズルから噴射された前記還元剤を含む状態の前記排ガスを前記導入管内に流通させるように、前記排ガス流通系統を制御する、
ことを特徴とする請求項に記載の舶用SCRシステム。
【請求項5】
前記第1の噴射ノズルを有し、前記第1の噴射ノズルから噴射された前記還元剤と前記排ガスとを混合する第1の混合器と、
前記第2の噴射ノズルを有し、前記第2の噴射ノズルから噴射された前記還元剤と前記排ガスとを混合する第2の混合器と、
を備えることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の舶用SCRシステム。
【請求項6】
前記第1の噴射ノズルと前記第2の噴射ノズルとを有し、前記第1の噴射ノズルまたは前記第2の噴射ノズルから噴射された前記還元剤と前記排ガスとを混合する混合器を備える、
ことを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の舶用SCRシステム。
【請求項7】
前記第1の噴射ノズルは、前記混合器における前記排ガスの入側から出側に向かう方向について、前記第2の噴射ノズルの後段に配置される、
ことを特徴とする請求項に記載の舶用SCRシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舶用ディーゼルエンジンに設けられる選択式触媒還元(SCR:Selective Catalytic Reduction)システム、すなわち舶用SCRシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶に搭載される舶用ディーゼルエンジンの分野においては、舶用ディーゼルエンジンから排出される排ガス中の窒素酸化物(NOx)を低減する脱硝技術として、舶用SCRシステムが提案されている(例えば特許文献1、2参照)。一般に、舶用SCRシステムは、NOxを還元する作用を有する還元剤と舶用ディーゼルエンジンからの排ガスとを混合し、この排ガス中のNOxの還元反応により、NOxの排出量を低減する。
【0003】
また、舶用ディーゼルエンジンに要求される排ガス規制には、国際海事機関の海洋汚染防止条約附属書VIに基づいて、1次規制(Tier I)、2次規制(Tier II)および3次規制(Tier III)がある。1次規制および2次規制は、一般海域(Global Area)を航行する船舶に搭載される舶用ディーゼルエンジンのNOxの排出量を規制するものである。3次規制は、2次規制に比べ極めて強化された排ガス規制であり、排出規制海域(ECA:Emission Control Area)を航行する船舶に搭載される舶用ディーゼルエンジンのNOxの排出量を規制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2017-506716号公報
【文献】特開2015-72015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、2次規制におけるNOxの排出量の規制値は、1次規制に比べて、例えば15%以上22%以下に削減されている。これらの1次規制および2次規制は、舶用ディーゼルエンジンに対してシリンダ内の燃焼室での燃料の燃焼を緩慢にする等のチューニングを行うことにより、満足し得るレベルである。一方、3次規制におけるNOxの排出量の規制値は、1次規制に比べて、例えば80%以上に削減されている。このような3次規制は、舶用ディーゼルエンジンのチューニングのみでは満足することが困難なレベルである。このため、舶用ディーゼルエンジンには、3次規制を満足すべく、排ガス中に含まれるNOxの80%以上を削減(脱硝)する能力を持つ舶用SCRシステムが適用されている。
【0006】
また、近年では、上述したNOxの排出規制を満足するとともに、舶用ディーゼルエンジンの燃費(以下、エンジン燃費と適宜略記する)を向上させることが要望されている。一般に、エンジン燃費の向上(低減)を追求した場合、これに伴って、NOxの排出量は増加する傾向にある。
【0007】
例えば、舶用ディーゼルエンジンのチューニングでは、NOxの排出量を2次規制の規制値以下に低減できたとしても、エンジン燃費は悪化してしまい、エンジン燃費を向上させたとしても、NOxの排出量が規制値を超えてしまう。すなわち、舶用ディーゼルエンジンのチューニングでは、エンジン燃費の向上に限界がある。一方、舶用SCRシステムを、3次規制の海域(排出規制海域)のみならず、2次規制の海域(一般海域)においても使用すれば、エンジン燃費の向上に伴ってNOxの排出量が増加しても、この増加したNOxの排出量を舶用SCRシステムによって2次規制の規制値以下に低減することが期待できる。
【0008】
しかしながら、舶用SCRシステムは、元来、3次規制を満足すべくNOxの排出量を低減するように最適化されている。このため、舶用SCRシステムは、2次規制を満足するために使用するには過大であり、例えば、2次規制に対してNOxの排出量を過度に低減する等の無駄が多く、NOxの排出量を効率よく低減することが困難な恐れがある。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、エンジン燃費の向上を追求するとともに、舶用ディーゼルエンジンに要求される複数の排ガス規制についてNOxの排出量を効率よく低減することができる舶用SCRシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る舶用SCRシステムは、舶用ディーゼルエンジンから排出された排ガスに、前記排ガス中の窒素酸化物を低減するための還元剤を噴射する第1の噴射ノズルと、前記排ガスに、前記第1の噴射ノズルよりも多量の前記還元剤を噴射する第2の噴射ノズルと、前記排ガスに噴射される前記還元剤の流量を調整し、流量調整後の前記還元剤を前記第1の噴射ノズルまたは前記第2の噴射ノズルに供給する還元剤供給系統と、前記還元剤が噴射された前記排ガスと接触して前記窒素酸化物の還元反応を行わせる触媒層を有する反応器と、第1の排ガス規制の規制値以下に前記窒素酸化物の排出量を低減する第1の運転モードと、前記第1の排ガス規制よりも低い第2の排ガス規制の規制値以下に前記窒素酸化物の排出量を低減する第2の運転モードとを切換可能に指示する操作部と、前記第1の運転モードが指示された場合、前記還元剤を、前記第1の排ガス規制を満たすために必要な第1の流量に調整して前記第1の噴射ノズルに供給するように、前記還元剤供給系統を制御し、前記第2の運転モードが指示された場合、前記還元剤を、前記第2の排ガス規制を満たすために必要であって前記第1の流量よりも多い第2の流量に調整して前記第2の噴射ノズルに供給するように、前記還元剤供給系統を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る舶用SCRシステムは、上記の発明において、前記還元剤供給系統は、前記第1の噴射ノズルから前記排ガスに噴射される前記還元剤の流量を調整する第1の制御弁と、前記第1の制御弁よりも広い流量調整範囲を有し、前記第2の噴射ノズルから前記排ガスに噴射される前記還元剤の流量を調整する第2の制御弁と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る舶用SCRシステムは、上記の発明において、前記第1の噴射ノズルまたは前記第2の噴射ノズルに圧縮空気を供給する圧縮空気供給系統を備え、前記制御部は、前記第1の運転モードが指示された場合、所定の流量または圧力の前記圧縮空気を前記第1の噴射ノズルに供給するように前記圧縮空気供給系統を制御し、前記第2の運転モードが指示された場合、前記所定の流量または圧力よりも多い流量または高圧の前記圧縮空気を前記第2の噴射ノズルに供給するように前記圧縮空気供給系統を制御する、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る舶用SCRシステムは、上記の発明において、前記反応器は、前記反応器における前記排ガスの入側から出側に向かって、複数段の前記触媒層を有する、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る舶用SCRシステムは、上記の発明において、前記反応器内に設けられた複数段の前記触媒層のうち、前記反応器における前記排ガスの入側から1段目の前記触媒層に、前記第2の噴射ノズルから噴射された前記還元剤を含む状態の前記排ガスまたは前記還元剤を含まない状態の前記排ガスを導入する導入管と、1段目の前記触媒層の後段に位置する2段目以降の前記触媒層に、前記第1の噴射ノズルから噴射された前記還元剤を含む状態の前記排ガスを散布する散布管と、前記導入管と前記散布管とに連通し、前記反応器に向けて前記排ガスを流通させる排ガス流通系統と、を備え、前記制御部は、前記第1の運転モードが指示された場合、前記還元剤を含まない状態の前記排ガスを前記導入管内に流通させるとともに、前記第1の噴射ノズルから噴射された前記還元剤を含む状態の前記排ガスを前記散布管内に流通させるように、前記排ガス流通系統を制御し、前記第2の運転モードが指示された場合、前記第2の噴射ノズルから噴射された前記還元剤を含む状態の前記排ガスを前記導入管内に流通させるように、前記排ガス流通系統を制御する、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る舶用SCRシステムは、上記の発明において、前記第1の噴射ノズルを有し、前記第1の噴射ノズルから噴射された前記還元剤と前記排ガスとを混合する第1の混合器と、前記第2の噴射ノズルを有し、前記第2の噴射ノズルから噴射された前記還元剤と前記排ガスとを混合する第2の混合器と、を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る舶用SCRシステムは、上記の発明において、前記第1の噴射ノズルと前記第2の噴射ノズルとを有し、前記第1の噴射ノズルまたは前記第2の噴射ノズルから噴射された前記還元剤と前記排ガスとを混合する混合器を備える、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る舶用SCRシステムは、上記の発明において、前記第1の噴射ノズルは、前記混合器における前記排ガスの入側から出側に向かう方向について、前記第2の噴射ノズルの後段に配置される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る舶用SCRシステムよれば、エンジン燃費の向上を追求するとともに、舶用ディーゼルエンジンに要求される複数の排ガス規制についてNOxの排出量を効率よく低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の実施形態1に係る舶用SCRシステム一構成例を示す模式図である。
図2図2は、本発明の実施形態1に係る舶用SCRシステムの動作を運転モード別に説明するための図である。
図3図3は、本発明の実施形態2に係る舶用SCRシステム一構成例を示す模式図である。
図4図4は、本発明の実施形態2に係る舶用SCRシステムの動作を運転モード別に説明するための図である。
図5図5は、本発明の実施形態3に係る舶用SCRシステム一構成例を示す模式図である。
図6図6は、本発明の実施形態3に係る舶用SCRシステムの動作を運転モード別に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る舶用SCRシステムの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態により、本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、各図面において、同一構成部分には同一符号が付されている。
【0021】
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係る舶用SCRシステムの構成について説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る舶用SCRシステム一構成例を示す模式図である。本実施形態1に係る舶用SCRシステム10は、船舶に搭載される舶用ディーゼルエンジン100からの排ガス中のNOxを低減するものであり、図1に示すように、小噴射ノズル1、大噴射ノズル2と、排ガス流通系統3と、還元剤供給系統4と、圧縮空気供給系統5と、SCR反応器6と、操作部8と、制御部9とを備える。
【0022】
なお、図1において、排ガスまたは還元剤等の流体の配管は、実線矢印によって図示されている。電気信号線は、一点鎖線によって図示される。このことは、他の図面においても同様である。また、排ガスといえば、特に説明がない限り、舶用ディーゼルエンジン100から排出された排ガスを意味する。
【0023】
小噴射ノズル1および大噴射ノズル2は、各々、舶用ディーゼルエンジン100から排出された排ガスに、この排ガス中のNOxを低減するための還元剤を噴射するための噴射ノズルである。小噴射ノズル1(第1の噴射ノズルの一例)は、排ガス中のNOxの排出量を規制する第1の排ガス規制を満たすために排ガスに還元剤を噴射する噴射ノズルとして、最適に設定されている。具体的には、本実施形態1において、小噴射ノズル1は、大噴射ノズル2よりも少量の還元剤を排ガスに噴射し得るように構成される。一方、大噴射ノズル2(第2の噴射ノズルの一例)は、上記第1の排ガス規制よりも排ガス中のNOxの排出量を強く規制する第2の排ガス規制を満たすために排ガスに還元剤を噴射する噴射ノズルとして、最適に設定されている。具体的には、本実施形態1において、大噴射ノズル2は、小噴射ノズル1よりも多量の還元剤を排ガスに噴射し得るように構成される。例えば、大噴射ノズル2は、小噴射ノズル1よりも大口径のノズルによって構成される。
【0024】
なお、上記第1の排ガス規制としては、例えば、一般海域を航行する船舶に適用される排ガス規制(2次規制等)が挙げられる。上記第2の排ガス規制としては、例えば、排出規制海域を航行する船舶に適用される排ガス規制(3次規制等)が挙げられる。
【0025】
排ガス流通系統3は、舶用ディーゼルエンジン100からの排ガスを流通させるものである。図1に示すように、排ガス流通系統3は、混合器3aと、排気管11aと、導入管11bと、出口管11cと、バイパス管12と、バイパス弁13とを備える。
【0026】
混合器3aは、小噴射ノズル1または大噴射ノズル2から噴射された還元剤と舶用ディーゼルエンジン100からの排ガスとを混合するものである。本実施形態1において、図1に示すように、混合器3aには、排ガスの入側に排気管11aが接続され、排ガスの出側に導入管11bが接続されている。また、混合器3aは、小噴射ノズル1および大噴射ノズル2を内部に有する。例えば、小噴射ノズル1は、混合器3aにおける排ガスの入側から出側に向かう方向について、大噴射ノズル2の後段に配置される。混合器3aは、排気管11aから流入された排ガスと小噴射ノズル1または大噴射ノズル2から噴射された還元剤とを混合しながら、この還元剤を含む状態の排ガスを、SCR反応器6に向けて導入管11b内に流通させる。
【0027】
排気管11aは、舶用ディーゼルエンジン100から排出された排ガスを混合器3aに向けて流通させるための配管である。排気管11aは、入口端が舶用ディーゼルエンジン100に通じるように構成されている。排気管11aの出口端は、混合器3aの入側端に接続されている。舶用ディーゼルエンジン100から排気管11aを介して混合器3aに流入する排ガスとして、例えば、舶用ディーゼルエンジン100の排気マニホールド(図示せず)から排出された排ガス(高圧状態の排ガス)、舶用ディーゼルエンジン100の過給機タービン(図示せず)の回転に用いられた排ガス(低圧状態の排ガス)等が挙げられる。
【0028】
導入管11bは、還元剤が噴射された排ガスをSCR反応器6に導入するための配管である。図1に示すように、導入管11bは、入口端が混合器3aの出側に接続され且つ出口端がSCR反応器6の入側端に接続されている。導入管11bは、小噴射ノズル1または大噴射ノズル2から噴射された還元剤を含む状態の排ガスを混合器3aの出側からSCR反応器6の入側に導入する。
【0029】
出口管11cは、NOxが低減された排ガスをSCR反応器6から排出するための配管である。図1に示すように、出口管11cの入口端は、SCR反応器6の出側端に接続されている。また、出口管11cは、出口端が船舶の煙突、またはボイラ等の廃熱回収装置(いずれも図示せず)に通じるように構成されている。出口管11cは、SCR反応器6によってNOxが低減された排ガスを煙突または廃熱回収装置に向けて流通させる。
【0030】
バイパス管12は、圧損が生じているSCR反応器6を迂回して排ガスを煙突側または廃熱回収装置側(以下、これらを総称して「排出・回収側」と適宜いう)へ流通させるための配管である。図1に示すように、バイパス管12は、入口端が排気管11aの中途部に接続され且つ出口端が出口管11cの中途部に接続されている。また、図1に示すように、バイパス管12には、バイパス弁13が設けられている。バイパス弁13は、バイパス管12を開放または閉塞する駆動弁である。バイパス弁13がバイパス管12を開放している場合、バイパス管12は、排気管11aからSCR反応器6等(本実施形態1では混合器3aおよびSCR反応器6)を迂回して出口管11cに排ガスを流通させる。一方、バイパス弁13がバイパス管12を閉塞している場合、バイパス管12は、上記SCR反応器6等を迂回しての排ガスの流通を停止させる。
【0031】
還元剤供給系統4は、排ガスに噴射される還元剤の流量を調整し、流量調整後の還元剤を小噴射ノズル1または大噴射ノズル2に供給するものである。図1に示すように、還元剤供給系統4は、還元剤供給源4aと、小制御弁4bと、大制御弁4cと、流量センサ4dと、開閉弁4e、4fと、供給管14a、14d、14gとを備える。
【0032】
還元剤供給源4aは、特に図示しないが、還元剤を貯蔵するタンク、タンクから還元剤を圧送するポンプ、および還元剤の圧力を調整する圧力調整ユニット等によって構成される。還元剤供給源4aは、液状の還元剤を所定の圧力に調整して、小噴射ノズル1側または大噴射ノズル2側に供給する。なお、還元剤供給源4aから供給される還元剤として、例えば、尿素水、アンモニア水等が挙げられる。
【0033】
小制御弁4bおよび大制御弁4cは、小噴射ノズル1または大噴射ノズル2から排ガスに噴射される還元剤の流量を調整するための制御弁である。小制御弁4b(第1の制御弁の一例)は、上記第1の排ガス規制を満たすために排ガスに噴射される還元剤の流量(噴射量)を調整する制御弁として、最適に設定されている。具体的には、小制御弁4bは、大制御弁4cよりも狭い流量調整範囲を有する制御弁によって構成され、小制御弁4bの流量調整単位は、大制御弁4cよりも小さい。一方、大制御弁4c(第2の制御弁の一例)は、上記第2の排ガス規制を満たすために排ガスに噴射される還元剤の流量を調整する制御弁として、最適に設定されている。具体的には、大制御弁4cは、小制御弁4bよりも広い流量調整範囲を有する制御弁によって構成され、大制御弁4cの流量調整単位は、小制御弁4bよりも大きい。本実施形態1において、小制御弁4bは、小噴射ノズル1から排ガスに噴射される還元剤の流量を調整する。大制御弁4cは、大噴射ノズル2から排ガスに噴射される還元剤の流量を調整する。
【0034】
流量センサ4dは、小噴射ノズル1または大噴射ノズル2から排ガスに噴射される還元剤の流量を検出するためのセンサである。図1に示すように、流量センサ4dは、小制御弁4bおよび大制御弁4cの後段に配置される。本実施形態1において、流量センサ4dは、小制御弁4bまたは大制御弁4cによって調整された還元剤の流量を検出し、その都度、還元剤の流量検出結果を示す電気信号(以下、還元剤流量検出信号と適宜いう)を制御部9に送信する。
【0035】
供給管14aは、還元剤供給源4aと小制御弁4bおよび大制御弁4cとを連通する配管である。図1に示すように、供給管14aの入口端は、還元剤供給源4aに接続されている。また、供給管14aは、入口端から出口端に向かって2つの分岐管14b、14cに分岐するように構成される。供給管14aの一方の分岐管14bは、小制御弁4bの入側端に接続されている。供給管14aの他方の分岐管14cは、大制御弁4cの入側端に接続されている。
【0036】
また、供給管14dは、小制御弁4bおよび大制御弁4cと流量センサ4dとを連通する配管である。図1に示すように、供給管14dの出口端は、流量センサ4dの入側端に接続されている。また、供給管14dは、出口端から入口端に向かって2つの分岐管14e、14fに分岐するように構成される。供給管14dの一方の分岐管14eは、小制御弁4bの出側端に接続されている。供給管14aの他方の分岐管14fは、大制御弁4cの出側端に接続されている。
【0037】
また、供給管14gは、流量センサ4dと小噴射ノズル1および大噴射ノズル2とを連通する配管である。図1に示すように、供給管14gの入口端は、流量センサ4dの出側端に接続されている。また、供給管14gは、入口端から出口端に向かって2つの分岐管14h、14iに分岐するように構成される。供給管14gの一方の分岐管14hは、小噴射ノズル1に接続されている。供給管14gの他方の分岐管14iは、大噴射ノズル2に接続されている。
【0038】
この供給管14gの各分岐管14h、14iには、図1に示すように、開閉弁4e、4fが各々設けられている。開閉弁4eは、小噴射ノズル1に通じる分岐管14hを開放または閉塞する駆動弁である。開閉弁4fは、大噴射ノズル2に通じる分岐管14iを開放または閉塞する駆動弁である。小噴射ノズル1から排ガスに還元剤が噴射される場合、開閉弁4eは分岐管14hを開放し且つ開閉弁4fは分岐管14iを閉塞する。大噴射ノズル2から排ガスに還元剤が噴射される場合、開閉弁4eは分岐管14hを閉塞し且つ開閉弁4fは分岐管14iを開放する。
【0039】
圧縮空気供給系統5は、小噴射ノズル1または大噴射ノズル2に圧縮空気を供給するものである。図1に示すように、圧縮空気供給系統5は、圧縮空気供給源5aと、開閉弁5b、5cと、給気管15aとを備える。
【0040】
圧縮空気供給源5aは、エアーボンベ等によって構成される。圧縮空気供給源5aは、排ガスに還元剤を噴射(詳細には噴霧)するための圧縮空気を、給気管15aを介して小噴射ノズル1または大噴射ノズル2に供給する。
【0041】
給気管15aは、圧縮空気供給源5aと小噴射ノズル1および大噴射ノズル2とを連通する配管である。図1に示すように、給気管15aの入口端は、圧縮空気供給源5aの出側端に接続されている。また、給気管15aは、入口端から出口端に向かって2つの分岐管15b、15cに分岐するように構成される。給気管15aの一方の分岐管15bは、小噴射ノズル1に接続されている。給気管15aの他方の分岐管15cは、大噴射ノズル2に接続されている。
【0042】
また、給気管15aの各分岐管15b、15cには、図1に示すように、オリフィス部15d、15eが各々設けられている。オリフィス部15d、15eは、各分岐管15b、15c内の圧縮空気の流量または圧力を調整するものである。オリフィス部15dは、上記第1の排ガス規制を満たすべく排ガスに還元剤を噴射するための圧縮空気の流量または圧力を調整するものとして、最適に設定されている。オリフィス部15eは、上記第2の排ガス規制を満たすべく排ガスに還元剤を噴射するための圧縮空気の流量または圧力を調整するものとして、最適に設定されている。詳細には、小噴射ノズル1に通じる分岐管15bのオリフィス部15dは、大噴射ノズル2に通じる分岐管15cのオリフィス部15eよりも開口が狭くなるように構成される。すなわち、開口が狭いオリフィス部15dが設けられた分岐管15b内の圧縮空気の流量または圧力は、開口が広いオリフィス部15eが設けられた分岐管15c内の圧縮空気の流量または圧力よりも少量に調整される。なお、オリフィス部15d、15eは、減圧弁であってもよい。
【0043】
また、この給気管15aの各分岐管15b、15cには、図1に示すように、開閉弁5b、5cが各々設けられている。開閉弁5bは、小噴射ノズル1に通じる分岐管15bを開放または閉塞する駆動弁である。開閉弁5cは、大噴射ノズル2に通じる分岐管15cを開放または閉塞する駆動弁である。還元剤を噴射するための圧縮空気が小噴射ノズル1に供給される場合、開閉弁5bは分岐管15bを開放し且つ開閉弁5cは分岐管15cを閉塞する。還元剤を噴射するための圧縮空気が大噴射ノズル2に供給される場合、開閉弁5bは分岐管15bを閉塞し且つ開閉弁5cは分岐管15cを開放する。
【0044】
SCR反応器6は、排ガス中のNOxの還元反応によって当該NOxを低減(脱硝)するための反応器である。図1に示すように、SCR反応器6は、還元剤が噴射された排ガスと接触してNOxの還元反応を行わせる触媒層の一例として、複数段(本実施形態1では3段)の触媒層6a、6b、6cを有する。また、SCR反応器6には、排ガスの入側に導入管11bが接続され、排ガスの出側に出口管11cが接続されている。触媒層6a、6b、6cは、SCR反応器6における排ガスの入側から出側に向かい、互いに離間した状態でSCR反応器6の内部に配置されている。本実施形態1において、触媒層6aは、SCR反応器6における排ガスの入側(導入管11b側)から1段目の触媒層である。触媒層6bは、この触媒層6aの後段に位置する2段目の触媒層である。触媒層6cは、この触媒層6bの後段に位置する3段目(図1では最後段)の触媒層である。
【0045】
また、図1に示すように、SCR反応器6には、差圧計7が設けられる。差圧計7は、SCR反応器6における排ガスの入側の内部圧力と出側の内部圧力との差圧を計測する。差圧計7は、時系列に沿って連続的または断続的に当該差圧を測定し、その都度、差圧の計測結果を示す電気信号(以下、差圧計測信号と適宜いう)を制御部9に送信する。この差圧計7は、予め設定された規定値以上の圧損がSCR反応器6に発生したか否かを判断するために用いられる。なお、SCR反応器6の圧損は、SCR反応器6における上記入側の内部圧力(例えば1段目の触媒層6aの前段における内部圧力)が、触媒層6a、6b、6c(特に触媒層6a)の目詰まり等に起因して、上記出側の内部圧力に比べて大きくなる現象である。特に、SCR反応器6の圧損が規定値以上(例えば上記差圧が規定値以上)である場合、SCR反応器6における上記入側の内部圧力が上記出側の内部圧力に比べて過大である。
【0046】
操作部8は、舶用SCRシステム10の運転モードを操作するためのものである。本実施形態1において、操作部8は、舶用SCRシステム10の運転モードを低脱硝SCR運転モード(第1の運転モードの一例)と高脱硝SCR運転モード(第2の運転モードの一例)とに切換操作できるように構成される。操作部8は、操作者の操作に応じて、運転モードの指示信号を制御部9に送信する。これにより、操作部8は、制御部9に対し、舶用SCRシステム10の低脱硝SCR運転モードと高脱硝SCR運転モードとを切換可能に指示する。
【0047】
ここで、低脱硝SCR運転モードは、第1の排ガス規制の規制値以下に排ガス中のNOxの排出量を低減するための運転モードである。高脱硝SCR運転モードは、上記第1の排ガス規制よりも低い第2の排ガス規制の規制値以下に排ガス中のNOxの排出量を低減するための運転モードである。
【0048】
制御部9は、排ガス中のNOxを低減するための排ガス流通系統3、還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5の各動作を、舶用SCRシステム10の運転モード別に制御する。詳細には、低脱硝SCR運転モードが指示された場合、制御部9は、第1の排ガス規制を満たすために必要な第1の流量に還元剤を調整して小噴射ノズル1に供給するように、還元剤供給系統4を制御する。高脱硝SCR運転モードが指示された場合、制御部9は、第2の排ガス規制を満たすために必要であって上記第1の流量よりも多い第2の流量に還元剤を調整して大噴射ノズル2に供給するように、還元剤供給系統4を制御する。また、低脱硝SCR運転モードが指示された場合、制御部9は、所定の流量または圧力の圧縮空気を小噴射ノズル1に供給するように、圧縮空気供給系統5を制御する。高脱硝SCR運転モードが指示された場合、制御部9は、上記所定の流量よりも多い流量または上記所定の圧力よりも高圧の圧縮空気を大噴射ノズル2に供給するように、圧縮空気供給系統5を制御する。
【0049】
また、制御部9は、舶用SCRシステム10の運転モードによらず、差圧計7からの差圧計測信号をもとに、SCR反応器6の圧損の程度を判断する。SCR反応器6の圧損が規定値未満である場合、制御部9は、噴射された還元剤を含む排ガスがSCR反応器6内を流通するように排ガス流通系統3を制御する。この場合、制御部9は、バイパス弁13を閉塞するように制御する。SCR反応器6に規定値以上の圧損が発生した場合、制御部9は、排ガスがSCR反応器6を迂回して流通するように排ガス流通系統3を制御する。この場合、制御部9は、バイパス弁13を開放するように制御する。これにより、舶用ディーゼルエンジン100から排出された排ガスは、バイパス管12内を通って出口管11c内に流入するようになる。
【0050】
つぎに、本発明の実施形態1に係る舶用SCRシステム10の動作について説明する。図2は、本発明の実施形態1に係る舶用SCRシステムの動作を運転モード別に説明するための図である。以下では、第1の排ガス規制として一般海域の排ガス規制(2次規制)を例示し、第2の排ガス規制として排出規制海域の排ガス規制(3次規制)を例示して、図1、2を参照しつつ、舶用SCRシステム10の動作を運転モード別に説明する。
【0051】
一般海域において、舶用SCRシステム10は、舶用ディーゼルエンジン100から排出された排ガス中のNOxの排出量を2次規制の規制値以下に低減する。この場合、舶用SCRシステム10は、低脱硝SCR運転モードで排ガス中のNOxの脱硝を行う。
【0052】
詳細には、操作部8は、操作者の操作に応じて、低脱硝SCR運転モードを指示する指示信号を制御部9に送信し、これにより、低脱硝SCR運転モードを制御部9に指示する。低脱硝SCR運転モードが指示された場合、制御部9は、NOxの排出量を2次規制の規制値以下に低減するために必要な流量(すなわち第1の流量)の還元剤が小噴射ノズル1から排ガスに噴射されるように、排ガス流通系統3、還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5を制御する。
【0053】
例えば、低脱硝SCR運転モードにおいて、制御部9は、還元剤供給系統4に対し、以下のような制御を行う。すなわち、制御部9は、所定の圧力の還元剤を送出するように還元剤供給源4aを制御する。また、制御部9は、大噴射ノズル2から噴射される還元剤の流量を調整するための大制御弁4cと、大噴射ノズル2に通じる供給管14gの分岐管14iの開閉弁4fとを閉塞するように制御する。一方、制御部9は、小噴射ノズル1に通じる供給管14gの分岐管14hの開閉弁4eを開放するように制御する。また、制御部9は、舶用ディーゼルエンジン100の負荷(以下、エンジン負荷と適宜いう)に応じて小制御弁4bの開度を制御し、これにより、還元剤の流量を上記第1の流量に制御する。この際、制御部9は、流量センサ4dから還元剤流量検出信号を取得し、取得した還元剤流量検出信号をもとに、還元剤の流量が上記第1の流量となるようにフィードバック制御する。なお、エンジン負荷は、例えば、舶用ディーゼルエンジン100の単位時間当たりのエンジン回転数と1サイクルの燃料噴射量とをもとに算出することができる。
【0054】
また、制御部9は、上述した還元剤供給系統4の制御に並行して、圧縮空気供給系統5に対し、以下に示すような制御を行う。すなわち、制御部9は、小噴射ノズル1に通じる給気管15aの分岐管15bの開閉弁5bを開放するように制御し、大噴射ノズル2に通じる給気管15aの分岐管15cの開閉弁5cを閉塞するように制御する。また、制御部9は、排ガス流通系統3について、差圧計7からの差圧計測信号をもとにSCR反応器6の圧損が規定値以上発生していないことを判断しながら、バイパス弁13を閉塞するように制御する。
【0055】
上述したように制御部9が排ガス流通系統3、還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5を制御することにより、低脱硝SCR運転モードでは、排ガス中のNOxの排出量を2次規制の規制値以下に低減するための最適なNOxの脱硝が行われる。
【0056】
具体的には、図2に示すように、低脱硝SCR運転モードにおいて、還元剤供給源4aから供給管14aに送出された還元剤L1は、分岐管14bを介して小制御弁4bに至る。小制御弁4bは、制御部9に開度制御されることによって、還元剤L1の流量を上記第1の流量に調整(微調整)する。小制御弁4bによって上記第1の流量に調整された還元剤L1(以下、還元剤L2という)は、小制御弁4bから供給管14dの分岐管14eを介して流量センサ4dを通過し、その後、供給管14gの分岐管14hを介して小噴射ノズル1内に供給される。これに並行して、圧縮空気供給源5aから給気管15aに送出された圧縮空気G11は、分岐管15bを介してオリフィス部15dに至る。オリフィス部15dは、この圧縮空気G11の流量または圧力を、小噴射ノズル1からの還元剤の噴射(詳細には噴霧)に適した流量または圧力に調整する。このように流量または圧力が調整された圧縮空気G11(以下、圧縮空気G12という)は、分岐管15bを介して小噴射ノズル1内に供給される。小噴射ノズル1は、圧縮空気G12の作用により、還元剤L2を混合器3a内に噴射する。
【0057】
混合器3a内には、舶用ディーゼルエンジン100からの排ガスG1が、排気管11aを介して流入している。混合器3a内では、排気管11aから流入した排ガスG1と小噴射ノズル1から噴射された還元剤L2とが混ざり合う。例えば、還元剤L2が尿素水である場合、噴射によって微粒化された尿素水は、排ガスG1と混ざり合うとともに、この排ガスG1の熱によってアンモニアに変化する。このように還元剤L2が噴射された排ガスG1、すなわち、噴射された還元剤L2を含む状態の排ガスG2は、混合器3aから導入管11bを介してSCR反応器6内に導入される。SCR反応器6内において、排ガスG2は、複数段の触媒層6a、6b、6cと順次接触しながら、SCR反応器6の出側へ流れる。この際、SCR反応器6は、触媒層6a、6b、6cの各々における触媒作用により、排ガスG2中のNOxの還元反応を進行させる。これにより、SCR反応器6は、排ガスG2中のNOxを脱硝する。この脱硝により、排ガスG2中のNOxの排出量は、2次規制の規制値以下に低減される。この排ガスG2は、SCR反応器6から出口管11cを介して排出・回収側へ排出される。
【0058】
一方、排出規制海域において、舶用SCRシステム10は、舶用ディーゼルエンジン100から排出された排ガス中のNOxの排出量を3次規制の規制値以下に低減する。この場合、舶用SCRシステム10は、高脱硝SCR運転モードで排ガス中のNOxの脱硝を行う。
【0059】
詳細には、操作部8は、操作者の操作に応じて、高脱硝SCR運転モードを指示する指示信号を制御部9に送信し、これにより、高脱硝SCR運転モードを制御部9に指示する。高脱硝SCR運転モードが指示された場合、制御部9は、NOxの排出量を3次規制の規制値以下に低減するために必要な流量(すなわち第2の流量)の還元剤が大噴射ノズル2から排ガスに噴射されるように、排ガス流通系統3、還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5を制御する。
【0060】
例えば、高脱硝SCR運転モードにおいて、制御部9は、還元剤供給系統4に対し、以下のような制御を行う。すなわち、制御部9は、所定の圧力の還元剤を送出するように還元剤供給源4aを制御する。また、制御部9は、小噴射ノズル1から噴射される還元剤の流量を調整するための小制御弁4bと、小噴射ノズル1に通じる供給管14gの分岐管14hの開閉弁4eとを閉塞するように制御する。一方、制御部9は、大噴射ノズル2に通じる供給管14gの分岐管14iの開閉弁4fを開放するように制御する。また、制御部9は、エンジン負荷に応じて大制御弁4cの開度を制御し、これにより、還元剤の流量を上記第2の流量に制御する。この際、制御部9は、流量センサ4dから還元剤流量検出信号を取得し、取得した還元剤流量検出信号をもとに、還元剤の流量が上記第2の流量となるようにフィードバック制御する。
【0061】
また、制御部9は、上述した還元剤供給系統4の制御に並行して、圧縮空気供給系統5に対し、以下に示すような制御を行う。すなわち、制御部9は、大噴射ノズル2に通じる給気管15aの分岐管15cの開閉弁5cを開放するように制御し、小噴射ノズル1に通じる給気管15aの分岐管15bの開閉弁5bを閉塞するように制御する。また、制御部9は、排ガス流通系統3について、差圧計7からの差圧計測信号をもとにSCR反応器6の圧損が規定値以上発生していないことを判断しながら、バイパス弁13を閉塞するように制御する。
【0062】
上述したように制御部9が排ガス流通系統3、還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5を制御することにより、高脱硝SCR運転モードでは、排ガス中のNOxの排出量を3次規制の規制値以下に低減するための最適なNOxの脱硝が行われる。
【0063】
具体的には、図2に示すように、高脱硝SCR運転モードにおいて、還元剤供給源4aから供給管14aに送出された還元剤L1は、分岐管14cを介して大制御弁4cに至る。大制御弁4cは、制御部9に開度制御されることによって、還元剤L1の流量を上記第2の流量に調整する。大制御弁4cによって上記第2の流量に調整された還元剤L1(以下、還元剤L3という)は、大制御弁4cから供給管14dの分岐管14fを介して流量センサ4dを通過し、その後、供給管14gの分岐管14iを介して大噴射ノズル2内に供給される。これに並行して、圧縮空気供給源5aから給気管15aに送出された圧縮空気G11は、分岐管15cを介してオリフィス部15eに至る。オリフィス部15eは、この圧縮空気G11の流量または圧力を、大噴射ノズル2からの還元剤の噴射(詳細には噴霧)に適した流量または圧力に調整する。このように流量または圧力が調整された圧縮空気G11(以下、圧縮空気G13という)は、分岐管15cを介して大噴射ノズル2内に供給される。大噴射ノズル2は、圧縮空気G13の作用により、還元剤L3を混合器3a内に噴射する。
【0064】
混合器3a内には、舶用ディーゼルエンジン100からの排ガスG1が、排気管11aを介して流入している。混合器3a内では、排気管11aから流入した排ガスG1と大噴射ノズル2から噴射された還元剤L3とが混ざり合う。このように還元剤L3が噴射された排ガスG1、すなわち、噴射された還元剤L3を含む状態の排ガスG3は、混合器3aから導入管11bを介してSCR反応器6内に導入される。SCR反応器6内において、排ガスG3は、複数段の触媒層6a、6b、6cと順次接触しながら、SCR反応器6の出側へ流れる。この際、SCR反応器6は、触媒層6a、6b、6cの各々における触媒作用により、排ガスG3中のNOxの還元反応を進行させる。これにより、SCR反応器6は、排ガスG3中のNOxを脱硝する。この脱硝により、排ガスG3中のNOxの排出量は、3次規制の規制値以下に低減される。この排ガスG3は、SCR反応器6から出口管11cを介して排出・回収側へ排出される。
【0065】
以上、説明したように、本発明の実施形態1に係る舶用SCRシステム10では、排ガス中のNOxの排出量を第1の排ガス規制の規制値以下に低減する低脱硝SCR運転モードにおいて、排ガス中のNOxを低減(脱硝)するための還元剤を、第1の排ガス規制を満たすために必要な第1の流量に調整して、小噴射ノズル1から排ガスに噴射し、排ガス中のNOxの排出量を上記第1の排ガス規制よりも低い第2の排ガス規制の規制値以下に低減する高脱硝SCR運転モードにおいて、上記還元剤を、第2の排ガス規制を満たすために必要であって上記第1の流量よりも多い第2の流量に調整して、大噴射ノズル2から排ガスに噴射している。
【0066】
このため、高脱硝SCR運転モードにおける排ガス中のNOxの脱硝能力を低下させることなく、低脱硝SCR運転モードにおける排ガス中のNOxの脱硝能力を無駄なく発揮させることができる。これにより、第1の排ガス規制の海域およびこれ以外の海域(すなわち第2の排ガス規制の海域)の各々について、規制値を満たし得るNOxの脱硝能力を確保できるとともに、たとえ第1の排ガス規制の海域においてエンジン燃費を向上させたとしても、このエンジン燃費の向上に伴って増大するNOxの排出量を、低脱硝SCR運転モードにおける排ガス中のNOxの脱硝能力によって第1の排ガス規制の規制値以下に低減することができる。この結果、エンジン燃費の更なる向上を追求できるとともに、一般海域の2次規制や排出規制海域の3次規制等、舶用ディーゼルエンジンに要求される複数の排ガス規制について、NOxの排出量を効率よく低減することができる。
【0067】
また、本発明の実施形態1に係る舶用SCRシステム10では、小噴射ノズル1から排ガスに噴射される上記還元剤の流量を、小制御弁4bによって調整し、大噴射ノズル2から排ガスに噴射される上記還元剤の流量を、小制御弁4bよりも広い流量調整範囲を有する大制御弁4cによって調整している。このため、大制御弁4cでは流量調整範囲が広すぎる(すなわち流量調整単位が大きすぎる)故に調整が困難な還元剤の上記第1の流量を、小制御弁4bによって簡易に調整することができる。且つ、小制御弁4bでは流量調整範囲が狭すぎる(すなわち流量調整単位が小さすぎる)故に調整が困難な還元剤の上記第2の流量を、大制御弁4cによって簡易に調整することができる。
【0068】
また、本発明の実施形態1に係る舶用SCRシステム10では、上記低脱硝SCR運転モードにおいて、所定の流量または圧力の圧縮空気を小噴射ノズル1に供給し、上記高脱硝SCR運転モードにおいて、この所定の流量よりも多い流量または所定の圧力よりも高圧の圧縮空気を大噴射ノズル2に供給している。このため、上記低脱硝SCR運転モードの際、上記第1の流量の還元剤を小噴射ノズル1から排ガス中に効率よく噴射することができる。且つ、上記高脱硝SCR運転モードの際、上記第2の流量の還元剤を大噴射ノズル2から排ガス中に効率よく噴射することができる。
【0069】
また、本発明の実施形態1に係る舶用SCRシステム10では、小噴射ノズル1と大噴射ノズル2とを同一の混合器3a内に設けて、小噴射ノズル1または大噴射ノズル2から噴射された還元剤と排ガスとを混合器3a内で混合するようにし、また、小噴射ノズル1を、混合器3aにおける排ガスの入側から出側に向かう方向について大噴射ノズル2の後段に配置している。このため、大噴射ノズル2の噴射口から混合器3aの出口部までの距離を小噴射ノズル1よりも大きくすることができる。これにより、大噴射ノズル2からの還元剤の噴射範囲を小噴射ノズル1よりも広くすることができ、この結果、混合器3a内の排ガスと大噴射ノズル2から噴射された還元剤とを効率よく混合することができる。
【0070】
(実施形態2)
つぎに、本発明の実施形態2について説明する。上述した実施形態1では、低脱硝SCR運転モードおよび高脱硝SCR運転モードによらず、還元剤が噴射された排ガスをSCR反応器6内の1段目から最終段までの各触媒層と接触させていたが、本実施形態2では、低脱硝SCR運転モードの場合、還元剤が噴射された排ガスと接触させる触媒層を2段目以降の触媒層の中から選択できるようにしている。
【0071】
図3は、本発明の実施形態2に係る舶用SCRシステム一構成例を示す模式図である。図3に示すように、本実施形態2に係る舶用SCRシステム20は、上述した実施形態1に係る舶用SCRシステム10の導入管11bに代えて導入管21を備え、排ガス流通系統3に代えて排ガス流通系統23を備え、制御部9に代えて制御部29を備える。また、舶用SCRシステム20は、新たな構成として、散布管22a、22bを備える。その他の構成は実施形態1と同じであり、同一構成部には同一符号を付している。
【0072】
導入管21は、SCR反応器6に排ガスを導入するための配管である。図3に示すように、導入管21は、入口端が排ガス流通系統23の開閉弁25bに接続され且つ出口端がSCR反応器6の入側端に接続されている。導入管21は、SCR反応器6内に設けられた複数段の触媒層(本実施形態2では3段の触媒層6a、6b、6c)のうち、SCR反応器6における排ガスの入側から1段目の触媒層6aに、大噴射ノズル2から噴射された還元剤を含む状態の排ガスまたは還元剤を含まない状態の排ガスを導入する。なお、還元剤を含まない状態の排ガスとは、小噴射ノズル1および大噴射ノズル2のいずれからも還元剤が噴射されていない排ガスである。
【0073】
散布管22a、22bは、還元剤が噴射された排ガスをSCR反応器6内に散布するための配管である。図3に示すように、散布管22aの入口端は、排ガス流通系統23の開閉弁25dに接続されている。散布管22aの出口側の配管部分には、複数(例えば4つ)の散布ノズル22cが設けられる。この散布管22aの出口側の配管部分は、1段目の触媒層6aと2段目の触媒層6bとの間の領域に延在するようにSCR反応器6内に配置される。この際、散布管22aは、これら複数の散布ノズル22cを2段目の触媒層6b側に向けた状態となっている。一方、図3に示すように、散布管22bの入口端は、排ガス流通系統23の開閉弁25eに接続されている。散布管22bの出口側の配管部分には、複数(例えば4つ)の散布ノズル22dが設けられる。この散布管22bの出口側の配管部分は、2段目の触媒層6bと3段目(本実施形態2では最後段)の触媒層6cとの間の領域に延在するようにSCR反応器6内に配置される。この際、散布管22bは、これら複数の散布ノズル22dを3段目の触媒層6c側に向けた状態となっている。これらの散布管22a、22bは、SCR反応器6内に設けられた複数段の触媒層(本実施形態2では3段の触媒層6a、6b、6c)のうち、1段目の触媒層6aの後段に位置する2段目以降の触媒層に、小噴射ノズル1から噴射された還元剤を含む状態の排ガスを散布する。詳細には、本実施形態2において、散布管22aは、2段目の触媒層6bに、小噴射ノズル1から噴射された還元剤を含む状態の排ガスを散布する。散布管22bは、3段目の触媒層6cに、小噴射ノズル1から噴射された還元剤を含む状態の排ガスを散布する。
【0074】
排ガス流通系統23は、上述した導入管21と散布管22a、22bとに連通し、SCR反応器6に向けて排ガスを流通させるものである。図3に示すように、排ガス流通系統23は、バイパス管24aと、出口管24bと、流通管24cと、開閉弁25a~25eと、送風機26とを備える。また、排ガス流通系統23は、実施形態1と同様の混合器3aと、排気管11aと、バイパス管12と、バイパス弁13とを備える。
【0075】
バイパス管24aは、還元剤を含まない状態の排ガスをSCR反応器6に向けて流通させるための配管である。図3に示すように、バイパス管24aは、入口端が排気管11aの中途部に接続され且つ出口端が導入管21の中途部に接続されている。バイパス管24aは、排気管11aから混合器3aを迂回して導入管21に合流する排ガスの迂回流路を形成する。
【0076】
出口管24bは、混合器3aから送出された排ガスをSCR反応器6側へ流通させるための配管である。図3に示すように、出口管24bは、入口端が混合器3aの出側端に接続され且つ出口端が開閉弁25bに接続されている。出口管24b内を流通する排ガスとしては、例えば、小噴射ノズル1から噴射された還元剤を含む状態の排ガス、大噴射ノズル2から噴射された還元剤を含む状態の排ガスが挙げられる。
【0077】
流通管24cは、小噴射ノズル1から噴射された還元剤を含む状態の排ガスを散布管22a、22bに向けて流通させるための配管である。図3に示すように、流通管24cの入口端は、出口管24bに接続されている。また、流通管24cの出口端は、例えば、散布管22a、22bの配置数に対応して2つに分岐している。これら流通管24cの各出口端は、開閉弁25d、25eに接続されている。すなわち、流通管24cは、出口管24bから分岐し、開閉弁25d、25eを介して散布管22a、22bに通じている。
【0078】
また、図3に示すように、開閉弁25aは、バイパス管24aに設けられる。開閉弁25aは、バイパス管24aを開放または閉塞する駆動弁である。開閉弁25bは、導入管21と出口管24bとを開閉可能に連通させる駆動弁である。開閉弁25cは、流通管24cの中途部(例えば出口端の近傍)に設けられる。開閉弁25cは、流通管24cを開放または閉塞する駆動弁である。開閉弁25dは、散布管22aと流通管24cとを開閉可能に連通させる駆動弁である。開閉弁25eは、散布管22bと流通管24cとを開閉可能に連通させる駆動弁である。
【0079】
送風機26は、流通管24c内を流通する排ガスに圧力を付与するためのものである。図3に示すように、送風機26は、流通管24cの中途部であって開閉弁25cと出口端(本実施形態2では各出口端に接続された開閉弁25d、25e)との間に設けられる。送風機26は、出口管24b内から流通管24c内へ排ガスを吸引し、吸引した排ガスに圧力を付与する。この圧力は、流通管24cを介して散布管22a、22b内に流入した排ガスを各散布ノズル22c、22dから噴射させ得る程度の圧力である。送風機26は、このような圧力を付与した排ガスを、流通管24c内に沿って散布管22a、22b側へ送出する。
【0080】
制御部29は、排ガスを流通させる排ガス流通系統23の動作を舶用SCRシステム20の運転モード別に制御する。詳細には、低脱硝SCR運転モードが指示された場合、制御部29は、還元剤を含まない状態の排ガスを導入管21内に流通させるとともに、小噴射ノズル1から噴射された還元剤を含む状態の排ガスを散布管22a、22b内に流通させるように、排ガス流通系統23を制御する。高脱硝SCR運転モードが指示された場合、制御部29は、大噴射ノズル2から噴射された還元剤を含む状態の排ガスを導入管21内に流通させるように、排ガス流通系統23を制御する。なお、制御部29は、このように排ガス流通系統23を制御すること以外、上述した実施形態1と同じである。
【0081】
つぎに、本発明の実施形態2に係る舶用SCRシステム20の動作について説明する。図4は、本発明の実施形態2に係る舶用SCRシステムの動作を運転モード別に説明するための図である。以下では、第1の排ガス規制として一般海域の排ガス規制(2次規制)を例示し、第2の排ガス規制として排出規制海域の排ガス規制(3次規制)を例示して、図3、4を参照しつつ、舶用SCRシステム20の動作を運転モード別に説明する。
【0082】
一般海域において、舶用SCRシステム20は、舶用ディーゼルエンジン100から排出された排ガス中のNOxの排出量を2次規制の規制値以下に低減する。この場合、舶用SCRシステム20は、低脱硝SCR運転モードで排ガス中のNOxの脱硝を行う。
【0083】
詳細には、操作部8は、操作者の操作に応じて、低脱硝SCR運転モードを指示する指示信号を制御部29に送信し、これにより、低脱硝SCR運転モードを制御部29に指示する。低脱硝SCR運転モードが指示された場合、制御部29は、NOxの排出量を2次規制の規制値以下に低減するために必要な流量(すなわち第1の流量)の還元剤が小噴射ノズル1から排ガスに噴射されるように、排ガス流通系統23、還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5を制御する。また、制御部29は、小噴射ノズル1から噴射された還元剤を含む状態の排ガスとSCR反応器6内の2段目以降の触媒層6b、6cとを選択的に接触させるように、排ガス流通系統23を制御する。なお、低脱硝SCR運転モードでの制御部29による還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5の制御は、上述した実施形態1と同じである。
【0084】
例えば、低脱硝SCR運転モードにおいて、制御部29は、排ガス流通系統23に対し、以下のような制御を行う。すなわち、制御部29は、バイパス管24aの開閉弁25aと、流通管24cの入口端側の開閉弁25cと、流通管24cの出口端側の開閉弁25d、25eのうち少なくとも1つとを開放するように制御する。これに並行して、制御部29は、出口管24bと導入管21との間の開閉弁25bを閉塞するように制御する。また、制御部29は、送風機26を駆動させる。なお、制御部29によるバイパス弁13の制御は、上述した実施形態1と同じである。
【0085】
ここで、制御部29は、エンジン負荷に応じて、流通管24cの出口端側の開閉弁25d、25eのうち少なくとも1つを開放させる。例えば、制御部29には、エンジン負荷について所定の閾値が予め設定されている。制御部29は、エンジン負荷が所定の閾値未満である場合、開閉弁25d、25eのうち、後段の開閉弁25eを開放するように制御するとともに、前段の開閉弁25dを閉塞するように制御する。一方、制御部29は、エンジン負荷が所定の閾値以上である場合、開閉弁25dのみ、または開閉弁25d、25eの両方を開放するように制御する。なお、後段の開閉弁25eは、2段目以降の触媒層6b、6cのうち、後段(本実施形態2では3段目)の触媒層6cに散布ノズル22dを向けている散布管22bに通じる開閉弁である。前段の開閉弁25dは、2段目以降の触媒層6b、6cのうち、前段(本実施形態2では2段目)の触媒層6bに散布ノズル22cを向けている散布管22aに通じる開閉弁である。
【0086】
上述したように制御部29が排ガス流通系統23、還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5を制御することにより、低脱硝SCR運転モードでは、排ガス中のNOxの排出量を2次規制の規制値以下に低減するための最適なNOxの脱硝が行われる。
【0087】
具体的には、図4に示すように、低脱硝SCR運転モードにおいて、舶用ディーゼルエンジン100(図3参照)から排出された排ガスG1は、排気管11aを介して混合器3a内に流入するとともに、排気管11aからバイパス管24aを介して導入管21内に流入する。混合器3a内では、上述した実施形態1と同様に、上記第1の流量に調整された還元剤L2が、圧縮空気G12の作用によって小噴射ノズル1から噴射(噴霧)されている。混合器3a内に流入した排ガスG1は、小噴射ノズル1から還元剤L2が噴射されて、この還元剤L2と混ざり合う。このように還元剤L2が噴射された排ガスG1、すなわち、噴射された還元剤L2を含む状態の排ガスG2は、混合器3aから出口管24b内に排出される。出口管24b内の排ガスG2は、送風機26の作用により、流通管24c内に吸引されるとともに、所定の圧力を有した状態で流通管24c内をSCR反応器6側に向かって流通する。
【0088】
ここで、エンジン負荷が所定の閾値未満である場合、開閉弁25dは閉塞した状態であり、開閉弁25eは開放した状態である。この場合、流通管24c内の排ガスG2は、開閉弁25eを介して散布管22b内に流入する。散布管22bは、複数の散布ノズル22dからSCR反応器6内の3段目の触媒層6cに、この流入された排ガスG2(小噴射ノズル1から噴射された還元剤L2を含む状態の排ガス)を散布する。一方、エンジン負荷が所定の閾値以上である場合、開閉弁25dのみが開放した状態、または、開閉弁25d、25eの両方が開放した状態である。開閉弁25dのみが開放した状態である場合、流通管24c内の排ガスG2は、開閉弁25dを介して散布管22a内に流入する。散布管22aは、複数の散布ノズル22cからSCR反応器6内の2段目の触媒層6bに、この流入された排ガスG2を散布する。または、開閉弁25d、25eの両方が開放した状態である場合、流通管24c内の排ガスG2は、開閉弁25dを介して散布管22a内に流入するとともに、開閉弁25eを介して散布管22b内に流入する。散布管22aは、上述の場合と同様に、SCR反応器6内の2段目の触媒層6bに排ガスG2を散布する。これに並行して、散布管22bは、複数の散布ノズル22dからSCR反応器6内の3段目の触媒層6cに、この流入された排ガスG2を散布する。
【0089】
一方、排気管11aからバイパス管24aを介して導入管21内に流入した排ガスG1は、導入管21を介してSCR反応器6内に流入し、1段目の触媒層6aに導入される。ここで、この排ガスG1は、排気管11aからバイパス管24a内を通ることによって混合器3aを迂回してSCR反応器6内に流入した排ガスである。すなわち、この排ガスG1は、還元剤L2を含まない状態の排ガスである。SCR反応器6内に流入した排ガスG1は、1段目の触媒層6a内を通って流れる。この場合、排ガスG1は還元剤L2を含んでいないため、排ガスG1と1段目の触媒層6aとが接触しても、この排ガスG1中のNOxの脱硝(還元反応)は行われない。
【0090】
1段目の触媒層6a内を通った排ガスG1は、2段目以降の触媒層6b、6c内を順次通るように流れる。ここで、エンジン負荷が所定の閾値未満である場合、SCR反応器6内の散布管22a、22bのうち、後段の散布管22bのみから還元剤L2を含む状態の排ガスG2が散布される。この場合、排ガスG1は、1段目の触媒層6aの場合と同様に、還元剤L2を含まない状態で2段目の触媒層6b内を通って流れる。すなわち、2段目の触媒層6bにおいても、この排ガスG1中のNOxの脱硝は行われない。続いて、排ガスG1は、2段目の触媒層6bから3段目の触媒層6cに向かって流れる。この際、排ガスG1は、散布管22bの複数の散布ノズル22dから散布された排ガスG2と混ざり合い、これにより、この排ガスG2中の還元剤L2を含む状態の排ガス(すなわち排ガスG2の一部)になる。このような排ガスG2は、還元剤L2を含む状態で3段目の触媒層6c内に流入する。3段目の触媒層6cでは、排ガスG2中のNOxの還元反応が触媒作用によって進行し、これにより、排ガスG2中のNOxが脱硝される。この脱硝により、排ガスG2中のNOxの排出量は、2次規制の規制値以下に低減される。その後、3段目の触媒層6c内を通った排ガスG2は、SCR反応器6から出口管11cを介して排出・回収側へ排出される。
【0091】
一方、エンジン負荷が所定の閾値以上である場合、SCR反応器6内の散布管22aのみ、または散布管22a、22bの両方から、還元剤L2を含む状態の排ガスG2が散布される。この場合、1段目の触媒層6a内を通った排ガスG1は、散布管22aの複数の散布ノズル22cから散布された排ガスG2と混ざり合い、これにより、この排ガスG2中の還元剤L2を含む状態の排ガス(すなわち排ガスG2の一部)になる。または、1段目の触媒層6a内を通った排ガスG1は、散布管22aの複数の散布ノズル22cから散布された排ガスG2と混ざり合い、続いて、散布管22bの複数の散布ノズル22dから散布された排ガスG2と混ざり合う。このようにして、当該排ガスG1は、これらの排ガスG2中の還元剤L2を順次含む状態の排ガス(すなわち排ガスG2の一部)になる。このような排ガスG2は、上述した何れの場合においても、還元剤L2を含む状態で2段目以降の触媒層6b、6c内に順次流入する。2段目以降の触媒層6b、6cでは、排ガスG2中のNOxの還元反応が触媒作用によって順次進行し、これにより、排ガスG2中のNOxが脱硝される。この脱硝により、排ガスG2中のNOxの排出量は、2次規制の規制値以下に低減される。その後、3段目の触媒層6c内を通った排ガスG2は、SCR反応器6から出口管11cを介して排出・回収側へ排出される。
【0092】
一方、排出規制海域において、舶用SCRシステム20は、舶用ディーゼルエンジン100から排出された排ガス中のNOxの排出量を3次規制の規制値以下に低減する。この場合、舶用SCRシステム20は、高脱硝SCR運転モードで排ガス中のNOxの脱硝を行う。
【0093】
詳細には、操作部8は、操作者の操作に応じて、高脱硝SCR運転モードを指示する指示信号を制御部29に送信し、これにより、高脱硝SCR運転モードを制御部29に指示する。高脱硝SCR運転モードが指示された場合、制御部29は、NOxの排出量を3次規制の規制値以下に低減するために必要な流量(すなわち第2の流量)の還元剤が大噴射ノズル2から排ガスに噴射されるように、排ガス流通系統23、還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5を制御する。なお、高脱硝SCR運転モードでの制御部29による還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5の制御は、上述した実施形態1と同じである。
【0094】
例えば、高脱硝SCR運転モードにおいて、制御部29は、排ガス流通系統23に対し、以下のような制御を行う。すなわち、制御部29は、バイパス管24aの開閉弁25aと、流通管24cの入口端側の開閉弁25cと、流通管24cの出口端側の開閉弁25d、25eとを閉塞するように制御する。これに先立ち、制御部29は、出口管24bと導入管21との間の開閉弁25bを開放するように制御する。また、制御部29は、送風機26を停止させる。なお、制御部29によるバイパス弁13の制御は、上述した実施形態1と同じである。
【0095】
上述したように制御部29が排ガス流通系統23、還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5を制御することにより、高脱硝SCR運転モードでは、排ガス中のNOxの排出量を3次規制の規制値以下に低減するための最適なNOxの脱硝が行われる。
【0096】
具体的には、図4に示すように、高脱硝SCR運転モードにおいて、舶用ディーゼルエンジン100(図3参照)から排出された排ガスG1は、排気管11aを介して混合器3a内に流入する。混合器3a内では、上述した実施形態1と同様に、上記第2の流量に調整された還元剤L3が、圧縮空気G13の作用によって大噴射ノズル2から噴射(噴霧)されている。混合器3a内に流入した排ガスG1は、大噴射ノズル2から還元剤L3が噴射されて、この還元剤L3と混ざり合う。このように還元剤L3が噴射された排ガスG1、すなわち、噴射された還元剤L3を含む状態の排ガスG3は、混合器3aから出口管24b内に排出される。出口管24b内の排ガスG3は、開閉弁25bおよび導入管21を介してSCR反応器6内に流入し、1段目の触媒層6aに導入される。
【0097】
SCR反応器6内において、排ガスG3は、複数段の触媒層6a、6b、6cと順次接触しながら、SCR反応器6の出側へ流れる。ここで、排ガスG3は、大噴射ノズル2から噴射された還元剤L3を含む状態の排ガスである。SCR反応器6は、触媒層6a、6b、6cの各々における触媒作用により、この排ガスG3中のNOxの還元反応を進行させる。これにより、SCR反応器6は、排ガスG3中のNOxを脱硝する。この脱硝により、排ガスG3中のNOxの排出量は、3次規制の規制値以下に低減される。3段目の触媒層6c内を通った排ガスG3は、SCR反応器6から出口管11cを介して排出・回収側へ排出される。
【0098】
以上、説明したように、本発明の実施形態2に係る舶用SCRシステム20では、SCR反応器6内に、排ガスの入側から出側に向かって複数段の触媒層を設け、低脱硝SCR運転モードが指示された場合、還元剤を含まない状態の排ガスを複数段の触媒層のうち1段目の触媒層に導入するとともに、小噴射ノズル1から噴射された還元剤を含む状態の排ガスを複数段の触媒層のうち2段目以降の触媒層に散布し、高脱硝SCR運転モードが指示された場合、大噴射ノズル2から噴射された還元剤を含む状態の排ガスを複数段の触媒層のうち1段目の触媒層6aに導入するようにし、その他を実施形態1と同様に構成している。
【0099】
ここで、これら複数段の触媒層のうち、1段目の触媒層は、還元反応によって脱硝されるNOxの量が2段目以降の触媒層の各々よりも多くなる。それ故、NOxの還元反応に伴う1段目の触媒層の劣化速度は、2段目以降の触媒層よりも速くなり、これら複数段の触媒層間に劣化のムラが生じる恐れがある。これに対し、本実施形態2の構成によれば、上述した実施形態1と同様の作用効果を享受することができるとともに、排ガス中のNOxの低減(脱硝)すべき量に応じて、これら複数段の触媒層の中から、NOxの還元反応に必要な触媒層を選択することができる。これにより、第2の排ガス規制(例えば3次規制)よりもNOxの低減すべき量が少ない第1の排ガス規制の海域(例えば一般海域)において、NOxの還元反応に伴う触媒の劣化速度が1段目の触媒層よりも遅い2段目以降の触媒層を、当該還元反応を行わせる触媒層として積極的に用いることができる。この結果、1段目の触媒層の劣化速度を低下できることから、これら複数段の触媒層間での劣化のムラを抑制できるとともに、これら複数段の触媒層を当該還元反応に効率よく使用することができる。
【0100】
(実施形態3)
つぎに、本発明の実施形態3について説明する。上述した実施形態2では、小噴射ノズル1と大噴射ノズル2とを単一の混合器3a内に配置していたが、本実施形態3では、小噴射ノズル1と大噴射ノズル2とを各々別体の混合器内に配置している。
【0101】
図5は、本発明の実施形態3に係る舶用SCRシステム一構成例を示す模式図である。図5に示すように、本実施形態3に係る舶用SCRシステム30は、上述した実施形態2に係る舶用SCRシステム20の導入管21に代えて導入管31を備え、排ガス流通系統23に代えて排ガス流通系統33を備え、制御部29に代えて制御部39を備える。その他の構成は実施形態2と同じであり、同一構成部には同一符号を付している。
【0102】
導入管31は、SCR反応器6に排ガスを導入するための配管である。図5に示すように、導入管31は、入口端が排ガス流通系統33の出口管34aに接続され且つ出口端がSCR反応器6の入側端に接続されている。導入管31は、SCR反応器6内に設けられた複数段の触媒層(本実施形態3では3段の触媒層6a、6b、6c)のうち、SCR反応器6における排ガスの入側から1段目の触媒層6aに、大噴射ノズル2から噴射された還元剤を含む状態の排ガスまたは還元剤を含まない状態の排ガスを導入する。
【0103】
排ガス流通系統33は、上述した導入管31と散布管22a、22bとに連通し、SCR反応器6に向けて排ガスを流通させるものである。図5に示すように、排ガス流通系統33は、実施形態2における単一の混合器3aに代えて互いに別体の混合器33a、33bを備え、実施形態2における出口管24bに代えて出口管34aを備える。また、排ガス流通系統33は、実施形態2と同様に、排気管11aと、バイパス管12と、バイパス弁13と、流通管24cと、開閉弁25c、25d、25eと、送風機26とを備える。
【0104】
混合器33aは、小噴射ノズル1から噴射された還元剤と舶用ディーゼルエンジン100からの排ガスとを混合するもの(第1の混合器の一例)である。図5に示すように、混合器33aは、小噴射ノズル1を内部に有し、流通管24cの中途部であって送風機26と開閉弁25d、25eとの間に設けられる。混合器33aは、流通管24cを介して流入された排ガスと小噴射ノズル1から噴射された還元剤とを混合しながら、この還元剤を含む状態の排ガスを、SCR反応器6に向けて流通させる。
【0105】
混合器33bは、大噴射ノズル2から噴射された還元剤と舶用ディーゼルエンジン100からの排ガスとを混合するもの(第2の混合器の一例)である。図5に示すように、混合器33bには、排ガスの入側に排気管11aが接続され、排ガスの出側に出口管34aが接続されている。また、混合器33bは、大噴射ノズル2を内部に有する。混合器33bは、排気管11aから流入された排ガスと大噴射ノズル2から噴射された還元剤とを混合しながら、この還元剤を含む状態の排ガスを、SCR反応器6に向けて出口管34a内に流通させる。
【0106】
出口管34aは、混合器33bから送出された排ガスをSCR反応器6側へ流通させるための配管である。図5に示すように、出口管34aは、入口端が混合器33bの出側端に接続され且つ出口端が導入管31の入口端に接続されている。また、出口管34aの出口端は、流通管24cの入口端に接続されている。すなわち、出口管34aは、出口端側が導入管31と流通管24cとに分岐するように構成されている。出口管24b内を流通する排ガスとしては、例えば、大噴射ノズル2から噴射された還元剤を含む状態の排ガス、還元剤を含まない状態の排ガス(大噴射ノズル2から還元剤が噴射されていない排ガス)が挙げられる。
【0107】
制御部39は、排ガスを流通させる排ガス流通系統33の動作を舶用SCRシステム30の運転モード別に制御する。詳細には、低脱硝SCR運転モードが指示された場合、制御部39は、還元剤を含まない状態の排ガスを導入管31内に流通させるとともに、小噴射ノズル1から噴射された還元剤を含む状態の排ガスを散布管22b内のみ、または散布管22a、22b内の両方に流通させるように、排ガス流通系統33を制御する。高脱硝SCR運転モードが指示された場合、制御部39は、大噴射ノズル2から噴射された還元剤を含む状態の排ガスを導入管31内に流通させるように、排ガス流通系統33を制御する。なお、制御部39は、上記の制御以外、上述した実施形態2と同じである。
【0108】
つぎに、本発明の実施形態3に係る舶用SCRシステム30の動作について説明する。図6は、本発明の実施形態3に係る舶用SCRシステムの動作を運転モード別に説明するための図である。以下では、第1の排ガス規制として一般海域の排ガス規制(2次規制)を例示し、第2の排ガス規制として排出規制海域の排ガス規制(3次規制)を例示して、図5、6を参照しつつ、舶用SCRシステム30の動作を運転モード別に説明する。
【0109】
一般海域において、舶用SCRシステム30は、舶用ディーゼルエンジン100から排出された排ガス中のNOxの排出量を2次規制の規制値以下に低減する。この場合、舶用SCRシステム30は、低脱硝SCR運転モードで排ガス中のNOxの脱硝を行う。
【0110】
詳細には、操作部8は、操作者の操作に応じて、低脱硝SCR運転モードを指示する指示信号を制御部39に送信し、これにより、低脱硝SCR運転モードを制御部39に指示する。低脱硝SCR運転モードが指示された場合、制御部39は、NOxの排出量を2次規制の規制値以下に低減するために必要な流量(すなわち第1の流量)の還元剤が小噴射ノズル1から排ガスに噴射されるように、排ガス流通系統33、還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5を制御する。なお、低脱硝SCR運転モードにおいて、制御部39は、排ガス流通系統33のバイパス弁13、開閉弁25c、25d、25eおよび送風機26と、還元剤供給系統4と、圧縮空気供給系統5とを、上述した実施形態2と同様に制御する。
【0111】
上述したように制御部39が排ガス流通系統33、還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5を制御することにより、低脱硝SCR運転モードでは、排ガス中のNOxの排出量を2次規制の規制値以下に低減するための最適なNOxの脱硝が行われる。
【0112】
具体的には、図6に示すように、低脱硝SCR運転モードにおいて、舶用ディーゼルエンジン100(図5参照)から排出された排ガスG1は、排気管11aを介して混合器33b内に流入する。ここで、低脱硝SCR運転モードでは、上述した実施形態2と同様に、大噴射ノズル2から還元剤は噴射されていない。したがって、混合器33b内の排ガスG1は、還元剤と混合されることなく、混合器33bから出口管34a内に排出される。出口管34a内の排ガスG1は、導入管31内に流入するとともに、送風機26の作用によって流通管24c内に吸引され、所定の圧力を有した状態で流通管24cから混合器33a内に流入する。
【0113】
混合器33a内では、上述した実施形態2と同様に、上記第1の流量に調整された還元剤L2が、圧縮空気G12の作用によって小噴射ノズル1から噴射(噴霧)されている。混合器33a内に流入した排ガスG1は、小噴射ノズル1から還元剤L2が噴射されて、この還元剤L2と混ざり合う。このように還元剤L2が噴射された排ガスG1、すなわち、噴射された還元剤L2を含む状態の排ガスG2は、混合器33aの出側から流通管24c内に排出される。流通管24c内に排出された排ガスG2は、上述した実施形態2と同様に、散布管22a、22bのうちの少なくとも1つからSCR反応器6内に散布される。
【0114】
一方、混合器33bから出口管34aを介して導入管31内に流入した排ガスG1は、導入管31を介してSCR反応器6内に流入し、1段目の触媒層6aに導入される。続いて、この排ガスG1は、1段目の触媒層6a内を通って流れる。この排ガスG1は還元剤L2を含んでいないため、上述した実施形態2と同様に、1段目の触媒層6aにおいて、この排ガスG1中のNOxの還元反応による脱硝は行われない。
【0115】
1段目の触媒層6a内を通った排ガスG1は、2段目以降の触媒層6b、6c内を順次通るように流れる。この場合、排ガスG1は、上述した実施形態2と同様に、散布管22a、22bのうち少なくとも1つから散布された排ガスG2中の還元剤L2と混ざり合って、還元剤L2を含む状態の排ガスG2となり、NOxの還元反応によって脱硝される。この脱硝により、排ガスG2中のNOxの排出量は、2次規制の規制値以下に低減される。その後、この排ガスG2は、SCR反応器6から出口管11cを介して排出・回収側へ排出される。
【0116】
一方、排出規制海域において、舶用SCRシステム30は、舶用ディーゼルエンジン100から排出された排ガス中のNOxの排出量を3次規制の規制値以下に低減する。この場合、舶用SCRシステム30は、高脱硝SCR運転モードで排ガス中のNOxの脱硝を行う。
【0117】
詳細には、操作部8は、操作者の操作に応じて、高脱硝SCR運転モードを指示する指示信号を制御部39に送信し、これにより、高脱硝SCR運転モードを制御部39に指示する。高脱硝SCR運転モードが指示された場合、制御部39は、NOxの排出量を3次規制の規制値以下に低減するために必要な流量(すなわち第2の流量)の還元剤が大噴射ノズル2から排ガスに噴射されるように、排ガス流通系統33、還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5を制御する。なお、高脱硝SCR運転モードにおいて、制御部39は、排ガス流通系統33のバイパス弁13、開閉弁25c、25d、25eおよび送風機26と、還元剤供給系統4と、圧縮空気供給系統5とを、上述した実施形態2と同様に制御する。
【0118】
上述したように制御部39が排ガス流通系統33、還元剤供給系統4および圧縮空気供給系統5を制御することにより、高脱硝SCR運転モードでは、排ガス中のNOxの排出量を3次規制の規制値以下に低減するための最適なNOxの脱硝が行われる。
【0119】
具体的には、図6に示すように、高脱硝SCR運転モードにおいて、舶用ディーゼルエンジン100(図5参照)から排出された排ガスG1は、排気管11aを介して混合器33b内に流入する。混合器33b内では、上述した実施形態2と同様に、上記第2の流量に調整された還元剤L3が、圧縮空気G13の作用によって大噴射ノズル2から噴射(噴霧)されている。混合器33b内に流入した排ガスG1は、大噴射ノズル2から還元剤L3が噴射されて、この還元剤L3と混ざり合う。このように還元剤L3が噴射された排ガスG1、すなわち、噴射された還元剤L3を含む状態の排ガスG3は、混合器33bから出口管34a内に排出される。出口管34a内の排ガスG3は、導入管31を介してSCR反応器6内に流入し、1段目の触媒層6aに導入される。
【0120】
SCR反応器6内において、排ガスG3は、複数段の触媒層6a、6b、6cと順次接触しながら、SCR反応器6の出側へ流れる。ここで、排ガスG3は、大噴射ノズル2から噴射された還元剤L3を含む状態の排ガスである。SCR反応器6は、上述した実施形態2と同様に、触媒層6a、6b、6cの各々における触媒作用により、この排ガスG3中のNOxの還元反応を進行させて、排ガスG3中のNOxを脱硝する。この脱硝により、排ガスG3中のNOxの排出量は、3次規制の規制値以下に低減される。この排ガスG3は、SCR反応器6から出口管11cを介して排出・回収側へ排出される。
【0121】
以上、説明したように、本発明の実施形態3に係る舶用SCRシステム30では、混合器33a内に小噴射ノズル1を配置して、小噴射ノズル1から噴射された還元剤と排ガスとを混合器33a内で混合し、混合器33aとは別体の混合器33b内に大噴射ノズル2を配置して、大噴射ノズル2から噴射された還元剤と排ガスとを混合器33b内で混合するようにし、その他を実施形態2と同様に構成している。このため、上述した実施形態2と同様の作用効果を享受することができるとともに、実施形態2における排ガス流通系統23に比べて、排ガスの流通経路を切り換えるための配管およびは開閉弁を減らすことができる。これにより、排ガス中のNOxの低減(脱硝)すべき量に応じて、SCR反応器6内の複数段の触媒層の中から、NOxの還元反応に必要な触媒層を選択するための排ガス流通系統33を、簡易に構成することができる。さらには、この排ガス流通系統33の制御を簡易に行うことができる。
【0122】
なお、上述した実施形態1~3では、大噴射ノズル2を小噴射ノズル1よりも大口径の噴射ノズルとしていたが、本発明は、これに限定されない。本発明において、大噴射ノズル2は、小口径(例えば小噴射ノズル1以下の口径)の噴射ノズルの集合体によって構成されてもよい。また、小噴射ノズル1と大噴射ノズル2とを一体化した噴射ノズルを小口径の噴射ノズルの集合体によって構成し、この集合体のうちのm個の噴射ノズルを小噴射ノズル1とし、残りn個(但しn>m)の噴射ノズルを大噴射ノズル2としてもよい。あるいは、小噴射ノズル1および大噴射ノズル2は、噴射量を調整可能な1つ以上の可変型噴射ノズルによって構成されてもよい。
【0123】
また、上述した実施形態1~3では、SCR反応器6における排ガスの入側から出側に向かう方向(すなわち排ガスの流通方向)に沿って配置される複数段の触媒層の一例として、3段の触媒層6a、6b、6cを例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、SCR反応器6内に配置される触媒層の数(段数)は、2つ以上であってもよい。また、実施形態1においては、当該触媒層の数は、1つ以上であってもよい。
【0124】
また、上述した実施形態2、3では、SCR反応器6内に2つの散布管22a、22bを配置していたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、還元剤を含む状態の排ガスを散布する散布管は、SCR反応器6内の複数段の触媒層のうち2段目以降の触媒層の数に応じて必要数(例えば同数)、配置されていてもよい。
【0125】
また、上述した実施形態1、2では、小噴射ノズル1および大噴射ノズル2を単一の混合器3a内に配置していたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、小噴射ノズル1および大噴射ノズル2は各々別体の混合器内に分けて配置されてもよい。
【0126】
また、上述した実施形態2、3では、低脱硝SCR運転モードの際に、還元剤を含まない状態の排ガスをSCR反応器6内の1段目の触媒層6aに導入し、小噴射ノズル1から噴射された還元剤を含む状態の排ガスをSCR反応器6内の2段目以降の触媒層6b、6cのうち少なくとも一つに導入(散布)していたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、低脱硝SCR運転モードのみならず、高脱硝SCR運転モードの際に、還元剤を含まない状態の排ガスをSCR反応器6内の1段目の触媒層6aに導入し、大噴射ノズル2から噴射された還元剤を含む状態の排ガスをSCR反応器6内の2段目以降の触媒層6b、6cのうち少なくとも一つに導入してもよい。
【0127】
また、上述した実施形態1~3により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施形態1~3に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0128】
1 小噴射ノズル
2 大噴射ノズル
3 排ガス流通系統
3a 混合器
4 還元剤供給系統
4a 還元剤供給源
4b 小制御弁
4c 大制御弁
4d 流量センサ
4e、4f 開閉弁
5 圧縮空気供給系統
5a 圧縮空気供給源
5b、5c 開閉弁
6 SCR反応器
6a、6b、6c 触媒層
7 差圧計
8 操作部
9、29、39 制御部
10、20、30 舶用SCRシステム
11a 排気管
11b 導入管
11c 出口管
12 バイパス管
13 バイパス弁
14a、14d、14g 供給管
14b、14c、14e、14f、14h、14i 分岐管
15a 給気管
15b、15c 分岐管
15d、15e オリフィス部
21 導入管
22a、22b 散布管
22c、22d 散布ノズル
23 排ガス流通系統
24a バイパス管
24b 出口管
24c 流通管
25a、25b、25c、25d、25e 開閉弁
26 送風機
31 導入管
33 排ガス流通系統
33a、33b 混合器
34a 出口管
100 舶用ディーゼルエンジン
G1、G2、G3 排ガス
G11、G12、G13 圧縮空気
L1、L2、L3 還元剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6