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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】銀パラジウム合金粉末およびその利用
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20221223BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20221223BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20221223BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20221223BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20221223BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20221223BHJP
   B22F 9/24 20060101ALN20221223BHJP
【FI】
B22F1/00 K
B22F9/00 B
C22C5/06 Z
H01B1/00 F
H01B1/22 A
H01B5/00 F
B22F9/24 F
B22F9/24 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019066904
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164931
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】森 浩二
【審査官】深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-007644(JP,A)
【文献】国際公開第2013/115002(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/132413(WO,A1)
【文献】特開2011-219802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/40
C22C 5/06
H01B 1/22
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀(Ag)とパラジウム(Pd)との合金を主体に構成される銀パラジウム合金粉末であって、
カルシウム成分が質量基準のカルシウム換算(Ca:ppm)で500~10000ppm含まれており、
前記合金粉末におけるAgとPdの合計を100質量%としたときのPd含有率が30質量%以下であり、
前記カルシウム成分として、カルシウムパラジウム複合酸化物(CaPd )を含む、銀パラジウム合金粉末。
【請求項2】
前記合金粉末におけるAgとPdの合計を100質量%としたときのPd含有率が10質量%以下である、請求項1に記載の銀パラジウム合金粉末。
【請求項3】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察に基づく個数基準の平均粒子径(SEM-D50)が1μm以下である、請求項1または2に記載の銀パラジウム合金粉末。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の銀パラジウム合金粉末と、
該粉末を分散させる媒体と、
を備える、導体ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀(Ag)とパラジウム(Pd)の合金からなる粉末材料およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
銀とパラジウムからなる銀パラジウム合金粉末(以下「AgPd合金粉末」という。)は、銀単体で構成されるAg粉末と比べて耐熱性に優れることから、種々の電子部品(例えばバリスタ、圧電セラミック、その他の積層セラミックコンデンサ)の電極形成用途に使用されている。例えば、以下の特許文献1には、この種の電子部品の内部電極形成に用いられるAgPd合金粉末の従来例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-325602号公報
【文献】特開平10-102107号公報
【文献】特開平11-80815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、AgPd合金粉末を構成するパラジウムは白金族に属し、貴金属の中でも高価な金属である。このため、AgPd合金粉末によって電極が形成される電子部品(バリスタ等)の価格低減を実現する一手段として、AgPd合金粉末におけるPd含有率を下げてAgPd合金粉末自体を低価格化することが要請されている。
しかしながら、AgPd合金粉末におけるPdの含有率を低下させた場合、例えばAgとPdの合計を100質量%としたときのPd含有率(以下同じ。)が30質量%以下(更には20質量%以下、特には10質量%以下)のように低率とした場合、AgPd合金粉末の耐熱性を所望のレベルに維持することは困難であった。
【0005】
そこで本発明は、上述した課題を解決するべく創出されたものであり、その目的は、Pd含有率が30質量%以下(更には20質量%以下、特には10質量%以下)であるような低率である場合にも耐熱性に優れるAgPd合金粉末を提供することである。また、かかるAgPd合金粉末が所定の分散媒に分散されたペースト状(スラリー状)の材料を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、合金粉末を製造する過程において従来から使用されているカルシウム化合物に着目した。即ち、上記特許文献1~3に記載されているように、従来から種々の金属組成の合金粉末を製造する場合において、カルシウム成分として典型的には炭酸カルシウム粉末が添加された状態で、合金粉末製造用原料の熱処理(即ち合金化処理)が行われていた。かかる炭酸カルシウムは、当該熱処理が行われている間に酸化カルシウムに変化するとともに熱処理中の合金の粒成長を抑制することができる。このため、比較的小さい粒子径(平均粒子径)の合金粉末が得られる。
そして、特許文献1~3にも記載されているように、熱処理(合金化処理)終了後、得られた合金粉末を水中に入れ、酸化カルシウムを水酸化カルシウムに変換し、さらに酢酸や硝酸等の酸を液中に添加して水溶性のカルシウム塩にしたうえで、合金粉末からカルシウム成分を完全に分離、除去している。
【0007】
本発明者は、かかるカルシウム成分に着目した。そして、従来は上記のような目的に使用され、合金粉末製造プロセスの過程において、水溶化して完全に除去されていたカルシウム成分を所定の濃度で合金粉末に残留させておくことにより、当該合金粉末の耐熱性を向上させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
さらに好適な形態として、本発明者はさらに検討を加え、従来のAg粒子とPd粒子とからなる粉末材料、即ち、Ag粉末とPd粉末との混合粉末材料や湿式還元法によって作製されるいわゆる共沈粉末材料を合金粉末製造用原料として用いることに代えて、Agからなるコア粒子の表面にPdからなる被覆部が形成されたAgPdコアシェル粒子を合金粉末製造用原料として使用することにより、Pd含有率を著しく低減した場合であっても合金粉末の耐熱性を向上させ得ることを見出し、本発明の効果をさらに向上させることが実現できた。
【0008】
上述した課題を解決するべく、ここで開示される合金粉末材料は、銀(Ag)とパラジウム(Pd)との合金を主体に構成されるAgPd合金粉末であって、
カルシウム成分がカルシウム換算(Ca:ppm)で500~10000ppm含まれており、当該合金粉末におけるAgとPdの合計を100質量%としたときのPd含有率が30質量%以下であることを特徴とする、銀パラジウム合金粉末である。
ここで「AgとPdとの合金を主体に構成されるAgPd合金粉末」とは、かかる粉末を構成する金属粒子の大半がAgPd合金であることを示すものである一方、合金ではない粒子(例えばAgのみからなる粒子やPdのみからなる粒子)の少量の混在を許容するものである。全体の50質量%を上回る量の粒子がAgPd合金粒子であることが適当であり、AgPd合金粒子の存在割合が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上(例えば95質量%以上)であることが特に好ましい。
【0009】
上記のとおり、ここで開示されるAgPd合金粉末は、不可避的夾雑物ではなく、意図的な含有成分として、当該合金粉末全体(全質量)に対して500~10000ppm(Ca換算)の濃度でカルシウム成分を含んでいることを特徴とする。
このことにより、ここで開示されるAgPd合金粉末によると、従来の同じ組成比のAgPd合金粉末と比較して高い耐熱性を実現することができる。このため、高価なPdの含有率(使用割合)を低減させつつ、耐熱性に優れる高信頼性の電極等の導体を種々の電子部品に形成することができる。上記カルシウム成分は、Ca換算で500~10000ppmが適当であるが、より良好な耐熱性の向上には1000ppm以上が好ましく、高い導電性保持の観点からは8000ppm以下がより好ましい。
【0010】
ここで開示されるAgPd合金粉末の好ましい一態様では、上記カルシウム成分として、カルシウムパラジウム複合酸化物(典型的にはCaPd)を含むことを特徴とする。
このようなカルシウム成分を合金粉末(即ち、合金粉末を構成するAgPd合金粒子)に残留させておくことにより、低Pd含有率にもかかわらず、より高い耐熱性を実現することができる。
【0011】
また、ここで開示されるAgPd合金粉末の好ましい他の一態様では、上記合金粉末におけるAgとPdの合計を100質量%としたときのPd含有率が10質量%以下であることを特徴とする。
上記カルシウム成分を適切な濃度範囲で含有することにより、本態様のAgPd合金粉末では、Pd含有率が10質量%以下であるような極端にPd含有率が低い合金粉末材料であっても、好適な耐熱性を示す電極その他の導体を形成することができる。一方、好適な耐熱性を保持する観点からは、かかるPd含有率は1質量%以上が適当であり、1質量%を上回る率、例えば2質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。この程度の含有率であると、低Pd含有率化によるコスト減と、好適な耐熱性の維持とを良好に両立させることができる。
【0012】
また、ここで開示されるAgPd合金粉末の好ましい他の一態様では、走査型電子顕微鏡(SEM)観察に基づく個数基準の平均粒子径(SEM-D50)が1μm以下であることを特徴とする。
かかる構成のAgPd合金粉末では、カルシウム成分の存在によって製造時における粒成長が抑制され、平均粒子径が比較的小さいAgPd合金粉末であるとともに、カルシウム成分の残存により、高い耐熱性を発揮することができる。
【0013】
また、本発明は、ここで開示される何れか一つのAgPd合金粉末を構成要素として含有し、さらには該合金粉末を分散させる媒体とを備える、導体ペースト(即ち、スラリー状またはペースト状の導体膜形成用組成物)を提供する。
このような構成の導体ペーストによると、ここで開示される高耐熱性のAgPd合金粉末を好適に所望の基材(基板)に供給することができ、耐熱性の高い良好な電極等の導体を従来のPd高含有率のAgPd合金粉末を採用する場合よりも低価格に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】サンプル4に係るAgPd合金粉末のX線回折パターンを示す図である。
図2】サンプル8に係るAgPd合金粉末のX線回折パターンを示す図である。
図3】サンプル9に係るAgPd合金粉末のX線回折パターンを示す図である。
図4】サンプル15に係るAgPd合金粉末のX線回折パターンを示す図である。
図5】サンプル19に係るAgPd合金粉末のX線回折パターンを示す図である。
図6】サンプル14に係るAgPd合金粉末の電子顕微鏡(SEM)写真である。
図7】サンプル11に係るAgPd合金粉末の電子顕微鏡(SEM)写真である。
図8】サンプル10に係るAgPd合金粉末の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、A以上B以下の意味である。したがって、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。
【0016】
ここで開示されるAgPd合金粉末は、該粉末材料の主体をなすAgPd合金粒子の集合物に所定のカルシウム成分を好適な含有率(Ca換算:ppm)で含むことで特徴付けられる粉末材料であり、AgPd合金粉末の製造方法自体に特に制限は無い。
例えば、所定の配合比率でAg粉末とPd粉末とを機械的に混合して得た混合粉末を、合金化可能な温度域で熱処理を施すことにより、AgPd合金粉末を製造することができる。或いはまた、既存の共沈法によってAgとPdとが混在した混合粒子を生成し、合金化可能な温度域で熱処理を施してAgPd合金粉末を製造することもできる。
【0017】
AgPd合金粉末の製造にあたり特に好適なアプローチは、AgPdコアシェル粒子を合金粉末製造用原料として用いることである。AgPdコアシェル粒子は、Agを主構成元素とするAgコアの表面に、Pdを主構成元素とするPdシェルが形成された粒子である。かかるコアシェル粒子は、Pdの被覆部がAgコアの表面に存在するため、Pdの含有率が低い場合であって、均質なAgとPdとの合金化を実現することができる。従来から知られた種々のコアシェル粒子製造プロセスを特に制限することなく採用することができる。
【0018】
ここで開示されるAgPd合金粉末の製造に用いられるAgPdコアシェル粒子の調製に好適な方法として以下の工程を包含する調製方法が挙げられる。即ち、
Agコア粒子を構成するための銀化合物を含む第1の反応液を調製する工程;
第1の反応液に、第1の還元剤を添加して還元処理を行うことにより、該反応液中に銀を主構成元素とするAgコア粒子を生成する工程;
上記生成したAgコア粒子が分散した状態の分散液にPdシェルを構成するためのパラジウム化合物を添加して第2の反応液を調製する工程;および
第2の反応液に、第2の還元剤を添加して還元処理を行うことにより、該反応液中のAgコア粒子の表面にパラジウムを主構成元素とするPdシェルを形成する工程;
を包含する方法である。
ここで第1の還元剤として少なくともヒドロキノンを含むことが特に好適である。上記銀化合物を還元処理してAgコア粒子を生成する際にヒドロキノンを共存させておくことによって、Agコア粒子の表面にヒドロキノン及び/又はキノン類(例えば、o-ベンゾキノン、p-ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、等)が付着し、その後のPdシェル形成工程においてPdイオンの還元析出が、該Agコア粒子の表面において選択的(優先的)に行われる。このため、本調製方法によると、極めて低いPd含有率(例えばPd含有率が10質量%以下)であっても高い収率でAgPdコアシェル粒子を調製することができる。また、本調製方法によると、Pdイオンの還元析出が、Agコア粒子の表面において選択的(優先的)に行われることから、Pdシェル形成過程においてAgコア粒子間の接触点におけるPd析出が抑制される。このため、Pdシェル形成時の凝集やネッキングを防止して粒子径が小さく(例えば、SEM-D50が1μm以下)、粒度分布が狭く制御されたAgPdコアシェル粒子を製造することができる。以下、かかる調製方法をより詳細に説明する。
【0019】
上記銀化合物およびパラジウム化合物としては、それぞれの反応液中で還元処理を行うことによってAgコア粒子およびPdシェルを生成できるものであればよく、種々の銀およびパラジウムの塩又は錯体を好ましく用いることができる。塩としては、例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物や、水酸化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、等を用いることができる。また、錯体としては、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体などを用いることができる。
【0020】
上記第1の反応液は、銀化合物を適当な溶媒に溶かした溶液または適当な分散媒に分散した分散液として調製され得る。ここで該反応液を構成する溶媒(分散媒である場合を包含する。以下同じ。)は、水系溶媒でもよいし、有機系溶媒であってもよい。水系溶媒で第1の反応液を調製する場合、溶媒には水や水を主体とする混合液(例えば、水とエタノールの混合溶液)を用いることができる。また、有機系溶媒で第1の還元剤を調製する場合には、メタノール、エタノール等のアルコール類、若しくは、アセトン、メチルケトンのようなケトン類、若しくは、酢酸エチルのようなエステル類等を用いることができる。
【0021】
反応液中の銀化合物の含有量は、目的に応じて異なり得るため、特に限定されない。一例であるが、溶媒が水その他の水系溶媒(例えば水とエタノールの混合溶媒)である場合には、銀化合物のモル濃度が0.1M~3M程度になるように反応液を調製することが好ましい。また、第1の反応液を調製する際、銀化合物と溶媒の他に種々の添加剤を加えることができる。かかる添加剤としては、例えば、錯化剤が挙げられる。錯化剤には、例えば、アンモニア水、シアン化カリウム、ヒドラジン一水和物、等を用いることができる。この錯化剤を適量加えることにより、Agを中心金属イオンとする錯体が反応液中で容易に形成され得る。これによって、その後の還元処理によってAgコア粒子を容易に析出させることができる。
【0022】
また、第1の反応液を調製する際、一定の範囲内に温度条件を維持しながら攪拌するとよい。このときの温度条件としては、20℃~60℃(より好ましくは30℃~50℃)程度であるとよい。また、攪拌の回転速度は、100rpm~1000rpm(より好ましくは300rpm~800rpm、例えば500rpm)程度であるとよい。上述したような銀化合物を含む第1の反応液を還元処理することによってAgコア粒子を生成する。この工程は、銀化合物を含む反応液中に適当な還元剤(第1の還元剤)を添加することによって容易に実施できる。
第1の還元剤としてヒドロキノン(C)を使用することによって、上記のとおり、生成されるAgコア粒子の表面にヒドロキノン及び/又はキノン類を存在させることができる。第1の還元剤は、ヒドロキノンに加えてPVPを含むように調製されてもよい。ヒドロキノンに加えてPVPを含む還元剤を使用することによって、表面にヒドロキノン及び/又はキノン類とPVPとの複合物が存在するAgコア粒子を効率よく生成することができる。なお、第1の還元剤として、ヒドロキノン、PVP以外の還元剤を共存させてもよい。例えば、炭酸ヒドラジン、ヒドラジン、ヒドラジン一水和物、フェニルヒドラジン等のヒドラジン化合物を併用してもよい。
【0023】
還元剤の添加量は、第1の反応液に含まれる銀化合物を所定時間内に全て還元するのに十分な量であればよく、反応系の状態に合わせて適切に設定すればよいため、特に制限はない。その際、還元剤の濃度を適宜調整することにより、Agコア粒子の粒子径(ひいてはAgPdコアシェル粒子の粒子径)を制御することもできる。一般的には、還元剤の濃度を高くすることにより、Agコア粒子の粒子径(ひいてはAgPdコアシェル粒子の粒子径)を小さくすることができる。また、還元処理の際に、第1の反応液にpH調整剤を添加して、pHを8以上、例えば9~11程度に調整することが好ましい。ここで、pH調整剤には、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、アンモニア水、その他の塩基性物質を用いることができる。
還元処理時間は、適宜設定することができる。特に制限はないが、例えば、0.5時間~3時間程度が好ましい。
【0024】
上記還元処理によって生成したAgコア粒子の回収は、従来と同様でよく、特に制限はない。好ましくは、反応液中に生成したAgコア粒子を沈降させ、あるいは遠心分離して上澄みを除去する。好ましくは複数回の洗浄後、適当な分散媒中に回収したAgコア粒子を分散することにより、Agコア粒子の分散液として回収することができる。
次に、Agコア粒子の分散液にPdシェルを上述したようなパラジウム化合物を添加して第2の反応液を調製する。かかる第2の反応液中のパラジウム化合物の含有量は、目的に応じて異なり得るため、特に限定されない。一例であるが、第2の反応液中に含まれるAgとPdとの質量比:Ag/Pdが、70/30~99/1(例えばAg/Pdが80/20~97/3、さらにはAg/Pdが90/10~97/3)程度であれば、高価なPdの使用量を抑制しつつ好適なPdシェルを高い被覆率で形成することができる。
なお、第2の反応液の調製に使用する溶媒(分散媒)、その他の添加剤、調製プロセス等は、ほぼ第1の反応液と同様でよいため、重複した説明は省略する。但し、第2の反応液は、Agコア粒子の分散液ともいえるため、調製時に上記攪拌に加えて超音波処理を行うことが反応液の均質化という観点から好ましい。例えば、超音波ホモジナイズは、15kHz~50kHz程度の周波数、100W~500W程度の出力で行うことができる。
【0025】
Pdシェル形成のための第2の還元剤としては、当該反応系において還元作用を奏し得る種々の化合物を採用することができる。例えば、炭酸ヒドラジン、ヒドラジン、ヒドラジン一水和物、フェニルヒドラジン等のヒドラジン化合物が好ましいがこれに限られず、例えば、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸などの有機酸およびその塩(酒石酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、等)、或いは、水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。
第2の還元剤の添加量は、第2の反応液に含まれるAgコア粒子の表面にPdシェルを所定時間内に好適に形成し得るのに十分な量であればよく、反応系の状態に合わせて適切に設定すればよいため、特に制限はない。還元剤を添加した後に反応液を撹拌しながら還元反応を進行させた方が好ましい。還元処理時間は、適宜設定することができる。特に制限はないが、例えば、0.25時間~2時間程度が好ましい。
【0026】
次に、生成されたAgPdコアシェル粒子を第2の反応液から回収する。かかる回収の方法としては、従来と同様でよく、特に制限はない。上述した第1の反応液からAgコア粒子を回収する態様と同じでよい。例えば、反応液中に生成したAgPdコアシェル粒子を沈降させ、あるいは遠心分離して上澄みを除去する。好ましくは複数回の洗浄後、乾燥させ、適当に解砕処理することにより、合金粉末製造用原料として好適なPd含有率が低いAgPdコアシェル粒子を得ることができる。
【0027】
ここで開示されるAgPd合金粉末は、上述したようなAgPd混合粉末あるいはコアシェル粒子からなる粉末を合金粉末製造用原料として用意し、該原料を炭酸カルシウム等のカルシウム添加材および適当な液媒(典型的には水)とともに、遊星ミル、ビーズミル等の適当な湿式の撹拌分散装置に投入する。そして、好適にはジルコニア等のセラミック製ビーズを用いて適当な撹拌分散処理を行う。
このとき、炭酸カルシウム等のカルシウム添加材の添加量は特に制限は無く、その後の熱処理時に粒成長を抑制し得る量が確保されていればよい。例えば、合金粉末製造用原料と炭酸カルシウム等のカルシウム添加材との質量比(原料:カルシウム添加材)が1:1~1:5程度になるように添加するのが好ましい。そして、上記適当な湿式の撹拌分散装置において充分に撹拌分散する。撹拌分散の程度は、特に限定されるものではなく、使用する装置のマニュアルに沿って行えばよい。
【0028】
その後、粒子が分散したスラリー状態の原料(カルシウム添加材を含む)を100~120℃程度の温度域で乾燥させる。次いで、乾燥した原料粉末を所定の温度域で熱処理することにより、原料粉末を構成する金属粒子をAgPd合金粒子に変換する。このとき、従来は1200℃以上の高温域で熱処理を行うのが通常であるが、ここで開示される技術では、カルシウム成分を残留させる必要があるため、従来よりも低い温度域で実施する必要がある。典型的には、500~1000℃である。600~800℃が好適である。Pd含有率が相対的に低い場合はそれに応じて比較的低い温度域で熱処理を行い、Pd含有率が相対的に高い場合にはそれに応じて比較的高い温度域で熱処理を行うとよい(後述する実施例参照)。これにより、原料粉末からAgPd合金粉末を製造することができる。
なお、AgPd合金の形成は、X線回折(XRD)による解析により、確認することができる。また、X線回折(XRD)による解析により、カルシウム成分、例えばカルシウムパラジウム複合酸化物(CaPd)の存在も確認することができる。
【0029】
かかる温度域における熱処理時間であるが、目的とする合金化が完了すればよく、原料粉末の平均粒子径やPd含有率に応じて適宜決定すればよい。特に限定されないが、0.5時間~2時間程度が適当であり、例えば、1時間前後(±20分程度)が好ましい。
このような比較的低温域で熱処理を行うことにより、炭酸カルシウム(CaCO)の未分解残留物、炭酸カルシウムの分解産物たる酸化カルシウム(CaO)とPdとが反応して生じるカルシウムパラジウム複合酸化物(CaPd)の未分解残留物、酸化カルシウムその他の化合物由来のカルシウムが合金相に固溶した状態、等のカルシウム成分が、AgPd合金粉末中に残留することが考えられる。かかる何らかの存在形態の非水溶性であるカルシウム成分を所定濃度で残留させることにより、AgPd合金粉末の耐熱性を向上させることができる。
【0030】
合金化処理(熱処理)後、被処理粉末を水中に投入し、余剰の酸化カルシウムを水酸化カルシウムに変換する。次いで、この系に酢酸、硝酸等の酸成分を添加し、水酸化カルシウムを水溶性のカルシウム塩(酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、等)に変換することにより、上記存在形態の残留する非水溶性のカルシウム成分(以下、「残留カルシウム成分」という。)以外の余剰のカルシウムを溶出し、AgPd合金粉末から分離、除去することができる。なお、残留カルシウム成分は、上記酸処理後の水洗で全てが溶出されることはない。
【0031】
上述したようなプロセスで製造されるAgPd合金粉末は、比較的Pd含有率が低く設定されている。このため、かかるAgPd合金粉末を電極その他の導体膜を形成する材料として使用することにより、当該導体膜を備える電子部品の製造コスト減に貢献することができる。また、ここで開示されるAgPd合金粉末は、上記残留カルシウム成分の存在によって、Pd含有率が比較的低いにもかかわらず優れた耐熱性を備える。これにより、ここで開示されるAgPd合金粉末から形成された電極その他の導体膜を備える電子部品の耐熱性の向上若しくは維持と製造コスト減とをあわせて実現することができる。
【0032】
ここで開示されるAgPd合金粉末は、そのまま粉末材料として利用してもよいが、上記のような電子部品に電極その他の導体膜を形成するような用途に用いられる場合、水系溶媒あるいは有機系溶媒などの分散媒に分散させることにより、ペースト状(またはスラリー状)の組成物(導体ペースト)として提供することができる。
なお、導体ペーストの分散媒は、従来と同様、導電性粉体材料を良好に分散させ得るものであればよく、従来の導体ペースト調製に用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、水や低濃度のアルコール水溶液等の水系溶媒の他、有機系溶媒としては、ミネラルスピリット等の石油系炭化水素(特に脂肪族炭化水素)、エチルセルロース等のセルロース系高分子、エチレングリコール及びジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、ターピネオール等の高沸点有機溶媒を一種類又は複数種組み合わせたものを用いることができる。
また、導体ペーストには、AgPd合金粉末の他に、分散剤、樹脂材料(例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、セルロース系高分子、ポリビニルアルコール、ロジン樹脂等)、ビヒクル、フィラー、ガラスフリット、界面活性剤、消泡剤、可塑剤(例えばフタル酸ジオクチル(DOP)等のフタル酸エステル)、増粘剤、酸化防止剤、分散剤、重合禁止剤などの添加物が含まれていてもよい。かかる添加材については、従来と同様であり、本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0033】
以下、具体的な試験例によって、ここで開示されるAgPd合金粉末の製造例および性能を説明するが、本発明をかかる試験例に記載されたものに限定することを意図したものではない。
【0034】
<試験例1:AgPd合金粉末の製造>
(1)合金粉末製造用原料粉末の調達:
本試験例では、以下の2種類の合金粉末製造用原料粉末を用意した。
・Ag粉末とPd粉末とからなる混合粉末:
市販されるAg粉末(平均粒子径(D50)1.5μm、三井金属鉱業(株)製品)と、Pd粉末(平均粒子径(D50)0.3μm、(株)ノリタケカンパニーリミテド製品)とを、Ag/Pd質量比が80/20および70/30となるようにそれぞれ混合した粉末を用意した。
・AgPdコアシェル粒子からなる粉末(以下「コアシェル粉末」という。):
本試験例では、以下に説明するプロセスを経て、Ag/Pd質量比が99/1、97/3、95/5および90/10であるAgPdコアシェル粉末をそれぞれ調製した。
【0035】
硝酸銀(AgNO:大浦貴金属工業(株)製品)15.63gを純水150mLに溶解し、28%アンモニア水(和光純薬工業(株)製品)13mLを加え、マグネチックスターラーで撹拌し、原料となる銀化合物であるAgアンミン錯体を含む第1の溶液Aを調製した。
次いで、ヒドロキノン(東京化成工業(株)製品)5.07gとポリビニルピロリドン(PVP)K30(和光純薬工業(株)製品)3.00gとを、アルコール(甘糟化学産業(株)製品である工業用アルコール)150mLに溶解し、ヒドラジン一水和物(和光純薬工業(株)製品)0.18mLを加え撹拌し、第1の還元剤を調製した。
そして、第1の溶液Aをマグネチックスターラー(500rpm)で撹拌しつつ、第1の還元剤を一気に加え、その還元作用によってAgコア粒子を生成させた。次いで、1時間ほど沈降させ、上澄みを除去した後、上記アルコールをさらに300mL加え、撹拌し、再度1時間ほど沈降させ、上澄みを除去した。
ここに上記アルコール40mLを加え、生成Agコア粒子を分散させたスラリーを市販の遠心分離機で6000rpm、5分間の遠心分離処理を行い、沈降させ、上澄みを除去する洗浄工程を2回繰り返した。
その後、上記アルコール40mLをアルコール:純水=1:1(体積比)の混合溶媒40mLに変更し、同じ工程を繰り返した。
そして、得られたAgコア粒子沈澱物に純水を加え、Agスラリーを調製した。
【0036】
9gのAgスラリーA(Agコア粒子含有量:3.00g)に、0.17%アンモニア水にジアンミンジクロロパラジウム(II)を溶解して調製したPd錯体溶液50mL(Pd含有量:0.333gに調整した。)を加え、マグネチックスターラーで撹拌し、さらに純水44mLを加え、10分間の超音波分散処理を行った。
次いで、このスラリーをマグネチックスターラーで撹拌しつつ、第2の還元剤としての炭酸ヒドラジン(大塚化学(株)製品)0.85mLを加え、30分間ほど撹拌を継続した。このとき、炭酸ヒドラジン添加後70~80秒ほどで、上記Pd錯体の還元によるPd析出を示すスラリーの黒変と発泡が観察された。次いで、上澄みのXRF分析により、使用したPd錯体は、すべて還元され析出したことが確認された。
こうして得られたAgPdコアシェル粒子が分散したスラリーを1時間ほど沈降させ(1時間以内にほぼ完全に沈降した。)、上澄みを除去した後、上記アルコール:純水=1:1(体積比)の混合溶媒40mLに分散させ、市販の遠心分離機で6000rpm、10分間の遠心分離を行い、上澄みを除去する洗浄工程を2回行った。さらに、上記アルコール:純水=1:1(体積比)の混合溶媒40mLを純水40mLに変更し、同様の洗浄工程を繰り返した。
そして、生成されたコアシェル粉末に含まれる水分をアセトンに置換するため、アセトン40mLを加え、分散および遠心分離(6000rpm、10分間)を行い、上澄みを除去する工程を2回行った。そして室温で1時間ほど真空乾燥させた後、乳鉢で解砕することにより、Ag/Pd質量比が90/10であるコアシェル粉末を調製した。使用するAgコア粒子量及び/又はPd錯体量を適宜変更することにより、同様のプロセスにより、Ag/Pd質量比が99/1、97/3および95/5であるコアシェル粉末もあわせて調製した。
【0037】
(2)炭酸カルシウムの添加および合金化処理(熱処理)
上記の各原料粉末(混合粉末、コアシェル粉末)を使用し、或いは比較のために上記Ag粉末のみを使用し、合金化処理を行った。
具体的には、使用した原料粉末と炭酸カルシウム粉末の質量比が1:2となるように、原料粉末とその2倍量の炭酸カルシウム粉末とを撹拌分散装置(湿式ビーズミル)に投入し、さらに直径が1~5mmのジルコニア製ビーズと水を適当量投入し、充分に混合、分散させた。
次いで、得られた混合スラリーを電気炉に入れて、大気雰囲気中、室温からの昇温時間を約60分に設定し、昇温後の所定温度(熱処理温度)を、400℃、500℃、550℃、600℃、650℃、700℃、750℃、800℃、1000℃のうちの何れかに設定し(後述する表1参照)、当該温度で30分以上1時間以内の時間(例えば45分間)、熱処理を施した。このとき、AgPd合金化が進行するとともに、後述するように残留カルシウム成分が形成され得る。
【0038】
所定の熱処理の終了後、試料を純水中に入れ、余剰の酸化カルシウムを水酸化カルシウムに変化させる。次に、酸成分として充分量(試料液pHが5以下となる量)の酢酸を投入し、水酸化カルシウムを水溶性の酢酸カルシウムに変換させる。その後、純水を適宜加えつつ、3回ほど試料を洗浄し、水溶性のカルシウム塩を除去した。次いで、試料を乾燥させ、以下の表1に示したサンプル1~19に係る金属粉末を製造した。
以上の試験例で製造した金属粉末は、表1に示したサンプル1~19の計19種類である。表1により、各サンプルのAg/Pd質量比、使用した原料粉末および熱処理温度が把握される。
【0039】
【表1】
【0040】
<試験例2:残留カルシウム成分量(Ca換算:ppm)の測定>
次に、各サンプル(粉末試料)に含まれる残留カルシウム成分量(Ca換算:ppm)を測定した。
具体的には、約0.3gのサンプルを、市販の濃硝酸(60質量%)を2倍に希釈した水溶液10mLに溶解した後、水を添加して100mLに容量を合わせた(サンプル溶液:0.3g/100mL)。この溶液をICP発光分光分析装置に供試し、サンプル中のカルシウム濃度(ppm)を測定した。結果を表2に示した。この表におけるCa量の記入位置は、表1中の各サンプルの位置に対応している。
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示す結果から明らかなように、本試験例で実施したような比較的低温域での熱処理(合金化処理)を行うことにより、残留カルシウム成分を500ppm以上の濃度で残留させ得ることが確認できた。また、かかる熱処理温度や処理時間を適宜調整することにより、残留カルシウム成分量を調整し得ることも確認できた。例えば、Ag/Pd質量比が90/10であるコアシェル粉末由来のサンプル9~16(表1)についてのCa量の相対比較から明らかなように、かかる質量比の場合は、500℃~800℃程度の熱処理温度が残留カルシウム成分を適度に生成するのに適することがわかる。これよりも高い温度域(例えば1000℃以上)であると、いったんは生成したカルシウム成分(例えばCaPd)が高温で熱分解してしまい、残留できないことがわかる。他方、温度域が500℃未満(例えば400℃以下)であると、温度が低すぎて残留カルシウム成分が生成されないことを示している。
【0043】
<試験例3:耐熱性の評価>
次に、各サンプル(粉末試料)の耐熱性を熱機械分析装置(Thermomechanical Analysis:TMA)を用いて評価した。即ち、当該分析装置に適合する所定形状にプレス成型された試験片を、当該分析装置の試験チャンバ内にセットし、30℃から950℃までの温度領域(昇温速度:10℃/分)において分析装置の試験チャンバ内に配置された検査プローブの軸方向(即ちZ軸方向)における試験片長さの変化量を求めた。結果を表3に示す。本試験例において、30℃におけるZ軸方向の試験片長さを100%としたとき、600℃に昇温したときの同方向の試験片長さが90%以上であったものを耐熱性良好(表中の○)とし、逆に90%を下回ったものを耐熱性不良(表中の×)とした。
【0044】
【表3】
【0045】
表3に示す結果から明らかなように、残留カルシウム成分がCa換算で500ppm以上のサンプル4、8、10~15、17~19については、いずれも耐熱性が良好(○)であった。その一方、残留カルシウム成分がCa換算で500ppm未満であったサンプル1~3、5~7、9、16については、いずれも耐熱性が不良(×)であった。
このことは、残留カルシウム成分が所定範囲(500~10000rpm、より好ましくは、1000~8000ppm)にあることにより、表中に示されるような極めて低いPd含有率のAgPd合金粉末由来の試料であるにもかかわらず、高い耐熱性を実現することができる
【0046】
<試験例4:X線回折に基づくAgPd合金ならびに残留カルシウム成分の確認>
次に、以下の5つのサンプル(図1参照):
・サンプル4 (Ag/Pd質量比:97/3、熱処理温度:550℃)
・サンプル8(Ag/Pd質量比:95/5、熱処理温度:650℃)
・サンプル9(Ag/Pd質量比:90/10、熱処理温度:1000℃)
・サンプル15(Ag/Pd質量比:90/10、熱処理温度:500℃)
・サンプル19(Ag/Pd質量比:70/30、熱処理温度:1000℃)
について、粉末X線回折装置(株式会社リガク製品、RINT-TTRIII)を用いてX線回折(XRD)分析を行った。測定条件は以下のとおりである。
励起X線:CuKα線、加速電圧50kV、電流50mA
測定範囲:5°≦2θ≦60°
スキャンスピード:5°/min
測定温度:室温
結果を図1(サンプル4)、図2(サンプル8)、図3(サンプル9)、図4(サンプル15)、図5(サンプル19)にそれぞれ示した。各図の(A)は、各サンプルについて得られたXRDパターンであり、(B)はAgのピーク位置を示し、(C)はPdのピーク位置を示し、(D)は残留カルシウム成分の典型例であるCaPdのピーク位置を示し、(E)はパラジウム酸化物(PdO)のピーク位置を示している。
【0047】
これらの図面(XRDチャート)から明らかなように、各サンプルは、Agピーク位置のシフトならびにPdピークの消失から、AgPd合金が生成されたAgPd合金粉末であることが認められた。
その一方で、図1(サンプル4)、図2(サンプル8)、図4(サンプル15)、図5(サンプル19)のXRDパターンには認められるCaPdのピークが図3(サンプル9)には認められない。このことは、製造されたAgPd合金粉末のなかでも、残留カルシウム成分の典型例であるCaPdが存在する場合に高い耐熱性を有することを物質レベルで示している。なお、詳細なXRDパターンは示していないが、他のサンプルについても同様の結果であった。
【0048】
<試験例5:各サンプルのSEM観察に基づくSEM-D50の決定>
次に、以下の3つのサンプル(図1参照):
・サンプル14(Ag/Pd質量比:90/10、熱処理温度:600℃)
・サンプル11(Ag/Pd質量比:90/10、熱処理温度:750℃)
・サンプル10(Ag/Pd質量比:90/10、熱処理温度:800℃)
について、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)による観察を行い、100個の粒子の円相当径に基づく粒度分布(個数基準)を求め、累積50%粒径を平均粒子径(SEM-D50)とした。図6図7および図8は、それぞれ、サンプル14、サンプル11およびサンプル10のSEM写真である。これら図面からも明らかなように、本試験例で求めたサンプル14、11および10のSEM-D50は、いずれも1μm以下であった。
ここで開示される技術では、比較的低い温度域で熱処理が行われるため、粒子径(粒度分布)が比較的小さいAgPd合金粉末を提供することができる。このため、より微細な電極その他の導体膜を電子部品に形成するのに有利である。また、耐熱性も比較的高いため、高品質な導体膜を電子部品に形成することができる。
【0049】
以上、本発明の具体例を試験例に基づいて詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、表1中においてハイフン(-)で示した条件区については、上記試験例としてはいないが、合金化のための熱処理温度や熱処理時間を適宜設定することにより同様の結果を示すことは、本明細書の開示情報に基づけば容易に把握できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8