(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】緩衝装置
(51)【国際特許分類】
F16F 9/58 20060101AFI20221223BHJP
F16F 3/093 20060101ALI20221223BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20221223BHJP
B60G 13/08 20060101ALN20221223BHJP
【FI】
F16F9/58 B
F16F3/093
F16F7/00 F
B60G13/08
(21)【出願番号】P 2019076466
(22)【出願日】2019-04-12
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】橋本 岳宗
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 聡司
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-006259(JP,U)
【文献】特開平06-024222(JP,A)
【文献】特開2010-007692(JP,A)
【文献】国際公開第2018/096814(WO,A1)
【文献】特開2009-210076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/58
F16F 3/093
F16F 7/00
B60G 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の壁部と、前記壁部の軸方向の一端を塞ぐ底部とを有する保持部材と、
前記壁部の径方向の内側に位置して前記底部に接触した状態で前記保持部材に保持される弾性体製の硬質部と、
前記軸方向の第1端および第2端を有して前記第1端側が前記硬質部に保持されると共に前記硬質部よりも軟らかい弾性体製の軟質部と、を備え、
前記硬質部は、前記底部と前記第1端との間に挟まれる基端部と、
前記基端部から前記第2端側へ延びて前記軟質部の前記第1端側の一部の外周面と前記壁部との間に配置される筒部と、を備え、
前記筒部の外周面は、前記軟質部および前記硬質部が前記軸方向に圧縮されていない状態において、前記壁部の内周面との間に隙間を設けて対面する第1面と、
前記第1面よりも前記第2端側に位置して前記壁部の内周面に接触する第2面と、を備えていることを特徴とする緩衝装置。
【請求項2】
前記筒部は、内周面から前記径方向の内側へ突出する突出部と、
前記軟質部は、前記筒部のうち前記突出部よりも前記基端部側の部分に嵌まる嵌合部と、を備え、
前記第2面の少なくとも一部は、前記突出部を前記径方向の外側へ投影した領域に位置することを特徴とする請求項1記載の緩衝装置。
【請求項3】
前記壁部の前記第2端側の端部は、前記壁部のうち前記第2面に接触した部分から径方向外側へ湾曲する湾曲部であり、
前記筒部は、前記湾曲部よりも前記第2端側へ延びていることを特徴とする請求項1又は2に記載の緩衝装置。
【請求項4】
前記第2面は、前記筒部の全周に亘って設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の緩衝装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は緩衝装置に関し、特に軟質部および硬質部の伸縮時の異音を発生し難くできる緩衝装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カップ状の保持部材と、その保持部材の内側に保持される弾性体製の硬質部と、その硬質部の筒部に外周面の一端側が保持されて硬質部から突出すると共に硬質部よりも軟らかい弾性体製の軟質部と、を備え、軟質部および硬質部を圧縮変形させて衝撃を吸収する緩衝装置が知られている。この緩衝装置によれば、軟質部の圧縮量が少ないときは軟質部の圧縮変形による軟らかいばね特性を発揮でき、軟質部の圧縮量が多くなると、軟質部および硬質部の圧縮変形による硬いばね特性を発揮できる。
【0003】
さらに、この緩衝装置は、軟質部および硬質部の圧縮量が多いとき、軟質部および筒部が径方向外側へ膨らみ過ぎるのを防止して硬いばね特性を確実に発揮できるよう、筒部の径方向外側に保持部材の筒状の壁部を位置させている。特許文献1に開示された技術では、この筒部と壁部との間に軸方向の略全長に亘って隙間が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、軟質部および硬質部の伸縮に伴って、径方向外側へ膨らんだ筒部が壁部に密着した後、筒部と壁部とが一気に離れるときに、その密着していた部分に勢いよく空気が入り込んだ衝撃によって異音が発生するという問題点がある。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、軟質部および硬質部の伸縮時の異音を発生し難くできる緩衝装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明の緩衝装置は、筒状の壁部と、前記壁部の軸方向の一端を塞ぐ底部とを有する保持部材と、前記壁部の径方向の内側に位置して前記底部に接触した状態で前記保持部材に保持される弾性体製の硬質部と、前記軸方向の第1端および第2端を有して前記第1端側が前記硬質部に保持されると共に前記硬質部よりも軟らかい弾性体製の軟質部と、を備え、前記硬質部は、前記底部と前記第1端との間に挟まれる基端部と、前記基端部から前記第2端側へ延びて前記軟質部の前記第1端側の一部の外周面と前記壁部との間に配置される筒部と、を備え、前記筒部の外周面は、前記軟質部および前記硬質部が前記軸方向に圧縮されていない状態において、前記壁部の内周面との間に隙間を設けて対面する第1面と、前記第1面よりも前記第2端側に位置して前記壁部の内周面に接触する第2面と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の緩衝装置によれば、軟質部および硬質部が圧縮されていない状態において、筒部の外周面の第1面と壁部の内周面との間に隙間が設けられているので、軟質部および硬質部を軸方向に圧縮するときに、筒部を壁部へ向かって膨らませることができる。これにより、軟質部および硬質部の圧縮変形時の荷重-撓み曲線の荷重の立ち上がりを緩やかにでき、緩衝装置の緩衝性能を確保できる。
【0009】
また、軸方向に圧縮された硬質部の筒部が径方向の外側へ膨らんで筒部の外周面と壁部の内周面とが密着した後、その圧縮が解除されたときには、圧縮前に隙間があった第1面と壁部とが一気に離れて空気が勢いよく入り込むことによって異音が発生する。また、その圧縮が解除されたときに、壁部の第2端側の端部を自由端として壁部が振動して異音が発生する。しかし、第1面よりも第2端側に位置する第2面と壁部とを接触させて隙間の体積を小さくできるので、その隙間に入る空気量を減らして異音を発生し難くできる。さらに、第2面と壁部とを接触させて壁部の振動を抑制できるので、その壁部の振動に起因した異音の発生を抑制できる。その結果、軟質部および硬質部の伸縮時の異音を発生し難くできる。
【0010】
請求項2記載の緩衝装置によれば、請求項1記載の緩衝装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。筒部の内周面から径方向の内側へ突出部が突出し、筒部のうち突出部よりも基端部側の部分に軟質部の嵌合部が嵌まることで、軟質部が硬質部に保持される。壁部に接触する第2面の少なくとも一部が、突出部を径方向の外側へ投影した領域に位置するので、突出部が径方向の外側へ広がり過ぎることを防止できる。これにより、突出部から嵌合部を抜け難くでき、硬質部に軟質部を保持した状態を維持し易くできる。
【0011】
請求項3記載の緩衝装置によれば、請求項1又は2に記載の緩衝装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。壁部の第2端側の端部は、壁部のうち第2面に接触した部分から径方向の外側へ湾曲する湾曲部である。この湾曲部よりも第2端側へ筒部が延びているので、圧縮変形に伴って径方向の外側へ広がった軟質部が壁部に当たることを筒部により防止しつつ、径方向の外側へ広がった筒部が壁部の第2端側の端部に食い込んで筒部の耐久性が低下することを湾曲部により防止できる。
【0012】
さらに、軟質部および硬質部の圧縮変形時には、径方向の外側へ湾曲する湾曲部と筒部とが径方向に強く密着し難いので、第2面よりも第2端側で筒部と壁部(湾曲部)とが接触した後に離れて異音が発生することを抑制できる。よって、軟質部および硬質部の耐久性を確保しつつ、軟質部および硬質部の伸縮時の異音を発生し難くできる。
【0013】
請求項4記載の緩衝装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の緩衝装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。壁部の内周面に接触する第2面が筒部の全周に亘って設けられている。これにより、軟質部および硬質部が軸方向に圧縮されるときに径方向外側へ膨らもうとする筒部によって、第2面よりも底部側の第1面と壁部との隙間の空気を圧縮できる。そして、軟質部および硬質部の圧縮が解除されるときには、第1面と壁部との間で圧縮されていた空気が再び膨張するので、第1面と壁部との隙間へ入る空気量をより減らすことができ、その空気の入り込みによる異音を発生し難くできる。その結果、軟質部および硬質部の伸縮時の異音をより発生し難くできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態における緩衝装置の断面図である。
【
図2】
図1のIIで示す部分を拡大して示した緩衝装置の部分拡大断面図である。
【
図3】第2実施形態における緩衝装置の部分拡大断面図である。
【
図4】第3実施形態における緩衝装置の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。
図1及び
図2を参照して第1実施形態における緩衝装置20、その緩衝装置20が取り付けられるマウント装置10及びショックアブソーバ1について説明する。
図1には、ショックアブソーバ1のピストンロッド4の中心軸Cを含む断面が示されている。
【0016】
図1に示すように、ショックアブソーバ1は、主に車輪(図示せず)と車体(図示せず)とを繋ぎ、車輪から車体への振動を緩衝するためのサスペンションの一部である。ショックアブソーバ1は、車体を支えつつ車輪からの衝撃を吸収するコイルスプリング(図示せず)の振動を減衰する。ショックアブソーバ1は、車輪側に取り付けられるシリンダ2と、シリンダ2の軸方向端面3から突出するピストンロッド4とを主に備える。ショックアブソーバ1は、車輪からの荷重入力に伴って、シリンダ2からのピストンロッド4の突出量が変化して伸縮し、振動を減衰する。
【0017】
ピストンロッド4はマウント装置10を介して車体に固定されている。マウント装置10は、ピストンロッド4の先端が挿入されて締結固定される円筒部11と、その円筒部11から径方向外側へ張り出す円板部12と、ゴムや熱可塑性エラストマなどの弾性体により形成されて円板部12の周囲を取り囲む弾性部13と、中心軸Cの軸方向の両側から弾性部13を挟む第1固定具14及び第2固定具15と、を備えている。
【0018】
第1固定具14及び第2固定具15は、車体側に固定される金属製の部材である。第1固定具14は、弾性部13に対してシリンダ2とは反対側に位置する板材である。第2固定具15は、弾性部13の外周面を囲む筒体と、その筒体の一端を塞いで弾性部13のシリンダ2側に接触する板部とを有している。その第2固定具15の板部の中央には、ピストンロッド4が通る貫通孔15aが設けられている。
【0019】
緩衝装置20は、マウント装置10の第2固定具15に取り付けられる保持部材21と、その保持部材21に保持される弾性体から形成される緩衝部材30と、を備えている。緩衝装置20は、ショックアブソーバ1の収縮時、シリンダ2の軸方向端面3とマウント装置10との間で緩衝部材30が圧縮されることによってシリンダ2(車輪側)からマウント装置10(車体側)へ伝達される衝撃を吸収する。緩衝装置20は、中心軸Cに関して軸対称に形成されている。よって、本実施形態では、中心軸Cの軸方向および軸直角方向をそれぞれ緩衝装置20の各部の軸方向および径方向として説明する。
【0020】
保持部材21は、緩衝部材30(硬質部35)よりも高剛性な(ヤング率が大きい)金属製の部材であり、カップ状に形成されている。保持部材21は、第2固定具15の板部のシリンダ2側に重ねて取り付けられる底部22と、その底部22の外周縁からシリンダ2側(後述の第2端31b側)へ延びる筒状の壁部23と、を備えている。
【0021】
底部22は、筒状の壁部23の軸方向の一端を塞ぐ略円環板状の部材であり、その中央をピストンロッド4が貫通する。底部22は、中心軸Cと略垂直に形成されている。底部22は、内周縁から第1固定具14側へ延びる筒体を貫通孔15aに挿入し、その筒体の先端を径方向外側へ曲げることで、第2固定具15に取り付けられている。
【0022】
壁部23は、内周面の一部を径方向内側へ曲げた被圧入部23aと、シリンダ2側の端部であって径方向外側へ湾曲する湾曲部23bと、を備えている。壁部23のうち被圧入部23a及び湾曲部23bを除いた部分が、底部22から離れるにつれて中心軸Cからの距離が次第に大きくなる略円錐筒状に形成され、中心軸Cを含む断面において内周面および外周面が略直線状に形成されている。
【0023】
被圧入部23aは、壁部23の略全周に亘って設けられる環状の部位である。被圧入部23aに緩衝部材30が圧入されることで、保持部材21に緩衝部材30が保持される。湾曲部23bは、壁部23のシリンダ2側の端部に緩衝部材30が押し付けられたときに、緩衝部材30を破損し難くするための部位である。
【0024】
緩衝部材30は、ピストンロッド4の外周を囲む筒状の弾性体であり、その軸方向に圧縮されて衝撃を吸収する。緩衝部材30は、軟質ウレタンフォーム等の軟質フォーム製の軟質部31と、軟質部31と保持部材21との間に介在されるゴム製の硬質部35と、を備えている。即ち、硬質部35よりも軟らかい弾性体により軟質部31が形成されている。なお、軟質部31の硬さや硬質部35の硬さは、JIS K6253-3:2012に準拠し、タイプAデュロメータを用いて測定する。但し、タイプAデュロメータを用いて測定した軟質部31の硬さ及び硬質部35の硬さの両方が20未満を示す場合は、タイプEデュロメータを用いて軟質部31の硬さと硬質部35の硬さとを比較する。
【0025】
軟質部31は、軸方向の第1端31a及び第2端31bを有する略円筒状の部位であり、第2端31bがシリンダ2の軸方向端面3と対向している。軟質部31は、第1端31a側の一部に嵌合部32を備える。嵌合部32は、第2端31b側から第1端31a側へ向かって外周面が段差状に広がった部分から第1端31aまでの部位である。
【0026】
軟質部31の内周面には、全周に亘って連続する複数の凹みが設けられている。また、軟質部31の外周面には、全周に亘って連続する複数の凹みが内周面の複数の凹みの間に設けられている。これらの凹みによって軟質部31を軸方向に折り畳むように圧縮変形させることができる。
【0027】
また、軟質部31の外周面には、全周に亘って連続する凹溝が複数の凹みよりも第2端31b側に形成されている。この凹溝には、軟質部31や硬質部35よりも硬い材質(例えば合成樹脂)から形成されたリング部材33が嵌められる。リング部材33は、軟質部31が軸方向に圧縮変形したときに、軟質部31の第2端31b側が径方向外側へ広がらないように軟質部31を径方向に拘束する。
【0028】
硬質部35は、カップ状の保持部材21の内側に嵌めて取り付けられるカップ状の部位である。硬質部35は、底部22と軟質部31の第1端31aとの間に軸方向に挟まれる基端部36と、基端部36から第2端31b側へ延びる筒部37と、を備えている。
【0029】
基端部36は、中央をピストンロッド4が貫通する円環状の厚板である。基端部36を被圧入部23aの内側に圧入し、基端部36を底部22に接触させることで、硬質部35が保持部材21に保持される。なお、基端部36の外周面と壁部23の内周面との間には、被圧入部23aの軸方向の両側に隙間が設けられている。
【0030】
筒部37の径方向寸法よりも基端部36の径方向寸法が大きいので、筒部37を径方向に圧縮したときの弾性力よりも、基端部36を径方向に圧入したときの弾性力の方が大きい。そのため、基端部36を被圧入部23aに圧入することで、筒部37を被圧入部23aに圧入する場合と比べて、保持部材21から硬質部35を外れ難くできる。
【0031】
筒部37は、基端部36の外周側から第2端31bへ向かって延びる円筒状の部位である。筒部37は、軟質部31の第1端31a側の一部の外周面に密着して、軟質部31の外周面と壁部23の内周面との間に配置される。筒部37の内周面には、径方向内側へ突出する突出部38が設けられている。筒部37に第1端31aから軟質部31を挿入し、筒部37のうち突出部38よりも基端部36側の部分に軟質部31の嵌合部32を嵌めることで、軟質部31が硬質部35に保持される。
【0032】
筒部37は、壁部23の湾曲部23bよりも第2端31b側へ延びている。そして、その筒部37の第2端31b側の先端には、シリンダ2の外周側まで延びる筒状のダストカバー39が一体成形されている。ダストカバー39は、ショックアブソーバ1へのダストの侵入を防ぐ部材である。
【0033】
筒部37の外周面は、緩衝部材30(軟質部31及び硬質部35)が圧縮されていない状態(以下、「非圧縮状態」と称す)において、壁部23との間に隙間Sを設けて対面する第1面37aと、第1面37aの第2端31b側に連なって壁部23の内周面と接触する第2面37bと、第2面37bよりも第2端31b側に位置して径方向外側へ張り出す第3面37cと、を備えている。
【0034】
第1面37aは、中心軸Cを含む断面において壁部23の内周面と略平行に形成され、基端部36の外周面に連なっている。第1面37aは、第2面37bよりも第2端31b側であって湾曲部23bの径方向内側にも僅かに設けられている。第2面37bは、第1面37aに対して隙間Sの分だけ径方向外側へ張り出すことで壁部23と接触し、筒部37の全周に亘って設けられている。
【0035】
第3面37cは、湾曲部23bと径方向に対面する第1面37aの第2端31b側に連なり、湾曲部23bと軸方向に対面する。硬質部35が軸方向に大きく圧縮されたときに、第3面37cが湾曲部23bに当たることで、硬質部35の圧縮変形を規制できる。
【0036】
以上のような緩衝装置20によれば、ショックアブソーバ1が収縮して底部22とシリンダ2との間で緩衝部材30が軸方向に圧縮されるとき、硬質部35よりも軟質部31が軟らかいので、まずは軟質部31が軸方向に圧縮され、軟質部31が所定量圧縮された後に硬質部35が圧縮される。さらに、軸方向に圧縮された軟質部31が径方向外側へ膨らむことを筒部37により規制でき、筒部37の径方向外側への膨らみを壁部23により規制できる。これらの結果、緩衝部材30の圧縮量が少ないときは、軟質部31の圧縮変形による軟らかいばね特性を発揮でき、その圧縮量が大きくなると、軟質部31及び硬質部35の圧縮変形による硬いばね特性を発揮できる。よって、緩衝部材30の圧縮変形時の衝撃を低減しつつ、緩衝部材30によりショックアブソーバ1の収縮を確実に規制できるので、車両の乗り心地を向上しつつ操縦安定性を確保できる。
【0037】
さらに、非圧縮状態において筒部37の第1面37aと壁部23との間に隙間Sがあるので、緩衝部材30の圧縮変形時、筒部37の第1面37aを壁部23へ向かって膨らませることができる。これにより、緩衝部材30の圧縮変形時の荷重-撓み曲線の荷重の立ち上がりを緩やかにでき、緩衝装置20の緩衝性能を確保できる。
【0038】
圧縮変形時に径方向外側へ膨らんだ筒部37の外周面と壁部23の内周面とが密着した後、その圧縮が解除されたときには、圧縮前(非圧縮状態)に隙間Sがあった第1面37aと壁部23とが一気に離れて空気が勢いよく入り込んで異音が発生する。また、圧縮が解除されたときに、壁部23の第2端31b側の端部(湾曲部23b)を自由端として壁部23が振動して異音が発生する。
【0039】
しかし、本実施形態では、第1面37aよりも第2端31b側に位置する第2面37bと壁部23とを接触させて隙間Sの体積を小さくできるので、その隙間Sに入る空気量を減らして異音を発生し難くできる。さらに、第2面37bと壁部23とを接触させて壁部23の振動を抑制できるので、その壁部23の振動に起因した異音の発生を抑制できる。その結果、緩衝部材30の伸縮時の異音を発生し難くできる。
【0040】
特に、壁部23に接触する第2面37bが筒部37の全周に亘って設けられているので、緩衝部材30の圧縮変形時に径方向外側へ膨らもうとする筒部37によって、第2面37bよりも底部22側の第1面37aと壁部23との間の隙間Sの空気を圧縮できる。そして、緩衝部材30の圧縮変形が解除されるときには、第1面37aと壁部23との間で圧縮されていた空気が再び膨張するので、第1面37aと壁部23との隙間Sに入る空気量をより減らすことができ、その空気の入り込みによる異音を発生し難くできる。その結果、緩衝部材30の伸縮時の異音をより発生し難くできる。
【0041】
壁部23と接触する第2面37bの一部は、突出部38を径方向外側へ投影した領域Aに位置する。これにより、緩衝部材30の圧縮変形時に突出部38が径方向外側へ広がり過ぎることを壁部23によって防止できる。これにより、突出部38から嵌合部32を抜け難くできるので、硬質部35に軟質部31を保持した状態を維持し易くできる。
【0042】
壁部23の第2端31b側の端部である湾曲部23bよりも第2端31b側へ筒部37が延びているので、緩衝部材30の圧縮変形に伴って径方向外側へ広がった軟質部31が壁部23に当たることを筒部37によって防止できる。軟らかい軟質部31が壁部23の端部に食い込んで軟質部31が破損することを防止できる。そして、湾曲部23bが径方向外側へ湾曲しているので、圧縮変形に伴って径方向外側へ膨らんだ比較的硬い筒部37を湾曲部23bに食い込み難くでき、筒部37を破損し難くできる。このようにして軟質部31及び硬質部35の耐久性を確保できる。
【0043】
さらに、緩衝部材30の圧縮変形時には、径方向外側へ湾曲する湾曲部23bと筒部37とが径方向に強く密着し難い。そして、湾曲部23bは、壁部23のうち第2面37bに接触した部分から径方向外側へ湾曲しているので、第2面37bよりも第2端31b側で筒部37と壁部23(湾曲部23b)とが接触した後に離れて異音が発生することを抑制できる。これにより、緩衝部材30の伸縮時の異音をより発生し難くできる。
【0044】
また、筒部37のうち第2面37bに接触した部分から第2端31b側の先端23cまでの軸方向の長さL2は、第2面37bの軸方向の長さL1よりも短い。これにより、第2面37bよりも第2端31b側における筒部37と壁部23との隙間の体積を小さくできるので、その隙間への空気の入り込みによる異音を発生し難くできる。
【0045】
さらに、筒部37の先端23cは、突出部38を径方向外側へ投影した領域A内に位置している。これにより、壁部23によって突出部38から嵌合部32を十分に抜け難くしつつ、筒部37のうち第2面37bに接触した部分から先端23cまでの軸方向の長さL2をより短くできる。その結果、硬質部35に軟質部31を保持した状態を維持し易くしつつ、緩衝部材30の伸縮時の異音をより発生し難くできる。
【0046】
第1面37aに対して隙間Sの分だけ径方向外側へ第2面37bが張り出し、壁部23の内周面のうち第2面37bが接触する部分と第1面37aが対面する部分とが、中心軸Cを含む断面において直線状に形成されている。このように壁部23が第2面37bに食い込んでないので、緩衝部材30の圧縮変形時に、壁部23の近傍における筒部37の軸方向の圧縮変形が、第2面37bに食い込んだ壁部23によって規制されることを防止できる。その結果、緩衝部材30の圧縮変形時の荷重-撓み曲線の荷重の立ち上がりをより緩やかにできる。
【0047】
次に
図3を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態では、第1面37aに対して第2面37bを径方向外側へ張り出させて第2面37bを壁部23に接触させる場合について説明した。これに対して第2実施形態では、壁部42を径方向内側へ突出させた凸部43を筒部46の第2面47に接触させる場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0048】
図3に示すように緩衝装置40は、マウント装置10(
図1参照)の第2固定具15に取り付けられる保持部材41と、その保持部材41に保持される弾性体から形成される緩衝部材44と、を備えている。保持部材41は、緩衝部材44の硬質部45よりも高剛性な金属製の部材であり、カップ状に形成されている。保持部材41は、第2固定具15に取り付けられる底部22と、その底部22の外周縁からシリンダ2側(
図3紙面下方)へ延びる筒状の壁部42と、を備えている。
【0049】
壁部42は、内周面の一部を径方向内側へ曲げた被圧入部23aと、シリンダ2側の端部であって径方向外側へ湾曲する湾曲部23bと、その湾曲部23bの底部22側に連なって内周面を径方向内側へ突出させる凸部43と、を備えている。壁部42のうち被圧入部23a、湾曲部23b及び凸部43を除いた部分が、底部22から離れるにつれて中心軸Cからの距離が次第に大きくなる略円錐筒状に形成され、中心軸Cを含む断面において内周面および外周面が略直線状に形成されている。凸部43は、壁部42の略全周に亘って設けられる環状の部位である。
【0050】
緩衝部材44の硬質部45の筒部46は、硬質部45の基端部36の外周側から第2端31b(
図3紙面下方)へ向かって延びる円筒状の部位であり、湾曲部23bよりも第2端31b側へ延びている。筒部46は、軟質部31の第1端31a側の一部の外周面に密着して、軟質部31の外周面と壁部42の内周面との間に配置される。筒部46の内周面から径方向内側へ突出する突出部38によって、硬質部45に軟質部31が保持されている。
【0051】
筒部46の外周面は、壁部42との間に隙間Sを設けて対面する第1面37aと、第1面37aの第2端31b側に連なって壁部42の凸部43の内周面と接触する第2面47と、第2面47よりも第2端31b側に位置して径方向外側へ張り出す第3面37cと、を備えている。
【0052】
中心軸Cを含む断面において、硬質部45を保持部材41に取り付けていない状態では、第1面37aと第2面47とが略直線状に形成される。凸部43の径方向内側への突出量が隙間Sの径方向寸法よりも大きいので、凸部43に筒部46が圧入されるようにして第2面47が凸部43と接触している。このように、被圧入部23aに基端部36を圧入するだけでなく、凸部43に筒部46を圧入しているので、保持部材41から硬質部45をより外れ難くできる。
【0053】
さらに、凸部43により径方向に予圧縮された第2面47の一部は、突出部38を径方向外側へ投影した領域Aに位置する。このように筒部46の領域Aの一部が径方向内側へ予圧縮されているので、緩衝部材44の圧縮変形時に突出部38を径方向外側へ広がり難くできる。その結果、突出部38から嵌合部32をより抜け難くできるので、硬質部45に軟質部31を保持した状態をより維持し易くできる。
【0054】
以上のような緩衝装置40によれば、第1実施形態と同様に、緩衝部材44の非圧縮状態において、筒部46の第1面37aが壁部42に接触せず、筒部46の第2面47が壁部42に接触しているので、緩衝装置40の緩衝性能を確保しつつ、緩衝部材44の伸縮時の異音を発生し難くできる。
【0055】
壁部42の凸部43により第2面47が径方向に予圧縮されているので、緩衝部材44の軸方向の圧縮が解除されて径方向への膨らみが元に戻るときの勢いによって第2面47と凸部43とが離れることを抑制できる。これにより、第2面47と凸部43とが離れて再び接触するときの打音を発生し難くできる。
【0056】
また、筒部46の全周に亘って第2面47が凸部43により予圧縮されているので、緩衝部材44の圧縮変形に伴って隙間S内で圧縮された空気を第2面47と凸部43との間から漏れ難くできる。これにより、緩衝部材44の圧縮変形が解除されたときに、隙間S内に空気を入り込み難くでき、その空気の入り込みによる異音の発生を抑制できる。その結果、緩衝部材44の伸縮時の異音をより発生し難くできる。
【0057】
次に
図4を参照して第3実施形態について説明する。第1,2実施形態では、被圧入部23aに基端部36を圧入して保持部材21,51に硬質部35,45を保持させる場合について説明した。これに対して第3実施形態では、被圧入部23aを省略して凸部43に筒部46を圧入して保持部材51に硬質部45を保持させる場合について説明する。なお、第1,2実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0058】
図4に示すように緩衝装置50は、マウント装置10(
図1参照)の第2固定具15に取り付けられる保持部材51と、その保持部材51に保持される弾性体から形成される緩衝部材44と、を備えている。保持部材51は、緩衝部材44の硬質部45よりも高剛性な金属製の部材であり、カップ状に形成されている。保持部材51は、第2固定具15に取り付けられる底部22と、その底部22の外周縁からシリンダ2側(
図4紙面下方)へ延びる筒状の壁部52と、を備えている。
【0059】
壁部52は、第2実施形態の壁部42から被圧入部23aを省略した以外は壁部42と同様に形成されている。即ち、壁部52は、底部22から凸部43までの部位が、底部22から離れるにつれて中心軸Cからの距離が次第に大きくなる略円錐筒状に形成され、中心軸Cを含む断面において内周面および外周面が略直線状に形成されている。壁部52の凸部43に筒部46を圧入することで、保持部材51に硬質部45が保持されている。言い換えると、凸部43に筒部46を圧入できるので、基端部36が圧入される被圧入部23aを省略できる。
【0060】
被圧入部23aを省略することで、第2面47よりも底部22側の硬質部45の外周面と壁部52の内周面との隙間Sを、底部22まで拡張できる。これにより、緩衝部材44の圧縮変形時、硬質部45を壁部52へ向かってより大きく膨らませることができるので、緩衝部材44の圧縮変形時の荷重-撓み曲線の荷重の立ち上がりをより緩やかにでき、緩衝装置50の緩衝性能を向上できる。
【0061】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、マウント装置10や保持部材21,41,51、緩衝部材30,44の各部の形状や寸法を適宜変更しても良い。硬質部35,45とは別に形成されたダストカバーを保持部材21,41,51等に取り付けても良い。
【0062】
上記形態では、ショックアブソーバ1のピストンロッド4に固定したマウント装置10に緩衝装置20,40,50を取り付ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。緩衝装置20,40,50をシリンダ2側に取り付け、そのシリンダ2とマウント装置10との間で緩衝部材30,44を圧縮変形させても良い。また、ショックアブソーバ1及びマウント装置10以外の2部材間(例えばリーフスプリングと車体との間)に緩衝装置20,40,50を配置して、その2部材間の衝撃を緩衝部材30,44によって吸収しても良い。特に、緩衝装置20,40,50を車輪側のシャシと車体との間に配置し、緩衝装置20,40,50によって車両の乗り心地を向上しつつ操縦安定性を確保できるようにすることが好ましい。なお、緩衝装置20,40,50の中央を貫通するものがなければ、軟質部31や基端部36、底部22の内周側を埋めても良い。
【0063】
上記形態では、軟質部31が軟質フォーム製であり、硬質部35,45がゴム製である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。硬質部35,45の弾性体よりも軟質部31の弾性体が柔らかければ、それらの弾性体の種類を適宜変更しても良い。例えば、軟質部31を熱可塑性エラストマや硬質ウレタンフォーム等を含む合成樹脂製、ゴム製などとしても良く、硬質部35,45を熱可塑性エラストマや硬質ウレタンフォーム等を含む合成樹脂製としても良い。また、保持部材21,41,51を、硬質部35,45よりも高剛性な(ヤング率が大きい)合成樹脂製にしても良い。
【0064】
上記形態では、壁部23,42,52の内周面に接触する第2面37b,47が筒部37,46の全周に亘って設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。壁部23,42,52の内周面に接触する1つの第2面を筒部37,46の周方向の一部に設けても良く、複数の第2面を筒部37,46の周方向に断続的に設けても良い。
【0065】
上記形態では、被圧入部23aや凸部43に硬質部35,45を圧入して保持部材21,41,51に硬質部35,45を保持させる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。底部22に基端部36を接着剤により接着して保持部材21,41,51に硬質部35,45を保持させても良い。
【符号の説明】
【0066】
20,40,50 緩衝装置
21,41,51 保持部材
22 底部
23,42,52 壁部
23b 湾曲部
31 軟質部
31a 第1端
31b 第2端
32 嵌合部
35,45 硬質部
36 基端部
37,46 筒部
37a 第1面
37b,47 第2面
38 突出部