(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】造形物の製造装置、造形物の製造方法、プログラム、接触式計測器
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20221223BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20221223BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221223BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20221223BHJP
B29C 64/386 20170101ALI20221223BHJP
B29C 64/209 20170101ALI20221223BHJP
B29C 64/141 20170101ALI20221223BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20221223BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20221223BHJP
G01B 5/20 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
B23K9/12 331J
B33Y30/00
B33Y10/00
B33Y50/00
B29C64/386
B29C64/209
B29C64/141
B23K9/12 331H
B23K31/00 M
B23K9/04 G
B23K9/04 Y
G01B5/20 C
(21)【出願番号】P 2019097286
(22)【出願日】2019-05-24
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/228919(WO,A1)
【文献】特開昭58-135406(JP,A)
【文献】米国特許第09329016(US,B1)
【文献】特開平02-263573(JP,A)
【文献】特開2007-155368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
B33Y 30/00
B33Y 10/00
B33Y 50/00
B29C 64/386
B29C 64/209
B29C 64/141
B23K 31/00
B23K 9/04
G01B 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動アームを制御指令に基づいて走査させるマニピュレータと、
前記可動アームの先端に取り付けられて、自身が保持するツールを交換可能なツールチェンジャと
を有し、
前記ツールチェンジャには、アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を供給しながらビードを積層する溶接トーチと、当該ビードに接触して当該ビード
の表面抵抗を計測する接触式計測器とが、少なくとも取り付け
られており、
前記接触式計測器は、前記ビードに接触する探針と当該探針を当該ビードに向けて押し付けるスプリングとを有するタッチセンサを、複数並べてなる計測部を有することを特徴とする造形物の製造装置。
【請求項2】
前記接触式計測器は、凹形状を呈し且つ前記計測部を保持する筐体をさらに有し、
前記筐体に設けられた凹部には、前記計測部を構成する複数の前記タッチセンサにおける探針の先端部側が突出するように配置されることを特徴とする請求項1記載の造形物の製造装置。
【請求項3】
前記計測部を構成する複数の前記タッチセンサが、二次元方向に配列されていることを特徴とする請求項1または2記載の造形物の製造装置。
【請求項4】
前記接触式計測器は、前記ビードの表面形状を計測することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の造形物の製造装置。
【請求項5】
前記接触式計測器を用いた前記ビードの計測結果に基づき、当該ビードの表面状態に関する二次元マップを作成するマップ作成部をさらに有することを特徴とする請求項
1乃至4
のいずれか1項記載の造形物の製造装置。
【請求項6】
マニピュレータに設けられた可動アームの先端に取り付けられた溶接トーチを用い、アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を供給しながらビードを積層する工程と、
前記可動アームの先端に取り付けられた前記溶接トーチを、前記ビードに接触して当該ビード
の表面抵抗を計測する接触式計測器に交換する工程と、
前記マニピュレータに設けられた前記可動アームの先端に取り付けられた前記接触式計測器を用い、前記ビードに接触して当該ビード
の表面抵抗を計測する工程と、
前記ビード
の表面抵抗の計測結果に基づき、当該ビードの表面状態に関する二次元マップを作成する工程と
を有する造形物の製造方法。
【請求項7】
コンピュータに、
マニピュレータに設けられた可動アームの先端に取り付けられた溶接トーチを用い、アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を供給しながらビードを積層させる機能と、
前記可動アームの先端に取り付けられた前記溶接トーチを、前記ビードに接触して当該ビード
の表面抵抗を計測する接触式計測器に交換させる機能と、
前記マニピュレータに設けられた前記可動アームの先端に取り付けられた前記接触式計測器を用い、前記ビードに接触して当該ビード
の表面抵抗を計測させる機能と、
前記ビードの計測結果に基づき、当該ビードの表面状態に関する二次元マップを作成する機能と
を実現させるプログラム。
【請求項8】
アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を供給しながら積層されたビードに接触する探針と、当該探針を当該ビードに向けて押し付けるスプリングと、を有するタッチセンサを、複数並べてなる計測部と、
凹形状を呈し且つ前記計測部を保持する筐体とを有し、
前記筐体に設けられた凹部には、前記計測部を構成する複数の前記タッチセンサにおける探針の先端部側が突出するように配置され
ており、前記ビードの表面抵抗を計測することを特徴とする接触式計測器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物の製造装置、造形物の製造方法、プログラム、接触式計測器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3Dプリンタの生産手段としてのニーズが高まっており、特に金属材料での適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料による3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
例えば特許文献1には、金型の形状を表現する形状データを生成する工程と、生成された形状データに基づいて、金型を等高線に沿った積層体に分割する工程と、得られた積層体の形状データに基づいて、溶加材を供給する溶接トーチの移動経路を作成する工程とを備える金型の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、アークを用いて溶加材を溶融および固化してなるビードを複数重ねた積層体を含む造形物を製造する場合、得られた造形物の形状等を検査したい、という要望がある。そして、従来にあっては、例えば製造現場にて造形物を製造した後、検査現場にてこの造形物の検査を行うようにしていた。
しかしながら、造形物の製造と検査とを異なる場所で行う場合、製造と検査との間に、造形物の搬送が必要となることから、結果として生産効率の低下を招くおそれがあった。
本発明は、アークを用いて溶加材を溶融および固化してなるビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造および検査における、生産効率の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明は、可動アームを制御指令に基づいて走査させるマニピュレータと、前記可動アームの先端に取り付けられて、自身が保持するツールを交換可能なツールチェンジャとを有し、前記ツールチェンジャには、アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を供給しながらビードを積層する溶接トーチと、当該ビードに接触して当該ビードを計測する接触式計測器とが、少なくとも取り付け可能であり、前記接触式計測器は、前記ビードに接触する探針と当該探針を当該ビードに向けて押し付けるスプリングとを有するタッチセンサを、複数並べてなる計測部を有することを特徴とする、造形物の製造装置を提供する。
ここで、前記接触式計測器は、凹形状を呈し且つ前記計測部を保持する筐体をさらに有し、前記筐体に設けられた凹部には、前記計測部を構成する複数の前記タッチセンサにおける探針の先端部側が突出するように配置される、ものとしてもよい。
また、前記計測部を構成する複数の前記タッチセンサが、二次元方向に配列されている、ものとしてもよい。
さらに、前記接触式計測器は、前記ビードの表面形状を計測する、ものとしてもよい。
さらにまた、前記接触式計測器は、前記ビードの表面抵抗を計測する、ものとしてもよい。
そして、前記接触式計測器を用いた前記ビードの計測結果に基づき、当該ビードの表面状態に関する二次元マップを作成するマップ作成部をさらに有する、ものとしてもよい。
【0007】
また、本発明は、マニピュレータに設けられた可動アームの先端に取り付けられた溶接トーチを用い、アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を供給しながらビードを積層する工程と、前記可動アームの先端に取り付けられた前記溶接トーチを、前記ビードに接触して当該ビードを計測する接触式計測器に交換する工程と、前記マニピュレータに設けられた前記可動アームの先端に取り付けられた前記接触式計測器を用い、前記ビードに接触して当該ビードを計測する工程と、前記ビードの計測結果に基づき、当該ビードの表面状態に関する二次元マップを作成する工程とを有する造形物の製造方法、を提供する。
【0008】
また、本発明は、コンピュータに、マニピュレータに設けられた可動アームの先端に取り付けられた溶接トーチを用い、アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を供給しながらビードを積層させる機能と、前記可動アームの先端に取り付けられた前記溶接トーチを、前記ビードに接触して当該ビードを計測する接触式計測器に交換させる機能と、前記マニピュレータに設けられた前記可動アームの先端に取り付けられた前記接触式計測器を用い、前記ビードに接触して当該ビードを計測させる機能と、前記ビードの計測結果に基づき、当該ビードの表面状態に関する二次元マップを作成する機能と、を実現させるプログラムを提供する。
【0009】
また、本発明は、アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を供給しながら積層されたビードに接触する探針と、当該探針を当該ビードに向けて押し付けるスプリングと、を有するタッチセンサを、複数並べてなる計測部と、凹形状を呈し且つ前記計測部を保持する筐体とを有し、前記筐体に設けられた凹部には、前記計測部を構成する複数の前記タッチセンサにおける探針の先端部側が突出するように配置されることを特徴とする、接触式計測器を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アークを用いて溶加材を溶融および固化してなるビードを複数重ねた積層体を含む造形物の製造および検査における、生産効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態における金属積層造形システムの概略構成例を示した図である。
【
図2】ロボット装置の概略構成を示した斜視図である。
【
図3】(a)、(b)は、接触式計測器の概略構成例を示した図である。
【
図4】接触式計測器の動作例を説明するための図である。
【
図6】計画作成装置のハードウェア構成例を示した図である。
【
図7】計画作成装置の機能構成例を示した図である。
【
図8】計画作成装置の動作例を示したフローチャートである。
【
図9】実施の形態1における積層造形装置の動作例を示したフローチャートである。
【
図10】(a)~(c)は、計画作成装置で用いられる各種データの概念を説明するための図である。
【
図11】(a)~(c)は、積層造形物の製造プロセス例を示した図である。
【
図12】(a)~(c)は、実施の形態1における積層造形物の計測プロセス例を示した図である。
【
図13】実施の形態2における積層造形装置の動作例を示したフローチャートである。
【
図14】(a)~(c)は、実施の形態2におけるビードの計測プロセス例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<実施の形態1>
[金属積層造形システム]
図1は、本発明の実施の形態における金属積層造形システム1の概略構成例を示した図である。
本実施の形態の金属積層造形システム1は、計画作成装置40と、積層造形装置60とを備える。これらのうち、計画作成装置40は、ビード121を順次積層することによって積層造形物120を形成する計画(以下では、「積層計画」と称する)に関する、制御プログラム等の作成を行う。また、積層造形装置60は、計画作成装置40が作成した、積層計画に関する制御プログラムに従って動作することで母材110上に積層造形物120を形成し、母材110と積層造形物120とを有する構造体100の製造を行う。そして、積層造形装置60は、ロボット装置10と、溶接トーチ20と、カメラ25と、制御装置30と、接触式計測器70と、工具交換装置80とを備える。この金属積層造形システム1では、計画作成装置40が、積層造形装置60を制御する制御プログラム等を、各種メモリカード等のリムーバブルな記録媒体50に書き込む。そして、積層造形装置60に設けられた制御装置30が、記録媒体50に書き込まれた制御プログラム等を読み出して実行する。
【0013】
また、金属積層造形システム1に設けられた計画作成装置40には、CAD(Computer Aided Design)装置2が接続されている。このCAD装置2は、コンピュータを用いて、造形物を三次元座標で表した設計を行うとともに、設計によって得られた三次元データ(以下では、「三次元CADデータ」と称する)を保持する機能を有している。なお、ここでは、CAD装置2が金属積層造形システム1の外部に設置されるものとして説明を行うが、金属積層造形システム1の内部にCAD装置2を設けてもかまわない。
【0014】
では次に、金属積層造形システム1を構成する積層造形装置60および計画作成装置40のそれぞれについて、説明を行う。
【0015】
(積層造形装置)
本実施の形態で用いた積層造形装置60は、基本的には、ガスシールドアーク溶接方式を採用したロボット溶接装置を転用したものとなっている。このため
図1に示す状態において、ロボット装置10には、溶接トーチ20が取り付けられている。なお、この積層造形装置60は、上述した構成要素の他に、シールドガスを供給するガス供給装置やワイヤ21を供給するワイヤ供給装置等をさらに有しているのであるが、ここではその詳細な説明を省略する。
【0016】
また、本実施の形態の積層造形装置60では、自身に設けられた工具交換装置80を用いて、ロボット装置10から溶接トーチ20を取り外すとともに、このロボット装置10に接触式計測器70を取り付けることと、その逆の動作を実行することとが可能となっている。そして、溶接トーチ20に代えて接触式計測器70を備えた積層造形装置60は、溶接トーチ20を用いて自身が製造したビード121、積層造形物120あるいは構造体100に接触してこれらの形状を計測する、三次元形状測定装置としても機能するようになっている。
【0017】
なお、以下の説明においては、ロボット装置10に溶接トーチ20が取り付けられた積層造形装置60のことを、『ロボット溶接装置』と称することがある。また、ロボット装置10に接触式計測器70が取り付けられた積層造形装置60のことを、『三次元形状測定装置』と称することがある。
【0018】
〔積層計画〕
では、積層造形装置60の具体的な構成を説明する前に、上述した積層計画について説明しておく。
本実施の形態の積層計画は、母材110上に、複数のビード121を順次積層することによって積層造形物120を製造する際に、溶接トーチ20を装着した積層造形装置60(ロボット溶接装置)で用いられる。また、「積層計画」は、ロボット装置10等に対して定められる「軌道計画」と、溶接トーチ20等に対して定められる「溶接計画」とを含んでいる。そして、「積層計画」に関連する制御プログラムは、上述したように、計画作成装置40が作成し、記録媒体50を介して積層造形装置60に設けられた制御装置30に伝達され、制御装置30が実行する。
【0019】
{軌道計画}
これらのうち、「軌道計画」は、積層造形物120の製造において各ビード121を形成する際に、溶接トーチ20に保持されたワイヤ21の先端部の移動軌跡を定めることを目的として、ロボット装置10等に対して設定される。
【0020】
{溶接計画}
これに対し、「溶接計画」は、積層造形物120の製造において各ビード121を形成する際に、溶接トーチ20に保持されたワイヤ21の溶接条件(アークのオンオフ、送給速度、溶接電流等)を定めることを目的として、溶接トーチ20等に対して設定される。そして、溶接計画は、上述した軌道計画と連関するようになっている。
【0021】
〔計測計画〕
一方、本実施の形態では、上述した積層計画にしたがって母材110上に積層造形物120を製造する際に、接触式計測器70を装着した積層造形装置60(三次元形状測定装置)を用いて、積層造形物120や積層造形物120を構成する各ビード121の形状等に関する測定を行う。本実施の形態の計測計画は、このような場合に、接触式計測器70を装着した積層造形装置60(三次元形状測定装置)で用いられる。そして、本実施の形態の「計測計画」は、上述した積層計画のうちの軌道計画に基づき、積層造形装置60に設けられた制御装置30が作成し且つ実行する。
【0022】
なお、本実施の形態(実施の形態1)では、複数のビード121を積層してなる積層造形物120の全体に対して、計測計画が定められる場合を例として説明を行う。また、次の実施の形態(実施の形態2)では、積層造形物120を構成する複数のビード121のそれぞれに対して、計測計画が定められる場合を例として説明を行う。
【0023】
〔ロボット装置〕
図2は、積層造形装置60に設けられたロボット装置10の概略構成を示した斜視図である。以下では、
図1に加えて
図2も参照しつつ、ロボット装置10の構成について説明を行う。
【0024】
本実施の形態のロボット装置10は、一般的な6つの駆動軸を有する6軸の垂直多関節ロボットであり、軌道計画に基づく制御指令を受けて動作する。ただし、ロボット装置10は垂直多関節ロボットに限られるものではなく、他の構成であってもかまわない。また、ロボット装置10が垂直多関節ロボットを採用する場合であっても、その軸数は、6軸に限定されるものではなく、5軸以下であってもよいし、7軸以上であってもかまわない。
【0025】
このロボット装置10は、床等の設置対象に固定される基部11と、基部11上で鉛直方向に沿った第1駆動軸S1回りに旋回可能に設けられた旋回部12と、水平方向に沿った第2駆動軸S2を介して一端部が旋回部12と連結され、第2駆動軸S2回りに回転可能な下腕部13とを備えている。また、ロボット装置10は、下腕部13の他端部に第2駆動軸S2と平行な第3駆動軸S3を介して接続された上腕部14と、上腕部14に設けられ、第4駆動軸S4によりアーム軸線回りに回転可能な手首旋回部15とを備えている。さらに、ロボット装置10は、手首旋回部15に第5駆動軸S5を介して接続される手首曲げ部16と、手首曲げ部16の先端に第6駆動軸S6を介して接続される手首回転部17とを備えている。このロボット装置10では、これら下腕部13、上腕部14、手首旋回部15、手首曲げ部16および手首回転部17が、多関節アーム(マニピュレータ)を構成している。また、手首回転部17等が、可動アームとして機能している。
【0026】
また、多関節アームの最先端軸となる手首回転部17には、所謂エンドエフェクタとして機能することで、溶接トーチ20を保持する保持部18が取り付けられている。そして、この保持部18には、工具交換装置80を用いることにより、溶接トーチ20に代えて接触式計測器70が取り付け可能となっている。したがって、本実施の形態のロボット装置10には、保持部18を介して、溶接トーチ20あるいは接触式計測器70のいずれか一方が、選択的に取り付けられるようになっている。また、手首回転部17には、カメラ25が取り付けられている。
【0027】
〔溶接トーチ〕
溶接トーチ20は、アルゴンガスや炭酸ガス等のシールドガスが供給される略筒状のシールドノズルと、シールドノズルの内部に配置されたコンタクトチップ(ともに図示せず)とを有している。そして、コンタクトチップには、送給されてくるワイヤ21が保持されるようになっている。この溶接トーチ20は、ワイヤ21を送給しつつ、シールドガスを流しながらアークを発生させてワイヤ21を溶融および固化させることで、母材110上に複数のビード121を形成且つ積層し、積層造形物120の形成を行うようになっている。なお、本実施の形態の金属積層造形システム1において、積層造形物120の形成に用いられる、溶加材の一例としてのワイヤ21については、積層造形物120に求められる機能や特性等に応じて、適宜選定することが可能である。そして、ここでは、ワイヤ21自身が電極且つ溶加材となる「溶極式」を例として説明を行うが、「非溶極式」を採用することも可能である。
【0028】
〔接触式計測器〕
図3は、接触式計測器70の概略構成例を示した図である。ここで、
図3(a)は、接触式計測器70を測定対象(例えば積層造形物120)側からみた正面図であり、
図3(b)は、
図3(a)のIIIB-IIIB断面図である。なお、
図3は、初期状態の接触式計測器70を示している。以下では、
図1に加えて
図3も参照しつつ、接触式計測器70の構成について説明を行う。
【0029】
接触式計測器70は、筐体71と、自身の一部が筐体71の内部に収容されるとともに他の一部が筐体71の外部に突出して配置され、測定対象の形状等を計測する計測部72とを有している。
【0030】
{筐体}
筐体71は、全体として円柱状を呈する本体部711と、本体部711における一方の円形面(測定対象と対峙する面)の周縁部から突出して設けられ、全体として円形の筒状を呈する側壁部712とを有している。そして、これら本体部711と側壁部712とによって、本体部711における一方の円形面側には、凹部713が形成されている。ここで、筐体71は、例えばステンレス等の金属やジルコニア等のセラミックス(無機材料)で構成することができる。また、筐体71における本体部711の内部には、それぞれが円柱状を呈する複数(25ヶ所)の内部空間711aが設けられている。なお、内部空間711aは、凹部713側からみたときに、5行×5列となるようにマトリクス状に配列されている。
【0031】
{計測部}
計測部72は、複数(25個)のタッチセンサ720を備えている。また、タッチセンサ720は、筐体71における凹部713の内側に、5行×5列となるように配置されている。そして、タッチセンサ720のうち、測定対象と近い先端側は、凹部713にて筐体71の外側に突出して配置されており、測定対象から遠い後端側は、筐体71に設けられた内部空間711aの内側に配置されている。
【0032】
{タッチセンサ}
タッチセンサ720は、先端側に設けられる探針721と、探針721の後端側に設けられるコイルスプリング722とを有している。そして、探針721は、筐体71における本体部711の内側と外側とに跨がって配置されており、コイルスプリング722は、筐体71における本体部711の内側すなわち内部空間711aに配置されている。
【0033】
探針721は、針状を呈し且つ先端側に位置する針状体721aと、筒状を呈し且つ針状体721aの後端側に位置し、針状体721aと一体化してなる筒状体721bとを有している。この探針721は、導電性を有する、例えばステンレス等の金属で構成することができる。そして、針状体721aの直径は例えばミリメートルオーダとすることができる。また、筒状体721bの内径は、コイルスプリング722の外径よりもわずかに大きいものとすることができ、筒状体721bの外径は、内部空間711aの内径よりもわずかに小さいものとすることができる。さらに、筒状体721bの先端側から後端側に向かう長さは、内部空間711aよりも短く(この例では3分の1程度)なっている。そして、探針721における針状体721aの先端側は、凹部713を介して側壁部712よりも先端側に突出している。これに対し、探針721における筒状体721bの全域は、内部空間711aに収容されている。
【0034】
コイルスプリング722は、螺旋状を呈する圧縮バネで構成されている。このコイルスプリング722も、導電性を有する、例えばステンレス等の金属で構成することができる。そして、コイルスプリング722の自由長さは、内部空間711aの長さよりも大きいものとすることができる。これにより、内部空間711aに収容されたコイルスプリング722は、その先端側が、探針721の筒状体721bにおける先端側の内面に突き当たり、また、その後端側が、内部空間711aにおける後端側の内面に突き当たることで、予め圧縮された状態となっている。
【0035】
なお、筐体71をステンレス等の金属で構成する場合、筐体71と各タッチセンサ720(探針721およびコイルスプリング722)とは、絶縁膜等を介して電気的に絶縁しておくことが望ましい。
【0036】
{接触式計測器の動作}
図4は、接触式計測器70の動作例を説明するための図である。なお、
図4は、接触式計測器70の筐体71に設けられた凹部713を、測定対象である、凹凸を有する積層造形物120に対峙させた状態を例示している。
【0037】
計測が開始されると、
図3(b)に示す初期状態にある接触式計測器70は、移動に伴って積層造形物120と対峙する位置まで移動し、例えば
図4に示す状態(動作状態)へと移行する。
【0038】
ここで、計測部72を構成する複数のタッチセンサ720のうちの1つに着目すると、このタッチセンサ720では、探針721における針状体721aの先端が、積層造形物120の表面に突き当たることによって、タッチセンサ720の後端側すなわち筒状体721bが設けられている側へと押される。このとき、探針721とともにタッチセンサ720を構成するコイルスプリング722は、探針721の図中上方への移動に伴い、その移動量に応じた長さだけ縮む。また、このとき、計測部72を構成する他のタッチセンサ720でも、それぞれに設けられた探針721が押し込まれることにより、対応するコイルスプリング722が縮む。そして、各々のタッチセンサ720において、探針721が押し込まれた長さあるいはコイルスプリング722が縮んだ長さを、電気的手法や光学的手法等を用いて検出する。それから、制御装置30が、これら各タッチセンサ720からの出力を用いて演算を行うことで、測定対象(ここでは積層造形物120)の表面形状を特定することができる。
【0039】
また、本実施の形態では、各タッチセンサ720を構成する探針721およびコイルスプリング722を、導電性を有する金属で構成している。このため、複数のタッチセンサ720によって構成される計測部72は、測定対象(ここでは積層造形物120)の表面抵抗(接触抵抗)を測定することも可能である。
【0040】
そして、計測が終了すると、例えば
図4に示す状態(動作状態)にある接触式計測器70は、移動に伴って積層造形物120と対峙しない位置まで移動し、再び
図3(b)に示す初期状態へと移行する。
【0041】
ここで、計測部72を構成する複数のタッチセンサ720のうちの1つに着目すると、このタッチセンサ720では、探針721における針状体721aの先端が、積層造形物120の表面に突き当たらなくなる。このとき、探針721とともにタッチセンサ720を構成するコイルスプリング722が、その復元力により、探針721を先端側に向かって押す。ただし、探針721に設けられた筒状体721bの先端側が、内部空間711aにおける先端側の面に突き当たることにより、探針721の先端側への移動は停止し、コイルスプリング722も、それ以上は伸びなくなる。これにより、接触式計測器70は、
図3(b)等に示す初期状態へと戻ることになる。
【0042】
では、
図1に戻って説明を続ける。
〔カメラ〕
カメラ25は、CCDやCMOS等の撮像デバイスを有しており、この例では、赤外画像を撮影できるようになっている。そして、カメラ25は、ロボット装置10の最先端に位置する手首回転部17に取り付けられており、溶接トーチ20(あるいは接触式計測器70)に追従して動くことにより、溶接トーチ20から突出するワイヤ21の先端部の周辺の画像(あるいは接触式計測器70の先端側の周辺の画像)を撮影するようになっている。
【0043】
〔工具交換装置〕
ツールチェンジャの一例としての工具交換装置80は、溶接トーチ20および接触式計測器70を一時的に設置するための架台(図示せず)を備えている。そして、工具交換装置80は、各種リニアガイドやエアチャック等(図示せず)を用いて、ロボット装置10に対する溶接トーチ20および接触式計測器70の取り付けおよび取り外しを行うようになっている。
【0044】
〔制御装置〕
図5は、積層造形装置60に設けられた制御装置30の機能構成例を示した図である。以下では、
図1に加えて
図5も参照しつつ、制御装置30の構成について説明を行う。
【0045】
本実施の形態の制御装置30は、受付部301と、全体制御部302と、ロボット制御部303と、溶接制御部304と、カメラ制御部305と、計測制御部306と、交換制御部307とを有している。
【0046】
{受付部}
受付部301は、計画作成装置40から、記録媒体50を介して、積層造形装置60を構成する、ロボット装置10等を動作させるための制御プログラム等を含む出力データの入力を受け付ける。
【0047】
{全体制御部}
全体制御部302は、受付部301が受け付けた制御プログラム(積層計画に対応)、あるいは、自身が作成した他の制御プログラム(計測計画に対応)にしたがい、ロボット装置10等を動作させるための全体的な制御を行う。
【0048】
{ロボット制御部}
ロボット制御部303は、全体制御部302による制御のもと、ロボット装置10を構成する各部を動作させることにより、保持部18に保持された溶接トーチ20(あるいは接触式計測器70)の位置制御および姿勢制御等を行う。
【0049】
{溶接制御部}
溶接制御部304は、全体制御部302による制御のもと、溶接トーチ20に対する給電動作、ワイヤ送給動作およびガス供給動作等に関する制御を行う。
【0050】
{カメラ制御部}
カメラ制御部305は、全体制御部302による制御のもと、カメラ25による撮影動作に関する制御を行う。
【0051】
{計測制御部}
計測制御部306は、全体制御部302による制御のもと、接触式計測器70の動作に関する制御を行う。
【0052】
{交換制御部}
交換制御部307は、全体制御部302による制御のもと、ロボット装置10に取り付ける溶接トーチ20および接触式計測器70の交換に関する制御を行う。
【0053】
(計画作成装置)
続いて、計画作成装置40の詳細について説明を行う。
【0054】
〔ハードウェア構成〕
図6は、本実施の形態における計画作成装置40のハードウェア構成例を示した図である。
本実施の形態の計画作成装置40は、例えば汎用のPC(Personal Computer)等により実現される。なお、具体的な説明は行わなかったが、積層造形装置60に設けられた制御装置30も、以下に説明する計画作成装置40と同様のハードウェア構成を有している。
【0055】
この計画作成装置40は、OSや各種アプリケーション等のプログラムを読み出して実行するCPU(Central Processing Unit)41と、CPU41が実行するプログラムやプログラムを実行する際に使用するデータ等を記憶するROM(Read Only Memory)42と、プログラムを実行する際に一時的に生成されるデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)43とを備えている。また、計画作成装置40は、各種プログラムや各種データ等を記憶するHDD(Hard Disk Drive)44と、計画作成装置40の外部に設けられたCAD装置2や制御装置30等の機器との間でデータの送受信を行うNIC(Network Interface Card)45と、操作者からの入力を受け付ける入力装置46と、表示画面に画像を表示する表示装置47と、これらを接続するバス48とをさらに備えている。そして、計画作成装置40に設けられたCPU41が実行するプログラムは、予めROM42やHDD44に記憶させておく形態の他、例えばCD-ROM等の記憶媒体に格納してCPU41に提供したり、あるいは、ネットワーク(図示せず)を介してCPU41に提供したりすることも可能である。
【0056】
〔機能構成〕
図7は、本実施の形態の計画作成装置40の機能構成例を示した図である。
本実施の形態の計画作成装置40は、取得部401と、変換部402と、切断部403と、分割部404と、作成部405と、付加部406と、出力部407とを有している。以下では、
図1に加えて
図7も参照しつつ、計画作成装置40の構成について説明を行う。
【0057】
{取得部}
取得部401は、CAD装置2から、積層造形物120のもととなる造形物の三次元CADデータD3d(後述する
図10(a)も参照)を取得する。
【0058】
{変換部}
変換部402は、取得部401から受け取った三次元CADデータD3dを、計画作成装置40での各種データ加工に用いられる内部データDiに変換する。
【0059】
{切断部}
切断部403は、変換部402から受け取った内部データDiを、複数の層の積層体となるように切断(スライス)することで、層形状データDs(具体的には、1層目の層形状データDs(1)~n層目の層形状データDs(n)を含むn層分のデータ:後述する
図10(b)も参照)を作成する。
【0060】
{分割部}
分割部404は、切断部403から受け取った層形状データDsに対し、層毎に分割点を設定することで、分割済層形状データDd(具体的には、1層目の分割済層形状データDd(1)~n層目の分割済層形状データDd(n)を含むn層分のデータ:後述する
図10(c)も参照)を作成する。
【0061】
{作成部}
作成部405は、分割部404が作成した分割済層形状データDdに基づき、積層造形装置60の制御装置30が積層造形物120を製造する際に実行する、制御プログラムで使用される制御データDcを作成する。
【0062】
{付加部}
付加部406は、制御装置30が実行する制御プログラムに、分割部404から受け取った分割済層形状データDdと、作成部405から受け取った制御データDcとを付加することで、出力データDoを作成する。
【0063】
{出力部}
出力部407は、付加部406から受け取った出力データDoを、記録媒体50に書き込むことによって出力する。
【0064】
[構造体]
ここで、
図1等を参照しながら、本実施の形態の金属積層造形システム1によって製造される構造体100に関する説明を行っておく。
本実施の形態の構造体100は、積層対象となる母材110と、ワイヤ21を用いて母材110上に形成される積層造形物120とを備えている。
図1に示す例において、母材110は、矩形状(板状)を呈するとともに、その表面が鉛直上方を向くように配置されている。また、
図1に示す例において、積層造形物120は、円筒状を呈するとともに、母材110の表面に、自身に設けられた開口部が鉛直上方を向くように形成されている。
【0065】
なお、本実施の形態では、母材110と積層造形物120とを含む構造体100が、最終的な製品となることがある。また、構造体100から母材110を取り除くことで得られた積層造形物120が、最終的な製品となることもある。さらに、いずれの場合においても、積層造形物120に切削加工を含む各種機械加工を施した加工物が、最終的な製品となることがある。
【0066】
(母材)
母材110は、積層造形物120の土台となるものである。母材110には、所謂溶接プロセスによる積層造形物120の形成が可能な金属材を用いることができる。また、積層造形時の安定性の確保等を考慮すれば、積層造形物120として、
図1に示すような板材を使用することが望ましい。
【0067】
(積層造形物)
積層造形物120は、それぞれがワイヤ21を溶融・固化してなる複数のビード121を、鉛直方向上側に向かって積み重ねた構造を有している。そして、
図1に示す積層造形物120では、n層のビード121(具体的は、1層目のビード121(1)~n層目のビード121(n))を積み重ねることによって、積層造形物120が構成されている。
【0068】
[金属積層造形システムの動作]
続いて、本実施の形態の金属積層造形システム1の動作について説明を行う。
本実施の形態の金属積層造形システム1では、まず、計画作成装置40が、積層造形物120の形成で使用する、制御プログラムおよび各種データを含む出力データDo(積層計画に対応)の作成を行うとともに、作成した出力データDoを記録媒体50に書き込む。そして、積層造形装置60が、記録媒体50から読み出した出力データDoに含まれる制御プログラムおよび各種データにしたがって動作し、溶接トーチ20(ワイヤ21)を用いた母材110上へのビード121(積層造形物120)の形成を行う。また、積層造形装置60は、上記出力データDoに基づいて、積層造形物120の計測で使用する、他の制御プログラムおよび各種データを含む検査用データ(計測計画に対応)を作成する。そして、積層造形装置60は、作成した他の制御プログラムおよび各種データにしたがって動作し、接触式計測器70を用いた積層造形物120の計測を行う。そこで、以下では、最初に計画作成装置40の動作について説明を行い、続いて積層造形装置60の動作について説明を行う。
【0069】
(計画作成装置の動作)
図8は、計画作成装置40の動作例を示したフローチャートである。なお、ここでは、これから製造しようとする積層造形物120のもととなる造形物に関する三次元CADデータD3dが、既にCAD装置2によって作成されているものとする。
【0070】
計画作成装置40の動作が開始すると、まず、取得部401が、CAD装置2から三次元CADデータD3dを取得する(ステップ10)。
【0071】
次に、変換部402が、取得部401から受け取った三次元CADデータD3dを、内部データDiに変換する(ステップ20)。
【0072】
続いて、切断部403が、変換部402から受け取った内部データDiを用いて、層形状データDsを作成する(ステップ30)。
【0073】
さらに、分割部404が、切断部403から受け取った層形状データDsを用いて、分割済層形状データDdを作成する(ステップ40)。
【0074】
また、作成部405が、分割部404が作成した分割済層形状データDdを用いて、制御データDcを作成する(ステップ50)。
【0075】
また、付加部406が、積層造形装置60の制御装置30が実行する制御プログラムと、分割部404から受け取った分割済層形状データDdと、作成部405から受け取った制御データDcとを用いて、出力データDoを作成する(ステップ60)。
【0076】
そして、出力部407が、付加部406から受け取った出力データDoを、記録媒体50に書き込むことによって出力する(ステップ70)。
以上により、計画作成装置40の動作が完了する。
【0077】
(積層造形装置の動作)
図9は、実施の形態1における積層造形装置60の動作例を示したフローチャートである。なお、
図9に示す手順に従って積層造形装置60が動作を開始する前に、ロボット装置10の周辺のうちの予め定められた位置には、母材110が固定された状態で位置決めされているものとする。また、
図9に示す手順に従って積層造形装置60が動作を開始する前に、ロボット装置10には溶接トーチ20が取り付けられているものとする。すなわち、初期状態では、積層造形装置60が「ロボット溶接装置」に設定されているものとする。このとき、接触式計測器70は、工具交換装置80に設けられた架台(図示せず)に、交換可能な状態で配置されている。
【0078】
積層造形装置60(ロボット溶接装置)が動作を開始すると、まず、受付部301が、記録媒体50から読み出された、出力データDoの入力を受け付ける(ステップ110)。
【0079】
次に、全体制御部302は、ステップ110で受け取った出力データDoに含まれる制御プログラムを、同じくステップ110で受け取った出力データDoに含まれる各種データ(分割済層形状データDdおよび制御データDc)を参照しながら実行する。また、全体制御部302は、変数xを1に設定する(ステップ120)。
【0080】
続いて、全体制御部302は、x層目(最初は1層目)のビード121(x)を形成するための指示(以下では「層形成指示」と称する)を作成し、ロボット制御部303および溶接制御部304へと出力する(ステップ130)。すると、ロボット装置10および溶接トーチ20は、層形成指示に基づいて協働して動作し、母材110上あるいは母材110に既に形成済となっているビード121(x-1)上に、x層目のビード121(x)の形成を行う。
【0081】
それから、全体制御部302は、変数xが積層造形物120の総層数nと等しくなったか否かを判断する(ステップ140)。
【0082】
ステップ140で否定の判断(No)を行った場合、全体制御部302は、変数xをx+1に更新し(ステップ150)、ステップ130に戻って次の層に関する処理を続行する。
【0083】
一方、ステップ140で肯定の判断(Yes)を行った場合、すなわち、n層のビード121を積層することで、母材110上に対する積層造形物120の形成が完了している場合、全体制御部302は、溶接トーチ20を接触式計測器70に交換するための指示(以下では、「交換指示」と称する)を作成し、ロボット制御部303および交換制御部307へと出力する(ステップ160)。すると、ロボット装置10および工具交換装置80は、交換指示に基づいて協働して動作し、ロボット装置10が保持していた溶接トーチ20を取り外すとともに、このロボット装置10に対する接触式計測器70の取り付けを行う。すなわち、溶接トーチ20と接触式計測器70とを交換することで、積層造形装置60は、「ロボット溶接装置」から、「三次元形状測定装置」へと変身する。なお、このとき、ロボット装置10から取り外された溶接トーチ20は、工具交換装置80に設けられた架台(図示せず)に、交換可能な状態で設置される。
【0084】
次いで、全体制御部302は、ステップ110で受け付けた出力データDoに含まれる分割済層形状データDdに基づき、積層造形物120の形状等を計測するための他の制御プログラムを作成するとともに実行する。これに伴い、全体制御部302は、積層造形物120を計測するための指示(以下では「全体計測指示」と称する)を作成し、ロボット制御部303および計測制御部306へと出力する(ステップ170)。すると、ロボット装置10および接触式計測器70は、全体計測指示に基づいて協働して動作し、接触式計測器70が母材110上に形成された積層造形物120に接触して、積層造形物120の計測を行う。そして、制御装置30は、接触式計測器70による計測結果に基づき、積層造形物120の形状等の解析を行い、得られた解析結果を出力する。
【0085】
それから、全体制御部302は、今度は、接触式計測器70を溶接トーチ20に交換するための指示(以下では、「逆交換指示」と称する)を作成し、ロボット制御部303および交換制御部307へと出力する(ステップ180)。すると、ロボット装置10および工具交換装置80は、逆交換指示に基づいて協働して動作し、ロボット装置10が保持していた接触式計測器70を取り外すとともに、このロボット装置10に対する溶接トーチ20の取り付けを行う。すなわち、接触式計測器70と溶接トーチ20とを交換することで、積層造形装置60は、「三次元形状測定装置」から、「ロボット溶接装置」へと変身する。なお、このとき、ロボット装置10から取り外された接触式計測器70は、工具交換装置80に設けられた架台(図示せず)に、交換可能な状態で設置される。これにより、積層造形装置60の動作が完了する。
【0086】
[具体例]
では、上述した金属積層造形システム1を用いた構造体100の製造に関し、具体的な例を挙げて説明を行う。なお、ここでは、
図1に示したように、矩形状を呈する母材110上に、円筒状を呈する積層造形物120を形成することで、構造体100を製造する場合を例とする。
【0087】
(各種データ)
最初に、積層造形物120の製造に用いられる、各種データに関する説明を行う。
図10(a)~(c)は、積層造形物120の製造に際して、計画作成装置40で用いられる各種データの概念を説明するための図である。なお、ここで説明する各種データは、実際には、バイナリ形式やアスキー形式等によって表現されるものであるが、ここでは、理解を助けるために模式的な表記を行っている。そして、
図10(a)~(c)では、各データの全体を三次元形状(斜視図)として表記している。
【0088】
〔三次元形状データ〕
図10(a)は、三次元CADデータD3dの一例を示している。
図10(a)に示す三次元CADデータD3dは、上述したように、CAD装置2が作成し、計画作成装置40の取得部401が取得する。なお、ここには記載していないが、計画作成装置40の変換部402が作成する内部データDiも、表現形式が異なるだけで、表現しようとする形状そのものは、三次元CADデータD3dと同じである。
【0089】
〔層形状データ〕
図10(b)は、層形状データDsの一例を示している。
図10(b)に示す層形状データDsは、上述したように、計画作成装置40の切断部403が作成する。そして、この例では、層形状データDsが、1層目の層形状データDs(1)~n層目の層形状データDs(n)を含むn層構成となっている。また、1層目の層形状データDs(1)~n層目の層形状データDs(n)は、もととなる三次元CADデータD3d(内部データDi)が円筒状を呈していることに対応して、それぞれが円環状を呈するようになっている。
【0090】
〔分割済層形状データ〕
図10(c)は、分割済層形状データDdの一例を示している。
図10(c)に示す分割済層形状データDdは、上述したように、計画作成装置40の分割部404が作成する。また、この例では、もととなる層形状データDsがn層構成となっていることから、分割済層形状データDdも、1層目の分割済層形状データDd(1)~n層目の分割済層形状データDd(n)を含むn層構成となっている。そして、1層目の分割済層形状データDd(1)~n層目の分割済層形状データDd(n)は、それぞれのもととなる1層目の層形状データDs(1)~n層目の層形状データDs(n)が円環状を呈していることに対応して、円環状を呈するようになっている。
【0091】
また、1層目の分割済層形状データDd(1)~n層目の分割済層形状データDd(n)では、もととなる1層目の層形状データDs(1)~n層目の層形状データDs(n)に対し、周上の一箇所に分割点Pdが設定されている。そして、分割点Pdが設定された1層目の分割済層形状データDd(1)~n層目の分割済層形状データDd(n)のそれぞれでは、分割点Pdの前後を始点および終点とすることにより、始点から終点に至るまで、分割点Pdを通ることなく、1パス(所謂一筆書き)で表現できる状態となっている。なお、この例では、1層目の分割済層形状データDd(1)~n層目の分割済層形状データDd(n)のそれぞれにおける分割点Pdは、鉛直上方からみたときに重なるように配置されている。
【0092】
(構造体)
続いて、積層造形物120を含む構造体100の製造および計測について説明を行う。そして、ここでは、最初に、ロボット装置10に溶接トーチ20を取り付けた積層造形装置60(ロボット溶接装置)による、積層造形物120の造形動作について説明を行い、続いて、ロボット装置10に接触式計測器70を取り付けた積層造形装置60(三次元形状測定装置)による、積層造形物120の計測動作について説明を行う。
なお、ここでは、積層造形物120を構成するビード121の総層数が、5(n=5)である場合、換言すれば、1層目のビード121(1)~5層目のビード121(5)を順次積層することによって、積層造形物120を製造する場合を例とする。
【0093】
〔造形動作〕
まず、ロボット溶接装置を用いた造形動作について説明を行う。
図11は、積層造形物120の製造プロセス例を示した図である。
【0094】
{1層目のビードの形成}
図11(a)は、1層目の分割済層形状データDd(1)に基づき、母材110上に、1層目のビード121(1)を形成した後の状態を示す斜視図である。
ここでは、1層目の分割済層形状データDd(1)を用いて、溶接トーチ20を保持したロボット装置10を駆動することにより、溶接トーチ20に保持されたワイヤ21を、母材110上で移動させる。これに伴い、母材110上には、
図11(a)に示すように、略円環状を呈する1層目のビード121(1)が形成(積層)される。
【0095】
{2層目のビードの形成}
図11(b)は、2層目の分割済層形状データDd(2)に基づき、1層目のビード121(1)上に、2層目のビード121(2)を形成した後の状態を示す斜視図である。
ここでは、2層目の分割済層形状データDd(2)を用いて、溶接トーチ20を保持したロボット装置10を駆動することにより、溶接トーチ20に保持されたワイヤ21を、1層目のビード121(1)上で移動させる。これに伴い、略円環状を呈する1層目のビード121(1)上には、
図11(b)に示すように、略円環状を呈する2層目のビード121(2)が形成(積層)される。
【0096】
以降、同様の手順で、3層目のビード121(3)、4層目のビード121(4)および5層目のビード121(5)の積層が行われる。
【0097】
{n層目(n=5)のビードの形成}
図11(c)は、5層目の分割済層形状データDd(5)に基づき、4層目のビード121(4)上に、最終層となる5層目のビード121(5)を形成した後の状態、すなわち、母材110上に積層造形物120を形成した後の状態を示す斜視図である。
ここでは、5層目の分割済層形状データDd(5)を用いて、溶接トーチ20を保持したロボット装置10を駆動することにより、溶接トーチ20に保持されたワイヤ21を、4層目のビード121(4)上で移動させる。これに伴い、略円環状を呈する4層目のビード121(4)上には、
図11(c)に示すように、略円環状を呈する5層目のビード121(5)が形成(積層)される。
【0098】
〔計測動作〕
次に、三次元形状測定装置を用いた計測動作について説明を行う。
図12は、実施の形態1における積層造形物120の計測プロセス例を示した図である。
【0099】
{各ビードの形成経路}
図12(a)は、
図11に示す積層造形物120の製造プロセスにおける、1層目のビード121(1)~5層目のビード121(5)の形成経路Rfを説明するための図である。
ここで、形成経路Rfは、分割済層形状データDd(
図10(c)参照)に基づいて作成されるものであって、軌道計画に対応するものである。より具体的に説明すると、形成経路Rfは、溶接トーチ20を保持するロボット装置10を用いた、ワイヤ21の先端部の移動軌跡に対応している。
図12(a)に示す例では、1層目のビード121(1)~5層目のビード121(5)のそれぞれに対応して、1層目の形成経路Rf(1)~5層目の形成経路Rf(5)が設定されている。より具体的に説明すると、例えば、1層目の分割済層形状データDd(1)に対応して1層目の形成経路Rf(1)が設定され、この1層目の形成経路Rf(1)に沿って1層目のビード121(1)が形成される、ということになる。そして、1層目の形成経路Rf(1)~5層目の形成経路Rf(5)では、それぞれの始点から終点に向かう、図中一点鎖線矢印で示す方向に沿って、ワイヤ21の先端部が移動していくことになる。
【0100】
{測定経路の第1の例}
図12(b)は、
図11に示す積層造形物120の計測プロセスにおける、測定経路Rmの第1の例を説明するための図である。
ここで、測定経路Rmは、上記形成経路Rfと同じく、分割済層形状データDd(
図10(c)参照)に基づいて作成されるものである。特に、この第1の例では、測定経路Rmを、上記形成経路Rfと同じになるように設定している。より具体的に説明すると、
図12(b)に示す例では、1層目の形成経路Rf(1)~5層目の形成経路Rf(5)のそれぞれに対応して、1層目の測定経路Rm(1)~5層目の測定経路Rm(5)が設定されている。ここで、本実施の形態では、ロボット溶接装置を用いて積層造形物120を形成した後に、三次元形状測定装置を用いて積層造形物120を計測する、という手順を採用している。このため、溶接トーチ20を用いて積層造形物120を形成するときと、接触式計測器70を用いて積層造形物120を計測するときとで、ロボット装置10がとるべき姿勢を異ならせた方がよい場合があり得る。このため、制御装置30は、形成経路Rfと測定経路Rmとが共通であっても、ロボット装置10の姿勢制御に関するプログラムは、両者で異ならせておくことが望ましい。
【0101】
{測定経路の第2の例}
図12(c)は、
図11に示す積層造形物120の計測プロセスにおける、測定経路Rmの第2の例を説明するための図である。
ここで、測定経路Rmは、上記形成経路Rfと同じく、分割済層形状データDd(
図10(c)参照)に基づいて作成されるものである。ただし、この第2の例では、上記第1の例とは異なり、測定経路Rmを、上記形成経路Rfとは異なるように設定している。より具体的に説明すると、
図12(c)に示す例では、1層目の形成経路Rf(1)~5層目の形成経路Rf(5)とは無関係に、測定経路Rmが設定されている。そして、この例では、もととなる分割済層形状データDdから、積層造形物120の形状の推定を行い、得られた推定結果に基づき、その外周面の全面を上下方向および周方向に沿って順次なぞっていくように、測定経路Rmを設定している。この場合は、形成経路Rfと測定経路Rmとがそれぞれ固有なものとなるため、ロボット装置10の姿勢制御に関するプログラムは、両者で異なることになる。
【0102】
<実施の形態2>
実施の形態1では、溶接トーチ20を取り付けた積層造形装置60(ロボット溶接装置)を用いて、複数のビード121を積層してなる積層造形物120の製造を行った後、溶接トーチ20に代えて接触式計測器70を取り付けた積層造形装置60(三次元形状測定装置)を用いて、積層造形物120の計測を行っていた。これに対し、本実施の形態では、ロボット溶接装置を用いて1層分のビード121の形成を行った後、三次元形状測定装置を用いてこのビード121の計測を行う、という工程を交互に繰り返し実行するようにしたものである。なお、本実施の形態において、実施の形態1と同様のものについては、同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0103】
[金属積層造形システムの動作]
続いて、本実施の形態の金属積層造形システム1の動作について説明を行う。
本実施の形態の場合、計画作成装置40の動作は、基本的に実施の形態1と同じである。これに対し、積層造形装置60の動作は、実施の形態1と異なる。そこで、ここでは、最初に実行される計画作成装置40の動作については説明を省略し、続いて実行される積層造形装置60の動作についての説明を行う。
【0104】
(積層造形装置の動作)
図13は、実施の形態2における積層造形装置60の動作例を示したフローチャートである。なお、
図13に示す手順に従って積層造形装置60が動作を開始する前に、ロボット装置10の周辺のうちの予め定められた位置には、母材110が固定された状態で位置決めされているものとする。また、初期状態では、積層造形装置60が「ロボット溶接装置」に設定されているものとする。
【0105】
積層造形装置60(ロボット溶接装置)が動作を開始すると、まず、受付部301が、記録媒体50から読み出された、出力データDoの入力を受け付ける(ステップ210)。
【0106】
次に、全体制御部302は、ステップ210で受け取った出力データDoに含まれる制御プログラムを、同じくステップ210で受け取った出力データDoに含まれる各種データ(分割済層形状データDdおよび制御データDc)を参照しながら実行する。また、全体制御部302は、変数xを1に設定する(ステップ220)。
【0107】
続いて、全体制御部302は、x層目(最初は1層目)のビード121(x)を形成するための指示(層形成指示)を作成し、ロボット制御部303および溶接制御部304へと出力する(ステップ230)。すると、ロボット装置10および溶接トーチ20は、層形成指示に基づいて協働して動作し、母材110上あるいは母材110に既に形成済となっているビード121(x-1)上に、x層目のビード121(x)の形成を行う。
【0108】
その後、全体制御部302は、溶接トーチ20を接触式計測器70に交換するための指示(交換指示)を作成し、ロボット制御部303および交換制御部307へと出力する(ステップ240)。すると、ロボット装置10および工具交換装置80は、交換指示に基づいて協働して動作し、ロボット装置10が保持していた溶接トーチ20を取り外すとともに、このロボット装置10に対する接触式計測器70の取り付けを行う。すなわち、溶接トーチ20と接触式計測器70とを交換することで、積層造形装置60は、「ロボット溶接装置」から、「三次元形状測定装置」へと変身する。このとき、ロボット装置10から取り外された溶接トーチ20は、工具交換装置80に設けられた架台(図示せず)に、交換可能な状態で設置される。
【0109】
次いで、全体制御部302は、x層目のビード121(x)を計測するための指示(以下では「層計測指示」と称する)を作成し、ロボット制御部303および計測制御部306へと出力する(ステップ250)。すると、ロボット装置10および接触式計測器70は、層計測指示に基づいて協働して動作し、接触式計測器70が母材110上に形成されたx層目のビード121(x)に接触して、x層目のビード121(x)の計測を行う。そして、制御装置30は、接触式計測器70による計測結果に基づき、x層目のビード121(x)の形状等の解析を行い、得られた解析結果を出力する。
【0110】
その後、全体制御部302は、接触式計測器70を溶接トーチ20に交換するための指示(逆交換指示)を作成し、ロボット制御部303および交換制御部307へと出力する(ステップ260)。すると、ロボット装置10および工具交換装置80は、逆交換指示に基づいて協働して動作し、ロボット装置10が保持していた接触式計測器70を取り外すとともに、このロボット装置10に対する溶接トーチ20の取り付けを行う。すなわち、接触式計測器70と溶接トーチ20とを交換することで、積層造形装置60は、「三次元形状測定装置」から、「ロボット溶接装置」へと変身する。なお、このとき、ロボット装置10から取り外された接触式計測器70は、工具交換装置80に設けられた架台(図示せず)に、交換可能な状態で設置される。
【0111】
それから、全体制御部302は、変数xが積層造形物120の総層数nと等しくなったか否かを判断する(ステップ270)。
【0112】
ステップ270で否定の判断(No)を行った場合、全体制御部302は、変数xをx+1に更新し(ステップ280)、ステップ230に戻って次の層に関する処理を続行する。
【0113】
一方、ステップ270で肯定の判断(Yes)を行った場合、すなわち、n層のビード121を積層することで、母材110上に対する積層造形物120の形成が完了すると、積層造形装置60の動作が完了する。
【0114】
[具体例]
では、上述した金属積層造形システム1を用いた構造体100の製造に関し、具体的な例を挙げて説明を行う。なお、ここでは、実施の形態1と同様、
図1に示したように、矩形状を呈する母材110上に、円筒状を呈する積層造形物120を形成することで、構造体100を製造する場合を例とする。また、積層造形物120の製造に用いられる各種データ(三次元CADデータD3d、層形状データDs、分割済層形状データDd)については、実施の形態1と同じである(
図10参照)ので、ここでは説明を省略する。
【0115】
(構造体)
続いて、積層造形物120を含む構造体100の製造および計測について説明を行う。
なお、ここでは、実施の形態1と同様、積層造形物120を構成するビード121の総層数が、5(n=5)である場合を例とする。
【0116】
ここで、本実施の形態における積層造形物120の製造プロセス(造形動作)自体は、実施の形態1で説明したもの(
図11参照)と、基本的に同じである。ただし、本実施の形態では、1層目のビード121(1)~5層目のビード121(5)の1層毎に、それぞれに対する計測動作が実行される点が、実施の形態1とは異なる。
【0117】
〔計測動作〕
次に、三次元形状測定装置を用いた計測動作について説明を行う。
図14は、実施の形態2におけるビード121の計測プロセス例を示した図である。ここで、
図14は、x層目のビード121(x)の場合を例示している。
【0118】
{x層目のビードの形成経路}
図14(a)は、
図11に示す積層造形物120の製造プロセスにおける、x層目のビード121(x)の形成経路Rf(x層目の形成経路Rf(x))を説明するための図である。
ここで、x層目の形成経路Rf(x)は、実施の形態1でも説明したように、分割済層形状データDd(
図10(c)参照)に基づいて作成されるものであって、軌道計画に対応するものである。
図14(a)に示す例では、x層目のビード121(x)に対応して、x層目の形成経路Rf(x)が設定されている。そして、x層目の形成経路Rf(x)では、自身の始点から終点に向かう、図中一点鎖線矢印で示す方向に沿って、ワイヤ21の先端部が移動していくことになる。
【0119】
{x層目のビードの測定経路の第1の例}
図14(b)は、x層目のビード121(x)の計測プロセスにおける、x層目の測定経路Rm(x)の第1の例を説明するための図である。
ここで、x層目の測定経路Rm(x)は、実施の形態1でも説明したように、分割済層形状データDd(
図10(c)参照)に基づいて作成されるものである。特に、この第1の例では、x層目の測定経路Rm(x)を、上記x層目の形成経路Rf(x)と同じになるように設定している。ここで、本実施の形態では、ロボット溶接装置を用いてx層目のビード121(x)を形成した後、次のx+1層目のビード121(x+1)を形成する前に、三次元形状測定装置を用いてx層目のビード121(x)を計測する、という手順を採用している。このため、溶接トーチ20を用いてx層目のビード121(x)を形成するときと、接触式計測器70を用いてx層目のビード121(x)を計測するときとで、ロボット装置10がとるべき姿勢を同じにした方がよい場合があり得る。このため、制御装置30は、形成経路Rfと測定経路Rmとが共通であれば、ロボット装置10の姿勢制御に関するプログラムは、両者で同じにしておくことが望ましい。
【0120】
{x層目のビードの測定経路の第2の例}
図14(c)は、x層目のビード121(x)の計測プロセスにおける、x層目の測定経路Rm(x)の第2の例を説明するための図である。
ここで、x層目の測定経路Rm(x)は、上記x層目の形成経路Rf(x)と同じく、分割済層形状データDd(
図10(c)参照)に基づいて作成されるものである。ただし、この第2の例では、上記第1の例とは異なり、x層目の測定経路Rm(x)を、上記x層目の形成経路Rf(x)とは異なるように設定している。より具体的に説明すると、
図14(c)に示す例では、x層目の形成経路Rf(x)とは無関係に、x層目の測定経路Rm(x)が設定されている。そして、この例では、もととなる1層目の分割済層形状データDd(1)から、x層目のビード121(x)の形状の推定を行い、得られた推定結果に基づき、その上面の全面を縦横方向に順次なぞってくように、x層目の測定経路Rm(x)を設定している。この場合は、x層目の形成経路Rf(x)とx層目の測定経路Rm(x)とがそれぞれ固有なものとなるため、ロボット装置10の姿勢制御に関するプログラムは、両者で異なることになる。
【0121】
[計測結果の解析]
本実施の形態では、三次元形状測定装置を用いてx層目のビード121(x)を計測した後、制御装置30が、接触式計測器70による計測結果に基づいて形状等の解析を行い、得られた解析結果を出力する、との説明を行った。以下には、本実施の形態における計測結果の解析に関し、2つの例を挙げて説明を行う。なお、この例において、接触式計測器70による計測結果の解析は、制御装置30に設けられた、マップ作成部の一例としての全体制御部302が行っている。
【0122】
(ビード形状マップ)
実施の形態1で説明したように、接触式計測器70は、それぞれに設けられた探針721が進退可能に設けられることにより、測定対象の表面形状を検出可能な複数のタッチセンサ720を有している。このため、これらによる計測結果に基づき、測定対象の凹凸を把握することが可能となっている。
【0123】
図15は、接触式計測器70による計測結果を解析して得られた、ビード形状マップ200の一例を示す図である。ここで、
図15は、x層目のビード121(x)に対応したビード形状マップ200を示している。そして、実際には、このようなビード形状マップ200が、ビード121の総層数(n)だけ存在し得ることになる。
【0124】
図15に示す例では、x層目のビード121(x)の表面形状を、等高線を用いて表示している。ただし、これに限られるものではなく、例えば高さ毎に表示色を異ならせることによって、x層目のビード121(x)の表面形状を表現することも可能である。
【0125】
また、実施の形態1では具体的な説明を行わなかったが、同様の手法を用いて、積層造形物120の形状に関するマップを形成することも可能である。
【0126】
(スラグ付着マップ)
実施の形態1で説明したように、接触式計測器70は、それぞれに設けられた探針721が導電性を有していることにより、測定対象の導通状態を検出可能な複数のタッチセンサ720を有している。このため、これらによる計測結果に基づき、測定対象の電気抵抗(表面抵抗、接触抵抗)を把握することが可能となっている。
【0127】
図16は、接触式計測器70による計測結果を解析して得られた、スラグ付着マップ300の一例を示す図である。ここで、
図16は、x層目のビード121(x)に対応したスラグ付着マップ300を例示している。そして、実際には、このようなスラグ付着マップ300が、ビード121の総層数(n)だけ存在し得ることになる。
【0128】
図16に示す例では、x層目のビード121(x)の表面のうち、スラグSが付着していたと推定される部位を、他の部位よりも濃い色(この例では黒)で表示している。なお、ここでは、測定結果から得られた電気抵抗の値が、予め定められた閾値よりも高くなっている部位を、スラグSの付着部位と推定している。これは、絶縁体で構成されることが多いスラグSは、導電体である金属で構成されるx層目のビード121(x)に比べて、電気抵抗の値が高くなり易いことを利用したものである。ただし、これに限られるものではなく、例えば電気抵抗の大きさ毎に表示色等を異ならせることによって、3レベル以上の表示を行ったマップを作成することも可能である。
【0129】
また、実施の形態1では詳細な説明を行わなかったが、同様の手法を用いて、積層造形物120に付着するスラグSに関するマップを作成することも可能である。
【0130】
<その他>
なお、実施の形態1、2では、制御装置30が、積層計画(軌道計画)に基づいて計測計画を作成していた。すなわち、制御装置30は、分割済層形状データDdに基づいて、測定経路Rmの設定を行っていた。ただし、これに限られるものではなく、例えば、三次元CADデータD3d、内部データDiや層形状データDs等に基づいて、測定経路Rmの設定を行うようにしてもかまわない。そして、この場合は、計画作成装置40が、三次元CADデータD3d、内部データDiや層形状データDs等を、さらに記録媒体50に書き込むとともに、積層造形装置60に設けられた制御装置30が、記録媒体50からこれらを読み出すようにすればよい。
【0131】
また、実施の形態1、2では、制御装置30が、積層計画(軌道計画)に基づいて計測計画を作成していたが、これに限られるものではなく、計画作成装置40が計測計画を作成するようにしてもかまわない。そして、この場合は、計画作成装置40が、自身で作成した積層計画(出力データDo)および計測計画(検査用データ)を記録媒体50に書き込むとともに、積層造形装置60に設けられた制御装置30が、記録媒体50からこれらを読み出して実行すればよい。
【0132】
また、実施の形態1、2では、積層造形装置60を構成する制御装置30が、接触式計測器70による計測結果に基づく積層造形物120の形状等の解析を行っていたが、これに限られるものではない。例えば、積層造形装置60に、パーソナルコンピュータ等の解析装置(図示せず)を設け、この解析装置を用いて、積層造形物120の解析を行うようにしてもよい。
【0133】
また、実施の形態1、2では、計画作成装置40で、三次元CADデータD3dを内部データDiに変換してから各種処理を施していたが、これに限られるものではなく、例えば三次元CADデータD3dから直接層形状データDsを作成してもかまわない。
【0134】
また、実施の形態1、2では、接触式計測器70において計測部72を構成する複数のタッチセンサ720を、二次元に配列してしたが、これに限られるものではなく、例えば一列に並べて配置するようにしてもかまわない。
【符号の説明】
【0135】
1…金属積層造形システム、2…CAD装置、10…ロボット装置、20…溶接トーチ、21…ワイヤ、25…カメラ、30…制御装置、40…計画作成装置、50…記録媒体、60…積層造形装置、70…接触式計測器、80…工具交換装置、100…構造体、110…母材、120…積層造形物、121…ビード、301…受付部、302…全体制御部、303…ロボット制御部、304…溶接制御部、305…カメラ制御部、306…計測制御部、307…交換制御部、401…取得部、402…変換部、403…切断部、404…分割部、405…作成部、406…付加部、407…出力部