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特許7199309液体取扱装置、および、液体取扱装置にエネルギー供給する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】液体取扱装置、および、液体取扱装置にエネルギー供給する方法
(51)【国際特許分類】
   B01L 3/02 20060101AFI20221223BHJP
   G01N 1/00 20060101ALN20221223BHJP
【FI】
B01L3/02 D
G01N1/00 101K
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019110327
(22)【出願日】2019-06-13
(65)【公開番号】P2019217495
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】18178033.9
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512265652
【氏名又は名称】サートリウス・ビオヒット・リキッド・ハンドリング・オイ
【氏名又は名称原語表記】SARTORIUS BIOHIT LIQUID HANDLING OY
【住所又は居所原語表記】LAIPPATIE 1, FI‐00880 HELSINKI, FINLAND
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】サミ・アルト
(72)【発明者】
【氏名】ヤンネ・レイノネン
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-160095(JP,A)
【文献】特表2013-543984(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0134176(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0335268(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0057875(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0089601(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0182362(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0076353(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0000350(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 3/02
C12M 1/00
G01F 11/00
G01N 1/00、35/00
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーハーベスティング手段、
前記エネルギーハーベスティング手段によって収集されたエネルギーを液体取扱装置に貯蔵するように構成されたエネルギー貯蔵部、および、
前記エネルギー貯蔵部に接続され、前記エネルギー貯蔵部を電源として使用するように構成された電子コンポーネント、を有する液体取扱装置であって、
前記液体取扱装置は手動式ピペットであり、
前記エネルギーハーベスティング手段は、前記手動式ピペットのボタンに接続されるとともに、前記ボタンが押されたときまたは解放されたときにエネルギーを収集するように構成された磁気貫通コイルシステムであり、
または、
前記エネルギーハーベスティング手段は、熱起電力発電機を含み、
または、
前記エネルギーハーベスティング手段は圧電材料を含み、そして、当該圧電材料は、前記手動式ピペットの一部の材料に組み込まれている、
ことを特徴とする液体取扱装置。
【請求項2】
前記液体取扱装置は手動式ピペットであり、
前記エネルギーハーベスティング手段は圧電材料を含み、そして、
当該圧電材料は、前記手動式ピペットのボタン、本体、またはハンドルの材料に組み込まれている請求項1に記載の液体取扱装置。
【請求項3】
前記電子コンポーネントは、前記手動式ピペットの本体に一体化され前記手動式ピペット本体と実質的に同じ曲率の形状を有する電子ペーパーディスプレイである請求項1または2に記載の液体取扱装置。
【請求項4】
前記電子コンポーネントは、前記手動式ピペットの状態を測定するように構成されたセンサである請求項1または2に記載の液体取扱装置。
【請求項5】
前記センサは、前記手動式ピペットのチップ部、または前記チップ部の内容物、をモニタリングするように構成された光センサである請求項4に記載の液体取扱装置。
【請求項6】
前記電子コンポーネントは、前記手動式ピペットに取り付けられたRFIDタグである請求項1または2に記載の液体取扱装置。
【請求項7】
前記エネルギーハーベスティング手段は、前記手動式ピペットのボタンに接続されるとともに、前記ボタンが押されたときまたは解放されたときにエネルギーを収集するように構成された磁気貫通コイルシステムであり、かつ、前記電子コンポーネントは、前記液体取扱装置の使用状況を記録する使用状況カウンタである請求項1に記載の液体取扱装置。
【請求項8】
前記エネルギー貯蔵部は、リチウムイオン電池またはスーパーキャパシタである請求項1から7のいずれか1項に記載の液体取扱装置。
【請求項9】
エネルギーを収集するエネルギーハーベスティング工程、
前記エネルギーハーベスティング工程によって収集したエネルギーを液体取扱装置のエネルギー貯蔵部に貯蔵する工程、および、
前記貯蔵され収集されたエネルギーを用いて前記液体取扱装置の電子コンポーネントにエネルギーを供給する工程、を有する液体取扱装置にエネルギー供給する方法であって、
前記液体取扱装置は、手動式ピペットであり、
前記エネルギーハーベスティング工程において、
エネルギーが、前記手動式ピペットのボタンを押したときもしくは解放したときに、当該ボタンに接続された磁気貫通コイルシステムによって収集され、
または、
エネルギーが、前記手動式ピペットに一体化された熱起電力発電機によって収集され、
または、
エネルギーが、前記手動式ピペットの一部の材料に組み込まれた圧電材料によって収集される、
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記エネルギーハーベスティング工程において、エネルギーが、前記手動式ピペットの一部の材料に組み込まれた圧電材料の層によって収集され、当該圧電材料の層は前記手動式ピペットのボタンに配置され、かつ、エネルギーが、前記ボタンの回転中に収集される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記エネルギーハーベスティング工程において、エネルギーが、前記手動式ピペットに一体化された熱起電力発電機によって収集され、かつ、ユーザが前記手動式ピペットを握った時に、ユーザの手からの熱が、前記手動式ピペットに一体化された前記熱起電力発電機によって収集される請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記エネルギーハーベスティング工程において、エネルギーが、前記手動式ピペットに一体化された熱起電力発電機によって収集され、かつ、当該エネルギーが周囲の熱である請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記エネルギーハーベスティング工程において、エネルギーが、前記液体取扱装置の一部の材料に組み込まれた圧電材料によって収集され、かつ、当該エネルギーが前記手動式ピペット、または、前記手動式ピペットの一部の、物理的運動または振動からのエネルギーである請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記エネルギーハーベスティング工程において、エネルギーが、前記手動式ピペットに一体化された熱起電力発電機によって収集され、かつ、当該エネルギーが前記手動式ピペットのユーザから得られる熱エネルギーである請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して液体取扱装置に関し、より詳細には液体取扱装置用の自己充電式電力システムに関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的に、手動式ピペットは、機械式ピペットおよび電気式ピペットに分類されてきた。第三のカテゴリーは、いわゆる電気機械式またはハイブリッドピペットからなる。電気機械式ピペットでは、機能の一部は機械的装置によって実施され、別の部分は電子コンポーネントを使用することによって実施される。
【0003】
電気機械式ピペットでは、機械式容積表示装置またはカウンタは通常、電子LCDディスプレイに置き換えられている。セグメントLCDディスプレイが必要とする電力は小さいので、ボタン電池または充電式電池を電源として使用することができる。しかしながら、そのような電源は頻繁な交換または定期的な再充電を必要とし、それによってピペットの分解、または、充電ソケットもしくは充電ドックが必要となる。さらに、そのような電源は自己放電性であり、そのことは新しい電源は最初の使用の前に常に充電されなければならないことを暗に意味する。
【0004】
公知の電気機械式または電子式ピペットの欠点は、電池が放電すると、電子コンポーネントが完全に機能しなくなることである。たとえば、電子ディスプレイがシャットオフすると、情報が失われる可能性がある。
【0005】
電気式ピペットおよび電気機械式ピペットの電力消費の低減は、様々な手段によって、たとえば電子コンポーネントの数を制限することによって、そして、低電力コンポーネントを使用することによって、尽力されてきた。
【0006】
eペーパーディスプレイまたは電子インクディスプレイとも呼ばれる電子ペーパーディスプレイは、近年多くの関心を集めており、それらは多くの消費者製品に適用されている。電子ペーパーディスプレイの外観は、紙の上の普通のインクの外観に似ている。電子ペーパーディスプレイが光を反射するのに対して、従来のフラットパネルディスプレイはバックライト付きであり、したがって光を発する。電子ペーパーディスプレイの利点には、電力を一切供給せずに静的なテキストおよび画像を表示できること、ならびに柔軟性があることが含まれる。バックプレーンの基板と電子機器はプラスチック材からなる。電子ペーパーディスプレイでは、コントラストは良好であり、視野角は広い(170度)。電子インクディスプレイは、白黒ディスプレイまたはカラーディスプレイとすることができる。
【0007】
電子ペーパー技術を実施するために、電気泳動ディスプレイ、エレクトロウェッティングディスプレイ、電気流体ディスプレイ、およびプラズモニック電子ディスプレイといった、様々な技術が使用されている。イーインク社(E Ink Corporation)によって商品化されている電子インク技術は、小さな透明マイクロカプセルに基づく。各マイクロカプセルは1つの画素を表し、正に帯電した白色顔料粒子と負に帯電した黒色顔料粒子とを含む。正または負の電界が印加されると、帯電した顔料粒子は各カプセル内で再配列されて表面の色を白または黒に変える。3色版でさえ開発されている。
【0008】
たとえば自動分析装置において、LCDディスプレイの代わりに電子ペーパーディスプレイを使用することが知られている。
【0009】
国際公開第2014/138530号(特許文献1)は、光マークを動的に表示するように構成された電子的に書き換え可能な表面(たとえばEインクディスプレイ)と、これら表面に沿って移動して前記マークを観察してナビ情報を判定するように構成された独立移動可能なキャリアと、を有する自動臨床化学分析装置を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2014/138530号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
電子機能性を有する機械式ピペットが必要とされている。
【0012】
より長い電池寿命を有する電子式ピペットが必要とされている。
【0013】
純機械式のピペットに類似のユーザ体験を提供する電気機械式ピペットが必要とされている。
【0014】
本発明の実施形態は、上述した公知の電気機械ピペットの欠点および制約の少なくともいくつかを克服することを意図している。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、独立請求項の特徴によって定義される。いくつかの具体的実施形態は、従属請求項に定義されている。
【0016】
本発明の第1の態様によれば、エネルギーハーベスト手段、収集(harvest)されたエネルギーを液体取扱装置に貯蔵するように構成されたエネルギー貯蔵部、および、エネルギー貯蔵部に接続され、当該エネルギー貯蔵部を電源として使用するように構成された電子コンポーネント、を有する液体取扱装置が提供される。
【0017】
第1態様の様々な実施形態は以下の箇条書きリストからの少なくとも1つの特徴を含みうる。
* 電子コンポーネントは、エネルギー貯蔵部に接続され、貯蔵され収集されたエネルギーによってエネルギー供給されるように構成されている。
* エネルギーハーベスト手段は、エネルギー貯蔵部に接続されている。
* エネルギー貯蔵部は、電子コンポーネントに接続されている。
* エネルギーハーベスト手段は、液体取扱装置のボタンに接続され、当該ボタンが押されたときまたは解放されたときに、エネルギーを収集するように構成された磁気貫通コイルシステムである。
* エネルギーハーベスト手段は、熱起電力発電機を含む。
* 液体取扱装置は、手動式ピペットである。
* エネルギーハーベスト手段は、圧電材料を含む。
* 圧電材料は、液体取扱装置の一部の材料、たとえば液体取扱装置のボタンまたは本体またはハンドルに組み込まれる。
* 液体取扱装置は手動式ピペットであり、エネルギーハーベスト手段は、ピペットに一体化された太陽電池を含む。
* 液体取扱装置は、手動式電子ピペットであり、太陽電池は、紫外線検知太陽電池である。
* 電子コンポーネントはディスプレイであり、好ましくは電子ペーパーディスプレイである。
* 液体取扱装置は手動式ピペットであり、電子コンポーネントはピペット本体と一体化され、かつ、ピペット本体と実質的に同じ曲率を有する形状を有する電子ペーパーディスプレイである。
* 電子コンポーネントは、液体取扱装置の状態を測定するように構成されたセンサである。
* センサは、液体取扱装置のチップまたはチップの内容物をモニタリングするように構成された光センサである。
* 電子コンポーネントは、液体取扱装置に取り付けられたRFIDタグである。
* 電子コンポーネントは、液体取扱装置の使用状況を記録する使用状況カウンタである。
* エネルギー貯蔵装置は、リチウムイオン電池またはスーパーキャパシタである。
【0018】
本発明の第2の態様によれば、エネルギーハーベスト工程と、収集したエネルギーを液体取扱装置内のエネルギー貯蔵部に貯蔵する工程と、貯蔵され収集されたエネルギーによって液体取扱装置の電子コンポーネントにエネルギーを与える工程と、を有する液体取扱装置にエネルギーを供給する方法が提供される。
【0019】
第2態様の様々な実施形態は、以下の箇条書きリストからの少なくとも1つの特徴を含みうる。
* エネルギーは、液体取扱装置のボタンが押されたとき、または、解放されたときに、磁気貫通コイルシステムによって収集される。
* エネルギーは、液体取扱装置のボタン、たとえばカウンタの、回転中に収集される。
* 液体取扱装置は、手動式ピペットであり、ユーザがピペットを保持するときに、当該ユーザの手からの熱がピペットに一体化された熱起電力発電機によって収集される。
* 周囲の熱が、液体取扱装置に一体化された熱起電力発電機によって収集される。
* 液体取扱装置は手動式ピペットであり、そして、ピペットまたはピペットの一部の機械的移動または振動からのエネルギーが、ピペットの材料またはその一部の材料、たとえば、液体取扱装置のボタン、本体、またはハンドルに組み込まれた圧電材料によって収集される。
* 太陽エネルギーが、液体取扱装置に一体化された太陽電池によって収集される。
* 太陽電池は、紫外線検知太陽電池であり、ハーベスティング工程は、紫外線源によって照射される層流フード内で行われる。
* 液体取扱装置の使用者から導出されるエネルギーが、収集される。
* 液体取扱装置の使用者から導出される熱エネルギーが、熱起電力発電機によって収集される。
【0020】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、電子ピペットにおいて大きな利点を提供する。充電間隔を数日から数ヶ月に延長したり、あるいは、完全に無くしたりすることすら可能である。
【0021】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、機械式ピペットにおいて利点を提供する。機械式ピペットに電子機能を含めることが可能になる。同時に、重い電池を含める必要がないので、ピペットを軽量にすることができる。さらに、ピペットの使用方法および制御方法を変更する必要はない。多くのユーザは、電子式ピペットよりも機械式ピペットの手触りおよびタッチを好む。
【0022】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、伝統的な電池の充電が不可能である場所で長期間にわたってピペットを使用することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】ピペットのボタンを押したり解放したりすることからエネルギーが収集される本発明の実施形態を示す。
図2】ピペットのボタンの回転運動からエネルギーが収集される本発明の実施形態を示す。
図3】太陽エネルギーが収集される本発明の一実施形態を示す。
図4】周囲の熱が収集される本発明の一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔定義〕
本文脈において、用語「液体取扱装置」は、手動機械式、電気機械式および電気式のピペット、ならびに自動液体取扱ステーションを含む。
【0025】
本文脈において、用語「電気機械式ピペット」は、電子機能を有する機械式ピペットを含む。好ましくは、ピペットは、使い捨てチップを使用する空気置換マイクロピペットである。
【0026】
本発明において、我々は、驚くべきことに、低電力電子コンポーネントにエネルギーを供給するために、エネルギーハーベスティングがピペットなどの液体取扱装置内で有効に適用されうることを観察した。電力ハーベスティングまたはエネルギースカベンジングとしても知られている一形態のエネルギーハーベスティングの原理は、電力需要が比較的小さい電子装置にエネルギー供給するために周囲エネルギーが収集および貯蔵されることである。
【0027】
エネルギーハーベスティングシステムは、たとえば、太陽光発電、熱起電力発電、圧電または電気力学に基づくことができる。これらのシステムは、様々な形態の周囲エネルギーまたは環境エネルギー、たとえば動き、光、および振動を利用することができる。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態において、我々は、使用者と手動式ピペットとの相互作用が、エネルギーを収集するための予想外かつ実用的な可能性を提供することを見出した。
【0029】
液体取扱装置においては、様々な手段によってエネルギーを収集することが可能である。好ましくは、エネルギーハーベスト手段は、ピペットなどの液体取扱装置に一体化されている。以下、種々の実施形態について説明する。
【0030】
一実施形態において、運動エネルギーを収集するために、磁気誘導システムが磁気貫通コイルシステムの形態で利用される。ワイヤのコイルと磁石との間の相対運動によって電力が発生する。コイルを通る磁束が変化し、ワイヤコイルの両端に電圧差が発生する。当該電圧差はスーパーキャパシタを充電するために使用することができる。ピペットにおいては、このピペットの機械式制御ボタンまたは機械式チップ取外しボタンを押し下げると、磁石がコイルを通って下方に移動するように配置することができる。ボタンを解放すると、磁石はコイルを通って反対方向に動く。
【0031】
図1は、機械式ピペット10の制御ボタン11を押したり解放したりすることからエネルギーが得られる本発明の実施形態を示す。ピペット10は使い捨てチップ12を使用している。
【0032】
図2は、ピペット20のボタン21の回転運動からエネルギーが収集される本発明の実施形態を示す。ボタン21は、カウンタを増減するために回転される。
【0033】
一実施形態では、太陽エネルギーが太陽電池によって収集される。その利点は、光が利用可能である限り、継続的なエネルギーハーベスティングが可能であるということである。ここで、エネルギーの供給は、ピペットが使用中、移動中、または手に持っている状況に限定されない。
【0034】
太陽エネルギーのハーベスティングは、電子式ピペットにおいて特に有利である。たとえば、紫外線に感応する太陽電池を使用することによって、電子式ピペットは、層流フードの紫外線光源によって充電できる。ピペットは、伝統的な充電スタンドでそれを充電することなく、長期間にわたって層流フード内に保管して使用することができる。
【0035】
図3は、ピペット本体の表面に配置された太陽電池33によって手動式ピペット30に太陽エネルギーが収集される本発明の実施形態を示す。
【0036】
有利な実施形態において、ピペットは、ユーザがピペットを握ったときに、たとえばユーザの手から体温を収集するように構成された熱起電力発電機(TEGまたはゼーベック発電機)を含む。TEGは、ゼーベック効果と呼ばれる現象を介して熱(温度差)を直接電気エネルギーに変換する固体デバイスである。その利点は、使用者がピペットを握ったときに連続的なエネルギーハーベスティングが可能であり、使用者がピペット操作の始めにピペットまたはそのディスプレイを起動またはエネルギー供給するためにボタンを押す必要がないことである。TEGはペルチェモジュールの形で実現することができる。
【0037】
一実施形態では、ピペットは、周囲の熱、たとえば、ピペットと、周囲の空気または周囲もしくは近傍に位置する表面と、の温度差から発生する熱を収集するように構成された熱起電力発電機を含む。
【0038】
周囲の熱を収集するために、液体取扱装置の表面は、反射率の差を生じさせるために、好ましくは暗くて荒い(たとえば、テクスチャ加工された)材料で作られる。たとえば、ピペットの表面は、実験室のベンチの上面よりも滑らかで光沢があるものとすることができる。
【0039】
熱起電力発電機を利用する実施形態では、0.5℃の温度差で十分である。
【0040】
我々は、体温が、電子ピペットのコンポーネントにエネルギー供給するために数秒で十分なハーベスティングエネルギーを提供できることを観察した。この温度差は数分間維持することができる。
【0041】
一実施形態では、液体取扱装置は、エネルギーを収集するために、熱起電力発電機と太陽電池との両方を備える。この実施形態は、十分かつ継続的なエネルギーハーベスティングおよび発電を確実にする。
【0042】
図4は、周囲の熱が熱起電力発電機によって手動式ピペット40に収集される本発明の実施形態を示す。
【0043】
一実施形態では、圧電材料が利用される。圧電材料が物理的な動き、変形、または振動を受けると、材料の両端に電圧差が生じる。ピペットにおいて、圧電材料の層を任意の適切な位置、たとえばピペットのボタン、本体、ハンドル、フィンガーフック、またはチップコーンのいずれかに配置することができる。ユーザがボタンを押して圧電材料を変形させることによって、電力を生成させることができる。あるいは、使用者がカウンタを回転させるか、またはピペット全体を動かすことによって電力が生成されうる。圧電材料は、使用者によるピペットの一部またはピペット全体の任意の移動、回転(turning)、回転(rotation)、把持、押圧または変形から生じるエネルギーを収集するように構成することができる。
【0044】
一回のボタン押し動作またはカウンタのわずかな回転のような、ミリメートルスケールの非常に小さな動きでも、手動式ピペット内の電子コンポーネントにエネルギー供給するのに十分である。
【0045】
別の可能な代替案は、可動プレートを備える平行板コンデンサに基づくシステムを使用することである。プレートは一定の電圧に帯電される。これらプレートが機械的振動によって物理的に動かされると、プレート間の距離が増大し、その結果、エネルギーがコンデンサに蓄えられる。プレートが元の位置に戻るときに、エネルギーが収集される。
【0046】
収集されたエネルギーは、液体取扱装置に一体化されているエネルギーバッファまたはエネルギー貯蔵部に貯蔵されるのが好ましい。エネルギー貯蔵部は、たとえばリチウムイオン電池またはスーパーキャパシタでありうる。スーパーキャパシタは、リチウムイオン電池よりも効率が良いので有利である。それは電池よりはるかに早く充電を受け入れそして配給することができ、そしてより多くの充放電サイクルに耐える。
【0047】
収集され貯蔵されたエネルギーは、手動式ピペットのような液体取扱装置内の様々な低電力電子コンポーネントにエネルギー供給するために使用することができる。好ましくは、そのような電子コンポーネントは液体取扱装置に一体化されている。
【0048】
好ましい実施形態では、エネルギーは電子ペーパーディスプレイ、たとえば低電力Eインクディスプレイ、にエネルギー供給するに使用される。Eインクディスプレイは、電力供給が無い場合においても静的な情報をユーザに表示することができる。収集されたエネルギーが利用可能になると、表示を更新して新しい情報を表示することができる。LCDディスプレイの代わりにEインクディスプレイを使用することは、ピペットハンドルの形状に適合する湾曲したEインクディスプレイを製造することが容易である点で有利である。
【0049】
たとえば、Eインクディスプレイの曲率半径は、ハンドルまたはピペットの本体のそれとほぼ同じにすることができる。好ましくは、Eインクディスプレイの曲率半径とハンドルまたはピペット本体の曲率半径との差は、最大で10%である。より好ましくは、Eインクディスプレイは、ピペット本体と一体化されており、ピペット本体と実質的に同じ曲率を有する形状を有する。
【0050】
Eインクディスプレイは、ピペットの本体にシームレスに一体化することができる。さらに、Eインクディスプレイは、紙のように薄いコンポーネントとして製造することができるので、必要なスペースは、LCDディスプレイまたは機械式体積計数器と比較して最小である。
【0051】
機械式カウンタは、通常、コンポーネントの数および作業時間を考慮すると、機械式ピペットのかなりの部分を形成する。これらのコンポーネントを、Eインクディスプレイ、グラフィックスカード、位置データ、およびエネルギーハーベスティングを提供する単一の回路基板に置き換えることができる。小さなコンポーネントの数の減少にともない、ピペットの自動組み立てが可能になる。また、カウンタのパッド印刷工程およびそれに関連するコストも回避される。
【0052】
一実施形態では、エネルギーは、液体取扱装置に取り付けられた能動型または受動型のRFIDタグなどの無線通信用のコンポーネントにエネルギー供給するために使用される。本方法によってエネルギー供給することができる他の可能な低電力無線技術は、Bluetooth(登録商標) Low Energy、ANT、ZigBee(登録商標)、およびRF4CEである。
【0053】
一実施形態では、エネルギーは、手動式ピペット内のセンサにエネルギー供給するために使用される。
【0054】
別の例は、ピペットのチップの内側の液位または液量を特定するように構成された光センサまたは測光センサである。光センサは、チップの外面または液体との接触、またはチップの向き(真直度)などの、チップまたはその内容物の状態のさまざまな変化をモニタリングするために使用することができる。
【0055】
電子式ピペットにおいて、複数の電源を並列に利用することができる。たとえば、充電ピンと、収集されたエネルギーを貯蔵したエネルギー貯蔵部との両方から電力を供給することが可能である。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態は、自動液体取扱ステーションにも適用可能である。収集されたエネルギー、たとえば太陽エネルギーは、液体取扱ステーションにおける補助電源として使用することができる。
【実施例
【0057】
〔実施例1〕
この例では、運動エネルギーを収集することによって駆動されるEインクタッチディスプレイを含む電気機械ピペットについて説明する。
【0058】
運動エネルギーは、たとえば、チップピッキング(直線運動および圧力)、カウンタ動作(counter movement:回転)、チップ取外し(チップ取外しボタンまたはチップ取外しスリーブから生じる直線運動)、分注(直線運動)、分注後の残りの液体サンプルの吹き出し(直線移動、圧力)、といった動作中に収集することができる。
【0059】
まず、ピペットの電池が空であり、ディスプレイには、たとえば、「押し出して開始」または「押し出して解除」というテキストが表示される。ユーザはバッテリを充電するように明示的に促されることはなく、ピペットの充電が必要であることを意識する必要すらない。ピペットを使用するために、コードや充電器は不要である。充電動作は、分注を開始するための開始ルーチンを形成する。
【0060】
ピペットの充電は、数回、たとえば1~5回の、上にリストしたもののいずれかでありうる充電動作を行うことによって実行される。エネルギーバッファとして機能するバッテリまたはコンデンサが必要なエネルギーレベルに達すると、ピペットは分注容量を分析し、ディスプレイが起動されて、容量と図記号とを表示する。
【0061】
通常のピペッティング作業中に収集されるエネルギーは、バッテリを充電しそして低電力電子コンポーネントの機能性を維持するのに十分である。バッテリの充電量がトリガ電流の閾値に近づくと、ディスプレイは自動的に静的状態になり、「押し出して開始」というテキストが表示される。Eインクディスプレイは静的で更新されない情報を表示するのに電力を必要としないため、バッテリが放電してもテキストは表示されたまま留まる。
【0062】
バッテリ充電は表示の更新およびプランジャ位置の分析にのみ使用されるので、Eインクディスプレイの必要電力は非常に低い。プランジャ位置の検出は、たとえば、位置センサによって、またはその抵抗がプランジャの位置の関数として変化する抵抗器によって、電子的に行われる。後者の代替構成は、カウンタの簡単な較正またはリセットを行うことを可能にするであろう。
【0063】
ユーザの観点からは、分注、容量調整、およびチップ取外し動作は、機械式ピペットと同様に行われる。
【0064】
ピペットを較正するためには、ユーザは、較正が行われるべき量、たとえば1000μlを選択する。次に、ユーザはディスプレイ上の「cal」を押す。この押しボタンは、ディスプレイにこの容量設定で分注される実際の容量の平均、たとえば980μlが表示されるまで回転される。ユーザがもう一度「cal」を押すと、その後、ディスプレイは1000μlを表示する。
【0065】
〔実施例2〕
一実施形態において、収集されたエネルギーは、制御ボタンの押し動作をカウントし、それによってピペットの使用(たとえば分注回数)を記録する電子式使用カウンタをインクリメントするために機械式ピペットに利用可能である。ある閾値を超えた後、ピペットは、ユーザに対して、当該ピペットは較正または整備されるべきであることを示す。あるいは、ユーザ自身が、カウンタの値を自発的に追跡して、較正および/または整備を実行するための適切なタイミングについての決定を下すことも可能である。好ましくは、エネルギーを収集するための手段は、制御ボタンまたはチップ取外しボタンの押下および解除に対する応答としてコイル内で前後に移動する磁石である。
【0066】
ここに開示された本発明の実施形態は、本明細書に開示された特定の構造、方法工程、または材料に限定されものではなく、関連分野の当業者によって認識されるようにそれらの均等物に拡張される。本明細書で使用される用語は特定の実施形態を説明する目的でのみ使用されるものであって、限定することを意図するものではないことも理解されるべきである。
【0067】
一実施形態または実施形態への本明細書を通しての言及は、実施形態に関連して説明された特定の特徴、構造、または特性が本発明の少なくとも一実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通して様々な箇所での「一実施形態では」または「一実施形態では」という句の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すとは限らない。たとえば、約または実質的になどの用語を使用して数値が参照される場合、その正確な数値もまた開示される。
【0068】
本明細書では、便宜上、複数の、項目、構造要素、構成要素、および/または材料を共通のリストに提示することがある。ただし、これらのリストは、リストの各メンバが個別の一意の要素として独立的に識別されるように解釈されるべきである。したがって、そのようなリストの個々のメンバいずれも、特に銘記されない限り、単に共通グループにおけるその提示に基づいて同じリストの他のメンバの事実上の等価物として解釈されるべきではない。さらに、本発明の様々な実施形態および例は、その様々な構成要素の代替物とともに本明細書で参照され得る。そのような実施形態、例、および代替物は、互いに事実上等価なものとして解釈されるべきではなく、本発明の別々の自律的表現として見なされるべきであると理解される。
【0069】
さらに、記載した特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わされてもよい。この説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するために、長さ、幅、形状などの例など、多数の具体的な詳細が提供されている。しかしながら、当業者は、本発明が1つ以上の具体的な詳細なしで、または他の方法、構成要素、材料などとともに実施され得ることを認識するであろう。他の例では、周知の構造、材料または操作は、本発明の態様を曖昧にすることを避けるために、詳細な図示または説明は省略されている。
【0070】
前述の例は1つまたは複数の特定の用途における本発明の原理の例示であるが、実施形態および詳細は、発明的能力を行使することなく、かつ、本発明の原理と概念から逸脱することなく、行うことが可能であることが当業者には明らかであろう。したがって、本発明は、特許請求の範囲による以外は、限定されることを意図するものではない。
【0071】
本明細書では、「含む(to comprise)」および「含む(to include)」という動詞は、記載されていない特徴の存在も排除も要求もしないオープンな限定として使用されている。従属請求項に記載されている特徴は、特に明記しない限り互いに自由に組み合わせることができる。さらに、本明細書全体を通して「a」または「an」の使用、すなわち単数形は、複数を排除するものではないことと理解される。
産業上の利用可能性
【0072】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、電子式または電気機械式の手動式ピペットにおいて産業的に利用可能である。
【0073】
〔頭字語リスト〕
LCD 液晶ディスプレイ
TEG 熱起電力発電機
RFID 無線周波数識別
【符号の説明】
【0074】
10、20、30、40 ピペット
11、21 制御ボタン
12 使い捨てチップ
33 太陽電池
図1
図2
図3
図4