(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】高含量のフィラー材料及び低チクソトロピックインデックスレベルの分配可能な化学組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20221223BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221223BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/22
C08K7/00
(21)【出願番号】P 2019542731
(86)(22)【出願日】2019-03-12
(86)【国際出願番号】 IB2019051977
(87)【国際公開番号】W WO2019175755
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】102018000003535
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511020829
【氏名又は名称】サエス・ゲッターズ・エッセ・ピ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】パオロ・ヴァッカ
(72)【発明者】
【氏名】ガエターノ・カンパネッラ
(72)【発明者】
【氏名】エミリアーノ・ベルティノッティ
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-065859(JP,A)
【文献】特開2007-138100(JP,A)
【文献】特表平09-500688(JP,A)
【文献】特表2013-530254(JP,A)
【文献】特表2016-519174(JP,A)
【文献】特開昭60-217262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00- 83/16
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分配可能な化学組成物であって、
-35,000及び70,000の間に含まれる重量平均分子量を有するシロキサンから選択される第一のシロキサン成分、及び10,000及び30,000の間に含まれる重量平均分子量を有するシロキサンから選択される第二のシロキサン成分を含む、少なくとも二つのシロキサン成分の混合物、並びに
-少なくとも第一のフィラー材料、
を含み、
前記第一のシロキサン成分及び前記第二のシロキサン成分の間の重量比が、0.1及び0.45の間に含まれ、
前記フィラーが、前記組成物の総質量に対して、55及び70質量%の間の量で存在し、
前記第一のシロキサン成分が、ジメチルシロキサンポリマー、ジエチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、ビニル基が末端位置にあるビニルメチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ポリジメチルシロキサンポリマーからなる群から選択され、
前記第二のシロキサン成分が、ジメチルシロキサンポリマー、25%未満のジエチルシロキサン単位含有のジエチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、ビニル末端ジエチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー及びビニル末端ジメチルシロキサンポリマーからなる群から選択され、
前記第一のフィラー材料が、
酸化カルシウムである、組成物。
【請求項2】
前記第一のシロキサン成分及び第二のシロキサン
成分の間の重量比が、0.15及び0.45の間に含まれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記混合物が、20,000及び40,000g/molの間に含まれる重量平均分子量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記第一のフィラーの量が55及び65%の間に含まれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記第一のフィラー材料が、1及び5の間に含まれる、長さ及び厚さの間の比として規定される、形状係数を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記第一のフィラー材料が、粉末からなり、粒度分析の分布の最大値が0.1及び20μmの間である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
第二のフィラーが、前記組成物の総質量に対して、0及び10質量%の間の量で加えられる、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記第二のフィラー材料が、ヒュームドシリカ、シリカ、グラフェン、酸化グラフェン、CNT、フィロケイ酸塩、ナノクリスタリンセルロース、ポリマー繊維、及びポリマー粒子からなる群から選択される、請求項7に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(低チクソトロピックインデックスレベルを維持しながら、)シロキサン高分子成分の混合物及び、統合に適する高含量のフィラー材料を含む分配可能(dispensable)な化学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有利なレオロジー特性及び分配特性を考慮すると、本発明の分配可能な組成物は、電子又は光学-電子装置の製造において、有用に使用され得る。
【0003】
組成物の良好な分配性及び製造工程における有用性は、レオロジー特性、特に、その粘度、及びチクソトロピックインデックス(TI)により容易に記載され得る特性である、チクソトロピック挙動と強く関係がある。チクソトロピックインデックスは、せん断依存特性の評価基準であり、特定の高いrpm(又は高いせん断速度)で測定された粘度に対する、特定の低いrpm(又は低いせん断速度)で測定された粘度の比として規定され得る。
【0004】
いくつかの分配技術のための適切な製品のため、チクソトロピックインデックスは通常、5s-1から50s-1のせん断速度で記録される粘度を考慮して得られる。特に、組成物ペーストを分配するための我々の適用を考慮すると、良好な分配特性は、3未満の、一般に、2から3の間に含まれるTI値(すなわち、ゲル状態に対する典型的なTI)、並びに、同時の、低いせん断速度において測定される高い粘度値(50,000-120,000mPaの間に含まれる)、及び、高いせん断速度において測定される低い粘度値(20,000-50,000mPaの間に含まれる)によって、達成される。
【0005】
更に、有機マトリックス中へのフィラー材料の統合は、そのレオロジー特性及び機械特性と強く関連しており、特に、典型的なシロキサン-ベースの処方のレオロジー特性により、良好な分配特性を達成するためには、フィラー含有量は50質量%以下であるべきであると広くに知られている。
【0006】
一般に、フィラー粒子の含有量が増加する場合、高分子材料のレオロジーは悪化することが当業者に通常予測される。
【0007】
制限しない第一の例において、本発明は電子製品に水分が入ることを防ぐことにより、装置境界に隣接して位置される障壁として、及びそれらの内部での水分量を吸収する物質としての両方として、水分濃度を制御することを目的として、水分感応性装置において使用される複合吸着剤を得るために使用され得る。
【0008】
広義には、水分感応性装置という用語は、それらの性能が水分によって影響を受けるため、約0.1から5000ppmの水蒸気の範囲で水分レベルを要求する、任意の密閉された装置を意図する。これらの装置の例は、ミクロ-電子機械装置(MEMs)及びミクロ-光学-電子機械装置(MOEMs)、電気通信適用のための光学-電子装置、医薬埋め込み可能装置(ペースメーカー、除細動器)、OLEDs、OLETs及び有機太陽電池(OPV)などの有機電子装置である。
【0009】
これらの装置の保護のための典型的な方法は、適切な封止剤を使用して、カプセル化工程を行うこと、外部環境から水分透過を減らすこと、及び水分感応性装置を含む筐体内部に乾燥力のある組成物を入れることである。
【0010】
しかしながら、典型的な使用される材料(すなわち金属酸化物粉末)の吸湿性の結果、低い水分量、又はそれらが分散される複合材料に関する製造工程に関係する他の特定の条件の存在下でさえも、主要な欠点の一つが、強い凝集性によって表される。
【0011】
その問題を解決する可能性の一つは、粒子の表面変性を実行しながら、同量のフィラーを使用することである。例えば、本出願人名義の、EP2751029は、操作及び水分感応性装置の製造工程において使用されるのに適切な、脂肪酸アニオンによる外部表面の官能化により、内部に分散される無機酸化物粒子の凝集現象を効果的に減少させる、乾燥力のある組成物を開示している。しかしながら、そのような方法は、フィラー量が濃度50質量%を超える場合、適切な組成物を達成することが不可能である。
【0012】
別の可能なアプローチは、例えばUS9447308中に開示されており、硬化性シリコーン組成物の体積抵抗力を増加させることなしに、チクソトロピックインデックスを調整することを目的として、「機械チクソトロピックフィラー」の添加することに関する。
【0013】
しかしながら、これらの両方の場合においては、更なる構成要素の添加又は製造工程を必要とし、このことは工程のコスト及び時間に関する増加を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】EP2751029
【文献】US9447308
【文献】EP2550692
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本出願人名義における、EP2550692において、シロキサン組成物が水分感応性装置の保護に使用されることが記載されている。しかしながら、その出願において、二つのシロキサン成分の混合物が、それぞれの分子量に基づくそれらの成分の効果的な選択に関して使用される場合、チクソトロピックインデックスのレオロジー的な最適化について開示されていない。結果として、使用されるフィラーの量、この出願においては酸化カルシウムが、50質量%より高くなり得なかった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者は、組成物の分配性、及びフィラー量の増加の可能性について、それぞれの高分子成分の分子量の強い影響を発見し、有機マトリックス及びフィラー含有量の適切な組み合わせを考案するための理想の分子量分布を特定することができた。
【発明を実施するための形態】
【0017】
特に、本発明は、少なくとも二つのシロキサン成分の混合組成物であって、第一の成分が35,000~70,000g/molの間の範囲であり、第二の成分が10,000及び30,000g/molの間の範囲である、二つの異なる分子量であって、第二の成分に対する第一の成分の比が0.1~0.45の間に含まれ、これらが組成物の総質量に対して50質量%超70質量%未満の量の、少なくとも一つのフィラーと配合された結果、分配ペーストが適切なレオロジー値となることによって特徴づけられる、混合物を開示する。得られる最終組成物は、それ故、チクソトロピックインデックスが2~3の間に含まれ、5s-1のせん断速度で、50,000~120,000mPaの間、50s-1のせん断速度で、20,000~50,000mPaの間に含まれる同時の粘度値により、特徴づけられる。
【0018】
好ましい実施態様において、最終組成物は、二つのシロキサン成分の比が0.15~0.45の間に含まれ、2~3の間に含まれるチクソトロピックインデックス、並びに5s-1のせん断速度で、60,000~120,000mPaの間、50s-1のせん断速度で、30,000~50,000mPaの間に含まれる同時の粘度値からなる分配ペーストの適切なレオロジー値により特徴づけられる。
【0019】
好ましい実施態様において、混合物は二つのシロキサン成分からなり、その平均分子量が20,000~40,000g/molの間に含まれる。
【0020】
本発明の対象である組成物は、シロキサンポリマー、シロキサンコポリマー、ジメチルシロキサンポリマー、ビニルメチルシロキサンポリマー、フェニルシロキサンポリマー、ジエチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、ビニルメチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、-トリメチルシロキサン及び-ビニル末端ポリジメチルシロキサン、-ジメチルビニル末端ジメチルシロキサンポリマーから選択される、少なくとも二つのシロキサン高分子成分の混合物を含む。
【0021】
第一のシロキサン高分子成分は、35,000~70,000g/molの間に含まれる分子量により特徴づけられ、ジメチルシロキサンポリマー及び-トリメチルシロキシ末端ジメチルシロキサンポリマー、フェニルシロキサンポリマー、ジエチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、ビニルメチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、-ビニル末端ポリジメチルシロキサン及び-ビニル末端ジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、-ジメチルビニル末端ジメチルシロキサンポリマーから選択され得る。
【0022】
一方、10,000~30,000g/molの間に含まれる分子量を有する、第二のシロキサン成分は、ジメチルシロキサンポリマー、ビニルメチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、25%未満のジエチルシロキサン単位含有のジエチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、25%未満のビニルメチルシロキサン単位含有のビニルメチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、-トリメチルシロキサン及び-ビニル末端ジメチルシロキサンポリマー、-ビニル末端ジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、-トリメチルシロキシ末端ビニルメチルシロキサンポリマー、-ビニルフェニルメチル末端ビニルフェニルシロキサン-フェニルメチルシロキサンコポリマー、-ビニル末端ジエチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、-シラノール末端ビニルメチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーからなる群から選択され得る。
【0023】
本組成物は、その後、50~70質量%の間、好ましくは55~65質量%の間の量で含まれ、アルカリ土類金属酸化物、酸化リチウム、アルミノケイ酸塩、ゼオライト、金属有機構造体MOF、吸着ポリマー及び有機酸からなる群から選択される、少なくとも一つの第一のフィラー材料で完成される。
【0024】
更に、前記第一のフィラー材料は、粒子の長さ及び厚さの間の比として規定される、形状係数が、1~5の間に含まれることにより特徴づけられ、それらが粉末として使用される場合、その粒度分析の分布の最大値が、一般に0.1~20μmの間に含まれる。
【0025】
第二のフィラーは、ヒュームドシリカ、シリカ、グラフェン及び酸化グラフェン、CNT、フィロケイ酸塩、ナノクリスタリンセルロース、ポリマー繊維及び粒子からなる群から選択され、10質量%未満の量で任意に添加される。
【0026】
下記、本発明は、実施例に関してより詳細に説明される。
【実施例】
【0027】
異なるサンプルを、単一又は混合ジメチルシロキサンポリマーと、第一フィラーとして酸化カルシウム又はLTAゼオライト、及び第二フィラーとして酸化グラフェンとを、共に混合して調製する。
【0028】
サンプル組成物1から4は、本発明に従っており、二つのシロキサンマトリックス間の異なる比により特徴づけられるサンプル5、及びEP2550692により調製された、サンプル7と比較される。
【0029】
それぞれのサンプルの粘度を、5s-1のせん断速度で、選択された比における高分子成分の混合物に対して測定し、フィラーを含む最終組成物と比較した。異なるせん断速度(s-1)での粘度(cP)を、回転レオメーターを用いて、フローカーブ試験モードで、20mmのコーン/プレート形状及び0.052mmの間隔で測定した。
【0030】
試験温度は、ペルティエ素子及び恒温槽で保った。得られた値は、新しい材料で行った3回の分析の平均値の結果である。
【0031】
混合物及び組成物の両者のチクソトロピックインデックスを、50s-1のせん断速度(高せん断速度)で測定された粘度に対する5s-1のせん断速度で測定された(低せん断速度)で測定された粘度の比として計算した。
【0032】
【0033】
混合物の最終分子量が、我々の発明による値に類似しているが(すなわち実施例2及び4)、比較例5及び6は、二つのシロキサンマトリックス間の異なる比が(0.45より高い)、分配ペーストに適さない粘度の値をもたらすことを指摘する。
【0034】
更に、EP2550692による単一のシロキサンマトリックスにより特徴づけられるサンプル7は、最終組成物の粘度値及びチクソトロピックインデックス値の両者が、分配ペーストの典型的な範囲から外れて、不適なレオロジー値を有することを示す。