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特許71994563次元物体を製造するためのステレオリソグラフィ方法および機械
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】3次元物体を製造するためのステレオリソグラフィ方法および機械
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/124 20170101AFI20221223BHJP
   B29C 64/209 20170101ALI20221223BHJP
   B29C 64/255 20170101ALI20221223BHJP
   B29C 64/245 20170101ALI20221223BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221223BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20221223BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20221223BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20221223BHJP
   B29C 64/268 20170101ALI20221223BHJP
【FI】
B29C64/124
B29C64/209
B29C64/255
B29C64/245
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
B29C64/393
B29C64/268
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020570821
(86)(22)【出願日】2018-06-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 IB2018054548
(87)【国際公開番号】W WO2019243873
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】516369778
【氏名又は名称】ディーダブリューエス エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コスタベベーレ,エットーレ,マウリツィオ
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-516498(JP,A)
【文献】特開2017-196891(JP,A)
【文献】特開平08-072153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層を互いに重ね合わせることによって3次元物体を製造するためのステレオリソグラフィ方法であって、
(a)所定の放射線(4)への曝露によって固化するのに適した、液体またはペースト状の基材(2)を支持面(3)に塗布するステップと、
(b)所定の厚さを有し且つ前記支持面(3)に接触する前記基材(2)の層に対して前記所定の放射線(4)を選択的に照射して、固化層(2b)を得る選択的照射のステップであって、前記所定の放射線(4)の前記選択的照射は、前記所定の放射線(4)を、得られる3次元物体の体積に対応する領域のみに向けることによって実施される選択的照射のステップと、
(c)互いに離れるように移動させて前記固化層(2b)を前記支持面(3)から分離するステップと、
を含み、
・ 前記支持面(3)は、第1の層状要素(51)および第2の層状要素(52)に属し、
・ 前記基材(2)を前記支持面(3)に塗布する前記ステップは、前記第2の層状要素(52)と接触するように、前記基材(2)の単一の層(2a)を堆積する堆積ステップとして実施され、前記単一の層(2a)は、少なくとも前記所定の厚さに対応する厚さを有し、前記堆積ステップは、前記3次元物体の体積に対応する領域に対して選択的に実施され、且つ、得られる3次元物体に属しない1つ以上の領域に対して前記基材(2)を堆積させることがなく、
・ 前記選択的照射のステップは、前記第1の層状要素(51)上で、得られる前記3次元物体の体積に対応する領域のみに対して実施され、且つ、前記基材(2)を前記第2の層状要素(52)に塗布する前記ステップと同時に実施され、前記基材(2)を前記第1の層状要素(51)に塗布する前記ステップは、前記基材(2)を前記第2の層状要素(52)に塗布する前記ステップの前に実施されることを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記所定の放射線(4)を放射するように構成されたエミッタユニット(7)を面するように、前記層状要素(51,52)の各々を選択的に配置するように意図された置き換えステップを含み、前記置き換えステップは、前記選択的照射のステップの後に実施されることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の層状要素(51)および前記第2の層状要素(52)は、同じ膜(5)に属することを特徴とする、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記置き換えステップは、前記膜(5)を移動することで実施されることを特徴とする、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記置き換えステップは、前記分離のステップと同時に実施されることを特徴とする、
請求項2~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記選択的照射のステップは、前記3次元物体の体積に対応する領域のみにレーザビームを向けることで実施されることを特徴とする、
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記分離のステップ後に、前記支持面上に残った前記基材(2)を前記支持面から除去する除去ステップを含むことを特徴とする、
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記除去ステップは、前記第1の層状要素(51)を前記第2の層状要素(52)で置き換える前記ステップを介して実施されることを特徴とする、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記堆積ステップは、ノズル(6)を介して前記基材(2)を搬送して、前記支持面(3)に対して前記ノズル(6)を移動することで実施されることを特徴とする、
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
所定の厚さを有する前記基材(2)の前記単一の層(2a)を選択的に堆積する前記堆積ステップは、前記3次元物体の対応する層のデジタルモデルに従って実施されることを特徴とする、
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記支持面(3)への前記基材(2)の塗布と、所定の厚さを有する前記単一の層(2a)の選択的照射と、前記3次元物体の連続する層の各々に関する前記固化層(2b)の分離と、を繰り返すことを含むことを特徴とする、
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記基材(2)の単一の層(2a)を堆積することで前記基材(2)を前記支持面(3)に塗布する前記ステップは、前記選択的照射のステップがレーザビームを向けることで実施され、X軸またはY軸ごとに、前記レーザビームのスポットの交点の楕円体の最大直径の1倍~2倍の量の前記基材(2)を、前記支持面(3)のそれぞれの周縁点に過剰に堆積するステップを含むことを特徴とする、
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ステレオリソグラフィ機械(1)であって、
・ 所定の放射線(4)への曝露によって固化するのに適した基材(2)を支持するように構成された支持面(3)と、
・ 対応する固化層(2b)を得るように、所定の厚さを有し且つ前記支持面(3)と接触するように配置された前記基材(2)の層上に前記所定の放射線(4)を選択的に照射するように構成され、前記所定の放射線(4)を、得られる3次元物体の体積に対応する領域のみに向けることによって選択的照射を実施するエミッタユニット(7)と、
・ 前記支持面(3)に垂直な第1の方向(Z)に沿って、前記支持面(3)に対して前記固化層(2b)を移動するように構成されたアクチュエータ装置(8)と、
・ 前記基材(2)を前記支持面(3)上に搬送するように構成されたノズル(6)と、
・ 前記支持面(3)に対して前記ノズル(6)を移動するように構成された移動ユニット(9)と、
・ 前記ノズル(6)を通る前記基材(2)の流れを調整するように構成された調整ユニット(10)と、
・ 少なくとも前記所定の厚さに対応する厚さを有する前記基材(2)の単一の層(2a)を、得られる前記3次元物体の体積に対応する領域のみにおいて選択的に堆積するように、前記移動ユニット(9)および前記調整ユニット(10)を協調的に操作する制御ユニット(12)と、
を備え、
前記支持面(3)は、第1の層状要素(51)および第2の層状要素(52)に属し、前記ステレオリソグラフィ機械(1)は、前記所定の放射線(4)を、前記エミッタユニットを介して前記第1の層状要素(51)上に選択的に照射するように構成され、同時に、前記基材(2)を、前記ノズル(6)を介して前記第2の層状要素(52)上に搬送するように構成される、
ステレオリソグラフィ機械(1)。
【請求項14】
前記第1の層状要素(51)および前記第2の層状要素(52)は、同じ膜(5)に属し、前記膜(5)は、前記エミッタユニット(7)に対して前記膜(5)を移動するように構成された供給ユニット(11)と動作可能に関連付けられて、前記層状要素(51,52)の各々は、前記エミッタユニット(7)を面するように選択的に配置されることを特徴とする、
請求項13に記載のステレオリソグラフィ機械(1)。
【請求項15】
前記エミッタユニット(7)は、レーザビームを前記単一の層(2a)上に選択的に向けるのに適したレーザエミッタを備えることを特徴とする、
請求項13または14に記載のステレオリソグラフィ機械(1)。
【請求項16】
前記ノズル(6)は、前記基材(2)を格納するように構成された格納チャンバ(6a)と関連付けられることを特徴とする、
請求項13~15のいずれか1項に記載のステレオリソグラフィ機械(1)。
【請求項17】
対応する複数の前記基材(2)を堆積するように意図された複数の前記ノズル(6)を備えることを特徴とする、
請求項13~16のいずれか1項に記載のステレオリソグラフィ機械(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の層を互いに重ね合わせることによって3次元物体を製造するためのステレオリソグラフィ方法、および当該方法を採用するステレオリソグラフィ機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ステレオリソグラフィ技術によって、3次元物体の体積を所定の厚さを有する層に仮想的に細分化して、次いで、物体を得るように、それらの層を互いに重ね合わせるステレオリソグラフィ機械を用いて層を順次作製することで、当該物体を製造することができることが知られている。
【0003】
この技術の既知の実施形態によれば、通常はポリマー樹脂である光硬化性液体物質が、透明な底部を有する格納容器内に配置される。
【0004】
次いで、支持プレートは、作製される物体の第1の層の厚さに等しい容器の底部からの距離に配置されるまで、光硬化性液体物質中に浸漬される。
【0005】
次いで、支持プレートと容器の底部との間に介在する液体物質の層に、制御された量の光エネルギーを選択的に照射して、得られる物体の体積に対応する点でそれを固化させる。
【0006】
次いで、支持プレートを格納容器の底部から離れるように移動させて、固化層を底部自体から分離し、液体の層を得ることができるようにする。この層は、3次元物体の連続する層を作製するために必要であり、これは、先に実施されたステップに類似するステップである。
【0007】
このプロセスは、物体を構成するすべての層が完成するまで繰り返される。
【0008】
上述した既知のステレオリソグラフィ方法は、いくつかの欠点をもたらす。
【0009】
第1の欠点は、物体を作製するために必要な光硬化性材料を過剰に消費することに代表される。
【0010】
実際、上述したステレオリソグラフィ方法によれば、3次元物体の各層に必要な液体物質の層を画定するように、支持プレートをそこに浸漬するのに十分な量の光硬化性材料で、格納容器を満たす必要がある。したがって、使用される材料の量は、3次元物体を作製するために実際に必要な材料の量よりも必然的に多くなる。
【0011】
さらに、自明な理由により、容器の大きさを支持プレートの大きさよりも大きくする必要がある。したがって、液体物質の層の大きさは、物体の各層を作製するために厳密に必要な大きさよりも大きくなる。これにより、必要な材料の量がさらに増加する。さらに、物体が完成した後に容器内に残存する余分な光硬化性材料は、連続する処理サイクルで再利用できないため、動作環境、とりわけ光への露出に起因する汚染ダストや不純物の存在のために、必ず廃棄されなければならない。
【0012】
光硬化性材料の無駄は、物体の製造コストの増加につながる。
【0013】
上述したステレオリソグラフィ方法によってもたらされるさらなる欠点は、異なる材料の層を含む3次元物体を作製することが不可能であるということである。
【0014】
実際、異なる光硬化性材料が混ざり合ってしまうため、これらの材料を格納容器内に配置することはできない。この欠点を克服するために、異なる材料をそれぞれ格納する複数の格納容器を使用することが知られている。これらの容器は、物体の製造中に変更される。
【0015】
不利な点として、この解決策では、物体の作製に必要が材料の数と同じ数の容器を使用する必要があることがあげられる。これは、物体の製造時間を長くして、機械の構造をさらに複雑にする。
【0016】
上述した方法によってもたらされる別の欠点は、支持プレートを取り除いた後に、光硬化性材料が容器の底部を自然に且つ均一に覆うまで待つ必要があるという事実によって代表される。これは、3次元物体を作製するのに必要な時間の増加につながる。
【0017】
上述した方法によってもたらされるさらなる欠点は、支持プレートを取り除いている間に固化層が容器の底部から分離するため、主に支持プレートが液体物質中に浸漬されているという事実に起因する静水力により、ある程度の抵抗が生じるということである。この抵抗は、形成される3次元物体に牽引力を加えて、その破損や変形を引き起こすとともに、容器の底部に疲労応力を伝達して、時間の経過とともに破損させる。この欠点を克服するために、支持プレートが容器の底部から離れ速度を制限させて、上記応力を低減させることが知られている。
【0018】
上記欠点を克服するために採用されたさらに既知のシステムによれば、容器の底部から離れる支持プレートの動きは、複数の断続的な動きに細分化される。これは、本発明の出願人名義で出願された欧州特許第2665594号に記載されている。
【0019】
しかしながら、上記解決策の両方を使用すると、各層、すなわち物体全体を作製するために必要な時間が大幅に増加する。
【0020】
既知の技術で採用されたさらなる解決策によれば、上述した分離に対する抵抗を制限するために、適切なセンサを使用して、または数値計算手段を介して、容器の底部から離れる支持プレートの動きが関連する牽引力を決定することで制御される。いずれの場合も、特定のセンサまたは処理ソフトウェアを使用する必要があり、物体の製造コストに影響を与える。
【0021】
上述した欠点を克服するために使用され、米国特許出願第2014/0265032号に記載されている別の既知のシステムによれば、光硬化性材料の層が、得られる物体の層に実質的に対応する領域上に選択的に堆積される。しかしながら、このシステムによれば、選択的な堆積および照射は、堆積ステップの場合は印刷ヘッドに面するように、照射ステップの場合はエネルギー源に面するように交互に配置された単一の可動プレート上で実施される。不利な点として、このシステムでは、プレートの移動に必要が待機時間に起因して、3次元物体の製造時間が非常に長くなることがあげられる。
【0022】
上述した既知の技術によってもたらされるさらなる欠点は、固化層の剥離を容易にするために、容器の底部がシリコーンまたは同等の材料で覆われるという事実に関連する。
【0023】
実際、この材料は、光への露出に起因して不透明化が進行するため、頻繁に容器を交換する必要がある。
【0024】
明らかに、容器の繰り返しの交換は、物体のコストに反映される追加のコストをもたらし、さらに物体自体の製造のための処理時間がより長くなる。
【0025】
別の既知の技術によれば、印刷ヘッドを使用して、得られる物体の層のビットマップ画像に対応する光硬化性材料の層を支持面上に堆積して、これを固化させるために非選択的に連続照射する。
【0026】
この技術により、前述した技術と比較して、材料の無駄を制限することができる。
【0027】
しかしながら、不利な点として、印刷ヘッドの解像度には制限があるため、この技術を使用して作製された物体は、結果として対応するように幾何学的精度が制限されることがあげられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は、既知の技術に見られる上述した欠点をすべて克服するように意図されている。
【0029】
特に、本発明の最初の目的は、複数の層を互いに重ね合わせることによって3次元物体を製造する方法を提供することである。当該方法によって、3次元物体の製造に使用される光硬化性材料の量を低減することができると同時に、高解像度および高精度を有する3次元物体を得ることができる。
【0030】
本発明の別の目的は、固化層と格納容器の底部を互いから分離および離れるように移動させている間に、それらの間の牽引力を低減することである。
【0031】
本発明の別の目的は、容器自体の底部の不透明化に起因する格納容器を交換する必要性を回避することである。
【0032】
本発明の別の目的は、機械の構造の複雑さに影響を与えることなく、異なる材料の層を含む3次元物体を製造することである。
【0033】
本発明のさらなる目的は、3次元物体の製造時間およびコストを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0034】
上述した目的は、主請求項によるステレオリソグラフィ方法によって達成される。
【0035】
また、上述した目的は、請求項12に従って作製されたステレオリソグラフィ機械によって達成される。
【0036】
本発明のさらなる詳細および特徴は、それぞれの従属請求項に記載されている。
【0037】
有利には、使用される光硬化性材料の量を低減することで、無駄を減らすことができ、その結果、材料の処理および処分に由来するコストを低減することができ、また、得られる物体の精度に影響を与えることなく、物体自体の製造に係るコストを低減することができる。
【0038】
さらに有利には、固化層と格納容器の底部との間の分離に対する抵抗および牽引力を低減することで、容器に加えられる応力を低減することができる。これにより、容器の持続時間を長くして、破損による交換の頻度を低減することができる。
【0039】
さらに有利には、上記抵抗を低減することで、同じ幾何学的形状を有する物体を考慮しながら、既知の方法と比較して、形成される物体の破損を制限することができる。
【0040】
さらに有利には、容器の底部の不透明化に起因する容器の交換の必要性を排除することで、物体の製造時間およびコストを低減することができる。
【0041】
さらに有利には、異なる光硬化性材料を使用することができるため、様々なニーズに応じて異なる化学的-物理的特徴を有する重ねられた層から形成された3次元物体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
上述した目的および利点、ならびに以下に記載する他の目的および利点は、添付の図面を参照して非限定的に例示された本発明のいくつかの好ましい実施形態の説明に記載されている。
図1a】本発明の主題である方法を適用中の、一ステップにおける、本発明によるステレオリソグラフィ機械を示す図である。
図1b】本発明の主題である方法を適用中の、図1aとは異なるステップにおける、本発明によるステレオリソグラフィ機械を示す図である。
図1c】本発明の主題である方法を適用中の、図1aおよび図1bとは異なるステップにおける、本発明によるステレオリソグラフィ機械を示す図である。
図1d】本発明の主題である方法を適用中の、図1a~図1cとは異なるステップにおける、本発明によるステレオリソグラフィ機械を示す図である。
図2】本発明の変形例によるステレオリソグラフィ機械を示す図である。
図3a】本発明の方法の変形例を示す模式図である。
図3b】本発明の方法の別の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明のステレオリソグラフィ方法を、図1aに全体として参照符号1で示されるステレオリソグラフィ機械を参照して説明する。ステレオリソグラフィ機械1は、所定の放射線4への曝露によって固化するのに適した、液体またはペースト状の基材2を支持するのに適した支持面3を備える。
【0044】
好ましくは、しかし必ずしもそうではないが、基材2は、光放射によって刺激されたときに重合するのに適した感光性樹脂である。
【0045】
特に、ステレオリソグラフィ技術で通常使用される既知の技術の、例えば特許出願第2005336302号および国際公開公報第2015028855号に記載されている光硬化性樹脂のような光硬化性樹脂は、本発明に使用するのに適した感光性樹脂である。
【0046】
また、ステレオリソグラフィ機械1は、固化層2bを得るように、所定の厚さを有し且つ支持面3と接触するように配置された基材2の層を所定の放射線4を介して選択的に照射するのに適したエミッタユニット7を備える。
【0047】
図を明確にするために、本発明を説明する図では、固化した物質を黒で示し、固化していない物質を白で示す。
【0048】
さらに、ステレオリソグラフィ機械1は、支持面3に垂直な第1の方向Zに沿って、支持面3に対して固化層2bを移動させるのに適したアクチュエータ装置8を備える。好ましくは、アクチュエータ装置8は、固化層2bを支持するために、支持面3に面する支持面を有する支持プレート8aを備える。
【0049】
本発明のステレオリソグラフィ方法によれば、基材2は、支持面3に塗布される。
【0050】
次いで、図1cに示すように、対応する固化層2bを得るように、所定の厚さを有し且つ支持面3と接触するように配置された基材2の層は、得られる物体に対応する領域にのみ所定の放射線4を介して選択的に照射される。
【0051】
好ましくは、所定の放射線4は、基材2が堆積される側とは反対側の支持面3の側に面するエミッタユニット7によって、支持面3を介して基材2に向けて伝達される。この場合、支持面3は、所定の放射線4に対して透明である。
【0052】
本発明の図示しない変形例によれば、エミッタユニット7は、基材2が堆積される支持面3の同じ側に面している。この場合、所定の放射線4は、支持面3を通過しないので、放射線に対して透明である必要がない。
【0053】
図1dに示すように、固化層2bは、固化層2bと支持面3とを互いから遠ざけることで、支持面3から連続的に分離される。
【0054】
好ましくは、固化層2bの分離後に、支持面3上に残された基材2が取り除かれる。
【0055】
本発明によれば、基材2を支持面3に塗布するステップは、支持面3と接触するように、基材2の単一の層2aを、少なくとも所定の厚さに対応する厚さで堆積することによって実施される。
【0056】
少なくとも固化する層の厚さに対応する厚さを有する基材2の単一の層2aを堆積することにより、使用する基材の量を正確に制御することができ、後者の無駄を制限することができる。
【0057】
ステレオリソグラフィプロセス中の支持面3に対する支持プレート8aの位置を適切に制御することによって、固化する基材2の層の厚さの正確な定義が得られる。より詳細には、層の各固化サイクルにおいて、支持プレート8aは、支持面3に近づくように移動され、同じ支持プレート8aの下面または最後に固化された層の下面が、次に固化する層の厚さに等しい支持面3からの距離に配置される。このようにして、支持プレート8aの下面との間、または最後に固化された層の下面と支持面3との間で、固化する層と正確に等しい厚さを有する基材2の単一の層2aが定義される。
【0058】
単一の層2aは、少なくとも3次元物体の体積に対応する領域に選択的に堆積され、得られる3次元物体に属さない1つまたは複数の領域に基材2が堆積されることはない。特に、エミッタユニット7がレーザの場合、支持面に対応するXY平面に応じて、固化する単一の層のそれぞれの周縁点に対して過剰に堆積される基材2の最小量は、X軸またはY軸ごとに、平面の特定の点におけるレーザスポットの交点の楕円体の最大直径の1倍~2倍である。これにより、同じ基材2の節約を最適化すると同時に、所望の定義を損なうことがない。本明細書における周縁という用語は、外部輪郭の領域を区切る特定の層の任意の内部輪郭および/または外部輪郭を意味することに留意されたい。
【0059】
代わりに、DLP、DMD、LCDまたは一般にドットマトリクス投影装置がエミッタ群7として使用される場合、XY平面に応じて、固化する単一の層のそれぞれの周縁点に対して過剰に堆積される必要がある基材2の最小量は、X軸またはY軸ごとに、DLP、DMD、LCDまたはその他のドットマトリクス投影装置の定義ピクセルの直線寸法を包含する基材2の量に等しい必要がある。
【0060】
有利には、選択的堆積により、各層に使用される基材2の量をさらに制限することができ、これにより、物体を製造するのに必要な基材2の量を大幅に低減することができる。さらに、同じ幾何学的形状を有する物体の製造を考慮すると、物体が完成した後に廃棄される基材2の量も有利に低減することができる。
【0061】
好ましくは、単一の層2aは、3次元物体の体積に対応する領域にのみ選択的に堆積される。これにより、上述した利点をさらに強化することができる。
【0062】
しかしながら、本発明の変形例によれば、物体の体積に対応する領域よりも大きい領域がある場合、単一の層は、その領域に選択的に堆積されてもよい。
【0063】
さらに好ましくは、基材2は、得られる3次元物体の対応する層のデジタルモデルに従って、選択的に堆積される。
【0064】
有利には、デジタルモデルは、既知のデジタル設計処理および生成技術を使用して作製され得る。
【0065】
さらに、デジタルモデルは、作製される物体の3次元プロトタイプをスキャンするのに適したスキャン装置によって作製され得る。
【0066】
好ましくは、しかし必ずしもそうではないが、既知の技術によるデジタルモデルの処理は、物体の3次元モデルに本発明による方法に含まれるステップの間に形成された物体の安定性を高めることを保証する支持構造を追加することを含んでもよい。支持構造は、ステレオリソグラフィ機械を用いて製造された3次元物体の不可欠な部分であり、物体が完成した後に、物体の残りの部分から分離される。
【0067】
基材2の選択的堆積と選択的照射との組み合わせにより、より正確な3次元物体を得ることができるのと同時に、既知の技術が採用される場合に使用される量と比較して少量の基材2を使用することができる。これにより、本発明の目的の1つを達成することができる。
【0068】
好ましくは、選択的照射は、得られる3次元物体の体積に対応する領域にのみレーザビームを向けることによって実施される。これにより、基材2の選択的堆積によって提供される利点をレーザビームの精度と組み合わせることができ、非常に正確な3次元物体を得ることができる。
【0069】
また、本発明の変形例において、照射は、製造される物体に対応する点で基材2を選択的に固化するのに適していることを条件に、任意の所定の放射線4を介して行われてもよいことも明らかである。上記の効果を得ることができる装置には、例えばDLP(デジタルライトプロセッシング)プロジェクタ、LCD(液晶ディスプレイ)プロジェクタ、LCOS(エルコス)プロジェクタ、D-ILA(ダイレクトドライブイメージライトアンプ)プロジェクタなどのプロジェクタ技術や、EBM電子ビームエミッタおよびその他の電磁放射源が含まれる。
【0070】
好ましくは、支持面3への基材2の塗布、所定の厚さを有する層の選択的照射、および支持面3からの固化層2bの分離のステップは、得られる3次元物体の連続する層に対して繰り返される。
【0071】
好ましくは、図1bに示すように、支持面3に対して移動するノズル6を介して基材2を搬送して、基材2の選択的堆積を得ることができる。
【0072】
好ましくは、ノズル6は、3次元物体の体積に対応する領域にのみ基材2を選択的に堆積するように構成される。
【0073】
さらに好ましくは、図3bに示すように、ノズル6は、支持面3に平行で互いに直交する2つの軸XおよびYに沿ってデカルト運動で移動して、基材2が支持面3上に点ごとに選択的に堆積され得る。
【0074】
本発明の実施形態の変形例によれば、ノズル6は、最初の2つの軸に直交する第3の軸に沿って支持面3上を移動する。
【0075】
本発明の実施形態のさらなる変形例によれば、図3aに示すように、ノズル6は、1つの軸Xのみに沿って支持面3上を移動する。
【0076】
この場合、Y軸に沿ったノズル6の幅は、少なくともエミッタユニット7によって照射され得る支持面3の領域の幅に等しい。
【0077】
このようにして、ノズル6は、Y軸に沿った寸法が上記領域の幅に等しい、且つX軸に沿った寸法が必要に応じて可変である長方形の領域上に基材2を堆積させることができる。
【0078】
さらに、支持面3に対するノズル6の動きは、ノズル6に動作可能に接続された移動ユニット9を介して得られる。
【0079】
好ましくは、しかし必ずしもそうではないが、移動ユニット9は、可変で調整可能な速度でノズル6を移動させるように構成される。
【0080】
さらに好ましくは、ノズル6を通る基材2の流れは、調整ユニット10によって調整される。
【0081】
好ましくは、調整ユニット10は、支持面3上の基材2の層の形成を制御および調整するように、ノズル6を通る基材2の流れを調整することができる。
【0082】
さらに、移動ユニット9および調整ユニット10は、制御ユニット12によって協調的に操作されて、所定の厚さを有する基材2の単一の層2aが選択的に堆積される。
【0083】
エミッタユニット7を介した選択的照射は、固化する3次元物体の体積に対応する領域のみを照射することを可能にして、既知の方法で得られた結果と比較して、その解像度および精度を高めることができる。
【0084】
したがって、本発明は、高解像度および高精度を特徴とする物体を得るという目的を達成すると同時に、基材2の消費を制限することができる。
【0085】
好ましくは、エミッタユニット7は、所定の放射線4のビームを、製造される物体の体積に対応する領域にのみ選択的に向けるのに適したエミッタを備える。これは、基材2が照射される精度を有利に高める。有利には、レーザエミッタによって、基材2を高精度で照射することができる。その一方で、本発明の変形例において、エミッタユニット7は、基材2を固化するために所定の放射線4を選択的に放射するのに適していることを条件に、任意のタイプであり得ることは明らかである。上述した使用に適した装置には、DLP(デジタルライトプロセッシング)プロジェクタ、LCD(液晶ディスプレイ)プロジェクタ、LCOS(エルコス)プロジェクタ、D-ILA(ダイレクトドライブイメージライトアンプ)プロジェクタや、EBM電子ビームエミッタおよびその他の電磁放射源が含まれる。
【0086】
好ましくは、制御ユニット12は、物体に属さない領域における基材2の流れを遮断するように調整ユニット10に作用して、単一の層2aが選択的に堆積される。
【0087】
好ましくは、ノズル6は、基材2を格納する格納チャンバ6aに関連付けられる。このようにして、堆積ステップ中に、好ましくは制御可能な流れおよび速度で、支持面3上に堆積されるように、基材2が格納チャンバ6aからノズル6内に流れる。
【0088】
しかしながら、本発明の別の実施形態において、ノズル6は、互いに異なり且つ所定の放射線4への曝露によって固化するのに適したそれぞれの基材を格納する複数の格納チャンバ6aに関連付けられてもよい。
【0089】
図示しない本発明の変形例によれば、本発明の主題であるステレオリソグラフィ機械1は、上述したものの中から選択される対応する複数の基材2を堆積するのに適した複数のノズル6を備える。
【0090】
有利には、複数のノズル6の存在によって、単一の層上に複数の異なる材料を堆積することができ、同時に、複数の材料を含む物体を得ることができる。これらの材料は、異なる化学的-物理的特性および異なる色を有する。図2に示すように、支持面3に関しては、好ましくは第1の層状要素51に属する。
【0091】
好ましくは、第1の層状要素51は、支持面3からの固化層2bの分離を促進するのに適したシリコーンまたは別の類似の材料から形成された表面を備える。
【0092】
基材2は、上述した方法に従って、層状要素51の表面上に堆積される。
【0093】
好ましくは、第1の層状要素51は、選択的照射のステップの後に、第2の層状要素52によって置き換えられる。この置き換えステップによって、固化層2bの分離後に支持面3上に残った基材2の残留物を取り除くことができる。これは、ノズル6で得られる選択的堆積の精度と比較して、エミッタユニット7によって保証される精度が高くなるためであり、実際に照射される領域と比較して、一般にはより広い領域で選択的堆積を実施する必要がある。
【0094】
また、置き換えによって、基材2の各層を新しい層状要素上に堆積することができる。これにより、支持面3の不透明化を回避して、本発明のさらなる目的を達成することができる。
【0095】
好ましくは、しかし必ずしもそうではないが、第2の層状要素52は、その形状、大きさおよび材料について、第1の層状要素51に実質的に対応する。
【0096】
さらに好ましくは、第1の層状要素51および第2の層状要素52は、同じ膜5に属する。第1の層状要素51を第2の層状要素52で置き換えるステップは、エミッタユニット7に対して膜5を移動することで実施される。
【0097】
有利には、膜5は、シリコーンまたは類似の材料から形成される。これは、支持面3からの固化層の分離を促進する。
【0098】
特に、膜5は、連続して配置された複数の層状要素51,52を備える。
【0099】
さらに好ましくは、膜5は、エミッタユニット7に対して層状要素51,52を移動するのに適した供給ユニット11と動作可能に関連付けられる。これにより、層状要素51,52の各々は、エミッタユニット7を面するように選択的に配置される。好ましくは、しかし必ずしもそうではないが、供給ユニット11は、膜5が巻き取られる回転シリンダを備える。
【0100】
より好ましくは、図2に示すように、供給ユニット11は、支持面3の上流および下流にそれぞれ配置された2つの回転シリンダを備える。これにより、膜5の引張力を維持することができる。
【0101】
しかしながら、本発明の代替実施形態において、回転シリンダの数は、2よりも多くてもよい。
【0102】
好ましくは、得られる3次元物体の各層において、基材2は、上述したように進行することによって、膜5の第1の層状要素51上に堆積される。次いで、選択的照射のステップが実施されて、第1の層状要素51から分離された固化層2bが得られる。
【0103】
上記分離のステップに続いてまたはそれと同時に、供給ユニット11は、膜5を移動させて、第1の層状要素51を第2の層状要素52で置き換える。これにより、余分な基材2を取り除くことができる。
【0104】
最後に、堆積、照射および分離のステップが、第2の層状要素52上で繰り返されて、形成される3次元物体の新しい層が得られる。
【0105】
本発明の図示しない変形例によれば、基材2の層2aは、各層状要素51,52がエミッタユニット7に面するように配置される前に、各層状要素51,52上に堆積される。さらに好ましくは、堆積は、前の層状要素51,52上に配置された層2aの照射中に実施される。これにより、堆積ステップおよび照射ステップを、連続してではなく、同時に実施することができるため、処理時間を有利に短縮することができる。
【0106】
実際、本発明の実施形態の変形例は、基材2の単一の層2aを第1の層状要素51上に選択的に堆積するステップと、第1の層状要素51を第2の層状要素52で置き換えて、エミッタユニット7を面するように第1の層状要素51を配置するステップと、エミッタユニット7を介して単一の層2を選択的に照射して、固化層2bを得ると同時に、基材2の新しい単一の層2aを第2の層状要素52上に選択的に堆積するステップと、を含む。この実施形態の変形例によれば、上記ステップが完了した後に、第1の層状要素51を再び第2の層状要素52で置き換えて、エミッタユニット7を面するように第2の層状要素52を配置する。また、移動のステップ中に、固化したばかりの層2bを分離するステップも実施される。新しい構成が得られた後に、第2の層状要素52の選択的照射および第1の層状要素51への基材2の選択的堆積のステップが同時に繰り返される。
【0107】
なお、3次元物体を構成するすべての層を得るために、上述した一連のステップが繰り返されることに留意されたい。また、上述したように、本変形例において、層状要素51および52は、好ましくは同じ膜5に属し、第1の層状要素51を第2の層状要素52で置き換えるステップまたは第2の層状要素52を第1の層状要素51で置き換えるステップは、エミッタユニット7に対して膜5を移動することで実施される。以上のことから、3次元物体を製造するためのステレオリソグラフィ方法および上述したステレオリソグラフィ機械は、上述した目的をすべて達成することに留意されたい。
【0108】
特に、選択的照射のステップの精度に関連する、固化層の厚さに対応する所定の厚さを有する単一の層の選択的堆積によって、3次元物体の製造中の光硬化性材料の無駄を低減することができる。これにより、3次元物体の製造コストを低減することができ、同時に、高解像度および高精度を特徴とする3次元物体を製造することができる。
【0109】
この場合も、所定の厚さを有する単一の層を堆積することで、固化層と支持面とが分離されて互いから離れるように移動している間に生じる牽引力を低減することができる。
【0110】
さらに、複数の置き換え可能な層状要素を備える支持面を使用することで、複数の所定の放射線への曝露に起因する支持面自体の不透明化を低減することができる。
【0111】
さらに、同じ層を得るために支持面上にいくつかの異なる材料を堆積させることができるため、機械の構造の複雑さに影響を与えることなく、且つ物体自体の製造時間を増加させることなく、異なる材料から構成された層を備える3次元物体を製造することができる。
【0112】
最後に、本発明による方法を実現することで、支持プレートを基材に浸漬する必要がなくなり、支持面からの各固化層の分離のステップを迅速化して、基材の新しい層が自然に形成されるまでに必要とされる待機時間がなくなるため、3次元物体の処理時間および製造コストを低減することができる。
【0113】
さらに、本発明では、連続する層を構成する光硬化性材料を堆積する前に物体の層の照射が完了するまで待機する必要がないため、本発明の処理時間は、当該技術分野で既知のシステムに関する処理時間よりも短い。
【0114】
実現に際して、本明細書に記載されておらず且つ図面にも示されていなくても、添付の特許請求の範囲内であれば、本発明の主題である方法および機械は、本願によって保護されるさらなる変更を受けることができる。
図1a
図1b
図1c
図1d
図2
図3a
図3b