(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】老化、フリーラジカルによるダメージを防止する卵殻膜発酵液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/98 20060101AFI20221223BHJP
A61K 8/99 20170101ALI20221223BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20221223BHJP
A61K 35/57 20150101ALI20221223BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20221223BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20221223BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20221223BHJP
A23L 15/00 20160101ALI20221223BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20221223BHJP
【FI】
A61K8/98
A61K8/99
A61Q19/08
A61K35/57
A61P39/06
A61P17/16
A61P17/18
A23L15/00 Z
A23L33/10
(21)【出願番号】P 2021024295
(22)【出願日】2021-02-18
【審査請求日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】202011357548.3
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【微生物の受託番号】CGMCC CGMCC3622
(73)【特許権者】
【識別番号】519401712
【氏名又は名称】オクスロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堺 孝子
(72)【発明者】
【氏名】ヨン リー
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ ウェイ
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0017447(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0073773(KR,A)
【文献】特開2008-007419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 35/00-35/768
A61K 36/06-36/068
A23L 5/40- 5/49
A23L 31/00-33/29
A23L 13/00-17/00
A23L 17/10-17/50
C12P 1/00-41/00
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレプトコッカス・サーモフィルスを用いて卵殻膜を発酵させることを含
み、
前記ストレプトコッカス・サーモフィルスが、受託番号CGMCC No:3622のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90である、
卵殻膜発酵液の製造方法。
【請求項2】
前記ストレプトコッカス・サーモフィルスを、卵殻膜を含有する培地に播種して発酵させることと、
発酵完了後、上澄み液を取り、卵殻膜発酵液とすること、
を含む請求項1に記載の卵殻膜発酵液の製造方法。
【請求項3】
前記卵殻膜を含有する培地における卵殻膜の含有量が0.1wt%~15wt%であ
る、請求項2に記載の卵殻膜発酵液の製造方法。
【請求項4】
前記卵殻膜を含有する培地が、卵殻膜1wt%~5wt%、グルコース5wt%~30wt%、ペプトン5wt%~15wt%、牛肉エキス粉末5wt%~15wt%、酵母エキス粉末2wt%~8wt%、リン酸水素二カリウム0.1wt%~0.5wt%、硫酸マグネシウム0.1wt%~0.5wt%、硫酸マンガン0.1wt%~0.3wt%を含む、請求項2に記載の卵殻膜発酵液の製造方法。
【請求項5】
前記発酵の温度が35~50℃であ
る、請求項1に記載の卵殻膜発酵液の製造方法。
【請求項6】
卵殻膜を原料とする卵殻膜発酵液の製造における、受託番号CGMCC No:3622のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は老化、フリーラジカルによるダメージを防止する卵殻膜発酵液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
卵殻膜には、膜の総重量の90%前後を占める主成分であるタンパク質、さらに約3%のリポソーム、および約2%のムコ多糖類が含まれており、そのうち、ケラチンは卵殻膜の主な構成成分である。ケラチンは硬タンパク質であり、多量のジスルフィド結合を含んでいるため、卵殻膜の分子が密な構造になっており、水及び複数種の溶媒に対して不溶であって、このことにより、卵殻膜の開発・利用が大幅に制限されている。現在、卵殻膜の加水分解法に関しては、主に物理的方法、化学的方法、酵素法があるが、これらの方法は、プロセスが複雑であり、加水分解後、活性炭またはイオン交換樹脂を用いて脱臭及び脱色を行う必要があり、酸及びアルカリの使用量が大きいため、環境にやさしくなく、コストが高く、工業的な利用にとって不利である。化学的方法と酵素法を併用するプロセスが提案されている。中国特許出願CN110699411Aにおいて、予め卵殻膜をアルカリで前処理した後、酵素的分解により活性物質を得、アルカリの濃度を低下させ、酵素的分解の効率を向上させる方法が提案されている。しかしながら、このような方法は酵素的分解の効率を向上できるが、前処理を行う必要があるため、プロセスの手順が増え、プロセスがより複雑になる。また、このような方法では、アルカリの濃度は低下するが、生産の過程では依然としてアルカリ溶液を使用するため、環境にやさしくない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明者らは研究により、ストレプトコッカス・サーモフィルスが卵殻膜を発酵させることができ、卵殻膜のポリペプチドを生成できることを見出した。伝統的な加水分解法に比べて、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスを用いて卵殻膜を発酵させる方法は、エコ、低コスト、プロセスが簡単であるなどの特徴を有し、工業化の大規模な生産に適用される。
【0004】
本発明は、ストレプトコッカス・サーモフィルスを用いて卵殻膜を発酵させることを含む、卵殻膜発酵液の製造方法である。ストレプトコッカス・サーモフィルスを用いて卵殻膜を発酵させた後、卵殻膜発酵液を獲得できる。
【0005】
本発明のいくつかの実施例において、前記ストレプトコッカス・サーモフィルスは、受託番号CGMCC No:3622のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90であり、すでに2010年2月1日に中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センター(CGMCC)に寄託され、かつ、中国発明特許出願CN101906391Aに開示されている。
【0006】
具体的には、前記ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90を、卵殻膜を含有する培地に播種して発酵させることと、発酵完了後、上澄み液を取り、卵殻膜発酵液とすることを含む、卵殻膜発酵液の製造方法である。
【0007】
具体的には、いくつかの実施例において、復元培養された前記ストレプトコッカス・サーモフィルスを、卵殻膜を含有する培地に播種して発酵させる。
【0008】
いくつかの実施例において、上記の卵殻膜発酵液の製造方法は、前記上澄み液をさらに乾燥させるステップを含む。本明細書において、乾燥により得られた生成物も発酵物と称される。
【0009】
いくつかの実施例において、前記卵殻膜を含有する培地における卵殻膜の含有量は0.1wt%~15wt%であってもよく、好ましくは1wt%~5wt%、例えば0.1wt%、0.5wt%、1wt%、2wt%、6wt%、8wt%、10wt%、12wt%、または15wt%である。
【0010】
いくつかの実施例において、前記卵殻膜を含有する培地はさらに炭素源を含有する。
【0011】
いくつかの実施例において、前記卵殻膜を含有する培地はさらに窒素源を含有する。
【0012】
いくつかの実施例において、前記卵殻膜を含有する培地はさらに無機塩を含有する。
【0013】
いくつかの実施例において、前記炭素源はグルコース、リボース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、シュクロース、マルトース、マンノース、フコース、マンニトール、ソルビトールから選ばれる1種または複数種である。
【0014】
いくつかの実施例において、前記窒素源はペプトン、牛肉エキス粉末、酵母エキス粉末から選ばれる1種または複数種である。
【0015】
実践により、炭素源がグルコースであり、窒素源がペプトン、牛肉エキス粉末及び酵母エキス粉末である場合、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90の成長を確保すると同時に、卵殻膜に対する加水分解をより良好に促進できることが証明されている。
【0016】
いくつかの実施例において、前記卵殻膜を含有する培地は、卵殻膜1wt%~5wt%、グルコース5wt%~30wt%、ペプトン5wt%~15wt%、牛肉エキス粉末5wt%~15wt%、酵母エキス粉末2wt%~8wt%、リン酸水素二カリウム0.1wt%~0.5wt%、硫酸マグネシウム0.1wt%~0.5wt%、硫酸マンガン0.1wt%~0.3wt%を含む。
【0017】
具体的には、当分野の常法により、前記ストレプトコッカス・サーモフィルスを培養でき、例えば、具体的には、MRS、M17培地で培養することができる。
【0018】
本発明に用いられる卵殻膜は、当分野の常法により製造されたものであってもよく、或いは市販品であってもよい。
【0019】
具体的には、前記発酵の温度は35~50℃であり、42℃であってもよい。
【0020】
通常、発酵の過程は静置培養であってもよく、例えば、一般的には10~36時間培養する。
【0021】
具体的な発酵温度及び発酵時間については、卵殻膜が実質的に十分に加水分解されたのかに準ずる。
【0022】
発酵が完了した後、遠心法で、例えば、6000gで10分間遠心することで、上澄み液を得ることができる。
【0023】
得られた上澄み液には、多量の卵殻膜のポリペプチドが含まれている。
【0024】
前記上澄み液を当分野の常法により乾燥して粉末化することができる。一般的には、卵殻膜のポリペプチドの構造を破壊せず、かつ機能を損なわないことを基準とする方法、例えば、凍結乾燥または噴霧乾燥がある。
【0025】
本発明に係る卵殻膜発酵液は、卵殻膜のポリペプチドを含有し、更にストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90の発酵生成物を含有する。
【0026】
本発明者らは研究により、本発明の方法により製造される卵殻膜発酵液が優れる老化防止及びフリーラジカルによるダメージを防ぐ機能を有することを見出した。ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90によって卵殻膜を発酵させることにより、低分子ペプチドなどの活性成分が得られ、同時に、卵殻膜における栄養成分が、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)の複数種の代謝生成物の生産を促進し、両者が相乗作用を示し、優れる老化防止及びフリーラジカルによるダメージを防ぐ効果を発揮する。
【0027】
本発明は、さらに、老化及び/またはフリーラジカルによるダメージを防止する化粧品、医薬品または食品の製造における、上記の方法で製造される卵殻膜発酵液の使用を含む。
【0028】
本発明は、さらに、上記発酵により得られた卵殻膜発酵液を含有するか、或いは、前記卵殻膜発酵液から製造された粉体(発酵物)を主な活性成分または唯一の活性成分とする化粧品、医薬品または食品を提供する。
【0029】
上記の化粧品、医薬品または食品の組成及その製造については、従来技術を参照できる。
【0030】
前記化粧品としては、具体的には、クリーム剤、エマルション、パスタ剤、軟膏剤、フェイスマスク、ゲル剤または洗剤などであってもよい。従来技術における既知の基剤、賦形剤、担体、添加剤などを用いて、常法に従って混合することにより、化粧水、エッセンス、フェイスマスク、原液、アンプル、エマルション、フェイスクリーム、アイクリームなどを製造できる。
【0031】
以上の研究に基づき、本発明は、さらに、卵殻膜を原料とする卵殻膜発酵液の製造における、受託番号CGMCC No:3622のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90の使用を提供する。
【0032】
ストレプトコッカス・サーモフィルスは、重要な工業用乳酸菌であって、安全な食品グレードの微生物として公認され、炭水化物、タンパク質類の物質を代謝し、アミノ酸類の物質を合成でき、発酵過程において、短鎖脂肪酸、エキソポリサッカライド、ペプチド類などの代謝生成物を生産できる。ストレプトコッカス・サーモフィルスを利用して、バイオ発酵方式で卵殻膜を分解することで、利用率が向上し、製造プロセスが簡素化され、同時に、卵殻膜における豊富な栄養成分がストレプトコッカス・サーモフィルスによる発酵を促進でき、エキソポリサッカライド、ペプチド類などの活性成分をより多く生産できる。
【0033】
本発明は、ストレプトコッカス・サーモフィルスを用いる発酵方式により、卵殻膜の新たな加水分解法を提供する。伝統的な加水分解法に比べて、本発明が提供する卵殻膜の発酵法は、エコ、低コスト、プロセスが簡単であるなどの特徴を有し、大規模な生産に適用され、設備投資を減らし、エネルギーを節約でき、環境に優しいものである。実験により、本発明の方法で製造される卵殻膜発酵液が、より優れる老化防止、及びフリーラジカルによるダメージを防ぐ機能を有し、化粧品、医薬品または食品の製造に使用できることが証明されている。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下において使用される受託番号CGMCC No:3622のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90は、すでに2010年2月1日に中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センターに寄託されている。
【0035】
以下において使用されるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90(その受託番号がCGMCC No:3622である)の復元培養方法は下記の通りである。ストレプトコッカス・サーモフィルス grx90(CGMCC No:3622)をMRS培地に加え、42℃の条件下で静置し16時間復元培養し、遠心(6000g、3分間)して菌体を回収し、無菌水を加えて菌体を洗浄(2回)した後、同体積の保護剤を含むPBS溶液(NaCl0.8%、KH2PO40.02%、Na2HPO40.115%、トリプトン1%、及びグルタミン酸ナトリウム0.1%)に再懸濁させれば、それを菌株として、卵殻膜を含有する培地に播種して発酵することができる。
【0036】
以下において使用される受託番号CGMCC No 1.1855のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)は中国普通微生物菌種保蔵管理センターから購入したものである。
【0037】
以下において使用されるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) CGMCC NO. 1.1855の復元方法は、上記のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90(その受託番号がCGMCC No:3622である)の方法とほぼ同じである。
【0038】
以下においてに使用される受託番号CGMCC NO.1.15608のラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)は中国普通微生物菌種保蔵管理センターから購入したものである。その復元方法は下記の通りである。ラクトバチルス・ファーメンタムをMRS培地に加え、36℃の条件下で静置し48時間復元培養し、遠心(6000g、3分間)して菌体を回収し、無菌水を加えて菌体を洗浄(2回)した後、同体積の保護剤を含むPBS溶液(NaCl0.8%、KH2PO40.02%、Na2HPO40.115%、トリプトン1%、及びグルタミン酸ナトリウム0.1%)に再懸濁させる。
【0039】
以下において用いられる卵殻膜は同ロットの製品である。
【0040】
実施例1
本実施例では、卵殻膜発酵液を提供し、その製造方法は、復元培養されたストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90を2%の播種量で、卵殻膜を含有する培地に播種して発酵させることと、発酵完了後、6000gで10分間遠心して、上澄み液を取り、卵殻膜発酵液とすることを含み、具体的な発酵条件としては、42℃で培地において24時間静置培養した。
【0041】
本実施例において用いられる培地は、卵殻膜1g、グルコース5g、ペプトン4g、牛肉エキス粉末2.5g、酵母エキス粉末1.5g、リン酸水素二カリウム0.05g、硫酸マグネシウム0.1g、硫酸マンガン0.05gを含み、残量が水であり、総量が50mLである。
【0042】
実施例2
本実施例では、卵殻膜発酵液の製造方法を提供し、当該方法は、復元培養されたストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90を2%の播種量で、卵殻膜を含有する培地に播種して発酵させることと、発酵完了後、6000gで10分間遠心して、上澄み液を取り、卵殻膜発酵液とすることを含み、具体的な発酵条件としては、36℃で培地において24時間静置培養した。
【0043】
本実施例において用いられる培地は50mLであり、その処方は実施例1と同じである。
【0044】
実施例3
本実施例では、卵殻膜発酵液の製造方法を提供し、当該方法は、復元培養されたストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90を2%の播種量で、卵殻膜を含有する培地に播種して発酵させることと、発酵完了後、6000gを10分間遠心して、上澄み液を取り、卵殻膜発酵液とすることを含み、具体的な発酵条件としては、50℃で培地において12時間静置培養した。
【0045】
本実施例において用いられる培地は50mLであり、その処方は実施例1と同じである。
【0046】
比較例1
本比較例では卵殻膜発酵液を提供し、その製造方法と実施例1の製造方法との差異は、ストレプトコッカス・サーモフィルス (Streptococcus thermophilus) grx90をストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) CGMCC NO. 1.1855に置き替えたことだけであり、播種量は2%である。
【0047】
本比較例において用いられる培地は50mLであり、その処方は実施例1と同じである。
【0048】
比較例2
本比較例では卵殻膜エキスを提供し、その製造方法は下記の通りである。
(1)卵殻膜を粉砕して、100メッシュのふるいを通過させ、卵殻膜の粉末を得た;
(2)ステップ(1)で得られた卵殻膜の粉末を1g取り、その含水量が20%になるように調整し、スクリュー回転速度を100r/minとし、温度140℃の条件でエクストルージョン・クッキング処理を行い、得られた卵殻膜処理物を粉砕して60メッシュのふるいを通過させ、希アルカリ溶液でアルカリ処理を行った;温度30℃の条件で、エクストルージョン・クッキング、粉砕、篩分けを経た卵殻膜粉末と0.1M NaOHとを、1:15(w/w)の固液比で均一に混合し、一定温度で3時間攪拌して、混合物を得た。
(3)ステップ(2)で得られた混合物の温度を55℃に、pHを10に調整した後、アルカリ性プロテアーゼを加えて酵素的加水分解を行った;アルカリ性プロテアーゼの使用量は卵殻膜1gに対して8000Uであり、一定温度55℃で攪拌して、酵素的分解を6時間行い、最後に、90℃の条件で10分間、酵素を不活性化させ、卵殻膜の酵素的分解液を得た(アルカリ性プロテアーゼ:酵素活性が20万U/gである);
(4)遠心機を用いて、ステップ(3)で得られた卵殻膜の酵素的分解液を6000r/minで20分間遠心し、不溶性沈殿物を除去した後、上澄み液を集めた;
(5)セラミック膜を用いて、ステップ(4)で得られた上澄み液を精密ろ過して除菌し、卵殻膜の酵素的分解液を得、その体積を50mLになるように調整し、卵殻膜エキスとした。
【0049】
比較例3
本比較例では卵殻膜発酵液を提供し、その製造方法と実施例1の製造方法との差異は、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) grx90を受託番号CGMCC NO.1.15608のラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)に置き替えたことだけである。
【0050】
本比較例において用いられる培地は50mLであり、その処方は実施例1と同じである。
【0051】
比較例4
本比較例では、ストレプトコッカス・サーモフィルスによる発酵液を提供し、その製造方法は、復元培養されたストレプトコッカス・サーモ フィルス(Streptococcus thermophilus) grx90を2%の播種量でMRS培地に播種して発酵させることと、発酵完了後、6000gで10分間遠心して上澄み液を取り、ストレプトコッカス・サーモフィルスによる発酵液とすることを含み、具体的な発酵条件としては、42℃で培地において24時間静置培養した。
【0052】
実験例1 抗酸化作用の評価実験
実施例1~3及び比較例1~4の発酵液またはエキスをそれぞれ精製水で100倍に希釈して試料とし、下記の実験を行った。
【0053】
1.スーパーオキシドアニオンラジカル消去能の評価
0.05mol/LのpH8.2のTris-HCl緩衝液を4.5mL取り、25℃の恒温水槽にて20min予熱し、試料1mL及び25mmol/Lのピロガロール溶液0.4mLをさらに加えて均一に混合した後、25℃の水浴において5min反応させ、8mol/LのHCl 1.0mLを加えて反応を停止させた。Tris-HCl緩衝液を標準液として、299nmの吸光度を測定した。空白対照として、試料の代わりに、試料の溶媒(即ち、25mmol/Lのピロガロール溶液)1mLを用いた。下記の式により消去率(D)を算出した。
スーパーオキシドアニオンラジカル消去率=[1-(A2/A1)]×100%
ここで、A1が空白対照の吸光度であり、A2が試料の吸光度である。
【0054】
2.ヒドロキシルラジカル消去能の評価
2mmol/LのFeSO43mL、1mmol/LのH2O2 3mLを順に25mLの比色管に加え、均一に振り混ぜ、そして6mmol/Lのサリチル酸を3mL加え、均一に振り混ぜて、37℃の水浴で15min加熱した後取り出し、その吸光度を測定した。濃度が一定である被測定液をそれぞれ加え、均一に振り混ぜ、引き続き水浴で15min加熱した後取り出し、その吸光度を測定した。下記の式により試料のヒドロキシルラジカル(・OH)消去率を算出した。
ヒドロキシルラジカル消去率=[A1-A2-(A1-A3)]/A1×100%
ここで、A1が試料を加える前の反応系の吸光度であり、A2が・OHを試料で消去した後の反応系の吸光度であり、A3が・OHを空白対照で消去した後の体系の吸光度である。
【0055】
上記の試料の抗酸化作用の評価結果を表1に示す。
【表1】
【0056】
表1の結果は、実施例1~3の卵殻膜発酵液が優れる抗酸化作用を有し、その効果が比較例1~4より顕著に優れることを示している。
【0057】
実験例2 卵殻膜発酵液における低分子ペプチドの含有量の分析
本実験では、実施例1~3及び比較例1~3の卵殻膜発酵液またはエキスにおける低分子活性成分の含有量を分析し、具体的には、下記の通りである。
【0058】
実施例1~3及比較例1~3の卵殻膜発酵液またはエキスを取り、分画分子量が1000であるフィルターでろ過した後、クマシーブリリアントブルーキットを用いて、ろ液における低分子ペプチドの含有量を検出した。結果を表2に示す。
【表2】
注:表2における「低分子ペプチドの含有量」とは、1gの卵殻膜に対する、実施例1~3及び比較例1~3の方法でそれぞれ処理して製造された低分子ペプチドの含有量(mg)である。
【0059】
表2の結果は、実施例1~3の卵殻膜発酵液における低分子ペプチドの含有量が比較例1~3の発酵液またはエキスより著しく高いことを示しており、実施例1~3の製造方法により、卵殻膜における低分子ペプチドがより十分に放出されることが証明されている。
【0060】
実験例3 卵殻膜発酵液による皮膚の滋養・保湿効果の分析
本実験例では、実施例1~3以及比較例1~4の発酵液またはエキスによる皮膚の滋養・保湿効果を評価し、具体的な方法は、下記の通りである。
【0061】
25歳から60歳までの男性30名および女性40名、計70名のパネラーを選択し、ランダムに7群に分け、群あたり10名とした。皮膚において5×5cmを選択して、ドイツのCK社の皮膚水分量計Corneometer CM825を用いて、上記の実施例1~3及比較例1~4の卵殻膜発酵液またはエキスを皮膚に使用した。使用を開始する前に、皮膚水分量計を用いて、一定の温度及び一定の湿度(21℃及び40%湿度)の条件下で、各被験者の皮膚の水分含有量を測定し、さらに、使用した後の初期値(T0)、30min(T1)及び8h(T2)の皮膚の水分含有量を測定し、測定結果を表3に示す。
【表3】
【0062】
表3の測定結果から分かるように、実施例1~3の卵殻膜発酵液を使用した場合、使用後30minの皮膚の水分含有量は比較例1~4と比べて顕著に高く、中でも、実施例1の効果が最も良好であった。これにより、卵殻膜発酵液が皮膚を滋養・保湿し、皮膚へ十分な水分を供給し、皮膚の老化を遅らせることができることが証明されている。
【0063】
上記において、一般的な説明及び具体な実施形態で本発明を詳しく説明したが、本発明に基づき、いくつかの補正や改善を行い得ることは当業者にとって自明である。よって、本発明の趣旨から逸脱しない範疇で行われるこれらの補正や改善は、いずれも本発明の保護しようとする範囲に属する。