(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】耐火物被覆メタルアンカー及びこれを用いた高温炉
(51)【国際特許分類】
F27D 1/10 20060101AFI20221223BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20221223BHJP
B22D 41/02 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
F27D1/10
F27D1/00 D
F27D1/00 N
B22D41/02 B
(21)【出願番号】P 2021116564
(22)【出願日】2021-07-14
【審査請求日】2021-08-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000138772
【氏名又は名称】株式会社ヨータイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】茂田 純一
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-211824(JP,A)
【文献】特開2004-059962(JP,A)
【文献】特開平10-310478(JP,A)
【文献】特開2018-177570(JP,A)
【文献】特開平02-175064(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0119425(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/10
F27D 1/00
B22D 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温炉の炉壁又は天井部の不定形耐火物を保持するメタルアンカーであって、
内蔵アンカーが耐火物で被覆され、
前記耐火物には鉄系ファイバーが分散しており、
前記鉄系ファイバーを900℃の大気中で24時間保持した際の酸化重量が
0.60mg/cm
2以下であり、
前記耐火物における前記鉄系ファイバーの含有量が1.0~5.0重量%であり、
圧縮強さが75MPa以上、曲げ強さが18MPa以上であること、
を特徴とする耐火物被覆メタルアンカー。
【請求項2】
前記耐火物の形状が円錐台であること、
を特徴とする請求項
1に記載の耐火物被覆メタルアンカー。
【請求項3】
前記メタルアンカーの脚部外周に前記内蔵アンカーの先端が突出していること、
を特徴とする請求項1
又は2に記載の耐火物被覆メタルアンカー。
【請求項4】
ケーシングに溶接止めした請求項1~
3のうちのいずれかに記載の耐火物被覆メタルアンカーと、
前記ケーシングの表面に形成された断熱キャスタブル層と、
前記断熱キャスタブル層の表面に形成された耐熱キャスタブル層と、を有し、
前記断熱キャスタブル層及び前記耐熱キャスタブル層が、前記耐火物被覆メタルアンカーによって保持されていること、
を特徴とする高温炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャスタブル耐火物の剥落や倒壊の防止するための耐火物被覆メタルアンカー及び当該耐火物被覆メタルアンカーを用いた高温炉に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却炉、ボイラ及び金属溶解炉等の各種高温炉においては、耐火材と断熱材で金属製ケーシングを保護する構造を有していることが多い。このような構造を有する高温炉は、外壁温度の上昇等を目安として、一定期間ごとに耐火材及び断熱材を張り替えながら使用されている。
【0003】
耐火材には、低セメント質高強度キャスタブル耐火物やプラスチック耐火物等が使用され、断熱材には、軽量断熱キャスタブル耐火物、セラミックファイバーブランケット及びセラミックボード等が使用されている。ここで、これらの耐火材や断熱材を用いる場合、アンカー煉瓦やメタルアンカーによって、ケーシングに保持する必要がある。
【0004】
一般的に、アンカー煉瓦は優れた耐熱性を有しているが、割れやすいという欠点が存在する。一方で、メタルアンカーは可撓性を有しているが、耐熱性と耐食性を十分に担保することができない。
【0005】
耐火材と断熱材をメタルアンカーで保持する構造を有する高温炉において、特に、腐食性ガスが発生する廃棄物処理炉等においては、耐火材と断熱材の境界領域からメタルアンカーの腐食が進行する。その結果、腐食部の折損により側壁の倒壊や天井耐火物の脱落が生じ、炉の寿命が短くなることが深刻な問題となっている。
【0006】
これらの問題に対し、例えば、特許文献1(特開2009-47371号公報)においては、溶鋼を貯留するタンディッシュの固形耐火物に施工された不定形耐火物を保持するアンカーブロック(アンカー煉瓦)において、前記不定形耐火物を保持可能なアンカーブロック本体の内部に、当該アンカーブロック本体を補強するための井桁状又は十字状の芯金が埋設されており、前記芯金とアンカーブロック本体の外周部との距離が10mm以上となるように、芯金の位置を設定していることを特徴とするアンカーブロック、が提案されている。
【0007】
上記特許文献1に記載のアンカーブロックにおいては、アンカーブロック本体内に単に芯金を埋設するだけでなく、芯金の形状を井桁状又は十字状とすると共に、芯金とアンカーブロック本体の外周部との距離が10mm以上となるように芯金の位置を設定することで、アンカーブロックに亀裂、割れ、欠けが発生することを防止できる、とされている。
【0008】
また、特許文献2(特開平08-28863号公報)においては、水管や鉄皮等に予め溶接し、これに不定形耐火物施工するためのアンカスタッド(メタルアンカー)において、このアンカスタッドの先端から所要範囲にわたり導電性コーティング材で被覆したことを特徴とする不定形耐火物施工用アンカスタッド、が提案されている。
【0009】
上記特許文献2に記載のアンカスタッドにおいては、アンカスタッドの先端から所要範囲の外周が導電性コーティング材により被覆されているため、高温酸化の防止が図られ、かつコーティング材は導電性であるから電気溶接機による溶接が可能となる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-47371号公報
【文献】特開平08-28863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1に記載のアンカーブロックは、芯金によって亀裂、割れ及び欠けの発生が抑制されているが、芯金の耐腐食性や耐酸化性は十分に考慮されていない。また、芯金による亀裂発生等に対する抑制効果をアンカーブロックの全体に発現させることは極めて困難であり、例えば、熱衝撃が印加された場合等において、芯金から離れた領域における部分的な割れや欠け等を十分に抑制することはできない。高温炉のスポーリング性を向上させるためには、アンカーブロック自体の耐熱衝撃性を向上させる必要がある。
【0012】
また、上記特許文献2に記載の不定形耐火物施工用アンカスタッドについては、導電性コーティング材による耐腐食性や耐酸化性の改善効果が十分とは言い難い。
【0013】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、良好な可撓性を有するメタルアンカーの特性に加え、耐火材と耐熱材の境界層部分からのメタルアンカーの腐食が抑制され、更には耐酸化性及び耐熱衝撃性に優れた耐火物被覆メタルアンカーを提供することにある。また、本発明は、当該耐火物被覆メタルアンカーを用いた長寿命な高温炉を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、耐火物被覆メタルアンカーの組成、組織及び構造等について鋭意研究を重ねた結果、メタルアンカーの全体を鉄系ファイバーが分散した耐火物で被覆し、耐酸化性等の観点から当該鉄系ファイバーを選定すること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
即ち、本発明は、
高温炉の炉壁又は天井部の不定形耐火物を保持するメタルアンカーであって、
内蔵アンカーが耐火物で被覆され、
前記耐火物には鉄系ファイバーが分散しており、
前記鉄系ファイバーを900℃の大気中で24時間保持した際の酸化重量が3mg/cm2以下であること、
を特徴とする耐火物被覆メタルアンカー、を提供する。
【0016】
本発明の耐火物被覆メタルアンカーにおいては、内蔵アンカーの大部分が耐火物で被覆されていることで、メタルアンカーの耐腐食性及び耐酸化性が飛躍的に向上している。また、耐火物に均一分散する鉄系ファイバーの複合効果やブリッジング効果等により、耐火物の靭性や耐熱衝撃性が改善されている。ここで、「鉄系ファイバー」とは、鉄を主成分とする金属ファイバーを意味し、例えば、ステンレス鋼からなるファイバーを使用することができる。
【0017】
加えて、900℃の大気中で24時間保持した際の酸化重量が3mg/cm2以下となる鉄系ファイバーが使用されており、優れた耐酸化性を有する鉄系ファイバーを選定することで、高温酸化雰囲気に保持された際の被覆耐火物の劣化が効果的に抑制されている。その結果、被覆耐火物に優れた耐熱スポーリング性が付与され、腐食性及び酸化性雰囲気における使用において、耐火物被覆メタルアンカー全体が顕著に長寿命化されている。
【0018】
耐火物に分散させる鉄系ファイバーの組成は、900℃の大気中で24時間保持した際の酸化重量が3mg/cm2以下となる限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の鉄系ファイバーを用いることができるが、ステンレス鋼ファイバーを用いることが好ましい。適当な組成を有するステンレス鋼ファイバーを用いることで、900℃の大気中で24時間保持した際の酸化重量を3mg/cm2以下とすることができることに加えて、良好な耐酸化性を有するその他の金属ファイバーと比較して材料コストを低減することができる。
【0019】
耐火物に分散させる鉄系ファイバーの直径や長さは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、分散性や耐火物に付与する強度等の観点から適宜選定すればよいが、例えば、直径が0.1~1.0mm、長さが5~50mm程度の鉄系ファイバーを好適に用いることができる。
【0020】
本発明の耐火物被覆メタルアンカーにおいては、前記耐火物における前記鉄系ファイバーの含有量が0.5~5.0重量%であること、が好ましい。鉄系ファイバーの含有量を0.5重量%以上とすることで、耐火物の靭性や耐熱衝撃性を確実に改善することができる。一方で、鉄系ファイバーの含有量を5.0重量%以下とすることで、当該鉄系ファイバーの均一分散性を担保することができ、部分的に鉄系ファイバーが凝集等することによる耐火物の信頼性低下を防止することができる。より好ましい鉄系ファイバーの含有量は1.0~5.0重量%であり、最も好ましい含有量は3.0~5.0重量%である。なお、本発明において、鉄系ファイバーの割合(含有量)は、耐火物原料100重量%に対する外掛け重量%を意味している。
【0021】
また、本発明の耐火物被覆メタルアンカーに用いる耐火物は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のキャスタブル耐火物を使用することができる。当該キャスタブル耐火物の主原料には、例えば、アルミナ、クロミア、シリカ及びジルコン等を使用することができる。
【0022】
また、本発明の耐火物被覆メタルアンカーにおいては、前記耐火物の形状が円錐台であること、が好ましい。耐火物被覆メタルアンカーが使用された状態において、耐火キャスタブルと断熱材を金属製ケーシングの側に引っ張るように、耐火物の形状が炉内側に広がった円錐台となっていることで、耐火キャスタブルと断熱材を強固に保持することができる。
【0023】
更に、本発明の耐火物被覆メタルアンカーにおいては、前記メタルアンカーの脚部外周に内蔵アンカーの先端が突出していること、が好ましい。メタルアンカーの脚部外周に内蔵アンカーの先端が突出していることで、当該先端を金属製ケーシングに溶接することにより耐火物被覆メタルアンカーを設置することができる。
【0024】
また、本発明は、
ケーシングに溶接止めした本発明の耐火物被覆メタルアンカーと、
前記ケーシングの表面に形成された断熱キャスタブル層と、
前記断熱キャスタブル層の表面に形成された耐熱キャスタブル層と、を有し、
前記断熱キャスタブル層及び前記耐熱キャスタブル層が、前記耐火物被覆メタルアンカーによって保持されていること、
を特徴とする高温炉、も提供する。
【0025】
本発明の高温炉は、本発明の耐火物被覆メタルアンカーによって断熱キャスタブル層と耐熱キャスタブル層が保持されているため、高い信頼性と長い寿命を有している。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、良好な可撓性を有するメタルアンカーの特性に加え、耐火材と耐熱材の境界層部分からのメタルアンカーの腐食が抑制され、更には耐酸化性及び耐熱衝撃性に優れた耐火物被覆メタルアンカーを提供することができる。また、本発明によれば、本発明の耐火物被覆メタルアンカーを用いた長寿命な高温炉を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の耐火物被覆メタルアンカーの概略図である。
【
図2】耐火物被覆メタルアンカー1を側壁に適用した場合の炉構造の断面図である。
【
図3】一般的な炉構造を有する炉壁における腐食メカニズムを説明する模式図である。
【
図4】炉内側から見たクラックの進展状況の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の耐火物被覆メタルアンカー及び当該耐火物被覆メタルアンカーを用いた高温炉の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0029】
1.耐火物被覆メタルアンカー
本発明の耐火物被覆メタルアンカーは、メタルアンカーの全体が鉄系ファイバー分散耐火物で被覆されたものである。以下、耐火物被覆メタルアンカーの形状や各構成要素等について詳細に説明する。
【0030】
(1)全体構造
本発明の耐火物被覆メタルアンカーの概略図を
図1に示す。耐火物被覆メタルアンカー1においては、メタルアンカー(内蔵アンカー2)が耐火物4で被覆されている。また、耐火物4は円錐台となっており、外部応力が印された場合の応力集中が抑制される形状となっている。
【0031】
「円錐台」について、より具体的には、耐火物被覆メタルアンカー1の使用時に炉内面となる側(上面6)の大きさが、ケーシングに固定される側(脚部基底面8)よりも大きくなっており、逆テーパー形状となっている。耐火物被覆メタルアンカー1が当該形状を有していることで、断熱キャスタブル層及び耐熱キャスタブル層をケーシング側に押し付ける応力を発現させることができる。
【0032】
ここで、耐火物4の形状は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、
図1に示す円錐台に限られない。例えば、
図1の平面図において六角形となる形状や、縦断面が波形となる提灯型とすることもできる。
【0033】
耐火物被覆メタルアンカー1はケーシングに密着させる必要があることから、脚部基底面8は平滑な状態とすることが好ましい。
【0034】
また、内蔵アンカー2の先端部10は基底部の外周に突出しており、当該突出部をケーシングに溶接することができる。内蔵アンカー2は、V字型、Y字型及びその他の形状のものを使用することができるが、
図1に示すように、二本の丸棒でY字型を形成し、Y字の直立した脚の部分を長い範囲で溶接することが強度の観点から好ましい。
【0035】
内蔵アンカー2の突出部をケーシングに溶接する以外には、当該突出部に螺子を切って、ケーシングにナットで固定することもできる。ボルトとナットによる固定方式は、新設時には取り付けが容易であるが、耐用年数が過ぎた際の補修交換が困難となる。また、ケーシングが水冷構造になっている場合には、特に困難を伴う。
【0036】
内蔵アンカー2の材質は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の金属材から選定することができるが、例えば、SUS310S、SUS304及びSUS316Lとすることが好ましい。
【0037】
また、耐火物4の材質は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のキャスタブル耐火物を使用することができる。当該キャスタブル耐火物の主原料には、例えば、アルミナ、クロミア、シリカ及びジルコン等を使用することができる。
【0038】
(2)鉄系ファイバー及び鉄系ファイバー分散耐火物
耐火物4に耐酸化性に優れた鉄系ファイバーが分散していることが、耐火物被覆メタルアンカー1の最大の特徴となっている。
【0039】
「鉄系ファイバー」とは、鉄を主成分とする金属ファイバーを意味し、例えば、ステンレス鋼からなるファイバーを使用することができるが、耐酸化性の観点から、18重量%以上のCrを含有していることが好ましく、18重量%以上のCrに加えて、3重量%以上のAlを含有していることがより好ましい。
【0040】
耐火物4に分散させる鉄系ファイバーは、900℃の大気中で24時間保持した際の酸化重量が3mg/cm2以下となり、高温酸化雰囲気に保持された際の耐火物4の劣化が効果的に抑制されている。その結果、耐火物4に優れた耐熱スポーリング性が付与され、腐食性及び酸化性雰囲気における使用において、耐火物被覆メタルアンカー1が顕著に長寿命化されている。
【0041】
耐火物4に分散させる鉄系ファイバーの直径や長さは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、分散性や耐火物に付与する強度等の観点から適宜選定すればよいが、例えば、直径が0.1~1.0mm、長さが5~50mm程度の鉄系ファイバーを好適に用いることができる。ここで、鉄系ファイバーが分散した耐火物4の圧縮強さ及び曲げ強さは、それぞれ75MPa以上及び18MPa以上であることが好ましい。
【0042】
耐火物4における鉄系ファイバーの含有量は0.5~5.0重量%であることが好ましい。鉄系ファイバーの含有量を0.5重量%以上とすることで、耐火物4の靭性や耐熱衝撃性を確実に改善することができる。一方で、鉄系ファイバーの含有量を5.0重量%以下とすることで、当該鉄系ファイバーの均一分散性を担保することができ、部分的に鉄系ファイバーが凝集等することによる耐火物4の信頼性低下を防止することができる。より好ましい鉄系ファイバーの含有量は1.0~5.0重量%であり、最も好ましい含有量は3.0~5.0重量%である。
【0043】
鉄系ファイバーの分散によって耐火物4には良好な耐熱衝撃性が付与されている。耐火物4の耐熱衝撃性は、例えば、JIS R2657(耐火れんが及び耐火断熱れんがのスポーリング試験方法)又はそれに準じた試験で評価することができる。
【0044】
2.高温炉
本発明の高温炉は、耐火物被覆メタルアンカー1によって断熱キャスタブル層と耐熱キャスタブル層が保持されていることが最大の特徴となっている。
【0045】
図2に、耐火物被覆メタルアンカー1を側壁に適用した場合の炉構造の断面図を示す。耐火物被覆メタルアンカー1はケーシング20に溶接されている。ここで、
図2においては耐火キャスタブル層22と断熱キャスタブル層24の二層構造の例を示しているが、本発明の高温炉26はこの例に限られず、耐火キャスタブル層22と断熱キャスタブル層24が二層以上の多層となっていてもよい。また、断熱キャスタブル層24の代わりにセラミックファイバーブランケットやセラミックボードを用いてもよい。
【0046】
図3に、従来一般的な炉構造を有する炉壁における腐食メカニズムを説明する模式図を示す。
図3にはクラック30及び空隙32の発生状況と炉内ガスの侵入経路34が示されており、侵入ガス34によって内蔵アンカー2が腐食されることになる。
【0047】
炉の稼働に伴い、熱膨張係数の違い等に起因して、炉内側の耐火キャスタブル層22とケーシング20側の断熱キャスタブル層24との境界面に空隙32が発生する。また、種々の原因によって炉内側の耐火キャスタブル層22に発生したクラック30が成長して空隙32に到達し、炉内と内蔵アンカー2を結ぶ侵入経路34が形成される。炉の運転状況に依存するが、ある期間を経ると内蔵アンカー2が折損し、炉壁の剥離や倒壊が発生する。
【0048】
図4に、炉内側から見たクラックの進展状況の模式図を示す。クラック40は通常のクラックの進展経路を例示し、クラック42は耐火物被覆メタルアンカー1に突き当たるクラックの進展経路を例示している。クラック42は耐火物被覆メタルアンカー1に突き当たった後、耐火物被覆メタルアンカー1の表面を迂回する間にエネルギーが消費されるため、その後の進展が抑制される。これに対し、耐火物被覆メタルアンカー1が存在しない場合(クラック40の場合)、クラックが容易に進展することになる。
【0049】
耐火物被覆メタルアンカー1を設置する場所及び個数は、高温炉の大きさや使用状況等に応じて適宜決定すればよい。例えば、広い壁面のうち、クラックが発生しやすい場所を選んで設置してもよい。また、従来のアンカーと耐火物被覆メタルアンカー1を共に使用してもよい。
【0050】
また、耐火物被覆メタルアンカー1は、ケーシング20からの距離を一定にする上面を有するため、当該上面を基準に型枠板を配置すれば、耐火キャスタブル層22の施工を効率的に行うことができる。
【0051】
耐火物被覆メタルアンカー1の耐火物4の材質は、耐火キャスタブル層22や断熱キャスタブル層24と近い熱膨張挙動を有するものを使用することが好ましい。
【0052】
耐火物被覆メタルアンカー1、耐火キャスタブル層22、断熱キャスタブル層24及びケーシング20以外の高温炉の構造については、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の高温炉の構造とすることができる。
【0053】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0054】
≪実施例≫
表1に示す組成の鉄系ファイバーを耐火物に分散させ、
図1に示す形状の耐火物被覆メタルアンカーを作製し、強度及び耐熱衝撃性を評価した。また、各鉄系ファイバーを900℃の大気中に24時間保持し、酸化に起因する重量増加を測定した。測定された酸化重量を表1に示す。各鉄系ファイバーの直径は略0.5mm、長さは略25mmであり、同程度の形状及び大きさを有している。
【0055】
【0056】
耐火物は表2に重量%で示す組成(実施例1~実施例7)とし、形状はφ120~50mmの円錐台とした。表2に示す鉄系ファイバー、結合剤、分散剤及び添加水分量は、耐火原料100重量%に対する外掛け重量%である。表2に示す組成の原料を規定の添加水分で型枠に流し込み、常温にて24時間養生後、脱枠した。次に、110℃で24時間乾燥させ、実施耐火物被覆メタルアンカーを得た。
【0057】
【0058】
[評価]
(1)強度
JIS R2553(キャスタブル耐火物の強さ試験方法)に基づいて、圧縮強さ及び曲げ強さを測定した。得られた結果を表2に示す。
【0059】
(2)耐熱衝撃性
JIS R2657(耐火れんが及び耐火断熱れんがのスポーリング試験方法)に準拠して、1500℃水冷試験を行い、試験後の剥落率で優劣を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0060】
(3)実炉試験
耐火物被覆メタルアンカーを用いた高温炉を稼働させ、耐火物被覆メタルアンカーの外観状況を観察した。稼働条件は廃棄物処理炉側壁にて約1年間の使用とした。得られた結果を表2に示す。耐火物被覆メタルアンカーの損傷が最も少ない場合が◎であり、〇、▲、△、×の順に劣化が顕著であることを示している。
【0061】
≪比較例≫
耐火物の組成を表2に示す比較例1~比較例4としたこと以外は、実施例と同様にして、比較耐火物被覆メタルアンカーを得た。また、実施例と同様にして、強度及び耐熱衝撃性を評価すると共に、実炉での使用状況を確認した。得られた結果を表2に示す。
【0062】
900℃の大気中で24時間保持した際の酸化重量が3mg/cm2以下となる鉄系ファイバーを含有する実施耐火物被覆メタルアンカーは、耐熱衝撃性の評価における剥落率が1%以下となっており、極めて優れた値となっている。これに対し、鉄系ファイバーを含有しない比較例1及び比較例2で得られた耐火物被覆メタルアンカーの剥落率はそれぞれ5%及び8%と高い値となっている。加えて、900℃の大気中で24時間保持した際の酸化重量が3mg/cm2よりも大きくなる鉄系ファイバーを含有させた場合(比較例3及び比較例4)、当該鉄系ファイバーの分散により剥落率が増加することが分かる。
【0063】
実施耐火物被覆メタルアンカー同士で比較すると、900℃の大気中で24時間保持した際の酸化重量がより小さな鉄系ファイバーを用いることで、より優れた耐熱衝撃性が得られている(実施例1~実施例3の比較)。また、900℃の大気中で24時間保持した際の酸化重量が3mg/cm2以下となる同じ鉄系ファイバーを用いた場合、0.5~5.0重量%の範囲であれば、添加量の増加に伴って耐熱衝撃性が向上していることが分かる(実施例4~実施例7の比較)。
【0064】
また、全ての実施耐火物被覆メタルアンカーにおいて、実用上問題ない良好な圧縮強さと曲げ強さが得られている。更に、実炉での劣化状況は耐熱衝撃性と同様の傾向を示しており、全ての実施耐火物被覆メタルアンカーにおいて▲以上の良好な評価結果となっている。特に、実施例1、実施例5~7で得られた耐火物被覆メタルアンカーでは◎の評価となっている。
【符号の説明】
【0065】
1・・・耐火物被覆メタルアンカー、
2・・・内蔵アンカー、
4・・・耐火物、
6・・・上面、
8・・・脚部基底面、
10・・・先端部、
20・・・ケーシング、
22・・・耐火キャスタブル層、
24・・・断熱キャスタブル層、
26・・・高温炉、
30・・・クラック、
32・・・空隙、
34・・・侵入経路、
40,42・・・クラック。
【要約】
【課題】良好な可撓性を有するメタルアンカーの特性に加え、耐火材と耐熱材の境界層部分からのメタルアンカーの腐食が抑制され、更には耐酸化性及び耐熱衝撃性に優れた耐火物被覆メタルアンカーを提供する。また、耐火物被覆メタルアンカーを用いた長寿命な高温炉を提供する。
【解決手段】高温炉の炉壁又は天井部の不定形耐火物を保持するメタルアンカーであって、内蔵アンカーが耐火物で被覆され、耐火物には鉄系ファイバーが分散しており、鉄系ファイバーを900℃の大気中で24時間保持した際の酸化重量が3mg/cm
2以下であること、を特徴とする耐火物被覆メタルアンカー。
【選択図】
図1