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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】予測装置、予測システム及び予測方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/20 20180101AFI20221223BHJP
   A01K 29/00 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
G16H50/20
A01K29/00 B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021141675
(22)【出願日】2021-08-31
【審査請求日】2022-05-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514235307
【氏名又は名称】アニコム ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 一輝
(72)【発明者】
【氏名】若菜 耕太
(72)【発明者】
【氏名】菊地 了
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 真理
(72)【発明者】
【氏名】杉田 伶
(72)【発明者】
【氏名】小泉 亮人
(72)【発明者】
【氏名】高野 宏行
【審査官】玉木 宏治
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-082087(JP,A)
【文献】特開2020-171207(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187933(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
A01K 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の遺伝情報、血統情報及び容貌情報に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む先天的データから、前記動物の将来の疾患罹患又は疾患傾向状態の発生を予測する第一予測手段と、
前記動物の食生活に関する情報、腸内細菌叢に関する情報、身体に関する情報、住環境に関する情報、診断、検診及び検査に関する情報、罹患した疾患に関する情報並びに治療に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む後天的データから、前記第一予測手段が生成した予測を、学習済みモデルを用いて修正する第二予測手段と、
を備えることを特徴とする予測装置。
【請求項2】
前記第二予測手段が修正した予測に応じて、疾患罹患又は疾患傾向状態の発生を予防するための予防プランを提案する提案手段をさらに備える請求項1記載の予測装置。
【請求項3】
前記予防プランが、フード、運動習慣、生活習慣、住環境、服装及びかかりつけ医からなる一種以上の変更についての提案を含む請求項2記載の予測装置。
【請求項4】
前記第二予測手段による修正が、前記第一予測手段が予測した将来の疾患罹患又は疾患傾向状態の発生の時期を後ろ倒しにする、又は、発生確率を下げる修正である請求項1~3のいずれか一項記載の予測装置。
【請求項5】
前記疾患傾向状態が、肥満、低体重、高血圧、低血圧、高血糖及び低血糖からなる群から選ばれる一つ以上の状態である請求項1~4のいずれか一項記載の予測装置。
【請求項6】
前記第二予測手段が修正した予測に応じて、動物の飼い主が将来負担する可能性のある治療費を算出する治療費算出手段をさらに備える請求項1~5のいずれか一項記載の予測装置。
【請求項7】
前記疾患が、遺伝病である請求項1~6のいずれか一項記載の予測装置。
【請求項8】
前記疾患が、生活習慣病である請求項1~6のいずれか一項記載の予測装置。
【請求項9】
前記遺伝情報が、がん関連遺伝子、進行性網膜萎縮症(PRA)関連遺伝子、遺伝性白内障関連遺伝子、コリー眼異常(CEA)関連遺伝子、フォンビルブランド病(vWD)関連遺伝子、MDR1遺伝子、銅蓄積性肝障害関連遺伝子、シスチン尿症関連遺伝子、骨形成不全症関連遺伝子、X染色体連鎖筋ジストロフィー関連遺伝子、電位依存性塩素イオンチャネル遺伝子、オレキシン関連遺伝子、重症複合免疫不全症関連遺伝子、白血球粘着不全症(CLAD)関連遺伝子、周期性好中球減少症(グレーコリー症候群)関連遺伝子、ホスホフルクトキナーゼ欠損症関連遺伝子、ピルビン酸キナーゼ欠損症関連遺伝子及びライソゾーム病関連遺伝子からなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子の配列又は変異に関する情報である請求項1~8のいずれか一項記載の予測装置。
【請求項10】
前記第二予測手段が、修正した第一予測手段による予測を、一度使用した後天的データとは別の後天的データを用いて、さらに修正することができるものである請求項1~9のいずれか一項記載の予測装置。
【請求項11】
前記提案手段が提案した予防プランに対して、動物の飼い主の要望に応じて予防プランを修正する要望反映手段をさらに備える請求項2記載の予測装置。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項記載の予測装置と、動物の所有者が使用する端末とがネットワークを介して接続されてなる予測システム。
【請求項13】
動物の遺伝情報、血統情報及び容貌情報に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む先天的データをコンピュータが受け付けるステップと、
前記先天的データから、前記動物の将来の疾患罹患又は疾患傾向状態の発生をコンピュータが予測する第一予測ステップと、
前記動物の食生活に関する情報、腸内細菌叢に関する情報、身体に関する情報、住環境に関する情報、診断、検診及び検査に関する情報、罹患した疾患に関する情報並びに治療に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む後天的データをコンピュータが得るステップと、
コンピュータが、学習済みモデルを用いて、前記後天的データに基づいて、先天的データからの将来の疾患罹患又は疾患傾向状態の発生についての予測を修正する第二予測ステップと、
を有する、
予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予測装置、予測システム及び予測方法に関し、詳しくは、ヒトを除く動物の先天的データ及び後天的データから、その動物の将来の疾患罹患又は疾患傾向状態の発生を予測する予測装置、予測システム及び予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
犬や猫、ウサギを始めとする愛玩動物、牛や豚を始めとする家畜は、人間にとってかけがえのない存在である。近年、人間が飼育する動物の平均寿命が大幅に伸びた一方で、動物がその一生の中で何らかの疾患に罹患することが多くなり、飼育者が負担する医療費の増大が問題となっている。
【0003】
動物の健康を維持するためには、日頃の食事、運動などを通じた体調管理や不調への素早い対応が重要となるが、動物は、自己の言葉で体の不調を訴えることができないため、症状が進行して、外形的に観察可能な何らかの徴候が生じたときに飼育者が初めて動物の疾患の罹患に気付くのが実情であり、最悪の場合、飼い主が前触れに気付かないまま動物が突然死亡してしまうという事態もあり得る。
【0004】
もし、動物が疾患に罹患する可能性が高まっていることが分かれば、疾患への罹患や死亡という最悪の結果を避けるべく、食生活や生活習慣の改善、精密検査や治療などの対策をとることが可能になる。また、疾患まで至らなくとも、疾患につながるような健康状態、例えば、肥満、高血圧、高血糖といった状態も、予めそのような状態に至る可能性があることが分かっていれば、対策をとることが可能となる。
【0005】
そのため、簡易な方法で、動物が将来疾患に罹患する可能性や疾患につながるような状態に陥る可能性があるのかを知る手段が求められている。
【0006】
特許文献1には、動物である被検体の品種を表す品種情報、及び被検体の病状に関する病状情報を取得し、取得した前記品種情報、及び前記病状情報に基づいて、前記被検体が罹患している疾患または外傷を予測し、予測結果に基づいて、前記被検体の疾患または外傷に対応可能な動物病院を抽出する情報処理装置が開示されている。
【0007】
特許文献2には、ペットの遺伝子をサンプルとして採取するサンプル工程と、前記サンプルを解析して病気に直結する遺伝子の変異を発見する解析工程と、前記変異に基づき、前記ペットに発現が予想される病気を特定する特定工程と、前記解析工程で発見された変異、及び前記特定工程によって特定された病気を前記ペットの飼い主に通知する通知工程とを含むことを特徴とするペット診断指導方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、動物の顔画像からその動物が将来疾患に罹患するかどうかを予測する疾患予測システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2021-82087号公報
【文献】特開2020-171207号公報
【文献】特開2018-19611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記先行技術文献のいずれにも、動物の先天的データに基づく予測結果に加えて、後天的データを用いた予測を加味して疾患への罹患可能性などを予想する機能を備えた予測装置や予測システムは開示されていない。
【0011】
そこで、本発明は、簡易な方法で、動物が将来疾患などに罹患する可能性があるかを予測する予測装置及び予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ペット保険に加入している多数の動物の遺伝子情報、系統に関する情報、容貌に関する情報などのデータや、腸内細菌叢、体重、食生活、住環境などのデータに加えて、当該動物が保険を利用するに至ったか、つまり、疾患に罹患したかといったデータを保持しており、これらのデータを分析することによって、動物に関するデータを先天的データと後天的データとに分け、先天的データに基づく疾患罹患等に関する予測結果を、後天的データに基づいて修正することで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の[1]~[13]である。
[1]動物の遺伝情報、血統情報及び容貌情報に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む先天的データから、将来の疾患罹患又は疾患傾向状態の発生を予測する第一予測手段と、前記動物の食生活に関する情報、腸内細菌叢に関する情報、身体に関する情報、住環境に関する情報、診断、検診及び検査に関する情報、罹患した疾患に関する情報並びに治療に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む後天的データから、前記第一予測手段が生成した予測を修正する第二予測手段と、
を備えることを特徴とする予測装置。
[2]前記第二予測手段が修正した予測に応じて、疾患罹患又は疾患傾向状態の発生を予防するための予防プランを提案する提案手段をさらに備える[1]の予測装置。
[3]前記予防プランが、フード、運動習慣、生活習慣、住環境、服装及びかかりつけ医からなる一種以上の変更についての提案を含む[2]の予測装置。
[4]前記第二予測手段による修正が、前記第一予測手段が予測した将来の疾患罹患又は疾患傾向状態の発生の時期を後ろ倒しにする、又は、発生確率を下げる修正である[1]~[3]のいずれかの予測装置。
[5]前記疾患傾向状態が、肥満、低体重、高血圧、低血圧、高血糖及び低血糖からなる群から選ばれる一つ以上の状態である[1]~[4]のいずれかの予測装置。
[6]前記第二予測手段が修正した予測に応じて、ペットの飼い主が将来負担する可能性のある治療費を算出する治療費算出手段をさらに備える[1]~[5]のいずれかの予測装置。
[7]前記疾患が、遺伝病である[1]~[6]のいずれかの予測装置。
[8]前記疾患が、生活習慣病である[1]~[6]のいずれかの予測装置。
[9]前記遺伝情報が、がん関連遺伝子、進行性網膜萎縮症(PRA)関連遺伝子、遺伝性白内障関連遺伝子、コリー眼異常(CEA)関連遺伝子、フォンビルブランド病(vWD)関連遺伝子、MDR1遺伝子、銅蓄積性肝障害関連遺伝子、シスチン尿症関連遺伝子、骨形成不全症関連遺伝子、X染色体連鎖筋ジストロフィー関連遺伝子、電位依存性塩素イオンチャネル遺伝子、オレキシン関連遺伝子、重症複合免疫不全症関連遺伝子、白血球粘着不全症(CLAD)関連遺伝子、周期性好中球減少症(グレーコリー症候群)関連遺伝子、ホスホフルクトキナーゼ欠損症関連遺伝子、ピルビン酸キナーゼ欠損症関連遺伝子及びライソゾーム病関連遺伝子からなる群から選ばれる一つ以上の遺伝子の配列又は変異に関する情報である[1]~[8]のいずれかの予測装置。
[10]
前記第二予測手段が、修正した第一予測手段による予測を、一度使用した後天的データとは別の後天的データを用いて、さらに修正することができるものである[1]~[9]のいずれかの予測装置。
[11] 前記提案手段が提案した予防プランに対して、ペットの飼い主の要望に応じて予防プランを修正する要望反映手段をさらに備える[1]~[10]のいずれかの予測装置。
[12][1]~[11]のいずれかの予測装置と、動物の所有者が使用する端末とがネットワークを介して接続されてなる予測システム。
[13]動物の遺伝情報、血統情報及び容貌に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む先天的データを受け付けるステップと、前記先天的データから将来の疾患罹患又は疾患傾向状態の発生を予測する第一予測ステップと、前記動物の食生活に関する情報、腸内細菌叢に関する情報、身体に関する情報、住環境に関する情報、診断、検診及び検査に関する情報、罹患した疾患に関する情報並びに治療に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む後天的データを得るステップと、前記後天的データに基づいて、先天的データからの将来の疾患罹患又は疾患傾向状態の発生についての予測を修正する第二予測ステップと、
を有する予測方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、簡易な方法で、動物が将来疾患に罹患する可能性があるかを予測する予測装置、予測システム及び予測方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の予測システムの一実施態様を表すブロック図である。
図2】本発明の予測装置の一実施態様を表すブロック図である。
図3】本発明の予測装置の一実施態様を表すブロック図である。
図4】本発明の予測装置による予測方法の流れの一例を表すフローチャート図である。
図5】本発明の予測装置による予測方法の流れの一例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<予測装置>
本発明の予測装置は、動物の遺伝情報、血統情報及び容貌に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む先天的データから、将来の疾患罹患又は疾患傾向状態の発生を予測する第一予測手段と、前記動物の食生活に関する情報、腸内細菌叢に関する情報、身体に関する情報、住環境に関する情報、診断、検診及び検査に関する情報、罹患した疾患に関する情報及び治療に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む後天的データから、前記第一予測手段が生成した予測を修正する第二予測手段と、を備えることを特徴とするものである。動物としては、ペット、愛玩動物が好ましく、犬、猫、フェレット、ウサギがさらに好ましい。
【0017】
[第一予測手段]
第一予測手段は、特定の先天的データを有する動物が、いつ(時期、回数)、どんな(種類)疾患又は疾患傾向状態となるのかを予測する手段である。予測方法は特に限定されない。例えば、プロセッサが、予め設定されたプログラムを用いて動物の先天的データからその動物が所定期間内に疾患に罹患するか又は疾患傾向状態に陥るか否かを予測する。以下の段落において、第一予測手段によって得られた予測を「第一予測」と称する場合がある。
【0018】
時期については、3ヶ月以内、半年以内といった短期的な予測ではなく、1年以内、3年以内、5年以内、或いは、動物の一生といった長期的な予測が好ましい。回数については、1回限りの予測だけではなく、複数回、或いは慢性的な予測が盛り込まれることが好ましい。種類については、先天的データに基づいて、統計学的に有意な割合で発生する疾患又は疾患傾向状態であることが好ましい。
【0019】
本発明の第一予測手段は、単独の先天的データ毎に、又は複数の先天的データからなる先天的データセット毎に予め用意されたモデルを単独、又は組み合わせて予測する構成であってもよい。例えば、「遺伝子情報1を有する場合には、5歳で疾患1に90%の割合で罹患する」というモデル1と、「血統2に該当する場合には、10歳以上で慢性的な疾患傾向状態2が30%の割合で発生する」というモデル2が存在している場合において、動物Aが遺伝子情報1と血統2に該当する場合には、「動物Aは、5歳で疾患1を90%の割合で罹患し、10歳以上で疾患傾向状態2を30%の割合で発生する」という予測がなされる。
【0020】
また、時期と種類が重複する場合には、統合して予測する構成であってもよい。例えば、「遺伝子情報3を有する場合には、3歳以上で疾患3に30%の割合で罹患する」というモデル3―1と、「血統3に該当する場合には、7歳以上で疾患3に80%の割合で罹患する」というモデル3-2が存在している場合において、動物Bが遺伝子情報3と血統3に該当する場合には、「動物Bは、3歳以上で疾患3を30%の割合で罹患し、7歳以上になると疾患3に罹患する割合が80%に上昇する」という予測がなされる。
【0021】
本発明の第一予測手段は、学習済みモデルを使って予測する構成であってもよい。このような学習済みモデルとしては、先天的データと、その動物が、所定期間内に疾患に罹患したか否か、或いは、肥満などの疾患傾向状態に陥ったかに関する情報との関係を学習した学習済みモデルであることが好ましい。学習済みモデルとしては、さらに、動物の遺伝情報、血統情報及び容貌に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む先天的データと、その動物が、所定期間内に疾患に罹患したか否か、或いは、疾患傾向状態に陥ったかに関する情報とを教師データとして学習を行った学習済みモデルが好ましい。このような教師データに用いる所定期間内に疾患に罹患したか否かに関する情報における所定期間としては、3年以内が好ましく、2年以内がより好ましく、1年以内がさらに好ましい。
【0022】
前記学習済みモデルとしては、人工知能(AI)が好ましい。人工知能(AI)とは、人間の脳が行っている知的な作業をコンピュータで模倣したソフトウェアやシステムであり、具体的には、人間の使う自然言語を理解したり、論理的な推論を行ったり、経験から学習したりするコンピュータプログラムなどのことをいう。人工知能としては、汎用型、特化型のいずれであってもよく、ディープニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク等のいずれであってもよく、公開されているソフトウェアを使用することができる。
【0023】
学習済みモデルを生成するために、人工知能に教師データを用いて学習させる。学習としては、機械学習とディープラーニング(深層学習)のいずれであってもよいが、機械学習が好ましい。ディープラーニングは、機械学習を発展させたものであり、特徴量を自動的に見つけ出す点に特徴がある。
【0024】
学習済みモデルを生成するための学習方法としては、特に制限されず、公開されているソフトウェアを用いることができる。例えば、NVIDIAが公開しているDIGITS (the Deep Learning GPU Training System)を用いることができる。その他、例えば、「サポートベクターマシン入門」(共立出版)等において公開されている公知のサポートベクターマシン法(Support Vector Machine法)等によって学習させてもよい。
【0025】
機械学習としては、教師無し学習及び教師あり学習のいずれでもあり得るが、教師あり学習が好ましい。教師あり学習の手法としては特に限定されず、例えば、決定木(ディシジョン・ツリー)、アンサンブル学習、勾配ブースティング等を挙げることができる。公開されている機械学習のアルゴリズムとしては、例えば、XGBoost、CatBoostやLightGBMが挙げられる。
【0026】
学習のための教師データとしての疾患に罹患したか否かについての情報は、ダミー変数に置き換えることができる。当該動物が所定期間内に疾患に罹患したか、或いは疾患傾向状態になったかどうかの情報は、例えば、保険請求の事実(「事故」ともいう。)に関連して、動物病院あるいは保険をかけた飼い主等から入手可能である。
【0027】
学習済みモデルとしては、マルチモーダルな学習済みモデル、例えば、教師データとして、動物の遺伝情報、血統情報及び容貌に関する情報からなる群から選ばれる情報のうち、複数の情報を用いて学習をさせたものを用いてもよい。また、第一予測手段は、複数の学習済みモデルを含むものであってもよい。たとえば、動物の遺伝情報を使って学習した学習済みモデル、血統情報を用いて学習した学習済みモデル、容貌を使って学習した学習済みモデルを含む構成が挙げられる。複数の学習済みモデルを用いる場合、複数の学習済みモデルの多数決によって予測結果を算出するという構成や複数の学習済みモデルの予測を統合して予測結果を算出するという構成であってもよい。
【0028】
[先天的データ]
本発明の先天的データとは、動物の遺伝情報、血統情報及び容貌に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含むデータである。
【0029】
[遺伝情報]
動物の遺伝情報とは、動物の遺伝子配列に関する情報であり、例えば、ゲノム配列、特定の遺伝子の配列、SNP(Single Nucleotide Polymorphism)、多型、遺伝子変異に関する情報などが挙げられる。遺伝情報は、例えば、シーケンサー、遺伝子検査キットなど公知の方法によって得ることができる。遺伝情報としては、疾患、肥満などの疾患傾向状態に関連することが知られている遺伝子配列又は塩基配列が好ましい。
【0030】
動物、例えば犬の遺伝病(遺伝性疾患)としては、例えば、がん、進行性網膜萎縮症(PRA)、遺伝性白内障、コリー眼異常(CEA)、フォンビルブランド病(vWD)関連遺伝子、イベルメクチン感受性(MDR1遺伝子)、銅蓄積性肝障害、シスチン尿症、骨形成不全症、X染色体連鎖筋ジストロフィー、先天性筋緊張症(電位依存性塩素イオンチャネル遺伝子の変異)、ナルコレプシー(オレキシン関連遺伝子の変異)、重症複合免疫不全症、白血球粘着不全症(CLAD)、周期性好中球減少症(グレーコリー症候群)、ホスホフルクトキナーゼ欠損症、ピルビン酸キナーゼ欠損症、ライソゾーム病といった疾患が知られている。
【0031】
猫の遺伝性疾患としては、例えば、骨軟骨異形成症、多発性嚢胞腎症、肥大型心筋症、グリコーゲン貯蔵病(糖原病)、ピルビン酸キナーゼ欠損症、進行性網膜萎縮症、脊髄性筋萎縮症が挙げられる。
【0032】
遺伝情報として、これらの疾患の発症に関連する遺伝子の配列情報が好ましい。疾患に関連する遺伝子とは、特定の遺伝子に変異が存在すると特定の疾患に罹患しやすくなる、あるいは、罹患しにくくなるという遺伝子、あるいは特定の配列であると特定の疾患に罹患しやすくなる、あるいは罹患しにくくなるという遺伝子である。
【0033】
[血統情報]
動物の血統情報とは、動物の血統に関する情報であり、例えば、品種、家族、先祖、子孫に関する情報を含んでいてもよい。血統情報としては、疾患、疾患傾向状態に関連することが知られていることが好ましい。疾患及び疾患傾向状態の事例は遺伝子情報の場合と同様であり、血統情報として、これらの疾患の発症に関連する血統の情報が好ましい。疾患に関連する血統情報とは、特定の血統に該当すると疾患に罹患しやすくなる、あるいは、罹患しにくくなるという血統である。
【0034】
[容貌情報]
動物の容貌情報とは、動物の外見である。容貌情報は、遺伝情報や血統を反映するものであり、動物の先天的な要素の一種である。容貌情報としては、疾患、疾患傾向状態に関連することが知られていることが好ましい。疾患及び疾患傾向状態の事例は遺伝子情報の場合と同様であり、容貌情報として、これらの疾患の発症に関連する容貌の情報が好ましい。疾患に関連する容貌情報とは、特定の容貌(例えば「毛色」)に該当すると疾患に罹患しやすくなる、あるいは、罹患しにくくなるという容貌である。
【0035】
容貌情報に関するデータとしては、例えば、動物の顔の画像が挙げられる。画像のフォーマットは特に限定されず、静止画であっても動画であってもよい。動物のトリミングは全身を対象とするものであり、画像に写っている動物の部位は特に限定されないが、動物の画像は、動物の顔が写っている画像が好ましく、動物の顔を正面から撮影した写真であることがより好ましく、動物の顔が大きく写っている写真がさらに好ましい。また、マズル付近のみになるように画像をトリミングしたり、目の付近のみになるようにトリミングした画像よりも、動物の耳まで写っている顔の画像が特に好ましい。そのような写真として、ヒトの運転免許証の写真のような写真が挙げられる。動物の健康保険証に用いられるような画像も好ましい。画像は、白黒、グレースケール、カラーのいずれであってもよい。動物の顔全体が写っていない画像、画像編集ソフトウェアで形状が編集された画像、複数の動物が写っている画像、目や耳が判別出来ないほど顔が小さく写っている画像あるいは不鮮明な画像は好ましくない。画像については、ノーマライゼーションが施されたものや、解像度が統一されたものが好ましい。
【0036】
[疾患]
本発明において予測対象となる疾患については特に限定されない。好ましくは、遺伝、血統、容貌などの先天的特性と発症リスクがリンクしている疾患、生活習慣などの改善によって発症リスクを下げる、又は発症を抑制することが期待できる疾患である。
【0037】
遺伝、血統、容貌などの先天的特性と発症リスクがリンクしている疾患としては、例えば、犬については、進行性網膜萎縮症(PRA)、遺伝性白内障、コリー眼異常(CEA)、フォンビルブランド病(vWD)、MDR1、銅蓄積性肝障害、シスチン尿症、骨形成不全症、X染色体連鎖筋ジストロフィー、電位依存性塩素イオンチャネル、オレキシン、重症複合免疫不全症、白血球粘着不全症(CLAD)、周期性好中球減少症(グレーコリー症候群)、ホスホフルクトキナーゼ欠損症、ピルビン酸キナーゼ欠損症及びライソゾーム病が挙げられ、猫については、例えば、骨軟骨異形成症、多発性嚢胞腎症、肥大型心筋症、グリコーゲン貯蔵病(糖原病)、ピルビン酸キナーゼ欠損症、ムコ多糖症、進行性網膜萎縮症、脊髄性筋萎縮症が挙げられる。
【0038】
生活習慣などの改善によって発症リスクを下げる、又は発症を抑制することが期待できる疾患としては、犬については、外耳炎、皮膚炎、胃腸炎、膀胱炎、胆泥炎、関節炎、椎間板ヘルニア、膿皮症、糖尿病、腎不全、がんなどが挙げられ、猫については、皮膚炎、結膜炎、尿石症、腫瘍疾患、心筋症、甲状腺機能亢進症、猫喘息、糖尿病、腎不全、がんなどが挙げられる。
【0039】
[疾患傾向状態]
疾患傾向状態とは、疾患に至る可能性が高まる生理状態のことをいい、例えば、体重増加、体重減少、睡眠不足、運動不足、カルシウム不足、ビタミン不足、栄養失調、慢性疲労、肥満、低体重、高血圧、低血圧、高血糖、低血糖が挙げられ、好ましくは、肥満、低体重、高血圧、低血圧、高血糖、低血糖である。
【0040】
[第二予測手段]
第二予測手段は、動物の後天的データに基づいて、前記第一予測を修正する手段である。予測の修正方法は特に限定されない。例えば、プロセッサが、予め設定されたプログラムを用いて動物の後天的データからその動物が所定期間内に疾患に罹患するか又は疾患傾向状態に陥るか否かの予測を修正する。
【0041】
第二予測手段は、好ましくは、疾患に罹患する時期や、疾患傾向状態になる時期についての予測を修正する。例えば、3年以内に腎臓病に罹患する可能性が50%あるという第一予測に対して、食生活についての情報を加味して、腎臓病を発症する可能性は、3年以内ではなく5年以内というように発症時期の予測を後ろ倒しにする。
第二予測手段は、好ましくは、疾患に罹患する確率や、疾患傾向状態になる確率についての予測数値を修正する。例えば、3年以内に腎臓病に罹患する可能性が50%という第一予測を、食生活に関するデータを加味し、3年以内に腎臓病に罹患する可能性を20%というように修正する。これらは、後天的データによって、第一予測における疾患に罹患する時期を後ろ倒しにする、又は、罹患の確率を下げる修正例であるが、逆に、後天的データを反映することによって、第一予測における疾患の罹患時期の予測を前倒しにしたり、罹患の確率を上げる修正を行うこともできる。
第二予測手段は、好ましくは、新たな疾患に罹患するか又は疾患傾向状態に陥るか否かについての予測を修正する。例えば、第一予測では糖尿病に罹患することが想定されていなかった場合において、後天的データに基づいて1年以内に糖尿病に罹患する可能性が50%というように修正する。
【0042】
第二予測手段は、修正した第一予測を、一度使用した後天的データとは別の後天的データを用いて、さらに修正することができることが好ましい。例えば、第一予測手段が予測した疾患の罹患可能性を、腸内細菌叢に関する情報を用いて修正した後に、その後に得られた食生活の改善や予防薬の投与といった後天的データを用いてさらに修正することができるというものである。修正を繰り返すことで、動物の一生の間に発生するイベントに応じて、リアルタイムで予測を正確なものに修正していくことが可能となる。
【0043】
また、第二予測手段は、3ヶ月以内、半年以内といった短期的な予測の修正のみならず、長期的な予測、例えば、1年以内、3年以内、5年以内、或いは、動物の一生の間に、疾患に罹患する可能性がどれだけあるかについて予測を修正することが好ましい。疾患の予測は、一種類の疾患のみならず、多種の疾患への罹患に関する予測を修正することが好ましい。例えば、今後数年以内にがんに罹患する可能性が30%、腎臓病に罹患する可能性が50%といった予測である。
【0044】
第二予測手段は、単独の後天的データ毎に、又は複数の後天的データからなる後天的データセット毎に予め用意されたモデルを単独、又は組み合わせて、第一予測を修正する構成であってもよい。
【0045】
例えば、「腸内細菌叢が状態4に該当する場合には、1年後に慢性的な疾患4に50%の割合で罹患する」というモデル4が存在して、6歳の動物Cが状態4であり、且つ動物Cの第一予測が「10歳で疾患4に80%の割合で罹患する」という場合には、「動物Cは、1年後(7歳)に疾患4に罹患する割合が50%であり、10歳になると疾患4に罹患する割合が80%に上昇する」という予測に修正される。
【0046】
本発明の第二予測手段は、第一予測手段と同様に、学習済みモデルを使って予測する構成であってもよい。このような学習済みモデルとしては、動物の後天的データと、その動物が、所定期間内に疾患に罹患したか否か、或いは、肥満などの疾患傾向状態に陥ったかに関する情報との関係を学習した学習済みモデルであることが好ましい。学習済みモデルとしては、さらに、後天的データと、その動物が、所定期間内に疾患に罹患したか否か、或いは、疾患傾向状態に陥ったかに関する情報とを教師データとして学習を行った学習済みモデルが好ましい。このような教師データに用いる所定期間内に疾患に罹患したか否かに関する情報における所定期間としては、3年以内が好ましく、2年以内がより好ましく、1年以内がさらに好ましい。
第二予測手段がこのような学習済みモデルを用いる場合、第一予測手段が生成した予測と、第二予測手段が生成した予測を組み合わせることにより、最終的な予測結果を算出し、それをもって、第一予測手段が生成した予測を修正するという構成であってもよい。
【0047】
第一予測手段と第二予測手段が、ともに学習済みモデルを用いる場合、第一予測手段は、疾患の前段階の発生、例えば疾患傾向状態の発生や特定の遺伝子の発現量の変化を予測する学習済みモデルを用い、第二予測手段は、疾患の前段階の発生から疾患の罹患を予測する学習済みモデルを用いるという二段階予測モデルを用いる構成であってもよい。
【0048】
[後天的データ]
本発明の後天的データとは、動物の食生活に関する情報、腸内細菌叢に関する情報、身体に関する情報、住環境に関する情報、診断、検診及び検査に関する情報、罹患した疾患に関する情報並びに治療に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含むデータである。
【0049】
[食生活に関する情報]
動物の食生活に関する情報とは、動物が摂取しているフードに関する情報である。例えば、普段食しているフードの成分、フードの摂取量、摂取回数などが挙げられる。フードの成分としては、具体的な原材料、糖質、タンパク質、脂質、ビタミンなどの栄養素が挙げられる。
【0050】
[腸内細菌叢に関する情報]
動物の腸内細菌叢に関する情報とは、動物の腸内に存在する細菌の種類や割合に関する情報である。腸内細菌叢は、例えば、動物の糞便サンプルを取得し、NGS(次世代シーケンサー)を利用した16SrRNA遺伝子のアンプリコン解析(菌叢解析)を行うことによって把握することができる。また、動物から採取した糞便試料中に含まれるあらゆる生物のDNAやRNAの塩基配列情報を次世代シーケンサーを用いて解析することによって、当該試料中に含まれる生物を同定する方法であってもよい。腸内細菌叢に関する情報としては、腸内細菌叢に含まれる特定の菌科(属、目、綱、門であってもよい)の占有率(ヒットレート)や、特定の菌科(属、目、綱、門であってもよい)に属する細菌の有無などであってもよい。そのような特定の菌科としては、例えば、アルカリゲネス科(Alcaligenaceae)、バクテロイデス科(Bacteroidaceae)、ビフィドバクテリウム科(Bifidobacteriaceae)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、コプロバチルス科(Coprobacillaceae)、コリオバクテリウム科(Coriobacteriaceae)、エンテロバクター科(Enterobacteriaceae)、エンテロコッカス科(Enterococcaceae)、エリュシペロトリクス科(Erysipelotrichaceae)、フソバクテリウム科(Fusobacteriaceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ペプトストレプトコッカス科(Peptostreptococcaceae)、プレボテラ科(Prevotellaceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、ベイノレラ科(Veillonellaceae)、ストレプトコッカス科(Streptococcaceae)
、カンピロバクター科(Campylobacteraceae)、デスルフォビブリオ科(Desulfovibrionaceae)、フラボバクテリウム科(Flavobacteriaceae)、ヘリコバクター科(Helicobacteraceae)、オドリバクター科(Odoribacteraceae)、パラプレボテラ科(Paraprevotellaceae)、ペプトコッカス科(Peptococcaceae)、ポルフィロモナス科(Porphyromonadaceae)、サクシニビブリオ科(Succinivibrionaceae)、デスルフォビブリオ(Desulfovibrionaceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)、ツリシバクター科(Turicibacteraceae)、コマモナス科(Comamonadaceae)、ロイコノストック科(Leuconostocaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、スフィンゴバクテリウム科(Sphingobacteriaceae)が挙げられる。これらのうち一種以上の占有率や存在の有無についての情報を腸内細菌叢に関する情報として用いることが好ましい。
【0051】
NGS(次世代シーケンサー)を利用した16SrRNA遺伝子のアンプリコン解析(菌叢解析)の一例を具体的に説明する。まず、DNA抽出試薬を用いて糞便などの試料よりDNAを抽出し、抽出したDNAからPCRによって16SrRNA遺伝子を増幅する。その後、増幅したDNA断片についてNGSを用いて網羅的に塩基配列を決定し、低クオリティリードやキメラ配列の除去を行った後、配列同士をクラスタリングしてOTU(Operational Taxonomic Unit)解析を行う。OTUとは、ある一定以上の類似性(例えば、96~97%以上の相同性)を持つ配列同士を一つの菌種のように扱うための操作上の分類単位である。従って、OTU数は菌叢を構成する菌種の数を表し、同一のOTUに属するリードの数はその種の相対的な存在量を表していると考えられる。また、各OTUに属するリード数の中から代表的な配列を選び、データベース検索により科名や属種名の同定が可能となる。このようにして、特定の科に属する菌の有無や占有率を測定することができる。
【0052】
占有率に関するデータとは、動物の腸内細菌叢に含まれる各菌の占有率に関連するデータである。占有率とは、腸内細菌叢に占める各菌科に属する細菌の存在比(検出比率)であり、例えば、NGSなどのシーケンサーを用いたアンプリコンシーケンスなどの公知のメタゲノム解析法での検出結果「hit rate」として測定することができる。本発明では、占有率に関するデータとして、腸内細菌叢の占有率の数値を用いてもよく、占有率に基づいて設定されたラベルやスコアを用いてもよい。また、菌の有無についても、菌の有無に基づいて設定されたラベルやスコアを用いてもよい。
【0053】
本発明における占有率は、菌の科ごとの占有率である。科ごとの占有率とは、ある科に属する菌全体についての占有率である。つまり、科ごとの占有率を算定する場合には、腸内細菌叢における各菌種について、ある科に属する菌種の占有率を合計して、当該科の占有率を算定することができる。種レベルや属レベルまでの同定を行って、科ごとに合計してもよいし、種レベルや属レベルまでの同定を行わずに、科レベルでの同定を行って科の占有率を算定してもよい。
【0054】
占有率に基づいて設定されたラベルとは、占有率の数値の大小に応じて適宜設定されたラベルである。例えば、占有率の数値に応じて、「大」、「中」、「小」或いは「多」、「中」、「少」という3段階のラベルを設定することができる。また、ラベルの段階数は任意に設定することができ、例えば、「0」、「1」、「2」、「3」、・・・「20」といった多段階のラベルを付すこともできる。
ラベルを用いる場合は、腸内細菌叢中の占有率を測定し、入力手段に数値を入力する前に、当該測定された占有率に応じて、予め定めておいた対応表から特定のラベルを割当てて、そのラベルを受付手段に入力することができる。
また、菌の有無に基づいて設定されたラベルとは、菌の有無に応じて適宜設定されたラベルである。例えば、菌が存在する場合は「1」、存在しない場合は「0」といったラベルを付すことができる。
【0055】
占有率に基づいて設定されたスコアとは、菌の占有率の数値の大小に応じて適宜設定されたスコアである。例えば、占有率がある基準値以上の場合は「+1」、ある基準値未満の場合は「-1」というスコアが与えられる。
また、菌の有無に基づいて設定されたスコアとは、菌の有無に応じて適宜設定されたスコアである。例えば、特定の科について、その科に属する菌が存在すれば「+1」、存在しなければ「-1」というスコアが与えられる。
このようなスコアを菌科ごとに算出し、受付手段に入力してもよい。また、受付手段に菌科に属する菌の有無や占有率を入力し、当該入力された菌の有無についてのデータや占有率に基づいて予め設定されたスコア付与基準に基づいて各菌科ごとにスコアを算出するという構成でもよい。
本発明の予測装置は、第二予測手段が、菌科ごとに算出又は入力されたスコアを合計し、得られた合計スコアに基づいて疾患への罹患可能性を予測したり、予測を修正するという構成でもよい。
【0056】
[身体に関する情報]
動物の身体に関する情報とは、動物の外観やバイタルサインに関する情報である。例えば、動物の体長、体重、毛並み、歯並び等の外観情報、体温、脈拍、心拍数、呼吸数、血圧、排尿・排便回数等が挙げられる。これらの情報をクラス分け、あるいは、スコア化したものであってもよい。
【0057】
[住環境に関する情報]
動物の住環境に関する情報とは、動物が飼育されている環境に関する情報である。例えば、動物が飼育されている住居の住所、住居の面積、都会であるか否か、戸建てであるかマンションであるか、住居の階数、多頭飼育であるか否かといった情報である。飼い主の情報も含まれる。これらの情報をクラス分け、あるいは、スコア化したものであってもよい。
【0058】
[診断、検診及び検査に関する情報]
動物の診断、検診及び検査に関する情報とは、動物の健康診断、検診及び検査の結果に関する情報である。例えば、体温、脈拍、心拍数、呼吸数及び血圧等の基本的なバイタルサインに関する情報、血流、尿酸値及び血糖値等の血液に関する情報、血便や血尿等の排泄物に関する情報、CTやMRI等の非侵襲検査に関する情報などの情報である。これらの情報をクラス分け、あるいは、スコア化したものであってもよい。
【0059】
[罹患した疾患に関する情報]
動物の罹患した疾患に関する情報とは、動物が現に罹患している疾患又は以前に罹患していた疾患に関する情報である。現在又は過去の罹患情報を取得することによって、将来的な罹患の予測に利用することができる。これらの情報をクラス分け、あるいは、スコア化したものであってもよい。
【0060】
[治療に関する情報]
動物の治療に関する情報とは、動物が受けた治療と予後に関する情報である。例えば、薬の種類、日時、回数、量、場所及び投薬者(獣医など)等の投薬情報、手術の種類(放射線治療を含む)、日時、回数、手術時間、場所及び執刀医等の手術情報、並びに投薬又は手術後の予後情報などの情報である。第一予測手段が予測した疾患について、実際に発症し、当該疾患の治療を受けたのであれば、再発性のある疾患を除いて以後同じ疾患を罹患する可能性は下がるので、第二予測手段は治療に関する情報を用いて第一予測手段による予測を修正することができる。これらの情報をクラス分け、あるいは、スコア化したものであってもよい。
【0061】
(受付手段)
本発明の予測装置は、データの入力を受け付ける受付手段を備えていてもよい。画像を受け付ける場合の受付方法は、スキャン、画像データの入力、送信、その場で撮影しての画像取り込みなどいずれの方法であってもよい。
【0062】
(予測結果の出力)
本発明の第二予測手段による予測結果の出力形式は特に限定されず、例えば、パソコンやスマートフォンなどの端末の画面上において、「今後1年以内に糖尿病に罹患する可能性あり」、「今後3年以内にがんに罹患する可能性が高い」あるいは、「今後5年以内にがんに罹患し、それによって死亡する可能性は○%」といった表示をすることで予測結果を出力することができる。
本発明の予測装置は、第二予測手段から予測結果を受信し、予測結果を出力する出力手段を別途有していてもよい。
【0063】
(提案手段)
本発明の予測装置は、さらに、予測結果に応じて、疾患罹患又は疾患傾向状態の発生を予防するための予防プランを提案する提案手段を備えていてもよい。例えば、提案手段は、第二予測手段が生成した予測結果に応じて、予測される疾患リスクを回避するためのフード、疾患になりにくい細菌を含むサプリ、低塩分、低カロリーの食事、低糖質の食事、ダイエットメニュー等を提案したり、推奨することができる。提案手段は、学習済みモデルを有していてもよい。上記予防プランとしては、フード、運動習慣、生活習慣、住環境、服装及びかかりつけ医からなる一種以上の変更についての提案を含むことが好ましい。
【0064】
また、本発明の予測装置又は予測方法が出力する予測結果に応じて、疾患への罹患や疾患傾向状態の発生を防ぐための飲料、食事、サプリメントを製造あるいはカスタマイズすることもできる。予測に関連するサービスとして、本発明の予測装置又は予測方法による予測、予測結果の提供、予測結果に応じた飲料、食事、サプリメントを製造あるいはカスタマイズ、当該飲料、食事、サプリメントの提案、推奨という形態もとり得る。また、このようなサービスを提供した後に、さらに本発明の予測装置や予測方法を実施、例えば、第二予測手段のみ使用し、疾患の罹患可能性が低下したのかどうかを提示するといった方法も可能である。上記飲料、食事、サプリメントには、食餌療法用飲料、ダイエット食品、栄養補助用添加物等が含まれる。
このように、予測結果に応じた食事やフードの提案、製造、カスタマイズをすることによって、疾患リスクの低減や回避が期待される。
【0065】
(要望反映手段)
本発明の予測装置は、前記提案手段が提案した予防プランに対して、ペットの飼い主の要望に応じて予防プランを限定する要望反映手段をさらに備えていてもよい。提案手段によって提案される予防プランには、複数種の変更についての提案を含むことがあり、飼い主の負担が大きくなりすぎることがある。このような場合に、飼い主の要望に応じて予防プランを修正する要望反映手段を備えることによって、飼い主の負担の小さい予防プランを提供することができる。
【0066】
予防プランの修正とは、変更点を減らす修正や、別の予防プランと入れ替える修正である。変更点を減らす修正は、例えば、肥満の犬に対して、予防プランとしてフードの減量と朝昼晩の運動が提案されている場合において、フードの減量と朝晩の運動のみに限定する修正である。また、別の予防プランと入れ替える修正は、例えば、肥満の犬に対して、予防プランとしてフードの減量が提案されている場合において、朝昼晩の運動に代替する修正である。
【0067】
[治療費算出手段]
本発明の予測装置は、第二予測手段が修正した予測に応じて、ペットの飼い主が将来負担する可能性のある治療費を算出する治療費算出手段を備えることが好ましい。治療費算出手段は、例えば、プログラムやソフトウェアから構成され、第二予測手段が生成した予測結果に基づいて、別途用意されている各種疾患の治療費のリストやデータベースにアクセスし、動物の飼い主が疾患の治療に要するであろう費用の概算を提示する。治療費のリストやデータベースは、動物病院やペット保険の加入者からの聴き取りによって治療費に関する情報を得て構築することができる。
【0068】
<予測システム>
本発明の予測システムは、上記の予測装置と、動物の所有者が使用する端末とがネットワークを介して接続されてなるものである。動物の所有者は、スマートフォンやタブレットなどの端末を通じて、予測装置に対して、動物の先天的データや後天的データをアップロード、入力することができる。先天的データや後天的データは、例えば、動物の所有者の依頼を受けてDNA配列解析や腸内細菌叢解析などを行う解析業者が端末を通じて予測装置にアップロードしたり、動物病院が端末を通じて予測装置にアップロードすることもできる。
【0069】
<予測方法>
本発明の予測方法は、動物の遺伝情報、血統情報及び容貌情報に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む先天的データを受け付けるステップと、前記先天的データから将来の疾患罹患又は疾患傾向状態の発生を予測する第一予測ステップと、前記動物の食生活に関する情報、腸内細菌叢に関する情報、身体に関する情報、住環境に関する情報、診断、検診及び検査に関する情報、罹患した疾患に関する情報並びに治療に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む後天的データを得るステップと、前記後天的データに基づいて、先天的データからの将来の疾患罹患可能性予測を修正する第二予測ステップと、を有することを特徴とするものである。
予測する方法及びそのための構成については、上記の予測装置において説明したものと同様である。
【0070】
<実施形態>
本発明の予測装置及び予測システムの実施形態の一例を図面を用いて説明する。
図1は、本発明の予測システム1の一例である。予測システム1では、本発明の予測装置10が、ネットワークを介して動物病院端末2やユーザー端末3、解析業者端末4と接続されている。
図1中、ユーザー端末3は、予測装置を利用したい者(ユーザ)が利用する端末である。端末3は、例えばパーソナルコンピュータ、スマートフォンやタブレット端末などが挙げられる。端末3は、CPUなどの処理部、ハードディスク、ROMあるいはRAMなどのメモリ/記憶部、液晶パネルなどの表示部、マウス、キーボード、タッチパネルなどの入力部、ネットワークアダプタなどの通信部などを含んで構成される。
ユーザーは、端末3から、ネットワークを通じて予測装置10にアクセスし、対象となる動物の先天的データや後天的データ、及び、必要に応じて、顔画像(写真)、当該動物の名前、種類、品種、年齢、既往歴などの情報を入力、送信する。
ユーザーは、端末3が予測装置10にアクセスすることによって、予測結果を受信することができる。
本発明の予測システムは、動物病院に設置された動物病院端末2を含むことができる。動物病院端末2は、ネットワークを通じて予測装置10と接続される。動物病院は、対象となる動物を診断した際などに、ユーザーに代わり、当該動物の食生活に関する情報、腸内細菌叢に関する情報、身体に関する情報、住環境に関する情報、診断、検診及び検査に関する情報、罹患した疾患に関する情報並びに治療に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む後天的データをアップロードすることができる。
本発明の予測システムは、解析業者端末4を含むことができる。解析業者とは、ユーザーからの依頼を受けて、動物のDNAや腸内細菌叢などの解析を行う業者である。解析業者は、解析結果をユーザーに提出する代わりに、又は解析結果をユーザーに提出するとともに、解析業者端末4を通じて、動物の遺伝情報や腸内細菌叢に関する情報を予測装置にアップロードすることができる。
【0071】
図2は、本発明の予測装置10の一例である。本実施形態においては、予測装置10はコンピュータによって構成されるが、本発明にかかる機能を有する限りにおいて、どのような装置であってもよい。
記憶部は、例えばROM、RAMあるいはハードディスクなどから構成される。記憶部には、予測装置の各部を動作させるための情報処理プログラムが記憶され、特に、第一予測手段11及び第二予測手段12のためのソフトウェアなどが記憶される。
CPU20が、第一予測手段にかかるプログラム/ソフトウェアや第二予測手段にかかるプログラム/ソフトウェアを実行することで、第一予測手段や第二予測手段として機能する。
【0072】
第一予測手段11は、上記のように、ユーザー又は腸内細菌叢の測定を行った業者が、対象となる動物の先天的データを入力し、当該動物が所定期間内(例えば、1年以内、3年以内、5年以内又は生涯)に所定の疾患に罹患するかどうか又は疾患傾向状態に陥るかどうか、あるいは、それらの可能性が何%かの予測を出力するものである。予測手段としては、学習済みモデルであってもよい。そのような学習済みモデルは、例えば、XGBoost、CatBoost、LightGBM、或いは、ディープニューラルネットワーク又は畳み込みニューラルネットワークを含んで構成される。
【0073】
第二予測手段12は、上記のように、ユーザー又は腸内細菌叢の測定を行った業者が、対象となる動物の後天的データを入力し、第一予測手段による予測を修正するものである。予測手段としては、学習済みモデルであってもよい。そのような学習済みモデルは、例えば、XGBoost、CatBoost、LightGBM、或いは、ディープニューラルネットワーク又は畳み込みニューラルネットワークを含んで構成される。
【0074】
本実施形態では、第一予測手段、第二予測手段や受付手段が予測装置に格納され、ユーザーの端末とインターネットやLAN等の接続手段で接続される態様を説明したが、本発明はこれに限定されず、第一予測手段、第二予測手段、受付手段、インターフェース部が一つのサーバや装置内に格納される態様や、利用者が利用する端末を別途必要としない態様等であってもよい。
【0075】
本発明の予測装置は、図3のように、提案手段13を備えていてもよい。提案手段13は、上記第一予測手段11及び第二予測手段12が出力した予測に応じて、疾患への罹患や疾患傾向状態になることを回避する方法を提案するためのプログラム又はソフトウェアである。例えば、提案手段は、予測結果に応じて、記憶部や別途用意されるデータベースに格納されている、各種の疾患や疾患傾向状態を改善するためのフードのレシピ、サプリメントの組成レシピ、当該疾患への対応に定評のある病院についての情報を呼び出して、出力する。具体的には、糖尿病の発生が予測された場合には、低血糖のフードのレシピ、インシュリンの分泌を助けるサプリメント、糖尿病対応に優れていることが知られている病院のリストを提示したり、食事量の低減、運動量の増加を提案する。
【0076】
処理演算部(CPU)20は、記憶部に記憶された第一予測手段11や第二予測手段12にかかるプログラムやソフトウェアを用いて、疾患への罹患や疾患傾向状態の発生の予測を実行する。
【0077】
インターフェース部(通信部)30は、受付手段31と出力手段32を備え、ユーザーの端末から、動物の先天的データや後天的データ、また必要に応じてその他の情報を受け付け、ユーザーの端末に対して、疾患への罹患や疾患傾向状態の発生に関する予測結果を出力、送信する。
【0078】
本発明の予測装置で実行される疾患や疾患傾向状態の発生の予測例を図4を用いて説明する。
この一実施態様は、説明の便宜のため、動物からの試料の取得及び腸内細菌叢についてのデータ取得を含めて説明される。ユーザーが、DNA採取キットなどを利用して動物から試料を採取し、解析業者に送付し、遺伝情報といった動物の先天的データを取得し、本発明の予測装置に入力する(ステップS1)。本発明の予測装置は、先天的データから疾患への罹患や疾患傾向状態の発生について予測する(ステップS2)。次に、ユーザーは、糞便採取キットなどを用いて動物の糞便サンプルを採取し、解析業者に送付する。解析業者は試料を用いて動物の腸内細菌叢を解析する。そして、ユーザー又は解析業者が、腸内細菌叢に関する情報などの後天的データを予測装置に入力する(ステップS3)。本発明の予測装置は、後天的データから疾患への罹患や疾患傾向状態の発生についての予測を修正する(ステップS4)。予測装置は、当該予測を出力し、端末に送信し、端末において予測結果が表示される(ステップS5)。
【0079】
<別の実施形態>
本発明の予測装置及び予測システムの別の実施形態の例を図5を用いて説明する。
図5の(A)は、本発明の予測装置のうち、先天的データを用いて第一予測手段が将来の疾患の罹患を予測した場合の模式図である。図5(A)中、右向きの矢印は将来に向かっての時間経過を表している。図5の(A)では、皮膚炎への罹患とその後の腎臓病への罹患が予測されている。特に図5の(A)では、腎臓病への罹患後、永眠となっていることから、腎臓病が原因で死亡する可能性が示唆されている。このような予測は、入力された対象となる動物の遺伝情報の中に、皮膚炎や腎臓病の原因遺伝子の存在が含まれている場合に導き出される。発症時期については、遺伝情報のほか、例えば、血統情報、品種情報なども加味して予測することが可能である。
【0080】
次に、図5の(B)は、後天的データに基づいて、上記第一予測手段が導き出した予測(予測(1))を修正して予測(2)を作成した場合の模式図である。体重や食生活、腸内細菌叢に関する情報といった後天的データを用いて第二予測手段が疾患への罹患や疾患傾向状態の発生を予測し、予測(1)を修正した結果(予測(2))、皮膚炎の罹患よりも早い段階で、体重増加(肥満)とそれに続く糖尿病への罹患という予測が導かれた。また、腎臓病については発生時期の予測が予測(1)よりも早まっている。
より具体的には、第二予測手段では、予測(1)を「一定の割合で体重と体脂肪率が上昇していると、××年で肥満になり、〇〇年で糖尿病に罹患し、糖尿病によって罹患が早まる疾患(腎臓病など)については△△年罹患時期が早まる」というモデルによって修正し、予測(2)を導いている。
図5の(B)で示される実施態様では、提案手段が、予測(2)で指摘された体重増加と腎臓病という潜在的問題に対して、肥満や腎臓病専用のフードを提案する(予防プラン(1))。
【0081】
図5の(C)は、予防プラン(1)の実行の結果、発生が予測された時期になっても糖尿病を発症しなかった場合に、再度第二予測手段によって予測結果の修正を行った例である。図5の(C)では、予防プラン(1)の実行により体重増加が収まっていることが示されている。また、発生が予測された時期になっても糖尿病を発症しなかった。これらの体重や糖尿病が発生しなかったという後天的データを用いて再度第二予測手段によって予測の修正を行うと(予測(3))、下の矢印となる。第二予測手段による再度の予測修正の結果、腎臓病の発症予測時期は後退し、それに伴って死亡予測時期も後ろに移動し、予測寿命が伸びた。腎臓病の発症予測時期が後退した理由は、予防プラン(1)の提案によって腎臓病専用のフートが提供されたためである。一方で、予測(2)では、皮膚炎の発症については特に修正はない。
図5の(C)では、皮膚炎の予測に対処するために、提案手段が皮膚炎予防薬の提供を提案している(予防プラン(2))。
【0082】
別の実施態様を示す。
生まれたばかりの犬(コリー)について、遺伝子検査の結果、MDR1遺伝子の変異を保有しているという遺伝情報についての先天的データが得られ、当該犬の品種、年齢、血統に関する情報とともに、当該遺伝情報についての先天的データが本発明の予測装置に入力されている。当該犬については、MDR1遺伝子の変異以外に疾患関連遺伝子変異の存在は確認されていない。一般的に、MDR1遺伝子の変異があると、フィラリア予防薬のイベルメクチンを投与した際に中毒症になりやすいことが知られている(イベルメクチン感受性)。一方で、イベルメクチンを投与しなければ基本的には発症することはなく、イベルメクチンを投与するかどうかは、後天的な要素である飼い主の意思に依存している。このため、第一予測手段では、疾患等に罹患しないとの予測が導かれる(予測(4))。
【0083】
また、当該犬が野外で飼育されているという住環境に関する後天的データが本発明の予測装置に入力されている。本発明の予測装置は、第二予測手段により、フィラリアが野外で飼育されている犬において発症確率が高いこと及び一定の割合の飼い主がフィラリアワクチン接種を実施することを織り込んだ学習済みモデルを使用して、予測(4)を修正し、当該犬が1歳でフィラリアを原因とする運動失調になるとの予測が導かれる(予測(5))。機械学習により生成された学習済みモデルを使用するため、1歳という年齢が示された理由は明らかではないが、飼い主の注意力低下や、成長の速度等が要因だと考えられる。
なお、この実施態様では、第一予測手段と第二予測手段は、同じタイミングで一体として実行されるため、飼い主は予測(4)を受領することなく、予測(5)のみを受領する。
【0084】
次に、予測(5)に対して、提案手段が近所の動物病院Aにおけるフィラリア予防薬であるモキシデクチン注射を提案している(予防プラン(3))。プログラム上は、定期的に獣医に、MDR1遺伝子変異があってもイベルメクチン中毒症を発症しない程度の必要最小限度のイベルメクチンを投与してもらうという他の提案も検討され得るが、飼い主の負担が大きく、疾患リスクも比較的高いため除外されている。
さらに、この実施態様では、飼い主が近所の動物病院ではなく、頻繁に遊びに行く公園周辺の動物病院が良いとの要望を出しているため、要望反映手段が公園周辺の動物病院Bにおけるモキシデクチン注射を提案している(予防プラン(4))。飼い主には動物病院Bには、イベルメクチン中毒に詳しい獣医が在籍しており、診断成績も良好であるとの情報も提供される。

【要約】
【課題】簡易な方法で、動物が近い将来疾患に罹患する可能性があるかを予測する予測装置、予測システム及び予測方法を提供する。
【解決手段】動物の遺伝情報、血統情報及び容貌情報に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む先天的データから、将来の疾患罹患又は疾患傾向状態の発生を予測する第一予測手段と、前記動物の食生活に関する情報、腸内細菌叢に関する情報、身体に関する情報、住環境に関する情報、診断、検診及び検査に関する情報、罹患した疾患に関する情報並びに治療に関する情報からなる群から選ばれる一種以上を含む後天的データから、前記第一予測手段が生成した予測を修正する第二予測手段と、を備えることを特徴とする予測装置。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5