(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】Factor VIII又はFactor IX遺伝子がノックアウトされたウサギ、その製造方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20221223BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20221223BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20221223BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/11 Z ZNA
A01K67/027
C12N5/10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021164493
(22)【出願日】2021-10-06
(62)【分割の表示】P 2020518017の分割
【原出願日】2018-09-20
【審査請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】10-2017-0126068
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517095191
【氏名又は名称】グリーン クロス コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Green Cross Corporation
(73)【特許権者】
【識別番号】515047781
【氏名又は名称】モガム インスティチュート フォー バイオメディカル リサーチ
【氏名又は名称原語表記】MOGAM Institute for Biomedical Research
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】キム ソラ
(72)【発明者】
【氏名】チョン ミョンウン
(72)【発明者】
【氏名】キム ミンチョン
(72)【発明者】
【氏名】チョ スンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ホヮン ソンホ
(72)【発明者】
【氏名】クァク ヒチョン
(72)【発明者】
【氏名】イ スミン
(72)【発明者】
【氏名】ナム ヒョンチャ
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/176191(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/141109(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/077386(WO,A1)
【文献】Human Genetics,2017年,vol.136, p.875-883
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第9因子(Factor IX,FIX)のエクソン領域に相補的に結合するターゲッティングドメインを含むsgRNAであって、前記sgRNAが配列番号5又は6の塩基配列で表される、sgRNA。
【請求項2】
請求項1に記載のsgRNAが挿入されたベクター。
【請求項3】
請求項1に記載のsgRNA及びCas9タンパク質又はそれをコードするDNAを含むCRISPR/Cas9システム。
【請求項4】
請求項3に記載のCRISPR/Cas9システムを用いて製造された形質転換ウサギ。
【請求項5】
(a)ウサギ受精卵に請求項3に記載のCRISPR/Cas9システムを導入して培養する段階;及び
(b)前記(a)段階で得た受精卵を代理母に移植して形質転換ウサギを分娩させる段階
を含む方法で製造されることを特徴とする、請求項4に記載の形質転換ウサギ。
【請求項6】
前記形質転換ウサギは分娩後に形質転換の有無を確認する段階をさらに含む方法で製造されることを特徴とする、請求項5に記載の形質転換ウサギ。
【請求項7】
請求項5に記載の形質転換ウサギを交配して子孫形質転換ウサギを生産する段階を含む方法で製造されることを特徴とする、子孫形質転換ウサギ
であって、前記子孫形質転換ウサギが、第9因子がノックアウトされて血友病表現型を示す、子孫形質転換ウサギ。
【請求項8】
前記形質転換ウサギの交配は、請求項5に記載の形質転換ウサギ又は正常ウサギと交配することを特徴とする、請求項7に記載の子孫形質転換ウサギ。
【請求項9】
請求項4に記載の形質転換ウサギ又は請求項7に記載の子孫形質転換ウサギから分離した副産物であって、
前記形質転換ウサギ又は子孫形質転換ウサギが、第9因子がノックアウトされて血友病表現型を示し、
前記副産物が血液、血清、尿、糞便、唾液、臓器及び皮膚からなる群から選択される、前記副産物。
【請求項10】
請求項4に記載の形質転換ウサギ又は請求項7に記載の子孫形質転換ウサギから分離した細胞
であって、
前記形質転換ウサギ又は子孫形質転換ウサギが、第9因子がノックアウトされて血友病表現型を示す、細胞。
【請求項11】
請求項4に記載の形質転換ウサギ又は請求項7に記載の子孫形質転換ウサギから分離した組織
であって、
前記形質転換ウサギ又は子孫形質転換ウサギが、第9因子がノックアウトされて血友病表現型を示す、組織。
【請求項12】
次の段階を含む形質転換ウサギの製造方法。
(a)ウサギ受精卵に請求項3に記載のCRISPR/Cas9システムを導入して培養する段階;及び
(b)前記(a)段階で得た受精卵を代理母に移植して形質転換ウサギを分娩させる段階。
【請求項13】
請求項
12に記載の方法で製造された形質転換ウサギを交配して子孫形質転換ウサギを生産する段階を含む子孫形質転換ウサギの製造方法。
【請求項14】
前記形質転換ウサギの交配は、請求項
12に記載の方法で製造された形質転換ウサギ又は正常ウサギと交配することを特徴とする、請求項
13に記載の子孫形質転換ウサギの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Factor VIII又はFactor IX遺伝子がノックアウトされたウサギ、その製造方法及びその用途に関し、より具体的には、CRISPR/Cas9システムでFactor VIII又はFactor IXをノックアウトさせた形質転換ウサギ、その製造方法及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
血液凝固は血管損傷に対応して発生する複合的で主要な過程である。これは、出血を止め、損傷した血管の回復を始める血栓の形成によってなされ;損傷部位は、血栓を含むフィブリン及び血小板によってカバーされる。前記過程は、損傷後にほぼ即時に始まる。
【0003】
血液凝固過程には2種類の成分、すなわち血小板と呼ばれる細胞成分、及び凝固因子と呼ばれるタンパク質成分が関与する。血小板は損傷した部位で直ちにプラグ(plug)を形成し、これは一次的止血と呼ばれる。二次的止血は同時に発生し、凝固因子又は凝血因子と呼ばれる血漿内タンパク質が複雑なカスケード過程を経て反応して、血小板プラグを強化させるフィブリンストランドを形成する。
【0004】
二次的止血の凝固カスケードは、2つの経路、すなわち、接触活性化経路とも呼ばれる内因性経路及び組織因子経路とも呼ばれる外因性経路とに分けられる。多数の凝固因子が関与する他、補助因子及び調節因子も過程を正確に維持するために関与する。
【0005】
例えば、タンパク質Cは、“抗凝固経路”と呼ばれる凝固調節の主要メカニズムの必須因子である。タンパク質Cの活性形態(活性化タンパク質C)はセリンプロテアーゼであり、これは他の補助因子(タンパク質S)と関連付けられるとき、トロンビンの大量生成に必須である凝血カスケードの2つの因子、すなわち第Va因子及び第VIIIa因子を分解する。これらの因子の破壊は、形成されるトロンビンの量を陰性的に調節し、これは抗凝固効果をもたらす。前記タンパク質は、特に抗血栓活性、抗炎症活性、抗アポトーシス活性及びプロフィブリン溶解活性などの多面発現的な生物学的活性を有するものと知られている。
【0006】
第IX因子(下記ではFIXという。)は血液凝固に必須であるセリンプロテアーゼの一つである。前記タンパク質の欠乏は、血友病Bと呼ばれる出血障害を引き起こす。血液凝固の間に、活性化されたFIX(FIXa)はその活性化された補助因子である第VIIIa因子(下記ではFVIIIaという。)と結合し、これは、特異的基質第X因子(下記ではFXという。)をその活性化誘導体である活性化された第X因子(下記ではFXaという。)に転換させる。
【0007】
第X因子は凝血カスケードのさらに他の必須因子である。FXの活性化された形態(FXa)は、その補助因子(凝血第Va因子)と結合してプロトロンビンをトロンビンに活性化させ得る唯一のセリンプロテアーゼである。また、受動的な傍観成分として長い間考慮されてきた第X因子は、その2つの主要受容体、すなわちプロテアーゼ活性化受容体-1(PAR-1)及びPAR-2の活性化を通じて非常に様々な細胞類型に対して直接的な参加成分として現れる。最近の発見によれば、PAR-2は凝固と疾患の進行との接点を調整する重要な媒介体であり、第X因子に対するポイントと繊維増殖性疾患、例えば繊維症、組織再形成及び癌において重要な役目を担うという点が提案された(Borensztajn et al.,Am J Pathol.2008;172:309・20)。
【0008】
私たちの身体で止血を担当する様々な血液凝固因子のうち第VIII因子が不足すると血友病A、第IX因子が不足すると血友病Bと名称している。血友病Aはフォンヴィレブランド病(von Willebrand disease)を除けば全世界で最も多く発病している遺伝性血液凝固疾患であり、全体血友病の80~85%程度を占め、その発生頻度は生存する男児5,000~10,000名当たり1名と報告される。血友病Bは相対的に稀に発病し、血友病Aの約1/5程度と推算される。
【0009】
正常人において、第VIII因子及び第IX因子の活性度は50~150%程度であり、血友病AとBは血液検査においてその活性度が減少している。凝固因子の活性度によってさらに、重症(第VIII因子又は第IX因子活性度1%以下)、中等症(因子活性度1~5%)、軽症(因子活性度5~30%)、亜正常(因子活性度30~50%)に分類し、重症度によってその症状が異なる。例えば、重症血友病A患者の場合は、特別の外傷なしにも自然出血がいつでも起き得るため、治療薬(第VIII因子濃縮物)が開発される前には脳出血などによって平均寿命が25歳程度に過ぎなかった。重症度分布をみると、血友病Aは重症、中等症、軽症患者の頻度がそれぞれ70%、15%、15%程度、血友病Bはそれぞれ50%、30%、20%程度である。出血の頻度は一般に、重症患者の場合は週1回、中等症患者の場合は月1回、軽症患者の場合は年1回程度と知られており、出血部位は関節及び筋肉である場合が最も多い。特に、関節出血は15~25歳で明らかになり、出血が反復される場合には平均50年程度血友病性関節病症(hemophilic arthropathy)による関節の拘縮による苦痛に悩まされる。
【0010】
血友病の薬物治療において抗体生成(inhibitor development)反応を予測することは非常に重要である。血友病A患者における抗体生成反応頻度は約30%であり、血友病B患者では約3%である(Kessler CM,Hematology Am Soc Hematol Educ Program.2005:429-35)。血友病治療剤に対する抗体は薬剤露出後50日以内に最大発生し、通常、0.6BU(Bethesda Unit)以上の時に抗体生成群として分類され、5BU以上の時には高抗体生成群として分類される(Kasper CK et al.,Thromb Diath Haemorrh.1975;34(2):612;Verbruggen B et al.,Thromb Haemost.1995;73(2):247-51;Viel KR et al.,N Engl J Med.2009;360(16):1618-27;Kemton CL et al.,Blood.2009;113(1):11-7)。抗体生成反応がある患者の治療は非常に難しく、特に頻繁な出血による関節合併症が頻繁に発生する(Park YS,J Korean Med Assoc2009;52(12):1201-6)。代替療法には、活性化プロトロンビン複合体、第VII因子組換え製剤のような迂回因子の投与があるが、抗体生成反応群では免疫寛容療法によって抗体を除去することがより好ましいだろう(Kemton CL et al.,Blood.2009;113(1):11-7;Park YS,J Korean Med Assoc2009;52(12):1201-6)。免疫寛容療法の成功率は30~80%と多様であり、免疫寛容療法施行後に患者は再び第VIII因子又は第IX因子製剤の持続した使用が可能である(Park YS,J Korean Med Assoc2009;52(12):1201-6)。
【0011】
血友病治療剤抗体生成反応の主要予測因子又は原因について様々な研究が進行されてきた。そのうち、遺伝的予測因子としてはF8遺伝子の欠陥が最大の原因として知られており(Schwaab R et al.,Thromb Haemost.199574(6):1402-6;Oldenburg J et al.,Thromb Haemost.1997,77(2):238-42)、MHC II、TNF-α、IL-10、CTLA-4などの遺伝子に位置しているSNP(single nucleotide polymorphism)変異も有意の統計的連関性を示すものと考えられるが、まだ明らかになっていない遺伝的予測因子が多数存在すると予想される(Hay CR et al.,Thromb Haemost.199777(2):234-7;Oldenburg J et al.,Thromb Haemost.1997;77(2):238-42;Astermark J et al.,Blood.2006a,107(8):3167-72;Astermark J et al.,Blood.2006b,108(12):3739-45;Astermark J et al.,J Thromb Haemost.2007,5(2):263-5)。
【0012】
一方、微生物がウイルスに対応するための兔疫体系であるCRISPR/Casシステムは、2012年に、異種の細胞にCRISPR/Casシステムを導入してターゲット塩基配列を選択的に切断することができ、これを用いて微生物からヒト細胞にまで至る様々な細胞に対するゲノムを編集できるということが知られ、遺伝子編集技術として、生物改良においてより効率的で便利に活用されるものと期待されている(Jinek et al.,Science,337(6096):816-821,2012)。
【0013】
遺伝子編集技術において、CRISPR/CasシステムのうちCRISPR/Cas9システムは、これを構成するCas9及びsgRNAによってターゲットDNA上に二本鎖切断(double-strand break,DSB)を生成させ、細胞はこれを損傷部位として認識して非相同的末端接合(non-homologous end joining,NHEJ)又は相同性基盤修復(homology-directed repair,HDR)による通常のDNA修復過程を誘導するようになり、この過程で変異又は遺伝子交替による正常化が可能であり、これを活用してゲノム編集を誘導することができる。非相同的末端接合(non-homologous end joining,NHEJ)機転は、CRISPR/Casシステムの作用で生成されたDSBを整えた後、単純接合させるが、その過程でフレームシフト突然変異(frameshift mutation)が導入されて容易に遺伝子欠失を誘導でき、一方、切断された部位と相同性の遺伝子断片が存在する場合には相同性基盤修復(homology-directed repair,HDR)機転が起き得、この機転によっては遺伝子置換による正常化又は欠失を誘導することができる。
【0014】
このようなCRISPR/Casシステムは標的遺伝子の正確な位置を欠失できるので、形質転換動物の製造において非常に有利である。血友病研究のためにCRISPR/Casシステムに基づく形質転換動物を製造するための努力が続いており、最近ではNSGマウス(Nod/Scid-Il2γ-/-)でCRISPR/Casシステムを適用してFVIII/FIXがノックアウトされたマウスが報告されたことがある(Ching-Tzu Yen,et al.,Thrombosis Journal,Vol.14:22,2016)。ウサギは、マウスに比べて生理学及び解剖学的側面においてヒトとより多くの類似点を示し、ブタとサルに比べて、安価な維持費及び短い妊娠期間がかかることから、生物医学研究のための有望な動物モデルであるが、まだCRISPR/Casシステムを用いた血友病ウサギモデルは知られたことがない実情である。
【0015】
このような背景の下に、本発明者らは、第8因子及び/又は第9因子がノックアウトされたウサギを製造するために鋭意努力した結果、第8因子及び/又は第9因子のエクソン領域に相補的に結合可能なsgRNAを含むCRISPR/Casシステムを用いてウサギを作製する場合、第8因子及び/又は第9因子がノックアウトされたウサギを製造できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0016】
この背景技術の部分に記載された前記情報は、単に本発明の背景に対する理解を向上させるためのものであり、そこで、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者にとって既に知られた先行技術を形成する情報を含めなくてもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、第8因子(Factor VIII,FVIII)又は第9因子(Factor IX,FIX)のそれぞれのエクソン1領域とエクソン2領域に相補的に結合するターゲッティングドメインを含むsgRNA、これを含むベクター及び該ベクターを含むCRISPR/Cas9システムに関する。
【0018】
本発明の他の目的は、前記CRISPR/Cas9システムを用いて製造された第8因子及び/又は第9因子がノックアウトされた形質転換ウサギ及びその製造方法を提供することである。
【0019】
本発明のさらに他の目的は、第8因子及び/又は第9因子がノックアウトされた形質転換ウサギを血友病研究のモデルとして活用するなどの用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明は、第8因子(Factor VIII,FVIII)又は第9因子(Factor IX,FIX)のエクソン領域の一部に相補的に結合するターゲッティングドメインを含むsgRNAを提供する。
【0021】
本発明はまた、前記sgRNAを暗号化するポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドが挿入されたベクター、前記ベクターを含むCRISPR/Cas9システム、及び前記CRISPR/Cas9システムを用いて製造された第8因子及び/又は第9因子がノックアウトされた形質転換ウサギを提供する。
【0022】
本発明はまた、(a)前記CRISPR/Cas9システムを転写(transcription)して、sgRNA及びCas9mRNAを製造する段階;(b)受精卵に前記(a)段階で製造したmRNAを導入して培養する段階;及び(c)前記(b)段階で得た受精卵を代理母に移植して分娩させる段階を含む、第8因子又は第9因子がノックアウトされた形質転換ウサギの製造方法を提供する。
【0023】
本発明はまた、第8因子又は第9因子がノックアウトされた形質転換ウサギから分離した細胞、組織及び副産物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(A)は、本発明の一実施例に係る形質転換ウサギを作製するために製造するsgRNAがターゲッティングする第8因子遺伝子の位置を示す模式図であり、(B)は、本発明の一実施例に係る形質転換ウサギを作製するために製造するsgRNAがターゲッティングする第9因子遺伝子の位置を示す模式図である。
【
図2】(A)は、本発明で製造した形質転換ウサギにおいて第8因子のノックアウトを検出するためのNGS基盤シーケンシング分析に用いられるアンプリコンの配列を示すものであり、(B)は、本発明で製造した形質転換ウサギにおいて第9因子のノックアウトを検出するためのNGS基盤シーケンシング分析に用いられるアンプリコンの配列を示すものである。
【
図3】(A)は、本発明で製造した第8因子ノックアウトウサギ第2個体において第8因子遺伝子の4bpが欠失したことを確認した結果であり、(B)は、本発明で製造した第8因子ノックアウトウサギ第3個体において第8因子遺伝子の欠失突然変異を確認した結果である。
【
図4】(A)は、本発明で製造した第9因子ノックアウトウサギ第6個体において第9因子遺伝子の欠失突然変異を確認した結果であり、(B)は、本発明で製造した第9因子ノックアウトウサギ第7個体において第9因子遺伝子の欠失突然変異を確認した結果であり、(C)は、本発明で製造した第9因子ノックアウトウサギ第8個体において第9因子遺伝子の欠失突然変異を確認した結果である。
【
図5】(A)は、本発明で製造した第9因子ノックアウトウサギ第9個体において第9因子遺伝子の欠失突然変異を確認した結果であり、(B)は、本発明で製造した第9因子ノックアウトウサギ第11個体において第9因子遺伝子の欠失突然変異を確認した結果である。
【
図6】(A)は、本発明で製造した第9因子ノックアウトウサギ第12個体において第9因子遺伝子の欠失突然変異を確認した結果であり、(B)は、本発明で製造した第9因子ノックアウトウサギ第13個体において第9因子遺伝子の欠失突然変異を確認した結果であり、(C)は、本発明で製造した第9因子ノックアウトウサギ第5個体において第9因子遺伝子の欠失突然変異を確認した結果である。
【
図7】(A)は、第8因子又は第9因子がノックアウトされた形質転換ウサギのAPTT分析結果を測定したグラフであり、正常ウサギ4匹、第8因子がノックアウトされたウサギ2匹、及び第9因子がノックアウトされたウサギ7匹の血漿で2回或いは3回反復して行った実験を示し、(B)は、正常ウサギ9匹、第8因子がノックアウトされたウサギ3匹、及び第9因子がノックアウトされたウサギ8匹の血漿で2回或いは3回反復して行ったTGA分析結果を示すグラフであり、この結果は、mean±s.e.mを示すものであり、統計的有意性は両側(two-tailed)、対応のないt検定(unpaired t-test)で確認し、**はp<0.01を意味し、***はp<0.001を意味する。
【
図8】F1世代及びF2世代生産のための繁殖家系図を示す。
【
図9】本発明で製造した第8因子ノックアウトウサギ第2個体である雄を正常雌と交配させて得た子孫雌の遺伝子インデル(Indel)突然変異を確認した結果である。
【
図10】本発明で製造した第9因子ノックアウトウサギ第6個体である雄を正常雌と交配させて得た子孫雌の遺伝子欠失突然変異を確認した結果である。
【
図11】本発明で製造した第8因子ノックアウトウサギのF1世代である雌(X’X)を正常雄と交配させて得たF2雄の遺伝子インデル(Indel)突然変異を確認した結果である。
【
図12】本発明で製造した第9因子ノックアウトウサギのF1世代である保因者雌(X’X)を正常雄と交配させて得たF2雄の遺伝子インデル突然変異を確認した結果である。
【
図13】ウサギ爪出血モデルを製造するための模式図である。
【
図14】溶血したサンプルから血液中のヘモグロビン量を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
特に定義されない限り、本明細書で使われる技術的及び科学的用語はいずれも、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使われる命名法は、この技術分野でよく知られており、通常使用されるものである。
【0026】
本発明の用語“核酸”と“ポリヌクレオチド”は、線形又は環状の立体形態において、そして一本鎖又は二本鎖の形態においてデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド重合体を指す。本発明の目的において、これらの用語は重合体の長さに対して限定するものとして解釈されない。これらの用語は、自然ヌクレオチドの公知された類似体だけでなく、塩基、糖及び/又はリン酸塩モイエティ(例えば、ホスホロチオエート中枢)で修飾されるヌクレオチドを包括できる。一般に、特定ヌクレオチドの類似体は同一の塩基対合特異性を有する;すなわち、Aの類似体はTと塩基対をなすだろう。
【0027】
本発明の用語“ヌクレオチド”は、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドを指す。ヌクレオチドは標準ヌクレオチド(すなわち、アデノシン、グアノシン、シチジン、チミジン、及びウリジン)又はヌクレオチド類似体であり得る。ヌクレオチド類似体は、修飾されたプリン又はピリミジン塩基又は修飾されたリボースモイエティを有するヌクレオチドを指す。ヌクレオチド類似体は、自然的に発生するヌクレオチド(例えば、イノシン)又は非自然的に発生するヌクレオチドであり得る。ヌクレオチドの糖又は塩基モイエティ上で修飾の無制限的な実例は、、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、ヒドロキシル基、メチル基、ホスホリル基、及びチオール基の付加(又は除去)だけでなく、塩基の炭素と窒素原子の他の原子(例えば、7-デアザプリン)への置換を含む。ヌクレオチド類似体はまた、ジデオキシヌクレオチド、2’-O-メチルヌクレオチド、ロックト核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、及びモルフォリノを含む。
【0028】
本発明の用語“sgRNA”とは、CRISPR/CasシステムにおいてCasタンパク質を標的領域に誘導する誘導RNA(guide RNA)において、標的領域と相補的に結合する最初の領域を意味する。
【0029】
本発明において誘導RNAは、Casタンパク質と相互作用してCasタンパク質を特定の標的部位に向かわせ、前記部位において誘導RNAの5’端部は染色体配列内に特定のプロトスペーサー配列と塩基対をなす。
【0030】
各誘導RNAは3種類の領域を含む:染色体配列内の標的部位に相補的な5’端部で1番目の領域、ステムループ構造を形成する2番目の内部領域、及び本質的に一本鎖として残っている3番目の3’領域。各誘導RNAの1番目の領域は、各誘導RNAが融合タンパク質を特定の標的部位に誘導するように互いに異なる。各誘導RNAの2番目と3番目の領域は全ての誘導RNAにおいて同一であり得る。
【0031】
誘導RNAの1番目の領域は、誘導RNAの1番目の領域が標的部位と塩基対をなし得るように、染色体配列内の標的部位で配列(すなわち、プロトスペーサー配列)に相補的である。様々な具体例において、誘導RNAの1番目の領域は、約10個のヌクレオチド又は約25個を超えるヌクレオチドを含むことができる。例えば、誘導RNAの1番目の領域と染色体配列内の標的部位との間に塩基ハマグリの領域は長さにおいて約10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、22個、23個、24個、25個、又は25個よりも多いヌクレオチドであり得る。例示的な具体例において、誘導RNAの1番目の領域は長さにおいて約19個、20個、又は21個のヌクレオチドである。
【0032】
誘導RNAはまた、二次構造を形成する2番目の領域を含む。一部の具体例において、二次構造は、ステム(又は、ヘアピン)及びループを含む。ループとステムの長さは変わり得る。例えば、ループは長さにおいて約3個~約10個のヌクレオチド範囲で変わり、またステムは長さにおいて約6個~約20個の塩基対範囲で変わり得る。ステムは、1個~約10個ヌクレオチドの1つ又はそれ以上の突出を含むことができる。したがって、2番目の領域の全般的な長さは、長さにおいて約16個~約60個のヌクレオチド範囲で変わり得る。例示的な具体例において、ループは長さにおいて約4個のヌクレオチドであり、またステムは約12個の塩基対を含む。
【0033】
誘導RNAはまた、本質的に一本鎖として残っている3’端部において3番目の領域を含む。したがって、3番目の領域は関心の細胞内に任意の染色体配列に対する相補性を有さず、そして誘導RNAの残り部分に相補性を有しない。3番目の領域の長さは変わり得る。一般に、3番目の領域は長さにおいて約4個よりも多いヌクレオチドである。例えば、3番目の領域の長さは、長さにおいて約5個~約60個のヌクレオチド範囲で変わり得る。
【0034】
誘導RNAの2番目と3番目の領域(また、普遍的な又は骨格領域と呼ばれる)の合計長さは、長さにおいて約30~約120個のヌクレオチド範囲で変わり得る。一様相において、誘導RNAの2番目と3番目の領域の合計長さは、長さにおいて約70個~約100個のヌクレオチド範囲で変わる。
【0035】
本発明ではCRISPR/Casシステムを用いて第8因子及び/又は第9因子がノックアウトされたウサギを製造できるかどうか確認しようとした。
【0036】
すなわち、本発明の一実施例では、第8因子(Factor VIII,FVIII)又は第9因子(Factor IX,FIX)のエクソン領域の一部に相補的に結合するターゲッティングドメインを含むsgRNAを製造し、これを含むCRISPR/Casシステムを転写(transcription)して、ウサギ受精卵に注入した後、培養して代理母に移植した後、ウサギを生産した結果、製造されたウサギの第8因子又は第9因子のエクソン領域で欠失突然変異が発生することを確認した(
図3~
図7)。
【0037】
したがって、本発明は、一観点において、第8因子(Factor VIII,FVIII)又は第9因子(Factor IX,FIX)のエクソン領域の一部に相補的に結合するターゲッティングドメインを含むsgRNAに関する。
【0038】
本発明において、前記第8因子遺伝子のエクソン領域は、配列番号1の塩基配列で表されるエクソン領域であることを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0039】
本発明において、前記第9因子遺伝子のエクソン領域は、配列番号2の塩基配列で表されるエクソン領域であることを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0040】
本発明はまた、前記sgRNAを暗号化するポリヌクレオチドに関する。
【0041】
本発明において、前記ポリヌクレオチドは配列番号3~6のいずれかの塩基配列で表されることを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0042】
本発明において、前記sgRNAを暗号化するポリヌクレオチドは一般に、関心の細胞又は胚芽においてsgRNAの発現のために少なくとも一つの転写制御配列に作動可能に連結される。例えば、sgRNAをエンコードするDNAは、RNA重合酵素III(Pol III)によって認識されるプロモーター配列に作動可能に連結され得る。適合したPol IIIプロモーターの実例には哺乳類U6、U3、H1、及び7SL RNAプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
本発明はまた、前記ポリヌクレオチドが挿入されたベクターに関する。
【0044】
sgRNAをエンコードするDNA分子は線形又は環状であり得る。一部の具体例において、sgRNAをエンコードするDNA配列はベクターの部分であり得る。適合したベクターは、プラスミドベクター、ファージミド、コスミド、人工/微小染色体、トランスポゾン、及びウイルスベクターを含む。例示的な具体例において、Casタンパク質をエンコードするDNAはプラスミドベクター内に存在する。適合したプラスミドベクターの無制限的な実例は、、pUC、pBR322、pET、pBluescript、及びこれらの変異体を含む。ベクターは追加発現制御配列(例えば、エンハンサー配列、Kozak配列、ポリアデニル化配列、転写終結配列など)、選別可能マーカー配列(例えば、抗生剤耐性遺伝子)、複製起点、その他を含むことができる。
【0045】
Casタンパク質とsgRNAの両方ともDNA分子として細胞内に導入される具体例において、それぞれは別個の分子の部分(例えば、融合タンパク質コード配列を内包する一つのベクター及びsgRNAコード配列を内包する2番目のベクター)であり得るか、或いは両方とも同一の分子の部分(例えば、融合タンパク質と誘導RNAの両方に対するコード(及び調節)配列を内包する一つのベクター)であり得る。
【0046】
本発明はまた、前記ベクターを含むCRISPR/Casシステムに関する。
【0047】
本発明において、前記CRISPR/Casシステムは、タイプI、タイプII、又はタイプIIIシステムであり得る。適合したCRISPR/Casタンパク質の無制限的な実例は、Cas3、Cas4、Cas5、Cas5e(又はCasD)、Cas6、Cas6e、Cas6f、Cas7、Cas8a1、Cas8a2、Cas8b、Cas8c、Cas9、Cas10、Cas10d、CasF、CasG、CasH、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1(又はCasA)、Cse2(又はCasB)、Cse3(又はCasE)、Cse4(又はCasC)、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csz1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、及びCu1966を含む。
【0048】
本発明において、前記CRISPR/Casタンパク質は前記Cas9タンパク質から由来する。Cas9タンパク質は、ストレプトコッカスピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカスサーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)種、ノカルジオプシスダッソンビエイ(Nocardiopsis dassonvillei)、ストレプトミセスプリスチナエスピラリス(Streptomyces pristinaespiralis)、ストレプトミセスビリドクロモゲネス(Streptomyces viridochromogenes)、ストレプトミセスビリドクロモゲネス(Streptomyces viridochromogenes)、ストレプトスポランギウムロセウム(Streptosporangium roseum)、ストレプトスポランギウムロセウム(Streptosporangium roseum)、アリサイクロバチルスアシドカルダリウス(Alicyclobacillus acidocaldarius)、バチルスシュードミコイデス(Bacillus pseudomycoides)、バチルスセレニティレドセンス(Bacillus selenitireducens)、エキシグオバクテリウムシビリカム(Exiguobacterium sibiricum)、ラクトバシラスデルブリュッキイ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルスサリヴァリゥス(Lactobacillus salivarius)、マイクロシーラマリナ(Microscilla marina)、バークホルデリアバクテリウム(Burkholderiales bacterium)、ポラロモナスナフタレニボランス(Polaromonas naphthalenivorans)、ポラロモナス(Polaromonas)種、クロコスファエラワトソニー(Crocosphaera watsonii)、シアノセイス(Cyanothece)種、ミクロキスティスエルギノーサ(Microcystis aeruginosa)、シネココッカス(Synechococcus)種、アセトハロビウムアラビティカム(Acetohalobium arabaticum)、アンモニフェックスデゲンシイ(Ammonifex degensii)、カルジセルロシルプトルベスシ(Caldicellulosiruptor bescii)、カンジデイタスデサルホルディス(Candidatus Desulforudis)、クロストリジウムボツリナム(Clostridium botulinum)、クロストリジウムディフィシル(Clostridium difficile)、フィネゴルディアマグナ(Finegoldia magna)、ナトロアナエロビウスサーモフィルス(Natranaerobius thermophilus)、ペロトマクルムサーモプロピオニカム(Pelotomaculum thermopropionicum)、アシディチオバチルスカルダス(Acidithiobacillus caldus)、アシディチオバチルスフェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)、アロクロマチウムビノスム(Allochromatium vinosum)、マリノバクター(Marinobacter)種、ニトロソコッカスハロフィルス(Nitrosococcus halophilus)、ニトロソコッカスワトソニイ(Nitrosococcus watsoni)、シュードアルテロモナスハロプランクティス(Pseudoalteromonas haloplanktis)、クテドノバクターラセミファー(Ktedonobacter racemifer)、メタノハロビウムエベスチガータム(Methanohalobium evestigatum)、アナベナバリアビリス(Anabaena variabilis)、ノジュラリアスプミゲナ(Nodularia spumigena)、ノストック(Nostoc)種、アルスロスピラマキシマ(Arthrospira maxima)、アルスロスピラプラテンシス(Arthrospira platensis)、アルスロスピラ(Arthrospira sp.)種、リングビア(Lyngbya sp.)種、ミクロコレウスクソノプラステス(Microcoleus chthonoplastes)、オスキラトリア(Oscillatoria)種、ペトロトガモビリス(Petrotoga mobilis)、サーモシフォアフリカヌス(Thermosipho africanus)、又はアカリオクロリスマリナ(Acaryochloris marina)に由来し得る。
【0049】
一般に、CRISPR/Casタンパク質は、少なくとも一つのRNA認識及び/又はRNA結合ドメインを含む。RNA認識及び/又はRNA結合ドメインは誘導RNAと相互作用する。CRISPR/Casタンパク質はまた、ヌクレアーゼドメイン(すなわち、DNA分解酵素又はRNA分解酵素ドメイン)、DNA結合ドメイン、ヘリカーゼドメイン、RNA分解酵素ドメイン、タンパク質-タンパク質相互作用ドメイン、二量体化ドメインだけでなく、他のドメインを含むことができる。CRISPR/Cas様タンパク質は、野生型CRISPR/Casタンパク質、修飾されたCRISPR/Casタンパク質、又は野生型又は修飾されたCRISPR/Casタンパク質の断片であり得る。CRISPR/Cas様タンパク質は、核酸結合親和性及び/又は特異性を増加させ、酵素的活性を変更及び/又はタンパク質の他の性質を変化させるために修飾され得る。例えば、CRISPR/Cas様タンパク質のヌクレアーゼ(すなわち、DNA分解酵素、RNA分解酵素)ドメインは修飾されたり、欠失したり、又は不活性化され得る。代案として、CRISPR/Cas様タンパク質は融合タンパク質の機能に必須でないドメインを除去するために切頭され得る。CRISPR/Cas様タンパク質はまた、融合タンパク質の作動体ドメインの活性を最適化するために切頭又は修飾され得る。
【0050】
一部の具体例において、CRISPR/Cas様タンパク質は、野生型Cas9タンパク質又はその断片から由来し得る。他の具体例において、CRISPR/Cas様タンパク質は、修飾されたCas9タンパク質から由来し得る。例えば、Cas9タンパク質のアミノ酸配列は、タンパク質の一つ又はそれ以上の性質(例えば、ヌクレアーゼ活性、親和性、安定性など)を変更するために修飾され得る。代案として、RNA-誘導された開裂に関連しないCas9タンパク質のドメインがタンパク質から除去され得、したがって、修飾されたCas9タンパク質は野生型Cas9タンパク質よりも小さい。
【0051】
一般に、Cas9タンパク質は、少なくとも2個のヌクレアーゼ(すなわち、DNA分解酵素)ドメインを含む。例えば、Cas9タンパク質はRuvC様ヌクレアーゼドメイン及びHNH様ヌクレアーゼドメインを含むことができる。RuvCとHNHドメインは一本鎖を切断してDNAで二本鎖切断を作るために共に作動する(Jinek et al.,Science,337:816-821)。一部の具体例において、Cas9-由来したタンパク質は、単に一つの機能的ヌクレアーゼドメイン(RuvC様又はHNH様ヌクレアーゼドメインのいずれか一方)だけを内包するように修飾され得る。例えば、Cas9-由来したタンパク質は、ヌクレアーゼドメインのうち一つが欠失したり又は突然変異され、したがって、これがそれ以上機能しないように(すなわち、ヌクレアーゼ活性が不在するように)修飾され得る。ヌクレアーゼドメインのうち一つが非活性である一部の具体例において、Cas9-由来したタンパク質は二本鎖核酸内にニックを導入できるが(かかるタンパク質は“ニック酵素”と命名する)、二本鎖DNAを開裂しない。例えば、RuvC様ドメインにおいてアスパラギン酸塩からアラニン(D10A)への転換は、Cas9-由来したタンパク質をニック酵素に転換する。同様に、HNHドメインにおいてヒスチジンからアラニン(H840A又はH839A)への転換は、Cas9-由来したタンパク質をニック酵素に転換する。各ヌクレアーゼドメインは、広く公知された方法、例えば、部位-指向された突然変異誘発、PCR-媒介された突然変異誘発、そして全体遺伝子合成だけでなく、当分野に公知の他の方法を用いて修飾され得る。
【0052】
本発明において、前記Casタンパク質をエンコードするDNAは、少なくとも一つのプロモーター制御配列に作動可能に連結され得る。一部反復において、DNAコード配列は関心の真核細胞又は動物で発現のためにプロモーター制御配列に作動可能に連結され得る。プロモーター制御配列は、構造性のもの、調節されたもの、又は組織特異的なものであり得る。適合した構造性プロモーター制御配列には、サイトメガロウイルス極初期プロモーター(CMV)、類人猿ウイルス(SV40)プロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、延長因子(ED1)-アルファプロモーター、ユビキチンプロモーター、アクチンプロモーター、チューブリンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、これらの断片、又は前述したものの任意の組合せが含まれるが、それらに限定されない。適合した調節されたプロモーター制御配列の実例は制限されず、熱ショック、金属、ステロイド、抗生剤、又はアルコールによって調節されたものを含む。組織特異的プロモーターの無制限的な実例は、B29プロモーター、CD14プロモーター、CD43プロモーター、CD45プロモーター、CD68プロモーター、デスミンプロモーター、エラスターゼ-1プロモーター、エンドグリンプロモーター、繊維結合素プロモーター、Flt-1プロモーター、GFAPプロモーター、GPIIbプロモーター、ICAM-2プロモーター、INF-βプロモーター、Mbプロモーター、NphsIプロモーター、OG-2プロモーター、SP-Bプロモーター、SYN1プロモーター、及びWASPプロモーターを含む。プロモーター配列は野生型であるか、或いはより効率的な又は有効な発現のために修飾され得る。一例示的な具体例において、エンコーディングDNAは哺乳類細胞において構造性発現のためにCMVプロモーターに作動可能に連結され得る。
【0053】
本発明において、前記Casタンパク質をエンコードする配列は、試験管内mRNA合成のためのファージRNA重合酵素によって認識されるプロモーター配列に作動可能に連結され得る。かかる具体例において、試験管内転写されたRNAは公知の方法で精製して使用することができる。例えば、プロモーター配列は、T7、T3、又はSP6プロモーター配列又はT7、T3、又はSP6プロモーター配列の変異であり得る。例示的な具体例において、Casタンパク質をエンコードするDNAは、T7RNA重合酵素を用いた試験管内mRNA合成のためにT7プロモーターに作動可能に連結される。
【0054】
代案の具体例において、Casタンパク質をエンコードする配列は、細菌又は真核細胞においてCasタンパク質の試験管内発現のためにプロモーター配列に作動可能に連結され得る。かかる具体例において、発現されたタンパク質は公知の方法で精製して使用することができる。適合した細菌プロモーターは制限されず、T7プロモーター、lacオペロンプロモーター、trpプロモーター、それらの変異、及びそれらの組合せを含む。例示的な細菌プロモーターは、trpとlacプロモーターのハイブリッドであるtacである。適合した真核プロモーターの無制限的な実例は、前記で列挙されている。追加の様相において、Casタンパク質をエンコードするDNAはまた、ポリアデニル化信号(例えば、SV40 polyA信号、ウシ成長ホルモン(BGH)polyA信号など)及び/又は少なくとも一つの転写終結配列に連結され得る。
【0055】
様々な具体例において、Casタンパク質をエンコードするDNAはベクター内に存在し得る。適合したベクターは、プラスミドベクター、ファージミド、コスミド、人工/微小染色体、トランスポゾン、及びウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター、アデノ関連したウイルスベクターなど)を含む。一具体例において、Casタンパク質をエンコードするDNAはプラスミドベクター内に存在する。適合したプラスミドベクターの無制限的な実例は、pUC、pBR322、pET、pBluescript、及びそれらの変異体を含む。前記ベクターは追加発現制御配列(例えば、エンハンサー配列、Kozak配列、ポリアデニル化配列、転写終結配列など)、選別可能マーカー配列(例えば、抗生剤耐性遺伝子)、複製起点、その他を含むことができる。追加情報は、“Current Protocols in Molecular Biology” Ausubel et al.,John Wiley & Sons,New York,2003、又は“Molecular Cloning:A Laboratory Manual” Sambrook & Russell,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY,3rd edition,2001を参考にすればよい。
【0056】
誘導RNAと共にCasタンパク質は染色体配列内で標的部位に指向され、ここで、Casタンパク質は染色体配列内に二本鎖切断を導入する。標的部位は、前記配列の直後に(下流)共通配列が続くという点を除けば、配列制限を有しない。このような共通配列はまた、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)として知られている。PAMの実例には、NGG、NGGNG、及びNNAGAAW(ここで、Nは任意のヌクレオチドと規定され、そしてWはA又はTと規定される)が含まれるが、それらに限定されない。上述の通り、誘導RNAの1番目の領域(5’端部において)は標的配列のプロトスぺーサーに相補的である。
【0057】
典型的に、誘導RNAの1番目の領域は、長さにおいて約19個~21個ヌクレオチドである。したがって、一定の様相において、染色体配列内に標的部位の配列は5’-N19-21-NGG-3’である。PAMはイタリック体で表示される。標的部位は遺伝子のコード領域、遺伝子のイントロン、遺伝子の制御領域、遺伝子間の非コード領域などにあり得る。遺伝子は、タンパク質コード遺伝子又はRNAコード遺伝子であり得る。遺伝子は関心の任意の遺伝子であり得、好ましくは第8因子又は第9因子であり得る。
【0058】
本発明は、他の観点において第8因子(Factor VIII,FVIII)又は第9因子(Factor IX,FIX)のエクソン領域の一部に相補的に結合するターゲッティングドメインを含むsgRNAを暗号化するポリヌクレオチドが挿入されたベクターを含むCRISPR/Cas9システムを用いて製造された形質転換ウサギに関する。
【0059】
本発明において、前記形質転換ウサギは、
(a)上記の本発明に係るCRIPSR/Cas9システムを転写(transcription)してsgRNA及びCas9mRNAを製造する段階;
(b)受精卵に前記(a)段階で製造したmRNAを導入して培養する段階;及び
(c)前記(b)段階で得た受精卵を代理母に移植して分娩させる段階;を含む方法で製造されることを特徴とし得る。
【0060】
本発明において、前記形質転換ウサギは、分娩後に形質転換の有無を確認する段階をさらに含む方法で製造されることを特徴とし得る。
【0061】
本発明は、さらに他の観点において、前記形質転換されたウサギを交配して子孫形質転換ウサギを生産する段階を含む方法で製造されることを特徴とする子孫形質転換ウサギに関する。
【0062】
本発明において、前記“子孫”は、前記形質転換ウサギと交配して生存可能な全ての形質転換仔ウサギを意味し、より具体的には、前記形質転換ウサギを親にして形質されたウサギ同士又は前記形質転換ウサギと正常ウサギとを交配して生産したF1世代、F1世代の保因者ウサギと正常ウサギとを交配して生産したF2世代及びそれ以降の世代を意味するが、これに限定されるものではない。
【0063】
本発明において、前記交配は、前記形質転換ウサギ又は正常ウサギと交配することを特徴とし得る。
【0064】
本発明において、前記形質転換ウサギ又は子孫形質転換ウサギは、第8因子又は第9因子がノックアウトされて血友病表現型を示すことを特徴とし得る。
【0065】
本発明はまた、前記形質転換ウサギ又は子孫形質転換ウサギから分離した細胞、組織及び副産物に関する。
【0066】
本発明において、前記副産物は、前記形質転換ウサギから由来した物質の全てを意味し、好ましくは、血液、血清、尿、糞便、唾液、臓器及び皮膚からなる群から選ばれることを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0067】
一側面において、本発明は
(a)前記本発明に係るCRIPSR/Cas9システムを転写(transcription)してsgRNA及びCas9mRNAを製造する段階;
(b)受精卵に前記(a)段階で製造したmRNAを導入して培養する段階;及び
(c)前記(b)段階で得た受精卵を代理母に移植して分娩させる段階を含む方法は、第8因子又は第9因子がノックアウトされた形質転換ウサギの製造方法に関する。
【0068】
本発明はまた、前記製造方法で製造された形質転換ウサギを交配して子孫形質転換ウサギを生産する段階を含む子孫形質転換ウサギの製造方法に関する。
【0069】
本発明において、前記交配は、前記形質転換ウサギ又は正常ウサギと交配することを特徴とし得る。
【0070】
本発明はまた、第8因子がノックアウトされたウサギを交配して所望だけの血友病A表現型を示す形質転換ウサギ及びその製造方法に関する。
【0071】
本発明はまた、第9因子がノックアウトされたウサギを交配して所望だけの血友病B表現型を示す形質転換ウサギ及びその製造方法に関する。
【0072】
本発明はまた、第8因子がノックアウトされたウサギ或いは第9因子がノックアウトされたウサギを交配してヒト第8因子或いは第9因子の注入による免疫反応を研究できる形質転換ウサギ及びその製造方法に関する。
【0073】
本発明の第8因子及び第9因子がノックアウトされたウサギは、自分の第8因子及び第9因子の活性がないので、ヒト第8因子及び第9因子の注入による免疫反応研究及び血友病治療剤開発研究に有用である。
【0074】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されると解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0075】
実施例1.sgRNA設計及びCRISPR/Cas9ベクター構築及び転写(in vitro transcription)
1-1.sgRNA設計
第8因子の場合、エクソン1領域で下記の配列番号1で表される配列を用いて配列番号3及び配列番号4の塩基配列で表されるsgRNAを設計した(
図1)。
配列番号1:
ATGCAAATAGAGCTCTCCACCTGTTTCTTTGTGTGTATTTTACAATTGAGCTTTAGTGCCACCAGAAGATACTACCTGGGTGCAGTGAACTGTCCTGGGACTATATGCACAGTGAC CTGCTCAGTGA
配列番号3:sgRNA1(+Strand)
5’- GCCACCAGAAGATACTACCTGGG -3’
配列番号4:sgRNA2(-Strand)
5’- GTCACTGTGCATATAGTCCCAGG -3’
【0076】
第9因子の場合、エクソン2領域において下記の配列番号2で表される配列を用いて配列番号5及び配列番号6の塩基配列で表されるsgRNAを設計した。
配列番号2:
TTTTTCTTGATCATGAAAATGCCACCAAAATTCTGAATCGGGCAAAGAGGTACAATTCAGGTAAACTGGAAGAGTTTGTTTCAGGGAACCTTGAGAGAGAATGTATAGAAGAAAGGTGTAGTTTTGAAGAAGCTCGAGAAGTTTTTGAAAACACTGAAAAAACT
配列番号5:sgRNA1(+Strand)
5’- ATGCCACCAAAATTCTGAATCGG -3
配列番号6:sgRNA2(+Strand)
5’ CGGGCAAAGAGGTACAATTCAGG -3’
【0077】
1-2.sgRNA及びCas9mRNA転写
実施例1-1で設計したsgRNA配列に合うオリゴヌクレオチドをデザインしてpUC57-T7ベクター(Addgene ID 51306)にクローニングした後、完成されたsgRNA及びその前に位置したT7プロモーターを配列番号7及び8のプライマーでPCRによって増幅した。
【0078】
前記PCR増幅産物をT7RNAポリメラーゼを用いて生産(MAXIscript T7Kit,Ambion)した後、精製した(miRNeasy Mini Kit,Qiagen)。
配列番号7:T7-F
5’- GAAATTAATACGACTCACTAT -3’
配列番号8:T7-R
5’- AAAAAAAGCACCGACTCGGTGCCAC -3’
【0079】
Cas9mRNAの場合、Cas9発現ベクターを線形化(linearize)した後、mMessage mMachine SP6 Kit(Ambion)を用いてCapped mRNAの形態に生産した後、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて精製した。
【0080】
実施例2.受精卵に転写されたCas9/sgRNA注入
公知の方法(Sci Rep.2016;6:222024)でウサギ受精卵に、実施例1で得たCas9/FVIII sgRNA又はCas9/FIX sgRNAをそれぞれ導入した。
【0081】
概略には、受精後18~20時間が過ぎた後に得られたウサギ受精卵を受精卵培養培地(9.5g TCM-119、0.05g NaHCO3(Sigma,S4019)、0.75g Hepes(Sigma H3784)、0.05gペニシリン、0.06gストレプトマイシン、1.755g NaCl、3.0g BSA及び1L Milli Q蒸留水)に移した後、FVIII sgRNA(25ng/μl)とCas9 mRNA(100ng/μl)又はFIX sgRNA(25ng/μl)とCas9 mRNA(100ng/μl)を受精卵(embryo)の細胞質(cytoplasm)に注入した後、培養培地で38.5℃で30~60分間5%二酸化炭素条件で培養した後、代理母に移植して分娩させた。
【0082】
実施例3.形質転換ウサギ遺伝型分析
3-1.第8因子ノックアウトウサギの遺伝型分析
図2の(a)に表示されたアンプリコンを配列番号9及び10のプライマーを用いて増幅した後、2次及び3次PCRによってアダプター及びタグ(tag)を付着した後、MiSeq(Illumina,MiSeq Reagent Kit V)を用いて深いシーケンシング(deep sequencing)を行った後、その結果をCas-Analyzer(Bioinformatics,2017Jan15;333(2):286-288)を用いて分析した。
配列番号9:F8-F
5’- gagccatgcaaatagagctc -3’
配列番号10:F8-R
5’- atctttctccagccagagtc -3’
その結果、表1及び
図3に示すように、第2個体及び第3個体のFVIII遺伝子からインデルが検出されることが確認できた。
【0083】
【0084】
すなわち、第2個体では4bpの核酸が欠失した突然変異が検出され、未成熟終止コドン(premature stop codon)及びナンセンス変異依存分解系(nonsense-mediated decay)を引き起こして遺伝子発現を阻害することを確認し、第3個体では3bpと12bpの核酸が欠失した突然変異を検出した(
図3)。
【0085】
3-2.第9因子ノックアウトウサギの遺伝型分析
図2の(b)に表示されたアンプリコンを配列番号11及び12のプライマーを用いて増幅した後、2次及び3次PCRによってアダプター及びタグを付着した後、MiSeq(Illumina,MiSeq Reagent Kit V)を用いて深いシーケンシングを行った後、その結果をCas-Analyzer(Bioinformatics,2017Jan15;333(2):286-288)を用いて分析した。第5個体の場合、配列番号13のF9-R2プライマーを用いて1次増幅した。
配列番号11:F9-F
5’- ttggctttgggattagttgg -3’
配列番号12:F9-R
5’- tcaaaaacttctcgagcttc -3’
配列番号13:F9-R2
5‘- tctctgtctgtaactctacc -3’
【0086】
その結果、表2及び
図4~
図6に示すように、第5個体、第6個体、第7個体、第8個体、第9個体、第11個体、第12個体及び第13個体のFIX遺伝子においてインデルが検出されることが確認できた。
【0087】
【0088】
実施例4.形質転換ウサギの血友病表現型確認
4-1.APTT(Activated Partial Thromboplastin Time)分析
APTT分析を行うために、Start 4 Hemostasis Analyzer(Stago Inc.,USA)を用いて実時間でAPTTクロット(clot)のウェーブフォームを観察した。すなわち、50μlのAPTT試薬(Dade(登録商標) Actin FSL,Siemens Medical Solutions Inc.,USA)溶液と形質転換ウサギから採取した50μlの血漿をキュベットで混ぜた後、37゜Cで3分間培養した後、50μlの塩化カルシウム(CaCl2)水溶液(最終濃度:25mM)をキュベットに注入した後、クロットができる時間を測定した。
【0089】
その結果、
図7のAに開示されたように、FVIIIがノックアウトされたウサギの場合、クロット形成時間が19.4±1.1秒で、FIXがノックアウトされたウサギの場合、その時間が18.9±2.5秒であり、いずれも、血友病患者に該当する時間であることが確認できた。
【0090】
4-2.トロンビン生産分析(Thrombin Generation Assay,TGA)
トロンビン生産は、Fluoroskan Ascent(Thermo Scientific)蛍光プレートリーダーをThrombinoscope BVソフトウェアで分析して測定した。すなわち、形質転換ウサギの血漿80μlと組織因子(tissue factor)及びリン脂質(phospholipids)を含有した2μlのPPP-reagent LOWを混ぜて37℃のImmulon microtiter2HB-High Binding 96ウェルプレート(Thermo Nunc)で培養した。コントロールウェルには80μlのウサギ血漿と20μlのトロンビン校正試薬(Thrombin Calibrator reagent)を混ぜて培養し、反応を開始する前に、蛍光を持つトロンビン基質とあらかじめ温めておいたFlu-Ca試薬を注入してよく混ぜた。20μlのFlu-Ca試薬を注入して反応を開始し、生産されるトロンビンの量はThrombinoscope Analysis Version 3.0で分析した。
【0091】
その結果、
図7のBに開示された通り、対照群では36.9±1.8nMのトロンビンが生産されるのに対し、FVIIIがノックアウトされた形質転換ウサギでは0.1±0.1nMが生産され、またFIXがノックアウトされた形質転換ウサギでは0nMのトロンビンが生産されることを確認した。
【0092】
したがって、FVIII或いはFIXの遺伝子が除去された形質転換ウサギは、血友病表現型を示すことが確認できる。
【0093】
実施例5.F1世代及びF2世代生産のための繁殖家系図
実施例2で製造した血友病ウサギをP(又はF0)といい、その子孫に該当するF1とF2を得るために次を進行した。第8因子ノックアウト或いは第9因子をノックアウトさせた形質転換ウサギの子孫を得るためには、
図8に開示されたように個体を繁殖させた。すなわち、血友病は、血友病遺伝子がX染色体上に存在する伴性遺伝病に該当するので、実施例2で製造した第8因子ノックアウト及び第9因子ノックアウト形質転換ウサギ父体(P,X’Y)を正常ウサギ雌(XX)と交差させて子孫を生成した。最初の交差から得られた子孫雌(F1)の遺伝子分析をして、保因者(X’X)を確認した後、正常雄(XY)と交差させて第8因子ノックアウト及び第9因子ノックアウトをさせた形質転換ウサギの雄(F2,X’Y)を製造した。
【0094】
実施例6.F1世代の形質転換ウサギ遺伝型分析
6-1.第8因子ノックアウトウサギ保因者の遺伝型分析
表1の4bpの核酸が欠失した突然変異が検出された#2個体である雄ウサギ(X’Y)をSamtakoから購入した体重2kg以上及び10~12週齢である正常雌(XX)と交配させて子孫を得、これを実施例3-1のような方法で遺伝子分析を行い、F1世代である雌保因者(X’X)を確認した。表3及び
図9に示すように、第1個体と第5個体のFVIII遺伝子からインデルパターンが検出されることが確認できた。
【0095】
【0096】
6-2.第9因子ノックアウトウサギ保因者の遺伝型分析
表2で6bpの核酸が欠失した突然変異が検出された#6個体である雄(X’Y)を正常雌(XX)と交配させて子孫(F1)を得、実施例3-2のような方法で遺伝子分析を行って雌保因者(X’X)を確認した。表4及び
図10に示すように、#4個体のFIX遺伝子からインデルパターンが検出されることが確認でき、形態は-6bp欠失(deletion)と1bp挿入(insertion)である。
【0097】
【0098】
実施例7.F2世代の形質転換ウサギ遺伝型分析
7-1.第8因子ノックアウトウサギの遺伝型分析
F1世代である保因者雌(X’X)をSamtakoから購入した体重2kg以上及び10~12週齢である正常雄(XY)と交配させて得たF2雄(X’Y)に対して、実施例3-1のような方法で遺伝子分析を実施した。表5及び
図11に示すように、#1-4個体と#5-1個体のFVIII遺伝子からインデルパターンが検出されることが確認できた。
【0099】
【0100】
7-2.第9因子ノックアウトウサギの遺伝型分析
F1世代である保因者雌(X’X)を正常雄(XY)と交配させて得たF2雄(X’Y)に対して、実施例3-2のような方法で遺伝子分析を実施した。表6及び
図12に示すように、#4-1個体のFIX遺伝子からインデルパターンが検出されることが確認でき、形態は6bp、7bp、27bp欠失の形態であるが、7bp、27bp欠失は、その比率がそれぞれ0.023%、0.001%であり、配列分析エラーと判断され、その形態は6bp核酸欠失変異であることを確認した。
【0101】
【0102】
実施例8.F2世代として得られた形質転換ウサギの表現型確認
8-1.爪出血モデル
ウサギにおける爪出血モデルを誘導するために、体重2kg以上及び12週齢以上になった実施例7の血友病ウサギとSamtakoから購入した体重2kg以上及び10~12週齢である正常ウサギにジアゼパム(Diazepam)0.4mg/kgとペントバルビタールナトリウム(pentobarbital sodium)25mg/kgを耳介静脈から注射して麻酔した。麻酔されたウサギの片前足をバリカン(hair clipper)で除毛し、デジマチックキャリパ(digimatic caliper)を用いて第3足指の爪の遠位部の端から2mm近位部をクイック油性ペンを用いて表示した後、ワイヤカッター(wire cutter)を用いて切断した(
図13)。爪を切断すると直ちに37゜Cに維持させた滅菌生理食塩水が入っている50mL円錐管(conical tube)に入れて60分間血液を集めた後、1500xgで5分間遠心分離して上澄液を除去した後、10mLピペットを用いて円錐管に3次蒸留水を20mLまで入れた後、vortexを用いて血液を完全に溶血させた。
【0103】
8-2.ヘモグロビン分析(Hemoglobin assay:HB)の分析
実施例8-1で溶血したサンプルを用いてヘモグロビン分析キット(Sigma and Aldrich,MAK115-1KT,#BF03A26V)の方法で血液中のヘモグロビンの量を定量して失血(blood loss)を測定した。正常ウサギの場合、ヘモグロビンの濃度が1,014nM(Range:502-1503)であることを確認し、第8因子ノックアウトウサギのヘモグロビンの濃度が45,787nM、第9因子ノックアウトウサギのヘモグロビンの濃度が4,620nMであることを確認した(
図14)。
【0104】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に述べてきたが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的技術は単に好ましい実施様態に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されるものではない点は明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付する請求項とそれらの等価物によって定義されるといえよう。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係る第8因子及び/又は第9因子がノックアウトされた形質転換ウサギは、血友病発生に重要な機能を果たすタンパク質である第8因子及び/又は第9因子の機能が抑制されているため、血友病治療剤の開発に利用したり血友病研究に有用である。
【配列表】