(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-22
(45)【発行日】2023-01-05
(54)【発明の名称】エッチング液組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20221223BHJP
H01L 21/306 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
H01L21/308 E
H01L21/306 E
(21)【出願番号】P 2022562697
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022015849
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2021098603
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115500
【氏名又は名称】ラサ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】長尾 將
(72)【発明者】
【氏名】井上 智弘
(72)【発明者】
【氏名】三井 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】大下 信博
(72)【発明者】
【氏名】内田 玲仁
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-080049(JP,A)
【文献】特表2020-533786(JP,A)
【文献】特表2020-503664(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0010483(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/308
H01L 21/306
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素と酸化ケイ素とを含む半導体から窒化ケイ素を選択的にエッチングするための無機酸ベースのエッチング液組成物であって、
(a)酸化ケイ素のエッチングを抑制するエッチング抑制剤と、
(b)酸化ケイ素の表面にシリカが析出することを抑制する析出抑制剤と
を含有
し、
前記エッチング抑制剤は、アルコキシシラン、又はシランカップリング剤を含み、
前記析出抑制剤は、ヒドラジド類を含むエッチング液組成物。
【請求項2】
前記アルコキシシランは、ジメチルジメトキシシランを含み、
前記シランカップリング剤は、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、又は3-アミノプロピルトリメトキシシランを含む
請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項3】
前記ヒドラジド類は、アジピン酸ジヒドラジド、アセトヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、又はドデカン二酸ジヒドラジドを含む
請求項1又は2に記載のエッチング液組成物。
【請求項4】
前記析出抑制剤は、イミダゾール骨格を有する化合物、ピロリジン骨格を有する化合物、ホスホン酸化合物、又は第4級アンモニウム骨格を有する化合物をさらに含む
請求項1~3の何れか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項5】
前記イミダゾール骨格を有する化合物は、イミダゾール、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸、又は1-エチル-3-オクチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸を含み、
前記ピロリジン骨格を有する化合物は、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムヘキサフルオロリン酸、又は1-ブチル-1-メチルピロリジニウムテトラフルオロホウ酸を含み、
前記ホスホン酸化合物は、テトラブチルホスホニウムブロマイドを含み、
前記第4級アンモニウム骨格を有する化合物は、テトラメチルアンモニウムヘキサフルオロリン酸を含む
請求項4に記載のエッチング液組成物。
【請求項6】
液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度が、少なくとも1000ppmとなるまで使用可能である
請求項1~5の何れか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項7】
窒化ケイ素のエッチングレート[R
1]と酸化ケイ素のエッチングレート[R
2]との比率である選択比[R
1/R
2]が、前記無機酸のみからなるエッチング液の選択比に対して、2倍以上に設定されている
請求項1~6の何れか一項に記載のエッチング液組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素と酸化ケイ素とを含む半導体から窒化ケイ素を選択的にエッチングするための無機酸ベースのエッチング液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体回路の高集積化・高容量化に伴い、より高精細なエッチング技術が求められている。例えば、3次元構造を有するNAND型フラッシュメモリ(3D NAND)の製造においては、窒化ケイ素膜と酸化ケイ素膜とを交互に積層し、これをエッチング液に浸漬するエッチング処理が行われるが、この際、窒化ケイ素膜のみを精密に除去することが求められる。そこで、エッチング処理において、高度なエッチング選択性を実現することを目指して、これまで様々なエッチング液(組成物)が開発されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているエッチング液組成物は、3次元半導体の製造過程で用いられるものであり、シリカ及びアルカリを含む溶液と、リン酸と、水とを配合した組成物である。特許文献1によれば、このようなエッチング液組成物を用いることで、酸化ケイ素膜のエッチングが抑制され、窒化ケイ素膜のエッチング選択性が向上するとされている(特許文献1の明細書第0013段落を参照)。
【0004】
また、他の技術として、特許文献2に記載されているように、水と、リン酸と、ヒドロキシル基含有溶媒とを配合したエッチング液組成物がある。特許文献2によれば、ヒドロキシル基含有溶媒として、ポリオール、グリコール、一価アルコール等が例示され、これらの成分が酸化ケイ素膜を保護するように機能するため、窒化ケイ素膜が優先的且つ選択的にエッチングされるとされている(特許文献2の明細書第0025段落を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-96160号公報
【文献】特開2018-207108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、窒化ケイ素をリン酸及び水を含むエッチング液組成物でエッチングすると、液中にリン酸アンモニウム[(NH4)3PO4)]及びケイ酸[SiOx(OH)4―2x]nが生成するが、液中のケイ酸濃度が高くなると、これらが脱水縮合してシリカ[SiOx]となり、酸化ケイ素の表面に析出し易くなる。このような析出は、半導体製品において、短絡や配線不良等の不具合の原因となり得るため、できるだけ排除しなければならない。
【0007】
また、窒化ケイ素と酸化ケイ素とを含む半導体から窒化ケイ素を選択的にエッチングするためには、窒化ケイ素に対するエッチングレートを高めるとともに、酸化ケイ素に対するエッチングレートを低く抑える必要があるが、酸化ケイ素は水によってもエッチングされるため、水性のエッチング液組成物を使用する場合は、酸化ケイ素に対するエッチング抑制対策を検討する必要がある。
【0008】
上記の点に関し、特許文献1には「酸化ケイ素膜のエッチングが抑制され、窒化ケイ素膜のエッチング選択性が向上する」と記載されているものの、効果発現のメカニズムの詳細は不明とされている(同文献の第0013段落を参照)。また、特許文献1のエッチング液組成物には、元々ケイ酸が含まれているため、窒化ケイ素をエッチングすると液中のケイ酸濃度が高まり、酸化ケイ素の表面にシリカとして析出し易くなると考えられる。
【0009】
特許文献2のエッチング液組成物は、ヒドロキシル基含有溶媒によって酸化ケイ素膜を保護するとされているが、そもそも窒化ケイ素のエッチング選択性が十分に高いとは言えず、図示されているデータによれば、最も高いものでも窒化ケイ素と酸化ケイ素との選択比は137に留まる(同文献の
図2、
図4、
図6を参照)。また、特許文献2において、エッチング液組成物に含まれる水は、溶媒、残留物の除去、粘度改質剤、希釈液として機能するものとして認識されているが(同文献の第0021段落を参照)、水が酸化ケイ素をエッチングする影響については、何ら認識ないし考慮されていない。
【0010】
従って、従来のエッチング液組成物では、窒化ケイ素のエッチングレートを高めながら、酸化ケイ素の表面にシリカが析出することを抑制することは容易ではなく、未だに改善の余地が残されている。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、窒化ケイ素に対する高いエッチング選択性と、酸化ケイ素の表面へのシリカの析出抑制とを両立できるエッチング液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための本発明に係るエッチング液組成物の特徴構成は、
窒化ケイ素と酸化ケイ素とを含む半導体から窒化ケイ素を選択的にエッチングするための無機酸ベースのエッチング液組成物であって、
(a)酸化ケイ素のエッチングを抑制するエッチング抑制剤と、
(b)酸化ケイ素の表面にシリカが析出することを抑制する析出抑制剤と
を含有することにある。
【0013】
本構成のエッチング液組成物によれば、酸化ケイ素が水によってエッチングされることをエッチング抑制剤により抑制しつつ、窒化ケイ素は主に無機酸によってエッチングされるので、窒化ケイ素と酸化ケイ素とを含む半導体において、窒化ケイ素に対するエッチング選択性を向上させることができる。また、析出抑制剤により酸化ケイ素の表面にシリカが析出することを抑制できるので、半導体製品に短絡や配線不良等の不具合が発生することを防止することができる。
【0014】
本発明に係るエッチング液組成物において、
前記エッチング抑制剤は、アルコキシシラン、又はシランカップリング剤を含み、
前記析出抑制剤は、ヒドラジド類を含むことが好ましい。
【0015】
本構成のエッチング液組成物によれば、エッチング抑制剤及び析出抑制剤として好適なものを含むため、エッチング抑制剤による酸化ケイ素のエッチング抑制効果と、析出抑制剤による酸化ケイ素の表面へのシリカの析出抑制効果とを両立させて、窒化ケイ素に対するエッチング選択性をより向上させることができる。
【0016】
本発明に係るエッチング液組成物において、
前記アルコキシシランは、ジメチルジメトキシシランを含み、
前記シランカップリング剤は、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、又は3-アミノプロピルトリメトキシシランを含むことが好ましい。
【0017】
本構成のエッチング液組成物によれば、エッチング抑制剤として特に適した化合物を含むため、優れた酸化ケイ素のエッチング抑制効果が得られる。
【0018】
本発明に係るエッチング液組成物において、
前記ヒドラジド類は、アジピン酸ジヒドラジド、アセトヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、又はドデカン二酸ジヒドラジドを含むことが好ましい。
【0019】
本構成のエッチング液組成物によれば、析出抑制剤として特に適した化合物を含むため、優れた酸化ケイ素の表面へのシリカの析出抑制効果が得られる。
【0020】
本発明に係るエッチング液組成物において、
前記析出抑制剤は、イミダゾール骨格を有する化合物、ピロリジン骨格を有する化合物、ホスホン酸化合物、又は第4級アンモニウム骨格を有する化合物をさらに含むことが好ましい。
【0021】
本構成のエッチング液組成物によれば、析出抑制剤は、ヒドラジド類に加えて第二の析出抑制剤を含むことで、エッチングにより液が疲労した状態でも窒化ケイ素に対するエッチング選択性を維持しながら、窒化ケイ素のエッチング速度の低下を抑えることができるため、エッチング液組成物の長寿命化、及びエッチング処理の迅速化に貢献し得るものとなる。
【0022】
本発明に係るエッチング液組成物において、
前記イミダゾール骨格を有する化合物は、イミダゾール、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸、又は1-エチル-3-オクチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸を含み、
前記ピロリジン骨格を有する化合物は、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムヘキサフルオロリン酸、又は1-ブチル-1-メチルピロリジニウムテトラフルオロホウ酸を含み、
前記ホスホン酸化合物は、テトラブチルホスホニウムブロマイドを含み、
前記第4級アンモニウム骨格を有する化合物は、テトラメチルアンモニウムヘキサフルオロリン酸を含むことが好ましい。
【0023】
本構成のエッチング液組成物によれば、第二の析出抑制剤として特に適した化合物を含むため、エッチング液組成物の長寿命化、及びエッチング処理の迅速化により貢献し得るものとなる。
【0024】
本発明に係るエッチング液組成物において、
液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度が、少なくとも1000ppmとなるまで使用可能であることが好ましい。
【0025】
本構成のエッチング液組成物によれば、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度が、少なくとも1000ppmとなるまで使用可能であるので、液の寿命が従来のエッチング液(リン酸)に比べて大幅に延びることになり、さらに少ない使用量でエッチング処理量が増加するため、大変経済的であるとともに、環境性能にも優れている。また、エッチング液組成物中に含まれるエッチング抑制剤によって酸化ケイ素膜のエッチングが抑制されるので、結果として窒化ケイ素に対する高いエッチング選択性を達成することができる。
【0026】
本発明に係るエッチング液組成物において、
窒化ケイ素のエッチングレート[R1]と酸化ケイ素のエッチングレート[R2]との比率である選択比[R1/R2]が、前記無機酸のみからなるエッチング液の選択比に対して、2倍以上に設定されていることが好ましい。
【0027】
本構成のエッチング液組成物によれば、選択比[R1/R2]を無機酸のみからなるエッチング液の選択比に対して、2倍以上に設定することで、窒化ケイ素に対する高いエッチング選択性と、酸化ケイ素の表面へのシリカの析出抑制とを両立しながら、短時間でエッチング処理を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係るエッチング液組成物の実施形態について説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されることは意図しない。
【0029】
〔エッチング液組成物〕
本発明に係るエッチング液組成物は、窒化ケイ素と酸化ケイ素とを含む半導体から窒化ケイ素を選択的にエッチングするために使用される。以下、エッチング液組成物に含まれる各成分について説明する。
【0030】
<無機酸>
本発明に係るエッチング液組成物は、無機酸をベースとする。無機酸としては、リン酸、硫酸、硝酸、塩酸、及びこれらの無機酸の混酸等が挙げられる。これら無機酸のうち、リン酸が好ましい。リン酸は、希釈して使用する場合は水溶液の形態とされ、その濃度は50~100重量%が好ましく、85~95重量%がより好ましい。なお、リン酸は、エッチング液組成物の使用時に上記の濃度に調整されていればよく、例えば、低濃度のリン酸水溶液を含む原液を使用時又は使用前に濃縮したり、濃度が100重量%を超えるリン酸(強リン酸)を含む原液を使用時又は使用前に水で希釈したり、或いは無水リン酸(P2O5)を使用時又は使用前に水に溶解させることで、上記の適切な濃度に調整することができる。
【0031】
<エッチング抑制剤>
本発明に係るエッチング液組成物は、酸化ケイ素のエッチングを抑制するエッチング抑制剤を含む。エッチング液組成物中のエッチング抑制剤の含有量は、0.01~10重量%が好ましく、0.1~1重量%がより好ましい。エッチング抑制剤としては、アルコキシシラン、及びシランカップリング剤等の有機ケイ素化合物が好ましく使用される。
【0032】
[アルコキシシラン]
アルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、及び1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン等が挙げられる。上記のアルコキシシランは、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0033】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-4-アミノブチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-5-アミノペンチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-6-アミノヘキシルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、並びに上記の各アミノシランの塩酸塩、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、及び3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等が挙げられる。これらのシランカップリング剤のうち、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-4-アミノブチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-5-アミノペンチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-6-アミノヘキシルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランが好ましく、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-4-アミノブチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-5-アミノペンチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-6-アミノヘキシルトリメトキシシラン、及び3-アミノプロピルトリメトキシシランがより好ましい。上記のシランカップリング剤は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0034】
[その他の有機ケイ素化合物]
有機ケイ素化合物として、上記のアルコキシシラン、及びシランカップリング剤の他に、シラザン、及びシロキサン等を用いることも可能である。
【0035】
<析出抑制剤>
本発明に係るエッチング液組成物は、酸化ケイ素の表面にシリカが析出することを抑制する析出抑制剤を含む。エッチング液組成物中の析出抑制剤の含有量は、0.01~5重量%が好ましく、0.1~1重量%がより好ましい。析出抑制剤としては、ヒドラジン化合物、ピラゾール類、トリアゾール類、ヒドラジド類、イミダゾール骨格を有する化合物、ピロリジン骨格を有する化合物、ピペリジン骨格を有する化合物、モルホリン骨格を有する化合物、ピリジン骨格を有する化合物、ホスホン酸化合物、第4級アンモニウム骨格を有する化合物、ピリミジン骨格を有する化合物、プリン骨格を有する化合物、及び尿素の骨格を有する化合物等が好ましく使用される。上記の化合物及び類は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。特に、異なる二種類の析出抑制剤(第一の析出抑制剤、及び第二の析出抑制剤)を用いると、エッチング処理における性能面だけでなく、液の長寿命化やコスト低減等の点においても、非常に有用なものとなり得る。
【0036】
[ヒドラジン化合物]
ヒドラジン化合物としては、ヒドラジン、ブチルヒドラジン、イソプロピルヒドラジン、ベンジルヒドラジン、N,N-ジメチルヒドラジン、1,2-ジアセチルヒドラジン、フェニルヒドラジン、N,N-ジカルバモイルヒドラジン、硫酸ヒドラジン、モノ塩酸ヒドラジン、ジ塩酸ヒドラジン、ブチルヒドラジン塩酸塩、炭酸ヒドラジン、及びモノ臭化水素酸ヒドラジン等が挙げられる。上記のヒドラジン化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0037】
[ピラゾール類]
ピラゾール類としては、3,5-ジメチルピラゾール、及び3-メチル-5ピラゾン等があげられる。上記のピラゾール類は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0038】
[トリアゾール類]
トリアゾール類としては、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3-トリアゾール、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、及び3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール等が挙げられる。上記のトリアゾール類は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0039】
[ヒドラジド類]
ヒドラジド類としては、プロピオン酸ヒドラジド、ラウリル酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、p-ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド、ナフトエ酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド、ベンズヒドラジド、カルボジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、ピロメリット酸トリヒドラジド、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸トリヒドラジド、ニトリロ三酢酸トリヒドラジド、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、及び1,4,5,8-ナフトエ酸テトラヒドラジド等が挙げられる。これらのヒドラジド類のうち、アジピン酸ジヒドラジドが好ましい。上記のヒドラジド類は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0040】
[イミダゾール骨格を有する化合物]
イミダゾール骨格を有する化合物としては、イミダゾール、イミダゾールカルボン酸、イミド尿素、ジアゾリジニル尿素、3-(2-オキソイミダゾリジン-1-イル)安息香酸、及びイミダゾール塩酸塩等の化合物、並びに1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1,3-ジメチルイミダゾリウムメチル硫酸塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム酢酸塩、1-エチル-3-オクチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1,3-ジメチルイミダゾリウムジメチルリン酸塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸、及び1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸等のイミダゾリウム塩類等が挙げられる。上記のイミダゾール骨格を有する化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0041】
[ピロリジン骨格を有する化合物]
ピロリジン骨格を有する化合物としては、ピロリジン、2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、ピログルタミン酸、及びピラセタム等の化合物、並びに1-エチル-1-メチルピロリジニウムクロリド、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムクロリド、1-エチル-1-メチルピロリジニウム酢酸塩、1-エチル-1-メチルピロリジニウムテトラフルオロホウ酸、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムテトラフルオロホウ酸、1-エチル-1-メチルピロリジニウムヘキサフルオロリン酸、及び1-ブチル-1-メチルピロリジニウムヘキサフルオロリン酸等のピロリジニウム塩類等が挙げられる。上記のピロリジン骨格を有する化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0042】
[ピペリジン骨格を有する化合物]
ピペリジン骨格を有する化合物としては、ピペリジン、ピペリジン-4-カルボン酸エチル、ピペリジン-2-イル酢酸、及びピペリジン-4-カルボン酸メチルアミド等の化合物、並びに(ピペリジニウム-1-イルメチル)トリフルオロボラート、1-ブチル-1-メチルピペリジニウムブロマイド、及び1-ブチル-1-メチルピペリジニウムビスイミド等のピペリジニウム塩類等が挙げられる。上記のピペリジン骨格を有する化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0043】
[モルホリン骨格を有する化合物]
モルホリン骨格を有する化合物としては、モルホリン、モルホリン-2-イルメタノール、モルホリン-3-オン、モルホリン-4-カルボチオ酸アミド、モルホリン-4-イル酢酸、及びモルホリン-4-イル酢酸エチル等の化合物、並びに4-エチル-4-メチルモルホリニウムブロマイド、及び4-(2-エトキシエチル)-4-メチルモルホリニウムビスイミド等のモルホニウム塩類等が挙げられる。上記のモルホリン骨格を有する化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0044】
[ピリジン骨格を有する化合物]
ピリジン骨格を有する化合物としては、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ビピリジン、2,6-ルチジン、及びp-トルエンスルホン酸ピリジニウム等の化合物、並びに1-ブチル-3-メチルピリジウムクロライド、1-ブチルピリジウムテトラフルオロホウ酸、及び1-ブチル-ピリジウムヘキサフルオロリン酸等のピリジニウム塩類等が挙げられる。上記のピリジン骨格を有する化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0045】
[ホスホン酸化合物]
ホスホン酸化合物としては、ホスホン酸、ホスホン酸ジフェニル、ホスホン酸ブチル、ホスホン酸ジペンチル、及びリン酸アンモニウム等の化合物、並びにテトラブチルホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩、テトラブチルホスホニウムビスイミド、及びテトラブチルホスホニウムブロマイド等のホスホニウム塩類等が挙げられる。上記のホスホン酸化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0046】
[第4級アンモニウム骨格を有する化合物]
第4級アンモニウム骨格を有する化合物としては、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムアイオダイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩、テトラメチルアンモニウムヘキサフルオロリン酸、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロリン酸、及び酢酸コリン等が挙げられる。上記の第4級アンモニウム骨格を有する化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0047】
[ピリミジン骨格を有する化合物]
ピリミジン骨格を有する化合物としては、チミン、シトシン、ウラシル、並びに上記の各化合物のヌクレオシド類、リボヌクレオシド類、及びデオキシリボヌクレオシド類等が挙げられる。上記のピリミジン骨格を有する化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0048】
[プリン骨格を有する化合物]
プリン骨格を有する化合物としては、プリン、アデニン、グアニン、尿酸、カフェイン、ヒポキサンチン、キサンチン、テオフィリン、テオブロミン、イソグアニン、並びに上記の各化合物のヌクレオシド類、リボヌクレオチド類、及びデオキシリボヌクレオチド類等が挙げられる。上記のプリン骨格を有する化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0049】
[尿素の骨格を有する化合物]
尿素の骨格を有する化合物としては、尿素、ヒドロキシ尿素、N,N-ジエチルチオ尿素、N,N-ジブチルチオ尿素、ビウレア、ビウレット、N-アミジノチオ尿素等が挙げられる。上記の尿素の骨格を有する化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0050】
〔エッチング液組成物の調製〕
本発明に係るエッチング液組成物は、ベースとなる無機酸に、エッチング抑制剤及び析出抑制剤を添加することにより調製される。ここで、エッチング抑制剤及び析出抑制剤は、無機酸に直接添加することができるが、エッチング抑制剤及び析出抑制剤を溶媒に溶解又は懸濁させた状態で無機酸に添加してもよい。無機酸へのエッチング抑制剤及び析出抑制剤の添加は、常温で行ってもよいし、液を加温しながら行ってもよい。
【0051】
<溶媒>
エッチング抑制剤及び析出抑制剤を溶解又は懸濁させる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、オクタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、2,2,2-トリフルオロエタノール等のアルコール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-フルオロエチレンカーボネート等の炭酸エステル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、γ-ラクトン等のエステル、アセトニトリル、プロピオニトリル、バレロニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア(TMU)、N,N’-ジメチルプロピレンウレア(DMPU)等のウレア、並びにイミダゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ピペリジニウム塩、ピリジニウム塩、モルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、スルホニウム塩等のイオン液体等が挙げられる。イオン液体については、カチオンは、イミダゾリウム骨格、ピロリジニウム骨格、ピペリジニウム骨格、モルホニウム骨格、ピリジニウム骨格、第4級ホスホニウム骨格、第4級アンモニウム骨格、及びスルホニウム骨格等が挙げられ、アニオンは、Br-、BF4
-、PF6
-、(CN)2N-、Cl-、I-、(CF3SO2)N-、(F2SO2)N-、CH3COO-、HSO4
-、(CH3)2PO4
-、CF3COO-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、及びSCN-等が挙げられる。上記の溶媒は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合した状態で用いてもよい。
【0052】
<界面活性剤>
溶媒にエッチング抑制剤及び析出抑制剤を溶解又は懸濁させる場合、界面活性剤を併用することも可能である。界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤の何れについても使用可能であり、また、これらの界面活性剤を組み合わせて使用することも可能である。
【0053】
本発明に係るエッチング液組成物は、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度が、所定濃度範囲で又は所定濃度に至るまで使用可能であることに大きな特徴がある。従来のエッチング液(リン酸)は、使用時間又は使用回数が増加するに連れて、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度が増加し、当該Siの濃度がある程度高くなると、シリカの析出が発生することにより、疲労液として廃棄するか、疲労液を回収して再生する工程が必要となっていた。ところが、本発明に係るエッチング液組成物は、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度が増加しても、シリカの析出を抑えることが可能である。その結果、液の寿命が従来のエッチング液(リン酸)に比べて大幅に延びることになり、しかも少ない使用量でエッチング処理量が増加するため、大変経済的であるとともに、環境性能にも優れている。また、エッチング液組成物中に含まれるエッチング抑制剤によって酸化ケイ素膜のエッチングが抑制されるので、結果として窒化ケイ素に対する高いエッチング選択性を達成することができる。
【0054】
ここで、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度(所定濃度)について説明する。上述のとおり、本発明に係るエッチング液組成物は、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度が、所定濃度範囲で使用可能(すなわち、窒化ケイ素がエッチングされることによって上昇するSiの濃度が従来よりも著しく高い濃度に至っても使用可能)であるが、エッチング液組成物中のSi成分は、シランカップリング剤等に由来するものも含まれる。しかしながら、シランカップリング剤等は、エッチング液中では任意の高温化においても安定的な構造を保っており、シランカップリング剤等に由来するSi成分がシリカとして析出することなどによるエッチング液組成物の性能低下に関与するものではない。また、窒化ケイ素膜由来のSi成分は、エッチング液中ではケイ酸[SiOx(OH)4-2x]nの状態で存在している。この場合、上記の所定濃度として、窒化ケイ素由来のSi濃度が、少なくとも1000ppmとなるまで(例えば、1~1000ppmの任意の濃度において)、高選択なエッチングが可能となる。なお、本明細書では、エッチング液中の窒化ケイ素由来のSi濃度の単位(ppm)は、重量基準の単位(mg/kg)とする。
【0055】
以上のように調製された本発明に係るエッチング液組成物は、窒化ケイ素のエッチングレート[R1]と酸化ケイ素のエッチングレート[R2]との比率である選択比[R1/R2]が、無機酸のみからなるエッチング液の選択比に対して、2倍以上となり、窒化ケイ素に対する高いエッチング選択性を有するものとなり得る。このような高い選択比[R1/R2]を有するエッチング液組成物であれば、窒化ケイ素に対する高いエッチング選択性と、酸化ケイ素の表面へのシリカの析出抑制とを両立しながら、短時間でエッチング処理を行うことが可能となる。なお、無機酸のみからなるエッチング液の選択比に対する本発明のエッチング液組成物の選択比[R1/R2]の倍率は、6倍以上となることが好ましく、9倍以上となることがより好ましい。このような無機酸のみからなるエッチング液に対して高い選択比[R1/R2]を備えたエッチング液組成物を用いてエッチング処理を行えば、半導体製品に短絡や配線不良等の不具合が発生することを防止することができ、半導体製品の工業的生産(プロセス)を行う上で非常に大きなメリットがある。
【実施例】
【0056】
本発明に係るエッチング液組成物の実施例について説明する。この実施例では、エッチング液組成物の性能を確認するため、3D NANDの製造工程の一部を想定したエッチング試験を行った。
【0057】
<エッチング液組成物の調製1>
本発明に係るエッチング液組成物として、エッチング抑制剤及び析出抑制剤を含有する実施例1~13に係る各エッチング液組成物を調製した。また比較のため、エッチング抑制剤又は析出抑制剤の一方のみを含有する比較例1~13に係る各エッチング液組成物を調製した。さらに参考のため、エッチング抑制剤及び析出抑制剤の何れも含有しない参考例1に係るエッチング液を調製した。以下、各エッチング液組成物又はエッチング液の調製方法について説明する。
【0058】
〔実施例1〕
ベースとなる無機酸として濃度85wt%に調整したリン酸水溶液(ラサ工業株式会社製、以降「85%リン酸」等と称する。)を使用し、これを濃縮して90%リン酸とした。この90%リン酸に、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を1.00wt%、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.10wt%夫々添加し、液中に溶解させたものを実施例1のエッチング液組成物とした。
【0059】
〔実施例2〕
実施例1のエッチング液組成物に、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を40ppmに調整したものを実施例2のエッチング液組成物とした。なお、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度は、後述の「窒化ケイ素由来のSi濃度測定方法」により測定した(以降の実施例、及び比較例においても同様である。)。
【0060】
〔実施例3〕
実施例2のエッチング液組成物に、追加で所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を80ppmに調整したものを実施例3のエッチング液組成物とした。
【0061】
〔実施例4〕
実施例3のエッチング液組成物に、追加で所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を200ppmに調整したものを実施例4のエッチング液組成物とした。
【0062】
〔実施例5〕
ベースとなる無機酸として85%リン酸を使用し、これを濃縮して86%リン酸とした。この86%リン酸に、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を10.00wt%、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を1.00wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を1000ppmに調整したものを実施例5のエッチング液組成物とした。
【0063】
〔実施例6〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を1.00wt%、ドデカン二酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.10wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を200ppmに調整したものを実施例6のエッチング液組成物とした。
【0064】
〔実施例7〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、ジメチルジメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を1.00wt%、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.10wt%夫々添加し、液中に溶解させたものを実施例7のエッチング液組成物とした。
【0065】
〔実施例8〕
実施例7のエッチング液組成物に、追加で所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を180ppmに調整したものを実施例8のエッチング液組成物とした。
【0066】
〔実施例9〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を1.00wt%、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.10wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を200ppmに調整したものを実施例9のエッチング液組成物とした。
【0067】
〔実施例10〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を1.00wt%、アセトヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を1.00wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を400ppmに調整したものを実施例10のエッチング液組成物とした。
【0068】
〔実施例11〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を2.00wt%、コハク酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を1.00wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を300ppmに調整したものを実施例11のエッチング液組成物とした。
【0069】
〔実施例12〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を4.00wt%、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.40wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を500ppmに調整したものを実施例12のエッチング液組成物とした。
【0070】
〔実施例13〕
実施例5と同様の手順で得た86%リン酸に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を10.00wt%、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を1.00wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を1000ppmに調整したものを実施例13のエッチング液組成物とした。
【0071】
〔比較例1〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を0.01wt%添加し、液中に溶解させたものを比較例1のエッチング液組成物とした。
【0072】
〔比較例2〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を0.10wt%添加し、液中に溶解させたものを比較例2のエッチング液組成物とした。
【0073】
〔比較例3〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を1.00wt%添加し、液中に溶解させたものを比較例3のエッチング液組成物とした。
【0074】
〔比較例4〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を4.00wt%添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を500ppmに調整したものを比較例4のエッチング液組成物とした。
【0075】
〔比較例5〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を4.00wt%添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を500ppmに調整したものを比較例5のエッチング液組成物とした。
【0076】
〔比較例6〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.10wt%添加し、液中に溶解させたものを比較例6のエッチング液組成物とした。
【0077】
〔比較例7〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を1.00wt%添加し、液中に溶解させたものを比較例7のエッチング液組成物とした。
【0078】
〔比較例8〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.01wt%添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を200ppmに調整したものを比較例8のエッチング液組成物とした。
【0079】
〔比較例9〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.10wt%添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を200ppmに調整したものを比較例9のエッチング液組成物とした。
【0080】
〔比較例10〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、コハク酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を1.00wt%添加し、液中に溶解させたものを比較例10のエッチング液組成物とした。
【0081】
〔比較例11〕
比較例10のエッチング液組成物に、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を200ppmに調整したものを比較例11のエッチング液組成物とした。
【0082】
〔比較例12〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、アセトヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を1.00wt%添加し、液中に溶解させたものを比較例12のエッチング液組成物とした。
【0083】
〔比較例13〕
比較例12のエッチング液組成物に、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を200ppmに調整したものを比較例13のエッチング液組成物とした。
【0084】
〔参考例1〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸を、そのまま参考例1のエッチング液とした。
【0085】
<エッチング試験1>
次に、実施例1~13、及び比較例1~13に係るエッチング液組成物、並びに参考例1に係るエッチング液を用いて実施したエッチング試験1における試験条件、及び測定方法等について説明する。
【0086】
〔試験条件〕
エッチング対象として、窒化ケイ素からなる試験片(窒化ケイ素膜)、及び酸化ケイ素からなる試験片(酸化ケイ素膜)を準備した。各試験片のサイズは、1.5cm×1.5cmの正方形とした。エッチング処理時間(t)は、窒化ケイ素膜については10分とした。酸化ケイ素膜については30分とし、効果を確認にし難いものについては、適宜60分ないし100分まで延長した。エッチング処理温度は、165℃とした。
【0087】
〔窒化ケイ素由来のSi濃度測定方法〕
エッチング液組成物のSiの濃度[Si 1a]と、当該エッチング液組成物に窒化ケイ素が溶解した疲労液のSiの濃度[Si 1b]とを夫々測定し、以下の式(1)により窒化ケイ素由来のSiの濃度[Si 1]を求めた。
[Si 1] = [Si 1b]―[Si 1a] ・・・(1)
ちなみに、エッチング液組成物のSiの濃度[Si 1a]は、エッチング液組成物に含まれるエッチング抑制剤に由来するものである。なお、液中のSi濃度の測定は、高分解能ICP発光分光分析装置(製品名「PS3520」、株式会社日立ハイテクサイエンス社製)を使用し、ICP発光分光分析法(ICP-AES)により行った。
【0088】
〔エッチングレートの測定方法〕
エッチング処理前の窒化ケイ素膜の膜厚[T1a]、エッチング処理後の窒化ケイ素膜の膜厚[T1b]を夫々測定し、以下の式(2)から、窒化ケイ素のエッチングレート[R1]を求めた。
[R1] = [T1a]-[T1b] / t(10分) ・・・(2)
同様に、エッチング処理前の酸化ケイ素膜の膜厚[T2a]、エッチング処理後の酸化ケイ素膜の膜厚[T2b]を夫々測定し、以下の式(3)から、酸化ケイ素のエッチングレート[R2]を求めた。
[R2] = [T2a]-[T2b] / t(30分又は60分ないし100分) ・・・(3)
そして、窒化ケイ素のエッチングレート[R1]と酸化ケイ素のエッチングレート[R2]との比率をとり、これを窒化ケイ素に対するエッチング選択性の指標である選択比[R1/R2]とした。なお、膜厚の測定には、光学干渉式膜厚モニター(製品名「Ava Thinfilm」、Avantes社製)を使用した。
【0089】
〔酸化ケイ素膜表面のシリカ析出評価〕
エッチング処理前の酸化ケイ素膜の膜厚[T2a]と、エッチング処理後の酸化ケイ素膜の膜厚[T2b]との差分([T2a]-[T2b])を求め、エッチング処理後の膜厚が増加している場合(上記差分がマイナスの値となっている場合)、酸化ケイ素の表面にシリカが析出していると判断できる。
【0090】
実施例1~13に係る各エッチング液組成物の処方、比較例1~13に係る各エッチング液組成物の処方、及び参考例1に係るエッチング液の処方、並びに、各エッチング液組成物及びエッチング液を用いて行ったエッチング試験1の結果を、以下の表1にまとめた。
【0091】
【0092】
<考察1>
上記のエッチング試験1の結果より、本発明に係るエッチング液組成物について、以下の新たな知見が得られた。
【0093】
[1]リン酸(無機酸)をベースとし、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(エッチング抑制剤)と、アジピン酸ジヒドラジド又はドデカン二酸ジヒドラジド(析出抑制剤)とを含有する実施例1~6に係るエッチング液組成物、リン酸(無機酸)をベースとし、ジメチルジメトキシシラン(エッチング抑制剤)と、アジピン酸ジヒドラジド(析出抑制剤)とを含有する実施例7~8に係るエッチング液組成物、並びにリン酸(無機酸)をベースとし、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(エッチング抑制剤)と、アジピン酸ジヒドラジド、アセトヒドラジド又はコハク酸ジヒドラジド(析出抑制剤)とを含有する実施例9~13に係るエッチング液組成物は、酸化ケイ素に対するエッチングレート[R2]を低く抑えることができるため、結果として、窒化ケイ素膜に対するエッチング選択性が高まり、大きな選択比[R1/R2]を達成することができた。液中に窒化ケイ素由来のSiを含まない処方での比較では、本発明のエッチング液組成物(実施例1)の選択比[R1/R2]は、リン酸(無機酸)のみからなるエッチング液(参考例1)の選択比に対して、6倍以上の高い結果となった。そして、選択比[R1/R2]の値は、液中の窒化ケイ素由来のSi濃度が高くなるに連れて大きくなる傾向が見られた。また、実施例1~13に係るエッチング液組成物は、酸化ケイ素の表面へのシリカの析出も確実に抑制されていた。とりわけ、液中の窒化ケイ素由来のSi濃度を高濃度の1000ppmとした実施例5及び13に係るエッチング液組成物においても、酸化ケイ素の表面へのシリカの析出は見られなかった。
【0094】
[2]リン酸(無機酸)をベースとし、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン又は3-アミノプロピルトリメトキシシラン(エッチング抑制剤)を含有するが、析出抑制剤を含有しない比較例1~5に係るエッチング液組成物について、液中に窒化ケイ素由来のSiを含まない比較例1~3に係るエッチング液組成物は、エッチング抑制剤の含有量に関わらず、選択比[R1/R2]を十分に大きくすることはできなかった。また、酸化ケイ素に対する過剰なエッチングが確認され、高精細なエッチングを行うことが困難なものであった。一方、液中の窒化ケイ素由来のSi濃度を500ppmとした比較例4及び5に係るエッチング液組成物は、酸化ケイ素に対するエッチングレート[R2]がマイナスとなり、酸化ケイ素表面へのシリカの析出が確認された。
【0095】
[3]リン酸(無機酸)をベースとし、アジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド又はアセトヒドラジド(析出抑制剤)を含有するが、エッチング抑制剤を含有しない比較例6~13に係るエッチング液組成物について、液中に窒化ケイ素由来のSiを含まない比較例6、7、10及び12に係るエッチング液組成物は、選択比[R1/R2]を十分に大きくすることはできなかった。また、酸化ケイ素に対する過剰なエッチングが確認され、高精細なエッチングを行うことが困難なものであった。一方、液中の窒化ケイ素由来のSi濃度を200ppmとした比較例8、9、11及び13に係るエッチング液組成物は、酸化ケイ素に対するエッチングレート[R2]がマイナスとなり、酸化ケイ素表面へのシリカの析出が確認された。
【0096】
[4]以上の結果より、実施例1~13に係るエッチング液組成物(本発明)は、エッチング抑制剤と、析出抑制剤とを同時に含有することにより、窒化ケイ素に対する高いエッチング選択性と、酸化ケイ素の表面へのシリカの析出抑制とを両立できることが明らかとなった。
【0097】
ところで、エッチング液組成物において、選択比[R1/R2]を増加させるためには、上記エッチング試験1の結果に示されるとおり、酸化ケイ素に対するエッチングレート[R2]を低く抑えることが有効であるが、本来的には、窒化ケイ素に対するエッチングレート[R1]を高める必要がある。ところが、液中の窒化ケイ素由来のSi濃度が大きくなると(すなわち、液の疲労が進行すると)、[R1]が低下する傾向がある。そこで、本発明者らがさらなる検討を行ったところ、二種類の析出抑制剤(第一の析出抑制剤、及び第二の析出抑制剤)を用いた場合、液中の窒化ケイ素由来のSi濃度が大きくなっても[R1]を高く維持することが可能となり、液の疲労の問題を解決できる(長寿命化できる)ことが新たに判明した。以下、二種類の析出抑制剤を用いた本発明に係るエッチング液組成物の実施例について説明する。
【0098】
<エッチング液組成物の調製2>
本発明に係るエッチング液組成物として、エッチング抑制剤及び析出抑制剤(二種類)を含有する実施例14~23に係る各エッチング液組成物を調製した。なお、実施例14~23では、エッチング試験1の結果と比較するため、二種類の析出抑制剤として、エッチング試験1で用いたヒドラジド類(第一の析出抑制剤)と、その他の析出抑制剤(第二の析出抑制剤)との組み合わせについて検討したが、この組み合わせに限定されるものではない。以下、各エッチング液組成物又はエッチング液の調製方法について説明する。
【0099】
〔実施例14〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を1.00wt%、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.20wt%、イミダゾール(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.10wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を500ppmに調整したものを実施例14のエッチング液組成物とした。
【0100】
〔実施例15〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を2.00wt%、コハク酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.20wt%、イミダゾール(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.20wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を500ppmに調整したものを実施例15のエッチング液組成物とした。
【0101】
〔実施例16〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を1.00wt%、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.20wt%、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.10wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を500ppmに調整したものを実施例16のエッチング液組成物とした。
【0102】
〔実施例17〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を2.00wt%、アセトヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.20wt%、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.20wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を500ppmに調整したものを実施例17のエッチング液組成物とした。
【0103】
〔実施例18〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を2.00wt%、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.30wt%、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.20wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を500ppmに調整したものを実施例18のエッチング液組成物とした。
【0104】
〔実施例19〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を2.00wt%、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.30wt%、1-エチル-3-オクチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.20wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を500ppmに調整したものを実施例19のエッチング液組成物とした。
【0105】
〔実施例20〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を2.00wt%、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.20wt%、テトラブチルホスホニウムブロマイド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.10wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を500ppmに調整したものを実施例20のエッチング液組成物とした。
【0106】
〔実施例21〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を2.00wt%、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.20wt%、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムヘキサフルオロリン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.20wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を500ppmに調整したものを実施例21のエッチング液組成物とした。
【0107】
〔実施例22〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を2.00wt%、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.30wt%、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムテトラフルオロホウ酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.20wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を500ppmに調整したものを実施例22のエッチング液組成物とした。
【0108】
〔実施例23〕
実施例1と同様の手順で得た90%リン酸に、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を2.00wt%、アジピン酸ジヒドラジド(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.20wt%、テトラメチルアンモニウムヘキサフルオロリン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.20wt%夫々添加し、液中に溶解させたものに、所定量の窒化ケイ素を予め溶解させ、液中の窒化ケイ素由来のSiの濃度を500ppmに調整したものを実施例23のエッチング液組成物とした。
【0109】
<エッチング試験2>
次に、実施例14~23に係るエッチング液を用いてエッチング試験2を実施した。エッチング試験2における試験条件、及び測定方法等は、先に説明したエッチング試験1における試験条件、及び測定方法等と同じである。
【0110】
実施例14~23に係る各エッチング液組成物の処方、及び各エッチング液組成物を用いて行ったエッチング試験2の結果を、以下の表2にまとめた。
【0111】
【0112】
<考察2>
上記のエッチング試験2の結果より、本発明に係るエッチング液組成物について、以下のさらなる知見が得られた。
【0113】
[5]リン酸(無機酸)をベースとし、3-アミノプロピルトリメトキシシラン又はN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(エッチング抑制剤)と、二種類の析出抑制剤とを含有する実施例14~23に係るエッチング液組成物は、液中に窒化ケイ素由来のSiを500ppm含む場合であっても、酸化ケイ素に対するエッチングレート[R2]を低く抑えつつ、窒化ケイ素に対するエッチングレート[R1]を高く維持できるため、大きな選択比[R1/R2]を達成することができた。
【0114】
[6]二種類の析出抑制剤のうちの一つとして、とりわけフッ素含有基(フルオロ-)を含む実施例18、19及び21~23に係るエッチング液組成物は、窒化ケイ素に対するエッチングレート[R1]が特に高いものとなり、液の長寿命化に貢献し得る結果となった。
【0115】
[7]エッチング抑制剤及び析出抑制剤(二種類)を含有する実施例14~23に係る各エッチング液組成物は、エッチング試験1の結果との比較において、エッチング抑制剤の含有量を少なくして、窒化ケイ素に対するエッチングレート[R1]を高めることができるため、液の長寿命化とあわせるとコスト低減効果が大きく、非常に有用なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明に係るエッチング液組成物は、特に、3次元構造を有するNAND型フラッシュメモリ(3D NAND)を工業的に生産する場面において有用なものであるが、従来の2次元構造を有するメモリを工業的に生産する場面においても利用可能である。
【要約】
窒化ケイ素に対する高いエッチング選択性と、酸化ケイ素の表面へのシリカの析出抑制とを両立できるエッチング液組成物を提供する。
窒化ケイ素と酸化ケイ素とを含む半導体から窒化ケイ素を選択的にエッチングするための無機酸ベースのエッチング液組成物であって、(a)酸化ケイ素のエッチングを抑制するエッチング抑制剤と、(b)酸化ケイ素の表面にシリカが析出することを抑制する析出抑制剤とを含有するエッチング液組成物。