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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】電動モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/50 20060101AFI20221226BHJP
   H02K 5/22 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
H02K3/50 A
H02K5/22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020547548
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2018034841
(87)【国際公開番号】W WO2020059083
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26-46, D-70376 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100099612
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100064469
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100073450
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】玉井 真史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮介
(72)【発明者】
【氏名】松川 芳生
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-131820(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192557(WO,A1)
【文献】特開2007-174162(JP,A)
【文献】特開2017-139830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/50
H02K 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネットワイヤにより巻回された多相のステータコイルを有するステータと永久磁石により界磁が構成されたロータとを備えたモータ本体がモータハウジング内に収納され、軸線方向の一端が外部に開口し他端が前記モータハウジング内に開口したワイヤ引出孔がその軸線を規定のワイヤ引出方向に向けた状態で前記モータハウジングの軸線方向の一端を閉じる金属製の端部材に設けられ、前記多相のステータコイルを構成しているマグネットワイヤの端末部分のうち、外部に引き出す必要がある端末部分が口出ワイヤとされて、該口出ワイヤが前記ワイヤ引出孔内を通して前記規定のワイヤ引出方向に沿って直線状に伸びるように成形され、硬質の絶縁樹脂からなっていて直線状に伸びる貫通孔を有するワイヤカバーが該貫通孔の軸線を前記規定のワイヤ引出方向に向けた状態で前記ワイヤ引出孔内に挿入され、前記口出ワイヤは、前記ワイヤカバーに設けられた貫通孔を通して規定のワイヤ引出方向に引き出される電動モータであって、
前記ワイヤカバーは、前記ワイヤ引出孔の周方向に沿って並ぶことになる複数のクラッシュリブを側面に有して、該クラッシュリブをクラッシュさせた状態で前記ワイヤ引出孔内に圧入され、
前記ワイヤカバーはまた、前記ワイヤ引出孔内で前記クラッシュリブよりも前記ワイヤ引出孔の軸線方向の他端側に寄った位置に配置される部分にワイヤ引出孔の軸線方向の他端側に向いた部分を有する被受け止め部を備え、
前記ワイヤ引出孔の内側には、前記ワイヤ引出孔内に挿入されたワイヤカバーの被受け止め部側に向いた部分を有するワイヤカバー受け止め部が設けられて、このワイヤカバー受け止め部により前記ワイヤ引出孔内に挿入されたワイヤカバーの被受け止め部が受け止められている、
電動モータ。
【請求項2】
前記ワイヤ引出孔の軸線方向の一端の開口部の周方向に沿って並ぶ複数の被加締め部が前記端部材に設定されていて、該複数の被加締め部が前記ワイヤ引出孔内に挿入されたワイヤカバーに接するように加締められることにより、前記ワイヤカバーの被受け止め部が前記ワイヤ引出孔の内側に設けられた受け止め部に押し付けられている請求項1に記載の電動モータ。
【請求項3】
前記ワイヤカバーは、前記ワイヤ引出孔内で前記ワイヤ引出孔の軸線方向の一端寄りに配置される端部に前記複数の被加締め部にそれぞれ対応する複数の凹部を有し、
各被加締め部の加締められた部分が対応する凹部内に受け入れられている請求項2に記載の電動モータ。
【請求項4】
前記ワイヤカバーは、前記ワイヤ引出孔内に挿入されたときに前記ワイヤ引出孔の軸線方向の一端寄りに配置される頭部と該頭部よりも前記ワイヤ引出孔の軸線方向の他端側に配置される胴部とを一体に有しており、
前記ワイヤカバーの頭部は、その横断面の輪郭線が前記胴部の横断面の輪郭線よりも外側に配置されるように拡大された形状を有して、前記頭部の前記胴部寄りの端部に前記被受け止め部が形成され、
前記ワイヤ引出孔は、前記ワイヤカバーの頭部を収容する第1の孔部と、前記ワイヤカバーの胴部を収容する第2の孔部とを有していて、前記第1の孔部と第2の孔部との境界部に前記ワイヤカバー受け止め部が形成され、
前記複数のクラッシュリブは前記ワイヤカバーの頭部の側面から突出した状態で設けられていること、
を特徴とする請求項1,2又は3に記載の電動モータ。
【請求項5】
前記ワイヤカバーの少なくともクラッシュリブが設けられた部分及び前記ワイヤ引出孔の少なくとも前記ワイヤカバーのクラッシュリブが設けられた部分が圧入される部分は、それぞれの軸線方向に沿った各部の横断面の輪郭形状がそれぞれの中心軸線に対してN回対称性(Nは2以上の整数)を有するように形成されていることを特徴とする請求項1,2,3又は4に記載の電動モータ。
【請求項6】
前記モータハウジングの軸線方向の一端を閉じる端部材の外側に前記ステータコイルに駆動電流を流す回路を備えた電気ユニットが取り付けられ、前記ワイヤカバーの貫通孔を通して外部に引き出された口出ワイヤの先端が、前記電気ユニットに設けられた端子部に直接接続されている請求項1ないし5のいずれか一つに記載の電気モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング等の適宜の負荷を駆動するために用いる電動モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は、ステータ及びロータからなるモータ本体と、このモータ本体を収容するモータハウジングとを備えた電動モータを対象とする。モータハウジングは、例えば、筒状部を有する本体部分と、該本体部分の軸線方向の一端及び他端をそれぞれ閉じる第1及び第2の端部材とにより構成される。
【0003】
モータハウジングの一端及び他端を閉じる第1及び第2の端部材は単なる蓋である場合もあり、モータの駆動回路を構成する部品などを支持するフレームと蓋とを兼ねる場合もある。また第1及び第2の端部材はその一方がモータハウジングの本体に一体に設けられる場合もあり、両端部材がモータハウジングと別体に設けられる場合もある。更に、モータハウジングの本体部分をその軸線方向の中間部で第1のハウジング半部と第2のハウジング半部とに分割して、両ハウジング半部を連結することによりモータハウジングの本体部分を組み立てる構造を採用する場合には、第1の端部材および第2の端部材をそれぞれ第1のハウジング半部及び第2のハウジング半部に一体に形成することができる。
【0004】
本明細書では、モータハウジングの一端側及び他端側をそれぞれ閉じる第1及び第2の端部材のうち、第2の端部材側からモータの回転軸が外部に(負荷側に)導出されるものとする。
【0005】
モータ本体を構成するステータは、例えば、内周側に多数の歯部を有する環状のステータコアと、このステータコアの歯部にマグネットワイヤを巻回することにより構成された多相のステータコイルとを備えていて、モータハウジングの本体部分の内周に保持される。
【0006】
またロータは、ロータコアと、ロータコアの外周側に多極の界磁を形成するためにロータコアに取り付けられた複数の永久磁石と、ロータコアの軸心部に結合された回転軸とを備えることにより構成される。ロータは、ステータの内側に該ステータと中心軸線を共有した状態で配置されて、ロータコアの外周側に形成された界磁の磁極がステータコアの歯部にギャップを介して対向させられる。ロータの回転軸は、モータハウジングの軸線方向の一端及び他端をそれぞれ閉じる第1の端部材及び第2の端部材にそれぞれ保持された第1及び第2の軸受により回転自在に支持される。
【0007】
この種のモータは、電動パワーステアリングの駆動源として用いる場合のように、モータハウジング及びその内部に収容されたモータ本体を含む機械的部分と、モータの駆動や制御を行う回路を備えた電気ユニットの部分とを一体化することにより、機電一体型の駆動装置を構成した形で使用されることがしばしばある。機電一体型の駆動装置を構成する場合には、電気ユニットの部分をモータハウジングの軸線方向の一端を閉じる端部材に保持させて、多相のステータコイルの端末部と電気ユニットとの間を適宜の手段により接続する構成をとることが多い。
【0008】
ステータコイルの端末部と電気ユニットとの間を接続する構造としては種々のものが提案されているが、接続バーなどの接続部材を省略して構造の簡素化を図るためには、特許文献1に示されているように、ステータコイルを構成しているマグネットワイヤの端末部分(各相のコイルの端末部)のうち、電気ユニットに接続する必要がある端末部分を口出ワイヤとして、各口出ワイヤをモータハウジングの一端を閉じる端部材を貫通させて外部に(電気ユニット側に)直線的に引出し、引き出された各口出ワイヤの先端を電気ユニット側に設けられた所定の端子部に半田付けや溶接により直接接続する構造を採用するのが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-139830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に示されたように、ステータコイルを構成しているマグネットワイヤの端末部分を口出ワイヤとして、この口出ワイヤをモータハウジングの端部材を貫通させて外部に直線的に引出し、引き出された各口出ワイヤの先端を電気ユニット側に設けられた端子部に直接接続する構造を採用する場合、各口出ワイヤの先端と電気ユニット側の端子部との接続を自動組立機により自動的に行うことができるようにしておくことが好ましい。そのためには、各口出ワイヤの引出方向の規定の引出方向からのずれ量を極力少なくして、各口出ワイヤの先端位置の規定位置からのずれ量を許容範囲内に収めることができるようにしておく必要がある。口出ワイヤの先端位置のずれ量が許容範囲を超えていると、モータハウジングの一端側を閉じる端部材に電気ユニットを取り付ける際に、各口出ワイヤの先端と電気ユニット側の端子部との間の位置関係が正規の関係とならない(例えば両者が正しく重なり合わない)ため、各口出ワイヤの先端と、電気ユニット側の端子部との接続を自動組立機等により自動的に行うことができない。
【0011】
特許文献1に示された構造では、各口出ワイヤを引き出すためにモータハウジングの端部材に設けるワイヤ引出孔の内径を口出ワイヤの外径よりも十分に大きくしておいて、各口出ワイヤを端部材に接触させることなく引き出すようにしている。しかしながら、このような引出構造によった場合、各口出ワイヤは拘束されることがないため、各口出ワイヤを常に一定の引出方向に向けた状態で引き出すことは困難である。また口出ワイヤの引出方向が正規の引出方向から大幅にずれると口出ワイヤがワイヤ引出孔の内面に接した状態になるため、モータハウジングの一端を閉じる端部材が金属である場合、口出ワイヤと端部材との間の電気的な絶縁が問題になることがある。
【0012】
そこで、直線的に延びる貫通孔を備えた絶縁樹脂製のワイヤカバーをワイヤ引出孔内に挿入して、このワイヤカバーに設けられた貫通孔を通して口出ワイヤを引き出すことが考えられる。この場合、口出ワイヤの先端位置の規定位置からのずれ量を少なくするためには、ワイヤカバーとして容易に変形しない硬質のものを用いる必要があり、しかもワイヤカバーがワイヤ引出孔内で傾くことがないようにしておく必要がある。
【0013】
ワイヤカバーがワイヤ引出孔内で傾くことがないようにするために、ワイヤカバーをワイヤ引出孔内に圧入した状態にすることが考えられる。しかしながら、硬質の絶縁樹脂からなるワイヤカバーをワイヤ引出孔に圧入しようとすると、ワイヤカバー全体に無理な力が働いてワイヤカバーが破損するのを避けられない。そのため、硬質の絶縁樹脂からなるワイヤカバーを用いる場合、ワイヤカバーとワイヤ引出孔との嵌め合いには余裕を持たせておくことが必要である。しかしながら、ワイヤカバーとワイヤ引出孔との嵌め合いに余裕を持たせておくと、ワイヤ引出孔とワイヤカバーとの間に隙間が生じて、ワイヤ引出孔内でワイヤカバーが傾くのを防ぐことができないため、口出ワイヤの引出方向に高い精度を持たせることが困難である。
【0014】
本発明の目的は、ステータコイルを構成するマグネットワイヤの端末部を口出ワイヤとして、この口出ワイヤをモータハウジングの軸線方向の一端を閉じる端部材を貫通させて外部に直線的に引き出すように構成された電動モータにおいて、口出ワイヤの引出方向に高い精度を持たせて、引き出された口出ワイヤの先端位置のばらつきを少なくすることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、マグネットワイヤにより巻回された多相のステータコイルを有するステータと、永久磁石により界磁が構成されたロータとを備えたモータ本体をモータハウジング内に収納した構造を有する電動モータを対象とする。本発明が対象とする電動モータにおいては、軸線方向の一端が外部に開口し、他端がモータハウジング内に開口したワイヤ引出孔が、その軸線を規定のワイヤ引出方向に向けた状態で、モータハウジングの軸線方向の一端を閉じる金属製の端部材に設けられる。本発明が対象とする電動モータにおいてはまた、多相のステータコイルを構成しているマグネットワイヤの端末部分のうち、外部に引き出す必要がある端末部分が口出ワイヤとされて、この口出ワイヤが、前記ワイヤ引出孔内を通して規定のワイヤ引出方向に沿って直線状に伸びるように成形される。また本発明が対象とする電動モータにおいては、硬質の絶縁樹脂からなっていて直線状に伸びる貫通孔を有するワイヤカバーが、該貫通孔の軸線を規定のワイヤ引出方向に向けた状態でワイヤ引出孔内に挿入され、口出ワイヤは、ワイヤカバーに設けられた貫通孔を通して規定のワイヤ引出方向に引き出される。
【0016】
本願明細書及び図面には、前記の目的を達成するため、少なくとも以下に示す第1の発明ないし第6の発明が開示されている。
<第1の発明>
第1の発明において用いるワイヤカバーは、ワイヤ引出孔の周方向に沿って並ぶことになる複数のクラッシュリブを側面に有して、これら複数のクラッシュリブをクラッシュさせた状態でワイヤ引出孔内に圧入されている。ワイヤカバーはまた、ワイヤ引出孔内でクラッシュリブよりもワイヤ引出孔の軸線方向の他端側に寄った位置に配置される部分にワイヤ引出孔の軸線方向の他端側に向いた部分を有する被受け止め部を備えている。ワイヤ引出孔の内側には、ワイヤ引出孔内に挿入されたワイヤカバーの被受け止め部側に向いた部分を有するワイヤカバー受け止め部が設けられており、このワイヤカバー受け止め部により、ワイヤ引出孔内に挿入されたワイヤカバーの被受け止め部が受け止められている。
【0017】
上記のように、ワイヤカバーの側面にクラッシュリブを設けておくと、ワイヤカバーをワイヤ引出孔内に挿入する際にクラッシュリブの部分に集中的に力を作用させて、各クラッシュリブの部分のみをクラッシュさせた状態で、ワイヤカバーを圧入状態とすることができるため、硬質のワイヤカバーを破損することなく、ワイヤ引出孔内に圧入状態で保持することができる。またワイヤカバーは、その被受け止め部がワイヤ引出孔側のワイヤカバー受け止め部により受け止められた状態でワイヤ引出孔内に圧入されるため、ワイヤカバーの中心軸線とワイヤ引出孔の中心軸線との間に生じるぶれを少なくして、口出ワイヤの引出方向に高い精度を持たせることができ、引き出された口出ワイヤの先端の位置ずれを少なくすることができる。
【0018】
<第2の発明>
本発明は第1の発明に適用されるもので、本発明においては、ワイヤ引出孔の軸線方向の一端の開口部の周方向に沿って並ぶ複数の被加締め部が端部材に設定されていて、該複数の被加締め部がワイヤ引出孔内に挿入されたワイヤカバーに接するように加締められることにより、ワイヤカバーの被受け止め部がワイヤ引出孔の内側に設けられた受け止め部に押し付けられる。
【0019】
このように、ワイヤ引出孔を形成する端部材に、ワイヤ引出孔の軸線方向の一端の開口部の周方向に沿って並ぶ複数の被加締め部を設定しておいて、これらの被加締め部をワイヤ引出孔内に挿入されたワイヤカバーに接するように加締めておくと、ワイヤカバーをワイヤ引出孔内により確実に位置決めすることができるため、口出ワイヤの引出方向に高い精度を持たせることができる。
【0020】
<第3の発明>
本発明は、第2の発明に適用されるもので、本発明においては、ワイヤ引出孔内でその軸線方向の一端寄りに配置されるワイヤカバーの端部に、前記複数の被加締め部にそれぞれ対応する複数の凹部が設けられ、各被加締め部の加締められた部分が対応する凹部内に受け入れられるように構成されている。
【0021】
このように構成しておくと、各加締め部の加締められた部分がワイヤカバーの凹部内にくい込んでワイヤカバーを更に確実に位置決めするため、ワイヤ引出孔内でのワイヤカバーの位置決めを更に確実にすることができる。
【0022】
<第4の発明>
第4の発明は、第1ないし第3の発明のいずれかに適用されるもので、本発明においては、以下の構成がとられる。
(a)ワイヤカバーは、ワイヤ引出孔内に挿入された際に当該ワイヤ引出孔の軸線方向の一端寄り配置される頭部と該頭部よりもワイヤ引出孔の軸線方向の他端側に配置される胴部とを一体に有している。
(b)ワイヤカバーの頭部は、その横断面の輪郭線が胴部の横断面の輪郭線よりも外側に配置されるように拡大された形状を有して、頭部の胴部寄りの端部に被受け止め部が形成されている。
(c)ワイヤ引出孔は、ワイヤカバーの頭部を収容する第1の孔部と、ワイヤカバーの胴部を収容する第2の孔部とを有していて、第1の孔部と第2の孔部との境界部にワイヤカバー受け止め部が形成されている。
(d)複数のクラッシュリブは,ワイヤカバーの頭部の側面から突出した状態で設けられている。
【0023】
上記のように、拡大された頭部の側面にクラッシュリブを設けると、ワイヤカバーのクラッシュリブと貫通孔との間に存在する部分の肉厚を厚くすることができるため、クラッシュリブをクラッシュさせてワイヤカバーをワイヤ引出孔内に圧入する際にワイヤカバーが破損するのを確実に防ぐことができる。またワイヤカバーのクラッシュリブが設けられた部分以外の部分(胴部)の厚みは、口出ワイヤを挿入する貫通孔を設けるために必要最小限の厚みとすることができるため、ワイヤカバーを構成する樹脂材料の節約を図ることができる。
【0024】
<第5の発明>
第5の発明は、第1ないし第4の発明のいずれかに適用されるもので、本発明においては、ワイヤカバーの少なくともクラッシュリブが設けられた部分及びワイヤ引出孔の少なくともワイヤカバーのクラッシュリブが設けられた部分が圧入される部分が、それぞれの軸線方向に沿った各部の横断面の輪郭形状がそれぞれの中心軸線に対してN回対称性(Nは2以上の整数)を有するように形成されている。
【0025】
なお「中心軸線に対してN回対称性を有する」とは、ある図形(この例では、ワイヤカバー及びワイヤ引出孔の各部の横断面の輪郭形状)をその中心軸線を中心に回転させた場合に、図形が360/N回転する毎に元の図形と重なり合う回転対称性、即ち、図形が1回転する間にN回元の図形と重なり合う回転対称性を有していることを意味する。
【0026】
ワイヤカバーの少なくともクラッシュリブが設けられた部分及びワイヤ引出孔の少なくともワイヤカバーのクラッシュリブが設けられた部分が圧入される部分の横断面の輪郭形状にN回対称性を持たせるためには,ワイヤカバーの頭部の本体部分(クラッシュリブを除いた部分)の横断面の輪郭形状にN回対称性を持たせておくだけでなく、複数のクラッシュリブの配列にもN回対称性を持たせておくことが必要である。またワイヤ引出孔の少なくともワイヤカバーのクラッシュリブが設けられた部分が圧入される部分の横断面の輪郭形状を、ワイヤカバーのクラッシュリブが設けられる部分の横断面の輪郭形状と相似な形状にしておく必要がある。
【0027】
上記のように、ワイヤカバーの少なくともクラッシュリブが設けられる部分の横断面の輪郭形状及びワイヤ引出孔の少なくともワイヤカバーのクラッシュリブが設けられる部分の横断面の輪郭形状に回転対称性を持たせておくと、ワイヤカバーをワイヤ引出孔に挿入する際に複数のクラッシュリブに均等な力を作用させて、複数のクラッシュリブを同じようにクラッシュさせることができるため、ワイヤカバーの中心軸線とワイヤ引出孔の中心軸線との間に生じるずれを少なくして、口出ワイヤの引出方向の精度を高めることができる。
【0028】
<第6の発明>
第6の発明は、第1の発明ないし第5の発明の何れかに適用されるもので、本発明においては、モータハウジングの軸線方向の一端を閉じる端部材の外側にステータコイルに駆動電流を流す回路を備えた電気ユニットが取り付けられ、ワイヤカバーの貫通孔を通して外部に引き出された口出ワイヤの先端が、電気ユニットに設けられた端子部に直接接続されている。
【0029】
なお本発明は、モータハウジングから外部に引き出されるすべての口出ワイヤをワイヤカバーを通して引き出す場合に限定されるものではなく、モータハウジングから引き出される多数の口出ワイヤの内の一部の口出ワイヤのみをワイヤカバーを通して引き出し、他の口出ワイヤは他の手段により外部に引き出すようにする場合も本発明の技術的範囲に包含される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、硬質の絶縁樹脂からなるワイヤカバーの側面にクラッシュリブを設けて、クラッシュリブをクラッシュさせた状態でワイヤカバーをワイヤ引出孔内に圧入するとともに、ワイヤカバーの被受け止め部をワイヤ引出孔の内側に設けたワイヤカバー受け止め部により受け止めさせることにより、ワイヤ引出孔内でのワイヤカバーの位置決め精度を高めたため、口出ワイヤの引出方向に高い精度を持たせて、引き出された口出ワイヤの先端位置のばらつきを少なくすることができる。従って、本発明によれば、モータハウジングの一端を閉じる端部材に、モータの駆動や制御等を行う電気ユニットを取り付けて機電一体型の駆動装置を構成する場合に、口出ワイヤと電気ユニットの端子部との接続を自動組立機などを用いて能率よく行うことができ、装置の組み立てを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るモータの外観を示した斜視図である。
図2図2は、図1に示したモータの外観を、図1とは異なる方向から見て示した斜視図である。
図3図3は、図1に示したモータを、モータハウジングの一端側から見た状態を示した正面図である。
図4図4は、図1のモータを、図3のA-A線に沿って断面してその内部構造を示した断面図である。
図5図5は、図1のモータを、図3のH-H線に沿って断面してその内部構造を示した断面図である。
図6図6(A)は、図1に示したモータの一部を図3のB-B線に沿って断面して示した断面図、図6(B)は、図6(A)のC部の詳細図である。
図7図7は、図3のD部の詳細図である。
図8図8は、モータハウジングの一端を閉じる端部材に設定した被加締め部を加締める前の状態でのモータの正面図である。
図9図9(A)は、図1のモータの一部を、図8のE-E線に沿って断面して示した断面図であり、図9(B)は、図9(A)のF部の詳細図である。
図10図10は、図8のG部の詳細図である。
図11図11は、図1の実施形態で用いるワイヤカバーの斜視図である。
図12図12は、図11に示されたワイヤカバーの上面図である。
図13図13は、図11に示されたワイヤカバーの正面図である。
図14図14(A)は、図11に示したワイヤカバーを図12のI-I線に沿って断面して示した断面図、図14(B)は、図11に示したワイヤカバーを図12のJ-J線に沿って断面して示した断面図、図14(C)は、図14(B)のK部の詳細図である。
図15図15は、図12のM部の詳細図である。
図16】本発明の一実施形態で用いる多相のステータコイルの構成の一例を示した回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下図面を参照して、本発明に係る電動モータの一実施形態につき詳細に説明する。
図1ないし図5は、本実施形態に係る電動モータ1の全体的な構成を示したものである。これらの図において、2はモータハウジング、3はモータハウジング2内に収容されたモータ本体(図4図5参照)である。
【0033】
モータハウジング2は、円筒状に形成された筒状部200と、その軸線方向の一端及び他端をそれぞれ閉じる第1の端部材201及び第2の端部材202とにより構成されている。図示の例では、第1の端部材
201が筒状部200に一体に形成され、第2の端部材202は、筒状部200と別体に形成されている。モータハウジング2の各部は、アルミニウム等の金属材料により形成されている。
【0034】
第2の端部材202はほぼカップ状に形成され、その軸線方向の一端側に形成された円筒部202a(図4参照)が、筒状部200の軸線方向の他端200aの内周に嵌合されている。
【0035】
筒状部200の他端200aの外周には、筒状部200の周方向に間隔をあけて並ぶ3つの耳部200bが形成されている。また第2の端部材202の外周には、筒状部200の外周の3つの耳部200cにそれぞれ整合する3つの耳部202cが形成され、筒状部200及び第2の端部材202にそれぞれ設けられた対応する耳部同士がボルト4により締結されることによって、第2の端部材202が筒状部200に結合されている。
【0036】
図4に示されているように、第1の端部材201の中央部及び第2の端部材202の底壁部202dの中央部にそれぞれ中心軸線を共有する第1の軸受保持部201c及び第2の軸受保持部202cが設けられ、これらの軸受保持部に、モータ本体3の回転軸307を支持する第1の軸受6Aび第2の軸受6Bが、それぞれの中心軸線を一致させた状態で保持されている。第1の軸受6A及び第2の軸受6Bは、内輪と外輪との間にボールを保持した周知の球軸受けで、それぞれの外輪を軸受保持部201c及び202cの内側に圧入した状態で設けられている。
【0037】
第2の端部材202の底壁部202dの外側には、本実施形態のモータ1を負荷(図示せず。)に取り付ける際に、負荷側に設けられたインロー凹部に嵌合される円筒状のインロー凸部202eが形成されている。これらインロー凸部及びインロー凹部の嵌合によりモータ1が負荷に対して位置決めされる。
【0038】
インロー凸部202eの内側に回転軸307の他端307bが導出され、この回転軸307の他端に、回転軸307を負荷の入力軸に連結するために用いるカップリング部材310が取り付けられている。
【0039】
図4及び図5に示されているように、モータ本体3は、ステータ303と、ロータ306とを備えている。ステータ303は、内周側に多数の歯部を有する環状のステータコア301と、ステータコア301の歯部にマグネットワイヤを巻回することにより構成された多相のステータコイル302とを有して、中心軸線をモータハウジング2の中心軸線に一致させた状態でモータハウジング2の内周(筒状部200の内周)に保持されている。
【0040】
ロータ306は、ロータコア304と、多極の界磁を構成するためにロータコア304の外周に取り付けられた永久磁石305と、ロータコア304の軸心部を貫通した状態で設けられた回転軸307とを備えている。ロータ306は、ステータ303の内側に該ステータと中心軸線を共有した状態で配置され、回転軸307は、第1の軸受6A及び第2の軸受6Bの内輪に嵌合されることにより、モータハウジング2に対して回転自在に支持されている。
【0041】
図示の例では、モータの特性の改善(例えばトルクリップルの低減)を図るために、磁石界磁の位相をずらした状態で軸線方向に並べて配置された2つの分割ロータ306A及び306Bによりロータ306が構成されているが、本発明は、このようなロータを用いる場合に限定されるものではない。
【0042】
本実施形態の電動モータ1は、ロータ306の回転角度位置に応じてステータコイルの励磁を制御することによりロータ306を回転させるブラシレスDCモータであるが、本発明はモータの形式の如何に関わりなく実施することができる。
【0043】
本実施形態では、図16に示すように、ステータコイル302が2系統のコイルA1及びA2からなっている。第1系統のコイルA1は、U相ないしW相の3相コイルLu1~Lw1からなり、第2系統のコイルA2は、U相ないしW相の3相コイルLu2~Lw2からなっている。
【0044】
本実施形態では、第1系統のコイルの3相コイルLu1~Lw1をそれぞれ構成しているマグネットワイヤの一端側の端末部及び他端側の端末部がそれぞれ、非中性点側の口出ワイヤu1ないしw1及び中性点側の口出ワイヤu1nないしw1nとして外部に引き出され、中性点側の口出ワイヤu1nないしw1nがモータの外部で相互に電気的に接続されることにより、3相コイルLu1~Lw1がスター結線される。
【0045】
同様に、第2系統のコイルの3相コイルLu2~Lw2をそれぞれ構成しているマグネットワイヤの一端側の端末部及び他端側の端末部がそれぞれ、非中性点側の口出ワイヤu2ないしw2及び中性点側の口出ワイヤu2nないしw2nとして外部に引き出され、中性点側の口出ワイヤu2nないしw2nがモータの外部で相互に電気的に接続されることにより、3相コイルLu2~Lw2がスター結線される。
【0046】
上記のように、本実施形態では、6本の非中性点側口出ワイヤu1,v1,w1,u2,v2,w2と、6本の中性点側口出ワイヤu1n,v1n,w1n,u2n,v2n,w2nとが外部に引き出される。これらの口出ワイヤを引き出すため、モータハウジングの軸線方向の一端を閉じる端部材201に、一端が外部に開口し、他端がモータハウジング内に開口した第1ないし第3のワイヤ引出孔7a、7b及び7cが設けられている。
【0047】
各ワイヤ引出孔は、その中心軸線を規定のワイヤ引き出し方向に向け、かつその軸線方向に沿った各部の横断面(中心軸線と直交する平面に沿う断面)に所定の本数の口出ワイヤを引き出すために必要な面積を持たせるように形成されている。各ワイヤ引出孔はまた、その軸線方向に沿った各部における横断面の断面積が、後記するワイヤカバーを各ワイヤ引出孔内に挿入して保持させるために適当な大きさを有するように形成される。
【0048】
本実施形態では、各ワイヤ引出孔の横断面の輪郭形状が、一方向に沿って互いに平行に延びる一対の長辺部と、これらの長辺部の一端及び他端の隣り合う端部同士の間を結ぶ一対のアーチ形の短辺部とを有する長孔の形状を呈するように形成され、各ワイヤ引出孔の長辺部の長さは、各ワイヤ引出孔を通して引き出される口出ワイヤに数に応じて適宜に設定されている。
【0049】
第1のワイヤ引出孔7aは、図3に示したように、モータハウジング2の軸線方向の一端を閉じる端部材201を正面から見た場合に、回転軸の上方にその長手方向を横方向に向けた状態で設けられ、第2のワイヤ引出孔7b及び第3のワイヤ引出孔7cは、回転軸の左右にそれぞれの長手方向を上下方向に向けた状態で設けられている。
【0050】
モータハウジング2から外部に引き出される口出ワイヤは、モータハウジング2の軸線方向の一端側で、規定の引出方向に沿って直線的に伸びるように成形されて、所定のワイヤ引出孔を通して外部に引き出される。本実施形態では、各ワイヤ引出孔が長孔の形状を呈しているため、各ワイヤ引出孔を通して引き出される一連の口出ワイヤは、各ワイヤ引出孔の長手方向に沿って一列に並ぶように配置されている。
【0051】
本実施形態では、6本の中性点側の口出ワイヤu1n,v1n,w1n,u2n,v2n,w2nが、第1のワイヤ引出孔7aを通して引き出される。これらの口出ワイヤを規定の引出方向に向け、かつ端部材201に対して電気的に絶縁するため、第1のワイヤ引出孔7a内に硬質の絶縁樹脂からなる第1のワイヤカバー8aが挿入され、第1のワイヤカバー8aを軸線方向に貫通した6個の貫通孔を通して口出ワイヤu1n,v1n,w1n,u2n,v2n,w2nが外部に引き出されている。
【0052】
また第1系統のコイルA1から引き出された3本の非中性点側の口出ワイヤu1,v1 及びw1 は、第2のワイヤ引出孔7bの長手方向に沿って並ぶように整列させられて、第2のワイヤ引出孔7b内に挿入された第2のワイヤカバー8bに設けられた貫通孔を通して規定の引出方向に引き出される。第2系統のコイルA2から引き出された3本の非中性点側の口出ワイヤu2,v2 及びw2 は、第3のワイヤ引出孔7cの長手方向に並ぶように整列させられて、第3のワイヤ引出孔7c内に挿入された第3のワイヤカバー8cに設けられた貫通孔を通して規定の引出方向に引き出される。
【0053】
第1のワイヤカバー8a乃至第3のワイヤカバー8cの内、3本の口出ワイヤを引き出す第2のワイヤカバー8b及び第3のワイヤカバー8cは全く同一に構成されている。第1のワイヤカバー8aは、6本の口出ワイヤを引き出すため、その横断面の長手方向寸法が、3本の口出ワイヤを引き出すだけの第2のワイヤカバー8b及び第3のワイヤカバー8cの横断面の長手方向寸法よりも短く設定されているが、その基本構成は第2のワイヤカバー8b及び第3のワイヤカバー8cと同様である。従って、以下、第2のワイヤカバー8b及び第3のワイヤカバー8cとして用いるワイヤカバーを例にとって、本実施形態で用いるワイヤカバーの構成について説明する。
【0054】
図11ないし図14を参照すると、本実施形態で用いるワイヤカバー8b,8cの構造が詳細に示されている。図14(A),(B)に示されているように、ワイヤカバー8b,8cは、対応するワイヤ引出孔内に挿入されたときにワイヤ引出孔の軸線方向の一端寄り(ワイヤ引出孔の外部への開口端側)に配置される頭部801と、頭部801よりもワイヤ引出孔の軸線方向の他端側(ワイヤ引出孔のモータハウジング側の開口端側)に配置される胴部802とを一体に有している。
【0055】
図12に示されているように、ワイヤカバーの頭部801は、その横断面の輪郭線が、口出ワイヤが並ぶ方向に沿って互いに平行に延びる1対の長辺部分C1,C2(図12参照)と、これらの長辺部分の両端の隣り合う端部間を結ぶ1対のアーチ形の短辺部分C3,C4とを有する細長い形状を呈するように形成され、胴部802はその横断面の輪郭線が、頭部801の横断面の輪郭線とほぼ相似な形状を呈するように形成されている。
【0056】
またワイヤカバーの頭部801は、その横断面の輪郭線が胴部802の横断面の輪郭線よりも外側に配置されるように拡大された形状を有していて、頭部801の胴部802寄りの端部(胴部802の側面よりも外側に張り出した部分)が、対応するワイヤ引出孔の内側に設けられたワイヤカバー受け止め部により受け止められる被受け止め部803となっている。
【0057】
ワイヤカバー8b、8cにはまた、ワイヤ引出孔内に挿入された際に、ワイヤ引出孔の軸線方向に沿って直線的に伸びる貫通孔800が、それぞれのワイヤカバーを通して引き出す口出ワイヤの数だけ(図示の例では3本)設けられている。
【0058】
ワイヤカバーの頭部801の側面には、該側面から突出した複数のクラッシュリブ804,804,…が、対応するワイヤ引出孔の周方向に沿って並べられた状態で設けられている。図11ないし図13に示された例では、頭部801の幅方向(長手方向に対して直角な方向)に相対する側面のそれぞれに2個のクラッシュリブ804が設けられると共に、頭部801の長手方向の両端の側面にクラッシュリブ804が1つずつ設けられている。
【0059】
ワイヤカバーはまた、ワイヤ引出孔内でワイヤ引出孔の軸線方向の一端寄りに配置される端部に、複数の凹部を持つように構成される。本実施形態では、ワイヤカバーの頭部801の外端面に、複数の凹部805が形成されている。図示の例では、頭部801の一対の長辺部C1,C2のそれぞれに沿って、凹部805が2個ずつ形成されている。これらの凹部は、ワイヤカバーを対応するワイヤ引出孔内に挿入した後、ワイヤカバーを押さえつけてワイヤ引出孔内に拘束するために、ワイヤ引出孔の開口端に設定された被加締め部を加締めた際に流動する金属を受け入れるために設けられている。
【0060】
各ワイヤカバーが挿入されるワイヤ引出孔は、少なくともその外部への開口部寄りの部分(頭部801を収容する部分)が、ワイヤカバーの頭部801の横断面の輪郭形状と相似な輪郭形状を持つと共に、頭部801のクラッシュリブを除いた本体部分を必要最小限の余裕をもって受け入れることができる大きさを持つように設けられる。
【0061】
本実施形態では、図6に示されているように、ワイヤ引出孔7bが、ワイヤカバー8bの頭部801を収容する第1の孔部701と、ワイヤカバーの胴部802を収容する第2の孔部702とからなっている。第1の孔部701は、ワイヤカバーの頭部801の横断面の輪郭形状と相似な輪郭形状を持つと共に、ワイヤカバーの頭部801のクラッシュリブを除いた本体部分を、僅かな余裕をもって受け入れることができる大きさを有している。第2の孔部702は、ワイヤカバーの胴部802を余裕をもって受け入れることができる大きさを有しているが、その第1の孔部701側の端部は、第1の孔部701の横断面の断面積よりも小さい断面積を持つように形成されている。図6(A)に見られるように、第2の孔部702の内面には、第1の孔部701から離れるに従って、該第2の孔部702の断面積を大きくしていく向きのテーパが付けられている。第1の孔部701と第2の孔部702との間の境界部(第1の孔部701の第2の孔部702側の端部)には、ワイヤ引出孔内に挿入されたワイヤカバーの被受け止め部803側に向いた部分(口出ワイヤの引出方向に向いた部分)を有するワイヤカバー受け止め部703が形成されている。他のワイヤ引出孔も同様に構成されている。
【0062】
ワイヤカバー8b,8cの頭部801の側面に設けられた各クラッシュリブ804は、各ワイヤカバーが対応するワイヤ引出孔内に挿入されたときに、ワイヤカバーの頭部全体にその破壊を招くような無理な力が作用する前にクラッシュするように、ワイヤカバーの頭部の側面からの突出高さと、それぞれの断面積とが設定されている。従って、ワイヤカバーは、各クラッシュリブ804がクラッシュすることにより、破壊することなく対応するワイヤ引出孔内に圧入される。
【0063】
各ワイヤカバーはまた、その被受け止め部803が対応するワイヤ引出孔の内側に設けられたワイヤカバー受け止め部703に突き当たって、被受け止め部803が受け止め部703により受け止められた状態になるまで、ワイヤ引出孔内に挿入される。
【0064】
本実施形態のように、ワイヤカバーの側面にクラッシュリブ804を設けておくと、ワイヤカバーをワイヤ引出孔内に挿入する際にクラッシュリブ804の部分に集中的に力を作用させて、各クラッシュリブの部分のみをクラッシュさせた状態で、ワイヤカバーを圧入状態とすることができるため、硬質の絶縁樹脂からなるワイヤカバーを破損することなく、ワイヤ引出孔内に圧入状態で保持することができる。またワイヤカバーは、その被受け止め部803がワイヤ引出孔側のワイヤカバー受け止め部703に突き当てられた状態でワイヤ引出孔内に圧入されるため、ワイヤ引出孔内でワイヤカバーが傾くのを防ぐことができる。またワイヤカバーは硬質の絶縁樹脂からなっていて容易に変形しないため、各口出ワイヤの引出方向に高い精度を持たせることができる。
【0065】
ワイヤカバーの頭部とワイヤ引出孔の第1の孔部との嵌め合いの余裕度が大きすぎ、クラッシュリブの突出高さが高すぎると、クラッシュリブをクラッシュさせてワイヤカバーをワイヤ引出孔内に圧入した際にワイヤ引出孔内でワイヤカバーに無視できない傾きが生じるおそれがある。従って、ワイヤカバーの頭部とワイヤ引出孔の第1の孔部との嵌め合いの余裕度及びクラッシュリブの突出高さは、必要最小限の大きさに設定しておくことが好ましい。
【0066】
本実施形態においては、各ワイヤカバーを、そのクラッシュリブ804の部分をクラッシュさせて対応するワイヤ引出孔内に圧入して、ワイヤカバーの被受け止め部803がワイヤ引出孔内のワイヤカバー受け止め部703により受け止められた状態にしたときに、ワイヤカバーの中心軸線とワイヤ引出孔の中心軸線との間に生じるずれが許容範囲に収まるように、ワイヤカバーの頭部801のクラッシュリブ804を除いた本体部分とワイヤ引出孔の第1の孔部701との嵌め合いの余裕度と、クラッシュリブ804の頭部801の側面からの突出高さとが設定されている。ワイヤカバーの頭部801の側面からの各クラッシュリブ804の突出高さは、ワイヤカバーの寸法公差を考慮して適宜の大きさに設定する。
【0067】
ワイヤ引出孔内でのワイヤカバーの位置決め及び固定をより確実なものとするため、本実施形態では、ワイヤ引出孔の軸線方向の一端の開口部の周方向に沿って並ぶ複数の被加締め部9(図3参照)が端部材201に設定されていて、該複数の被加締め部9がワイヤ引出孔内に挿入されたワイヤカバーに接するように加締められることにより、ワイヤカバーの被受け止め部803がワイヤ引出孔の内側に設けられた受け止め部703に押し付けられた状態で、ワイヤカバーが対応するワイヤ引出孔内に拘束されている。被加締め部9の加締めは、図6(B)に示されているように、被加締め部に加締めピン10を押し当てることにより行われる。加締めピン10を押し当てることにより、各被加締め部に凹部11が形成され、凹部11が形成された部分を構成していた金属901が、ワイヤカバーの頭部801側に流動して、頭部801の端面に形成された凹部805内に受け入れられる。
【0068】
各ワイヤカバーを対応するワイヤ引出孔内に圧入した状態で、ワイヤカバーの中心軸線とワイヤ引出孔の中心軸線との間に生じるずれを極力少なくするためには、ワイヤカバーを対応するワイヤ引出孔内に圧入する際に、ワイヤカバーの頭部に形成された複数のフラッシュリブに均等に力が作用するようにしておくことが望ましい。そのため、ワイヤカバーの少なくともクラッシュリブが設けられる部分及びワイヤ引出孔の少なくともワイヤカバーのクラッシュリブが設けられた部分が圧入される部分は、それぞれの軸線方向に沿った各部の横断面の輪郭形状がそれぞれの中心軸線に対してN回対称性(Nは2以上の整数)を有するように形成されていることが好ましい。
【0069】
本実施形態では、ワイヤカバーの頭部801及びワイヤ引出孔の第1の孔部701のそれぞれの横断面の輪郭形状がそれぞれの中心軸線に対して2回対称性を有するように、各ワイヤカバー及び各ワイヤカバーを挿入するワイヤ引出孔が形成されている。即ち、ワイヤカバー8b,8c及びワイヤ引出孔7b,7cをそれぞれの中心軸線を中心にして回転させたときに、少なくともワイヤカバーの頭部801の横断面の輪郭形状、及びワイヤ引出孔の第1の孔部701の横断面の輪郭形状が(360/2)度回転する毎に元の形状と重なり合うような回転対称性を持つように、各ワイヤカバーと各ワイヤカバーを挿入するワイヤ引出孔とが形成されている。
【0070】
またクラッシュリブ804をクラッシュさせてワイヤカバーを対応するワイヤ引出孔内に圧入した後、ワイヤ引出孔の開口部周縁に設定された端部材201の被加締め部9を加締める際に、ワイヤカバーの各部にほぼ均等に力が加わるようにするため、複数設定される被加締め部9の配列及びワイヤカバーの頭部に設ける複数の凹部805の配列にも回転対称性を持たせておくことが望ましい。
【0071】
各口出ワイヤをワイヤカバーに設けられた貫通孔800を通すことにより、各口出ワイヤの引出方向に高い精度を持たせるためには、ワイヤカバーの貫通孔800に十分な長さを持たせておくことが必要であり、各ワイヤカバーの軸線方向寸法は、必要な長さの貫通孔800を設けるために十分な大きさに設定しておくことが必要である。また端部材201に設けるワイヤ引出孔の軸線方向長さ(深さ)は、ワイヤカバーの少なくとも頭部を収容し得る大きさ以上に設定しておく必要がある。端部材201を鋳造品とする場合には、端部材201に、このワイヤ引出孔を設けるために必要な厚みを持たせておく必要がある。
【0072】
またモータハウジングをプレス加工により製造する場合には、その一端を閉じる端部材の所定の部分に、ワイヤ引出孔を内側に有する筒状部を成形しておく。
【0073】
以上、3本の口出ワイヤを引き出すワイヤカバー8b,8cの構成について説明したが、6本の口出ワイヤを引き出すワイヤカバー8aは、その長手方向寸法がワイヤカバー8b,8cの長手方向寸法よりも長く設定されて、口出ワイヤを通すための貫通孔800が6個設けられている点、及び頭部801の側面にクラッシュリブ804が3個設けられている点を除き、ワイヤカバー8b,8cと同様に構成されている。
【0074】
本実施例に係るモータは、図4に示したように、そのモータハウジング2の第1の端部材201の外側に、ステータコイルに駆動電流を流す回路等を備えた適宜の電気ユニット20を取り付けて、各ワイヤカバーの貫通孔を通して外部に引き出された口出ワイヤの先端を電気ユニット20側に設けられた端子部に接続することにより、機電一体形の駆動装置を構成した形で使用される。
【0075】
図示の例では、ワイヤカバー8aの貫通孔を通して外部に引き出した6本の口出ワイヤu1n,v1n,w1n,u2n,v2n,w2nの先端が電気ユニット20内に設けられた回路基板21の端子部t1~t6に直接接続され、ワイヤカバー8bの貫通孔800を通して引き出した3本の口出ワイヤu1,v1, w1 の先端は、回路基板21に設けられた端子部tu,tv,twに直接接続されている。また図示してないが、ワイヤカバー8cの貫通孔を通して引き出された口出ワイヤu2,v2,w2 も回路基板21に設けられた所定の端子部に直接接続されている。
【0076】
6本の口出ワイヤu1n,v1n,w1n,u2n,v2n,w2nは、回路基板21に設けられた導電パターンにより相互に接続されて中性点とされる。また口出ワイヤu1,v1, w1及びu2,v2,w2 は電気ユニット20内の回路基板21に実装された電子部品により構成された駆動回路の出力端子に回路基板上の配線パターンを介して接続される。
【0077】
本実施形態によれば、モータハウジング2から外部に引き出される各口出ワイヤの引出方向の精度を高めることができるため、各口出ワイヤの先端の位置の規定位置(電気ユニット側の端子部に接続するために適した位置)からのズレを許容範囲内に収めることができる。従って、各口出ワイヤの先端と電気ユニット側の端子部との接続を自動組立機を用いて自動的に行うことを可能にすることができ、装置の組み立て作業を効率よく行わせることができる。各口出ワイヤの先端と電気ユニット側の端子部との接続は半田付けや溶接(例えばTIG溶接)等により行う。
【0078】
上記の実施形態では、各ワイヤ引出孔から引き出される複数の口出ワイヤが、一列に並べた状態で配置されているため、ワイヤカバーの横断面の形状を、引き出される口出ワイヤが並ぶ方向に長く伸びる形状としたが、ワイヤカバーの横断面の輪郭形状は、円形や正多角形等の他の適宜の形状であってもよい。ワイヤカバーの横断面の輪郭形状を円形や正多角形とする場合には、ワイヤカバーの横断面の輪郭形状に3回対称性以上の回転対称性を持たせることができる。
【0079】
上記の実施形態では、筒状部200の軸線方向の一端を閉じる端部材201が筒状部200に一体に設けられ、筒状部200の軸線方向の他端を閉じる端部材202が筒状部200と別体に設けられる形式のモータハウジング2を用いる場合を例にとったが、筒状部200が軸線方向の途中で2つのハウジング半分に2分割される形式のモータハウジングや、筒状部200の軸線方向の一端側を閉じる端部材201及び他端側を閉じる端部材202の双方が筒状部200と別体に設けられるモータハウジングなど、他の形式のモータハウジングが用いられる場合にも本発明を適用することができる。
【0080】
上記の実施形態では、ワイヤカバーの頭部を胴部よりも拡大された形状としたが、クラッシュリブを除いたワイヤカバーの本体部分全体の横断面にほぼ等しい面積を持たせて、ワイヤカバーの本体部分をストレートな形状とすることもできる。この場合には、ワイヤカバーの各部のうち、クラッシュリブ804が設けられる部分をワイヤカバーの頭部と呼び、該頭部以外の部分をワイヤカバーの胴部と呼ぶ。
【0081】
クラッシュリブを除いたワイヤカバーの本体部分全体をストレートな形状とする場合には、ワイヤカバーの胴部の頭部と反対側の端部をワイヤカバーの被受け止め部とし、この被受け止め部に接する部分を有するワイヤカバー受け止め部をワイヤ引出孔の深部に設けておく。
【符号の説明】
【0082】
1 電動モータ
2 モータハウジング
200 筒状部
201 第1の端部材
201c 第1の軸受保持部
202 第2の端部材
202c 第2の軸受保持部
3 モータ本体
301 ステータコア
302 ステータコイル
304 ロータコア
305 永久磁石
306 ロータ
307 回転軸
4 ボルト
6A 第1の軸受
6B 第2の軸受
7a~7c ワイヤ引出孔
701 第1の孔部
702 第2の孔部
703 ワイヤカバー受け止め部
8a~8c ワイヤカバー
800 貫通孔
801 ワイヤカバーの頭部
802 ワイヤカバーの胴部
803 ワイヤカバーの被受け止め部
804 ワイヤカバーに設けられたクラッシュリブ
805 ワイヤカバーに設けらた凹部
9 被加締め部
10 加締めピン
u1n,v1n,w1n,u2n,v2n,w2n 中性点側の口出ワイヤ
u1,v1,w1,u2,v2,w2 非中性点側の口出ワイヤ
20 電気ユニット
21 回路基板
t1~t6、tu~tw 口出ワイヤの先端が接続される端子部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16