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特許7199656注意欠如・多動症又は注意欠如・多動性障害の評価方法及び評価を補助するための方法、並びに注意欠如・多動症又は注意欠如・多動性障害を評価するためのデータ取得方法
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  • 特許-注意欠如・多動症又は注意欠如・多動性障害の評価方法及び評価を補助するための方法、並びに注意欠如・多動症又は注意欠如・多動性障害を評価するためのデータ取得方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】注意欠如・多動症又は注意欠如・多動性障害の評価方法及び評価を補助するための方法、並びに注意欠如・多動症又は注意欠如・多動性障害を評価するためのデータ取得方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20221226BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20221226BHJP
【FI】
G01N33/68
C12Q1/68
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018229821
(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公開番号】P2020091242
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】山口 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】鷲塚 伸介
(72)【発明者】
【氏名】篠山 大明
(72)【発明者】
【氏名】関根 崇泰
(72)【発明者】
【氏名】津久井 秀
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-518528(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0156826(US,A1)
【文献】特開2013-199478(JP,A)
【文献】国際公開第2010/119769(WO,A1)
【文献】ALLRED, E. N. et al.,Systemic Inflammation during the First Postntal Month and the Risk of Attention Deficit Hyperactivity Disorder Characteristics among 10 year-old Children Born Extremely Preterm,J Neuroimmune Pharmacol,2017年,Vol.12,pp.531-543
【文献】LEFFA, D. T. et al.,Increased Oxidative Parameters and Decreased Cytokine Levels in an Animal Model of Attention-Deficit/hyperactivity Disorder,Neurochemical Research,2017年06月29日,Vol.42,pp.3084-3092
【文献】OADES, R. D. et al.,Attention-deficit hyperactivity disorder(ADHD) and glial integrity: an exploration of associations of cytokines and kynurenine metabolites with symptoms and attention,BEHAVIORAL AND BRAIN FUNCTIONS,2010年,Vol.6, No.32,pp.1-19
【文献】COROMINAS-ROSO, M. et al.,IL-6 and TNF-α in ummmedicated adults with ADHD: Relationship to cortisol awakening response,Psychoneuroendocrinology,2017年,Vol.79,pp.67-73
【文献】SEGMAN, R. H. et al.,Preferential transmission of interleukin-1 receptor antagonist alleles in attention deficit hyperactivity disorder,Molecular Psychatry,2002年,Vol.7,pp.72-74
【文献】篠山大明,実用的な診断および薬物治療反応性評価を可能とするADHDの新規バイオマーカー探索,科学研究費助成事業 研究成果報告書,2017年06月13日,[online],[令和4年5月26日検索]、インターネット<URL:https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-15K19719/15K19719seika.pdf>
【文献】SASAYAMA, D. et al.,Cortisol and cytokine/chemokine profiles associated with behavioral difficulties in children,CINP 2018 VIENNA WORLD CONGRESS Poster Abstract Book,2018年06月,pp.32-33,[online],[令和4年5月26日検索],インターネット <URL:https://northernnetworking.co.uk/images/cinp_logos/2018PosterAbstractBook.pdf>
【文献】SASAYAMA, D. et al.,Negative Correlation between serum Cytokine Levels and Cognitive abilities in Children with Autism Spectrum Disorder,Journal of Intelligence,2017年,Vol.5, No.19,pp.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を指標として、注意欠如・多動症(ADHD)に罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価する評価工程を含み、
前記評価工程が、前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量と、基準値とを比較する処理を含み、
前記基準値が、健常個体由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値及びADHD患者由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値の少なくともいずれかであり、
前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量が、前記健常個体由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値より少ない場合、及び前記ADHD患者由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値と同量以下の場合の少なくともいずれかの場合に、前記評価対象が、ADHDに罹患している又は発症する可能性を有すると評価する工程であり、
前記サイトカインが、IL-1ra、IL-1β、IL-7、IL-8、IL-12 p70、G-CSF、IFN-γ、及びVEGFからなる群から選択される1種以上のサイトカインであり、
前記評価対象由来の試料が、唾液であることを特徴とする、評価対象がADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価する方法。
【請求項2】
評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を指標として、注意欠如・多動症(ADHD)に罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価する評価工程を含み、
前記評価工程が、前記サイトカインの量のデータに基づいてADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価することが可能な評価式に前記サイトカインの量のデータを代入することを含み、前記評価式には、前記サイトカインの量のデータが代入される少なくとも1つの変数が含まれており、前記評価式から得られた値を一般的な人の値と比較をして、前記評価対象が、ADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価する工程であり、
前記サイトカインが、IL-1ra、IL-1β、IL-7、IL-8、IL-12 p70、G-CSF、IFN-γ、及びVEGFからなる群から選択される1種以上のサイトカインであり、
前記評価対象由来の試料が、唾液であることを特徴とする、評価対象がADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価する方法。
【請求項3】
前記方法が、評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する測定工程を更に含む、請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記サイトカインが、IL-1ra及びVEGFである請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する測定工程を含み、
前記サイトカインが、IL-1ra、IL-1β、IL-7、IL-8、IL-12 p70、G-CSF、IFN-γ、及びVEGFからなる群から選択される1種以上のサイトカインであり、
前記評価対象由来の試料が、唾液であることを特徴とする、評価対象がADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価するためのデータを取得する方法。
【請求項6】
前記サイトカインが、IL-1ra及びVEGFである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を、前記評価対象が注意欠如・多動症(ADHD)に罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かに関する医師による評価を補助するための指標として提供する工程を含み、
前記サイトカインが、IL-1ra、IL-1β、IL-7、IL-8、IL-12 p70、G-CSF、IFN-γ、及びVEGFからなる群から選択される1種以上のサイトカインであり、
前記評価対象由来の試料が、唾液であることを特徴とする、評価対象がADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かの評価を補助するための方法。
【請求項8】
前記方法が、評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する測定工程を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記サイトカインが、IL-1ra及びVEGFである請求項7から8のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価対象が注意欠如・多動症(Attention Deficit-Hyperactivity Disorder:ADHD)に罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価する方法、及び評価対象がADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価するためのデータを取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
注意欠如・多動症(注意欠如・多動症障害ともいう。以下、「ADHD」と称することもある。)は、衝動性、過活動性又は不注意などの症状を特徴とし、小児期及びその後の人生において有意な障害を引き起こし得る神経発達障害である。過活動性はADHDを有する小児によく見られるが、成人期には消失する傾向があるものの、ADHDを有する小児の過半数は生涯にわたって、ある程度の不注意症状を有し続ける。
【0003】
ADHDは遺伝的要因が76%とされるが、分離が洗練されておらず家庭という環境要因が含まれてしまっているため、遺伝的要因をもって容易に診断することはできない。
【0004】
ADHDは、7歳以前(DSM-Vを用いるなら12歳以前)から発症し、少なくとも6か月以上継続しており、通常生活に支障があるときに診断されている。診断は、一般的に多くの精神障害と同様に問診等で行われる。診断を補助するための評価尺度としてDSM-Vがある。なお、DSM-Vでは、MRIや血液検査等の生物学的データは診断項目としていない。そのため、誤診も多く、客観的な指標が必要とされている。
【0005】
これまでに、問診以外の方法として、ディスプレイを用いて評価する方法(例えば、特許文献1参照)、一塩基多型をマーカーとして利用する方法(例えば、特許文献2参照)、Pmch遺伝子をマーカーとして利用する方法(例えば、特許文献3参照)、抹消皮膚温度を測定し、ADHDを示す値を測定する方法(例えば、特許文献4参照)など、様々な方法が提案されている。
しかしながら、臨床実施が可能な技術は未だ提供されていないという問題がある。
【0006】
また、現在までのところ、ADHDの根治法はなく、行動療法と薬物療法との組合せにより症状を管理することが行われている。薬物療法では、中枢神経刺激薬の投薬が広く使用されている。
しかしながら、薬物療法には有害作用の危険も伴うため、不要な投与は避け必要最低限の使用にとどめることが理想的である。
そのため、不要な投薬の回避という点からも、ADHDに罹患しているか否かを正確に診断することは非常に重要である。
【0007】
したがって、ADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを高い精度で評価することができる新たな技術の速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2018-503410号公報
【文献】特開2013-66454号公報
【文献】特開2010-4848号公報
【文献】特開2003-33355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、ADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを高い精度で評価することができる評価方法、及びADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを高い精度で評価するためのデータを取得する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、ADHDの患者由来の試料中の特定のサイトカインの量が、健常者由来の試料中の前記サイトカインの量と比べて有意に異なることを知見した。
【0011】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を指標として、注意欠如・多動症(ADHD)に罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価する評価工程を含むことを特徴とする、評価対象がADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価する方法である。
<2> 評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する測定工程を含むことを特徴とする、評価対象がADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価するためのデータを取得する方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、ADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを高い精度で評価することができる評価方法、及びADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを高い精度で評価するためのデータを取得する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1で採取した健常者群及びADHD患者群の唾液中において、有意差があったサイトカインの濃度平均値を示すグラフである。なお、実線は健常者群から採取した唾液に含まれるサイトカイン濃度を、破線はADHD患者群から採取した唾液に含まれるサイトカイン濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(ADHDの評価方法)
本発明の評価対象が注意欠如・多動症(ADHD)に罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価する方法(以下、「ADHDの評価方法」と称することがある。)は、評価工程を少なくとも含み、必要に応じて更に、測定工程等のその他の工程を含む。
【0015】
ADHDは、衝動性、過活動性又は不注意などの症状を特徴とし、小児期及びその後の人生において有意な障害を引き起こし得る神経発達障害である。
【0016】
<評価工程>
前記ADHDの評価方法における評価工程は、評価対象由来の試料におけるサイトカインの量(以下、「濃度」と称することもある。)を指標として、前記評価対象が、ADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価する工程である。
本発明において、前記ADHDに罹患しているか否かには、ADHDの症状の程度も含まれる。
【0017】
前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量は、後述する測定工程で測定されたものであってもよいし、別途測定されたものであってもよい。
前記サイトカインの量のデータの単位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、モル濃度、重量濃度、これらの濃度に任意の定数を加減乗除することで得られるものなどが挙げられる。
【0018】
-評価対象-
前記評価対象としては、ADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かの評価が求められる対象であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記評価対象の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ヒトであってもよいし、ヒト以外の動物であってもよい。
前記評価対象の性別としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、男であってもよいし、女であってもよい。
前記評価対象の年齢としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、前記評価対象がヒトの場合、成人前であってもよいし、成人後であってもよいが、20歳以下が好ましく、15歳以下がより好ましく、5歳以上15歳以下が特に好ましい。
【0019】
-評価対象由来の試料-
前記評価対象由来の試料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、血液、血清、脳脊髄液、唾液、咽頭ぬぐい液、汗、尿、涙、リンパ液、精液、腹水、母乳などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、血液、唾液が好ましく、非侵襲的に得ることができる点で、唾液がより好ましい。
【0020】
前記試料の調製方法(以下、「採取方法」と称することもある。)としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
例えば、前記試料が血液の場合は、例えば、通常のシリンジを用いて採血する方法などが挙げられる。
また、前記試料が、唾液の場合は、例えば、唾液を直接採取する方法、サリベットや市販の採取用器具を用いる方法などが挙げられる。
【0021】
前記評価対象由来の試料の採取時期(以下、「採取時間帯」と称することもある。)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後述する評価工程において比較する対象から試料を採取した時期と同程度の時期とすることが好ましい。特に、前記試料が唾液の場合には、唾液中に含まれるサイトカインの量の日内変動が大きいことがあるため、一日のうち一定の時間帯に行うことが好ましい。
【0022】
前記評価対象由来の試料は、必要に応じて、希釈などの処理が施されてもよい。
【0023】
-サイトカイン-
前記サイトカインとは、細胞シグナリングにおいて重要な役割を果たす、比較的小型のタンパク質(およそ5~20kDa)の総称である。
前記評価工程に用いるサイトカインとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、インターロイキン;リンフォカイン;RANTES(regulated on activation、normal T cell expressed and secreted)等のケモカイン;インターフェロン;コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、エリスロポエチン(EPO)等の造血因子;上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、肝細胞成長因子(HGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)等の細胞増殖因子;腫瘍壊死因子(TNF-α)、リンフォトキシン(TNF-β)等の細胞障害因子;レプチン、TNF-α等のアディポカイン;神経成長因子(NGF)等の神経栄養因子などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記サイトカインの中でも、より評価の精度を高めることができる点で、インターロイキン-1受容体アンタゴニストタンパク質(IL-1ra)、インターロイキン-1β(IL-1β)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-12 p70(IL-12 p70)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、及び血管内皮増殖因子(VEGF)からなる群から選択される1種以上が好ましく、前記群から選択される2種以上がより好ましく、IL-1ra及びVEGFの2種が特に好ましい。
【0025】
-評価-
前記評価の方法としては、評価対象が、ADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0026】
前記評価の方法としては、例えば、前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量と、基準値とを比較する処理を含む方法が挙げられる。
【0027】
前記基準値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(I)健常個体由来の試料におけるサイトカインの量(以下、「正常値」と称することがある。)に基づく値、(II)ADHD患者由来の試料におけるサイトカインの量(以下、「疾患値」と称することがある。)に基づく値などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ADHD患者は、典型的なADHD患者であってもよいし、軽度、中度、又は重度のADHD患者であってもよい。
【0028】
前記(I)正常値に基づく値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スクリーニング検査のように、疾患群を見逃さないことを最優先とする場合には、特異度よりも感度を優先し、前記正常値を参考に、閾値(以下、「カットオフ値」と称することがある。)を前記正常値又は前記正常値に近い値に設定するなどが挙げられる。
【0029】
前記(II)疾患値に基づく値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ADHDの症状の程度を評価する場合には、前記疾患値を参考に、閾値を前記疾患値又は前記疾患値に近い値に設定するなどが挙げられる。
【0030】
前記処理では、前記基準値が(I)正常値に基づく値の場合には、前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量が、前記正常値に基づく値より少ない場合に、評価対象が、ADHDに罹患している又はADHDを発症する可能性を有すると評価することができる。
前記健常個体は、前記評価対象と同一種類の個体であって、年齢が近しい個体が好ましい。
【0031】
また、前記基準値が(II)疾患値に基づく値の場合には、前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量が、前記疾患値に基づく値と同量以下の場合に、評価対象が、ADHDに罹患している又はADHDを発症する可能性を有すると評価することができる。
前記ADHD患者は、前記評価対象と同一種類の個体であって、年齢が近しい患者が好ましい。
【0032】
前記基準値は、前記ADHDの評価方法を実施する際に併せて測定した試料におけるサイトカインの量に基づいて設定したものを用いてもよいし、既に測定された試料におけるサイトカインの量に基づいて設定したものを用いてもよい。
【0033】
また、前記評価の方法としては、ADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価することが可能な評価式を用いる方法も挙げられる。
【0034】
例えば、前記サイトカインの濃度のデータに基づいて、ADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価することが可能な評価式に前記サイトカインの濃度のデータを代入して、前記評価対象が、ADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価する方法が挙げられる。ここで、前記評価式には、前記サイトカインの濃度値が代入される変数が含まれている。前記変数の数としては、少なくとも1つであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、より評価の精度を高めることができる点で、少なくとも2つが好ましい。即ち、2種以上のサイトカインの量のデータに基づいてADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価することが可能な評価式に、前記2種以上のサイトカインの量のデータを代入することを含み、前記評価式には、前記2種以上のサイトカインの量のデータが代入される少なくとも2つの変数が含まれていることが好ましい。
前記サイトカインは、上記-サイトカイン-の項目に記載したものと同様である。
【0035】
前記評価式としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ロジスティック回帰式、分数式、線形判別式、重回帰式、サポートベクターマシンで作成された式、マハラノビス距離法で作成された式、正準判別分析で作成された式、決定木で作成された式などが挙げられる。これにより、ADHDの状態を知る上で参考となり得る情報の更なる信頼性向上を実現することができる。
【0036】
また、評価式として採用する式とは、一般に多変量解析で用いられる式の形式を意味するものであり、例えば、分数式、重回帰式、多重ロジスティック回帰式、線形判別関数、マハラノビス距離、正準判別関数、サポートベクターマシン、決定木、異なる形式の式の和で示されるような式などが挙げられる。ここで、重回帰式、多重ロジスティック回帰式、正準判別関数においては各変数に係数及び定数項が付加されるが、この係数及び定数項は、好ましくは実数であれば構わず、より好ましくは、データから前記の各種分類を行うために得られた係数及び定数項の99%信頼区間の範囲に属する値であれば構わず、さらに好ましくは、データから前記の各種分類を行うために得られた係数及び定数項の95%信頼区間の範囲に属する値であれば構わない。また、各係数の値及びその信頼区間は、それを実数倍したものでもよく、定数項の値及びその信頼区間は、それに任意の実定数を加減乗除したものでもよい。ロジスティック回帰、線形判別、重回帰分析などの表示式を評価式として用いる場合、表示式の線形変換(定数の加算、定数倍)及び単調増加(減少)の変換(例えばlogit変換など)は評価性能を変えるものではなく変換前と同等であるので、この表示式には、これらの変換が行われた後のものも含まれる。
【0037】
例えば、2種のサイトカインの濃度データを用いて評価する場合、(サイトカインAの濃度)+(サイトカインBの濃度)という式が挙げられる。これによれば、ADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かの評価を具体的な数値として定量化することができる。また、前もって、様々なサイトカインとADHD患者との相関を調べて得られた結果に基づき、サイトカインの種類ごとに重みづけを行ってもよい。さらには、(評価対象の各サイトカインの濃度データの値)/(健常者の各サイトカインの濃度データの平均値)を用いて(あるいは、その値に一定の重みづけをして)加算した値によって評価を行ってもよい。また、年齢、性別、人種、ADHD遺伝的背景の有無などによって、サイトカイン濃度の値を補正してもよい。これらの補正の程度や補正の有無は、サイトカインの種類によって変更してもよい。以上のようにして得られた評価の値を一般的な人の値(例えば日本人の平均値)と比較をして、その倍率によってADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価してもよい。
【0038】
前記濃度のデータを変数として用いるサイトカインの種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、より評価の精度を高めることができる点で、IL-1ra、IL-1β、IL-7、IL-8、IL-12 p70、G-CSF、IFN-γ、及びVEGFからなる群から選択される2種以上が好ましく、IL-1ra及びVEGFの2種がより好ましい。
また、前記サイトカインを抽出するにあたり、例えば、ROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve;受信者動作特性曲線)のAUC(Area Under the Curve)などを用いることができる。なお、本発明においては、例えば、変数減少法によってAUCが最大となるサイトカインの組合せを求めることができる。
【0039】
<その他の工程>
前記ADHDの評価方法におけるその他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、測定工程、試料調製工程などが挙げられる。
【0040】
<<測定工程>>
前記ADHDの評価方法における測定工程は、前記評価対象由来の試料における前記サイトカインの量を測定する工程である。
【0041】
-測定-
前記試料における前記サイトカインの量を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、タンパク質の量を測定する方法、mRNAの量を測定する方法などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、前記サイトカインのアミノ酸配列や塩基配列は、GenBank(NCBI)などの公共データベースを通じて容易に入手することができる。
【0042】
前記サイトカインのタンパク質の量を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、前記サイトカインを特異的に認識する抗体を用いて、免疫学的手法により測定する方法などが挙げられる。
【0043】
前記免疫学的手法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、抗体アレイ、フローサイトメトリー解析、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、ドットブロット法、免疫核酸アッセイ法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが挙げられる。
【0044】
前記ELISA法の具体例としては、マイクロプレートに標的サイトカインを固相化し、標識した当該サイトカインを認識する抗体を作用させる直接法、抗サイトカイン抗体を認識する標識二次抗体を用いる間接法、抗サイトカイン抗体を固相化し、さらに標識した抗サイトカイン抗体を用いるサンドイッチ法、抗サイトカイン抗体を固相化し、目的タンパク質および濃度があらかじめ分かっている酵素標識抗原を、同一マイクロプレート内で同時に反応させる競合法などが挙げられる。
【0045】
前記mRNAの量を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、PCR法、リアルタイムPCR法、DNAアレイ法、ノーザンブロット法などが挙げられる。
【0046】
前記試料における前記サイトカインの量は、市販されているサイトカイン量の測定キットを使用して測定することもできる。
【0047】
<<試料調製工程>>
前記ADHDの評価方法における試料調製工程は、前記評価対象由来の試料を調製する工程であり、前記試料の種類に応じて、公知の方法を適宜選択することができる。
【0048】
本発明のADHDの評価方法は、問診等の他の手段による評価と組み合わせて行うこともできる。
【0049】
本発明のADHDの評価方法によれば、評価対象由来の試料における前記サイトカインの量を指標とすることで、前記評価対象がADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを高い精度で評価することができる。
【0050】
したがって、本発明は、前記評価工程を少なくとも含み、必要に応じて更に前記その他の工程を含む、評価対象がADHDに罹患しているか否か若しくは発症する可能性を有するか否かを診断する方法、又は評価対象がADHDに罹患しているか否か若しくは発症する可能性を有するか否かの診断を補助する方法にも関する。
また、本発明は、評価対象がADHDに罹患しているか否か若しくは発症する可能性を有するか否かを評価、診断、又は診断補助するためのバイオマーカーであって、サイトカインからなるバイオマーカーにも関する。
【0051】
(ADHDの評価用データ取得方法)
本発明の評価対象がADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価するためのデータを取得する方法(以下、「ADHDの評価用データ取得方法」と称することがある。)は、測定工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0052】
<測定工程>
前記ADHDの評価用データ取得方法における測定工程は、評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する測定工程であり、上記した本発明のADHDの評価方法のその他の工程における測定工程と同様にして行うことができる。
【0053】
<その他の工程>
前記ADHDの評価用データ取得方法における前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、試料調製工程などが挙げられる。
【0054】
<<試料調製工程>>
前記ADHDの評価用データ取得方法における試料調製工程は、前記評価対象由来の試料を調製する工程であり、上記した本発明のADHDの評価方法のその他の工程における試料調製工程と同様にして行うことができる。
【0055】
本発明のADHDの評価用データ取得方法は、前記サイトカイン以外の物質の量の測定と組み合わせて行ってもよい。
【0056】
本発明のADHDの評価用データ取得方法によれば、ADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを高い精度で評価するために有用なデータを収集することができる。
【0057】
(ADHDの評価、診断、又は診断補助用キット)
上記したように、本発明のADHDの評価方法によれば、評価対象由来の試料における前記サイトカインの量を指標とすることで、前記評価対象がADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを高い精度で評価することができるので、本発明は、評価対象がADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かの評価、診断、又は診断補助用キット(以下、「ADHDの評価、診断、又は診断補助用キット」と称することがある。)にも関する。
【0058】
前記ADHDの評価、診断、又は診断補助用キットは、サイトカイン検出手段を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の構成を含む。
【0059】
<サイトカイン検出手段>
前記サイトカイン検出手段としては、前記試料における目的のサイトカイン、好ましくはIL-1ra、IL-1β、IL-7、IL-8、IL-12 p70、G-CSF、IFN-γ、及びVEGFからなる群から選択される1種以上のサイトカインを検出することができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記サイトカインを免疫学的に検出するために、前記サイトカインに対する抗体を固定した検出器具が含まれることが好ましい。
【0060】
前記サイトカインに対する抗体を固定する対象としては、固体又は不溶性材料である担体であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、濾過、沈殿、磁性分離などにより反応混合物から分離することができる担体などが挙げられる。
【0061】
前記担体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビーズ、磁性ビーズ、薄膜、微細管、フィルター、プレート、マイクロプレート、カーボンナノチューブ、センサーチップなどが挙げられる。前記薄膜やプレート等の平坦な担体は、ピット、溝、フィルター底部などを設けてもよい。
【0062】
<その他の構成>
前記その他の構成としては、特に制限はなく、公知の診断用キットなどに含まれる構成を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、免疫学的測定法に用いる試薬、キットの取扱説明書などが挙げられる。
【0063】
前記ADHDの評価、診断、又は診断補助用キットによれば、ADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを高い精度で評価、診断、又は診断補助することができる。
【実施例
【0064】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
被検者として、ADHD患者20名(患者群)、及び健常者20名(健常者群)の2群を用いた。患者群を健常者群より先に収集し、それと人数、性別比、及び平均年齢が一致する健常者を後で収集した。
唾液検体の採取は、ADHD患者は起床後と、同日の日中の2回、健常者は日中に1回行った。採取した唾液に含まれるサイトカイン(27種)を分析した。
【0066】
表1に被検者背景を示した。
【表1】
【0067】
検体収集機関、分析装置、サイトカイン分析キット、分析を行ったサイトカインの種類、及び検査方法の詳細を以下に示す。
・ 検体収集機関 : 信州大学医学部附属病院
・ 分析装置 : Bio-Plex(バイオ・ラッドラボラトリーズ(株))
・ サイトカイン分析キット :
Bio-Plex Pro Human Cytokine 27-Plex(バイオ・ラッドラボラトリーズ(株))
・ 分析を行ったサイトカインの種類 :
IL-1β、IL-1ra、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12 p70、IL-13、IL-15、IL-17A、FGF、Eotaxin、G-CSF、GM-CSF、IFN-γ、IP-10、MCP-1、MIP-1α、PDGF-BB、MIP-1β、RANTES、TNF-α、VEGF
・ 検査方法 :
(1)唾液からの測定サンプルの採取方法
1)採取カップ(日本メディカル:型番MS-50)を2つ用意し、IDを記入する(2つの採取カップのIDは同一とする)。
2)採取カップに採取量 150μLのラインを入れる。
3)2つのカップに必要量(およそ150μL)の唾液を入れ、採取後2時間以内に-80℃で凍結保存する。
【0068】
以上のようにして採取したサンプルについて、上記した分析装置及びサイトカイン分析キットを用いて27種類のサイトカインの濃度を測定した。
【0069】
更に、得られた分析結果について、統計分析ソフト(IBM SPSS Statistics、日本アイ・ビー・エム(株))を使用してMann-Whitney testを行った。
なお、サイトカインの測定濃度値が検出限界より低い場合、LOD値(Limit of Detection;ブランクの濃度に、ブランク間で観測される濃度揺らぎを加えた濃度のことで、ブランクから求められる測定下限値を意味し、算出式はブランクの値+2×ブランクのSD値)が算出可能な場合に限り、LOD/2値を測定値として代用した。適用条件としては、LOD/2値が、サンプル濃度、LLOQ(標準液の低濃度域)の測定下限値よりも低値である場合のみ適用とした。また、LOD/2値よりLLOQ値が低値であった場合は、LLOQ/2値を測定値として用いた。
LOD値は、8個のスタンダード濃度の実測値から求めたスタンダードカーブ回帰式の係数を用いて算出した。ただし、LOD/2値がスタンダードの最も薄い濃度値(S8)よりも高い場合は、S8濃度値/2を測定値として代用した。
【0070】
<解析1>
患者群において、1回目(起床後)に採取した唾液中のサイトカインの濃度、及び2回目(日中)に採取した唾液中のサイトカインの濃度と、健常群において採取した唾液中のサイトカインの濃度とを比較した。なお、患者群のうち、1名からは2回目(日中)の唾液の採取ができなかったため、患者群における2回目(日中)に採取したサンプルは19検体とした。
【0071】
-解析結果1-
患者群の1回目(起床後)に採取した唾液中のサイトカインの濃度は、データが取得できなかったIL-15、GM-CSF以外では、IL-13、G-CSF、IP-10、RANTES、及びVEGF以外のサイトカインにおいて、健常群において採取した唾液中のサイトカインの濃度を上回る濃度で検出された。
一方、患者群の2回目(日中)に採取した唾液中のサイトカインの濃度は、起床後に採取した唾液中のサイトカインの濃度と比べて濃度値が低下し、健常者群の平均値に近づく傾向が認められた。
そのため、以下の解析においては、患者群では、2回目(日中)に採取した唾液検体を用いることとした。
【0072】
<解析2>
患者群の2回目(日中)に採取した唾液中のサイトカインの濃度と、健常者群の唾液中のサイトカインの濃度について、Mann-Whitney Testによる統計分析を行った。その結果を表2に示す。
なお、分析した27種類のサイトカイン中、データ損失があった11種類のサイトカイン(IL-2、IL-4、IL-5、IL-15、IL-17A、FGF、GM-CSF、MCP-1、PDGF-BB、MIP-1β、RANTES)については、解析から除外した。
【0073】
-解析結果2-
解析2の結果、患者と健常者の唾液中のサイトカインの濃度に関し、いくつかのサイトカインには両者間で有意差が認められた(表2)。
なお、すべてのサイトカインの種類について、性別及び年齢における有意差の有無についても分析を行ったが、性別及び年齢における有意差は認められなかった。
これらの結果から、患者から採取した唾液に含まれるサイトカインのうち、IL-1ra、IL-1β、IL-7、IL-8、IL-12 p70、G-CSF、IFN-γ、及びVEGFについては、性別及び年齢に関係なく、健常者から採取した唾液に含まれるそれらのサイトカインの濃度より有意に低いことが示された。なお、有意差があったサイトカインの唾液に含まれる濃度平均値を示すグラフを図1に示した(実線:健常者群、破線:ADHD患者群)。
【表2】
【0074】
<解析3>
解析2の結果、患者群と健常群との間で有意差が認められた8種類のサイトカインについて、更に、ステップワイズ法を用いたロジスティック回帰分析によるモデル化、及びROC解析による判定能の検証を行った。
【0075】
-解析結果3-
解析3の結果、8種類のサイトカインの中で、IL-1raとVEGFとの組合せが、ROC解析によるAUC(Area Under Curve)が0.914(感度:0.722、特異度:1.000)と最も1に近づいた。なお、他のサイトカインの組み合わせから算出されるAUCは、該IL-1raとVEGFとの組み合わせから算出されるAUCよりも低かった。
なお、IL-1βのAUCは0.753、IL-1raのAUCは0.708、IL-7のAUCは0.717、IL-8のAUCは0.821、IL-12 p70のAUCは0.746、G-CSFのAUCは0.764、IFN-γのAUCは0.756、VEGFのAUCは0.808であった。
【0076】
以上の結果から、唾液中のサイトカインの濃度について、ADHD患者では、健常者に比べ濃度が低下するサイトカイン(IL-1ra、IL-1β、IL-7、IL-8、IL-12 p70、G-CSF、IFN-γ、VEGF)があることが分かった。
更に、IL-1raとVEGFとの組合せは、特に患者群と健常者群との間における差異が大きいことが示された。
このため、評価対象由来の試料に含まれるサイトカインの量を指標とすることで、ADHDに罹患しているか否か又は罹患する可能性を有するか否かを評価できることが分かった。
【0077】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を指標として、注意欠如・多動症(ADHD)に罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価する評価工程を含むことを特徴とする、評価対象がADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価する方法である。
<2> 前記評価方法が、評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する測定工程を更に含む、前記<1>に記載の方法である。
<3> 前記評価工程が、前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量と、基準値とを比較する処理を含み、
前記基準値が、健常個体由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値及びADHD患者由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値の少なくともいずれかであり、
前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量が、前記健常個体由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値より少ない場合、及び前記ADHD患者由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値と同量以下の場合の少なくともいずれかの場合に、前記評価対象が、ADHDに罹患している又は発症する可能性を有すると評価する工程である前記<1>から<2>のいずれかに記載の方法である。
<4> 前記サイトカインが、IL-1ra、IL-1β、IL-7、IL-8、IL-12 p70、G-CSF、IFN-γ、及びVEGFからなる群から選択される1種以上のサイトカインである前記<1>から<3>のいずれかに記載の方法である。
<5> 前記評価工程が、前記サイトカインの量のデータに基づいてADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価することが可能な評価式に前記サイトカインの量のデータを代入することを含み、前記評価式には、前記サイトカインの量のデータが代入される少なくとも1つの変数が含まれている前記<1>から<2>のいずれかに記載の方法である。
<6> 前記サイトカインが、IL-1ra、IL-1β、IL-7、IL-8、IL-12 p70、G-CSF、IFN-γ、及びVEGFからなる群から選択される2種以上のサイトカインであり、
前記評価工程が、前記2種以上のサイトカインの量のデータに基づいてADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価することが可能な評価式に前記2種以上のサイトカインの量のデータを代入することを含み、前記評価式には、前記2種以上のサイトカインの量のデータが代入される少なくとも2つの変数が含まれている前記<5>に記載の方法である。
<7> 前記評価対象由来の試料が、唾液である前記<1>から<6>のいずれかに記載の方法である。
<8> 前記サイトカインが、IL-1ra及びVEGFである前記<1>から<7>のいずれかに記載の方法である。
<9> 評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する測定工程を含むことを特徴とする、評価対象がADHDに罹患しているか否か又は発症する可能性を有するか否かを評価するためのデータを取得する方法である。
<10> 前記サイトカインが、IL-1ra、IL-1β、IL-7、IL-8、IL-12 p70、G-CSF、IFN-γ、及びVEGFからなる群から選択される1種以上のサイトカインである前記<9>に記載の方法である。
<11> 前記評価対象由来の試料が、唾液である前記<9>から<10>のいずれかに記載の方法である。
<12> 前記サイトカインが、IL-1ra及びVEGFである前記<9>から<11>のいずれかに記載の方法である。
図1