(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】生体内冷却装置
(51)【国際特許分類】
A61F 7/00 20060101AFI20221226BHJP
A61F 7/10 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
A61F7/00 330
A61F7/10 330A
(21)【出願番号】P 2020053927
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-04-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520421710
【氏名又は名称】ANT5株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142734
【氏名又は名称】安 裕 希
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 倫保
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴雄
【審査官】菊地 牧子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0056240(US,A1)
【文献】特開2004-129964(JP,A)
【文献】特開2011-083315(JP,A)
【文献】特開平09-140784(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0112278(US,A1)
【文献】特表2008-514312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に配置され、脳表部の対象部位を冷却する生体内冷却装置であって、
冷媒が通る流路を有
し、該流路に冷媒を流入させるための流入管と、該流路から冷媒を流出させるための流出管とが接続可能な熱交換部と、
前記対象部位に当接される側の面である生体面と、該生体面とは反対側の面である外面とを有し、
粘着性を有する材料により形成された中間層を介して前記熱交換部
に接続され、前記対象部位を覆うように配置される、可撓性を有する熱伝導シートと、
を備え、
前記熱伝導シートのサイズは前記熱交換部が接続される部分のサイズよりも大きく、
前記熱交換部は、前記外面のうち前記熱伝導シートの外周よりも内側の領域に配置さ
れている、生体内冷却装置。
【請求項2】
生体内に配置され、脳表部の対象部位を冷却する生体内冷却装置であって、
冷媒が通る流路を有
し、該流路に冷媒を流入させるための流入管と、該流路から冷媒を流出させるための流出管とが接続可能な熱交換部と、
前記対象部位に当接される側の面である生体面と、該生体面とは反対側の面である外面とを有し、前記熱交換部に直接又は間接的に接続され、前記対象部位を覆うように配置される、可撓性を有する熱伝導シートと、
を備え、
前記熱伝導シートのサイズは前記熱交換部が接続される部分のサイズよりも大きく、
前記熱交換部は、前記外面のうち前記熱伝導シートの外周よりも内側の領域に配置され、
前記熱交換部及び前記熱伝導シートは、生体適合性を有する被覆層により一体的に被覆することにより一体化されている、生体内冷却装置。
【請求項3】
前記被覆層はスパッタリング又は真空蒸着により形成されている、請求項2に記載の生体内冷却装置。
【請求項4】
前記被覆層のうち、前記外面側を覆う部分の厚さは、前記熱伝導シートの生体面側を覆う部分の厚さよりも厚い、請求項2又は3に記載の生体内冷却装置。
【請求項5】
前記熱交換部に、該熱交換部を生体内に固定するために用いられる突起が設けられている、請求項1~4のいずれか1項に記載の生体内冷却装置。
【請求項6】
生体内に配置され、脳表部の対象部位を冷却する生体内冷却装置であって、
冷媒が通る流路を有
し、該流路に冷媒を流入させるための流入管と、該流路から冷媒を流出させるための流出管とが接続可能な熱交換部と、
前記対象部位に当接される側の面である生体面と、該生体面とは反対側の面である外面とを有し、前記熱交換部に直接又は間接的に接続可能、且つ、前記対象部位を覆うように配置される、可撓性を有する熱伝導シートと、
を備え、
前記熱伝導シートのサイズは前記熱交換部が接続される部分のサイズよりも大きく、
前記熱交換部に、該熱交換部を頭皮の内側に固定するために用いられる突起が設けられ、
前記対象部位を覆うように配置された熱伝導シートに対し、前記熱交換部が固定された頭皮を被せることにより、前記熱交換部が前記熱伝導シートに接続される、生体内冷却装置。
【請求項7】
前記熱伝導シートの熱伝導率は、前記熱交換部のうち前記熱伝導シートとの接続部における熱伝導率以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の生体内冷却装置。
【請求項8】
前記熱伝導シートは、生体適合性を有する被膜により被覆されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の生体内冷却装置。
【請求項9】
前記熱交換部及び前記熱伝導シートの外面側の領域の少なくとも一部に、前記熱伝導シートよりも低い熱伝導率を有する断熱層が配置されている請求項1~8のいずれか1項に記載の生体内冷却装置。
【請求項10】
前記熱伝導シートの一部に、該熱伝導シートを生体内に固定するために用いられる貫通孔
又は突起
部が形成されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の生体内冷却装置。
【請求項11】
前記熱交換部は、充実体の内部に流路が形成された部材である、請求項1~10のいずれか1項に記載の生体内冷却装置。
【請求項12】
前記熱交換部は、可撓性を有する管状体である請求項1~10のいずれか1項に記載の生体内冷却装置。
【請求項13】
前記熱伝導シートの周縁部に
、該熱伝導シートを生体の曲面に沿って変形させるための1つ以上の切り込みが形成されている請求項1~12のいずれか一項に記載の生体内冷却装置。
【請求項14】
前記熱伝導シートは、カーボングラファイトシート又は金属箔である、請求項1~13のいずれか1項に記載の生体内冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の器官を直接冷却するための医療用の生体内冷却装置に関し、特に、脳の局部を冷却するための生体内冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脳梗塞や外傷により浮腫や血腫が生じた場合、脳組織圧や頭蓋内圧が上昇することがあり、これが脳血流低下による脳低酸素状態を引き起こすおそれがある。頭蓋内圧の減圧処置方法としては減圧開頭術が挙げられる。減圧開頭術は外傷性脳挫傷や脳卒中患者に対する治療法として知られているが、減圧開頭術の術後の重篤な後遺症の原因の一つに脳の温度上昇が挙げられる。脳の温度上昇を抑制するために、脳を局所的に冷却するための装置を用いた脳低温療法が提案されている。
【0003】
また、特許文献1には、難治性てんかんの発作抑制や、頭部外傷、疼痛などの中枢神経疾患の治療のため、脳の局部を冷却するための冷却手段を備え、局部冷却の調整及び制御を行う局部冷却装置が開示されている。特許文献1に開示された局部冷却装置は、可撓性の材料からなる袋状体容器または熱伝導性の高い金属材料からなる薄型容器に温度検知センサが付設されてなり体内要冷却箇所に埋設される冷却部と、該冷却部に連結され冷却水を循環移送するカテーテルと前記温度検知センサへの配線とからなる連結接続部と、該連結接続部のカテーテルに連結され冷却水が滞留し冷却器が付設されたリザーバと該リザーバと前記冷却部との間で前記カテーテルを介して冷却水循環動作を行うポンプとを備えた放熱部と、前記冷却部における温度検知センサに配線を介して接続されるとともに前記放熱部におけるポンプ及び冷却器の各々と配線を介して接続され検知された温度に基づき体内要冷却箇所を所定温度に冷却するように前記冷却器及びポンプの動作制御を行う制御部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、冷却容器内に冷却水を流入・流出させることにより、冷却容器において熱交換することとしている。しかしながら、冷却容器内の局所における冷却水の流れを制御することは難しいため、冷却容器内における冷却水の循環効率が低下するおそれがある。それにより、治療対象部位に近接される冷却容器の表面において温度のバラツキが生じる可能性がある。また、冷却容器として金属からなる薄型容器を用いる場合、硬い金属製の薄型容器によって凹凸のある治療対象部位の広範囲を覆うことは困難である。そのため、治療対象部位の広範囲を効率良く冷却することができる冷却装置が望まれる。また、冷却水で満たされた冷却容器を治療対象部位に近接させる場合、冷却容器の重さや厚さが患者の負担となることも考えられるため、生体内に一定期間留置するという観点でも改善が望まれる。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、生体内に留置しやすく、治療対象部位の広範囲を効率良く冷却することができる生体内冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る生体内冷却装置は、生体内の対象部位を冷却する生体内冷却装置であって、冷媒が通る流路を有する熱交換部と、前記対象部位に当接される側の面である生体面と、該生体面とは反対側の面である外面とを有し、前記熱交換部に直接又は間接的に接続され、前記対象部位を覆うように配置される、可撓性を有する熱伝導シートと、を備えるものである。
【0008】
上記生体内冷却装置において、前記熱伝導シートの熱伝導率は、前記熱交換部のうち前記熱伝導シートとの接続部における熱伝導率以上であっても良い。
上記生体内冷却装置において、前記熱交換部は前記熱伝導シートの外周よりも内側に配置され、前記熱伝導シートは、粘着性を有する材料により形成された中間層を介して前記熱交換部に接続されていても良い。
【0009】
上記生体内冷却装置において、前記熱交換部及び前記熱伝導シートは、生体適合性を有する被覆層により一体的に被覆されていても良い。
上記生体内冷却装置において、前記被覆層はスパッタリング又は真空蒸着により形成されていても良い。
【0010】
上記生体内冷却装置において、前記熱交換部は、前記熱伝導シートの外面側に配置され、前記被覆層のうち、前記外面側を覆う部分の厚さは、前記熱伝導シートの生体面側を覆う部分の厚さよりも厚くても良い。
【0011】
上記生体内冷却装置において、前記熱伝導シートは、生体適合性を有する被膜により被覆されていても良い。
上記生体内冷却装置において、前記熱交換部及び前記熱伝導シートの外面側の領域の少なくとも一部に、前記熱伝導シートよりも低い熱伝導率を有する断熱層が配置されていても良い。
【0012】
上記生体内冷却装置において、前記熱交換部に、該熱交換部を生体内に固定するために用いられる突起が設けられていても良い。
上記生体内冷却装置において、前記熱伝導シートの一部に、該熱伝導シートを生体内に固定するために用いられる貫通孔、突起部、又は切り込みが形成されていても良い。
【0013】
上記生体内冷却装置において、前記熱交換部は、充実体の内部に流路が形成された部材であっても良い。
上記生体内冷却装置において、前記熱交換部は、可撓性を有する管状体であっても良い。
【0014】
上記生体内冷却装置において、前記熱伝導シートの周縁部に1つ以上の切り込みが形成されていても良い。
上記生体内冷却装置において、前記熱伝導シートは、カーボングラファイトシート又は金属箔であっても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、冷媒が通る流路を有する熱交換部に対し、可撓性を有する熱伝導シートを直接又は間接的に接続するので、熱伝導シートを柔軟に変形させて生体内の対象部位の広い部分を覆うことができ、熱伝導シートの当該部位への密着性を高めることが可能となる。また、熱交換部は流路を有するので、熱交換部において冷媒を効率良く循環させることができる。従って、生体内に留置しやすく、治療対象部位の広範囲を効率良く冷却することができる生体内冷却装置を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る生体内冷却装置を示す平面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る生体内冷却装置の第1の変形例を示す断面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る生体内冷却装置の第2の変形例を示す断面図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る生体内冷却装置の第3の変形例を示す断面図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る生体内冷却装置を示す断面図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る生体内冷却装置の第1の変形例を示す断面図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態に係る生体内冷却装置の第2の変形例を示す断面図である。
【
図9】本発明の第3の実施形態に係る生体内冷却装置を示す平面図である。
【
図10】本発明の第4の実施形態に係る生体内冷却装置を示す平面図である。
【
図12】本発明の第4の実施形態に係る生体内冷却装置の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る生体内冷却装置について、図面を参照しながら説明する。なお、これらの実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0018】
以下の説明において参照する図面は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示しているに過ぎない。即ち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものではない。また、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0019】
本発明の各実施形態に係る生体内冷却装置は、患者の生体内に一定期間留置され、脳等の器官を局所的に冷却する装置であり、各種センサや制御装置等を備える生体内冷却システムと共に使用される。生体内冷却装置は、急性期又は周術期の外傷性脳損傷等の患者に対して適用される脳低温療法やてんかん発作抑制のための治療において、脳表部を冷却する装置として好ましく用いることができる。脳低温療法においては、硬膜切開後に脳表にセンサを配置し、硬膜を戻して該硬膜上に生体内冷却装置を配置する。そして、センサによる温度等のパラメータの計測結果に応じて、生体内冷却装置の熱交換部(後述)に供給される冷媒の温度、冷媒の供給速度(流速)、冷却時間等のパラメータを制御する。脳低温療法においては、生体内冷却装置は例えば1週間留置される。なお、本発明に係る生体内冷却装置としては、体表、即ち体外から生体内を冷却する装置は除かれる。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る生体内冷却装置(以下、単に冷却装置とも記す)を示す平面図である。
図2は、
図1のA-A断面図である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る冷却装置10は、生体内の対象部位(治療対象部位)を冷却する装置であって、冷媒が通る流路11aを有する熱交換部11と、対象部位に当接される側の面である生体面12aと、該生体面12aとは反対側の面である外面12bとを有し、熱交換部11に直接又は間接的に接続され、治療対象部位を覆うように配置される熱伝導シート12とを備える。
【0021】
図1及び
図2に示すように、熱交換部11は、熱伝導シート12の外面12b側に配置される。外面12bにおける熱交換部11の位置は特に限定されない。熱交換部11と熱伝導シート12との接触面積の増加、及び、冷却装置10の小型化という観点では、熱伝導シート12の外周よりも内側に冷却装置10を配置することが好ましい。しかし、熱交換部11の一部が熱伝導シート12の外周の外側に配置されることが除外されるわけではない。また、熱伝導シート12全体を素早く冷却させるという観点では、熱伝導シート12の略中央部に熱交換部11を配置することが好ましい。
【0022】
熱交換部11は、内部に形成された流路11aに冷媒を流通させることにより、熱伝導シート12との間で熱交換を行う。冷媒の種類は特に限定されないが、例えば、リンゲル液、生理食塩水、純水を用いることができる。冷却装置10を脳低温療法に使用する場合において、脳表部を15度~25度程度に冷却するとき、流路11aに流通させる冷媒の温度は、例えば1度以上、3度以上、又は5度以上、且つ、20度以下、15度以下、又は10度以下に設定され、冷媒の流速は、例えば400mL/min以上に設定される。
【0023】
熱交換部11には、流路11aに冷媒を流入させるための流入管13と、流路11aから冷媒を流出させるための流出管14とが接続されている。流入管13及び流出管14の熱交換部11とは反対側の端部は、例えば冷媒を冷却して循環させる冷媒循環部に接続される。冷媒循環部は、例えば、冷媒が貯留される貯留槽と、貯留槽内の冷媒を冷却する冷却器と、貯留槽、流入管13、及び流出管14の間で冷媒を循環させるポンプとを備える。なお、
図1において、流入管13及び流出管14は熱交換部11の側面に接続されているが、流入管13及び流出管14を接続する位置はこれに限定されない。例えば、熱交換部11の上面に流入管13及び流出管14を接続しても良い。
【0024】
流路11aの平面形状は特に限定されないが、流路11aへの流入口から流出口に向けて冷媒が流通し易く、且つ、流路11a内において冷媒が滞留し難い形状であることが好ましい。流路11aの平面形状としては、例えば、
図1に示すような蛇行する形状であっても良いし、渦巻き形状であっても良いし、単純な一直線状であっても良い。また、流路11aの幅は必ずしも一定である必要はない。さらには、熱交換部11内において、流路11aが複数の経路に分岐したり、複数の経路から合流したりする形状であっても良い。或いは、熱交換部11内に複数の流路を設けても良い。
【0025】
図1に示す熱交換部11においては、充実体の内部に流路11aを形成しているが、例えば、箱状の容器の内部に管状の流路を配置することにより熱交換部を形成しても良い。要は、流路11aの内部を流通する冷媒と熱交換部11の底面に接する熱伝導シート12との間で熱交換を行うことができる構成であれば良い。また、熱交換部11の外形は特に限定されず、
図1に示すような直方体状であっても良いし、角柱や円柱等の柱状、錐台状、管状等であっても良い。
【0026】
熱交換部11のサイズは、生体内に留置可能なサイズであれば特に限定されず、治療対象部位の位置や大きさ、熱伝導シート12の大きさ等の条件に応じて適宜設定すれば良い。一例として、熱交換部11の平面形状を
図1に示すような矩形状とする場合、1cm角~7cm角といったサイズを採用することができる。
【0027】
熱交換部11の外面(
図2においては側面)には、熱交換部11を生体に固定するための固定用突起11bが設けられていても良い。固定用突起11bは、例えば、熱交換部11を頭皮の内側に縫い付けるなどして固定するために使用することができる。
図1に示す固定用突起11bは、略円盤状の突起の中心に貫通孔が形成された形状をなしているが、固定用突起11bの形状としては、例えば、一部がくびれた形状や、フック状など、種々の形状を採用することができる。
【0028】
このような熱交換部11は、例えば、チタン、銅、銀などの金属や、SUS301、SUS303、SUS304、SUS631等のステンレス鋼、Ni-Ti合金、アルミニウム合金などの合金を用いて形成することができる。または、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、テトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂といった合成樹脂や、エチレンプロピレンジエンゴム等の合成ゴム、天然ゴムを用いて熱交換部11を形成しても良い。或いは、金属と合成樹脂材料など、異なる複数の材料を用いて熱交換部11を形成しても良い。この場合、熱交換部11のうち少なくとも熱伝導シート12との接続部分については、金属や合金など熱伝導率が比較的高い材料を用いることが好ましい。また、可撓性を有する材料を用いて熱交換部11を形成しても良い。この場合、熱交換部11を治療対象部位に添うように配置することも可能となる。さらに、熱交換部11の表面を、例えばパリレン(登録商標)等の生体適合性を有する材料によってコーティングしても良い。
【0029】
熱伝導シート12は、可撓性を有するシート状の部材であり、治療対象部位において発生した熱を、熱交換部11内を流通する冷媒に伝えるために設けられている。ここで、本明細書においてシートとは、その厚さが限定されるものではなく、薄板状、紙状、膜状、薄膜状、又はフィルム状の部材を含む。
【0030】
熱伝導シート12は、少なくとも生体組織の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有し、好ましくは、熱交換部11のうち熱伝導シート12との接続部における熱伝導率以上の熱伝導率を有する。ここで、生体組織の熱伝導率は、組織によって異なるが、概ね0.5W/m・K近傍と考えられる。一例として、熱交換部11がチタン(熱伝導率:約17W/m・K)により形成されている場合、熱伝導シート12の熱伝導率は、約17W/m・K以上であることが好ましい。このように熱伝導シート12の熱伝導率を規定することにより、生体を覆う熱伝導シート12の広い範囲において素早く熱を伝導させ、熱交換部11内を流通する冷媒との間で効率良く熱交換をすることができる。もちろん、熱伝導シート12の熱伝導率は、数十W/m・K以上であっても良いし、数百W/m・K以上であっても良い。
【0031】
熱伝導シート12の材料は、可撓性を有し、且つ、十分な熱伝導率を実現できる材料であれば特に限定されない。具体例として、金、銀、銅、チタンなどの金属箔や、グラファイトシートや、高熱伝導性樹脂により形成されたシート等を挙げることができる。中でもグラファイトシートは、非常に高い熱伝導率(例えば数百~千W/m・K以上)を有しており、熱伝導シート12の材料として好ましい。ここで、グラファイト結晶の基本的な構造は、六角網目状に結ばれた炭素原子のつくる基底面が規則正しく積み重なった層状構造(層が積み重なった方向をc軸と言い、六角網目状に結ばれた炭素原子のつくる基底面の広がる方向をBasal面(a-b面)方向という)である。基底面内の炭素原子は共有結合で強く結ばれ、一方、積み重なった層面間の結合は弱いファンデルワールス力で結合しているため、グラファイトシートは、このような異方性を反映して、面方向(a-b面方向)に大きい熱伝導率を有している。このため、熱伝導シート12の面方向に優先的に熱を拡散し、生体内の治療対象部位の広範囲を効率よく冷却することができる。なお、熱伝導シート12としてグラファイトシートを用いる場合、グラファイトの片面又は両面にPETやポリイミド等によるラミネート加工が施されたシートを用いても良い。
【0032】
熱伝導シート12の厚さは、熱伝導シート12を治療対象部位に概ね密着させることができる程度の可撓性を確保しつつ、熱伝導シート12の破れや裂けを抑制できる厚さであれば特に限定されない。例えば、熱伝導シート12をグラファイトシートによって形成する場合、可撓性を確保して治療対象部位に密着させやすくするためには、厚さは1000μm以下であることが好ましく、800μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましく、400μm以下であることが特に好ましい。また、熱伝導シート12の破れや裂けを防ぎつつ、熱容量を確保するためには、厚さは30μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましい。熱伝導シート12の材料として、グラファイトシート以外の材料を使用する場合であっても、治療対象部位への密着性や破損の防止等を考慮して適宜厚さを決定することができる。
【0033】
熱伝導シート12の平面形状は、生体面12aにおいて治療対象部位を覆うことができれば特に限定されない。例えば、熱伝導シート12の平面形状は、
図1に示すような矩形状であっても良いし、円形状、楕円形状、多角形状、又はこれらを組み合わせた形状であっても良い。また、熱伝導シート12の一部に、熱伝導シート12を硬膜に縫い付けるなどして固定するための貫通孔、突起部、切り込み等を形成しても良い。
【0034】
このような冷却装置10を使用する際には、治療対象部位を覆う硬膜上に熱伝導シート12を配置すると共に、熱交換部11を頭皮の内側に配置する。この際、熱伝導シート12を硬膜に縫い付けるなどして固定しても良い。また、熱交換部11については、固定用突起11bを用いて頭皮に固定しても良い。そして、頭皮を硬膜上に被せることにより、熱交換部11を熱伝導シート12に接続する。この状態で、熱交換部11に冷媒を供給し、流路11a内を循環させることにより、治療対象部位を冷却する。この際、脳表に予め配置されたセンサによる温度等のパラメータの計測結果に応じて、熱交換部11に供給される冷媒の温度、冷媒の供給速度(流速)、冷却時間等を制御することが好ましい。
【0035】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態によれば、熱交換部11内に流路11aを設けるので、熱交換部11内における冷媒の滞留を抑制し、冷媒を効率良く循環させることができる。従って、冷却装置10における冷却効率を向上させることが可能となる。
【0036】
また、本発明の第1の実施形態によれば、可撓性を有する熱伝導シート12を用いるので、治療対象部位の形状に応じて熱伝導シート12を柔軟に変形させることにより、治療対象部位の広い部分を覆い、当該部位への密着性を高めることができる。また、熱伝導シート12は、好ましくは熱交換部11のうち熱伝導シート12との接続部における熱伝導率以上の熱伝導率を有するので、熱伝導シート12において素早く熱を伝導させ、熱交換部11内を流通する冷媒との間で効率良く熱交換をすることができる。そのため、熱交換部11のサイズに対して広い範囲を、熱伝導シート12を介して冷却することができる。従って、生体内に留置しやすく、治療対象部位の広範囲を効率よく冷却することができる冷却装置を実現することが可能となる。
【0037】
さらに、本発明の第1の実施形態によれば、治療対象部位を覆う熱伝導シート12に対して、熱交換部11のサイズを小さくすることができるので、冷却装置10が適用される患者の負担を軽減することが可能となる。
【0038】
なお、上記第1の実施形態においては、熱交換部11及び熱伝導シート12を頭皮及び硬膜にそれぞれ固定した後で両者を接続することとしたが、熱交換部11に対し、クリップ等の機械的な固定手段を用いて熱伝導シート12を予め固定しおいても良い。クリップ等の固定手段は、熱交換部11と一体的なものであっても良いし、別体であっても良い。この場合、熱交換部11と熱伝導シート12とのいずれか一方を生体内に固定することで、冷却装置を使用することができる。
【0039】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る冷却装置10の第1の変形例を示す断面図である。
図3に示す冷却装置10Aは、
図2に示す冷却装置10に対し、熱伝導シート12の表面に被膜15を形成したものである。被膜15は、パリレン(登録商標)等の生体適合性を有する材料からなり、例えばスパッタリングや真空蒸着により形成することができる。被膜15の厚さは、熱交換部11との間及び生体との間における十分な熱交換効率、並びに、熱伝導シート12の柔軟性を確保するため、数十μm以下とすることが好ましい。また、被膜15の厚さは、削れや剥がれ等の破損を防ぐため、数百nm以上とすることが好ましく、数μm以上とすることがより好ましい。一例として、被膜15の厚さを、約10μm以上約20μm以下(十数μm)としても良い。
【0040】
このような被膜15設けることにより、熱伝導シート12に生体適合性を付与することができるので、熱伝導シート12の材料選択の幅を広げることが可能となる。また、被膜15により熱伝導シート12の耐久性を向上させることも可能となる。
【0041】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る冷却装置10の第2の変形例を示す断面図である。
図4に示す冷却装置10Bは、
図2に示す冷却装置10に対し、熱交換部11と熱伝導シート12との間に中間層16をさらに配置したものである。なお、
図4に示す熱伝導シート12の代わりに、被膜15(
図3参照)が形成された熱伝導シート12を用いても良い。
【0042】
中間層16は、粘着性を有する材料により形成されており、熱交換部11と熱伝導シート12との密着性を向上させるために設けられている。中間層16の状態は特に限定されず、例えば、ゲル状、ペースト状、ゲルシートや粘着シートといったシート状などのいずれであっても良い。また、中間層16は、所定の条件下で硬化するペースト(接着剤)であっても良い。この場合、硬化後の中間層16には、必ずしも粘着性が残留していなくても良い。具体的には、中間層16として、エポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、シリコーン樹脂系接着剤、シリコーンゲルシート、両面粘着フィルム、熱接着フィルム、熱圧着フィルム等を用いることができる。
【0043】
中間層16の材料としては、シリコーン等の生体適合性を有する材料であることが好ましく、また、良好な熱伝導性を有する材料であることが好ましい。例えば、中間層16は、シリコーンゲル等の母材に熱伝導性フィラーを添加した材料であっても良い。
【0044】
中間層16を設ける場合、熱交換部11と熱伝導シート12とを予め一体化させておくことができる。この場合、熱交換部11と熱伝導シート12とのいずれか一方を生体内に固定した状態で、冷却装置10Bを使用することも可能である。例えば、熱伝導シート12を生体内(例えば硬膜上)に固定する場合、熱交換部11を頭皮に固定する必要がなくなるので、固定用突起11bを省略することもできる。
【0045】
或いは、中間層16を熱交換部11と熱伝導シート12との少なくとも一方の側に配置し、上記第1の実施形態と同様に、冷却装置10Bの使用時に熱交換部11と熱伝導シート12とを一体化させても良い。
【0046】
第1の実施形態に係る冷却装置の第2の変形例によれば、中間層16によって熱交換部11と熱伝導シート12との密着性を向上させることができるので、両者間における熱交換効率を向上させることが可能となる。また、熱交換部11が熱伝導シート12に直接接触することを防ぐことができるので、熱伝導シート12の外面12bを保護する効果を得ることもできる。さらに、クリップ等の機械的な固定手段を用いることなく熱交換部11と熱伝導シート12とを一体化させることができるので、熱伝導シート12の予期しない破損を防止することも可能となる。
【0047】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る冷却装置10の第3の変形例を示す断面図である。
図5に示す冷却装置10Cは、
図2に示す冷却装置10に対し、熱交換部11及び熱伝導シート12の外面12b側の領域に断熱層17をさらに配置したものである。
【0048】
断熱層17は、熱伝導シート12の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有する断熱シートや断熱フィルム等により形成され、冷却装置10Cの外面側が冷えすぎることを抑制するために設けられている。断熱層17は、熱交換部11及び熱伝導シート12の外面側の領域全体に設けられても良いし(
図5参照)、熱交換部11の表面のみ、熱伝導シート12の外面12bのみ、又は、外面12bのうち熱交換部11の周囲のみなど、部分的に設けられても良い。熱交換部11及び熱伝導シート12の外面側の領域全体に断熱層17を一体的に設ける場合には、熱交換部11と熱伝導シート12とを一体化させることも可能である。
【0049】
断熱層17は、母材と、母材内に分散された気泡又はフィラーを含んでも良い。母材よりも比熱容量が大きい又は熱伝導率が小さい気泡又はフィラーを母材に分散させることにより、断熱層17において熱を反射又は吸収させることができる。断熱層17は、母材が海部分、気泡又はフィラーが島部分に相当する海島構造を備えても良い。
【0050】
断熱層17の母材としては樹脂を用いることができ、具体的には、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、天然ゴム、合成ゴム等が挙げられる。
【0051】
断熱層17内に気泡が存在している場合、断熱性に優れていることから、断熱層17は、独立気泡構造を有していることが好ましい。気泡に含まれる気体の種類は特に限定されず、例えば、空気や窒素を用いることができる。
【0052】
フィラーの形状は特に限定されないが、球状等の粒子状、針状、繊維状、または板状であってもよい。フィラーは、中実形状でも中空形状でもよいが、軽量でかつ高い断熱効果を得るためには中空形状であることが好ましい。フィラーを構成する材料は特に限定されず、有機材料でも無機材料でもよく、有機-無機複合材料でもよい。有機材料としては、例えば、フェノール、エポキシ、尿素等の熱硬化性樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリメタクリレート等の熱可塑性樹脂が挙げられる。また、無機材料としては、シラス、パーライト、ガラス、シリカ、アルミナ、ジルコニア、カーボン等が挙げられる。
【0053】
断熱層17を熱交換部11及び熱伝導シート12上に配置する方法は特に限定されない。例えば、接着剤や粘着シートを用いて、断熱層17を熱交換部11及び熱伝導シート12に貼り付けても良い。
【0054】
第1の実施形態に係る冷却装置の第3の変形例によれば、断熱層17を設けることにより、冷却装置10Cの外面側が冷えすぎることを抑制することができる。それにより、生体内の予定していない部分の冷却を抑制すると共に、治療対象部位への冷却効果を高めることが可能となる。また、熱伝導シート12における温度分布を均一化し易くなるため、治療対象部位全体を均一に冷却することが可能となる。
【0055】
なお、
図5においては、熱交換部11と熱伝導シート12とが直接接続されているが、上記第1の変形例(
図3参照)と同様に、熱伝導シート12の表面に被膜15を形成しても良いし、上記第2の変形例(
図4参照)と同様に、熱交換部11と熱伝導シート12との間に中間層16を介在させても良い。中間層16を介在させる場合、中間層16を熱伝導シート12の外面12b全体に配置することにより、中間層16を熱伝導シート12と断熱層17との接着手段として使用することも可能である。
【0056】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図6は、本発明の第2の実施形態に係る冷却装置を示す断面図である。本実施形態に係る冷却装置20は、熱交換部11と、熱交換部11に直接又は間接的に接続される熱伝導シート12と、熱交換部11及び熱伝導シート12を一体的に被覆する被覆層21とを備える。熱交換部11及び熱伝導シート12の構成及び機能は、上記第1の実施形態と同様である。
【0057】
被覆層21は、例えばパリレン(登録商標)等の生体適合性を有する材料によって形成されており、熱交換部11及び熱伝導シート12に対して生体適合性を付与すると共に、両者を一体化させるために設けられている。このような被覆層21は、例えばスパッタリングや真空蒸着により形成することができる。
【0058】
被覆層21の厚さは、生体との間における十分な熱交換効率、並びに、熱伝導シート12の柔軟性を確保するため、数十μm以下とすることが好ましい。また、被覆層21の厚さは、削れや剥がれ等の破損を防ぐため、数百nm以上とすることが好ましく、数μm以上とすることがより好ましい。一例として、被膜21の厚さを、約10μm以上約20μm以下(十数μm)としても良い。
【0059】
また、被覆層21の厚さは、熱交換部11及び熱伝導シート12の表面全体において概ね均一であっても良いし、部分的に変化させても良い。例えば、
図6に示すように、被覆層21のうち、熱伝導シート12の生体面12aを覆う部分に対し、熱交換部11及び熱伝導シート12の外面12bを覆う部分の厚さを厚くしても良い。この場合、生体面12a側においては、熱伝導シート12と生体との間における熱交換効率の低下を抑制することができると共に、外面12b側においては、熱交換部11と熱伝導シート12とを十分な強度で一体化させておくことができる。一例として、生体面12a側の被覆層21を数百nm~十数μm程度とし、外面12b側の被覆層21を十数μm~数十μm程度としても良い。
【0060】
本発明の第2の実施形態によれば、接着剤や機械的な固定手段を使用することなく、熱交換部11と熱伝導シート12を被覆層21により一体化させることができる。また、冷却装置20に生体適合性を付与することができるので、冷却装置20を構成する各部の材料選択の幅を拡げることが可能となる。
【0061】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る冷却装置20の第1の変形例を示す断面図である。
図7に示す冷却装置20Aは、
図6に示す冷却装置20に対し、熱交換部11と熱伝導シート12との間に中間層22をさらに配置したものである。中間層22は、粘着性を有する材料により形成されており、熱交換部11と熱伝導シート12との間の密着性を向上させるために設けられている。中間層22の状態としては、ゲルシートや粘着シートといったシート状であることが好ましい。また、中間層22は、所定の条件下で硬化するペースト(接着剤)であっても良く、この場合、硬化後の中間層22には、必ずしも粘着性が残留していなくても良い。
【0062】
中間層22の材料としては、熱伝導性の観点から、良好な熱伝導性を有する材料であることが好ましい。例えば、中間層22は、シリコーンゲル等の母材に熱伝導性フィラーを添加した材料であっても良い。
【0063】
ここで、被覆層21をスパッタリングや真空蒸着により形成する際に、熱交換部11と熱伝導シート12との間に空隙が存在すると、空隙部分が真空となり、熱交換部11と熱伝導シート12との境界における熱交換効率が低下するおそれがある。そこで、熱交換部11と熱伝導シート12との間に中間層22を配置することにより、熱交換部11と熱伝導シート12との間の僅かな空隙を塞ぐことができる。それにより、熱交換部11と熱伝導シート12との境界における真空の発生を防ぎ、熱交換効率の低下を抑制することが可能となる。
【0064】
図8は、本発明の第2の実施形態に係る冷却装置20の第2の変形例を示す断面図である。
図8に示す冷却装置20Bは、熱交換部11及び熱伝導シート12の外面12b側に配置された断熱層17と、熱交換部11、熱伝導シート12、及び断熱層17を一体的に被覆する被覆層21とを備える。断熱層17の構成及び機能は、上記第1の実施形態の第3の変形例(
図5参照)において説明したものと同様である。本変形例によれば、断熱層17を設けることにより、冷却装置20Bの外面側が冷えすぎることを抑制することができる。また、断熱層17の表面に被覆層21が形成されているので、断熱層17の材料選択の幅を拡げることもできる。
【0065】
なお、
図8に示す冷却装置20Bに対し、熱交換部11と熱伝導シート12との間に中間層16(
図4参照)を介在させても良い。また、さらなる変形例として、被覆層21により熱交換部11及び熱伝導シート12を一体的に被覆した上で(
図6参照)、外面12b側の被覆層21上に断熱層17を設けても良い。被覆層21上に断熱層17を設けることにより、熱交換部11及び熱伝導シート12の外面12b側を覆う被覆層21の破損(削れや剥がれ等)を防ぐことができる。
【0066】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図9は、本発明の第3の実施形態に係る冷却装置を示す平面図である。
図9に示すように、本実施形態に係る冷却装置30は、冷媒が通る流路31aを有する熱交換部31と、熱交換部31に直接又は間接的に接続される熱伝導シート32とを備える。熱交換部31には、流路31aに冷媒を流入させるための流入管33と、流路31aから冷媒を流出させるための流出管34とが接続されている。
【0067】
本実施形態における熱交換部31及び熱伝導シート32の基本的な構成及び機能は、上記第1の実施形態における熱交換部11及び熱伝導シート12と同様であり、平面形状が異なるだけである。具体的には、本実施形態における熱伝導シート32においては、周縁部に1つ以上(
図9においては5つ)の切り込み32aが形成されている。このような切り込み32aを形成することにより、熱伝導シート32を曲面に沿って変形させ易くなるので、熱伝導シート32の治療対象部位への密着性をさらに高めて効率良く冷却することが可能となる。
【0068】
切り込み32aの位置、数、形状、向き、深さは特に限定されない。切り込み32aの位置や数等は、治療対象部位の位置や大きさや立体形状に応じて熱伝導シート32を変形し、治療対象部位への密着性を高めることができるように決定すれば良い。例えば、熱伝導シート32の外周から中心に向かう複数の切り込み32aを等間隔で配置しても良いし
図9参照)、異なる間隔で配置しても良い。また、切り込み32aの形状についても、直線状、楔状、曲線状、ジグザク状、蛇行形状等であっても良い。
【0069】
なお、第3の実施形態に係る冷却装置30に対しても、第1の実施形態と同様に、熱交換部31に固定用突起11b(
図1参照)を設けても良いし、熱伝導シート32を生体内に固定するための貫通孔、突起部、又は切り込みを熱伝導シート32に設けても良い。また、熱伝導シート32に対して被膜15(
図3参照)を形成しても良いし、熱交換部31と熱伝導シート32との間に中間層16(
図4参照)を配置しても良いし、断熱層17(
図5参照)を追加しても良い。さらに、第2の実施形態と同様に、熱交換部31及び熱伝導シート32を被覆層21(
図6参照)によって一体的に被覆しても良い。
【0070】
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
図10は、本発明の第4の実施形態に係る冷却装置を示す平面図である。
図11A~
図11Cは、
図10のB-B断面を例示する模式図である。本実施形態に係る冷却装置40は、冷媒が通る流路41a,41bを有する熱交換部41と、熱交換部41に直接又は間接的に接続される熱伝導シート42とを備える。熱伝導シート42の構成及び機能は、上記第1の実施形態における熱伝導シート12と同様である。
【0071】
図10に示すように、本実施形態における熱交換部41は管状をなしている。熱交換部41の平面形状は特に限定されず、例えば
図10に示すように、分岐した管が放射状に拡がる形状であっても良いし、1本の経路からなる形状であっても良い。
【0072】
熱交換部41の横断面(管の長軸方向と垂直な断面)における流路の形態は特に限定されない。例えば
図11A~
図11Cに示すように、熱交換部41に流入した冷媒を通過させる流路(流入路)41aと、熱交換部41から流出する冷媒を通過させる流路(流出路)41bとが、熱交換部41内において分離されていても良い。この場合、
図10に示すように、熱交換部41の分岐した管の末端において、流入路41aと流出路41bを連通させることで、冷媒を循環させることができる。流路の配置としては、
図11Aに示すように、流入路41a及び流出路41bを上下に重ねて配置しても良いし、
図11Bに示すように、流入路41a及び流出路41bを同一平面上に並べて配置しても良い。或いは、
図11Cに示すように、流入路41aを熱交換部41の外側に配置し、流出路41bを熱交換部41の内側に配置しても良い。もちろん、熱交換部41内に単一の流路を形成しても良い。
【0073】
熱交換部41の横断面における外形は特に限定されず、
図11A~
図11Cに示すような略矩形であっても良いし、円形、楕円形、半円形、多角形、又はこれらを組み合わせた形状であっても良い。流路41a,41bにおける冷媒の圧力損失と熱伝導シート42への密着性を考慮すると、熱交換部41の横断面形状は、略矩形を含む多角形や半円形であることが好ましい。また、熱交換部41と熱伝導シート42との接触面積を増加させるという観点から、熱交換部41の横断面の外周のうち、より長い部分を熱伝導シート42に接続させることが好ましい。
【0074】
熱交換部41は、金属や合金によって形成されていても良いし、可撓性を有する材料により形成されていても良い。後者の場合、熱交換部41を熱伝導シート42と共に変形させて治療対象部位に密着させることができる。熱交換部41としては、例えば、シリコーン類、合成ゴムなどのゴム類、PFAなどのフッ素系樹脂等により形成された熱交換チューブを用いることができる。また、熱伝導性の観点から、熱伝導性フィラーが添加された材料を用いることが好ましい。
【0075】
本発明の第4の実施形態によれば、熱交換部41を管状とするので、熱伝導シート42の可撓性を活かしつつ、熱交換部41を熱伝導シート42の広い範囲に配置することができる。それにより、熱伝導シート42の広い範囲において、熱交換部41との間で直接的に熱交換を行い、治療対象部位の広範囲を効率よく冷却することができる。また、熱伝導シート42に対する熱交換部41の配置や延在方向の自由度を拡げることも可能となる。
【0076】
なお、第4の実施形態に係る冷却装置40に対しても、第1の実施形態と同様に、熱交換部41に対して固定用突起11b(
図1参照)を設けても良いし、熱伝導シート42を生体内に固定するための貫通孔、突起部、又は切り込みを熱伝導シート42に設けても良い。また、熱伝導シート42に対して被膜15(
図3参照)を形成しても良いし、熱交換部41と熱伝導シート42との間に中間層16(
図4参照)を配置しても良いし、断熱層17(
図5参照)を追加しても良い。さらに、第2の実施形態と同様に、熱交換部41及び熱伝導シート42を被覆層21(
図6参照)によって一体的に被覆しても良い。
【0077】
図12は、本発明の第4の実施形態に係る冷却装置の変形例を示す平面図である。
図12に示す冷却装置40Aは、冷媒が通る流路を有する熱交換部43と、熱交換部43に直接又は間接的に接続される熱伝導シート44とを備える。
【0078】
本変形例における熱交換部43及び熱伝導シート44の基本的な構成及び機能は、上記第4の実施形態における熱交換部41及び熱伝導シート42と同様であり、平面形状が異なるだけである。具体的には、本変形例における熱交換部43は、分岐して放射状に広がる複数の管43aを有している。また、熱伝導シート44の周縁部には、これらの管43aを避けるように、外周から中心部に向かう複数の切り込み44aが形成されている。このように、熱交換部43を管状とする場合には、熱伝導シート44に形成される切り込み44aの配置に応じて、熱交換部43の配置を決定することができる。従って、熱伝導シート44を治療対象部位にさらに密着させ易くなり、治療対象部位の広範囲を一層効率良く冷却することが可能となる。
【0079】
本発明は、以上説明した実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、他の様々な形で実施することができる。例えば、上記実施形態及び変形例に示した全構成要素からいくつかの構成要素を除外して形成しても良いし、上記実施形態及び変形例に示した構成要素を適宜組み合わせて形成しても良い。
【符号の説明】
【0080】
10,10A,10B,10C,20,20A,20B,30,40,40A…生体内冷却装置(冷却装置)、11,31,41,43…熱交換部、11a,31a…流路、11b…固定用突起、12,32,42,44…熱伝導シート、12a…生体面、12b…外面、13,33…流入管、14,34…流出管、15…被膜、16,22…中間層、17…断熱層、21…被覆層、41a…流路(流入路)、41b…流路(流出路)、43a…管