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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】止血弁付Y型コネクタ
(51)【国際特許分類】
   A61M 39/10 20060101AFI20221226BHJP
   A61M 39/06 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
A61M39/10 120
A61M39/06 122
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019110679
(22)【出願日】2019-06-13
(65)【公開番号】P2020199223
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591245624
【氏名又は名称】株式会社東海メディカルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】100129676
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼荒 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 基
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宏成
(72)【発明者】
【氏名】秋岡 貴生
【審査官】黒田 暁子
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-520652(JP,A)
【文献】特開2013-154066(JP,A)
【文献】特開2009-006051(JP,A)
【文献】特開2000-316986(JP,A)
【文献】特開2002-239012(JP,A)
【文献】特表2017-518150(JP,A)
【文献】特開2000-237321(JP,A)
【文献】特表2006-527605(JP,A)
【文献】登録実用新案第3189330(JP,U)
【文献】特表平07-501961(JP,A)
【文献】特表2018-531097(JP,A)
【文献】特開平11-004894(JP,A)
【文献】特表2002-537953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 39/10
A61M 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドワイヤ又はカテーテル等の線状に形成された導入部材が挿通する挿通部を長手方向に有する主管部及び前記主管部から側方方向に延びた側管部を有する本体部と、
前記本体部に挿通される前記導入部材が通過可能であるとともに、血液の流出を防止する止血弁と、を備えた止血弁付Y型コネクタにおいて、
前記止血弁は、基端部側中央の最も薄い部分が前記止血弁の最も厚い部分に対して1/2以下の厚さを有し、放射方向に向かって徐々に厚くなる凹状の止血弁用凹部が形成されており、前記止血弁用凹部の背面側に背面側から見た場合に放射状にV字状となる複数の薄肉部が形成されてなり、かつ中心から放射方向に複数のスリットを有してなり、
前記止血弁用凹部は、中心に、頂点に凹部が形成された中心厚肉部を有することを特徴とする止血弁付Y型コネクタ。
【請求項2】
前記止血弁用凹部は、基端部側中央の最も薄い部分が前記止血弁の最も厚い部分に対して1/3以下の厚さであることを特徴とする請求項1に記載の止血弁付Y型コネクタ。
【請求項3】
前記止血弁用凹部には、前記止血弁用凹部を開放するための押子の先端面と面接触可能な押子当接部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の止血弁付Y型コネクタ。
【請求項4】
前記止血弁は、外周に隙間が設けられるように配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の止血弁付Y型コネクタ。
【請求項5】
前記止血弁は、外周に突起が設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の止血弁付Y型コネクタ。
【請求項6】
前記止血弁は、外周の少なくとも一部に下方側の直径が小さくなるように傾斜面を有しており、前記傾斜面と略同一の傾斜面を有する支持面に載置されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の止血弁付Y型コネクタ。
【請求項7】
前記止血弁用凹部のスリットは、基端側に切られたスリットと、先端側に切られたスリットがねじれの位置にあることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の止血弁付Y型コネクタ。
【請求項8】
前記止血弁は、複数の部材が積層されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の止血弁付Y型コネクタ。
【請求項9】
ガイドワイヤ又はカテーテル等の線状に形成された導入部材が挿通する挿通部を長手方向に有する主管部及び前記主管部から側方方向に延びた側管部を有する本体部と、
前記本体部に挿通される前記導入部材が通過可能であるとともに、血液の流出を防止する止血弁と、を備えた止血弁付Y型コネクタにおいて、
前記止血弁は、基端部側中央の最も薄い部分が前記止血弁の最も厚い部分に対して1/2以下の厚さを有し、放射方向に向かって徐々に厚くなる凹状の止血弁用凹部が形成されており、前記止血弁用凹部の背面側に背面側から見た場合に放射状にV字状となる複数の薄肉部が形成されてなり、かつ中心から放射方向に複数のスリットを有してなり、
前記止血弁より先端側に、基端側が細く形成された固定弁を有し、
前記固定弁の基端側に配置され、先端側の面に凹部が形成されたプッシャーを有し、
前記プッシャーを先端側に移動させることによって、前記プッシャーの前記凹部によって前記固定弁を中心方向へ押圧することでガイドワイヤ又はカテーテルを固定し、
前記固定弁と、前記プッシャーとの間に前記固定弁を押圧する爪を有するクローザーを備えたことを特徴とする止血弁付Y型コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止血弁付Y型コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガイドワイヤやカテーテルを挿入したり又は引いたりする操作を容易にするために、止血弁付Y型コネクタが使用されている。止血弁付Y型コネクタとしては、カテーテルを通す筒状のメインブランチから、液剤注入用である筒状のサブブランチが分岐したYコネクタにおいて、メインブランチの内部に、筒状で長手方向の圧縮により孔の径が縮小し、当該孔に通されたカテーテルを固定する固定弁を設けるとともに、カテーテルの通過を包み込み状態で許容し、血液の流出を防止可能な第1止血弁及び第2止血弁を設け、更に、メインブランチの基端側に、長手方向に移動可能な筒状のオープナーを設けるとともに、第1止血弁のみを、オープナーの移動範囲内に配置したものが提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、かかる止血弁付Y型コネクタは、第1止血弁にカテーテルを通すときに中央部がカテーテル挿入方向へ押し出されるように撓ませて挿入されることになる。このような構造を採用すると、止血弁に挿入されたカテーテルを挿入したり又は引いたりする際の抵抗が大きくなりやすいという問題点があった。また、固定弁は、長手方向への圧縮により孔の径を縮小させてカテーテルを固定する構造であることから、固定するための中心部の縮小する比率が小さく、固定できるカテーテルやガイドワイヤの太さに制限があった。また、固定弁を固定させるスクリューを回す際に比較的強い力が必要である上、カテーテルの固定力の微妙な調整が難しいという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-261759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、止血弁にカテーテルを挿入する際に、止血弁の撓みを小さくし、挿入されるガイドワイヤやカテーテルの太さに応じて挿入したり又は引いたりする際の抵抗を減らして操作性の高いものとするとともに、固定弁の操作性をも向上させた止血弁付Y型コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明にかかる止血弁付Y型コネクタは、
ガイドワイヤ又はカテーテル等の線状に形成された導入部材が挿通する挿通部を長手方向に有する主管部及び前記主管部から側方方向に延びた側管部を有する本体部と、
前記本体部に挿通される前記導入部材が通過可能であるとともに、血液の流出を防止する止血弁と、を備えた止血弁付Y型コネクタにおいて、
前記止血弁は、基端部側中央の最も薄い部分が前記止血弁の最も厚い部分に対して1/2以下の厚さを有し、放射方向に向かって徐々に厚くなる凹状の止血弁用凹部が形成されており、かつ中心から放射方向に複数のスリットを有してなることを特徴とする。
【0008】
止血弁に、凹状の止血弁用凹部の最も薄い中央部分が止血弁の最も厚い部分に対して1/2以下の厚さとなるように薄肉の部分を設けることによって、ガイドワイヤやカテーテル等の導入部材の太さが細い場合には、抵抗の少ない薄い部分を通過させ、太さが太い場合には、抵抗が比較的高い厚い部分を通過させることができるため、導入部材の剛性に応じて適した抵抗力を有する止血弁を有する止血弁付Y型コネクタとすることができる。
【0009】
さらに、本発明にかかる止血弁付Y型コネクタにおいて、
前記止血弁用凹部は、基端部側中央に、最も薄い部分が前記止血弁の最も厚い部分に対して1/3以下の厚さであることを特徴とするものであってもよい。
【0010】
かかる構成を採用することによって、より細い導入部材を使用する場合にも好適な抵抗を有する止血弁とすることができる。
【0011】
さらに、本発明にかかる止血弁付Y型コネクタにおいて、
前記止血弁用凹部は、中心に、頂点に凹部が形成された中心厚肉部を有することを特徴とするものであってもよい。
【0012】
かかる構成を採用することによって、細い導入部材を挿入する場合に、凹部で導入部材の先端の位置決めを行うことができるため、細い導入部材をより挿入しやすい止血弁付Y型コネクタとすることができる。
【0013】
さらに、本発明にかかる止血弁付Y型コネクタにおいて、
前記止血弁用凹部には、前記止血弁用凹部を開放するための押子の先端面と面接触可能な押子当接部が設けられていることを特徴とするものであってもよい。
【0014】
このように押子当接部を設けることによって、押子を押した場合に、より早く止血弁を開放することができる。また、面接触で押し込むことになるためより確実に止血弁を開放することができる。
【0015】
さらに、本発明にかかる止血弁付Y型コネクタにおいて、
前記止血弁用凹部は、底面側に薄肉部が設けられていることを特徴とするものであってもよい。
【0016】
薄肉部を設けることによって、止血弁用凹部の下面の剛性を低くすることができ、止血弁用凹部を下方にたわみやすくすることができる。
【0017】
さらに、本発明にかかる止血弁付Y型コネクタにおいて、
前記止血弁は、外周に隙間が設けられるように配置されていることを特徴とするものであってもよい。
【0018】
外周に隙間を設けておくことによって、止血弁に導入部材を挿入した際に、止血弁が外周側に膨らむように広げることができるようになる。これによって、様々な太さの導入部材に対しても好適な抵抗力を有する止血弁付Y型コネクタとすることができる。
【0019】
さらに、本発明にかかる止血弁付Y型コネクタにおいて、
前記止血弁は、外周に突起が設けられていることを特徴とするものであってもよい。
【0020】
かかる突起を設けることによって、止血弁を載置領域の中心に位置決めしやすくすることができる。
【0021】
さらに、本発明にかかる止血弁付Y型コネクタにおいて、
前記止血弁は、外周の少なくとも一部に下方側の直径が小さくなるような傾斜面を有しており、前記傾斜面と略同一の傾斜面を有する支持面に載置されていることを特徴とするものであってもよい。
【0022】
かかる構成を採用することによって、止血弁を載置領域の中心に位置決めしやすくすることができる。
【0023】
さらに、本発明にかかる止血弁付Y型コネクタにおいて、
前記止血弁用凹部のスリットは、基端側に切られたスリットと、先端側に切られたスリットがねじれの位置にあることを特徴とするものであってもよい。
【0024】
かかる構成を採用することによって、スリットが完全に隙間を形成することを防止することができ、血流の通過を防止する止血効果を向上させることができる。
【0025】
さらに、本発明にかかる止血弁付Y型コネクタにおいて、
前記止血弁は、複数の部材が積層されていることを特徴とするものであってもよい。
【0026】
かかる構成を採用することによって、積層される止血弁の各層に形状の異なる止血弁を選択することで、異なる形状の止血弁を作製することができるようになる。
【0027】
さらに、本発明にかかる止血弁付Y型コネクタにおいて、
前記止血弁より先端側に、基端側が細く形成された固定弁を有し、
前記固定弁の基端側に配置され、先端側の面に凹部が形成されたプッシャーを有し、
前記プッシャーを先端側に移動させることによって、前記プッシャーの前記凹部によって前記固定弁を中心方向へ押圧することでガイドワイヤ又はカテーテルを固定することを特徴とするものであってもよい。
【0028】
本発明にかかる固定弁によれば、長手方向に圧縮するのではなく、直接導入部材側方向へ固定弁を移動させることができるので、より太さの異なる導入部材に対して対応が可能である。また、微妙な固定強度の調整を行うことが可能になる。
【0029】
さらに、本発明にかかる止血弁付Y型コネクタにおいて、
前記固定弁と、前記プッシャーとの間に前記固定弁を押圧する爪を有するクローザーを備えたことを特徴とするものであってもよい。
【0030】
かかる構成を採用することによって、固定弁に対して捩り方向に力が加わることを防止することができるため、捩りが戻ったりした場合に固定力が変化するといった事態を低減することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明にかかる止血弁付Y型コネクタによれば、ガイドワイヤ又はカテーテル等の導入部材の外径に応じて適した止血性能と通過性を有する止血弁付Y型コネクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、第1実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100の正面図である。
図2図2は、第1実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100の断面図である。
図3図3は、第1実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100の分解斜視図である。
図4図4は、第1実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100の固定弁30を締め付けた状態を示す断面図である。
図5図5A及び図5Bは、第1実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100の止血弁60を示す斜視図であり、図5Cは断面図である。
図6図6は、第1実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100の止血弁60の変形例を示す断面図である。
図7図7は、第1実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100の止血弁60の応用例を示す斜視図である。
図8図8は、第1実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100の止血弁60の応用例を用いた場合の止血弁付Y型コネクタ100を示す断面図である。
図9図9は、第1実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100の止血弁60の応用例を示す断面図である。
図10図10は、第2実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100の断面図である。
図11図11は、第2実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100の固定弁30を締め付けた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、本発明にかかる止血弁付Y型コネクタ100の実施形態について、図を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。なお、説明の便宜のため、特許請求の範囲及び明細書において、「基端側」及び「先端側」とは、止血弁付Y型コネクタ100に対して、図1に示すように、上方側(手元側)を「基端側」といい、下方側(遠位端側)を「先端側」という。
【0034】
第1実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100は、主として、図1及び図2に示すように、主管部11及び側管部12とを有する本体部10と、本体部10の基端側に取り付けられる固定弁30と、クローザー40と、プッシャー50と、止血弁60と、スクリューキャップ70と、押子80と、を備えている。
【0035】
本体部10は、図1又は図2に示すように、基端側から先端側まで長手方向に延びた主管部11とこの主管部11の中位から側方方向へ延びた側管部12とを有する。主管部11は、ガイドワイヤ又はカテーテル等の細長い線状の導入部材90が挿通される長手方向に貫通した挿通部11aを有しており、基端側は、固定弁30と、クローザー40及びプッシャー50の一部とが収納可能なように直径が長く拡開された挿通部11bが形成されている。側管部12は、薬液や造影剤等を注入するため部分であり、端部に薬剤注入器等が接続可能となるようにネジ溝12aが螺刻されている。
【0036】
固定弁30は、比較的長い時間、導入部材90を強く固定するために使用されるものであり、導入部材90を周囲から押し付けることによって固定することができる。固定弁30は、エラストマー、ゴム、シリコン等の弾性体で作製され、図2又は図3に示すように、基端側が細く先端側が太くなるように形成された略円錐台形に形成されており、基端側から先端側まで導入部材90が挿通される挿通孔31が形成されている。第1実施形態においては、後述するクローザー40の内面と適合するように段差32が設けられている。段差32を設けることによってクローザー40の先端側から順に締め付けることになるため、導入部材90の固定の強さを調整しやすくすることができる。
【0037】
クローザー40は、前述した固定弁30を締め付けるための部材であり、図2又は図3に示すように、内側へ可倒可能な複数の爪41が円筒形の基部42から上方に延設されている。爪41は、固定弁30の周囲に少なくとも一部が密着するように形成されており、図4に示すように、爪41を内側へ可倒させて、固定弁30の挿通孔31を狭く締め付けることで導入部材90を固定することができる。
【0038】
プッシャー50は、クローザー40を締め付けて固定弁30により導入部材90を締め付ける機能と、止血弁60を支持する機能とを有する。プッシャー50は、中心に基端側から先端側へ貫通する貫通孔55が形成されるとともに、底面側が略球面又は楕円球面となるような凹部50aが形成されており、プッシャー50を先端側へ移動させることにより、凹部50aの内面が固定弁30の先端又は/及びクローザー40の爪41を押圧し、固定弁30の先端又は/及びクローザー40の爪41を導入部材90側(中心方向)へ移動させることができる。また、プッシャー50は、基端側に円筒形の凹状部51が、直径の狭い円筒からなる下段凹状部51a、直径の狭い円筒部からなる上段凹状部51bとなるように下方から段差を有するように設けられている。この上段凹状部51bには、止血弁60が載置される。
【0039】
止血弁60は、導入部材90を挿入又は抜き取りするために固定弁30の固定を開放した際に、血液が流れ出すことを防止するための部材である。止血弁60は、図5Aに示すように、全体が薄い円盤状に形成されており、導入部材90が挿入される部位の基端側の面には、中心から徐々に厚くなるように凹状に形成された止血弁用凹部61が形成されている。止血弁用凹部61は、図5Cに示すように、少なくとも止血弁60の最も薄い部分βが止血弁60の最も厚い部分αの厚さの1/2以下の厚さとなるように円錐状又は球面状に形成される。より好ましくは3/1以下の厚さとなるように設けることが好ましい。これにより、中心から周囲方向にいくに従って止血弁60の弁が厚くなるように形成されるため、細いガイドワイヤのように剛性が低く挿入力が弱い場合には、中心の薄い部分から挿入させることができ、カテーテルのように剛性が比較的高く挿入力が強い場合には、ある程度厚みがある場所でも問題なく挿入させることができ、挿入させる部材の太さによって通過性を確保させつつ、止血性能を向上させることができる。また、同様に挿入させた後も導入部材90の太さに応じて抵抗力が働くため、適切な力で導入部材90を移動させることができる。止血弁60は、図5Bに示すように、さらに、中心から放射方向に複数のスリット62が形成されている。好ましくは、第1実施形態のように、基端側から途中まで切り込みを入れた上側スリット62aと、下端側から途中まで切り込みを入れた下側スリット62bがねじれの位置となるように配置するとよい。なお、スリット62の数は特に限定するものではない。また、細いガイドワイヤにおいても止血性能を向上させるために、図6Aに示すように、中心部近傍のみ厚く形成された中心肉厚部63を形成してもよい。この場合、火山口のように、さらに中心に中心凹部64を設けることで細いガイドワイヤの先端を止血弁60の中心に位置決めしやすくなる。これら止血弁60は、一体で作製する必要はなく、図6Bに示すように、止血弁用凹部61が形成されている上方止血弁60aと下方止血弁60bとに分離して形成し、重ねて使用してもよい。このように分割して形成することによって、止血弁用凹部61の厚みや、スリット62の形態、スリット62の幅等が異なる上方止血弁60aと下方止血弁60bとを組み合わせて使用することができ、最適な形態のものを選択して積層して使用することができる。また、止血弁60は、図6Cに示すように、先端側に凹状に形成された先端側凹部66を設けても構わない。
【0040】
こうして作製された止血弁60は、プッシャー50の上段凹状部51bに配置される。この際に、止血弁60は、上段凹状部51bの内壁面より一回り小さく作製されており、上段凹状部51bの内壁面と止血弁60との外周面との間には、隙間γ(図2参照)が形成されている。このため、止血弁60に導入部材90を挿入した際に、導入部材90に押されて止血弁60の外周側は周囲に広がることができ、異なる太さの導入部材90を挿入した場合でも抵抗力に大きな差ができることなく適した押圧力を確保することができる。
【0041】
止血弁60は、以下のように応用して使用することもできる。図7Aに示すように、押子80の先端によって押し込まれる部位に、押子80が当接する押子当接部69を設けたものである。押子当接部69は、図8に示すように、外周の面と同一平面になるように形成されており、押子80を下方に押し下げた場合に、押子80の先端の平面によって面で押圧するように形成された面である。このように押子当接部69を設けることによって、上記の止血弁60と比較して押子80を押した場合に、より早く止血弁60を開放することができ、かつ面接触で押し込むことになるためより確実に止血弁60を開放することができる。また、止血弁60の止血弁用凹部61に押子当接部69が設けられることによって、内径が小さくなることから、内側からの圧力に対して形状をしっかり支えることができる。また、図7Bに示すように、押子当接部69を全周に設けても良い。すなわち、スリット62より内側に小さい止血用凹部61が形成されるように設けられる。このような構成とすることによって、押子80の先端全面で押子当接部69を押圧することができる。このように押子当接部69を全周に設けた場合には、背面側に薄肉部69aを設けることで剛性を低くし、止血弁用凹部61が下方方向にたわみやすいように形成してもよい。かかる構成を採用することによって、ガイドワイヤやカテーテルを通過させやすくするこができる。
【0042】
また、止血弁60及びプッシャー50とは、以下のように応用して使用することもできる。図9Aには、止血弁60の応用例1が示されている。応用例1のプッシャー50は、プッシャー50の凹状部51の上段凹状部51b及び下段凹状部51aとの間に、下方側の直径が小さくなるような傾斜面51cを有しており、この傾斜面51cが止血弁60の支持面を形成する。止血弁60は、この傾斜面51cとほぼ同様の傾斜面65を有するように形成され、対向するように配置可能に形成されている。このような形態を採用することによって、止血弁60は、載置した後先端方向へ押圧すれば、自動的にプッシャー50の凹状部51の中心に配置されることになる。
【0043】
図9Bには、止血弁60とプッシャー50との関係の応用例2が示されている。応用例2のプッシャー50の凹状部51は、段差を有しておらず、略円筒形に形成されており、円筒形の下端に止血弁60の支持面が形成されている。止血弁60は、円筒形よりわずかに直径が小さい円筒形に形成されており、高さはプッシャー50の凹状部51の高さと同等の高さに形成されている。止血弁60の外周には、複数の柔軟な突起68が設けられており、この突起68によって止血弁60が中心に配置されるようになっている(図9Bでは、凹状部51の内壁面から突出するように描かれているが、実際には押しつぶされた状態で配置される。)。このように形成することで、止血弁60を中心に配置可能であるとともに、導入部材90が挿入された場合には、突起68はさらに押しつぶされて止血弁60は周囲に広げることができる。
【0044】
スクリューキャップ70は、固定弁30と、クローザー40と、プッシャー50と、止血弁60を本体部10に収納するための蓋部材としての機能を有するとともに、プッシャー50の位置を本体の長手方向に対して調整する機能を有する。スクリューキャップ70は、本体部10の基端側の外周に形成されたネジ山と係合可能なネジ山が内周に形成された筒状の部材であり、回転させることにより、プッシャー50を押し下げたり、引き上げたりすることができる。
【0045】
押子80は、図2に示すように、基端側に操作用円盤部81を有し、この操作用円盤部81からスクリューキャップ70内に延設された延設部82を有している。この押子80は、スクリューキャップ70に対して長手方向に移動可能に設けられており、押子80を押すと、延設部82の先端は止血弁60の止血弁用凹部61を押圧して止血弁60の弁を開口することができる。すなわち、止血弁60の弁を開くことにより、導入部材90を挿入しやすくしたり、固定されている導入部材90を開放して、挿入したり、引き出したりしやすくすることができる。この押子80は、図3に示すように、延設部82の外周にスクリューキャップ70に形成された係合片72と係合可能な係合凹部84を有しており、押子80を回転させることによって同時にスクリューキャップ70をも回転させることができる。また、押子80にはスクリューキャップ70から完全に外れることを防止するためにスクリューキャップ70の係合片72と係合する外れ防止片86が設けられている。
【0046】
さらに、本体部10の先端には、任意にローテーター85を設けても良い。ローテーター85は、図2に示すように、導入部材90が挿通される基端側と先端側が貫通した貫通孔85aと、その周囲に形成された円形溝85bとを有している。この円形溝85bには、ガイディングカテーテルその他のカテーテルを接続することができる。
【0047】
以上のように作製された止血弁付Y型コネクタ100の使用方法の一例を示す。まず、ローテーター85の円形溝85bにガイディングカテーテル(図示しない。)を取り付ける。この状態でガイディングカテーテルを治療部位まで挿入する。その後、固定弁30を開いた状態でガイドワイヤを挿入する。この際に止血弁60は閉じた状態であってもよいし、開いた状態であってもよい。本実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100は、ガイドワイヤを挿入する部位が薄く形成され、かつ周囲に広がることができるので、細いガイドワイヤであっても容易に挿入することができる。もちろん、術者の操作性に応じて押子80を若干押した状態で止血弁60を血流が逆流しない程度にわずかに開いた状態で挿入しても構わない。そしてガイドワイヤが治療部位まで到達した後、カテーテルをガイドワイヤに沿って挿入する。この際もガイドワイヤ挿入時と同様に止血弁60は閉じた状態であっても開いた状態であってもよい。止血弁60が閉じた状態であっても止血弁60は周囲に広がることができるので、適度な抵抗力で挿入させることができる。その後、スクリューキャップ70をねじることでプッシャー50を先端側に押し下げると、図4に示すように、クローザー40の爪41が内側へ押圧され、固定弁30の周囲から中心方向へ押圧し、固定弁30の中心が狭くなりカテーテルを固定することができる。この状態から、ガイドワイヤを引き抜く。この際には、止血弁60が閉じているので、血流が逆流することは低減することができる。その後、治療方法に応じて、バルーンカテーテルや、ステント等の治療器具をカテーテルのルーメンを利用して挿入して治療がなされる。治療が終了した後に、カテーテルを引き抜く際には、固定弁30を開放する。これにより血流は止血弁60まで逆流するが、止血弁60で止められ、それ以上逆流することが防止される。そして、カテーテルを引き抜いた後、ガイディングカテーテルを引き抜き、治療が終了する。
【0048】
本実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100によれば、導入部材90を挿通させる場合に、止血弁用凹部61によって挿通される際の抵抗が減少されていることから、導入部材90の太さにかかわらず挿入しやすいものとすることができる。また挿入された後の挿入又は抜き取りにおいても、止血弁60は、上段凹状部51bより一回り小さく作製されており、周囲に広がることができることから挿入される導入部材90の太さが太くなっても導入部材90を押圧する押圧力が強くなる率を低く抑えることができるので、通過性能を低下させることを低減することができる。
【0049】
また、中央部のみ肉厚を厚く形成した止血弁60を使用することによって、特に細いガイドワイヤを使用した場合には、ガイドワイヤの先端の位置決めを容易にし、通過性を確保しつつ、止血性能をも向上させることができる。
【0050】
また、固定弁30により導入部材90を固定する場合には、本実施形態による固定弁30は、押しつぶされるものではなく、直接的に固定弁30をクローザー40によって中心方向へ移動させるものであるので、固定力を調整しやすいものとすることができる。また、固定弁30に対してプッシャー50の回転が伝達されることはないため、固定弁30がねじれたりする可能性を低減することができる。これにより、安定した固定力を発生させることができる。また、押しつぶす場合と比較して中心を締め付ける調整幅が広がり、太いカテーテルから細いガイドワイヤまで適切に対応することができる。
【0051】
(第2実施形態)
第2実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100が図10及び図11に示されている。第2実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100の本体部10と、プッシャー50と、止血弁60、スクリューキャップ70と、押子80は、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0052】
第2実施形態にかかる止血弁付Y型コネクタ100は、第1実施形態に対してクローザー40を有しない点が大きく異なる。固定弁30に対して、図11に示すようにプッシャー50が直接に固定弁30を締め付けて導入部材90を固定する構成としてある。かかる構成を採用することによってクローザー40を必要とすることなく、固定弁30を中心方向へ移動させて導入部材90を固定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
上述した実施の形態で示すように、ガイドワイヤやカテーテルによる手術における補助具としてとして利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
10…本体部、11…主管部、11a…挿通部、11b…挿通部、12…側管部、12a…ネジ溝、30…固定弁、31…挿通孔、32…段差、40…クローザー、41…爪、42…基部、50…プッシャー、50a…凹部、51…凹状部、51a…下段凹状部、51b…上段凹状部、51c…傾斜面、55…貫通孔、60…止血弁、60a…上方止血弁、60b…下方止血弁、61…止血弁用凹部、62…スリット、62a…上側スリット、62b…下側スリット、63…中心肉厚部、64…中心凹部、65…傾斜面、66…先端側凹部、68…突起、70…スクリューキャップ、72…係合片、80…押子、81…操作用円盤部、82…延設部、84…係合凹部、85…ローテーター、85a…貫通孔、85b…円形溝、86…防止片、90…導入部材、100…止血弁付Y型コネクタ


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11