IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 根上工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】セルロース粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/16 20060101AFI20221226BHJP
   C08B 3/06 20060101ALI20221226BHJP
   C08B 1/00 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
C08J3/16 CEP
C08B3/06
C08B1/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021562480
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2020038105
(87)【国際公開番号】W WO2021111730
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2019220328
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390028048
【氏名又は名称】根上工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】西田 恵子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 慶
(72)【発明者】
【氏名】田村 要
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-083144(JP,A)
【文献】特開平06-254373(JP,A)
【文献】特開平06-145202(JP,A)
【文献】特開昭53-086749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28;99/00
C08B 1/00-37/18
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸セルロースが有機溶媒に溶解した酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させ、前記酢酸セルロース溶液が水中に分散した懸濁液を調製し、
前記懸濁液から前記有機溶媒を除去し、酢酸セルロース粒子が水中に分散した水性分散液を得て、
酢酸濃度が0.5ppm以下となるように、前記酢酸セルロース粒子を鹸化してセルロース粒子とする、セルロース粒子の製造方法であって、
前記酢酸セルロース溶液の25℃における粘度が2000~300000mPa・sであり、
前記懸濁液を調製する際に、前記酢酸セルロース溶液の1.0質量部に対して、水を0.2~1.0質量部の割合で添加し、次いで、攪拌することにより、水相が有機溶媒相に対して分散している状態から、有機溶媒相が水相に分散している状態へ、逆転させることにより、前記酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させる、セルロース粒子の製造方法。
【請求項2】
メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも一つ以上のセルロース系水溶性樹脂の存在下で、前記酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させる、請求項1に記載のセルロース粒子の製造方法。
【請求項3】
界面活性剤の存在下で前記酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させる、請求項1又は2に記載のセルロース粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース粒子、セルロース粒子の製造方法に関する。
本願は、2019年12月5日に、日本に出願された特願2019-220328号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリルビーズ、ポリスチレンビーズ、ポリウレタンビーズ等の粒子が、塗料、プラスチック、粘着剤、化粧品等の種々の製品に使用されている。
近年、海洋環境におけるマイクロプラスチックの問題が大きく取り上げられているため、天然物を原料とするマイクロメートルスケールのセルロース粒子のニーズが高まっている。
【0003】
セルロース粒子の製造方法としては、特許文献1に記載の方法が知られている。特許文献1には下記の方法1、2が記載されている。
・方法1:セルロースエステルの有機溶媒中の溶液を原液として、乾式紡糸法により製造したセルロースエステルのフィラメントを切断してチップとし、チップを媒体中で加熱溶融することによりセルロースエステルの球状粒子を形成し、次いで球状粒子を鹸化する方法。
・方法2:セルロースエステルの有機溶媒中の溶液を原液として、原液をその有機溶媒に溶解しないかまたはわずかしか溶解しない媒体中に懸濁させ、懸濁粒子を含有する媒体を加熱して有機溶媒を蒸発させることにより、セルロースエステルの球状粒子を形成し、次いで球状粒子を鹸化する方法。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭55-40618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、方法1、2で得られるセルロース粒子にあっては、酢酸セルロースとセルロースの混合物を主成分とするため、酢酸セルロースの割合が高くなり、粒子に酢酸臭が残る場合がある。酢酸臭が残存したセルロース粒子にあっては、塗料、プラスチック、粘着剤、化粧品等の製品に適用した際に、これらの製品の用途が限定されるおそれがある。
【0006】
加えて、一般に酢酸セルロースが有機溶媒に溶解した溶液は粘度が著しく高くなる。そのため、液滴化できる程度の粘度となるように酢酸セルロース溶液中の酢酸セルロースの濃度を低くすると、酢酸セルロースの仕込み量が少なくなり、セルロース粒子の収量が低下する。一方で、酢酸セルロース溶液中の酢酸セルロースの濃度を高くすると、酢酸セルロース溶液の液滴化が困難である。
このように従来の方法では、低コストでマイクロメートルスケールのセルロース粒子を製造できない。
そこで本発明は、酢酸臭が抑えられたセルロース粒子;前記セルロース粒子を低コストで簡便に製造できるセルロース粒子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記の態様を有する。
[1] 平均粒子径が1~300μmであり、酢酸濃度が0.5ppm以下である、セルロース粒子。
[2] 球状である、[1]のセルロース粒子。
[3] セルロースの含有量が92質量%以上である、[1]または[2]のセルロース粒子。
[4] 酢酸セルロースが有機溶媒に溶解した酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させ、酢酸セルロース粒子が水中に分散した懸濁液を調製し、前記懸濁液から前記有機溶媒を除去し、酢酸濃度が0.5ppm以下となるように、前記酢酸セルロース粒子を鹸化してセルロース粒子とする、セルロース粒子の製造方法。
[5] 前記懸濁液を調製する際に、前記酢酸セルロース溶液に水を添加し、次いで、水相と有機溶媒相とを逆転させることにより、前記酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させる、[4]のセルロース粒子の製造方法。
[6] 前記酢酸セルロース溶液の粘度が2000~300000mPa・sである、[4]または[5]のセルロース粒子の製造方法。
[7] メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも一つ以上のセルロース系水溶性樹脂の存在下で、前記酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させる、[4]~[6]のいずれかのセルロース粒子の製造方法。
[8] 界面活性剤の存在下で前記酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させる、[4]~[7]のいずれかのセルロース粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酢酸臭が抑えられたセルロース粒子が提供される。
本発明によれば、酢酸臭が抑えられたセルロース粒子を低コストで簡便に製造できるセルロース粒子の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<セルロース粒子>
本発明のセルロース粒子は、セルロースを含む粒子である。通常、セルロース粒子は球状の粒子である。ただし、セルロース粒子の形状は球状に限定されない。2以上の粒子が結合した凝集物、異形のセルロース粒子が微量ながらも製造の際に意図せずに混入する可能性がある。
本発明のセルロース粒子は、後述のように酢酸濃度がきわめて低水準に低減されていることから、実質的にセルロースからなる粒子であるとも言える。このように本発明のセルロース粒子は、セルロースの割合が非常に高く、高純度のセルロース粒子である。
本発明のセルロース粒子は、本発明の効果を損なわない範囲内で、セルロース以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分としては、例えば、微量の酢酸セルロース、懸濁安定剤、界面活性剤、水分、製造時に残存した有機溶媒、有機フィラー、無機フィラー、顔料、薬材等が挙げられる。ただし、他の成分はこれらの例示に限定されない。
ここで、セルロース粒子の主要な成分の組成について言及すると、セルロースの含有量は、1粒のセルロース粒子100質量%に対して、92質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましい。
水分の含有量は、1粒のセルロース粒子100質量%に対して、8質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。
有機溶媒の含有量は、1粒のセルロース粒子100質量%に対して、0.01質量%以下が好ましく、0.008質量%以下がより好ましく、0.005質量%以下がさらに好ましい。
【0010】
本発明のセルロース粒子においては、酢酸濃度が0.5ppm以下である。酢酸濃度が0.5ppm以下の範囲内であれば、酢酸濃度は特に限定されず、セルロース粒子が適用される製品、製品の用途に応じて、酢酸濃度は適宜変更できる。例えば、酢酸濃度は、0.3ppm以下が好ましく、0.2ppm以下がより好ましい。酢酸濃度が0.5ppm以下であることにより、セルロース粒子において脱アセチル化の進行が充分であり、酢酸セルロースの残存が極めて低水準に低減され、酢酸臭が抑えられる。一方、酢酸濃度が0.5ppmを超えると、脱アセチル化の進行が不充分であり、粒子に酢酸セルロースが残存し、酢酸臭が残る。
ここで、セルロース粒子の酢酸濃度は、ヘッドスペース-ガスクロマトグラフ-質量分析計(例えば、Agilent社製「Agilent 7697A HeadspaceSampler、Agilent 7890B GCsystem、Agilent 5977B MSD」)を用いて測定できる。
【0011】
セルロース粒子の体積平均粒子径は、1~300μmである。前記数値範囲内であれば、セルロース粒子が適用される製品、製品の用途に応じて、セルロース粒子の体積平均粒子径は適宜変更できる。セルロース粒子の体積平均粒子径は、例えば、1~150μmが好ましく、1~50μmがより好ましい。セルロース粒子の体積平均粒子径が1~300μmの範囲内であると、球状のセルロース粒子の製造が容易である。
ここで、セルロース粒子の体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計(例えば、株式会社島津製作所製「SALD2100」)を用いて測定し得られたデータより求めた積算体積50%粒子径である。
【0012】
(作用効果)
以上説明した本発明のセルロース粒子は、酢酸濃度が0.5ppm以下であるため、後述の実施例で示すように、セルロース粒子の酢酸臭が低減される。
【0013】
<セルロース粒子の製造方法>
本発明のセルロース粒子の製造方法では、酢酸セルロースが有機溶媒に溶解した酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させ、酢酸セルロース粒子が水中に分散した懸濁液を調製し、前記懸濁液から前記有機溶媒を除去し、酢酸濃度が0.5ppm以下となるように、前記酢酸セルロース粒子を鹸化してセルロース粒子とする。酢酸セルロース粒子を鹸化してセルロース粒子とした後さらに、固液分離により水を除去し、セルロース粒子を乾燥させてもよい。
本発明のセルロース粒子の製造方法は、下記の工程(a)~工程(c)を有するとも言え、工程(a)~工程(c)に加えて下記の工程(d)をさらに有してもよいとも言える。
工程(a):酢酸セルロースが有機溶媒に溶解した酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させ、酢酸セルロース粒子が水中に分散した懸濁液を調製する工程。
工程(b):前記懸濁液から前記有機溶媒を除去する工程。
工程(c):酢酸濃度が0.5ppm以下となるように、前記酢酸セルロース粒子を鹸化してセルロース粒子とする工程。
工程(d):工程(c)で得られた鹸化後の水性分散液から水を除去し、セルロース粒子を乾燥させる工程。
【0014】
工程(a)では、酢酸セルロースが有機溶媒に溶解した酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させ、酢酸セルロース粒子が水中に分散した懸濁液を調製する。酢酸セルロース溶液において、酢酸セルロースは有機溶媒に溶解しているため、酢酸セルロースを水中に懸濁させると、酢酸セルロース溶液が油分となり、水中に分散して、油滴を形成し、酢酸セルロースが水中に分散した懸濁液が得られる。
【0015】
本発明における酢酸セルロースは、アセチル基の置換度、酢化率等に特に制限はない。
酢酸セルロースとしては、例えば、モノアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
有機溶媒としては、酢酸セルロースを溶解し得る化合物であれば特に制限されない。ただし、有機溶媒としては、水への溶解度が低いものが好ましい。また、有機溶媒としては、1013hPaにおける水との共沸点が100℃以下であるものが好ましい。
1013hPaにおける水との共沸点が100℃以下である有機溶媒としては、例えば、芳香族化合物(例えば、トルエン、ベンゼン等)、エステル化合物(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ケトン化合物(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等)、飽和脂肪族炭化水素(例えば、n-ヘプタン、n-ヘキサン、n-オクタン等)等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
工程(a)では、酢酸セルロース溶液に水を添加し、次いで、水相と有機溶媒相を逆転させることにより、酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させることが好ましい。ここで、「水相と有機溶媒相を逆転させる」とは、セルロース溶液と水の混合液の分散状態を下記の状態1から状態2に変化させることを意味する。
・状態1:水相が有機溶媒相に対して分散している状態。
・状態2:有機溶媒相が水相に対して分散している状態。
例えば、ビーカー、フラスコ等の容器に調製した酢酸セルロース溶液に、水又は後述の分散媒水溶液を添加し、次いで、水相と有機溶媒相とを逆転させる、という手法を採用できる。この場合、酢酸セルロース溶液の粘度が相対的に高い場合であっても、相対的に粘度の低い水又は分散媒水溶液を使用することで、酢酸セルロース粒子をマイクロメートルスケールで粒子化しやすくなる。このように、酢酸セルロース溶液に対して、水を添加するという手法を採用すると、酢酸セルロース溶液の粘度にかかわらず、マイクロメートルスケールで粒子化することができる点で、さらに簡便にセルロース粒子を製造することが可能となる。
水相と有機溶媒相とを逆転させる際には、撹拌機を使用して攪拌するとよい。
【0018】
酢酸セルロース溶液に、水を添加する際の酢酸セルロース溶液の質量W1に対する水の質量W2の比(W2/W1)は、0.2~3.0が好ましく、0.25~2.0がより好ましく、0.3~1.0がさらに好ましい。前記比(W2/W1)が前記下限値以上であると、十分な酢酸セルロースの仕込み量を確保したうえで、有機溶媒に対する水の使用量が充分量となり、懸濁を行いやすいと考えられる。前記比(W2/W1)が前記上限値以下であると、有機溶媒に対する水の添加量が過剰量となりにくいと考えられる。
【0019】
酢酸セルロース溶液の粘度は、用途に応じて適宜設定されるが、2000~300000mPa・sが好ましく、5000~250000mPa・sがより好ましく、10000~200000mPa・sがさらに好ましい。酢酸セルロース溶液の粘度が前記上限値以下であると、酢酸セルロース溶液が製造機械のシャフトに絡みつく等の問題が起きにくくなり、粒子化が容易である。酢酸セルロース溶液の粘度が前記下限値以上であると、一度の製造におけるセルロース粒子の収量が充分に多くなり、さらに低コストでセルロース粒子を得ることができる。
ここで、粘度はBL型回転粘度計(例えば、東機産業株式会社製「RB-85L」)を用いて温度25℃の条件下で測定される値である。
【0020】
本発明のセルロース粒子の製造方法では、懸濁安定剤の存在下で酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させることが好ましい。懸濁安定剤は、例えば、分散媒となる水にあらかじめ添加してもよい。懸濁安定剤を使用すると、懸濁状態が安定化する傾向があり、セルロース粒子をさらに簡便に製造できる。
懸濁安定剤としては、例えば、セルロース系水溶性樹脂(メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、第3燐酸塩類等が挙げられる。これらの懸濁安定剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明のセルロース粒子の製造方法では、界面活性剤の存在下で酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させることが好ましい。界面活性剤は、例えば、分散媒となる水にあらかじめ添加してもよい。界面活性剤を使用すると、懸濁状態が安定化する傾向があり、セルロース粒子をさらに簡便に製造できる。
界面活性剤は特に限定されず、アニオン系界面活性剤でもよく、カチオン系界面活性剤でもよく、ノニオン系界面活性剤でもよく、両性界面活性剤でもよい。
これらの界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
工程(a)では、分散媒水溶液をあらかじめ調製し、分散媒水溶液と酢酸セルロース溶液とを混合し、酢酸セルロース溶液を分散媒水溶液に懸濁させ、酢酸セルロース粒子が水中に分散した懸濁液を得ることが好ましい。分散媒水溶液と酢酸セルロース溶液との混合の際には、例えば、撹拌機を使用して攪拌するとよい。
【0023】
分散媒水溶液としては、水と上述の懸濁安定剤と上述の界面活性剤とを含む液体が好ましい。
分散媒水溶液中の懸濁安定剤の含有量は、水100質量%に対して、0~10質量%が好ましく、0.2~8質量%がより好ましく、0.3~7質量%がさらに好ましい。懸濁安定剤の含有量が前記下限値以上であると、酢酸セルロース粒子の懸濁状態が安定しやすく、セルロース粒子をさらに簡便に製造できる。懸濁安定剤の含有量が前記上限値以下であると、懸濁液の粘度が高くなり過ぎず、懸濁液が製造機械のシャフトに絡みつく等の問題が起きにくくなり、粒子化が容易である。
分散媒水溶液中の界面活性剤の含有量は、水100質量%に対して、0~5質量%が好ましく、0.1~3質量%がより好ましく、0.2~1.5質量%がさらに好ましい。分散媒水溶液中の界面活性剤の含有量が前記下限値以上であると、酢酸セルロース粒子の懸濁状態が安定しやすく、セルロース粒子をさらに簡便に製造できる。分散媒水溶液中の界面活性剤の含有量が前記上限値以下であると、攪拌による懸濁液の泡立ちが起きにくく、セルロース粒子の製造がさらに容易となる。
【0024】
工程(b)では、懸濁液から有機溶媒を除去する。懸濁液においては酢酸セルロース粒子および有機溶媒が油分として水中に分散していると考えられる。そのため、工程(b)で有機溶媒を懸濁液から除去することで、酢酸セルロース粒子が水中に分散した水性分散液が得られる。
工程(b)では、酢酸セルロース粒子が分散した懸濁液を、前記有機溶媒の水との共沸点以上に加熱することで、有機溶媒を除去することが好ましい。工程(b)で前記有機溶媒の水との共沸点以上に加熱することで、有機溶媒を充分に除去でき、セルロース粒子に残存する有機溶媒の量をきわめて低水準に低減できる。
加熱温度は、1013hPaで100℃以下が好ましい。ここで有機溶媒を除去した後には、酢酸セルロース粒子は水に分散したスラリー状となっている。酢酸セルロース粒子の加熱温度を100℃超とすると有機溶媒とともに水も揮発して除去されるため、酢酸セルロース粒子同士が融着するおそれがある。
【0025】
工程(c)では、セルロース粒子の酢酸濃度が0.5ppm以下となるように、酢酸セルロース粒子を鹸化してセルロース粒子とする。鹸化反応は、例えば、酢酸セルロース粒子が水中に分散した水性分散液と塩基性化合物とを混合し、必要に応じて加熱することで行うことができる。
鹸化に使用する塩基性化合物は、特に制限されない。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0026】
工程(c)の鹸化の際には、セルロース粒子の酢酸濃度が0.5ppm以下となるように酢酸セルロース粒子を鹸化する。
セルロース粒子の酢酸濃度が0.5ppm以下となるように鹸化するための具体的な手段としては、例えば下記の手段1~3が挙げられる。下記の手段1~3は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて併用してもよい。
・手段1:鹸化反応の反応時間をセルロース粒子の酢酸濃度が0.5ppm以下となるように充分に長くする方法。
・手段2:鹸化反応の反応温度をセルロース粒子の酢酸濃度が0.5ppm以下となるように充分に高くする方法。
・手段3:鹸化に使用する塩基性化合物中の水酸基の物質量を酢酸セルロース中のアセチル基の置換度、酢化率に応じて適宜調整し、セルロース粒子の酢酸濃度を0.5ppm以下とする方法。
【0027】
手段1に関し、鹸化反応の反応時間は1.5時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、3時間以上がさらに好ましい。鹸化反応の反応時間が前記下限値以上であると、酢酸臭を低減するのに充分な鹸化反応が起き、脱アセチル化が充分に進行しやすく、セルロース粒子の酢酸臭を低減しやすい。鹸化反応の反応時間の上限値は、製造効率を考慮して適宜設定できる。鹸化反応の反応時間は、例えば、4時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましく、2時間以下がさらに好ましい。鹸化反応の反応時間が前記上限値以下であると、一回の製造工程に要する時間を短縮でき、製造効率が高くなる。
【0028】
手段2に関し、鹸化反応の反応温度は、90℃以上が好ましく、93℃以上がより好ましく、95℃以上がさらに好ましい。鹸化反応の反応時間が前記下限値以上であると、酢酸臭を低減するのに充分な鹸化反応が起き、脱アセチル化が充分に進行しやすく、セルロース粒子の酢酸臭を低減しやすい。鹸化反応の反応温度は、100℃以下が好ましく、98℃以下がより好ましく、95℃以下がさらに好ましい。鹸化反応の反応温度が前記上限値以下であると、必要以上に反応液(酢酸セルロース粒子の水性分散液)を加温しなくて済み、低コストでセルロース粒子をさらに簡便に製造できる。
【0029】
手段3に関し、塩基性化合物中の水酸基の物質量は、酢酸セルロースのアセチル基のモル数100モル%に対して、90モル%以上とすることが好ましく、95モル%以上とすることがより好ましく、98モル%以上とすることがさらに好ましい。塩基性化合物中の水酸基の物質量が前記下限値以上であると、酢酸臭を低減するのに充分な鹸化反応が起き、脱アセチル化が充分に進行しやすく、セルロース粒子の酢酸臭を低減しやすい。塩基性化合物中の水酸基の物質量の上限値は、製造コストを考慮して適宜設定できる。塩基性化合物中の水酸基の物質量は、例えば、酢酸セルロースのアセチル基のモル数100モル%に対して、100モル%以下が好ましい。
【0030】
工程(d)では、工程(c)で得られた鹸化後の水性分散液から水を除去し、セルロース粒子を乾燥させる。鹸化後の水性分散液から水を除去する方法は、特に制限されない。例えば、固液分離により水を除去する方法が挙げられる。固液分離の時間、温度は、セルロース粒子の用途に応じて適宜設定できる。
本発明のセルロース粒子の製造方法によって得られるセルロース粒子の詳細および好ましい態様は、上述の<セルロース粒子>の項で説明した内容と同内容とすることができる。
【0031】
(作用効果)
以上説明した本発明のセルロース粒子の製造方法では、酢酸セルロース溶液を水中に懸濁させ、酢酸セルロース粒子が水中に分散した懸濁液を調製する。そのため、セルロース粒子の粒子化に際して、酢酸セルロース溶液の液滴化をする必要がない。よって、液滴化が困難となるような高粘度の酢酸セルロース溶液をセルロース粒子の製造に使用でき、当該酢酸セルロース溶液中の酢酸セルロースの濃度を高くすることができる。その結果、酢酸セルロースの仕込み量を多くすることができ、一度の製造工程で得られるセルロース粒子の収量が上昇し、低コストでセルロース粒子を製造できる。
以上説明した本発明のセルロース粒子の製造方法では、酢酸濃度が0.5ppm以下となるように酢酸セルロース粒子を鹸化してセルロース粒子とする。そのため、得られるセルロース粒子の酢酸臭が低減される。
【0032】
(用途)
本発明に係るセルロース粒子は、塗料、プラスチック、粘着剤、化粧品、紙塗工材、繊維加工材、筆記具、マーカー等のフィラー等に使用される親環境的なマイクロビーズとして利用できる。
【実施例
【0033】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0034】
<測定方法>
(酢酸濃度)
酢酸濃度は、ヘッドスペース-ガスクロマトグラフ-質量分析計(Agilent社製「Agilent 7697A Headspace Sampler、Agilent 7890B GCsystem、Agilent 5977B MSD」)を用いて測定した。
【0035】
(体積平均粒子径)
セルロース粒子の体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計(株式会社島津製作所製「SALD2100」)を用いて測定し得られたデータより求めた積算体積50%粒子径として測定した。
【0036】
(セルロース溶液の粘度)
セルロース溶液の粘度は、BL型回転粘度計(東機産業株式会社製「RB-85L」)を用いて温度25℃の条件下で測定した。
【0037】
<実施例1>
2L攪拌機付きセパラブルフラスコに酢酸エチル720gを仕込み、この中に酢酸セルロース(酢化度55%)180gを溶解して酢酸セルロース溶液を調製した。この溶液の25℃における粘度は146000mPa・sであった。
これとは別に、2L攪拌機付きセパラブルフラスコに水300gを仕込み、この中にヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトローズ90SH-100、信越化学工業株式会社製)5.0gとラウリル硫酸ナトリウム1.0gを溶解して分散媒水溶液を調製した。
酢酸セルロース溶液に分散媒水溶液を添加して、懸濁液を調製した。次いで、攪拌機の回転数300rpmで攪拌しながら懸濁液を90℃に昇温し、2時間かけて懸濁液から酢酸エチルを揮発させた。次いで、95℃に昇温し、水酸化ナトリウムを70g添加して、1.5時間保持し、酢酸セルロース粒子からアセチル基を脱離させ、セルロース粒子を得た。これにより、水中にセルロース粒子が分散したスラリーを得た。
次いで、スラリーを室温まで冷却した後、ろ過により固液分離し、回収した固形物を水で充分洗浄した後、70℃で20時間乾燥して、体積平均粒子径6.8μmの球状のセルロース粒子を得た。
実施例1で得たセルロース粒子の酢酸濃度は0.00ppmであり、酢酸臭は無かった。
【0038】
<実施例2>
2L攪拌機付きセパラブルフラスコに酢酸エチル783gを仕込み、この中に酢酸セルロース(酢化度55%)117gを溶解して酢酸セルロース溶液を調製した。この溶液の25℃における粘度は6200mPa・sであった。
これとは別に、2L攪拌機付きセパラブルフラスコに水300gを仕込み、この中にヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトローズ90SH-100、信越化学工業株式会社製)4.0gとラウリル硫酸ナトリウム1.0gを溶解して分散媒水溶液を調製した。
酢酸セルロース溶液に分散媒水溶液を添加して、懸濁液を調製した。次いで、攪拌機の回転数300rpmで攪拌しながら懸濁液を90℃に昇温し、2時間かけて懸濁液から酢酸エチルを揮発させた。次いで、95℃に昇温し、水酸化ナトリウムを70g添加して、1.5時間保持し、酢酸セルロース粒子からアセチル基を脱離させ、セルロース粒子を得た。これにより、水中にセルロース粒子が分散したスラリーを得た。
次いで、スラリーを室温まで冷却した後、ろ過により固液分離し、回収した固形物を水で充分洗浄した後、70℃で20時間乾燥して、体積平均粒子径6.9μmの球状のセルロース粒子を得た。
実施例2で得たセルロース粒子の酢酸濃度は0.00ppmであり、酢酸臭は無かった。
【0039】
<実施例3>
2L攪拌機付きセパラブルフラスコに酢酸エチル720gを仕込み、この中に酢酸セルロース(酢化度55%)180gを溶解して酢酸セルロース溶液を調製した。この溶液の25℃における粘度は146000mPa・sであった。
これとは別に、2L攪拌機付きセパラブルフラスコに水300gを仕込み、この中にヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトローズ90SH-100、信越化学工業株式会社製)0.8gとラウリル硫酸ナトリウム1.0gを溶解して分散媒水溶液を調製した。
酢酸セルロース溶液に分散媒水溶液を添加して、懸濁液を調製した。次いで、攪拌機の回転数300rpmで攪拌しながら懸濁液を90℃に昇温し、2時間かけて懸濁液から酢酸エチルを揮発させた。次いで、95℃に昇温し、水酸化ナトリウムを70g添加して、1.5時間保持し、酢酸セルロース粒子からアセチル基を脱離させ、セルロース粒子を得た。これにより、水中にセルロース粒子が分散したスラリーを得た。
次いで、スラリーを室温まで冷却した後、ろ過により固液分離し、回収した固形物を水で充分洗浄した後、70℃で20時間乾燥して、体積平均粒子径136.3μmの球状のセルロース粒子を得た。
実施例3で得たセルロース粒子の酢酸濃度は0.03ppmであり、酢酸臭は無かった。
【0040】
<実施例4>
2L攪拌機付きセパラブルフラスコに酢酸エチル360gとMEK(メチルエチルケトン)360gを仕込み、この中に酢酸セルロース(酢化度55%)180gを溶解して酢酸セルロース溶液を調製した。この溶液の25℃における粘度は51100mPa・sであった。
これとは別に、2L攪拌機付きセパラブルフラスコに水300gを仕込み、この中にヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトローズ90SH-100、信越化学工業株式会社製)4.0gとラウリル硫酸ナトリウム1.0gを溶解して分散媒水溶液を調製した。
酢酸セルロース溶液に分散媒水溶液を添加して、懸濁液を調製した。次いで、攪拌機の回転数300rpmで攪拌しながら懸濁液を90℃に昇温し、2時間かけて懸濁液から酢酸エチルを揮発させた。次いで、95℃に昇温し、水酸化ナトリウムを70g添加して、1.5時間保持し、酢酸セルロース粒子からアセチル基を脱離させ、セルロース粒子を得た。これにより、水中にセルロース粒子が分散したスラリーを得た。
次いで、スラリーを室温まで冷却した後、ろ過により固液分離し、回収した固形物を水で充分洗浄した後、70℃で20時間乾燥して、体積平均粒子径13.8μmの球状のセルロース粒子を得た。
実施例4で得たセルロース粒子の酢酸濃度は0.01ppmであり、酢酸臭は無かった。
【0041】
<実施例5>
2L攪拌機付きセパラブルフラスコに酢酸エチル576gとアセトン144gを仕込み、この中に酢酸セルロース(酢化度55%)180gを溶解して酢酸セルロース溶液を調製した。この溶液の25℃における粘度は54800mPa・sであった。
これとは別に、2L攪拌機付きセパラブルフラスコに水300gを仕込み、この中にヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトローズ90SH-100、信越化学工業株式会社製)4.0gとラウリル硫酸ナトリウム1.0gを溶解して分散媒水溶液を調製した。
酢酸セルロース溶液に分散媒水溶液を添加して、懸濁液を調製した。次いで、攪拌機の回転数300rpmで攪拌しながら懸濁液を90℃に昇温し、2時間かけて懸濁液から酢酸エチルを揮発させた。次いで、95℃に昇温し、水酸化ナトリウムを70g添加して、1.5時間保持し、酢酸セルロース粒子からアセチル基を脱離させ、セルロース粒子を得た。これにより、水中にセルロース粒子が分散したスラリーを得た。
次いで、スラリーを室温まで冷却した後、ろ過により固液分離し、回収した固形物を水で充分洗浄した後、70℃で20時間乾燥して、体積平均粒子径42.2μmの球状のセルロース粒子を得た。
実施例5で得たセルロース粒子の酢酸濃度は0.02ppmであり、酢酸臭は無かった。
【0042】
<実施例6>
2L攪拌機付きセパラブルフラスコに酢酸エチル576gとMEK144gを仕込み、この中に酢酸セルロース(酢化度55%)180gを溶解して酢酸セルロース溶液を調製した。この溶液の25℃における粘度は54800mPa・sであった。
これとは別に、2L攪拌機付きセパラブルフラスコに水300gを仕込み、この中にポリビニルアルコール(けん化度88%)4.0gとラウリル硫酸ナトリウム1.0gを溶解して分散媒水溶液を調製した。
酢酸セルロース溶液に分散媒水溶液を添加して、懸濁液を調製した。次いで、攪拌機の回転数300rpmで攪拌しながら懸濁液を90℃に昇温し、2時間かけて懸濁液から酢酸エチルを揮発させた。次いで、95℃に昇温し、水酸化ナトリウムを70g添加して、1.5時間保持し、酢酸セルロース粒子からアセチル基を脱離させ、セルロース粒子を得た。これにより、水中にセルロース粒子が分散したスラリーを得た。
次いで、スラリーを室温まで冷却した後、ろ過により固液分離し、回収した固形物を水で充分洗浄した後、70℃で20時間乾燥して、体積平均粒子径8.8μmの球状のセルロース粒子を得た。
実施例6で得たセルロース粒子の酢酸濃度は0.00ppmであり、酢酸臭は無かった。
【0043】
<実施例7>
2L攪拌機付きセパラブルフラスコに酢酸エチル705gを仕込み、この中に酢酸セルロース(酢化度55%)45gを溶解して酢酸セルロース溶液を調製した。この溶液の25℃における粘度は2300mPa・sであった。
これとは別に、2L攪拌機付きセパラブルフラスコに水750gを仕込み、この中にヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトローズ90SH-100、信越化学工業株式会社製)25.0gとラウリル硫酸ナトリウム4.0gを溶解して分散媒水溶液を調製した。
酢酸セルロース溶液に分散媒水溶液を添加して、懸濁液を調製した。次いで、攪拌機の回転数300rpmで攪拌しながら懸濁液を90℃に昇温し、2時間かけて懸濁液から酢酸エチルを揮発させた。次いで、95℃に昇温し、水酸化ナトリウムを70g添加して、1.5時間保持し、酢酸セルロース粒子からアセチル基を脱離させ、セルロース粒子を得た。これにより、水中にセルロース粒子が分散したスラリーを得た。
次いで、スラリーを室温まで冷却した後、ろ過により固液分離し、回収した固形物を水で充分洗浄した後、70℃で20時間乾燥して、体積平均粒子径10.3μmの球状のセルロース粒子を得た。
実施例7で得たセルロース粒子の酢酸濃度は0.00ppmであり、酢酸臭は無かった。
【0044】
<実施例8>
2L攪拌機付きセパラブルフラスコに酢酸エチル702gを仕込み、この中に酢酸セルロース(酢化度55%)198gを溶解して酢酸セルロース溶液を調製した。この溶液の25℃における粘度は295000mPa・sであった。
これとは別に、2L攪拌機付きセパラブルフラスコに水300gを仕込み、この中にヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトローズ90SH-100、信越化学工業株式会社製)5.0gとラウリル硫酸ナトリウム1.0gを溶解して分散媒水溶液を調製した。
酢酸セルロース溶液に分散媒水溶液を添加して、懸濁液を調製した。次いで、攪拌機の回転数300rpmで攪拌しながら懸濁液を90℃に昇温し、2時間かけて懸濁液から酢酸エチルを揮発させた。次いで、95℃に昇温し、水酸化ナトリウムを70g添加して、1.5時間保持し、酢酸セルロース粒子からアセチル基を脱離させ、セルロース粒子を得た。これにより、水中にセルロース粒子が分散したスラリーを得た。
次いで、スラリーを室温まで冷却した後、ろ過により固液分離し、回収した固形物を水で充分洗浄した後、70℃で20時間乾燥して、体積平均粒子径14.4μmの球状のセルロース粒子を得た。
実施例8で得たセルロース粒子の酢酸濃度は0.01ppmであり、酢酸臭は無かった。
【0045】
<比較例1>
2L攪拌機付きセパラブルフラスコに酢酸エチル720gを仕込み、この中に酢酸セルロース(酢化度55%)180gを溶解して酢酸セルロース溶液を調製した。この溶液の25℃における粘度は146000mPa・sであった。
これとは別に、2L攪拌機付きセパラブルフラスコに水300gを仕込み、この中にヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトローズ90SH-100、信越化学工業株式会社製)5.0gとラウリル硫酸ナトリウム1.0gを溶解して分散媒水溶液を調製した。
酢酸セルロース溶液に分散媒水溶液を添加して、懸濁液を調製した。次いで、攪拌機の回転数300rpmで攪拌しながら懸濁液を90℃に昇温し、2時間かけて懸濁液から酢酸エチルを揮発させた。次いで、95℃に昇温し、水酸化ナトリウムを70g添加して、1.0時間保持し、酢酸セルロース粒子からアセチル基を脱離させ、セルロース粒子を得た。これにより、水中にセルロース粒子が分散したスラリーを得た。
次いで、スラリーを室温まで冷却した後、ろ過により固液分離し、回収した固形物を水で充分洗浄した後、70℃で20時間乾燥して、体積平均粒子径6.8μmの球状のセルロース粒子を得た。
比較例1で得たセルロース粒子の酢酸濃度は1.33ppmであり、酢酸臭があった。
【0046】
以上説明した実施例の結果から、酢酸臭が抑えられたセルロース粒子が得られたことを確認した。また、酢酸セルロースの仕込み量を多くすることができ、酢酸臭が抑えられたセルロース粒子を低コストで簡便に製造できることを確認した。