(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】トラウザー
(51)【国際特許分類】
A41D 1/06 20060101AFI20221226BHJP
【FI】
A41D1/06 B
A41D1/06 501D
A41D1/06 501G
(21)【出願番号】P 2019207154
(22)【出願日】2019-11-15
【審査請求日】2019-11-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】398056827
【氏名又は名称】株式会社ファーストリテイリング
(74)【代理人】
【識別番号】100175743
【氏名又は名称】田渕 周作
(72)【発明者】
【氏名】戸田 麻里絵
(72)【発明者】
【氏名】吉田 純子
【合議体】
【審判長】山崎 勝司
【審判官】稲葉 大紀
【審判官】石田 智樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-21294(JP,A)
【文献】特開2011-80173(JP,A)
【文献】登録実用新案第3159291(JP,U)
【文献】特開2019-83999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物生地により構成されるトラウザー(1)において、
着用者のウエスト位置に延設されるウエスト部(12)を備え、
前記ウエスト部(12)は、
前記ウエスト部(12)の延設方向に沿って設けられる弾性ゴム(30)と、
前記弾性ゴム(30)を覆う表裏面部(31)と、
ベルトループ(32)とを備え、
前記表裏面部(31)は、
ストレッチ素材が用いられてギャザーがないように構成され、
前記ベルトループ(32)は、
前記弾性ゴム(30)及び前記表裏面部(31)
の両方に対し、縫い線が方形状になるように縫着されている
ことを特徴とするトラウザー(1)。
【請求項2】
前記ウエスト部(12)は、
前面ウエスト部(20)と背面ウエスト部(21)とを備え、
前記背面ウエスト部(21)
は、前記弾性ゴム(30)及び前記表裏面部(31)を備え
、
前記前面ウエスト部(20)は、前記弾性ゴム(30)を備えない
ことを特徴とする請求項1に記載のトラウザー(1)。
【請求項3】
前記背面ウエスト部(21)は、
着用者の下方に凸に湾曲する湾曲形状を有し、
前記背面ウエスト部(21)の弾性ゴム(30)は、
前記背面ウエスト部(21)の湾曲形状に沿って湾曲している
ことを特徴とする請求項2に記載のトラウザー(1)。
【請求項4】
前記ウエスト部(12)は、
隣接する部分に対し、ストレッチ素材の糸(50)で縫着されている
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のトラウザー(1)。
【請求項5】
前記ウエスト部(12)の延設方向における前記表裏面部(31)の長さは、
前記弾性ゴム(30)の長さの1.0倍以上1.1倍以下である
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のトラウザー(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラウザーに関する。
【背景技術】
【0002】
トラウザーは、スーツ、スラックス、パンツ又はパンタロンなどのように様々な名称で表現される。ここでのトラウザーは、主に織物生地により構成されたものをいう。このような織物生地により構成されたトラウザーは、編物に比べて伸縮性は低いが、見た目を綺麗に仕上げることができ、カジュアルな場面だけでなくフォーマルな場面でも使用することができる。
【0003】
ところで上述の種類のトラウザーは、ウエスト部の長さが一定で、ウエスト部の長さを着用者のウエストサイズに応じて調整できないものが一般的である。
【0004】
この点、近年では、この種のトラウザーにおいて、
図10に示すようにウエスト部100の一部の区間をゴム製部分101で構成したものが開発されている。この場合、ゴム製部分101が伸縮するので、ウエスト部100の長さが変動して、着用者のウエストサイズに追従することができる。なお特許文献1には、ウエスト部全体にストレッチ素材を利用したスラックスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のようにウエスト部100の一部の区間をゴム製部分101で構成した場合、ゴム製部分101が露出するため、フォーマル感が低下する。
【0007】
さらに、上記問題を解決するために、ウエスト部に弾性ゴムを内設させることも考えられる。しかしこの場合、弾性ゴムを覆う表裏面部の寸法を、弾性ゴムが伸長する分だけ弾性ゴムよりも長くして、表裏面部に、いわゆるギャザーを作っておく必要がある。このため、かえってフォーマル感が低下してしまう。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、主に織物生地により構成されたトラウザーにおいて、フォーマル感を低下させることなく、着用者のウエストサイズに追従可能なトラウザーを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るトラウザー(1)は、織物生地により構成されるトラウザー(1)において、着用者のウエスト位置に延設されるウエスト部(12)を備え、ウエスト部(12)は、ウエスト部(12)の延設方向に沿って設けられる弾性ゴム(30)と、弾性ゴム(30)を覆う表裏面部(31)とを備え、表裏面部(31)は、ストレッチ素材が用いられてギャザーが形成されないように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フォーマル感を低下させることなく、着用者のウエストサイズに追従可能なトラウザーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図5】背面ウエスト部のA-A断面の説明図である。
【
図7】トラウザーの内面側のベルトループの縫い線を示す拡大図である。
【
図8】弾性ゴムを湾曲形状にした場合の背面ウエスト部を示す説明図である。
【
図9】弾性ゴムを直線状にした場合の前面ウエスト部を示す説明図である。
【
図10】ウエスト部の一部をゴム製部分にした場合を示す従来例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこの実施の形態に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本実施の形態にかかるトラウザー1の構成の一例を示す正面図であり、
図2は、トラウザー1の背面図である。トラウザー1は、主たる生地として布帛などの織物生地を使用したものであり、例えばスーツ、スラックス、パンツ又はパンタロンなどである。
【0014】
トラウザー1は、例えば前身頃10、後身頃11及びウエスト部12等を備えている。
【0015】
前身頃10及び後身頃11は、主に織物生地により構成されている。織物生地のタテ糸及びヨコ糸には、例えばポリエステル、レーヨン、ポリウレタン、絹又は綿などが用いられる。
【0016】
ウエスト部12は、トラウザー1の上端部に設けられている。ウエスト部12は、トラウザー1の前身頃10及び後身頃11に亘り、着用者の腰回りに沿った帯形状を有している。なお本明細書において「上」、「下」、「上下」、「左右」は、
図1、
図2に示したトラウザー1を基準にした方向である。
【0017】
ウエスト部12は、
図1乃至
図4に示すように例えば前身頃10側に位置する前面ウエスト部20と、後身頃11側に位置する背面ウエスト部21とを有している。前面ウエスト部20と背面ウエスト部21は、トラウザー1の両脇部分で互いに縫着されている。
【0018】
背面ウエスト部21は、ウエスト部12の延設方向(腰回り方向)Xに沿って設けられた弾性ゴム30と、弾性ゴム30を内設するように弾性ゴム30を覆う表裏面部31と、ベルトを掛けるための複数のベルトループ32とを有している。
【0019】
弾性ゴム30は、例えば直線の帯形状を有している。弾性ゴム30は、例えば一般的な80%以上の保持率を有している。
【0020】
表裏面部31は、ストレッチ素材となる織物生地で構成されている。ストレッチ素材とは、JIS L 1096織物及び編物の生地試験方法に基づいて測定された伸長率が10%以上のものをいう。表裏面部31のストレッチ素材は、例えば伸長率が15%以上のものが好ましく、伸長率が20%以上のものがさらに好ましい。表裏面部31のストレッチ素材は、例えばポリウレタンなどの伸長性の糸を織り込むことで実現されている。
【0021】
表裏面部31は、
図5に示すようにウエスト部12の延設方向Xに対し垂直な面で切断した縦断面において、表面側の下端部31aから上方に延び、上端部31bにおいて折り返し、裏面側の下端部31cまで延びるループ状に形成されている。これにより、表裏面部31の内側には、ウエスト部12の延設方向Xに延設する内部空間40が形成され、その内部空間40に弾性ゴム30が配置されている。
【0022】
表裏面部31の表面側の下端部31aと裏面側の下端部31cは、ウエスト部12の下側の後身頃11の織物生地と共に縫着されている。この縫着には、ストレッチ素材の糸50が用いられている。すなわち、表裏面部31は、表裏面部31に隣接する後身頃11に対し、ストレッチ素材の糸50により逢着されている。この糸50のストレッチ素材は、例えば伸長率が15%以上、より好ましくは25%以上のものであってもよい。
【0023】
表裏面部31は、ギャザーがなく、表裏面がフラットな形状を維持しつつ伸縮するように構成されている。なお本明細書における「ギャザー」は、着用者がトラウザー1を着用していない状態でも存在するような予め意図的に作りこまれたものをいう。例えば
図3に示す背面ウエスト部21の延設方向Xの表裏面部31の寸法(伸びていないときの寸法)L1は、それと同じ区間の弾性ゴム30の寸法(自然長)L2とほぼ同じ、例えば寸法L2の1.0倍以上1.1倍以下、より好ましくは寸法L2の1.0倍以上1.05倍以下になっている。
【0024】
前面ウエスト部20は、
図3及び
図4に示すように背面ウエスト部21の両端に連続的に接続されている。前面ウエスト部20は、例えば弾性ゴム30が内設されていない以外、上記背面ウエスト部21と同じ構造を有している。すなわち前面ウエスト部20は、表裏面部31とベルトループ32を有している。さらに前面ウエスト部20は、ボタン60と、ボタン60を留めるためのボタンホール61と、ステッチ62と、ステッチ62を留める留め具63などを備えている。
【0025】
ベルトループ32は、ウエスト部12の全体にわたって所定の間隔で設けられている。
図6に示すようにベルトループ32は、帯状に形成され、第1の端部32aがウエスト部12に隣接する前身頃10もしくは後身頃11に縫着され、第2の端部32bがウエスト部12の裏面側の上部付近に縫着されている。ベルトループ32は、背面ウエスト部21において、弾性ゴム30及び表裏面部31に対し縫着され、前面ウエスト部20において、表裏面部31に対し縫着されている。
【0026】
ベルトループ32は、
図7に示すようにウエスト部12に対し縫い線70が方形状になるように縫着されている。すなわち、縫い線70が、上下方向と左右方向(延設方向X)に二本ずつの辺を有するように一筆書き状に形成されている。
【0027】
本実施の形態によれば、主に織物生地により構成されたトラウザー1において、ウエスト部12が、ウエスト部12の延設方向Xに沿って設けられた弾性ゴム30と、弾性ゴム30を内設するように弾性ゴム30を覆う表裏面部31を有し、表裏面部31は、ストレッチ素材であり、ギャザーがないように構成されている。
【0028】
これにより、表裏面部31が、着用者のウエストサイズに応じて、ウエスト部12の延設方向Xに伸び、内部の弾性ゴム30がその表裏面部31の伸びに追従しながら、縮む方向への反力を付与する。この結果、ウエスト部12の表裏面部31にギャザーがない状態で、ウエスト部12が伸縮する。
【0029】
よって、主に織物生地により構成されたトラウザー1において、フォーマル感が低下しないで、着用者のウエストサイズに追従するトラウザー1を実現することができる。
【0030】
背面ウエスト部21が、弾性ゴム30と表裏面部31を有し、前面ウエスト部20が弾性ゴム30を有してないので、相対的に長い背面ウエスト部21のみが伸縮し、ウエスト部12の長さの調整を効果的に行うことができる。
【0031】
ベルトループ32は、表裏面部31及び弾性ゴム30に対し、縫い線70が方形状になるように縫着されている。従来ベルトループの縫着は、ウエスト部12の延設方向Xの縫い線のみで行われるが、縫い線70を方形状にすることにより、縫着力を確保しながら弾性ゴム30への縫合によるダメージを減らすことができる。
【0032】
また延設方向Xの直角方向にも縫い線70を形成することで、縫い線70を通じて弾性ゴム30にかかる負荷を分散し、弾性ゴム30が切れやすくなることを防止することができる。
【0033】
ウエスト部12は、それに隣接する部分(後身頃11)に対し、ストレッチ素材の糸50で縫着されているので、糸50がウエスト部12の伸縮に追従する。これにより、ウエスト部12の伸縮時に隣接部分に引っ張られて縫着付近にしわができることを抑制することができる。
【0034】
ウエスト部12の延設方向Xの表裏面部31の寸法L1は、当該表裏面部31と同じ区間を構成する弾性ゴム30の寸法L2の1.0倍以上1.1倍以下であるので、表裏面部31が、好適に、ギャザーがないようにフラットに構成される。
【0035】
本実施の形態では、弾性ゴム30が、背面ウエスト部21にのみ設けられていたが、ウエスト部12の全体、すなわち前面ウエスト部20にも設けられていてもよい。かかる場合、ウエスト部12の延設方向Xへの長さ調整がより効果的に行われる。
【0036】
以上の実施の形態において、
図8に示すように背面ウエスト部21が、着用者の臀部側に凸の湾曲形状を有し、弾性ゴム30が、背面ウエスト部21の湾曲形状に沿って湾曲していてもよい。かかる場合、弾性ゴム30がウエスト部12の形状に沿っているので、ウエスト部12の外観がきれいになる。また、弾性ゴム30のウエスト部12の延設方向Xへの伸縮が好適に行われる。
【0037】
以上の実施の形態では、背面ウエスト部21に弾性ゴム30が内設されていたが、背面ウエスト部21に弾性ゴム30を内設せず、前面ウエスト部20にのみ弾性ゴム30を内設してもよい。
【0038】
以上の実施の形態において、前面ウエスト部20に弾性ゴム30が設けられる場合に、弾性ゴム30は、
図9に示すように直線の帯形状を有するものであってもよい。また、
図8に示した背面ウエスト部21と同様に前面ウエスト部20が着用者の臀部側に凸に湾曲する湾曲形状を有している場合には、その湾曲形状に沿って湾曲していてもよい。
【0039】
トラウザー1は、上記実施の形態のものに限られない。例えばトラウザー1は、ベルトループ32がないものであってもよい。トラウザー1は、長ズボンに限られず、半ズボンであってもよい。トラウザー1は、主に織物生地により構成されていればよく、一部に織物生地以外のものが用いられているものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、主に織物生地により構成されたトラウザーにおいて、フォーマル感が低下しないで、着用者のウエストサイズに追従可能なトラウザーを提供する際に有用である。
【符号の説明】
【0041】
1 トラウザー
10 前身頃
11 後身頃
12 ウエスト部
20 前面ウエスト部
21 背面ウエスト部
30 弾性ゴム
31 表裏面部
32 ベルトループ
50 ストレッチ素材の糸