(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】トルクコンバータ振動吸収装置
(51)【国際特許分類】
F16H 45/02 20060101AFI20221226BHJP
F16F 15/14 20060101ALI20221226BHJP
F16F 15/134 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
F16H45/02 Y
F16F15/14 Z
F16F15/134 A
(21)【出願番号】P 2018080873
(22)【出願日】2018-04-19
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】300034334
【氏名又は名称】ヴァレオカペックジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】井上 敦
(72)【発明者】
【氏名】中辻 万平
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0108051(US,A1)
【文献】特開2013-160322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 45/02
F16F 15/14
F16F 15/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータの振動を吸収する遠心振子と、
トルクコンバータの回転軸を中心に回転でき前記遠心振子を保持する遠心振子サポートプレートと、
前記遠心振子サポートプレートを挟み込んで固定結合する一対のリテーナプレートと、
前記一対のリテーナプレートに保持される弾性体と、
前記弾性体を介して前記一対のリテーナプレートからの動力の伝達を受けるドリブンプレートと、
前記一対のリテーナプレートの内側穴部の端面が前記ドリブンプレートまたは該ドリブンプレートに固定結合される部材との間の2箇所でセンタリングされる間隙と
を具備し、
前記2箇所の間隙の一方が他方より小であることを特徴とするトルクコンバータ振動吸収装置。
【請求項2】
前記センタリングされる部位の間隙の狭い方がより回転軸の内側の方であることを特徴とする請求項
1に記載のトルクコンバータ振動吸収装置。
【請求項3】
前記ドリブンプレートに固定結合される部材がタービンハブであり、前記一対のリテーナプレートの一方の内側穴部の側面と前記ドリブンプレートにある円柱状突起部の外径側面との間で嵌合及び摺動によりセンタリングされ、前記一対のリテーナプレートの他方の内側穴部の側面と前記タービンハブの外径側面との間で嵌合及び摺動によりセンタリングされることを特徴とする請求項1に記載のトルクコンバータ振動吸収装置。
【請求項4】
前記一対のリテーナプレートの一方のリテーナプレートの内側穴部の側面と前記ドリブンプレートにある円柱状突起部の外径側面との間隙と、前記一対のリテーナプレートの他方のリテーナプレートの内側穴部の側面と前記タービンハブの外径側面との間隙とのうち、より回転軸の内側の方の間隙を小さくしたことを特徴とする請求項
3に記載のトルクコンバータ振動吸収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両のエンジンのクランクシャフトと変速機の入力軸との間に介在する流体伝動装置(いわゆるトルクコンバータ)の振動吸収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用自動変速機に組み込まれるトルクコンバータは、コンバータハウジングの前面部を構成するフロントカバーがクランクシャフトで回転駆動され、さらにコンバータハウジングのポンプインペイラ側の羽と、タービンランナ側の羽との間でトルクが伝達されて、タービンランナで駆動される出力軸から、変速機の入力軸へとトルクが伝達されるようになっている。
【0003】
また、トルクコンバータは、燃費向上を図るために、クラッチを作動させ、エンジンのクランクシャフトのトルクを、衝撃(捩り振動)吸収用のトーションスプリング(弾性体)を介して、変速機に伝達するロックアップクラッチを有している。
【0004】
更に、トルクコンバータは、動作中の振動を吸収するための遠心振子式吸振器を含む場合もある。
【0005】
たとえば、特許文献1では、ロックアップクラッチとダンパーを有するトルクコンバータであって、ダンパー組立22の内側バネ40を支える、リベット結合された2枚のカバープレート36、38を有しており、このうち、タービン側カバープレート36の外側先端部に遠心振子式吸振器44を設けた構造になっている。
【0006】
なお、タービン側カバープレート36は、タービン20の内側延伸部34ともリベット結合されている。
【0007】
更に、トランスミッション入力軸54とスプライン52で結合しているドライブハブ50と結合しているドライブフランジ48が、カバープレート36、38の間に設けられ、ロックアップクラッチ作動時にはクラッチ側カバープレート38から、非作動時にはタービン側カバープレート36から、ドライブハブ50へと動力が伝達されるようになっている。
【0008】
ここで、遠心振子式吸振器44を支持しているタービン側カバープレート36、及びそれと結合しているクラッチ側カバープレート38及びタービン20については、センタリング(中心合わせ)は、タービン側カバープレート36の内径とドライブハブ50の突起部の外径とが嵌合することのみによってなされている。
【0009】
そのため、振動発生の大きな遠心振子式吸振器44が作動している際に、遠心振子式吸振器44の重心とセンタリング部の軸方向位置がずれている場合、遠心振子式吸振器44の振子が重いため、少しの軸方向のずれであっても、作動時に遠心力で倒れるモーメント力が働き、遠心振子式吸振器44を支持しているタービン側カバープレート36の、クラッチ側あるいはタービン側への倒れ(傾き)や嵌合部でのかじりの恐れが大きく、所望の吸振効果が十分に得られず、安定した動作ができないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこうした従来技術上の問題点を解決することを企図したものであり、遠心振子式吸振器を含むトルクコンバータの振動吸収装置において、遠心振子式吸振器が安定して作動できる構造を有する振動吸収装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため、本発明に係るトルクコンバータの振動吸収装置は、トルクコンバータの振動を吸収する遠心振子と、トルクコンバータの回転軸を中心に回転でき前記遠心振子を保持する遠心振子サポートプレートと、前記遠心振子サポートプレートを挟み込んで固定結合する一対のリテーナプレートと、前記一対のリテーナプレートに保持される弾性体と、前記弾性体を介して前記一対のリテーナプレートからの動力の伝達を受けるドリブンプレートと、前記一対のリテーナプレートの内側穴部の端面が前記ドリブンプレートまたは該ドリブンプレートに固定結合される部材との間の2箇所でセンタリングされる間隙とを具備することを特徴とする。
【0013】
なお、ここで、遠心振子と遠心振子サポートプレートとを併せて、遠心振子式吸振器と呼ぶこともある。
【0014】
このようにすると、回転軸の延伸方向の2個所で、遠心振子サポートプレートをセンタリングすることができるため、遠心振子に働くモーメント力による倒れなどが防止でき、振動吸収装置として安定した動作が期待できる。
【0015】
また、前記2箇所のセンタリングされる部位の間隙の、一方が他方より小であることを特徴としてもよい。すなわち、間隙の小な方がセンタリングそのものの精度を決めるセンタリング、間隙の大なる方が遠心振子サポートプレートの倒れの許容量を決めるセンタリングとなる。
【0016】
このようにすると、センタリング精度と倒れ許容量のそれぞれにつき、所望の量に設定することができ、最適な振動吸収装置が実現できる。
【0017】
更に、前記センタリングされる部位の間隙の狭い方が、より回転軸の内側の方であることを特徴としてもよい。すなわち、径の小さい方を、センタリング精度を決める小さな間隙、径の大きい方を、倒れ許容量を決める大きな間隙としてもよい。
【0018】
このようにすると、小さい間隙を設ける場合、小さい径で行う方が、製造が容易であるという利点があり、一方、倒れについては大きい径で受け持たせる方が、受ける力が小さくて済むという利点がある。
【0019】
更に、前記ドリブンプレートに固定結合される部材がタービンハブであり、前記一対のリテーナプレートの一方の内側穴部の側面と、前記ドリブンプレートにある円柱状突起部の外径側面との間で嵌合及び摺動によりセンタリングされ、前記一対のダンパーリテーナプレートの他方の内側穴部の側面と前記タービンハブの外径側面との間で嵌合及び摺動によりセンタリングされることを特徴としてもよい。
【0020】
このようにすると、回転軸延伸方向のやや離れた2個所で、遠心振子式吸振器をセンタリングすることができるため、振動吸収装置として、より安定した安定した動作が期待できる。
【0021】
更にまた、前記一対のリテーナプレートの一方のリテーナプレートの内側穴部の側面と前記ドリブンプレートにある円柱状突起部の外径側面との間隙と、前記一対のリテーナプレートの他方のリテーナプレートの内側穴部の側面と前記タービンハブの外径側面との間隙とのうち、より回転軸の内側の方の間隙を小さくしたことを特徴としてもよい。
【0022】
例えば、前記タービンハブの外径側面の方が回転軸心に近く、前記ドリブンプレートにある円柱状突起部の外径側面の方が回転軸心から遠い場合には、前者の方の間隙を小さくする。
【0023】
このようにすると、遠心振子式吸振器に倒れが生じた場合であっても、回転軸心に遠い方の間隙が大きいため、かじりなどの現象が発生する可能性を低減することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、遠心振子式吸振器を含むトルクコンバータの振動吸収装置において、遠心振子式吸振器が安定して作動できる構造を有する振動吸収装置を提供することが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る振動吸収装置を含むトルクコンバータの縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る振動吸収装置の平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る振動吸収装置のA-A部分断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る振動吸収装置のB-B部分断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る振動吸収装置の一対のリテーナの一方の斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る振動吸収装置の一対のリテーナの他方の斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る振動吸収装置の遠心振子サポートプレートの斜視図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る振動吸収装置のドリブンプレートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下では本発明の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0027】
図1は本発明の一実施形態に係るロックアップ装置を含むトルクコンバータの全体イメージを示した縦断面図である。この図に示すように、トルクコンバータ1は、エンジンのクランクシャフトからトランスミッションの入力シャフトにトルクを伝達するための装置である。
図1の右側に図示しないエンジンが配置され、
図1の左側に図示しないトランスミッションが配置されている。
図1に示すA-A’がトルクコンバータ1の回転軸である。
【0028】
図1に示すように、トルクコンバータ1は、主に、フロントカバー11と、3種の羽根車(ポンプインペイラ12、タービンランナ13、ステータブレード14)と、ロックアップクラッチ2と、リテーナプレート31などの中間部材を含む振動吸収装置3と、フロントカバー11からの動力の伝達を受けるタービンハブ51などを備えている。
【0029】
ロックアップクラッチ2は、フロントカバー11とタービンハブ51との間に配置され、フロントカバー11から、タービンハブ51に、動力を機械的に伝達するものである。このロックアップクラッチ2は、多板クラッチ17、多板クラッチ17を保持する入力側クラッチ保持部20と出力側クラッチ保持部21、ロックアップピストン15、ピストンガイド16、出力側クラッチ保持部21と固定結合されるドライブプレート18などを備えている。
【0030】
図2は本発明の一実施形態に係る振動吸収装置の平面図であり、
図3は本発明の一実施形態に係る振動吸収装置の
図2のA-A断面図(タービンハブ側を含む)であり、
図4は本発明の一実施形態に係る振動吸収装置の
図2のB-B断面図である。
【0031】
まず、振動吸収装置3の概要を説明する。リテーナプレート31は、最終的に固定結合される、第1リテーナプレート31a、第2リテーナプレート31b、第3リテーナプレート31cからなる。
【0032】
第1リテーナプレート31a及び同プレート31aと固定結合される第2リテーナプレート31bは、共同して外側弾性体32を保持し、それらと同軸で回転可能に組み合わされたドライブプレート18から、外側弾性体32を介して、弾性的な動力伝達を受ける。
【0033】
第2リテーナプレート31b及び同プレート31bと固定結合される第3リテーナプレート31cは、共同して内側弾性体33を保持し、これらと同軸で内側弾性体33を介して弾性的に回転可能なドリブンプレート34に動力を伝達する。
【0034】
更に、遠心振子式吸振器40の一部である遠心振子サポートプレート41が、第2リテーナプレート31bと第3リテーナプレート31cとの間に挟持されて固定結合され、遠心振子サポートプレート41の外周部には、遠心振子42が設けられている。
【0035】
次に、振動吸収装置3の詳細を説明する。
図5は本発明の一実施形態に係る振動吸収装置の第2リテーナプレート31bの斜視図である。第2リテーナプレート31bは、第1リテーナプレート31aよりも大な外径の、クラッチ側に立ち上がる円筒部311を有しており、その円筒部311から内側に突出する4個所の外側弾性体保持部312を有し、第1リテーナプレート31aの図示しない外側弾性体保持部と連動して、4個の外側弾性体32の端部を保持する。
【0036】
なお、第2リテーナプレート31bは第1リテーナプレート31aと、複数のリベット35で固定結合される。
【0037】
また、第2リテーナプレート31bは、第3リテーナプレート31cと共同して内側弾性体33を保持するための窓部313と、第3リテーナプレート31cとリベット固定するための複数(本実施形態では8個)の穴部314とを有する。
【0038】
更に、第2リテーナプレート31bは、その内側穴部に円筒外側面の一部であるような側面315を4個所設けており、この側面315が後述するドリブンプレート34と嵌合・摺動するようになっている。
【0039】
なお、これまで及びこの後の説明で、内側、外側との表現は、トルクコンバータ1の回転軸中心から放射状に、中心に近い方を内側、中心から遠い方を外側としたものである。
【0040】
図6は本発明の一実施形態に係る振動吸収装置の第3リテーナプレート31cの斜視図であり、内側弾性体33を保持する窓部316と、第2リテーナプレート31bとリベット固定するための複数(本実施形態では8個)の穴部317を有し、第2リテーナプレート31bと複数(本実施形態では8個)のリベット36で固定結合され、第2リテーナプレート31bと連動して内側弾性体33を保持する。
【0041】
また、第3のリテーナプレート31cの内側穴部の周辺には、円筒部318があり、その内周部側面が、後述のタービンタブ51と嵌合・摺動するようになっている。
【0042】
なお、ここで、好適には、本発明の「課題を解決するための手段」における「一対のリテーナプレート」は、第2リテーナプレート31bと第3リテーナプレート31cとで例示され、「弾性体」は、内側弾性体33で例示されるものとする。
【0043】
図7は本発明の一実施形態に係る振動吸収装置の遠心振子サポートプレート41の斜視図である。遠心振子サポートプレート41は、遠心振子42を揺動可能に取り付けるための複数の穴部411とリベット用の複数の穴部412を有しており、
図4に示すように、第2リテーナプレート31bと第3リテーナプレート31cとに挟まれた状態でリベット36によって固定される。
【0044】
遠心振子式吸振器40は、遠心振子サポートプレート41と遠心振子42とからなり、遠心振子42は、
図2及び
図3に示すように遠心振子サポートプレート41の放射方向外周近傍に複数個(本実施形態では4個)設けられている。
【0045】
図8は本発明の一実施形態に係る振動吸収装置のドリブンプレートの斜視図である。
【0046】
ドリブンプレート34は、概ね円環薄板状であり、外周部に4カ所の切り欠き部342を有し、各々の切り欠き部342の外周端部343が、内側弾性体33を保持できるようになっている。
【0047】
また、ドリブンプレート34の内側には、タービンハブ51とリベット固定されるための複数(本実施形態では12個)の丸穴部344を有する。
【0048】
更に、ドリブンプレート34のクラッチ側には、円柱状突起部341が同心円上に均等に分配されて4個所形成されている。なお、この数は、4個所が動作上及び製作上好適ではあるが、それに限定されず、全体の構成において、3または5以上であっても効果が大な場合もあり得る。
【0049】
ドリブンプレート34と、タービンランナ13を保持するタービンサポートプレート52と、タービンハブ51とは、各部材に設けた穴部を貫通するリベット53で共締めの状態で固定結合される。ここで、各部材の穴部及びリベット53は、回転軸から等距離の円周上に、等間隔で複数(本実施形態では12個)設けられる。
【0050】
ここで、相互に回転可能な、第2リテーナプレート31bの内側穴部の側面315と、ドリブンプレート34の円柱状突起部341の外径側面との間は、
図3のAで示される個所であり、小さなクリアランスとなっており、嵌合及び摺動によりセンタリングがなされる。
【0051】
また、第3のリテーナプレート31cの内側穴部周辺の円筒部318の内側面と、タービンタブ51の外周側面との間は、
図3のBで示される個所であり、同様に小さなクリアランスとなっており、嵌合・摺動するようになっている。
【0052】
これらにより、回転軸延伸方向のやや離れた2個所(A、B)で、第2リテーナプレート31bと第3リテーナプレート31cとに挟持された遠心振子サポートプレート41をセンタリングしている。
【0053】
更にまた、第2リテーナプレート31bの内側穴部の側面315とドリブンプレート34にある円柱状突起部341の外径側面との間隙と、第3リテーナプレート31cの円筒部318の内側側面とタービンハブ51の外側側面との間隙とを比較して、より回転軸の内側の方、すなわち、本実施形態では、第3リテーナプレート31cの円筒部318の内側側面とタービンハブ51の外側側面との間隙の方を小さくしてある。
【0054】
ここで、間隙の量を変えることにより、間隙の小さい方がセンタリングそのものの精度を決めるセンタリング、間隙の大きい方が倒れの許容量を決めるセンタリングとなる。そのため、センタリング精度と倒れ許容量をそれぞれに所望の量に設定することができる。
【0055】
更に、2個所のセンタリングの径が違う場合、径の小さい方の間隙、すなわち第3リテーナプレート31cの内側側面とタービンハブ51の外側側面との間隙をセンタリング精度を決める小さな間隙、径の大きい方の間隙、すなわち第2リテーナプレート31bの内側穴部の側面315とドリブンプレート34にある円柱状突起部341の外径側面との間隙を倒れ許容量を決める大きな間隙としてある。
【0056】
このようにすると、小さい間隙を設ける場合、小さい径で行う方が製造が容易であるという利点がある。例えば、同じ0.01mmの間隙を設けるのに直径50mmの部位でやるのと直径200mmの部位でやるのでは、直径50mmの方が製造が容易である。更に、常に摺動する部位として径が小さい方が発生する摩擦抵抗が少ないので好都合である。
【0057】
一方、倒れについては大きい径で受け持たせる方が受ける力が小さくて済むという利点がある。例えば、直径50mmで支えるのと直径200mmで支えるのではテコの原理で直径200mmの方が受ける力が小さくて済むことは明らかである。
【0058】
次に、本発明の一実施形態に係るトルクコンバータの振動吸収装置の動作を説明する。
【0059】
エンジン側からの動力は、フロントカバー11を経由して、ロックアップクラッチ2が作動中は、ロックアップクラッチ2の内側クラッチ取付部20、多板クラッチ17、外側クラッチ取付部21、ドライブプレート18の順に伝達される。
【0060】
その後、動力は、ドライブプレート18から、外側弾性体32によって捩り振動を吸収され、弾性的に第1リテーナプレート31a及び第2リテーナプレート31bへと伝達され、更に内側弾性体33を介して、第2リテーナプレート31b及び第3リテーナプレート31cから、ドリブンプレート34へと伝達され、ドリブンプレート34からは、固定結合しているタービンハブ51へと伝達される。
【0061】
ここで、動力伝達の過程で発生する様々な振動を、第2リテーナプレート31b及び第3リテーナプレート31cに挟まれて固定結合されている遠心振子サポートプレート41の先端に設けられた遠心振子42が吸収する。
【0062】
なお、遠心振子式吸振器40は、略円環状の構造を有する遠心振子サポートプレート41の回転軸の放射状で且つ略外周側近傍に振子のように半径方向に任意移動の可能な遠心振子42を配置させた構造である。遠心振子42は、遠心振子サポートプレート41の円周に沿って一定間隔で複数個(本実施例では4個)配置されており、個々の重量も遠心振子機能に応じて設定されている。
【0063】
遠心振子式吸振器40は反共振点となる固有振動数を回転数に応じて変化させるようにした動吸振器(ダイナミックダンパ)であり、決まった定点での吸振ではなく、全回転領域で減衰効果があるところが普通の動吸振器(環状の錘をゴムなどを介して固定したもの)と違うところであって、遠心振子の運動が回転に追従する吸振を可能にしている。
【0064】
このように、弾性体による弾性式振動低減機構による捩り振動吸収機能と遠心振子式吸振器40による振子式振動減衰機構は、同じ振動緩衝機能ではあるがその働きは異なるため、両機能を併合する振動吸収機構が用いられている。
【0065】
更に、遠心振子サポートプレート41を固定保持する、第2リテーナプレート31b及び第3リテーナプレート31cの内側端面が、それぞれドリブンプレート34及びタービンハブ51の外側部分と嵌合及び摺動によりセンタリングされているため、回転軸上でやや離れた位置で、センタリングがなされていることから、遠心振子サポートプレート41が倒れる、すなわち、トルクコンバータ1の回転軸に対して傾くなどの現象が起こりにくく、内側の回転体とかじるなどの発生が少なく、円滑な回転が可能となる。
【0066】
また、回転軸の内側に近い、第3リテーナプレート31cの内側側面とタービンハブ51の外側側面との間隙の方が小さくなっているため、先に述べたように、センタリングの精度を高め、かつ、倒れの許容量を小さくした振動吸収装置となる。
【0067】
なお、ロックアップクラッチ2が作動していない場合は、エンジンからの動力は、ポンプインペイラ12、タービンランナ13を経由して、タービンサポートプレート52に伝達され、引き続き固定結合されたタービンハブ51へと伝達される。
【0068】
これによって、ロックアップクラッチ2を経由して機械的に伝達される動力と、ホンプインペイラ12からの流体を介して伝達される動力とが、択一的にタービンハブ51に伝達され、更に、タービンハブ51からは、スプライン結合されたトランスミッションのインプットシャフト61へと動力が伝達される。
【0069】
なお、これまでの説明で、第2リテーナプレート31b及び第3リテーナプレート31cの内側側面が、それぞれドリブンプレート34及びタービンハブ51の外側側面と嵌合及び摺動によりセンタリングされているとしたが、嵌合する先は、ドリブンプレート34やタービンハブ51に限定せず、それらと固定結合している部材の部分であればどこであってもよい。
【0070】
また、これまでの説明で、ドリブンプレート34側の嵌合個所を、複数の円柱状突起部341の外側としたが、それに限定せず、複数の円柱状突起部341に代えて円周全体を筒状とした外周面で嵌合・摺動するようにしてもよい。
【0071】
また、これまでの説明で、嵌合・摺動の個所数を、第2リテーナプレート31bとドリブンプレート34との間、及び、第3リテーナプレート31cとタービンハブ51との間の2個所としたが、2個所に限定せず、リテーナプレートなどの構造によっては3個所以上であってもよい。そのうちの2個所において、これまでに説明した構成を有することで、効果を発揮することができる。
【0072】
また、これまでの説明で、第2リテーナプレート31bの内側穴部の側面とドリブンプレート34にある円柱状突起部341の外径側面との嵌合の方が、第3リテーナプレート31cの内側穴部の側面とタービンハブ51の外側側面との嵌合より外側であるとしたが、それとは逆であってもよい。その場合でも、より内側の方の嵌合の間隙の方が少ないことが望ましい。
【0073】
また、これまでの説明で、一対のリテーナプレートと遠心振子サポートプレートとは、3体が別部材で、リベット結合により一体化されるとしたが、例えば片側のリテーナプレートが遠心振子サポートプレートを兼ねるなど、それらの全てまたは一部が単一部材であってもよい。全体構成から有利なこともあり得る。
【0074】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。これらはすべて、本技術思想の一部である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
上述したように、本発明は、自動車などの車両のトルクコンバータの性能を向上させるため、広く産業に用いられ、高い利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0076】
1 トルクコンバータ
2 ロックアップクラッチ
3 振動吸収装置
31 リテーナプレート
31a 第1リテーナプレート
31b 第2リテーナプレート
31c 第3リテーナプレート
315 側面
318 円筒部
33 内側弾性体
34 ドリブンプレート
341 円柱状突起部
40 遠心振子式吸振器
41 遠心振子サポートプレート
42 遠心振子
51 タービンハブ
52 タービンサポートプレート