(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】繊維製品用賦香剤組成物。
(51)【国際特許分類】
D06M 13/144 20060101AFI20221226BHJP
D06M 13/328 20060101ALI20221226BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
D06M13/144
D06M13/328
D06M15/53
(21)【出願番号】P 2018148689
(22)【出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】澤田 純矢
(72)【発明者】
【氏名】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏彰
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-001029(JP,A)
【文献】特開2006-241610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00 - 15/00
C11C 1/00 - 5/02
C11D 1/00 - 19/00
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
logPが1.0以上3.0未満のアルコール系香料化合物(a)と下記一般式(1)で示されるアミン化合物(b)とエチレンオキシ基の平均重合度が6以上30以下であってアルキル基が炭素数12以上14以下の飽和直鎖一級アルコール由来のポリオキシエチレンアルキルエーテル(d)と水とを含有する水性組成物を繊維製品に適用して、繊維製品からの(a)の揮散を抑制する繊維製品の賦香方法
であって、
水性組成物が(b)を0.01質量%以上5.0質量%以下含有する、
繊維製品の賦香方法。
【化1】
〔式中、
R
1は炭素数9以上20以下のアルキル基又は炭素数9以上20以下のアルケニル基であり、
Aは-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、及び-O-から選ばれる基であり、
nは0又は1であり、
R
2は炭素数2以上6以下のアルキレン基であり、
R
3はR
1-[A-R
2]
n-で示される基、炭素数1以上3以下のアルキル基又は炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基であり、化合物中にR
1-[A-R
2]
n-で示される基が2つ存在する場合は相互に同一でも異なっていてもよく、
R
4は炭素数1以上3以下のアルキル基又は炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基、
である。〕
【請求項2】
(a)がゲラニオール、フォルロージア[4-イソプロピルシクロヘキサノール]、ラズベリーケトン、シンナミックアルコール、フェニルプロピルアルコール、trans-2-ヘキセン-1-オール、及びテルピネオールから選ばれる1種以上のアルコール系香料化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水性組成物が(c)水溶性有機溶剤((a)を除く)を0.01質量%以上10質量%以下含有する、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
水性組成物を噴霧して繊維製品に適用する、請求項1~
3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
logPが1.0以上3.0未満のアルコール系香料化合物(a)と、下記一般式(1)で示されるアミン化合物(b)とエチレンオキシ基の平均重合度が6以上30以下であってアルキル基が炭素数12以上14以下の飽和直鎖一級アルコール由来のポリオキシエチレンアルキルエーテル(d)と水とを含有する、
噴霧式の繊維製品用賦香剤組成物。
【化2】
〔式中、
R
1は炭素数9以上20以下のアルキル基又は炭素数9以上20以下のアルケニル基であり、
Aは-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、及び-O-から選ばれる基であり、
nは0又は1であり、
R
2は炭素数2以上6以下のアルキレン基であり、
R
3はR
1-[A-R
2]
n-で示される基、炭素数1以上3以下のアルキル基又は炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基であり、化合物中にR
1-[A-R
2]
n-で示される基が2つ存在する場合は相互に同一でも異なっていてもよく、
R
4は炭素数1以上3以下のアルキル基又は炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基、
である。〕
【請求項6】
(a)がゲラニオール、フォルロージア[4-イソプロピルシクロヘキサノール]、ラズベリーケトン、シンナミックアルコール、フェニルプロピルアルコール、trans-2-ヘキセン-1-オール、及びテルピネオールから選ばれる1種以上のアルコール系香料化合物である、請求項
5記載の繊維製品用賦香剤組成物。
【請求項7】
(c)水溶性有機溶剤((a)を除く)を0.01質量%以上10質量%以下含有する、請求項
5又は
6記載の繊維製品用賦香剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール系香料用揮散抑制剤、繊維製品用賦香剤組成物、並びにこれらを用いたアルコール系香料の揮散抑制方法及び賦香方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣類に積極的に香りづけを行う生活習慣が広がっている。例えば、市販の柔軟剤組成物や洗剤組成物の中には、賦香性を前面に出した商品が販売されている。またスプレーにより香料成分を含む水性組成物を繊維製品に直接吹き付け賦香する方法も知られている。
【0003】
このような用途において、スプレーを用いて乾燥衣料等に直接吹き付けて賦香する場合、乾燥する際に水分とともに香料化合物が揮発してしまい、繊維製品に残りにくくなる。賦香性の高い柔軟剤等の仕上げ剤で処理した場合も同様である。この傾向はClogPが低く親水性の高い香料において顕著である。親水性の高い香料は水との親和性がよいため、繊維製品が湿潤している時は繊維製品中に留まるが、乾燥が進むと当然ながら水分量が減ってくるために香料化合物も減少してしまう。特許文献1にはアルコール系香料をケイ酸エステル化した化合物(香料前駆体)にすることで、繊維製品に効果的に付着させ、残留させる方法が記載されており、また特許文献2にはアルコール系香料の脂肪酸エステルを用いる技術が開示されている。特にこれらの香料前駆体は加水分解により芳香することから、発汗等による湿潤により芳香させることができる。
【0004】
その他に香料を繊維製品に付着させる技術として、特許文献3等に記載されているような香料をマイクロカプセル化して柔軟剤組成物の分散体として付着させる方法が知られている。マイクロカプセル化された香料は繊維製品に付着し易くなり、且つカプセル化されていることから揮発が抑制される。これはカプセルが物理的刺激によって破壊されることで内部の香料化合物が発散させ、芳香するものである。
【0005】
一方でアミド結合を有するアミン化合物を含有する柔軟剤組成物も知られており、特許文献4にはエステル結合を有する4級アンモニウム型柔軟基剤にアミド結合を有するアミン化合物及び、ClogPが3~30の香料成分を含有する天日干しした時の異臭を抑制できる柔軟剤組成物が開示されている。その他、特許文献5には不飽和アルキル基を有するエステル結合を有する4級アンモニウム塩型柔軟基剤とアミド結合を有するアミン化合物又はアンモニウム塩化合物とを含有する柔軟剤組成物が防臭効果に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-44074号公報
【文献】特開2017-8220号公報
【文献】特開2014-125685号公報
【文献】特開2010-222712号公報
【文献】特開2006-161228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように香料を繊維製品に付着させ残香させる手段はいくつか知られているが、香料化合物そのものを繊維製品から揮散しにくくできれば、繊維製品の賦香では有用であるし、また、例えば、香料前駆体を用いた場合でも、分解してしまった香料化合物や破損したカプセルから流出した香料化合物が繊維製品から揮散することを抑制できるため、望ましい。
【0008】
本発明は、繊維製品からのアルコール系香料化合物の揮散を適度に抑制する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは香料を繊維製品に留める方法を検討したところ、アルコール系香料と特定のアミン化合物とを組み合わせて繊維製品を処理することで、乾燥時における繊維製品からのアルコール系香料の揮散が抑制されるだけでなく、繊維製品の再湿潤の際に顕著に芳香することを見出し本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、アルコール系香料化合物(a)を下記一般式(1)で示されるアミン化合物(b)と共に繊維製品に適用する、繊維製品からの(a)の揮散抑制方法に関する。
【0011】
【0012】
〔式中、
R1は炭素数9以上20以下のアルキル基又は炭素数9以上20以下のアルケニル基であり、
Aは-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、及び-O-から選ばれる基であり、
nは0又は1であり、
R2は炭素数2以上6以下のアルキレン基であり、
R3はR1-[A-R2]n-で示される基、炭素数1以上3以下のアルキル基又は炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基であり、化合物中にR1-[A-R2]n-で示される基が2つ存在する場合は相互に同一でも異なっていてもよく、
R4は炭素数1以上3以下のアルキル基又は炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基、
である。〕
【0013】
また、本発明は、アルコール系香料化合物(a)と前記一般式(1)で示されるアミン化合物(b)とを繊維製品に適用して、繊維製品からの(a)の揮散を抑制する繊維製品の賦香方法に関する。
【0014】
また、本発明は、アルコール系香料化合物(a)と、前記一般式(1)で示されるアミン化合物(b)とを含有する、繊維製品用賦香剤組成物に関する。
【0015】
また、本発明は、前記一般式(1)で示されるアミン化合物(b)からなる、アルコール系香料用揮散抑制剤に関する。
【0016】
以下、アルコール系香料化合物(a)を(a)成分、前記一般式(1)で示されるアミン化合物(b)を(b)成分として説明する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、繊維製品の香り付けに関し、アルコール系香料を繊維製品に残留させるだけでなく、再湿潤時に繊維製品を芳香し、におい立たせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<(a)成分>
(a)成分は、アルコール系香料化合物である。本発明では、ヒドロキシ基を有する香料をアルコール系香料とする。またフェノール性香料もアルコール系香料とする。
【0019】
(a)成分のアルコール系香料としては、例えば「香料と調香の基礎知識、中島基貴 編著、産業図書株式会社発行、2005年4月20日 第4刷」に記載の香料を用いることができる。
【0020】
アルコール系香料化合物のうち、水との親和性が高い化合物は、繊維製品の乾燥とともに揮発し易く、繊維製品に残留しにくい傾向がある。本発明では、例えばClogPが3.0未満の親水性の強いアルコール系香料化合物であっても、後述する(b)成分と併用することで、繊維製品に残留させやすくなる事を見出し、更には着用時の発汗の際に芳香し易いことを見出した。
【0021】
(a)成分は、好ましくはlogPが1.0以上3.0未満のアルコール系香料化合物である。当該アルコール系香料化合物のlogPは、より好ましくは1.2以上、更に好ましくは1.5以上であり、そして、より好ましくは2.9以下、更に好ましくは2.8以下である。
【0022】
本発明において、logP値とは、有機化合物の水と1-オクタノールに対する親和性を示す係数である。1-オクタノール/水分配係数Pは、1-オクタノールと水の2液相の溶媒に微量の化合物が溶質として溶け込んだときの分配平衡で、それぞれの溶媒中における化合物の平衡濃度の比であり、底10に対するそれらの対数logPの形で示すのが一般的である。多くの化合物のlogP値が報告されており、Daylight Chemical Information Systems, Inc. (Daylight CIS)などから入手しうるデータベースには多くの値が掲載されているので参照できる。実測のlogP値がない場合には、Daylight CISから入手できるプログラム“CLOGP"等で計算することができる。このプログラムは、実測のlogP値がある場合にはそれと共に、Hansch, Leoのフラグメントアプローチにより算出される“計算logP(ClogP)”の値を出力する。
【0023】
フラグメントアプローチは化合物の化学構造に基づいており、原子の数及び化学結合のタイプを考慮している(cf. A. Leo, Comprehensive Medicinal Chemistry, Vol.4, C. Hansch,P.G. Sammens, J.B. Taylor and C.A. Ramsden, Eds., p.295, Pergamon Press, 1990)。このClogP値を、化合物の選択に際して実測のlogP値の代わりに用いることができる。本発明では、logPの実測値があればそれを、無い場合はプログラムCLOGP v4.01により計算したClogP値を用いる。
【0024】
(a)成分としては、具体的には以下の香料化合物を挙げることができる。なお( )内はClogP値である。
ゲラニオール(2.8)、cis-3-ヘキセノール(1.6)、フォルロージア[4-イソプロピルシクロヘキサノール](2.7)、ラズベリーケトン(1.1)、シンナミックアルコール(1.8)、フェニルエチルアルコール(1.3)、フェニルプロピルアルコール(1.7)、trans-2-ヘキセン-1-オール(1.6)、テルピネオール(2.6)が挙げられる。
【0025】
これらのうち、ゲラニオール(2.8)、cis-3-ヘキセノール(1.6)、フォルロージア[4-イソプロピルシクロヘキサノール](2.7)、及びシンナミックアルコール(1.8)から選ばれる1種以上のアルコール系香料化合物が好ましく、ゲラニオール(2.8)、cis-3-ヘキセノール(1.6)、及びフォルロージア[4-イソプロピルシクロヘキサノール](2.7)から選ばれる1種以上のアルコール系香料化合物がより好ましい。
【0026】
<(b)成分>
(b)成分は、前記一般式(1)で表される化合物である。
一般式(1)中、R1は、好ましくは炭素数14以上18以下、より好ましくは炭素数16以上18以下、より更に好ましくは炭素数16又は18のアルキル基である。R1は、直鎖アルキル基が好ましい。
一般式(1)中、Aは、好ましくは-C(=O)NH-、及び-NHC(=O)-から選ばれる基であり、より好ましくは-C(=O)NH-である。
一般式(1)中、R2は、好ましくはエチレン基又はプロピレン基、より好ましくはプロピレン基である。
一般式(1)中、nは、好ましくは1である。
一般式(1)中のnが1である場合、R1は炭素数9以上19以下のアルキル基又は炭素数9以上19以下のアルケニル基が好ましく、炭素数13以上17以下のアルキル基がより好ましく、炭素数15以上17以下のアルキル基が更に好ましい。
一般式(1)中、R3は、R4は、それぞれ、好ましくはメチル基又はエチル基、より好ましくはメチル基である。
【0027】
(b)成分としては、具体的には、N-(3-ミリストイルアミノプロピル)-N,N-ジメチルアミン、N-(3-パルミトイルアミノプロピル)-N,N-ジメチルアミン、N-(3-ステアロイルアミノプロピル)-N,N-ジメチルアミン、N-(3-牛脂アルカノイルアミノプロピル)-N,N-ジメチルアミンが挙げられる。牛脂アルカノイルは、牛脂脂肪酸組成のアルカノイル基であり、炭素数16のアルカノイル基と炭素数18のアルイカノイル基を主に含んでいる。
【0028】
<揮散抑制方法及び賦香方法>
本発明は、(a)成分を(b)成分と共に繊維製品に適用する、繊維製品からの(a)成分の揮散抑制方法に関する。
また、本発明は、(a)成分と(b)成分とを繊維製品に適用して、繊維製品からの(a)成分の揮散を抑制する繊維製品の賦香方法に関する。
以下、これら2つをまとめて本発明の方法という。本発明の方法という場合、特記しない限りこれら2つの方法の両方又は一方を指すものとする。なお、本発明では、(a)成分の揮散抑制とは、(a)成分の揮散速度の低減であってよい。
【0029】
本発明の方法では、(a)成分と(b)成分とを含有する水性組成物(以下、本発明の水性組成物という場合もある)を繊維製品に適用することが好ましい。本発明の水性組成物は、水を含有することが好ましい。
【0030】
本発明の水性組成物は、(a)成分を、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0003質量%以上、更により好ましくは0.0005質量%以上、そして、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下含有する。(a)成分の含有量は、十分に繊維製品に(a)成分を付着させるために下限値以上であり、処理後の臭いが強すぎないために上限値以下である。
【0031】
このように本発明では(a)成分を香料成分として水性組成物中に配合する場合は、前記濃度範囲であることが好ましい。加えて、本発明は、例えば、(a)成分をケイ酸エステル化合物又は脂肪族カルボン酸エステル化合物とすることで繊維への吸着性を高めた香料前駆体やマイクロカプセル化された香料が加水分解やカプセルの破裂によって生じた(a)成分であっても、同様のにおい制御効果を発揮することができる。より詳しくは(b)成分と併用することで処理後の乾燥中に香料前駆体の加水分解によって生じたアルコール系香料化合物並びにマイクロカプセルの破裂によって生じるアルコール系香料化合物が繊維製品から飛散することを抑制し、乾燥後の発汗等による吸湿時において、におい立たせることができる。
【0032】
本発明の水性組成物は、(b)成分を、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上、より更に好ましくは1.0質量%以上、そして、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下含有する。(b)成分の含有量は、十分に繊維製品に当該機能を付与するために下限値以上であり、処理後の臭いが強すぎないために上限値以下である。
【0033】
本発明の方法では、繊維製品からの(a)成分の揮散抑制の観点から、(a)成分と(b)成分とを、(b)成分に対する(a)成分の質量比である(a)/(b)が、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは20以下で繊維製品に適用する。従って、本発明の水性組成物においても、質量比(a)/(b)がこの範囲にあることが好ましい。
【0034】
本発明の水性組成物は、水を含有することが好ましい。水性組成物の残部が水であることが好ましい。水は蒸留水又は脱イオン化した水が好ましい。容易な使用を行うための観点から、水性組成物は、水を、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下含有する。
【0035】
本発明の水性組成物は、組成物の安定性の観点から、(c)成分として、水溶性有機溶剤を含有することができる。但し(c)成分から(a)成分を除く。(c)成分としては、具体的にはエタノール、イソプロパノール等の低級(炭素数2以上4以下)アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール類(炭素数2以上12以下)、エチレングリコールやプロピレングリコールのモノエチル又はモノブチルエーテル、ジエチレングリコールやジプロピレングリコールのモノエチル又はモノブチルエーテル、ベンジルアルコール、ベンジルオキシエタノール、フェノール性化合物のエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物、炭素数5以上8以下のアルキル基を有するモノアルキルモノグリセリルエーテル等が挙げられる。エタノールは水の共沸化合物であり、併用することで水の揮発性を促進させることから、スプレーを用いて処理する場合に好ましい。
【0036】
本発明の水性組成物が(c)成分を含有する場合、当該組成物は、(c)成分を、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下含有する。
【0037】
なお本発明において、(c)成分の有機溶剤についての「水溶性」とは、100gの20℃の脱イオン水に対して20g以上溶解することをいう。また本発明での「溶解」とは、分離や白濁が生じないことであり、具体的には、紫外可視分光光度計UV-2550(株式会社島津製作所製)を用いて、UV600nmの光透過率が85%以上のことをいう。
【0038】
本発明の水性組成物は、(b)成分以外の界面活性剤〔以下、(d)成分という〕を含有することができる。(d)成分は、非イオン界面活性剤が好ましく、ポリオキシアルキレンアルキル又はアルケニルエーテルがより好ましく、エチレンオキシ基の平均重合度が6以上30以下であってアルキル基が炭素数12以上14以下の飽和直鎖一級アルコール由来のポリオキシエチレンアルキルエーテルがより好ましい。また、本発明の水性組成物を柔軟剤組成物のように使用したい場合は、柔軟基剤として例えばジエタノールメチルアミンやトリエタノールアミンのようなアルカノールアミンと脂肪酸とのエステルの4級化物である4級アンモニウム塩化合物を併用できる。本発明の水性組成物が(d)成分を含有する場合、当該組成物は、(d)成分を、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下含有する。
【0039】
本発明の水性組成物は、(e)成分として、前記した(a)成分のアルコール系香料以外の香料成分の1種以上を含有することができる。(e)成分は香料成分によるマスキング効果を利用してもよく、香料成分によっては、そのものが消臭性能を有する基材も知られている。また本発明の水性組成物は、賦香のために香料を含有してもよい。(e)成分としては、例えば前記した「香料と調香の基礎知識、中島基貴編著、産業図書株式会社発行、2005年4月20日第4刷」に記載の香料及び特表平10-507793号公報記載の香料を使用することができる。また特開2014-213072に記載の賦香剤の技術を用いることができ、特開2013-044074号公報記載のケイ酸エステル香料前駆体や特開2017-8220号公報記載の脂肪族カルボン酸エステル化香料前駆体及び公知のマイクロカプセル香料もまた利用することができる。
【0040】
本発明の水性組成物は、(e)成分を、(a)成分と合わせて、すなわち、(a)成分と(e)成分とを合計で、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.02質量%以上、そして、前記組成物中に香料成分を安定に溶解させる目的から、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下含有する。本発明の水性組成物が(e)成分を含有する場合、(e)/(a)の質量比は、好ましくは0.002以上、より好ましくは0.02以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは50以下である。
【0041】
本発明の水性組成物を噴霧式賦香剤もしくは噴霧式消臭剤として使用する場合又は柔軟剤等の仕上げ剤として使用する場合は、それぞれの効果を損なわない限り、各用途に使用することが知られている基材及び各種成分を含有することができる。
例えば噴霧式賦香剤もしくは噴霧式消臭剤には、油剤、ゲル化剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、色素、紫外線吸収剤及び消臭基材等の成分を含有することができる。油剤としては炭化水素や脂肪族アルコール、アルコールの脂肪酸エステルを挙げることができる。少量の油剤の添加は噴霧粒子の粒子径を小さくする。ゲル化剤としては、ポリアクリル酸又はその架橋物等の高分子化合物等を挙げることができる。pH調整剤としては、クエン酸等の有機酸、塩酸などの無機酸や炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリ剤を使用することができる。酸化防止剤としてはBHT等の公知の芳香族化合物を挙げることができる。防腐剤としては製品名プロキセルとして防菌防カビ剤成分として市販されているものを用いることができる。紫外線吸収剤としては公知の化合物を用いることができる。消臭基材としては2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールやリン酸カリウム又はナトリウム等の緩衝能を用いた中和消臭基材を用いることができる。これら消臭剤はアミン臭や脂肪酸臭を中和することで消臭する技術であるが、本発明による(a)成分の揮散抑制効果を阻害するものではない。
【0042】
柔軟剤として使用する場合は、前記したようにジエタノールメチルアミン又はトリエタノールアミンを公知の比率で脂肪酸エステル化することで得られるモノエステル体、ジエステル体及びトリエステル体(トリエタノールアミンの場合に生成)の混合物をジメチル硫酸や塩化メチル等で4級化したエステルタイプの4級アンモニウム塩型柔軟基剤、アルキル鎖の炭素数が12以上14以下であってオキシエチレン基の平均重合度が6以上30以下のポリオキシエチレンアルキルエーテル等の安定化剤としての非イオン界面活性剤、グリセリン、ソルビトール及びペンタエリスルトール等の多価アルコール脂肪酸エステルとしての柔軟補助剤、前記した粘度調整又は安定性のための水溶性溶剤、クエン酸等の有機酸又はその塩、塩酸等の無機酸又はその塩、前記した酸化防止剤、前記した防腐剤、色素、並びに紫外線吸収剤を挙げることができる。これらの一部は(d)成分でもある。
【0043】
本発明の方法では、水性組成物中に一般式(1)で示されるアミン化合物の4級化物を含む場合、その含有量は、香料の香り立ち向上の観点から、質量比で(b)成分1に対して、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは7以下である。なお、4級アンモニウム塩型柔軟基剤中には本発明の前記一般式(1)を満たす未反応のアミン化合物を微量含む場合があり、その量は(b)成分として算入してもよい。
【0044】
本発明の水性組成物のpHは、20℃で、4.0以上9.5以下であることが好ましく、液相安定性の観点から、pHは、より好ましくは4.5以上、更に好ましくは5.0以上であり、より好ましくは9.0以下、更に好ましくは8.5以下である。pHは、塩酸等の酸、又は水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することにより調整することができる。pHはJIS K 3362;2008の項目8.3に従って25℃において測定する。
【0045】
本発明の方法の対象となる繊維製品としては、木綿100%の繊維製品、及び、木綿繊維と他の繊維との混繊、混紡、交織、交撚等で混用して得られる紡績糸、織物、編物、不織布を挙げることができる。
具体的な他の繊維としては、苧麻、亜麻、パルプ、バクテリアセルロース繊維等の天然セルロース繊維、絹、羊毛等の天然タンパク繊維、ビスコース法レーヨン、銅アンモニア法レーヨン、溶剤紡糸法レーヨン等の再生セルロース繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成繊維から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
なお、繊維製品は、反応性染料、バット染料等による先染め、反染、プリント品であっても差し支えない。
他の繊維と混用する場合、吸湿時のにおい立ちする観点から、木綿繊維の含有率は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。
本発明に使用される繊維製品としては、前記の木綿繊維や混用繊維を用いた織物、編物、不織布等の布帛及びそれを用いて得られたアンダーシャツ、Tシャツ、ワイシャツ、ブラウス、スラックス、帽子、ハンカチ、タオル、ニット、靴下、下着、タイツ、寝具等の製品が挙げられる。
【0046】
本発明の水性組成物に接触させる方法としては、水性組成物を繊維製品に噴霧する、水性組成物を繊維製品に塗布する、水性組成物に繊維製品を浸漬させる、などの方法が挙げられる。
水性組成物を繊維製品に噴霧する場合は、公知のスプレーヤー付き容器に充填する方法が挙げられ、一般に知られている衣類に対する噴霧式賦香剤のように使用することができる。
水性組成物に繊維製品を浸漬する場合は、水性組成物を調製し、そこに繊維製品を直接浸漬することで接触させた後、必要ならば脱水機を用いて余分な処理剤を除去する。
噴霧や浸漬するときの水性組成物の温度は室温が好ましく、具体的には15℃以上30℃以下が好ましい。
【0047】
また、市販の柔軟剤や糊剤等の衣料用仕上げ剤に(a)成分と(b)成分を加えて本発明の水性組成物として用いることもできる。例えば、市販の柔軟剤や糊剤等の衣料用仕上げ剤を、洗濯槽、洗面器、バケツ、タライ等の処理槽中で水で希釈したものに、(a)成分と(b)成分に添加して、本発明の水性組成物として使用してもよい。その場合は、衣料用仕上げ剤の希釈濃度を考慮して、所定濃度の(a)成分及び(b)成分を予め衣料用仕上げ剤に含有させておき、希釈して用いることができる。
【0048】
本発明の方法は、(a)成分と(b)成分とを繊維製品に適用した後、例えば、本発明の水性組成物を繊維製品に適用した後、当該繊維製品を乾燥させることができる。乾燥は、室温、好ましくは15℃以上35℃以下の範囲で行うことが好ましい。乾燥機を用いる場合は、温度は60℃以下で行うことが推奨される。洗濯機のヒートポンプ式乾燥等の低温乾燥が好ましい。
【0049】
<繊維製品用賦香剤組成物及びアルコール系香料用揮散抑制剤>
本発明は、(a)成分と、(b)成分とを含有する、繊維製品用賦香剤組成物に関する。繊維製品用賦香剤組成物について、(a)成分と(b)成分の具体例や好ましい態様は、それぞれ、本発明の方法と同じである。例えば、本発明の繊維製品用賦香剤組成物は(d)成分を本発明の方法で示した範囲で含有することができる。また、本発明の繊維製品用賦香剤組成物が一般式(1)で示されるアミン化合物の4級化物を含む場合、その量は、質量比で(b)成分1に対して、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは7以下であってよい。
【0050】
本発明の繊維製品用賦香剤組成物は、そのまま、あるいは希釈して繊維製品に適用される。本発明の繊維製品用賦香剤組成物は、水を含有することが好ましい。本発明の繊維製品用賦香剤組成物は、本発明の方法で述べた本発明の水性組成物であってよい。本発明の水性組成物で述べた事項は、本発明の繊維製品用賦香剤組成物に適用できる。
【0051】
前述の通り、本発明は、(a)成分を(b)成分と共に繊維製品に適用すると、(a)成分が繊維製品から揮散する速度を低減でき、繊維製品からの(a)成分の揮散を抑制できることを見出したものである。よって、本発明により、(b)成分からなる、アルコール系香料用揮散抑制剤が提供される。本発明のアルコール系香料用揮散抑制剤について、(b)成分の具体例や好ましい態様は、それぞれ、本発明の方法と同じである。
【実施例】
【0052】
〔実施例1及び比較例1〕
本発明の水性組成物を調製にするために用いた各種成分について以下に詳述する。
<(a)成分>
・ゲラニオール:和工純薬工業株式会社製
・cis-3-ヘキセノール:東京化成工業株式会社製
・フォルロージア:4-イソプロピルシクロヘキサノール、和工純薬工業株式会社製
【0053】
<(b)成分>
・アルキルアミドプロピルアミン:牛脂硬化脂肪酸組成を有する混合脂肪酸とN-アミノプロピル-N,N-ジメチルアミンとを脂肪酸/アミン=0.95/1のモル比で通常の方法により脱水縮合反応して得た、N-(3-アルカノイルアミノプロピル)-N,N-ジメチルアミン
【0054】
<(c)成分>
・プロピレングリコール
・エタノール
【0055】
<(d)成分>
・POE(21)ラウリルエーテル:ラウリルアルコールにエチレンオキサイドを平均21モル付加させたポリオキシエチレンラウリルエーテル
【0056】
<水>
・脱イオン化水
【0057】
<水性組成物の製造方法>
表1に示す配合組成になるよう各成分を混合することにより、水性組成物を調製した。具体的には以下の通りである。なお、表中の組成の質量%は有効分の質量%である。
200mLビーカーに水性組成物の出来上がり質量が100gになるのに必要な脱イオン化水を入れ、(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分が均一に溶解するように下記の撹拌羽根を用いて撹拌した。
25±3℃の温度に調温した脱イオン化水を、直径が5mmの撹拌棒の回転中心軸を基準として、長編が90度方向になるように配置された撹拌羽根(羽根の数3枚、羽根の長辺/短辺:3cm/1.5cm、羽根の設置:回転軸に対して45度の角度)で撹拌しながら、60±2℃の温度に調温した(a)成分と80℃に調温した(b)成分を投入した。順次、所定量の(b)成分もしくは(c)成分もしくは(d)成分を投入し、水性組成物を作成した。
なお水性組成物のpHを調整するため、pH調整剤として、塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを使用した。例えば、pHを4.5にする場合は、塩酸を0.12質量%使用した。
【0058】
<乾燥後の布の香料残存率の測定>
あらかじめ、市販の弱アルカリ性洗剤(花王株式会社、アタック)を用いて、肌着(グンゼ株式会社、紳士用丸首半袖シャツ、Lサイズ)17枚を株式会社日立製作所製全自動洗濯機NW-6CYで5回洗浄を繰り返し、室内乾燥することによって過分の薬剤を除去した。1回ごとの洗浄条件は、洗剤濃度0.0667質量%、水道水47L、水温20℃、洗浄10分、ためすすぎ2回、脱水6分とした。
上述の方法で前処理した肌着を電子天秤に乗せたバットの上に広げて、前記水性組成物を、肌着1枚(130g)あたり10g、肌着の両面になるべく均一に塗布されるように、噴霧した。噴霧後の肌着を、十分に乾燥させるために、ハンガーに吊るして20℃、40%RHの部屋にて60分間静置した。以上の方法により、賦香処理を施した肌着を調製した。
香料残存率を測定するために賦香処理を施した肌着の腹側と背側とから、それぞれ、10cm×10cmの部分を切り出し、試験布とした。2枚の試験布を、スクリュー付きバイアル瓶に入れ、メタノール100mlで抽出し液体クロマトグラフィー(以下HPLC)を用い外部標準法によって、試験布に残留する香料量の定量を行った。HPLCはNexeraXRシステム(株式会社島津製作所製)、UV検出器はSPD-20A(株式会社島津製作所製)を用い検出波長220nmを利用した。分離カラムはUnison UK-C18HT(150×2mm、粒子径3μm)を利用した。移動相にはメタノールと水を用い、グラジエントをかけた。
香料残存率(%)は塗布量から計算される塗布直後の香料量に対する、静置後の試験布における香料量から求めた。すなわち、香料残存率(%)=((静置した後の試験布上の香料量)/(水性組成物塗布直後の試験布における香料量[理論付着量]))×100で算出した。
【0059】
<布の再湿潤時の香り立ちの評価>
前記、残存率の測定と同じ方法で前処理、静置乾燥することで賦香処理を施した肌着の再湿潤時の香り立ちを以下のようにして評価した。
香りを評価する専門の30代パネラー6名(男性3名、女性3名)が香り立ちを評価した。再湿潤の操作はスプレー式容器に水道水を入れ、肌着を電子天秤に乗せたバットの上に広げて、前記水道水を肌着1枚(130g)に対して6gになるようなるべく均一に噴霧を行い、直後に香りを評価した。
評価は比較例の組成物を標品として用いて1対比較を行い、下記の判断基準に従い1回ずつ点数をつけ、各パネラーの点数の平均値をその組成物の評価結果とした。
*評価基準
0:標品と同等
1:標品よりやや強い
2:標品より強い
【0060】
【0061】
再湿潤時の香り立ちの効果はアルコール系香料の揮発が抑制されていることを示すものであるから、再湿潤時の香り立ちについてさらに検討を行った。
〔実施例2及び比較例2〕
実施例1及び比較例1と同様に、ただし、水性組成物を表2のように変更して、再湿潤時の香り立ちの評価を行った。結果を表2に示す。
【0062】
【0063】
〔実施例3及び比較例3〕
実施例1及び比較例1と同様に、ただし、水性組成物を表3のように変更して、再湿潤時の香り立ちの評価を行った。結果を表3に示す。
【0064】